説明

スレート葺屋根補修用クランプ金具

【課題】既設のスレート屋根材の固定用フックボルトへの取付けが簡単、強固で、補修用金属製折曲げ屋根材の安定した取付け(施工)を、低コストで行うことのできるスレート葺屋根の補修技術を確立すること。
【解決手段】既設のスレート葺屋根の丸型凸部上に配置する、金属製折曲げ屋根材を被覆配設するためのクランプ金具であって、金具の本体は、断面溝形に折曲形成された樋状を呈し、この樋状金具本体の長手方向の略中央部には、締付具の高さ以上の深さに曲成されてなる締付具収納用凹部を有すると共に、この凹部の底壁には、幅方向に長い長円状ボルト挿通孔を有すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工場や倉庫・店舗等の屋根葺に用いられているスレート屋根材を金属製折曲げ屋根材を使って補修する際に用いるスレート葺屋根補修用クランプ金具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、老朽化したスレート葺屋根を取り壊すことなく、スレート葺屋根の補修を行う場合、まず、古くなったスレート屋根材を取り外し、次いで、新たなスレート屋根材等を取付けて新しい屋根を葺上げる方法が一般的である。この工法では、とくに工場等の場合、その葺替工事の間、作業を長期間に亘って休止しなければならないという問題がある。また、何よりも、近年では、取り外したスレート屋根材は、その多くがセメントの他に10〜20mass%程度の石綿をも含むものであるため、この大量に発生する廃棄物の処理が環境汚染になるという点で大きな問題となっていた。さらに、葺替工事中は屋根がなくなるため、風雨を凌ぐための養生を行うことが必要になり、しかも骨組だけになるため危険が伴い、かつ室内足場などを必要とするという問題もあった。
【0003】
これに対し、従来、老朽化したスレート葺屋根を取り壊すことなく、その上を金属製折曲げ屋根材にて覆うことにより、スレート葺屋根を補修する方法がある。このような方法としては、例えば、特許文献1〜5に開示されているような技術がある。
【0004】
即ち、特許文献1では、「薄鋼板を折曲することにより、既設のスレート屋根材の山部のピッチに合うように、山部と水平底部とを連続して形成してなる金属製屋根材」を、既設のスレート屋根材に載置して補修するという、スレート葺屋根の補修構造を提案している。
【0005】
また、特許文献2には、図1に示すような構造のクランプ金具を用いた補修工法、即ち、「断面箱形で、・・・底面部にはその端縁に開口する切欠4aを形成した金属板からなるクランプ金具4を用い、上記スレート屋根材3を貫通してこれを母屋1に固定した既設のフックボルト2上端のナット座金と上記スレート屋根材3の山部との間の隙間から上記フックボルト2まわりに上記切欠4aを嵌め込んで上記クランプ金具4を上記スレート葺屋根の山部に載置固定し、その上に金属製屋根材5を敷設するというスレート葺屋根の補修工法」が開示されている。
【0006】
また、特許文献3では、既設の波形スレート葺屋根を固定しているフックボルトに、サドル部材(固定金具)を、その中央に設けられた通孔を介して挿通すると共に、該通孔から突出したフックボルトに、新規の長ナットを螺合させることにより締付け固定し、次に、そのサドル部材上に、前記長ナットを跨ぐような高さで断面凸状に折曲成形された垂木部材を載置し、該垂木部材上に設けた金属屋根板の山部(凸部)から、垂木部材に至るまで止着部材を挿通させることにより、金属屋根部材を垂木部材上に支持固定する二重葺き屋根構造を提案している。
【0007】
また、特許文献4では、既存のスレート板を固定しているフックボルトに、支持金具(固定金具)を、その挿入孔から挿入すると共に、係止部材によって上側から押さえて固定し、次に、支持金具上に、新規の外装下地材を載置し、固定具によって固着した後、該外装下地材上に新規の外装材を載置し、外装材の凸部上方から、外装下地材に至るまでドリルビスを打入させることにより、外装材を外装下地材上に支持固定する外装材葺替え構造を提案している。
【0008】
また、特許文献5では、既存の波形スレート板を固定しているフックボルトに、略逆U字状の支持フレームを挿入し、該支持フレームに設けられている圧入係止部によって係り止めした後、波形スレート板上に新設のカバールーフを被覆し、カバールーフ上方からドリルビスを打ち込んで、ドリルビスの下端を支持フレームの頂部に固定する屋根の葺替構造を提案している。
【特許文献1】実公昭63−46576号公報
【特許文献2】特開平10−219936号公報
【特許文献3】特許第3484630号公報
【特許文献4】特開2003−184228号公報
【特許文献5】特開2000−336851号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来技術は、例えば、特許文献1に開示のものでは、新しい金属製屋根材を設置するためには、既設スレート屋根材に穴あけ等の加工を施さなければならず、建物内部に施工くずやごみ、ちり、粉塵等が発生して、環境汚染の原因となる。従って、操業中の工場や使用中の倉庫、体育館などに落下物の防止のためにテントを張るなど、大掛かりな準備が必要である。しかも、老朽化した既設のスレート屋根材に対し、穴あけやドリルタッピングネジの締付などを行うと、屋根材に割れやひび、欠け等が生じることがある。
【0010】
また、特許文献2に開示の工法では、底部に切欠を有する箱型のクランプ金具を、スレート屋根材とナット座金との間にむりに挿し込むために、該スレート屋根材が削り取られて粉塵の原因になることが多く、しかも単に挿し込むだけであるからフックボルトへの固定状態が悪く、弛みやすいので、新設の金属製屋根材の取付け状態が不安定になるという課題がある。
【0011】
また、特許文献3および4は、固定金具と補修用屋根板材(外装材)との間に、下地材を設け、カバールーフとなる新設の屋根板材の波形凸部から、この下地材に至るまで止着部材(ドリルビス)を挿通することで、屋根板材を下地材に固着させているが、この場合、下地材の設置が不可欠であり、該下地材を固定金具上にネジ止め等によって固着させる必要があるため、設置に手間がかかると共に、工期が長くなることにより、コストアップとなる。また、カバールーフの設置高さが、下地材の高さ分だけ高くなり、不安定となるという問題点がある。しかも、これらの特許文献に記載の技術では、カバールーフの波形凸部の下方が空洞となり、それを下方から支持するものがないため、作業者がこの凸部を踏む等した際に、凹んだり変形してしまうおそれがある。
【0012】
さらに、特許文献4の技術では、支持金具とは別体の係止部材を設け、該係止部材を移動可能にしたことにより、フックボルトの芯がズレている場合にも対応できるようしているが、別部材を設けることによるコストアップの問題がある。しかも、この技術では、既設のフックボルトが部分的に腐食し、断面が欠損していた場合、フックボルトへの支持金具の正常な固定ができず、カバールーフの取付け状態が不安定で、強風時に飛散するおそれもある。
【0013】
一方、特許文献5の葺替構造は、既設のスレート屋根材上に支持フレーム(固定金具)を介して新設の屋根材を取付けるものであり、特許文献3および4のような下地材を必要としていない。しかしながら、この文献5では、既設のフックボルトの上部を切取らず、支持フレームから突出した該フックボルト上に新設の屋根板を葺いているため、新設のカバールーフの山部(凸部)高さが高くなり、一般的な板幅(914mm)の屋根板を使用することができないという問題点がある。したがって、屋根板材が特殊仕様となると共に、屋根板材の使用量も増えるため、コストアップとなり、一般市場には普及し難いと言える。
【0014】
さらに、この特許文献5では、支持フレームに設けられた圧入係止部の板状片を、フックボルトの雄ねじ部に食い込ませることにより両者を係止固定しているが、既存のフックボルトのねじ山が腐食していた場合には、正常に固定することができず、カバールーフの取付け状態が不安定となるおそれがある。
【0015】
そこで、本発明の目的は、既設のスレート屋根材の固定用フックボルトへの取付けが簡単、強固で、補修用金属製折曲げ屋根材の安定した取付け(施工)を、低コストで行うことのできるスレート葺屋根の補修技術を確立することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
発明者らは、従来技術が抱えている上述した課題が解決でき、上記目的の実現に有効な解決手段として、下記の要旨構成に係る新規技術を提案する。
【0017】
本発明は、既設のスレート葺屋根の丸型凸部上に配置する、金属製折曲げ屋根材を被覆配設するためのクランプ金具であって、この金具の本体は、断面溝形に折曲形成された樋状を呈し、この樋状金具本体の長手方向の略中央部には、締付具の高さ以上の深さに曲成されてなる締付具収納用凹部を有すると共に、この凹部の底壁には、幅方向に長い長円状ボルト挿通孔を有することを特徴とするスレート葺屋根補修用クランプ金具に関する。
【0018】
なお、本発明のスレート葺屋根補修用クランプ金具は、前記樋状金具本体は、上面部の両側縁部に対して左右傾斜部を連設してなり、その左右傾斜部の両側端縁部には、外向きに張り出した鍔片を連設したものであること、前記左右傾斜部は、その長手方向の複数箇所に、それぞれ内向きに折り込まれた複数の座片を有すること、および前記左右傾斜部は、その両下端部の前記長円状ボルト挿通孔に隣接する部分に、外向きに張り出した膨みを有することがより好ましい解決手段となる。
【発明の効果】
【0019】
以上の説明からわかるように、本発明は、老朽化したスレート屋根材を取り壊さずに、その上に金属製折曲げ屋根材を葺き上げるスレート葺屋根の補修技術である。従って、このような技術の下では、補修工事中であっても工場の操業を続けたり、倉庫や店舗の使用や営業を継続して行うことができる他、風雨を凌ぐための養生や足場も不要で、補修工事を安全かつ短期間に行うことができる。しかも、古いスレート葺屋根を解体する必要がないので、スレート屋根材等の廃棄物が出ることがなく、さらに既設スレート屋根材を傷つけたりして環境汚染を招くという問題を生じさせることもない。
【0020】
本発明に従って葺上げた金属製折曲げ屋根材からなるカバールーフは、既設のスレート屋根材の山部に合わせて台形山部を形成して重畳するように載置し、固定金具上に、ビス止め等によって直接固定されるため、作業者が薄鋼板からなる折曲げ屋根材、とくに前記台形山部の上に乗っても、この山部が凹んだり膨らんだりする変形がなく、また下地材等の設置が不要となるため、著しい工期の短縮と、コストダウンを図ることができる。
【0021】
また、本発明では、固定金具の略中央部に前記固定部材の高さ以上の深さを有する凹部を設け、該凹部内に前記固定部材が収まるように構成すると共に、フックボルトの先端を固定金具高さ以下としたことにより、従来技術(特許文献5)よりもカバールーフの波形山部(凸部)高さを低くすることが可能であり、一般に普及している屋根板を使用することができるためコストダウンを図ることができる。さらに、本発明では、固定金具をフックボルトに固着させるための固定部材が、フックボルトのネジ山に複数箇所で係止される構造からなるため、強固な固定が可能である。
【0022】
また、本発明では、固定金具の凹部に設けられたフックボルト挿入孔を、長円状としたことにより、フックボルトの軸芯が大きくズレていた場合にも、位置を簡単に移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】従来のストレート葺屋根補修構造の断面図(a)およびクランプ金具の底面図(b)である。
【図2】本発明のクランプ金具を用いたスレート葺屋根補修構造の正面図である。
【図3】本発明のクランプ金具を用いたスレート葺屋根補修構造の断面図である。
【図4】本発明のクランプ金具を用いたスレート葺屋根補修構造の断面図である。
【図5】本発明にかかるクランプ金具の一実施形態を示す斜視図(a)、底面図(b)、および側面図(c)である。
【図6】本発明のクランプ金具の他の実施形態を示す斜視図(a)、底面図(b)、および側面図(c)である。
【図7】本発明のクランプ金具の他の実施形態を示す斜視図(a)、底面図(b)、および側面図(c)である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図2および図3は、溝型鋼材などで構成される母屋1上にフックボルト2を介して固定されたスレート屋根材3の丸形凸部3aのうちの、前記フックボルト2設置部分に本発明のスレート屋根材固定用クランプ金具4を配置し、このクランプ金具4を介してその上にカバールーフである金属製折曲げ屋根材5を固定し、老朽化したスレート葺屋根の上を覆うことにより、該スレート葺屋根の補修を行った様子を示している。
【0025】
図4および図5は、本発明のクランプ金具4の一実施形態を示すものである。これらの図に示すように、本発明のクランプ金具4は、矩形状の金属製板材を上面部4cの左右側縁部に対し、左右傾斜部4a、4bを設けてなる、断面溝形に折曲形成された樋状金具本体を主要部とするものである。そして、このクランプ金具4は、樋状金具本体の長手方向の中央部に、凹部6を有し、この凹部6の底壁には前記フックボルト2を挿通させるための、幅方向に長い長円状のボルト挿通孔6aが形成されている。
【0026】
また、このクランプ金具4は、前記ボルト挿通孔6aに挿通される、前記フックボルト2を介して、スレート屋根材3の所定位置の丸形凸部3a上に載置されると共に、該フックボルト2の上端から挿入された固定部材7の締付けによって該ストレート屋根材3上に強固に固定される。
【0027】
本発明において、クランプ金具4は、その長手方向の略中央部に凹部6が形成されたものである。この凹部6は、図3に示すように凹み深さが、固定部材7の高さと同等もしくはそれ以上となるように曲成されている。このように構成することにより、本発明のクランプ金具4は、固定部材7をフックボルト2頭部に締結して、該クランプ金具4を既設のスレート屋根3上に固定した際に、固定部材7の上端が該クランプ金具4の上面部4cを越えることがなく、固定部材7がクランプ金具4から突出することがない。したがって、後述するように新設の金属製折曲げ屋根材5を、クランプ金具4上に載置する際に、クランプ金具4の固定部材7が、金属製折曲げ屋根材5にぶつかることがなく、クランプ金具4の高さ程度まで金属製折曲げ屋根材5を下げることができる。従って、金属製折曲げ屋根板5とクランプ金具4とを直接、ネジ止め等によって固着することができると同時に、補修屋根構造を全体に低く(フラット)に仕上げることができるので、葺き上げた補修屋根が安定したものになる。
【0028】
なお、凹部6の底壁に形成されたボルト挿通孔6aは、幅方向に長い長円状に穿設したものである。本発明では、このように長円状の孔を設けたことによって、既設のフックボルト2が傾いたり、ズレていたとしても、フックボルト2の傾き等に合わせてクランプ金具4を簡単に横位置移動させることができるため、固定部材7による常に安定した締付け固定が可能になり、屋根の強度や防水性を向上させることができる。
【0029】
また、固定部材7としては、フックボルト2への固定を強固にするため、フックボルト2のネジ山に複数箇所で係止されるようなものを使用することが好ましく、一般の螺合式のナットの他、図5(a)に示すような内側に向って複数の係止片を突設してなるアンカーナット等を用いることが好ましい。なお、フックボルト2の直径は、腐食によって設置時よりも細くなる場合があるので、ナット等の固定部材7の内径は、強固な固定ができるように最適なものを選定することが好ましい。
【0030】
本発明では、クランプ金具4の前記左傾斜部4aおよび右傾斜部4bの側端縁部に、外向きに張り出した鍔片4d、4eを形成することが好ましい。この鍔片4d、4eは、載置する既設のスレート屋根材3の丸形凸部3aの傾斜に沿った角度に折曲して形成されることが好ましく、これにより、クランプ金具4をスレート屋根材3の丸形凸部3a上に載置した際に、鍔片4d、4eが押さえとなり、クランプ金具4が、金属製折曲げ屋根材5の荷重等によって大きく動くようなことがなくなり、スレート屋根材3上に安定して固定させることができる。
【0031】
図6は、本発明のクランプ金具4’の他の実施形態である。このクランプ金具4’と、図5のクランプ金具4との違いは、左右傾斜部4a’、4b’上に、それぞれ内向きに折り込まれたU字状の座片8、8’、9、9’を設けたか否かにある。この座片8、8’、9、9’は、左右傾斜部4a’、4b’をU字状にくり貫き、左右傾斜部4a’、4b’下端と鍔片4d’、4e’との境目を折曲位置8a、8a’、9a、9a’として内向きに折り込んだものである。
【0032】
この座片8、8’、9、9’は、クランプ金具4’をスレート屋根材3の丸形凸部3a上に載置した際に、クランプ金具4’の荷重が、左右傾斜部4a’、4b’側端縁すなわち、スレート屋根材3の丸形凸部3a傾斜面に集中してかかるのを防ぐために設けられるものである。この座片8、8’、9、9’によって、荷重は、丸形凸部3a頂部付近にも分散されることになり、例えば、施工中に作業員が踏む等して荷重がかかった場合にも局部的に破損するおそれがなくなる。
【0033】
また、本発明においては、樋状のクランプ金具4’本体の左右傾斜部4a’、4b’の両下端部の、凹部6’、とりわけ長円状ボルト挿通孔6a’の隣接部分に、この部分を外側に膨らませてなる膨み10a、10bを設ける。これは、フックボルト2の締め付け用ナットや座金が、とくに芯ズレした場合に、左右傾斜部4a’、4b’と接触することがないようにするため設けられたものである。
【0034】
本発明では、長円状のボルト挿通孔6a’を設けたことにあわせ、このように対応する隣接傾斜部4a’、4b’に膨み10a、10bを設けたことで、スレート屋根材固定用フックボルト2が、芯ズレをおこして、該長円状ボルト挿通孔6a’の作用を有効に使う場合に、該フックボルト2を締め付けるナットや座金が邪魔になることがなく、これらの協同作用により、クランプ金具4’をスレート屋根3上にしっかりと固定することができるようになる。
【0035】
さらに、図7に本発明のクランプ金具4”の他の実施形態を示す。このクランプ金具4”は、図6のクランプ金具4’とほぼ同じ構造を有するが、左右傾斜部4a”、4b”の側端縁部に設けられた座片11、11a、12、12aの形状および、左右傾斜部4a”、4b”の長円状ボルト挿通孔6a”の隣接部分に設けた膨み10a’、10b’の形状に特徴がある。
【0036】
前記座片11、11a、12、12aは、左右傾斜部4a”、4b”から内側に三角状に突出する形状からなり、図6のクランプ金具4’の座片8、8’、9、9’よりも内側に突出する部分が短くなっている。このような構成にすることにより、クランプ金具4”の複数個を積み重ねて梱包する際に、一のクランプ金具4”の座片11、11a、12、12aが他のクランプ金具4”の左右傾斜部4a”、4b”にぶつかることがなくなり、座片11、11a、12、12aによってクランプ金具4”の傾斜部4a”、4b”が傷つくようなことがない。
【0037】
なお、この座片11、11a、12、12aは、クランプ金具4”をスレート屋根材3の丸形凸部3a上に載置した際に、クランプ金具4”の荷重が、左右傾斜部4a”、4b”下端部すなわち、ストレート屋根材3の凸部3a傾斜面に集中して掛かるのを防ぐために設けられるものである。
【0038】
また、膨み10a’、10b’は、クランプ金具4”を、フックボルト2に挿通した際に、フックボルト2の締め付け用ナットや座金が、とくに芯ズレした場合に、クランプ金具4”の左右傾斜部4a”、4b”とぶつからないようにするため、下方が大きく張り出すように形成されている。
【0039】
さらに、クランプ金具4”の4つの角部14、14’、14”、14'''は、丸みをつけることが好ましく、また角部14−角部14’間および角部14”−角部14'''間の稜にも、丸みをつけることが好ましい。これは、屋根材5をクランプ金具4”上に載置した後、作業者がその屋根材5上に乗った際に、クランプ金具4”によって、屋根材5に凸状の疵がつくのを防止するためである。また、図示しなかったが、他のクランプ金具4、4’においても、上記理由により、角部や稜に丸みをつけることが好ましい。
【0040】
本発明のクランプ金具を用いたスレート葺屋根の補修構造は、上記のクランプ金具4、4’または4”のいずれかを、既設のスレート屋根材3の丸形凸部3a上に載置し、さらにその上にカバールーフとなる新設の金属製折曲げ屋根材5を載置固定して葺き上げたものである。以下、図5のクランプ金具4を用いて説明する。
【0041】
既設のスレート屋根材3上に固定する金属製折曲げ屋根材5は、丸波形スレート屋根材3の各凸部3aに対応する位置にそれぞれ、角形に折曲げ成形された角波状の台形山部を有するものである。そして、これらの台形山部のうちのスレート屋根材固定用フックボルト設置部分は、2山ピッチあるいは3山ピッチで、前記クランプ金具4を収容する空間を確保するために、嵩高にした高台形山部5aとなっている。なお、この屋根材5は、金属製薄板、好ましくは溶融亜鉛メッキ鋼板、塗装溶融亜鉛メッキ鋼板、塗装溶融合金メッキ鋼板等の折曲げ成形品が好適に用いられ、前記台形山部の上面は、クランプ金具4の頂面形状に合わせて、平坦面、湾曲面、山形等に成形されることが好ましい。
【0042】
即ち、かかる高台形山部5a、即ちクランプ金具4設置部分は、図2(a)、(b)に示すように、連続する山波形成形部分の3つ目ごと、あるいは2つ目ごとの間隔で設けられることが好ましく、スレート屋根材3と該金属製折曲げ屋根材5との間に、クランプ金具4を収容することができる空間が設けられる。
【0043】
そして、角形の波状に成形された金属製折曲げ屋根材5は、それぞれの台形山部が、少なくとも屋根葺き施工後において、スレート屋根材3の丸形状山部に略接するように重なるものである。従って、施工作業に当たっては、作業者が該金属製折曲げ屋根材5上に乗っても、座屈して凹んだり変形したりするようなことがない。しかも、この金属製折曲げ屋根材5を既設のスレート屋根材3上に、同じ山間隔(同じ働き幅)でそのまま施工して取付けることができるので、新たに母屋材などを施工して補強工事を行う必要もなく、屋根葺き作業も簡素化される。
【0044】
なお、前記スレート屋根材3と金属製折曲げ屋根材5との間には、安全ネットを介挿させてもよい。この安全ネットの役割は、老朽化したスレートが、作業者の体重で踏み割れした場合に、落下災害を防止することにある。
ただし、この安全ネットは、小豆程度の大きさの結び目部分を有し、その結び目部分を金属製折曲げ屋根材5上から踏むと、屋根材5表面に凸部が現われてしまうという問題点がある。そのため、結び目部分に当たる範囲の屋根材5表面には、小さな山形状のさざなみを、縦方向や横方向に連続的に設けることが好ましく、これにより屋根板5の剛性が向上し、結び目による凸部が現われなくなる。
【0045】
次に、既設スレート屋根材3上に、新たに金属製折曲げ屋根材5を覆うように葺き上げて、老朽化したスレート葺屋根をそのままにして補修する方法について説明する。
老朽化した丸波状スレート屋根材3を母屋1に固定するために、まず、このスレート屋根材3に取付けられているフックボルト2に、上述したクランプ金具4を取付けて固定する。
【0046】
クランプ金具4をスレート屋根材3に取付ける方法としては、既設のスレート屋根材3を固定しているフックボルト2の先端からクランプ金具4を、この金具4の長手方向略中央部の凹部6に設けられたボルト挿通孔6aを介して挿入した後、さらにその上からナット等の固定部材7を、該凹部6内に納まるように嵌めいれると同時に締め付けて固定する。
【0047】
なお、クランプ金具4を固定部材7によってフックボルト2に締め付け固定した後、フックボルト2先端のクランプ金具4上面部4cより突出した部分は、上面部4c高さ以下まで切断することが好ましい。これにより、フックボルト2と固定部材9とが、固定金具4の凹部6内に収まるようになるため、後述するように金属製折曲げ屋根板5をクランプ金具4上に取り付ける際に、フックボルト2と固定部材9とが、屋根材5にぶつかることがなく、屋根材5をクランプ金具4の上面4c高さ位置まで下げて配置することができるようになる。これにより、屋根材5の山部を低くすることができると共に、一般に普及している屋根材(914mm幅)を使用することができる。
【0048】
次に、クランプ金具4の上面部4c上に、新規の金属製折曲げ屋根板5の高台形山部5aを載置し、図3および図4に示すように、その上から固定ねじ13をスクリュードライバーなどでねじ込んで一体に固定する。なお、固定ねじ13は、クランプ金具4の上面部4c上の凹部6を挟む両側位置に形成することが、葺き上がり状態を安定させる上で好ましく、しかもこれにより、金属製折曲げ屋根材5とクランプ金具4とは、一挙にねじ止めされることになる。
【0049】
このような葺屋根施工によって、老朽化したスレート葺屋根は、カバールーフである新しい金属製折曲げ屋根材5によってその全面が覆われ、スレート屋根材等の既設屋根設備等を全く解体することなく補修することができるようになる。
【0050】
なお、この補修工法で用いる前記金属製折曲げ屋根材5は、下層の老朽化したスレート屋根材3の丸波と同じ間隔で角形に折曲げ成形した屋根材であり、図2(a)、(b)に示すように、スレート屋根材の各山部に対応する部分のうちのフックボルト2取付け部分に、上述したように、前記クランプ金具4を収容するための大きな空間が確保できるように嵩高さとした高台形山部5aを一定の周期(2山ピッチ、3山ピッチ)で形成したものである。
【0051】
また、金属製折曲げ屋根材5は、スレート屋根材3上の所定の間隔毎に固定したクランプ金具4の上に、それの高台形山部5aの部分が位置するように載置し、かつこの高台形山部5aの位置において、隣り合う金属製折曲げ屋根材5どうしを幅方向に繋げていくことにより、スレート葺屋根全体の新しいカバールーフを完成させるようにすることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明に係るスレート葺屋根補修用クランプ金具は、単に老朽化したスレート葺屋根の補修のみならず、もちろん新しいスレート葺屋根のカバールーフ施工に利用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 母屋
2 フックボルト
3 スレート屋根材
3a スレート屋根材の丸形凸部
4、4’、4” クランプ金具
4a、4a'、4a” 左傾斜部
4b、4b’、4b” 右傾斜部
4c、4c’、4c” 上面部
4d、4d’、4d”、4e、4e’、4e” 鍔片
5 金属製折曲げ屋根材
5a 金属製折曲げ屋根材の高台形山部
6、6’、6” 凹部
6a、6a’、6a” ボルト挿入孔
7 アンカーナット
8、8’、9、9’、11、11a、12、12a 座片
8a、8a’、9a、9a’ 折曲位置
10a、10b、10a’、10b’ 膨み
13 固定ねじ
14、14’、14”、14''' 角部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設のスレート葺屋根の丸型凸部上に配置する、金属製折曲げ屋根材を被覆配設するためのクランプ金具であって、
この金具の本体は、断面溝形に折曲形成された樋状を呈し、この樋状金具本体の長手方向の略中央部には、締付具の高さ以上の深さに曲成されてなる締付具収納用凹部を有すると共に、この凹部の底壁には、幅方向に長い長円状ボルト挿通孔を有することを特徴とするスレート葺屋根補修用クランプ金具。
【請求項2】
前記樋状金具本体は、上面部の両側縁部に対して左右傾斜部を連設してなり、その左右傾斜部の両側端縁部には、外向きに張り出した鍔片を連設したものであることを特徴とする請求項1に記載のスレート葺屋根補修用クランプ金具。
【請求項3】
前記左右傾斜部は、その長手方向の複数箇所に、それぞれ内向きに折り込まれた複数の座片を有することを特徴とする請求項1または2に記載のスレート葺屋根補修用クランプ金具。
【請求項4】
前記左右傾斜部は、その両下端部の前記長円状ボルト挿通孔に隣接する部分に、外向きに張り出した膨みを有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のスレート葺屋根補修用クランプ金具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−158977(P2012−158977A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−94573(P2012−94573)
【出願日】平成24年4月18日(2012.4.18)
【分割の表示】特願2007−262825(P2007−262825)の分割
【原出願日】平成19年10月9日(2007.10.9)
【出願人】(000200323)JFE鋼板株式会社 (77)
【Fターム(参考)】