説明

セルロースアシレートフィルムの製造方法、セルロースアシレートフィルム、及び偏光板

【課題】過酷な湿熱条件においても経時安定性に優れる偏光板を提供すること。
【解決手段】グルコピラノース環の2,3,6位の少なくともいずれかの水酸基がアシレート基で置換されたセルロースアシレートであって、6位の水酸基のアシル基による置換度(S6)が0.87以上0.97以下であるセルロースアシレートと、可塑剤を35質量%以下含むポリマー溶液を基材上に流延してウェブを形成する流延工程と、
前記流延工程によって形成されたウェブを基材から剥離した後、残留溶媒が5質量%以上30質量%以下の領域で160℃以上200℃以下の熱処理を1分以上120分以下行う熱処理工程と、を含む、セルロースアシレートフィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は過酷な湿熱条件においても経時安定性に優れる偏光板に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光板は一般に偏光能を有する偏光層の両面あるいは片面に、接着剤層を介して保護フィルムを貼り合わせている。偏光層の素材としてはポリビニルアルコール(以下、PVA)が主に用いられており、PVAフィルムを一軸延伸してから、ヨウ素あるいは二色性染料で染色するかあるいは染色してから延伸し、更にホウ素化合物で架橋することにより偏光層用の偏光膜が形成される。保護フィルムとしては、光学的に透明で複屈折が小さいことから、主にセルローストリアセテート(TAC)が用いられている。
【0003】
しかし、このような偏光板を高温高湿雰囲気中に放置しておくと,経時で偏光特性が低下するという問題が発生した。このような経時劣化は、従来偏光板に水が浸入し引き起こされるとして、透湿係数(透湿度)を下げる工夫がなされていた。例えば、特許文献1(特開2002−146044号公報)では、セルロースエステルフィルム中に疎水的な可塑剤を添加することで、透水量を50〜250g/m・日(80±5℃、90±10%RH)にすることで、目視により偏光性能の改良効果を確認している。また特許文献2(特開2002−303724号公報)においてもセルロースエステルフィルムとオレフィン系フィルムを併用することで透湿係数を500g/m・日以下にし、目視で偏光能の低下防止を確認している。しかし、これらの偏光膜のように透湿係数を低下させるだけでは、目視では十分に達成できなかった。即ち、偏光板を液晶表示装置等に組み込み使用する場合、偏光板を直交させた場合の吸光度(直交吸光度)は99.8%以上にすることが必用であり、このような光の透過率の差を目視で確認することは困難であり、これらの先行特許文献を追試してもこのような高い光学性能は達成されていない(因みに、目視で明らかに差が認知できるのは99.0%以下になった場合である)。更に、これらの先行特許文献では、いずれも経時で色相がずれ黄色みがかかるという問題があった。これは、透湿率を低くしすぎたことが原因であった。
【0004】
特許文献3(特開2002−14230号公報)では、40℃90%RHでの透湿係数が10〜1000g/m・日の比較的高い透湿率の保護フィルムを使用している。即ち、保護フィルムと偏光層を接着さる接着剤として水系の糊を使用するため、透湿性がある程度高くないと、偏光層中に水分が残留し、これが偏光性能を劣化させるので、上記2件の特許に比べ、高い透湿係数のものを保護フィルムに使用している。この結果、上記2件の特許文献で発現した黄色みの発生は抑制された。しかし、これら特許文献以上に湿熱経時での偏光能劣化が発生した。即ち、40℃90%RHのようなマイルドな条件では直交吸光度の低下は殆ど発生しないが、60℃以上90%RH以上の高温高湿での経時に於いて著しく、1000時間の経時で直交吸光度は95%以下に低下した。
このように、透湿係数の制御だけでは、60℃以上90%RH以上の高温高湿下での偏光能(直交偏光度)、黄色みの両方を満足させることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−146044号公報
【特許文献2】特開2002−303724号公報
【特許文献3】特開2002−14230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は極めて過酷な湿熱条件においても、耐久性に優れる偏光板、具体的には偏光能(直交透過度)に変化がなく、かつ黄色みの発生のない偏光板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1.グルコピラノース環の2,3,6位の少なくともいずれかの水酸基がアシレート基で置換されたセルロースアシレートであって、6位の水酸基のアシル基による置換度(S6)が0.87以上0.97以下であるセルロースアシレートと、可塑剤を35質量%以下含むポリマー溶液を基材上に流延してウェブを形成する流延工程と、
前記流延工程によって形成されたウェブを基材から剥離した後、残留溶媒が5質量%以上30質量%以下の領域で160℃以上200℃以下の熱処理を1分以上120分以下行う熱処理工程と、を含む、セルロースアシレートフィルムの製造方法。
2.上記1に記載の製造方法により製造されるセルロースアシレートフィルム。
3.上記2に記載のセルロースアシレートフィルを偏光板用保護フィルムとして用いた偏光板。
【発明の効果】
【0008】
本発明の偏光板は、極めて過酷な湿熱条件においても耐久性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明では上述の偏光能(直交透過度)と黄色みの両立を以下のように達成した。
従来の特許文献等では、偏光層に水が浸入することで偏光能が低下していると記載されているが、本発明者は水が直接偏光能を低下させるのでは無く、以下の過程で偏光能を低下を引き起こしていることを見出した。
即ち、偏光層は延伸配向させたポリビニルアルコール(PVA)の隙間によう素を配向させ偏光能を出している。さらに、偏光層は、PVA、よう素の配向が乱れないようPVAを硼酸で架橋したものである。従来、偏光層に侵入した水は偏光能を出しているよう素に作用して偏光能を低下させると思われていたが、本発明者は、水が硼酸とPVAとの架橋を切断し、かつ切断された硼酸が水に溶解し保護フィルム中に拡散することで、偏光板の外に排出されることで起こっていることを見出した。なお、本発明では、偏光能を発現する層(色素とポリビニルアルコールを延伸した層)を偏光層とよび、これを少なくとも1枚の保護フィルム(セルロースアシレートフィルム)で張り合わせたものを偏光板と呼び区別する。
従って、本発明では、透湿係数を下げるだけではなく、硼酸の拡散速度も下げることを特徴としている。この結果比較的高湿においても偏光能の低下を防止することができた。さらには、透湿係数の小さな領域で発生し易い黄色みの発生が抑制され、偏光能との両立を達成した。
【0010】
この黄色みは、以下のように発生するものと思われる。
1.経時で偏光層の化合物が分解する。これが黄色みを有している。
2.分解物が偏光層から、保護フィルム中を拡散し、系外に排出される。しかし、この拡散量が小さいと、偏光層中に分解物が残留し、黄色みを帯びる。
これらの分解物は水と同様極性が高く、水を通し難いフィルムは、これらの分解物も通し難いものと思われる。このため、本発明では、透湿係数は500g/m・日以上1500g/m・日以下、より好ましくは700g/m・日以上1400g/m・日以下、さらに好ましくは900g/m・日以上1300g/m・日以下である。硼酸の拡散係数は、60℃95%RHで、0mmol/m・日・μm以上0.23mmol/m・日・μm以下が好ましく、より好ましくは0mmol/m・日・μm以上0.20mmol/m・日・μm以下、さらに好ましくは0mmol/m・日・μm以上0.18mmol/m・日・μm以下である。硼酸の含有率は、2mmol/m・μm以上15mmol/m・μm以下、より好ましくは2.5mmol/m・μm以上10mmol/m・μm以下、さらに好ましくは3mmol/m・μm以上8mmol/m・μm以下である。ここでいう硼酸の拡散係数とは、偏光層から硼酸が保護フィルムを通過して出てきた量を単位面積(m)あたりで求め、さらにこれを時間(日)で割ることで単位時間あたりの拡散係数とし、さらにこれを偏光層の厚み(μm)で割り規格化したものである。
【0011】
さらに、本発明では透湿係数、硼酸の拡散係数の湿熱経時(60℃95%RHの雰囲気下に1000時間)での変化量が0%以上30%以下であることが好ましく、より好ましくは0%以下20%以下、さらに好ましくは0%以上10%以下である。これは湿熱経時前後の差を湿熱経時前の値で割り百分率で示したものである。これにより、より高い偏光能が達成できる。即ち、これらの初期値が小さいだけでは不十分であり、高温高湿では保護フィルム自体も劣化し易く、これにより透湿係数、硼酸の拡散係数が大きくなりやすい。従って、湿熱経時後の透湿係数、硼酸の拡散係数の変化を小さくすることが、より高い偏光能を達成するために必用である。さらに、これらの保護フィルムの経時変化は保護フィルムの分解により引き起こされるため、この分解物が黄色みの増加の原因となる。従って、これにより、著しく黄色みを抑制する効果を有する。
【0012】
このような偏光板は以下の方法により達成された。
(1)硼酸の拡散係数
硼酸の拡散係数を小さくするにはセルロースアシレートフィルムの水酸基を調整することが有効である。セルロースアシレートは、グルコピラノース環の2,3,6位の水酸基をアシレート基で置換したものである。3つの水酸基を全て置換してしまうと溶解性が低下するため、溶液製膜できなくなる。このため置換度は一般に2.7〜2.9にする。このためグルコピラノース環1つあたり0.1〜0.3個の水酸基がついており、これが硼酸の拡散を促進する。即ち、硼酸はセルロースアシレートの水酸基と弱い結合を形成するため、この水酸基への吸脱着を繰り返しながら、水酸基上を伝播して拡散すると推定される。
この3つの水酸基のうち、最も活性が高いのが6位の水酸基である。6位の水酸基はグルコピラノース環からメチレン基を介して結合しているため、運動性が大きく活性が高く硼酸の拡散係数を大きくし易い。一方、2,3位の水酸基はグルコピラノース環に直接結合している上、2,3位同士の水酸基同士が水素結合しているので、それほど硼酸の拡散係数を高めない。
このため、本発明ではこの6位の水酸基を少なくすることがポイントであり、6位の水酸基のアシル基による置換度(S6)を0.87以上0.97以下、より好ましくは0.88以上0.96以下、さらに好ましくは0.89以上0.95以下にするのが好ましい。因みに通常の6位の水酸基の置換率は0.7〜0.8である。このような6位置換率の高いセルロースアシレートを達成するには、以下の方法で達成される。
【0013】
セルロースアシレートの合成方法の基本的な原理は、右田他、木材化学180〜190頁(共立出版、1968年)に記載されている。代表的な合成方法は、無水酢酸−酢酸−硫酸触媒による液相酢化法である。具体的には、木材パルプ等のセルロース原料を適当量の有機酸で前処理した後、予め冷却したアシル化混液に投入してエステル化し、完全セルロースアシレート(2位、3位及び6位のアシル置換度の合計が、ほぼ3.00)を合成する。上記アシル化混液は、一般に、溶媒としての有機酸、エステル化剤としての無水有機酸及び触媒としての硫酸を含む。無水有機酸は、これと反応するセルロース及び系内に存在する水分の合計よりも、化学量論的に過剰量で使用することが普通である。アシル化反応終了後に、系内に残存している過剰の無水有機酸の加水分解及びエステル化触媒の一部の中和のために、中和剤(例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウム又は亜鉛の炭酸塩、酢酸塩又は酸化物)の水溶液を添加する。次に、得られた完全セルロースアシレートを少量の酢化反応触媒(一般には、残存する硫酸)の存在下で、50〜90℃に保つことにより、ケン化熟成し、所望のアシル置換度及び重合度を有するセルロースアシレートまで変化させる。所望のセルロースアシレートが得られた時点で、系内に残存している触媒を前記のような中和剤を用いて完全に中和するか、あるいは、中和することなく、水又は希硫酸中にセルロースアシレート溶液を投入(あるいは、セルロースアシレート溶液中に、水又は希硫酸を投入)してセルロースアシレートを分離し、洗浄及び安定化処理によりセルロースアシレートを得る。
【0014】
通常のセルロースアシレートの合成方法では、2位又は3位のアシル置換度の方が、6位のアシル置換度よりも高い値になる。そのため、本発明に記載のセルロースアシレートを得るためには、前記の反応条件を特別に調節する必要がある。具体的な反応条件としては、硫酸触媒の量を減らし、アシル化反応の時間を長くする(熟成する)ことが好ましい。硫酸触媒が多いと、アシル化反応の進行が速くなるが、触媒量に応じてセルロースとの間に硫酸エステルが生成し、反応終了時に遊離して残存水酸基を生じる。硫酸エステルは、反応性が高い6位により多く生成する。そのため、硫酸触媒が多いと6位のアシル置換度が小さくなる。従って、本発明に用いるセルロースアシレートを合成するためには、可能な限り硫酸触媒の量を削減し、それにより低下した反応速度を補うため、反応時間を延長する必要がある。また、本発明における2位置換度、3位置換度の制御も反応条件を変更することで可能となる。
【0015】
さらに硼酸の拡散係数を小さくするには、セルロースアシレートフィルム中の自由体積を小さくすること、即ち、硼酸が拡散するセルロースアシレート分子間の隙間を小さくすることが重要である。セルロースアシレートフィルムの製膜は溶液流延で行われるため、溶液をより効率よく乾燥するためガラス転移温度(Tg)以上の高温で乾燥された後、急冷される。即ちTg以上では自由体積が大きいが、この状態から急冷されると、温度低下に体積低下が追随できず、自由体積の大きなフィルムとなる。このような膜は硼酸の拡散係数が大きくなりやすい。そこで本発明では、これを小さくするために、製膜後、徐冷することで自由体積を小さくし、硼酸の拡散を小さくしている。このような冷却は、特にTgからTg−30℃の間の温度範囲での冷却速度がポイントであり、この間を0.01℃/秒以上1℃/秒以下で冷却することが好ましい。このような徐冷は、流延後の乾燥ゾーンの出口にこのようなTgからTg−30℃に温度勾配を作成したゾーンを作成し、30秒以上の時間このゾーンに滞留するように調整しながら熱処理することで達成できる。このような熱処理は連続的に徐冷してもよく、2段階以上にステップワイズに不連続に実施しても良い。
【0016】
さらに、セルロースアシレートフィルム中の自由体積は、該フィルムの結晶量を大きくすることにより減少させることができる。自由体積はセルロースアシレート分子の隙間であるため、これが運動すると隙間が増えて自由体積は増加する。これを防止するにはこの分子が運動し難いように固定しておくことが効果的であり、これにはセルロースアシレートフィルム内に結晶を形成することが好ましい。このような結晶の形成は残留溶剤により効率的に形成されるため、残留溶剤量が5質量%以上30質量%以下の領域で100℃以上200℃以下の熱処理を1分以上120分以下実施することで達成される。即ち、ドープを基材上に流延直後にこのような温度の高温のゾーンを通過させることで達成できる。
【0017】
セルロースアシレートフィルムのこのような自由体積の減少は、併せて黄色みを抑制できる。即ち、このような熱処理は硼酸の拡散は抑制するが、透湿係数はあまり抑制しない。透湿性が小さすぎると偏光層作成時に残留した水分が系外へ散逸できず偏光層中に残留するため、60℃以上の高温で経時した際、偏光層中で蒸し焼き状態となり、偏光層中のよう素やPVAが分解し易く黄色みの原因となる。このような自由体積の減少は、硼酸の拡散は抑制するが水の拡散は抑制し過ぎず適度に透過させる。これは分子半径の大きな硼酸は自由体積の減少で拡散が大きく抑制されるのに対し、水分子は小さく、自由体積が小さくなってもその隙間を拡散できるためと思われる。一方、バリア性の素材を分散したり、塗設したような場合は水の拡散も抑制してしまうため、黄色みが着きやすい。従って、黄色みの抑制には透湿係数は小さすぎないことが好ましく500g/m・日以上が好ましい。
【0018】
(2)透湿係数
保護フィルムに用いるセルロースアシレートフィルムの透湿係数を減少させることは、ある程度は硼酸の拡散を抑制する効果があり少ないほうが偏光板劣化の観点からは好ましい(なお、これだけでは上述のように偏光の劣化は完全には抑制しきれず、根本的に劣化を小さくするためには硼酸の拡散を小さくすることが必須である)。一方、透湿係数を小さくしすぎると、上述のように黄色みの増加ももたらす。従って、透湿係数は、60℃90%RHに於いて、500g/m・日以上1500g/m・日以下、より好ましくは600g/m・日以上1400g/m・日以下、さらに好ましくは700g/m・日以上1300g/m・日以下にすることが好ましく、上述の硼酸の拡散の抑制と併せて実施することが好ましい。
【0019】
セルロースアシレートフィルムの透湿係数を上記範囲にするには可塑剤の添加が有効であり、好ましく添加される可塑剤としては、
(i)リン酸エステル系可塑剤として、トリフェニルフォスフェート(TPP)、ビフェニルジフェニルホスフェート(BDP)、トリクレジルホスフェート(TCP)、ジオクチルフタレート(DOP)、O−アセチルクエン酸トリブチル(OACTB)、クエン酸アセチルトリエチル、特開平11−90946号公報に記載の置換フェニルリン酸エステル類等)、
(ii)脂肪酸エステル系可塑剤として、特開平11−124445号公報に記載の(ジ)ペンタエリスリトールエステル類、特開平11−246704号公報に記載のグリセロールエステル類、特開2000−63560号公報に記載のジグリセロールエステル類、特開平11−92574号公報に記載のクエン酸エステル類等が上げられ、
(iii)フタル酸エステル系可塑剤として、ジエチルテレフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジベンジルフタレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、メチルフタリルエチルグルコレート等が挙げられる。
これらの可塑剤は1種でもよいし2種以上併用してもよい。可塑剤の添加量はセルロースアシレートに対して10〜35質量%以下、より好ましくは12〜30質量%であり、特に14〜25質量%以下が好ましい。
【0020】
さらに、セルロースアシレートフィルムの透湿係数の湿熱経時での変化を小さくするには、厚み方向の可塑剤分布として表面可塑剤量を大きくすることが有効である。即ち水分は保護フィルムの表面に収着した後、内部に拡散するため、表面近傍をより疎水化することが水分の表面への収着量を減少させるために有効であるが、経時で表面はもっとも変化を受けやすく、可塑剤が揮散したり、酸化し親水化する。このため、表面近傍の可塑材料をあらかじめ多くしておくことが有効である。
【0021】
このような可塑剤の分布は以下のように達成できる。即ち、セルロースアシレートフィルムはセルロースアシレート、可塑剤等を溶剤に高濃度に溶解した液(ドープ)をドラム、バンド等の基材上に流延、乾燥して製膜するが、可塑剤は揮発する溶剤に同伴され表面に蓄積される。このように表面に濃縮された可塑剤は、今度は内部に向かって濃度勾配に従い再拡散し、表面濃度は低下する。しかし、内部への拡散が開始する前に、可塑剤が移動できない程度(残留溶剤20質量%以下)にすることで(即ち急速乾燥することで)、可塑剤が表面に高濃度に蓄積したフィルムを製膜できる。これにはドープが基材上に流延されてから剥ぎ取りまでの間に15質量%/分以上、より好ましくは20質量%/分以上、さらに好ましくは30質量%/分以上で乾燥することが好ましい。ここでいう乾燥速度とは、流延直後の溶剤量(ドープの全重量に対しする溶剤量の質量比:質量%)と剥ぎ取り直後の溶剤量(質量%)の差を、この間に要した時間(分)で割った値で示される。なお、本発明では剥ぎ取り時の残留溶剤量は20質量%とした。
このような急速な乾燥は、基材の加熱及び、基材上に吹き込む風の温度の増加により達成できる。好ましい基材の温度は40℃〜80℃、より好ましくは45℃〜60℃であり、風の温度は70℃以上100℃以下、より好ましくは80℃以上95℃以下である。
【0022】
以下に偏光板の製造工程に従いながら、本発明を詳細に説明を加える。
1.セルロースアシレート
本発明の好ましいセルロースアシレートは以下の素材を挙げることができる。即ち、セルロースアシレートの6位の水酸基への置換度(S6)が0.87以上0.95以下であるものが好ましい。下記式(I)〜(IV)を満足するものがさらに好ましい。
(I) 2.6≦SA+SB≦3.0
(II) 2.0≦SA≦3.0
(III) 0≦SB≦0.8
(IV) 280≦重合度≦380
式中、SA及びSBはセルロースの水酸基に置換されているアシル基の置換度を表し、SAはアセチル基の置換度であり、SBは炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。
【0023】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位及び6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部又は全部をアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位、3位及び6位のそれぞれについて、セルロースがエステル化している割合(100%のエステル化は置換度1)を意味する。
本発明のセルロースアシレートの炭素数3〜22のアシル基(SB)としては、脂肪族基でもアリル基でもよく特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましいSBとしては、プロピオニル、ブタノイル、ケプタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、iso‐ブタノイル、t‐ブタノイル、シクロヘキサンカルボニル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイル基などを挙げることが出来る。これらの中でも、プロピオニル、ブタノイル、ドデカノイル、オクタデカノイル、t‐ブタノイル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイルなどである。
このように置換基の異なるセルロースアシレートは、セルロースをアシレート化するときに添加するカルボン酸の種類、量を適宜調整することで達成される。
6位の置換度は上述のようにアシル化反応の時の熟成時間を調整することで達成できる。
【0024】
本発明で好ましく用いられるセルロースアシレートの重合度は、粘度平均重合度280以上380以下が好ましく、より好ましくは285〜350、更に好ましくは290〜330である。平均重合度は、宇田らの極限粘度法(宇田和夫、斉藤秀夫、繊維学会誌、第18巻第1号、105〜120頁、1962年)により測定できる。さらに特開平9−95538号公報に詳細に記載されている。
分子量の調整は重合したものから低分子量成分を抜き取ることでも、重合方法の改良でも達成できる。低分子成分の除去は、セルロースアシレートを適当な有機溶媒で洗浄することにより実施できる。なお、低分子成分の少ないセルロースアシレートを製造する場合、アシル化反応における硫酸触媒量を、セルロース100質量に対して0.5〜25質量部に調整することが好ましい。硫酸触媒の量を上記範囲にすると、分子量部分布の点でも好ましい分子量分布の均一なセルロースアシレートを合成することができる。
【0025】
2.セルロースアシレートフィルム
セルロースアシレートフィルムは、原料を有機溶剤に高濃度に溶解したもの(ドープ)を鏡面に仕上げたドラムやバンドの上に流延し、溶剤を乾燥して製膜される。
本発明のセルロースアシレート溶液には、各調製工程において用途に応じた種々の添加剤(例えば、上述の可塑剤、紫外線防止剤、劣化防止剤、光学異方性コントロール剤、微粒子、剥離剤、赤外吸収剤、など)を加えることができ、それらは固体でもよく油状物でもよい。即ち、その融点や沸点において特に限定されるものではない。例えば20℃以下と20℃以上の紫外線吸収材料いずれも用いられ、これらは例えば特開平2001−151901号公報などに記載されている。さらにまた、赤外吸収染料としては、例えば特開平2001−194522号公報に記載されている。またその添加する時期はドープ作製工程において何れで添加しても良いが、ドープ調製工程の最後の調製工程に添加剤を添加し調製する工程を加えて行ってもよい。更にまた、各素材の添加量は機能が発現する限りにおいて特に限定されない。また、セルロースアシレートフィルムが多層から形成される場合、各層の添加物の種類や添加量が異なってもよい。例えば特開平2001−151902号公報などに記載されているが、これらは従来から知られている技術である。
さらにこれらの詳細は、発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて16頁〜22頁に詳細に記載されている素材が好ましく用いられる。
【0026】
(1)ドープの溶剤
本発明のセルロースアシレートが溶解される有機溶媒として塩素系の溶剤(ジクロロメタン、クロロホルム等)、非塩素系の両方が用いることができるが、本発明では非塩素系溶剤のほうがより好ましく用いられる。即ち、偏光板に用いたときに、非塩素系溶剤のほうが湿熱経時での退色が少なく、また黄色みも少なく、より好ましい。これはセルロースアシレートフィルム中に残留した微量の塩素系溶剤が偏光層に拡散し、PVA及びよう素に作用し、退色を促したり、分解を促し黄色みを帯びやすいすためと推定される。
(i)非塩素系溶剤
セルロースアシレートの溶液を作製するに際して、好ましく用いられる非塩素系有機溶媒は、炭素原子数が3〜12のエステル、ケトン、エーテルから選ばれる溶媒が好ましい。エステル、ケトン及び、エーテルは、環状構造を有していてもよい。エステル、ケトン及びエーテルの官能基(即ち、−O−、−CO−及び−COO−)のいずれかを2つ以上有する化合物も、主溶媒として用いることができ、たとえばアルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。2種類以上の官能基を有する主溶媒の場合、その炭素原子数はいずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。炭素原子数が3〜12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテート及びペンチルアセテートが挙げられる。炭素原子数が3〜12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン及びメチルシクロヘキサノンが挙げられる。炭素原子数が3〜12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソール及びフェネトールが挙げられる。二種類以上の官能基を有する有機溶媒の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノール及び2−ブトキシエタノールが挙げられる。
【0027】
以上のセルロースアシレートに用いられる非塩素系有機溶媒については、前述のいろいろな観点から選定されるが、好ましくは以下のとおりである。即ち、本発明のセルロースアシレートの好ましい溶媒は、互いに異なる3種類以上の混合溶媒であって、第1の溶媒が酢酸メチル、酢酸エチル、蟻酸メチル、蟻酸エチル、アセトン、ジオキソラン、ジオキサンから選ばれる一種以上、第2の溶媒が炭素原子数が4〜7のケトン類又はアセト酢酸エステルから選ばる一種以上、第3の溶媒として炭素数が1〜10のアルコール又は炭化水素から選ばれる一種以上、より好ましくは炭素数1〜8のアルコールである。なお、第1の溶媒が2種以上用いられる場合は、第2の溶媒がなくてもよい。第1の溶媒は、更に好ましくは酢酸メチル、アセトン、蟻酸メチル、蟻酸エチルあるいはこれらの混合物であり、第2の溶媒は、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、アセチル酢酸メチルが好ましく、これらの混合物であってもよい。
【0028】
第3の溶媒であるアルコールのアルコール残基は、好ましくは直鎖であっても分枝を有していても環状であってもよく、その中でも飽和脂肪族炭化水素基であることが好ましい。また、アルコールは、第一級〜第三級アルコールのいずれであってもよい。アルコールの例には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、1−ペンタノール、2−メチル−2−ブタノール及びシクロヘキサノールが含まれる。また、アルコールとして、フッ素系アルコールも用いられる。例えば、2−フルオロエタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノールなども挙げられる。
【0029】
また、第3の溶媒である炭化水素は、直鎖であっても分岐を有していても環状であってもよい。芳香族炭化水素と脂肪族炭化水素のいずれも用いることができる。脂肪族炭化水素は、飽和であっても不飽和であってもよい。炭化水素の例には、シクロヘキサン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン及びキシレンが含まれる。
これらの第3の溶媒であるアルコール及び炭化水素は、単独でもよいし2種類以上の混合物でもよく特に限定されない。第3の溶媒の好ましい具体的例としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、及びシクロヘキサノール、シクロヘキサン、ヘキサンを挙げることができ、特にはメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノールである。
【0030】
以上の3種類の混合溶媒は、第1の溶媒が20〜95質量%、第2の溶媒が2〜60質量%更に第3の溶媒が2〜30質量%の比率で含まれることが好ましく、更に第1の溶媒が30〜90質量%であり、第2の溶媒が3〜50質量%、更に第3のアルコールが3〜25質量%含まれることが好ましい。また特に第1の溶媒が30〜90質量%であり、第2の溶媒が3〜30質量%、第3の溶媒がアルコールであり3〜15質量%含まれることが好ましい。なお、第1の溶媒が混合液で第2の溶媒を用いない場合は、第1の溶媒が20〜95質量%、第3の溶媒が80〜5質量%の比率で含まれることが好ましく、更に第1の溶媒が30〜93質量%であり、更に第3の溶媒が70〜7質量%含まれることが好ましい。以上の本発明で用いられる非塩素系有機溶媒は、更に詳細には発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて12頁〜16頁に詳細に記載されている。本発明の好ましい非塩素系有機溶媒の組合せは以下挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
・酢酸メチル/アセトン/メタノール/エタノール/ブタノール(75/10/5/5/5、質量部)、
・酢酸メチル/アセトン/メタノール/エタノール/プロパノール(75/10/5/5/5、質量部)、
・酢酸メチル/アセトン/メタノール/ブタノール/シクロヘキサン(75/10/5/5/5、質量部)、
・酢酸メチル/メチルエチルケトン/メタノール/ブタノール(80/10/5/5、質量部)、
・酢酸メチル/アセトン/メチルエチルケトン/エタノール/イソプロパノール(75/10/10/5/7、質量部)、
・酢酸メチル/シクロペンタノン/メタノール/イソプロパノール(80/10/5/8、質量部)、
・酢酸メチル/アセトン/ブタノール(85/5/5、質量部)、
・酢酸メチル/シクロペンタノン/アセトン/メタノール/ブタノール(60/15/15/5/6、質量部)、
・酢酸メチル/シクロヘキサノン/メタノール/ヘキサン(70/20/5/5、質量部)、
・酢酸メチル/メチルエチルケトン/アセトン/メタノール/エタノール(50/20/20/5/5、質量部)、
・酢酸メチル/1、3−ジオキソラン/メタノール/エタノール(70/20/5/5、質量部)、
・酢酸メチル/ジオキサン/アセトン/メタノール/エタノール(60/20/10/5/5、質量部)、
・酢酸メチル/アセトン/シクロペンタノン/エタノール/イソブタノール/シクロヘキサン(65/10/10/5/5/5、質量部)、
・ギ酸メチル/メチルエチルケトン/アセトン/メタノール/エタノール(50/20/20/5/5、質量部)、
・ギ酸メチル/アセトン/酢酸エチル/エタノール/ブタノール/ヘキサン(65/10/10/5/5/5、質量部)、
・アセトン/アセト酢酸メチル/メタノール/エタノール(65/20/10/5、質量部)、
・アセトン/シクロペンタノン/エタノール/ブタノール(65/20/10/5、質量部)、
・アセトン/1,3ジオキソラン/エタノール/ブタノール(65/20/10/5、質量部)、
・1、3ジオキソラン/シクロヘキサノン/メチルエチルケトン/メタノール/ブタノール(55/20/10/5/5/5、質量部)
などをあげることができる。
本技術に用いるドープには、上記本技術の非塩素系有機溶媒以外に、ジクロロメタンを本技術の全有機溶媒量の10質量%以下含有させてもよい。
【0032】
(ii)塩素系溶剤
本発明のセルロースアシレートの溶液を作製するに際しては、塩素系有機溶媒も用いても良い。これは上述のように偏光板の退色性は低下しやすいが、セルロースアシレートをより高濃度に溶解できるため、流延後の乾燥工程を短縮でき、工程コストを下げられるメリットを有する。
本発明においては、セルロースアシレートが溶解し流延,製膜できる範囲において、その目的が達成できる限りはその塩素系有機溶媒は特に限定されない。これらの塩素系有機溶媒は、好ましくはジクロロメタン、クロロホルムである。特にジクロロメタンが好ましい。また、塩素系有機溶媒以外の有機溶媒を混合することも特に問題ない。その場合は、ジクロロメタンは少なくとも50質量%使用することが必要である。
【0033】
本発明で併用される非塩素系有機溶媒について以下に記す。即ち、好ましい非塩素系有機溶媒としては、炭素原子数が3〜12のエステル、ケトン、エーテル、アルコール、炭化水素などから選ばれる溶媒が好ましい。エステル、ケトン、エーテル及びアルコールは、環状構造を有していてもよい。エステル、ケトン及びエーテルの官能基(即ち、−O−、−CO−及び−COO−)のいずれかを二つ以上有する化合物も溶媒として用いることができ、たとえばアルコール性水酸基のような他の官能基を同時に有していてもよい。二種類以上の官能基を有する溶媒の場合、その炭素原子数はいずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。
【0034】
上記炭素原子数が3〜12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテート及びペンチルアセテートが挙げられる。
上記炭素原子数が3〜12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン及びメチルシクロヘキサノンが挙げられる。
上記炭素原子数が3〜12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソール及びフェネトールが挙げられる。
上記二種類以上の官能基を有する有機溶媒の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノール及び2−ブトキシエタノールが挙げられる。
【0035】
また、塩素系有機溶媒と併用されるアルコールとしては、そのアルコール残査が直鎖であっても分枝を有していても環状であってもよく、その中でも飽和脂肪族炭化水素であることが好ましい。アルコールは、第一級〜第三級のいずれであってもよい。アルコールの例には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、1−ペンタノール、2−メチル−2−ブタノール及びシクロヘキサノールが含まれる。なおアルコールとしては、フッ素系アルコールも用いられる。例えば、2−フルオロエタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノールなども挙げられる。更に炭化水素は、直鎖であっても分岐を有していても環状であってもよい。芳香族炭化水素と脂肪族炭化水素のいずれも用いることができる。脂肪族炭化水素は、飽和であっても不飽和であってもよい。
また、塩素系有機溶媒と併用される炭化水素の例には、シクロヘキサン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン及びキシレンが含まれる。
【0036】
以上のセルロースアシレートに用いられる主溶媒である塩素系有機溶媒と併用される特に好ましい非塩素系有機溶媒は、酢酸メチル、酢酸エチル、蟻酸メチル、蟻酸エチル、アセトン、ジオキソラン、ジオキサン、炭素原子数が4〜7のケトン類又はアセト酢酸エステル、炭素数が1〜10のアルコール又は炭化水素が挙げられる。好ましく併用される非塩素系有機溶媒の具体例は、酢酸メチル、アセトン、蟻酸メチル、蟻酸エチル、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、アセチル酢酸メチル、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、及びシクロヘキサノール、シクロヘキサン、ヘキサンを挙げることができる。
主溶媒である塩素系有機溶媒と非塩素系有機溶媒との極めて好ましい組合せとしては、以下の組み合わせを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
・ジクロロメタン/メタノール/エタノール/ブタノール(75/10/5/5/5、質量部)、
・ジクロロメタン/アセトン/メタノール/プロパノール(80/10/5/5、質量部)、
・ジクロロメタン/メタノール/ブタノール/シクロヘキサン(75/10/5/5/5、質量部)、
・ジクロロメタン/メチルエチルケトン/メタノール/ブタノール(80/10/5/5、質量部)、
・ジクロロメタン/アセトン/メチルエチルケトン/エタノール/イソプロパノール(75/10/10/5/7、質量部)、
・ジクロロメタン/シクロペンタノン/メタノール/イソプロパノール(80/10/5/8、質量部)、
・ジクロロメタン/酢酸メチル/ブタノール(80/10/10、質量部)、
【0038】
・ジクロロメタン/シクロヘキサノン/メタノール/ヘキサン(70/20/5/5、質量部)、
・ジクロロメタン/メチルエチルケトン/アセトン/メタノール/エタノール(50/20/20/5/5、質量部)、
・ジクロロメタン/1、3ジオキソラン/メタノール/エタノール(70/20/5/5、質量部)、
・ジクロロメタン/ジオキサン/アセトン/メタノール/エタノール(60/20/10/5/5、質量部)、
・ジクロロメタン/アセトン/シクロペンタノン/エタノール/イソブタノール/シクロヘキサン(65/10/10/5/5/5、質量部)、
・ジクロロメタン/メチルエチルケトン/アセトン/メタノール/エタノール(70/10/10/5/5、質量部)、
・ジクロロメタン/アセトン/酢酸エチル/エタノール/ブタノール/ヘキサン(65/10/10/5/5/5、質量部)、
・ジクロロメタン/アセト酢酸メチル/メタノール/エタノール(65/20/10/5、質量部)、
・ジクロロメタン/シクロペンタノン/エタノール/ブタノール(65/20/10/5、質量部)、
などをあげることができる。
【0039】
(2)添加剤
セルロースアシレート溶液には、各調製工程において用途に応じた種々の添加剤を加えることができる。それらの添加剤は、可塑剤、紫外線防止剤や劣化防止剤(例、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤、アミン)等が含まれる。
好ましく添加される可塑剤としては、既に述べたものを使用することができる。
劣化防止剤や紫外線防止剤については、特開昭60−235852号、特開平3−199201号、同5−1907073号、同5−194789号、同5−271471号、同6−107854号、同6−118233号、同6−148430号、同7−11056号、同7−11055号、同7−11056号、同8−29619号、同8−239509号及び特開2000−204173号の各公報に記載がある。劣化防止剤の好ましい例としては、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)を挙げることができる。
紫外線吸収剤は、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましく、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などであり、ベンゾトリアゾール系化合物やベンゾフェノン系化合物が特に好ましい。また、特開平7−11056号公報、特開平8−239509号公報、特開2002−79533号公報、特開平6−148430号公報、特開平10−237186号公報、特開平2001−72782号公報等に記載されているものも用いることができる。
これらの化合物の添加量は、セルロースアシレートに対して質量割合で1ppm〜1万ppmが好ましく、10〜1000ppmが更に好ましい。
【0040】
フィルムの面内のレターデーション(Re)は0〜300nmの範囲が好ましく、より好ましくは0〜100nm、更に好ましくは0〜30nmであるが、用途に応じて調整される。又、フィルムの厚さ方向のレターデーション(Rth)も重要であり、セルロースアシレートフイルムのRthは100μm当たり、0nm〜300nmであり、更には0nm〜90nmで用いられ、特には0nm〜50nmで用いられる。
また、製膜時のバンド、ドラムからの剥ぎ取り応力を小さくするために、剥離剤を添加することができる。剥離剤としては水溶液中での酸解離指数pKaが1.93〜4.50である少なくとも一種の酸、この酸のアルカリ金属塩及び前記酸のアルカリ土類金属塩から選択されたものが好ましく用いられる。
【0041】
(3)溶解
本発明のセルロースアシレート溶液は、有機溶媒に10〜30質量%溶解している溶液であることが好ましく、より好ましくは13〜27質量%であり、特には15〜25質量%溶解している溶液であることが好ましい。
本発明のセルロースアシレート溶液(ドープ)の調製については、その溶解方法は特に限定されず、室温でもよく更には冷却溶解法あるいは高温溶解方法、更にはこれらの組み合わせで実施される。これらに関しては、例えば特開平5−163301号、特開昭61−106628号、特開昭58−127737号、特開平9−95544号、特開平10−95854号、特開平10−45950号、特開2000−53784号、特開平11−322946号、更に特開平11−322947号、特開平2−276830号、特開2000−273239号、特開平11−71463号、特開平04−259511号、特開2000−273184号、特開平11−323017号、特開平11−302388号などの各公報にセルロースアシレート溶液の調製法が記載されている。
以上記載したこれらのセルロースアシレートの有機溶媒への溶解方法は、本発明においても、本発明の目的を達成するために、これらの技術を適宜選択して適用することができるものである。これらの詳細は、特に非塩素系溶媒系については発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて22頁〜25頁に詳細に記載されている方法で実施される。
さらに本発明のセルロースアシレートのドープ溶液は、溶液濃縮,ろ過が通常実施され、同様に発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて25頁に詳細に記載されている。なお、高温度で溶解する場合は、使用する有機溶媒の沸点以上の場合がほとんどであり、その場合は加圧状態で用いられる。
【0042】
本発明のセルロースアシレート溶液は、その溶液の粘度と動的貯蔵弾性率がある範囲であることが好ましい。溶液の粘度と動的貯蔵弾性率は、試料溶液1mLをレオメーター(CLS 500)に直径 4cm/2°のSteel Cone(共にTA Instrumennts社製)を用いて測定される。測定条件は、Oscillation Step/Temperature Rampで 40℃〜−10℃の範囲を2℃/分で可変して測定し、40℃の静的非ニュートン粘度 n*(Pa・s)及び−5℃の貯蔵弾性率 G’(Pa)を求める。なお、試料溶液は予め測定開始温度にて液温一定となるまで保温した後に測定を開始する。
本発明のセルロースアシレート溶液は、40℃での粘度が1〜300Pa・sの範囲にあり、かつ−5℃での動的貯蔵弾性率が1万〜100万Paにあることが好ましい。
【0043】
(4)流延製膜
上記したセルロースアシレート溶液を用いて、セルロースアシレートフィルムを製造する方法について述べる。本発明のセルロースアシレートフィルムを製造する方法及び設備は、従来セルローストリアセテートフィルム製造に供する溶液流延製膜方法及び溶液流延製膜装置が用いられる。溶解機(釜)から調製されたドープ(セルロースアシレート溶液)を貯蔵釜で一旦貯蔵し、ドープに含まれている泡を脱泡して最終調製をする。ドープをドープ排出口から、例えば回転数によって高精度に定量送液できる加圧型定量ギヤポンプを通してろ過フィルターを通過させた後、加圧型ダイに送り、ドープを加圧型ダイの口金(スリット)からエンドレスに走行している流延部の金属支持体(基材)の上に均一に流延する。この時、上述の条件で急乾し表面近傍の可塑剤濃度を高くするのが好ましい。
金属支持体がほぼ一周した剥離点で、生乾きのドープ膜(ウェブとも呼ぶ)を金属支持体(基材)から剥離する。これに引き続き残留溶剤が多い状態で上述のようにで高温で乾燥することで結晶化度を高くすることができる。この時、ウェブの両端をクリップで挟み、幅を保持しながらテンターで搬送して乾燥するのが好ましい。これは残留溶剤が多いと自己支持力が弱く両端を把持することが好ましいためである。続いて乾燥装置のロール群で搬送し乾燥を終了した後、上記条件に従い徐冷し巻き取るのが好ましい。厚みは20μm以上200μm以下が好ましく、より好ましくは25μm以上150μm以下、更に好ましくは30μm以上100μm以下である。
【0044】
さらにこの後、下引層、帯電防止層、ハレーション防止層、保護層等を塗設することも好ましい。これらの各製造工程については、発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて25頁〜30頁に詳細に記載されている。
このような流延工程では1種類のセルロースアシレート溶液を単層流延してもよいし、2種類以上のセルロースアシレート溶液を同時及び又は逐次共流延しても良い。2層以上からなる流延工程を有する場合は、作製されるセルロースアシレート溶液及びセルロースアシレートフィルムにおいて、各層の溶媒の組成、濃度は同一であっても異なっていても良い。好ましい層数は2〜10であり、より好ましくは3〜5である。これらの層の厚みは任意に選べるが、最内層の厚みに対し最外層の厚みが0.01倍から0.3倍以下が好ましく、より好ましくは0.05倍から0.15倍である。
【0045】
3.鹸化処理
偏光板を形成するPVAとの接着性を上げるために、上述の方法で表面を鹸化処理し、セルロースアシレートを加水分解し水酸基を生成させる。これに引き続き上述の方法で十分な水洗を行う。
このような鹸化処理は以下の方法で達成できる。
鹸化液はセルロースアシレートが加水分解するものであれば良く、これには酸あるいはアルカリの溶液が用いられる。より好ましくはアルカリ溶液であり、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等がより好ましく用いられる。溶媒は特に限定されず、水系、有機溶剤系いずれでも良い。より好ましいのが水系、アルコール系溶剤である。水系では、水の含率が50質量%以上のものを指し、水以外にアルコール等の水と相溶性の良い溶剤を溶解しても良い。アルコール系溶剤で好ましいのが、炭素数が1〜5のアルコールであり、より好ましくはメタノール、エタノール、プロパノールであり、更に好ましくはiso−プロパノールである。
鹸化塗布液のpHは10以上が好ましく、12以上が更に好ましい。水酸化イオンの規定濃度は0.1N〜3.0Nであることが好ましく、0.5N〜2.0Nが更に好ましい。
鹸化処理は鹸化液に浸漬しても良く、アルカリ液を塗布しても良い。本発明のように鹸化処理の深さを精密に制御するには、塗布法で行うことがより好ましい。塗布法の場合、均一に塗布できる(はじきの出ない)有機溶剤系の塗布液がより好ましく用いられ、浸漬法の場合水系の浸漬液がより好ましく用いられる。
【0046】
(イ)塗布鹸化
鹸化処理を塗布で行う場合はアルカリ鹸化液は、アルカリ(KOH、NaOH、アンモニア等)を水や有機溶剤に1N以上10N以下の濃度で溶解するのが好ましく、好ましい有機溶剤は炭素数が5以下のアルコール、ジオールである。水を用いる場合は、界面活性剤を添加したり、水溶性の有機溶剤を添加することでセルロースアシレートフィルム上でのはじきを抑制することが好ましい。好ましい鹸化液の温度は50〜80℃が好ましく、好ましい鹸化時間は5秒以上5分以下が好ましい。鹸化液の塗布量は1g/mから100g/mが好ましい。塗布方法としては、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、バーコーティング法、スプレー法及びE型塗布法を挙げることができる。
鹸化液塗布後、0.01N〜3.0Nの塩酸、硝酸、硫酸、酢酸、蟻酸、クロロ酢酸、シュウ酸などの酸性水溶液を塗布し中和しても良く、中和処理を行わず、水洗だけでもかまわない。即ち膜面pHが5〜9になるように十分洗浄すれば良い(膜面pHは平坦なガラスpH電極をフィルム面に接触させることで測定できる)。このような水洗は水を塗布しても良く、噴霧しても良い。この後、40℃〜200℃で乾燥する。
【0047】
(ロ)浸漬鹸化
セルロースアシレートフィルムをアルカリ溶液に浸漬する。鹸化液は、アルカリ(KOH、NaOH等)を水に溶かしたものが好ましく、アルカリの濃度は1N以上10N以下が好ましい。このようなアルカリ水溶液に、界面活性剤水溶性の有機溶剤を添加しても良い。アルカリ溶液の温度は40〜80℃が好ましく、浸漬時間は通常1分〜10分が好ましい。
このような鹸化処理の後、0.01N〜3.0Nの塩酸、硝酸、硫酸、酢酸、蟻酸、クロロ酢酸、シュウ酸などの酸性水溶液に浸漬し中和し更に水洗しても良く、中和処理を行わず、水洗だけでもかまわない。即ち膜面pHが5〜9になるように十分洗浄すれば良い。この後、40℃〜200℃で乾燥する。
【0048】
4.偏光板の作成
(1)偏光層のバインダー
偏光層はPVA中に分散した偏光色素を一方向に配向させることで調製される。PVAは通常、ポリ酢酸ビニルを鹸化したものであり、例えば不飽和カルボン酸、不飽和スルホン酸、オレフィン類、ビニルエーテル類のように酢酸ビニルと共重合可能な成分を含有しても構わない。また、アセトアセチル基、スルホン酸基、カルボキシル基、オキシアルキレン基等を含有する変性PVAも用いることができる。
PVAのケン化度は特に限定されないが、溶解性等の観点から80〜100mol%が好ましく、90〜100mol%が特に好ましい。またPVAの重合度は特に限定されないが、1000〜10000が好ましく、1500〜5000が特に好ましい。
【0049】
(2)染色
PVAをよう素で染色して偏光膜が得られる。即ち、ヨウ素−ヨウ化カリウム水溶液にPVAフィルムを浸漬させて行われる。ヨウ素は0.1〜20g/l、ヨウ化カリウムは1〜200g/l、ヨウ素とヨウ化カリウムの質量比は1〜200が好ましい。染色時間は10〜5000秒が好ましく、液温度は5〜60℃が好ましい。染色方法としては浸漬だけでなく、ヨウ素あるいは染料溶液の塗布あるいは噴霧等、任意の手段が可能である。染色工程は、後記する延伸工程の前後いずれに置いても良いが、適度に膜が膨潤され延伸が容易になることから、延伸工程前に液相で染色することが特に好ましい。
本発明の効果はよう素以外で染色した偏光膜においても同様に発現できる。これは本発明が染料の耐性を改良したものでなく、染料を固定しているPVA架橋剤である硼酸の改良を行っているためである。ヨウ素以外の好ましい染料の例としては、例えばアゾ系色素、スチルベン系色素、ピラゾロン系色素、トリフェニルメタン系色素、キノリン系色素、オキサジン系色素、チアジン系色素、アントラキノン系色素等の色素系化合物をあげることができる。
【0050】
(3)硬膜
延伸後のPVAの配向構造を固定するために、PVAを架橋することが好ましい。架橋剤としては、米国再発行特許第232897号明細書に記載のものが使用できるが、ホウ酸、ホウ砂が実用的に好ましく用いられる。また、亜鉛、コバルト、ジルコニウム、鉄、ニッケル、マンガン等の金属塩も併せて用いることができる。
このような硬膜は、ホウ砂、硼酸の水溶液に染料を含浸させたPVAを浸漬させることで達成できる。ホウ砂、硼酸の含率は0.1〜10モル/lが好ましく、より好ましくは0.2〜5モル/l、更に好ましくは0.2〜2モル/lである。好ましい液温度は10℃から40℃であり、より好ましくは15℃から35℃である。浸漬時間は10秒以上10分以下であり、より好ましくは20秒以上5分以下である。この硬膜液の中にはよう化ナトリウム、よう化カリウム等のよう化物塩を入れることも好ましい。この濃度は0.1〜10モル/lが好ましく、より好ましくは0.2〜5モル/l、更に好ましくは0.2〜2モル/lである。
このような硬膜は、延伸前、延伸中、延伸後どこで行っても良い。
【0051】
(4)延伸
染料等を含浸させたPVA膜を延伸し配向させる。延伸は、搬送方向に平行に実施しても良く、直行方向に実施しても良く、斜め方向に実施しても良い。なかでも好ましいのが平行方向(平行延伸法)と45度の斜め方向(斜め延伸法)である。これは、斜め延伸した偏光膜のほうが、より退色性に優れるためである。この理由は以下のように推定される。即ち平行延伸は主に2対のニップロールで延伸されるため、延伸中にネックインが発生し、幅が細くなる。一方斜め延伸はテンターで延伸するためネックインができない。この結果、幅方向に縮めない分、厚み方向に減少するため、面配向が進む。このように面配向した偏光層は配向構造が堅固であり、湿熱サーモでも配向が乱れ難く、サーモ耐性が高いものと推定される。
延伸後の偏光層の厚みは、いずれの延伸方法においても5μm以上50μm以下が好ましく、より好ましくは10μm以上40μm以下である。
【0052】
(i)平行延伸法
延伸に先立ち、PVAフィルムを膨潤させる。膨潤度は1.2〜2.0倍(膨潤前と膨潤後の質量比)である。
この後、ガイドロール等を介して連続搬送しつつ、水系媒体浴内や二色性物質溶解の染色浴内で、15〜50℃、就中17〜40℃の浴温で延伸する。延伸は2対のニップロールで把持し、後段のニップロールの搬送速度を前段のそれより大きくすることで達成できる。延伸倍率は、延伸後/初期状態の長さ比(以下同じ)に基づくが前記作用効果の点より好ましい延伸倍率は1.2〜3.5倍、就中1.5〜3.0倍である。
この後、50℃から90℃において乾燥させて偏光膜を得る。
【0053】
(ii)斜め延伸法
これには特開2002−86554号公報に記載の傾斜め方向に張り出したテンターを用い延伸する方法を用いることができる。
この延伸は空気中で延伸するため、事前に含水させて延伸しやすくすることが必用である。好ましい含水率は5%以上である。これには、延伸前に浸漬・塗布・噴霧する、延伸中に水等を塗布することなどが挙げられる。ポリビニルアルコールなどの親水性ポリマーフィルムは、高温高湿雰囲気下で水を含有するので、高湿雰囲気下で調湿後延伸、若しくは高湿条件下で延伸することにより揮発分を含有させることができる。これらの方法以外でも、ポリマーフィルムの含水率を5%以上にさせることができれば、いかなる手段を用いても良い。より好ましくは10%以上100%以下である。
延伸時の温度は40℃以上90℃以下が好ましく、より好ましくは50℃以上80℃以下である。湿度は50%RH以上100%RH以下が好ましく、より好ましくは70%RH以上100%RH以下、更に好ましくは80%RH以上100%RH以下である。
また、長手方向の進行速度は、1m/分以上が好ましく、より好ましくは3m/分以上である。
延伸の終了後、50℃以上100℃以下より好ましくは60℃以上90℃以下で、0.5分以上10分以下、より好ましくは1分以上5分以下で乾燥する。
このようにして得られた偏光膜は、搬送方向に実質的に45度であることが好ましく、実質的に45度とは45±5度であることを指す。
【0054】
(5)貼り合わせ
上記鹸化後のセルロースアシレートフィルムと、延伸して調製した偏光層を貼り合わせて、偏光板を調製する。張り合わせる方向は、セルロースアシレートフィルムの流延軸方向と偏光板の延伸軸方向が45度になるように行うのが好ましい。
貼り合わせの接着剤は特に限定されないが、PVA系樹脂(アセトアセチル基、スルホン酸基、カルボキシル基、オキシアルキレン基等の変性PVAを含む)やホウ素化合物水溶液等が挙げられ、中でもPVA系樹脂が好ましい。接着剤層厚みは乾燥後に0.01乃至10μmが好ましく、0.05乃至5μmが特に好ましい。
【0055】
5.偏光板の応用
(1)円偏光板
このようにして得た偏光板とλ/4板とを積層し、円偏光を作成することができる。この場合λ/4板の遅相軸と偏光板の吸収軸を45度になるように積層する。この時、λ/4板は特に限定されないが、より好ましくは低波長ほどレターデーションが小さくなるような波長依存性を有するものがより好ましい。更には長手方向に対し20度〜70度傾いた吸収軸を有する偏光膜、及び液晶性化合物からなる光学異方性層から成るλ/4板を用いることが好ましい。
(2)液晶表示素子
反射型液晶表示装置に用いる場合は、下から順に、下基板、反射電極、下配向膜、液晶層、上配向膜、透明電極、上基板、λ/4板、そして偏光板からなり、この中の偏光板に本発明のものを使用できる。カラー表示の場合には、更にカラーフィルター層を反射電極と下配向膜との間、又は上配向膜と透明電極との間に設けることが好ましい。
透過型液晶表示装置に用いる場合は、下から順に、バックライト、偏光板、λ/4板、下透明電極、下配向膜、液晶層、上配向膜、上透明電極、上基板、λ/4板、そして偏光膜からなる。この中の偏光板に本発明のものを使用できる。カラー表示の場合には、更にカラーフィルター層を下透明電極と下配向膜との間、又は上配向膜と透明電極との間に設けることが好ましい。
液晶セルは特に限定されないが、より好ましくはTN(twisted Nematic )型、STN(Supper Twisted Nematic)型又はHAN(Hybrid Aligned Nematic)型、VA(Verticaly Allignment)型、ECB型(Electricaly Controlled Birefrigence) 、OCB型(Optically Compensatory Bend)、CPA型(Continious Pinwheel Alignment)であることが好ましい。
【0056】
以下に本発明で用いた測定法を記載する。
(1)硼酸の拡散係数
偏光板を4cm×6cmに切り取り、片面に粘着剤張りつけたガラス板に貼り付ける。この反対面に4cm×6cmに裁断した厚み75μmのPVAフィルム(クラレ(株)製ビニロンフィルム VF−PS #7500)を置き、この上にプラスチックネットを置いた後、ガラス板、偏光板、PVAフィルム、プラスチックネットをまとめてクリップで挟む(これによりPVA膜と偏光板とをしっかり密着できる上、偏光板への湿度が十分に拡散できる)。
これを60℃95%RHの恒温槽に入れ200時間経時する。この後、PVAフィルムを取り出し、下記方法で、この中の硼酸を定量する。
・PVAフィルムの中央部2cmを切り出し硝酸2ml加えマルチウエーブ灰化する(マイクロ波による湿式灰化)。
・これを純水で100mlにメスアップする。
・これを更に100倍希釈したものを6本作成する。これに各々0、1、3、5、10、20ppmとなるように硼酸を添加する(標準添加法)。
・これらをICP−MS(横河アナリティカル社製 HP−4500型)を用い、硼素量を測定することで硼酸量を求める。
・横軸に添加量、縦軸にICP−MSの強度をとり、これをプロットし最小2乗法で求めた直線と横軸の切片からサンプル中の濃度を求める。これをA(ppm)とする。
・これから、下記式に従い、硼酸の拡散係数(mmol/m・日・μm)を求める。
硼酸の拡散係数(mmol/m・日・μm)=1000×{(A×10−6×100)/61.8}×5000/{2×(200/24)}×(1/T)
【0057】
(2)偏光層中の硼酸の含有量
(i)湿式灰化
偏光板をガラス板に貼り付け、2cmを露出させ、それ以外をマイラー粘着テープでマスクする。これにクロロホルムを滴下し、保護フィルム(セルロースアシレートフィルム)を膨潤させ、これをこすり落とす。この後、偏光層をこすり落とし、これに硝酸2ml加えマルチウエーブ灰化する(マイクロ波による灰化)。これを純水で100mlにメスアップした後、更に100倍希釈したものを作成する。
(ii)ICP−MS測定
ICP−MS(横河アナリティカル社製 HP−4500型)を用い、上記の方法と同様にして硼素量を定量することで硼酸量を求める。
(3)透湿係数
サンプルフィルムをJIS Z 0208に準じて測定する。但し、60℃95%RHに調整した恒温恒湿槽に24時間調湿後、質量変化を求め、これから透湿係数を求めた。
但し、サーモ経時後の透湿係数は、セルロースアシレートフィルムの保護フィルム単体で(偏光板に組み上げず)60℃95%RHで1000時間経時したものを用いた。
(4)セルロースアシレートの置換度
セルロースアシレートの2位、3位及び6位のアシル置換度は、Carbohydr.Res.273(1995)83−91(手塚他)に記載の方法で13C−NMRにより求めた。
(5)セルロースアシレートの重合度(DP)
・絶乾したセルロースアシレート約0.2gを精秤し、メチレンクロリド:エタノール=9:1(質量比)の混合溶剤100mlに溶解した。これをオストワルド粘度計にて25℃で落下秒数を測定し、重合度(DP)を下記数式により求めた。
数式:DP=[η]/6×10−4
ここで、[η]=(1nηrel)/Cであり、Cは測定濃度(g/L)である。
また、上記ηrelは、T/T0で算出される値であり、Tは測定試料の落下秒数であり、そしてT0は溶剤単独の落下秒数である。
【実施例】
【0058】
以下に実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、以下において、本発明−7及び本発明−11は「参考例」と読み替えるものとする。
1.セルロースアシレートフィルムの製膜
(1)セルロースアシレート
表1に記載した置換したアシル基、重合度の異なるセルロースアシレートを調製した。これは、触媒として硫酸(セルロース100質量部に対し7.8質量部)を添加し、アシル置換基の原料となるカルボン酸を添加し40℃でアシル化反応を行った。この時、カルボン酸の種類、量を調整することで、表1記載のアシル基の種類、置換度を調整した。またアシル化後の40℃で熟成を行った。
さらにこのセルロースアシレートの低分子量成分をアセトンで洗浄し除去することで平均度重合度の異なるサンプルを調整した。
【0059】
(2)セルロースアシレートの溶解
セルロースアシレートのフレークを下記の溶剤から選択した溶剤(表2に記載)に23質量%となるように投入し、撹拌した。
・非塩素系:酢酸メチル/アセトン/メタノール/エタノール/ブタノール(75/10/5/5/5、質量部)
・塩素系:ジクロロメタン/メタノール/エタノール/ブタノール(75/10/5/5/5、質量部)
これに表2記載の可塑剤を添加した。更に特開平7−11056号公報に実施例1に記載の紫外線吸収剤(UV−9)をドープ全量の2質量%添加した。このようにして得た不均一なゲル状溶液を−75℃で3分間混練した。これを50℃で2時間攪拌し均一溶液とした後、室温まで戻し、10μmの濾紙(東洋濾紙(株)製、#63)でろ過し、更に2.5μmの濾紙(ポール社製、FH025)にて濾過し、セルロースアシレートドープを得た。
なお、表2で可塑剤の略号は以下の通りである。
TPP:トリフェニルフォスフェート
BDP:ビフェニルジフェニルホスフェート、
DOP:ジオクチルフタレート
OACTB:O−アセチルクエン酸トリブチル
【0060】
(3)セルローストリアセテートフィルムの製膜
上述のろ過済みの50℃のセルローストリアセテートドープを、流延ギーサーを通して直径3mのドラムである鏡面ステンレス基材上に流延した。基材の温度、吹き込み風を調整することで溶剤の揮発速度を表2記載の値とした。なお、揮発速度は、以下の方法で求めた。
・流延前のドープ及び基材から剥ぎ取った直後のフィルムをサンプリングし、この中に含まれる溶剤量をガスクロマトグラフィーで定量し、これを各々X、Y質量%とする。
・ドープが基材に流延されてから剥ぎ取られるまでの時間をt分とする。
・(X−Y)/tで揮発速度(質量%/分)を求めた。
使用したギーサーは、特開平11−314233号公報に記載の形態に類似するものを用いた。製膜幅は200cmとした。
剥ぎ取った後、このセルロースアシレートフィルムの両端をピンテンターでクリップした。しかる後にピンテンターで保持されたセルロースアシレートフィルムを乾燥ゾーンに搬送した。ここでの吹き込み風温度、及び剥ぎ取り時の揮発分量を表2に示されるように変えることで結晶性の異なるフィルムを作成した。
結晶性は、この後の乾燥ゾーンを全て通過させた後のセルロースアシレートフィルムをX線回折(XD)測定することで、下記のように求め、表2に示した。・CuのKα線を用い測定、2θ=17度に現れる結晶ピークの面積を、2θ=8度に現れるハローピークの面積で割った値を結晶化度とした。
このセルロースアシレートフィルムを更に145℃で10分乾燥した後、表2に記載の条件でTgからTg−30℃の間を冷却した。このようにして表2記載の厚みのセルローストリアセテートフィルムを得た。得られた試料は、両端を3cm裁断し更に端から2〜10mmの部分に高さ100μmのナーリングを実施し、2000mロール状に巻き取った。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
(4)セルロースアシレートフィルムの鹸化
下記のいずれかの方法で鹸化を行い、表3に記載した。
(i)塗布鹸化
・iso−プロパノール80質量部に水20質量部を加え、これにKOHを1.5規定となるように溶解し、これを60℃に調温したものを鹸化液として用いた。
・これを60℃のセルロースアシレートフィルム上に10g/m塗布し、1分間鹸化した。
・この後、50℃の温水をスプレーを用い、10L/m・分で1分間吹きかけ洗浄した。
(ii)浸漬鹸化
・NaOHの1.5規定水溶液を鹸化液として用いた。
・これを60℃に調温し、セルロースアシレートフィルムを2分間浸漬した。
・この後、0.1Nの硫酸水溶液に30秒浸漬した後、水洗浴を通した。
【0064】
2.偏光板の作成
(1)偏光層の作成
下記方法のいずれか(表2に記載)厚み20μmの偏光層を調製した。
(i)斜め延伸法
PVAフィルム(クラレ製9X75SR)を下記組成の染色液に25℃にて90秒浸漬した。
<染色液>
ヨウ素 1.0質量部
ヨウ化カリウム 60.0質量部
水 1000質量部
これに下記組成の硬膜液のいずれか(表3に記載)に25℃で120秒浸漬し、硼酸の初期含有率の異なるPVAフィルムを作成した。
<硬膜液−1>
ホウ酸 40質量部
ヨウ化カリウム 30質量部
水 1000質量部
<硬膜液−2>
ホウ酸 80質量部
ヨウ化カリウム 60質量部
水 1000質量部
<硬膜液−3>
ホウ酸 120質量部
ヨウ化カリウム 90質量部
水 1000質量部
この後、特開平2002−86554号公報の実施例1に従い、テンターを用い延伸軸が斜め45度となるように延伸した。なお、延伸は60℃95%RHにおいて7倍に延伸した後、5.3倍まで収縮させた。この後、70℃で2分間乾燥させた。
【0065】
(ii)平行延伸法
特開平2001−141926号公報の実施例1に準じ、PVAフィルム(クラレ製9X75SR)を上記染色液に30℃で浸漬しながら、2対のニップロール間に周速差を与え、長手方向に3倍に延伸した。
これを更に上記硬膜液に浸漬し60℃で、6.5倍(未延伸フィルムに対する倍率)に2対のニップロールを用い延伸した。これを50℃で5分間乾燥させた。
【0066】
(2)貼り合わせ
このようにして得た偏光板と、上記鹸化処理したセルロースアシレートフィルムを、PVA((株)クラレ製PVA−117H)3%水溶液を接着剤として貼り合わせ、更に60℃で30分間加熱して偏光板を作成した。なお、貼り合わせは、偏光軸とセルロースアシレートフィルムの長手方向が45度となるように張り合わせた。
【0067】
3.偏光板の評価
上記偏光板を粘着剤を用いてガラス板の両面に偏光軸が直行するように貼り付けた。これを、60℃95%RH、70℃95%RHの2条件で1000時間サーモ経時させた。これの全光透過率(直交透過率)を測定し、偏光能を評価した。併せて偏光板1枚をガラスの片面に貼ったものを作成し、この400nm、500nmの吸光度を測定しこの差を求めることで黄色みを評価した。また、サーモ前の偏光特性についても評価した。これらの結果を表3に記載した。
さらに、湿熱サーモ前後で硼酸の拡散係数を求め、湿熱サーモ前の拡散係数及びのこの変化率(両者の差を湿熱サーモ前の値で割り%表示したもの)を上記手法に従い求めた。さらに上記の方法に従いサーモ経時後の偏光層中の硼酸量を求めた。さらに、サーモ前後の保護フィルムのセルロースアシレートフィルムの透湿係数を測定し、湿熱サーモ前の透湿係数及びこの変化率(両者の差を湿熱サーモ前の値で割り%表示したもの)を上記手法に従い求めた。これらの値を表3に記載した。
【0068】
【表3】

【0069】
表3から、以下のことが明らかである。
本発明−1〜20の、硼酸の拡散係数が本発明の範囲にある保護フィルム(セルロースアシレートフィルム)を用いた偏光板は、過酷な湿熱雰囲気下に長時間(60℃95%RH及び70℃95%RHで1000時間)曝しても、良好な偏光特性(偏光度、黄色み)が維持される。一方、比較例1や比較例−2の場合、硼酸の拡散係数が本発明の範囲より大きく良好な偏光特性が維持されない。
このように、本発明の偏光板は、堅牢な耐久性を達成し、60℃95%RHでの1000時間サーモ処理は言うに及ばず、更に条件の厳しい70℃95%RHサーモ条件でも良好な結果を得た。併せて黄色みの発生しない良好な偏光板を達成した。
【0070】
4.偏光板の表示素子への応用
本発明の偏光板を、特開平10−48420号公報の実施例1に記載の液晶表示装置、特開平9−26572号公報の実施例1に記載のディスコティック液晶分子を含む光学的異方性層、ポリビニルアルコールを塗布した配向膜、特開2000−154261号公報の図2〜9に記載のVA型液晶表示装置、特開2000−154261号公報の図10〜15に記載のOCB型液晶表示装置に用いたところ良好な性能が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコピラノース環の2,3,6位の少なくともいずれかの水酸基がアシレート基で置換されたセルロースアシレートであって、6位の水酸基のアシル基による置換度(S6)が0.87以上0.97以下であるセルロースアシレートと、可塑剤を35質量%以下含むポリマー溶液を基材上に流延してウェブを形成する流延工程と、
前記流延工程によって形成されたウェブを基材から剥離した後、残留溶媒が5質量%以上30質量%以下の領域で160℃以上200℃以下の熱処理を1分以上120分以下行う熱処理工程と、を含む、セルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法により製造されるセルロースアシレートフィルム。
【請求項3】
請求項2に記載のセルロースアシレートフィルを偏光板用保護フィルムとして用いた偏光板。

【公開番号】特開2010−42676(P2010−42676A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210614(P2009−210614)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【分割の表示】特願2003−73963(P2003−73963)の分割
【原出願日】平成15年3月18日(2003.3.18)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】