説明

スロットダイ装置

【課題】スロットから吐出される溶融樹脂の幅方向の膜厚不均一を改善できるスロットダイ装置を提供することを目的とする。
【解決手段】スロットダイ本体2に接しているヒーター15を幅方向にスライド可能に構成し、温度分布調整を可能にする。また、樹脂フィルムR2の搬送経路途中に膜厚測定装置17を設置して膜厚データの測定を行い、測定データから樹脂フィルムR2の膜厚が均等になるような温度条件を推算して温調設定装置16に出力し、ヒーター15の温度制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルムを成形するスロットダイ装置に関し、樹脂フィルムの膜厚不均等を抑制するスロットダイ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スロットダイを用いて樹脂フィルムを生成する際に、成形された樹脂フィルムに膜厚分布が生じ、品質不良や外観不良などの問題が起きている。
【0003】
膜厚分布の解消の方法としては、ダイ形状の改造、ディッケル形状の改造、ディッケル配置の適正化などいくつもの方法があり、併用されている。その中で有効な方法としてダイの温度分布設定がある。例えば、特許文献1ではTダイの温度分布を観測して、ヒーター温度を調整する事で、一定の膜厚を実現しようとしている。
【0004】
また、特許文献2には、インナーディッケル部に熱電対とヒーターを設けて、端部温度の調整を行い、端部膜厚を一定にしようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実公平6−030425号公報
【特許文献2】特開2004−345163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1および特許文献2によるスロットダイ装置では、全域の膜厚分布を一定に調整するには不十分である。
【0007】
特許文献1では、マニホールド近辺での幅方向の温度分布を一定にしているが、温度一定条件では、流れやすいダイの中央部分からの吐出が多くなり、膜厚が均一にならない。ダイ形状も調整したとしても使う樹脂が変われば、適切な条件は変わるため、ダイ形状の調整を頻繁に行わなくては効果が得られない。
【0008】
特許文献2では端部の膜厚はある程度制御できるが、幅全域の膜厚分布を制御できる機能ではない。
【0009】
本発明は、上述する事情に鑑みてなされたもので、温度分布調整により、成形された樹脂フィルムの膜厚分布を調製可能なスロットダイ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成する為に、本発明の請求項1に係る発明は、スロットダイ本体の側部に設けられるヒーターを備え、溶融樹脂が前記スロットダイ本体の内部に形成されたマニホールドに供給され、前記マニホールドの下流部に設けられたスロットを通過し、フィルム状に成形されて吐出されるスロットダイ装置において、前記ヒーターは、前記スロットダイ本体の側部において幅方向にスライド可能に設けられることを特徴とするスロットダイ装置である。
【0011】
また、請求項2に係る発明は、スロットダイ本体から吐出されるフィルム樹脂の厚さを測定する膜厚測定装置と、前記膜厚測定装置により測定された膜厚データに基づいて前記樹脂フィルムの膜厚が均等になるように前記ヒーターの温度を制御する温調設定装置とを具備したことを特徴とする請求項1に記載のスロットダイ装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、ヒーターを幅方向にスライド可能に設けたことにより、従来のブロックごとにしか温度分布を付けられない状況から、ほぼ変わらない装置形状で温度分布設定に融通が利かせられるようになる。
【0013】
また、吐出後の膜厚データを基にフィードバックするため、最終結果に温度影響を直接照らし合わせて比較でき、膜厚分布を容易に改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(a)は本発明の実施形態に係るスロットダイ装置の一例を示す図で(b)のA−A線断面図、(b)は(a)のB−B線断面図である。
【図2】(a)は本発明の実施形態に係るスロットダイ装置におけるヒーター位置調整の概念図で(b)のA−A線断面図、(b)は(a)のB−B線断面図である。
【図3】本発明に係るスロットダイ装置において、膜厚データをフィードバックするシステム概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態によるスロットダイ装置について、図に基づいて説明する。
【0016】
図1(a)、(b)に示すように、本実施の形態によるスロットダイ装置1は、スロットダイ本体2と、このスロットダイ本体2の内部に形成されて溶融樹脂R1が供給されるマニホールド3と、スロットダイ本体2の内部にマニホールド3と連通して形成され、マニホールド3内の溶融樹脂R1が通過しフィルム状に成形されるスロット4と、スロット4を通過したフィルム上の溶融樹脂R1を排出する排出口5と、マニホールド3およびスロット4の幅方向の長さを規定するインナーディッケル機構6とを備えている。
【0017】
上記スロットダイ本体2には、外側にヒーター囲いが設置され、このヒーター囲いの中にヒーターが設置される。このヒーター部分については詳細を後述する。
【0018】
また、スロットダイ本体2は、図1(a)に示すように上部に溶融樹脂R1の供給口2aを備えており、供給口2aは溶融樹脂R1を供給する図示しないアダプターと接続されている。スロットダイ本体2は、成形される樹脂フィルムR2の幅方向に細長い外形に形成されている。マニホールド3は、スロットダイ本体2の幅方向にわたって筒状に形成されていて、幅方向の中間部の上部にスロットダイ本体2の供給口2aが接続されており、供給口2aから溶融樹脂R1が供給される。
【0019】
図1(a)、(b)に示すように、スロット4は、マニホールド3の下側にスロットダイ本体2の幅方向にわたって形成されている。排出口5はスロットダイ本体2の下端部に形成されていて、スロット4の下端部に位置している。
【0020】
インナーディッケル機構6は、マニホールド3およびスロット4の幅方向の両端部に設けられた一対の第一、第二のインナーディッケル11、12と絞り部材13とから構成される。第一、第二のインナーディッケル11、12、絞り部材13は、この順に上から下へ配列されている。
【0021】
第一、第二のインナーディッケル11、12および絞り部材13は、マニホールド3およびスロット4内において幅方向の移動が可能で、その表面11a、12a、13aでマニホールド3とスロット4の幅方向の寸法を規定している。スロットダイ本体2に供給された溶融樹脂R1は、この表面11a、12a、13aにガイドされて下方へ通過する。
【0022】
第一のインナーディッケル11は、マニホールド3とスロット4の上部側に位置し、マニホールド3とスロット4の上部側の幅方向の寸法を規定している。第一のインナーディッケル11の表面11aは、上側から下側に向かってマニホールド3およびスロット4の幅方向の寸法を広げるように傾斜または湾曲している。
【0023】
また、第二のインナーディッケル12は、スロット4の下流側に位置し、スロット4の下流側の幅方向の寸法を規定している。第二のインナーディッケル12の表面12aは、上側から下側に向かってスロット4の幅方向の寸法を広げるように傾斜または湾曲している。
【0024】
また、絞り部材13は、スロット4の下端部に位置し、スロット4の下端部の幅方向の寸法を規定することで、排出口5の幅方向の寸法を規定している。
【0025】
図1では第一、第二のインナーディッケル11、12を設けているが、一つのインナーディッケルであっても本構成上では問題ない。
【0026】
また、第一、第二のインナーディッケル11、12が溶融樹脂R1に接触する表面11a、12aは、水平方向の断面において円弧状に凹に湾曲する形状であっても、本構成上は問題ない。
【0027】
次に、上述した構成のスロットダイ装置1による樹脂フィルムの成形方法について説明する。
【0028】
まず、スロットダイ本体2に供給口2aから溶融樹脂R1を供給する。溶融樹脂R1はマニホールド3に流入しマニホールド3の幅方向に広がり、下方のスロット4へ流入する。そして、溶融樹脂R1はスロット4を通過することによって、所定の厚さのフィルム状に成形される。
【0029】
そして、スロット4内でフィルム状に成形された溶融樹脂R1は、排出口5から排出されて空気中を通る間に冷却され、徐々に固化されて樹脂フィルムR2の状態になり、スロットダイ装置1の下方(下流側)に設けられた図示しないローラーによって圧延される。ローラーは樹脂フィルムR2が排出されるスピードよりも速いスピードで回転されている。
【0030】
排出口5から排出された時点では、樹脂フィルムR2は完全に固化しておらず、ローラー部などにより冷却されて固化する。
【0031】
このとき、排出口5から排出された樹脂フィルムR2は、完全に固化していないため端部R2aが幅方向に縮み、樹脂フィルムR2の端部R2aが厚くなる。後にこの厚くなった端部R2aは切除されて厚さの均一な樹脂フィルムR2が提供される。
【0032】
次に、スロットダイ本体2のマニホールド3に供給される溶融樹脂を加熱するヒーターについて図2を参照して説明する。図2はヒーター位置調整の概念図を示したもので、(a)は(b)のA−A線断面図、(b)は(a)のB−B線断面図である。また、図2(a)は図1(a)の外観図を示している。
【0033】
図2(a)に示すようにスロットダイ本体2の外側にヒーター囲い14が設置され、図2(b)に示すようにヒーター囲い14の中にヒーター15が設置される。この場合、ヒーター囲い14は、スロットダイ本体2より左右どちらにも1ブロック余分に設置されている。ヒーター15はスロットダイ本体2のブロックより1つ多く設置されている。
【0034】
ヒーター15をヒーター囲い14の左右に動かし、スロットダイ本体2に設置しているヒーター部の位置を変えることで温度分布の調整を行うことが出来る。すなわち、スロットダイ本体2に接しているヒーター15をスロットダイ本体2に対して幅方向にスライドすることが可能となっている。
【0035】
上記のようにヒーター囲い14は、スロットダイ本体2より左右どちらにも1ブロック余分に設置されているので、0−1ブロックの範囲でヒーター位置を調整でき、温度分布を調整できる条件を広げることができる。
【0036】
次に、上記スロットダイ装置1において、スロットダイ本体2により成形される樹脂フィルムR2の膜厚を測定し、その膜厚データをフィードバックして樹脂フィルムR2の膜厚が均等になるように制御するシステムについて説明する。
【0037】
図3は樹脂フィルムR2の膜厚データをフィードバックしてヒーター15の温度を制御するシステムの概要図である。スロットダイ本体2から吐出された樹脂フィルムR2が図3のように搬送される。搬送経路途中に膜厚測定装置17を設置し、膜厚データの測定を随時行う。
【0038】
膜厚測定装置17は、測定した膜厚データから樹脂フィルムR2の膜厚が均等になるような温度条件を推算し、ヒーター15の温調設定装置16に温度条件を出力する。
【0039】
その際にヒーター温度が変化した影響が樹脂に伝わるまでのタイムラグを考慮する必要がある。樹脂種類によって熱伝導率が変わるため、各樹脂ごとにタイムラグ時間を用意しておく必要がある。温調設定装置16は、膜厚測定装置17から送られてくる温度条件に応じて動作し、スロットダイ本体2から吐出される樹脂フィルムR2の膜厚が均等になるようにヒーター15の温度を制御する。
【0040】
本発明を取り入れる結果、温度分布を容易に調整できるようになり、また、膜厚データから温度条件を調整する事で均一な膜厚の樹脂フィルムR2の作成が可能になる。
【符号の説明】
【0041】
1…スロットダイ装置、2…スロットダイ本体、2a…溶融樹脂の供給口、3…マニホールド、4…スロット、5…排出口、6…インナーディッケル機構、11…第一のインナーディッケル、11a…第一のインナーディッケルの表面、12…第二のインナーディッケル、12a…第二のインナーディッケルの表面、13…絞り部材、13a…絞り部材の表面、14…ヒーター囲い、15…ヒーター、16…温調設定装置、17…膜厚測定装置、R1…溶融樹脂、R2…樹脂フィルム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スロットダイ本体の側部に設けられるヒーターを備え、溶融樹脂が前記スロットダイ本体の内部に形成されたマニホールドに供給され、前記マニホールドの下流部に設けられたスロットを通過し、フィルム状に成形されて吐出されるスロットダイ装置において、
前記ヒーターは、前記スロットダイ本体の側部において幅方向にスライド可能に設けられることを特徴とするスロットダイ装置。
【請求項2】
前記スロットダイ本体から吐出されるフィルム樹脂の厚さを測定する膜厚測定装置と、前記膜厚測定装置により測定された膜厚データに基づいて前記樹脂フィルムの膜厚が均等になるように前記ヒーターの温度を制御する温調設定装置とを具備したことを特徴とする請求項1に記載のスロットダイ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−71326(P2013−71326A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212419(P2011−212419)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】