セラミック超微粒子膜の製造方法
【課題】基板表面にセラミック超微粒子の規則配列単粒子膜を形成する。
【解決手段】セラミック超微粒子膜を形成する基板の表面電位を、セラミック超微粒子分散溶液のゼータ電位とは逆極性でセラミック超微粒子分散溶液中のセラミック粒子と共有結合可能な電位に制御するために、基板を少なくとも2種類の有機化合物溶液中に浸漬するか、または、基板を有機化合物溶液中に浸漬した後、基板に紫外光を照射する。
【解決手段】セラミック超微粒子膜を形成する基板の表面電位を、セラミック超微粒子分散溶液のゼータ電位とは逆極性でセラミック超微粒子分散溶液中のセラミック粒子と共有結合可能な電位に制御するために、基板を少なくとも2種類の有機化合物溶液中に浸漬するか、または、基板を有機化合物溶液中に浸漬した後、基板に紫外光を照射する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はセラミック超微粒子膜を基板表面上に形成する製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
基板上に無機酸化物粒子膜を形成する方法として特許文献1・特許文献2が開示されている。
【0003】
特許文献1は、フォトニック結晶およびその製造方法に関する発明であり、2種類の方法でフォトニック結晶構造体を製造する。第1の方法は、自己組織膜を利用して第1官能基修飾粒子層と第2官能基修飾粒子層を官能基間の化学結合により個々に積層していくものである。第2の方法は、第1官能基修飾粒子層と第2官能基修飾粒子とを溶媒に分散させ、両官能基間の化学結合により粒子を核成長させていくものである。図1・図2は、それらの工程を繰り返すことにより粒子膜の積層構造体を構成するイメージを表したものである。
【0004】
特許文献2は、光触媒性金属酸化物のパターン形成方法に関する発明であり、基板上に感光性の疎水基を有する膜(疎水性被膜)を形成してから、光照射により親水性パターンを形成する。この親水性と疎水性の共存基板を加水分解性金属酸化物前駆体液中に浸漬した後、加水分解雰囲気中で反応させて、親水性パターン上に金属化合物を析出させる方法である。図3は、この製造工程のイメージを示すものである。
【特許文献1】特開2002−341161号公報
【特許文献2】特開2002−169303号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1に示されている方法では官能基修飾による結合欠陥が生じやすく、積層に影響を及ぼすので、広い面積の粒子膜を形成するのは困難である。また、同じ理由で粒子構造に規則性がなく、ランダム堆積となる。
【0006】
また、特許文献2に示されている製造方法では、基板上に付着した加水分解性金属酸化物前駆体液から得られた金属酸化物膜なので、粒子配列に規則性がなく、粒子の充填密度が高められないという問題があった。
【0007】
これに対し、本願の発明はセラミック超微粒子(100nm径以下のセラミックナノ粒子)を用いて規則配列構造体を実現しようとするものであり、従来のセラミック微粒子(数100nm〜1μm径のセラミック微粒子)では得られない新規な機能性を有する膜を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、例えばSiO2を主成分とする「天然オパール石」やCaCO3を主成分とする「真珠」など、自然界に存在する有機物と無機物からなる規則的構造体にヒントを得て、セラミック超微粒子の規則配列構造体を人工的に形成しようとするものである。また、このような自然界の規則的構造体に倣うだけでなく、自然環境に優しい常温・常圧の下で形成しようとするものである。
【0009】
基板の表面にセラミック超微粒子膜を形成するためには、基板上にセラミック超微粒子を適切な方法で吸着させることが重要である。
【0010】
基板上に粒子を吸着させる従来の一般的な方法は(1)静電的吸着による方法と(2)基板処理剤と粒子との間で共有結合させる方法があった。
しかし、基板上への吸着後のセラミック超微粒子による膜はセラミック超微粒子間の相互作用や吸脱着平衡が維持されていて、その膜の粒子の状態は粒子−基板間相互作用より粒子間同士の相互作用の影響を大きく受ける。
【0011】
すなわち、(1)の静電的吸着による方法では基板表面での粒子間同士の相互作用(吸着力)が大き過ぎて凝集してしまい、充填率の高い単粒子膜が形成できない。
【0012】
また、(2)の基板処理剤と粒子間共有結合の方法では、ある限られた材料では比較的良好な密度の粒子膜が形成できるが、例えば基板処理剤としてPVP(ポリビニルポリマー)系化合物を用いると、その厚い(分子レベルではない厚さの)高分子層が基板表面と粒子間に介在することになるので、一般的には後処理でその高分子層を除去しなければならない。
【0013】
そこで、この発明の目的は、セラミック超微粒子を静電力で基板表面に近寄せ、化学結合によって固定させることによって、セラミック超微粒子の規則配列単粒子膜を製造することにある。
【0014】
具体的には、基板を少なくとも2種類の有機化合物溶液中に浸漬し、当該基板の表面電位をセラミック超微粒子分散溶液のゼータ電位とは逆極性で前記セラミック超微粒子分散溶液中のセラミック粒子と共有結合可能な電位に制御する表面電位制御工程と、前記基板を前記セラミック超微粒子分散溶液中に浸漬する工程と、前記基板を乾燥させる工程と、を備える。
【0015】
前記表面電位制御工程は、化学分子式がR−Si−X(Rは炭化水素基、XはClまたはアルコキシ基)で表される第1のシラン系化合物溶液中に前記基板を浸漬する第1処理工程と、この第1処理工程に続いて化学分子式が(RO)n−Si−Ym(Rは炭化水素基、Yはアミノ基、メルカプト基、アミン基またはカルボキシル基のうちいずれか、n=1〜3、m=1〜3)で表される第2のシラン系化合物溶液中に前記基板を浸漬する第2処理工程とから構成する。
【0016】
また、具体的には、基板を第1の有機化合物溶液中に浸漬し、かつ、当該基板に紫外光を照射し、当該基板の表面電位をセラミック超微粒子分散溶液のゼータ電位とは逆極性で前記セラミック超微粒子分散溶液中のセラミック粒子と共有結合可能な電位に制御する表面電位制御工程と、前記基板を前記セラミック超微粒子分散溶液中に浸漬する工程と、前記基板を乾燥させる工程と、を備える。
【0017】
また、前記表面電位制御工程は、化学分子式がR−Si−X(Rは炭化水素基、XはClまたはアルコキシ基)で表される第1のシラン系化合物溶液中に前記基板を浸漬する第1処理工程と、この第1処理工程に続いて紫外光を照射する第2処理工程とから構成する。
【0018】
前記セラミック超微粒子膜は、SiO2超微粒子膜、TiO2超微粒子膜、またはBaTiO3超微粒子膜のいずれかである。また、セラミック超微粒子膜が、SiO2超微粒子膜またはTiO2超微粒子膜の場合には、前記表面電位は例えば3.1〜5.7Vであり、且つ前記基板の表面の接触角は90°以下とする。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、表面電位制御工程で、基板の表面電位が、セラミック超微粒子分散溶液のゼータ電位とは逆極性でセラミック超微粒子と共有結合可能な電位になるので、セラミック超微粒子を静電力で基板に近寄せ、化学結合により固定することができ、その結果、基板上にセラミック超微粒子による規則配列単粒子膜が得られる。
【0020】
また、表面電位制御工程として、第1・第2の2種類のシラン系化合物溶液中に基板を浸漬する第1・第2処理工程を実行することにより、基板の表面電位をより高くすることができ、基板上のセラミック超微粒子の充填率を高めることができる。
【0021】
また、表面電位制御工程として、第1のシラン系化合物溶液中に基板を浸漬し、その後に紫外光の照射によって光化学反応を起こすことによって、基板の表面電位をより高くでき、基板上のセラミック超微粒子の充填率を高めることができる。
【0022】
また、この発明は、セラミック超微粒子膜として、SiO2超微粒子膜、TiO2超微粒子膜、またはBaTiO3超微粒子膜を製造することが可能である。
【0023】
また、セラミック超微粒子膜が、SiO2超微粒子膜またはTiO2超微粒子膜の場合には、基板の表面電位が3.1〜5.7Vの範囲で且つ基板表面の接触角が90°以下であることにより、基板上のセラミック超微粒子の規則配列単粒子膜を最密充填で且つ広面積に亘って形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
(1)まず、セラミック超微粒子膜が形成される基板の表面のゴミ等を除去するために、有機溶剤で超音波洗浄し、続いて、水洗・水分除去を行う。
【0025】
(2)次に、基板に対し、エキシマランプを用いて紫外光(UV光)の照射を行い、基板の表面の有機物を除去し、親水性にする(ドライ洗浄)。
【0026】
(3)次に、基板の表面電位制御を行う。基板の表面電子制御は次の2つの方法のいずれかを行う。
【0027】
(a)化学分子式がR−Si−X(Rは炭化水素基、XはClまたはアルコキシ基)で表されるシラン系化合物溶液中に基板を浸漬する第1処理工程と、この第1処理工程に続いて化学分子式が(RO)n−Si−Ym(Rは炭化水素基、Yはアミノ基、メルカプト基、アミン基またはカルボキシル基のうちいずれか、n=1〜3、m=1〜3)で表されるシラン系化合物溶液中に基板を浸漬する第2処理工程とを行う方法。
【0028】
(b)化学分子式がR−Si−X(Rは炭化水素基、XはClまたはアルコキシ基)で表されるシラン系化合物溶液中に基板を浸漬する第1処理工程と、この第1処理工程に続いて紫外光を照射する第2処理工程とを行う方法。
【0029】
ここで、上記シラン系化合物は、水と接すると加水分解してシラノール基を生成する。このシラノール基は自己縮合によって高分子化すると同時に、基板表面のOH基と水素結合する。一方、官能基Rはセラミック超微粒子と化学結合する。
【0030】
(4)そして、前記表面電位制御を行った基板を、セラミック超微粒子が分散された溶液(サスペンション)中に浸漬し、乾燥させ、基板上にセラミック超微粒子膜を形成する。
【0031】
図4は、上述の(3)基板の表面電位制御の(a)に相当する2種類のシラン系化合物溶液を用いた場合の結果である。(A)は第1処理工程でトリメチルクロロシラン溶液(以下「TMCS」とする)を用い、第2処理工程でアミノプロピルトリエトキシシラン溶液(以下「APES」とする)を用いたものであり、表面電位は3.42V、接触角は50.4°となった。(B)は第1処理工程でクロロトリヘキシルシラン溶液(以下「CTHS」とする)を用い、第2処理工程でアミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン溶液(以下「AAPMS」とする)を用いたものであり、表面電位は5.61V、接触角は36.0°となった。(C)は第1処理工程でクロロジメタルピニルシラン溶液(以下「CDMS」とする)を用い、第2処理工程でAAPMSを用いたものであり、表面電位は5.57V、接触角は63.4°となった。
【0032】
なお、第1処理工程で用いられる第1のシラン系化合物溶液のTMCS,CTHS,CDMSは、いずれも化学分子式がR−Si−X(Rは炭化水素基、XはClまたはアルコキシ基)で表されるシラン系化合物溶液である。また、第2処理工程で用いられる第2のシラン系化合物溶液のAPES、AAPMSは、いずれも化学分子式が(RO)n−Si−Ym(Rは炭化水素基、Yはアミノ基、メルカプト基、アミン基またはカルボキシル基のうちいずれか、n=1〜3、m=1〜3)で表されるシラン系化合物溶液である。基板表面に付着しているシラン系化合物のR基(疎水基)の種類と量によって表面電位が変わるので、シラン系化合物溶液の組成に応じて、結果的に得られる表面電位は変わる。
【0033】
この結果から、基板の表面電位が高くなるほどSiO2超微粒子の付着量が増すことが分かる。
【0034】
ここで、比較例として、基板の表面電位制御を行うために、1種類のシラン系化合物を用いた場合の結果を図5に示す。(A)はオクタデシルトリメトキシシラン(以下「OTS」とする)に基板を浸漬したものであり、表面電位は0.64V、接触角は104.4°、(B)はCDMSに基板を浸漬したものであり、表面電位は1.15V、接触角は51.4°となった。(C)はAPESに基板を浸漬したものであり、表面電位は2.58V、接触角は40.2°、(D)はAAPMSに基板を浸漬した例であり、表面電位は2.78V、接触角は40.5°となった。このように1種類のシラン系化合物溶液に基板を浸漬したものは、いずれもSiO2超微粒子の付着量が少ない。図5(D)に示したように、表面電位が2.78Vでも粒子の充填度は未だ低い。
【0035】
以上のように、基板を2種類のシラン系化合物溶液に浸漬することによって、比較例で示した1種類のシラン系化合物溶液に浸漬した場合に比べて基板の表面電位が高くなり、その表面電位が高くなる程、充填度の高い膜(最密充填膜)が得られることが分かる。これは、2種類のシラン系化合物溶液を用い、2度にわたって基板の浸漬を行うことによって、第1処理工程で1層目の表面電位を低くし、第2処理工程で2層目の有機化合物が付着し易くなって、結果的に多くの有機化合物が付着して、基板の表面電位が高まるものと推定される。
【0036】
図6は、上述の(3)基板の表面電位制御の(b)に相当するシラン系化合物溶液と紫外光照射を用いた場合の結果である。(A)は第1処理工程でOTSを用い、第2処理工程で紫外光を照射したものであり、表面電位は4.22V、接触角は10°となった。(B)は第1処理工程でTMCSを用い、第2処理工程で紫外光を照射した例であり、表面電位は4.35V、接触角は10°となった。
【0037】
このように1種類のシラン系化合物溶液に基板を浸漬した場合であっても、それと紫外光照射を組み合わせることによって表面電位が高くなる。これは、基板表面に付着しているシラン系化合物のR基(疎水基)の分子が紫外光による光化学反応(活性化)で切れ、その結果、表面電位が高くなるものと推定される。
【0038】
よって、基板を1種類のシラン系化合物溶液に浸漬した後に紫外光の照射を組み合わせることによって、広面積に亘ってセラミック超微粒子による最密充填の規則配列単粒子膜が得られた。
【0039】
以上のことから、基板の表面電位が3.1V〜5.7Vの範囲で規則配列単粒子膜が得られることがわかった。また、接触角について着目すると、接触角90°以下という条件も付加される。
【0040】
図7はセラミック超微粒子分散溶液(サスペンション)のゼータ電位の影響について調べた結果である。ここで示すゼータ電位は、マルバーン社製のゼータサイザーナノシリーズ(Nano-ZS)を用いた。
【0041】
図7は基板の表面電位を3.10Vで一定とし、ゼータ電位を変化させた時の超微粒子膜の状態を示している。セラミック超微粒子分散溶液として、SiO2水性ゾル(日産化学工業社製、商品名:STSOL)を用い、水で濃度を調整してゼータ電位を変化させてから超微粒子膜を形成した。(A)はゼータ電位が−22.4mVのセラミック超微粒子分散溶液(STSOL原液)を用いた場合の得られた膜のSEM写真である。(B)はゼータ電位が−40.2mVのセラミック超微粒子分散溶液(STSOL原液を10倍に薄めた溶液)を用いた場合の得られた膜のSEM写真である。(C)はゼータ電位が−53.3mVのセラミック超微粒子分散溶液(STSOL原液を20倍に薄めた溶液)を用いた場合の得られた膜のSEM写真である。
【0042】
このようにセラミック超微粒子分散溶液のゼータ電位を基板の表面電位とは逆極性で、かつ、その絶対値を大きくすることによって基板表面への超微粒子の付着量が多くなることがわかる。
【0043】
ここで、既に図6を用いて説明したように、表面電位制御工程で紫外光の照射を行うことによって表面電位の制御が可能であるので、この紫外光照射によって超微粒子膜のパターニングを行うことも可能である。図8・図9はその例について示している。
【0044】
図8は、基板をOTSに浸漬した後に、ラインパターン状の紫外光の照射を行った結果であり、(A)はその広域SEM写真、(B)は(A)の紫外光照射領域(b)の拡大SEM写真、(C)は(A)の紫外光非照射領域(c)の拡大SEM写真である。
【0045】
図9は、基板をTMCSに浸漬した後に、ラインパターン状の紫外光の照射を行った結果であり、(A)はその広域SEM写真、(B)は(A)の紫外光照射領域(b)の拡大写真、(C)は(A)の紫外光照射領域と非照射領域の境界部分(c)の拡大写真である。
【0046】
このように紫外光を照射した領域には緻密な超微粒子膜が形成され、照射しなかった領域には超微粒子膜が形成されない。
【0047】
以上に示した例はいずれもSiO2超微粒子膜についてであったが、他のセラミック超微粒子膜を形成する場合についても同様である。図10はTiO2超微粒子膜の例であり、基板の表面電位を3.10Vで一定とし、TiO2を含むセラミック超微粒子分散溶液のゼータ電位を変化させた例である。(A)はセラミック超微粒子分散溶液の平均ゼータ電位が−29.6mVの場合であり、平均粒径17nmのTiO2超微粒子膜が得られた。また(B)はセラミック超微粒子分散溶液の平均ゼータ電位が−50.2mVの場合であり、平均粒径40nmの超微粒子膜が得られた。このようにTiO2についても、基板全面に緻密な超微粒子膜を形成できる。
【0048】
また、図11は、BaTiO3超微粒子膜の例であり、基板の表面電位を−0.03Vで調整して、BaTiO3を含むセラミック超微粒子分散溶液のゼータ電位が+43.9mVの場合で得られた膜のSEM写真である。このようにBaTiO3についても、基板全面に緻密な超微粒子膜を形成できる。
【0049】
以上に述べた範囲では、基板の表面に単層のセラミック超微粒子の超微粒子膜を形成しただけであるが、この発明はセラミック超微粒子膜の積層構造体へ発展し得るものである。例えば図12の(A)に示すように、基板上に有機化合物を介してそれぞれナノ粒子A,B,Cの層を積層し、その後、加熱処理などによって有機化合物を除去することによって(B)のようにセラミック超微粒子膜の多層構造体が得られる。
【0050】
また、多層構造体を応用して、例えばBT(BaTiO3)/ST(SrTiO3)の相交積層構造体を作製すれば、BST((Ba,Sr)TiO3)のバルクと比べて新たな機能性が生じることが考えられる。
【0051】
以上、この発明に係るセラミック超微粒子膜の製造方法を説明したが、その他種々の変形例が可能である。
例えば、有機化合物溶液として、シラン系化合物溶液を用いたが、これに限られるものではなく、少なくとも2種類の有機化合物溶液を用いるか、または、有機化合物溶液と紫外光を用いることで、基板の表面電位をセラミック超微粒子分散溶液のゼータ電位とは逆極性でセラミック超微粒子分散溶液中のセラミック粒子と共有結合可能な電位に制御することが可能であれば、その他の有機化合物溶液を用いることも可能である。
【0052】
また、有機化合物溶液は2種類以上用いても構わない。その場合、最初の処理工程で1層目の表面電位を低くし、以降の処理工程で有機化合物が付着し易くする必要がある。
【実施例】
【0053】
以下に示す第1〜第3の実施例では、基板およびセラミック超微粒子分散溶液(サスペンション)として次のものを用いた。まず、基板としては、次の表面処理を施したSiウエハ(100面)を用意した。基板をアセトン溶液中に超音波で10分間洗浄して、エタノール置換してから、水洗を行い、基板上の水分を150℃で5分間加熱して除去した。次に、基板表面の有機成分を取り除くために、エキシマランプで30分以上紫外光照射を行った。
【0054】
また、セラミック超微粒子分散溶液としては、市販の水性SiO2ゾル溶液(日産化学工業社製、商品名:STSOL)を用いた。この水性SiO2ゾル溶液のpHは9〜10、ゼータ電位は−32.4mV、平均粒径は約50nmである。
【0055】
なお、基板の表面電位の測定は、AFM(原子間力顕微鏡:Atomic Force Microscope)を用いた。付着元素の検出は、XPS(X線光電子分光:Xrayphotoelectron spectroscopy)を用いた。親・疎水性は、界面張力計を用いて接触角を計測した。水性SiO2ゾル溶液の粒径、粒度分布、ゼータ電位の測定は、マルバーン社製のゼータサイザーナノシリーズ(Nano-ZS)を用いた。SEM観察は、FE−SEM(電界放射型走査電子顕微鏡)を用いた。
【0056】
《第1の実施例》
基板の表面電位制御のための第1処理工程として、基板を第1のシラン系化合物溶液であるTMCS(トリメチルクロロシラン:(CH3)3SiCl)の1vol%トルエン溶液)中に10分間浸漬して、取り出した後120℃で5分間加熱した。これにより基板と第1のシラン系化合物の分子膜間の固着力を向上させた。
【0057】
続いて、第2処理工程として、基板を第2のシラン系化合物溶液であるAPES(γ-アミノプロピルトリエトキシシラン:HN(CH3)2Si(OC2H5)3)の1vol%トルエン溶液中に60分間浸漬して、取り出した後120℃で5分間加熱した。
【0058】
上記第1・第2処理工程を行った後、基板を水性SiO2ゾル溶液中に30分浸漬した。取り出した後、水ですすいでから、1℃で48時間乾燥させた。
【0059】
《第2の実施例》
基板の表面電位制御のための第1処理工程として、基板を第1のシラン系化合物溶液であるCTHS(クロロトリヘキシルシラン:[CH3(CH2)5]3SiCl)の1vol%トルエン溶液中に10分間浸漬して、取り出した後120℃で5分間加熱した。これにより基板と第1のシラン系化合物の分子膜間の固着力を向上させた。
【0060】
続いて、第2処理工程として、基板を第2のシラン系化合物溶液であるAAPMS(アミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン:NH2C=ONH2C3H6Si(OC2H5)3)の1vol%トルエン溶液中に60分間浸漬して、取り出した後120℃で5分間加熱した。
【0061】
上記第1・第2処理工程を行った後、基板を水性SiO2ゾル溶液中に30分浸漬した。取り出した後、水ですすいでから、1℃で48時間乾燥させた。
【0062】
《第3の実施例》
基板の表面電位制御のための第1処理工程として、基板を第1のシラン系化合物溶液であるフェニルトリクロロシラン(PTCS):C6H5Cl3Si)の1vol%トルエン溶液中に10分間浸漬し、取り出した後120℃で5分間加熱した。これにより基板と第1のシラン系化合物の分子膜間の固着力を向上させた。
【0063】
続いて、第2処理工程として、基板にエキシマランプ(波長172nm)を用いて紫外光を60分間照射した。照射後の基板を水性SiO2ゾル溶液中に30分浸漬した。取り出した後、水ですすいでから、1℃で48時間乾燥させた。
【0064】
得られた超微粒子膜をFE−SEMで観察した結果を図13に示す。第1〜第3の実施例において、処理した基板の表面電位はそれぞれ3.42mV、5.61mV、4.33mVであった。得られた超微粒子膜のSEM写真から、いずれも広い面積に亘って最密充填で規則性が高いことが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】特許文献1に示されているフォトニック結晶の製造方法のイメージを示す図である。
【図2】特許文献1に示されているフォトニック結晶の他の製造方法のイメージを示す図である。
【図3】特許文献2に示されている金属化合物のパターン形成工程のイメージを示す図である。
【図4】2種類のシラン系化合物溶液を用いて基板の表面電位を制御した場合の超微粒子膜のSEM写真である。
【図5】比較例である1種類のシラン系化合物溶液を用いて基板の表面電位を制御した場合の超微粒子膜のSEM写真である。
【図6】シラン系化合物溶液と紫外光を用いて基板の表面電位を制御した場合の超微粒子膜のSEM写真である。
【図7】セラミック超微粒子分散溶液のゼータ電位の影響を示す超微粒子膜のSEM写真である。
【図8】紫外光の照射による超微粒子膜のパターニングの例を示すSEM写真である。
【図9】紫外光の照射による超微粒子膜のパターニングの例を示すSEM写真である。
【図10】TiO2超微粒子膜の例を示すSEM写真である。
【図11】BaTiO3超微粒子膜の例を示すSEM写真である。
【図12】セラミック超微粒子膜の積層構造の例を示す図である。
【図13】第1〜第3の実施例により形成した超微粒子膜のSEM写真である。
【技術分野】
【0001】
この発明はセラミック超微粒子膜を基板表面上に形成する製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
基板上に無機酸化物粒子膜を形成する方法として特許文献1・特許文献2が開示されている。
【0003】
特許文献1は、フォトニック結晶およびその製造方法に関する発明であり、2種類の方法でフォトニック結晶構造体を製造する。第1の方法は、自己組織膜を利用して第1官能基修飾粒子層と第2官能基修飾粒子層を官能基間の化学結合により個々に積層していくものである。第2の方法は、第1官能基修飾粒子層と第2官能基修飾粒子とを溶媒に分散させ、両官能基間の化学結合により粒子を核成長させていくものである。図1・図2は、それらの工程を繰り返すことにより粒子膜の積層構造体を構成するイメージを表したものである。
【0004】
特許文献2は、光触媒性金属酸化物のパターン形成方法に関する発明であり、基板上に感光性の疎水基を有する膜(疎水性被膜)を形成してから、光照射により親水性パターンを形成する。この親水性と疎水性の共存基板を加水分解性金属酸化物前駆体液中に浸漬した後、加水分解雰囲気中で反応させて、親水性パターン上に金属化合物を析出させる方法である。図3は、この製造工程のイメージを示すものである。
【特許文献1】特開2002−341161号公報
【特許文献2】特開2002−169303号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1に示されている方法では官能基修飾による結合欠陥が生じやすく、積層に影響を及ぼすので、広い面積の粒子膜を形成するのは困難である。また、同じ理由で粒子構造に規則性がなく、ランダム堆積となる。
【0006】
また、特許文献2に示されている製造方法では、基板上に付着した加水分解性金属酸化物前駆体液から得られた金属酸化物膜なので、粒子配列に規則性がなく、粒子の充填密度が高められないという問題があった。
【0007】
これに対し、本願の発明はセラミック超微粒子(100nm径以下のセラミックナノ粒子)を用いて規則配列構造体を実現しようとするものであり、従来のセラミック微粒子(数100nm〜1μm径のセラミック微粒子)では得られない新規な機能性を有する膜を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、例えばSiO2を主成分とする「天然オパール石」やCaCO3を主成分とする「真珠」など、自然界に存在する有機物と無機物からなる規則的構造体にヒントを得て、セラミック超微粒子の規則配列構造体を人工的に形成しようとするものである。また、このような自然界の規則的構造体に倣うだけでなく、自然環境に優しい常温・常圧の下で形成しようとするものである。
【0009】
基板の表面にセラミック超微粒子膜を形成するためには、基板上にセラミック超微粒子を適切な方法で吸着させることが重要である。
【0010】
基板上に粒子を吸着させる従来の一般的な方法は(1)静電的吸着による方法と(2)基板処理剤と粒子との間で共有結合させる方法があった。
しかし、基板上への吸着後のセラミック超微粒子による膜はセラミック超微粒子間の相互作用や吸脱着平衡が維持されていて、その膜の粒子の状態は粒子−基板間相互作用より粒子間同士の相互作用の影響を大きく受ける。
【0011】
すなわち、(1)の静電的吸着による方法では基板表面での粒子間同士の相互作用(吸着力)が大き過ぎて凝集してしまい、充填率の高い単粒子膜が形成できない。
【0012】
また、(2)の基板処理剤と粒子間共有結合の方法では、ある限られた材料では比較的良好な密度の粒子膜が形成できるが、例えば基板処理剤としてPVP(ポリビニルポリマー)系化合物を用いると、その厚い(分子レベルではない厚さの)高分子層が基板表面と粒子間に介在することになるので、一般的には後処理でその高分子層を除去しなければならない。
【0013】
そこで、この発明の目的は、セラミック超微粒子を静電力で基板表面に近寄せ、化学結合によって固定させることによって、セラミック超微粒子の規則配列単粒子膜を製造することにある。
【0014】
具体的には、基板を少なくとも2種類の有機化合物溶液中に浸漬し、当該基板の表面電位をセラミック超微粒子分散溶液のゼータ電位とは逆極性で前記セラミック超微粒子分散溶液中のセラミック粒子と共有結合可能な電位に制御する表面電位制御工程と、前記基板を前記セラミック超微粒子分散溶液中に浸漬する工程と、前記基板を乾燥させる工程と、を備える。
【0015】
前記表面電位制御工程は、化学分子式がR−Si−X(Rは炭化水素基、XはClまたはアルコキシ基)で表される第1のシラン系化合物溶液中に前記基板を浸漬する第1処理工程と、この第1処理工程に続いて化学分子式が(RO)n−Si−Ym(Rは炭化水素基、Yはアミノ基、メルカプト基、アミン基またはカルボキシル基のうちいずれか、n=1〜3、m=1〜3)で表される第2のシラン系化合物溶液中に前記基板を浸漬する第2処理工程とから構成する。
【0016】
また、具体的には、基板を第1の有機化合物溶液中に浸漬し、かつ、当該基板に紫外光を照射し、当該基板の表面電位をセラミック超微粒子分散溶液のゼータ電位とは逆極性で前記セラミック超微粒子分散溶液中のセラミック粒子と共有結合可能な電位に制御する表面電位制御工程と、前記基板を前記セラミック超微粒子分散溶液中に浸漬する工程と、前記基板を乾燥させる工程と、を備える。
【0017】
また、前記表面電位制御工程は、化学分子式がR−Si−X(Rは炭化水素基、XはClまたはアルコキシ基)で表される第1のシラン系化合物溶液中に前記基板を浸漬する第1処理工程と、この第1処理工程に続いて紫外光を照射する第2処理工程とから構成する。
【0018】
前記セラミック超微粒子膜は、SiO2超微粒子膜、TiO2超微粒子膜、またはBaTiO3超微粒子膜のいずれかである。また、セラミック超微粒子膜が、SiO2超微粒子膜またはTiO2超微粒子膜の場合には、前記表面電位は例えば3.1〜5.7Vであり、且つ前記基板の表面の接触角は90°以下とする。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、表面電位制御工程で、基板の表面電位が、セラミック超微粒子分散溶液のゼータ電位とは逆極性でセラミック超微粒子と共有結合可能な電位になるので、セラミック超微粒子を静電力で基板に近寄せ、化学結合により固定することができ、その結果、基板上にセラミック超微粒子による規則配列単粒子膜が得られる。
【0020】
また、表面電位制御工程として、第1・第2の2種類のシラン系化合物溶液中に基板を浸漬する第1・第2処理工程を実行することにより、基板の表面電位をより高くすることができ、基板上のセラミック超微粒子の充填率を高めることができる。
【0021】
また、表面電位制御工程として、第1のシラン系化合物溶液中に基板を浸漬し、その後に紫外光の照射によって光化学反応を起こすことによって、基板の表面電位をより高くでき、基板上のセラミック超微粒子の充填率を高めることができる。
【0022】
また、この発明は、セラミック超微粒子膜として、SiO2超微粒子膜、TiO2超微粒子膜、またはBaTiO3超微粒子膜を製造することが可能である。
【0023】
また、セラミック超微粒子膜が、SiO2超微粒子膜またはTiO2超微粒子膜の場合には、基板の表面電位が3.1〜5.7Vの範囲で且つ基板表面の接触角が90°以下であることにより、基板上のセラミック超微粒子の規則配列単粒子膜を最密充填で且つ広面積に亘って形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
(1)まず、セラミック超微粒子膜が形成される基板の表面のゴミ等を除去するために、有機溶剤で超音波洗浄し、続いて、水洗・水分除去を行う。
【0025】
(2)次に、基板に対し、エキシマランプを用いて紫外光(UV光)の照射を行い、基板の表面の有機物を除去し、親水性にする(ドライ洗浄)。
【0026】
(3)次に、基板の表面電位制御を行う。基板の表面電子制御は次の2つの方法のいずれかを行う。
【0027】
(a)化学分子式がR−Si−X(Rは炭化水素基、XはClまたはアルコキシ基)で表されるシラン系化合物溶液中に基板を浸漬する第1処理工程と、この第1処理工程に続いて化学分子式が(RO)n−Si−Ym(Rは炭化水素基、Yはアミノ基、メルカプト基、アミン基またはカルボキシル基のうちいずれか、n=1〜3、m=1〜3)で表されるシラン系化合物溶液中に基板を浸漬する第2処理工程とを行う方法。
【0028】
(b)化学分子式がR−Si−X(Rは炭化水素基、XはClまたはアルコキシ基)で表されるシラン系化合物溶液中に基板を浸漬する第1処理工程と、この第1処理工程に続いて紫外光を照射する第2処理工程とを行う方法。
【0029】
ここで、上記シラン系化合物は、水と接すると加水分解してシラノール基を生成する。このシラノール基は自己縮合によって高分子化すると同時に、基板表面のOH基と水素結合する。一方、官能基Rはセラミック超微粒子と化学結合する。
【0030】
(4)そして、前記表面電位制御を行った基板を、セラミック超微粒子が分散された溶液(サスペンション)中に浸漬し、乾燥させ、基板上にセラミック超微粒子膜を形成する。
【0031】
図4は、上述の(3)基板の表面電位制御の(a)に相当する2種類のシラン系化合物溶液を用いた場合の結果である。(A)は第1処理工程でトリメチルクロロシラン溶液(以下「TMCS」とする)を用い、第2処理工程でアミノプロピルトリエトキシシラン溶液(以下「APES」とする)を用いたものであり、表面電位は3.42V、接触角は50.4°となった。(B)は第1処理工程でクロロトリヘキシルシラン溶液(以下「CTHS」とする)を用い、第2処理工程でアミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン溶液(以下「AAPMS」とする)を用いたものであり、表面電位は5.61V、接触角は36.0°となった。(C)は第1処理工程でクロロジメタルピニルシラン溶液(以下「CDMS」とする)を用い、第2処理工程でAAPMSを用いたものであり、表面電位は5.57V、接触角は63.4°となった。
【0032】
なお、第1処理工程で用いられる第1のシラン系化合物溶液のTMCS,CTHS,CDMSは、いずれも化学分子式がR−Si−X(Rは炭化水素基、XはClまたはアルコキシ基)で表されるシラン系化合物溶液である。また、第2処理工程で用いられる第2のシラン系化合物溶液のAPES、AAPMSは、いずれも化学分子式が(RO)n−Si−Ym(Rは炭化水素基、Yはアミノ基、メルカプト基、アミン基またはカルボキシル基のうちいずれか、n=1〜3、m=1〜3)で表されるシラン系化合物溶液である。基板表面に付着しているシラン系化合物のR基(疎水基)の種類と量によって表面電位が変わるので、シラン系化合物溶液の組成に応じて、結果的に得られる表面電位は変わる。
【0033】
この結果から、基板の表面電位が高くなるほどSiO2超微粒子の付着量が増すことが分かる。
【0034】
ここで、比較例として、基板の表面電位制御を行うために、1種類のシラン系化合物を用いた場合の結果を図5に示す。(A)はオクタデシルトリメトキシシラン(以下「OTS」とする)に基板を浸漬したものであり、表面電位は0.64V、接触角は104.4°、(B)はCDMSに基板を浸漬したものであり、表面電位は1.15V、接触角は51.4°となった。(C)はAPESに基板を浸漬したものであり、表面電位は2.58V、接触角は40.2°、(D)はAAPMSに基板を浸漬した例であり、表面電位は2.78V、接触角は40.5°となった。このように1種類のシラン系化合物溶液に基板を浸漬したものは、いずれもSiO2超微粒子の付着量が少ない。図5(D)に示したように、表面電位が2.78Vでも粒子の充填度は未だ低い。
【0035】
以上のように、基板を2種類のシラン系化合物溶液に浸漬することによって、比較例で示した1種類のシラン系化合物溶液に浸漬した場合に比べて基板の表面電位が高くなり、その表面電位が高くなる程、充填度の高い膜(最密充填膜)が得られることが分かる。これは、2種類のシラン系化合物溶液を用い、2度にわたって基板の浸漬を行うことによって、第1処理工程で1層目の表面電位を低くし、第2処理工程で2層目の有機化合物が付着し易くなって、結果的に多くの有機化合物が付着して、基板の表面電位が高まるものと推定される。
【0036】
図6は、上述の(3)基板の表面電位制御の(b)に相当するシラン系化合物溶液と紫外光照射を用いた場合の結果である。(A)は第1処理工程でOTSを用い、第2処理工程で紫外光を照射したものであり、表面電位は4.22V、接触角は10°となった。(B)は第1処理工程でTMCSを用い、第2処理工程で紫外光を照射した例であり、表面電位は4.35V、接触角は10°となった。
【0037】
このように1種類のシラン系化合物溶液に基板を浸漬した場合であっても、それと紫外光照射を組み合わせることによって表面電位が高くなる。これは、基板表面に付着しているシラン系化合物のR基(疎水基)の分子が紫外光による光化学反応(活性化)で切れ、その結果、表面電位が高くなるものと推定される。
【0038】
よって、基板を1種類のシラン系化合物溶液に浸漬した後に紫外光の照射を組み合わせることによって、広面積に亘ってセラミック超微粒子による最密充填の規則配列単粒子膜が得られた。
【0039】
以上のことから、基板の表面電位が3.1V〜5.7Vの範囲で規則配列単粒子膜が得られることがわかった。また、接触角について着目すると、接触角90°以下という条件も付加される。
【0040】
図7はセラミック超微粒子分散溶液(サスペンション)のゼータ電位の影響について調べた結果である。ここで示すゼータ電位は、マルバーン社製のゼータサイザーナノシリーズ(Nano-ZS)を用いた。
【0041】
図7は基板の表面電位を3.10Vで一定とし、ゼータ電位を変化させた時の超微粒子膜の状態を示している。セラミック超微粒子分散溶液として、SiO2水性ゾル(日産化学工業社製、商品名:STSOL)を用い、水で濃度を調整してゼータ電位を変化させてから超微粒子膜を形成した。(A)はゼータ電位が−22.4mVのセラミック超微粒子分散溶液(STSOL原液)を用いた場合の得られた膜のSEM写真である。(B)はゼータ電位が−40.2mVのセラミック超微粒子分散溶液(STSOL原液を10倍に薄めた溶液)を用いた場合の得られた膜のSEM写真である。(C)はゼータ電位が−53.3mVのセラミック超微粒子分散溶液(STSOL原液を20倍に薄めた溶液)を用いた場合の得られた膜のSEM写真である。
【0042】
このようにセラミック超微粒子分散溶液のゼータ電位を基板の表面電位とは逆極性で、かつ、その絶対値を大きくすることによって基板表面への超微粒子の付着量が多くなることがわかる。
【0043】
ここで、既に図6を用いて説明したように、表面電位制御工程で紫外光の照射を行うことによって表面電位の制御が可能であるので、この紫外光照射によって超微粒子膜のパターニングを行うことも可能である。図8・図9はその例について示している。
【0044】
図8は、基板をOTSに浸漬した後に、ラインパターン状の紫外光の照射を行った結果であり、(A)はその広域SEM写真、(B)は(A)の紫外光照射領域(b)の拡大SEM写真、(C)は(A)の紫外光非照射領域(c)の拡大SEM写真である。
【0045】
図9は、基板をTMCSに浸漬した後に、ラインパターン状の紫外光の照射を行った結果であり、(A)はその広域SEM写真、(B)は(A)の紫外光照射領域(b)の拡大写真、(C)は(A)の紫外光照射領域と非照射領域の境界部分(c)の拡大写真である。
【0046】
このように紫外光を照射した領域には緻密な超微粒子膜が形成され、照射しなかった領域には超微粒子膜が形成されない。
【0047】
以上に示した例はいずれもSiO2超微粒子膜についてであったが、他のセラミック超微粒子膜を形成する場合についても同様である。図10はTiO2超微粒子膜の例であり、基板の表面電位を3.10Vで一定とし、TiO2を含むセラミック超微粒子分散溶液のゼータ電位を変化させた例である。(A)はセラミック超微粒子分散溶液の平均ゼータ電位が−29.6mVの場合であり、平均粒径17nmのTiO2超微粒子膜が得られた。また(B)はセラミック超微粒子分散溶液の平均ゼータ電位が−50.2mVの場合であり、平均粒径40nmの超微粒子膜が得られた。このようにTiO2についても、基板全面に緻密な超微粒子膜を形成できる。
【0048】
また、図11は、BaTiO3超微粒子膜の例であり、基板の表面電位を−0.03Vで調整して、BaTiO3を含むセラミック超微粒子分散溶液のゼータ電位が+43.9mVの場合で得られた膜のSEM写真である。このようにBaTiO3についても、基板全面に緻密な超微粒子膜を形成できる。
【0049】
以上に述べた範囲では、基板の表面に単層のセラミック超微粒子の超微粒子膜を形成しただけであるが、この発明はセラミック超微粒子膜の積層構造体へ発展し得るものである。例えば図12の(A)に示すように、基板上に有機化合物を介してそれぞれナノ粒子A,B,Cの層を積層し、その後、加熱処理などによって有機化合物を除去することによって(B)のようにセラミック超微粒子膜の多層構造体が得られる。
【0050】
また、多層構造体を応用して、例えばBT(BaTiO3)/ST(SrTiO3)の相交積層構造体を作製すれば、BST((Ba,Sr)TiO3)のバルクと比べて新たな機能性が生じることが考えられる。
【0051】
以上、この発明に係るセラミック超微粒子膜の製造方法を説明したが、その他種々の変形例が可能である。
例えば、有機化合物溶液として、シラン系化合物溶液を用いたが、これに限られるものではなく、少なくとも2種類の有機化合物溶液を用いるか、または、有機化合物溶液と紫外光を用いることで、基板の表面電位をセラミック超微粒子分散溶液のゼータ電位とは逆極性でセラミック超微粒子分散溶液中のセラミック粒子と共有結合可能な電位に制御することが可能であれば、その他の有機化合物溶液を用いることも可能である。
【0052】
また、有機化合物溶液は2種類以上用いても構わない。その場合、最初の処理工程で1層目の表面電位を低くし、以降の処理工程で有機化合物が付着し易くする必要がある。
【実施例】
【0053】
以下に示す第1〜第3の実施例では、基板およびセラミック超微粒子分散溶液(サスペンション)として次のものを用いた。まず、基板としては、次の表面処理を施したSiウエハ(100面)を用意した。基板をアセトン溶液中に超音波で10分間洗浄して、エタノール置換してから、水洗を行い、基板上の水分を150℃で5分間加熱して除去した。次に、基板表面の有機成分を取り除くために、エキシマランプで30分以上紫外光照射を行った。
【0054】
また、セラミック超微粒子分散溶液としては、市販の水性SiO2ゾル溶液(日産化学工業社製、商品名:STSOL)を用いた。この水性SiO2ゾル溶液のpHは9〜10、ゼータ電位は−32.4mV、平均粒径は約50nmである。
【0055】
なお、基板の表面電位の測定は、AFM(原子間力顕微鏡:Atomic Force Microscope)を用いた。付着元素の検出は、XPS(X線光電子分光:Xrayphotoelectron spectroscopy)を用いた。親・疎水性は、界面張力計を用いて接触角を計測した。水性SiO2ゾル溶液の粒径、粒度分布、ゼータ電位の測定は、マルバーン社製のゼータサイザーナノシリーズ(Nano-ZS)を用いた。SEM観察は、FE−SEM(電界放射型走査電子顕微鏡)を用いた。
【0056】
《第1の実施例》
基板の表面電位制御のための第1処理工程として、基板を第1のシラン系化合物溶液であるTMCS(トリメチルクロロシラン:(CH3)3SiCl)の1vol%トルエン溶液)中に10分間浸漬して、取り出した後120℃で5分間加熱した。これにより基板と第1のシラン系化合物の分子膜間の固着力を向上させた。
【0057】
続いて、第2処理工程として、基板を第2のシラン系化合物溶液であるAPES(γ-アミノプロピルトリエトキシシラン:HN(CH3)2Si(OC2H5)3)の1vol%トルエン溶液中に60分間浸漬して、取り出した後120℃で5分間加熱した。
【0058】
上記第1・第2処理工程を行った後、基板を水性SiO2ゾル溶液中に30分浸漬した。取り出した後、水ですすいでから、1℃で48時間乾燥させた。
【0059】
《第2の実施例》
基板の表面電位制御のための第1処理工程として、基板を第1のシラン系化合物溶液であるCTHS(クロロトリヘキシルシラン:[CH3(CH2)5]3SiCl)の1vol%トルエン溶液中に10分間浸漬して、取り出した後120℃で5分間加熱した。これにより基板と第1のシラン系化合物の分子膜間の固着力を向上させた。
【0060】
続いて、第2処理工程として、基板を第2のシラン系化合物溶液であるAAPMS(アミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン:NH2C=ONH2C3H6Si(OC2H5)3)の1vol%トルエン溶液中に60分間浸漬して、取り出した後120℃で5分間加熱した。
【0061】
上記第1・第2処理工程を行った後、基板を水性SiO2ゾル溶液中に30分浸漬した。取り出した後、水ですすいでから、1℃で48時間乾燥させた。
【0062】
《第3の実施例》
基板の表面電位制御のための第1処理工程として、基板を第1のシラン系化合物溶液であるフェニルトリクロロシラン(PTCS):C6H5Cl3Si)の1vol%トルエン溶液中に10分間浸漬し、取り出した後120℃で5分間加熱した。これにより基板と第1のシラン系化合物の分子膜間の固着力を向上させた。
【0063】
続いて、第2処理工程として、基板にエキシマランプ(波長172nm)を用いて紫外光を60分間照射した。照射後の基板を水性SiO2ゾル溶液中に30分浸漬した。取り出した後、水ですすいでから、1℃で48時間乾燥させた。
【0064】
得られた超微粒子膜をFE−SEMで観察した結果を図13に示す。第1〜第3の実施例において、処理した基板の表面電位はそれぞれ3.42mV、5.61mV、4.33mVであった。得られた超微粒子膜のSEM写真から、いずれも広い面積に亘って最密充填で規則性が高いことが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】特許文献1に示されているフォトニック結晶の製造方法のイメージを示す図である。
【図2】特許文献1に示されているフォトニック結晶の他の製造方法のイメージを示す図である。
【図3】特許文献2に示されている金属化合物のパターン形成工程のイメージを示す図である。
【図4】2種類のシラン系化合物溶液を用いて基板の表面電位を制御した場合の超微粒子膜のSEM写真である。
【図5】比較例である1種類のシラン系化合物溶液を用いて基板の表面電位を制御した場合の超微粒子膜のSEM写真である。
【図6】シラン系化合物溶液と紫外光を用いて基板の表面電位を制御した場合の超微粒子膜のSEM写真である。
【図7】セラミック超微粒子分散溶液のゼータ電位の影響を示す超微粒子膜のSEM写真である。
【図8】紫外光の照射による超微粒子膜のパターニングの例を示すSEM写真である。
【図9】紫外光の照射による超微粒子膜のパターニングの例を示すSEM写真である。
【図10】TiO2超微粒子膜の例を示すSEM写真である。
【図11】BaTiO3超微粒子膜の例を示すSEM写真である。
【図12】セラミック超微粒子膜の積層構造の例を示す図である。
【図13】第1〜第3の実施例により形成した超微粒子膜のSEM写真である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を少なくとも2種類の有機化合物溶液中に浸漬し、当該基板の表面電位をセラミック超微粒子分散溶液のゼータ電位とは逆極性で前記セラミック超微粒子分散溶液中のセラミック粒子と共有結合可能な電位に制御する表面電位制御工程と、
前記基板を前記セラミック超微粒子分散溶液中に浸漬する工程と、
前記基板を乾燥させる工程と、
を備えることを特徴とするセラミック超微粒子膜の製造方法。
【請求項2】
前記表面電位制御工程は、化学分子式がR−Si−X(Rは炭化水素基、XはClまたはアルコキシ基)で表される第1のシラン系化合物溶液中に前記基板を浸漬する第1処理工程と、この第1処理工程に続いて化学分子式が(RO)n−Si−Ym(Rは炭化水素基、Yはアミノ基、メルカプト基、アミン基またはカルボキシル基のうちいずれか、n=1〜3、m=1〜3)で表される第2のシラン系化合物溶液中に前記基板を浸漬する第2処理工程とからなる請求項1に記載のセラミック超微粒子膜の製造方法。
【請求項3】
基板を有機化合物溶液中に浸漬し、かつ、当該基板に紫外光を照射し、当該基板の表面電位をセラミック超微粒子分散溶液のゼータ電位とは逆極性で前記セラミック超微粒子分散溶液中のセラミック粒子と共有結合可能な電位に制御する表面電位制御工程と、
前記基板を前記セラミック超微粒子分散溶液中に浸漬する工程と、
前記基板を乾燥させる工程と、
を備えることを特徴とするセラミック超微粒子膜の製造方法。
【請求項4】
前記表面電位制御工程は、化学分子式がR−Si−X(Rは炭化水素基、XはClまたはアルコキシ基)で表される第1のシラン系化合物溶液中に前記基板を浸漬する第1処理工程と、この第1処理工程に続いて紫外光を照射する第2処理工程とからなる請求項3に記載のセラミック超微粒子膜の製造方法。
【請求項5】
前記セラミック超微粒子膜は、SiO2超微粒子膜、TiO2超微粒子膜、またはBaTiO3超微粒子膜のいずれかである請求項1〜4のうちいずれか1項に記載のセラミック超粒子膜の製造方法。
【請求項6】
前記セラミック超微粒子膜は、SiO2超微粒子膜またはTiO2超微粒子膜のいずれかであり、前記表面電位は3.1〜5.7Vの範囲であり、且つ前記基板の表面の接触角が90°以下である請求項1〜4のうちいずれか1項に記載のセラミック超微粒子膜の製造方法。
【請求項1】
基板を少なくとも2種類の有機化合物溶液中に浸漬し、当該基板の表面電位をセラミック超微粒子分散溶液のゼータ電位とは逆極性で前記セラミック超微粒子分散溶液中のセラミック粒子と共有結合可能な電位に制御する表面電位制御工程と、
前記基板を前記セラミック超微粒子分散溶液中に浸漬する工程と、
前記基板を乾燥させる工程と、
を備えることを特徴とするセラミック超微粒子膜の製造方法。
【請求項2】
前記表面電位制御工程は、化学分子式がR−Si−X(Rは炭化水素基、XはClまたはアルコキシ基)で表される第1のシラン系化合物溶液中に前記基板を浸漬する第1処理工程と、この第1処理工程に続いて化学分子式が(RO)n−Si−Ym(Rは炭化水素基、Yはアミノ基、メルカプト基、アミン基またはカルボキシル基のうちいずれか、n=1〜3、m=1〜3)で表される第2のシラン系化合物溶液中に前記基板を浸漬する第2処理工程とからなる請求項1に記載のセラミック超微粒子膜の製造方法。
【請求項3】
基板を有機化合物溶液中に浸漬し、かつ、当該基板に紫外光を照射し、当該基板の表面電位をセラミック超微粒子分散溶液のゼータ電位とは逆極性で前記セラミック超微粒子分散溶液中のセラミック粒子と共有結合可能な電位に制御する表面電位制御工程と、
前記基板を前記セラミック超微粒子分散溶液中に浸漬する工程と、
前記基板を乾燥させる工程と、
を備えることを特徴とするセラミック超微粒子膜の製造方法。
【請求項4】
前記表面電位制御工程は、化学分子式がR−Si−X(Rは炭化水素基、XはClまたはアルコキシ基)で表される第1のシラン系化合物溶液中に前記基板を浸漬する第1処理工程と、この第1処理工程に続いて紫外光を照射する第2処理工程とからなる請求項3に記載のセラミック超微粒子膜の製造方法。
【請求項5】
前記セラミック超微粒子膜は、SiO2超微粒子膜、TiO2超微粒子膜、またはBaTiO3超微粒子膜のいずれかである請求項1〜4のうちいずれか1項に記載のセラミック超粒子膜の製造方法。
【請求項6】
前記セラミック超微粒子膜は、SiO2超微粒子膜またはTiO2超微粒子膜のいずれかであり、前記表面電位は3.1〜5.7Vの範囲であり、且つ前記基板の表面の接触角が90°以下である請求項1〜4のうちいずれか1項に記載のセラミック超微粒子膜の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図8】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図8】
【図10】
【公開番号】特開2007−256528(P2007−256528A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−79609(P2006−79609)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]