説明

セラミックス原料組成物

【課題】高い抗折強度と高い反射率を有し、かつ、ガラス相の結晶化率が低い、低温焼成ガラスセラミックス基板用のガラスセラミックス原料組成物を提供すること。
【解決手段】20〜50質量%のホウケイ酸系ガラス粉末と25〜55質量%のアルミナフィラー粉末と、10〜45質量%の高屈折率フィラー粉末とを含み、前記ホウケイ酸系ガラス粉末が、酸化物換算で、SiOを30〜70質量%、Bを5〜28質量%、Alを5〜30質量%、CaOを3〜35質量%、SrOを0〜25質量%、BaOを0〜25質量%、NaOを0〜10質量%、KOを0〜10質量%、NaO+KOを0.5〜10質量%、CaO+SrO+BaOを5〜40質量%、3B+2(CaO+SrO+BaO)+10(NaO+KO)を105〜165含有することを特徴とするセラミックス原料組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセラミックス原料組成物およびこのセラミックス原料組成物を用いて構成されるセラミックス基板(以下、単に「基板」とすることもある。)に関する。特に、高い抗折強度と高い反射率を有するセラミックス基板用のセラミックス原料組成物およびこのセラミックス基板を用いた発光ダイオード素子搭載用パッケージに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、発光ダイオード(以下、LEDと記すことがある。)素子の高輝度化、高効率化に伴い、携帯電話や大型液晶TV等のバックライト、あるいは一般照明などにLED素子を用いた発光装置が使われるようになってきた。それに伴い、近年、LED素子周辺の部材についてもより高性能なものが求められるようになってきている。例えば、LED素子を搭載するパッケージ用材料としては、従来、樹脂をベースとする材料が使用されてきたが、LED素子の高輝度化に伴い、樹脂がLED素子からの熱や光により劣化するという問題が生じ、近年、セラミックスに代表される無機材料が使われるようになってきている。
【0003】
セラミックスからなるパッケージとしては、従来配線基板に使用されてきた、アルミナ基板や窒化アルミニウム基板があげられる。これらは、樹脂パッケージと比較すると、熱や光に対する耐久性が高く、この点においては、LED素子パッケージとして有望である。しかしながら、一方で、これらの素材は、従来の樹脂パッケージと比較して、反射率が低い。反射率が低いとLED素子からの光が基板の後方へ漏れてしまい、前方の光度が下がってしまうため問題である。また、これらの基板は難焼結性であるため1500℃を超える高温焼成が必要であり、プロセスコストが高くなるという問題もある。
【0004】
そこで、このような問題を解決するために、LED素子パッケージとして低温同時焼成セラミックス(以下、LTCCと記すことがある。)基板が使われるようになってきた。LTCCは、一般的に、ガラスとアルミナ等のセラミックスフィラーからなる複合物で、ガラスの低温流動性を用いて焼結するため、従来のセラミックス基板と比較して低い温度で焼結可能である。一般的には、850℃から900℃程度の温度で焼成可能であり、Ag導体と同時に焼成できるため、従来のセラミックスよりもコストが低い。また、ガラスとセラミックス粒子の界面で光が拡散反射し、アルミナ基板や、窒化アルミニウム基板と比較すると、高い反射率を有しているという特徴を持つ。さらに、LTCCは、無機物で構成されているため、熱や光に対する耐久性も高い。
【0005】
ところが、一般的にLTCC基板には、アルミナ基板や窒化アルミニウム基板と比較して、抗折強度が弱いという問題がある。LED素子パッケージに加工される際、LTCC基板は、切れ目を入れた部分を折り曲げて切断するか、あるいはダイヤモンド砥石でいわゆるダイシングすることにより切断される。このとき一緒に基板自体が割れたり、チッピング(欠け)が起きるとパッケージが破損することになり、歩留りが低下しコストが上昇する。このため基板の抗折強度が大きいこと、典型的には250MPa以上であることが求められている。なお、抗折強度は通常アルミナ基板で400MPa、窒化アルミ基板で300MPaである。また、従来のLTCCの反射率は、アルミナ基板や窒化アルミニウム基板の反射率よりは高いが、樹脂基板の反射率よりは低い。近年、LEDの性能の向上とともに、従来のLTCCよりもさらに高い反射率も求められるようになっている。
【0006】
また、LED素子パッケージ用セラミックス基板には、高い耐酸性を求められることがある。例えば、LED素子パッケージ用セラミックス基板は、その外表面上に外部配線導体を備えることが多いが、この配線導体を保護する目的で、めっき処理を施すことがある。このめっき処理工程において、セラミックス基板は、一般に強い酸性のめっき液に浸漬されるため、めっき処理工程が必要な場合には、LED素子パッケージ用セラミックス基板に高い耐酸性が求められる。
【0007】
特許文献1に記載のLTCCは、Si−B−Al−Ca系のガラスとアルミナフィラーからなる、従来の配線基板用のLTCCである。抗折強度が比較的高く、300MPaを超えている。しかしながら、これらのLTCCは、樹脂パッケージと比較すると反射率が低く、LEDパッケージ用途としては、さらに高い反射率が必要である。
【0008】
一方、特許文献2では、Si−B−Al−Ca系のLTCCに高屈折率を有するセラミックスフィラーを加えることで反射率の向上を試みている。高屈折率を有するセラミックスフィラーは、ガラスとの屈折率差が大きいため、ガラス−セラミックス界面の拡散反射が大きくなり、その結果、基板の反射率が向上する。しかしながら、一般的に、LTCCに、チタニア、ジルコニア等の高屈折率セラミックスフィラーを含有させると、LTCCの焼結性が下がり、その結果、焼結不足になり抗折強度が低下する。特許文献2に記載のLTCCでは、高屈折率セラミックスフィラーとしてチタニアフィラーが使用されているが、抗折強度低下と反射率向上のバランスの観点から、その量は10質量%以下に限定されている。LED素子パッケージ用途としては、高い抗折強度を維持しつつ、さらに反射率を向上させることが必要である。
【0009】
特許文献3は、従来の配線基板用のLTCCであるが、これらのLTCCは、高屈折率であるジルコニアフィラーを含み、しかも抗折強度も高い。しかしながら、これらのLTCCは、ガラス相を結晶化させることで高強度化を実現している。一般にガラス相を結晶化させるタイプのLTCCは、表面と裏面で結晶析出量の差異が生じたり、配線部材との界面で結晶が多量に析出したりし、基板が反る等の問題が生じやすい。基板の反りは、基板の厚みや形状に依存するため、様々な形状のパッケージデザインの需要が予測されるLEDパッケージ用途としては、ガラス相の結晶化度は低いほうが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−206378
【特許文献2】特開2007−129191
【特許文献3】特開1999−043369
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
高い抗折強度と高い反射率を有し、かつ、ガラス相の結晶化率が低い、低温焼成ガラスセラミックス基板用のガラスセラミックス原料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意検討を重ねた結果、SiO−Al−B−CaO系のある特定のガラス組成とアルミナフィラーと高屈折率フィラーを組み合わせたガラスセラミックス組成物が、高い抗折強度と高い反射率を有し、かつ、ガラス相の結晶化率が低い、低温同時焼成セラミックス基板に適しているガラスセラミックス原料組成物であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、20〜50質量%のホウケイ酸系ガラス粉末と、25〜55質量%のアルミナフィラー粉末と、10〜45質量%の前記アルミナフィラー粉末よりも高屈折率のフィラー粉末(以下、単に「高屈折率フィラー粉末」とする。)とを含み、前記ホウケイ酸系ガラス粉末が、酸化物換算で、SiOを30〜70質量%、Bを5〜28質量%、Alを5〜30質量%、CaOを3〜35質量%、SrOを0〜25質量%、BaOを0〜25質量%、NaOを0〜10質量%、KOを0〜10質量%、NaO+KOを0.5〜10質量%、CaO+SrO+BaOを3〜40質量%を含有し、以下の条件を満たすことを特徴とするセラミックス原料組成物を提供する。
【0014】
前記ホウケイ酸系ガラス粉末中の質量%表記で含有される「Bの含有量の3倍」+「(CaOの含有量+SrOの含有量+BaOの含有量)の2倍」+「(NaOの含有量+KOの含有量)の10倍」の値が、105〜165の範囲内である。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るガラスセラミックス原料組成物を用いると、高い反射率を有するセラミックス基板を作製できる。このセラミックス基板を、LED素子用パッケージとして利用すると、LED素子からの光を効率よく前方に取り出すことができる。また、前記セラミックス基板は、抗折強度が非常に高く、加工プロセスにおける割れやチッピングが少ない。また、本発明に係るガラスセラミックス原料組成物を用いると、比較的低い焼成温度(典型的には850℃〜900℃)で反り等の小さい前記セラミックス基板を得ることができ、Ag導体と同時に焼結することができるため、前記LED素子用パッケージを安価に量産することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらに限定されない。本発明におけるガラスセラミックス組成物(以下、単に「本発明の組成物」という。)は、通常前記ホウケイ酸系ガラス(以下、本発明の組成物に用いられるこのガラスを「本発明のガラス」という。)の粉末とアルミナフィラー粉末と高屈折率フィラー粉末(典型的には、チタニアフィラー、ジルコニアフィラー等)からなる。なお、アルミナフィラー粉末の屈折率は1.8程度であり、一方、チタニアフィラー粉末、ジルコニアフィラー粉末の屈折率はそれぞれ2.7、2.2程度である。本発明の組成物は、通常、グリーンシート化して使用される。
【0017】
すなわち、まず本発明の組成物とポリビニルブチラールやアクリル樹脂等の樹脂と、必要に応じてフタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ブチルベンジル等の可塑剤等も添加して混合する。次に、トルエン、キシレン、ブタノール等の溶剤を添加してスラリーとし、ポリエチレンテレフタレート等のフィルム上にドクターブレード法等によってこのスラリーをシート状に成形する。最後に、このシート状に成形されたものを乾燥して溶剤を除去しグリーンシートとする。これらグリーンシートには必要に応じて、Agペースト、Ag導体等を用いてスクリーン印刷等によって配線パターンや貫通導体であるビアなどが形成される。また、Agで形成された配線等を保護するためのオーバーコートガラスをスクリーン印刷等によって形成することも場合によっては可能である。
【0018】
前記グリーンシートは、焼成後所望の形状に加工されて基板とされる。この場合、被焼成体は1枚または複数枚の同じグリーンシートを重ねたものである。なお、該基板は本発明のLED素子パッケージ用の基板であり、前記焼成は典型的には850〜900℃に20〜60分間保持して行われる。より典型的な焼成温度は860〜880℃である。
【0019】
なお、Agペースト等と同時に焼成して配線パターンや貫通導体を焼成体すなわち基板の内部に形成する場合、焼成温度は880℃以下であることが好ましい。880℃超では焼成時に銀またはAg含有導体が軟化し配線パターンや貫通導体の形状が保持できなくなるおそれがある。より好ましくは870℃以下である。
【0020】
本発明の組成物は、本発明のガラスの粉末を20〜50質量%、アルミナフィラー粉末を25〜55質量%、高屈折率フィラー粉末を10〜45質量%含有することが好ましい。
【0021】
本発明のガラスの粉末の含有量が20質量%未満であると、焼成不足になり緻密な基板を得ることが困難になるおそれがある。好ましくは25質量%以上、より好ましくは30質量%以上である。また、50質量%超であると基板の抗折強度が不足するおそれがある。好ましくは47%以下、より好ましくは45%以下である。
【0022】
アルミナフィラー粉末は基板の抗折強度を高くする成分である。その含有量は、25質量%未満であると、所望の抗折強度を実現するのが困難になる。好ましくは30%以上、より好ましくは35質量%以上である。一方、アルミナフィラー粉末の含有量が55質量%超えであると、焼成不足になり緻密な基板を得ることが困難になる、または基板表面の平滑性が損なわれるおそれがある。好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下である。
【0023】
高屈折率フィラー粉末は、基板の反射率を向上させるための成分である。高屈折率フィラー粉末が、10質量%未満であると、所望の反射率を実現するのが困難になる。好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上である。一方、高屈折率フィラー粉末が45質量%超であると、焼成によって緻密な基板を得ることが困難になる。好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下である。
【0024】
高屈折率フィラー粉末によって十分な反射率を得るためには、高屈折率フィラー粉末とガラス粉末の屈折率差が0.4以上であることが好ましい。本発明のガラスの屈折率はおおよそ1.5〜1.6程度である。従って、前記高屈折率フィラーの屈折率は1.95を超えることが好ましい。より好ましくは2.0以上、さらに好ましくは2.05以上である。なおここでいう屈折率は波長460nmの光に対する屈折率のこととする。
【0025】
本発明の組成物の成分である高屈折率フィラー粉末は、典型的にはチタニア、ジルコニア、安定化ジルコニア等であるが、屈折率が1.95を超えるものであれば、これに限定されない。チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カリウム、等に代表されるチタン化合物や、あるいは、チタンやジルコニアを主成分とするその他の複合材でもかまわない。また、その50%粒径(D50)については0.05〜5μmであることが好ましい。D50が0.05μm未満では、光の波長(本発明では460nm)よりも粉体の大きさが小さくなりすぎるため、十分な反射率を得ることが困難になる。D50はより好ましくは0.1μm以上、さらに好ましくは0.15μm以上である。また、D50が5μm超になると、粉体が光の波長よりも大きくなりすぎるために、十分な反射率を得るのが困難になる。より好ましくは、3μm以下であり、さらに好ましくは1.5μm以下である。なお、本明細書でのD50はレーザ回折散乱法で測定した値である。
【0026】
一般的に工業的に入手可能な高屈折率フィラー粉末の中には、非常に小さい1次粒子(典型的には0.05μm以下)が凝集することにより比較的大きな2次粒子(典型的には0.05μm〜5μm程度)を形成しているものもあるが、このような場合、所望の反射率を達成するために重要なのは、1次粒子径ではなく2次粒子径である。すなわち、高屈折率フィラー粉末が、凝集粉からなる場合には、所望の反射率を達成するためには、凝集粉のD50が0.05〜5μmであることが好ましい。D50はより好ましくは0.1μm以上、さらに好ましくは0.15μm以上である。また、D50は5μm超でも十分な反射率を得るのが困難になる。より好ましくは、3μm以下であり、さらに好ましくは1.5μm以下である。なお、上記凝集粉のD50は、凝集していない粉のD50と同様、レーザ回折散乱法で測定した値である。
【0027】
アルミナフィラー粉末のD50は0.3〜5μmであることが好ましい。D50が0.3μm未満では十分な抗折強度を達成するのが困難になる。D50はより好ましくは0.6μm以上、さらに好ましくは1.5μm以上である。一方、D50は5μm超では、基板表面の平滑性が損なわれる、あるいは、緻密な焼成体を得るのが困難になる。より好ましくは、4μm以下であり、さらに好ましくは3μm以下である。
【0028】
本発明のガラスの粉末は通常、溶融法によって得られたガラスを粉砕して製造される。粉砕の方法は本発明の目的を損なわないものであれば限定されず、乾式粉砕でもよいし湿式粉砕でもよい。湿式粉砕の場合には溶媒として水を用いることが好ましい。また粉砕にはロールミル、ボールミル、ジェットミル等の粉砕機を適宜用いることができる。ガラスは粉砕後、必要に応じて乾燥され、分級される。
【0029】
本発明のガラス粉末のD50は0.5〜5μmであることが好ましい。D50が0.5μm未満になると、工業的に製造する場合に、コストが高くなる。D50はより好ましくは0.8μm以上、さらに好ましくは1.5μm以上である。D50が5μm超になると焼成によって緻密な焼成体を得ることが困難になる。より好ましくは4μm以下、さらに好ましくは3μm以下である。
【0030】
次に、本発明のガラスの成分について説明する。
SiOはガラスを安定化する成分であり必須である。SiOは30質量%以上であることが好ましい。30質量%未満では安定なガラスを得にくくなり、焼成時に結晶が析出し、基板が反りやすくなる。SiOは、より好ましくは35質量%以上である。一方、SiOは70質量%以下であることが好ましい。65質量%超では溶解性が悪化し、均質なガラスを安価に生産することが困難になる。SiOは、より好ましくは63質量%以下である。
【0031】
はガラスの焼結性を促進する成分であり必須である。Bは5質量%以上であることが好ましい。5質量%未満では焼結性不足となり、緻密な基板を得るのが困難になる。Bは、より好ましくは5.5質量%以上、さらに好ましくは6.0質量%以上である。一方Bは28質量%以下であることが好ましい。28質量%超では、溶解時にガラスが分相しやすくなる。分相しやすいガラスは、安定な量産に適さない。Bは、より好ましくは24質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下である。
【0032】
Alはガラスを安定化するための成分であり必須である。Alは5質量%以上であることが好ましい。Alが5質量%未満ではガラスが分相しやすくなる。より好ましくは6質量%以上、さらに好ましくは7質量%以上である。一方、Alは30質量%以下であることが好ましい。Alが30質量%超では焼成時にアノーサイト(SiO−Al−CaO)に代表される結晶が析出し、焼成時に基板が反りやすくなる。Alは、より好ましくは25質量%未満、さらに好ましくは23質量%未満である。
【0033】
CaOはガラスの溶融温度を低下させるとともに、焼結性を促進する成分であり必須である。CaOは3質量%以上であることが好ましい。CaOが3質量%未満では焼結不足となり、緻密な基板を得ることが困難になる。CaOはより好ましくは4質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上である。一方CaOは35質量%以下であることが好ましい。35質量%超では、アノーサイト(SiO−Al−CaO)に代表される結晶が析出し、焼成時に基板が反りやすくなる。より好ましくは32質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。
【0034】
SrO、BaOはCaOと同様、溶融温度を低下させるとともに焼結性を促進するする成分であり、CaOの一部をSrOやBaOに置換することが可能である。ただし、これらの成分は、CaOと比較すると、結晶化を促進する傾向が強いため、CaOの一部をSrOやBaOに置換する場合、SrO、BaOはそれぞれ25質量%以下でなければならない。より好ましくは、SrO、BaOは、それぞれ22質量%以下、17質量%以下である。
【0035】
CaO+SrO+BaO(以下、ROと記すことがある。)は3質量%以上であることが好ましい。ROが3質量%未満になると、焼結性不足となり、緻密な基板を得ることが困難になる。ROはより好ましくは7質量%以上であり、さらに好ましくは10質量%以上である。また、ROは40質量%以下であることが好ましい。ROが40質量%超では、焼成時に結晶が析出し、基板が反りやすくなる。ROは35質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。
【0036】
NaOおよびKOは焼結性を向上させる成分であり、少なくともいずれか一方を含有しなければならない。その合計NaO+KO(以下、ROと記すことがある。)は0.5質量%以上であることが好ましい。ROが0.5質量%未満では、ガラスの溶融性または焼結性が悪化するおそれがある。ROはより好ましくは0.6質量%、さらに好ましくは0.8質量%以上である。一方、ROは10質量%以下であることが好ましい。ROが10質量%超では結晶化が生じやすく、また、焼成体の電気絶縁性が低下するおそれがある。より好ましくは9質量%以下、さらに好ましくは8質量%以下である。
【0037】
NaOの好ましい範囲は0〜10質量%である。NaOが10質量%超では焼成時に結晶化が生じやすく、また、焼成体の電気絶縁性が低下するおそれがある。より好ましくは9質量%以下、さらに好ましくは8質量%以下である。KOの好ましい範囲は0〜10質量%である。KOが10質量%超では焼成時に結晶化あるいは分相が生じやすく、また、焼成体の電気絶縁性が低下するおそれがある。より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは2.5質量%以下である。
【0038】
Feは、実質的に含有しないことが好ましい。Feを含有する場合には、その量は0.05質量%以下でなければならない。0.05質量%超では、Feが460nmの光を吸収し、この波長における反射率が低下する。より好ましくは0.04質量%以下であり、さらに好ましくは0.03質量%以下である。
【0039】
本発明者は、高い抗折強度と高い反射を有し、かつ結晶化度の低く、安定量産可能なLTCCを実現するためには、B、RO、ROの成分比が非常に重要であることを見出した。以下にそのコンセプトを記す。まず、LTCCの高反射化を実現するためには、ジルコニアやチタニアなどの高屈折率フィラー粉末をLTCCに添加する必要がある。しかしながら、一般的にこれらの高屈折率フィラー粉末を添加するとLTCCの焼結性が下がり、焼結不足となり、抗折強度が低下する。
【0040】
そこで、本発明では、B、RO、RO等の焼結性が上がる成分を従来のガラス組成よりも増加させることを試みた。所望の焼結性を得るためには、これらの成分の総和は十分に大きくなければならない。しかしながら、ある特定の成分のみを増加させると、ガラスが焼成時に結晶化しやすくなったり、あるいは、溶解時に分相しやすくなったりする。また、化学的耐久性が著しく劣化する懸念もある。
【0041】
したがって、所望の特性を得るためには、B、RO、ROの各成分を、バランスよく増加させ、焼結性を効率よく向上させることが必要である。そこで、本発明者は、まず、B、RO、ROの各成分が焼結性に与える影響度を実験的に調べた。その結果、本発明者は、これらの成分の焼結性に与える影響度の比率がおおよそB:RO:RO=3:2:10であることを突き止め、3B+2RO+10ROを焼結性の指標に用いることが可能であることを見出した。本発明のガラス組成は、従来の非晶質LTCC用のガラス組成よりも3B+2RO+10ROの値が大きく、焼結性が改善されているものである。
【0042】
3B+2RO+10ROの大きさは、ガラス組成中に質量%表記で含有される含有量を基にして算出される数値である。この値は105以上であることが好ましい。3B+2RO+10ROの大きさが105未満になると、焼結不足になり強度が低下する。より好ましくは112以上であり、さらに好ましくは114以上である。一方、3B+2RO+10ROの値が165を超えると焼成時にガラスが結晶化しやすくなる、あるいは溶解時にガラスが分相しやすくなる。3B+2RO+10ROの値はより好ましくは、155以下であり、さらに好ましくは150以下である。
【0043】
本発明のガラスは本質的に上記成分からなるが、本発明の目的を損なわない範囲でその他の成分を含有してもよい。例えば、NaO、KOの代わりに、必要に応じてLiOを使用することもできる。この場合、LiOは8質量%以下であることが好ましい。LiOが8質量%を越えると分相しやすくなる。より好ましくは6質量%以下、さらに好ましくは4質量%以下である。また、CaO、SrO、BaOの代わりにMgO、ZnOを使用することも可能である。この場合、MgO、ZnOはそれぞれ10質量%以下であることが好ましい。MgO、ZnOが10質量%を超えると、焼成時に結晶が析出しやすくなる。より好ましくはそれぞれ5質量%以下、さらに好ましくはそれぞれ2質量%以下である。また、化学的耐久性を向上させる目的で、ZrO、La、Gd等を含有させることもできる。この場合、これらの成分は10質量%以下であることが好ましい。より好ましくは7質量%、さらに好ましくは5質量%以下である。なお、環境への負荷を考慮して本発明のガラスはPbOを含有しない。
【0044】
また、上記したように、本発明のガラスには、高い耐酸性を要求される場合がある。このような場合には、酸化物換算で、SiOを55超〜70質量%、Bを5〜15質量%、Alを5〜15質量%、CaOを3〜20質量%、SrOを0〜10重量%、BaOを0〜10重量%、NaOを0〜10質量%、KOを0〜10質量%、CaO+SrO+BaOを3〜20質量%、NaO+KOを4〜10質量%を含有し、かつ、質量%表記で含有される「Bの含有量の3倍」+「(CaO+SrO+BaOの含有量)の2倍」+「(NaOの含有量+KOの含有量)の10倍」の値が、105〜140の範囲内であることを特徴とするガラスが好ましい。このようなガラスを以下、「本発明のガラスA」と記す。
【0045】
また、高い耐酸性が要求されない場合には、ガラスの溶解性等の量産性の観点から、SiOを30〜55質量%、Bを10〜28質量%、Alを5〜30質量%、CaOを3〜35質量%、SrOを0〜25質量%、BaOを0〜25質量%、NaOを0〜10質量%、KOを0〜10質量%、NaO+KOを0.5〜10質量%、CaO+SrO+BaOを10〜40質量%を含有し、かつ、質量%表記で含有される「Bの含有量の3倍」+「(CaO+SrO+BaOの含有量)の2倍」+「(NaOの含有量+KOの含有量)の10倍」の値が、105〜165の範囲内であることを特徴とするガラスが好ましい。このようなガラスを以下、「本発明のガラスB」と記す。
【0046】
以下に「本発明のガラスA」のコンセプトについて記す。まず、耐酸性の向上に最も重要な成分は、SiOである。耐酸性の高いガラスを実現するためには、できるだけSiOを増やす必要がある。ところが、SiOの量が増えすぎると、3B+2RO+10ROの値が小さくなり、焼結性が悪化し、その結果、高い抗折強度を維持するのが困難になる。従って、高い耐酸性と高い抗折強度を両立するために、SiOの量を増やしつつ、3B+2RO+10ROの値を大きくする必要がある。B+2RO+10ROの値を大きくするためには、Bの増量、ROの増量、ROの増量の3種類の方法が考えられるが、ROの増量が最も好ましい。なぜなら、焼結性への影響度が比較的小さいBやROの増量により所望の焼結性を得るためには、これらの成分を多量に増量する必要があり、その結果、SiOの量が相対的に減少し、耐酸性が悪化してしまうためである。つまり、「本発明のガラス」の組成範囲の中で、特に、SiO、ROが多く、B、ROが少ない組成系のガラスが「本発明のガラスA」となる。
【0047】
以下に、「本発明のガラスA」の各成分について記す。
【0048】
SiOは耐酸性を向上する成分であり必須である。SiOは55質量%を超えて含有することが好ましい。SiOが55質量%以下では、所望の耐酸性を得ることが困難になる。より好ましくは57質量%以上、さらに好ましくは、58質量%以上である。一方、SiOは70質量%以下であることが好ましい。70質量%超では溶解性が悪化し、均質なガラスを安価に生産することが困難になる。SiOは、より好ましくは65質量%以下、さらに好ましくは63質量%以下である。
【0049】
はガラスの焼結性を促進する成分であり必須である。Bは5質量%以上であることが好ましい。5質量%未満では焼結性不足となり、緻密な基板を得るのが困難になる。Bは、より好ましくは5.5質量%以上、さらに好ましくは6.0質量%以上である。一方Bは15質量%以下であることが好ましい。Bは、15質量%超では、所望の耐酸性を得るのが困難になる。より好ましくは13質量%以下、さらに好ましくは10.5質量%以下である。
【0050】
Alはガラスを安定化するための成分であり必須である。Alは5質量%以上であることが好ましい。Alが5質量%未満ではガラスが分相しやすくなる。分相するガラスは安定な量産に適さない。Alは、より好ましくは6質量%以上である。一方、Al15質量%以下であることが好ましい。Alが15質量%超では所望の耐酸性を得ることが困難になる。Alはより好ましくは13質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0051】
CaOはガラスの溶融温度を低下させるとともに、焼結性を促進する成分であり必須である。CaOは3質量%以上であることが好ましい。CaOが3質量%未満では焼結性不足となり、緻密な基板を得ることが困難になる。CaOはより好ましくは7質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上である。一方CaOは20質量%以下であることが好ましい。20質量%超では、所望の耐酸性を得ることが困難になる。より好ましくは18質量%以下、さらに好ましくは17質量%以下である。
【0052】
SrO、BaOはCaOと同様、溶融温度を低下させるとともに焼結性を促進するする成分であり、CaOの一部をSrOやBaOに置換することが可能である。ただし、これらの成分は、CaOと比較すると、耐酸性を悪化させる傾向にあるため、CaOの一部をSrOやBaOに置換する場合、SrO、BaOはそれぞれ10質量%以下でなければならない。より好ましくは、SrO、BaOは、それぞれ5質量%以下、さらに好ましくはそれぞれ3質量%以下である。
【0053】
CaO+SrO+BaO(以下、ROと記すことがある。)は3質量%以上であることが好ましい。ROが3質量%未満になると、焼結性不足となり、緻密な基板を得ることが困難になる。ROはより好ましくは7質量%以上であり、さらに好ましくは10質量%以上である。また、ROは20質量%以下であることが好ましい。ROが20質量%超では、所望の耐酸性を得ることが困難になる。ROは19質量%以下であることがより好ましく、18質量%以下であることがさらに好ましい。
【0054】
NaOおよびKOは焼結性を向上させる成分であり、少なくともいずれか一方を含有しなければならない。その合計NaO+KO(以下、ROと記すことがある。)は4.0質量%以上であることが好ましい。ROが4.0質量%未満では、ガラスの溶融性または焼結性が悪化するおそれがある。ROはより好ましくは5.0質量%、さらに好ましくは6.0質量%以上である。一方、ROは10質量%以下であることが好ましい。ROが10質量%超では結晶化が生じやすく、また、焼成体の電気絶縁性が低下するおそれがある。より好ましくは9質量%以下、さらに好ましくは8質量%以下である。
【0055】
NaOの好ましい範囲は0〜10質量%である。NaOが10質量%超では焼成時に結晶化が生じやすく、また、焼成体の電気絶縁性が低下するおそれがある。より好ましくは9質量%以下、さらに好ましくは8質量%以下である。KOの好ましい範囲は0〜10質量%である。KOが10質量%超では焼成時に結晶化が生じやすく、また、焼成体の電気絶縁性が低下するおそれがある。より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは2.5質量%以下である。
Feは、実質的に含有しないことが好ましい。Feを含有する場合には、その量は0.05質量%以下でなければならない。0.05質量%超では、Feが460nmの光を吸収し、この波長における反射率が低下する。より好ましくは0.04質量%以下であり、さらに好ましくは0.03質量%以下である。
【0056】
3B+2RO+10ROは105〜140であることが好ましい。3B+2RO+10ROの大きさが105未満になると、焼結不足になり強度が低下する。より好ましくは112以上であり、さらに好ましくは114以上である。一方、3B+2RO+10ROの値が140を超えると、本発明のガラスAにおいては焼成時にガラスが結晶化しやすくなる、あるいは溶解時にガラスが分相しやすくなる。3B+2RO+10ROの値はより好ましくは、130以下であり、さらに好ましくは125以下である。
【0057】
次に「本発明のガラスB」について記す。高い耐酸性が特に求められない「本発明のガラスB」ではSiOの量を「本発明のガラスA」と比較して減らすことができる。また、SiOを減らすことにより、ガラスの溶解性が向上し、より安価に均質なガラスを生産することが可能となる。ガラスの溶解性の観点から、SiOは55質量%以下であることが好ましい。SiOは、より好ましくは54質量%以下である、さらに好ましくは53質量%以下である。また、SiOは30質量%以上であることが好ましい。30質量%未満では安定なガラスを得にくくなり、焼成時に結晶が析出し、基板が反りやすくなる。SiOは、より好ましくは35質量%以上である。
はガラスの焼結性を促進する成分であり必須である。Bは10質量%以上であることが好ましい。Bは、より好ましくは11質量%以上、さらに好ましくは12質量%以上である。一方Bは28質量%以下であることが好ましい。28質量%超では、溶解時にガラスが分相しやすくなる。分相しやすいガラスは、安定な量産に適さない。Bは、より好ましくは24質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下である。
【0058】
Alはガラスを安定化するための成分であり必須である。Alは5質量%以上であることが好ましい。Alが5質量%未満ではガラスが分相しやすくなる。より好ましくは6質量%以上、さらに好ましくは7質量%以上である。一方、Alは30質量%以下であることが好ましい。Alが30質量%超では焼成時にアノーサイト(SiO−Al−CaO)に代表される結晶が析出し、焼成時に基板が反りやすくなる。Alは、より好ましくは25質量%未満、さらに好ましくは23質量%未満である。
【0059】
CaOはガラスの溶融温度を低下させるとともに、焼結性を促進する成分であり必須である。CaOは3質量%以上であることが好ましい。CaOが3質量%未満では焼結不足となり、緻密な基板を得ることが困難になる。CaOはより好ましくは4質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上である。一方、CaOは35質量%以下であることが好ましい。35質量%超では、アノーサイト(SiO−Al−CaO)に代表される結晶が析出し、焼成時に基板が反りやすくなる。より好ましくは32質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。
【0060】
SrO、BaOはCaOと同様、溶融温度を低下させるとともに焼結性を促進するする成分であり、CaOの一部をSrOやBaOに置換することが可能である。ただし、これらの成分は、CaOと比較すると、結晶化を促進する傾向が強いため、CaOの一部をSrOやBaOに置換する場合、SrO、BaOはそれぞれ25質量%以下でなければならない。より好ましくは、SrO、BaOは、それぞれ22質量%以下、17質量%以下である。
【0061】
CaO+SrO+BaO(以下、ROと記すことがある。)は10質量%以上であることが好ましい。ROはより好ましくは15質量%以上であり、さらに好ましくは17質量%以上である。また、ROは40質量%以下であることが好ましい。ROが40質量%超では、焼成時に結晶が析出し、基板が反りやすくなる。ROは35質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。
【0062】
NaOおよびKOは焼結性を向上させる成分であり、少なくともいずれか一方を含有しなければならない。その合計NaO+KO(以下、ROと記すことがある。)は0.5質量%以上であることが好ましい。ROが0.5質量%未満では、ガラスの溶融性または焼結性が悪化するおそれがある。ROはより好ましくは0.6質量%、さらに好ましくは0.8質量%以上である。一方、ROは10質量%以下であることが好ましい。ROが10質量%超では結晶化が生じやすく、また、焼成体の電気絶縁性が低下するおそれがある。より好ましくは9質量%以下、さらに好ましくは8質量%以下である。
【0063】
NaOの好ましい範囲は0〜10質量%である。NaOが10質量%超では焼成時に結晶化が生じやすく、また、焼成体の電気絶縁性が低下するおそれがある。より好ましくは9質量%以下、さらに好ましくは8質量%以下である。KOの好ましい範囲は0〜10質量%である。KOが10質量%超では焼成時に結晶化あるいは分相が生じやすく、また、焼成体の電気絶縁性が低下するおそれがある。より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは2.5質量%以下である。
【0064】
Feは、実質的に含有しないことが好ましい。Feを含有する場合には、その量は0.05質量%以下でなければならない。0.05質量%超では、Feが460nmの光を吸収し、この波長における反射率が低下する。より好ましくは0.04質量%以下であり、さらに好ましくは0.03質量%以下である。
【0065】
3B+2RO+10ROは105〜165であることが好ましい。3B+2RO+10ROの大きさが105未満になると、焼結不足になり強度が低下する。より好ましくは112以上であり、さらに好ましくは114以上である。一方、3B+2RO+10ROの値が165を超えると焼成時にガラスが結晶化しやすくなる、あるいは溶解時にガラスが分相しやすくなる。3B+2RO+10ROの値はより好ましくは、155以下であり、さらに好ましくは150以下である。
【0066】
表1のSiOからZrOまでの欄に質量%で示す組成となるように原料を調合、混合し、この混合された原料を白金ルツボに入れて1500〜1600℃で60分間溶融後、溶融ガラスを流し出し冷却し表1のA〜Rの組成のガラスブロックを得た。また、得られたガラスの一部をアルミナ製ボールミルで水を溶媒として20〜60時間粉砕して表1のA〜Rに示すガラス粉末を得た。なお、表1のA〜Mは本発明で知見を得た、高い抗折強度と高い反射率を有するLTCC基板用のガラスである。一方、表1のN〜Rは比較用のガラス組成である。N、O、Pはそれぞれ特開2006−206378の試料番号4、6、9に用いられているガラス、Qは特開2007−129191のガラス番号17番のガラス組成、Rは特開2005−179079の実施例2に記載されているガラス組成である。なお、特開2006−206378に記載されている組成については、その成分の合計が100%になっていないため、その成分の合計が100%になるように換算した値を表1に記載している。また、得られたガラス粉末のD50(単位:μm)を、島津製作所社製レーザ回折式粒度分布測定装置(SALD2100)を用いて測定したが、いずれも2.0μmであった。
【0067】
得られたガラスブロックを目視または顕微鏡(倍率100倍)で観察し、分相による白濁が観察されたものについては表1の「分相」の欄に×を、白濁が観察されなかったものについては○を示した。
【0068】
各ガラス粉末の軟化点(℃)をリガク社製熱分析装置TG−8110を用いて昇温速度10℃/分の条件で1000℃まで測定した。その結果を表1の「軟化点」の欄に示す。軟化点は860℃以下であることが好ましい。
【0069】
各ガラス粉末とアルミナフィラー粉末をそれぞれ40g、60g混合した粉末100gを、α−テルピネオール等にエチルセルロースを10質量%溶解した有機ビヒクル35gと混練して、ガラスとアルミナを含むペーストを作製した。このペーストを、大きさが5mm×5mmであるアルミナセラミックス基板上に、焼成後の膜厚が20μmとなるよう均一にスクリーン印刷し、120℃で10分間乾燥した。本実施例では、アルミナ粉末に、昭和電工社のAL47−H(D50=2.1μm)を使用した。
【0070】
上記の方法で得られたアルミナフィラー粉末とガラス粉末を含むペースト乾燥膜の焼成収縮特性を、島津製作所社の熱機械特性分析計TMA−50を用いて昇温速度10℃/分の条件で1000℃まで測定した。その結果得られた収縮曲線から見積もった焼成終了温度を表1の「ガラスーアルミナ複合物収縮終了点(℃)」に示す。ガラスーアルミナ複合物収縮終了点(℃)は、ガラスとアルミナの濡れ性や、あるいはガラスの軟化点など、様々な要因を含んだ、総合的な焼結性を簡易に評価するための値であり、ガラスーアルミナ複合物収縮終了点が低いガラス組成ほど、焼結性が高い。ガラスーアルミナ複合物収縮終了点(℃)は900℃以下であることが好ましい。ガラスーアルミナ複合収縮物終了点が900℃以下であれば、その焼結性が十分に高いため、所望の量の高屈折率フィラー粉末を添加することにより多少焼結性が悪化しても、なお、緻密な焼成基板を得ることができる。一方、ガラスーアルミナ複合物収縮終了点が900℃超であると、その焼結性が不十分であるため、所望の量の高屈折率フィラー粉末を添加することによりさらに焼結性が悪化すると、緻密な焼成基板を得ることが困難になる。
【0071】
表1より、本発明のガラスは3B+2RO+10ROの値が従来のLTCC用ガラスよりも大きく、ガラスーアルミナ複合物収縮終了点(℃)が低い、すなわち焼結性が高いことがわかる。また、比較例であるRのガラスは、Alの量が少なく、ガラス溶解後、冷却する際に分相した。
【0072】
表1で作製したガラス粉末と、部分安定化ジルコニア、チタニア等のセラミックス粉末を表2で示す重量百分率表示で混合した粉末50gに有機溶剤(トルエン、キシレン、2−プロパノール、2−ブタノールを質量比4:2:2:1で混合したもの)15g、可塑剤(フタル酸ジ−2−エチルヘキシル)2.5g、樹脂(デンカ社製ポリビニルブチラールPVK#3000K)5gと分散剤(ビックケミー社製DISPERBYK180)を混合してスラリーとした。このスラリーをPETフィルム上にドクターブレード法を利用して塗布し、乾燥して厚さが0.2mmのグリーンシートを得た。本実施例では、部分安定化ジルコニア粉末としては、第一稀元素化学工業社のHSY−3F−J(D50=0.56μm)を、チタニア粉末には、比較例10を除き、東邦チタニウム社のHT0210(D50=2.3μm)を使用した。比較例10には、東邦チタニウム社のHT1311(D50=0.60μm)を使用した。
【0073】
抗折強度は次のような方法で測定した。すなわち、グリーンシートを6枚積層し、550℃に5時間保持して樹脂成分を分解除去した後、870℃に30分保持する焼成を行って抗折強度測定用焼成体を作製した。この焼成体を切断して厚さが約0.85mm、幅が5mmの短冊状に加工したもの10枚を用いて3点曲げ強度を測定した。スパンは15mm、クロスヘッドスピードは0.5cm/分とした。これら測定結果を表2の強度の欄に示す(単位:MPa)。抗折強度は280MPa以上であることが好ましい。抗折強度はさらに好ましくは300MPa以上である。
【0074】
抗折強度評価に用いたサンプルの一部を研磨し、日立製作所社の電子顕微鏡S−3000Hによって観察したところ、例1〜19のLTCC中のガラス相の結晶化率は、すべてのサンプルで、体積比率で60%以下であった。結晶化率が60%超では、焼成時に反り等の問題が起こりやすくなる。より好ましくは35%以下であり、さらに好ましくは15%以下である。
【0075】
反射率は次のような方法で測定した。すなわち、幅が30mm程度の正方形のグリーンシートを1枚としたもの、2枚積層したもの、3枚積層したものを焼成し、厚みが、140μm、280μm、420μm、程度の3種類の焼成体を得た。得られた3サンプルの反射率を、オーシャンオプティクス社の分光器USB2000と小型積分球ISP−RFを用いて測定し、厚みに関して線形補完することで、厚み300μmの焼成体の反射率(単位:%)を算出した。反射率は波長460nmにおけるものとし、リファレンスとしては硫酸バリウムを使用した。その結果を表2の反射率の欄に示す。反射率は90%以上であることが好ましい。より好ましくは92%以上である。
【0076】
耐酸性は次のような方法で測定した。すなわち、幅が40mm程度の正方形のグリーンシートを6枚積層し、厚さが0.85mm程度の焼成体を得た。まず、得られた焼成体の重量を測定し、その後、得られた焼成体を温度が85℃、PHが1.68のシュウ酸溶液に1時間浸漬した。浸漬後、焼成体を取り出し、超音波洗浄を行った後、120℃で1時間乾燥させ、焼成体の重量を測定した。酸溶液に浸漬する前と浸漬した後の重量を比較し、浸漬前の重量から浸漬後の重量を減じ、さらに焼成体の表面積で除した値を、表2の「耐酸性」の欄に示している。「耐酸性」の値が大きいほど、酸溶液中へのLTCC成分の溶出が大きく、耐酸性が悪いことを示している。実用十分な耐酸性を得るためには、「耐酸性」は1000μg/cm以下であることが好ましい。
【0077】
表2より、本発明のガラスとアルミナフィラー粉末と高屈折率フィラー粉末を混合することによって得られた本発明の実施例である例1〜19では、抗折強度は280Mpa以上、反射率90%以上であることがわかる。例20〜29は比較例を示している。例20〜23は、高屈折率フィラー粉末を含有しない従来のLTCCである。これらのLTCCでは、抗折強度は280Mpa以上と比較的高くすることができるが、反射率を90%以上にすることが困難であることがわかる。また、例24は、特開2007−129191のテープ6に用いられている組成であり、ガラス粉末、チタニアフィラー粉末、アルミナフィラー粉末からなるが、チタニアフィラー粉末の量が10質量%以下であるため、十分な反射率が得られていない。また、抗折強度も低い。また、例25〜28は従来のLTCC用のガラスに、高屈折率フィラー粉末として、部分安定化ジルコニアを添加したものである。反射率は十分に高いが、抗折強度が低いことがわかる。また、例29は、本発明のガラスにチタニアフィラー粉末を加えたものであるが、チタニアフィラー粉末の量が10質量%以下であるため、十分な反射率が得られていないことがわかる。また、特に、例11、16、17は「本発明のガラスA」からなるLTCCであるが、これらのLTCCは、抗折強度は280Mpa以上、反射率90%以上であり、かつ、耐酸性が1000μg/cm以下であることがわかる。
【0078】
なお、本発明で得られるLTCC基板中の非晶質部のガラス組成は、原料として用いるガラス粉末の組成と比較して、アルミナ成分が多くなる。これは、アルミナフィラー粉末から非晶質部にアルミナが溶出するためである。例えば、表3は、例12の組成のLTCC基板の断面から、非晶質部の組成を分析した結果である。アルミナフィラー粉末の溶出により、LTCC基板中の非晶質部の組成中のアルミナ量は、原料として用いたガラス粉の組成と比較して、15質量%程度増加する。また、アルミナ増加に伴って、アルミナ以外の成分は、ほぼ均一に減少する。なお、LTCC断面の組成分析には、日本電子社のフィールドエミッション電子プローブマイクロアナライザ(JXA−8500F)を用いた。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【0081】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0082】
携帯電話や大型液晶TV等のバックライトに利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
20〜50質量%のホウケイ酸系ガラス粉末と、25〜55質量%のアルミナフィラー粉末と、10〜45質量%の前記アルミナフィラー粉末よりも高屈折率のフィラー粉末(高屈折率フィラー粉末)とを含み、前記ホウケイ酸系ガラス粉末が、酸化物換算で、SiOを30〜70質量%、Bを5〜28質量%、Alを5〜30質量%、CaOを3〜35質量%、SrOを0〜25質量%、BaOを0〜25質量%、NaOを0〜10質量%、KOを0〜10質量%、NaO+KOを0.5〜10質量%、CaO+SrO+BaOを3〜40質量%を含有し、以下の条件を満たすことを特徴とするセラミックス原料組成物。
前記ホウケイ酸系ガラス粉末中の質量%表記で含有される「Bの含有量の3倍」+「(CaOの含有量+SrOの含有量+BaOの含有量)の2倍」+「(NaOの含有量+KOの含有量)の10倍」の値が、105〜165の範囲内である。
【請求項2】
前記ホウケイ酸系ガラス粉末が、酸化物換算で、SiOを55超〜70質量%、Bを5〜15質量%、Alを5〜15質量%、CaOを3〜20質量%、SrOを0〜10重量%、BaOを0〜10重量%、NaOを0〜10質量%、KOを0〜10質量%、CaO+SrO+BaOを3〜20質量%、NaO+KOを4〜10質量%を含有し、かつ、質量%表記で含有される「Bの含有量の3倍」+「(CaO+SrO+BaOの含有量)の2倍」+「(NaOの含有量+KOの含有量)の10倍」の値が、105〜140の範囲内である請求項1記載のセラミックス原料組成物。
【請求項3】
前記ホウケイ酸系ガラス粉末が、酸化物換算で、SiOを30〜55質量%、Bを10〜28質量%、Alを5〜30質量%、CaOを3〜35質量%、SrOを0〜25質量%、BaOを0〜25質量%、NaOを0〜10質量%、KOを0〜10質量%、NaO+KOを0.5〜10質量%、CaO+SrO+BaOを10〜40質量%を含有し、かつ、質量%表記で含有される「Bの含有量の3倍」+「(CaO+SrO+BaOの含有量)の2倍」+「(NaOの含有量+KOの含有量)の10倍」の値が、105〜165の範囲内である請求項1記載のセラミック原料組成物。
【請求項4】
前記ホウケイ酸ガラス粉末が、実質的にFeを含有しない、あるいはその含有量が0.05質量%以下である請求項1〜3のいずれかに記載のセラミックス原料組成物。
【請求項5】
焼成することにより得られるセラミックス焼結体中のガラス相の結晶化率が体積比率で60%以下となる請求項1〜4のいずれかに記載のセラミックス原料組成物。
【請求項6】
前記高屈折率フィラー粉末が、屈折率1.95を超えるセラミックスである請求項1〜5のいずれかに記載のセラミックス原料組成物。
【請求項7】
前記高屈折率フィラー粉末が、ジルコニア、安定化ジルコニアまたは部分安定化ジルコニアである請求項6記載のセラミックス原料組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のセラミックス原料組成物を成型し焼成して得られたセラミックス基板と、前記セラミックス基板に関連して形成された配線導体を備える発光ダイオード素子搭載用パッケージ。

【公開番号】特開2011−79704(P2011−79704A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233562(P2009−233562)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】