説明

セルフレベリング性水硬性組成物

【課題】モルタル硬化体の初期クラックが発生しないようにすることのできるセルフレベリング性水硬性組成物を得る。
【解決手段】ポルトランドセメント、細骨材、混和材及び膨張材からなる主成分、並びに、硫酸アルミニウム、収縮低減剤、石灰石微粉末及び増粘剤を含むセルフレベリング性水硬性組成物であって、増粘剤が、粘度の異なる2種類のセルロース系水溶性ポリマーを含む増粘剤であり、保水剤が、水硬性成分の粒子面への吸着性能を有しないポリエーテル系水溶性ポリマーを含む保水剤である、セルフレベリング性水硬性組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた流動性と材料分離抵抗性とを併せ持ちながら、良好な表面状態のモルタル硬化体を得ることができるセルフレベリング性水硬性組成物に関する。さらに詳しくは、本発明は、住宅等の基礎コンクリートの天端などのレベル調整に用いることができるセルフレベリング性水硬性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、流動性に優れて作業性がよく、材料分離が生じず、硬化後の表面硬度(ショア硬度)が優れた面精度の良好な低収縮のセルフレベリング材について、セメント、骨材及び混和材を主成分とし、硫酸アルミニウムがセメントと骨材との合計量に対して0.1〜0.45重量%含まれていることを特徴とするセルフレベリング性セメント組成物が開示されている。
【0003】
特許文献2には、流動性、自己平滑性に優れ、特に硬化後の圧縮強度及び下地との接着強度が極めて高い高強度セルフレベリング性セメント組成物として、ポルトランドセメントに対し、ブレーン比表面積が7000〜30000cm/gの石灰石粉、フライアッシュ及び高炉水砕スラグよりなる群から選択された1種以上の無機質高微粉砕粉末が5〜30重量%含まれてなる高強度セルフレベリング性セメント組成物が開示されている。
【0004】
特許文献3には、ポルトランドセメント、細骨材、混和材及び膨張材からなる主成分と、硫酸アルミニウム、収縮低減剤、石灰石微粉末、増粘剤及び保水剤を含むセルフレベリング性水硬性組成物であって、増粘剤はセルロース系水溶性ポリマーの増粘剤であり、保水剤はポリエーテル系水溶性ポリマーの保水剤であることを特徴とするセルフレベリング性水硬性組成物が開示されている。
【0005】
特許文献4には、セルフレベリング性水硬性組成物と水とを混練して調製した水硬性モルタルを流し込み施工して硬化させることを含む建築物用基礎コンクリート構造体の施工方法が記載されている。また、特許文献4記載の施工方法において、セルフレベリング性水硬性組成物は、ポルトランドセメント、細骨材、混和材及び膨張材からなる主成分と、硫酸アルミニウム、収縮低減剤、石灰石微粉末、増粘剤及び保水剤を含み、増粘剤はセルロース系水溶性ポリマーの増粘剤であり、保水剤はポリエーテル系水溶性ポリマーの保水剤であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−333150号公報
【特許文献2】特開平8−208285号公報
【特許文献3】特開2008−247666号公報
【特許文献4】特開2008−248554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、建築物用基礎コンクリート構造体を得るにあたり、良好な施工作業性と、優れた硬化体特性とを兼ね備えたセルフレベリング性水硬性組成物を提供することを目的とする。セルフレベリング性水硬性組成物を施工する場所にボルトが配置されている場合には、セルフレベリング性水硬性組成物が硬化する初期に、そのボルト周りの部分及び型枠沿いの部分等にクラック(ひび割れ)が発生するという問題がある。そこで、本発明では、モルタル硬化体の初期クラックが発生しないようにすることのできるセルフレベリング性水硬性組成物を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題に対して、本発明者らは鋭意研究を行い、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、ポルトランドセメント、細骨材、混和材及び膨張材からなる主成分、並びに、硫酸アルミニウム、収縮低減剤、石灰石微粉末、増粘剤及び保水剤を含むセルフレベリング性水硬性組成物であって、増粘剤が、粘度の異なる2種類のセルロース系水溶性ポリマーを含む増粘剤であり、保水剤が、水硬性成分の粒子面への吸着性能を有しないポリエーテル系水溶性ポリマーを含む保水剤である、セルフレベリング性水硬性組成物である。本発明のセルフレベリング性水硬性組成物を用いることにより、モルタル硬化体の初期クラック、特にボルト周り及び型枠沿いの部分の初期クラックを発生しないようにすることができる。
【0010】
本発明のセルフレベリング性水硬性組成物の好ましい態様を以下に示す。本発明では、これらの態様を適宜組み合わせることができる。
(1)主成分が、ポルトランドセメント100質量部、細骨材100〜400質量部、混和材5〜150質量部及び膨張材3〜30質量部からなり、増粘剤が、2%水溶液の20℃における粘度が20,000〜50,000mPa・sである高粘度タイプのセルロース系水溶性ポリマーと、2%水溶液の20℃における粘度が50〜6,000mPa・sである低粘度タイプのセルロース系水溶性ポリマーとからなり、保水剤が、20℃の水に2%濃度で保水剤が溶解した水溶液粘度が35000〜70000mPa・sであるポリエーテル系水溶性ポリマーとからなり、ポルトランドセメントと細骨材との合計100質量部に対し、硫酸アルミニウムの含有量が0.1〜0.7質量部、石灰石微粉末の含有量が11〜35質量部、高粘度タイプのセルロース系水溶性ポリマーの含有量が0.005〜0.2質量部及び低粘度タイプのセルロース系水溶性ポリマーの含有量が0.04〜0.2質量部であり、ポリエーテル系水溶性ポリマーの添加量が0.001〜2質量部である。高粘度タイプ及び低粘度タイプのセルロース系水溶性ポリマー等の含有量が上記の範囲であることにより、初期クラックを確実に発生しないようにすることができる。
(2)収縮低減剤の含有量が、主成分の合計100質量部に対し0.1〜3質量部である。収縮低減剤を配合することにより、硬化時のクラックの発生を抑制することができる。
(3)セルフレベリング性水硬性組成物がさらに繊維を含み、繊維の含有量が、主成分の合計100質量部に対し0.01〜5質量部である。繊維を含むことにより、曲げ強度に優れ、クラックの生じにくい又は生じない硬化物を安定して得ることができる。
(4)セルフレベリング性水硬性組成物がさらに流動化剤と消泡剤とを含み、流動化剤の含有量が、主成分の合計100質量部に対し0.01〜3質量部であり、消泡剤の含有量が、主成分の合計100質量部に対し0.01〜3質量部である。流動化剤及び消泡剤が上記範囲であることにより、経済的に含有量に見合った効果を奏することができる。
(5)セルフレベリング性水硬性組成物が、さらに硫酸アルミニウムを除く他の凝結調整剤を含む。凝結調整剤を含むことにより、セルフレベリング性水硬性組成物の可使時間を調節することができる。
(6)セルフレベリング性水硬性組成物が、住宅基礎コンクリートの天端のレベル調整用のセルフレベリング性水硬性組成物である。本発明のセルフレベリング性水硬性組成物を用いることにより、優れた施工作業性を得ることができ、平滑性が高く、初期クラックを低減した高強度な住宅基礎コンクリート構造体を短工期で形成することができる。
【0011】
また、本発明は、上述のセルフレベリング性水硬性組成物と、水とを混練して得られる水硬性モルタルである。本発明の水硬性モルタルを用いることにより、優れた施工作業性を得ることができ、平滑性が高く、初期クラックを低減した高強度な住宅基礎コンクリート構造体を短工期で形成することができる。
【0012】
また、本発明は、上述の水硬性モルタルを硬化させて得られるモルタル硬化体である。本発明のモルタル硬化体により、初期クラックを低減した高強度な住宅基礎コンクリート構造体を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、良好な施工作業性と、優れた硬化体特性とを兼ね備えたセルフレベリング性水硬性組成物を得ることができる。また、本発明により、セルフレベリング性水硬性組成物を施工する場所にボルトが配置されている場合にも、モルタル硬化体の初期クラック、特にボルト周り及び型枠沿いの部分の初期クラックが発生しないようにすることのできるセルフレベリング性水硬性組成物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】SL測定器を用いて、セルフレベリング性評価の概略を示す図である。
【図2】水硬性モルタルを流し込み施工した際のモルタル合流箇所を模式的に示す斜視図である。
【図3】水硬性モルタルを流し込み施工して得られる、角部を有するモルタル硬化体の一例の平面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のセルフレベリング性水硬性組成物は、ポルトランドセメント、細骨材、混和材及び膨張材からなる主成分を含み、さらに、硫酸アルミニウム、収縮低減剤、石灰石微粉末、増粘剤及び保水剤を含む。本発明のセルフレベリング性水硬性組成物は、増粘剤が、粘度の異なる2種類のセルロース系水溶性ポリマーを含む増粘剤であり、保水剤が、水硬性成分の粒子面への吸着性能を有しないポリエーテル系水溶性ポリマーを含む保水剤であることに特徴がある。本発明のセルフレベリング性水硬性組成物の水硬性モルタルを用いるならば、モルタル硬化体の初期クラック(水硬性モルタルの流し込み後1日以内に発生したクラック)、特にボルト周り及び型枠沿いの部分の初期クラックが発生しないようにすることができる。以下、本発明について、説明する。
【0016】
本発明のセルフレベリング性水硬性組成物の主成分は、ポルトランドセメント、細骨材、混和材及び膨張材からなる。
【0017】
主成分の一つであり、水硬性成分であるポルトランドセメントとしては、JISに適合する普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント及びそれらの組み合わせなどを使用することができる。また、ポルトランドセメントの代わりに、高炉セメント、フライアッシュセメント及びシリカセメントなどの混合セメントなどを使用することもできる。
【0018】
本発明のセルフレベリング性水硬性組成物は、主成分の一つとして細骨材を含む。細骨材の種類は、珪砂、川砂、海砂、山砂及び砕砂などの砂類、アルミナクリンカー、シリカ粉、粘土鉱物、廃FCC触媒及び石灰石などの無機材料、ウレタン砕、EVAフォーム及び発砲樹脂などの樹脂粉砕物などから適宜選択して用いることができる。特に、細骨材としては、珪砂、川砂、海砂、山砂、砕砂などの砂類、廃FCC触媒、石英粉末及びアルミナクリンカーなどから選択したものの一種又は二種以上の混合物を好ましく用いることができる。
【0019】
細骨材の粒径としては、好ましくは2mm以下の粒径のもの、さらに好ましくは1mm以下の粒径のもの、より好ましくは0.7mm以下の粒径のもの、特に好ましくは0.6mm以下の粒径のものを好適に用いることができる。細骨材の粒径は、JIS・Z−8801で規定される呼び寸法の異なる数個のふるいを用いて測定する。
【0020】
本発明のセルフレベリング性水硬性組成物中の細骨材の含有量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは100〜400質量部、さらに好ましくは120〜350質量部、より好ましくは140〜320質量部、特に好ましくは150〜300質量部の範囲である。本発明のセルフレベリング性水硬性組成物中の細骨材の含有量が前記範囲内であると、流動性及び材料分離抵抗性に優れたモルタル・スラリーを得ることができるとともに、表面状態の優れ高強度の硬化物を得ることができることから好ましい。
【0021】
主成分の一つである混和材としては、フライアッシュ及び高炉スラグ微粉末などのスラグ粉末などを挙げることができ、これらは単独でも二種以上併用しても用いることができる。特に高炉スラグ微粉末を含むことにより、曲げ・圧縮強さを高めることができる。したがって、混和材としては、高炉スラグ微粉末を含むことが好ましい。
【0022】
混和材の粉末度(ブレーン比表面積)は、3,000〜5,000cm/gのものを好適に用いることができる。混和材のブレーン比表面積が3,000cm/g未満の場合、モルタル・スラリーの材料分離抵抗性を高める効果が乏しくなり、また、混和材の水和反応性が乏しくなる。一方、混和材のブレーン比表面積が5,000cm/gを超えると、モルタル・スラリーの粘性が高くなる傾向が顕著になり、流動性を阻害することがある。
【0023】
本発明のセルフレベリング性水硬性組成物中の混和材の含有量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは5〜150質量部、より好ましくは10〜120質量部、さらに好ましくは15〜90質量部、特に好ましくは20〜80質量部の範囲であることが適当である。混和材が上記の範囲の含有量であることによって、表面性状及び圧縮強度に優れたモルタル硬化体を得ることができる。
【0024】
主成分の一つである膨張材としては、例えばエトリンガイト系のカルシウムサルホアルミネートを主成分とする膨張材、酸化カルシウム、酸化アルミニウム及び三酸化イオウを主成分とする膨張材、生石灰などの石灰系膨張材並びに石膏などの石膏系膨張材などを挙げることができ、これらの膨張材の一種又は二種以上の混合物として用いることができる。膨張材としては、石膏系膨張材、特に石膏又は石膏を含有する膨張材を用いることが好ましい。
【0025】
本発明のセルフレベリング性水硬性組成物中の膨張材の含有量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは3〜30質量部、さらに好ましくは5〜25質量部、より好ましくは8〜20質量部、特に好ましくは10〜18質量部の範囲であることができる。膨張材が前記含有量の範囲であると、適正な膨張性を発現してモルタル硬化体の長さ変化を抑制できると同時に、過剰な膨張作用に起因するクラックの発生を防止できることから好ましい。
【0026】
膨張材として特に好適に用いられる石膏としては、無水及び半水等の石膏である。膨張材としては、無水及び半水等の石膏の種類を問わず、それらの一種又は二種以上の混合物として使用できる。
【0027】
膨張材として用いることが好ましい石灰類としては、生石灰、消石灰及び仮焼ドロマイト等を挙げることができ、それらの一種又は二種以上の混合物として使用できる。
【0028】
本発明のセルフレベリング性水硬性組成物は、ポルトランドセメント、細骨材、混和材及び膨張材からなる主成分とともに、硫酸アルミニウム、収縮低減剤、石灰石微粉末、セルロース系水溶性ポリマー増粘剤及びポリエーテル系水溶性ポリマー保水剤を含む。
【0029】
本発明のセルフレベリング性水硬性組成物に含まれる硫酸アルミニウムは、凝結促進剤としての機能を有する。硫酸アルミニウムの含有量は、ポルトランドセメントと細骨材との合計量(100質量部)に対して、好ましくは0.1〜0.7質量部、より好ましくは0.15〜0.6質量部、さらに好ましくは0.2〜0.5質量部、特に好ましくは0.25〜0.45質量部の範囲であることが好ましい。硫酸アルミニウムの含有量を上記の範囲とすることによって、良好な強度発現の増進効果を得ることができ、この早期強度発現によって良好な硬化体の収縮低減効果を得ることができる。硫酸アルミニウムの含有量が少なすぎると収縮低減効果の発現が不十分となる。また、硫酸アルミニウムの含有量が増すにしたがって収縮低減効果も大きくなるが、過剰に添加するとセメントの凝結促進効果が顕著になってモルタル・スラリーの流動性が低下するとともに、硬化体に微細なひび割れが生じることがある。したがって、硫酸アルミニウムの含有量は上記範囲であることが好適である。
【0030】
本発明のセルフレベリング性水硬性組成物は、収縮低減剤を含む。本発明のセルフレベリング性水硬性組成物に対して、その特性を損なわない範囲で収縮低減剤を配合することにより、硬化時のクラックの発生を抑制して耐久性を向上させることができる。
【0031】
収縮低減剤としては、公知の収縮低減剤を用いることができる。収縮低減剤としては、特に下記化学式(1)で表されるアルキレンオキシド重合物を化学構造の骨格に有するものなどを好適に用いることができる。
【0032】
【化1】


(但し式(1)中、R及びRは、互いに独立してアルキル基、フェニル基、シクロアルキル基、水素基などであり、Aは炭素数2〜3の1種のアルキレン基(エチレン基、プロピレン基)又はランダム若しくはブロック重合させた2種のアルキレン基であり、nは2〜20の整数である。)
【0033】
収縮低減剤としては、例えばポリプロピレングリコール、ポリ(プロピレン・エチレン)グリコールなどのポリアルキレングリコール類及び炭素数1〜6のアルコキシポリ(プロピレン・エチレン)グリコールなどの一般に公知のものから適宜選択して用いることができる。
【0034】
セルフレベリング性水硬性組成物に対する収縮低減剤の含有量は、使用する主成分や副成分の含有量に応じて、適宜選択することができる。例えば、収縮低減剤の含有量は、主成分100質量部に対して、好ましくは0.1〜3質量部、さらに好ましくは0.15〜2質量部、より好ましくは0.18〜1質量部、さらに好ましくは0.2〜0.8質量部であることが好ましい。
【0035】
本発明のセルフレベリング性水硬性組成物は、石灰石微粉末を含む。本発明のセルフレベリング性水硬性組成物が石灰石微粉末を含むことによって、水硬性モルタルに優れた流動性、特に、優れた流動速度を付与するとともに、材料分離抵抗性を向上させ、さらには高い圧縮強度を有するモルタル硬化体を得ることができる。
【0036】
セルフレベリング性水硬性組成物に対する石灰石微粉末の含有量としては、ポルトランドセメントと細骨材との合計量(100質量部)に対して好ましくは11〜35質量部、より好ましくは12〜33質量部、さらに好ましくは13〜31質量部、特に好ましくは14〜30質量部の範囲である。上記の含有量の範囲の石灰石微粉末を使用することによって、良好な流動性と優れた材料分離抵抗性を持った水硬性モルタル・スラリーを得ることができる。また、その水硬性モルタル・スラリーを用いることによって、良好な表面状態と優れた圧縮強度を有するモルタル硬化体とを得ることができる。
【0037】
セルフレベリング性水硬性組成物に対する石灰石微粉末の含有量が少なすぎると良好な材料分離抵抗性が得られにくくなり、また硬化体強度の向上効果も不充分になる。逆に、セルフレベリング性水硬性組成物に対する石灰石微粉末の添加が過剰であると、水硬性モルタル・スラリーの粘性が増加する傾向にあり、流動性が低下してしまう。このため石灰石微粉末の含有量は前記の範囲であることが好ましい。
【0038】
石灰石微粉末の粉末度(ブレーン比表面積)は、3,000〜5,000cm/gのものを好適に用いることができる。ブレーン比表面積が3,000cm/g未満の場合、モルタル・スラリーの材料分離抵抗性を高める効果が乏しくなる。また、ブレーン比表面積が5,000cm/gを超えるとモルタル・スラリーの粘性が高くなる傾向が顕著になって流動性を阻害することがある。
【0039】
本発明のセルフレベリング性水硬性組成物では、水硬性モルタルのセルフレベリング性と材料分離抵抗性とを高い次元でバランスさせ、さらに、水硬性モルタルが硬化する初期過程での水硬性モルタル表面の乾燥を抑制してひび割れの発生を回避するために、粘度の異なる2種類のセルロース系水溶性ポリマーを含む増粘剤及びポリエーテル系水溶性ポリマーを含む保水剤を用いる。
【0040】
本発明のセルフレベリング性水硬性組成物に含まれる増粘剤は、2%水溶液の20℃における粘度が20,000〜50,000mPa・s、好ましくは20,000〜40,000mPa・sである高粘度タイプのセルロース系水溶性ポリマーと、2%水溶液の20℃における粘度が50〜6,000mPa・s、好ましくは50〜4,000mPa・s、より好ましくは100〜2,000mPa・sである低粘度タイプのセルロース系水溶性ポリマーとからなる。なお、本明細書において粘度とは、セルロース系水溶性ポリマーの2%水溶液を、B型粘度計(東京計器社製デジタル粘度計 DVL−B形)を用いて、回転速度12rpm、20℃で測定した値とする。
【0041】
増粘剤の具体例としては、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、グリオキザール付加ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びカルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体等の水溶性高分子等を挙げることができ、それらの中から選択される一種又は二種以上の混合物を用いることができる。
【0042】
増粘剤に含まれるセルロース系水溶性ポリマーの粘度は、市販の増粘剤の中から所定の粘度のものを選択することにより、調節することができる。セルロース系水溶性ポリマーを含む増粘剤としては、粘度の異なる種々のものが市販され、入手可能である。
【0043】
増粘剤に含まれる高粘度タイプのセルロース系水溶性ポリマーの含有量は、ポルトランドセメントと細骨材との合計量(100質量部)に対して、0.001〜0.2質量部、好ましくは0.003〜0.1質量部、より好ましくは0.005〜0.07質量部含むことが好ましい。また、増粘剤に含まれる低粘度タイプのセルロース系水溶性ポリマーの含有量は、ポルトランドセメントと細骨材との合計量(100質量部)に対して、0.04〜0.2質量部、好ましくは0.05〜0.17質量部、より好ましくは0.06〜0.14質量部含むことが好ましい。高粘度タイプ及び低粘度タイプのセルロース系水溶性ポリマーの含有量が上記の範囲であることにより、本発明の奏する効果を確実にすることができる。なお、増粘剤の含有量が少なくなると増粘剤による効果が低下し、増粘剤の含有量が多くなると、流動性の低下を招く恐れがある。
【0044】
本発明のセルフレベリング性水硬性組成物に対して所定の増粘剤及び所定の保水剤を添加することにより、特に卓越した流動性を有する水硬性モルタルの材料分離抵抗性を高める効果が著しく、モルタルの流動性をほとんど損なうことなく材料分離を回避・抑制することができる。そのため、水硬性モルタルが硬化する初期過程での水硬性モルタル表面の乾燥を抑制してひび割れの発生を回避することができ、特に、水硬性モルタルのボルト周りの初期クラックが発生しないようにすることができる。具体的には、所定の増粘剤及び所定の保水剤を有する本発明のセルフレベリング性水硬性組成物を用いるならば、水硬性モルタルのボルト周りの初期クラックを発生させないようにすることができる。
【0045】
保水剤としては、ポリエーテル系水溶性ポリマーを主成分とする保水剤を好適に用いることができる。保水剤としては、セメント等の水硬性成分の粒子面への吸着特性を有しないポリエーテル系の水溶性ポリマーが、凝結遅延の影響を与えず、また、流動化剤の作用を妨げないことから好ましい。保水剤は水への溶解性が高いことが好ましく、20℃の水に2%濃度で保水剤が溶解した水溶液粘度は、好ましくは35000〜70000mPa・sの範囲、さらに好ましくは40000〜65000mPa・sの範囲、特に好ましくは45000〜60000mPa・sの範囲のものを用いることにより、水硬性モルタルを施工後、硬化が進行する初期段階でのモルタル表面の保水状態を良好に保つことができる。保水剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、主成分100質量部に対して、好ましくは0.001〜2質量部、さらに好ましくは0.005〜1.5質量部、より好ましくは0.01〜1質量部、特に0.02〜0.5質量部含むことが好ましい。保水剤の添加量が多くなると、併用する増粘剤との相乗効果が顕著になり、流動性が低下する傾向が生じるため好ましくない。
【0046】
セルフレベリング性水硬性組成物は、必要に応じて、凝結調整剤(凝結遅延剤及び凝結促進剤)、流動化剤(減水剤)、消泡剤、樹脂粉末及び繊維などの一つ以上を含むことができる。
【0047】
本発明のセルフレベリング性水硬性組成物は、硫酸アルミニウム以外の凝結調整剤を、必要に応じて含有することができる。凝結調整剤としては、凝結遅延を行う成分である凝結遅延剤と、凝結促進を行う成分である凝結促進剤とを、各々単独で又は併用して用いることができる。
【0048】
本発明のセルフレベリング性水硬性組成物において、凝結遅延剤及び/又は凝結促進剤の成分、含有量及び混合比率を適宜選択することにより、流動性、可使時間及び硬化性状などを調整することができる。具体的には、上記の選択を適切に行うことにより、20℃の場合、セルフレベリング性水硬性組成物の可使時間を数分程度から1時間程度まで任意の時間に調整することができる。
【0049】
凝結促進剤としては、公知の凝結促進剤を用いることができる。凝結促進剤の一例として、リチウム塩、具体的には、炭酸リチウム、塩化リチウム、硫酸リチウム、硝酸リチウム、水酸化リチウムなどの無機リチウム塩、酢酸リチウム、酒石酸リチウム、リンゴ酸リチウム及びクエン酸リチウムなどの有機リチウム塩並びに硫酸アルミニウム以外の金属硫酸塩から選択される一種以上を好適に用いることができる。特に、硫酸アルミニウムと硫酸カリウムとを併用することにより、安定した凝結促進効果を得ることができる。また、硫酸アルミニウム及び硫酸カリウムは、入手容易性及び低コストである点から凝結促進剤として用いることが好ましい。
【0050】
硫酸カリウムを凝結促進剤として使用する場合、その使用量(含有量)は、ポルトランドセメントと細骨材との合計量(100質量部)に対して、好ましくは0.1〜0.9質量部、より好ましくは0.15〜0.8質量部、さらに好ましくは0.2〜0.75質量部、特に好ましくは0.25〜0.7質量部の範囲であることが好ましい。硫酸カリウムの含有量が上記範囲であることによって、水硬性モルタルに対して良好な強度発現の増進効果を得ることができる。
【0051】
凝結促進剤の粒径としては、本発明のセルフレベリング性水硬性組成物の特性を妨げないものを用いることが好ましい。具体的には、凝結促進剤の粒径は、50μm以下にすることが好ましい。
【0052】
凝結遅延剤としては、公知の凝結遅延剤を用いることができる。凝結遅延剤の一例として、ナトリウム塩、具体的には、硫酸ナトリウム及び重炭酸ナトリウムなどの無機ナトリウム塩並びに酒石酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム及びグルコン酸ナトリウムなど有機ナトリウム塩から選択される一種以上を用いることができる。
【0053】
本発明のセルフレベリング性水硬性組成物中の凝結遅延剤の含有量は、ポルトランドセメントと細骨材との合計量(100質量部)に対して、好ましくは0.01〜1.0質量部、より好ましくは0.02〜0.85質量部、さらに好ましくは0.025〜0.8質量部、特に好ましくは0.03〜0.75質量部の範囲である。凝結遅延剤の含有量が上記範囲であることによって、良好な強度発現の増進効果を得ることができることから好ましい。
【0054】
流動化剤としては、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物、オレフィン不飽和カルボン酸共重合体塩、リグニンスルホン酸塩、カゼイン、カゼインカルシウム、ポリエーテル系及びポリカルボン酸系等の流動化剤で市販のものを、その種類を問わず、それらの一種又は二種以上の混合物として使用することができる。流動化剤は減水効果を合わせ持つことができる。
【0055】
流動化剤(減水剤)は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができる。本発明のセルフレベリング性水硬性組成物中の流動化剤(減水剤)の含有量は、主成分100質量部に対し、好ましくは0.01〜3質量部、より好ましくは0.02〜2質量部、さらに好ましくは0.04〜1質量部、特に好ましくは0.06〜0.5質量部である。流動化剤(減水剤)の含有量が余り少ないと十分な効果が発現しない。また、流動化剤(減水剤)の含有量が多すぎても含有量に見合った効果は期待できず単に不経済であるだけでなく、所要の流動性を得るための混練水量が増大し、同時に粘稠性も大きくなり、充填性が悪化する場合がある。
【0056】
本発明のセルフレベリング性水硬性組成物では、前記の増粘剤及び保水剤に加えて、消泡剤を併用して用いることが好ましい。本発明のセルフレベリング性水硬性組成物が消泡剤を含有することによって、気泡発生の抑制及び硬化体表面の改善に好ましい効果を与え、セルフレベリング材としての特性を向上させることができる。
【0057】
本発明のセルフレベリング性水硬性組成物に含まれる消泡剤としては、シリコン系、アルコール系及びポリエーテル系などの合成物質、石油精製由来の鉱物油系並びに植物由来の天然物質など、公知のもの一種以上を選択して用いることができる。
【0058】
消泡剤は、本発明のセルフレベリング性水硬性組成物の特性を損なわない範囲で添加することができる。本発明のセルフレベリング性水硬性組成物中の消泡剤の含有量は、主成分100質量部に対して、好ましくは0.01〜3質量部、より好ましくは0.02〜1.5質量部、さらに好ましくは0.03〜1質量部、特に好ましくは0.02〜0.5質量部である。消泡剤の含有量が上記範囲内の場合は、良好な消泡効果が認められ、水硬性モルタル・スラリーの流動性及び硬化体表面の仕上り性を良好に調整できることから好ましい。
【0059】
本発明のセルフレベリング性水硬性組成物には繊維を含むことができる。繊維としては、ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリビニルアルコール及びポリ塩化ビニルなどの樹脂成分からなる有機繊維並びにステンレス繊維及びアルミ繊維などの金属系繊維などを用いることができ、これらの一種又は二種以上の混合物として使用することができる。
【0060】
本発明のセルフレベリング性水硬性組成物に含まれる繊維は、低コストであること及び取り扱いが容易であることから、有機繊維であることが好ましい。また、有機繊維の繊維長は0.5〜15mm程度のものを用いることが好ましい。
【0061】
本発明のセルフレベリング性水硬性組成物に対する繊維の含有量は、主成分100質量部に対し、好ましくは0.01〜5質量部、より好ましくは0.02〜2質量部、さらに好ましくは0.03〜1質量部、特に好ましくは0.05〜0.2質量部である。本発明のセルフレベリング性水硬性組成物に対して上述の含有量の繊維を含むことにより、曲げ強度に優れ、クラックの生じにくい又は生じない硬化物を安定して得ることができる。
【0062】
本発明のセルフレベリング性水硬性組成物には樹脂粉末を含むことができる。樹脂粉末は、公知の建設用又は建材用の高分子エマルジョンから液体成分を除去した高分子粒子(再乳化樹脂粒子など)を用いることができる。例えば、樹脂粉末として、α、β−エチレン性不飽和単量体を乳化重合して得られる高分子エマルジョンの液体成分を除去して得られる高分子樹脂粒子などを用いることができる。
【0063】
本発明のセルフレベリング性水硬性組成物に対する樹脂粉末の含有量は、主成分100質量部に対し、好ましくは0.001〜10質量部、より好ましくは0.005〜8質量部、さらに好ましくは0.01〜5質量部、特に好ましくは0.05〜2質量部とすることができる。
【0064】
樹脂粉末として用いることのできるα、β−エチレン性不飽和単量体としては、公知のα、β−エチレン性不飽和単量体を挙げることができる。α、β−エチレン性不飽和単量体としては、例えばアクリル酸及びこのエステルなどの誘導体、メタクリル酸及びこのエステルなどの誘導体、エチレン、プロピレンなどのα−オレフィン、酢酸ビニル、スチレンなどの芳香族ビニル類、塩化ビニル及びバーサチック酸ビニルエステルなどの炭素数が9〜11の第3級脂肪酸ビニルエステル(R−COO−CH=CH、Rは炭素数が9〜11の第3級炭素である)などを挙げることができる。
【0065】
本発明のセルフレベリング性水硬性組成物と、水とを配合して混練することにより、水硬性モルタルを製造することができる。また、水の配合量を適宜選択することにより、水硬性モルタルのモルタルフロー(フロー値)を調整することができるので、用途に適した水硬性モルタルを製造することができる。
【0066】
本発明のセルフレベリング性水硬性組成物において、水の配合量は、主成分100質量部に対し、好ましくは10〜70質量部、より好ましくは20〜50質量部、さらに好ましくは25〜40質量部とすることが好ましい。
【0067】
本発明のセルフレベリング性水硬性組成物は、水と混合して調製した水硬性モルタルのフロー値(JASS・15M−103に記載の試験方法に準拠して測定)が、好ましくは180〜270mm、より好ましくは200〜260mm、さらに好ましくは210〜250mmに調整されていることが好ましい。フロー値が上記範囲であることにより、水硬性モルタルは、施工の容易さ及び優れた流動性を有し、特に卓越したモルタル流動速度を安定して発揮させて、水平レベル精度が高く、モルタル・スラリー同士の合流箇所の馴染み性が優れる。
【0068】
本発明のセルフレベリング性水硬性組成物は、水と混合して調製した水硬性モルタルのSL測定器(図1)を使用したSL流動速度(L0)(秒/200mm)が、好ましくは2〜9秒の範囲、より好ましくは2.5〜8秒の範囲の範囲に調整されていることが好ましい。SL流動速度(L0)が上記範囲であることにより、水硬性モルタルは、施工の容易さ及び卓越したモルタル流動速度を安定して発揮させて、水平レベル精度が高く、モルタル・スラリー同士の合流箇所の馴染み性が優れる。
【0069】
本発明のセルフレベリング性水硬性組成物は、左官材、屋根材、床材及び防水材などの用途において、流し込み用、こて塗り用及び吹き付け用のモルタルとして使用することができる。さらに、本発明のセルフレベリング性水硬性組成物は、土木構造物の補修や補強に用いる断面修復材やグラウト材などとして、土木、建築及び建設分野に使用することができる。
【0070】
特に、本発明のセルフレベリング性水硬性組成物は、コンクリートの表面仕上げや住宅基礎コンクリートの天端の表面仕上げ(レベル調整)等に優れた性能を発揮する。図2に、本発明のセルフレベリング性水硬性組成物を用いた水硬性モルタルを天端の施工に用いる場合の施工方法の例を示す。本発明のセルフレベリング性水硬性組成物を用いるならば、施工効率の向上や水平レベル精度が高く、高強度なモルタル硬化体を形成することによって、信頼性の高いコンクリート構造体を提供することができる。
【実施例】
【0071】
以下、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明する。但し、本発明は下記実施例により制限されるものでない。
【0072】
(水硬性モルタルのフロー評価)
フロー値は、JASS・15M−103に記載の試験方法に準拠して測定する。厚さ5mmのみがき板ガラスの上に内径50mm、高さ51mmの塩化ビニル製パイプ(内容積100ml)を置き、練り混ぜた水硬性モルタルを充填した後、パイプを引き上げる。広がりが静止した後、直角2方向の直径を測定し、その平均値をフロー値とする。
【0073】
(水硬性モルタルのSL性評価)
図1に示すSL(セルフレベリング性)測定器を使用し、幅30mm×高さ30mm×長さ750mmのレールに、先端より長さ150mmのところに堰板を設け、混練直後の水硬性モルタルを所定量満たして成形する。成形直後に堰板を引き上げて、水硬性モルタルの流れの停止後に、標点(堰板の設置部)から水硬性モルタルの流れの最短部までの距離を測定し、その値(SL値)をL0とする。また、水硬性モルタルが、堰板から200mm流れるのに要する時間を測定し、その測定時間をSL流動速度(L0)(秒/200mm)とする。
【0074】
同様に成形後30分後に堰板を引き上げて、水硬性モルタルの流れの停止後に、標点(堰板の設置部)から水硬性モルタルの流れの最短部までの距離を測定し、その値(SL値)をL30とする。また、硬性モルタルが、堰板から200mm流れるのに要する時間を測定し、その測定時間をSL流動速度(L30)(秒/200mm)とする。
【0075】
(水硬性モルタルの材料分離抵抗性の評価)
図1に示すSL測定器を使用し、幅30mm×高さ30mm×長さ750mmのレールに、先端より長さ150mmのところに堰板を設け、混練直後のスラリーを所定量満たして成形する。成形直後に堰板を引き上げて、水硬性モルタルの流れの停止後に、水硬性モルタルの流れの先頭部について、細骨材とペーストの材料分離状態を触診により評価する。
【0076】
(硬化後の表面状態評価)
図2記載に示すとおり基礎コンクリートを打設し水引後、基礎コンクリートの上に水硬性モルタルを流し込んで外気に曝し、得られた硬化物の表面を目視で観察して評価する。表面の白化、初期クラック(水硬性モルタルの流し込み後1日以内に発生したクラック)、凹凸、気泡痕及び浮きの5項目について評価を行った。
・白化の評価:(○:白化が無し、△:白化がやや認められる、×:白化が認められる、の3段階で行った。)
・初期クラックの評価:日当・日陰の境界、ボルト周り並びにその他の部分について、クラックの有無を評価した。クラックがある場合にはその幅及び長さを測定した。
・表面の凹凸の評価:(○:凹凸が0、△:凹凸が1〜5個程度、×:凹凸が多数認められる、の3段階で行った。)
・気泡痕の評価:(○:気泡痕が無し、×:気泡痕が有り。)
・浮きの評価:施工7日後の浮きの割合を測定した。
【0077】
(1)使用材料:以下の材料を使用した。なお、増粘剤A及びB等の粘度は、セルロース系水溶性ポリマーの2%水溶液を、B型粘度計(東機産業社製デジタル粘度計 DVL−B形)を用いて、回転速度12rpm、20℃で測定した。B型粘度計は、液体中で円筒形状のロータを回転させたとき、ロータに働く液体の粘性抵抗トルクを測定する粘度計である。B型粘度計では、測定する粘度に応じてロータの種類を選択する必要がある。増粘剤Aの粘度測定には、東機産業社製DVL−B形用のロータNo.4を、増粘剤Bの粘度測定にはロータNo.1を用いた。
・ポルトランドセメント: 早強セメント、宇部三菱セメント社製、ブレーン比表面積4,500cm/g。
・細骨材A: 珪砂、高野6号(高野商事)。
・細骨材B: 珪砂、N70(瓢屋)。
・混和材: 高炉スラグ、川崎製鉄社製、リバメント、ブレーン比表面積4,400cm/g。
・膨張材:石膏、旭硝子社製、フッ酸無水石膏、ブレーン比表面積3,300cm/g。
・凝結促進剤A: 硫酸カリウム、上野製薬社製。
・凝結促進剤B: 硫酸アルミニウム、大明化学工業社製、S150。
・石灰石微粉末:炭酸カルシウム微粉末、有恒鉱業社製、TM−1号、ブレーン比表面積4,830cm/g。
・増粘剤A: MX30000(高粘度タイプのセルロース系水溶性ポリマー)、松本油脂製薬社製、粘度30000mPa・s。
・増粘剤B: MP400(低粘度タイプのセルロース系水溶性ポリマー)、松本油脂製薬社製、粘度400mPa・s。
・収縮低減剤: ヒビダン、竹本油脂社製。
・流動化剤: ポリカルボン酸系減水剤(市販品、建材用)。
・消泡剤B: ADEKA社製、アデカネートB115F。
・凝結遅延剤: グルコン酸ナトリウム、富田製薬社製。
・樹脂粉末: 日本合成社製、モビニールパウダーDM200。
・繊維: ポリエステル繊維、京都繊維資材社製、繊維長:2mm。
・保水剤: 三井化学ポリウレタン社製、ポリエーテル系水溶性ポリマー、ビスコスター50K。
【0078】
(比較例1〜4、実施例1〜2)
表1に記載の成分を混合してセルフレベリング性水硬性組成物を製造した。なお、表2には、ポルトランドセメントと骨材との合計を100質量部とした場合の、表1に示す成分のうち凝結促進剤等の成分の含有量の割合を示す。また、表3には、主成分(ポルトランドセメント、骨材、混和材及び膨張材)の合計を100質量部とした場合の、表1に示す成分のうち収縮低減剤等の成分の含有量の割合を示す。次いで水(0.26kg)を入れたポリエチレンビーカ(2.0リットル)内をミキサーで撹拌しながら、水/セルフレベリング性水硬性組成物比が0.26になるようにセルフレベリング性水硬性組成物(1kg)を投入し、3分間混練し、水硬性モルタルを得た。得られた水硬性モルタルのフロー値、SL値及び流速を測定し、材料分離の傾向を評価した。その結果を表4に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【0081】
【表3】

【0082】
【表4】

【0083】
水硬性モルタルのモルタル硬化体については、材齢1日後の表面状態の評価及び材齢7日後の浮きの評価を行った。結果を表5に示す。
【0084】
表5の記載中、初期クラックの各部分での幅及び長さは、下記の値の範囲であることを意味する。なお、「角部」とは、図3に示すように、モルタル硬化体を平面模式図で示す場合に角となる部分をいう。
クラックの幅; 太:0.35mm超、中:0.35〜0.25mm、細:0.25〜0.15mm、極細:0.15mm未満、無:クラック無し。
クラックの長さ; 長:30mm超、中:30〜10mm、短:10mm未満、無:クラック無し。
【0085】
【表5】

【0086】
実施例1、2では、高粘度及び低粘度タイプのセルロース系水溶性ポリマーを含む増粘剤及びポリエーテル系水溶性ポリマーを含む保水剤を用いたセルフレベリング性水硬性組成物を使用して水硬性モルタルを製造した。実施例1、2の水硬性モルタルでは、初期クラック、具体的にはボルト周りと型枠沿いの部分の初期クラック、が発生しないようにすることができた。また、日当・日陰の境界及びその他の部分には、初期クラックは発生しなかった。すなわち、実施例1、2のセルフレベリング性水硬性組成物を用いて得られた水硬性モルタルは、優れた流動性(フロー値及びSL流動速度)及び材料分離抵抗性を保持しながら、初期クラックの発生が解消されていた。
【0087】
これに対して、比較例1〜4では、1種類のセルロース系水溶性ポリマーを含む増粘剤を用いたセルフレベリング性水硬性組成物を使用して水硬性モルタルを製造した比較例1、2の水硬性モルタルでは、すなわちボルト周りの部分及びその他の部分(型枠沿いの部分)の初期クラックが、施工上の問題が生じる程度の大きさで発生した。具体的には、比較例1では、ボルト周りに幅0.15mm未満、長さ30〜10mmのクラックが発生した。比較例2では、型枠沿いに幅0.25〜0.15mm、長さ30〜10mmのクラックが発生した。また、型枠沿いの角部にも初期クラックが発生した。比較例3では、ボルト周りに幅0.25〜0.15mm、長さ30〜10mmのクラックが発生した。比較例4では、ボルト周りに幅0.35〜0.25mm、長さ30mm超のクラックが発生した。
【0088】
以上のことから、本発明のセルフレベリング性水硬性組成物を用いることにより、優れたスラリー流動性及び材料分離抵抗性を保持しながら、良好な表面状態を有するモルタル硬化体を得ることができることが明らかとなった。特に、スラリーの流速が大きい場合、施工時の効率を向上させるのみならず、複数箇所から施工した水硬性モルタル・スラリーが合流する箇所での水硬性モルタル・スラリーの均質化に好影響を及ぼし、モルタル硬化体表面の仕上りが良くなることが明らかとなった。したがって、本発明のセルフレベリング性水硬性組成物を住宅基礎コンクリートの天端のレベル調整用途に用いることにより、優れた施工作業性および良好な表面状態を得ることができ、平滑性が高く、高強度な住宅基礎コンクリート構造体を短工期で形成することが可能となることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0089】
17:セルフレベリング性水硬性組成物のモルタル硬化体
18:角部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポルトランドセメント、細骨材、混和材及び膨張材からなる主成分、並びに、
硫酸アルミニウム、収縮低減剤、石灰石微粉末、増粘剤及び保水剤を含むセルフレベリング性水硬性組成物であって、
増粘剤が、粘度の異なる2種類のセルロース系水溶性ポリマーを含む増粘剤であり、
保水剤が、ポリエーテル系水溶性ポリマーを含む保水剤である、セルフレベリング性水硬性組成物。
【請求項2】
主成分が、ポルトランドセメント100質量部、細骨材100〜400質量部、混和材5〜150質量部及び膨張材3〜30質量部からなり、
増粘剤が、2%水溶液の20℃における粘度が20,000〜50,000mPa・sである高粘度タイプのセルロース系水溶性ポリマーと、2%水溶液の20℃における粘度が50〜6,000mPa・sである低粘度タイプのセルロース系水溶性ポリマーとからなり、
ポルトランドセメントと細骨材との合計100質量部に対し、
硫酸アルミニウムの含有量が0.1〜0.7質量部、
石灰石微粉末の含有量が11〜35質量部、
高粘度タイプのセルロース系水溶性ポリマーの含有量が0.005〜0.2質量部及び
低粘度タイプのセルロース系水溶性ポリマーの含有量が0.04〜0.2質量部であり、
ポリエーテル系水溶性ポリマーの添加量が0.001〜2質量部である、請求項1に記載のセルフレベリング性水硬性組成物。
【請求項3】
収縮低減剤の含有量が、主成分の合計100質量部に対し0.1〜3質量部である、請求項1又は2に記載のセルフレベリング性水硬性組成物。
【請求項4】
セルフレベリング性水硬性組成物がさらに繊維を含み、
繊維の含有量が、主成分の合計100質量部に対し0.01〜5質量部である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のセルフレベリング性水硬性組成物。
【請求項5】
セルフレベリング性水硬性組成物がさらに流動化剤と消泡剤とを含み、
流動化剤の含有量が、主成分の合計100質量部に対し0.01〜3質量部であり、
消泡剤の含有量が、主成分の合計100質量部に対し0.01〜3質量部である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のセルフレベリング性水硬性組成物。
【請求項6】
セルフレベリング性水硬性組成物が、さらに硫酸アルミニウムを除く他の凝結調整剤を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載のセルフレベリング性水硬性組成物。
【請求項7】
セルフレベリング性水硬性組成物が、住宅基礎コンクリートの天端のレベル調整用のセルフレベリング性水硬性組成物である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のセルフレベリング性水硬性組成物。
【請求項8】
請求項1〜7に記載のセルフレベリング性水硬性組成物と、水とを混練して得られる水硬性モルタル。
【請求項9】
請求項8に記載の水硬性モルタルを硬化させて得られるモルタル硬化体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−195398(P2011−195398A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65461(P2010−65461)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】