スルーホールを有するセラミックグリーンシート及びその製造方法並びにそれより得られたセラミック基板
【課題】効率よくめっきすることが出来、また、スルーホール内にめっき金属からなる有効な導通部を有利に形成することの出来るスルーホールを有するセラミック基板を提供すること、また、そのようなセラミック基板を有利に与え得るスルーホールを有するセラミックグリーンシートを提供すること、更には、そのようなセラミックグリーンシートを工業的に有利に製造することの出来る方法を提供すること。
【解決手段】セラミックグリーンシートにおいて、表面から裏面に貫通するように設けられたスルーホールの軸方向断面における孔内面形状が、孔内方に突出する滑らかな円弧状曲線からなる凸状湾曲面形状にて構成され、且つそのような凸状湾曲面形状によって形成される、スルーホールの最小直径を与える狭窄部が、セラミックグリーンシートの厚さ方向における中央部位に位置せしめられるように構成した。
【解決手段】セラミックグリーンシートにおいて、表面から裏面に貫通するように設けられたスルーホールの軸方向断面における孔内面形状が、孔内方に突出する滑らかな円弧状曲線からなる凸状湾曲面形状にて構成され、且つそのような凸状湾曲面形状によって形成される、スルーホールの最小直径を与える狭窄部が、セラミックグリーンシートの厚さ方向における中央部位に位置せしめられるように構成した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スルーホールを有するセラミックグリーンシート及びその製造方法並びにそれより得られたセラミック基板に係り、特に、スルーホール内のめっきを有効に行ない得るセラミック基板と、それを有利に製造することの出来るセラミックグリーンシート、更には、そのようなセラミックグリーンシートを有利に製造することの出来る方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、セラミック基板の表面及び裏面にそれぞれ形成された導体回路を電気的に接続するために、かかるセラミック基板を表面から裏面に貫通するスルーホールを設けて、このスルーホールをめっきして、めっき金属を充填することにより、表面の導体と裏面の導体との導通を図る方式が、採用されてきている。このようなスルーホールを用いた導通方式にあっては、スルーホール内におけるめっき層(金属)の形成速度の違いにより、ボイド等の欠陥が生じる問題が内在している。即ち、電解めっき手法によりセラミック基板を銅めっきすると、かかる基板のコーナー部分に電流が集中するために、当該部分におけるめっき金属の析出が早くなり、そこでのめっき厚さが厚くなるところから、スルーホールにおいては、その開口部分が、コーナー部となって、その内部よりも早く析出金属にて閉塞されることにより、内部にボイド等の欠陥が生じるようになるのである。
【0003】
そこで、特開2003−46248号公報や特開2004−311919号公報等においては、基板に設けられるスルーホールを、テーパー(円錐面)形状の頂部同士を突き合わせてなる形状の貫通穴として、その穴内周面が、軸方向の中間部において三角形状の山形に突出して最狭部を形成してなるスルーホール構造が提案されている。しかしながら、そのようなスルーホール構造においては、そのテーパー形状により、表面側及び裏面側の開口部がそれぞれ拡開されてなる形状を呈するものであるところから、スルーホール自体の体積が大きくなり、そのために、最狭部のめっき埋まり性が充分でなく、かかる最狭部がめっき金属にて充填・閉塞されて、有底形状のスルーホールを形成するのに時間が掛かり、それによって、めっき時間が長くなったり、基板表面におけるめっき厚みが厚くなる等の問題を内在している。また、そのようなスルーホールに充填されためっき金属は、温度変化が繰り返された場合において、基板として熱膨張係数の小さなセラミック基板が用いられると、熱膨張係数の大きなめっき金属との間において応力が生じ、その応力は、スルーホールの最狭部において内方に突出する山形形状の鋭角な先端部において、最も大きな応力が発生して、そこからクラックが入り易くなる問題も内在しているのである。
【0004】
また、特開2000−223810号公報には、複数のスルーホールを有するセラミック基板において、かかるスルーホールが、基板に対する炭化珪素等の砥粒の吹き付けによるブラスト処理にて形成されることが、明らかにされているが、そのようなブラスト処理によるスルーホールの形成は、基本的に、セラミック基板の表面と裏面からそれぞれ開口部の径が最大となる略円錐形状の孔を形成し、そして、それら二つの孔を連結することにより、目的とするスルーホールを形成するものであるところから、それら二つの孔の連結部において、角張った内方突起形状部位が形成されることとなる。このために、上記した基板と同様に、めっき時間が長くなり、基板表面のめっき厚みが厚くなる問題や、繰り返しの温度変化にて、スルーホール内に充填されためっき金属におけるクラックの発生率が高くなる等の問題を内在すると共に、ブラスト処理に起因する、基板表面における削り面や砥粒傷の発生の問題や、スルーホール内面に砥粒残渣が存在するという問題も惹起されることになる。
【0005】
なお、かかる特開2000−223810号公報には、セラミック基板にスルーホールを形成する従来方式の一つとして、レーザーを用いてスルーホールを形成する手法が明らかにされているが、その場合において形成されるスルーホールは、基本的に、一方の開口部から他方の開口部に向かって孔径が漸次小さくなる円錐台形状の貫通孔として形成されることに加えて、レーザー加工により溶融した基板の一部がドロスとなり、基板表面のスルーホール周辺部にバリを生ぜしめて、基板に形成した導通回路が、かかるバリによって断線する問題を惹起することが懸念される他、かかるドロスがスルーホール内に残留すると、孔詰まりが発生して、表面と裏面との間の導通がとれず、導通不良という不具合が生ずる恐れも内在している。また、そこには、スルーホールを形成する従来方式の他の一つとして、金型によるスルーホール加工方法が挙げられている。具体的には、装置に取り付けたピンでグリーンシートを打ち抜くことにより、貫通孔を加工した後、そのような貫通孔を有するグリーンシートを焼成することによって、目的とするスルーホールを有するセラミック基板を得るものであるが、そのようなピンによる打ち抜きにて形成される貫通孔(スルーホール)は、基本的に、孔径が一定のストレート孔となるものであって、孔内周面も軸方向に直線的に延びる形状となっているところから、先に指摘せるように、電解めっき操作にてめっき金属をスルーホール内に充填せしめるときに、孔内部にボイド等の欠陥が生じる問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−46248号公報
【特許文献2】特開2004−311919号公報
【特許文献3】特開2000−223810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、効率よくめっきすることが出来、また、スルーホール内にめっき金属からなる有効な導通部を有利に形成することの出来るスルーホールを有するセラミック基板を提供することにあり、また、そのようなセラミック基板を有利に与え得るスルーホールを有するセラミックグリーンシートを提供することにもあり、更には、そのようなセラミックグリーンシートを工業的に有利に製造することの出来る方法を提供することにもある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そして、本発明は、上記した課題又は明細書全体の記載や図面から把握される課題を解決するために、以下に列挙せる如き各種の態様において、好適に実施され得るものであるが、また以下に記載の各態様は、任意の組み合わせにおいても、採用可能である。なお、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに何等限定されることなく、明細書全体の記載並びに図面に開示の発明思想に基づいて認識され得るものであることが、理解されるべきである。
【0009】
(1) 表面から裏面に貫通するスルーホールが設けられたセラミックグリーンシートにして、該スルーホールの軸方向断面における前記表面から前記裏面に至る孔内面形状が、孔内方に突出する滑らかな円弧状曲線からなる凸状湾曲面形状にて構成され、且つ該凸状湾曲面形状によって形成される、スルーホールの最小直径を与える狭窄部が、該セラミックグリーンシートの厚さ方向における中央部位に位置せしめられていることを特徴とするスルーホールを有するセラミックグリーンシート。
(2) 前記スルーホールの孔内周面が、滑らかな面にて構成されている前記態様(1)に記載のセラミックグリーンシート。
(3) 前記スルーホールが、前記セラミックグリーンシートの表面及び裏面において、それぞれ、0.05mm〜0.5mmの範囲内で開口するように形成されている前記態様(1)又は前記態様(2)に記載のセラミックグリーンシート。
(4) 前記スルーホールの狭窄部の直径が、前記セラミックグリーンシートの表面及び裏面におけるスルーホール開口径の0.1倍〜0.9倍の範囲内である前記態様(1)乃至前記態様(3)の何れか1つに記載のセラミックグリーンシート。
(5) 前記セラミックグリーンシートが、0.10mm〜1.50mmの範囲内の厚さを有している前記態様(1)乃至前記態様(4)の何れか1つに記載のセラミックグリーンシート。
(6) セラミック材料からなるグリーンシートに対して、その表面から裏面に貫通する、ストレート孔形状のスルーホールを形成する第一の工程と、
該スルーホールの形成されたグリーンシートの表面及び裏面に、それぞれ、フィルム又は高伸長ゴムシートを重ね合わせる第二の工程と、
該グリーンシートの表面及び裏面にそれぞれ重ね合わされたフィルム又は高伸長ゴムシートの更に外側に、それぞれ、金属板を重ね合わせる第三の工程と、
それらフィルム若しくは高伸長ゴムシート及び金属板が表面及び裏面に重ね合わされた前記グリーンシートを加圧することにより、該グリーンシートに設けられた前記スルーホールの内壁面を内方に膨出せしめて、凸状湾曲面形状と為し、該グリーンシートの厚さ方向における中央部位に、該凸状湾曲面形状にて形成される、スルーホールの最小直径となる狭窄部が、位置せしめられるようにする第四の工程とを、
含むことを特徴とするスルーホールを有するセラミックグリーンシートの製造方法。
(7) 前記第四の工程における加圧操作に先立ち、前記グリーンシートが加熱せしめられる前記態様(6)に記載のセラミックグリーンシートの製造方法。
(8) 前記第四の工程における加圧操作に先立ち、前記グリーンシートとフィルム若しくは高伸長ゴムシートと金属板との重ね合わせ物を真空下に晒し、該グリーンシートのスルーホール内の空気が除去せしめられる前記態様(6)又は前記態様(7)に記載のセラミックグリーンシートの製造方法。
(9) 表面から裏面に貫通するスルーホールが設けられたセラミックグリーンシートを用い、それを焼成して得られる焼結シートからなり、該焼結シートにおけるスルーホールの軸方向断面における前記表面から前記裏面に至る孔内面形状が、孔内方に突出する滑らかな円弧状曲線からなる凸状湾曲面形状にて構成され、且つ該凸状湾曲面形状によって形成される、スルーホールの最小直径を与える狭窄部が、該焼結シートの厚さ方向における中央部位に位置せしめられていることを特徴とするスルーホールを有するセラミック基板。
(10) 前記スルーホールの孔内周面が、滑らかな面にて構成されている前記態様(9)に記載のセラミック基板。
(11) 前記スルーホールの狭窄部の直径が、前記セラミック基板の表面及び裏面におけるスルーホール開口径の0.1倍〜0.9倍の範囲内である前記態様(9)又は前記態様(10)に記載のセラミック基板。
【発明の効果】
【0010】
このように、本発明に従うスルーホールを有するセラミックグリーンシートからは、それを焼成することによって、かかるセラミックグリーンシートに対応した形状乃至は構造のスルーホールを有するセラミック基板を、容易に得ることが出来るのであり、しかも、そのようにして得られたセラミック基板にあっては、その特徴的な構造の故に、そのめっき処理において優れた特徴を発揮するものとなるのである。
【0011】
すなわち、そのようなセラミック基板にあっては、スルーホールが、その軸方向断面において円弧状曲線となる、凸状湾曲面形状の孔内面形状とされると共に、その凸状湾曲面形状によって形成される、スルーホールの最小直径を与える狭窄部が、基板の厚さ方向における中央部位に位置せしめられて、スルーホールの体積がより小さくなるように構成されているところから、めっきに際して、ボイド等の欠陥の発生を有利に阻止しつつ、スルーホールにおけるめっき金属の埋まり性を向上して、めっき金属による狭窄部の閉塞を早くして、めっき時間の短縮を可能ならしめ、以て、基板表面に形成されるめっき層の厚さを薄くして、精細な回路形成を可能とすると共に、めっき金属(銅)の使用量を低減して、コストダウンにも有利に寄与し得ることとなるのである。
【0012】
また、そのようなセラミック基板にあっては、スルーホールの内面が円弧状の凸状湾曲面形状とされて、鋭角的な角部の存在しない内面形状とされているところから、めっき処理された基板が繰り返し温度変化を受けたときに、セラミック基板とスルーホール充填めっき金属との間の熱膨張係数差によって、大きな応力が発生する箇所が解消されているために、そのような応力によって、スルーホールにおけるめっき金属からなる導通部にクラックが発生して、基板の表面と裏面との間の導通性に悪影響をもたらすようなことも、有利に回避され得るのである。
【0013】
さらに、本発明に従う円弧状凸状湾曲面形状の内面を有するスルーホールの設けられたセラミックグリーンシートを用いることによって、表面又は裏面におけるスルーホール付近に、不具合のない、信頼性の高い有用なセラミック基板を、工業的に有利に提供することが出来ることとなったのであり、また、そのようなセラミックグリーンシートは、本発明に従う製造手法によって、容易に且つ簡便に得ることができると共に、その加工時間も短く、また製造コストも有利に低減せしめ得たのである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】スルーホールの設けられていないセラミックグリーンシートの斜視部分説明図である。
【図2】図1におけるA−A断面説明図である。
【図3】ストレート孔形状のスルーホールが金型を用いた打ち抜きによって形成されてなるグリーンシートを示す斜視部分説明図である。
【図4】図3におけるB−B断面説明図である。
【図5】本発明に従うグリーンシートの重ね合わせ体をプレス加圧する工程を示す断面部分説明図である。
【図6】図5に示すプレス加圧工程における応力の作用形態を示す拡大断面部分説明図である。
【図7】本発明に従うセラミックグリーンシートを示す斜視部分説明図である。
【図8】図7におけるC−C断面説明図である。
【図9】本発明に従うグリーンシートの重ね合わせ体を等方圧加圧する工程を経時的に示す断面部分説明図である。
【図10】本発明に従うセラミック基板に対するめっき操作をモデル的に示す工程説明図である。
【図11】スルーホールの狭窄部が軸方向の中央部位に位置しないセラミック基板に対するめっき操作をモデル的に示す工程説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ところで、本発明に従うスルーホール形成加工が施される、未加工のセラミックグリーンシートは、窒化アルミニウムやアルミナ等の、公知の電気絶縁性セラミック材料を用いて、ドクターブレード法の如き従来から周知の手法に従って、製造されるものであって、図1や図2に示される如く、所定厚さの平坦なシート状物として形成されることとなる。そして、このような未加工の絶縁性セラミックグリーンシート2は、一般に、0.10mm〜1.50mmの範囲内の厚さにおいて、好ましくは、0.40mm〜0.80mmの範囲内の厚さにおいて形成されるものである。なお、その厚さが、0.10mm未満となると、グリーンシート2をプレス加圧したときにセラミック材料の逃げ場がなくなり、設けられたスルーホールが閉塞されて、非貫通孔になるという問題があり、また1.50mmを超えるようになると、絶縁性セラミックグリーンシート2の表面又は裏面におけるスルーホールの開口部とスルーホール中心部の狭窄部との断面積の差が小さくなり、めっき時にボイドが発生する恐れが高くなる。また、それら開口部と狭窄部の断面積の差を大きくしようとすると、極めて大きなプレス圧力が必要となるという問題も惹起する。更に、このようなグリーンシート2の厚みは、後述する加圧工程における加圧操作によって、加圧条件やグリーンシート自体の生密度等の特性にもよるが、一般に、5%〜10%程度、減少するようになる。
【0016】
そして、かかる未加工のセラミックグリーンシート2に対して、図3に示される如く、その所定位置において表面から裏面に貫通するストレート孔形状のスルーホール4の適数個(図では、1個しか示されていない)が、パンチ加工の如き、従来から周知の孔形成手法によって、形成されることとなる。具体的には、例えば、装置に取り付けたピンでグリーンシート2を打ち抜くことにより、スルーホール4としての貫通孔が形成されるのであって、そうして得られたスルーホール4は、図4から明らかな如く、同一径において、表面から裏面に貫通する貫通孔として、必要な個数において所定位置に形成されるのである。なお、そのようなスルーホール4の直径は、0.05mm〜0.5mmの範囲内であることが望ましく、更に好ましくは、0.05mm〜0.2mmの範囲内である。スルーホール4の直径が、0.05mmよりも小さくなると、スルーホールを形成すること自体が機械的に困難となったり、仮にスルーホールを形成することが出来たとしても、後のプレス加圧の際に、スルーホール4が閉塞されてしまって、その表面側と裏面側との導通が取れなくなってしまうという問題を生じる恐れがある。また、0.5mmを超える孔径となると、スルーホールを形成するという目的だけであれば可能であるが、スルーホールをめっき金属で充填するときに、非常に長時間を要するという問題があり、実用上において現実的ではなくなる。
【0017】
次いで、かかるストレート孔形状のスルーホール4が適数個において形成されたグリーンシート2には、図5に示されるように、その表面及び裏面に、所定のフィルム6、6がそれぞれ重ね合わされ、更にその外側に、所定の金属板8、8が重ね合わされて、積層構造の重ね合わせ体10が構成される。ここで、グリーンシート2の両側の面にそれぞれ重ね合わされるフィルム6は、一般に、PETの如きポリエステルや、ポリアミド等の樹脂から得られたものであって、そのようなフィルム6の存在により、グリーンシート2と金属板8とが直接に接触することが阻止され、これによって、後のプレス加圧後に金属板8を取り除く際に、グリーンシート2の表面が金属板8に付着して、その一部が剥がれてしまうことを阻止し得るようになっている。また、重ね合わせ体10において最外側に積層配置される金属板8、8は、そのような重ね合わせ体10に対して加えられる両側の主面に対するプレス加圧力を、均等にグリーンシート2に作用せしめ、スルーホール4の内周面を、後述せるように径方向内方に円弧状に突出せしめて、有効な内周面形状を形成し得るように用いられている。
【0018】
なお、ここで用いられるフィルム6の厚みとしては、グリーンシート2に設けたスルーホール4の内周面を内方に突出せしめる加工のし易さを考慮して、適宜に選定されることとなるが、一般に、0.025〜0.1mm程度の厚さとされることとなる。また、金属板8にあっても、外部から加えられる加圧力をグリーンシート2に有効に伝達して、スルーホール4の内周面形状を、目的とする凸状湾曲面形状と為し得るに有効な強度を有する厚みにおいて、適宜に選定され得るところであり、一般に、1〜3mm程度の厚さにおいて、鉄、銅、アルミ等の各種材質のものが用いられることとなる。更に、重ね合わせ体10の両側の二枚の金属板8、8のうち、一方は、グリーンシート2よりも大きいサイズとし、他方は、グリーンシート2よりも小さいか又は同等のサイズとするのが、好ましい。ただし、グリーンシート2よりも小さいサイズとする場合には、金属板8は、少なくともグリーンシート2にあるすべてのスルーホールを覆うことが可能なサイズでなければならない。一方をグリーンシート2よりも小さいサイズとしたのは、次のプレス工程において、金属板8が変形するのを回避するためである。
【0019】
そして、かくの如き積層構造の重ね合わせ体10には、図5に示される如く、その主面たる上下面に対して、矢印にて示される圧力が加えられて、重ね合わせ体10が挟圧せしめられることとなるのである。なお、その際の重ね合わせ体10の加圧(挟圧)方式としては、等方圧プレス、機械式プレス、ラバープレス等の公知の各種の加圧方法を採用することが出来るが、そのような加圧操作は、グリーンシート2が加熱されて、常温よりも高い温度に維持された状態下において実施されることが望ましく、特に、40〜200℃程度、中でも、40〜120℃程度の温度下において、加圧操作が有利に実施されることとなる。このように、グリーンシート2の温度を高く維持することにより、可塑性が向上して、加圧時にスルーホール4の内周面が変形し易くなって、スルーホール4の内周面を内方に有利に膨出せしめ得るのである。なお、かかる加圧操作における条件は、用いられるグリーンシート2の厚みや目的とするスルーホール4の最狭部の直径等によって、適宜に選定されるところであり、例えば、グリーンシート2の厚みが厚くなるほど、またスルーホール4の軸方向中央部位に形成される狭窄部の直径を小さくしようとするほど、高温、高圧の条件が選定されることとなる。
【0020】
かくの如き加圧操作が実施されると、図6に示されるように、2枚の金属板8、8がグリーンシート2を挟み込む方向に加圧力F(矢印)が作用すると同時に、スルーホール4周囲のグリーンシート2部位には、スルーホール4を閉塞しようとする力f1 が作用することとなる。しかし、フィルム6とグリーンシート2との間には摩擦力f2 が生じるところから、スルーホール4が塞がる方向の力f1 と摩擦力f2 とが相殺されて、グリーンシート2の表面におけるスルーホール4の直径は、加圧操作の前後で殆ど変化することがない。また、グリーンシート2には粘性があるために、かかる摩擦力f2 は、グリーンシート2の厚み方向にも伝わり、その摩擦力は、厚み方向に離れるに従って小さくなっていくのである。そして、そのような摩擦力f2 の作用は、グリーンシート2の裏面側においても、同様となるところから、グリーンシート2の厚み方向の中央部において、換言すればスルーホール4の軸方向の中央部において、摩擦力f2 は最も小さくなるのであり、その結果、図7及び図8に示される如く、孔内壁面が内方に膨出せしめられた凸状湾曲面形状の内周面を有するスルーホール12が、グリーンシート14に形成されるようになるのである。即ち、上述の如き、加圧による変形加工の施されたグリーンシート14のスルーホール12は、グリーンシート14の厚さ方向における中央部位、換言すればスルーホール12の軸方向における中央部位に、凸状湾曲面形状にて形成されるスルーホール12の最小直径となる狭窄部12aが形成されて、全体として鼓形形状のスルーホール12となっているのである。
【0021】
かくの如く、スルーホール4を有するグリーンシート2の厚み方向に応力を加えることによって、グリーンシート2に形成されたストレート孔形状のスルーホール4は、図7及び図8に示される如く、軸方向の中央部が最も大きく縮径されて、狭窄部12aが形成されてなる形態の、鼓形のスルーホール12に変形せしめられることとなるのである。なお、そのような縮径によって形成される凸状湾曲面形状の内壁面を有するスルーホール12は、その断面積において、グリーンシート14の表面及び裏面における開口部面積を、直線的な変化よりも大きな曲線的な変化をもって減少する形態の内周面形状として、形成されているのである。また、かかる狭窄部12aの直径は、スルーホール12のグリーンシート14表面及び裏面における開口部の直径に対して、0.1倍〜0.9倍の範囲であることが望ましく、更に好ましくは0.30倍〜0.70倍の範囲である。かかる狭窄部12aの直径が余りにも小さくなって、上記の0.1倍未満となると、狭窄部12aの内壁面にバリ等が存在すると穴が閉塞されてしまうことがあり、それによってスルーホール12を通じての導通が出来なくなってしまう問題があり、また上記の0.9倍を超えるような大きな直径となる場合にあっては、めっき工程においてボイドが生じる恐れがある。
【0022】
ところで、本発明においては、また、図9に示される如き加圧方式に従って、目的とする鼓形形状のスルーホール12を有するグリーンシートを得ることが、推奨される。そこでは、グリーンシート2の表面及び裏面に、それぞれ、所定厚さの高伸長ゴムシート16、16が、先のフィルム6に代えて、重ね合わされ、更にその外側に、金属板18、18がそれぞれ重ね合わされてなる積層形態において、重ね合わせ体20が構成されているのである。この重ね合わせ体20を構成する高伸長ゴムシート16は、よく知られているように、優れた伸長特性を有するゴム製品であって、一般に、伸び率が500%以上、好ましくは600%以上、特に好ましくは800%以上となるものであって、通常、シリコーンゴム材質のものが好適に用いられ、例えば、クレハエラストマー株式会社や共和工業株式会社等から市販されているシリコーンゴムシートを利用することが出来る。なお、かかる高伸長ゴムシート16の厚みとしては、それがグリーンシート2のスルーホール4内に入り込むことが出来る厚さにおいて、適宜に選定されることとなるが、一般に、0.25〜3.0mm程度の厚さのものが、用いられることとなる。
【0023】
また、かかる重ね合わせ体20において、グリーンシート2のスルーホール4内の雰囲気(空気)は脱気されていることが望ましく、そのために、重ね合わせ体20は、加圧操作に先立って、真空下(減圧下)に晒されることとなる。具体的には、そのような重ね合わせ体20を適当な袋体内に収容して、密封した後、袋体内を真空に引くことにより、グリーンシート2のスルーホール4内の雰囲気(空気)が取り除かれるようにされる。加えて、そのような重ね合わせ体20を構成する両側の金属板18、18には、後の加圧操作において、高伸長ゴムシート16に対して、その加圧力を有効に作用させるべく、グリーンシート2のスルーホール4に対応した位置に、少なくともスルーホール4の大きさに対応した孔径を有する作用孔18aが設けられている。
【0024】
次いで、重ね合わせ体20には、所定の温度に加熱された温水等の圧力媒体を用いて等方圧加圧操作が施されて、重ね合わせ体20の両側の金属板18、18に対して、加圧力が作用せしめられる。このような加圧により、重ね合わせ体20を構成する高伸長ゴムシート16、16が、スルーホール4の内部にまで入り込んで、グリーンシート2を押さえつけるようになるところから、スルーホール4の内壁面が平滑な滑らかな内面となるのである。そして、更に加圧が進むと、グリーンシート2に対して圧縮力が作用することにより、図7や図8に示される如く、スルーホール4の内壁面が径方向内方に膨出せしめられて、凸状湾曲面形状となり、グリーンシート2の厚さ方向における中央部位に、かかる凸状湾曲面形状にて形成されるスルーホール12の最小直径となる狭窄部12aが形成されることとなるのである。そして、かかる等方圧加圧が終了して、その圧力が解放されると、高伸長ゴムシート16は、グリーンシート14に対して離型性を有しているところから、スルーホール12の内面を傷付けることなく取り除くことが出来ることにより、加圧加工して得られたグリーンシート14においては、そのスルーホール12の内壁面が滑らかな平滑面として有利に形成されることとなるのであり、以て、後のめっき操作において、めっき金属の充填をより有利に行ない得るのである。
【0025】
そして、かくの如くして得られた、スルーホール12の内壁面が凸状湾曲面形状とされて、スルーホール12の軸方向中央部位に、スルーホール12の最小直径となる狭窄部12aが形成されてなるグリーンシート14は、常法に従って焼成されることにより、目的とするスルーホールを有するセラミック基板となるのであるが、そのようなセラミック基板におけるスルーホールは、焼成前のグリーンシート14におけるスルーホール12と同様な鼓形形状を呈するものとなる。
【0026】
すなわち、上記したグリーンシート14を焼成して得られる焼結シートからなるセラミック基板においては、スルーホールの軸方向断面における表面から裏面に至る孔内面形状が、孔内方に突出する滑らかな円弧状曲線からなる凸状湾曲面形状にて構成され、且つかかる凸状湾曲面形状によって形成されるスルーホールの最小直径を与える狭窄部が、基板の厚さ方向における中央部位に位置せしめられてなる鼓形形状を呈しているのである。従って、そのようなセラミック基板におけるスルーホールの狭窄部の直径も、前記したグリーンシート14におけるスルーホール12の狭窄部12aと同様に、セラミック基板の表面及び裏面におけるスルーホール開口径の0.1倍〜0.9倍、好ましくは0.30倍〜0.70倍の範囲内の直径となっている。そして、かかるセラミック基板においては、そのようなスルーホールの特徴的な形状によって、めっき工程においてボイドを発生せしめることがなく、また効率よくめっきすることができ、更にスルーホール内にめっき金属からなる有効な導通部を有利に形成することの出来る特徴を発揮し得るのである。
【0027】
要するに、図10にモデル的に示されているように、上記した鼓形形状のスルーホール22を有するセラミック基板24を用いて、それに電気めっきを施して、かかるスルーホール22を介してセラミック基板24の表面と裏面との導通を図るときに、めっき液は、図示の如く、セラミック基板24の表面と裏面の両方に噴射せしめられることとなるのであるが、セラミック基板24には、電流の集中し易い角度の小さな(尖鋭的な)コーナー部分が可及的に存在しないような凸状湾曲面形状の内面を有するスルーホール22とされているところから、より均一なめっきが可能となるのであり、また、めっき初期段階において、スルーホール22の最小直径部位となる狭窄部22aに析出するめっき体積が大きいため、スルーホール22に対するめっき金属の充填が有利に行なわれ得ることとなるのであり、これによって、ボイド等の欠陥の発生が有利に回避されつつ、めっき金属の充填性の向上によって、めっき時間の短縮が可能となることにより、基板表面に形成されるめっき層の厚さを薄くして、精細な回路形成を可能ならしめる他、めっき金属の使用量の低減をも実現して、コストダウンにも有利に寄与し得ることとなるのである。
【0028】
しかも、そのようなセラミック基板24においては、スルーホール22の内面が円弧状の凸状湾曲面形状とされて、尖鋭的な角部の存在しない内面形状とされているところから、めっき処理された基板が繰り返し温度変化を受けたときに、セラミック基板24とスルーホール充填めっき金属26との間の熱膨張差によって大きな応力が発生する箇所が有利に解消され、そのために、かかる応力によって、スルーホール22におけるめっき金属26からなる導通部にクラックが発生して、基板24の表面と裏面との導通性に悪影響をもたらすようなことも、有利に回避され得ているのである。
【0029】
なお、かくの如きスルーホール22における、円弧状凸状湾曲面形状の内面によって奏され得る格別の効果を、有利に享受する上において、その曲率半径(R)は、通常、11mm以下とすることが望ましく、またその下限は、0.05mm程度とされることが望ましい。
【0030】
これに対して、セラミック基板のスルーホールが、従来の如く、2つの円錐面を頂部において連結してなる構造の、縦断面が鋭角的な角部を有する内面形状とされたスルーホールにおいては、上記した円弧状凸状湾曲面形状の内面を有するスルーホール22に比較して、スルーホール全体の体積が大きくなり、そのために、めっき金属の充填性が悪く、めっき時間が長くなる他、電流が集中するコーナー部の存在によって、スルーホール内に充填されるめっき金属中に大きなボイドが残り易くなる問題があり、また、そのスルーホール内面の尖鋭的な角部の先端から、セラミックとめっき金属との熱膨張係数の差によって、クラック等が生じるようにもなるのである。
【0031】
また、図11に示すように、セラミック基板28に設けられたスルーホール30の内壁面が、凸状湾曲面形状ではあるものの、その狭窄部30aが、セラミック基板28の厚さ方向、換言すればスルーホール30の軸方向における中央部位ではなく、表面側或いは裏面側に変位した形態となる場合にあっては、そのような基板28に対してめっき操作が施されて、基板両面にめっき液が噴射されることにより、スルーホール30内にめっき金属(Cu)イオンが供給されると、そのようなめっき液中のCuイオンは開口部付近で消費され始めるため、狭窄部30aに到達するまでにCuイオンが減少してしまうようになるのである。そして、このCuイオン濃度の低下により、析出が開口部優先となって、狭窄部30aから遠くなる側の面(図11では下面)側のスルーホール30部分において、ボイド34の発生率が上昇することとなるのである。なお、図において、36は、析出しためっき金属であるCu(銅)を示している。
【0032】
何れにしても、本発明に従うスルーホールを有するセラミック基板にあっては、効率よくめっきすることができ、また、スルーホール内にめっき金属からなる有効な導通部を有利に形成することが出来るものであって、以て、信頼性の高い、絶縁性のセラミック基板が有利に提供され得るのである。
【0033】
以上、本発明の代表的な実施形態について詳述してきたが、それは、あくまでも、例示に過ぎないものであって、本発明は、そのような実施形態に係る具体的な記述によって、何等限定的に解釈されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、本発明には、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【符号の説明】
【0034】
2、14 グリーンシート 4、12、22、30 スルーホール
6 フィルム 8、18 金属板
10、20 重ね合わせ体 12a、22a、30a 狭窄部
16 高伸長ゴムシート 18a 作用孔 24、28 セラミック基板 26、36 めっき金属
34 ボイド
【技術分野】
【0001】
本発明は、スルーホールを有するセラミックグリーンシート及びその製造方法並びにそれより得られたセラミック基板に係り、特に、スルーホール内のめっきを有効に行ない得るセラミック基板と、それを有利に製造することの出来るセラミックグリーンシート、更には、そのようなセラミックグリーンシートを有利に製造することの出来る方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、セラミック基板の表面及び裏面にそれぞれ形成された導体回路を電気的に接続するために、かかるセラミック基板を表面から裏面に貫通するスルーホールを設けて、このスルーホールをめっきして、めっき金属を充填することにより、表面の導体と裏面の導体との導通を図る方式が、採用されてきている。このようなスルーホールを用いた導通方式にあっては、スルーホール内におけるめっき層(金属)の形成速度の違いにより、ボイド等の欠陥が生じる問題が内在している。即ち、電解めっき手法によりセラミック基板を銅めっきすると、かかる基板のコーナー部分に電流が集中するために、当該部分におけるめっき金属の析出が早くなり、そこでのめっき厚さが厚くなるところから、スルーホールにおいては、その開口部分が、コーナー部となって、その内部よりも早く析出金属にて閉塞されることにより、内部にボイド等の欠陥が生じるようになるのである。
【0003】
そこで、特開2003−46248号公報や特開2004−311919号公報等においては、基板に設けられるスルーホールを、テーパー(円錐面)形状の頂部同士を突き合わせてなる形状の貫通穴として、その穴内周面が、軸方向の中間部において三角形状の山形に突出して最狭部を形成してなるスルーホール構造が提案されている。しかしながら、そのようなスルーホール構造においては、そのテーパー形状により、表面側及び裏面側の開口部がそれぞれ拡開されてなる形状を呈するものであるところから、スルーホール自体の体積が大きくなり、そのために、最狭部のめっき埋まり性が充分でなく、かかる最狭部がめっき金属にて充填・閉塞されて、有底形状のスルーホールを形成するのに時間が掛かり、それによって、めっき時間が長くなったり、基板表面におけるめっき厚みが厚くなる等の問題を内在している。また、そのようなスルーホールに充填されためっき金属は、温度変化が繰り返された場合において、基板として熱膨張係数の小さなセラミック基板が用いられると、熱膨張係数の大きなめっき金属との間において応力が生じ、その応力は、スルーホールの最狭部において内方に突出する山形形状の鋭角な先端部において、最も大きな応力が発生して、そこからクラックが入り易くなる問題も内在しているのである。
【0004】
また、特開2000−223810号公報には、複数のスルーホールを有するセラミック基板において、かかるスルーホールが、基板に対する炭化珪素等の砥粒の吹き付けによるブラスト処理にて形成されることが、明らかにされているが、そのようなブラスト処理によるスルーホールの形成は、基本的に、セラミック基板の表面と裏面からそれぞれ開口部の径が最大となる略円錐形状の孔を形成し、そして、それら二つの孔を連結することにより、目的とするスルーホールを形成するものであるところから、それら二つの孔の連結部において、角張った内方突起形状部位が形成されることとなる。このために、上記した基板と同様に、めっき時間が長くなり、基板表面のめっき厚みが厚くなる問題や、繰り返しの温度変化にて、スルーホール内に充填されためっき金属におけるクラックの発生率が高くなる等の問題を内在すると共に、ブラスト処理に起因する、基板表面における削り面や砥粒傷の発生の問題や、スルーホール内面に砥粒残渣が存在するという問題も惹起されることになる。
【0005】
なお、かかる特開2000−223810号公報には、セラミック基板にスルーホールを形成する従来方式の一つとして、レーザーを用いてスルーホールを形成する手法が明らかにされているが、その場合において形成されるスルーホールは、基本的に、一方の開口部から他方の開口部に向かって孔径が漸次小さくなる円錐台形状の貫通孔として形成されることに加えて、レーザー加工により溶融した基板の一部がドロスとなり、基板表面のスルーホール周辺部にバリを生ぜしめて、基板に形成した導通回路が、かかるバリによって断線する問題を惹起することが懸念される他、かかるドロスがスルーホール内に残留すると、孔詰まりが発生して、表面と裏面との間の導通がとれず、導通不良という不具合が生ずる恐れも内在している。また、そこには、スルーホールを形成する従来方式の他の一つとして、金型によるスルーホール加工方法が挙げられている。具体的には、装置に取り付けたピンでグリーンシートを打ち抜くことにより、貫通孔を加工した後、そのような貫通孔を有するグリーンシートを焼成することによって、目的とするスルーホールを有するセラミック基板を得るものであるが、そのようなピンによる打ち抜きにて形成される貫通孔(スルーホール)は、基本的に、孔径が一定のストレート孔となるものであって、孔内周面も軸方向に直線的に延びる形状となっているところから、先に指摘せるように、電解めっき操作にてめっき金属をスルーホール内に充填せしめるときに、孔内部にボイド等の欠陥が生じる問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−46248号公報
【特許文献2】特開2004−311919号公報
【特許文献3】特開2000−223810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、効率よくめっきすることが出来、また、スルーホール内にめっき金属からなる有効な導通部を有利に形成することの出来るスルーホールを有するセラミック基板を提供することにあり、また、そのようなセラミック基板を有利に与え得るスルーホールを有するセラミックグリーンシートを提供することにもあり、更には、そのようなセラミックグリーンシートを工業的に有利に製造することの出来る方法を提供することにもある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そして、本発明は、上記した課題又は明細書全体の記載や図面から把握される課題を解決するために、以下に列挙せる如き各種の態様において、好適に実施され得るものであるが、また以下に記載の各態様は、任意の組み合わせにおいても、採用可能である。なお、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに何等限定されることなく、明細書全体の記載並びに図面に開示の発明思想に基づいて認識され得るものであることが、理解されるべきである。
【0009】
(1) 表面から裏面に貫通するスルーホールが設けられたセラミックグリーンシートにして、該スルーホールの軸方向断面における前記表面から前記裏面に至る孔内面形状が、孔内方に突出する滑らかな円弧状曲線からなる凸状湾曲面形状にて構成され、且つ該凸状湾曲面形状によって形成される、スルーホールの最小直径を与える狭窄部が、該セラミックグリーンシートの厚さ方向における中央部位に位置せしめられていることを特徴とするスルーホールを有するセラミックグリーンシート。
(2) 前記スルーホールの孔内周面が、滑らかな面にて構成されている前記態様(1)に記載のセラミックグリーンシート。
(3) 前記スルーホールが、前記セラミックグリーンシートの表面及び裏面において、それぞれ、0.05mm〜0.5mmの範囲内で開口するように形成されている前記態様(1)又は前記態様(2)に記載のセラミックグリーンシート。
(4) 前記スルーホールの狭窄部の直径が、前記セラミックグリーンシートの表面及び裏面におけるスルーホール開口径の0.1倍〜0.9倍の範囲内である前記態様(1)乃至前記態様(3)の何れか1つに記載のセラミックグリーンシート。
(5) 前記セラミックグリーンシートが、0.10mm〜1.50mmの範囲内の厚さを有している前記態様(1)乃至前記態様(4)の何れか1つに記載のセラミックグリーンシート。
(6) セラミック材料からなるグリーンシートに対して、その表面から裏面に貫通する、ストレート孔形状のスルーホールを形成する第一の工程と、
該スルーホールの形成されたグリーンシートの表面及び裏面に、それぞれ、フィルム又は高伸長ゴムシートを重ね合わせる第二の工程と、
該グリーンシートの表面及び裏面にそれぞれ重ね合わされたフィルム又は高伸長ゴムシートの更に外側に、それぞれ、金属板を重ね合わせる第三の工程と、
それらフィルム若しくは高伸長ゴムシート及び金属板が表面及び裏面に重ね合わされた前記グリーンシートを加圧することにより、該グリーンシートに設けられた前記スルーホールの内壁面を内方に膨出せしめて、凸状湾曲面形状と為し、該グリーンシートの厚さ方向における中央部位に、該凸状湾曲面形状にて形成される、スルーホールの最小直径となる狭窄部が、位置せしめられるようにする第四の工程とを、
含むことを特徴とするスルーホールを有するセラミックグリーンシートの製造方法。
(7) 前記第四の工程における加圧操作に先立ち、前記グリーンシートが加熱せしめられる前記態様(6)に記載のセラミックグリーンシートの製造方法。
(8) 前記第四の工程における加圧操作に先立ち、前記グリーンシートとフィルム若しくは高伸長ゴムシートと金属板との重ね合わせ物を真空下に晒し、該グリーンシートのスルーホール内の空気が除去せしめられる前記態様(6)又は前記態様(7)に記載のセラミックグリーンシートの製造方法。
(9) 表面から裏面に貫通するスルーホールが設けられたセラミックグリーンシートを用い、それを焼成して得られる焼結シートからなり、該焼結シートにおけるスルーホールの軸方向断面における前記表面から前記裏面に至る孔内面形状が、孔内方に突出する滑らかな円弧状曲線からなる凸状湾曲面形状にて構成され、且つ該凸状湾曲面形状によって形成される、スルーホールの最小直径を与える狭窄部が、該焼結シートの厚さ方向における中央部位に位置せしめられていることを特徴とするスルーホールを有するセラミック基板。
(10) 前記スルーホールの孔内周面が、滑らかな面にて構成されている前記態様(9)に記載のセラミック基板。
(11) 前記スルーホールの狭窄部の直径が、前記セラミック基板の表面及び裏面におけるスルーホール開口径の0.1倍〜0.9倍の範囲内である前記態様(9)又は前記態様(10)に記載のセラミック基板。
【発明の効果】
【0010】
このように、本発明に従うスルーホールを有するセラミックグリーンシートからは、それを焼成することによって、かかるセラミックグリーンシートに対応した形状乃至は構造のスルーホールを有するセラミック基板を、容易に得ることが出来るのであり、しかも、そのようにして得られたセラミック基板にあっては、その特徴的な構造の故に、そのめっき処理において優れた特徴を発揮するものとなるのである。
【0011】
すなわち、そのようなセラミック基板にあっては、スルーホールが、その軸方向断面において円弧状曲線となる、凸状湾曲面形状の孔内面形状とされると共に、その凸状湾曲面形状によって形成される、スルーホールの最小直径を与える狭窄部が、基板の厚さ方向における中央部位に位置せしめられて、スルーホールの体積がより小さくなるように構成されているところから、めっきに際して、ボイド等の欠陥の発生を有利に阻止しつつ、スルーホールにおけるめっき金属の埋まり性を向上して、めっき金属による狭窄部の閉塞を早くして、めっき時間の短縮を可能ならしめ、以て、基板表面に形成されるめっき層の厚さを薄くして、精細な回路形成を可能とすると共に、めっき金属(銅)の使用量を低減して、コストダウンにも有利に寄与し得ることとなるのである。
【0012】
また、そのようなセラミック基板にあっては、スルーホールの内面が円弧状の凸状湾曲面形状とされて、鋭角的な角部の存在しない内面形状とされているところから、めっき処理された基板が繰り返し温度変化を受けたときに、セラミック基板とスルーホール充填めっき金属との間の熱膨張係数差によって、大きな応力が発生する箇所が解消されているために、そのような応力によって、スルーホールにおけるめっき金属からなる導通部にクラックが発生して、基板の表面と裏面との間の導通性に悪影響をもたらすようなことも、有利に回避され得るのである。
【0013】
さらに、本発明に従う円弧状凸状湾曲面形状の内面を有するスルーホールの設けられたセラミックグリーンシートを用いることによって、表面又は裏面におけるスルーホール付近に、不具合のない、信頼性の高い有用なセラミック基板を、工業的に有利に提供することが出来ることとなったのであり、また、そのようなセラミックグリーンシートは、本発明に従う製造手法によって、容易に且つ簡便に得ることができると共に、その加工時間も短く、また製造コストも有利に低減せしめ得たのである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】スルーホールの設けられていないセラミックグリーンシートの斜視部分説明図である。
【図2】図1におけるA−A断面説明図である。
【図3】ストレート孔形状のスルーホールが金型を用いた打ち抜きによって形成されてなるグリーンシートを示す斜視部分説明図である。
【図4】図3におけるB−B断面説明図である。
【図5】本発明に従うグリーンシートの重ね合わせ体をプレス加圧する工程を示す断面部分説明図である。
【図6】図5に示すプレス加圧工程における応力の作用形態を示す拡大断面部分説明図である。
【図7】本発明に従うセラミックグリーンシートを示す斜視部分説明図である。
【図8】図7におけるC−C断面説明図である。
【図9】本発明に従うグリーンシートの重ね合わせ体を等方圧加圧する工程を経時的に示す断面部分説明図である。
【図10】本発明に従うセラミック基板に対するめっき操作をモデル的に示す工程説明図である。
【図11】スルーホールの狭窄部が軸方向の中央部位に位置しないセラミック基板に対するめっき操作をモデル的に示す工程説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ところで、本発明に従うスルーホール形成加工が施される、未加工のセラミックグリーンシートは、窒化アルミニウムやアルミナ等の、公知の電気絶縁性セラミック材料を用いて、ドクターブレード法の如き従来から周知の手法に従って、製造されるものであって、図1や図2に示される如く、所定厚さの平坦なシート状物として形成されることとなる。そして、このような未加工の絶縁性セラミックグリーンシート2は、一般に、0.10mm〜1.50mmの範囲内の厚さにおいて、好ましくは、0.40mm〜0.80mmの範囲内の厚さにおいて形成されるものである。なお、その厚さが、0.10mm未満となると、グリーンシート2をプレス加圧したときにセラミック材料の逃げ場がなくなり、設けられたスルーホールが閉塞されて、非貫通孔になるという問題があり、また1.50mmを超えるようになると、絶縁性セラミックグリーンシート2の表面又は裏面におけるスルーホールの開口部とスルーホール中心部の狭窄部との断面積の差が小さくなり、めっき時にボイドが発生する恐れが高くなる。また、それら開口部と狭窄部の断面積の差を大きくしようとすると、極めて大きなプレス圧力が必要となるという問題も惹起する。更に、このようなグリーンシート2の厚みは、後述する加圧工程における加圧操作によって、加圧条件やグリーンシート自体の生密度等の特性にもよるが、一般に、5%〜10%程度、減少するようになる。
【0016】
そして、かかる未加工のセラミックグリーンシート2に対して、図3に示される如く、その所定位置において表面から裏面に貫通するストレート孔形状のスルーホール4の適数個(図では、1個しか示されていない)が、パンチ加工の如き、従来から周知の孔形成手法によって、形成されることとなる。具体的には、例えば、装置に取り付けたピンでグリーンシート2を打ち抜くことにより、スルーホール4としての貫通孔が形成されるのであって、そうして得られたスルーホール4は、図4から明らかな如く、同一径において、表面から裏面に貫通する貫通孔として、必要な個数において所定位置に形成されるのである。なお、そのようなスルーホール4の直径は、0.05mm〜0.5mmの範囲内であることが望ましく、更に好ましくは、0.05mm〜0.2mmの範囲内である。スルーホール4の直径が、0.05mmよりも小さくなると、スルーホールを形成すること自体が機械的に困難となったり、仮にスルーホールを形成することが出来たとしても、後のプレス加圧の際に、スルーホール4が閉塞されてしまって、その表面側と裏面側との導通が取れなくなってしまうという問題を生じる恐れがある。また、0.5mmを超える孔径となると、スルーホールを形成するという目的だけであれば可能であるが、スルーホールをめっき金属で充填するときに、非常に長時間を要するという問題があり、実用上において現実的ではなくなる。
【0017】
次いで、かかるストレート孔形状のスルーホール4が適数個において形成されたグリーンシート2には、図5に示されるように、その表面及び裏面に、所定のフィルム6、6がそれぞれ重ね合わされ、更にその外側に、所定の金属板8、8が重ね合わされて、積層構造の重ね合わせ体10が構成される。ここで、グリーンシート2の両側の面にそれぞれ重ね合わされるフィルム6は、一般に、PETの如きポリエステルや、ポリアミド等の樹脂から得られたものであって、そのようなフィルム6の存在により、グリーンシート2と金属板8とが直接に接触することが阻止され、これによって、後のプレス加圧後に金属板8を取り除く際に、グリーンシート2の表面が金属板8に付着して、その一部が剥がれてしまうことを阻止し得るようになっている。また、重ね合わせ体10において最外側に積層配置される金属板8、8は、そのような重ね合わせ体10に対して加えられる両側の主面に対するプレス加圧力を、均等にグリーンシート2に作用せしめ、スルーホール4の内周面を、後述せるように径方向内方に円弧状に突出せしめて、有効な内周面形状を形成し得るように用いられている。
【0018】
なお、ここで用いられるフィルム6の厚みとしては、グリーンシート2に設けたスルーホール4の内周面を内方に突出せしめる加工のし易さを考慮して、適宜に選定されることとなるが、一般に、0.025〜0.1mm程度の厚さとされることとなる。また、金属板8にあっても、外部から加えられる加圧力をグリーンシート2に有効に伝達して、スルーホール4の内周面形状を、目的とする凸状湾曲面形状と為し得るに有効な強度を有する厚みにおいて、適宜に選定され得るところであり、一般に、1〜3mm程度の厚さにおいて、鉄、銅、アルミ等の各種材質のものが用いられることとなる。更に、重ね合わせ体10の両側の二枚の金属板8、8のうち、一方は、グリーンシート2よりも大きいサイズとし、他方は、グリーンシート2よりも小さいか又は同等のサイズとするのが、好ましい。ただし、グリーンシート2よりも小さいサイズとする場合には、金属板8は、少なくともグリーンシート2にあるすべてのスルーホールを覆うことが可能なサイズでなければならない。一方をグリーンシート2よりも小さいサイズとしたのは、次のプレス工程において、金属板8が変形するのを回避するためである。
【0019】
そして、かくの如き積層構造の重ね合わせ体10には、図5に示される如く、その主面たる上下面に対して、矢印にて示される圧力が加えられて、重ね合わせ体10が挟圧せしめられることとなるのである。なお、その際の重ね合わせ体10の加圧(挟圧)方式としては、等方圧プレス、機械式プレス、ラバープレス等の公知の各種の加圧方法を採用することが出来るが、そのような加圧操作は、グリーンシート2が加熱されて、常温よりも高い温度に維持された状態下において実施されることが望ましく、特に、40〜200℃程度、中でも、40〜120℃程度の温度下において、加圧操作が有利に実施されることとなる。このように、グリーンシート2の温度を高く維持することにより、可塑性が向上して、加圧時にスルーホール4の内周面が変形し易くなって、スルーホール4の内周面を内方に有利に膨出せしめ得るのである。なお、かかる加圧操作における条件は、用いられるグリーンシート2の厚みや目的とするスルーホール4の最狭部の直径等によって、適宜に選定されるところであり、例えば、グリーンシート2の厚みが厚くなるほど、またスルーホール4の軸方向中央部位に形成される狭窄部の直径を小さくしようとするほど、高温、高圧の条件が選定されることとなる。
【0020】
かくの如き加圧操作が実施されると、図6に示されるように、2枚の金属板8、8がグリーンシート2を挟み込む方向に加圧力F(矢印)が作用すると同時に、スルーホール4周囲のグリーンシート2部位には、スルーホール4を閉塞しようとする力f1 が作用することとなる。しかし、フィルム6とグリーンシート2との間には摩擦力f2 が生じるところから、スルーホール4が塞がる方向の力f1 と摩擦力f2 とが相殺されて、グリーンシート2の表面におけるスルーホール4の直径は、加圧操作の前後で殆ど変化することがない。また、グリーンシート2には粘性があるために、かかる摩擦力f2 は、グリーンシート2の厚み方向にも伝わり、その摩擦力は、厚み方向に離れるに従って小さくなっていくのである。そして、そのような摩擦力f2 の作用は、グリーンシート2の裏面側においても、同様となるところから、グリーンシート2の厚み方向の中央部において、換言すればスルーホール4の軸方向の中央部において、摩擦力f2 は最も小さくなるのであり、その結果、図7及び図8に示される如く、孔内壁面が内方に膨出せしめられた凸状湾曲面形状の内周面を有するスルーホール12が、グリーンシート14に形成されるようになるのである。即ち、上述の如き、加圧による変形加工の施されたグリーンシート14のスルーホール12は、グリーンシート14の厚さ方向における中央部位、換言すればスルーホール12の軸方向における中央部位に、凸状湾曲面形状にて形成されるスルーホール12の最小直径となる狭窄部12aが形成されて、全体として鼓形形状のスルーホール12となっているのである。
【0021】
かくの如く、スルーホール4を有するグリーンシート2の厚み方向に応力を加えることによって、グリーンシート2に形成されたストレート孔形状のスルーホール4は、図7及び図8に示される如く、軸方向の中央部が最も大きく縮径されて、狭窄部12aが形成されてなる形態の、鼓形のスルーホール12に変形せしめられることとなるのである。なお、そのような縮径によって形成される凸状湾曲面形状の内壁面を有するスルーホール12は、その断面積において、グリーンシート14の表面及び裏面における開口部面積を、直線的な変化よりも大きな曲線的な変化をもって減少する形態の内周面形状として、形成されているのである。また、かかる狭窄部12aの直径は、スルーホール12のグリーンシート14表面及び裏面における開口部の直径に対して、0.1倍〜0.9倍の範囲であることが望ましく、更に好ましくは0.30倍〜0.70倍の範囲である。かかる狭窄部12aの直径が余りにも小さくなって、上記の0.1倍未満となると、狭窄部12aの内壁面にバリ等が存在すると穴が閉塞されてしまうことがあり、それによってスルーホール12を通じての導通が出来なくなってしまう問題があり、また上記の0.9倍を超えるような大きな直径となる場合にあっては、めっき工程においてボイドが生じる恐れがある。
【0022】
ところで、本発明においては、また、図9に示される如き加圧方式に従って、目的とする鼓形形状のスルーホール12を有するグリーンシートを得ることが、推奨される。そこでは、グリーンシート2の表面及び裏面に、それぞれ、所定厚さの高伸長ゴムシート16、16が、先のフィルム6に代えて、重ね合わされ、更にその外側に、金属板18、18がそれぞれ重ね合わされてなる積層形態において、重ね合わせ体20が構成されているのである。この重ね合わせ体20を構成する高伸長ゴムシート16は、よく知られているように、優れた伸長特性を有するゴム製品であって、一般に、伸び率が500%以上、好ましくは600%以上、特に好ましくは800%以上となるものであって、通常、シリコーンゴム材質のものが好適に用いられ、例えば、クレハエラストマー株式会社や共和工業株式会社等から市販されているシリコーンゴムシートを利用することが出来る。なお、かかる高伸長ゴムシート16の厚みとしては、それがグリーンシート2のスルーホール4内に入り込むことが出来る厚さにおいて、適宜に選定されることとなるが、一般に、0.25〜3.0mm程度の厚さのものが、用いられることとなる。
【0023】
また、かかる重ね合わせ体20において、グリーンシート2のスルーホール4内の雰囲気(空気)は脱気されていることが望ましく、そのために、重ね合わせ体20は、加圧操作に先立って、真空下(減圧下)に晒されることとなる。具体的には、そのような重ね合わせ体20を適当な袋体内に収容して、密封した後、袋体内を真空に引くことにより、グリーンシート2のスルーホール4内の雰囲気(空気)が取り除かれるようにされる。加えて、そのような重ね合わせ体20を構成する両側の金属板18、18には、後の加圧操作において、高伸長ゴムシート16に対して、その加圧力を有効に作用させるべく、グリーンシート2のスルーホール4に対応した位置に、少なくともスルーホール4の大きさに対応した孔径を有する作用孔18aが設けられている。
【0024】
次いで、重ね合わせ体20には、所定の温度に加熱された温水等の圧力媒体を用いて等方圧加圧操作が施されて、重ね合わせ体20の両側の金属板18、18に対して、加圧力が作用せしめられる。このような加圧により、重ね合わせ体20を構成する高伸長ゴムシート16、16が、スルーホール4の内部にまで入り込んで、グリーンシート2を押さえつけるようになるところから、スルーホール4の内壁面が平滑な滑らかな内面となるのである。そして、更に加圧が進むと、グリーンシート2に対して圧縮力が作用することにより、図7や図8に示される如く、スルーホール4の内壁面が径方向内方に膨出せしめられて、凸状湾曲面形状となり、グリーンシート2の厚さ方向における中央部位に、かかる凸状湾曲面形状にて形成されるスルーホール12の最小直径となる狭窄部12aが形成されることとなるのである。そして、かかる等方圧加圧が終了して、その圧力が解放されると、高伸長ゴムシート16は、グリーンシート14に対して離型性を有しているところから、スルーホール12の内面を傷付けることなく取り除くことが出来ることにより、加圧加工して得られたグリーンシート14においては、そのスルーホール12の内壁面が滑らかな平滑面として有利に形成されることとなるのであり、以て、後のめっき操作において、めっき金属の充填をより有利に行ない得るのである。
【0025】
そして、かくの如くして得られた、スルーホール12の内壁面が凸状湾曲面形状とされて、スルーホール12の軸方向中央部位に、スルーホール12の最小直径となる狭窄部12aが形成されてなるグリーンシート14は、常法に従って焼成されることにより、目的とするスルーホールを有するセラミック基板となるのであるが、そのようなセラミック基板におけるスルーホールは、焼成前のグリーンシート14におけるスルーホール12と同様な鼓形形状を呈するものとなる。
【0026】
すなわち、上記したグリーンシート14を焼成して得られる焼結シートからなるセラミック基板においては、スルーホールの軸方向断面における表面から裏面に至る孔内面形状が、孔内方に突出する滑らかな円弧状曲線からなる凸状湾曲面形状にて構成され、且つかかる凸状湾曲面形状によって形成されるスルーホールの最小直径を与える狭窄部が、基板の厚さ方向における中央部位に位置せしめられてなる鼓形形状を呈しているのである。従って、そのようなセラミック基板におけるスルーホールの狭窄部の直径も、前記したグリーンシート14におけるスルーホール12の狭窄部12aと同様に、セラミック基板の表面及び裏面におけるスルーホール開口径の0.1倍〜0.9倍、好ましくは0.30倍〜0.70倍の範囲内の直径となっている。そして、かかるセラミック基板においては、そのようなスルーホールの特徴的な形状によって、めっき工程においてボイドを発生せしめることがなく、また効率よくめっきすることができ、更にスルーホール内にめっき金属からなる有効な導通部を有利に形成することの出来る特徴を発揮し得るのである。
【0027】
要するに、図10にモデル的に示されているように、上記した鼓形形状のスルーホール22を有するセラミック基板24を用いて、それに電気めっきを施して、かかるスルーホール22を介してセラミック基板24の表面と裏面との導通を図るときに、めっき液は、図示の如く、セラミック基板24の表面と裏面の両方に噴射せしめられることとなるのであるが、セラミック基板24には、電流の集中し易い角度の小さな(尖鋭的な)コーナー部分が可及的に存在しないような凸状湾曲面形状の内面を有するスルーホール22とされているところから、より均一なめっきが可能となるのであり、また、めっき初期段階において、スルーホール22の最小直径部位となる狭窄部22aに析出するめっき体積が大きいため、スルーホール22に対するめっき金属の充填が有利に行なわれ得ることとなるのであり、これによって、ボイド等の欠陥の発生が有利に回避されつつ、めっき金属の充填性の向上によって、めっき時間の短縮が可能となることにより、基板表面に形成されるめっき層の厚さを薄くして、精細な回路形成を可能ならしめる他、めっき金属の使用量の低減をも実現して、コストダウンにも有利に寄与し得ることとなるのである。
【0028】
しかも、そのようなセラミック基板24においては、スルーホール22の内面が円弧状の凸状湾曲面形状とされて、尖鋭的な角部の存在しない内面形状とされているところから、めっき処理された基板が繰り返し温度変化を受けたときに、セラミック基板24とスルーホール充填めっき金属26との間の熱膨張差によって大きな応力が発生する箇所が有利に解消され、そのために、かかる応力によって、スルーホール22におけるめっき金属26からなる導通部にクラックが発生して、基板24の表面と裏面との導通性に悪影響をもたらすようなことも、有利に回避され得ているのである。
【0029】
なお、かくの如きスルーホール22における、円弧状凸状湾曲面形状の内面によって奏され得る格別の効果を、有利に享受する上において、その曲率半径(R)は、通常、11mm以下とすることが望ましく、またその下限は、0.05mm程度とされることが望ましい。
【0030】
これに対して、セラミック基板のスルーホールが、従来の如く、2つの円錐面を頂部において連結してなる構造の、縦断面が鋭角的な角部を有する内面形状とされたスルーホールにおいては、上記した円弧状凸状湾曲面形状の内面を有するスルーホール22に比較して、スルーホール全体の体積が大きくなり、そのために、めっき金属の充填性が悪く、めっき時間が長くなる他、電流が集中するコーナー部の存在によって、スルーホール内に充填されるめっき金属中に大きなボイドが残り易くなる問題があり、また、そのスルーホール内面の尖鋭的な角部の先端から、セラミックとめっき金属との熱膨張係数の差によって、クラック等が生じるようにもなるのである。
【0031】
また、図11に示すように、セラミック基板28に設けられたスルーホール30の内壁面が、凸状湾曲面形状ではあるものの、その狭窄部30aが、セラミック基板28の厚さ方向、換言すればスルーホール30の軸方向における中央部位ではなく、表面側或いは裏面側に変位した形態となる場合にあっては、そのような基板28に対してめっき操作が施されて、基板両面にめっき液が噴射されることにより、スルーホール30内にめっき金属(Cu)イオンが供給されると、そのようなめっき液中のCuイオンは開口部付近で消費され始めるため、狭窄部30aに到達するまでにCuイオンが減少してしまうようになるのである。そして、このCuイオン濃度の低下により、析出が開口部優先となって、狭窄部30aから遠くなる側の面(図11では下面)側のスルーホール30部分において、ボイド34の発生率が上昇することとなるのである。なお、図において、36は、析出しためっき金属であるCu(銅)を示している。
【0032】
何れにしても、本発明に従うスルーホールを有するセラミック基板にあっては、効率よくめっきすることができ、また、スルーホール内にめっき金属からなる有効な導通部を有利に形成することが出来るものであって、以て、信頼性の高い、絶縁性のセラミック基板が有利に提供され得るのである。
【0033】
以上、本発明の代表的な実施形態について詳述してきたが、それは、あくまでも、例示に過ぎないものであって、本発明は、そのような実施形態に係る具体的な記述によって、何等限定的に解釈されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、本発明には、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【符号の説明】
【0034】
2、14 グリーンシート 4、12、22、30 スルーホール
6 フィルム 8、18 金属板
10、20 重ね合わせ体 12a、22a、30a 狭窄部
16 高伸長ゴムシート 18a 作用孔 24、28 セラミック基板 26、36 めっき金属
34 ボイド
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面から裏面に貫通するスルーホールが設けられたセラミックグリーンシートにして、該スルーホールの軸方向断面における前記表面から前記裏面に至る孔内面形状が、孔内方に突出する滑らかな円弧状曲線からなる凸状湾曲面形状にて構成され、且つ該凸状湾曲面形状によって形成される、スルーホールの最小直径を与える狭窄部が、該セラミックグリーンシートの厚さ方向における中央部位に位置せしめられていることを特徴とするスルーホールを有するセラミックグリーンシート。
【請求項2】
前記スルーホールの孔内周面が、滑らかな面にて構成されている請求項1に記載のセラミックグリーンシート。
【請求項3】
前記スルーホールが、前記セラミックグリーンシートの表面及び裏面において、それぞれ、0.05mm〜0.5mmの範囲内で開口するように形成されている請求項1又は請求項2に記載のセラミックグリーンシート。
【請求項4】
前記スルーホールの狭窄部の直径が、前記セラミックグリーンシートの表面及び裏面におけるスルーホール開口径の0.1倍〜0.9倍の範囲内である請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のセラミックグリーンシート。
【請求項5】
前記セラミックグリーンシートが、0.10mm〜1.50mmの範囲内の厚さを有している請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載のセラミックグリーンシート。
【請求項6】
セラミック材料からなるグリーンシートに対して、その表面から裏面に貫通する、ストレート孔形状のスルーホールを形成する第一の工程と、
該スルーホールの形成されたグリーンシートの表面及び裏面に、それぞれ、フィルム又は高伸長ゴムシートを重ね合わせる第二の工程と、
該グリーンシートの表面及び裏面にそれぞれ重ね合わされたフィルム又は高伸長ゴムシートの更に外側に、それぞれ、金属板を重ね合わせる第三の工程と、
それらフィルム若しくは高伸長ゴムシート及び金属板が表面及び裏面に重ね合わされた前記グリーンシートを加圧することにより、該グリーンシートに設けられた前記スルーホールの内壁面を内方に膨出せしめて、凸状湾曲面形状と為し、該グリーンシートの厚さ方向における中央部位に、該凸状湾曲面形状にて形成される、スルーホールの最小直径となる狭窄部が、位置せしめられるようにする第四の工程とを、
含むことを特徴とするスルーホールを有するセラミックグリーンシートの製造方法。
【請求項7】
前記第四の工程における加圧操作に先立ち、前記グリーンシートが加熱せしめられる請求項6に記載のセラミックグリーンシートの製造方法。
【請求項8】
前記第四の工程における加圧操作に先立ち、前記グリーンシートとフィルム若しくは高伸長ゴムシートと金属板との重ね合わせ物を真空下に晒し、該グリーンシートのスルーホール内の空気が除去せしめられる請求項6又は請求項7に記載のセラミックグリーンシートの製造方法。
【請求項9】
表面から裏面に貫通するスルーホールが設けられたセラミックグリーンシートを用い、それを焼成して得られる焼結シートからなり、該焼結シートにおけるスルーホールの軸方向断面における前記表面から前記裏面に至る孔内面形状が、孔内方に突出する滑らかな円弧状曲線からなる凸状湾曲面形状にて構成され、且つ該凸状湾曲面形状によって形成される、スルーホールの最小直径を与える狭窄部が、該焼結シートの厚さ方向における中央部位に位置せしめられていることを特徴とするスルーホールを有するセラミック基板。
【請求項10】
前記スルーホールの孔内周面が、滑らかな面にて構成されている請求項9に記載のセラミック基板。
【請求項11】
前記スルーホールの狭窄部の直径が、前記セラミック基板の表面及び裏面におけるスルーホール開口径の0.1倍〜0.9倍の範囲内である請求項9又は請求項10に記載のセラミック基板。
【請求項1】
表面から裏面に貫通するスルーホールが設けられたセラミックグリーンシートにして、該スルーホールの軸方向断面における前記表面から前記裏面に至る孔内面形状が、孔内方に突出する滑らかな円弧状曲線からなる凸状湾曲面形状にて構成され、且つ該凸状湾曲面形状によって形成される、スルーホールの最小直径を与える狭窄部が、該セラミックグリーンシートの厚さ方向における中央部位に位置せしめられていることを特徴とするスルーホールを有するセラミックグリーンシート。
【請求項2】
前記スルーホールの孔内周面が、滑らかな面にて構成されている請求項1に記載のセラミックグリーンシート。
【請求項3】
前記スルーホールが、前記セラミックグリーンシートの表面及び裏面において、それぞれ、0.05mm〜0.5mmの範囲内で開口するように形成されている請求項1又は請求項2に記載のセラミックグリーンシート。
【請求項4】
前記スルーホールの狭窄部の直径が、前記セラミックグリーンシートの表面及び裏面におけるスルーホール開口径の0.1倍〜0.9倍の範囲内である請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のセラミックグリーンシート。
【請求項5】
前記セラミックグリーンシートが、0.10mm〜1.50mmの範囲内の厚さを有している請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載のセラミックグリーンシート。
【請求項6】
セラミック材料からなるグリーンシートに対して、その表面から裏面に貫通する、ストレート孔形状のスルーホールを形成する第一の工程と、
該スルーホールの形成されたグリーンシートの表面及び裏面に、それぞれ、フィルム又は高伸長ゴムシートを重ね合わせる第二の工程と、
該グリーンシートの表面及び裏面にそれぞれ重ね合わされたフィルム又は高伸長ゴムシートの更に外側に、それぞれ、金属板を重ね合わせる第三の工程と、
それらフィルム若しくは高伸長ゴムシート及び金属板が表面及び裏面に重ね合わされた前記グリーンシートを加圧することにより、該グリーンシートに設けられた前記スルーホールの内壁面を内方に膨出せしめて、凸状湾曲面形状と為し、該グリーンシートの厚さ方向における中央部位に、該凸状湾曲面形状にて形成される、スルーホールの最小直径となる狭窄部が、位置せしめられるようにする第四の工程とを、
含むことを特徴とするスルーホールを有するセラミックグリーンシートの製造方法。
【請求項7】
前記第四の工程における加圧操作に先立ち、前記グリーンシートが加熱せしめられる請求項6に記載のセラミックグリーンシートの製造方法。
【請求項8】
前記第四の工程における加圧操作に先立ち、前記グリーンシートとフィルム若しくは高伸長ゴムシートと金属板との重ね合わせ物を真空下に晒し、該グリーンシートのスルーホール内の空気が除去せしめられる請求項6又は請求項7に記載のセラミックグリーンシートの製造方法。
【請求項9】
表面から裏面に貫通するスルーホールが設けられたセラミックグリーンシートを用い、それを焼成して得られる焼結シートからなり、該焼結シートにおけるスルーホールの軸方向断面における前記表面から前記裏面に至る孔内面形状が、孔内方に突出する滑らかな円弧状曲線からなる凸状湾曲面形状にて構成され、且つ該凸状湾曲面形状によって形成される、スルーホールの最小直径を与える狭窄部が、該焼結シートの厚さ方向における中央部位に位置せしめられていることを特徴とするスルーホールを有するセラミック基板。
【請求項10】
前記スルーホールの孔内周面が、滑らかな面にて構成されている請求項9に記載のセラミック基板。
【請求項11】
前記スルーホールの狭窄部の直径が、前記セラミック基板の表面及び裏面におけるスルーホール開口径の0.1倍〜0.9倍の範囲内である請求項9又は請求項10に記載のセラミック基板。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−238837(P2012−238837A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−47611(P2012−47611)
【出願日】平成24年3月5日(2012.3.5)
【出願人】(591149089)株式会社MARUWA (35)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年3月5日(2012.3.5)
【出願人】(591149089)株式会社MARUWA (35)
【Fターム(参考)】
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