説明

セルロースアシレート組成物の製造方法およびセルロースアシレートフィルム

【課題】微小な異物の含有量が極めて少なく、光学フィルムに好適である、セルロースアシレート組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】 下記式(1)〜(3)を満足し、かつ、下記式(4)で定義されるM/Sが0.5〜2であるセルロースアシレートを溶媒に溶解した溶液を、保留粒子サイズが0.1μm〜40μmのフィルターを用いてろ過を行った後、貧溶媒と混合してセルロースアシレートを再沈殿させることを含む、セルロースアシレート組成物の製造方法。
式(1): 1.5≦A+B≦3
式(2): 0≦A≦1.8
式(3): 1.2≦B≦3
(式中、Aはセルロースの水酸基を構成する水素原子に対するアセチル基の置換度を表し、Bはセルロースの水酸基を構成する水素原子に対する炭素数3〜7のアシル基の置換度を表す。)
式(4): M/S=(アルカリ金属のモル含量/2 + アルカリ土類金属のモル含量)
/硫黄のモル含量

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小な異物の含有量が極めて少なく、光学フィルムに好適である、セルロースアシレート組成物ならびに、その製造方法に関する。さらに、該セルロースアシレートを用いた、高品位な光学フィルム、位相差フィルム、偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルム並びに画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースアセテートは、その透明性、強靭性および光学的等方性から、写真感光材料の支持体として用いられているほか、液晶表示装置や有機EL表示装置をはじめとする画像表示装置用の光学フィルムとしてその用途を拡大してきている。液晶表示装置用の光学フィルムとしては、偏光板保護フィルムや、フィルムを延伸して面内のレターデーション(Re)、厚み方向のレターデーション(Rth)を発現させ、STN(Super Twisted Nematic)方式などの液晶表示装置の位相差膜として使用されている。
【0003】
近年、STN型に比べてより高いRe,Rthの位相差が要求される、VA(Vertical Alignment)方式、OCB(Optical Compensated Bend)方式、あるいはIPS(In−Plane Switching)方式の表示素子が開発され、それぞれの液晶モードに応じた、様々なレターデーション発現性を有する光学フィルム材料が要求されている。
【0004】
セルロースアセテートは延伸性に乏しく、高分子単独での延伸配向によるレターデーションの発現領域は限定される。また、比較的親水的な高分子であるため、湿度によるレターデーション変化が比較的大きいという特徴がある。
【0005】
そこで、上記の要求に対応するための新規な光学フィルム用材料として、セルロースのアセチル基とプロピオニル基の混合エステル(セルロースアセテートプロピオネートなどのセルロース混合アシレート)を用い、その溶液を支持体上へ流延し、溶媒の一部を蒸発させた後、支持体上から剥離してセルロースアシレートフィルムを形成する溶液製膜法を用いて製造したセルロースアシレートフィルムが提案されている(特許文献1)。また、溶融温度がセルロースアセテートに比べて低いセルロース混合アシレートとしてセルロースアセテートブチレートおよびセルロースアセテートプロピオネートを用い、これを溶融製膜して光学フィルムとして用いる方法も提案されている(特許文献2)。溶融製膜は製膜の際に有機溶媒を使わないことから、溶液製膜に比べて溶解や乾燥の工程を省略できるほか、環境への負荷も少ないという利点を有している。
【0006】
このような、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのセルロース混合アシレートは、セルロースアセテートのレターデーション発現性を拡大する可能性を有する優れた素材である。一方、工業的に有用であるセルロースと酸無水物とを酸触媒の存在下で反応させてセルロースアシレートを得る製造方法を用いた場合には、セルロースアセテートに比べて反応性が低下することから、未反応のセルロースを始めとする異物が残存しやすいという特徴がある。このような異物は、黒点異物あるいは、クロスニコル条件での輝点異物として観察され、セルロースアシレートを光学フィルムとして用いた場合には、光学欠陥や光漏れなどを引き起こす原因となるため、その含有量は極力少なくすることが要求される。
【0007】
セルロース混合アシレート中の未反応セルロースを削減する製造方法として、原料セルロースに酢酸などを添加し、1時間以上40℃の温度に保つ活性化法が公開されている(特許文献3)。
この方法は、セルロースアシレートの重合度を比較的高いレベルに保ちながら未反応物の量を削減できる有効な方法であるが、未反応セルロース以外の異物を除くことは困難であるほか、要求される未反応物の残存量が極めて少ない場合においては、更なる異物除去の工程が必要になることがある。
【0008】
セルロースアシレートを光学フィルムの原料として用いる場合、製膜様式が溶液製膜法の場合には、異物の含有量の多いセルロースアシレートを用いた場合においても、セルロースアシレートの溶液を一旦調整し、保留粒子サイズの小さいフィルターを用いてろ過を実施した後に製膜を行うことで、製品中の異物の量を相当量削減することが可能である(特許文献4)。
また、溶融製膜を実施する際に、セルロースエステルの溶融物をろ過する方法が開示されており、特に好ましいろ過精度として5μm以下であることが開示されている(特許文献5)。
しかしながら、溶融物の濾過は濾材の交換を行うことが溶液のろ過に比べて困難であるという課題がある。
このような背景から、溶融製膜を実施した際に良好な光学特性を与えるに必要なセルロースアシレートとしては、溶融に用いるセルロースアシレート原料自体の微小異物の含有量が極めて少なくすることにより、溶融物の濾過を実質的に不要にすることが有効であることが示唆される。しかしながら、従来の製造方法ではその実現は困難であり、この課題を本質的に解決する方法の出現が望まれていた。
【0009】
【特許文献1】特開2001−188128号公報
【特許文献2】特開2000−352620号公報
【特許文献3】特開2006−45500号公報
【特許文献4】特開2003−213004号公報
【特許文献5】特開2000−352620号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、微小な異物の含有量が極めて少なく、光学フィルムに好適である、セルロースアシレート組成物の製造方法を提供することにある。さらに、該セルロースアシレートを用いた、高品位な光学フィルム、位相差フィルム、偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルム並びに画像表示装置を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
ここで、良好な光学フィルムを得るためには、セルロースアシレート組成物中の異物について、粒子サイズが40μm以上である異物の含有量を0.1個/g以下に調整することが求められる。しかしながら、粒子サイズが40μm以上のものを溶融物から上記含有量のレベルまで取り除くことは工業的に不可能であると考えられていた。
かかる状況のもと、本発明者らは、鋭意検討した結果、下記手段により上記課題を解決しうることを見出した。
【0012】
具体的には、以下の構成を有する本発明により達成された。
(1) 下記式(1)〜(3)を満足し、かつ、下記式(4)で定義されるM/Sが0.5〜2であるセルロースアシレートを溶媒に溶解した溶液を、保留粒子サイズが0.1μm〜40μmのフィルターを用いてろ過を行った後、貧溶媒と混合してセルロースアシレートを再沈殿させることを含む、セルロースアシレート組成物の製造方法。
式(1): 1.5≦A+B≦3
式(2): 0≦A≦1.8
式(3): 1.2≦B≦3
(式中、Aはセルロースの水酸基を構成する水素原子に対するアセチル基の置換度を表し、Bはセルロースの水酸基を構成する水素原子に対する炭素数3〜7のアシル基の置換度を表す。)
式(4): M/S=(アルカリ金属のモル含量/2 + アルカリ土類金属のモル含量)
/硫黄のモル含量
(2)前記セルロースアシレート中のカリウムの含有量が25ppm以下、かつ、ナトリウムの含有量が25ppm以下である、(1)に記載のセルロースアシレート組成物の製造方法。
(3)(1)または(2)に記載のセルロースアシレート組成物の製造方法であって、前記フィルターとして、少なくとも保留粒子サイズが2μm〜20μmのものを用いる、セルロースアシレート組成物の製造方法。
(4)(1)〜(3)のいずれか1項に記載のセルロースアシレート組成物の製造方法であって、ろ過に際し、ろ過助剤を用いることを含む、セルロースアシレート組成物の製造方法。
(5)(1)〜(4)のいずれか1項に記載のセルロースアシレート組成物の製造方法であって、再沈殿後のセルロースアシレート中に含有される粒子サイズが40μm以上である異物の含有量が0.1個/g以下である、セルロースアシレート組成物の製造方法。
(6)(1)〜(4)のいずれか1項に記載のセルロースアシレート組成物の製造方法であって、再沈殿後のセルロースアシレート中に含有される粒子サイズが40μm以上である異物の含有量が0.05個/g以下である、セルロースアシレート組成物の製造方法。
(7)前記セルロースアシレート組成物が、溶液、溶融物、ゲル、ペレット、またはフィルムである、(1)〜(6)のいずれか1項に記載のセルロースアシレート組成物の製造方法。
(8)前記セルロースアシレート組成物がペレット、またはフィルムである、(1)〜(6)のいずれか1項に記載のセルロースアシレート組成物の製造方法。
(9)(1)〜(8)のいずれか1項に記載のセルロースアシレート組成物の製造方法により製造されたセルロースアシレートフィルム。
(10)残留有機溶媒量が0.03質量%以下である、(9)に記載のセルロースアシレートフィルム。
(11)面内のレターデーション(Re)が下記式(i)を満足し、且つ、厚み方向のレターデーション(Rth)が下記式(ii)を満足する、(9)または(10)に記載のセルロースアシレートフィルム。
式(i): −500nm≦Re≦500nm
式(ii): −500nm≦Rth≦500nm
(12)(9)〜(11)のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムを、少なくとも1方向に0.1%〜500%延伸したセルロースアシレートフィルム。
(13)(9)〜(12)のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムを用いた位相差フィルム。
(14)偏光膜と、該偏光膜の少なくとも片面に設けられた保護フィルムからなる偏光板であって、前記保護フィルムが、(9)〜(12)のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムまたは(13)に記載の位相差フィルムである偏光板。
(15)(9)〜(12)のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムまたは(13)に記載の位相差フィルムの上に、液晶性化合物を配向させて形成した光学異方性層を有する光学補償フィルム。
(16)(9)〜(12)のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムまたは(13)に記載の位相差フィルムの上に、反射防止層を有する反射防止フィルム。
(17)(9)〜(12)のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムまたは(13)に記載の位相差フィルム、(14)に記載の偏光板、(15)に記載の光学補償フィルムおよび(16)に記載の反射防止フィルムからなる群より選択される少なくとも1種を用いた画像表示装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造法によるセルロースアシレート組成物は、微小な異物の含有量が極めて少なく、光学フィルム、特に、溶融製膜法による光学フィルムに好適である。また、該セルロースアシレートを用いた、高品位な光学フィルム、位相差フィルム、偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルム並びに画像表示装置はいずれも高品位で光学的性質に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下において、本発明のセルロースアシレート組成物やその製造方法などについて詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0015】
<セルロースアシレート>
本発明の製造方法に好ましく用いられるセルロースアシレートについて詳細に記載する。
【0016】
(基本的な構造)
セルロースを構成する、β−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を化学修飾した重合体(ポリマー)である。本発明において置換度とは、2位、3位および6位のそれぞれについて、セルロースの水酸基が置換されている割合(例えば、100%のエステル化は「置換度=1」と表す)の合計を意味する。なお、天然のセルロース原料は由来とする生物や精製方法に対応してグルコース以外の構成糖(例えば、キシロース、マンノースなど)の重合体(ヘミセルロース)や、リグニンなどのセルロース以外の成分を含有する場合があるが、本発明においては、これらを含有するセルロース原料を原料として製造された高分子についても、セルロースアシレートと総称する。
【0017】
本発明で用いるセルロースアシレートは、下記式(1)〜(3)を満足することを特徴とする。
式(1): 1.5≦A+B≦3
式(2): 0≦A≦1.8
式(3): 1.2≦B≦3
(式中、Aはセルロースの水酸基を構成する水素原子に対するアセチル基の置換度を表し、Bはセルロースの水酸基を構成する水素原子に対する炭素数3〜7のアシル基の置換度を表す。)
【0018】
(Bで表される置換基)
本発明におけるBで表される置換基は、好ましくは炭素数3〜6であり、より好ましくは炭素数3〜4であり、さらに好ましくは、炭素数3または4である。炭素数が7以上の場合は、製造適性が低下し、高分子のガラス転移温度がフィルム用途として用いるときに適切ではない場合がある。
好ましいBで表される置換基の例としては、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘプタノイル基、ヘキサノイル基、イソブチリル基、ピバロイル基などを挙げることができる。さらに好ましくは、プロピオニル基、ブチリル基、ヘキサノイル基であり、特に好ましくはプロピオニル基、ブチリル基である。
【0019】
本発明で用いるセルロースアシレートは、下記式(4)〜(6)を満足することが好ましい。
式(4): 2.0≦A+B≦3
式(5): 0.05≦A≦1.8
式(6): 1.2≦B≦2.95
【0020】
本発明で用いるセルロースアシレートは、下記式(7)〜(9)を満足することがより好ましい。
式(7): 2.5≦A+B≦2.99
式(8): 0.1≦A≦1.7
式(9): 1.2≦B≦2.9
【0021】
本発明で用いるセルロースアシレートは、下記式(10)〜(12)を満足することがさらに好ましい。
式(11): 2.6≦A+B≦2.98
式(12): 0.1≦A≦1.55
式(13): 1.3≦B≦2.85
【0022】
A+Bが1.5未満の場合は、セルロースアシレートが親水的過ぎることにより、セルロースアシレート組成物の湿度依存性が悪化して好ましくない。A+Bは1.5以上であれば用途によっては良好な性質を発現するが、本発明のセルロースアシレート組成物が光学フィルムである場合は、2.0以上が好ましく、2.5以上がより好ましく、2.6以上であることがさらに好ましい。
Aは0以上、1.8以下であれば任意の値を取ることができるが、本発明におけるセルロースアシレート組成物がフィルムである場合は、好ましい光学特性を発現する目的では0.05以上が好ましく、0.1以上がより好ましい。上限については、コスト、フィルムの面状等の特性の観点から、1.8以下が好ましく、1.7以下がより好ましく、1.55以下がさらに好ましい。
Bは1.2以上3以下であれば任意の値を取ることができるが、本発明におけるセルロースアシレート組成物がフィルムである場合は、好ましい光学特性、力学物性ならびに製膜適性を発現する目的では、1.25以上がより好ましく、1.3以上がさらに好ましい。上限については、光学特性ならびに製造適性の観点から、2.9以下が好ましく、2.85以下がさらに好ましい。
【0023】
本発明で用いるセルロースアシレートの好ましい例として、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートヘプタノエート、セルロースアセテートヘキサノエート、セルロースアセテートペンタノエートを挙げることができる。より好ましくは、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートヘプタノエート、セルロースアセテートヘキサノエートである。さらに好ましい例は、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートである。
【0024】
<セルロースアシレートの製造方法>
【0025】
(原料および前処理)
セルロース原料としては、広葉樹パルプ、針葉樹パルプ、綿花リンター由来のものが好ましく用いられる。セルロース原料としては、α−セルロース含量が92〜99.9質量%の高純度のものを用いることが好ましい。
セルロース原料がシート状や塊状である場合は、あらかじめ解砕しておくことが好ましく、セルロースの形態は綿状、羽毛状、あるいは粉末状になるまで解砕が進行していることが好ましい。
【0026】
(活性化工程)
本発明において、セルロース原料はエーテル化に先立って、活性化剤と接触させる前処理(活性化)を行うことが好ましい。活性化剤としてはエーテル化を行う場合には水または水酸化ナトリウム水溶液を、エステル化を行う際には、カルボン酸を使用することが好ましい。添加方法としては噴霧、滴下、浸漬などの任意の方法から選択することができ、活性化はいかなる温度ならびに時間を要して行ってもよい。活性化処理の詳細については、特開2006−45500号公報に記載されている。
【0027】
(アシル化工程)
本発明のセルロースアシレートを製造する際には、セルロースを触媒の存在化でアシル化することが好ましい。具体的には、セルロースにカルボン酸の酸無水物を加え、ブレンステッド酸またはルイス酸を触媒として反応させることで、セルロースの水酸基をアシル化することが好ましい。触媒としては、硫酸を好ましく用いることができる。
6位置換度の大きいセルロースアシレートの合成については、特開平11−5851号公報、特開2002−212338号公報や特開2002−338601号公報などに記載がある。
【0028】
(酸無水物)
カルボン酸の酸無水物としては、好ましくはカルボン酸としての炭素数が2〜7の酸の無水物であり、例えば、無水酢酸、プロピオン酸無水物、酪酸無水物、2−メチルプロピオン酸無水物、吉草酸無水物、3−メチル酪酸無水物、2−メチル酪酸無水物、2,2−ジメチルプロピオン酸無水物(ピバル酸無水物)、ヘキサン酸無水物、2−メチル吉草酸無水物、3−メチル吉草酸無水物、4−メチル吉草酸無水物、2,2−ジメチル酪酸無水物、2,3−ジメチル酪酸無水物、3,3−ジメチル酪酸無水物、シクロペンタンカルボン酸無水物、ヘプタン酸無水物、シクロヘキサンカルボン酸無水物、安息香酸無水物などを挙げることができ、より好ましくは、無水酢酸、プロピオン酸無水物、酪酸無水物、吉草酸無水物、ヘキサン酸無水物、ヘプタン酸無水物などの無水物であり、特に好ましくは、無水酢酸、プロピオン酸無水物、酪酸無水物である。
【0029】
セルロース混合アシレートを得る方法としては、これらの酸無水物を併用して使用することが好ましく行われる。その混合比は目的とする混合エステルの置換比に応じて決定することが好ましい。酸無水物は、セルロースに対して、通常は過剰当量添加する。すなわち、セルロースの水酸基に対して1.1〜50当量添加することが好ましく、1.2〜30当量添加することがより好ましく、1.3〜10当量添加することがさらに好ましい。
また、混合アシル化の方法としては、2種のカルボン酸無水物を混合または逐次添加により反応させる方法、2種のカルボン酸の混合酸無水物(例えば、酢酸・酪酸混合酸無水物)を用いる方法、カルボン酸と別のカルボン酸との酸無水物(例えば、酢酸と酪酸無水物)を原料として反応系内で混合酸無水物(例えば、酢酸・酪酸混合酸無水物)を合成してセルロースと反応させる方法なども用いることができる。
【0030】
(触媒)
本発明におけるセルロースアシレートの製造に用いるアシル化の触媒には、ブレンステッド酸またはルイス酸を使用することが好ましい。ブレンステッド酸およびルイス酸の定義については、例えば、「理化学辞典」第五版(2000年)に記載されている。好ましいブレンステッド酸の例としては、硫酸、過塩素酸、リン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などを挙げることができる。好ましいルイス酸の例としては、塩化亜鉛、塩化スズ、塩化アンチモン、塩化マグネシウムなどを挙げることができる。
【0031】
前記触媒としては、硫酸または過塩素酸がより好ましく、硫酸が特に好ましい。硫酸と他の触媒を組み合わせて用いることも好ましい。触媒の好ましい添加量は、セルロースに対して、好ましくは0.1〜30質量%であり、より好ましくは1〜15質量%であり、さらに好ましくは3〜12質量%である。
【0032】
(溶媒)
アシル化を行う際には、粘度、反応速度、攪拌性、アシル置換比などを調整する目的で、溶媒を添加してもよい。このような溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、カルボン酸、アセトン、エチルメチルケトン、トルエン、ジメチルスルホキシド、スルホランなどを用いることもできるが、好ましくはカルボン酸であり、例えば、炭素数2〜7のカルボン酸(例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、2−メチルプロピオン酸、吉草酸、3−メチル酪酸、2−メチル酪酸、2,2−ジメチルプロピオン酸(ピバル酸)、ヘキサン酸、2−メチル吉草酸、3−メチル吉草酸、4−メチル吉草酸、2,2−ジメチル酪酸、2,3−ジメチル酪酸、3,3−ジメチル酪酸、シクロペンタンカルボン酸)などを挙げることができ、さらに好ましくは、酢酸、プロピオン酸、酪酸などを挙げることができる。これらの溶媒は混合して用いてもよい。
【0033】
(アシル化の条件)
アシル化を行う際には、酸無水物と触媒、さらに、必要に応じて溶媒を混合してからセルロースと混合してもよく、またこれらを別々に逐次セルロースと混合してもよいが、通常は、酸無水物と触媒との混合物、または、酸無水物と触媒と溶媒との混合物をアシル化剤として調製してからセルロースと反応させることが好ましい。アシル化の際の反応熱による反応容器内の温度上昇を抑制するために、アシル化剤は予め冷却しておくことが好ましい。冷却温度としては、−50℃〜20℃が好ましく、−35℃〜10℃がより好ましく、−25℃〜5℃がさらに好ましい。アシル化剤は液状で添加しても、凍結させて結晶、フレーク、またはブロック状の固体として添加してもよい。
【0034】
アシル化剤はさらに、セルロースに対して一度に添加してもよいし、分割して添加してもよい。また、アシル化剤に対してセルロースを一度に添加してもよいし、分割して添加してもよい。アシル化剤を分割して添加する場合は、同一組成のアシル化剤を用いても、複数の組成の異なるアシル化剤を用いてもよい。好ましい例としては、1)酸無水物と溶媒の混合物をまず添加し、次いで、触媒を添加する、2)酸無水物、溶媒と触媒の一部の混合物をまず添加し、次いで、触媒の残りと溶媒の混合物を添加する、3)酸無水物と溶媒の混合物をまず添加し、次いで、触媒と溶媒の混合物を添加する、4)溶媒をまず添加し、酸無水物と触媒との混合物あるいは酸無水物と触媒と溶媒との混合物を添加する、などの方法を挙げることができる。
【0035】
セルロースのアシル化は発熱反応であるが、本発明におけるセルロースアシレートを製造する方法においては、アシル化の際の最高到達温度が50℃以下であることが好ましい。反応温度が50℃以下であれば、解重合が進行して本発明の用途に適した重合度のセルロースアシレートを得難くなるなどの不都合が生じないため好ましい。アシル化の際の最高到達温度は、好ましくは45℃以下であり、より好ましくは40℃以下であり、さらに好ましくは35℃以下であり、特に好ましくは30℃以下である。反応温度は温度調節装置を用いて制御してもよいし、アシル化剤の初期温度で制御してもよい。また、反応容器を減圧して、反応系中の液体成分の気化熱で反応温度を制御することもできる。さらに、アシル化の際の発熱は反応初期が大きいため、反応初期には冷却し、その後は加熱するなどの制御を行うこともできる。アシル化の終点は、光線透過率、溶液粘度、反応系の温度変化、反応物の有機溶媒に対する溶解性、偏光顕微鏡観察などの手段により決定することができる。
【0036】
反応の最低温度は−50℃以上が好ましく、−30℃以上がより好ましく、−20℃以上がさらに好ましい。アシル化時間は0.5時間〜24時間が好ましく、1時間〜12時間がより好ましく、1.5時間〜6時間がさらに好ましい。0.5時間では通常の反応条件では反応が十分に進行せず、24時間を越えると、工業的な製造のために好ましくない。
(アシル組成)
アシル化工程は下記式(B)を満足することが好ましい。
式(B): 0<(MA/MB)≦2.0
式中、MAはアシル化工程中の反応混合物に含まれるアセチル基の総モル量を表す。具体的には、アシル化剤に含まれるアセチル基と、前処理工程に使用したカルボン酸に含まれるアセチル基と、生成したセルロースアシレートに含まれるアセチル基の合計モル量である。また、MBはアシル化工程中の反応混合物に含まれる炭素数3〜7のアシル基の総モル量を表す。具体的には、アシル化剤に含まれる炭素数3〜7のアシル基と、前処理工程に使用したカルボン酸に含まれる炭素数3〜7のアシル基と、生成したセルロースアシレートに含まれる炭素数3〜7のアシル基の合計モル量である。
このように、アセチル基の総モル量および炭素数3〜7のアシル基の総モル量は、前処理工程に用いた活性化剤、アシル化剤(酸無水物、カルボン酸)、溶媒(カルボン酸)の組成と量により決定される。本発明において酸無水物のアシル基の量は、構成するカルボン酸に換算して計算する。すなわち、酸無水物1モルあたりのアシル基は2モルであるというように計算する。同様に、生成したセルロースアシレート中のアシル基のモル数は、全てのエステル結合を加水分解した時に生じるカルボン酸に換算して計算する。セルロースのアシル化の進行によって反応混合物中の酸無水物とカルボン酸の量は逐時変化するが、このような計算を行うことにより、反応混合物中の酸無水物、カルボン酸および生成したセルロースアシレート中に含まれる全てのアシル基の総モル数は、反応系に新たに酸無水物やカルボン酸を追加しない限り、アシル化の過程を通じて一定である。
また、本発明のアシル化工程とは、セルロースの水酸基のアシル化が開始してから、実質的にセルロースのほとんどの水酸基がアシル化されるまでの間(例えば、アシル置換度2.0以上、好ましくは2.5以上、さらに好ましくは2.8以上、特に好ましくは2.9以上)を指し、アシル化が実質的にほとんど終了し、反応系に酸無水物やカルボン酸をさらに添加しても、もはや生成物であるセルロースアシレートのアシル組成にほとんど影響が及ばなくなった段階は含まない。
本発明において、MA/MBとして好ましくは、0<(MA/MB)≦2.0であり、より好ましくは0.001≦(MA/MB)≦1.5であり、さらに好ましくは0.01≦(MA/MB)≦1.0であり、特に好ましくは0.05≦(MA/MB)≦0.7である。MA/MBが2を超えた場合には、セルロースアシレートのアセチル置換度が高くなり過ぎることにより、延伸性が低下したり、溶融製膜において融解温度が高くなって製膜が困難になるなどの問題が発生する場合がある。
【0037】
(反応停止剤)
本発明に用いられるセルロースアシレートを製造する方法においては、アシル化反応の後に、反応停止剤を加えることが好ましい。
前記反応停止剤としては、酸無水物を分解するものであればいかなるものでもよく、好ましい例として、水、アルコール(例えば、エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロピルアルコールなど)またはこれらを含有する組成物などを挙げることができる。また、反応停止剤には、後述の中和剤を含んでいてもよい。反応停止剤の添加に際しては、反応装置の冷却能力を超える大きな発熱が生じて、セルロースアシレートの重合度を低下させる原因となったり、セルロースアシレートが望まない形態で沈殿したりする場合があるなどの不都合を避けるため、水やアルコールを直接添加するよりも、酢酸、プロピオン酸、酪酸等のカルボン酸と水との混合物を添加することが好ましく、カルボン酸としては酢酸が特に好ましい。カルボン酸と水との組成比は任意の割合で用いることができるが、水の含有量が好ましくは5質量%〜80質量%、より好ましくは10質量%〜60質量%、さらに好ましくは15質量%〜50質量%の範囲である。
【0038】
前記反応停止剤は、アシル化の反応容器に添加しても、反応停止剤の容器に反応物を添加してもよい。反応停止剤は3分間〜3時間かけて添加することが好ましい。反応停止剤の添加時間が3分間以上であれば、発熱が大きくなりすぎて重合度低下の原因となったり、酸無水物の加水分解が不十分になったり、セルロースアシレートの安定性を低下させたりするなどの不都合が生じないので好ましい。また反応停止剤の添加時間が3時間以下であれば、工業的な生産性の低下などの問題も生じないので好ましい。反応停止剤の添加時間として、好ましくは4分間〜2時間であり、より好ましくは5分間〜1時間であり、特に好ましくは10分間〜45分間である。反応停止剤を添加する際には反応容器を冷却しても冷却しなくてもよいが、解重合を抑制する目的から、反応容器を冷却して温度上昇を抑制することが好ましい。また、反応停止剤を冷却しておくことも好ましい。
【0039】
(中和剤)
アシル化の反応停止工程あるいはアシル化の反応停止工程後に、系内に残存している過剰の無水カルボン酸の加水分解、カルボン酸およびエステル化触媒の一部または全部の中和、残留硫酸根量と残留金属量の調整などのために、中和剤またはその溶液を添加してもよい。
中和剤の好ましい例としては、アンモニウム、有機4級アンモニウム(例えば、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、ジイソプロピルジエチルアンモニウムなど)、アルカリ金属(好ましくは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、より好ましくは、リチウム、ナトリウム、カリウム、さらに好ましくは、ナトリウム、カリウム)、2族の元素(好ましくは、ベリリウム、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム、ベリリウム、カルシウム、マグネシウム、より好ましくは、カルシウム、マグネシウム)、3〜12族の金属(例えば、鉄、クロム、ニッケル、銅、鉛、亜鉛、モリブデン、ニオブ、チタンなど)または13〜15族の元素(例えば、アルミニウム、スズ、アンチモンなど)の、炭酸塩、炭酸水素塩、有機酸塩(例えば、酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、安息香酸塩、フタル酸塩、フタル酸水素塩、クエン酸塩、酒石酸塩など)、リン酸塩、水酸化物または酸化物などを挙げることができる。これら中和剤は混合して用いても良く、混合塩(例えば、酢酸プロピオン酸マグネシウム、酒石酸カリウムナトリウムなど)を形成していても良い。また、これらの中和剤のアニオンが2価以上の場合は、水素塩(例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、リン酸2水素ナトリウム、リン酸水素マグネシウムなど)を形成していてもよい。
中和剤としてさらに好ましくは、アンモニウム、アルカリ金属、2族元素または13族元素の、炭酸塩、炭酸水素塩、有機酸塩、水酸化物または酸化物などであり、特に好ましくは、ナトリウム、カリウム、マグネシウムまたはカルシウムの、炭酸塩、炭酸水素塩、酢酸塩または水酸化物である。
中和剤の溶媒としては、水、アルコール(例えばエタノール、メタノール、プロパノール、イソプロピルアルコールなど)、有機酸(例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸など)、ケトン(例えば、アセトン、エチルメチルケトンなど)、ジメチルスルホキシドなどの極性溶媒、および、これらの混合溶媒を好ましい例として挙げることができる。
【0040】
(部分加水分解)
このようにして得られたセルロースアシレートは、アシル置換度がほぼ3に近いものであるが、所望の置換度のものを得る目的で、少量の触媒(一般には、残存する硫酸などのアシル化触媒)と水との存在下で、20〜90℃に数分間〜数日間保つことによりエステル結合を部分的に加水分解し、セルロースアシレートのアシル置換度を所望の程度まで減少させること(いわゆる熟成)が一般的に行われる。部分加水分解の過程でセルロースの硫酸エステルも加水分解されることから、加水分解の条件を調節することにより、セルロースに結合した硫酸エステルの量を削減することができる。
【0041】
(部分加水分解の停止)
所望のセルロースアシレートが得られた時点で、系内に残存している触媒を、上述のような中和剤またはその溶液を用いて完全に中和し、部分加水分解を停止させることが好ましい。
触媒として硫酸を用いた場合は、反応混合物に添加する中和剤の量は、硫酸根(遊離の硫酸、セルロースの結合硫酸)に対して過剰当量であることが好ましい。本発明においては、中和剤を分割して添加することもできるが、部分加水分解(熟成)の完了後に、中和剤の量を硫酸根に対して過剰当量になるように添加することが好ましい。セルロースに結合した硫酸(セルロースサルフェート)は1価の酸であるが、遊離した硫酸に換算して中和剤の当量を計算する。これにより、中和剤の当量は添加した硫酸の量から求めることが可能となる。中和剤の好ましい添加量は、硫酸根に対して好ましくは1.2〜50当量であり、より好ましくは1.3〜20当量であり、さらに好ましくは1.5〜10当量である。
反応溶液に対して溶解性が低い塩を生成する中和剤(例えば、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウムなど)を添加することにより、溶液中あるいはセルロースに結合した触媒(例えば、硫酸エステル)を効果的に除去することも好ましい。
【0042】
(後加熱工程)
上記部分加水分解の停止後の反応混合物を、さらに30℃〜100℃に少なくとも1時間保持すること(後加熱工程)が好ましい。本工程を実施することにより、セルロースアシレートの結合硫酸量を低下させ、熱安定性の良好なセルロースアシレートを得ることができる。本工程によって、セルロースアシレートの結合硫酸量が低下する理由については、詳細は明らかではないが、過剰の塩基の存在下でセルロースアシレート溶液を加熱することにより、アシルエステルに比べて加水分解されやすい硫酸エステルが徐々に脱エステル化され、遊離した硫酸が塩基によって中和されることで平衡が生成系に偏ることが、反応を促進していると考えている。
後加熱工程において、保持する温度は好ましくは30℃〜100℃であり、より好ましくは40℃〜100度であり、さらに好ましくは50℃〜90℃であり、特に好ましくは60℃〜80℃である。温度を30℃以上とすることにより、結合硫酸量の低減効果がより発揮されやすい傾向にあり、100℃以下とすることにより、操作性や安全性がより容易になる傾向にある。また、後加熱工程において保持する時間は、好ましくは1時間〜100時間であり、より好ましくは2時間〜100時間であり、さらに好ましくは2時間〜50時間である。1時間以上とすることにより、結合硫酸量をより効果的に低減でき、100時間以下とすることにより、工業的生産性の観点からより好ましいものとなる傾向にある。後加熱工程においては、反応混合物は攪拌することが好ましい。また、中和剤を後加熱工程中に追加添加してもよい。
【0043】
(再沈殿)
このようにして得られたセルロースアシレート溶液を、水および/またはカルボン酸(例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸など)水溶液のような貧溶媒中に混合するか、セルロースアシレート溶液中に、貧溶媒を混合することにより、セルロースアシレートを再沈殿させ、洗浄および安定化処理により目的のセルロースアシレートを得ることができる。再沈殿は連続的に行っても、一定量ずつバッチ式で行ってもよい。セルロースアシレート溶液の濃度および貧溶媒の組成をセルロースアシレートの置換様式あるいは重合度により調整することで、再沈殿したセルロースアシレートの形態や分子量分布を制御することも好ましい。
また、本発明以外の製造方法によるセルロースアシレートの精製、本発明の製造方法によるセルロースアシレートの精製効果の向上、分子量分布や見かけ密度の調節などの目的から、一旦再沈殿させたセルロースアシレートをその良溶媒(例えば、酢酸やアセトンなど)に再度溶解し、上述のろ過を実施して、これに貧溶媒(例えば、水、カルボン酸(例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸)など)を作用させることにより再沈殿を行う操作を、必要に応じて1回ないし複数回行っても良い。また、このときに用いる溶媒および貧溶媒は、あらかじめろ過を行って、含有される微小異物を除去することが好ましい。
【0044】
(洗浄)
生成したセルロースアシレートは洗浄処理することが好ましい。洗浄溶媒はセルロースアシレートの溶解性が低く、かつ、不純物を除去することができるものであればいかなるものでもよいが、通常は水または温水等の洗浄水が用いられる。洗浄水の温度は、好ましくは20℃〜100℃であり、さらに好ましくは30℃〜95℃であり、特に好ましくは40℃〜95℃である。洗浄時の温度は、一定であっても任意の温度範囲で変化させても良いが、本発明においては、セルロースアシレートを、好ましくは40℃〜95℃、より好ましくは50℃〜95℃、さらに好ましくは60℃〜90℃において、好ましくは1時間〜100時間、より好ましくは2時間〜50時間、さらに好ましくは3時間〜10時間洗浄する工程を含むことが好ましい。上記の40℃〜95℃での洗浄と、これ以外の温度範囲での洗浄を組み合わせても良い。
洗浄処理はろ過と洗浄液との交換を繰り返すいわゆるバッチ式で行ってもよいし、連続洗浄装置を用いて行ってもよい。再沈殿および洗浄の工程で発生した廃液を再沈殿工程の貧溶媒として再利用したり、蒸留などの手段によりカルボン酸などの溶媒を回収して再利用することも好ましい。
洗浄の進行はいかなる手段で追跡を行ってよいが、水素イオン濃度、イオンクロマトグラフィー、電気伝導度、ICP、元素分析、原子吸光スペクトルなどの方法を好ましい例として挙げることができる。
このような処理により、セルロースアシレート中の触媒(硫酸、過塩素酸、トリフルオロ酢酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、塩化亜鉛など)、中和剤(例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウムまたは亜鉛の炭酸塩、酢酸塩、水酸化物または酸化物など)、中和剤と触媒との反応物、カルボン酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸など)、中和剤とカルボン酸との反応物などを除去することができ、このことはセルロースアシレートの安定性を高めるために有効である。
【0045】
(安定化)
温水処理による洗浄後のセルロースアシレートは、安定性をさらに向上させたり、カルボン酸臭を低下させるために、弱アルカリ(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウムなどの炭酸塩、炭酸水素塩、水酸化物、酸化物など)の水溶液などで処理することも好ましい。このときに用いる安定化剤の溶液はろ過を行って、含有される微小異物を除去することが好ましい。
残存不純物の量は、使用する水の金属含有量(洗浄水などに使用する水に微量成分として含有される金属イオンの量)、洗浄液の量、洗浄の温度、時間、攪拌方法、洗浄容器の形態、安定化剤の組成や濃度により制御できる。本発明においては、残留硫酸根量(硫黄原子の含有量として)が50〜500ppmになるようにアシル化、部分加水分解、中和および洗浄の条件を設定することが好ましい。部分加水分解、中和および洗浄の条件により残留アルカリ金属量ならびに2族元素量についても調節することができる。
本発明においては、式(4)で定義されるセルロースアシレート中に含有される残留硫酸根量、すなわち、硫黄のモル含量(S)と、アルカリ金属(カリウム、ナトリウムなど)およびアルカリ土類金属(2属の元素)(マグネシウム、カルシウムなど)のモル含量(M)の比(M/S)が0.5〜2である。(M/S)は好ましくは、0.7〜1.5である。
式(4): M/S=(アルカリ金属のモル含量/2 + アルカリ土類金属のモル含量)
/硫黄のモル含量
また、本発明においては、カリウムの含有量が25ppm以下、かつ、ナトリウムの含有量が25ppm以下であることが好ましい。
セルロースアシレートがこれらの関係を満足すれば、熱安定性をより良好にすることができる。カリウム、ならびに、ナトリウムの含有量の下限については特に制限はない。
【0046】
(乾燥)
本発明においてセルロースアシレートの含水率を好ましい量に調整するためには、セルロースアシレートを乾燥することが好ましい。乾燥の方法については、目的とする含水率が得られるのであれば特に限定されないが、加熱、送風、減圧、攪拌などの手段を単独または組み合わせで用いることで効率的に行うことが好ましい。乾燥温度として好ましくは0〜200℃であり、より好ましくは40〜180℃であり、さらに好ましくは50〜160℃である。本発明におけるセルロースアシレートは、その含水率が2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.7質量%以下であることがさらに好ましい。
【0047】
(ろ過)
このような製造法により製造されたセルロースアシレートは、未反応セルロースや、原料や反応装置などから混入する異物を含有することが多く、光学フィルムに用いる場合には、これらの異物が問題になる場合がある。
このような問題を解決することを目的として、本発明においては該セルロースアシレートを溶媒に溶解して溶液を調整した後、保留粒子サイズが0.1μm〜40μmのフィルターを用いてろ過を行い、さらに、貧溶媒と混合してセルロースアシレートを再沈殿させる。
【0048】
(溶媒)
セルロースアシレートの溶媒としては、セルロースアシレートの溶解性が高いものであれば、いかなるものでも良い。好ましい例としては、カルボン酸(ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸など)ケトン(アセトン、エチルメチルケトン、エチルイソブチルケトンなど)、エステル(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピルなど)、ハロゲン系溶剤(ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタンなど)を挙げることができる。溶媒は、1種類単独でも、2種類以上の混合物であってもよい。
溶媒としてさらに好ましくは、カルボン酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸など)ケトン(アセトン、エチルメチルケトン、エチルイソブチルケトンなど)であり、特に好ましくは、カルボン酸(酢酸、プロピオン酸など)ケトン(アセトンなど)である。
また、再沈殿に用いる好ましい貧溶媒としては、水、アルコール(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノールなど)、炭化水素系溶剤(ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、トルエンなど)を挙げることができる。貧溶媒は、1種類単独でも、2種類以上の混合物であってもよい。さらに、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、貧溶媒と他の溶媒の混合物も用いることができる。
貧溶媒としてさらに好ましくは、水、アルコール(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなど)であり、特に好ましくは、水、アルコール(メタノールなど)である。
【0049】
(ろ過の具体的方法)
ろ過に用いるフィルターの保留粒子サイズは、好ましくは1μm〜30μmであり、より好ましくは1μm〜20μmであり、さらに好ましくは2μm〜20μmである。フィルターの保留粒子サイズを0.1μm以上とすることにより、ろ過圧が著しく上昇するのを抑止できる傾向にあり、工業的な生産も行いやすくなる。また、保留粒子サイズを40μm以下とすることにより、微小異物をより効果的に除去でき、得られるフィルムの光学的性能がより向上する傾向にある。また、ろ過は2回以上繰り返すことが好ましく、保留粒子サイズの異なるフィルターを組み合わせて用いてもよい。
濾過の際の温度は、濾過が可能であれば任意の温度で行うことが可能であるが、好ましくは30〜100℃、より好ましくは35〜80℃、さらに好ましくは40〜70℃に加熱することにより溶液の粘度を低下させることができるため好ましい。
また、ろ過圧は0.001MPa〜10MPaの範囲で行うことが好ましく、0.001MPa〜5MPaの範囲で行うことがより好ましく、0.01MPa〜1MPaの範囲で行うことがより好ましい。
本発明においてはセルロースアシレート中の未反応物、難溶解性塩、その他の異物などをさらに効果的に除去または削減することを目的として、アシル化工程の開始から再沈殿工程の前のいずれかにおいて、セルロースアシレートにカルボン酸を添加した溶液を、保留粒子サイズが0.1μm〜40μmのフィルターを用いてろ過することが好ましい。保留粒子サイズはJIS P 3801で規定された方法により求めることができる。
特に、本発明におけるろ過は、少なくとも、再沈殿工程の直前の工程において行うと、製品の品質安定性および濾過粘度の低下という観点から好ましい。また、2段階ろ過を行う場合、保留粒子サイズが20〜40μmのフィルターで粗濾過を実施し、さらに、保留粒子サイズが0.1〜20μmのフィルターで濾過を行うことが好ましい。本発明の濾過に先立って、保留粒子サイズが40μm〜100μmのフィルターで予備的な濾過を行ってもよい。
【0050】
本発明の製造方法におけるフィルターの材質は溶媒によって悪影響を受けないものであれば特に限定されないが、好ましい例としては、セルロース系フィルター、金属フィルター、セラミック焼結フィルター、テフロンフィルター(PTFEフィルター)(テフロン:登録商標)、ポリエーテルサルホンフィルター、ポリプロピレンフィルター、ポリエチレンフィルター、ガラス繊維性フィルターなどを挙げることができ、これらを組み合わせて使用してもよい。
フィルターの材質として、電荷的捕捉機能を有するフィルターもまた、好ましく用いることができる。電荷的捕捉機能を有するフィルターとは、電気的に荷電異物を捕捉除去する機能を有するフィルターであり、通常、濾材に電荷を付与したものが用いられる。このようなフィルターの例としては、特表平4−504379号公報、特開2000−212226号公報などに記載されたものを選択することができる。
また、ろ過助剤として、セライト、層状粘土鉱物(好ましくは、タルク、マイカ、カオリナイト、さらに好ましくはタルク)などをセルロースアシレート溶液に混合し、これをろ過するいわゆるケークろ過を行う方法も好ましく用いることができる。
ろ過圧や取り扱い性の制御の目的から、ろ過に先立って適切な溶媒で希釈することも好ましい。
ろ過は加圧ろ過、減圧ろ過、常圧ろ過などから選択することができるが、加圧ろ過を行うことが好ましい。
【0051】
(異物の量)
本発明のセルロースアシレート組成物中に含有される粒子サイズが40μm以上である異物の含有量は、0.1個/g以下であることが好ましく、0.05個/g以下であることがより好ましく、0.01個/g以下であることがさらに好ましい。
異物の含有量は、顕微鏡、光散乱式微粒子検出器を用いて測定することができる。異物の形状は、通常、針状または、粒状であるが、それに限定されない。本発明において異物の定量は、未反応セルロースのみならず、外部から混入した不純物のほか、ゲル化物、副反応物など、セルロースアシレートに相溶化しないものの全てを含む。
【0052】
(重合度)
本発明で用いられるセルロースアシレートの重合度は、GPC法による数平均重合度が好ましくは80〜1000、より好ましくは100〜850、さらに好ましくは120〜650であり、特に好ましくは130〜450である。このとき、GPC法による数平均重合度とは、数平均分子量を繰り返し単位の平均分子量で除すことで求めることができる。
平均重合度は、ゲル浸透クロマトグラフィー (GPC)による分子量分布測定の他に、宇田らの極限粘度法(宇田和夫、斉藤秀夫、繊維学会誌、第18巻第1号、105〜120頁、1962年)などの方法によっても測定できる。これらについては、さらに特開平9−95538号公報に詳細に記載されている。
本発明においては、セルロースアシレートの重量平均重合度/数平均重合度が1.0〜5であることが好ましく、1.3〜4であることがさらに好ましく、1.5〜3.5であることが特に好ましい。
【0053】
本発明において置換基の平均置換度は、1H−NMRあるいは13C−NMRにより決定することができる。
【0054】
本発明においては異なる2種類以上のセルロースアシレートを混合または層を分けて用いてもよい。
【0055】
(形態)
本発明の製造方法では、溶液、溶融物、ゲル、ペレットまたはフィルムであることが好ましく、ペレットまたはフィルムであることがより好ましい。
ペレットには、粒子状、粉末状、繊維状、塊状、など種々の形状が含まれる。
セルロースアシレートフィルム製造の原料としては粒子状または粉末状であることが好ましいことから、乾燥後のセルロースアシレート組成物は、粒子サイズの均一化や取り扱い性の改善のために、粉砕や篩がけを行ってもよい。セルロースアシレート組成物が粒子状であるとき、使用する粒子の90質量%以上は、0.5〜5mmの粒子サイズを有することが好ましい。また、使用する粒子の50質量%以上が1〜4mmの粒子サイズを有することが好ましい。セルロースアシレート組成物粒子は、なるべく球形に近い形状を有することが好ましい。また、本発明の製造方法で得られるセルロースアシレート組成物は、見かけ密度が好ましくは0.5〜1.3g/cm3、より好ましくは0.7〜1.2g/cm3、さらに好ましくは0.8〜1.15g/cm3である。見かけ密度の測定法に関しては、JIS K−7365に規定されている。
本発明の製造方法により得られるセルロースアシレート組成物は安息角が10〜70度であることが好ましく、15〜60度であることがより好ましく、20〜50度であることがさらに好ましい。
【0056】
<セルロースアシレートフィルムの光学的性質>
次に、本発明の製造方法により得られるセルロースアシレートフィルムについて説明する。本発明の製造方法により得られるセルロースアシレートフィルムは、下記の式(i)および(ii)を満足することが好ましい。
式(i): −500nm≦Re≦500nm
式(ii): −500nm≦Rth≦500nm
Reは−100nm〜250nmがより好ましく、0nm〜150nmがさらに好ましい。Rthは−200nm〜400nmがより好ましく、−100nm〜300nmがさらに好ましい。
【0057】
[レターデーション]
まず、本発明における各レターデーションについて説明する。本明細書において、Re、Rth(単位;nm)は次の方法に従って測定したものである。まず、フィルムを25℃、相対湿度60%にて24時間調湿後、プリズムカップラー(MODEL2010 Prism Coupler:Metricon製)を用い、25℃、相対湿度60%において、532nmの固体レーザーを用いて下記式(a)で表される平均屈折率(n)を求める。
式(a): n=(nTE×2+nTM)/3
[式中、nTEはフィルム平面方向の偏光で測定した屈折率であり、nTMはフィルム面法線方向の偏光で測定した屈折率である。]
【0058】
本明細書において、Re(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。Re(λ)はKOBRA 21ADHまたはWR(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。
測定されるフィルムが一軸または二軸の屈折率楕円体で表されるものである場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から−50°から+50°まで10°ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で11点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率および入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
上記において、λに関する記載が特になく、「Re」、「Rth」とのみ記載されている場合は、波長590nmの光を用いて測定した値のことを表す。また、法線方向から面内の遅相軸を回転軸として、ある傾斜角度にレターデーションの値がゼロとなる方向を持つフィルムの場合には、その傾斜角度より大きい傾斜角度でのレターデーション値はその符号を負に変更した後、KOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
なお、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の傾斜した2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率および入力された膜厚値を基に、以下の式(b)および式(c)よりRthを算出することもできる。
式(b):
【数1】

[式中、Re(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレタ−デーション値を表す。また、nxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnxおよびnyに直交する方向の屈折率を表す。]
式(c): Rth=((nx+ny)/2−nz)×d
測定されるフィルムが一軸や二軸の屈折率楕円体で表現できないもの、いわゆる光学軸(optic axis)がないフィルムの場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−50度から+50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて11点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率および入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
これら平均屈折率と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHまたはWRはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)がさらに算出される。
本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法は、特に限定されるものではないが、以下に記載する溶融製膜法または溶液製膜法により製造することが好ましく、製膜工程において実施する濾過の負荷を大きく低減できるというという理由から溶融製膜により製膜することがより好ましい。
【0059】
<溶融製膜>
本発明において、セルロースアシレートフィルムは、溶融製膜法により製造することできる。
【0060】
本発明において、セルロースアシレートは1種類のみを用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。また、本発明で用いるセルロースアシレート以外の高分子成分や、各種添加剤を適宜混合することもできる。混合される成分はセルロースアシレートとの相溶性に優れるものが好ましく、フィルムにしたときの透過率が好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは92%以上となるようにする。
【0061】
溶融製膜に用いるセルロースアシレート組成物の220℃の溶融粘度(製造されるセルロースアシレートフィルムの220℃の溶融粘度)は、好ましくは100Pa・s〜2000Pa・s、より好ましくは120Pa・s〜1500Pa・s、さらに好ましくは150Pa・sJ〜1000Pa・sである。
溶融粘度を上記の好ましい範囲にするには、セルロースアシレートの数平均重合度が70〜250であることが好ましく、より好ましくは90〜200であり、特に好ましくは120〜180である。また、重量平均重合度は150〜700であることが好ましく、より好ましくは200〜550、特に好ましくは250〜500である。
重合度を好ましい範囲の上限以下とすることにより、溶融粘度が高くなり過ぎず、製膜が容易になる傾向にある。一方、重合度を好ましい範囲の下限以上とすることにより、フィルムとしての強度が下がり過ぎず、また、溶融粘度が下がり過ぎて混練中に充分な剪断を掛けられず混練が不十分になってしまうのを抑止できる傾向にある。
【0062】
(安定剤)
本発明においては、高温溶融製膜時のセルロースアシレートの安定性を保つために、安定剤を添加することが有効である。特に、分子量500以上であるフェノール系安定剤の少なくとも一種、および分子量500以上である亜リン酸エステル系安定剤またはチオエーテル系安定剤から選ばれる少なくとも一種を添加することが好ましい。好ましいフェノール系安定剤は、公知の任意のフェノール系安定剤を使用することができる。好ましいフェノール系安定剤としては、ヒンダードフェノール系安定剤が挙げられる。特に、フェノール性水酸基に隣接する部位に置換基を有することが好ましく、その場合の置換基としては炭素数1〜22の置換または無置換のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、プロピオニル基、イソプロピオニル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、2−エチルへキシル基がより好ましい。また、同一分子内にフェノール基と亜リン酸エステル基を有する安定剤も好ましい素材として挙げられる。
【0063】
安定剤は、市販品として容易に入手可能であり、下記のメーカーから販売されている。チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社から、Irganox1076、Irganox1010、Irganox3113、Irganox245、Irganox1135、Irganox1330、Irganox259、Irganox565、Irganox1035、Irganox1098、Irganox1425WL、として入手することができる。また、旭電化工業株式会社から、アデカスタブ AO−50、アデカスタブ AO−60、アデカスタブ AO−20、アデカスタブ AO−70、アデカスタブ AO−80として入手できる。さらに、住友化学株式会社から、スミライザーBP−76、スミライザーBP−101、スミライザーGA−80、として入手できる。また、シプロ化成株式会社からシーノックス326M、シーノックス336B、としても入手することが可能である。
【0064】
また、酸化防止効果を有する分子量500以上の亜リン酸エステル系安定剤を含有することも好ましい。これらの化合物の例としては、特開2004−182979号公報の[0023]〜[0039]に記載の化合物、特開昭51−70316号公報、特開平10−306175号公報、特開昭57−78431号公報、特開昭54−157159号公報、特開昭55−13765号公報に記載の化合物から挙げることができる。さらに、その他の安定剤としては、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)17頁〜22頁に詳細に記載されている素材の中から選択して用いることができる。これらは、旭電化工業株式会社からアデカスタブ1178、同2112、同PEP−8、同PEP−24G、PEP−36G、同HP−10として、またクラリアント社からSandostab P−EPQとして市販されており、入手可能である。
【0065】
また、チオエーテル系安定剤としては、公知の任意のチオエーテル系安定剤を用いることができる。住友化学株式会社からスミライザーTPL、同TPM、同TPS、同TDPとして市販されている。旭電化工業株式会社から、アデカスタブAO−412Sとしても入手可能である。これらの安定剤の使用に際しては、フェノール系安定剤の少なくとも一種、および亜リン酸エステル系安定剤またはチオエーテル系安定剤から選ばれる少なくとも一種がセルロースアシレートに対してそれぞれ0.02〜3質量%含有することが好ましく、特には0.05〜1質量%含有することである。フェノール系安定剤と、亜リン酸エステル系安定剤またはチオエーテル系安定剤の含有量はその比率は特に限定されないが、好ましくは1/10〜10/1(質量部)であり、より好ましくは1/5〜5/1(質量部)であり、さらに好ましくは1/3〜3/1(質量部)であり、特には1/3〜2/1(質量部)が好ましい。
【0066】
さらに、本発明においては同一分子内にフェノール基と亜リン酸エステル基を有する安定剤も推奨される。それらの素材は特開平10−273494号公報に記載されている。市販品として、スミライザーGP(住友化学工業株式会社)が挙げられる。さらに、特開昭61−63686号公報に記載の長鎖脂肪族アミン、特開平6−329830号公報に記載の立体障害アミン基を含む化合物、特開平7−90270号公報に記載のヒンダードピペリジニル系光安定剤、特開平7−278164号公報に記載の有機アミン等も使用し得る。好ましいアミン系安定剤は、旭電化からアデカスタブLA−57、同LA−52、同LA−67、同LA−62、同LA−77として、またチバ・スペシャリティーケミカルズ社からTINUVIN 765、同144として市販されている。アミン類の亜リン酸エステル類に対する使用比率は、通常0.01〜25質量%程度である。
【0067】
(可塑剤)
製膜時のセルロースアシレートに可塑剤を添加すれば、セルロースアシレートの結晶融解温度(Tm)を下げることができる。本発明に用いる可塑剤の分子量は特に限定されないが、好ましくは500以上、より好ましくは550以上、さらに好ましくは600以上の高分子量の可塑剤である。
可塑剤の種類としては、リン酸エステル類、アルキルフタリルアルキルグリコレート類、カルボン酸エステル類、多価アルコールの脂肪酸エステル類などが挙げられる。それらの可塑剤の形状としては固体でもよく油状物でもよい。すなわち、その融点や沸点において特に限定されるものではない。溶融製膜を行なう場合は、不揮発性を有するものを特に好ましく使用することができる。
【0068】
リン酸エステルとしては、例えば、リン酸トリフェニル、リン酸トリクレジル、リン酸フェニルジフェニル等を挙げることができる。
【0069】
アルキルフタリルアルキルグリコレート類としては、例えば、メチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等が挙げられる。
【0070】
カルボン酸エステルとしては、例えば、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチルおよびフタル酸ジエチルヘキシル等のフタル酸エステル類、およびクエン酸アセチルトリメチル、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル等のクエン酸エステル類を挙げることができる。その他、オレイン酸ブチル、リノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、トリアセチン等を単独または併用することも好ましい。
【0071】
これらの可塑剤の添加量は、セルロースアシレート組成物の0質量%〜15質量%が好ましく、0質量%〜10質量%がより好ましく、0質量%〜8質量%が特に好ましい。これらの可塑剤は、必要に応じて2種類以上を併用して用いてもよい。
【0072】
(紫外線吸収剤)
セルロースアシレート組成物には、紫外線防止剤を添加してもよい。紫外線防止剤については、特開昭60−235852号、特開平3−199201号、同5−1907073号、同5−194789号、同5−271471号、同6−107854号、同6−118233号、同6−148430号、同7−11056号、同7−11055号、同7−11056号、同8−29619号、同8−239509号、特開2000−204173号の各公報に記載がある。その添加量は、溶融製膜する場合、調製する溶融物(メルト)の0.01〜2質量%であることが好ましく、0.01〜1.5質量%であることがより好ましい。
【0073】
これらの紫外線吸収剤は、市販品として下記のものがあり利用できる。ベンゾトリアゾール系としてはTINUBIN P(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、TINUBIN 234(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、TINUBIN 320(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、TINUBIN 326(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、TINUBIN 327(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、TINUBIN 328(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、スミソーブ340(住友化学社製)、アデカスタイプLA−31(旭電化工業社製)などがある。また、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、シーソーブ100(シプロ化成社製)、シーソーブ101(シプロ化成社製)、シーソーブ101S(シプロ化成社製)、シーソーブ102(シプロ化成社製)、シーソーブ103(シプロ化成社製)、アデカスタイプLA−51(旭電化工業社製)、ケミソープ111(ケミプロ化成社製)、UVINUL D−49(BASF社製)などを挙げられる。また、オキザリックアシッドアニリド系紫外線吸収剤としては、TINUBIN 312(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)やTINUBIN 315(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)がある。さらにサリチル酸系紫外線吸収剤としては、シーソーブ201(シプロ化成社製)やシーソーブ202(シプロ化成社製)が上市されており、シアノアクリレート系紫外線吸収剤としてはシーソーブ501(シプロ化成社製)、UVINUL N−539(BASF社製)がある。
【0074】
(微粒子)
本発明においては、溶融製膜に用いるセルロースアシレート組成物に微粒子を添加することも好ましく行われる。
本発明において微粒子としては、無機化合物の微粒子または有機化合物の微粒子が挙げられるが、いずれか一方でも、両方を含んでいてもよい。本発明におけるセルロースアシレートに含まれる微粒子の平均一次粒子サイズは、好ましくは5nm〜3μmであり、より好ましくは5nm〜2.5μmであり、特に好ましくは20nm〜2.0μmである。微粒子の添加量は、セルロースアシレートに対して0.005〜1.0質量%が好ましく、0.01〜0.8質量%がより好ましく、0.02〜0.4質量%がさらに好ましい。
本発明において「平均一次粒子サイズ」とは、分散状態(非凝集状態)にある微粒子の粒子サイズをいい、平均一次粒子サイズは、動的光散乱法(数nm〜1μm)、レーザー回折(0.1μm〜数千μm)、Mie理論に基づくレーザー回折・散乱法(数十nm〜1μm)などの既知の方法により測定することができる。
【0075】
無機化合物の微粒子の好ましい例としては、SiO2、ZnO、TiO2、SnO2、Al23、ZrO2、In23、MgO、BaO、MoO2、V25、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムおよびリン酸カルシウム等が挙げられる。SiO2、ZnO、TiO2、SnO2、Al23、ZrO2、In23、MgO、BaO、MoO2、およびV25の少なくとも1種がより好ましく、SiO2、TiO2、SnO2、Al23、ZrO2がさらに好ましい。
【0076】
前記SiO2の微粒子としては、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上、日本アエロジル(株)製)等の市販品が使用できる。また、前記ZrO2の微粒子としては、例えば、アエロジルR976およびR811(以上、日本アエロジル(株)製)等の市販品が使用できる。またシーホスターKE−E10、同E30、同E40、同E50、同E70、同E150、同W10、同W30、同W50、同P10、同P30、同P50、同P100、同P150、同P250(日本触媒)なども使用される。また、シリカマイクロビーズP−400、700(触媒化成工業株式会社製品)も利用できる。SO−G1、SO−G2、SO−G3、SO−G4、SO−G5、SO−G6、SO−E1、SO−E2、SO−E3、SO−E4、SO−E5、SO−E6、SO−C1、SO−C2、SO−C3、SO−C4、SO−C5、SO−C6、(株式会社アドマテックス 製)として利用することもできる。さらに、モリテックス(株)製シリカ粒子(水分散物を粉体化)8050、同8070、同8100、同8150も利用できる。
【0077】
有機化合物の微粒子の好ましい例としては、シリコーン樹脂、弗素樹脂およびアクリル樹脂等のポリマーが好ましく、シリコーン樹脂が特に好ましい。前記シリコーン樹脂としては、三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えばトスパール103、同105、同108、同120、同145、同3120および同240(以上、東芝シリコーン(株)製)等の商品名を有する市販品を使用できる。
【0078】
さらに、無機化合物からなる微粒子は、セルロースアシレート組成物ならびにフィルム中で安定に存在させるために表面処理されていることが好ましい。無機微粒子は、表面処理を施して用いることも好ましい。表面処理法としては、カップリング剤を使用する化学的表面処理と、プラズマ放電処理やコロナ放電処理のような物理的表面処理とがあるが、本発明においてはカップリング剤の使用が好ましい。前記カップリング剤としては、オルガノアルコキシ金属化合物(例えば、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等)が好ましく用いられる。微粒子として無機微粒子を用いた場合(特にSiO2を用いた場合)ではシランカップリング剤による処理が特に有効である。前記シランカップリング剤としてはオルガノシラン化合物が使用可能である。前記シランカップリング剤の使用量は特に限定されないが、好ましくは無機微粒子に対して0.005〜5質量%使用することが推奨され、0.01〜3質量%使用することが好ましい。
微粒子は製膜のいずれの工程でセルロースアシレートに混合してもよく、セルロースアシレートを製造する工程のうち、再沈殿の前までのいずれかの工程において微粒子を添加し、微粒子を含有する状態で再沈殿させることもまた好ましい。
【0079】
(離型剤)
本発明においては、溶融製膜に用いるセルロースアシレート組成物が、フッ素原子を有する化合物を含むことも好ましい。前記フッ素原子を有する化合物は、離型剤としての作用を発現でき、低分子量化合物であっても重合体であってもよい。重合体としては、特開2001−269564号公報に記載の重合体を挙げることができる。前記フッ素原子を有する重合体として好ましいものは、フッ素化アルキル基含有エチレン性不飽和単量体を必須成分として含有してなる単量体を重合せしめた重合体である。前記重合体に係わるフッ素化アルキル基含有エチレン性不飽和単量体としては、分子中にエチレン性不飽和基とフッ素化アルキル基とを有する化合物であれば特に制限はない。またフッ素原子を有する界面活性剤も利用でき、特に非イオン性界面活性剤が好ましい。
【0080】
(ペレット化)
上記セルロースアシレートと添加物は溶融製膜に先立ち混合しペレット化するのが好ましい。
ペレット化は上記セルロースアシレートと添加物を2軸あるいは1軸混練押出機を用い150℃〜250℃で溶融後、ヌードル状に押出したものを水中で固化し裁断することで作製することができる。水中に直接押出ながらカットするアンダーウオーターカット法でペレット化を行ってよい。混練押し出し機はベント式のものを用い減圧しながらペレットするのがより好ましい。さらに混練押し出し機中を窒素置換しながらペレット化するのもより好ましい。
好ましいペレットの大きさは断面積が1mm2〜300mm2、長さが1mm〜30mmであり、より好ましくは断面積が2mm2〜100mm2、長さが1.5mm〜10mmである。
押出機の回転数は、好ましくは10rpm〜1000rpmであり、より好ましくは30rpm〜500rpm以下である。ペレット化における押出滞留時間は、好ましくは10秒〜30分、より好ましくは30秒〜3分である。
【0081】
(溶融製膜の具体的方法)
以下に、溶融製膜の具体的な方法について説明する。
(1)乾燥
溶融製膜に先立ちペレット中の水分を乾燥して、含水率を好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下にする。
このための乾燥温度は40〜180℃が好ましく、乾燥風量は20〜400m3/時間が好ましく、100〜250m3/時間がさらに好ましい。乾燥風の露点は好ましくは0〜−60℃であり、より好ましくは−20〜−40℃である。
【0082】
(2)溶融押出し
乾燥したセルロースアシレート樹脂を押出機の供給口からシリンダー内に供給する。
押出機のスクリュー圧縮比は2.5〜4.5が好ましく、3.0〜4.0がより好ましい。L(スクリュー長)/D(スクリュー径)は20〜70が好ましく、24〜50がより好ましい。溶融温度は上述の温度で行うことが好ましい。
スクリューは、フルフライト、マドック、ダルメージ等を用いることができる。
樹脂の酸化防止のために、押出機内を不活性(窒素等)気流中、あるいはベント付き押出し機を用い真空排気しながら実施するのがより好ましい。
【0083】
(3)ろ過
押し出し機出口にて、ブレーカープレート式のろ過を行うことが好ましい。
高精度ろ過のために、ギアポンプ通過後にリーフ型ディスクフィルター型のろ過装置を設けることが好ましい。ろ過は、単段で行っても、多段で行ってもよい。濾材のろ過精度は3μm〜15μmが好ましく、3μm〜10μmがより好ましい。濾材はステンレス鋼,スチールを用いることが好ましく、中でもステンレス鋼が望ましい。濾材は線材を編んだもの、金属焼結濾材が使用でき、特に後者が好ましい。
【0084】
(4)ギアポンプ
厚み精度向上(吐出量の変動減少)のために、押出機とダイスの間にギアポンプを設置するのが好ましい。これにより、ダイ部分の樹脂圧変動巾を±1%以内にできる。
ギアポンプによる定量供給性能を向上させるために、スクリューの回転数を変化させて、ギアポンプ前の圧力を一定に制御する方法も好ましい。3枚以上のギアを用いた高精度ギアポンプも有効である。ギアポンプ内の滞留部分が樹脂劣化の原因となるため、滞留の少ない構造が好ましい。
押出機とギアポンプ、ギアポンプとダイ等をつなぐアダプタの温度変動を小さくすることが押出圧力安定のために好ましい。このためにアルミ鋳込みヒーターを用いることがより好ましい。
【0085】
(5)ダイ
ダイ内の溶融樹脂の滞留が少ない設計であれば、一般的に用いられるTダイ、フィッシュテールダイ、ハンガーコートダイのいずれのタイプでも構わない。また、Tダイの直前に樹脂温度の均一性アップのためのスタティックミキサーを入れることも問題ない。Tダイ出口部分のクリアランスは一般的にフィルム厚みの1.0〜5.0倍であり、好ましくは1.3〜2倍である。
ダイのクリアランスは40〜50mm間隔で調整可能であることが好ましく、25mm間隔以下で調整可能であることがより好ましい。また、下流のフィルム厚みを計測してダイの厚み調整にフィードバックさせる方法も厚み変動の低減に有効である。
機能層を外層に設けるため、多層製膜装置を用いて2種以上の構造を有するフィルムの製造も可能である。
樹脂が供給口から押出機に入ってからダイスから出るまでの樹脂の好ましい滞留時間は2分〜60分であり、より好ましくは4分〜30分である。
【0086】
(6)キャスト
ダイよりシート上に押し出された溶融樹脂をキャスティングドラム上で冷却固化し、フィルムを得る。この時、タッチロールを用いることも好ましい。
キャスティングドラムは好ましくは1〜8本、より好ましくは2〜5本用い、徐冷することが好ましい。キャスティングロール、タッチロールの直径は50mm〜5000mmが好ましく、さらに好ましくは150mm〜1000mmである。複数本あるキャスティングロールの間隔は、面間で0.3mm〜300mmが好ましく、さらに好ましくは3mm〜30mmである。
この後、キャスティングドラムから剥ぎ取り、ニップロールを経た後巻き取る。このようにして得た未延伸フィルムの厚みは30μm〜400μmが好ましく、より好ましくは50μm〜200μmである。
【0087】
(7)巻き取り
巻き取り前に両端をトリミングすることが好ましい。トリミングされた部分はフィルム用原料として再利用してもよい。トリミングカッターはロータリーカッター、シャー刃、ナイフ等いずれを用いても構わない。材質についても、炭素鋼、ステンレス鋼、セラミックを用いることができる。
好ましい巻き取り張力は1kg/m幅〜50kg/幅、より好ましくは3kg/m幅〜20kg/m幅である。巻き取り張力は、一定の巻き取り張力で巻き取ってもよいが、巻取り径に応じてテーパーをつけ巻取ることがより好ましい。
またニップロール間のドロー比率を調整し、ライン途中でフィルムに規定以上の張力がかからない様にすることが必要である。
巻き取り前に、少なくとも片面にラミネートフィルムを付けてもよい。
【0088】
本発明のセルロースアシレート組成物がフィルムである場合、製膜された時点の残留有機溶媒量は好ましくは0.03質量%以下、より好ましくは0.02%以下、さらに好ましくは0.01%以下である。残留溶媒がこのような範囲にある場合には、溶媒の臭気の発生や、溶媒の蒸発によるフィルムの特性変化が起きにくく好ましい。溶融製膜法は残留溶媒を少なくするのに有効な方法である。
残留溶媒の量は、ガスクロマトグラフィー法などにより測定することができる。
【0089】
<溶液製膜>
次に、本発明のセルロースアシレートを溶液製膜法により製造する場合の好ましい形態について説明する。
本発明においては、セルロースアシレートが溶解し流延、製膜できて、その目的が達成できる限りは、セルロースアシレートの溶媒は特に限定されない。好ましい溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、テトラクロロエチレンなどの塩素系有機溶剤、ならびに非塩素系有機溶媒を挙げることができる。
本発明で用いられる非塩素系有機溶媒は、炭素数が3〜12のエステル、ケトン、エーテルから選ばれる溶媒が好ましい。エステル、ケトンおよびエーテルは、環状構造を有していてもよい。エステル、ケトンおよびエーテルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを2つ以上有する化合物も、主溶媒として用いることができ、例えば、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。2種類以上の官能基を有する主溶媒の場合、その炭素数はいずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。炭素数が3〜12のエステル類の例としては、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチルおよび酢酸ペンチルが挙げられる。炭素数が3〜12のケトン類の例としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノンが挙げられる。炭素数が3〜12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトールが挙げられる。2種類以上の官能基を有する有機溶媒の例としては、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノールおよび2−ブトキシエタノールが挙げられる。
【0090】
本発明で用いられる非塩素系有機溶媒は、セルロースアシレートが溶解し流延、製膜できる範囲において、その目的が達成できる限りは、その塩素系有機溶媒は特に限定されない。これらの塩素系有機溶媒は、好ましくはジクロロメタン、クロロホルムである。特にジクロロメタンが好ましい。また、塩素系有機溶媒以外の有機溶媒を混合することも特に問題ない。その場合は、ジクロロメタンは少なくとも50質量%使用することが必要である。本発明の併用される非塩素系有機溶媒について以下に記す。すなわち、好ましい非塩素系有機溶媒としては、炭素数が3〜12のエステル、ケトン、エーテル、アルコール、炭化水素などから選ばれる溶媒が好ましい。エステル、ケトン、エーテルおよびアルコールは、環状構造を有していてもよい。エステル、ケトンおよびエーテルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを二つ以上有する化合物も溶媒として用いることができ、たとえばアルコール性水酸基のような他の官能基を同時に有していてもよい。2種類以上の官能基を有する溶媒の場合、その炭素数はいずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。炭素数が3〜12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートおよびペンチルアセテートが挙げられる。炭素数が3〜12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノンが挙げられる。炭素数が3〜12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトールが挙げられる。2種類以上の官能基を有する有機溶媒の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノールおよび2−ブトキシエタノールが挙げられる。
【0091】
また塩素系有機溶媒と併用されるアルコールとしては、好ましくは直鎖であっても分枝を有していても環状であってもよく、その中でも飽和脂肪族炭化水素であることが好ましい。アルコールの水酸基は、第一級〜第三級のいずれであってもよい。アルコールの例には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、1−ペンタノール、2−メチル−2−ブタノールおよびシクロヘキサノールが含まれる。なおアルコールとしては、フッ素系アルコールも用いられる。例えば、2−フルオロエタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノールなども挙げられる。さらに炭化水素は、直鎖であっても分岐を有していても環状であってもよい。芳香族炭化水素と脂肪族炭化水素のいずれも用いることができる。脂肪族炭化水素は、飽和であっても不飽和であってもよい。炭化水素の例には、シクロヘキサン、ヘキサン、ベンゼン、トルエンおよびキシレンが含まれる。
【0092】
以上のセルロースアシレートに用いられる主溶媒である塩素系有機溶媒と併用される非塩素系有機溶媒については、特に限定されないが、酢酸メチル、酢酸エチル、ギ酸メチル、ギ酸エチル、アセトン、ジオキソラン、ジオキサン、炭素数が4〜7のケトン類またはアセト酢酸エステル、炭素数が1〜10のアルコールまたは炭化水素から選ばれる。なお好ましい併用される非塩素系有機溶媒は、酢酸メチル、アセトン、ギ酸メチル、ギ酸エチル、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、アセチル酢酸メチル、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、およびシクロヘキサノール、シクロヘキサン、ヘキサンを挙げることができる。
【0093】
本発明のセルロースアシレートは、有機溶媒に10〜35質量%溶解させることが好ましい。より好ましくは13〜30質量%であり、さらに好ましくは15〜28質量%溶解しているセルロースアシレート溶液であることが好ましい。これらの濃度にセルロースアシレートを実施する方法は、溶解する段階で所定の濃度になるように実施してもよく、また予め低濃度溶液(例えば9〜14質量%)として作製した後に後述する濃縮工程で所定の高濃度溶液に調整してもよい。さらに、予め高濃度のセルロースアシレート溶液として後に、種々の添加物を添加することで所定の低濃度のセルロースアシレート溶液としてもよく、いずれかの方法で本発明のセルロースアシレート溶液濃度になるように実施されれば特に問題ない。
【0094】
本発明のセルロースアシレート溶液(ドープ)の調製については、その溶解方法は特に限定されず、室温でもよく、さらには冷却溶解法あるいは高温溶解方法、さらにはこれらの組み合わせで実施される。これらに関しては、例えば特開平5−163301号、特開昭61−106628号、特開昭58−127737号、特開平9−95544号、特開平10−95854号、特開平10−45950号、特開2000−53784号、特開平11−322946号、特開平11−322947号、特開平2−276830号、特開2000−273239号、特開平11−71463号、特開平04−259511号、特開2000−273184号、特開平11−323017号、特開平11−302388号各公報などにセルロースアシレート溶液の調製法が記載されている。以上記載したこれらのセルロースアシレートの有機溶媒への溶解方法は、本発明においても適宜本発明の範囲であればこれらの技術を適用できるものである。これらの詳細は、特に非塩素系溶媒系については発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、22頁〜25頁、発明協会)に詳細に記載されている方法で実施される。さらに本発明のセルロースアシレート溶液は、溶液濃縮、ろ過が通常実施され、同様に発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、25頁、発明協会)に詳細に記載されている。なお、高温度で溶解する場合は、使用する有機溶媒の沸点以上の場合がほとんどであり、その場合は加圧状態で用いられる。
【0095】
本発明のセルロースアシレート溶液は、その溶液の粘度と動的貯蔵弾性率が特定の範囲であることが好ましい。試料溶液1mLをレオメーター(CLS 500)に直径4cm/2°のSteel Cone(共にTA Instrumennts社製)を用いて測定した。測定条件はOscillation Step/Temperature Rampで40℃〜−10℃の範囲を2℃/分で可変して測定し、40℃の静的非ニュートン粘度n*(Pa・s)および−5℃の貯蔵弾性率G’(Pa)を求めた。なお、試料溶液は予め測定開始温度にて液温一定となるまで保温した後に測定を開始した。本発明では、40℃での粘度が1〜400Pa・sであり、15℃での動的貯蔵弾性率が500Pa以上が好ましく、40℃での粘度が10〜200Pa・sであることがより好ましく、15℃での動的貯蔵弾性率が100〜100万であることがさらに好ましい。さらには低温での動的貯蔵弾性率が大きいほど好ましく、例えば流延支持体が−5℃の場合は動的貯蔵弾性率が−5℃で1万〜100万Paであることが好ましく、支持体が−50℃の場合は−50℃での動的貯蔵弾性率が1万〜500万Paであることが好ましい。
【0096】
(溶液製膜の具体的方法)
次に、本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法について述べる。本発明のセルロースアシレートフィルムを製造する方法および設備は、従来セルロースアシレートフィルム製造に供する溶液流延製膜方法および溶液流延製膜装置が用いられる。溶解機(釜)から調製されたドープ(セルロースアシレート溶液)を貯蔵釜で一旦貯蔵し、ドープに含まれている泡を脱泡して最終調製をする。ドープをドープ排出口から、例えば回転数によって高精度に定量送液できる加圧型定量ギヤポンプを通して加圧型ダイに送り、ドープを加圧型ダイの口金(スリット)からエンドレスに走行している流延部の金属支持体の上に均一に流延され、金属支持体がほぼ一周した剥離点で、生乾きのドープ膜(ウェブとも呼ぶ)を金属支持体から剥離する。得られるウェブの両端をクリップで挟み、幅保持しながらテンターで搬送して乾燥し、続いて乾燥装置のロール群で搬送し乾燥を終了して巻き取り機で所定の長さに巻き取る。テンターとロール群の乾燥装置との組み合わせはその目的により変わる。ハロゲン化銀写真感光材料や電子ディスプレイ用機能性保護膜に用いる溶液流延製膜方法においては、溶液流延製膜装置の他に、下引層、帯電防止層、ハレーション防止層、保護層等のフィルムへの表面加工のために、塗布装置が付加されることが多い。これらの各製造工程については、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、25頁〜30頁、発明協会)に詳細に記載され、流延(共流延を含む)、金属支持体、乾燥、剥離、延伸などに分類される。
【0097】
ここで、本発明においては流延部の空間温度は特に限定されないが、−50〜50℃であることが好ましく、−30〜40℃であることがより好ましく、−20〜30℃であることがさらに好ましい。特に低温での空間温度により流延されたセルロースアシレート溶液は、支持体の上で瞬時に冷却されゲル強度アップすることでその有機溶媒を含んだフィルムを保持することができる。これにより、セルロースアシレートから有機溶媒を蒸発させることなく、支持体から短時間で剥ぎ取りことが可能となり、高速流延が達成できるものである。なお、空間を冷却する手段としては通常の空気でもよいし窒素やアルゴン、ヘリウムなどでもよく特に限定されない。またその場合の相対湿度は0〜70%が好ましく、0〜50%がより好ましい。また、本発明ではセルロースアシレート溶液を流延する流延部の支持体の温度が−50〜130℃であり、好ましくは−30〜25℃であり、さらには好ましくは−20〜15℃である。流延部を本発明の温度に保つためには、流延部に冷却した気体を導入して達成してもよく、あるいは冷却装置を流延部に配置して空間を冷却してもよい。この時、水が付着しないように注意することが重要であり、乾燥した気体を利用するなどの方法で実施できる。
【0098】
本発明においてその各層の内容と流延については、特に以下の構成が好ましい。すなわち、セルロースアシレート溶液が25℃において、少なくとも1種の液体または固体の可塑剤をセルロースアシレートに対して0.1〜20質量%含有しているセルロースアシレート溶液であること、および/または少なくとも1種の液体または固体の紫外線吸収剤をセルロースアシレートに対して0.001〜5質量%含有しているセルロースアシレート溶液であること、および/または少なくとも1種の固体でその平均粒子サイズが5〜3000nmである微粒子粉体をセルロースアシレートに対して0.001〜5質量%含有しているセルロースアシレート溶液であること、および/または少なくとも1種のフッ素系界面活性剤をセルロースアシレートに対して0.001〜2質量%含有しているセルロースアシレート溶液であること、および/または少なくとも1種の剥離剤をセルロースアシレートに対して0.0001〜2質量%含有しているセルロースアシレート溶液であること、および/または少なくとも1種の劣化防止剤をセルロースアシレートに対して0.0001〜2質量%含有しているセルロースアシレート溶液であること、および/または少なくとも1種の光学異方性コントロール剤をセルロースアシレートに対して0.1〜15質量%含有していること、および/または少なくとも1種の赤外吸収剤をセルロースアシレートに対して0.1〜5質量%含有しているセルロースアシレート溶液であること、を特徴とするセルロースアシレート溶液およびそれから作製されるセルロースアシレートフィルムであることが好ましい。
【0099】
流延工程では1種類のセルロースアシレート溶液を単層流延してもよいし、2種類以上のセルロースアシレート溶液を同時およびまたは逐次共流延してもよい。2層以上からなる流延工程を有する場合は、作製されるセルロースアシレート溶液およびセルロースアシレートフィルムにおいて、各層の塩素系溶媒の組成が同一であるか異なる組成のどちらか一方であること、各層の添加剤が1種類であるか、2種類以上の混合物のどちらか一方であること、各層への添加剤の添加位置が同一層であるか異なる層のどちらか一方であること、添加剤の溶液中の濃度が各層とも同一濃度であるかあるいは異なる濃度のどちらか一方であること、各層の会合体分子量が同一であるかあるいは異なる会合体分子量のどちらか一方であること、各層の溶液の温度が同一であるか異なる温度のどちらか一方であること、また各層の塗布量が同一か異なる塗布量のどちらか一方であること、各層の粘度が同一であるか異なる粘度のどちらか一方であること、各層の乾燥後の膜厚が同一であるか異なる厚さのどちらか一方であること、さらに各層に存在する素材が同一状態あるいは分布であるか異なる状態あるいは分布であること、各層の物性が同一であるかあるいは異なる物性のどちらか一方であること、各層の物性が均一であるか異なる物性の分布のどちらか一方であること、を特徴とするセルロースアシレート溶液およびその溶液から作製されるセルロースアシレートフィルムであることも好ましい。ここで、物性とは発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、6頁〜7頁、発明協会)に詳細に記載されている物性を含むものであり、例えばヘイズ、透過率、分光特性、レターデーションRe、レターデーションRth、分子配向軸、軸ズレ、引裂強度、耐折強度、引張強度、巻き内外Rt差、キシミ、動摩擦、アルカリ加水分解、カール値、含水率、残留溶剤量、熱収縮率、高湿寸度評価、透湿度、ベースの平面性、寸法安定性、熱収縮開始温度、弾性率、および輝点異物の測定などであり、さらにはベースの評価に用いられるインピーダンス、面状も含まれるものである。また、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、11頁、発明協会)に詳細に記載されているセルロースアシレートのイエローインデックス、透明度、熱物性(Tg、結晶化熱)なども挙げることができる。
【0100】
<セルロースアシレートフィルムの処理>
(延伸)
以上のようにして、溶融製膜法あるいは溶液製膜法によって製造したセルロースアシレートフィルムは、面状の改良、Re、Rthの発現、線膨張率の改善などを目的として、延伸することが好ましい。
延伸は製膜工程中、オン−ラインで実施してもよく、製膜完了後、一度巻き取った後オフ−ラインで実施してもよい。すなわち、溶融製膜の場合、延伸は製膜中の冷却が完了しない実施してもよく、冷却終了後に実施してもよい。
延伸はTg〜(Tg+50℃)で実施するのが好ましく、(Tg+1℃)〜(Tg+30℃)で実施するのがより好ましく、(Tg+2℃)〜(Tg+20℃)で実施するのがさらに好ましい。好ましい延伸倍率は0.1%〜500%であり、より好ましくは10%〜300%であり、さらに好ましくは30%〜200%である。これらの延伸は1段で実施しても、多段で実施してもよい。ここでいう延伸倍率は、以下の式を用いて求めたものである。
延伸倍率(%)=100×{(延伸後の長さ)−(延伸前の長さ)}/延伸前の長さ
【0101】
このような延伸は縦延伸、横延伸、およびこれらの組み合わせによって実施される。縦延伸は、(1)ロール延伸(出口側の周速を速くした2対以上のニップロールを用いて、長手方向に延伸)、(2)固定端延伸(フィルムの両端を把持し、これを長手方向に次第に早く搬送し長手方向に延伸)、等を用いることができる。さらに横延伸は、テンター延伸(フィルムの両端をチャックで把持しこれを横方向(長手方向と直角方向)に広げて延伸)、等を使用することができる。これらの縦延伸、横延伸は、それだけで行なってもよく(1軸延伸)、組み合わせて行ってもよい(2軸延伸)。2軸延伸の場合、縦、横逐次で実施してもよく(逐次延伸)、同時に実施してもよい(同時延伸)。
縦延伸、横延伸の延伸速度は10%/分〜10000%/分が好ましく、20%/分〜1000%/分がより好ましく、30%/分〜800%/分がさらに好ましい。多段延伸の場合、各段の延伸速度の平均値を指す。
【0102】
このような延伸に引き続き、縦または横方向に0%〜10%緩和することも好ましい。さらに、延伸に引き続き、150℃〜250℃で1秒〜3分熱固定することも好ましい。
このようにして延伸した後の膜厚は10〜300μmが好ましく、20μm〜200μmがより好ましく、30μm〜100μmがさらに好ましい。
【0103】
また製膜方向(長手方向)と、フィルムのReの遅相軸とのなす角度θが0°、+90°もしくは−90°に近いほど好ましい。即ち、縦延伸の場合は0°に近いほどよく、0±3°が好ましく、0±2°がより好ましく、0±1°がさらに好ましい。横延伸の場合は、90±3°または−90±3°が好ましく、90±2°または−90±2°がより好ましく、90±1°または−90±1°がさらに好ましい。
【0104】
上述の未延伸または延伸セルロースアシレートフィルムは単独で使用してもよく、これらと偏光板を組み合わせて使用してもよく、これらの上に液晶層や屈折率を制御した層(低反射層)やハードコート層を設けて使用してもよい。
【0105】
(光弾性係数)
本発明の製造方法により得られるセルロースアシレートフィルムは、偏光板の保護フィルム、または位相差フィルムとして使用されることが好ましい。偏光板の保護フィルム、または位相差フィルムとして使用した場合には、吸湿による伸張、収縮による応力により複屈折(Re、Rth)が変化する場合がある。このような応力に伴う複屈折の変化は光弾性係数として測定できるが、その範囲は、5×10-7(cm2/kgf)〜30×10-7(cm2/kgf)が好ましく、6×10-7(cm2/kgf)〜25×10-7(cm2/kgf)がより好ましく、7×10-7(cm2/kgf)〜20×10-7(cm2/kgf)がさらに好ましい。
【0106】
(表面処理)
未延伸、または、延伸後のセルロースアシレートフィルムは、場合により表面処理を行うことによって、セルロースアシレートフィルムと各機能層(例えば、下塗層およびバック層)との接着の向上を達成することができる。例えばグロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理、酸またはアルカリ処理を用いることができる。ここでいうグロー放電処理とは、10-3〜20Torrの低圧ガス下でおこる低温プラズマでもよく、さらにまた大気圧下でのプラズマ処理も好ましい。プラズマ励起性気体とは上記のような条件においてプラズマ励起される気体をいい、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、窒素、二酸化炭素、テトラフルオロメタンの様なフロン類およびそれらの混合物などが挙げられる。これらについては、詳細が発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、30頁〜32頁、発明協会)に詳細に記載されている。なお、近年注目されている大気圧でのプラズマ処理は、例えば、10〜1000Kev下で20〜500Kgyの照射エネルギーが用いられ、より好ましくは30〜500Kev下で20〜300Kgyの照射エネルギーが用いられる。これらの中でも特に好ましくは、アルカリ鹸化処理でありセルロースアシレートフィルムの表面処理としては極めて有効である。
【0107】
アルカリ鹸化処理は、鹸化液に浸漬してもよく、鹸化液を塗布してもよい。浸漬法の場合は、NaOHやKOH等のpH10〜14の水溶液を20℃〜80℃に加温した槽を0.1分から10分通過させたあと、中和、水洗、乾燥することで達成できる。
【0108】
塗布方法の場合、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、バーコーティング法およびE型塗布法を用いることができる。アルカリ鹸化処理塗布液の溶媒は、鹸化液の支持体に対して塗布するために濡れ性が良く、また鹸化液溶媒によって支持体表面に凹凸を形成させずに、面状を良好なまま保つ溶媒を選択することが好ましい。具体的には、アルコール系溶媒が好ましく、イソプロピルアルコールが特に好ましい。また、界面活性剤の水溶液を溶媒として使用することもできる。アルカリ鹸化塗布液のアルカリは、上記溶媒に溶解するアルカリが好ましく、KOH、NaOHがより好ましい。鹸化塗布液のpHは10以上が好ましく、12以上がより好ましい。アルカリ鹸化時の反応条件は、室温で1秒〜5分が好ましく、5秒〜5分がより好ましく、20秒〜3分がさらに好ましい。アルカリ鹸化反応後、鹸化液塗布面を水洗または酸で洗浄したあと水洗することが好ましい。また、塗布式鹸化処理と後述の配向膜解塗設を、連続して行うことができ、工程数を減少できる。これらの鹸化方法は、具体的には、例えば、特開2002−82226号公報、国際公開WO02/46809号パンフレットに内容の記載が挙げられる。
【0109】
機能層との接着のため下塗り層を設けることも好ましい。この層は上記表面処理をした後、塗設してもよく、表面処理なしで塗設してもよい。下塗層についての詳細は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、32頁、発明協会)に記載されている。
これらの表面処理、下塗り工程は、製膜工程の最後に組み込むこともでき、単独で実施することもでき、後述の機能層付与工程の中で実施することもできる。
【0110】
<機能層との組み合わせ>
本発明のセルロースアシレートフィルムは、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、32頁〜45頁、発明協会)に詳細に記載されている機能性層等を組み合わせてもよい。好ましくは、偏光膜の付与(偏光板の形成)、光学補償層の付与(光学補償シート)、反射防止層の付与(反射防止フィルム)である。
【0111】
[偏光膜]
(偏光膜の素材)
現在、市販の偏光膜は、延伸したポリマーを、浴槽中のヨウ素または二色性色素の溶液に浸漬し、バインダー中にヨウ素または二色性色素を浸透させることで作製されるのが一般的である。偏光膜は、Optiva Inc.に代表される塗布型偏光膜も利用できる。
偏光膜におけるヨウ素および二色性色素は、バインダー中で配向することで偏光性能を発現する。二色性色素としては、アゾ系色素、スチルベン系色素、ピラゾロン系色素、トリフェニルメタン系色素、キノリン系色素、オキサジン系色素、チアジン系色素またはアントラキノン系色素が用いられる。二色性色素は、水溶性であることが好ましい。二色性色素は、親水性置換基(例えば、スルホ基、アミノ基、ヒドロキシル基)を有することが好ましい。例えば、発明協会公開技法(公技番号2001−1745号、58頁、2001年3月15日発行、発明協会)に記載の化合物が挙げられる。
【0112】
偏光膜のバインダーは、それ自体架橋可能なポリマーまたは架橋剤により架橋されるポリマーのいずれも使用することができ、これらの組み合わせを複数使用することができる。バインダーには、例えば、特開平8−338913号公報の段落番号[0022]に記載のメタクリレート系共重合体、スチレン系共重合体、ポリオレフィン、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコール、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、ポリエステル、ポリイミド、酢酸ビニル共重合体、カルボキシメチルセルロース、ポリカーボネート等が含まれる。シランカップリング剤をポリマーとして用いることができる。
【0113】
なかでも水溶性ポリマー(例えば、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール)が好ましく、ゼラチン、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールがより好ましく、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールがさらに好ましい。重合度が異なるポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールを2種類併用することが特に好ましい。ポリビニルアルコールの鹸化度は、70〜100%が好ましく、80〜100%がより好ましい。
ポリビニルアルコールの重合度は、100〜5,000であることが好ましい。
【0114】
変性ポリビニルアルコールについては、特開平8−338913号、同9−152509号および同9−316127号の各公報に記載されている。ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールは、2種以上を併用してもよい。
バインダー厚みの下限は、10μmであることが好ましい。厚みの上限は、液晶表示装置の光漏れの観点からは、薄ければ薄い程よい。現在市販の偏光板(約30μm)以下であることが好ましく、25μm以下がより好ましく、20μm以下がさらに好ましい。
【0115】
偏光膜のバインダーは架橋していてもよい。架橋性の官能基を有するポリマー、モノマーをバインダー中に混合してもよく、バインダーポリマー自身に架橋性官能基を付与してもよい。架橋は、光、熱またはpH変化により行うことができ、架橋構造をもったバインダーを形成することができる。架橋剤については、米国再発行特許第23297号明細書に記載がある。また、ホウ素化合物(例えば、ホウ酸、硼砂)も、架橋剤として用いることができる。バインダーの架橋剤の添加量は、バインダーに対して、0.1〜20質量%が好ましい。偏光素子の配向性、偏光膜の耐湿熱性が良好となる。
【0116】
架橋反応が終了後でも、未反応の架橋剤は1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。このようにすることで、耐候性が向上する。
【0117】
(偏光膜の延伸)
偏光膜は、偏光膜を延伸するか(延伸法)、またはラビングした(ラビング法)後に、ヨウ素、二色性染料で染色することが好ましい。
延伸法の場合、延伸倍率は2.5〜30.0倍が好ましく、3.0〜10.0倍がより好ましい。延伸は、空気中でのドライ延伸により実施することができる。また、水に浸漬した状態でのウェット延伸により実施してもよい。ドライ延伸の延伸倍率は、2.5〜5.0倍が好ましく、ウェット延伸の延伸倍率は、3.0〜10.0倍が好ましい。ここでいう延伸倍率は(延伸後の偏光膜の長さ/延伸前の偏光膜の長さ)を表す。延伸はMD方向に平行に行ってもよく(平行延伸)、斜め方向に行ってもよい(斜め延伸)。これらの延伸は、1回で行っても、数回に分けて行ってもよい。数回に分けることによって、高倍率延伸でもより均一に延伸することができる。より好ましいのが斜め方向に10度から80度の傾きを付けて延伸する斜め延伸である。
【0118】
(1)平行延伸法
延伸に先立ち、PVAフィルムを膨潤させる。膨潤度は通常1.2〜2.0倍(膨潤前と膨潤後の質量比)である。この後、ガイドロール等を介して連続搬送しつつ、水系媒体浴内や二色性物質溶解の染色浴内で、通常15〜50℃、好ましくは17〜40℃の浴温で延伸する。延伸は2対のニップロールで把持し、後段のニップロールの搬送速度を前段のそれより大きくして行うことができる。延伸倍率(延伸後/初期状態の長さ比:以下同じ)は、作用効果の観点から、好ましくは1.2〜3.5倍、より好ましくは1.5〜3.0倍である。この後、50℃〜90℃において乾燥させて偏光膜を得る。
【0119】
(2)斜め延伸法
斜め延伸法は、特開2002−86554号公報に記載されているように、傾斜め方向に張り出したテンターを用いて延伸することにより実施することができる。この延伸は空気中で行うため、事前に含水させて延伸しやすくすることが必用である。好ましい含水率は5%〜100%、より好ましい含水率は10%〜100%である。
延伸時の温度は40℃〜90℃が好ましく、50℃〜80℃がさらに好ましい。相対湿度は、好ましくは50%〜100%、より好ましくは70%〜100%、さらに好ましくは80%〜100%である。長手方向の進行速度は、好ましくは1m/分以上、より好ましくは3m/分以上である。
【0120】
延伸の終了後、好ましくは50℃〜100℃、より好ましくは60℃〜90℃で、好ましくは0.5分〜10分、より好ましくは1分〜5分乾燥する。
このようにして得られる偏光膜の吸収軸は10°〜80°が好ましく、30°〜60°がより好ましく、実質的に45°(40°〜50°)がさらに好ましい。
【0121】
(貼り合せ)
上記鹸化後のセルロースアシレートフィルムと、延伸して調製した偏光膜を貼り合わせ偏光板を調製する。張り合わせる方向は、セルロースアシレートフィルムの流延軸方向と偏光板の延伸軸方向が45°になるように行うのが好ましい。
貼り合わせの接着剤は特に限定されないが、PVA系樹脂(アセトアセチル基、スルホン酸基、カルボキシル基、オキシアルキレン基等の変性PVAを含む)やホウ素化合物水溶液等が挙げられ、中でもPVA系樹脂が好ましい。接着剤層厚みは乾燥後に0.01〜10μmが好ましく、0.05〜5μmがより好ましい。
【0122】
このようにして得た偏光板の光線透過率は高い方が好ましく、偏光度も高い方が好ましい。偏光板の透過率は、波長550nmの光において、30〜50%の範囲にあることが好ましく、35〜50%の範囲にあることがより好ましく、40〜50%の範囲にあることがさらに好ましい。偏光度は、波長550nmの光において、90〜100%の範囲にあることが好ましく、95〜100%の範囲にあることがより好ましく、99〜100%の範囲にあることがさらに好ましい。
【0123】
さらに、このようにして得た偏光板はλ/4板と積層し、円偏光板を作製することができる。この場合λ/4板の遅相軸と偏光板の吸収軸を45度になるように積層する。この時、λ/4板は特に限定されないが、より好ましくは低波長ほどレターデーションが小さくなるような波長依存性を有するものがより好ましい。さらには長手方向に対し20度〜70度傾いた吸収軸を有する偏光膜、および液晶性化合物からなる光学異方性層からなるλ/4板を用いることが好ましい。
【0124】
[光学補償層の付与(光学補償シートの作製)]
光学異方性層は、液晶表示装置の黒表示における液晶セル中の液晶化合物を補償するためのものであり、例えば、セルロースアシレートフィルムの上に配向膜を形成し、さらに光学異方性層を付与することで形成される。
【0125】
(配向膜)
上記表面処理したセルロースアシレートフィルム上に配向膜を設ける。この膜は、液晶性分子の配向方向を規定する機能を有する。しかし、液晶性化合物を配向後にその配向状態を固定してしまえば、配向膜はその役割を果たしているために、構成要素としては必ずしも必須のものではない。即ち、配向状態が固定された配向膜上の光学異方性層のみを偏光子上に転写して本発明のセルロースアシレートフィルムを用いた偏光板を作製することも可能である。
【0126】
配向膜は、有機化合物(好ましくはポリマー)のラビング処理、無機化合物の斜方蒸着、マイクログルーブを有する層の形成、またはラングミュア・ブロジェット法(LB膜)による有機化合物(例えば、ω−トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライド、ステアリル酸メチル)の累積のような手段で設けることができる。さらに、電場の付与、磁場の付与または光照射により、配向機能が生じる配向膜も知られている。
【0127】
配向膜は、ポリマーのラビング処理により形成することが好ましい。配向膜に使用するポリマーは、原則として、液晶性分子を配向させる機能のある分子構造を有する。
本発明では、液晶性分子を配向させる機能に加えて、架橋性官能基(例えば、二重結合)を有する側鎖を主鎖に結合させるか、または液晶性分子を配向させる機能を有する架橋性官能基を側鎖に導入することが好ましい。
【0128】
配向膜に用いられるポリマーは、それ自体架橋可能なポリマーまたは架橋剤により架橋されるポリマーのいずれも使用することができ、これらの組み合わせを複数使用することができる。ポリマーの例には、例えば特開平8−338913号公報の段落番号[0022]に記載のメタクリレート系共重合体、スチレン系共重合体、ポリオレフィン、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコール、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、ポリエステル、ポリイミド、酢酸ビニル共重合体、カルボキシメチルセルロース、ポリカーボネート等が含まれる。シランカップリング剤をポリマーとして用いることができる。水溶性ポリマー(例えば、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール)が好ましく、ゼラチン、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールがより好ましく、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールがさらに好ましい。重合度が異なるポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールを2種類併用することが特に好ましい。ポリビニルアルコールの鹸化度は、70〜100%が好ましく、80〜100%がより好ましい。ポリビニルアルコールの重合度は、100〜5000であることが好ましい。
【0129】
液晶性分子を配向させる機能を有する側鎖は、一般に疎水性基を官能基として有する。具体的な官能基の種類は、液晶性分子の種類および必要とする配向状態に応じて決定する。
【0130】
例えば、変性ポリビニルアルコールの変性基としては、共重合変性、連鎖移動変性またはブロック重合変性により導入できる。変性基の例としては、親水性基(カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基、アミノ基、アンモニウム基、アミド基、チオール基等)、炭素数10〜100個の炭化水素基、フッ素原子置換の炭化水素基、チオエーテル基、重合性基(不飽和重合性基、エポキシ基、アジリニジル基等)、アルコキシシリル基(トリアルコキシ基、ジアルコキシ基、モノアルコキシ基)等が挙げられる。これらの変性ポリビニルアルコール化合物の具体例として、例えば特開2000−155216号公報の段落番号[0022]〜[0145]、同2002−62426号公報の段落番号[0018]〜[0022]に記載のもの等が挙げられる。
【0131】
架橋性官能基を有する側鎖を配向膜ポリマーの主鎖に結合させるか、または液晶性分子を配向させる機能を有する側鎖に架橋性官能基を導入すると、配向膜のポリマーと光学異方性層に含まれる多官能モノマーとを共重合させることができる。その結果、多官能モノマーと多官能モノマーとの間だけではなく、配向膜ポリマーと配向膜ポリマーとの間、そして多官能モノマーと配向膜ポリマーとの間も共有結合で強固に結合される。従って、架橋性官能基を配向膜ポリマーに導入することで、光学補償シートの強度を著しく改善することができる。
【0132】
配向膜ポリマーの架橋性官能基は、多官能モノマーと同様に、重合性基を含むことが好ましい。具体的には、例えば特開2000−155216号公報の段落番号[0080]〜[0100]に記載のもの等が挙げられる。配向膜ポリマーは、上記の架橋性官能基とは別に、架橋剤を用いて架橋させることもできる。
【0133】
架橋剤としては、アルデヒド、N−メチロール化合物、ジオキサン誘導体、カルボキシル基を活性化することにより作用する化合物、活性ビニル化合物、活性ハロゲン化合物、イソオキサゾールおよびジアルデヒド澱粉が含まれる。2種類以上の架橋剤を併用してもよい。具体的には、例えば特開2002−62426号公報の段落番号[0023]〜[0024]に記載の化合物等が挙げられる。反応活性の高いアルデヒド、特にグルタルアルデヒドが好ましい。
【0134】
架橋剤の添加量は、ポリマーに対して0.1〜20質量%が好ましく、0.5〜15質量%がより好ましい。配向膜に残存する未反応の架橋剤の量は、1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。このように調節することで、配向膜を液晶表示装置に長期使用、あるいは高温高湿の雰囲気下に長期間放置しても、レチキュレーション発生のない充分な耐久性が得られる。
【0135】
配向膜は、例えば、セルロースアシレートフィルム上に塗布した後、加熱乾燥(架橋させ)し、ラビング処理することにより形成することができる。架橋反応は、前記のように、セルロースアシレートフィルム上に塗布した後、任意の時期に行ってよい。ポリビニルアルコールのような水溶性ポリマーを配向膜形成材料として用いる場合には、塗布液は消泡作用のある有機溶媒(例えば、メタノール)と水の混合溶媒とすることが好ましい。その比率は質量比で水:メタノールが0:100〜99:1が好ましく、0:100〜91:9であることがより好ましい。これにより、泡の発生が抑えられ、配向膜、さらには光学異方性層の層表面の欠陥が著しく減少する。
【0136】
配向膜の塗布方法は、スピンコーティング法、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、ロッドコーティング法またはロールコーティング法が好ましい。特にロッドコーティング法が好ましい。また、乾燥後の膜厚は0.1〜10μmが好ましい。加熱乾燥は、通常20℃〜110℃で行なうことができる。充分な架橋を形成するためには60℃〜100℃が好ましく、80℃〜100℃がより好ましい。乾燥時間は通常1分〜36時間にすることができるが、好ましくは1分〜30分である。pHも、使用する架橋剤に最適な値に設定することが好ましく、グルタルアルデヒドを使用した場合は、通常pH4.5〜5.5で、特に5が好ましい。
【0137】
配向膜は、本発明におけるセルロースアシレートフィルムまたは下塗層の上等に設けられる。配向膜は、上記のようにポリマー層を架橋したのち、表面をラビング処理することにより得ることができる。
前記ラビング処理は、液晶表示装置を製造する際に行う液晶配向処理工程として広く採用されている処理方法を適用することができる。即ち、配向膜の表面を、紙やガーゼ、フェルト、ゴムまたはナイロン、ポリエステル繊維などを用いて一定方向に擦ることにより、配向を得る方法を用いることができる。一般的には、長さおよび太さが均一な繊維を平均的に植毛した布などを用いて数回程度ラビングを行うことにより実施される。
【0138】
工業的に実施する場合、搬送している偏光膜のついたフィルムに対し、回転するラビングロールを接触させることで達成するが、ラビングロールの真円度、円筒度、振れ(偏芯)はいずれも30μm以下であることが好ましい。ラビングロールへのフィルムのラップ角度は、0.1〜90°が好ましい。ただし、特開平8−160430号公報に記載されているように、360°以上巻き付けることで、安定なラビング処理を得ることもできる。フィルムの搬送速度は1〜100m/minが好ましい。ラビング角は0〜60°の範囲で適切なラビング角度を選択することが好ましい。液晶表示装置に使用する場合は、40〜50°が好ましい。45°が特に好ましい。
このようにして得た配向膜の膜厚は、0.1〜10μmの範囲にあることが好ましい。
【0139】
(光学異方性層)
次に、配向膜の上に光学異方性層の液晶性分子を配向させる。その後、必要に応じて、配向膜ポリマーと光学異方性層に含まれる多官能モノマーとを反応させるか、または架橋剤を用いて配向膜ポリマーを架橋させる。
光学異方性層に用いる液晶性分子には、棒状液晶性分子および円盤状液晶性分子が含まれる。棒状液晶性分子および円盤状液晶性分子は、高分子液晶でも低分子液晶でもよく、さらに、低分子液晶が架橋され液晶性を示さなくなったものも含まれる。
【0140】
1)棒状液晶性分子
棒状液晶性分子としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類およびアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が好ましく用いられる。
【0141】
なお、棒状液晶性分子には、金属錯体も含まれる。また、棒状液晶性分子を繰り返し単位中に含む液晶ポリマーも、棒状液晶性分子として用いることができる。言い換えると、棒状液晶性分子は、(液晶)ポリマーと結合していてもよい。
棒状液晶性分子については、季刊化学総説第22巻液晶の化学(1994)日本化学会編の第4章、第7章および第11章、および液晶デバイスハンドブック日本学術振興会第142委員会編の第3章に記載がある。
棒状液晶性分子の複屈折率は、0.001〜0.7の範囲にあることが好ましい。
【0142】
棒状液晶性分子は、その配向状態を固定するために、重合性基を有することが好ましい。重合性基は、ラジカル重合性不飽基あるいはカチオン重合性基が好ましく、具体的には、例えば特開2002−62427号公報の段落番号[0064]〜[0086]に記載の重合性基、重合性液晶化合物が挙げられる。
【0143】
2)円盤状液晶性分子
円盤状(ディスコティック)液晶性分子には、C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.71巻、111頁(1981年)に記載されているベンゼン誘導体、C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.122巻、141頁(1985年)、Physics lett,A,78巻、82頁(1990)に記載されている
トルキセン誘導体、B.Kohneらの研究報告、Angew.Chem.96巻、70頁(1984年)に記載されたシクロヘキサン誘導体およびJ.M.Lehnらの研究報告、J.Chem.Commun.,1794頁(1985年)、J.Zhangらの研究報告、J.Am.Chem.Soc.116巻、2655頁(1994年)に記載されているアザクラウン系やフェニルアセチレン系マクロサイクルが含まれる。
【0144】
円盤状液晶性分子としては、分子中心の母核に対して、直鎖のアルキル基、アルコキシ基、置換ベンゾイルオキシ基が母核の側鎖として放射線状に置換した構造である液晶性を示す化合物も含まれる。分子または分子の集合体が、回転対称性を有し、一定の配向を付与できる化合物であることが好ましい。円盤状液晶性分子から形成する光学異方性層は、最終的に光学異方性層に含まれる化合物が円盤状液晶性分子である必要はなく、例えば、低分子の円盤状液晶性分子が熱や光で反応する基を有しており、結果的に熱、光で反応により重合または架橋し、高分子量化し液晶性を失った化合物も含まれる。円盤状液晶性分子の好ましい例は、特開平8−50206号公報に記載されている。また、円盤状液晶性分子の重合については、特開平8−27284号公報に記載されている。
【0145】
円盤状液晶性分子を重合により固定するためには、円盤状液晶性分子の円盤状コアに、置換基として重合性基を結合させる必要がある。円盤状コアと重合性基は、連結基を介して結合する化合物が好ましく、これにより重合反応においても配向状態を保つことができる。例えば、特開2000−155216号公報の段落番号[0151]〜[0168]に記載の化合物等が挙げられる。
【0146】
ハイブリッド配向では、円盤状液晶性分子の長軸(円盤面)と偏光膜の面との角度が、光学異方性層の深さ方向でかつ偏光膜の面からの距離の増加と共に増加または減少している。角度は、距離の増加と共に減少することが好ましい。さらに、角度の変化としては、連続的増加、連続的減少、間欠的増加、間欠的減少、連続的増加と連続的減少を含む変化、または増加および減少を含む間欠的変化が可能である。間欠的変化は、厚さ方向の途中で傾斜角が変化しない領域を含んでいる。角度は、角度が変化しない領域を含んでいても、全体として増加または減少していればよい。さらに、角度は連続的に変化することが好ましい。
【0147】
偏光膜側の円盤状液晶性分子の長軸の平均方向は、一般に円盤状液晶性分子または配向膜の材料を選択することにより、またはラビング処理方法の選択することにより、調整することができる。また、表面側(空気側)の円盤状液晶性分子の長軸(円盤面)方向は、一般に円盤状液晶性分子または円盤状液晶性分子と共に使用する添加剤の種類を選択することにより調整することができる。円盤状液晶性分子と共に使用する添加剤の例としては、可塑剤、界面活性剤、重合性モノマーおよびポリマーなどを挙げることができる。長軸の配向方向の変化の程度も、上記と同様に、液晶性分子と添加剤との選択により調整できる。
【0148】
(光学異方性層の他の組成物)
上記の液晶性分子と共に、可塑剤、界面活性剤、重合性モノマー等を併用して、塗工膜の均一性、膜の強度、液晶分子の配向性等を向上することができる。液晶性分子と相溶性を有し、液晶性分子の傾斜角の変化を与えられるか、または配向を阻害しないことが好ましい。
【0149】
重合性モノマーとしては、ラジカル重合性またはカチオン重合性の化合物が挙げられる。好ましくは、多官能性ラジカル重合性モノマーであり、上記の重合性基を有する液晶化合物に対して共重合性を示すものが好ましい。例えば、特開2002−296423号公報の段落番号[0018]〜[0020]に記載のものが挙げられる。上記化合物の添加量は、円盤状液晶性分子に対して一般に1質量%〜50質量%の範囲にあり、5質量%〜30質量%の範囲にあることが好ましい。
【0150】
界面活性剤としては、従来公知の化合物が挙げられるが、特にフッ素系化合物が好ましい。具体的には、例えば特開2001−330725号公報の段落番号[0028]〜[0056]に記載の化合物が挙げられる。
【0151】
円盤状液晶性分子とともに使用するポリマーは、円盤状液晶性分子に傾斜角の変化を与えられることが好ましい。
【0152】
ポリマーの例としては、セルロースアシレートを挙げることができる。セルロースアシレートの好ましい例としては、特開2000−155216号公報の段落番号[0178]に記載のものが挙げられる。液晶性分子の配向を阻害しないように、上記ポリマーの添加量は、液晶性分子に対して0.1質量%〜10質量%の範囲にあることが好ましく、0.1質量%〜8質量%の範囲にあることがより好ましい。
【0153】
円盤状液晶性分子のディスコティックネマティック液晶相−固相転移温度は、70〜300℃が好ましく、70℃〜170℃がより好ましい。
【0154】
(光学異方性層の形成)
光学異方性層は、液晶性分子および必要に応じて後述の重合性開始剤や任意の成分を含む塗布液を、配向膜の上に塗布することで形成できる。
塗布液の調製に使用する溶媒としては、有機溶媒が好ましく用いられる。有機溶媒の例には、アミド(例えば、N,N−ジメチルホルムアミド)、スルホキシド(例えば、ジメチルスルホキシド)、ヘテロ環化合物(例えば、ピリジン)、炭化水素(例えば、ベンゼン、ヘキサン)、アルキルハライド(例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラクロロエタン)、エステル(例えば、酢酸メチル、酢酸ブチル)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトン)、エーテル(例えば、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン)が含まれる。アルキルハライドおよびケトンが好ましい。2種類以上の有機溶媒を併用してもよい。
【0155】
塗布液の塗布は、公知の方法(例えば、ワイヤーバーコーティング法、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、ダイコーティング法)により実施できる。
光学異方性層の厚さは、0.1〜20μmであることが好ましく、0.5〜15μmであることがより好ましく、1〜10μmであることがさらに好ましい。
【0156】
(液晶性分子の配向状態の固定)
配向させた液晶性分子を、配向状態を維持して固定することができる。固定化は、重合反応により実施することが好ましい。重合反応には、熱重合開始剤を用いる熱重合反応と光重合開始剤を用いる光重合反応とが含まれる。光重合反応が好ましい。
【0157】
光重合開始剤の例には、α−カルボニル化合物(米国特許第2,367,661号、同2,367,670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許第2,448,828号明細書記載)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許第2,722,512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許第3,046,127号、同2,951,758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許第3,549,367号明細書記載)、アクリジンおよびフェナジン化合物(特開昭60−105667号公報、米国特許第4,239,850号明細書記載)およびオキサジアゾール化合物(米国特許第4,212,970号明細書記載)が含まれる。
【0158】
光重合開始剤の使用量は、塗布液の固形分の0.01〜20質量%の範囲にあることが好ましく、0.5〜5質量%の範囲にあることがより好ましい。
液晶性分子の重合のための光照射は、紫外線を用いることが好ましい。
照射エネルギーは、20mJ/cm2〜50J/cm2の範囲にあることが好ましく、20〜5000mJ/cm2の範囲にあることがより好ましく、100〜800mJ/cm2の範囲にあることがさらに好ましい。また、光重合反応を促進するため、加熱条件下で光照射を実施してもよい。
保護層を、光学異方性層の上に設けてもよい。
【0159】
(偏光膜との組み合わせ)
この光学補償フィルムと偏光膜を組み合わせることも好ましい。具体的には、上記のような光学異方性層用塗布液を偏光膜の表面に塗布することにより光学異方性層を形成する。その結果、偏光膜と光学異方性層との間にポリマーフィルムを使用することなく、偏光膜の寸度変化にともなう応力(歪み×断面積×弾性率)が小さい薄い偏光板が作製される。本発明のセルロースアシレートフィルムを用いた偏光板を大型の液晶表示装置に取り付けると、光漏れなどの問題を生じることなく、表示品位の高い画像を表示することができる。
【0160】
偏光膜と光学補償層の傾斜角度は、LCDを構成する液晶セルの両側に貼り合わされる2枚の偏光板の透過軸と液晶セルの縦または横方向のなす角度にあわせるように延伸することが好ましい。通常の傾斜角度は45°である。しかし、最近は、透過型、反射型および半透過型LCDにおいて必ずしも45°でない装置が開発されており、延伸方向はLCDの設計にあわせて任意に調整できることが好ましい。
【0161】
[反射防止層の付与(反射防止フィルムの作製)]
反射防止フィルムは、一般に、防汚性層でもある低屈折率層、および低屈折率層より高い屈折率を有する少なくとも一層の層(即ち、高屈折率層、中屈折率層)とを本発明におけるセルロースアシレートフィルム上に設けてなる。
屈折率の異なる無機化合物(金属酸化物等)の透明薄膜を積層させた多層膜の形成方法として、化学蒸着(CVD)法や物理蒸着(PVD)法、金属アルコキシド等の金属化合物のゾルゲル方法でコロイド状金属酸化物粒子皮膜を形成後に後処理(紫外線照射:特開平9−157855号公報、プラズマ処理:特開2002−327310号公報)して薄膜を形成する方法等が挙げられる。
【0162】
一方、生産性が高い反射防止フィルムとして、無機粒子をマトリックスに分散した分散物を塗布することにより薄膜を積層した反射防止フィルムも各種提案されている。塗布による反射防止フィルムとして、表面に微細な凹凸の形状を有する防眩性を付与した層を最上層に形成した反射防止フィルムも挙げられる。
本発明のセルロースアシレートフィルムは上記いずれの方式で製造する反射防止フィルムにも適用できるが、塗布による方式(塗布型)で製造する反射防止フィルムに適用することが特に好ましい。
【0163】
(塗布型反射防止フィルムの層構成)
本発明におけるセルロースアシレートフィルム上に少なくとも中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層(最外層)を順に形成した層構成からなる反射防止フィルムは、屈折率が以下の関係を満足するように設計される。
高屈折率層の屈折率>中屈折率層の屈折率>セルロースアシレートフィルムの屈折率>低屈折率層の屈折率
また、セルロースアシレートフィルムと中屈折率層の間には、ハードコート層を設けてもよい。さらには、中屈折率ハードコート層、高屈折率層および低屈折率層からなるものであってもよい。例えば、特開平8−122504号公報、同8−110401号公報、同10−300902号公報、特開2002−243906号公報、特開2000−111706号公報等に記載されているものが挙げられる。
【0164】
また、各層に他の機能を付与させてもよく、例えば、防汚性の低屈折率層、帯電防止性の高屈折率層としたもの(例えば、特開平10−206603号公報、特開2002−243906号公報等に記載されるもの)等が挙げられる。
反射防止フィルムのヘイズは、5%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましい。また、膜の強度は、JIS K5400に従う鉛筆硬度試験でH以上であることが好ましく、2H以上であることがより好ましく、3H以上であることが特に好ましい。
【0165】
(高屈折率層および中屈折率層)
反射防止フィルムの高い屈折率を有する層は、平均粒子サイズ100nm以下の高屈折率の無機化合物超微粒子およびマトリックスバインダーを少なくとも含有する硬化性膜からなる。
高屈折率の無機化合物微粒子としては、屈折率1.65以上の無機化合物が挙げられ、好ましくは屈折率1.9以上の無機化合物が挙げられる。例えば、Ti、Zn、Sb、Sn、Zr、Ce、Ta、La、In等の酸化物、これらの金属原子を含む複合酸化物等が挙げられる。
【0166】
このような超微粒子とするためには、粒子表面を表面処理剤で処理する技術(例えば、特開平11−295503号公報、特開平11−153703号公報、特開2000−9908号公報に記載されるシランカップリング剤で処理する技術や、特開2001−310432号公報等に記載されるアニオン性化合物あるいは有機金属カップリング剤で処理する技術)、高屈折率粒子をコアとしたコアシェル構造とする技術(例えば、特開2001−166104等に記載される技術)、特定の分散剤を併用する技術(例えば、特開平11−153703号公報、米国特許第6,210,858B1号明細書、特開2002−2776069号公報等に記載される技術)等を利用することができる。マトリックスを形成する材料としては、従来公知の熱可塑性樹脂、硬化性樹脂皮膜等が挙げられる。
【0167】
さらに、ラジカル重合性および/またはカチオン重合性の重合性基を少なくとも2個以上有する多官能性化合物を含有する組成物、加水分解性基を有する有機金属化合物およびその部分縮合体の組成物から選ばれる少なくとも1種の組成物が好ましい。これらの組成物に用いる化合物として、例えば、特開2000−47004号公報、同2001−315242号公報、同2001−31871号公報、同2001−296401号公報等に記載の化合物が挙げられる。
また、金属アルコキドの加水分解縮合物から得られるコロイド状金属酸化物と金属アルコキシド組成物から得られる硬化性膜も好ましい。例えば、特開2001−293818号公報等に記載される硬化性膜を挙げることができる。
【0168】
高屈折率層の屈折率は、一般に1.70〜2.20である。高屈折率層の厚さは、5nm〜10μmであることが好ましく、10nm〜1μmであることがより好ましい。
中屈折率層の屈折率は、低屈折率層の屈折率と高屈折率層の屈折率との間の値となるように調整する。中屈折率層の屈折率は、1.50〜1.70であることが好ましい。
【0169】
(低屈折率層)
低屈折率層は、高屈折率層の上に順次積層してなる層である。低屈折率層の屈折率は一般に1.20〜1.55である。好ましくは1.30〜1.50である。
低屈折率層は、耐擦傷性や防汚性を有する最外層として構築することが好ましい。耐擦傷性を大きく向上させるためには表面に滑り性を付与することが有効であり、具体的には従来公知のシリコーン化合物や含フッ素化合物を導入した薄膜層の形成法を適用することができる。
【0170】
含フッ素化合物の屈折率は1.35〜1.50であることが好ましい。より好ましくは1.36〜1.47である。また、含フッ素化合物はフッ素原子を35〜80質量%の範囲で含む架橋性または重合性の官能基を含む化合物であることが好ましい。
【0171】
例えば、特開平9−222503号公報の段落番号[0018]〜[0026]、同11−38202号公報の段落番号[0019]〜[0030]、特開2001−40284号公報の段落番号[0027]〜[0028]、特開2000−284102号公報等に記載の化合物が挙げられる。
シリコーン化合物はポリシロキサン構造を有する化合物であり、高分子鎖中に硬化性官能基または重合性官能基を有し、膜中で橋かけ構造を形成しているものが好ましい。例えば、反応性シリコーン(例えば、サイラプレーン(チッソ(株)製等)、両末端にシラノール基を有するポリシロキサン(特開平11−258403号公報等)等が挙げられる。
【0172】
架橋または重合性基を有する含フッ素および/またはシロキサンのポリマーの架橋または重合反応は、重合開始剤や増感剤等を含有する最外層形成用の塗布組成物を塗布と同時または塗布後に光照射や加熱することにより実施することが好ましい。
また、シランカップリング剤等の有機金属化合物と特定のフッ素含有炭化水素基を有するシランカップリング剤とを触媒共存下に縮合反応させて硬化したゾルゲル硬化膜も好ましい。
【0173】
例えば、ポリフルオロアルキル基含有シラン化合物またはその部分加水分解縮合物(特開昭58−142958号公報、同58−147483号公報、同58−147484号公報、特開平9−157582号公報、同11−106704号公報記載等記載の化合物)、フッ素含有長鎖基であるポリ(パーフルオロアルキルエーテル)基を含有するシリル化合物(特開2000−117902号公報、同2001−48590号公報、同2002−53804号公報に記載の化合物等)等が挙げられる。
【0174】
低屈折率層は、上記以外の添加剤として充填剤(例えば、二酸化珪素(シリカ)、含フッ素粒子(フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム)等の一次粒子平均径が1〜150nmの低屈折率無機化合物、平11−3820公報の段落番号[0020]〜[0038]に記載の有機微粒子等)、シランカップリング剤、滑り剤、界面活性剤等を含有することができる。
低屈折率層が最外層の下層に位置する場合、低屈折率層は気相法(真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法等)により形成してもよい。安価に製造できる点で、塗布法が好ましい。
低屈折率層の膜厚は、30〜200nmであることが好ましく、50〜150nmであることがより好ましく、60〜120nmであることがさらに好ましい。
【0175】
(ハードコート層)
ハードコート層は、反射防止フィルムに物理強度を付与するために、セルロースアシレートフィルムの表面に設けることができる。特に、セルロースアシレートフィルムと前記高屈折率層の間に設けることが好ましい。
ハードコート層は、光および/または熱の硬化性化合物の架橋反応、または、重合反応により形成することが好ましい。硬化性官能基としては、光重合性官能基が好ましく、また加水分解性官能基を有する有機金属化合物は有機アルコキシシリル化合物であることが好ましい。
これらの化合物の具体例としては、高屈折率層で例示したものと同様のものが挙げられる。
【0176】
ハードコート層の具体的な構成組成物としては、例えば、特開2002−144913号公報、同2000−9908号公報、国際公開WO0/46617号パンフレット等に記載されるものが挙げられる。
高屈折率層はハードコート層を兼ねることができる。このような場合、高屈折率層の説明で記載した手法を用いて微粒子を微細に分散してハードコート層に含有させて形成することが好ましい。
ハードコート層は、平均粒子サイズ0.2〜10μmの粒子を含有させて防眩機能(アンチグレア機能)を付与した防眩層(後述)を兼ねることもできる。
ハードコート層の膜厚は用途により適切に設計することができる。ハードコート層の膜厚は、0.2〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.5〜7μmである。
ハードコート層の強度は、JIS K5400に従う鉛筆硬度試験で、H以上であることが好ましく、2H以上であることがより好ましく、3H以上であることが特に好ましい。また、JIS K5400に従うテーバー試験で、試験前後の試験片の摩耗量が少ないほど好ましい。
【0177】
(前方散乱層)
前方散乱層は、液晶表示装置に適用した場合の、上下左右方向に視角を傾斜させたときの視野角改良効果を付与するために設ける。上記ハードコート層中に屈折率の異なる微粒子を分散することで、ハードコート機能と兼ねることもできる。
【0178】
例えば、前方散乱係数を特定化した特開11−38208号公報、透明樹脂と微粒子の相対屈折率を特定範囲とした特開2000−199809号公報、ヘイズ値を40%以上と規定した特開2002−107512号公報等に記載される技術を用いることができる。
【0179】
(その他の層)
上記の層以外に、プライマー層、帯電防止層、下塗り層や保護層等を設けてもよい。
【0180】
(塗布方法)
反射防止フィルムの各層は、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート、マイクログラビア法やエクストルージョンコート法(米国特許第2,681,294号明細書)により、塗布により形成することができる。
【0181】
(アンチグレア機能)
反射防止フィルムは、外光を散乱させるアンチグレア機能を有していてもよい。アンチグレア機能は、反射防止フィルムの表面に凹凸を形成することにより得られる。反射防止フィルムがアンチグレア機能を有する場合、反射防止フィルムのヘイズは、3〜30%であることが好ましく、5〜20%であることがより好ましく、7〜20%であることが最も好ましい。
【0182】
反射防止フィルムの表面に凹凸を形成する方法は、これらの表面形状を充分に保持できる方法であればいずれの方法でも適用できる。例えば、低屈折率層中に微粒子を使用して膜表面に凹凸を形成する方法(例えば、特開2000−271878号公報等)、低屈折率層の下層(高屈折率層、中屈折率層またはハードコート層)に比較的大きな粒子(粒子サイズ0.05〜2μm)を少量(0.1〜50質量%)添加して表面凹凸膜を形成し、その上にこれらの形状を維持して低屈折率層を設ける方法(例えば、特開2000−281410号公報、同2000−95893号公報、同2001−100004号公報、同2001−281407号公報等)、最上層(防汚性層)を塗設後の表面に物理的に凹凸形状を転写する方法(例えば、エンボス加工方法として、特開昭63−278839号公報、特開平11−183710号公報、特開2000−275401号公報等記載)等が挙げられる。
【0183】
<液晶表示装置>
本発明のセルロースアシレートフィルム、該セルロースアシレートフィルムを用いた偏光板、位相差フィルムおよび光学フィルムは、それぞれ液晶表示に好ましく組み込むことができる。以下に各液晶モードについて説明する。
【0184】
(TNモード液晶表示装置)
カラーTFT液晶表示装置として最も多く利用されており、多数の文献に記載がある。TNモードの黒表示における液晶セル中の配向状態は、セル中央部で棒状液晶性分子が立ち上がり、セルの基板近傍では棒状液晶性分子が寝た配向状態にある。
【0185】
(OCBモード液晶表示装置)
棒状液晶性分子を液晶セルの上部と下部とで実質的に逆の方向に(対称的に)配向させるベンド配向モードの液晶セルである。ベンド配向モードの液晶セルを用いた液晶表示装置は、米国特許第4,583,825号、同5,410,422号の各明細書に開示されている。棒状液晶性分子が液晶セルの上部と下部とで対称的に配向しているため、ベンド配向モードの液晶セルは、自己光学補償機能を有する。そのため、この液晶モードは、OCB(Optically Compensated Bend) 液晶モードとも呼ばれる。
【0186】
OCBモードの液晶セルもTNモード同様、黒表示においては、液晶セル中の配向状態は、セル中央部で棒状液晶性分子が立ち上がり、セルの基板近傍では棒状液晶性分子が寝た配向状態にある。
【実施例】
【0187】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0188】
(物性評価)
(1)平均分子量
GPC装置(東ソー製、HLC−8220GPC)を用いて下記条件で測定して、重量平均分子量(Mw)を求めた。なお、検量線はポリスチレン(TSK標準ポリスレン:分子量1050、5970、18100、37900、190000、706000)を用いて作製した。得られた平均分子量を、下記(2)の方法で決定した置換度から求めた1繰り返し単位あたりの分子量で除して、重量平均重合度(DPw)とした。
溶離液:ジメチルホルムアミド(DMF)
流量:1ml/分
検出器:RI
試料濃度:0.5%
【0189】
(2)置換度
13C−NMR法により、セルロースアシレートの炭素の面積強度比を比較することにより、置換度を決定した。
【0190】
(3)ガラス転移温度(Tg)
DSCの測定パンにセルロースアシレートフィルムを20mg入れた。これを窒素気流中で、10℃/分で30℃から240℃まで昇温した後、30℃まで−50℃/分で冷却した。この後、再度30℃から240℃まで昇温してベースラインが低温側から変位し始める温度をTgとした。
【0191】
(4)微粒子の定量
セルロースアシレート10gをジクロロメタン40mlに溶解し、アプリケータを用いてこれをガラス板上に乾燥後の膜厚が約50μmとなるように流涎した。これを、偏光顕微鏡(平行および直行ニコル)にて観察し、単位面積あたりの異物の量およびサイズを観察した。
【0192】
(5)硫黄分の定量
乾燥したセルロースアシレート試料約0.5gを電気炉にて灰化させ、酸化分解・電量滴定法により含有する硫黄分の量を測定した。
【0193】
(6)金属の定量
乾燥したセルロースアシレート試料約0.5gをマルチウエーブ法により硝酸灰化させ、ICPによりナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムの量を測定した。
【0194】
<実施例1>
合成例1
(セルロース アセテートプロピオネートP−1、P−11)
セルロース (広葉樹パルプ)10質量部、酢酸5質量部を反応容器に取り、25℃で1時間保った。反応容器を0℃まで冷却し、別途、プロピオン酸無水物103質量部、硫酸1.0質量部の混合物を調整し、−10℃に冷却した後に、前記前処理を行ったセルロース に一度に加えた。30分経過後、外設温度を30℃まで上昇させ、4時間反応させた。反応容器を5℃の氷水浴にて冷却し、25%含水酢酸120質量部を30分間かけて添加した。内温を60℃に上昇させ、2時間攪拌した。酢酸マグネシウム4水和物の50%水溶液を10質量部添加し、30分間攪拌した。
25%含水酢酸75質量部、水250質量部を徐々に加え、セルロース アセテートプロピオネートを沈殿させた。70℃の温水にて、洗浄液のpHが6〜7になるまで洗浄を行った後、0.001%水酸化カルシウム水溶液中で0.5時間攪拌し濾過した。得られたセルロース アセテートプロピオネートP−1は、70℃で乾燥させた。1H−NMRおよび、GPC測定によれば、得られたセルロース アセテートプロピオネートはアセチル化度0.16、プロピオニル化度2.55、重量平均分子量135,000、ナトリウム含量:検出限界以下、カリウム含量:検出限界以下、カルシウム含量:30ppm、マグネシウム含量:1ppm、硫酸根量:70ppm、式(4)で表される(M/S)は1.2であった。
このセルロースアセテートプロピオネートP−1を100質量部、酢酸2000質量部を混合し、40℃で攪拌して均一な溶液を作成した。この溶液をセルロース繊維製ろ紙(保留粒子サイズ40μm)、金属焼結フィルター(保留粒子サイズ10μm)、金属焼結フィルター(保留粒子サイズ10μm)にて順に加圧ろ過して異物を除去した。さらに、25%含水酢酸75質量部、水250質量部を徐々に加え、セルロースアセテートプロピオネートを沈殿させた。70℃の温水にて、洗浄液のpHが6〜7になるまで洗浄を行った後、0.001%水酸化カルシウム水溶液中で0.5時間攪拌し濾過した。得られたセルロース アセテートプロピオネートは、70℃で乾燥させた。1H−NMRおよび、GPC測定によれば、得られたセルロースアセテートプロピオネートP−11はアセチル化度0.16、プロピオニル化度2.55、重量平均分子量134,000、ナトリウム含量:検出限界以下、カリウム含量:検出限界以下、カルシウム含量:31ppm、マグネシウム含量:1ppm、硫酸根量:66ppm、式(4)で表される(M/S)は1.2であった。
【0195】
合成例2
(セルロースアセテートプロピオネートP−2、P−12)
セルロース (リンター)150質量部、酢酸100質量部を反応容器に取り、25℃で1時間保った。反応容器を0℃まで冷却し、別途、プロピオン酸無水物1545質量部、硫酸10.5質量部の混合物を調整し、−15℃に冷却した後に、上記の前処理を行ったセルロースに一度に加えた。30分経過後、外設温度を徐々に上昇させ、アシル化剤の添加から2時間経過後に内温が30℃になるように調節した。反応容器を5℃の氷水浴にて冷却し、アシル化剤の添加からから5時間後に、内温が10℃になるように調節した。5℃に冷却した25%含水酢酸120質量部を1時間かけて添加した。内温を60℃に上昇させ、2時間攪拌した。50%含水酢酸に酢酸マグネシウム4水和物を硫酸の2倍モル溶解した溶液を添加し、30分間攪拌した。
25%含水酢酸1000質量部、33%含水酢酸500質量部、50%含水酢酸500質量部、水1000質量部をこの順に加え、セルロースアセテートプロピオネートを沈殿させた。70℃の温水にて、洗浄液のpHが6〜7になるまで洗浄を行った後、20℃の0.001重量%水酸化カルシウム水溶液中で0.5時間攪拌し、濾過を行った。得られたセルロースアセテートプロピオネートP−12は、70℃で真空乾燥させた。1H−NMRおよび、GPC測定によれば、得られたセルロースアセテートプロピオネートP−12はアセチル化度0.40、プロピオニル化度2.45、重量平均分子量129,000、ナトリウム含量:1ppm、カリウム含量:検出限界以下、カルシウム含量:28ppm、マグネシウム含量:1ppm、硫酸根量:64ppm、式(4)で表される(M/S)は1.1であった。
セルロースアセテートプロピオネートP−2について、P−1と同様にして溶解と濾過を行い、セルロースアセテートプロピオネートP−12を得た。1H−NMRおよび、GPC測定によれば、得られたセルロースアセテートプロピオネートP−2はアセチル化度0.40、プロピオニル化度2.45、重量平均分子量127,000、ナトリウム含量:検出限界以下、カリウム含量:検出限界以下、カルシウム含量:28ppm、マグネシウム含量:1ppm、硫酸根量:62ppm、式(4)で表される(M/S)は1.1であった。
【0196】
また、0.001重量%水酸化カルシウム水溶液の代わりに、0.001質量%炭酸水素ナトリウム水溶液で処理する以外はP−2と同様にして、セルロースアセテートプロピオネートP−3を得た。P−3はアセチル化度0.40、プロピオニル化度2.45、重量平均分子量128,600、ナトリウム含量:34ppm、カリウム含量:検出限界以下、カルシウム含量:2ppm、マグネシウム含量:1ppm、硫酸根量:64ppm、式(4)で表される(M/S)は1.3であった。
セルロースアセテートプロピオネートP−3について、0.001重量%水酸化カルシウム水溶液の代わりに、0.001質量%炭酸水素ナトリウム水溶液で処理する以外はP−1と同様にして溶解と濾過を行い、セルロースアセテートプロピオネートP−13を得た。1H−NMRおよび、GPC測定によれば、得られたセルロースアセテートプロピオネートP−13はアセチル化度0.40、プロピオニル化度2.45、重量平均分子量129,000、ナトリウム含量:35ppm、カリウム含量:検出限界以下、カルシウム含量:2ppm、マグネシウム含量:1ppm、硫酸根量:60ppm、式(4)で表される(M/S)は1.3であった。
【0197】
合成例4 (セルロース アセテートブチレートB−1)
セルロース(広葉樹パルプ)10質量部、酢酸13.5質量部を反応容器に取り、25℃で1時間保った。反応容器を0℃まで冷却し、別途、酪酸無水物108質量部、硫酸1.0質量部の混合物を調整し、−20℃に冷却した後に、上記前処理を行ったセルロース に一度に加えた。1時間経過後、外設温度を27℃まで上昇させ、6時間反応させた。反応容器を5℃の氷水浴にて冷却し、25%含水酢酸120質量部を30分間かけて添加した。内温を60℃に上昇させ、2.5時間攪拌した。酢酸マグネシウム4水和物の50%水溶液を10質量部添加し、30分間攪拌した。
25%含水酢酸75質量部、水250質量部を徐々に加え、セルロースアセテートブチレートを沈殿させた。70℃の温水にて、洗浄液のpHが6〜7になるまで洗浄を行った後、0.002%水酸化カルシウム水溶液中で0.5時間攪拌し濾過した。得られたセルロースアセテートブチレートB−1は、70℃で乾燥させた。1H−NMRおよび、GPC測定によれば、得られたセルロースアセテートブチレートB−1はアセチル化度0.80、ブチリル化度1.95、重量平均分子量127,000、ナトリウム含量:検出限界以下、カリウム含量:検出限界以下、カルシウム含量:35ppm、マグネシウム含量:2ppm、硫酸根量:85ppm、式(4)で表される(M/S)は1.1であった。
セルロースアセテートブチレートB−1について、P−1と同様にして溶解と濾過を行い、セルロースアセテートブチレートB−11を得た。
得られたセルロースアセテートブチレートB−11はアセチル化度0.80、ブチリル化度1.95、重量平均分子量127,000であった。
【0198】
合成例5
合成例1において、ろ過直前にセライト545(Celite Corporation 製サイズ20〜80μm)を溶液重量に対し10質量%添加し、攪拌して分散をさせる以外は合成例1と同様にして、セルロースアセテートプロピオネートP−21を製造した。得られたセルロースアセテートプロピオネートP21はアセチル化度0.16、プロピオニル化度2.55、重量平均分子量132000であった。また、このセルロースアシレートの230℃での溶融粘度は、830Pa・sであった。
【0199】
<実施例2> 溶融製膜
(1)試料の調製
実施例1で作製したセルロースアシレートならびに比較例(表1に記載)および、CTA−1(セルロースアセテート:アセチル置換度2.85、本発明の製造方法とは異なる方法で製造されている)に、熱安定剤としてスミライザーGP(住友化学工業製)を0.3質量%、紫外線吸収剤としてアデカスタブLA−31(旭電化工業製)1質量%をそれぞれ添加し、よく撹拌した。
【0200】
(2)溶融製膜
上記セルロースアシレートを直径3mm長さ5mmの円柱状のペレットに成形した後、110℃の真空乾燥機で6時間乾燥し、残留水分を0.01質量%以下にした。これを(Tm−10℃)になるように調整したホッパーに投入し、窒素気流下、溶融温度230℃で、圧縮比3.5のフルフライトスクリューを用い、L(スクリュー長)/D(スクリュー径)=30で混練溶融した。
さらに、押し出し機出口にブレーカープレート式の濾過を行った後、ギアポンプ通過後に4μmのステンレス製リーフ型ディスクフィルター型濾過装置を通した。
CTA−1は上記の条件ではペレット化することができなかった。
【0201】
CTA−1を除くペレットをTダイを通して押出し、特開平11−235747号公報の実施例1に記載のタッチロールを用いて製膜した。これをキャスティングロールから剥ぎ取り巻き取った。なお、巻き取り直前に両端(全幅の各3%)をトリミングした後、両端に幅10mm、高さ50μmの厚みだし加工(ナーリング)をつけた後、ロール状に巻き取った。これらのフィルムの有機溶媒含有量(ガスクロマトグラフィー法による)は0.01質量%以下であった。
これらのフィルムの面状を目視で観察し、流動筋が感知されないレベルを良好と判断した。また、100μm換算での光線透過率を測定した。
また、粒子サイズが40μm以上である異物の含有量の個数を、フィルム1gあたりに換算して示した。
【0202】
【表1】

【0203】
(延伸フィルムの作製と評価)
上記で製造したセルロースアシレートフィルム(未延伸セルロースアシレートフィルム)を、それぞれのセルロースアシレートフィルムのTgより10℃高い温度で、15%のTD延伸をした(延伸セルロースアシレートフィルム)。 本発明の製造方法により得られたセルロースアシレートフィルムは、延伸を行った際も良好な透明性を示した。
【0204】
【表2】

【0205】
本発明の製造方法で製造されたセルロースアシレートから作製したフィルムは異物が極めて少なく、良好な性質を示すことが確認された。さらに、本発明では、得られるフィルムの光線透過率が高く、優れた性質を有する光学フィルムが得られることが認められた。
一方で、比較例では異物が極めて多く、面状も不良で、光学フィルムとしては商品化が困難であることが確認された。
【0206】
<実施例2> 溶液製膜
(セルロースアシレート溶液の作製)
(i)溶剤の調製
溶媒組成が、ジクロロメタン(82.0質量%)、メタノール(15.0質量%)、ブタノール(3.0質量%)からなる溶剤を調製した。
【0207】
(ii)セルロースアシレート組成物の乾燥
上述のセルロースアシレート組成物を乾燥し含水率を0.5%以下とした。
【0208】
(iii)添加剤の添加
下記組成の添加剤を(i)で得られた溶剤に添加した。なお、下記の添加量(質量%)は全てセルロースアシレートの絶乾燥質量に対する割合である。
〔添加剤組成〕
可塑剤A(トリフェニルホスフェート) 3.1質量%
可塑剤B(ビフェニルジフェニルホスフェート) 1質量%
光学異方性コントロール剤(特開2003−66230号公報に記載の(化1)に記載の板状化合物) 2.95質量%
UV剤a(2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン)
0.5質量%
UV剤b(2(2'−ヒドロキシ−3',5'−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール) 0.2質量%
UV剤c(2(2'−ヒドロキシ−3',5'−ジ−tert−アミルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール) 0.1質量%
クエン酸エチルエステル(モノエステル:ジエステル=1:1) 0.2質量%
【0209】
(iv)膨潤・溶解
前記(iii)で得られた添加剤を含んだ溶液中に、前記(ii)の各セルロースアシレートを撹拌しながら添加した。撹拌停止後、25℃で3時間膨潤させてスラリーを作製した。該スラリーを再度撹拌し、セルロースアシレートを完全に溶解した。
【0210】
(v)ろ過・濃縮
この後、前記スラリーを絶対ろ過精度0.01mmの濾紙(東洋濾紙(株)製、#63)でろ過し、さらに絶対ろ過精度2.5μmのろ紙(ポール社製、FH025)にてろ過し、セルロースアシレート溶液を得た。セルロースアシレート溶液の濃度は25質量%(全固形分×100/(全固形分量+溶剤量)であった。
【0211】
(溶液製膜)
上述のセルロースアシレート溶液を35℃に加温し、下記のバンド方法で鏡面ステンレス支持体上に流延した。該バンド方法においては、セルロースアシレート溶液をギーサーに通して、15℃に保温したバンド長60mの鏡面ステンレス支持体上に流延した。使用したギーサーは、特開平11−314233号公報に記載の形態に類似するものを用いた。また、流延部の空間温度を40℃とし、さらに熱供給のための空気を風速30m/秒で送風した。残留溶剤が100質量%となった時点でセルロースアシレートフィルムを鏡面ステンレス支持体から荷重20g/cmで剥ぎ取り、40℃〜120℃の間を昇温速度が30℃/分となるように昇温(除昇温)した。その後、120℃で5分、さらに145℃で20分乾燥した後、30℃/分で徐冷し、セルロースアシレートフィルムを得た。得られたフィルムは両端を3cmトリミングした後、両端から2〜10mmの部分に高さ100μmのナーリングを付与し、ロール状に巻き取った。
上記方法にしたがって、得られた各セルロースアシレートフィルムのRe、Rth、面状、光線透過率を評価した。
溶融製膜と同様に溶液製膜法にて製造したセルロースアシレートフィルムも異物が少なく、良好な性質を示した。
また、溶液製膜法にて製造したセルロースアシレートフィルムについても、溶融製膜法にて製造したセルロースアシレートフィルムと同様にして延伸フィルムの作製を行ったところ、本発明の製造方法により得られたセルロースアシレートフィルムは、良好な透明性を示した。
【0212】
<実施例3> セルロースアシレートフィルムの応用
(延伸フィルムの作製と評価)
上記で製造したセルロースアシレートフィルム(未延伸セルロースアシレートフィルム)を、それぞれのセルロースアシレートフィルムのTgより10℃高い温度で、15%のTD延伸をした(延伸セルロースアシレートフィルム)。
【0213】
(偏光板の作製と評価)
(1)セルロースアシレートフィルムの鹸化
上記未延伸セルロースアシレートフィルムおよび延伸セルロースアシレートフィルムのそれぞれについて、下記の方法で鹸化を行なった。
1.5mol/L濃度の水酸化ナトリウム水溶液を鹸化液として用いた。これを60℃に調温し、セルロースアシレートフィルムを2分間浸漬した。この後、0.05mol/Lの硫酸水溶液に30秒浸漬した後、水洗浴を通した。
【0214】
(2)偏光膜の作製
特開2001−141926号公報の実施例1に従い、2対のニップロール間に周速差を与え、長手方向に延伸し、厚み20μmの偏光膜を作製した。
【0215】
(3)貼り合わせと評価
このようにして得た偏光膜と、上記鹸化処理した未延伸セルロースアシレートフィルム、延伸セルロースアシレートフィルムのうちから2枚選び、これらで上記偏光膜を挟んだ後、PVA((株)クラレ製、PVA−117H)3%水溶液を接着剤として、偏光軸とセルロースアシレートフィルムとの長手方向が90°となるように張り合わせた。このうち未延伸セルロースアシレートフィルムおよび延伸セルロースアシレートフィルムを特開2000−154261号公報の図2〜9に記載の20インチVA型液晶表示装置に25℃・相対湿度60%下で取り付け、これを25℃・相対湿度10%の中に持ち込んだ。本発明の製造方法により製造されたセルロースアシレートフィルムを使用したものは、いずれも色調変化が小さく、表示むらの少ない良好な性能が得られた。
また、特開2002−86554号公報の実施例1に従い、テンターを用い延伸軸が斜め45°となるように延伸した偏光板についても同様に、本発明の製造方法により製造されたセルロースアシレートフィルムを用いて作製したものは、上記同様に良好な結果が得られた。
【0216】
(光学補償フィルムの作製と評価)
特開平11−316378号公報の実施例1の液晶層を塗布したセルロースアセテートフィルムの代わりに、上述の鹸化済みの延伸セルロースアシレートフィルムを使用し、これを、特開2002−62431号公報の実施例9に記載のベンド配向液晶セルに25℃・相対湿度60%下で取り付け、これを25℃・相対湿度10%の中に持ち込んだ。本発明の製造方法により得られたセルロースアシレートフィルムを使用したものは漏れならびにコントラストの変化の小さい良好な表示性能が得られた。
【0217】
さらに特開平7−333433号公報の実施例1の液晶層を塗布したセルロースアセテートフィルムに代わって、上記延伸セルロースアシレートフィルムに変更し光学補償フィルターフィルムを作製した。この場合も同様に、良好な光学補償フィルムを作製できた。
また、本発明の製造方法により製造されたセルロースアシレートフィルムを用いた偏光板、位相差偏光板を、特開平10−48420号公報の実施例1に記載の液晶表示装置、特開平9−26572号公報の実施例1に記載のディスコティック液晶分子を含む光学的異方性層、ポリビニルアルコールを塗布した配向膜、特開2000−154261号公報の図2〜9に記載の20インチVA型液晶表示装置、特開2000−154261号公報の図10〜15に記載の20インチOCB型液晶表示装置、特開2004−12731号公報の図11に記載のIPS型液晶表示装置に用いたところ、光漏れの極めて少ない良好な液晶表示装置を得た。一方で、本発明の製造方法以外により製造されたセルロースアシレートC−1を用いて作成した液晶表示装置は、暗黒下での黒表示をさせた場合に、光漏れが観察された。
【0218】
(低反射フィルムの作製と評価)
発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)の実施例47に従い、上記延伸セルロースアシレートフィルムを用いて低反射フィルムを作製したところ、本発明の製造方法により製造されたセルロースアシレートフィルムを使用したものは、良好な光学性能が得られた。
さらに上記低反射フィルムを、特開平10−48420号公報の実施例1に記載の液晶表示装置、特開2000−154261号公報の図2〜9に記載の20インチVA型液晶表示装置、特開2000−154261号公報の図10〜15に記載の20インチOCB型液晶表示装置液晶表示装置、特開2004−12731号公報の図11に記載のIPS型液晶表示装置の最表層に貼り評価を行ったところ、漏れの極めて少ない良好な液晶表示装置を得た。
【産業上の利用可能性】
【0219】
本発明によれば、光学フィルムとして好適に用いることができる、異物の極めて少ないセルロースアシレートを得ることができる。さらに、該セルロースアシレートを用いた光学フィルムを使用することで、高品位な位相差フィルム、偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルム並びに画像表示装置を得ることができる。したがって本発明は、産業上の利用可能性が高い有用な発明である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)〜(3)を満足し、かつ、下記式(4)で定義されるM/Sが0.5〜2であるセルロースアシレートを溶媒に溶解した溶液を、保留粒子サイズが0.1μm〜40μmのフィルターを用いてろ過を行った後、貧溶媒と混合してセルロースアシレートを再沈殿させることを含む、セルロースアシレート組成物の製造方法。
式(1): 1.5≦A+B≦3
式(2): 0≦A≦1.8
式(3): 1.2≦B≦3
(式中、Aはセルロースの水酸基を構成する水素原子に対するアセチル基の置換度を表し、Bはセルロースの水酸基を構成する水素原子に対する炭素数3〜7のアシル基の置換度を表す。)
式(4): M/S=(アルカリ金属のモル含量/2 + アルカリ土類金属のモル含量)
/硫黄のモル含量
【請求項2】
前記セルロースアシレート中のカリウムの含有量が25ppm以下、かつ、ナトリウムの含有量が25ppm以下である、請求項1に記載のセルロースアシレート組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のセルロースアシレート組成物の製造方法であって、前記フィルターとして、少なくとも保留粒子サイズが2μm〜20μmのものを用いる、セルロースアシレート組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のセルロースアシレート組成物の製造方法であって、ろ過に際し、ろ過助剤を用いることを含む、セルロースアシレート組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のセルロースアシレート組成物の製造方法であって、再沈殿後のセルロースアシレート中に含有される粒子サイズが40μm以上である異物の含有量が0.1個/g以下である、セルロースアシレート組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のセルロースアシレート組成物の製造方法であって、再沈殿後のセルロースアシレート中に含有される粒子サイズが40μm以上である異物の含有量が0.05個/g以下である、セルロースアシレート組成物の製造方法。
【請求項7】
前記セルロースアシレート組成物が、溶液、溶融物、ゲル、ペレット、またはフィルムである、請求項1〜6のいずれか1項に記載のセルロースアシレート組成物の製造方法。
【請求項8】
前記セルロースアシレート組成物がペレット、またはフィルムである、請求項1〜6のいずれか1項に記載のセルロースアシレート組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のセルロースアシレート組成物の製造方法により製造されたセルロースアシレートフィルム。
【請求項10】
残留有機溶媒量が0.03質量%以下である、請求項9に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項11】
面内のレターデーション(Re)が下記式(i)を満足し、且つ、厚み方向のレターデーション(Rth)が下記式(ii)を満足する、請求項9または10に記載のセルロースアシレートフィルム。
式(i): −500nm≦Re≦500nm
式(ii): −500nm≦Rth≦500nm
【請求項12】
請求項9〜11のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムを、少なくとも1方向に0.1%〜500%延伸したセルロースアシレートフィルム。
【請求項13】
請求項9〜12のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムを用いた位相差フィルム。
【請求項14】
偏光膜と、該偏光膜の少なくとも片面に設けられた保護フィルムからなる偏光板であって、前記保護フィルムが、請求項9〜12のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムまたは請求項13に記載の位相差フィルムである偏光板。
【請求項15】
請求項9〜12のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムまたは請求項13に記載の位相差フィルムの上に、液晶性化合物を配向させて形成した光学異方性層を有する光学補償フィルム。
【請求項16】
請求項9〜12のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムまたは請求項13に記載の位相差フィルムの上に、反射防止層を有する反射防止フィルム。
【請求項17】
請求項9〜12のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムまたは請求項13に記載の位相差フィルム、請求項14に記載の偏光板、請求項15に記載の光学補償フィルムおよび請求項16に記載の反射防止フィルムからなる群より選択される少なくとも1種を用いた画像表示装置。

【公開番号】特開2008−7604(P2008−7604A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−178686(P2006−178686)
【出願日】平成18年6月28日(2006.6.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】