説明

ズーム光学系

【課題】合焦及び変倍が可能なアクチュエータレスのズーム光学系を提供する。
【解決手段】ズーム光学系OS1は、像面F側からこの順番で配された、第1群G1、第2群G2及び第3群G3を備える。第1群及び第3群G1,G3は、それぞれ、液晶レンズを含む。第2群G2の焦点距離をfとしたときに、像面Fと第1群G1の主面との間の距離、第1群G1の主面と第2群G2の主面との間の距離、及び第2群G2の主面と第3群G3の主面との間の距離がそれぞれfと等しい。ズーム光学系OS1は、第1群G1の焦点距離と第3群G3の焦点距離との和がfと等しくなるように制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ズーム光学系に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、撮像装置や、光通信装置、光ピックアップ装置などの種々の光学装置において、変倍が可能なズーム光学系が用いられている。一般的に、ガラスレンズにより構成されたズーム光学系においては、変倍や合焦を行うために、少なくとも一部のガラスレンズを光軸に沿って変位させる必要がある。このため、ガラスレンズにより構成されたズーム光学系は、ガラスレンズを変位させるためのアクチュエータを必要とする。従って、ズーム光学系をコンパクト化することが困難である。
【0003】
例えば、特許文献1には、回折型液晶レンズを用いた結像光学系と、ズーム光学系とを有する光学系を備える画像取得装置が記載されている。この画像取得装置の光学系では、結像光学系により合焦が行われ、ズーム光学系において変倍が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−309901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の結像光学系では、回折型液晶レンズに印加される電圧が変化することにより回折型液晶レンズの焦点距離が変化し、合焦が行われる。このため、特許文献1に記載の結像光学系は、レンズを移動させるためのアクチュエータを必ずしも必要としない。従って、結像光学系をコンパクト化し得る。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の結像光学系では、変倍ができないため、特許文献1に記載の画像取得装置の光学系には、結像光学系と共にズーム光学系が設けられている。このため、画像取得装置を十分にコンパクト化できないという問題がある。
【0007】
本発明は、合焦及び変倍が可能なアクチュエータレスのズーム光学系を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るズーム光学系は、像面側からこの順番で配された、第1群、第2群及び第3群を備える。第1群及び第3群は、それぞれ、液晶レンズを含む。第2群の焦点距離をfとしたときに、像面と第1群の主面との間の距離、第1群の主面と第2群の主面との間の距離、及び第2群の主面と第3群の主面との間の距離がそれぞれfと等しい。本発明に係るズーム光学系は、第1群の焦点距離と第3群の焦点距離との和がfと等しくなるように制御される。
【0009】
第2群は、少なくともひとつのガラスレンズにより構成されていてもよいし、液晶レンズを含んでいてもよい。
【0010】
本発明に係るズーム光学系は、第3群よりも物体側に配されており、液晶レンズを含む第4群をさらに備えることが好ましい。その場合、ズーム光学系は、第4群の焦点距離をfとし、第3群の主面と第4群の主面との間の距離をf+Lとし、第4群の主面と物体との間の距離をLとしたときに、f−1=L−1+L−1が満たされるように制御されることが好ましい。
【0011】
液晶レンズは、光軸上にこの順番で配置された、第1の液晶層、第2の液晶層、第3の液晶層及び第4の液晶層を備えることが好ましい。その場合、第1の液晶層における配向方向と、第2の液晶層における配向方向とが光軸と垂直な面内において90°異なっており、第1の液晶層における配向方向と、第4の液晶層における配向方向とが光軸と垂直な面内において180°異なっており、第2の液晶層における配向方向と、第3の液晶層における配向方向とが光軸と垂直な面内において180°異なっていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、合焦及び変倍が可能なアクチュエータレスのズーム光学系を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1の実施形態に係るズーム光学系の略図的構成図である。
【図2】第2の実施形態に係るズーム光学系の略図的構成図である。
【図3】液晶レンズの略図的断面図である。
【図4】第1の電極の略図的平面図である。
【図5】第1の参考例に係る液晶レンズの略図的断面図である。
【図6】第1の変形例に係る液晶レンズの略図的断面図である。
【図7】第2の変形例に係る液晶レンズの略図的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明する。但し、下記の実施形態は、単なる例示である。本発明は、下記の実施形態に何ら限定されない。
【0015】
また、実施形態等において参照する各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照することとする。また、実施形態等において参照する図面は、模式的に記載されたものであり、図面に描画された物体の寸法の比率などは、現実の物体の寸法の比率などとは異なる場合がある。図面相互間においても、物体の寸法比率等が異なる場合がある。具体的な物体の寸法比率等は、以下の説明を参酌して判断されるべきである。
【0016】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係るズーム光学系OS1の略図的構成図である。ズーム光学系OS1は、第1群G1、第2群G2及び第3群G3を備える。第1群G1、第2群G2及び第3群G3は、光軸C上において、像面F側から物体O側に向かってこの順番で配されている。ズーム光学系OS1は、これら第1群G1、第2群G2及び第3群G3により構成されている。但し、本発明は、この構成に限定されない。本発明に係るズーム光学系は、第1群、第2群及び第3群に加えて、他の群をさらに備えていてもよい。
【0017】
ズーム光学系OS1において、第1群G1、第2群G2及び第3群G3を構成するレンズの位置は、固定されている。従って、ズーム光学系OS1は、アクチュエータを必ずしも要さない。
【0018】
第1群G1は、第1のレンズL1を含む。本実施形態では、第1群G1が第1のレンズL1により構成されている。第1のレンズL1は、焦点距離が可変な液晶レンズにより構成されている。但し、本発明は、この構成に限定されない。第1群G1は、第1のレンズL1に加えて、少なくともひとつのガラスレンズ及び少なくともひとつの液晶レンズの少なくとも一方を含んでいてもよい。
【0019】
第2群G2は、第2のレンズL2を含む。本実施形態では、第2群G2は、ガラスレンズからなる焦点距離が実質的に不変である第2のレンズL2により構成されている。但し、本発明は、この構成に限定されない。第2群G2は、第2のレンズL2に加えて、少なくともひとつのガラスレンズ及び少なくともひとつの液晶レンズの少なくとも一方を含んでいてもよい。即ち、第2群G2は、少なくともひとつのガラスレンズにより構成されており、液晶レンズを有さなくてもよい。また、第2群G2は、液晶レンズを有していてもよい。すなわち、第2群G2も焦点距離が可変な群であってもよい。さらには、第2群G2は、液晶レンズのみで構成された焦点距離が可変な群であってもよい。
【0020】
第3群G3は、第3のレンズL3を含む。本実施形態では、第3群G3が第3のレンズL3により構成されている。第3のレンズL3は、焦点距離が可変な液晶レンズにより構成されている。但し、本発明は、この構成に限定されない。第3群G3は、第3のレンズL3に加えて、少なくともひとつのガラスレンズ及び少なくともひとつの液晶レンズの少なくとも一方を含んでいてもよい。
【0021】
ここで、
第1群G1の焦点距離:f
第2群G2の焦点距離:f
第3群G3の焦点距離:f
とする。
【0022】
本実施形態では、焦点距離fは一定であり、焦点距離f及び焦点距離fは、可変である。
【0023】
ズーム光学系OS1では、像面Fと第1群G1の主面との間の距離は、fと等しい。第1群G1の主面と第2群G2の主面との間の距離は、fと等しい。第2群G2の主面と第3群G3の主面との間の距離は、fと等しい。また、物体Oと第3群G3の主面との間の距離も、fと等しい。そして、ズーム光学系OS1は、制御部CPによって、第1群G1の焦点距離と第3群G3の焦点距離との和がfと等しくなるように制御される。即ち、ズーム光学系OS1は、制御部CPによって、条件式(1)が満たされるように制御される。このため、物体Oの像は、像面F上に合焦した状態となる。
【0024】
+f=f ……… (1)
【0025】
また、第1群G1の光学的パワーを負とし、第3群G3の光学的パワーを正とすることにより、ズーム光学系OS1の倍率を1倍よりも大きくし得る。一方、第1群G1の光学的パワーを正とし、第3群G3の光学的パワーを負とすることにより、ズーム光学系OS1の倍率を1倍よりも小さくし得る。従って、ズーム光学系OS1によれば、物体Oの拡大と縮小との両方を行うことができる。
【0026】
このズーム光学系OS1において、最大拡大倍率mmaxは、下記の式(2)で定義される。
【0027】
max=(f/f(−)min−1) ……… (2)
【0028】
但し、f(−)minは、負の光学的パワーを有する第1群G1における焦点距離の可変範囲内での最小値である。
【0029】
このズーム光学系OS1において、最大縮小倍率mminは、下記の式(3)で定義される。
【0030】
min=1/((f/f(−)min−1)) ……… (3)
【0031】
但し、f(−)minは、負の光学的パワーを有する第3群G3における焦点距離の可変範囲内での最小値である。
【0032】
このため、ズーム光学系OS1では、条件式(1)を満たす範囲において、第1群G1の焦点距離fと、第3群G3の焦点距離fとを適宜変更することによって、第1〜第3群G1〜G3を変位させることなく、合焦及び変倍することができる。
【0033】
具体的な光学設計例を下記の表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
以下、本発明の好ましい実施形態の他の例について説明する。以下の説明において、上記第1の実施形態と実質的に共通の機能を有する部材を共通の符号で参照し、説明を省略する。
【0036】
(第2の実施形態)
図2は、第2の実施形態に係るズーム光学系OS2の略図的構成図である。ズーム光学系OS2は、第1〜第3群G1〜G3に加えて第4群G4を備える点で第1の実施形態に係るズーム光学系OS1と異なる。
【0037】
第4群G4は、第4のレンズL4を含む。本実施形態では、第4群G4が第4のレンズL4により構成されている。第4のレンズL4は、焦点距離が可変な液晶レンズにより構成されている。但し、本発明は、この構成に限定されない。第4群G4は、第4のレンズL4に加えて、少なくともひとつのガラスレンズ及び少なくともひとつの液晶レンズの少なくとも一方を含んでいてもよい。
【0038】
第4群G4を有するズーム光学系OS2においても、ズーム光学系OS1と同様に、第1〜第4群G1〜G4を変位させることなく、合焦及び変倍することができる。また、ズーム光学系OS2によれば、物体Oの拡大と縮小との両方を行うことができる。
【0039】
ズーム光学系OS2は、第4群G4の焦点距離をfとし、第3群G3の主面と第4群G4の主面との間の距離をf+Lとし、第4群G4の主面と物体Oとの間の距離をLとしたときに、制御部CPによって、式(4)が満たされるように制御される。
【0040】
−1=L−1+L−1 ……… (4)
【0041】
式(4)が満たされる限りにおいて、物体Oの像は、像面F上に合焦した状態となる。このため、ズーム光学系OS2では、物体Oとズーム光学系OS2との間の距離を変化させることができる。
【0042】
(液晶レンズ)
ズーム光学系OS1,OS2において、液晶レンズとしては、図3に示す液晶レンズ1を用いることが好ましい。
【0043】
液晶レンズ1は、液晶分子を含む第1〜第4の液晶層11〜14を備えている。第1〜第4の液晶層11〜14は、光軸C上にこの順番で配されている。これら第1〜第4の液晶層11〜14は、第1及び第2の電極21,22により挟持されている。第1及び第2の電極21,22により、第1〜第4の液晶層11〜14に電界が印加され、これにより液晶レンズ1の屈折率が変化する。なお、光軸Cは、液晶レンズ1全体としての光軸であって、第1〜第4の液晶層11〜14のそれぞれの光軸は、光軸Cと必ずしも一致していない。
【0044】
より具体的には、液晶レンズ1は、互いに対向するように配された第1の基板31と第2の基板32とを有する。第1の基板31と第2の基板32との間には、3枚の中間基板33〜35が配されている。これら3枚の中間基板33〜35と、第1及び第2の基板31,32と、隔壁部材36〜39とにより区画形成された4つの空間に第1〜第4の液晶層11〜14が設けられている。
【0045】
さらに具体的には、第1の基板31と、第1の基板31に対向するように配された中間基板33と、隔壁部材36とにより区画形成された略円柱状の空間内に、第1の液晶層11が設けられている。
【0046】
第1の基板31、中間基板33及び隔壁部材36は、例えばガラスにより構成することができる。第2の基板32、中間基板34,35及び隔壁部材37〜39も、同様に、ガラスにより構成することができる。
【0047】
第1の基板31及び第2の基板32の厚みは、例えば、0.1mm〜1.0mm程度とすることができる。中間基板33〜35の厚みは、例えば、5μm〜80μm程度とすることができる。隔壁部材36〜39の厚みは、得ようとする光学的パワーにより決定される第1〜第4の液晶層11〜14の厚みや、第1〜第4の液晶層11〜14に要求される応答速度等に応じて適宜設定することができる。隔壁部材36〜39の厚みは、例えば、10μm〜80μm程度とすることができる。
【0048】
第1の基板31の第1の液晶層11側の表面31aの上には、第1の電極21が配されている。第1の電極21の形状は、特に限定されない。本実施形態では、図4に示すように、第1の電極21は、円形の第1の部分21aと、第1の部分21aを包囲する第2の部分21bとを有する。第1の電極21は、例えば、インジウムスズ酸化物(ITO)等の透明導電性酸化物により構成することができる。
【0049】
なお、図示は省略するが、本実施形態では、第1の基板31の表面31aの上には、絶縁膜が第1の電極21を覆うように配されている。絶縁膜は、高抵抗膜により覆われている。高抵抗膜は、配向膜により覆われている。また、中間基板33の第1の液晶層11側の表面の上にも配向膜が配されている。これら配向膜により、第1の液晶層11中の液晶分子の配向が行われている。もっとも、絶縁膜や高抵抗膜等は本発明において必ずしも必須ではない。
【0050】
なお、絶縁膜は、例えば酸化ケイ素などにより構成することができる。高抵抗膜は、例えば酸化亜鉛などにより構成することができる。配向膜は、例えば、ラビング処理されたポリイミド膜などにより構成することができる。本実施形態において登場する他の絶縁膜、高抵抗膜、配向膜も、同様の材料により構成することができる。
【0051】
中間基板33と、中間基板33に対向するように配された中間基板34と、隔壁部材37とにより区画形成された略円柱状の空間内に、第2の液晶層12が設けられている。
【0052】
なお、図示は省略するが、中間基板33,34のそれぞれの第2の液晶層12側の表面の上には、配向膜が配されている。これら配向膜により、第2の液晶層12中の液晶分子の配向が行われている。
【0053】
中間基板34と、中間基板34に対向するように配された中間基板35と、隔壁部材38とにより区画形成された略円柱状の空間内に、第3の液晶層13が設けられている。
【0054】
なお、図示は省略するが、中間基板34,35のそれぞれの第3の液晶層13側の表面の上には、配向膜が設けられている。これら配向膜により、第3の液晶層13中の液晶分子の配向が行われている。
【0055】
中間基板35と、中間基板35に対向するように配された第2の基板32と、隔壁部材39とにより区画形成された略円柱状の空間内に、第4の液晶層14が設けられている。
【0056】
第2の基板32の第4の液晶層14側の表面32aの上には、第2の電極22が設けられている。第2の電極22は、第1の電極21の第1及び第2の部分21a、21bに対向するように、面状に設けられている。第2の電極22は、表面32aの液晶層11〜14が設けられた領域の実質的に全体の上に配されている。図示は省略するが、表面32aの上には、第2の電極22を覆うように配向膜が設けられている。また、中間基板35の第4の液晶層14側の表面の上にも配向膜が設けられている。これら配向膜によって、第4の液晶層14中の液晶分子の配向が行われている。
【0057】
この液晶レンズ1は、第1の電極21の第1の部分21aと第2の電極22との間の電圧Vが、第1の電極21の第2の部分21bと第2の電極22との間の電圧Vよりも大きい場合に、負の光学的パワーを有するレンズとなる。一方、第1の電極21の第1の部分21aと第2の電極22との間の電圧Vが、第1の電極21の第2の部分21bと第2の電極22との間の電圧Vよりも小さい場合に、正の光学的パワーを有するレンズとなる。
【0058】
液晶レンズ1においては、第1の液晶層11における配向方向と、第2の液晶層12における配向方向とが光軸Cと垂直な面内において90°異なっている。第1の液晶層11における配向方向と、第4の液晶層14における配向方向とが光軸Cと垂直な面内において180°異なっている。第2の液晶層12における配向方向と、第3の液晶層13における配向方向とが光軸Cと垂直な面内において180°異なっている。
【0059】
例えば、第1及び第4の液晶層11,14のそれぞれが、P偏光の入射光に対して光線偏光作用を持つ場合は、第2及び第3の液晶層12,13のそれぞれは、S偏光の入射光に対して光線偏光作用を持つ。逆に、例えば、第1及び第4の液晶層11,14のそれぞれが、S偏光の入射光に対して光線偏光作用を持つ場合は、第2及び第3の液晶層12,13のそれぞれは、P偏光の入射光に対して光線偏光作用を持つ。このように、液晶レンズ1では、例えば、P偏光及びS偏光のうちの一方の偏光の入射光に対して光線偏光作用を持つ2つの液晶層11,14を光軸C方向における両側に配し、それら2つの液晶層11,14の間に、P偏光及びS偏光のうちの他方の偏光の入射光に対して光線偏光作用を持つ2つの液晶層12,13が配されている。そして、4つの液晶層11〜14のうち、同じ偏光に対して光線偏光作用を有する2つの液晶層で、光軸Cと垂直な面内において配向方向が180°異なっている。
【0060】
ところで、例えば、液晶層をひとつのみ有する液晶レンズにおいては、その液晶層が光線偏光作用を有する偏光以外の光が液晶層に入射しないように、液晶レンズの前方に偏光板を配する必要がある。このため、光量損失が大きくなる。
【0061】
それに対して図5に示すように、例えば、P偏光の入射光に対して光線偏光作用を持つ第1の液晶層111と、S偏光の入射光に対して光線偏光作用を持つ第2の液晶層112とを有する液晶レンズ100は、偏光板を要さない。従って、光量損失を抑制することができる。
【0062】
しかしながら、第1の液晶層111の光学的パワーと第2の液晶層112の光学的パワーとが等しいと、P偏光の入射光に対する第1の液晶層111の焦点位置と、S偏光の入射光に対する第2の液晶層112の焦点位置とが光軸方向において異なる。従って、P偏光とS偏光とが光軸方向において異なるため、十分な結像性能が得られない。
【0063】
例えば、第2の液晶層112を第1の液晶層111よりも厚くし、S偏光の入射光に対する第2の液晶層112の光学的パワーを、P偏光の入射光に対する第1の液晶層111の光学的パワーよりも強くすることにより、P偏光の入射光に対する第1の液晶層111の焦点位置と、S偏光の入射光に対する第2の液晶層112の焦点距離とを整合させることも考えられる。この手法では、例えば、第1及び第2の液晶層111,112の屈折率が所定の屈折率である場合にP偏光の焦点距離とS偏光の焦点距離とを整合させることはできる。しかしながら、第1の液晶層111及び第2の液晶層112の屈折率に関わらず、P偏光の焦点距離とS偏光の焦点距離とを整合させることは困難である。従って、液晶レンズ100では、特定の屈折率のときに優れた結像性能が得られるものの、それ以外の屈折率のときにおいて優れた結像性能を得ることは困難である。
【0064】
また、液晶レンズ100では、第1の液晶層111の両側に配されている配向膜のラビング方向と、第2の液晶層112の両側に配されている配向膜のラビング方向とは、直交している。ここで、第1の液晶層111の両側に配されている配向膜のラビング方向をx方向とし、第2の液晶層112の両側に配されている配向膜のラビング方向をy方向とする。すると、第1の液晶層111の焦点は、第1及び第2の液晶層111,112のz方向から視たときの幾何学的な中心からx方向にずれる。それに対して、第2の液晶層112の焦点は、第1及び第2の液晶層111,112のz方向から視たときの幾何学的な中心からy方向にずれる。従って、P偏光の焦点位置と、S偏光の焦点位置とは、光軸に対して垂直な面内において相互に異なる。従って、仮に、P偏光の焦点距離とS偏光の焦点距離とを一致させることができたとしても、P偏光の焦点位置とS偏光の焦点位置とを合致させることはできない。従って、液晶レンズ100では、十分に優れた結像性能が得られない。
【0065】
さらに、第1及び第2の液晶層111,112のz方向から視たときの幾何学的な中心と、z方向に垂直な面内におけるP偏光及びS偏光の焦点位置との間の距離は、第1または第2の液晶層111,112の屈折率と共に変化するという問題も生じる。
【0066】
それに対して、液晶レンズ1では、第1の偏光方向の入射光に対して光線偏光作用を持つ第1及び第4の液晶層11,14が光軸C方向の両側に配されており、第2の偏光方向の入射光に対して光線偏光作用を持つ第2及び第3の液晶層12,13が光軸C方向において第1の液晶層11と第4の液晶層14との間に配されている。このため、第1の偏光方向の入射光と、第2の偏光方向の入射光との焦点距離の差を小さくすることができる。従って、優れた結像性能を実現することができる。
【0067】
より優れた結像性能を実現する観点からは、第1の偏光方向の入射光に対する第1の液晶層11と第4の液晶層14との合成焦点距離と、第2の偏光方向の入射光に対する第2の液晶層12と第3の液晶層13との合成焦点距離とが等しいことが好ましい。
【0068】
ここで、第1の液晶層と第4の液晶層との合成焦点距離と、第2の液晶層と第3の液晶層との合成焦点距離とが等しいとは、第1の液晶層と第4の液晶層との合成焦点距離と、第2の液晶層と第3の液晶層との合成焦点距離との差が、第1の液晶層と第4の液晶層との合成焦点距離と、第2の液晶層と第3の液晶層との合成焦点距離との平均値の90%〜110%の範囲内にあることをいう。
【0069】
さらに、液晶レンズ1では、第1の液晶層11に対して配向方向が180°異なる第4の液晶層14が設けられている。第1の液晶層11単体としての光軸Cに対して垂直な面内における焦点位置のズレ方向と、第4の液晶層14単体としての光軸Cに対して垂直な面内における焦点位置のズレ方向とが180°異なる。従って、第1の液晶層11による光軸Cに対して垂直な面内における焦点位置のズレと、第4の液晶層14による光軸Cに対して垂直な面内における焦点位置のズレとが打ち消しあい、第1の偏光方向の入射光に対する光軸Cに垂直な面内における液晶レンズ1全体としての焦点位置の光軸Cに対するズレ量を小さくすることができる。同様に、液晶レンズ1では、第2の液晶層12に対して配向方向が180°異なる第3の液晶層13が設けられている。このため、第2の液晶層12による光軸Cに対して垂直な面内における焦点位置のズレと、第3の液晶層13による光軸Cに対して垂直な面内における焦点位置のズレとが打ち消しあい、第2の偏光方向の入射光に対する光軸Cに垂直な面内における液晶レンズ1全体としての焦点位置の光軸Cに対するズレ量を小さくすることができる。従って、さらに優れた結像性能を得ることができる。
【0070】
また、第1の電極21と第2の電極22とにより、第1〜第4の液晶層11〜14に電界が印加されるため、液晶レンズ1では、第1の液晶層11の光学的パワーと第4の液晶層14の光学的パワーとが連動して変化し、第2の液晶層12の光学的パワーと第3の液晶層13の光学的パワーとが連動して変化する。従って、第1〜第4の液晶層11〜14の光学的パワーが変化しても、液晶レンズ1の光軸Cに対して垂直な面内における焦点位置が光軸Cからずれにくい。
【0071】
以上のように、液晶レンズ1は、優れた結像性能を有するため、液晶レンズ1を用いることにより、優れた結像性能を有するズーム光学系OS1,OS2を実現することができる。
【0072】
ところで、液晶レンズの光学的パワーの制御の自由度を高める観点からは、第1〜第4の液晶層のそれぞれに対して、電界を印加する電極対を個別に設けることが考えられる。しかしながら、その場合は、ある電極対により発生した電界のz方向における方向と、別の電極対により発生した電界のz方向における方向とが異なる場合がある。その場合は、液晶層に対して、その液晶層を挟持している電極対により発生した電界の影響に加え、他の電極対により発生した、z方向における電界方向が異なる電界の影響が加わることとなる。従って、液晶レンズの応答速度が低くなる。
【0073】
それに対して本実施形態では、一対の第1及び第2の電極21,22により第1〜第4の液晶層11〜14が挟持されており、一対の第1及び第2の電極21,22により第1〜第4の液晶層11〜14に電界が印加される。よって、第1〜第4の液晶層11〜14のそれぞれには、単一の電界のみが加わる。従って、液晶レンズ1の応答速度を高めることができる。
【0074】
このように、液晶層に加わる電界を打ち消す方向の電界が液晶層に加わらないようにする観点からは、以下のように液晶レンズを構成することも考えられる。
【0075】
例えば、図6に示される液晶レンズ2は、第1及び第2の液晶層11,12を挟持しており、第1及び第2の液晶層11,12に電界を印加する第1及び第2の電極23a、23bと、第3及び第4の液晶層13,14を挟持しており、第3及び第4の液晶層13,14に電界を印加する第3及び第4の電極24a、24bとを有する。第1及び第2の電極23a、23bのうち、z1側に位置する第1の電極23aが第1及び第2の部分21a、21bを有し、第3及び第4の電極24a、24bのうち、z1側に位置する第3の電極24aが第1及び第2の部分21a、21bを有する。そして、第1及び第2の電極23a、23bにより形成される電界の方向と、第3及び第4の電極24a、24bにより形成される電界の方向とが、光軸C方向において等しくなるように第1〜第4の電極23a、23b、24a、24bに電圧が印加される。従って、第1〜第4の液晶層11〜14に互いに打ち消し合う方向の電界が加わらないため、高い応答速度を実現することができる。
【0076】
また、図7に示されるように、液晶レンズ3を、第1及び第2の液晶層11,12を有する第1の光学部材41と、第3及び第4の液晶層13,14を有する第2の光学部材42とにより構成してもよい。この場合、第1の光学部材41と第2の光学部材42とは密着するように配されていてもよし、空気層を介して配されていてもよい。
【符号の説明】
【0077】
OS1,OS2…ズーム光学系
1〜3…液晶レンズ
G1…第1群
L1…第1のレンズ
G2…第2群
L2…第2のレンズ
G3…第3群
L3…第3のレンズ
G4…第4群
L4…第4のレンズ
11…第1の液晶層
12…第2の液晶層
13…第3の液晶層
14…第4の液晶層
21,23a…第1の電極
21a…第1の部分
21b…第2の部分
22,23b…第2の電極
24a…第3の電極
24b…第4の電極
31…第1の基板
31a…表面
32…第2の基板
32a…表面
33〜35…中間基板
36〜39…隔壁部材
41…第1の光学部材
42…第2の光学部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
像面側からこの順番で配された、第1群、第2群及び第3群を備えるズーム光学系であって、
前記第1群及び前記第3群は、それぞれ、液晶レンズを含み、
前記第2群の焦点距離をfとしたときに、像面と前記第1群の主面との間の距離、前記第1群の主面と前記第2群の主面との間の距離、及び前記第2群の主面と前記第3群の主面との間の距離がそれぞれfと等しく、
前記第1群の焦点距離と前記第3群の焦点距離との和がfと等しくなるように制御される、ズーム光学系。
【請求項2】
前記第2群が少なくともひとつのガラスレンズにより構成されている、請求項1に記載のズーム光学系。
【請求項3】
前記第2群が液晶レンズを含む、請求項1に記載のズーム光学系。
【請求項4】
前記第3群よりも物体側に配されており、液晶レンズを含む第4群をさらに備え、
前記第4群の焦点距離をfとし、前記第3群の主面と前記第4群の主面との間の距離をf+Lとし、前記第4群の主面と前記物体との間の距離をLとしたときに、f−1=L−1+L−1が満たされるように制御される、請求項1〜3のいずれか一項に記載のズーム光学系。
【請求項5】
前記液晶レンズは、
光軸上にこの順番で配置された、第1の液晶層、第2の液晶層、第3の液晶層及び第4の液晶層を備え、
前記第1の液晶層における配向方向と、前記第2の液晶層における配向方向とが前記光軸と垂直な面内において90°異なっており、
前記第1の液晶層における配向方向と、前記第4の液晶層における配向方向とが前記光軸と垂直な面内において180°異なっており、
前記第2の液晶層における配向方向と、前記第3の液晶層における配向方向とが前記光軸と垂直な面内において180°異なっている、請求項1〜4のいずれか一項に記載のズーム光学系。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−97283(P2013−97283A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241927(P2011−241927)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】