説明

セルロースアシレートフィルムの製造方法

【課題】支持体の表面における汚れの付着を防止する。
【解決手段】セルロースアシレートと溶媒とを含むドープ70を調製する。セルロースアシレートは木材を原料とし、セルロースアシレートに含まれる化合物若しくは結合カルボン酸基のセルロースアシレートに対するモル当量が3以上15以下の範囲内として、Ca成分の質量濃度が0ppm以上5ppm以下、Mg成分の質量濃度が20ppm以上60ppm以下である。表面を冷却したエンドレス走行の流延ドラム34上にドープ70を流延してゲル状の流延膜40を形成後、流延ドラム34から流延膜40を剥取し乾燥してフィルム51とする。ドラム洗浄機44から流延ドラム34の表面にレーザー光を照射する。流延ドラム44上の有機物が分解除去される。以上より、汚れとなり得る脂肪酸Ca等の生成が抑制されるため流延ドラム34上での汚れの付着を防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースアシレートフィルムの製造方法であって、特に、液晶表示装置等の光学製品に用いられるセルロースアシレートフィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セルロースアシレートフィルムは、透明度が高く、強靭性や光学等方性に優れる等の特徴から、例えば、液晶表示装置における偏光板の保護フィルムや光学補償フィルム、視野角拡大フィルムとして利用されている。一般的に、セルロースアシレートフィルムは溶液製膜方法で作られている。溶液製膜方法とは、エンドレスで走行させた支持体の上に、セルロースアシレート及び溶媒を含むドープを流延して流延膜を形成した後、この流延膜を支持体から剥ぎ取り、乾燥してフィルムとする方法であり、製膜方法として知られる溶融製膜方法と対比して、熱ダメージを与えることなく製膜できることから透明度の高いフィルムが得られる等の特徴がある。
【0003】
ところで、溶液製膜方法では、製膜を続けていると支持体の表面に汚れが生じ、剥取性が低下するという問題を抱える。汚れが発生した箇所では、支持体から流延膜を円滑に剥ぎ取ることが難しくなり、最悪の場合には剥ぎ取り不能となって製膜を一時中断しなければならないためである。汚れが付着した支持体を使い続けると、上記の問題に加えて、流延膜の表面に有機物が転写し、完成したフィルムの光学ムラを引き起こす。そこで、製膜現場では、定期的に溶剤を染み込ませた不織布等で支持体の表面を拭き取ることによりその表面を清潔に保つ等の対策を講じている。しかしながら、この方法では、製膜速度を落としたり、一旦製造ラインを停止させる必要があるため生産性が低下するほか、支持体の表面を傷付けることが懸念されるため改善が求められている。
【0004】
そこで、支持体の表面における汚れの付着を防止するための様々な方法が検討されている。例えば、特許文献1には、汚れの主成分がセルロースアシレート中のCaやMg成分を含む塩であるとし、CaやMg成分の含有率を低くしたセルロースアシレートを使用することにより汚れの生成を抑制する方法が提案されている。また、特許文献2では、汚れが、セルロースアシレート等に起因する脂肪酸、脂肪酸金属塩等の特定成分とCa、Mg成分との結合により生成するものであることを見出し、当該特定成分とCa、Mg成分の濃度を低くしたセルロースアシレートを使用する方法が提案されている。
【特許文献1】特開2006−095971号公報
【特許文献2】特開2006−199029号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1、2のようにセルロースアシレート中のCa、Mg成分等を少なくするだけでは汚れの付着を防止することが難しく問題となっている。また、現在、溶液製膜方法に対しては、液晶表示装置等の発展に伴って従来よりも製膜速度の高速化が望まれているが、特許文献1では、製膜速度を高速化するための効果的な方法は提案されていない。一方、特許文献2では、ドラム流延方式を採用することにより高速化を実現する方法が提案されている。ドラム流延方式とは、支持体として表面が冷却されたドラムを使用し、ドラム上でドープを冷却することによりゲル状の流延膜を形成する。この方法では、短時間のうちに自己支持性を持つ流延膜が形成できるので、製造時間の短縮による高速化が実現可能となる。ただし、ドラム流延方式では製造時間の経過に伴ってドラム表面に汚れが付着するという問題を抱えており、改善が望まれている。
【0006】
そこで、本発明は、支持体の表面における汚れの付着を防止しながら製膜速度を高速化してセルロースアシレートフィルムを製造することができる方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法は、エンドレス走行の支持体の上に、流延ダイからセルロースアシレートと溶媒とを含むドープを流延して流延膜を形成した後、支持体から流延膜を剥ぎ取り、乾燥してフィルムとするセルロースアシレートフィルムの製造方法において、セルロースアシレートは、木材から得られるセルロースのエステル化反応により生成するものであって、セルロースアシレートに含まれる化合物若しくは結合カルボン酸基のセルロースアシレートに対するモル当量を3以上15以下の範囲内として、セルロースアシレート中のCa成分の質量濃度が0ppm以上5ppm以下で、Mg成分の質量濃度が20ppm以上60ppm以下であり、支持体の表面にレーザーを照射して流延膜から生じて支持体の表面に付着した有機物を除去することを特徴とする。
【0008】
また、木材が針葉樹であることが好ましい。そして、支持体の表面温度が−20℃以上0℃以下の範囲内で略一定に冷却されていることが好ましい。
【0009】
レーザーを、流延膜が剥ぎ取られた後でドープが流延される前の支持体の表面に照射することが好ましい。この他にも、乾燥後のフィルムの膜厚が20μm以上70μm以下であることが好ましい。なお、支持体は周面を持つ流延ドラムであり、その回転速度が60m/分以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、支持体の表面に対して汚れを付着させずにフィルムを製造することができる。このため、支持体の表面を傷付けることなく製膜速度を高速化してフィルムを製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の実施態様について詳細に説明する。ただし、ここに示す形態は本発明に係わる一例であって、本発明を限定するものではない。
【0012】
〔セルロースアシレート〕
本発明では、ドープの原料として木材を原料とするセルロースアシレートを用いる。木材には、その樹種の違いにより広葉樹及び針葉樹からなるものが存在するが、支持体の表面における汚れの付着を防止するためには針葉樹からなるものが好適である。針葉樹が広葉樹と対比して汚れ防止に効果的である理由の解明は十分ではないものの、理由の1つとして、針葉樹から得られるセルロースは、例えば、NMRやFT−IR法等による成分分析から、広葉樹を原料とするセルロースと対比して脂肪酸エステル類の含有量が少ないため汚れとなり得る有機物の生成が少ないことが推察される。また、針葉樹は広葉樹と対比して繊維の形状やセルロースの組成が異なること等も起因すると考えられる。なお、原料となる木材の種類は、被対象とするセルロースアシレートをサンプルとし、これを構成する糖分析を行うことで推定することができる。
【0013】
また、セルロースアシレートとしては、セルロースアシレートに含まれる化合物若しくは結合カルボン酸基のセルロースアシレートに対するモル当量が3以上15以下の範囲内で、セルロースアシレート中のCa成分の質量濃度が0ppm以上5ppm以下であって、Mg成分の質量濃度が20ppm以上60ppm以下である。なお、セルロースアシレート中に化合物若しくは結合した状態で含まれているカルボン酸基を合わせたものを意味する。このように本発明は、セルロースアシレートに対するカルボン酸基のモル当量を規定すると同時に、Ca成分の質量濃度を低くし、かつセルロースアシレート中のMg成分の質量濃度をCa成分よりも多くする。これによりカルボン酸基とCaとの結合がMgにより阻害され、汚れとなり得る脂肪酸Ca等の生成が抑制されるため、支持体の表面に対する汚れの付着が効果的に防止される。ここで、セルロースアシレートにおける各成分の上限値が超えた場合、Mg成分によりCa成分と脂肪酸等との結合を抑制することが難しくなり汚れの付着を防止することができない。一方で、下限値を見た場合、Ca成分は少ない程好ましいが、Mg成分は、脂肪酸とCa成分との結合を阻害する効果が得がたい。このため、Mg成分は所定の範囲の中で上限値に近づけるほど好ましい等、各成分は所定範囲内で適宜バランスを取りながら調節することが好ましい。
【0014】
なお、結合カルボン酸基とは、セルロースアシレートに結合しているカルボキシル(carboxyl)基である。また、セルロースアシレートに含まれる化合物若しくは結合カルボン酸基のセルロースアシレートに対するモル当量が3以上15以下の範囲とは、セルロースアシレート1kg中に含まれる化合物もしくはカルボキシル基の物質量が3mmol以上15mmol以下である範囲に等しい。
【0015】
本発明におけるカルボン酸基は、カルボン酸基の測定方法としてASTM D−1926に規定されている炭酸水素ナトリウム−塩化ナトリウム法に準じて測定することができる。また、本発明におけるCaやMg成分は、被対象となるセルロースアシレートをサンプルとして、イオンクロマトグラフィー、原子吸光スペクトル、ICP、ICP−MS等の分析方法により定量した値とする。
【0016】
セルロースアシレートに含まれている被対象成分を所定範囲まで少なくためには、主に2つの方法が挙げられる。(1)セルロースアシレートの生成条件を調節する。(2)セルロースアシレートの洗浄を十分に行う。
【0017】
(1)の場合、セルロースアシレートを生成する方法は特に限定されず、硫酸法をはじめとする公知のものを利用することができる。この中で、エステル化に使用するアシル化剤やアシル化反応により得られる生成物を中和するための中和剤の種類や添加量等を好適に調節することが好ましい。通常、アシル化剤及び中和剤は、カルボン酸系の化合物が用いられる。アシル化剤としては、カルボン酸の酸無水物が一般的であり、中でも無水酢酸が主流とされる。一方、中和剤は、例えば、Ca、Mg、Fe、Al、Zn等の炭酸塩、酢酸塩、水酸化物、酸化物やその溶液が使用される。この溶液は、所望とする金属を溶媒と混合したものである。溶媒としては、例えば、水、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等)、カルボン酸(例えば、酢酸、プロピオン酸等)、ケトン(例えば、アセトン、エチルメチルケトン等)等が挙げられる。したがって、例えば、アシル化剤を無水酢酸として適宜量を調節しながらエステル化した後、中和時において、Ca成分を含む塩よりも多くMg(CHCOO)を使用してCaをMgで置き換えれば、所望とするセルロースアシレートが得られる。
【0018】
また、通常、工業用途のセルロースアシレートには、耐熱安定性の向上を目的として耐熱安定剤が入れられている。耐熱安定剤としては、例えば、アルカリ金属(Li、K、Na等)、アルカリ土類金属(Ca、Mg、Ba等)、又はこれらの塩やその化合物が挙げられる。したがって、耐熱安定剤としてMg成分を含む塩等をCa成分に対して多く含ませれば、本発明で好適なセルロースアシレートを得ることができる。
【0019】
(2)の場合、ドープを調製する前に、セルロースアシレートを溶媒に溶かして液化物を調製した後、これを濾過手段により濾過する作業を少なくとも1回以上行う方法や、支持体上に流延する前のドープを濾過手段により少なくとも1回以上濾過する方法が好適である。液化物を調製する溶媒は、ドープとの相溶性の観点からドープに使用する溶媒と同一であるものが好ましい。ドープに使用される溶媒は、後で詳細に説明する。
【0020】
また、セルロースアシレートにおける硫酸の質量濃度が0.005ppm以上0.020ppm以下であるものが好ましい。セルロースアシレートにおける硫酸の質量濃度を少なくするほど、フィルムの耐熱性を向上させることができる。また、セルロースアシレート中に硫酸が含まれていると、遊離したスルホン酸基とセルロースアシレート中の金属イオン(例えば、Ca2+)等とが結合することによりゲル状の不純物が生成するが、この不純物は、剥取性を低下させる原因物質の1つとなり得る。このため、上記の様に硫酸の質量濃度を抑えれば当該不純物の生成を抑制することができるので剥取性の低下を防ぐことができる。上記の硫酸は、硫酸塩、スルホン酸塩、セルロースアシレートに結合したスルホン酸基等を含む。
【0021】
硫酸によってゲル状の不純物が発生する機構の解明は十分ではないものの、例えば、以下のように推察される。ドープの調製には極性溶媒が用いられるためこの極性溶媒によって硫酸は電離しSO2−やHSOを生じさせる。そして、ドープ中において、これらのイオンがエネルギー的に不安定なセルロースアシレートの官能基と結合することにより複合体を形成する。そして、製膜中、この複合体がドープにかかるせん断応力や温度等によりゲル状に変性する。せん断応力は、ドープを配管内に送液したり、濾過装置に通過させたりする際に生じる可能性がある。
【0022】
セルロースアシレートに含まれる硫酸の質量濃度は、以下の方法で求めることができる。まず、サンプルとなるセルロースアシレートを酸素雰囲気下で燃焼させて硫黄ガスを発生させる。ここで、硫黄ガスをトラップし、この硫黄を過酸化水素水で酸化して酸を生成させる。そして、この硫酸を水酸化ナトリウムで中和滴定することにより硫黄の量を求め、この値とサンプリングした質量とから求めた値である。したがって、サンプリング質量をX2、硫黄の質量をY2とするとき、本発明における硫酸濃度は、{(98/32)×Y2/X2}×100で求められる値とする。
【0023】
セルロースアシレートにおける硫酸の質量濃度を減らすには、その生成工程中の諸条件を好適に調節することが有効である。例えば、(1)触媒として使用する硫酸の量を減らす、(2)セルロースをアシル化させた後、加水分解させることによりセルロースアシレートに結合したいわゆる結合硫酸を切り離す、(3)アシル化した後のセルロースエステルを水により洗浄し、更に、ここでの洗浄時間を従来よりも長くする、等が挙げられるが、ここに列挙した方法に限定されるものではない。
【0024】
また、セルロースアシレートは、セルロースの水酸基へのアシル基の置換度が下記式(1)〜(3)の全てを満足するものがより好ましい。式(1)〜(3)において、AおよびBは、セルロースの水酸基中の水素原子に対するアシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、Bは炭素原子数が3〜22のアシル基の置換度である。なお、セルロースアシレートの90重量%以上が、0.1〜4mmの粒子であることが好ましい。
(1) 2.5≦A+B≦3.0
(2) 0≦A≦3.0
(3) 0≦B≦2.9
【0025】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位および6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化の場合を置換度1とする)を意味する。
【0026】
全アシル化置換度、すなわち、DS2+DS3+DS6の値は、2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)の値は、0.28以上が好ましく、より好ましくは0.30以上であり、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2は、グルコース単位における2位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、2位のアシル置換度と称する)であり、DS3は、グルコース単位における3位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、3位のアシル置換度と称する)であり、DS6は、グルコース単位において、6位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、6位のアシル置換度と称する)である。
【0027】
ただし、本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでも良いし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていても良い。2種類以上のアシル基を用いるときには、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位および6位の水酸基がアセチル基により置換されている度合いの総和をDSAとし、2位,3位および6位の水酸基がアセチル基以外のアシル基によって置換されている度合いの総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、2.22〜2.90であることが好ましく、特に好ましくは2.40〜2.88である。
【0028】
また、DSBは0.30以上であることが好ましく、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBは、その20%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましく、より好ましくは25%以上であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上であることが好ましい。さらに、セルロースアシレートの6位におけるDSA+DSBの値が0.75以上であり、さらに好ましくは、0.80以上であり、特には0.85以上であるセルロースアシレートも好ましく、これらのセルロースアシレートを用いることで、溶解度が高いドープを得ることができる。
【0029】
セルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でも良く、特に限定はされない。例えば、セルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステル、芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステル等が挙げられ、それぞれ、さらに置換された基を有していても良い。これらの好ましい例としては、プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基等が挙げられる。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基等がより好ましく、特に好ましくは、プロピオニル基、ブタノイル基である。
【0030】
ドープの原料として好適な溶媒は、セルロースアシレートを溶解できるものが好ましい。具体的には、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエン等)、ハロゲン化炭化水素(例えば、塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン等)、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、ジエチレングリコール等)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトン等)、エステル(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル等)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブ等)等が挙げられる。上記のハロゲン化炭化水素においては、炭素原子数1〜7のものが好ましい。なお、本発明においてドープとは、ポリマーを溶媒に溶解または分散させることで得られるポリマー溶液または分散液を意味している。
【0031】
中でも、溶媒としては、疎水性のものが好ましい。特に、ポリマーに対する溶解度や、ドープ中に添加剤として微粒子を用いる場合、この分散性に優れる等の観点から塩化メチレンが好ましい。また、セルロースアシレートの溶解度、流延膜と支持体との剥取性、フィルムの機械強度、光学特性等の観点からは塩化メチレンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種、ないしは数種類を混合することが好ましい。アルコールの含有量は溶媒全体に対して2〜25重量%が好ましく、5〜20重量%がより好ましい。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等が挙げられ、中でも、メタノール、エタノール、n−ブタノール、或いはこれらの混合物が好適である。
【0032】
最近、環境に対する影響を最小限に抑えるため、塩化メチレンを使用しない溶媒組成も提案されている。この目的に対しては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステルが好ましく、これらを適宜混合して用いる。これらのエーテル、ケトン、及びエステルは環状構造を有するものでも良いし、エーテル、ケトン、及びエステルの官能基(すなわち、−O−、−CO−、及び−COO−)のいずれかを2つ以上有するものでも良い。また、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していても良い。なお、2種類以上の官能基を有する場合、その炭素原子数がいずれかの官能基を有する場合の規定範囲内であれば良く、特に限定はされない。
【0033】
〔添加剤〕
ドープには用途に応じて添加剤を加えても良い。添加剤としては、例えば、可塑剤、劣化防止剤、紫外線吸収剤、光学異方性コントロール剤、レタデーション制御剤、染料、微粒子等のマット剤、剥離剤、剥離促進剤等が挙げられる。これら添加剤は、特に限定されず、各種添加剤として公知であるものを使用すれば良い。
【0034】
ドープには、フィルム同士の接着を防ぐこと等を目的として微粒子を添加することが好ましい。微粒子としては、二酸化ケイ素誘導体が好適である。本発明における二酸化ケイ素誘導体とは、二酸化ケイ素や三次元の網状構造を有するシリコーン樹脂も含まれる。また、その表面にはアルキル化処理の施されているものが好ましい。アルキル化処理のような疎水化処理が施された微粒子を用いると溶媒に対する分散性が向上する。
【0035】
微粒子の表面にアルキル化処理が施されている場合、微粒子の表面に導入されるアルキル基は、炭素数が1〜20であることが好ましい。より好ましくは、導入されるアルキル基の炭素数が、1〜12であり、特に好ましくは、炭素数が1〜8である。このようなアルキル基が導入された微粒子は、微粒子同士の凝集が抑制されると共に分散性が向上する。表面に炭素数が1〜20のアルキル基を有する微粒子としては、例えば、二酸化ケイ素の微粒子をオクチルシランで処理したものが挙げられる。なお、表面にオクチル基を有する二酸化ケイ素誘導体の一例としては、アエロジルR805(日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、本発明において好適に使用できる。
【0036】
また、微粒子の含有量はドープの固形分に対して0.2%以下とすることが好ましい。このように微粒子の含有量が制御されたドープは微粒子の凝集が抑制されるため、透明度が高く、優れた光学特性を示すフィルムが製造できる。なお、フィルムの透明度の高さ、光学特性、或いは微粒子の凝集を抑制する上で、微粒子はその平均粒径が1.0μm以下であることが好ましい。より好ましくは0.3〜1.0μmであり、特に好ましくは0.4〜0.8μmである。
【0037】
本発明の特徴以外で係るセルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号の[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。また、溶媒、各種添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0038】
次に、本発明に係わるフィルムの製造方法について説明する。ただし、本実施形態は、本発明に係わる一例であって本発明を限定するものではない。
【0039】
図1に示すように、本実施形態で使用するフィルム製造設備10は、流延室12と、渡り部13と、テンタ14と、乾燥室15と、冷却室16と、巻取室17とから構成されている。
【0040】
流延室12には、フィードブロック30が取り付けられた流延ダイ31、減圧チャンバ32、伝熱媒体循環装置33、流延ドラム34、凝縮器35、剥取ローラ36等が備えられている。また、流延室12の外部には温調設備37が取り付けられており、流延室12の内部温度が所定の範囲で略一定に保持される。
【0041】
フィードブロック30は、配管L1〜L3を介してストックタンク60と接続されており、適宜送られてくるドープを流延膜の層構造に応じて所望の配置に合流させる。各配管のうち、配管L1は基層を形成するための基層ドープ、L2は支持体層ドープ、L3は表層ドープの流路となる。ここで、基層とは、流延膜になったときに支持体から最も遠くに存在し空気に面すると表層と支持体である流延ドラム34との間に存在する層であり、支持体層は、基層と流延ドラム34とに接して存在する層である。本発明におけるドープとは、ポリマーや添加剤からなる固形分と溶媒とを含む混合液である。ドープの流延及びその調製に関しては後で詳細に説明する。
【0042】
流延ダイ31はドープの吐出口が形成されており、この吐出口が流延ドラム34に向かって開口した状態で設置されている。また、流延ダイ31には、その吐出口の両端に溶媒供給装置(図示しない)が取り付けられている。この溶媒供給装置は、ドープを可溶化させる溶媒を吐出口と流延ドラム34との間に形成される流延ビードの両端部及び吐出口と外気との気液界面に供する。上記の溶媒としては、例えば、ジクロロメタン86.5重量部、メタノール13重量部、n−ブタノール0.5重量部の混合溶媒が挙げられる。溶媒を供給する際には、脈動率が5%以下のポンプを用いることが好ましい。これにより吐出口からドープを流延している間、ドープの局所的な乾燥を抑制して安定した流延ビードを形成することができる。上記の溶媒の供給量は特に限定されないが、ドープの乾燥を抑制し、流延膜40の中にドープの固化物等の異物を混入させない上で、吐出口端部の片側ごとの供給量が0.1〜1.0mL/分であることが好ましい。
【0043】
減圧チャンバ32は減圧装置(図示しない)に接続されており、減圧度を調節しながら流延ビードの背面部を減圧する。流延ビードの背面の減圧度は(大気圧−2000Pa)以上(大気圧−10)Pa以下とすることが好ましい。
【0044】
流延ドラム34は、図示しない駆動装置により円筒の軸を中心にエンドレスで回転する。流延ドラム34は、円筒形状或いは円柱状であり、その表面には十分な耐腐食性と強度とを付与する目的でクロムめっきが施されている。また、流延ドラム34の内部には、伝熱媒体の流路が形成されている。この伝熱媒体は、流延ドラム34に取り付けられた伝熱媒体循環装置33から供給される。流路に伝熱媒体を循環又は通過させることにより流延ドラム34の表面温度が所望の温度に保持される。耐腐食性や耐熱性等の観点からはその材質が金属製であるものが好ましい。中でも、ステンレス製であってSUS316製の金属ドラムが好適である。なお、本発明では、流延ドラム34に代わる支持体として、回転ローラに掛け渡されて無端で移動する流延バンドを用いても良い。
【0045】
ドラム及びバンドとその形態に係わらず、支持体の幅はドープの流延幅の1.05倍〜1.5倍の範囲のものが好ましい。また、平面性に優れる流延膜を形成させる上で、流延ドラム34の周面はその表面粗さが0.05μm以下となるように研磨されたものが好ましく、その表面欠陥が最小限に抑制されたものが好ましい。具体的には30μm以上のピンホールを皆無とし、10μm以上30μm未満のピンホールを1個/m以下とし、10μm未満のピンホールを2個/m以下とすることが好ましい。
【0046】
凝縮器35は、ドープや流延膜40から揮発した有機溶媒を含むガスを凝縮液化する。回収装置39は、この凝縮液化した溶媒を回収する。なお、回収された溶媒は、図示しない再生装置で再生されてドープ調製用の溶媒として再利用される。剥取ローラ36は、流延ドラム34から流延膜40を剥ぎ取る際に流延膜40を支持する。ここで流延ドラム34から流延膜40を剥ぎ取ることにより溶媒を含んだ湿潤フィルム41が形成される。
【0047】
また、流延室12の内部であって、減圧チャンバ32と剥取ローラ36との間の流延ドラム34の表面近傍には、ドラム洗浄機44が設置されている。ドラム洗浄機44としては、光を増幅させてコヒーレントな光を発生させるレーザー装置が使用される。レーザー装置は、必要に応じて流延ドラム34の表面に対してレーザーを照射する。これにより流延ドラム32の表面に付着する有機物は分解されて流延ドラム34の表面は洗浄される。本発明において好適なレーザー装置としては、レーザー媒質の違いにより、例えば、(a)固体レーザー、(b)液体レーザー、(c)ガスレーザー、(d)半導体レーザー、(e)自由電子レーザー等が挙げられる。
【0048】
(a)固体レーザーとは、媒質が固体であって、例えば、ルビーレーザーや、ネオジウムイオンをYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット結晶)に入れたYAGレーザー等が挙げられる。この中で、YAGレーザーは、高い出力を安定して得ることができる。(b)液体レーザーは、媒質が液体であって、例えば、色素分子をアルコール等の有機溶媒に溶かした色素レーザーが挙げられる。色素レーザーは、使用する色素や共振器の調節により発振波長を自由に、かつ連続的に選択可能である。また、(c)ガスレーザーは媒質が気体であって、例えば、炭酸ガスを利用したCOレーザーや、ヘリウム‐ネオンレーザー、希ガスを利用したエキシマレーザー等が挙げられる。また(d)半導体レーザーは、GaAlAs等の半導体を媒質としたレーザーである。そして、(e)自由電子レーザーは、真空中で光速に近い自由電子に磁界を加え進路を変えることによりレーザー光を発生させる装置である
【0049】
渡り部13は、複数のローラと送風装置13aとで構成されており、各ローラで湿潤フィルム41を支持し搬送する間に、送風装置13aから乾燥風を供給して湿潤フィルム41の乾燥を促進させる。
【0050】
テンタ14は、その内部に複数のピンを備えたピンプレートと乾燥風を供給するための乾燥装置(共に図示しない)とが備えられており、湿潤フィルム41の両側端部に各ピンを差し込み保持した後、搬送する間に、湿潤フィルム41の乾燥をいっそう促進させてフィルム51とする。
【0051】
テンタ14の下流にはカッタを備えた耳切装置47が設置されている。耳切装置47によりフィルム51の両側端部が切断される。また、耳切装置47に接続されたクラッシャ48はフィルム51の切断片をチップ状に粉砕する。
【0052】
乾燥室15には、多数のローラ50と乾燥風を供給するための送風装置(図示しない)とが備えられており、ここでフィルム51の乾燥が十分に行なわれる。また、乾燥室15の外部には乾燥室15中の溶媒ガスを回収する吸着回収装置52が接続されている。
【0053】
乾燥室15に併設された冷却室16は、乾燥室15で加熱されたフィルム51を略室温まで冷却する。フィルム51を冷却する方法は特に限定されず、略室温とした室内にフィルム51を放置して自然に冷やしても良いし、冷熱や冷却風を供給して人為に冷やしても良い。冷却室16の下流には、フィルム51の帯電圧を調節するための強制除電装置53が設置されている。また、本実施形態では、強制除電装置53の下流側にフィルム51にナーリングを付与するためのナーリング付与ローラ54を設けている。巻取室17の内部には、フィルム51を巻き取るための巻取装置55とフィルム51に押圧を付与するためのプレスローラ56とが備えられている。
【0054】
また、ストックタンク60は、ジャケット61と、モータ62で回転する攪拌機63とが取り付けられている。ストックタンク60は、ジャケット61の内部に温度を調節した伝熱媒体を通過させることによりその内部温度が所定の範囲で略一定に保持され、攪拌機63を常時回転させることにより貯留するドープ70を攪拌し、異物の凝集を抑えながら均一な状態を保持する。
【0055】
配管L1〜L3にはタンク71〜73が接続されており、各タンク71〜73の接続点よりも下流には、スタティックミキサ77〜79と濾過装置80〜82とが取り付けられている。
【0056】
タンク71〜73は、予め添加剤と溶媒とを混ぜ合わせた添加剤溶液71a〜73aが入れられている。添加剤溶液71a〜73aは、ポンプP1〜P3により送液量が調節されて配管L1〜L3を流れるドープ70に送られる。添加剤は所望とするフィルムの特性に応じて適宜選択されたものが用いられ、例えば、可塑剤、紫外線吸収剤、離型剤、剥離促進剤、フッ素系界面活性剤等が挙げられる。上記の溶媒は特に限定されるものではないが、ドープ70との相溶性の観点からドープの調製に使用したものと同じものが好ましい。ここで、溶媒の量を調節することによりドープ70の粘度等を好適に制御することができる。なお、ドープ70中に添加剤を含ませる方法は特に限定されるものではなく、例えば、固体の添加剤を用いる場合には、ホッパで配管内を流れるドープに入れても良いし、常温で液体の添加剤を用いる場合には、溶剤を使用せずにそのままの状態で入れれば良い。
【0057】
スタティックミキサ77〜79は、添加剤溶液が入れられたドープ70を攪拌混合する。スタティックミキサ77〜79としては、ドープ70中に添加剤溶液を効率良くかつ効果的に分散させることを目的として、長方形の板をねじったエレメントを内部に備えたものが好適である。ここで攪拌速度や滞留時間を調節すればドープ70と添加剤溶液との混合具合を好適に制御することができ、さらに、混合具合を制御すればドープ70の粘度が適宜調節できる。ただし、スタティックミキサの形状や構造等は特に限定されるものではなく、例えば、短冊状の複数の板を格子状に組み合わせることで形成されたエレメントを備えたスルーザーミキサを用いるといったことが考えられる。なお、本実施形態では、いずれも同形のものを使用するが必ずしも同じものを用いる必要はない。また、濾過装置80〜82はドープを濾過することにより異物を除去する。
【0058】
次に、上記のフィルム製造設備10の作用について説明する。なお、各配管L1〜L3内でドープを調製する手順は同じであるため、以下の説明では、配管L1内にて基層ドープを調製する手順を代表して説明する。
【0059】
ストックタンク60では、ジャケット61の内部に伝熱媒体が流されてドープ70の温度が25〜35℃に調整される。攪拌機63が常時回されてドープ70の品質が保持される。四方バルブ84の開閉が調節され、ストックタンク60と配管L1とが繋げられた後、ストックタンク60から配管L1内に適量のドープ70が送られる。ここでドープ20の流量はポンプP4で調節される。
【0060】
ポンプP2により配管L1を流れるドープ70に対して添加剤タンク72から添加剤溶液72aが送られる。この後、ドープ70はスタティックミキサ78で攪拌されて均一化された後、濾過装置81でドープ70中の異物が取り除かれる。なお、最終的に流延に供する各ドープ中の添加剤濃度がドープ70中の固形分全体に対して1〜20重量%とすることが好ましい。
【0061】
各配管L1〜L3を通じてフィードブロック30の中に表層ドープ、基層ドープ、支持体層ドープの3種類のドープが送られる。各ドープは、フィードブロック31で合流した後に、3層状態が維持されたままで流延ダイ31に送られてから流延ダイ31の吐出口より流延ドラム34の上に共流延される。流延ドラム34の表面は−20℃〜0℃の範囲で略一定となるように保持される。流延ドラム34の表面に到達したドープは速やかに冷やされて、短時間の内にゲル状の流延膜40が形成される。流延膜40は流延ドラム34の上に滞在する時間が長くなるほど冷却が進み、流延膜40のゲル化が進む。このように表面を冷却した流延ドラム34を支持体とすれば、短時間のうちに自己支持性を持つ流延膜40を形成することができるので生産速度の向上が可能となる。
【0062】
連続的に回転する流延ドラム34の回転速度は60m/分以上で保持されることが好ましい。これにより、生産速度を低下させずに安定した形状の流延ビードを形成させて優れた平面性の流延膜40を得ることができる。なお、流延ドラム34の回転速度を大きくすれば高速化が実現できるが、その一方で、高速回転による強い同伴風が発生したり、或いは流延ドラム34自身が振動することが懸念される。このため、流延ドラム34の状態に応じながら回転速度を調節する。流延ドラム34の回転速度は、60m/分以上150m/分以下の範囲がより好ましい。なお、流延ドラム34の回転速度とは、ドープが流延される周面における任意の点の移動速度である。支持体として流延バンドを用いる場合には、上記の回転速度は流延バンドの走行速度に等しい。ここで、高速回転時における支持体の安定性は、流延バンドに比べて流延ドラムが優れており、本実施形態のように流延ドラムを用いれば、回転速度を60m/分以上として安定して流延膜40を形成することが可能である。そして、連続的に流延ドラム34が回転することにより、ドープの流延と剥ぎ取りとが繰りかえされる。また、流延室12の内部温度は、温調設備37により10℃〜30℃の範囲で略一定に保持される。
【0063】
自己支持性を持たせた流延膜40は剥取ローラ36で支持されながら流延ドラム34から剥ぎ取られ湿潤フィルム41とされる。本発明では、ドープ原料として、木材を原料とし特定成分の含む割合が所定の範囲としたセルロースアシレートを使用しているので、流延ドラム34の表面における汚れの付着が防止される。なお、本実施形態のように複層の流延膜を形成する場合には、少なくとも支持体である流延ドラム34に接触するドープにおいて上記のセルロースアシレートを使用する。
【0064】
溶媒を多量に含んだ湿潤フィルム41は、渡り部13において乾燥が促進された後にテンタ14に送られる。テンタ14では、湿潤フィルム41の両側端部にピンが差し込み保持した状態で搬送する間に乾燥を進めてフィルム51とする。ここで、対面するピンの間隔を調節することにより湿潤フィルム41の幅方向に対して張力を付与することができる。この張力の大きさを適宜調節すれば湿潤フィルム41の分子配向を好適に制御でき、結果として、所望のレタデーション値をフィルムに発現させることができる。
【0065】
本発明では、フィルムに光学特性を付与することを目的とし、必要に応じてクリップテンタを設置しても良い。クリップテンタとは、湿潤フィルム41の把持手段である多数のクリップと乾燥装置とを備えた延伸乾燥機を意味し、クリップで把持した湿潤フィルム41を搬送しつつ乾燥する間に、対面するクリップの間隔を拡縮させることにより湿潤フィルムの幅方向に張力を付与するものである。また、ピンやクリップ等の把持手段の形態に係わらず、テンタにおいて湿潤フィルム41の搬送速度や把持手段の搬送方向に対する間隔を調節すれば、湿潤フィルム41の搬送方向に張力を付与することができるので、搬送方向にかかる分子配向を制御してより好ましくレタデーション値を調節することが可能となる。なお、ピンテンタとクリップテンタとを併用する場合には、各装置を連続して用いる必要はなく、例えば、ピンテンタで乾燥を進めた湿潤フィルムを一旦ロール状に巻き取った後に、このロール状のフィルムをクリップテンタに供して後の工程を続けても良い。
【0066】
フィルム51は耳切装置47によりその両側端部が切断されてピンの突き刺しキズ等が取り除かれる。切断片はクラッシャ48に送られてチップ状に粉砕される。なお、このチップはフィルムの原料として再利用可能であるため原料コストが削減できる。
【0067】
乾燥室15では、各ローラ50に巻き掛けられ搬送されるフィルム51の膜面温度を60〜145℃となるように加熱してフィルム51の乾燥を十分に進める。上記の膜面温度は、フィルム51の搬送路の近傍に赤外線センサ等の温度計を設けることで測定可能である。乾燥室15を出たフィルム51は冷却室16で略室温まで冷却された後、強制除電装置53で帯電圧が所定の範囲(例えば、−3kV〜+3kV)に調節され、更に、ナーリング付与ローラ54によりナーリングが付与される。
【0068】
巻取室17に送られたフィルム51は、プレスローラ56でその中心方向に押圧されながら巻取装置55に巻き取られる。これにより、しわやつれがなく面状が良好なロール状のフィルムが製造される。巻き取るフィルム51は、搬送方向に少なくとも100m以上とすることが好ましく、その幅方向が1400〜2500mmであることが好ましい。ただし、本発明は幅方向が2500mmより大きい場合にも効果を得ることができる。乾燥後のフィルム51の厚みは、20μm以上70μmであることが好ましい。上記の様に幅が広く薄手のフィルムを製造する際にも本発明は優れた効果を発揮する。
【0069】
本実施形態では、流延ドラム34の表面における汚れの付着を防止するため、若しくは付着した汚れを除去するためにドラム洗浄機44により流延ドラム34を洗浄する。図2に示すように、ドラム洗浄機44は、レーザーを流延ドラム34に照射するレーザー照射部44aと、このレーザー照射部に接続し、光の射出のON/OFFを制御するコントローラ44bとを備える。コントローラ44bは、レーザー照射部44aに内蔵されるいわゆる内蔵コントローラであってもよい。このコントローラ44bにはタイマ機能が備えられており、定められた照射時間に基づき、レーザー照射部44aの照射に係るON/OFFが制御される。
【0070】
必要に応じてコントローラ44bはレーザー照射部44aをONとし、所定の照射時間に基づいてレーザー照射部44aから流延ドラム34に対してレーザー光が照射される。レーザー照射部44aから照射されるレーザー光の波長は、350nm以上であることが好ましく、350nm以上1064nm以下の範囲とすることが好ましい。このとき、レーザー照射部44aの光の出力は100W以上200W以下であることが好ましい。レーザー光は、指向性に優れると共に、エネルギー集中度に優れている。このため、レーザー光を流延ドラム34の表面に照射すれば、有機物を構成する主要な結合、例えば、C−C、C−H、C=C、O−HやC−Oの単結合エネルギーは、それぞれ84.3(kcal/mol)、97.6(kcal/mol)、140.5(kcal/mol)、110.6(kcal/mol)74.6(kcal/mol)であることから、流延ドラム34の表面に照射されたレーザー光により脂肪酸エステルなどの有機物が持つ結合のうちレーザー光が有するエネルギーよりも低い結合エネルギーの結合が壊され、流延ドラム34の表面に付着した有機物が分解される。なお、所定の照射時間が経過した時点で、コントローラ44bによりレーザー照射部44aがOFFとされ、レーザー光の照射が止められる。
【0071】
上記により、有機物を流延ドラム34の表面から除去することが可能となるので、非接触でありながら、効果的に流延ドラム34を洗浄することができる。このため、不織布等の清掃手段と対比して流延ドラム34の表面に洗浄跡を残すことなく有機物を取り除くことができ、流延ドラム34の表面を傷付けるおそれも軽減される。また、ドラム洗浄機44を減圧チャンバ32と剥取ローラ36との間であって流延ドラム34の表面近傍に設置すればフィルムの製造を停止させることなく洗浄することができる。ここで、より優れた洗浄効果を得るために、レーザー光の照射は、流延ドラム34から流延膜44が剥ぎ取られた後、再びドープ70が流延されるまでの間に行うことが好ましい。なお、レーザー光の照射は、常時(連続的)又は間欠的とどちらでも良いが、常時行えば、有機物を除去する効果に加えて、有機物の成長を抑制する効果が得られる。
【0072】
また、レーザー光の照射による有機物の除去効果は、流延ドラム34の表面とレーザー照射部44aとの距離L1や、レーザー光の照射時間、及び流延ドラム34の表面温度に依存する。例えば、レーザー照射部44aと流延ドラム34との距離L1が近すぎれば、レーザー光の照射により流延ドラム34の表面温度が上昇するため、流延膜40を剥ぎ取ることが困難になる。その一方で、距離L1が大きすぎれば、脂肪酸エステルなどの有機物の分解が十分に行われない。
【0073】
本発明に係わるドラム洗浄機は、流延ドラムに対して被接触式であって、流延ドラムに対してその幅方向に均一にレーザー光を供給可能とするものが好ましい。好適な事例としては、例えば、ドラム軸方向で、ドープの流延に使用される領域に対してレーザー光を主走査させる。なお、レーザー光の主走査は、ポリゴンミラー等を用いて光学的に行う他に、キャリッジによりドラム軸方向に移動させて行なっても良い。また、上記実施形態ではフィルム製造設備において流延ドラムの表面の有機物を除去する、いわゆるオンライン形態を記載したが、フィルム製造設備から取り出した流延ドラムの表面に同様の除去処理を施す、いわゆるオフライン形態で有機物を除去してもよい。
【0074】
また、ドラム洗浄機の設置数は特に限定されず、1機或いは複数機を用いてもよい。複数のドラム洗浄機を用いる場合には、これらを流延ドラムの幅方向に並列してもよいし、予め、小スケールでドープを流延するなどして有機物が付着すると予想される箇所を特定した上で、当該箇所に狙いを定めてランダムに設置してもよい。1機の場合には、流延ドラムの幅全域にレーザーを照射するように幅方向で走行可能な走査型の洗浄機を用いることが好ましい。これにより広域で有機物を除去することができる。なお、流延ドラムの替わりになる支持体として、回転ローラに掛け渡されて無端で走行する流延バンドを用いる場合でも、本発明の効果は発揮される。更に、複数機を用いる場合には、レーザー照射部の他に、空気中にドライアイス粒子を含むガスを支持体の表面に吹き付けることができる装置を使用し、レーザー光と併せて上記のガスを支持体の表面に供給することが好ましい。このようなガスを吹き付ければ、支持体の表面に付着した有機物にドライアイス粒子が衝突することで有機物が破壊される。このため、有機物を除去する効果がよりいっそう向上する。
【0075】
本発明は、目的とするフィルムが単層であっても、複層であっても効果を得ることができる。複層構造のフィルムを形成する場合、本実施形態では、複数のドープを同時に流延する共流延の形態を示したが特に限定されず、例えば、複数のドープを逐次に支持体上に流延する方法でも良いし、これらの方法を組み合わせても良い。複数のドープを支持体上に逐次に流延する場合には、所望とする流路を有したフィードブロックを取り付けた流延ダイを用いても良いし、マルチマニホールド型の流延ダイを用いても良い。この場合、共流延により多層からなるフィルムを形成する場合には、表層の厚さと支持体層の厚さとの少なくともいずれか一方をフィルム全体の厚みの0.5〜30%とすることが好ましい。また、同時にドープを流延する場合には、ダイスリットから支持体上にドープを流延するとき、高粘度のドープが低粘度のドープで包み込むことが好ましい。更に、ダイスリットから支持体にかけて形成される流延ビードのうち外界と接するドープにおけるアルコールの組成比が、その内部のドープよりも大きいことが好ましい。
【0076】
本発明に係わるフィルム製造設備のうち、流延ダイ、減圧チャンバ、支持体等の構造、共流延、剥離法、延伸、各工程の乾燥条件、ハンドリング方法、カール、平面性矯正後の巻取方法から、溶媒回収方法、フィルム回収方法まで、特開2005−104148号の[0617]段落から[0889]段落に詳しく記述されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0077】
次に、本発明に係わるドープの調製方法について具体的に説明する。図3に示すように、本実施形態で用いられるドープ製造設備100は、溶剤タンク101と、ホッパ102と、添加剤タンク103と、混合タンク105と、加熱装置106と、温調装置107と、濾過装置109と、フラッシュ装置110等から構成されている。また、このドープ製造設備100はストックタンク60を介してフィルム製造設備10に繋げられている。
【0078】
溶剤タンク101は、ドープの溶媒として作用する溶剤が入れられており、本実施形態では、予めジクロロメタン及びメタノールを所定の割合で混合したものが入れられている。複数の溶剤を用いる場合、混合物とせずに所望とする溶剤の種類に応じてタンクを用意し、適宜混合タンクに送る形態でも良い。ホッパ102は、フィルムの原料となるポリマーが入れられており、本実施形態ではTACが入れられている。添加剤タンク103は、フィルムに付与する所望の機能に応じて選択された添加剤が入れられている。先に説明した通り、この添加剤は、基層ドープ、支持体層ドープ、表層ドープに共通して使用する添加剤である。
【0079】
混合タンク105は、混合タンク105の外面を包み込むようにして設けられたジャケット110と、第1攪拌機112と、第2攪拌機113等とで構成されている。混合タンク105は、ジャケット110の内部に温度を調節した伝熱媒体を通過させることで、その内部温度が所定の範囲で略一定に保持されている。モータ115,116により第1攪拌機112及び第2攪拌機113をそれぞれ回転させてドープの原料を攪拌する。これにより、混合タンク105内で混合液120が作られる。第1攪拌機112はアンカー翼であることが好ましく、第2攪拌機113はディゾルバータイプの偏芯型攪拌機であることが好ましい。このように異なるタイプの攪拌機を適宜選択しながら用いればドープの原料を効率良くかつ効果的に攪拌することができる。
【0080】
加熱装置106は、温調制御が可能なジャケット付き配管が好適に用いられ、混合液120を所定の温度範囲で加熱してポリマー等の固形分を溶媒に溶かす。加熱装置106による混合液120の加熱温度は0〜97℃とする。溶解度を向上させる上で加熱装置106は加圧手段を備えたものが好ましい。これにより、熱ダメージを軽減しながら溶解度を向上させることができる。なお、本発明において、加熱装置106による加熱とは、室温以上の温度に混合液120を加熱するという意味ではなく、混合液120の温度を上昇させると言う意味である。例えば、加熱装置106に送られた時点での混合液120の温度が−7℃の場合には0℃にすることも加熱である。
【0081】
混合液120の溶解度を向上させるには、上記の加熱溶解に代えて冷却溶解を用いても良い。冷却溶解は、混合液120を−100〜−10℃に冷却させることにより溶解度を向上させるものである。なお、加熱溶解及び冷却溶解はドープの原料等に応じて適宜選択して行なうことにより混合液120の溶解度を好適に制御することができる。温調装置107には温度制御機能が備えられており、混合液120を略室温としてドープ70とする。本実施形態では、温調装置107を出た後の液をドープ70と称する。
【0082】
濾過装置109の内部には多孔質のフィルタが備えられており、ドープ70をフィルタに通過させることで異物を取り除く。フィルタは特に限定されるものではないが、効率良くかつ効果的に濾過を進める上で平均孔径が100μm以下のものが好ましい。また、濾過時間を長引かせずに異物を効率良く取り除く上では、濾過装置109によるドープ70の濾過流量を50L/時以上とすることが好ましい。なお、フラッシュタンク110の下流に設置した濾過装置113は上記と同形のものを用いる。各濾過装置の濾過条件は同一である。
【0083】
ドープ製造設備100を構成する各部材は、耐食性や耐熱性に優れる等の利点からステンレス製の配管で接続されている。また、各配管には任意にポンプP5、P6やバルブV1、V2が取り付けられており、配管内に送られる原料ドープ等の流量が適宜調節される。なお、ドープ製造設備100に設置されるポンプやバルブの個数及び設置箇所等は特に限定されず、適宜選択して用いれば良い。
【0084】
次に、上記のドープ製造設備100の作用について説明する。
【0085】
溶剤タンク101及びホッパ102から混合タンク105の中に適宜適量の溶剤、TACが送られる。溶剤やTACを送る順序は限定されず、TAC、溶剤の順でも良いし、同時に送っても良い。また、添加剤タンク103から適宜適量の添加剤が混合タンク105の中に送られる。混合タンク105では、第1攪拌機112及び第2攪拌機113が回されて溶剤、TAC、添加剤が攪拌される。これにより各種ドープの原料を混合した混合液120が調製される。なお、混合タンク105は、ジャケット110の内部に温度を調整した伝熱媒体を流して−10〜55℃の範囲で略一定に保持する。
【0086】
混合液120は加熱装置106に送られ所定の温度範囲で加熱されることにより溶解度が高められる。この後、温調装置107により混合液120は略室温とされてドープ70が得られる。ドープ70は、平均孔径が100μmのフィルタを備えた濾過装置109に送られて異物が取り除かれる。この時点でドープ70の濃度が所望の値である場合、ストックタンク60へ送られ、流延に供するまでの間、貯留される。ストックタンク60では、モータ62で回転させた攪拌機63によりドープ70は常時攪拌され、均一な状態が保持される。なお、本実施形態のようにTACを使用する場合には、ドープ70中のTACの濃度は5〜40重量%であることが好ましく、より好ましくは15〜30重量%であり、特に好ましくは17〜25重量%である。
【0087】
上記のように、混合液120を作ってから、所望の濃度のドープ70を調製する方法では、所望とするドープ70の濃度が高いほど調製に要する時間が長くなり、製造コストが増大する等の問題が生じる。この問題を改善するには、所望とする濃度よりも低濃度のドープ70を調製した後に所望の濃度まで濃縮させる方法が好ましい。本実施形態では、この方法を採用し、以下に、濃縮方法の詳細を説明する。
【0088】
前述の手順により所望とする値よりも濃度が低いドープ70を調製する。濾過装置109でドープ70の異物を取り除いた後に、バルブV2の開閉によりフラッシュ装置110に送る。フラッシュ装置110では、ドープ70に含まれている溶剤の一部を蒸発させて、ドープ70を所望の濃度にまで濃縮させる。これにより、短時間で高濃度のドープが調製できる。濃縮したドープ70は、ポンプP6でフラッシュ装置110から抜き出した後に、濾過装置113を通過させて異物を取り除く。濾過装置113では、ドープ70の温度を0〜200℃とすることが好ましい。濾過後のドープ70は、必要となるまでストックタンク60に貯留される。ドープ70から蒸発した溶剤ガスは、凝縮器(図示しない)で凝縮液化させた後に回収装置117で回収される。この後、再生装置118で再生された溶剤をドープの調製に用いると、原料コストの削減を図ることができる。なお、ドープ70をフラッシュ装置110から抜き出す際には、ドープ70の中に発生した気泡を抜くため、泡抜き処理を施すことが好ましい。泡抜き処理の方法としては、公知の方法を適用することができ、例えば、超音波照射法が挙げられる。
【0089】
本発明に係わるドープの製造方法(例えば、素材、原料の溶解方法、及び添加方法、濾過方法、脱泡等)は、特開2005−104148号公報の[0517]段落から[0616]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0090】
[性能・測定法]
(カール度・厚み)
本発明で得られるフィルムの性能及びそれらの測定法は、特開2005−104148号公報の[0112]段落から[0139]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0091】
[表面処理]
また、完成したフィルムの少なくとも一方の面には、表面処理されていることが好ましい。この表面処理は、真空グロー放電処理、大気圧プラズマ放電処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理、火炎処理、酸処理またはアルカリ処理の少なくとも一種であることが好ましい。
【0092】
[機能層]
(帯電防止・硬化層・反射防止・易接着・防眩)
完成したフィルムの少なくとも一方の面は下塗りされていても良い。
【0093】
また、本発明に係わるフィルムをベースとして他の機能性層を付与した機能性材料として用いることが好ましい。機能性層としては、帯電防止層、硬化樹脂層、反射防止層、易接着層、防眩層、及び光学補償層のうち、少なくとも1層を設けることが好ましい。そして、この機能性層は、少なくとも一種の界面活性剤を0.1〜1000mg/m含有することが好ましく、少なくとも一種の滑り剤を0.1〜1000mg/m含有することが好ましい。機能性層は少なくとも一種のマット剤を0.1〜1000mg/m含有することが好ましく、少なくとも一種の帯電防止剤を1〜1000mg/m含有することが好ましい。なお、フィルムに対して様々な機能、特性を実現するための表面処理機能性層の付与方法は、上記以外にも特開2005−104148号公報の[0890]段落から[1087]段落に詳細な条件、方法も含めて記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0094】
本発明で得られるフィルムの用途について説明する。当該フィルムは、平面性に優れると共に、優れた光学特性を有することから、偏光板の保護フィルム等として有用である。このフィルムを偏光子に貼り合わせた偏光板を液晶層に2枚貼ることにより作製した液晶表示装置は、液晶表示能力に優れる等の特長を示す。ただし、液晶層と偏光板との配置は限定されるものではなく、公知の各種配置とすることができる。特開2005−104148号公報には、例えば、[1088]段落から[1265]段落に、液晶表示装置として、TN型、STN型、VA型、OCB型、反射型、その他の例が詳しく記載されており、この方法も本発明に適用させることができる。また、同出願には光学的異方性層を付与したフィルムや、反射防止、防眩機能を付与したフィルムについての記載、適度な光学性能を付与した光学補償フィルムとしての用途も記載されている。これらの記載も本発明に適用させることができる。
【実施例】
【0095】
次に、本発明に係わる実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。本実施例では、TACの種類を変えて実験1〜7を行った。この中で、実験4,5は、本発明に対する比較実験である。ただし、実験1〜3及び6,7に示す形態は本発明に係わる一例であって、本発明を限定するものではない。また、フィルム製造条件等については、表1に挙げる条件以外全ての実験で共通させる。このため、下記の説明では実験1のところでのみ詳細に記載し、他は省略する。
【0096】
〔実験1〕
フィルム製造設備10において、表面にクロムめっき及び鏡面加工処理が施され、直径1000mmの円筒状の流延ドラム34の表面上に基層ドープ、表層ドープ、支持体層ドープを流延した。このとき、各ドープの流延量は、完成したフィルムの膜厚が60μmとなるように調整した。流延ドラム34の表面を−12℃に設定し、この設定温度±1℃の範囲に温度が保持されるように温度制御した。これにより、流延された各ドープを冷却してゲル状の流延膜40を形成した。十分に冷却し自己支持性を持たせた流延膜40を、剥取ローラ36で支持しながら流延ドラム34から剥ぎ取って湿潤フィルム41とした。渡り部13及びテンタ14を介して湿潤フィルム41を所定の残留溶媒量まで乾燥しフィルム51とした。この後、乾燥室15でフィルム51の乾燥を十分に進めた。
【0097】
また、流延ドラム34の表面近傍には、レーザー装置であるドラム洗浄機44を設置し、製膜を続けている間、常時、流延ドラム34から流延膜40を剥ぎ取った後、再びドープ70が流延される前に、流延ドラム34の表面に対して所定の波長のレーザー光を照射して、有機物の分解除去を試みた。レーザー照射部44aの位置は、流延ドラム34に対して高エネルギーのレーザー光を照射できるように、流延ドラム34との距離L1を調節した。
【0098】
ドラム洗浄機44として、クリーンレーザーシステム(サマック株式会社製、型式;CL−120Q)を用いた。これは、ランプ励起型のYAGレーザー照射装置であり、射出されるレーザー光の波長は1064nmである。そして、このレーザー照射装置は、出力が120Wであり、いわゆるクラス4のレーザー照射装置である。集光レンズの焦点距離は150mm、スポット径は480μmとした。
【0099】
各実験に係わるTAC条件及び評価結果を、表1に纏めて示す。表1に記載する以外は、各実験とも同じ製膜条件とする。また、本発明の効果を知るために製膜開始から一定時間経過後の流延ドラムの表面における汚れ具合を評価した。そして、完成したフィルムの特性として、その耐熱性を評価した。各評価方法は下記の通りである。
【0100】
〔ドラム汚れ〕
製造開始から200時間が経過した後、流延ドラム34の表面に汚れが付着しているか否かを目視により確認した。ここで、汚れの付着がほとんど確認されない場合を◎とし、非常に少ない場合を○とした。また、製造開始から200時間を待たず(実際には、48時間経過後)に汚れが付着した場合を×とした。
【0101】
〔耐熱性〕
完成したフィルムの一部を切り欠いたものをサンプルとして採取し、この耐熱性を評価した。ここで、耐熱性が良好であり製品レベルを満足するものを○とし、耐熱性が製品レベルを満たさないものを×とした。
【0102】
【表1】

【0103】
以上の結果から、本発明により、支持体の表面に発生した汚れを効率良く分解し、除去することができる。このため、流延膜の表面に対して汚れを付着させずに製膜することができるので、光学特性に優れ、かつ薄手のセルロースアシレートフィルムを高速で製造することができる。また、完成したフィルムは、耐熱性が良好であることから液晶表示装置等の光学フィルムとして好適に利用することができるといえる。なお、フィルムの耐熱性に着目すれば、Mg成分の質量濃度が20ppmを下回ると耐熱性が低下することが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明に係わるフィルム製造設備の一例の概略図である。
【図2】ドラム洗浄機としてレーザー装置を利用した流延ドラム周辺の一例の概略図である。
【図3】本発明に係わるドープ製造設備の一例の概略図である。
【符号の説明】
【0105】
10 フィルム製造設備
12 流延室
31 流延ダイ
34 流延ドラム
40 流延膜
44 ドラム洗浄機
44a レーザー照射部
51 フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンドレス走行の支持体の上に、流延ダイからセルロースアシレートと溶媒とを含むドープを流延して流延膜を形成した後、前記支持体から前記流延膜を剥ぎ取り、乾燥してフィルムとするセルロースアシレートフィルムの製造方法において、
前記セルロースアシレートは、木材から得られるセルロースのエステル化反応により生成するものであって、前記セルロースアシレートに含まれる化合物若しくは結合カルボン酸基の前記セルロースアシレートに対するモル当量を3以上15以下の範囲内として、前記セルロースアシレート中のCa成分の質量濃度が0ppm以上5ppm以下で、Mg成分の質量濃度が20ppm以上60ppm以下であり、
前記支持体の表面にレーザーを照射して前記流延膜から生じて前記支持体の表面に付着した有機物を除去することを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記木材が針葉樹であることを特徴とする請求項1に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記支持体の表面温度が−20℃以上0℃以下の範囲内で略一定に冷却されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記レーザーを、前記流延膜が剥ぎ取られた後で前記ドープが流延される前の前記支持体の表面に照射することを特徴とする請求項1ないし3いずれか1つに記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項5】
乾燥後の前記フィルムの膜厚が20μm以上70μm以下であることを特徴とする請求項1ないし4いずれか1つに記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記支持体は周面を持つ流延ドラムであり、その回転速度が60m/分以上であることを特徴とする請求項1ないし5いずれか1つに記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−265312(P2008−265312A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−70211(P2008−70211)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】