説明

スルホカルボン酸剤およびスルホカルボン酸エステル剤

【課題】 半導体デバイスなどの電子部品をめっきしても、回路間の絶縁が不良となるなどの問題を生ずることのないめっき浴用添加剤、それに用いることのできるスルホカルボン酸剤、さらには、より高純度のスルホカルボン酸エステル剤、およびこれを用いたより高品質の界面活性剤を提供する。
【解決手段】 スルホカルボン酸を主成分とし、該スルホカルボン酸に対してアルカリ金属の含有量が0.05質量%未満であるスルホカルボン酸剤、および、スルホカルボン酸エステルを主成分とし、該スルホカルボン酸エステルに対してアルカリ金属の含有量が0.05質量%未満であるスルホカルボン酸エステル剤である。スルホカルボン酸は、チオール基を有するカルボン酸を、過酸化水素で酸化することにより好適に得ることができ、スルホカルボン酸エステルは、さらに、これをエステル化することにより好適に得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスルホカルボン酸剤およびスルホカルボン酸エステル剤に関し、詳しくは、スルホカルボン酸剤およびスルホカルボン酸エステル剤、並びに、これらを用いためっき浴用添加剤および界面活性剤に関し、さらには、スルホカルボン酸の製造方法およびスルホカルボン酸エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、スルホカルボン酸やそのエステルは各種の産業に使用されており、例えば、スルホ酢酸やスルホプロピオン酸などは、特許文献1に記載されているように、めっき浴用添加剤として利用されている。
【0003】
また、従来供給されている一般的なスルホカルボン酸は、例えば、スルホ酢酸については、クロル酢酸に亜硫酸ナトリウムを作用させてナトリウム塩として得た後、イオン交換してアルカリ金属分を除くことで、酸として使用されている。しかし、スルホカルボン酸を含有するめっき浴にて半導体デバイスなどの電子部品をめっきする際にこのような従来のスルホカルボン酸を用いると、微量に残存するナトリウムの影響により、電子部品における回路間絶縁が不良となる場合があるなどの問題が起こることがあった。
【0004】
また、アルキルスルホコハク酸エステルは、界面活性剤として広範な産業に使用されているが、非特許文献1に記載されているように、通常、マレイン酸エステルに亜硫酸ナトリウムを作用させてナトリウム塩として得た後、イオン交換してアルカリ金属分を除くことで使用されているため、ナトリウム含量のために高純度の製品が得られないという問題があった。
【特許文献1】特開2001−26898号公報
【非特許文献1】「14705の化学商品」(1399頁、化学工業日報社刊)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、スルホカルボン酸およびそのエステルについては、これまで十分に高純度のものが得られておらず、より不純物が少なく、産業上使用しやすいスルホカルボン酸およびそのエステルを得るための技術が望まれていた。
【0006】
そこで本発明の目的は、半導体デバイスなどの電子部品をめっきしても、回路間の絶縁が不良となるなどの問題を生ずることのないめっき浴用添加剤、それに用いることのできるスルホカルボン酸剤、さらには、より高純度のスルホカルボン酸エステル剤、およびこれを用いたより高品質の界面活性剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究した結果、めっき浴中にアルカリ金属が存在すると、めっき後に被めっき物表面に対し工業的に許容される範囲の経済性を有する洗浄を行った場合でも、表面にアルカリ金属が残存してしまい、その結果、電子部品において回路間の絶縁不良が生ずる場合があることを見出して、本発明に到達した。
【0008】
即ち、本発明のスルホカルボン酸剤は、スルホカルボン酸を主成分とし、該スルホカルボン酸に対してアルカリ金属の含有量が0.05質量%未満であることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明のスルホカルボン酸エステル剤は、スルホカルボン酸エステルを主成分とし、該スルホカルボン酸エステルに対してアルカリ金属の含有量が0.05質量%未満であることを特徴とするものである。
【0010】
さらに、本発明のめっき浴用添加剤は、上記スルホカルボン酸剤からなることを特徴とするものである。さらにまた、本発明の界面活性剤は、上記スルホカルボン酸エステル剤からなることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明のスルホカルボン酸の製造方法は、チオール基を有するカルボン酸を、過酸化水素で酸化することによりスルホカルボン酸を得ることを特徴とするものである。
【0012】
さらに、本発明のスルホカルボン酸エステルの製造方法は、チオール基を有するカルボン酸を、過酸化水素で酸化することによりスルホカルボン酸を得、さらに、得られたスルホカルボン酸をエステル化することによりスルホカルボン酸エステルを得ることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、半導体デバイスなどの電子部品をめっきしても、回路間の絶縁が不良となるなどの問題を生ずることのないめっき浴用添加剤、それに用いることのできるスルホカルボン酸剤、さらには、より高純度のスルホカルボン酸エステル剤、およびこれを用いたより高品質の界面活性剤を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
本発明のスルホカルボン酸剤は、スルホカルボン酸を主成分とし、該スルホカルボン酸に対してアルカリ金属の含有量が0.05質量%未満である点に特徴を有し、また、本発明のスルホカルボン酸エステル剤は、スルホカルボン酸エステルを主成分とし、該スルホカルボン酸エステルに対してアルカリ金属の含有量が0.05質量%未満である点に特徴を有する。以下、これらスルホカルボン酸(剤)およびスルホカルボン酸エステル(剤)を総称して「スルホカルボン酸(エステル)(剤)」とも称する。
【0015】
本発明に係るスルホカルボン酸(エステル)としては、一般式 RO−CO−R’−SO3H (式中、Rは水素または炭化水素基(好ましくは、炭素数6〜22の脂肪族、脂環族、芳香族の飽和もしくは不飽和の炭化水素基)であり、R’はカルボキシル基、エステル基、水酸基で置換されていてもよい2価の炭化水素基(好ましくは、置換基を除く部分が炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基)である)で表されるものが好適であり、式中、Rが水素のときスルホカルボン酸であり、Rが炭化水素基のときスルホカルボン酸エステルである。具体的には、例えば、スルホ酢酸、スルホ酢酸ラウリル、3−スルホプロピオン酸、3−スルホプロピオン酸ラウリル、4−スルホブタン酸、スルホコハク酸、スルホコハク酸ラウリルなどを例示することができる。尚、これらのスルホカルボン酸(エステル)は、必要に応じ、金属以外の塩、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどの有機アミン、4級アンモニウムなどの塩であってもよい。
【0016】
なお、本発明のスルホカルボン酸(エステル)剤は、所望する用途に応じた形態で用いることができ、例えば、水溶液としてもよい。
【0017】
また、本発明に係るスルホカルボン酸(エステル)剤を得る方法は任意であり、特に限定されるものではないが、例えば、スルホ酢酸を例にとって説明すると、一般的な製法、即ち、クロル酢酸に亜硫酸ナトリウムを作用させてナトリウム塩として得た後、イオン交換してアルカリ金属分を除くことによりスルホ酢酸を得るに際し、イオン交換処理操作を繰り返すことで、アルカリ金属の含有量がスルホ酢酸に対して0.05質量%未満となるようにすればよく、また、そのエステルについては、得られたスルホ酢酸を所望のアルコールとエステル化して、スルホカルボン酸エステルを得ればよい。
【0018】
但し、以下に説明する本発明のスルホカルボン酸(エステル)の製造方法によれば、効率的に本発明のスルホカルボン酸(エステル)剤を得ることができる。
即ち、本発明のスルホカルボン酸の製造方法は、チオール基を有するカルボン酸を過酸化水素で酸化することによりスルホカルボン酸を得るものであり、また、本発明のスルホカルボン酸エステルの製造方法は、得られたスルホカルボン酸を、さらに、エステル化することによりスルホカルボン酸エステルを得るものである。
【0019】
ここで、チオール基を有するカルボン酸としては、特に限定されるものではなく、目的とするスルホカルボン酸に対応する構造のチオール基を有するカルボン酸であれば差し支えない。例えば、チオグリコール酸、3−メルカプロプロピオン酸、4−メルカプトブタン酸、メルカプトコハク酸などを例示することができる。
【0020】
本発明においては、このようなチオール基を有するカルボン酸を過酸化水素で酸化すればよく、この場合の過酸化水素の割合は特に限定されず化学量論量であればよいが、例えば、チオール基1モルに対して3.10モル以上とすることが好適であり、産業化適正の観点からは、4.0モル以下が好ましく、より好ましくは3.10〜3.5モルの範囲で用いる。
【0021】
チオール基を有するカルボン酸と過酸化水素との反応の温度は、特に限定されるものではないが、90℃以下とすることが好ましく、特には、40〜85℃の範囲において常圧で行う反応が、過酸化水素による酸化分解により副生する不純物の生成を抑制することができる点で望ましい。
【0022】
本発明に使用する過酸化水素は、市販で入手可能なものでよいが、好ましくは30質量%以上90質量%以下、より好ましくは30〜65質量%の水溶液を用いる。また、チオール基を有するカルボン酸についても市販で入手可能なものを用いればよいが、特には、100質量%から50質量%以上の水溶液として用いることが好ましい。これにより、最終製品濃度を極めて高い状態にする濃縮工程に於けるエネルギーコストを最小限にすることができると共に、より高い製品収率を実現することができる。
【0023】
さらに、得られたスルホカルボン酸をエステル化するには、例えば、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコールなどの所望のアルコールと反応させればよく、これにより、スルホカルボン酸エステルを得ることができる。
【0024】
本発明のめっき浴用添加剤は、上記本発明のスルホカルボン酸剤からなり、めっき浴に対してスルホカルボン酸を添加するのに有用である。本発明のめっき浴用添加剤は、めっき浴に添加することを所望する他の成分とともに用いることができるが、スルホカルボン酸に対してアルカリ金属の含有量が0.05質量%以上とならないようにすることが必要である。
【0025】
めっき浴用添加剤とともに用いることのできる他の成分としては、従来よりめっき浴に使用される公知の成分を適宜選択して用いることができるが、一例を示すと、酸化防止剤(例えば、カテコール、ハイドロキノン、アルコルビン酸など)、光沢剤ないし光沢助剤(例えば、ベンズアルデヒド、ホルマリン、グリオキザールなど)、錯化剤(例えば、EDTA、エチレンジアミン、クエン酸など)、均一化剤としての非イオン性界面活性剤(例えば、ポリエチレングリコール、オキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー、アルキルフェノールエチレンオキシド付加物、高級アルコールエチレンオキシド付加物、多価アルコール脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアマイドなど)、酸化防止助剤ないし平滑剤(例えば、チオ尿素、エチレンチオ尿素、チオグリコール酸など)等を挙げることができる。
【0026】
また、本発明の界面活性剤は、上記本発明のスルホカルボン酸エステル剤からなるものである。本発明の界面活性剤に用いるスルホカルボン酸エステル剤としては、前記一般式におけるRが、炭素数6〜22の脂肪族、脂環族、芳香族の飽和もしくは不飽和の炭化水素基であるスルホカルボン酸エステルを主成分とするものが好適である。
【0027】
本発明の界面活性剤は、他の界面活性剤と任意に併用することもでき、アルカリ金属の混入を極力低下させた高純度の界面活性剤組成物とすることもできる。本発明の界面活性剤の用途は特に限定されるものではないが、例えば、医薬、化粧品、洗浄剤などが挙げられ、特に低アルカリ含量を求められるこれらの用途に好ましく用いられる。
【実施例】
【0028】
以下に、本発明の実施例を挙げて更に本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
〔実施例1〕
内部冷却器、攪拌装置、溶媒留去のための開閉コックの付いた冷却器および液体導入装置を備えたガラス製反応装置に、35質量%の過酸化水素2224g(22.9mol)を加えた後、攪拌しつつ、チオグリコール酸663g(7.2mol)を2mL/分で液体導入口から連続でフィードした。この間、液温は冷却器への冷却水量を調節して50℃に保持した。チオグリコール酸の添加終了後、50℃で2時間攪拌を継続した。この反応液に試料導入管より窒素ガスを吹き込み、常圧、攪拌下で沸騰させ、蒸気の一部を系外に除去しながら5時間保持したところ、40質量%のスルホ酢酸水溶液(収量2270g)を得た。この水溶液の一部をイオン交換樹脂(デュオライト A−561:住友化学(株)製)200mLを充填した35mmφの塔に、塔頂より(ダウンフロー)SV0.5で通液して精製したところ、得られた40質量%のスルホ酢酸水溶液中からアルカリ金属分は検出されなかった(検出限界10ppb)。
このスルホ酢酸水溶液を、めっき浴用添加剤(1)とした。
【0029】
〔比較例1および実施例2〕
市販のスルホ酢酸ニナトリウム(ACROS ORGANICS社製)の43質量%水溶液を調製し、これをイオン交換樹脂(モノスフィア630C_H:ダウケミカル社製)82mLを充填した30mmφの塔に、塔頂より(ダウンフロー)SV1.0で通液して精製し、スルホ酢酸に対して5質量%のナトリウムを含有する、10質量%のスルホ酢酸水溶液を得た。
これをスルホ酢酸濃度40質量%まで濃縮したものを、比較めっき浴用添加剤(1)とした。
【0030】
また、イオン交換樹脂を常法により再生したのち、比較めっき浴用添加剤(1)に対し上記と同様の精製操作を2回繰り返して、スルホ酢酸に対して0.03質量%のナトリウムを含有する、7.0質量%のスルホ酢酸水溶液を得た。
これをスルホ酢酸濃度40質量%まで濃縮したものを、めっき浴用添加剤(2)とした。
【0031】
〔実施例3〕
チオグリコール酸を50質量%の3−メルカプトプロピオン酸水溶液に替えたほかは実施例1と同様にして、35質量%の3−スルホプロピオン酸水溶液を得た。このスルホプロピオン酸水溶液中からアルカリ金属分は検出されなかった。
この3−スルホプロピオン酸水溶液をめっき浴用添加剤(3)とした。
【0032】
〔実施例4、比較例2〕
実施例1〜3で得ためっき浴用添加剤(1)〜(3)および比較例1で得た比較めっき浴用添加剤(1)を用いて、下記の表1に記載した組成の水溶液として、各めっき浴(Snめっき用めっき浴)を得た。
【0033】
【表1】

【0034】
シリコンウエハ上に2系統の隣接する銅回路を形成し、各銅回路に上記各めっき浴を用いてSnめっきを施した後、これら回路間の絶縁性を試験したところ、実施例のめっき浴用添加剤(1)〜(3)を用いた各めっき浴を使用した場合は絶縁性が良好であったが、比較例1で得た比較めっき浴用添加剤(1)を用いためっき浴の場合は絶縁性が不良となった。
【0035】
〔実施例5〕
実施例3で得られたスルホプロピオン酸水溶液に、ラウリルアルコールを加えてエステル化し、トリエタノールアミン塩とした。
具体的にはまず、四つ口フラスコに実施例3で得られた35質量%の3−スルホプロピオン酸水溶液528.0g(1.2mol)とラウリルアルコール223.6g(1.2モル)とを入れ、窒素気流下で撹拌しながら100℃まで昇温し、30分間保持した。その後、徐々に減圧して90分かけて1.33kPaとし、そのまま6時間加熱することにより、3−スルホプロピオン酸に含まれていた水分およびエステル化によって生成した水分を除去し、3−スルホプロピオン酸ラウリルを得た。次に、四つ口フラスコに水880.0ミリリットルとトリエタノールアミン119.4(0.80mol)を入れた後、上記で得られた3−スルホプロピオン酸ラウリル257.6g(0.80mol)を、中和温度が20℃になるよう必要に応じて冷水で冷却しながらフィードすることにより、30重量%濃度の3−スルホプロピオン酸ラウリルトリエタノールアミン塩水溶液を得た。
この3−スルホプロピオン酸ラウリルトリエタノールアミン塩水溶液を実施例5の界面活性剤とした。
【0036】
結果として、実施例5の界面活性剤からは、アルカリ金属分は検出されなかった。これにより、本発明の界面活性剤はアルカリ金属分を極力抑制する必要のある医薬品や化粧品などの用途に使用する界面活性剤として好適であることが確かめられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホカルボン酸を主成分とし、該スルホカルボン酸に対してアルカリ金属の含有量が0.05質量%未満であることを特徴とするスルホカルボン酸剤。
【請求項2】
スルホカルボン酸エステルを主成分とし、該スルホカルボン酸エステルに対してアルカリ金属の含有量が0.05質量%未満であることを特徴とするスルホカルボン酸エステル剤。
【請求項3】
請求項1に記載のスルホカルボン酸剤からなることを特徴とするめっき浴用添加剤。
【請求項4】
請求項2に記載のスルホカルボン酸エステル剤からなることを特徴とする界面活性剤。
【請求項5】
チオール基を有するカルボン酸を、過酸化水素で酸化することによりスルホカルボン酸を得ることを特徴とするスルホカルボン酸の製造方法。
【請求項6】
チオール基を有するカルボン酸を、過酸化水素で酸化することによりスルホカルボン酸を得、さらに、得られたスルホカルボン酸をエステル化することによりスルホカルボン酸エステルを得ることを特徴とするスルホカルボン酸エステルの製造方法。

【公開番号】特開2006−347920(P2006−347920A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−174089(P2005−174089)
【出願日】平成17年6月14日(2005.6.14)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】