説明

セルラ・ネットワーク内でのGPS航法データの増分放送のためのシステムと方法

【課題】無線通信ネットワーク資源に過度の負担をかけずに適時に航法データを無線通信ネットワーク内の移動局に放送する方法を提供する。
【解決手段】各移動局は無線通信ネットワーク内で動作するトランシーバとGPS位置決め測定を行うための組み込みGPS受信機とを含み、また各移動局は最近見えていたGPS衛星について過去の軌道モデル化情報を有し、航法データを無線通信ネットワーク内の移動局に放送する方法は、現在見えている衛星について現在の軌道モデル化情報を定期的に受信し、受信した現在の軌道モデル化情報と過去の軌道モデル化情報とを比較して、偏差があれば更新された軌道モデル化情報を生成し、無線通信ネットワーク内で通信する全ての移動局に更新された軌道モデル化情報を無線通信ネットワークで放送する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は全世界測位システム(GPS)受信機に関するもので、より詳しくは、無線セルラ・ネットワーク内でのGPS航法データの増分放送のシステムと方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
無線セルラ・ネットワークやその他の公衆陸上移動体ネットワーク(PLMN)内の移動局の地理的位置を決定することが、近年広範囲のアプリケーションにおいて非常に重要になっている。例えば、輸送およびタクシー会社では、車の位置を決定して配送手続きの効率を高めるために位置決めサービスが望まれている。また緊急呼び出し(例えば911番呼び出し)では、緊急事態のときに移動体端末の正確な位置を知ることは極めて重要である。
【0003】
また位置決めサービスを用いれば、盗まれた車の位置を決定し、料金の安いホーム・ゾーン・コールを識別し、マイクロ・セル内のホット・スポットを検出し、高度な加入者サービス(例えば、現在位置検出サービス(Where Am I service))を提供することができる。現在位置検出サービスを利用すれば、移動局は例えば最寄りのガソリン・スタンド、レストラン、病院の位置を容易に知ることができる。
【0004】
移動局の地理的位置を決定する1つの方法は衛星に基づく全世界測位システム(GPS)を用いることである。GPSは、GPS受信機内で処理することが可能な特殊な符号化された衛星信号を提供して受信ユニットの位置と速度と時間を生成する衛星航法システムである。3次元の位置の座標と、固定座標システムに対する受信機クロックの時間オフセットを計算するには、4つ以上のGPS衛星信号が必要である。
【0005】
GPSシステムは、約12時間で地球の軌道を回る24個の衛星(予備を含まず)で構成する。GPS衛星の軌道高度(20,200km)とは、衛星が任意の地点の上で同じ地上トラックおよび配置(ground track and configuration)を約24時間に1度繰り返す高度である。それぞれ公称少なくとも4個の衛星を持つそれぞれ6つの軌道面があり、これらは等間隔で(すなわち、60°離れて)、地球の赤道に対して約55°傾斜している。この衛星配置により、地球上の任意の点のユーザに4個から12個の衛星が見える。
【0006】
GPSシステムの衛星は、GPS受信機で位置と速度と時間の座標を決定するのに2つのレベルの精度を提供する。GPSシステムの多くの民間ユーザは標準位置決めサービス(SPS)を用いる。これは水平方向に100メートル、垂直方向に+/−156メートル、時間で+/−340nsの2σ精度を有する。精密位置決めサービス(PPS)は、暗号装置とキーと特殊装備の受信機を有する許可されたユーザだけが使用できる。
【0007】
各GPS衛星は2つのL帯域搬送波信号を送信する。L1周波数(中心周波数は1575.42MHz)は航法メッセージをSPSおよびPPSコード信号とともに搬送する。L2周波数(中心周波数は1227.60MHz)もPPSコードを搬送し、PPSシステムと互換性のある受信機により電離層遅延を測定するのに用いられる。
【0008】
L1およびL2搬送波信号は3つの2進コードにより変調される。すなわち、1.023MHzの粗捕捉(C/A)コード、10.23MHzの精密コード(Pコード)、および50Hzの航法システム・データ・コード(NAVコード)である。C/Aコードは、GPS衛星を一意的に特徴づける擬似乱数(PRN)コードである。全てのGPS衛星は同じL1およびL2搬送波によりその2進コードを送信する。多重同時受信信号は符号分割多元接続(CDMA)相関器により回復される。民間GPS受信機内の相関器はNAVコードで変調されたC/Aコードを最初に回復する。次に位相同期ループ(PLL)回路がNAVコードからC/Aコードを分離する。強調したいのは、実際にどのGPS衛星が見えるかを決定するために、GPS受信機はまず概略の位置を決定する必要があることである。逆に、その概略位置を知っているGPS受信機は該当するGPS衛星が送信する信号を速く収集することができる。
【0009】
GPS受信機の立ち上げには、一般に4個以上のGPS衛星の航法データ信号から一組の航法パラメータを収集する必要がある。GPS受信機を立ち上げるこのプロセスは数分かかることが多い。
【0010】
GPS位置決めプロセスの時間はGPS受信機が有する情報の量に直接依存する。多くのGPS受信機は、最大1年先までの予想される衛星位置を粗く記述する暦データでプログラムされる。しかしGPS受信機が自分の概略位置を余りよく知らない場合は、GPS受信機は見えている衛星からの信号を十分速く相関させることができず、したがってその位置を迅速に計算することができない。更に、注意すべきことは、立ち上がり時にC/AコードとNAVコードを捕捉するのに必要な信号強さは、すでに収集した信号の監視を継続するのに必要な信号強さよりも大きいことである。また注意すべきであるが、GPS信号を監視するプロセスは環境要因により大きな影響を受ける。さえぎるものがないところでは容易に収集することができるGPS信号も、受信機が木の葉陰や、車の中や、最悪の場合建物の中にあるときは、収集するのがますます困難になる。
【0011】
最近の政府の指示(例えばFCCフェーズII E−911サービスの応答時間要求)は、移動体ハンドセットの位置を正確且つ迅速に決定することを義務づけている。したがって、移動体端末内でGPS受信機を効果的に実現ししかも迅速且つ正確に位置決めするという要求を満たすため、移動体端末に支援データ(例えば、ローカル時間および位置の推定値、衛星天体暦およびクロック情報(これは移動局の位置と共に変わる))を迅速に提供することが必要になった。かかる支援データを用いることにより、移動局に組み込まれまたは接続されるGPS受信機は立ち上げ手続きを迅速に完了することができる。したがって、必要な支援GPS情報を既存の無線セルラ・ネットワークで、移動体端末に組み込まれまたは接続されるGPS受信機に送ることが可能になることが望ましい。
【0012】
衛星天体暦およびクロック訂正情報を無線リンクで遠方のGPS受信機に与えることは既に知られている。同様に、土地測量では差分GPS(DGPS)訂正を無線リンクで遠方のGPS受信機に与えるのが普通である。しかしかかる従来のシステムには、相互に作用するセルラ移動局と無線セルラ・ネットワークの特定の動作要求に応えるものはない。
【0013】
GPSを装備した移動局(GPS−MS)では、待機時間と通話時間とが電池容量によって制限される。組み込みGPS受信機を動作させると、基本的なセルホンの場合に比べて電池の消耗がはるかに大きくなることがある。これは待機時間と通話時間とを共に制限する可能性があるので望ましくない。
【0014】
GPS支援情報をGPS−MSに与えると、単独のGPS受信機に比べてGPS−MSの感度とタイム・トゥ・ファースト・フィックス(TTFF)と電力消費が改善される。しかし一般的なGPS−MSの使用シナリオは、無線セルラ・ネットワークからGPS支援情報を収集して更新することに関して問題がある。例えば、DGPS訂正データは大きく時間に依存するので頻繁に更新する必要がある。これは無線セルラ・ネットワークの設備にとって大きな負担である。また或る衛星の新しい天体暦およびクロック訂正データが利用可能になった後、位置の精度を高く保つためには、その衛星が見えている全てのGPS−MSはできるだけ早く新しい支援が必要である。かかる更新を適時に供給することは無線セルラ・ネットワークの設備にとって大きな負担になることがある。
【0015】
本発明は、上に説明した問題の1つ以上を新しい簡単な方法で解決することを目的とする。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
(発明の概要)
本発明では、無線セルラ・ネットワーク内のGPS支援データのための増分放送のシステムと方法を提供する。このシステムと方法は、無線セルラ・ネットワーク資源に過度の負担をかけずに適時に航法データを与える。
【0017】
概要を述べると、本発明の1つの形態は、全世界測位システム(GPS)支援データを無線通信ネットワーク内で移動局に放送する方法を開示する。各移動局は無線通信ネットワーク内で動作するトランシーバと、GPS位置決め測定を行うための組み込みGPS受信機とを含む。この方法は、選択された移動局との間に直接点対点チャンネルを確立し、見えているGPS衛星について軌道モデル化情報を点対点チャンネルで選択された移動局に転送し、無線通信ネットワーク内で通信する全ての移動局にGPS訂正データを無線ネットワークで放送するステップを含む。
【0018】
本発明の1つの特徴は、転送するステップがGPS衛星およびクロック訂正情報またはGPS衛星暦データを転送するステップを含むことである。
【0019】
本発明の別の特徴は、放送するステップがDGPS訂正データを放送するステップを含むことである。
【0020】
本発明の更に別の特徴は、無線通信ネットワーク内で通信する全ての移動局に更新された軌道モデル化情報を表すデータを放送することにより支援データを更新するステップを与えることである。更新するステップは更新された軌道モデル化情報を表すデータを分解して、分解されたデータを放送メッセージの未使用部分に選択的に追加することを含む。更新された軌道モデル化情報と既存の軌道モデル化情報とを比較して、現在見えている衛星について偏差を決定する。分解するステップは、現在見えている衛星について偏差を分解することを含む。
【0021】
本発明の別の特徴は、更新するステップが、更新された軌道モデル化情報を表すデータを圧縮することを含むことである。データは、現在見えている衛星について偏差を決定することにより圧縮される。
【0022】
本発明の別の形態では、更新されたGPS支援データを無線通信ネットワーク内で移動局に増分放送する方法を開示する。各移動局は無線通信ネットワーク内で動作するトランシーバと、GPS測定を行うための組み込みGPS受信機とを含み、また移動局は最近見えていたGPS衛星について過去の軌道モデル化情報を有する。この方法は、現在見えているGPS衛星について現在の軌道モデル化情報を定期的に受信し、受信した現在の軌道モデル化情報と過去のモデル化情報とを比較し、偏差があれば更新された軌道モデル化情報を生成し、無線通信ネットワーク内で通信する全ての移動局に更新された軌道モデル化情報を無線通信ネットワークで放送するステップを含む。
【0023】
本発明の更に別の形態では、GPS支援データを無線通信ネットワーク内で移動局に放送するシステムを開示する。各移動局は無線通信ネットワーク内で動作し、またGPS位置決め測定を行うための組み込みGPS受信機を含む。このシステムは見えているGPS衛星について軌道モデル化情報とGPS訂正データとを収集するためのGPS受信機を含む。トランシーバが無線通信ネットワーク内の移動局と通信する。放送コントローラがGPS受信機およびトランシーバに関連し、選択された移動局との間に直接点対点チャンネルを選択的に確立して軌道モデル化情報を転送し、また無線通信ネットワーク内で通信する全ての移動局にGPS訂正データを無線通信ネットワークで定期的に放送する。
【0024】
本発明の特徴は、軌道モデル化情報がGPS衛星天体暦およびクロック訂正情報を含むことである。
【0025】
本発明の別の特徴は、軌道モデル化情報がGPS衛星暦データを含むことである。
【0026】
本発明の更に別の特徴は、GPS訂正データがDGPS訂正データを含むことである。
【0027】
本発明の別の特徴は、放送コントローラが、無線通信ネットワーク内で通信する全ての移動局に更新された軌道モデル化情報を表すデータを放送することにより支援データを更新することである。更新することは、更新されたモデル化情報を表すデータを分解して、分解されたデータを放送メッセージの未使用部分に選択的に追加することを含む。放送コントローラは更新された軌道モデル化情報と既存の軌道モデル化情報とを比較して、現在見えている衛星について偏差を決定する。放送コントローラは現在見えている衛星について偏差を分解する。
【0028】
本発明の更に別の特徴は、放送コントローラが、更新された軌道モデル化情報を表すデータを圧縮することである。データは現在見えている衛星について偏差を決定することにより圧縮される。
【0029】
本発明の別の特徴や利点はこの明細書と図面から容易に明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る無線通信ネットワーク内でGPS支援データを放送するシステムのブロック図。
【図2】図1のシステムのGPS支援放送コントローラのブロック図。
【図3】図2のコントローラにより実現される、更新されたGPS航法情報の分解を示すタイミング図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(発明の詳細な説明)
図1は、支援されたGPS位置決めを用いる無線通信ネットワーク・システム10のブロック図を示す。本発明のシステムと方法とについてGSMセルラ標準に関して説明する。しかし当業者が理解するように、本発明は、例えばTDMA(ANSI−136)やCDMA(cdmaOne)などの他のセルラ・システムや、衛星電話または陸上移動体無線などの非セルラ無線通信システムにも適用することができる。
【0032】
無線通信ネットワーク・システム10は、基地局コントローラ(BSC)14に接続する基地トランシーバ局(BTS)12を含む。BSCは、雲34で表されるセルラ・システム・ネットワークを通して信号を介して移動体位置センタ(MLC)16と通信する。BTS12はシステム10の無線部分であり、特定のセル18内で用いられる無線信号を送信および受信する。BSC14は、後で説明する放送機能を含む1つ以上のBTS(BTS12など)の資源を制御する。MLC16は全世界測位システム(GPS)支援情報を決定して、サービスする区域内の任意のGPS装備の移動局GSP−MS(例えばセル18内に示すGSP−MS20)に送る。これは、MLC16と同じ場所に配置されるローカル差分GPS(DGPS)受信機22を通して行ってよい。DGPS受信機22は、見えている衛星(例えば、衛星24)からの航法メッセージと共に訂正を与える。衛星24は、GPSと同じ範囲の信号を与える任意の、衛星に基づく増補システム(SBAS)でよい。このアプリケーションでは、衛星24をGPS衛星として説明する。DGPS受信機22は、他のSBAS衛星(例えば、WAASまたはEGNOS静止衛星26)からの情報をDGPS訂正の冗長源として用いてもよい。
【0033】
GPS−MS20は、自分自身と無線通信ネットワーク・システム10との間で無線信号を送信および受信するためのセルラ・トランシーバを有する一般的な移動局(無線電話、セルラ電話、セルホンとも呼ばれる)で構成する。またGPS−MS20は、衛星24などの見えているGPS衛星から複合信号を受信するための組み込みGPS受信機を備える。GPS−MS20は、無線通信ネットワーク・システム10から受信した複合信号と航法支援データとを用いてGPS位置決め測定を行うようプログラムされる。
【0034】
明らかであるが、ネットワーク・システム10は一般に多数のBTS(各セルに1個)と、同様に多数のBSCを含む。GPS−MSの数は所定の時刻にネットワーク・システムを利用しているユーザの数に依存する。しかし簡単のために、本発明に係るシステムと方法との特徴について、図に示すBTS12、BSC14およびGPS-MS20に関して説明する。
【0035】
無線通信ネットワーク・システム10の情報搬送チャンネルすなわち「ベアラ」は3つのカテゴリに分割することができる。第1は28で示す点対点チャンネルである。点対点チャンネル28では、GPS−MS20とBSC14または移動体交換センタ(図示せず)の間に専用の論理または物理チャンネルが存在する。チャンネルは専用なので、使用前にGPS−MS20とネットワーク・エンティティとの間に確立し、通信が終了した後に解放しなければならない。かかる手続きは1つ以上のネットワーク・エンティティからの処理容量を必要とするので「無料」ではない。
【0036】
第2の型のチャンネルは、30で示す点対多点チャンネルである。点対多点チャンネルでは、無線通信ネットワーク・システム10は或る地理的区域内の全ての移動局に情報を放送する。放送には論理チャンネルを用いないので、設定および解放手続きは必要ない。しかし、制御エンティティは点対多点チャンネル30毎に放送内容を決定しなければならない。例えばGSMシステムでは、BSC14はBSC14がサービスする各セル内にあるBTS12が送信する放送制御チャンネル(BCCH)を形成する。
【0037】
第3の型のチャンネルは、多数の移動局が共通のチャンネルで送信する多点対点である。GSMシステム内のこの型のチャンネルの一例はランダム・アクセス・チャンネル(RACH)で、これは或るセル区域内の全ての移動局がネットワークに専用接続を要求するのに用いられる。
【0038】
GPS支援データの型は2つのカテゴリに分割することができる。第1は見えている衛星についての軌道モデル化情報である。第2はDGPS訂正である。軌道モデル化情報は衛星天体暦およびクロック訂正、または暦データを含む航法情報から成る。このデータは比較的大きく、10個の衛星で約5000ビット程度である。航法情報は頻繁に更新する必要がなく、現在見えている衛星で約2時間毎である。GPS衛星暦データの更新頻度は非常に小さい。航法情報が基準位置(例えば、サービス中のBTS12)から見える衛星だけに与えられる場合は、新しい衛星が見えたときも更新が必要である。航法情報はGPS−MS20が自分の位置を計算するのに必要である。ネットワーク・システム10から航法情報を与えるということは、GPS−MS20は各GPS衛星信号(例えば、図1の信号32)からそれを復調する必要がないことを意味する。
【0039】
DGPS訂正は、大気、軌道および選択的利用可能度(Selective Availability)(SA)誤りを、GPS−MS20が測定して位置の計算に用いる各衛星の範囲内に減らすのに用いられる。このデータは比較的小さいが、SA劣化が時間と共に変化するので、30秒以下の程度で頻繁に更新する必要がある。DGPS訂正を行うと、GPS−MS20の水平位置の正確さが50m(RMS)から5−10m(RMS)まで改善される。これは個人航法(personal navigation)などのアプリケーションでは重要である。
【0040】
各セルまたはBTSの放送容量は比較的限られている。この容量はGPS支援以外の情報に用いなければならない。例えば、BCCHは隣接セルへのハンドオフを支援する情報を与えなければならない。したがって、放送ベアラで大きな航法支援を送ることは実際的でない。
【0041】
上の要求を満たすため、本発明に係る無線通信ネットワーク・システム10はGPS支援情報をGPS−MS20に与えるのに複数の手続きを用いる。第1の手続きは、GPS−MS20に電源を入れたとき、専用の点対点チャンネル28を用いて軌道モデル化情報とDGPS訂正支援とをネットワーク10に要求して受信する。この専用チャンネルはこの目的のために特に設定してもよいし、または他の目的のために設定された論理チャンネルを、GPS−MS20とネットワーク・システム10との間のこの通信に用いてもよい。点対点チャンネル28を用いると送出が速くなり、GPS−MS20は自分の位置を迅速に計算することができる。
【0042】
一方、DGPS訂正データは各セルのBCCHまたは他の放送ベアラで放送される。各セル(例えばセル18)毎のDGPS放送データは30秒以下毎にBSC14により更新される。放送が優れている点は、DGPS訂正を全てのGPS−MSに向かって一度に迅速に送出することが可能なことである。訂正データの有効な期間が短いので、これは特に重要である。
【0043】
上の2つの手続きが主な動作シナリオである。しかし、軌道モデル化情報(特に航法情報)を地理的領域(例えば、セル)内の全てのGPS−MSについて更新しなければならないときは問題が起こる。この一例は新しい衛星が見えてきたときである。セル内の全てのGPS−MSに点対点送出を行うことも、追加の放送容量を用いることも実際的ではない。
【0044】
本発明では、更新された情報を分解して放送メッセージの未使用部分に追加することによりこの問題を解決する。詳しく述べると、ほとんどのネットワーク信号プロトコルはいわゆるプロトコル・データ・ユニット(PDU)を有するが、PDU内では全てのメッセージは或るサイズの倍数でなければならない。例えば、GSMショート・メッセージ・サービス・セル放送(SMS−CB)のPDUは82バイト、すなわち656ビットである。実際のメッセージ内容がこの長さより短い場合は、プロトコルは充填データを追加してPDUサイズにする。本発明では、上に述べた放送DGPS訂正データが1PDUより小さい場合は、未使用の容量を更新された航法データで充填する。これにより、セル18内の全てのGPS−MSは更新された航法データを受信することが可能になり、専用の点対点チャンネル28やその他のネットワーク資源(例えば、MSCやBSC)を占有する必要がない。
【0045】
本発明では、放送DGPSメッセージで航法データ更新を送るのに2つのオプションがある。第1は、データを分解して未使用放送容量を充填することにより、更新で影響を受ける衛星毎に天体暦やクロック訂正などを直接送ることである。第2のオプションは、1個以上の新しく見えてくる衛星については情報を直接送るが、現在見えている衛星については予想される航法パラメータの偏差だけを送ることである。GPS−MS20は過去の放送された更新を記憶しているので、この偏差を既存の情報に与えて最新の航法データ更新を決定することができる。これにより、GPS−MS20にデータを一層迅速に分配することができる。
【0046】
DGPS受信機22または他の外部源からのDGPS訂正データを捕捉すると、MLC16はネットワーク34を介してこのデータをBSC14に送る。または、MLC16はBSC14と同じ場所に設けてよい。好ましくは、MLC16はDGPS訂正データを定期的に、例えば30秒以下毎に更新する。各訂正を受信した後、BSC14はこのデータを内部GPS支援放送コントローラ36(図2を参照)に送る。
【0047】
図2において、放送コントローラ36はMLC16からDGPS訂正データを受信するマルチプレクサ38を含む。またBSC14はMLC16からGPS航法データを受信する。このデータはDGPS受信機22から、また場合によっては外部源(図示せず)から来る。航法データの更新は、GPS衛星がそれぞれの航法メッセージを変えるとき、また場合によっては新しい衛星が見えてきたときに行われる。この航法データを受信した後、BSC14はこれを内部の放送コントローラ36に送って現在のデータのためのバッファ40に記憶する。バッファ40と過去のデータを記憶するバッファ42とを、変化検出クロック44を用いて比較する。現在見えている衛星について航法データに差がない場合は、この衛星については追加の放送メッセージ内容を生成する必要はない。現在見えている衛星に変化がある場合は、放送コントローラ36は航法パラメータの前の集合と航法パラメータの新しい集合とを関係づける偏差項を計算する。かかる偏差項をブロック46に転送して変化したデータを符号化し、緩衝し、分解器48を用いて分解して点対多点放送メッセージの未使用部分に入れる。分解器48はDGPS訂正データを受信するサイズ検出ブロック50にも接続する。サイズ検出ブロックは、放送DGPS訂正データが1PDUより小さいかどうか判定する。サイズ検出ブロック50は、更新された航法データで充填することが可能な未使用容量を分解器48に指示する。分解器は分解された航法データをマルチプレクサ38に供給して、放送DGPS訂正データの未使用容量を充填する。これは放送メッセージ内容として出力される。これにより、無線通信ネットワーク10内で通信する全てのGPS−MSに航法データを一層迅速に分配することができる。
【0048】
明らかであるが、新しい衛星が見えたためブロック42に過去のデータが緩衝されていない場合は、航法データをそのまま流してその標準形式に分解する。
【0049】
図3は、ブロック52で示す更新された航法情報を分解して時刻t0,t1,t2,t3,t4での各DGPS訂正データと共にN、N+1、N+2、N+3、N+4で示す放送メッセージに追加した時間線を示す。
【0050】
現在見えている衛星について偏差項だけを転送することの1つの利点はメッセージの圧縮である。個別の航法更新のサイズが小さくなるほど、航法更新のシーケンスの有効送出速度を高めることができる。または、有効送出速度を変えずに、節約されたビットを他の目的に用いてもよい。例えばこれらの節約されたビットを用いて、無線セルラ・ネットワーク・システムの各時間基準とGPSとの精密な関係を示すビットを定期的に放送してよい。当業者に知られているように、この関係を知ることは全ての効果的なGPS支援方式の中心的要素である。かかるタイミング関係は、本出願の譲渡人に譲渡された、Bloebaum 他の出願番号第09/264,120号、1999年3月8日出願、に述べられている。
【0051】
連続した2時間航法フィット・スパン間隔の間は2倍または3倍の圧縮が可能であると予想される。例えば、クロックおよび天体暦のデータの問題(Issue-Of-Data)項(IODCおよびIODE)は、複合の18ビットから、変化が起こったことを示すのに十分な、わずか1−2ビットまで減らすことができる。同様に、クロックの時刻(time-of-clock)と天体暦の時刻(time-of-ephemeris)(t0CとtOE)をそれぞれ16ビットからそれぞれ8ビットに減らすことができる。
【0052】
更に、他の軌道パラメータも圧縮することが可能である。なぜなら、前の更新でGPS−MS20内に記憶された航法データは対応する高次の導関数(derivatives)を含むからである。従来の項の集合{af0、af1、I0,Ω0,M0,ω}は、集合{af1、af2、dI/dt,dΩ/dt,Δn}に含まれる高次の導関数を用いることにより正確に2時間先を予測することができる。正確に予測された推定値と新しい更新からの関連項との差は極めて小さい。これは非常に正しい。なぜなら、よく知られているように、連続したフィット・スパン更新(2時間遅れ)により生成される擬似範囲対の差は1メートルより小さいからである。この6項の集合は全部で166クロック/天体暦ビットになるので、この部分集合の4倍の圧縮により約120ビット削減される。
【0053】
残りの項{af2、dI/dt,dΩ/dt,Δn,e,A1/2}と6つの調波訂正振幅については、予想されるスパン間のパラメータ偏差の範囲を決定するのは余り簡単ではない。かかる決定には、保管された航法メッセージ内に示されるスパン間の偏差の経験的な調査が必要である。しかし、2つの連続したフィット・スパン間隔の各パラメータは制御セグメント観測データの同じ連続した4週集合から本質的に得られることを考慮しなければならない。非常に長い観察窓が用いられているので、連続したフィット・スパン・パラメータ集合の間の接合点は本来スムースである。かかる残りの項に必要な222ビットを半分に減らし、且つ上に述べた削減を行うことができる場合は、3倍の圧縮が可能である。
【0054】
図1に示すように、GPS−MS20はサービスするBTS12から送信される点対点チャンネルと点対多点チャンネルとを両方とも受信する。GPS−MS20に電源を入れたときに有効な航法データを有しないときは、点対点チャンネルで直接MLC16にデータを要求してよい。しかしGPS−MS20が有効な航法データをすでに有している場合は、既存のデータを用いながら点対多点チャンネルに新しいデータが来るのを待ってもよい。
【0055】
このように、本発明ではセルラ・ネットワーク・システムなどの無線通信システム内でGPS支援データを増分放送して、時間依存情報を頻繁に更新し、しかも無線通信ネットワークの負担を最小にするシステムと方法とを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全世界測位システム(GPS)支援データを無線通信ネットワーク内で移動局に放送する方法であって、各移動局は前記無線通信ネットワーク内で動作するトランシーバとGPS位置決め測定を行うための組み込みGPS受信機とを含み、前記方法は、
選択された移動局との間に直接点対点チャンネルを確立し、
見えているGPS衛星について軌道モデル化情報を前記点対点チャンネルで前記選択された移動局に転送し、
前記無線通信ネットワーク内で通信する全ての移動局にGPS訂正データを前記無線通信ネットワークで放送する、
ステップを含む、GPS支援データを移動局に放送する方法。
【請求項2】
前記転送するステップはGPS衛星天体暦およびクロック訂正情報を転送するステップを含む、請求項1記載のGPS支援データを移動局に放送する方法。
【請求項3】
前記転送するステップはGPS衛星暦データを転送するステップを含む、請求項1記載のGPS支援データを移動局に放送する方法。
【請求項4】
前記放送するステップはDGPS訂正データを放送するステップを含む、請求項1記載のGPS支援データを移動局に放送する方法。
【請求項5】
更に、前記無線通信ネットワーク内で通信する全ての移動局に更新された軌道モデル化情報を表すデータを放送することにより支援データを更新するステップを更に含む、請求項1記載のGPS支援データを移動局に放送する方法。
【請求項6】
前記更新するステップは前記更新された軌道モデル化情報を表すデータを分解して、前記分解されたデータを放送メッセージの未使用部分に選択的に追加することを含む、請求項5記載のGPS支援データを移動局に放送する方法。
【請求項7】
ここで更に、現在見えている衛星について更新された軌道モデル化情報と既存の軌道モデル化情報とを比較して偏差を決定するステップを含む、請求項6記載のGPS支援データを移動局に放送する方法。
【請求項8】
前記分解するステップは現在見えている衛星について偏差を分解することを含む、請求項7記載のGPS支援データを移動局に放送する方法。
【請求項9】
前記更新するステップは前記更新された軌道モデル化情報を表すデータを圧縮することを含む、請求項5記載のGPS支援データを移動局に放送する方法。
【請求項10】
前記更新するステップは現在見えている衛星について偏差を決定することによりデータを圧縮する、請求項9記載のGPS支援データを移動局に放送する方法。
【請求項11】
更新された全世界測位システム(GPS)支援データを無線通信ネットワーク内で移動局に増分放送する方法であって、各移動局は前記無線通信ネットワーク内で動作するトランシーバとGPS位置決め測定を行うための組み込みGPS受信機とを含み、また各移動局は最近見えていたGPS衛星について過去の軌道モデル化情報を有し、前記方法は、
現在見えている衛星について現在の軌道モデル化情報を定期的に受信し、
前記受信した現在の軌道モデル化情報と過去の軌道モデル化情報とを比較して、偏差があれば更新された軌道モデル化情報を生成し、
前記無線通信ネットワーク内で通信する全ての移動局に更新された軌道モデル化情報を前記無線通信ネットワークで放送する、
ステップを含む、更新されたGPS支援データを移動局に増分放送する方法。
【請求項12】
前記放送するステップは前記更新された軌道モデル化情報を表すデータを分解して、前記分解されたデータを放送メッセージの未使用部分に選択的に追加することを含む、請求項11記載の更新されたGPS支援データを移動局に増分放送する方法。
【請求項13】
前記分解するステップは現在見えている衛星について偏差を分解することを含む、請求項12記載の更新されたGPS支援データを移動局に増分放送する方法。
【請求項14】
前記放送するステップは前記更新された軌道モデル化情報を表すデータを圧縮することを含む、請求項11記載の更新されたGPS支援データを移動局に増分放送する方法。
【請求項15】
前記放送するステップは現在見えている衛星について偏差を決定することによりデータを圧縮する、請求項14記載の更新されたGPS支援データを移動局に増分放送する方法。
【請求項16】
前記無線通信ネットワークの各時間基準と前記GPSとの関係を記述するデータを放送メッセージの未使用部分に追加するステップを更に含む、請求項11記載の更新されたGPS支援データを移動局に増分放送する方法。
【請求項17】
全世界測位システム(GPS)支援データを無線通信ネットワーク内で移動局に放送するシステムであって、各移動局は前記無線通信ネットワーク内で通信し、またGPS位置決め測定を行うための組み込みGPS受信機を含み、前記システムは、
見えているGPS衛星について軌道モデル化情報とGPS訂正データを収集するためのGPS受信機と、
前記無線通信ネットワーク内で移動局と通信するトランシーバと、
放送コントローラであって、前記GPS受信機とトランシーバとに関連し、選択された移動局との間に直接点対点チャンネルを選択的に確立して前記軌道モデル化情報を転送し、また前記無線通信ネットワーク内で通信する全ての移動局にGPS訂正データを前記無線通信ネットワークで定期的に放送する、放送コントローラと、
を備えるGPS支援データを移動局に放送するシステム。
【請求項18】
前記軌道モデル化情報はGPS衛星天体暦およびクロック訂正情報を含む、請求項17記載のGPS支援データを移動局に放送するシステム。
【請求項19】
前記軌道モデル化情報はGPS衛星暦データを含む、請求項17記載のGPS支援データを移動局に放送するシステム。
【請求項20】
前記GPS訂正データはDGPS訂正データを含む、請求項17記載のGPS支援データを移動局に放送するシステム。
【請求項21】
前記放送コントローラは前記無線通信ネットワーク内で通信する全ての移動局に更新された軌道モデル化情報を表すデータを放送することにより支援データを更新する、請求項17記載のGPS支援データを移動局に放送するシステム。
【請求項22】
前記更新することは、前記更新された軌道モデル化情報を表すデータを分解して、前記分解されたデータを放送メッセージの未使用部分に選択的に追加することを含む、請求項21記載のGPS支援データを移動局に放送するシステム。
【請求項23】
前記放送コントローラは、現在見えている衛星について更新された軌道モデル化情報と既存の軌道モデル化情報とを比較して偏差を決定する、請求項22記載のGPS支援データを移動局に放送するシステム。
【請求項24】
前記放送コントローラは現在見えている衛星について偏差を分解する、請求項23記載のGPS支援データを移動局に放送するシステム。
【請求項25】
前記放送コントローラは前記更新された軌道モデル化情報を表すデータを圧縮する、請求項21記載のGPS支援データを移動局に放送するシステム。
【請求項26】
前記放送コントローラは現在見えている衛星について偏差を決定することによりデータを圧縮する、請求項25記載のGPS支援データを移動局に放送するシステム。
【請求項27】
前記放送コントローラは前記無線通信ネットワークの各時間基準と前記GPSとの関係を記述するデータを放送メッセージの未使用部分に追加する、請求項22記載のGPS支援データを移動局に放送するシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−22151(P2011−22151A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−178000(P2010−178000)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【分割の表示】特願2001−515985(P2001−515985)の分割
【原出願日】平成12年7月7日(2000.7.7)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.GSM
【出願人】(502086784)エリクソン インコーポレイテッド (20)
【氏名又は名称原語表記】ERICSSON INC.
【住所又は居所原語表記】6300 Legacy Drive,Plano,Texas 75024,U.S.A.
【Fターム(参考)】