説明

セリウム活性剤イオン及びプラセオジム活性剤イオンを含有するシンチレータ組成物、並びに関連する方法及び製造物品

【課題】優れた光出力、相対的に早い減衰時間、良好なエネルギ分解能特性を有し、単結晶物質又は他の透明な固体中実体に容易に転化可能であり、効率的に、妥当な経費で、且つ許容可能な結晶寸法として生成されることが可能であり、多様な高エネルギ放射線検出器と両立するシンチレータ組成物を提供する。
【解決手段】シンチレータ組成物が、リン酸ルテチウム母材、該母材物質用のセリウム活性剤イオン、プラセオジム活性剤イオン、及びこれらの任意の反応生成物を含んでいる。これらのシンチレータを用いた放射線検出器、及び高エネルギ放射線を検出する関連する方法についても記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
一般的には、本発明は、電離放射線の検出に用いられる物質及び装置に関する。さらに具体的には、本発明は、多様な条件下でガンマ線及びX線を検出するのに特に有用なシンチレータ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
高エネルギ放射線を検出するために多くの手法が利用可能である。単純さ及び精度を考慮して、シンチレータに格別の関心が寄せられている。このように、シンチレータ結晶は、ガンマ線、X線、宇宙線、及び約1keVを上回るエネルギ準位を特徴とする粒子用の検出器に広く用いられている。かかる結晶から、結晶が光検出手段すなわち光検出器に結合されているような検出器を製造することが可能である。放射性核種発生源からのフォトンが結晶に衝突すると、結晶は光を放出する。光検出器は、受光した光パルスの数及び強度に比例した電気信号を発生する。シンチレータ結晶は、多くの応用に広く用いられている。例としては、医用撮像設備、例えば陽電子放出断層写真法(PET)装置、石油及びガス業界用の鑿井検層(well−logging)、並びに様々なディジタル撮像応用等がある。
【0003】
当業者には理解されるように、シンチレータの組成は放射線検出設備の性能にとって極めて重要である。シンチレータは、X線及びガンマ線による励起に応答するものでなければならない。また、シンチレータは、放射線検出を強化する多くの特性を有すべきである。例えば、殆どのシンチレータ物質は、高い光出力、短い減衰時間、少ない残光、高い「阻止能(stopping power)」、及び許容可能なエネルギ分解能を有していなければならない。(シンチレータの用い方に依存して他の特性も極めて重要になる場合がある。このことについては後述する。)
当業者は、これらの特性の全てに精通していなければならない。簡単に述べると、「光出力」は、X線又はガンマ線のパルスによって励起された後にシンチレータによって放出される可視光の量である。高い光出力が望ましい、というのは、光出力が高いと光を電気パルスへ変換する放射線検出器の能力が高まるからである。(パルスの大きさが通常は放射線エネルギの量を示す。)
「減衰時間」との用語は、シンチレータによって放出される光の強度が、放射線励起が停止した時刻の光強度の所定の分率まで低下するのに必要とされる時間を指す。PET装置のような多くの応用では、減衰時間は短い方が好ましい、というのは、減衰時間が短いとガンマ線の効率的な同時計数を行なうことができるからである。結果的に、走査時間が短縮して、装置をより効率的に利用することができる。
【0004】
「阻止能」とは、物質が放射線を吸収する能力のことであり、物質の「X線吸収」又は「X線減弱」を指す場合もある。阻止能は、シンチレータ物質の密度に直接的に関係する。高い阻止能を有するシンチレータ物質は、放射線を殆ど又は全く透過させず、このことは放射線を効率的に捕獲するのに目覚ましい利点となる。
【0005】
放射線検出器の「エネルギ分解能」とは、極めて類似したエネルギ準位を有するエネルギ線(例えばガンマ線)同士の間を識別する能力を指す。エネルギ分解能は通常は、所与のエネルギ源について標準的な放射線放出エネルギにおいて測定値が採取された後に、百分率値として報告される。エネルギ分解能の値は低い方が極めて望ましい、というのは、エネルギ分解能の値が低いほど通常は高品質の放射線検出器が得られるからである。
【0006】
これらの特性の殆ど又は全てを有する多様なシンチレータ物質が多年にわたって用いられてきた。例えば、タリウム活性化型ヨウ化ナトリウム(NaI(Tl))は、何十年にもわたってシンチレータとして広く用いられている。この形式の結晶は、比較的大きく、かなり安価である。さらに、NaI(Tl)結晶は、極めて高い光出力を特徴とする。
【0007】
他の一般的なシンチレータ物質の例としては、ゲルマニウム酸ビスマス(BGO)、セリウム添加型オルトケイ酸ガドリニウム(GSO)、及びセリウム添加型オルトケイ酸ルテチウム(LSO)等がある。これらの物質の各々が、幾つかの応用に非常に適した幾つかの良好な特性を有している。
【特許文献1】米国特許第6,585,913号(Lyons等)
【特許文献2】米国特許第5,213,712号(Dole)
【特許文献3】米国特許第5,882,547号(Lynch等)
【特許文献4】米国特許第6,437,336号(Pauwels等)
【特許文献5】米国特許第6,624,420号(Chai等)
【特許文献6】米国特許第5,869,836号(Linden等)
【特許文献7】米国特許第6,624,422号(Williams等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
シンチレータ技術に精通した当業者には理解されるように、従来の物質の全てが各物質の属性と共に1又は複数の欠点を有している。例えば、タリウム活性化型ヨウ化ナトリウムは極く軟質で吸湿性の物質であり、酸素及び湿分を容易に吸収する。また、かかる物質は、大きく且つ持続性の残光を発生し、強度を計数するシステムに干渉し得る。さらに、NaI(Tl)の減衰時間は約230ナノ秒であり、多くの応用にとっては遅過ぎる。また、タリウム成分は健康面及び環境面に対する配慮から特殊な取り扱い手順を必要とする。
【0009】
一方、BGOは非吸湿性である。しかしながら、この物質の光収量(NaI(Tl)の15%)では、多くの応用にとって小さ過ぎる。この物質はまた、減衰時間が遅い。さらに、屈折率が高く、内部反射による光が生ずる。
【0010】
このように、商業用途及び産業用途のための伸び続ける需要を満たすことのできる新たなシンチレータ物質が当技術分野において強く求められている。これらの物質は、優れた光出力、及び相対的に早い減衰時間を呈すべきである。これらの物質はまた、特にガンマ線の場合に良好なエネルギ分解能特性を有すべきである。さらに、新たなシンチレータは、単結晶物質又は他の透明な固体中実体に容易に転化可能であるべきである。さらに、新たなシンチレータは、効率的に、妥当な経費で、且つ許容可能な結晶寸法として生成されることが可能であるべきである。シンチレータはまた、多様な高エネルギ放射線検出器と両立するものでなければならない。また、多数の活性剤イオンがシンチレータ組成物のホスト母材と協調的に作用するような最も好ましい条件を決定する方法にも非常な関心が寄せられる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態は、シンチレータ組成物に関するものである。この組成物は、リン酸ルテチウム母材、該母材用のセリウム活性剤イオン及びプラセオジム活性剤イオン、並びにこれらの任意の反応生成物を含んでいる。
【0012】
本発明のもう一つの実施形態は、高エネルギ放射線を検出する放射線検出器に関するものである。検出器は、以下の組成物及びこれらの任意の反応生成物を含む結晶シンチレータを含んでいる。すなわち、組成物はリン酸ルテチウムと、セリウム活性剤イオン及びプラセオジム活性剤イオンの組み合わせとを含んでなる。検出器はさらに、シンチレータによって発生される光パルスの放出に応答して電気信号を発生することが可能となるようにシンチレータに光学的に結合されている光検出器を含んでいる。
【0013】
本発明のさらにもう一つの実施形態は、シンチレーション検出器によって高エネルギ放射線を検出する方法に関するものである。この方法は、放射線の特徴を表わすフォトンを発生するように、セリウム及びプラセオジムで活性化したリン酸ルテチウムを基本成分とするシンチレータ結晶によって放射線を受光するステップを含んでいる。この方法はさらに、シンチレータ結晶に結合されているフォトン検出器によってフォトンを検出するステップを含んでいる。
【0014】
本発明のもう一つの実施形態は、活性化されたリン酸ルテチウムを基本成分とするシンチレータ結晶を生成する方法に関するものである。シンチレータ結晶は、リン酸ルテチウム母材物質と、該母材物質用のセリウム活性剤及びプラセオジム活性剤の組み合わせとを含んでいる。この方法は、シンチレータ結晶についての化学量論的要件を満たす比に従って、少なくとも1種のルテチウム含有反応物、少なくとも1種の活性剤含有反応物及び少なくとも1種のリン酸含有反応物を供給するステップを含んでいる。この方法はさらに、溶融した組成物を形成するのに十分な温度において上述の反応物を溶融させるステップと、溶融した組成物から結晶を晶出させるステップとを含んでいる。
【0015】
本発明のもう一つの実施形態は、シンチレータ組成物のホスト母材の存在下でプラセオジム・イオンがセリウム・イオンのルミネセンスを励起させる条件を決定する方法に関するものである。この方法は、プラセオジム・イオンの基底状態がセリウムの禁止帯の範囲内に位置するようにプラセオジム・イオンがホスト母材に取り込まれているか否かを決定するステップと、プラセオジム・イオンが4f5dから4fへの遷移によって支配されているか否かを決定するステップと、セリウム・イオンの放出帯がプラセオジム・イオンの4f励起状態と重なっていないことを決定するステップとを含んでいる。
【0016】
本発明の様々な特徴に関するさらなる詳細は本明細書の残りの部分に記載される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以上に述べたように、本発明は、シンチレータ組成物用のリン酸ルテチウム母材物質を含んでいる。このシンチレータ組成物はさらに、セリウム活性剤イオン及びプラセオジム活性剤イオンの組み合わせを含んでいる。これらの活性剤イオンは固溶体の形態にあってよい。本書で用いられる「固溶体」との用語は、固体結晶形態にある酸化物の混合物を指しており、単一の相又は多数の相を含んでいてよい。(当業者は、結晶の形成の後、例えば引き続き行なわれる焼結又は高密度化のような処理ステップの後に、結晶の内部に相転移が生じ得ることを理解されよう。)
リン酸ルテチウム母材物質のルテチウムの一部を1又は複数の他のランタニドによって置き換えてもよい。他のランタニドは希土類元素の任意のものであってよく、すなわちランタン、イットリウム、ガドリニウム、ルテチウム、スカンジウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム及びイッテルビウムの任意のものであってよい。2種以上のランタニドの混合物も可能である。本開示の目的のためには、イットリウムもランタニド族の一部と考えられる。(当業者は、イットリウムが希土類群に密接に関連することを理解されよう。)好ましいランタニドは、ランタン、イットリウム、ガドリニウム、スカンジウム、テルビウム及びこれらの混合物から成る群から選択される。
【0018】
幾つかの実施形態では、他のランタニド(1又は複数)によって置き換えられるルテチウムの量は、母材物質の合計量の約20モル%までである。他の実施形態では、他のランタニドによって置き換えられるルテチウムの量は、約10モル%〜約20モル%の範囲にある。これらの実施形態では、ルテチウムのこの部分を単一のランタニドによって置き換えてもよいし、2種以上のランタニドの組み合わせによって置き換えてもよい。実施形態の一例として、ルテチウムの10モル%をイットリウムによって置き換える場合には、シンチレータ組成物を(Lu0.900.10):Ce,Prによって表わすことができ、式中のセリウム及びプラセオジムは活性剤イオンである。
【0019】
シンチレータ組成物に存在する活性剤イオンの量は、用いられている母材物質、所望の放出特性及び減衰時間、並びにシンチレータを組み入れようとしている検出装置の形式等のような様々な要因に依存する。通常、活性剤イオンは、活性剤イオン及びリン酸ルテチウム母材物質の合計モル数を基準として約0.1モル%〜約20モル%の範囲の量で用いられる。多くの好適実施形態では、セリウム活性剤イオン及びプラセオジム活性剤イオンの合計量は約1モル%〜約10モル%の範囲にある。幾つかの実施形態では、セリウム活性剤イオンは約1モル%〜約10モル%の範囲で存在し、プラセオジム活性剤イオンは約0.5モル%〜約5モル%の範囲で存在する。
【0020】
後に詳述するように、プラセオジム活性剤イオンは、エネルギをセリウム活性剤イオンへ転移するために用いられる。プラセオジムの量は、母材物質へのプラセオジムの固溶度に依存してセリウムの量よりも少なくする。セリウム活性剤イオン及びプラセオジム活性剤イオンの特定の比は、上で述べた所望の特性、例えば光出力及びエネルギ分解能等のような様々な要因に依存する。幾つかの実施形態では、セリウム対プラセオジムのモル比は約99:1〜約90:10の範囲にある。
【0021】
セリウム活性剤イオンを有するリン酸ルテチウム母材でのプラセオジムの添加は、セリウム活性剤イオンの光収量を高める。図1を参照するとこの観点が分かり易い。典型的には、セリウムを活性剤イオンとして用いている多くのシンチレータの光収量が低い原因は、セリウム・イオンの基底状態10が価電子帯12の最上部から過度に高いエネルギ準位に位置することである。この条件では、バンド・ギャップ励起の結果として価電子帯12に形成される正孔14がセリウム・イオンによって捕捉されるときの効率が低い。X線励起の下では、プラセオジム活性剤イオンの正孔捕捉効率はセリウム活性剤イオンの正孔捕捉効率を上回ることを特記しておく。このことが起こる理由は、矢印18によって示すように、プラセオジム活性剤イオンの基底状態16がセリウム活性剤イオンの基底状態10よりも常に約1.56eVだけ低いからである。従って、プラセオジム・イオンは、セリウム活性剤イオンが正孔14を捕捉するときの効率が比較的低いようなリン酸ルテチウム母材又は他の固体における効率的な正孔捕捉中心として作用することができる。プラセオジム活性剤イオンがセリウム・イオンのシンチレート光収量を高め得る一般的な機構は、プラセオジム・イオンによる価電子帯正孔のより効率的な捕捉を含んでいる。プラセオジム・イオンによる正孔のより効率的な捕捉はまた、自己捕捉型励起状態の形成を妨げることもできる。
【0022】
リン酸ルテチウム・ホスト格子においては、プラセオジム活性剤イオンのルミネセンスは4f5dから4fへの配置間(interconfigurational)光学的遷移というスピン及びパリティに許された遷移によって支配される。かかる遷移においては、量子効率は約100%であり、減衰時間は約10ns〜約20nsの範囲にある。本書で用いられる「量子効率」との用語は、シンチレータ組成物のフォトンから電子への変換効率を指す。同じホスト格子におけるセリウム活性剤イオンの組み入れによって、基底状態に戻るときのプラセオジム活性剤イオンからの放出エネルギを用いて効率的なエネルギ転移過程を介して特徴的なセリウム活性剤イオン・ルミネセンスを励起させることができる。換言すると、正孔14を捕捉した後に、プラセオジム・イオンは、矢印22によって表わされている許された4f5d準位32から4f準位16(プラセオジムの基底状態)への光学的遷移を介して放出する。セリウム活性剤イオンは、自身のエネルギをプラセオジム・イオンの4f準位へは転移させない。従って、セリウム活性剤イオンからの光収量は、プラセオジムからセリウムへのエネルギ転移ステップを介して増大するものと期待される。プラセオジム・イオンでの電子正孔対の再結合によって生ずる4f5dから4fへの配置間放出22は、矢印26によって示すようにセリウム・イオンへ転移され得る、というのは、プラセオジム放出22はセリウム吸収34と、それぞれの電子エネルギ準位構造のため重なっているからである。このようにして、効率的なセリウム放出の増感がバンド・ギャップ励起の下で生ずる。この増感過程から、セリウム・イオンによる光収量が増大する。プラセオジムは、ホスト格子からセリウム・イオンへの励起エネルギの輸送に中間的な役割を果たす。
【0023】
高エネルギ放射線(例えばX線又はガンマ線)による励起の下での放出についてプラセオジム・イオンがセリウム活性剤イオンのための増感剤として作用するためには、以下の条件を満たす必要がある。(1)プラセオジム・イオンの基底状態16はセリウム・イオンの禁止帯20の範囲内に位置していなければならない。本書で用いられる「禁止帯」との用語は、価電子帯の最上部と伝導帯の最下部との間のエネルギ差のことである。(2)プラセオジム・イオンによる放出22は、4f5dから4fへの配置間光学的遷移によって支配されていなければならない。この配置間光学的遷移は、伝導帯30の最下部からの電子28と価電子帯12の正孔14とのプラセオジムの4f5d準位32における結合によって生ずる。また、4f5d準位32から4f準位16への非放射性緩和の確率は、プラセオジム・イオンの放射性減衰時間に対して小さくなければならない。(3)セリウム・イオンの4f5d準位36と4f準位10との間に生ずる放出帯24は、プラセオジム・イオンの4f励起状態とは重なり合ってはならず、セリウム・イオンからプラセオジム・イオンへのエネルギ戻り転移を回避する。(4)一般的には、セリウム及びプラセオジムの両者の量子効率は高くあるべきである。例えば、セリウム及びプラセオジムの両者の量子効率は、約80%〜約100%の範囲にあり得る。
【0024】
本発明の組成物は、様々な異なる形態として製造され得る。幾つかの好適実施形態では、組成物はモノクリスタル(すなわち「単結晶」)形態にある。単結晶シンチレーション結晶は、透過傾向が大きい。これらの結晶は、高エネルギ放射線検出器、例えばガンマ線用の検出器に特に有用である。一実施形態では、シンチレータ組成物は検出器素子の形態にあってよい。
【0025】
しかしながら、この組成物は、意図される末端用途に依存して他の形態にあってもよい。例えば、粉末形態にあってよい。また多結晶セラミックの形態で製造されてもよい。また、シンチレータ組成物が少量の不純物を含んでいてもよいことを理解されたい。これらの不純物は通常、出発物質に由来するものであり、典型的には、シンチレータ組成物の約0.1重量%未満を占める。極めて多くの場合に、これらの不純物は、組成物の約0.01重量%未満を占める。組成物はまた、容積百分率が通常は約1%未満である寄生相を含んでいてもよい。さらに、米国特許第6,585,913号(Lyons等)に教示されているように、少量の他物質をシンチレータ組成物に意図的に含めてもよい。尚、この特許を参照により本明細書に援用する。例えば、酸化プラセオジム及び/又は酸化テルビウムを添加して残光を減少させることができる。また、カルシウム及び/又はジスプロシウムを添加して放射線損傷の可能性を低くすることができる。
【0026】
シンチレータ物質を製造する方法は当技術分野では周知である。組成物は通常、湿式工程で製造されても乾式工程で製造されてもよい。(尚、シンチレータ組成物はこれらの工程の多様な反応生成物を含有し得ることを理解されたい。)多結晶物質を製造する幾つかの手法例が、上述のLyonsの特許、並びに米国特許第5,213,712号(Dole)及び同第5,882,547号(Lynch等)に記載されており、これらの特許を参照により本明細書に援用する。通常、所望の物質を正しい比で含む適当な粉末を先ず製造し、続いてか焼、ダイ形成、焼結及び/又は熱間等方圧加圧等のような操作を施す。この粉末は、様々な形態の反応物(例えば塩、酸化物、ハロゲン化物、シュウ酸塩、炭酸塩、硝酸塩又はこれらの混合物)を混合することにより製造され得る。例えば、酸化ルテチウム、酸化セリウム及び酸化プラセオジムをリン酸水素アンモニウムのようなリン酸源と混合することができる。混合は、水、アルコール又は炭化水素のような液体の存在下で行なうことができる。
【0027】
一つの例示的な乾式工程では、適当な反応物は通常は粉末形態で供給される。例えば、1又は複数のルテチウム含有反応物を、シンチレータ結晶についての化学量論的要件を満たす比で1又は複数のリン酸含有反応物、並びにセリウム及びプラセオジム含有反応物と混合することができる。(少なくとも2種の活性剤含有反応物がセリウム及びプラセオジムについて用いられる。)ルテチウム反応物及び活性剤反応物はしばしば、例えば酸化物、硝酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、硫酸塩、リン酸又は以上の任意のものの組み合わせのように含酸素化合物である。所定の条件下で、これらの化合物の多くは分解して所望の化合物、例えばルテチウム、セリウム及びプラセオジムの各リン酸塩の形態となる。対応する化合物を得るためにか焼ステップが必要とされる場合もある。
【0028】
反応物の混合は、完全な一様ブレンディングを保証する任意の適当な手段によって行なわれ得る。例えば、混合は、めのう乳鉢及び乳棒において行なうことができる。代替的には、ボール・ミル、ローラ・ミル、ハンマー・ミル又はジェット・ミルのようなブレンダ又は微粉砕装置を用いることもできる。混合物はまた、融剤化合物及びバインダのような様々な添加剤を含んでいてよい。相溶性及び/又は溶解度に依存して、ミル操作時の液体ビヒクルとして水、ヘプタン、又はエチルアルコールのようなアルコールを用いてよい場合がある。適当なミル操作媒体、例えばシンチレータに対して汚染性とならない物質を用いるべきである、というのは、かかる汚染は発光能力を損なう場合があるからである。
【0029】
ブレンドした後に、混合物を固溶体に転化するのに十分な温度及び時間条件下で混合物を焼成(firing)する。これらの条件は部分的には、用いられている母材物質及び活性剤の特定の形式に依存する。通常、焼成は炉内で約1000℃〜約1500℃の範囲の温度で行なわれる。好ましい範囲は約1200℃〜約1400℃である。焼成時間は典型的には、約15分間〜約10時間にわたる。
【0030】
焼成は不活性雰囲気内で行なわれ得る。例としては、水素、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン及びキセノンのようなガスがある。焼成が完了した後に、得られた物質を微粉砕して、シンチレータを粉末形態とする。次いで、従来の手法を用いて粉末を加工して放射線検出器素子とすることができる。
【0031】
また、単結晶物質を製造する方法も当技術分野では周知である。非限定的な例示的な参考文献としては、「Luminescent Materials」G. Blasse等著、Springer-Verlag刊(1994年)がある。通常、適当な反応物を、一致溶融した組成物を形成するのに十分な温度において溶融させる。溶融温度は反応物自体の素性に依存するが、通常は約650℃〜約2500℃の範囲にある。
【0032】
単結晶が望まれる殆どの実施形態では、結晶は適当な手法によって、溶融した組成物から形成される。多様な手法を用いることができる。これらの手法は、米国特許第6,437,336号(Pauwels等)、「Crystal Growth Processes」J.C. Brice著、Blackie & Son社刊(1986年)、及び「Encyclopedia Americana」第8巻、Grolier社刊(1981年)第286〜293頁のような多くの参考文献に記載されている。これらの記載を参照により本明細書に援用する。結晶成長手法の非限定的な実例としては、Bridgman-Stockbarger法、Czochralski法、分帯溶融法(又は「浮遊分帯」法)、及び温度勾配法がある。当業者は、これらの方法の各々に関する必要な詳細には精通している。
【0033】
一つの非限定的な例を、上で述べたLyons等の特許の教示に部分的に基づいて単結晶形態のシンチレータを製造することについて掲げる。この方法では、所望の組成物(上述)のシード結晶を飽和溶液に投入する。溶液は適当な坩堝に収容されており、シンチレータ物質の適当な前駆体を含有している。上で述べた成長手法の一つを用いて、新たな結晶物質を成長させてこの単結晶に加える。結晶の大きさは所望の末端用途、例えば結晶を組み入れる放射線検出器の形式に部分的に依存する。
【0034】
他の形態のシンチレータ物質を製造する方法も当技術分野では公知である。例えば、前述の多結晶セラミック形態の場合には、前に説明したように、シンチレータ物質を粉末形態で先ず生成する(又は粉末形態へ転化させる)。次いで、従来の手法によって(例えば炉内で)、典型的には粉末の融点の約65%〜85%の温度で、透明になるまで物質を焼結させる。焼結は、大気条件下で又は加圧下で行なわれ得る。
【0035】
本発明のさらにもう一つの実施形態は、シンチレーション検出器によって高エネルギ放射線を検出する方法に関するものである。検出器は、本書に記載したシンチレータ組成物から形成される1又は複数の結晶を含んでいる。シンチレーション検出器は当技術分野では周知であり、ここで立ち入って説明する必要はない。かかる装置について議論している幾つかの参考文献(多くのものの一部)としては、上で言及した米国特許第6,585,913号及び同6,437,336号、並びに米国特許第6,624,420号(Chai等)があり、この特許も参照により本明細書に援用する。一般的には、これらの装置のシンチレータ結晶は、検査されている発生源から放射線を受光して、放射線の特徴を表わすフォトンを発生する。これらのフォトンは何らかの形式の光検出器によって検出される。(光検出器は従来の電子的及び機械的な付設システムによってシンチレータ結晶に接続される。)光検出器は、シンチレータによって発生される光パルスの放出に応答して電気信号を発生することが可能になるように、シンチレータに光学的に結合される。
【0036】
以上に述べたように、光検出器は多様な装置であってよく、全て当技術分野では周知である。非限定的な実例としては光電子増倍管、フォトダイオード、CCDセンサ及びイメージ・インテンシファイア等がある。特定の光検出器の選択は部分的には、作製しようとしている放射線検出器の形式、及びその意図する用途に依存する。
【0037】
放射線検出器自体は、シンチレータ及び光検出器を含んでおり、前述のように多様な工具及び装置に接続され得る。非限定的な実例としては、鑿井検層工具及び核医学装置(例えばPET)等がある。放射線検出器はまた、ディジタル撮像設備、例えばピクセル型フラット・パネル装置に接続されてもよい。さらに、シンチレータを、スクリーン・シンチレータの構成要素としてもよい。例えば、粉末化したシンチレータ物質を相対的に平坦なプレートとして形成することができ、プレートをフィルム、例えば写真フィルムに取り付ける。何らかの発生源から由来する高エネルギ放射線、例えばX線がシンチレータに接触すると、光フォトンへ変換されて、フィルムに展開される。
【0038】
好ましい最終用途応用の幾つかについても簡単に議論しておくべきであろう。上で鑿井検層装置については言及しており、この装置はこれらの放射線検出器のための重要な応用を代表する。放射線検出器を鑿井検層管に接続して動作させる技術は当技術分野では周知である。一般的な概念は米国特許第5,869,836号(Linden等)に記載されており、この特許を参照により本明細書に援用する。シンチレータを含む結晶パッケージは通常は、筐体ケーシングの一端に光窓を含んでいる。この窓は、放射線によって誘導されたシンチレーション光を結晶パッケージの外部に通過させて、パッケージに結合されている感光装置(例えば光電子増倍管)による測定を可能にする。感光装置は結晶から放出された光フォトンを電気パルスへ変換し、これらの電気パルスは付設されている電子回路によって整形されてディジタル化される。この一般的な工程によって、ガンマ線を検出することができ、続いてこのガンマ線が掘鑿した試掘孔を包囲する岩盤層の解析を可能にする。
【0039】
上で述べたPET装置のような医療撮像設備は、これらの放射線検出器のためのもう一つの重要な応用を代表する。放射線検出器(シンチレータを含む)をPET装置に接続して動作させる技術もまた、当技術分野では周知である。一般的な概念は米国特許第6,624,422号(Williams等)のような多くの参考文献に記載されており、この特許を参照により本明細書に援用する。簡単に述べると、放射性医薬品が通常は患者に注射されて、関心のある器官の内部で濃縮される。化合物からの放射線核種が減衰して、陽電子を放出する。陽電子が電子に遭遇すると、両者は消滅してフォトンすなわちガンマ線へ変換される。PETスキャナは、三つの次元でこれらの「消滅」の位置を求めることができ、これにより、関心のある器官の形状を再構成して観察することができる。スキャナの検出器モジュールは通常、付設されているサーキットリと共に一定数の「検出器ブロック」を含んでいる。各々の検出器ブロックがシンチレータ結晶のアレイを所定の構成として光電子増倍管と共に含み得る。
【0040】
鑿井検層技術においてもPET技術においても、シンチレータの光出力は極めて重要である。本発明は、要求の高い応用であるこれらの技術に望ましい光出力を与えることのできるシンチレータ物質を提供する。また、これらの結晶は、前述のその他重要な特性、例えば短い減衰時間、少ない残光、高い「阻止能」及び許容可能なエネルギ分解能を同時に呈することができる。さらに、これらのシンチレータ物質は経済的に製造されることができ、また放射線検出を必要とする多様な他の装置に用いることもできる。
【0041】
本発明を特定の実施形態及び例に従って説明した。しかしながら、当業者には、請求される発明の概念の主旨及び範囲から逸脱することなく様々な改変、適応構成及び代替構成が想到されよう。上で言及した特許、論文及び教科書の全てを参照により本明細書に援用する。また、図面の符号に対応する特許請求の範囲中の符号は、単に本願発明の理解をより容易にするために用いられているものであり、本願発明の範囲を狭める意図で用いられたものではない。そして、本願の特許請求の範囲に記載した事項は、明細書に組み込まれ、明細書の記載事項の一部となる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】セリウム活性剤イオン及びプラセオジム活性剤イオンについてのエネルギ・バンド図である。
【符号の説明】
【0043】
10 セリウムの基底状態
12 価電子帯
14 正孔
16 プラセオジムの基底状態
18 セリウム及びプラセオジムの基底状態の差
20 禁止帯
22、24 遷移
26 励起
28 電子
30 伝導帯
32 プラセオジム4f5d
34 励起
36 セリウム4f5d

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)リン酸ルテチウム母材、
(b)該母材用のセリウム活性剤イオン及び
(c)前記母材用のプラセオジム活性剤イオン、並びに
これらの任意の反応生成物
を含んでなるシンチレータ組成物。
【請求項2】
ルテチウムの一部が、ランタン、イットリウム、ガドリニウム、テルビウム、スカンジウム、及びこれらの混合物から成る群から選択される1又は複数の他のランタニドにより置き換えられている、請求項1に記載のシンチレータ組成物。
【請求項3】
前記1又は複数の他のランタニドにより置き換えられているルテチウムの量が約20モル%までである、請求項2に記載のシンチレータ組成物。
【請求項4】
セリウム対プラセオジムのモル比が約99:1〜約90:10の範囲にある、請求項1に記載のシンチレータ組成物。
【請求項5】
プラセオジムは約0.5モル%〜約5モル%の範囲で存在している、請求項1に記載のシンチレータ組成物。
【請求項6】
セリウムは約1モル%〜約10モル%の範囲で存在している、請求項1に記載のシンチレータ組成物。
【請求項7】
(A)(a)リン酸ルテチウム、
(b)セリウム活性剤イオン及びプラセオジム活性剤イオンの組み合わせ、並びに
これらの任意の反応生成物を含んでなる結晶シンチレータと、
(B)該シンチレータにより発生される光パルスの放出に応答して電気信号を発生することが可能となるように前記シンチレータに光学的に結合されている光検出器と
を備えた高エネルギ放射線を検出する放射線検出器。
【請求項8】
シンチレーション検出器により高エネルギ放射線を検出する方法であって、
(A)前記放射線の特徴を表わすフォトンを発生するように、セリウム及びプラセオジムで活性化したリン酸ルテチウムを基本成分とするシンチレータ結晶により放射線を受光するステップと、
(B)前記シンチレータ結晶に結合されているフォトン検出器により前記フォトンを検出するステップと
を備えており、前記シンチレータ結晶は、
(a)リン酸ルテチウム母材物質、
(b)該母材物質用のセリウム活性剤及びプラセオジム活性剤の組み合わせ
、並びにこれらの任意の反応生成物を含んでなる組成物で形成されている、方法。
【請求項9】
(a)リン酸ルテチウム母材物質と、
(b)該母材物質用のセリウム活性剤及びプラセオジム活性剤の組み合わせと
を含んでなる活性化されたリン酸ルテチウムを基本成分とするシンチレータ結晶を生成する方法であって、
(i)前記シンチレータ結晶についての化学量論的要件を満たす比に従って、少なくとも1種のルテチウム含有反応物、少なくとも1種の活性剤含有反応物及び少なくとも1種のリン酸塩含有反応物を供給するステップと、
(ii)溶融した組成物を形成するのに十分な温度において前記反応物を溶融させるステップと、
(iii)前記溶融した組成物から結晶を晶出させるステップと
を備えた方法。
【請求項10】
シンチレータ組成物のホスト母材の存在下でプラセオジム・イオンのエネルギがセリウム・イオンのルミネセンスを励起させる条件を決定する方法であって、
プラセオジム・イオンの基底状態がセリウムの禁止帯の範囲内に位置するように前記プラセオジム・イオンがホスト母材に取り込まれているか否かを決定するステップと、
前記プラセオジム・イオンが4f5dから4fへの遷移によって支配されているか否かを決定するステップと、
セリウム・イオンの放出帯が前記プラセオジム・イオンの4f励起状態と重なっていないことを決定するステップと
を備えた方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−138199(P2008−138199A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−307224(P2007−307224)
【出願日】平成19年11月28日(2007.11.28)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】