説明

セラミックス被覆層の分離方法及び分析方法

【課題】酸化雰囲気に活性なセラミックス被覆層についても単独で分離し、定比性を求めることができる方法を提供する。
【解決手段】少なくとも核、セラミックス被覆層及び除去層を含むセラミックス被覆粒子から前記核を除去する除去工程(S1)、前記核を除去した前記セラミックス被覆層及び前記除去層を研磨材より研磨する研磨工程(S2)、及び、前記セラミックス被覆層と前記除去層及び前記研磨材とを溶液中で分離する重液分離工程(S3)を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温ガス炉燃料の性能等を評価する上で有用なセラミックス被覆層の分離方法及び分析方法に係り、更に詳しくは、セラミックス多重被覆粒子を研磨、重液分離によりセラミックス被覆層を分離する方法、分離後さらに元素分析を行うことによりセラミックス被覆層の定比性を求める分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高温ガス炉燃料は、一般に、多重被覆粒子、燃料要素及び燃料体から構成される。多重被覆粒子は、一般に、燃料核に熱分解炭素、炭化ケイ素(SiC)等で多重に被覆した微小粒子である。ここで、セラミックス被覆層である炭化ケイ素(SiC)は、核分裂生成物を粒子内部に閉じ込める役割を果たすものである。この性能は、セラミックス被覆層の定比性(構成元素の原子比)を測定することによって評価することができる。
【0003】
炭化ケイ素(SiC)被覆層の定比性を求めるには、まず、酸化燃焼法によりこの被覆層のみを分離する。この酸化燃焼法は、高温で焙焼することによって分離対象外の被覆層(除去層)を酸化燃焼させ、分離対象とするセラミックス層のみを得る方法である(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
【非特許文献1】小林紀昭、塩沢周策、林君夫、沢和弘、佐藤貞夫、福田幸朔、金子光信、佐藤努、「高温工学試験研究炉の燃料検査基準」、日本原子力研究所、JAERI-M 92-079(1992年6月)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
炭化ケイ素(SiC)は、酸化雰囲気中では表面に薄く緻密な酸化被膜を形成して被膜以上に酸化されないため、従来の酸化燃焼法を適用することができる。
【0006】
しかしながら、炭化ジルコニウム(ZrC)のような酸化雰囲気に活性なセラミックス被覆層の場合、酸化燃焼法を適用すると高温で焙焼することによって炭化ジルコニウム(ZrC)も除去層と共に酸化してしまう。従って、被覆層のみを回収できず、これまで定比性の測定ができなかった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、酸化雰囲気に活性なセラミックス被覆層についても単独で分離し、定比性を求めることができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のセラミックス被覆層の分離方法は、少なくとも核、セラミックス被覆層及び除去層を含むセラミックス被覆粒子から前記核を除去する除去工程、前記核を除去した前記セラミックス被覆層及び前記除去層を研磨材より研磨する研磨工程、及び、前記セラミックス被覆層と前記除去層及び前記研磨材とを溶液中で分離する重液分離工程を備えていることを特徴とする。
【0009】
前記研磨工程は、前記セラミックス被覆粒子に含まれる複数の層の硬度差を用いて、硬度の小さい層を研磨材により除去することが好ましい。
【0010】
前記研磨工程は、前記セラミックス被覆層以下でかつ前記除去層以上である硬度を持つ研磨材を使用して粉砕器又は乳鉢内で行うことが好ましい。
【0011】
前記重液分離工程は、前記セラミックス被覆層、前記除去層、及び前記研磨材の比重差を用いて、前記セラミックス被覆層のみを前記溶液中で分離することが好ましい。
【0012】
前記重液分離工程は、溶液として、前記セラミックス被覆層以下でかつ前記粉砕器又は乳鉢以上、または、セラミックス被覆層以上でかつ粉砕器又は乳鉢以下の比重を持つ重液を用いることが好ましい。
【0013】
また、本発明のセラミックス被覆層の分析方法は、少なくとも核、セラミックス被覆層及び除去層を含むセラミックス被覆粒子から前記核を除去する除去工程、前記核を除去した前記セラミックス被覆層及び前記除去層を研磨材より研磨する研磨工程、前記セラミックス被覆層と前記除去層及び前記研磨材とを溶液中で分離する重液分離工程、及び、分離した前記セラミックス被覆層の定性比を測定するための元素分析工程を備えていることを特徴とする。
【0014】
前記元素分析工程は、分離した前記セラミックス被覆層の各構成元素について元素分析により原子数を測定し、これらの比をもって定比性を求めるものとすることができる。
【0015】
前記元素分析工程は、分離した前記セラミックス被覆層を酸化させることにより変化した重量を測定することにより各構成元素の原子数を算出し、これらの比をもって定比性を求めるものとすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るセラミックス被覆層の分離方法及び分析方法によれば、セラミックス被覆層が炭化ジルコニウム(ZrC)のような酸化雰囲気に活性なものであっても、単独で分離し、定比性を求めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、ジルコニア(ZrO)核の上に、順に、バッファ層、熱分解炭素被覆層(PyC層)、ZrC層、熱分解炭素被覆層(PyC層)が形成されたセラミックス被覆粒子を例として、図1及び図2を参照しつつ、セラミックス被覆層(ZrC層)の分離及び分析方法について説明する。
【0018】
(核の除去:S1)
まず、セラミックス被覆粒子Aからジルコニア(ZrO)核を取り除き、多重被覆層Bを採取する。核の取り除き方に特に制限はなく、たとえば乳鉢で多重被覆層Bのみ粉砕した後、傾斜のある平面上で球状の核のみ転がし、除去する方法などがある。
【0019】
(研磨:S2)
取り出した多重被覆層Bは、研磨材Cと混合し研磨を行う。研磨材Cの硬度は、セラミックス被覆層の方が除去層よりも硬い場合には、セラミックス被覆層以下と除去層以上の間の硬度であることが必要である。例えば、セラミックス被覆層が炭化ジルコニウム(モース硬度9)であり、除去層が熱分解炭素層(同6)であるセラミックス多重被覆粒子の場合は、石英、メノウ、ステアタイト(以上モース硬度7)、ジルコン(同7.5)、立方晶ジルコニア(同8〜8.5)、プラスチックポリアミド(同8)等が挙げられる。セラミックス被覆層の材質が、炭化ケイ素(SiC)や窒化チタン(TiN)等になった場合でも材質に応じた硬さを持つ研磨材を適宜選択すればよい。
【0020】
研磨材Cの粒径には、特に制限は無いが、例えば被覆層厚さと同等の平均粒径を持つものが好ましい。例えば、被覆層厚さ30μm程度の場合は、平均粒径30μmの研磨材が挙げられる。
【0021】
研磨する時の多重被覆層Bと研磨材Cの混合比には特に制限はなく、研磨により多重被覆層Bから全ての除去層が除去されるために十分な量の研磨材の混合比を選択する必要がある。これは、除去層の厚さ等を考慮して選択すればよい。
【0022】
研磨に用いる容器は特に指定はないが、粉砕器や乳鉢などの市販のものを使用すれば良い。研磨に用いる容器の硬度がセラミックス層の硬度より小さい場合は、セラミックス層の研磨に用いる容器が、次の工程である重液分離により分離可能な比重を持つ材質であることが好ましい。
【0023】
研磨方法は、特に制限はなく、研磨により多重被覆層Bから全ての除去層が除去されるために十分な研磨時間及び回転数を選択する必要がある。一般に、回転数60rpmの場合、研磨時間15分以上120分以下であることが好ましい。研磨時間が短すぎると多重被覆層Bから全ての除去層が除去されず、研磨時間が長すぎると十分な除去層の除去が完了した後の不必要な研磨時間が生じるため作業性が悪くなり、好ましくない。
【0024】
(重液分離:S3)
次に、セラミックス被覆層の分離は重液分離によって行う。
重液分離に用いる重液Dの比重は、粉砕器又は乳鉢以上かつセラミックス被覆層未満、または、セラミックス被覆層以上かつ粉砕器又は乳鉢未満の比重を持つことが必要である。例えば、セラミックス被覆層が炭化ジルコニウム(比重約6.6g/cm)であり、除去層が熱分解炭素層(同約1.9g/cm)であるセラミックス多重被覆粒子をメノウ乳鉢(同約2.6g/cm)で研磨した場合は、重液の比重は約2.6〜約6.6g/cmの範囲である必要があり、たとえばテトラブロムエタン(比重約2.9g/cm)、ヨウ化メチレン(比重約3.3g/cm)等が挙げられる。
【0025】
重液分離の方法は、セラミックス被覆層と除去層及び研磨材が十分に分離するため、重液の量、分離時間、分離回数等を適宜選択する必要があり、分離したい被覆層の量、使用する重液の比重と分離する被覆層の比重の差、等に依存するものである。例えば、セラミックス被覆層が炭化ジルコニウム(比重約6.6g/cm)であり、除去層が熱分解炭素層(同約1.9g/cm)であるセラミックス多重被覆粒子をテトラブロムエタン(比重約2.9g/cm)で分離する場合、分離時間5分以上で分離回数1回以上の重液分離を行うことが好ましい。分離時間が短すぎると十分に重液中で被覆層等が分離せず、分離時間が長すぎると被覆層等の分離後の放置時間が長くなり作業性が悪くなる。また、分離回数も多いほど完全な被覆層等の分離が可能である一方、完全な被覆層分離後の余計な重液分離工程が実施されることになり、作業性が悪くなるため好ましくない。
【0026】
(洗浄・乾燥:S4)
重液分離後のセラミックス被覆層Eは、洗浄液Fを用いて洗浄し、乾燥する。洗浄液Fに特に指定はないが、重液との親和性が良く、重液と良く混合するものとする。例えば、エタノールや水等の代表的な洗浄液を用いればよい。
【0027】
(元素分析:S5)
分離したセラミックス被覆層の定比性を測定するため、元素分析により構成元素の原子数を測定する。元素分析の方法は、セラミックス被覆層の構成元素に適した分析方法を選択すれば良く、例えば、セラミックス被覆層が炭化ジルコニウムである場合は、ジルコニウムの定量にはICP−AESを選択し、炭素の定量には酸化燃焼−赤外吸収法を選択すれば良い。測定したセラミックス被覆層の構成元素の原子数を用いて、その比からセラミックス被覆層の定比性を得ることができる。
【0028】
(酸化処理:S6)
また、高温酸化雰囲気において酸化するセラミックス被覆層の場合、分離したセラミックス被覆層を高温酸化雰囲気において酸化させて被覆層の酸化物とし、酸化前後の重量を以下の計算式(1)を用いて計算することにより、セラミックス被覆層の定比性を測定することができる。
【0029】
反応式:AB+2O→AO+BO
【数1】

【0030】
更に、例えば、炭化ジルコニウムのように、どちらかの酸化物が揮発されて重量測定が不可能である場合、以下の計算式(2)を用いて計算することにより、セラミックス被覆層の定比性を求めることができる。
【0031】
反応式:AB+2O→AO+BO↑
【数2】

【0032】
セラミックス被覆層の高温酸化雰囲気における酸化は、セラミックス被覆層を酸化するのに十分な酸素量、反応温度及び反応時間であれば良く、セラミックス被覆層の材質によって適宜選択する必要がある。例えば、炭化ジルコニウム被覆層の場合、酸化反応が開始する約550℃以上の反応温度が必要である。
【実施例】
【0033】
ジルコニア(ZrO)核の上に、順に、熱分解炭素被覆層(PyC層)、ZrC層が形成されたセラミックス多重被覆粒子のZrC被覆層の定比性を測定した。
【0034】
まず、メノウ乳鉢を用いて、3gのセラミックス多重被覆粒子を擦り棒を用いて模擬核が割れないようにして被覆層を割り、核を分別して、取り除いた。
【0035】
次いで、被覆層は、研磨材として石英粉末0.5g(粒径30μm)と混合し、粉砕器を用いて研磨した。研磨時間は60分、回転数は60rpm程度とした。研磨後の試料は、100mlのトールビーカに移し、重液としてテトラブロモエタン約30mlを加え、超音波洗浄器により5分間振とうした後、25分間静置した。その後、重液中で沈降したZrC被覆層を撹拌させないようにしながら上澄みを除去した。これら重液分離の操作は、静置した後の重液の上澄みが透明になるまで3回繰り返した。
【0036】
重液分離後のZrC被覆層は、エタノールで洗浄し乾燥した。
採取したZrC被覆層をICP−AESにてZr量を、酸化燃焼−赤外吸収法によりC量を測定し、計算式(3)により定比性を求めた。
【0037】
【数3】

【0038】
この方法により得られたZrC被覆層の定比性は、以下の通りであった。
【0039】
【表1】

【0040】
上記の定比性の測定と同じZrC被覆層を用いて、ZrC被覆層0.506gを850℃において3時間酸化させた。酸化後の被覆層(ZrO)の重量は、0.594gであった。測定した被覆層の重量を用いて、計算式(2)をベースにした計算式(4)により定比性を求めた。
【0041】
【数4】

【0042】
この方法により得られたZrC被覆層の定比性は、以下の通りであった。
【表2】

【0043】
以上より、計算式(3)で求めた定性比の値と、計算式(4)で求めた定性比の値が精度良く一致することが分かった。
【産業上の利用の可能性】
【0044】
高温ガス炉燃料におけるセラミックス被覆層は、核分裂生成物を粒子内部に閉じ込める役割を果たすが、この性能は、被覆層の密度、機械的強度、熱伝導率、核分裂生成物の被覆層中の拡散係数等で評価することができる。セラミックス被覆層の定性比はこれらの評価項目に影響を与える因子であるので、本発明よって高温ガス炉燃料におけるセラミックス被覆層の定性比を正確に求めることによって、高温ガス炉燃料の特性評価を効率良く行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本実施形態によるセラミックス被覆層の分離方法及び分析方法を示すフローチャートである。
【図2】本実施形態によるセラミックス被覆層の分離方法及び分析方法を示す概略図である。
【符号の説明】
【0046】
A セラミックス被覆粒子
B 多重被覆層
C 研磨材
D 重液
E セラミックス被覆層
F 洗浄液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも核、セラミックス被覆層及び除去層を含むセラミックス被覆粒子から前記核を除去する除去工程、前記核を除去した前記セラミックス被覆層及び前記除去層を研磨材より研磨する研磨工程、及び、前記セラミックス被覆層と前記除去層及び前記研磨材とを溶液中で分離する重液分離工程を備えていることを特徴とするセラミックス被覆層の分離方法。
【請求項2】
前記研磨工程は、前記セラミックス被覆粒子に含まれる複数の層の硬度差を用いて、硬度の小さい層を研磨材により除去することを特徴とする請求項1記載のセラミックス被覆層の分離方法。
【請求項3】
前記研磨工程は、前記セラミックス被覆層以下でかつ前記除去層以上である硬度を持つ研磨材を使用して粉砕器又は乳鉢内で行うことを特徴とする請求項1記載のセラミックス被覆層の分離方法。
【請求項4】
前記重液分離工程は、前記セラミックス被覆層、前記除去層、及び前記研磨材の比重差を用いて、前記セラミックス被覆層のみを前記溶液中で分離することを特徴とする請求項1記載のセラミックス被覆層の分離方法。
【請求項5】
前記重液分離工程は、溶液として、前記セラミックス被覆層以下でかつ前記粉砕器又は乳鉢以上、または、セラミックス被覆層以上でかつ粉砕器又は乳鉢以下の比重を持つ重液を用いることを特徴とする請求項3記載の被覆層の分離方法。
【請求項6】
少なくとも核、セラミックス被覆層及び除去層を含むセラミックス被覆粒子から前記核を除去する除去工程、前記核を除去した前記セラミックス被覆層及び前記除去層を研磨材より研磨する研磨工程、前記セラミックス被覆層と前記除去層及び前記研磨材とを溶液中で分離する重液分離工程、及び、分離した前記セラミックス被覆層の定性比を測定するための元素分析工程を備えていることを特徴とするセラミックス被覆層の分析方法。
【請求項7】
前記元素分析工程は、分離した前記セラミックス被覆層の各構成元素について元素分析により原子数を測定し、これらの比をもって定比性を求めることを特徴とする請求項6記載のセラミックス被覆層の分析方法。
【請求項8】
前記元素分析工程は、分離した前記セラミックス被覆層を酸化させることにより変化した重量を測定することにより各構成元素の原子数を算出し、これらの比をもって定比性を求めることを特徴とする請求項6記載のセラミックス被覆層の分析方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−244153(P2009−244153A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−92116(P2008−92116)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)文部科学省の委託事業の成果に係る特許出願(平成18年度革新的高温ガス炉燃料・黒鉛に関する技術開発、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】