説明

セサミン類及びケルセチン配糖体を含有する組成物

【課題】セサミン類の体内吸収を促進する手段を提供すること。
【解決手段】セサミン類とケルセチン配糖体とを組合わせて用いることにより、当該セサミン類の体内吸収を促進することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セサミン類の体内吸収性を促進するための組成物、セサミン類の体内吸収促進剤、及びそれらを利用する飲食品又は医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セサミン類はゴマに含有されるリグナン化合物の一種である。なかでもセサミンとその立体異性体であるエピセサミンに関しては、血中コレステロール低下作用及び血中中性脂質低下作用、肝機能改善作用、活性酸素消去作用、Δ5不飽和化酵素阻害作用、過酸化脂質生成抑制作用、抗高血圧作用、悪酔防止作用、乳癌抑制作用等の種々の生理活性が報告されている(特許文献1)。
【0003】
しかしなら、セサミン類を包含するリグナン類化合物は、水に殆ど溶解しない上、医薬用又は食用に使用可能な有機溶媒に対してもある程度しか溶解しない。このような難溶性のため、リグナン類化合物は生体内で吸収されにくいという問題を有する。
【0004】
脂溶性物質の体内吸収性を向上させる方法としては、例えば、脂溶性物質であるユビデカレノンを食用天然油脂や中鎖脂肪酸のトリグリセリドに溶解させて液状にすることにより、ユビデカレノンの体内吸収を高める方法が開示されている(特許文献2)。
【0005】
また、脂溶性物質の体内吸収性を向上させる別の方法として、脂溶性物質のミセルを微細化(微粒子化)する方法も提案されている。例えば、コエンザイムQ10と、特定のポリグリセリン、脂肪酸モノエステル等とからなる組成物で、平均粒子系を110nm以下とすることにより、生体内吸収性が顕著に改善されたコエンザイムQ10含有水溶性組成物が開示されている(特許文献3)。しかしながら、他の化合物との組合せによりセサミン類の体内吸収性を向上させた例は報告されていない。
【特許文献1】WO2006/070856号パンフレット
【特許文献2】特開昭54−92616号公報
【特許文献3】特開2004−196781号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
脂溶性物質の体内吸収を促進し得る上記の手段を用いる場合には、脂溶性物質を油脂等に溶解させて液状にするか、又は脂溶性物質のミセルを含む液体とする必要がある。しかしながら、セサミン類は油脂に対する溶解度が低く、一度に摂取するセサミン類の量を多くする場合は、溶剤である油脂の量も多くせざるをえない。したがって、製剤化した場合、製剤が大きくなりすぎ、特にカプセル等に製剤化した場合には摂取粒数が多くなりすぎるといった問題があった。また、油脂摂取量の増加による余剰カロリーの摂取も懸念されていた。一方、吸収性向上を目的として、ミセル形成させるためには、脂溶性物質を均一に乳化させる必要があり、また複雑な工程を必要とすることからコスト高に繋がるといった問題もあった。
【0007】
そこで本発明の課題は、このような問題点を解決することのできる、セサミン類の体内吸収を促進するための新たな手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、セサミン類をケルセチン配糖体と組み合わせて用いることにより、セサミン類の体内吸収を促進することが可能となることを見出した。
【0009】
即ち、本発明は、以下のものに関する:
1.セサミン類とケルセチン配糖体とを含有する組成物;
2.セサミン類の総重量を1とした場合のケルセチン配糖体の総重量が、ケルセチン換算値で0.3以上である、1に記載の組成物;
3.セサミン類が、セサミンおよび/またはエピセサミンである、1または2に記載の組成物;
4.ケルセチン配糖体が、式(I):
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、(X)nは糖鎖を、nは1以上の整数を意味する)で表される化合物から選択される少なくとも一種である、1〜3のいずれかに記載の組成物;
5.ケルセチン配糖体が、式(II):
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、mは0又は1以上の整数である)で表される、ケルセチンの3位にグルコース1つがβ結合したイソクエルシトリン、及びイソクエルシトリンのグルコース残基に、さらに1つ以上のグルコースがα−1,4結合で付加したα−グリコシルイソクエルシトリンから選択される少なくとも一種の化合物である、4に記載の組成物;
6.飲食品である1〜5のいずれかに記載の組成物;
7.医薬組成物である1〜5のいずれかに記載の組成物;
8.ケルセチン配糖体を有効成分として含む、セサミン類の体内吸収促進剤。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、セサミン類とケルセチン配糖体とを組合せて用いることにより、セサミン類の体内吸収性を向上させることができる。従って、セサミン類の投与量を増加させることなく、その生理活性を効率よく発揮させることが可能となる。
【0015】
また、ケルセチン配糖体はポリフェノール化合物の一種であり、強力な抗酸化活性や、血流改善等の様々な生理活性を有している。その上、セサミン類及びケルセチン配糖体は、植物由来であるため極めて安全性が高い。従って、本発明は、セサミン類の吸収性を向上させるだけでなく、ケルセチン配糖体の有用な生理作用も期待でき、かつ安全で継続摂取可能な飲食品、医薬用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、セサミン類とケルセチン配糖体とを含有する組成物、及びセサミン類の体内吸収促進剤に関する。
セサミン類
本発明のセサミン類とは、セサミン、エピセサミン及びその類縁体を含む一連の化合物の総称である。前記のセサミン類縁体としては、例えば特開平4−9331号公報に記載されたジオキサビシクロ[3.3.0]オクタン誘導体がある。セサミン類の具体例としては、セサミン、エピセサミン、セサミノール、エピセサミノール、セサモリン等を例示でき、これらの立体異性体又はラセミ体を単独で、またはそれらの混合物を用いることができるが、本発明においては、セサミン及び/又はエピセサミンを好適に用いることができる。また、セサミン類の代謝物(例えば、特開2001-139579号公報に記載)も、本発明の効果を示す限り、セサミン類に含まれるセサミン類縁体であり、本発明に使用することができる。
【0017】
本発明に用いるセサミン類は、その形態や製造方法等によって、何ら制限されるものではない。例えば、セサミン類としてセサミンを選択した場合には、通常、ゴマ油から公知の方法(例えば、特開平4−9331号公報に記載された方法)によって抽出したセサミン(セサミン抽出物または濃縮物という)を用いることもできるが、市販のゴマ油(液状)をそのまま用いることもできる。しかしながら、ゴマ油を用いた場合には、セサミン含量が低い(通常、1%未満)ため、セサミンの生理作用を得るのに必要なセサミンを配合しようとすると、処方される組成物の単位投与当りの体積が大きくなり過ぎるため、摂取に不都合を生じることがある。特に、経口投与用に製剤化した場合は、製剤(錠剤、カプセルなど)が大きくなり過ぎて摂取に支障が生じる。したがって、摂取量が少なくてよいという観点からもゴマ油からのセサミン抽出物(又はセサミン濃縮物)を用いることが好ましい。なお、ゴマ油特有の風味が官能的に好ましくないと評価されることもあることから、セサミン抽出物(又はセサミン濃縮物)を公知の手段、例えば活性白土処理等により無味無臭としてもよい。
【0018】
このように、セサミン類としては、ゴマ油等の食品由来の素材から抽出及び/又は精製によりセサミン類の含有濃度を向上させて得られるセサミン類濃縮物を用いるのが好ましい。濃縮の度合いは、用いるセサミン類の種類や配合する組成物の形態により適宜設定すればよいが、通常、セサミン類が総量で1重量%以上となるように濃縮されたセサミン類濃縮物を用いるのが好ましい。セサミン類濃縮物中のセサミン類総含量は、20重量%以上がより好ましく、さらに50重量%以上が好ましく、さらにまた70重量%以上が好ましく、90重量%以上まで濃縮(精製)されたものが最適である。
【0019】
ケルセチン配糖体
本発明のケルセチン配糖体とは、下記の式(I):
【0020】
【化3】

【0021】
(式中、(X)nは糖鎖を、nは1以上の整数を意味する)で示されるケルセチンの3位のヒドロキシ基に1以上の糖鎖がグリコシド結合した一連の化合物の総称である。ここで、ケルセチンにグリコシド結合するXで表される糖は、例えば、グルコース、ラムノース、ガラクトース、グルクロン酸等であり、好ましくはグルコース、ラムノースである。また、nは1以上であれば特に制限されないが、好ましくは1〜16程度、さらに好ましくは1〜8程度である。本発明においては、これらケルセチン配糖体に含まれる化合物を単独で用いてもよいし、複数の化合物の混合物を用いてもよい。
【0022】
本発明の好ましい式(I)のケルセチン配糖体は、式(II):
【0023】
【化4】

【0024】
(式中、Glcはグルコース残基を、mは0又は1以上の整数を意味する)で示される、ケルセチンの3位にグルコース1つがβ結合したイソクエルシトリン(以下、単に「IQC」ともいう)、及び当該IQCのグルコース残基に、さらに1〜15程度のグルコースがα−1,4結合で付加した個々のα−グリコシルイソクエルシトリンである。特に、本発明においては、IQCのグルコース残基に、0〜7つのグルコースがα−1,4結合したケルセチン配糖体が好適に用いられる。
【0025】
本発明に用いるケルセチン配糖体は、その形態や製造方法等によって何等制限されるものではなく、例えばケルセチン配糖体を多く含むことが知られているタマネギなどから公知の方法により抽出したものをそのまま用いることもできるし、合成品を用いることもできる。飲食品や医薬組成物とする場合、有効量を配合するためには、濃縮、精製等の操作によって含有量を高めたもの(ケルセチン配糖体濃縮物または精製物)を用いることが好ましい。この場合の濃縮方法、精製方法は公知のものを利用することができる。また、必要に応じて酵素処理等により、所望の糖鎖を結合させたケルセチン配糖体を用いることもできる。例えば、イソクエルシトリンは、WO2005/030975号パンフレットに記載されている方法、即ち、ルチンを、特定の可食性成分の存在下でナリンギナーゼで処理する方法によって製造することができる。さらに、WO2005/030975号によると、イソクエルシトリンを糖転移酵素で処理することにより、前記式(II)の化合物(mは1以上の整数)に相当するα−グリコシルイソクエルシトリンを得ることができる。
【0026】
また、本発明において用いられるケルセチン配糖体は、商品名サンメリン(登録商標)AO−1007またはサンメリン(登録商標)C−10として三栄源エフ・エフ・アイ株式会社から商業的に入手可能である。
【0027】
セサミン類とケルセチン配糖体とを含有する組成物及びセサミン類の体内吸収促進剤
本発明は、セサミン類とケルセチン配糖体を組み合わせることにより、セサミン類の体内吸収性を高め、その生理活性を効率的に発揮させることができるとともに、健康食品等として利用することで、それぞれの成分の生理作用により、健康増進を図ることができる。
【0028】
本発明のセサミン類とケルセチン配糖体とを含有する組成物(飲食品、医薬組成物等)中におけるセサミン類とケルセチン配糖体の配合量及び配合比率は、セサミン類の体内吸収が促進され、生理活性が効率的に発揮される範囲であれば特に制限されず、組成物の形態や対象となる病態等の条件によって適宜選択すればよい。なお、本明細書においてケルセチン配糖体の量を示す場合には、ケルセチン配糖体の量をアグリコンであるケルセチンの量に換算した値を用いる。換算値は、具体的には、ケルセチン配糖体の量を分子量で除すことで得られたケルセチン配糖体のモル数に、ケルセチンの分子量302.24にかけることで算出できる。従って、この値を測定する場合には、ケルセチン配糖体に例えばβ−グルクロニダーゼ(セルラーゼオノヅカRSヤクルト)やα-グルコシダーゼ(ライス由来)などのグリコシダーゼで公知の手段により加水分解を行い、生成したアグリコンをクロマトグラフィー等の公知の手段を用いて含有されるケルセチンのモル数を測定し、そのモル数にケルセチンの分子量をかければよい。本願明細書においては、このようにしてケルセチン配糖体の量がケルセチンの量に換算された値を、「ケルセチン量に換算された」値又は「ケルセチン換算値」等とも表す。
【0029】
特にヒト(成人)を対象に投与する場合、セサミン類の総配合量としては、好ましくは、成人1日当り1〜200mgを摂取できるような量であり、より好ましくは5〜100mg程度を摂取できる量にするとよい。また、ケルセチン配糖体の総配合量としては、ケルセチン換算値として5mg〜200mg、好ましくは5mg〜100mg程度を摂取できるような量にするとよい。
【0030】
本発明の組成物には、組成物の全重量にもよるが、例えばセサミン類を1〜100mg、好ましくは1〜60mg、より好ましくは3〜60mg程度の量で配合することができる。また、ケルセチン配糖体をケルセチン換算値として、5〜200mg、好ましくは5〜100mg、より好ましくは5〜60mg程度の量を配合することができる。
【0031】
本発明の組成物(飲食品、医薬組成物等)中における、セサミン類の総配合割合は、組成物全重量に対し、好ましくは1重量%以上であり、より好ましくは1〜50重量%であり、さらに好ましくは1〜10重量%であるのがよいが、本発明の組成物の形態が液剤である場合、組成物全重量に対するセサミン類の総配合割合は0.0002〜0.4重量%程度、好ましくは0.001〜0.04重量%、さらに好ましくは0.002〜0.02重量%であることができる。一方、組成物中におけるケルセチン配糖体の総配合割合は、組成物全重量に対し、ケルセチン換算値として好ましくは0.5〜40重量%であり、より好ましくは0.5〜35重量%、さらに好ましくは1〜25重量%であるのがよいが、本発明の組成物の形態が液剤である場合、組成物全重量に対するケルセチン配糖体の総配合割合は、ケルセチン換算値として0.001〜10重量%、好ましくは0.001〜1重量%、さらに好ましくは0.001〜0.5重量%とすることができる。ここで言う液剤とは、水溶性の液体で容器詰の飲料形態で提供されるものをいい、例えば後述するようなドリンク剤、清涼飲料、茶飲料、溶液剤、懸濁液剤、シロップ剤等が挙げられる。
【0032】
本発明のセサミン類とケルセチン配糖体とを含有する組成物においては、その配合比率に制限はないが、セサミン類の体内吸収促進効果を期待するのであれば、セサミン類の総量とケルセチン量に換算されたケルセチン配糖体の総量との比率は、重量で1:0.2又は0.3以上、好ましくは重量で1:0.3〜1:50、より好ましくは重量で1:0.6〜1:20、さらに好ましくは重量で1:0.6〜1:10である。
【0033】
このようにして、本発明は、セサミン類の体内吸収を促進することができる。この効果は、例えば、実施例1〜4に示されているように、セサミン類の血中濃度を測定することにより確認することができる。
【0034】
以下の実施例に詳細に説明するが、発明者らは、セサミン類10mg/kg(動物モデルの体重1kg当りのセサミン類の量(mg))に加えてケルセチン配糖体を15〜150mg/kg(ケルセチン換算値として6.1〜61.1mg/kg)投与することにより、セサミン類10mg/kgのみの投与の場合に比べて、セサミン類の体内吸収性が顕著に増強されることを確認している。
【0035】
上記の通り、セサミン類とケルセチン配糖体を組合せることにより、セサミン類の体内吸収性が顕著に増強される。従って、本発明は、ケルセチン配糖体を有効成分として含有するセサミン類の体内吸収促進剤としても利用できる。
【0036】
ケルセチン配糖体を含有するセサミン類の体内吸収促進剤におけるケルセチン配糖体の配合率、配合量及びケルセチン配糖体の摂取量は、セサミン類及びケルセチン配糖体を含有する組成物におけるケルセチン配糖体の配合率、配合量等に関して上記した数値に基づいて適宜決定することができる。また、セサミン類とそれと共に投与される体内吸収促進剤との比率も、セサミン類及びケルセチン配糖体を含有する組成物に関して上記した通りである。
【0037】
飲食品及び医薬品
本発明の組成物及び体内吸収促進剤は、飲食品(機能性食品、健康補助食品、栄養機能食品、特別用途食品、特定保健用食品、栄養補助食品、食事療法用食品、健康食品、サプリメント等)及び医薬品の形態で提供することが好適である。そのような飲食品及び医薬品には、セサミン類とケルセチン配糖体とを含む飲食組成物及び医薬組成物、及び当該組成物を含むか又は添加した飲食品及び医薬品が含まれる。また、ケルセチン配糖体を有効成分として含有するセサミン類の体内吸収促進剤を含むか又は添加した飲食品及び医薬品も含まれる。
【0038】
また、飲食品及び医薬品は、ペットの餌として加工したペットフードや動物飼料等、並びに動物用医薬でもよい。
セサミン類とケルセチン配糖体とを含む飲食品及び医薬品は、血中コレステロール低下作用及び血中中性脂質低下作用、肝機能改善作用、活性酸素消去作用、Δ5不飽和化酵素阻害作用、過酸化脂質生成抑制作用、抗高血圧作用、悪酔防止作用、乳癌抑制作用等などの、セサミン類が有効であると考えられる種々の生理作用を得るために使用することができる。また、ケルセチン配糖体を含有するセサミン類の体内吸収促進剤である飲食品及び医薬品は、セサミン類に上記のような種々の生理作用を効率的に発揮させるために使用され得る。
【0039】
本発明の組成物を飲食品として提供する場合、その形態は、錠剤、カプセル剤、粉末剤、顆粒剤、ドリンク剤(溶液剤及び懸濁液剤が含まれる)等の健康食品の形態で提供することも、清涼飲料、茶飲料、ヨーグルトや乳酸菌飲料等の乳製品、調味料、加工食品、デザート類、菓子(例えば、ガム、キャンディ、ゼリー)等の形態で提供することも可能であるが、これらに限定されない。
【0040】
また、本発明の組成物を医薬品として用いる場合、その投与形態は経口投与でもよいし、注射剤等の形態で投与してもよく、各々の投与に適した製剤として公知のものを適宜用いればよい。例えば、経口投与に適した製剤には、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、溶液剤、懸濁液剤、シロップ剤などが含まれるが、これらに限定されない。
【0041】
本発明の組成物は、必要に応じて、セサミン類とケルセチン配糖体の他に、任意の添加剤、通常の飲食品や医薬品に用いられる任意の成分を含有することができる。これらの添加剤及び/又は成分の例としては、ビタミンE、ビタミンC等のビタミン類、ミネラル類、栄養成分、香料などの生理活性成分のほか、製剤化において配合される賦形剤、結合剤、乳化剤、緊張化剤(等張化剤)、緩衝剤、溶解補助剤、防腐剤、安定化剤、抗酸化剤、着色剤、凝固剤、コーティング剤等が挙げられる。
【0042】
なお、セサミン類とケルセチン配糖体を個別に製剤化して、それらをほぼ同時に、または、一方の製剤を服用後、その効き目が持続している間に他方の製剤を服用すれば、本発明の意図するセサミン類の体内吸収促進作用が得られる。よって、ケルセチン配糖体を含有するセサミン類の体内吸収促進剤とセサミン類含有組成物とを含むキット等も、本発明の意図するものである。キット中に別々に含まれる各成分は、同時に摂取しても良いし、逐次的又は別々に摂取してもよい。
【0043】
当該キットは、それら組成物又は製剤を収容するための1又は複数の容器を有することができ、それら2種類の組成物又は製剤は同一の容器に収容されてもよいし、別々に異なる容器に収容されてもよい。或いは、それら組成物又は製剤は、仕切りなどで分けられた同一容器内の異なる区画中に別々に収容されてもよい。容器としては、公知のいずれのものを用いてもよく、それには、ボトル、バッグ、PTPシート等が含まれる。例えば、キットは、上記2種類の組成物又は製剤を別々に収容した2つのボトルやバッグを含有するパッケージであることができる。また、キットは、異なる区画に上記の2種類の組成物又は製剤(例えば錠剤)を別々に収容するPTPシートを含むこともできる。
【実施例】
【0044】
本発明を以下の実施例によりさらに詳しく説明するが、これにより本発明の範囲を限定するものではない。当業者は、本発明の方法を種々変更、修飾して使用することが可能であり、これらも本発明の範囲に含まれる。
【0045】
実施例1
SD(IGS)系雄性ラット(7週齢)を日本チャールスリバー社より購入し、1週間試験環境下で馴化させた後、順調な発育を示した動物を選択して試験に供した。一晩絶食したラットを各群6匹からなる3群に分け、第1群(コントロール)には蒸留水を5ml/kgおよびセサミン及びエピセサミンの1:1混合物(竹本油脂株式会社より購入:以下、「セサミン類混合物」とも称する)のオリーブ油溶液(10mg/3ml)を3ml/kg、第2群にはケルセチン配糖体蒸留水溶液(45mg/5ml)を5ml/kgおよびセサミン類混合物のオリーブ油溶液(10mg/3ml)を3ml/kg、第3群にはケルセチン配糖体蒸留水溶液(150mg/5ml)を5ml/kgおよびセサミン類混合物のオリーブ油溶液(10mg/3ml)を3ml/kg、ゾンデを用いて経口投与した。投与前に、そして投与開始後1, 2, 4, 6, 8, 10, 24時間後に尾静脈よりヘパリン採血管にて血液を採取し、遠心分離操作(8000rpm、10min)により血漿サンプルを得た。当該サンプルに内部標準物質(ユーデスミン:フナコシ株式会社)を添加した後にOasis HLBで固相抽出を行い、得られた溶液を減圧濃縮し、メタノール中に濁懸し、これをフィルターろ過して得られた溶液をLC−MS/MSに付してセサミンの定量を行った。セサミン類の量は、それらのピーク面積と、内部標準として用いたユーデスミンのピーク面積との比により決定した。LC−MS/MS分析条件を以下に示す。なお、本実施例ではケルセチン配糖体として、イソクエルシトリンのグルコースに、更にグルコースが0−7つα結合したものの混合物(平均分子量740.9)を用いた(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社より入手)。なお、上記のケルセチン配糖体45mg、150mgは、ケルセチン量に換算すると、それぞれ18.3mg、61.1mgである。
【0046】
(HPLC)
カラム:Develosil C30-UG-5(5μm、2.0Φ×50mm、野村化学社製)
移動相:A;蒸留水、B;メタノール、D;100mM酢酸アンモニウム水溶液
流速:0.25ml/min
グラジェントプログラム:B液55%、D液10%のアイソクラクティック(0〜2分);B液55%→60%、D液10%→10%(2〜5分);B液60%→85%、D液10%→10%(5〜7分)
(MS/MS)
測定モード:選択反応モニタリング
検出 :セサミン(保持時間約5.1分);前駆イオンm/z=372([M+NH4]+)、生成イオンm/z=233
:エピセサミン(保持時間約5.4分);前駆イオンm/z=372([M+NH4]+)、生成イオンm/z=233
:ユーデスミン(保持時間約2.9分);前駆イオンm/z=369([M+NH4]+)、生成イオンm/z=298
イオン化法:ESI法
結果を図1及び2に示す。セサミン類混合物を単独で投与した際のセサミン類(セサミン及びエピセサミン)の合計最大血中濃度(Cmax)は18.0ng/mlであるのに対して、セサミン類混合物とケルセチン配糖体45mg/kg(ケルセチン換算18.3mg/kg)を同時に摂取するとセサミン類の合計最大血中濃度(Cmax)は29.1ng/mlに、ケルセチン配糖体150mg/kg(ケルセチン換算61.1mg/kg)を同時に摂取するとセサミン類の合計最大血中濃度(Cmax)は33.0ng/mlに上昇した(図1)。セサミン類の体内吸収量(AUC)も、セサミン類混合物単独で投与した場合に比べて、ケルセチン配糖体45mg/kg(ケルセチン換算18.3mg/kg)を同時に摂取すると1.25倍、ケルセチン配糖体150mg/kg(ケルセチン換算61.1mg/kg)を同時に摂取すると1.74倍と顕著な上昇が認められた(図2)。
【0047】
以上の結果より、セサミン類とケルセチン配糖体を同時に摂取することにより、ケルセチン配糖体の用量依存的にセサミン類の体内吸収量が増加し、セサミン類が有するさまざまな生理活性を増強することが可能であることが示唆された。
【0048】
実施例2
セサミン類の吸収量を増加させるために必要なケルセチン配糖体の最小必要量を見出すために、さらにケルセチン配糖体の用量を下げてその効果を検証した。
【0049】
ケルセチン配糖体の投与量を変える以外は実施例1に準じて実験を行った。つまり、一晩絶食したラットを各群6匹からなる3群に分け、第1群(コントロール)には蒸留水を5ml/kgおよびセサミン類混合物のオリーブ油溶液(10mg/3ml)を3ml/kg、第2群にはケルセチン配糖体蒸留水溶液(5mg/5ml)を5ml/kgおよびセサミン類混合物のオリーブ油溶液(10mg/3ml)を3ml/kg、第3群にはケルセチン配糖体蒸留水溶液(15mg/5ml)を5ml/kgおよびセサミン類混合物のオリーブ油溶液(10mg/3ml)を3ml/kg、ゾンデを用いて経口投与し、実施例1と同様に経時的に血中濃度を測定した。なお、上記のケルセチン配糖体5mg、15mgは、ケルセチン量に換算すると、それぞれ2.0mg、6.1mgである。
【0050】
セサミンのAUCの測定結果を図3に示す。セサミンの体内吸収量(AUC)は、ケルセチン配糖体5mg/kg(ケルセチン換算2.0mg/kg)を同時に摂取するとセサミン類混合物を単独で摂取したコントロール群の1.04倍であり、特にケルセチン配糖体15mg/kg(ケルセチン換算6.1mg/kg)を同時に摂取するとコントロール群の1.13倍と顕著な上昇が認められた。
【0051】
なお、データは示さないが、上記のような吸収促進効果はセサミンとエピセサミンに対して同程度に発揮されることが確認された。
以上の結果より、セサミン類の血中濃度を上昇させるためには、セサミン類10mgに対しケルセチン配糖体が5mg(ケルセチン換算で2.0mg)以上必要であり、特に15mg(ケルセチン換算で6.1mg)以上を併用すると顕著な吸収促進効果が得られることが明らかとなった。
【0052】
実施例3
セサミン類の体内吸収性を改善する作用がケルセチン配糖体に特有の作用であるか否か調べる目的で、グルコース以外の糖を有するケルセチン配糖体であるルチンとセサミン類との相互作用、及び他のフラボノイド配糖体とセサミン類との相互作用について評価した。ルチン(フナコシ株式会社)、他のフラボノイド配糖体としてαG-ヘスペリジン(林原商事)、ナリンジン(シグマ社)を用い、ケルセチン配糖体で最も効果が高かった用量(150mg/kg=200μmol/kg)に相当する濃度でセサミン類の吸収に及ぼす影響を検証した。実験は被検物質を変える以外は実施例1に準じて行った。つまり、一晩絶食したラットを各群4匹からなる4群に分け、第1群(コントロール)には0.5% CMC濁懸水を5ml/kgおよびセサミン類混合物のオリーブ油溶液(10mg/3ml)を3ml/kg、第2群にはαG-ヘスペリジンの0.5% CMC濁懸水(200μmol/5ml)を5ml/kgおよびセサミン類混合物のオリーブ油溶液(10mg/3ml)を3ml/kg、第3群にはルチンの0.5% CMC濁懸水(200μmol/5ml)を5ml/kgおよびセサミン類混合物のオリーブ油溶液(10mg/3ml)を3ml/kg、第4群にはナリンジンの0.5%CMC濁懸水(200μmol/5ml)を5ml/kgおよびセサミン類混合物のオリーブ油溶液(10mg/3ml)を3ml/kg、ゾンデを用いて経口投与し、経時的にセサミン及びエピセサミンの血中濃度を測定した。
【0053】
結果を図4及び5に示す。セサミンとαG-ヘスペリジンとの併用及びナリンジンとの併用の場合には、セサミン及びエピセサミンのCmaxの低下が認められた(図4)。また、セサミンの体内吸収量(AUC)を比較すると、ルチンを併用した場合の体内吸収量はコントロールと比較して増加した(1.04倍)が、セサミン類混合物とαG-ヘスペリジンを同時に摂取するとセサミン体内吸収量はコントロールの0.71倍に、セサミン類混合物とナリンジンを同時に摂取するとセサミン体内吸収量はコントロールの0.59倍に減少した(図5)
本実施例の結果より、セサミン類の体内吸収量を増加させる作用はフラボノイド全般に見られる作用ではなく、ケルセチン配糖体に特有の作用であることが示唆された。
【0054】
実施例4
ケルセチン配糖体は、抗酸化作用を有することが知られている(例えば、特開平1−213293号公報を参照されたい)。本実施例では、セサミンの体内吸収性を向上させる作用が抗酸化剤全般に認められるものであるか否か調べる目的で、代表的な抗酸化剤であるビタミンCとセサミン類との相互作用について評価した。
【0055】
ナカライテスク株式会社のビタミンCを用いて、ケルセチン配糖体で最も効果が高かった用量(150mg/kg=200μmol/kg)に相当する濃度でセサミンの吸収に及ぼす影響を検証した。実験は被検物質を変える以外は実施例1に準じて行った。つまり、一晩絶食したラットを各群4匹からなる2群に分け、第1群(コントロール)には蒸留水5ml/kgおよびセサミン類混合物のオリーブ油溶液(10mg/3ml)を3ml/kg、第2群にはビタミンCの蒸留水溶液(200μmol/5ml)を5ml/kgおよびセサミン類混合物のオリーブ油溶液(10mg/3ml)を3ml/kg、ゾンデを用いて経口投与し、経時的にセサミン類の血中濃度を測定した。
【0056】
結果を図6、7に示す。セサミン類混合物とビタミンCを同時に摂取してもセサミン類の吸収・消失になんら影響は認められず、セサミン類混合物単独で投与した場合と同様の血中濃度推移を示した(図6)。またセサミンの体内吸収量(AUC)は、ビタミンCを併用してもコントロールの1.00倍にとどまり、なんら影響は認められなかった(図7)。
【0057】
本実施例の結果より、セサミン類の体内吸収量を増加させる作用は水溶性抗酸化剤全般に見られる作用ではなく、ケルセチン配糖体に特有の作用であることが示唆された。
実施例3及び4に示した通り、構造及び作用の面でケルセチン配糖体に類似した化合物に関してセサミン類吸収向上作用を検証したが、当該作用はケルセチン配糖体に特有のものであることが示された。
【0058】
実施例5:処方例
(製剤例1)顆粒剤
セサミン 10g
ケルセチン配糖体 50g(ケルセチン換算値20g)
酢酸トコフェロール 0.5g
無水ケイ酸 41g
トウモロコシデンプン 98.5g
以上の粉体を均一に混合した後に10%のハイドロキシプロピルセルロース・エタノール溶液100mlを加え、常法通り練和し、押し出し、乾燥して顆粒剤を得た。
(製剤例2)カプセル剤
ゼラチン 60.0%
グリセリン 30.0%
パラオキシ安息香酸メチル 0.15%
パラオキシ安息香酸プロピル 0.51%
水 適量
上記成分からなるソフトカプセル剤皮の中に、以下に示す組成物を常法により充填し、1粒360mgのソフトカプセルを得た。
【0059】
セサミン 3.5mg
ケルセチン配糖体 10mg(ケルセチン換算値4.1mg)
ビタミンE 35mg
グリセリン脂肪酸エステル 15.0mg
ミツロウ 15.0mg
小麦胚芽油 219.4mg
(製剤例3)錠剤
セサミン 10g
ケルセチン配糖体 90g(ケルセチン換算値36.7g)
ビタミンE 50g
デンプン 142g
ショ糖脂肪酸エステル 9.0g
酸化ケイ素 9.0g
これらを混合し、単発式打錠機にて打錠して径9mm、質量300mgの錠剤を製造した。
(製剤例4)ドリンク剤
呈味: DL−酒石酸ナトリウム 0.1g
コハク酸 0.009g
甘味:液糖 800g
酸味:クエン酸 12g
ビタミンC 10g
セサミン 1g
ケルセチン配糖体 24.5g(ケルセチン換算値10g)
ビタミンE 20g
シクロデキストリン 5g
乳化剤 5g
香料 15ml
塩化カリウム 1g
硫酸マグネシウム 0.5g
上記成分を配合し、水を加えて10リットルとした。このドリンク剤は、1回あたり約100mlを飲用する。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】図1は、セサミン類混合物単独またはセサミン類混合物とケルセチン配糖体を同時に投与した場合のラットの血中セサミン濃度および血中エピセサミン濃度の総和(セサミン+エピセサミン濃度)の経時変化を示す。
【図2】図2は、セサミン類の体内吸収量(AUC)に及ぼすケルセチン配糖体45mg/kg及び150mg/kg(ケルセチン換算量としてそれぞれ18.3mg/kg及び61.1mg/kg)の効果を示す。
【図3】図3は、セサミン類の体内吸収量(AUC)に及ぼすケルセチン配糖体5mg/kg及び15mg/kg(ケルセチン換算量としてそれぞれ2.0mg/kg及び6.1mg/kg)の効果を示す。
【図4】図4は、セサミン類混合物単独およびセサミン類とフラボノイド配糖体を同時に投与した場合のラットの血中セサミン濃度および血中エピセサミン濃度の総和(セサミン+エピセサミン濃度)の経時変化を示す。
【図5】図5は、セサミン類の体内吸収量(AUC)に及ぼす各種フラボノイド配糖体の影響を示す。
【図6】図6は、セサミン類混合物単独およびセサミン類とビタミンCを同時に投与した場合のラットの血中セサミン濃度および血中エピセサミン濃度の総和(セサミン+エピセサミン濃度)の経時変化を示す。
【図7】図7は、セサミン類の体内吸収量(AUC)にビタミンCが影響を及ぼさないことを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セサミン類とケルセチン配糖体とを含有する組成物。
【請求項2】
前記セサミン類の総重量を1とした場合の前記ケルセチン配糖体の総重量が、ケルセチン換算値で0.3以上である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
セサミン類が、セサミンおよび/またはエピセサミンである、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ケルセチン配糖体が、式(II):
【化1】

(式中、mは0又は1以上の整数である)で表される、ケルセチンの3位にグルコース1つがβ結合したイソクエルシトリン、及びイソクエルシトリンのグルコース残基に、さらに1つ以上のグルコースがα−1,4結合で付加したα−グリコシルイソクエルシトリンから選択される少なくとも一種の化合物である、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
飲食品である請求項1〜4に記載の組成物。
【請求項6】
ケルセチン配糖体を有効成分として含む、セサミン類の体内吸収促進剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−155312(P2009−155312A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−338853(P2007−338853)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(309007911)サントリーホールディングス株式会社 (307)
【Fターム(参考)】