説明

スーパーソルバス熱処理ニッケル基超合金の最終結晶粒径を制御し改善する方法

【課題】 γ′析出強化ニッケル基超合金を鍛造成形して物品の低サイクル疲労耐性及び高温滞留挙動を向上させる。
【解決手段】 超合金組成は、重量基準で、16.0〜22.4%のCo、6.6〜14.3%のCr、2.6〜4.8%のAl、2.4〜4.6%のTi、1.4〜3.5%のTa、0.9〜3.0%のNb、1.9〜4.0%のW、1.9〜3.9%のMo、0.0〜2.5%のRe、0.05%超のC、0.1%以上のHf、0.02〜0.10%のB、0.03〜0.10%のZr、残部のニッケルと不可避不純物である。超合金からビレットを形成し、超合金のγ′ソルバス温度よりも低温で加工して加工物品を形成し、次いで超合金のγ′ソルバス温度よりも高温で熱処理して結晶粒を均一に粗大化した後、冷却してγ′を再析出させる。本物品(10)はASTM7よりも粗くない平均結晶粒径を有し、臨界結晶粒成長を実質的に含まない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、ニッケル基超合金及びかかる超合金を加工処理する方法に関する。具体的には、本発明は、ニッケル基超合金及びこのニッケル基超合金から物品を鍛造して、スーパーソルバス熱処理中、より良好に制御された結晶粒成長を促進し、そのため前記物品が、より微細で均一な結晶粒径のミクロ組織により特徴付けられ、かつ改良された低サイクル疲労挙動を示すようになる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンエンジンのタービンセクションは、燃焼器セクションの下流に位置し、ローターシャフトと1以上のタービン段を含有しており、各タービン段は、シャフトに装着又は保持されたタービンディスク(ローター)と、ディスクの外周に装着されディスクから半径方向に延在するタービン動翼とを有する。高温燃焼ガスに起因する高温にあるときでも妥当な機械特性を達成するために、燃焼器セクション及びタービンセクション内の部品は超合金材料から形成されることが多い。最新の高圧力比では、圧縮機の出口温度が高温化しているので、圧縮機ディスク、ブリスクその他の部品にも、高性能ニッケル超合金の使用が必要となることがある。所与の部品に対する適当な合金組成及びミクロ組織は、その部品が受ける特定の温度、応力その他の条件に依存する。例えば、動翼、静翼などの翼形部品は、等軸晶、方向性凝固(DS)又は単結晶(SX)超合金から形成されることが多く、一方、タービンディスクを形成する超合金は、精密に制御された鍛造加工、熱処理及び表面処理(ピーニング処理など)を施して制御された結晶粒組織と望ましい機械的特性を有する多結晶ミクロ組織を生成しなければならない。
【0003】
タービンディスクはガンマプライム(γ′)析出強化ニッケル基超合金(以下、γ′ニッケル基超合金という)から形成されることが多いが、この超合金は、クロム、タングステン、モリブデン、レニウム及び/又はコバルトを主要元素として含有し、これらがニッケルと結合してガンマ(γ)マトリックスを形成し、さらにアルミニウム、チタン、タンタル、ニオブ及び/又はバナジウムを、ニッケルと結合して所望のγ′析出強化相、主にNi(Al,Ti)を形成する主要元素として含有する。著名なγ′ニッケル基超合金には、Rene 88DT(R88DT、Kruegerらの米国特許第4957567号)及びRene 104(R104、Mourerらの米国特許第6521175号)があり、またInconel(登録商標)、Nimonic(登録商標)及びUdimet(登録商標)という商標で市販されている幾つかのニッケル基超合金がある。R88DTの組成は、重量基準で、約15.0〜17.0%のクロム、約12.0〜14.0%のコバルト、約3.5〜4.5%のモリブデン、約3.5〜4.5%のタングステン、約1.5〜2.5%のアルミニウム、約3.2〜4.2%のチタン、約0.5.0〜1.0%のニオブ、約0.010〜0.060%の炭素、約0.010〜0.060%のジルコニウム、約0.010〜0.040%のホウ素、約0.0〜0.3%のハフニウム、約0.0〜0.01のバナジウム及び約0.0〜0.01のイットリウム、残部のニッケル及び不可避不純物である。R104の公称組成は、重量基準で、約16.0〜22.4%のコバルト、約6.6〜14.3%のクロム、約2.6〜4.8%のアルミニウム、約2.4〜4.6%のチタン、約1.4〜3.5%のタンタル、約0.9〜3.0%のニオブ、約1.9〜4.0%のタングステン、約1.9〜3.9%のモリブデン、約0.0〜2.5%のレニウム、約0.02〜0.10%の炭素、約0.02〜0.10%のホウ素、約0.03〜0.10%のジルコニウム、残部のニッケル及び不可避不純物である。別の注目されるγ′ニッケル基超合金が、欧州特許出願公開第1195446号に開示されており、その組成は、重量基準で、約14〜23%のコバルト、約11〜15%のクロム、約0.5〜4%のタンタル、約0.5〜3%のタングステン、約2.7〜5%のモリブデン、約0.25〜3%のニオブ、約3〜6%のチタン、約2〜5%のアルミニウム、約2.5%以下のレニウム、約2%以下のバナジウム、約2%以下の鉄、約2%以下のハフニウム、約0.1%以下のマグネシウム、約0.015〜0.1%の炭素、約0.015〜0.045%のホウ素、約0.015〜0.15%のジルコニウム、残部のニッケル及び不可避不純物である。
【0004】
ガスタービンエンジンのディスクその他の重要な部品は、粉末冶金(PM)、普通の鋳造及び鍛錬加工、及びスプレイキャスト又は核生成鋳造成形技術で製造したビレットから鍛造されることが多い。粉末冶金法で形成されたγ′ニッケル基超合金は特に、ガスタービンエンジンのタービンディスクや他の部品の性能要求を満足する良好なバランスのクリープ特性、引張特性及び疲労亀裂伝播特性を与えることができる。代表的な粉末冶金プロセスでは、所望の超合金の粉末を、例えば高温静水圧圧縮(HIP)及び/又は押出圧密化による圧密化(consolidation)に付す。得られたビレットを次に、超塑性加工条件に近い合金のγ′ソルバス温度より僅かに低い温度で等温鍛造し、これにより有意な金属学的歪みを蓄積せずに、高い幾何学的歪みの蓄積によってダイキャビティを充填することができる。これらの加工工程はビレット内の微細結晶粒径を元のままに保持し(例えばASTM10〜13又はそれよりも微細)、高い可塑性を実現してニアネットシェイプ(できるだけ完成品に近い形状)鍛造ダイを充填し、鍛造中の破壊を回避し、比較的低い鍛造及びダイ応力を維持するように設計される(本明細書を通してASTM結晶粒径は、ASTM Standard E112に規定されたスケールに準拠する。)。高温での耐疲労亀裂伝播性及び機械的特性を向上するために、これらの合金は次に、γ′ソルバス温度を超える温度で熱処理し(一般にスーパーソルバス熱処理という)、結晶粒の有意な均一な粗大化を図る。
【0005】
鍛造したガスタービンエンジン部品は約ASTM9及びそれよりも粗大な(例えばASTM2〜9)結晶粒を含有することが多いが、これよりずっと厳密な範囲、例えば2〜3ASTM単位の限られた範囲内の結晶粒径が通例好ましい。かかる限られた範囲は均一であると考えることができ、均一とは本明細書で使用する場合不均一な臨界結晶粒成長が実質的に存在しないことで特徴付けられる結晶粒径及び成長をいう。本明細書で使用する場合、臨界結晶粒成長(CGG)とは、合金内で典型的な均一な結晶粒径分布を外れた結晶粒を形成する局在化された過大な結晶粒成長をいい、その大きさは合金内の平均結晶粒径を十分に超える結果(例えば、ASTM6〜10の範囲におけるASTM00のような粗い領域)、その合金から形成される物品の低サイクル疲労(LCF)特性に対して負に作用し、これはCGG領域における早期の優先的な亀裂核生成として現れる。臨界結晶粒成長はまた、引張強さのような他の機械的性質にも負の影響を及ぼす可能性がある。臨界結晶粒成長は、広範囲の局所的な歪み及び歪み速度が材料中に導入される高温鍛造作業の後のスーパーソルバス熱処理中に起こる。いかなる特定の理論にも拘束されるつもりはないが、臨界結晶粒成長は、加工された物品内に蓄積された過大なエネルギーによって引き起こされると考えられ、小さい領域内の又は隣接する結晶粒の大きい領域内の個々の結晶粒、複数の個々の結晶粒を含み得る。得られた結晶粒の粒径は所望の結晶粒径より実質的に粗いことが多い。粉末冶金法及び押出圧密化により製造したビレットから鍛造されたディスクその他の重要なガスタービンエンジン部品は、従来の鋳造及び鍛錬加工処理又はスプレイキャスト成形法により製造したビレットから鍛造された場合と比べて、臨界結晶粒成長の傾向が弱いように見えるが、いずれにしてもスーパーソルバス熱処理中に臨界結晶粒成長を起こし易い。
【0006】
上述のKruegerらの米国特許第4957567号には、高温の鍛造作業中に経験する局在化した歪み速度を制御することによって、R88DTから形成された微細な結晶粒の部品内の臨界(異常)結晶粒成長を排除する方法が教示されている。歪み速度は、幾何学的歪みの経時的変化の瞬間速度と定義される。Kruegerらは、その後のスーパーソルバス熱処理中の有害な臨界結晶粒成長を回避するためには、局所的な歪み速度を一般に臨界値ε未満に保たなければならないと教示している。Kruegerらによると、最大歪み速度は、組成、ミクロ組織及び温度に依存し、所与の超合金に対して様々な歪み速度条件下で試験試料を変形させた後適切なスーパーソルバス熱処理を行うことによって決定することができる。ここで、最大(臨界)歪み速度は、超合金の変形及び加工作業中に越え十分な量の総歪みが生じた場合にはスーパーソルバス熱処理後に臨界結晶粒成長が生じる歪み速度と定義される。
【0007】
Kruegerらにより特定された、例えば30〜46体積%以上のγ′含有率を有するニッケル基超合金において臨界結晶粒成長を回避するためのもう1つ別の加工処理制限は、鍛造中のビレットの超塑性変形を確実にすることである。このために、ビレットは、鍛造温度及び歪み速度範囲内でその超合金に対して約0.3以上の最小歪み速度感受性(m)を実現する微細な結晶粒ミクロ組織を有するように加工処理される。当技術分野で公知のように、微細な結晶粒ビレットが超塑性的に変形する能力は歪み速度感受性に依存し、超塑性材料は次式で表される低い流動応力を示す。
【0008】
σ=Kεm
式中、σは流動応力であり、Kは定数であり、εは歪み速度であり、mは歪み速度感受性であり、mの値が高いほどより大きい超塑性に対応する。
【0009】
最終結晶粒径の制御におけるさらなる改良が本出願人に譲渡されているYoonらの米国特許第5529643号及びRaymondらの米国特許第5584947号の教示により達成された。Raymondらは、鍛造中の超塑性の要件(言い換えると、高いm値を維持すること)に加えて、65体積%以下のγ′含有率を有する合金において結晶粒界ピンニングを達成するための、合金の化学的制御、特に炭素及び/又はイットリウムの含有量と組み合わせて最大歪み速度の重要性を教示している。特定の例において、Raymondらは、R88DT(Raymondらでは合金Dとされている)に対して約0.032/秒(s−1)未満の上限歪み速度を挙げている。またYoonらも、高いm値を維持することに加えて、特にR88DT(Yoonらでは合金Aとされている)の鍛造を参照して約0.032s−1以下の最大歪み速度を特定している。Yoonらはさらに、鍛造中の最大歪み速度の勾配に上限を設け、スーパーソルバス熱処理を実施する前に蓄積した歪みエネルギーを除去するために鍛造品をサブソルバス温度で長く焼き鈍す必要があるとしている。最終的に、Yoonらは、約ASTM12より微細な結晶粒径をもつようにビレットを形成し、鍛造温度範囲内でm=約0.3の最小歪み速度感受性を達成するようにビレットのミクロ組織を維持することによって、最適な超塑性を実現している。
【0010】
微細な結晶粒ニッケル基超合金から鍛造された部品の機械的な性質は、臨界結晶粒成長がないことに加えて、さらに、可能な限り狭い分布と可能な限り微細な平均結晶粒径とを達成するように改良された結晶粒径分布の制御の利益を受ける。かかる可能性は、所望の均一な結晶粒径が一般にガスタービンディスクの場合のASTM6よりも粗くないR88DT及びR104のような高温、高γ′含有量(例えば、約30体積%以上)の超合金で特に有益である。上記のような以前の鍛造慣行でASTM5〜8の範囲の結晶粒径が達成されているが、最適とはいえない機械的な性質が得られる可能性が未だにある。例えば、図1は、平均結晶粒径が粗くなるにつれて均一であっても低サイクル疲労寿命が低下する傾向があることを示すグラフである。平均結晶粒径がスーパーソルバス熱処理されたPM超合金の低サイクル疲労特性に及ぼす影響は、R104の場合約400〜約800°F(約200〜約425℃)の範囲のような低〜中間の温度で最も明らかである。R104その他のPM合金が提供する全体的な温度能力及び性質のバランスは非常に魅力的であり、最新の現行エンジン用途に使用されているが、これらの合金の低〜中間の温度における低サイクル疲労特性と引張挙動を改良することができればこれらの合金のさらに多くの利点を得ることができるであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第6521175号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第1195446号明細書
【特許文献3】米国特許第4957567号明細書
【特許文献4】米国特許第5529643号明細書
【特許文献5】米国特許第5584947号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、γ′析出強化ニッケル基超合金から物品を鍛造してスーパーソルバス熱処理中のより一層制御された結晶粒成長を促進することにより、より微細で均一な結晶粒径を有するミクロ組織により特徴付けられ、改良された低サイクル疲労挙動を示す物品を得るためのγ′析出強化ニッケル基超合金及び方法を提供する。
【0013】
この方法は、重量基準で、約16.0〜22.4%のコバルト、約6.6〜14.3%のクロム、約2.6〜4.8%のアルミニウム、約2.4〜4.6%のチタン、約1.4〜3.5%のタンタル、約0.9〜3.0%のニオブ、約1.9〜4.0%のタングステン、約1.9〜3.9%のモリブデン、約0.0〜2.5%のレニウム、0.05%超(実施形態によっては0.1%超)の炭素、0.1%以上のハフニウム、約0.02〜0.10%のホウ素、約0.03〜0.10%のジルコニウム、残部のニッケル及び不可避不純物の組成を有するように超合金を組成することを含む。この超合金は組成がR104と類似しているが、注目に値する例外は、R104はハフニウムを含有せず、0.02〜0.10重量%の炭素含有率を有することである。この超合金からビレットを形成し、超合金のγ′ソルバス温度よりも低い温度で加工して加工された物品を形成する。特に、平均結晶粒径を制御するために可能な限り高い歪み速度であるが、臨界結晶粒成長を回避するために0.03/秒より大きい上限歪み速度未満に維持しながらビレットを加工する。この加工された物品を次に、超合金のγ′ソルバス温度より高い温度で、加工された物品の結晶粒を均一に粗大化するのに十分な持続時間熱処理した後、加工された物品を、この加工された物品内にγ′を再析出させるのに十分な速度で冷却する。加工され冷却された物品はASTM7よりも粗くない、好ましくはASTM8よりも粗くない平均結晶粒径を有し、平均結晶粒径よりも3ASTM単位超粗大な結晶粒を実質的に含まない。
【0014】
上記のことに鑑みて、超合金は、スーパーソルバス熱処理後に得られる鍛造部品が微細で実質的に均一な結晶粒径分布によって特徴付けられるように、十分に高い炭素含有率を有すると共に十分に高い局所的な歪み速度で鍛造される。また、個々の結晶粒又は部品内の平均結晶粒径と比べて5より大きく、好ましくは3ASTM単位よりも粗い結晶粒径を有する結晶粒の小さい領域又は結晶粒径は均一であるが約2ASTM単位の所望の結晶粒径範囲よりも粗い結晶粒径を有する大きい領域を生成する臨界結晶粒成長を回避するのが好ましい。結果として、鍛造された部品は改良された機械的な性質、特に低サイクル疲労挙動を示すことができる。いかなる特定の理論にも拘束されることは望まないが、R104と類似の化学を有するように超合金を組成するが、比較的高い炭素レベル、殊にR104の上限(0.10重量%)を上回る炭素レベルを含有するように組成することによって、高い歪み速度を使用することが可能になり、その結果、より微細な平均結晶粒径を示すことができ、かつ臨界結晶粒成長を実質的にもたない(これらは共に部品の低サイクル疲労寿命を改良する)鍛造部品が得られると考えられる。低サイクル疲労寿命は、特に約400〜約800°F(約200〜約425℃)の温度範囲内で、0.10重量%以下の従来の炭素含有率を有するR104と比較して改良することができる。本発明で達成されるより微細な平均結晶粒径のその他の利益として、よりも低い音響ノイズに起因する改良された音響検査能及びより微細な結晶粒径により改良された耐力に起因する運転中の改良された降伏挙動がある。
【0015】
本発明の他の局面及び利点は以下の詳細な説明から一層良好に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】各種のニッケル基超合金に対する低サイクル疲労対平均結晶粒径のデータを示す図式グラフである。
【図2】ガスタービンエンジンに使用されるタイプのタービンディスクの透視図である。
【図3】低サイクル疲労挙動及び保持時間疲労亀裂伝播速度挙動に対する炭素及びハフニウム含有率の影響を評価するために最初に特定された一連のニッケル基超合金組成物を記載した表である。
【図4】本発明の実施形態によるものを含めて、様々な条件下で得られ熱機械的に加工処理された一連のニッケル基超合金組成物を記載した表である。
【図5】図4の組成物及び様々な鍛造条件を使用して得られた平均結晶粒径を記載した表である。
【図6】図4の2つの試験片の4つの走査を示す。
【図7】R104及び図4の試験片に関して、炭素含有率、鍛造温度及び鍛造速度に対して平均結晶粒径をプロットしたグラフである。
【図8】炭化物強化結晶粒径制御の使用により変化させたASTM結晶粒径に対して図5の3つの試験片の引張強さ挙動をプロットしたグラフである。
【図9】炭化物強化結晶粒径制御の使用により変化させたASTM結晶粒径に対して図5の3つの試験片の引張強さ挙動をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、γ′ニッケル基超合金、特に多結晶ミクロ組織を有するように高温加工(例えば、鍛造)作業により製造される部品に適切なものに関する。図2に示す特定の例はガスタービンエンジンの高圧タービンディスク10である。ガスタービンエンジンの高圧タービンディスクの加工処理に関連して本発明を説明するが、当業者には分かるように、本発明の教示及び利益は、ガスタービンエンジンの圧縮機ディスク及びブリスク、並びに高温で応力がかかり低サイクル疲労及び高温滞留耐性を必要とする数多くの他の部品にも応用可能である。
【0018】
図2に示したタイプのディスクは通例、粉末冶金法(PM)、鋳造及び鍛錬加工処理又はスプレイキャスト若しくは核生成鋳造型技術により形成された微細な結晶粒のビレットを等温的に鍛造することによって製造される。かかるプロセスは、鍛造中の低い流動応力を実現するために、微細な結晶粒径、通例約ASTM10又はより微細な粒径を有するビレットが生成するように行われる。粉末冶金プロセスを利用する好ましい実施形態において、ビレットは、超合金粉末を、例えば高温静水圧圧縮(HIP)又は押出圧密化により圧密化することによって形成することができる。ビレットは通例、合金の再結晶温度又はその付近であるがその合金のγ′ソルバス温度未満の温度で、大きな冶金学的歪みの蓄積を伴うことなく高い幾何学的歪みの蓄積により鍛造ダイキャビティーを充填することができるような条件下で鍛造される。この目的で超塑性成形条件(鍛造温度で0.3以上の歪み速度感受性(m)に対応する)を使用することが多いが、本発明の1つの局面は、ビレットが、十分に超塑性である鍛造プロセスではなく、すなわち、約0.3未満の歪み速度感受性値で、例えば、加工(例えば、鍛造)温度において約0.2の歪み速度感受性値で非超塑性的に加工することができることである。鍛造後、スーパーソルバス(溶体化)熱処理を実施し、その間に結晶粒成長が起こる。スーパーソルバス熱処理は、超合金のγ′ソルバス温度を上回る(しかし初期溶融温度よりも低い)温度で行って、加工された結晶粒組織を再結晶すると共に超合金中のγ′析出物を溶解(溶体化)する。スーパーソルバス熱処理に続いて、部品を適当な速度で冷却してガンママトリックス内又は結晶粒界でγ′を再析出させ、所望の特定の機械的性質を達成する。この部品は、望ましい場合には残留応力を減らすために、短い応力除去サイクルでその合金の時効温度を超える温度においてで公知の技術を用いて時効処理してもよい。
【0019】
ニッケル基超合金R104の場合、上記のようなスーパーソルバス熱処理では通例許容可能であるが全体としては最適とはいえない約ASTM5〜7の平均結晶粒径範囲が得られ、その結果得られたタービンディスクの低サイクル疲労挙動は特に約400〜約800°F(約200〜約425℃)の温度で最適には至らない。本発明は、R104の化学に対して改変を提供し、スーパーソルバス熱処理中の結晶粒成長を制御し制限して、スーパーソルバス熱処理後のより微細な結晶粒径を達成し維持し、また臨界結晶粒成長を回避する。本発明の1つの局面によると、R104合金を改変して比較的高い炭素含有率、例えば0.05重量%超の炭素、場合によっては0.1重量%超の炭素とすることによって、より微細でより制御可能な平均結晶粒径を達成することができる。本発明の第2の局面によると、R104合金を改変して0.1重量%以上のハフニウムを含有させることによって、改良された高温滞留挙動を達成することができる。本発明のさらなる局面によると、鍛造中に比較的高い歪み速度及び比較的低い温度を利用することによって、結晶粒のさらなる微細化(refinement)をさらに促進することができる。Kruegerらの米国特許第4957567号、Yoonらの同第5529643号及びRaymondらの同第5584947号の教示は、特に鍛造中の高い歪み速度を使用すること及び歪み速度に上限(臨界歪み速度)を設けてスーパーソルバス熱処理中の臨界結晶粒成長を回避することに関して、援用によって本明細書の内容の一部をなす。
【0020】
本発明に至ることになった研究において、一連の目標合金組成物を図3の表に示すように(重量%で)定めた。参考のため表に記載した最初の2つの組成物はR104として開示された範囲内に入る。目標組成物は、R104の最大炭素含有率0.1重量%以上の炭素含有率を有し、かつハフニウムを添加した合金を評価する意図を反映している。これらの目標組成物を基にして、9つの合金を調達し、その実際の化学組成を図4の表に示す。合金の加工処理では合金組成物の粉末を圧密化して各合金の複数のビレットを製造し、次にこれを熱間加工(鍛造)した後にスーパーソルバス熱処理した。2組の鍛造条件を用いた。図5で「熱間/遅い」として示した第1のものは、約2060°F(約1130℃)の鍛造温度で約0.003/secの最大歪み速度を含む鍛造条件であった。図5に「従来」と示した第2のものは、約1925°F(約1050℃)の鍛造温度で約0.03/secの従来の最大歪み速度を含む鍛造条件であった。スーパーソルバス熱処理は約2140°F(約1170℃)の温度で実施したが、これはR104のγ′ソルバス温度を越える(しかし、初期溶融温度よりも低い)。この熱処理中に、鍛造された試験片の加工された結晶粒組織化が再結晶し、γ′析出物が溶解(溶体化)した。
【0021】
スーパーソルバス熱処理の後、ガンママトリックス内又は結晶粒界においてγ′の再析出を確実にする速度で試験片を冷却した。制御された空気冷却を使用して、全ての試験片に対して約200°F/分のほぼ一定の冷却速度とした。最後に、試験片を約1550°F(約845℃)で約4時間、続いて約1400°F(約760℃)で約8時間時効処理した。
【0022】
上で述べたように、また当技術分野で周知のように、結晶粒の再結晶及びγ′析出物の溶体化に加えて、スーパーソルバス熱処理では、結晶粒成長(粗大化)も得られ、その結果通例元のビレット結晶粒径よりも粗い結晶粒径が得られた。図5は、各合金組成物で観察された平均ASTM結晶粒径を示している。図5から、「熱間/遅い」鍛造方法では、「従来の」鍛造方法よりずっと粗い結晶粒が生成したことが分かる。後者で観察されたより微細な平均結晶粒径(通例ASTM8又はそれより微細)は、鍛造された試験片の改良された機械的な性質、例えば低サイクル疲労耐性、引張強さ、疲労強さ及びタービン又は圧縮機ディスクとして所望の他の機械的な性質を増進すると期待されよう。さらに、約2又は3ASTM単位の範囲内の均一な平均結晶粒径が得られたが、これは試験片の低サイクル疲労耐性その他の機械的な性質をさらに増進すると期待されよう。臨界結晶粒成長によって生じる過度に大きい結晶粒がないことの原因は、試験片の鍛造中の歪み速度を、Kruegerらにより教示されたものより高い速度ではあるが超合金組成物の臨界(最大)歪み速度より低く維持したためであった。Kruegerらによると、γ′ニッケル基超合金の臨界歪み速度は、組成、ミクロ組織及び温度に依存し、所与の超合金に対して、様々な歪み速度条件下で試験試料を変形させた後適切なスーパーソルバス熱処理を実施することによって決定することができる。その結果、臨界歪み速度は、超合金の変形及び加工中に超え、十分な量の総歪みを生じると、スーパーソルバス熱処理後に臨界結晶粒成長を引き起こすことになる歪み速度と定義される。本研究において、合金試験片に対する上限歪み速度は0.03/秒より大きく、恐らくは0.32/秒程度に高いと結論された。
【0023】
図6は、図5で101Bと特定された鍛造試験片の2つの顕微鏡写真の走査画像及び鍛造されたR104試験片の2つの顕微鏡写真の走査画像を含む。これらの画像は、101B試験片内の炭化物網状組織がR104と比べて大きく増大したことを立証している。この増大した炭化物網状組織は、101B試験片の高い炭素含有率とハフニウムの存在に起因していた。いかなる特定の理論にも拘束されることは望まないが、ハフニウムは強力な一次MC炭化物形成剤であるので、101B試験片のハフニウム含有が高度に安定な炭化物の形成を促進することができるため、高温炭化物の安定性に寄与すると共にマトリックス内の一次MC炭化物の分散により結晶粒径を制御する能力を補助するのであろう。図7は、炭素含有率に対するASTM平均結晶粒径を比較したプロットであり、鍛造された試験片において炭素含有率が平均結晶粒径に及ぼす顕著な影響を立証している。例えば、約2060°F(約1130℃)の鍛造温度で0.1重量%を上回る炭素含有率はASTM7より微細な平均結晶粒径を生じ、約1925°F(約1050℃)の鍛造温度では0.05重量%より高く及び0.1重量%より高い炭素含有率でそれぞれASTM8及びASTM8.5より微細な平均結晶粒径を生じた。図1に基づいて、より高い炭素含有率で達成されたより微細な平均結晶粒径は、改良された低サイクル疲労耐性に対応することが期待されよう。図7はまた、より高い最大歪み速度及びよりも低い鍛造温度で鍛造することによって、顕著に微細な平均結晶粒径が得られたことも立証している。これらの結果から、炭素含有率をR104について開示された上限を上回って増大させることで、より微細な平均結晶粒径を達成することができると結論された。増大した炭素含有率の効果は一部、異常な結晶粒成長を阻害する増大したピンニング力であると考えられる。一般に、図6(a)及び6(b)で観察された微細に分散した炭化物は、スーパーソルバス熱処理中の結晶粒界の動きを限定し、その結果臨界結晶粒成長が起こる程度まで過大に及び/又はランダムに結晶粒が成長するのが許容されないことになると結論された。この研究から、もう1つ別の利益は、比較的低い温度、例えば約1925°F(約1050℃)、恐らくは約1875〜約1975°F(約1025〜約1080℃)の範囲で鍛造作業を実施できる能力であるように思われる。
【0024】
鍛造された試験片のASTM結晶粒径と引張挙動との関係が図8及び9に示されており、これらの図は約800°F(約425℃)での引張挙動及び延性対ASTM結晶粒径を示す。改良された引張特性の原因は、増大した炭素の存在及び使用した鍛造技術の結果試験片結晶粒径が改善されたためであった。
【0025】
以上の結果に鑑みて、従来のR104超合金より改良された低サイクル疲労耐性及び滞留亀裂伝播挙動を得る目的で、広い、狭い及び好ましい組成及び重量%範囲を導き出した。これらの組成と範囲を以下の表Iに示す。
【0026】
【表1】

特定のプロセスパラメーター及び組成に関連して本発明を説明して来たが、本発明の範囲はこれに限定されない。代わりに、当業者は、例えば、開示されたプロセスを他のプロセス段階で置き換えたり又は追加のプロセス段階を加えたりして改変することによって修正することができるであろう。従って、本発明の範囲は特許請求の範囲によってのみ限定される。
【符号の説明】
【0027】
10 タービンディスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
γ′ソルバス温度を有するγ′析出強化ニッケル基超合金から物品(10)を形成する方法であって、
重量基準で、約16.0〜22.4%のコバルト、約6.6〜14.3%のクロム、約2.6〜4.8%のアルミニウム、約2.4〜4.6%のチタン、約1.4〜3.5%のタンタル、約0.9〜3.0%のニオブ、約1.9〜4.0%のタングステン、約1.9〜3.9%のモリブデン、約0.0〜2.5%のレニウム、0.05%超の炭素、0.1%以上のハフニウム、約0.02〜0.10%のホウ素、約0.03〜0.10%のジルコニウム、残部のニッケル及び不可避不純物の組成を有するγ′析出強化ニッケル基超合金を形成する段階と、
超合金のビレットを成形する段階と、
超合金のγ′ソルバス温度よりも低い温度でビレットを加工して、加工された物品(10)を形成する段階であって、ビレットを変形させて、臨界結晶粒成長を回避するための上限歪み速度よりも低いが平均結晶粒径を制御するのに十分に高い最大歪み速度を達成するように加工する段階と、
加工された物品(10)を、超合金のγ′ソルバス温度を超える温度で、加工された物品(10)の結晶粒を均一に粗大化するのに十分な持続時間熱処理する段階と、
加工された物品(10)を、加工された物品(10)内でγ′を再析出させて、ASTM7よりも粗くない平均結晶粒径を有し、平均結晶粒径よりも3ASTM単位超粗大な結晶粒を実質的に含まない加工物品(10)を得るのに十分な速度で冷却する段階と
を含む方法。
【請求項2】
成形段階が、粉末冶金法、鋳造及び鍛錬、並びにスプレイキャスト成形法からなる群から選択されるプロセスを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
成形段階が、超合金の粉末の高温静水圧圧縮又は押出圧密化によりビレットを成形することを含む、請求項1又は請求項2記載の方法。
【請求項4】
超合金が0.1重量%超の炭素を含有する、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
超合金が0.1重量%超約0.125重量%以下の炭素を含有する、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
超合金が0.1〜0.6重量%のハフニウムを含有する、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
最大歪み速度が0.003/秒以上である、請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
最大歪み速度が0.03/秒以上である、請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
加工された物品(10)がASTM8よりも粗くない平均結晶粒径を有する、請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれか1項記載の方法によって形成された加工された物品(10)であって、加工された物品(10)がガスタービンエンジンのタービンディスク並びに圧縮機ディスク及びブリスクからなる群から選択される部品(10)である、物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−12346(P2011−12346A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144348(P2010−144348)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】