説明

セルロースエステルを含む透明導電フィルム

セルロースエステルポリマ内に分散された銀ナノワイヤを含む透明導電フィルムを、一般的な溶媒コーティング技術を使用して、有機溶媒からのコーティングによって調製することができる。これらのフィルムは、良好な透明性、導電性、および安定性を有する。可撓性支持体上のコーティングは、可撓性導体材料の製造を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ランダムネットワーク銀ナノワイヤおよびセルロースエステルを含む透明導電フィルム、およびこれらのフィルムを製造および使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電フィルムは、タッチパネルディスプレイ、液晶ディスプレイ、EL照明、有機発光ダイオード装置、および太陽光電池の用途において、近年、広範囲で使用されている。インジウムスズ酸化物(ITO)系透明導電フィルムが、その高い導電性、透明性、および比較的良好な安定性により、最近までほとんどの用途に一般的に好まれる透明導体であった。しかし、インジウムスズ酸化物系透明導電フィルムは、特にインジウムスズ酸化物がフレキシブル基板上に堆積される場合には、インジウムのコストが高く、複雑で高価な真空蒸着装置および工程が必要であり、その特有の脆性および割れる傾向によって限界があった。
【0003】
透明導電フィルムの特性を測定するための最も重要なパラメーターのうちの2つは、全光透過率(%T)および膜面導電率である。光透過率が高くなると、ディスプレイ用途において画質が明瞭になり、照明および太陽エネルギー変換用途において効率が高くなる。より低い抵抗率が、電力消費量を最小化することができる大部分の透明導電フィルムの用途に非常に望ましい。従って、透明導電フィルムのT/R比がより高ければ、透明導電フィルムはより良好である。
T/R比=(全透過率%)/(膜面抵抗率)
【0004】
米国特許出願公開第2006/0257638A1号は、カーボンナノチューブ(CNT)および塩化ビニル樹脂バインダを含む透明導電フィルムについて記載している。その結果生じる透明導電フィルムは、3×10−9〜7.05の範囲のT/R比を有していた。
【0005】
米国特許出願公開第2007/0074316A1号および同第2008/0286447A1号は、透明導電フィルムについて記載しており、基板上に銀ナノワイヤを堆積し、露出ナノワイヤ・ネットワークを形成し、続いて、銀ナノワイヤ・ネットワークをポリママトリクス材料で上塗りして透明導電フィルムを形成する。ポリアクリル酸塩やカルボキシル・アルキル・セルロースポリマなどのポリマ材料が、マトリックスのための有用な材料として示唆されていた。
【0006】
米国特許出願公開第2008/0292979号は、銀ナノワイヤを含む透明導電フィルム、または銀ナノワイヤおよびカーボンナノチューブの混合物について記載している。透明導電ネットワークが、バインダなしで、または写真品質画像組成で形成されている。透明導電フィルムは、ガラスおよびPET支持体の両方の上に被覆された。
【0007】
米国特許出願公開第2009/0130433A1号は、銀ナノワイヤのコーティングから形成されて、ネットワークを形成し、続いてウレタン・アクリレート・バインダの層で上塗りする透明導電フィルムについて記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0257638号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2007/0074316号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2008/0286447号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2008/0292979号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2009/0130433号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
有機溶媒からの銀ナノワイヤのポリマ分散体を被覆することによって、1工程で透明導電フィルムを調製することができることが望ましい。ポリマは、有機溶媒に容易に溶解できるべきであり、有機溶媒中で銀ナノワイヤの分散を促進することができ、銀ナノワイヤの存在下で強く耐久性のあるフィルムを形成することができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、透明セルロースエステルポリマ内に分散された銀ナノワイヤのランダムネットワークを含む透明導電フィルムを提供する。
【0011】
本発明は、また、透明セルロースエステルポリマ内に分散した銀ナノワイヤのランダムネットワークと、第2のポリマとを含む透明導電フィルムを提供する。
【0012】
本発明は、また、被覆されたセルロースエステルポリマ内に分散された銀ナノワイヤのランダムネットワークを含む透明導電フィルムを有する透明支持体を含む透明導電物品を提供する。
【0013】
本発明は、さらに、透明導電物品の形成のための方法であって、セルロースエステルポリマの溶液中に銀ナノワイヤの分散体を調製すること、分散体を透明支持体上に被覆すること、支持体上のコーティングを乾燥、被覆し、それによって銀ナノワイヤのランダムネットワークを形成すること、を含む、方法を提供する。
【0014】
本発明は、さらに、透明導電物品の形成のための方法であって、セルロースエステルの溶液中に銀ナノワイヤの分散体を調製すること、分散体を被覆、乾燥し、それによって銀ナノワイヤのランダムネットワークを形成すること、を含む、方法を提供する。
【0015】
本発明は、また、透明導電物品であって、被覆された透明支持体と、2つ以上のポリマの単一相混合物を含むキャリア層と、セルロースエステルポリマ内に分散された銀ナノワイヤのランダムネットワークを含む透明導電フィルムと、を含む透明導電物品を提供する。
【0016】
本発明は、さらに、透明導電物品の形成の方法であって、セルロースエステルポリマの溶液中に銀ナノワイヤの分散体を調製すること、2つ以上のポリマの単一相混合物を含むキャリア層調合物を調製すること、透明支持体上にキャリア層調合物を被覆すること、キャリア層上にセルロースエステルポリマの溶液中の銀ナノワイヤの分散体を被覆すること、支持体上のコーティングを乾燥し、それによって銀ナノワイヤのランダムネットワークを形成すること、を含む、方法を提供する。
【0017】
本発明の他の態様、長所、および利点は、本出願で提供される詳細な説明、実施例、および請求の範囲から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例6に記載するようにバインダとして酢酸酪酸セルロースを使用して被覆された透明導電フィルムの顕微鏡写真である。
【図2】実施例9に記載するようにバインダとしてポリビニル・ブチラールを使用して被覆された透明導電フィルムの顕微鏡写真である。
【図3】実施例10に記載するようにバインダとしてポリウレタンを使用して被覆された透明導電フィルムの顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
2009年7月17日にChaofeng Zouの名前で出願された、「セルロースエステルを含むナノワイヤ系透明導電フィルム」と表題をつけられた米国特許仮出願第61/226,380号から優先権が請求され、参照により本明細書に組み込まれる。
【0020】
<定義>
用語「導電層」または「導電フィルム」は、セルロースエステルポリマ内に分散された銀ナノワイヤを含むネットワーク層を表す。
【0021】
用語「導電性」は、電気的な導電性を表す。
【0022】
用語「物品」は、支持体上の「導電層」または「導電フィルム」のコーティングを表す。
【0023】
用語「コーティング重量」、「コート重量」、および「被覆率」は同意語であり、通常、g/mまたはmol/mなどの単位面積当たりの重量またはモルで表される。
【0024】
用語「透明」は、相当量の散乱や吸収なしで可視光線を透過することができることを意味する。
【0025】
「ヘイズ」は、すべての方向に光を均一に拡散する広角散乱である。それは、平均して2.5度より高く入射ビームから外れる透過光線の割合である。ヘイズはコントラストを低減し、乳白色または濁った外観をもたらす。ヘイズ番号が低いほど、材料はかすみが少ない。
【0026】
用語「有機溶媒」は、「使用温度で液体であり、化学式が1つ以上の炭素原子を含む材料」を意味する。
【0027】
用語「1つ(a)」または「1つ(an)」は、その成分(例えば、本明細書に記載された防食剤、ナノワイヤ、およびポリマ)の「少なくとも1つ」を表す。従って、用語「銀ナノワイヤのランダムネットワーク」は、コーティング内の1つ以上のネットワークを表すことができる。
【0028】
さらに、この文献で引用する全ての出版物、特許、および特許文献は、参照により個別に組み込まれるように、参照によりそれらの全体が明細書に組み込まれるものとする。
【0029】
<銀ナノワイヤ>
銀ナノワイヤは、導電フィルム、および導電フィルムを使用して調製される物品に、導電率を付与するための本質的な成分である。透明導電フィルムの導電率は、a)単一のナノワイヤの導電性、b)端子間のナノワイヤの数、およびc)ナノワイヤ間の接続性によって主として制御される。あるナノワイヤ濃度(パーコレーションしきい値とも表す)より下で、端子間の導電性は0であり、ナノワイヤが遠く離れて間隔をあけるので提供される連続的な電流路がないからである。この濃度より上で、使用できる少なくとも1つの電流路がある。より多くの電流路が提供されると、層の全抵抗は減少する。しかし、より多くの電流路が提供されると、導電フィルムを透過する光の割合は、ナノワイヤによる光吸収および散乱により減少する。また、導電フィルム内の銀ナノワイヤの量が増加すると、透明フィルムのヘイズは、銀ナノワイヤによる光散乱により増加する。同様の効果が、導電フィルムを使用して調製した透明物品で生じる。
【0030】
1つの実施形態では、銀ナノワイヤは約20〜約3300のアスペクト比(長さ/幅)を有する。他の実施形態では、銀ナノワイヤは、約500〜1000のアスペクト比(長さ/幅)を有する。約5μm〜約100μm(マイクロメートル)の長さおよび約30nm〜約200nmの幅を有する銀ナノワイヤは有用である。約50nm〜約120nmの幅および約15μm〜約100μmの長さを有する銀ナノワイヤは、また、透明導電ネットワーク・フィルムの構成に役立つ。
【0031】
銀ナノワイヤは、当該技術分野で公知の方法によって調製することができる。特に、銀ナノワイヤは、多価アルコール(例えば、エチレングリコールまたはプロピレングリコール)およびポリ(ビニルピロリドン)の存在下で銀塩(例えば、硝酸銀)の溶液相還元によって合成することができる。均一のサイズの銀ナノワイヤの大規模製造は、例えば、Ducamp−Sanguesa,C.et al,J.of Solid State Chemistry,(1992),100,272〜280;Xia,Y.et al.,Chem.Mater.(2002),14.4736〜4745;およびXia,Y.et al.,Nanoletters(2003),3(7),955〜960に記載された方法によって調製することができる。
【0032】
<セルロースエステル・バインダ>
透明導電フィルムのための実際の製造工程については、単一コーティング溶液中に銀ナノワイヤなどの導電性成分とポリマ・バインダとの両方を有することが望ましく、重要である。ポリマ・バインダ溶液は、銀ナノワイヤの分散を促進するための分散剤として、および銀ナノワイヤの堆積がコーティング工程の間に全然生じないように銀ナノワイヤ・コーティング分散体を安定させるための粘性剤として2重の役割を果たす。これは、コーティング工程を単純化し、ワンパス・コーティングを可能にし、第1のコーティング露出銀ナノワイヤの方法が、透明導電フィルムを形成するために続いてポリマで過剰に被覆される弱く脆弱なフィルムを形成することを回避する。
【0033】
透明導電フィルムが各種装置の用途に役立つためには、透明導電フィルムのバインダが、光学的に透明で可撓性で、さらに高い機械的強度、硬度、および良好な熱的安定性、良好な光安定性を有することも重要である。また、透明導電フィルム用のポリマ・バインダが、N、O、Sまたは孤立電子対を備えた他の元素を有する官能基を含み、銀ナノワイヤおよびポリマ溶液の分散およびコーティングの間に、銀ナノワイヤの安定化のために良好な配位結合をもたらすことが望ましい。
【0034】
従って、水酸基およびカルボキシレート基などの高い酸素含有量を有するポリマ・バインダを使用することは有利である。これらのポリマは、銀ナノワイヤ表面に対する強い親和性を有しており、コーティング溶液中の銀ナノワイヤの分散および安定化を促進する。最も多くの酸素を豊富に含むポリマは、また、有機溶媒が被覆された薄膜を調製するために一般に使用される極性有機溶媒に良好な溶解性を有する付加された利点を有する。
【0035】
酢酸酪酸セルロース(CAB)、酢酸セルロース(CA)、または酢酸プロピオン酸セルロース(CAP)などのセルロースエステルポリマは、銀ナノワイヤ系透明導電フィルムを調製するために使用され、2−ブタノン(メチルエチルケトン、MEK)、メチルイソブチルケトン、アセトン、メタノール、エタノール、2−プロパノール、酢酸エチル、またはそれらの混合物などの有機溶媒から被覆される場合には、他の酸素を豊富に含むポリマ・バインダより優れている。それらを使用すると、被覆フィルムの光透過率および導電率の両方が、非常に改善された透明導電フィルムがもたらされる。さらに、これらのセルロースエステルポリマは、少なくとも100℃のガラス転移温度を有し、高い機械的強度および硬度を有する透明可撓性フィルムを形成することができ、高い熱安定性および光安定性を有する。対照的に、同様に調製した、ポリウレタンまたはポリビニル・ブチラール、ポリマ・バインダを使用する透明導電フィルムは、望ましくない透過率および導電率を示す。
【0036】
セルロースエステルポリマは、乾燥透明導電フィルムの約40〜約90重量%で存在する。好ましくは、それらは、乾燥フィルムの約60〜約85重量%で存在する。
【0037】
いくつかの構成では、セルロースエステルポリマの50重量%以下が、1つ以上のさらなるポリマと取り替えることができる。これらのポリマは、セルロースポリマと互換性があるべきである。互換によって、ポリマが、乾燥時に透明単一相混合物を形成することが意味される。さらなる1つのポリマまたは複数のポリマは、支持体への接着性を促進する、硬度および引っかき抵抗性を改善するなどのさらなる利点をもたらすことができる。上記のように、すべてのポリマの合計重量%は、乾燥透明導電フィルムの約50〜約90重量%である。好ましくは、すべてのポリマの全重量は、乾燥フィルムの約70〜約85重量%である。ポリエステルおよびポリアクリル酸ポリマは、有用なさらなるポリマの例である。
【0038】
<導電フィルムのコーティング>
透明銀ナノワイヤ・フィルム用の有機溶媒系コーティング調合物は、様々な成分を、トルエン、2−ブタノン(メチルエチルケトン、MEK)、メチルイソブチルケトン、アセトン、メタノール、エタノール、2−プロパノール、酢酸エチル、酢酸プロピル、乳酸エチルまたはテトラヒドロフラン、またはそれらの混合物などの1つ以上の溶媒を通常含む適切な有機溶媒系中の1つ以上のバインダと混合することによって調製することができる。メチルエチルケトンは、特に有用なコーティング溶媒である。銀ナノワイヤを含む透明フィルムは、線巻きロッドコーティング、浸漬コーティング、エア・ナイフ・コーティング、カーテン・コーティング、スライド・コーティング、スロット−ダイ・コーティング、ロール・コーティング、グラビア・コーティング、または押出コーティングなどの様々なコーティング手順を使用して有機溶媒調合物を被覆することによって調製することができる。界面活性剤および他のコーティング助剤は、コーティング調合物に組み込むことができる。
【0039】
1つの実施形態では、銀ナノワイヤのコーティング重量は、約20mg/m〜約500mg/mである。他の実施形態では、銀ナノワイヤのコーティング重量は、約20mg/m〜約200mg/mである。さらなる実施形態では、銀ナノワイヤのコーティング重量は、約30mg/m〜約120mg/mである。透明導電コーティングの有用なドライ・コーティング厚さは、約0.05〜約2.0μm、好ましくは約0.2〜約1.0μmである。
【0040】
被覆および乾燥の際、透明導電フィルムは、1,000Ω/sq未満、好ましくは500Ω/sq未満の表面抵抗率を有するべきである。
【0041】
被覆および乾燥の際、透明導電フィルムは、できるだけ高い%透過率を有するべきである。少なくとも70%の透過率が有用である。少なくとも80%、少なくとも90%の透過率はさらに有用である。
【0042】
本発明による透明導電フィルムは、約350nm〜約1100nmの全スペクトル範囲にわたって少なくとも70%の透過率、および500Ω/sq以下の表面抵抗率をもたらす。
【0043】
少なくとも85%の透過率および500Ω/sq以下の表面抵抗率を備えたフィルムが特に有用である。
【0044】
銀ナノワイヤおよび酢酸酪酸セルロースおよび酢酸セルロース・バインダを含む透明導電フィルムは、また、セルロースポリマのための高いTg値により優れた透明度、優れた引っかき抵抗性、および優れた硬度を示す。
【0045】
必要に応じて、支持体に対するこれらのバインダを備えた透明導電フィルムの引っかき抵抗性および硬度が、架橋剤を使用することによって改善されて、セルロースエステルポリマを架橋することができる。イソシアネートおよびアルコキシシランは、遊離水酸基を含むセルロースエステル用の典型的な架橋剤の例である。
【0046】
<透明支持体>
1つの実施形態では、導体材料は支持体上に被覆される。支持体は硬質または可撓性であってもよい。
【0047】
適切な硬質基板としては、例えば、ガラス、ポリカーボネート、アクリル、等が挙げられる。
【0048】
導体材料が可撓性支持体上に被覆される場合には、支持体は、任意の所望の厚さを有し、1つ以上のポリマ材料を含む可撓性透明ポリマ・フィルムであることが好ましい。支持体は、導電層の被覆および乾燥の間に寸法安定性を示し、かつ上地層との適切な接着性を有することが必要とされる。そのような支持体を作製するための有用なポリマ材料としては、ポリエステル[ポリ(エチレン・テレフタレート)(PET)およびポリ(エチレン・ナフタレート)(PEN)など]、セルロースアセテート、および他のセルロースエステル、ポリビニルアセタール、ポリオレフィン、ポリカーボネート、およびポリスチレンが挙げられる。好ましい支持体は、ポリエステルやポリカーボネートなどの良好な熱安定性を有するポリマを含む。支持体材料は、また、収縮を低減し、かつ寸法安定性を促進するために処理またはアニールしてもよい。透明多層支持体も使用することができる。
【0049】
<支持体上への導電フィルムのコーティング>
透明導電物品は、線巻きロッドコーティング、浸漬コーティング、エア・ナイフ・コーティング、カーテン・コーティング、スライド・コーティング、スロット−ダイ・コーティング、ロール・コーティング、グラビア・コーティング、または押出コーティングなどの様々なコーティング手順を使用して、透明支持体上に上記結城溶媒系調合物を被覆することによって調製することができる。
【0050】
または、透明導電物品は、透明支持体上に上記のように調製した透明導電フィルムを積層することによって調製することができる。
【0051】
いくつかの実施形態では、2つ以上のポリマの単一相混合物を含む「キャリア」層調合物を支持体上に直接適用し、それによって支持体と銀ナノワイヤ層との間に位置してもよい。キャリア層は、銀ナノワイヤを含む透明ポリマ層への支持体の接着を促進する役目をする。キャリア層調合物は、連続してまたは同時に透明導電銀ナノワイヤ層調合物の適用によって適用することができる。コーティングはすべて支持体上に同時に適用することが好ましい。キャリア層は、多くの場合、「接着促進層」、「中間層(interlayer)」、または「中間層(intermediate layer)」と呼ばれる。
【0052】
上記のように、1つの実施形態では、銀ナノワイヤのコーティング重量は、約20mg/m〜約500mg/mである。他の実施形態では、銀ナノワイヤのコーティング重量は、約20mg/m〜約200mg/mである。銀ナノワイヤが約30mg/m〜約120mg/mで被覆される実施形態も意図される。
【0053】
被覆および乾燥の際、透明導電物品は、1,000Ω/sq未満、好ましくは500Ω/sq未満の表面抵抗率を有するべきである。
【0054】
同様に、透明支持体への被覆および乾燥の際、透明導電物品は、できるだけ高い光透過率を有するべきである。少なくとも70%の透過率が有用である。少なくとも80%、さらに少なくとも90%の透過率がさらに有用である。
【0055】
少なくとも70%の透過率および500Ω/sq以下の表面抵抗率を含む物品が特に好ましい。
【実施例】
【0056】
本発明の実行を説明するために次の実施例を提供し、本発明はそれによって限定されることを意味しない。
【0057】
<実験および実施例のための材料および方法>
次の実施例で使用される材料はすべて、別段の定めがない限り、Aldrich Chemical社(ウィスコンシン州、ミルウォーキー)などの標準の商用ソースから容易に入手可能である。別段表されていない限り、すべての割合は重量による。次のさらなる方法および材料を使用した。
【0058】
CA398−6は、Eastman Chemical社(テネシー州、キングスポート)から入手可能な酢酸セルロース樹脂である。それは、約182℃のガラス転移温度を有することが報告されている。
【0059】
CAB171−15およびCAB381−20は、Eastman Chemical社(テネシー州、キングスポート)から入手可能な酢酸酪酸セルロース樹脂である。それらは、それぞれ161℃および141℃のガラス転移温度を有することが報告されている。
【0060】
CAP482−20は、Eastman Chemical社(テネシー州、キングスポート)から入手可能な酢酸プロピオン酸セルロース樹脂である。それは、約147℃のガラス転移温度を有することが報告されている。
【0061】
CCPB03TXは、Chang Chun Petrochemical社(台湾、台北)から入手可能なポリビニル・ブチラール樹脂である。
【0062】
Desmodur N75BAは、Bayer MaterialScience(ペンシルベニア州、ピッツバーグ)から入手可能な脂肪族ポリイソシアネートである。
【0063】
Fomrez11−112は、Chemtura(コネチカット州、ミドルベリー)から入手可能な水酸基末端飽和線形ポリエステル・ポリオールである。
【0064】
PETは、ポリエチレンテレフタレートであり、銀ナノワイヤ/ポリマ・コーティング用の支持体である。用語である支持体および基板は、交換可能に使用される。
【0065】
PE2700−LMWは、Bostik社(マサチューセッツ州、ミドルトン)から入手可能な低分子量ポリエステル樹脂である。
【0066】
マイヤー棒は、1/2インチ直径タイプの303ステンレス鋼コーティングロッドであり、R.D.Specialities社(ニューヨーク州、ウェブスター)から入手可能である。
【0067】
MEKは、メチルエチルケトン(または2−ブタノン)である。
【0068】
銀ナノワイヤは、Seashell Technologies,LLC(カリフォルニア州、ラホヤ)から得られた。
【0069】
THDIは、Bayer Material Science(ペンシルベニア州、ピッツバーグ)から入手可能なDesmodur N−3300(2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート)である。
【0070】
BNDは、Sigma−Aldrichから入手可能なビスマスネオデカノエートである。
【0071】
[抵抗率の測定]
表面抵抗率は、Electronic Design To Market社(オハイオ州、トリード)から入手可能なR−CHEKモデルRC2175表面抵抗率計を使用して測定した。
【0072】
[割合透過率の測定]
透過率(%)は、BYK−Gardner(メリーランド州、コロンビア)から入手可能なHaze−gard Plus Hazemeterを使用して、従来の手段によってASTM D1003に従って測定した。一貫した透過率測定を提供するために、各実施例のサンプルのすべては、同じロットの支持体に被覆した。
【0073】
[接着性の測定]
ASTM D3359−92Aに従って行う「クロス・ハッチ」接着テストを使用してサンプルを評価した。被覆フィルムは、クロス・ハッチ・パターンで、カミソリ刀で切断し、1インチ(2.54cm)の広い片の市販の3Mタイプ610半透明粘着テープをパターン上に置き、その後、素早く外した。フィルム上に残されたコーティング量は、接着量である。接着テスト評価は0〜5であり、0はコーティングの完全除去を表し、5はコーティングが全く除去されていないことを表す。「3」以上の評価が許容可能であると考えられる。3Mタイプ610半透明粘着テープが、3M社(ミネソタ州、メープルウッド)から得られた。
【0074】
(実施例1−11:透明導電コーティングの調製および評価)
ポリマ・プレミックス溶液0.50gに、表2に以下に示すように、MEK0.4g、および銀ナノワイヤ分散体を含む2−プロパノール(5.09%銀ナノワイヤ)0.10gを添加した。
【0075】
分散体を10分間ローラー・ミキサー上で混合して、均一分散体を得た。♯10マイヤー棒を使用して、7ミル(178μm)の透明ポリエチレンテレフタレート支持体上に分散体を被覆した。結果生じるコーティングを、220°F(104℃)で10分間オーブン中で乾燥して、テストに適切な透明フィルムを得た。
【0076】
サンプルを、上記のように、表面抵抗率、%透過率、および支持体への接着性に関してテストした。
【0077】
結果が、表1に以下に示されており、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、または酢酸プロピオン酸セルロースから被覆された透明導電フィルムが、同様に調製したが、ポリビニル・ブチラールまたはポリウレタン・バインダを使用する透明導電フィルムよりはるかに低い抵抗率を有することを説明する。
【0078】
実施例6、9および10において調製したフィルムのサンプルの写真を得た。
【0079】
図1は、実施例7に記載するように、バインダとして酢酸酪酸セルロースを使用して被覆した透明導電フィルムの顕微鏡写真である。写真は、酢酸酪酸セルロース・バインダ内に分散された相互接続した銀ナノワイヤのさらに均一のランダムネットワークを示す。このサンプルは、良好な導電性、良好な透明性、およびPET支持体に対する良好な接着性を有する。銀ナノワイヤは、良好なパーコレーション・ネットワークの形成および良好な導電性をもたらす酢酸酪酸セルロースポリマ・バインダ中で十分に分散される。
【0080】
図2は、実施例10に記載するようにバインダとしてポリビニル・ブチラールを使用して被覆した透明導電フィルムの顕微鏡写真である。写真は、ポリママトリクス中で銀ナノワイヤのかなりの凝集を示し、劣った導電率を有するコーティングを生じる。
【0081】
図3は、実施例11に記載するようにバインダとしてポリウレタンを使用して被覆した透明導電フィルムの顕微鏡写真である。写真は、ポリママトリクス中で銀ナノワイヤのかなりの凝集を示し、劣った導電率を含むコーティングをもたらす。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
(実施例12〜23)
実施例12〜23は、異なる架橋剤および触媒調合物を使用して、異なる溶媒系において酢酸酪酸セルロース・バインダの多様性を実証する。
【0085】
[酢酸酪酸セルロースポリマ・プレミックスの調製]
MEK438gの溶液に、酢酸酪酸セルロース(CAB)12.0g、THDIの3.0g、および架橋剤触媒0.70gを添加した。結果生じる混合物を、室温で3時間ボトル加震機上で混合して、CABプレミックス溶液を得た。
【0086】
[調製および透明導電フィルムコーティング]
酢酸酪酸セルロースプレミックスの溶液に、さらなる溶媒、および銀ナノワイヤ分散体を含む2−プロパノール(5.09%銀ナノワイヤ)を添加した。♯10マイヤー棒を使用して、4ミル(102μm)の透明ポリエチレンテレフタレート支持体上に分散体を被覆した。結果生じるコーティングを、220°F(104℃)で6分間オーブン中で乾燥して、テストに適切な透明フィルムを得た。これらの調合物は、表3に以下に示す。
【0087】
各サンプルのシート抵抗率(Ω/sq)、割合透過率、およびヘイズを測定した。結果は、表4に以下に示す。
【0088】
【表3】

【0089】
【表4】

【0090】
(実施例24〜59)
実施例24〜59は、本明細書で説明する透明導電フィルムの導電率が、熱および圧力の処理で著しく改善されることができることを実証する。
【0091】
サンプルは、米国特許第6,007,971号(Star et al.)に記載するタイプの加熱ドラム・プロセッサを使用して熱および加圧処理し、参照により本明細書に組み込まれる。プロセッサは、透明導電フィルム・マトリックスのポリマ・バインダ混合物のガラス転移温度より少なくとも上の温度に透明導電フィルムを加熱することができる移動可能な加熱ドラムを含む。加熱ドラムは、また、弾力層を含み、弾力層は、弾力層が急速に透明導電フィルムを加熱するように、十分に薄く、十分に熱伝導性である。加熱ドラム・プロセッサは、また、1から200g/cmの幅の透明導電フィルムに全バイアス力を適用することによって、透明導電フィルムサンプルおよび加熱ドラムに対して押圧する加熱ドラムの近くに位置する多くの回転可能ロッドを含む。加熱ドラムは移動可能であり、圧力ロッドは、透明導電フィルムの移送速度とほぼ一致する速度で回転可能である。
【0092】
透明導電フィルムサンプルを、表3において実施例13に類似する方法で調製した。サンプルのコーティング重量は、100Ω/sqより下から100Ω/sqより上の範囲の抵抗率を有する透明導電フィルムを付与するために変化した。サンプルは、15秒間、130℃、140℃、150℃で15秒間、加熱および圧力処理を受けた。サンプルは、すべてコーティングの24時間以内の加熱および加圧処理を受けた。
【0093】
各サンプルの加熱および圧力処理前の抵抗率、加熱および圧力処理後の抵抗率、および抵抗率の割合の改良を表5に示す。サンプルは、すべて加熱および加圧処理後に改善された抵抗率を示した。
【0094】
【表5】

【0095】
【表6】

【0096】
(実施例60〜66)
実施例60〜66は、加速経年劣化条件下で、高温および高湿下で透明導電フィルムの安定性を実証する。
【0097】
透明導電フィルムは、表3の実施例19の方法に類似する方法で調製した。サンプルは、15秒間130℃で熱処理した。サンプルは、次いで、温度および湿度が60℃、90%相対湿度で維持された状態で、7日間環境室に置き、その後、各サンプルの抵抗率を再び測定した。結果生じるデータを表6に以下に示し、銀ナノワイヤおよび酢酸セルロース・バインダから調製された透明導電フィルムの導電率が少しの変化のみを示したことを実証する。
【0098】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明導電物品であって、
被覆された透明支持体と、
セルロースエステルポリマ内に分散された銀ナノワイヤのランダムネットワークを含む透明導電フィルムと、
を含む、透明導電物品。
【請求項2】
前記透明支持体は硬質または可撓性である、請求項1に記載の透明導電物品。
【請求項3】
前記透明支持体は可撓性透明ポリマ・フィルムである、請求項1に記載の透明導電物品。
【請求項4】
前記支持体はポリエチレンテレフタレートである、請求項1に記載の透明導電物品。
【請求項5】
前記銀ナノワイヤは1000Ω/sq未満の表面抵抗率をもたらすのに十分な量で存在する、請求項1に記載の透明導電物品。
【請求項6】
前記銀ナノワイヤは約20〜約3300のアスペクト比を有する、請求項1に記載の透明導電物品。
【請求項7】
前記銀ナノワイヤは約20mg/m〜約500mg/mの量で存在する、請求項1に記載の透明導電物品。
【請求項8】
前記物品は少なくとも70%の透過率および500Ω/sq以下の表面抵抗率を有する、請求項1に記載の透明導電物品。
【請求項9】
約350nm〜約1100nmの全スペクトル範囲にわたって少なくとも70%の透過率および500Ω/sq以下の表面抵抗率を有する、請求項1に記載の透明導電物品。
【請求項10】
前記セルロースエステルポリマは、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、または酢酸プロピオン酸セルロース、またはそれらの混合物である、請求項1に記載の透明導電物品。
【請求項11】
前記セルロースエステルポリマは、少なくとも100℃のガラス転移温度を有する、請求項1に記載の透明導電物品。
【請求項12】
さらに、1つ以上のさらなるポリマの50重量%以下を含む、請求項10に記載の透明導電物品。
【請求項13】
前記さらなるポリマの1つ以上は、ポリエステルポリマである、請求項12に記載の透明導電物品。
【請求項14】
さらに、架橋剤を含む、請求項10に記載の透明導電物品。
【請求項15】
少なくとも70%の透過率を有する、請求項1に記載の透明導電物品。
【請求項16】
約350nm〜約1100nmの全スペクトル範囲にわたって少なくとも70%の透過率を有する、請求項1に記載の透明導電物品。
【請求項17】
約350nm〜約1100nmの全スペクトル範囲にわたって少なくとも70%の透過率および500Ω/sq以下の表面抵抗率を有する、請求項16に記載の透明導電物品。
【請求項18】
さらに、前記透明支持体と前記透明導電フィルムとの間に位置する透明ポリマ層を含む、請求項1に記載の透明導電物品。
【請求項19】
透明導電物品であって、
被覆されたポリエチレンテレフタレートを含む透明支持体と、
少なくとも100のアスペクト比を有し、500Ω/sq以下の表面抵抗率をもたらすのに十分な量で、酢酸酪酸セルロースポリマ内に分散された銀ナノワイヤのランダムネットワークを含む透明導電フィルムと、
を含む、透明導電物品。
【請求項20】
透明導電物品の形成のための方法であって、
セルロースエステルポリマの溶液中に銀ナノワイヤの分散体を調製すること、
前記分散体を透明支持体上に被覆すること、
前記支持体上のコーティングを乾燥し、それによって銀ナノワイヤのランダムネットワークを形成すること、
を含む、方法。
【請求項21】
前記透明支持体は硬質または可撓性である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記透明支持体は可撓性透明ポリマ・フィルムである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記支持体はポリエチレンテレフタレートである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記銀ナノワイヤは1000Ω/sq以下の表面抵抗率をもたらすのに十分な量で存在する、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
前記銀ナノワイヤは約20〜約3300のアスペクト比を有する、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
前記銀ナノワイヤは約20mg/m〜約500mg/mの量で存在する、請求項20に記載の方法。
【請求項27】
前記銀ナノワイヤは少なくとも70%の透過率および500Ω/sq以下の表面抵抗率をもたらすのに十分な量で存在する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記セルロースエステルポリマは、酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、または酢酸プロピオン酸セルロース、またはそれらの混合物を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項29】
前記セルロースエステルポリマは、少なくとも100℃のガラス転移温度を有する、請求項20に記載の方法。
【請求項30】
さらに、1つ以上のさらなるポリマの50重量%以下を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記さらなるポリマの少なくとも1つ以上はポリエステルポリマである、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
さらに、架橋剤を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
透明ポリマ層が前記透明支持体と前記透明導電層との間で被覆されている、請求項20に記載の方法。
【請求項34】
透明導電フィルムの形成の方法であって、
セルロースエステルの溶液中に銀ナノワイヤの分散体を調製すること、
前記分散体を被覆、乾燥し、それによって銀ナノワイヤのランダムネットワークを形成すること、
を含む、方法。
【請求項35】
約350nm〜約1100nmの全スペクトル範囲にわたって少なくとも70%の透過率および500Ω/sq以下の表面抵抗率を有する、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
透明導電物品の形成の方法であって、
セルロースエステルポリマの溶液中の銀ナノワイヤの分散体を調製すること、
2つ以上のポリマの単一相混合物を含むキャリア層調合物を調製すること、
透明支持体上に前記キャリア層調合物を被覆すること、
キャリア層上に前記セルロースエステルポリマの溶液中の銀ナノワイヤの分散体を被覆すること、
前記支持体上のコーティングを乾燥し、それによって銀ナノワイヤのランダムネットワークを形成すること
を含む、方法。
【請求項37】
前記キャリア層調合物および銀ナノワイヤ分散調合物は前記支持体上に同時に被覆される、請求項36に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2012−533846(P2012−533846A)
【公表日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−520581(P2012−520581)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【国際出願番号】PCT/US2010/000818
【国際公開番号】WO2011/008226
【国際公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(507224587)ケアストリーム ヘルス インク (76)
【Fターム(参考)】