説明

セルロース成形体およびその製造方法、並びに、その利用

本発明は、セルロース/粘土のナノ複合材料を含むセルロース成形体に関し、上記ナノ複合体の粘土成分は、未改質のヘクトライト粘土および親水性化処理されたヘクトライト粘土からなる群から選ばれる材料から構成されている。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔背景技術〕
本発明は、セルロース成形体およびその製造方法、並びに、その利用に関する。そして、特に、本発明は、難燃性が改善されたリヨセル繊維(Lyocell fibers)に関する。
【0002】
リヨセル繊維は、‘アミン酸化物(amine-oxide)’または‘リヨセル工程(Lyocell process)’と呼ばれる手法によって製造されたセルロース繊維である。この工程において、セルロースは水溶性の3級アミン酸化物に直接溶解している。上記セルロースは誘導体を生じさせることなく、また、溶媒は回転されている。このような繊維は、‘溶媒紡績’繊維(‘solvent-spun’ fibers)とも称される。‘リヨセル’(Lyosell)とは、BISFA(The international Bureau for the Standardization of Man made Fibers)によって命名された未登録の名称である。
【0003】
上記セルロース繊維は、セルロース誘導体を生じさせることなく、有機溶液にセルロースを溶解させた溶液から、半乾湿式紡糸法(dry-wet spinning process)またはメルトブローン法(melt-blown prosess)によって繊維を押出加工することにより製造される。したがって、有機溶液は有機化学的な溶媒および水との混合物となることが理解される。現在のところ、N−メチル−モルホリン−N−オキシド(NMMO)が工業規模での有機溶液として用いられている。
【0004】
上記工程において、セルロース溶液は、押出に通常用いられる手段によって押出加工される。また、上記セルロース溶液は、空隙を介して沈殿槽へ供給される。上記沈殿槽は、成形体がセルロース溶液の沈殿によって得られる場となるものである。成形体は、さらなる工程を経た後に、洗浄され、任意で乾燥される。リヨセル繊維の製造工程は、例えば、米国特許第4246221号明細書に記載されている。リヨセル繊維は、高い引張り強度、高い湿潤特性(wet-modulus)、高い引っ掛け強さによる特徴を示す。
【0005】
また、リヨセル工程は、フィルム、薄板および膜に例示される他の成形体の製造、または、スポンジの製造にも用いることができる。さらに難燃性を付与できるよう、繊維などのセルロース成形体を改良するため、従来技術において種々の試みがなされている。同様に、リヨセル繊維などの成形体は、アミン酸化物工程によって製造され、例えば、国際公開第93/12173号パンフレットに、リンを含むトリアジン化合物、および、3級アミン酸化物中における、セルロース溶液の使用方法を含む上記トリアジン化合物の使用方法が開示されている。
【0006】
国際公開第94/21724号パンフレットには、リンを含む難燃剤が開示されている。加えて、リヨセル繊維の利用についても言及されている。
【0007】
国際公開第94/26962号パンフレットには、難燃性を有するリヨセル繊維に係る製造方法が開示されている。当該製造方法では、繊維を乾燥させる前における、繊維の製造工程中に難燃剤を添加することが開示されている。
【0008】
国際公開第96/05356号パンフレットによれば、リヨセル繊維を含む繊維材料がリンおよび窒素を含有する化合物によって処理されることが開示されている。
【0009】
国際公開第97/02315号パンフレットには、リヨセル繊維の難燃剤に係る製造方法が開示されている。当該製造方法によれば、環状のホスフィン酸化物が紡績ドープ(spinning dope)に対して添加される。
【0010】
独国特許発明44 26 966号明細書では、リヨセル繊維に対する充填材について広く言及がなされている。当該文献によれば、上記充填材は高濃度で添加されることが開示されている。
【0011】
国際公開第96/27638号パンフレットでは、リヨセルドープに対し添加されることができる難燃性物質としてケイ酸塩が挙げられ、これについて主に言及されている。
【0012】
国際公開第04/081267号パンフレットでは改質された繊維が開示されており、上記繊維は、アミン酸化物工程およびセラミック酸化物、好ましくは、二酸化ケイ素の添加によって製造される。
【0013】
2つの非特許文献、「Herstellung keramischer Hohlmembranen und-filamente nach dem Lyocell-Verfahren」Keramische Zeitschrift 50(3) 1998, pp176-179 および 「Keramische Hohlmembranen, Filamente und Strukturwerkstoff auf Basis des Alceru-Verfahrens」 Technische Textilien (41) 1998, pp188-193 において、Vorbachらはアルミノケイ酸塩を含むセルロース成形体に添加することのできる増孔剤について言及している。開示された方法によれば、セルロースは高分子のキャリアとしてのみ働き、その後、セラミック成形体を形成するために加熱され消失する。
【0014】
国際公開第03/24890号パンフレットおよび国際公開第03/24891号パンフレットのそれぞれには、セラミック繊維を製造するため、紡績ドープに対して、アルミノケイ酸塩を添加することが開示されている。
【0015】
国際公開第00/53833号パンフレットには、複合繊維の製造方法として、アルミノケイ酸塩を用いることが開示されている。この文献においても、当該製造方法の目的は、セラミック成形体を製造する手段を提供することにある。
【0016】
上記の製造方法には、種々の不利益が伴う。具体的には、上記製造方法には、高いコストを必要とするものや、環境保護的な観点から使用することに問題のある物質を用いる方法がある。これまで公開された製造方法の多くは、継続的な繊維の製造方法の要求と適合するものではない。この理由から、これまで大規模な製造段階に到達した製造方法はないといえる。
【0017】
それゆえ、難燃性セルロース成形体、特に繊維に係るセルロース成形体を、低コストで製造できることが要求されている。また、生理学的または環境保護的に難燃性成分を採用することに懸念、および、製造方法を大規模に移行させる際に困難性がないことが期待されている。
【0018】
〔発明の開示〕
上記の目的は、セルロース/粘土のナノ複合材料を含むセルロース成形体によって達成される。上記セルロース成形体は、ナノ複合体の粘土成分が、未改質のヘクトライト粘土および親水性化処理されたヘクトライト粘土からなる群から選ばれる材料から構成されていることによって特徴付けられている。
【0019】
本発明に係る成形体において、セルロース/粘土のナノ複合材料は、セルロース成形体上に存在しているだけではなく、セルロース成形体のセルロース基質を介して分散している。これは、セルロース成形体中に、ヘクトライト粘土が取り込まれることによってなさされる。押出加工前において、セルロース溶液に、または、上記溶液の前駆体に対し物質を添加するなど、当業者は、セルロース成形体へ物質が取り込まれることを理解している。なお、上記溶液の前駆体としては、セルロース溶液中のセルロース懸濁液が挙げられる。
【0020】
「未改質の粘土」とは、化学的に前処理がなされていない粘土である。また、「親水性化処理された粘土」とは、粘土に親水性を付与する物質(agent)、および/または、粘土の親水性を強化する物質によって前処理された粘土である。
【0021】
粘土および高分子の「ナノ複合体」と称されるものが製造されることは知られている。上記ナノ複合体は、粘土が高分子基質に密接に分散されたものである。このようなナノ複合体を製造するためには、粘土材(clay material)を、アルキルアンモニウムのような疎水性のカチオンによって、前処理することが通常必要となる。このような前処理によって、粘土を構成するSiOの四面体の層が剥離し、種々の高分子に適合される粘土の層において、疎水性が付与される。
【0022】
Okamoto Mは、「Encyclopedia of Nanoscience and Nanotechnology」 Ed.H.S. Nalwa, Volume 8, pp 791-843, American Scientific Publishers 2004 における、論評で高分子/粘土のナノ複合体技術に亘る、優れた概説を提供している。
【0023】
また、粘土および高分子のナノ複合体は、分解温度を高くし、炭化量を増加させるため、難燃性が改善されることが知られている。
【0024】
X.Liuらは、モンモリロナイト粘土(Messr.Southern Clay社製のCloisite 30B)について以下の会、2003年9月1〜2日、イギリスのロンドン大学 クイーンメリーで開催された 2nd International Conference 「Cellulose/Clay Nanocomposites」において言及している。上記のモンモリロナイト粘土は、NMMO中のセルロース溶液へ有機カチオン(メチル−牛脂−ビス(2−ヒドロキシエチル)アンモニウムクロライド−モンモリロナイト(methyl-tallow-bis(2-hydroxyethyl) ammoniumchloride-montmorillonite))を用い、改質された粘土である。上記セルロース溶液は、フィルムにキャストされ、水に浸漬されることによって固められる。
【0025】
種々の公知文献(「Preparation of Cotton/Clay Nanocomposites」Polymer Preprints 2002, Vol 43(2), 1279-1280; 「Preparation and Thermal Analysis of Cotton-Clay Nanocomposites」, J. Appl. Polym. Sci., Vol. 92, 2125-2131 (2004); 「Cellulose-Based Nanocomposites」: 「Fiber Production and Characterization」Polymeric Materials: Science and Engineering 2004, Vol. 90, 40-50; 「Laboratory Scale and Nonwovens Production of Cellulose/Clay Nanocomposites」, Polymeric Materials: Science and Engineering 2004, Vol. 91, 532-533; 米国特許第6,893,492号明細書および国際公開第2005/026429号パンフレット)において、Whiteらは、15%以下のモンモリロナイトを含むセルロースのナノ複合体の製造方法について開示している。
【0026】
これらの公知文献によれば、有機カチオンにより前処理されたモンモリロナイトは、50%NMMOに分散されている。セルロース材料は、この分散液に添加され溶液が得られる。また、上記溶液は、繊維を形成するための自動シリンジポンプから押出されることが開示されている。これらの公知文献によれば、ドデシル-アンモニウム塩のようなアルキルアンモニウムカチオンによるモンモリロナイトの前処理は不可欠であるとされている。
【0027】
特開2002−346509号公報によれば、ビスコースに対しモンモリロナイトを混合させ、硫酸とセルロースを再生させることによる、セルロースおよび特にモンモリロナイトを含む成形体が開示されている。また、25%〜75%の無機フィラー/粘土を含む上記成形体は、ゴミ処理機のセルロース支持体として用いられることが開示されている。
【0028】
Golova, L.K.; Kuznetsova, L.K.; Korolev, Yu.M.; Kulichikhin, V.G. (発行:編集者: Bondar, V.A. Efiry Tsellyulozy i Krakhmala: Sintez, Svoistva, Primenenie, Materialy Yubileinoi Vserossiiskoi Nauchno-Tekhnicheskoi Konferntsii s Mezhdunarodnym Uchastiem, 10th, Suzdal. Russian Federation, May 5-8, 2003, 287-290 発行者: Izdatel’stvo “Posad”, Vladimir, Russia) によってなされた講演「Biodegradable film nanocomposites based on cellulose and starch」において、セルロース-NMMO溶液に対し、ナトリウム法、または、疎水性にモンモリロナイトを改質する方法の一方における、モンモリロナイトの混合法(ジメチル-水素添加牛脂 4級アンモニウム塩化物によって改質されたモンモリロナイトであるCloisite 20A、southern Clay社製)が開示されている。
【0029】
ここで、驚くべきことに、繊維のような、難燃性が改善されたセルロース成形体の製造方法が見出された。上記製造方法は、成形体中にセルロース/粘土のナノ複合体を形成することによってなされる。上記ナノ複合体は、未改質のヘクトライト粘土(例えば、化学的に前処理されていない、全てのヘクトライト粘土)または、親水性化処理されたヘクトライト粘土である(例えば、上述したアルキルアンモニウム塩などの疎水性カチオンによる処理と反対の、グルコースアンモニウム塩などの親水化剤による前処理がなされたヘクトライト粘土)。
【0030】
スメクタイト類の粘土であるヘクトライトは、どのような化学的前処理がなされずとも、セルロース成形体へ粘土の取り込みにより、セルロース/ヘクトライトのナノ複合体を形成することができるだけでなく、前処理されたモンモリロナイト粘土が取り込まれたセルロース成形体よりも優れた難燃性を上記成形体に付与することもできる。
【0031】
本発明において、合成種のヘクトライトの方が、天然種のヘクトライトよりも優れている。また、本発明に係るセルロース成形体の質量に対する、上記粘土成分における一部の割合が5%から40%までの範囲内であることが好ましい。
【0032】
さらに好ましい実施の形態としては、成形体は水溶性の3級アミン酸化物中のセルロース溶液から製造される。すなわち、上記セルロース成形体は、リヨセル工程によって製造されることを意味している。3級アミン酸化物は、好ましくはNMMOである。上記成形体は、糸状体繊維、短繊維、フィルムまたは膜中に存在してもよい。
【0033】
本発明に係る特に好ましい実施の形態は、粘土成分として、改質されていないヘクトライトが用いられたセルロース/粘土のナノ複合体を含むリヨセル短繊維である。繊維形状の成形体は、布地、メリヤス生地、不織布製品などの毛糸、織物製品等にさらに加工され得る。
【0034】
本発明に係るセルロース成形体の製造方法は、リヨセル工程を用い、以下の工程a)〜工程e)の工程を含んでいる。
工程a)セルロースを製造する工程
工程b)上記セルロースと水溶性の3級アミン酸化物との混合物を調製する工程
工程c)上記水溶性3級アミン酸化物中において、上記混合物をセルロース溶液に変換する工程
工程d)押出機から、上記セルロース溶液を押出加工する工程
工程e)沈殿流体の状態にて、上記セルロース溶液を沈殿させる工程
さらに、上記工程a)から工程c)までのうち少なくとも1工程を、未改質のヘクトライト粘土および親水性化処理されたヘクトライト粘土からなる群から選ばれる材料の存在下において行なうことを特徴としている。
【0035】
本発明に係る製造方法において、粘土材料の添加は、例えば、工程a)における出発原料としてセルロースパルプに添加されてもよい。または、NMMO中にセルロースのセルロースの懸濁液を調製する際、もしくは、すでに調製された懸濁液に添加してもよい(工程b))。さらには、セルロースを溶解する際、または、NMMO中のセルロース溶液に添加してもよい(工程c))。
【0036】
工程a)から工程c)のうち1工程において、原料をどのように添加するかは、当業者であれば理解することができる。
【0037】
本発明に係る製造方法の好ましい形態として以下の構成が示される。すなわち、工程b)において、水溶性3級アミン酸化物中における、第1の粘土の懸濁液が調製され、さらなる溶液を得るための第2の懸濁液を調製する目的で第1の粘土の懸濁液にセルロースが添加される。
【0038】
NMMOは、水溶性3級アミン酸化物として用いられることが好ましい。
【0039】
また、3級アミン酸化物中に粘土を分散させる際には、上記粘土に高い剪断力が加えられることが好ましい。これは例えば、Ultra-Turrax(登録商標)ミキサーによって分散液を調製することによって達成され得る。
【0040】
上記分散液における粘土の割合は、分散液の質量に対し1%から4%までの範囲内であることが好ましい。
【0041】
本発明に係る特に好ましい実施の形態としては、以下のような構成である。すなわち、Ultra-Turrax(登録商標)ミキサーを用いて、水溶性のNMMO中において、未改質のヘクトライト粘土をNMMOの質量に対し60%から80%までの範囲内の割合にて含まれるよう分散する。その後、必要量のセルロースを添加し、セルロースおよびヘクトライト粘土の両方を含む懸濁液を調製する。さらに、懸濁液に係る公知の方法により、上記懸濁液から溶液を調製する。
【0042】
本発明に係るセルロース成形体では、特に繊維を形成する際に、他の繊維を混合してもよい。特に、その性質として難燃性を有する繊維:例えば、ガラス、カーボン、ポリフェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリベンズイミダゾール、ポリ(p-フェニレンベンゾチアゾール類)、パラ-アラミド類、メタ-アラミド類、フルオロカーボン類、ポリフェニレンスルフィド類、メラミン類、ポリアミドイミド類、部分酸化ポリアクリロニトリル、酸化繊維、ノボロイド(novoloid)、含塩素高分子繊維:例えば、ポリ塩化ビニル、ポリビニリデンのホモポリマー類およびコポリマー類、塩化ビニルまたはビニリデンコポリマーのアクリロニトリル繊維変異体であるモダクリル繊維、フルオロポリマー繊維:例えば、ポリテトラフルオロエチレンまたはフッ化ポリビニリデン、難燃性ビスコースレーヨン:例えば、リン化合物含有レーヨン繊維、シリカ、または、シリカによって改質されたアルミノケイ酸塩を挙げることができる。
【0043】
さらには、本発明に係るセルロース繊維は、天然繊維と混合された状態であってもよい。例えば、綿、亜麻、麻、ケナフ、カラムシ、木材パルプ、羊毛、生糸、モヘアまたはカシミアなどの天然繊維、または、ビスコースレーヨン、ポリノジック・レーヨン、銅アンモニアレーヨン、リヨセルなどの合成繊維、セルロースアセテートなどのセルロースエステル類、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン11などのポリアミド類、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレートなどのポリエステル類、コポリエステル類、ポリウレタン繊維類、ポリビニルアルコール繊維類、ポリプロピレンまたはポリエチレンなどのポリオレフィン類、ポリ乳酸類、アクリル類、または、上記繊維の2つを組み合わせた繊維を挙げることができる。
【0044】
本発明に係るセルロース繊維と混合され、用いられる上記の繊維は、難燃性化学の活用によって、難燃性が付与されることも可能である。本発明の実施形態において用いることのできる難燃剤は特に限定されず、ホウ酸、ホウ酸亜鉛またはホウ砂などのホウ酸塩類、スルファミン酸塩類、リン酸アンモニウムなどのリン酸塩類、有機リン化合物類、臭化アンモニウム、デカブロモジフェニルオキシドまたは塩化パラフィンなどのハロゲン化化合物類、水酸化アンモニウムまたは水酸化マグネシウムなどの無機水酸化物、アンチモン化合物類、窒化物類、シリカまたはケイ酸塩類を挙げることができる。
【0045】
さらに、繊維は熱膨張する化合物によって処理されていてもよい。熱膨張する化合物としては、メラミン、ペンタエリスリトール、黒鉛、リン酸処理されたメラミン、ホウ酸処理されたメラミン、糖類、多価アルコールを挙げることができる。上記繊維は、本発明に係る繊維と混合されてもよい。
【0046】
さらに、本発明に係る繊維は、1種類のみで配合されていてもよく、上記複数の種類の繊維が混合されていてもよい。
【0047】
本発明は、本発明に係るセルロース繊維を含む繊維集合体にも関するものである。本発明に係る繊維集合体は、織布または不織布のどちらの形態であってもよい。
【0048】
また、上記不織布の形態は、乾式集積、空気集積および湿式集積からなる群から選ばれる1種の方法によって形成されたものであってもよい。
【0049】
さらに、不織布の形態は、熱結合、ニードルパンチ(needle-punching)、水流絡合および化学結合からなる群から選ばれる1種の方法によって結合されたものであってもよい。
【0050】
本発明に係る繊維集合体においては、上述したように、セルロース繊維が他の繊維材料と混合された状態であってもよい。
【0051】
特に好ましい形態において、本発明に係る繊維集合体は、セルロース繊維がポリエステル繊維と混合されていることが好ましい。混合された状態における、ポリエステル繊維に対するセルロース繊維の比率は、1:9から9:1の範囲であり、3:7から7:3の範囲内であることが好ましい。
【0052】
本発明に係るセルロース繊維が約30%のみであり、未改質のポリエステル繊維が約70%含まれている繊維比率では、ポリエステル繊維が100%の場合と比較し、燃焼耐性および燃焼の低減が改善された。
【0053】
本発明に係るセルロース成形体および繊維集合体は、燃焼耐性のような難燃特性が改善されたものである。
【0054】
ここで、本発明に係るセルロース形成体、特にリヨセル短繊維で形成されたセルロース成形体および/または本発明に係る繊維集合体は、高い難燃性が必要とされる用途に用いられる難燃性製品として好適である。
【0055】
本発明に係るセルロース成形体および/または繊維集合体の好ましい形態としては、以下製品の構成物としての用途が含まれる。製品としては、家具(マットレス、蒲団およびマットレス土台などの布張りの寝具を含む)、家具の障壁層(外装布地、マットレスの内部スタッフィング(stuffing)、布張りの椅子の間における障壁層、マットレスカバー、マットレスパッド、繊維状の中綿および包装材料を含む)、ベッドの上部に位置する製品(寝具パッド、掛け布団、羽毛布団、枕、ベッドカバー、キルト、繊維の充填材など)、パネル織物備品、板壁、カーテンの裏張り、絨毯の裏張り、カーテン、かけ布、床の敷物、タイル、防護服、自動車装備品の表面材料、絨毯、運送用の封緘、電子デバイス内の繊維製品および不織布製品(例えば、キーパッドのフェルト布)、ベッドシーツ、ボックス型のシーツ、ベッドカバー、シーツおよび枕カバー、タオル、飛行機内のブランケット、衣服(T-シャツ、下着、上着、ズボン、シャツ、靴下など)、壁紙、作業服、工業用断熱材、自動車用断熱材および住居用絶断熱などの断熱材、住居部材としての防音材、装飾用の織物、床用の防音材、難燃性を有する寝間着、断熱材、コンデンサおよび変圧器として用いることのできる電子ペーパー、フロック(flock)、空気フィルター、オイルフィルターおよび燃料フィルターなどのフィルター、軍服、テント、天幕、子供服、医療用のかけ布、医療用の室内着、軽やかな布地、油用用具および類似の衣類、ランプの傘、および/または、プラスチック材料などの強化繊維、例として、ポリプロピレンを挙げることができる。
【0056】
以下に、本発明の好ましい実施の形態の実施例を用いて、本発明をより詳細に説明する。
【0057】
〔実施例〕
(実施例1 非連続生産)
本実施例では、人工のヘクトライト、型式「optigel SH」(Messers. Suedchemie社製)が用いられる。これは、未改質のヘクトライト粘土である。
【0058】
78%の水溶性NMMO中にヘクトライト粘土を質量割合で3.6%にて混合し、各成分を、高剪断ミキサー(Ultra-Turrax(登録商標)Type T50, Messers. IKA Maschinenbau, Janke & Kunkel, DE 社製)中において、1時間、8000rpmにて各成分を混合し、分散液を得た。
【0059】
ミキサー中において、セルロースパルプ(型式「Bahia」,SCAN-viscosity 400)を上記分散液に添加した。上記ミキサーを1時間、80℃の条件にて攪拌させた。その後、13%のセルロース、3%のヘクトライト粘土、11%の水および76%のNMMOの紡績ドープを得るために、95℃にて水を蒸留した。
【0060】
紡績ドープをろ過した後、公知の湿式紡糸法(jet-wet-spinning process)によって、繊維として紡績する。湿式紡糸法は、例えば、直径がそれぞれ160μmの247箇所の開口を有するスピナレット(spinneret)を用い、スピナレットの開口から1分間当り0.045gのドープの出力、空隙長20mmおよび25%の水溶性NMMOを含む沈殿槽の条件にて行われることができる。繊維の長さ当りのグラム質量は、6.7デシテックス(dtex)である。
【0061】
(実施例2 半商業用プラントにおける連続生産)
78%の水溶性NMMO中に4%の未改質ヘクトライト粘土(型式「optigel SH」)を含有させた分散液を、Ultra-Turrax(登録商標)Messes. IKA Maschinenbau, Janke & Kunkel社製の高剪断ミキサー型式 T115KTを用いて実施例1と同様にして得た。
【0062】
連続生産において、セルロースパルプ(型式「Bahia」,SCAN-viscosity 400)を上記分散液に添加した。欧州特許第0356419明細書に開示された手法に従い、このように得られた懸濁液を薄膜処理機内の溶液へと移動させた。得られた溶液は、12%のセルロース、2.56%のoptigel SH、11.84%の水および73.6%のNMMOを含んでいた。上記紡績ドープをろ過し、湿式紡糸法により繊維へと紡績した。
【0063】
このようにして3種類の繊維を製造した。第1種の繊維は、6.7デシテックスおよび切断長さ60mmであり、第2種の繊維は、3.3デシテックスおよび切断長さ51mmであり、第3種の繊維は、1.3デシテックスおよび切断長38mmである。
【0064】
(試験方法)
繊維サンプルの可燃性を評価するため、試験方法は、繊維をシート状に形成し、小さな炎に晒す内容となっている。
【0065】
この試験において、ローターリングデバイス、型式「3 USTER UDTA 3」(Messre. Hollingworth社製)によってカード状のスライバーを得た。また、試験用プレスによって、5mmの短片を製造した。
【0066】
次に、ISO 5263に従い、攪拌の回転数を3000にて試験用分散機を用い、この7gの短片を2Lの水へ分散させた。得られた繊維の懸濁液によって、「Rapid-Koethen」型のシート成形機の円筒部を満たす。この際、ISO 5269/2およびDIN 54358のそれぞれ(Messrs. Paper Testing Instruments GmbH社によって作成されたものである)、および、自動プログラムに従った。そして、200g/mのシートを製造した。上記シートを92℃、20分の条件にて乾燥させ、調整を行なった。
【0067】
難燃性試験を行なうため、このセルロースシートを、垂直に配置された内径が150mmの円形の鉄枠に固定した。小さなガスの炎(垂直方向の大きさが4cmであり、ガスが3.4%のプロパン、49.4%のブタン、17%のアセトン、1.5%のメチルアセチレン、27.7%のプロペンおよび1%のプロパジエン)を上記セルロースシートの方向へ水平に移動させた。具体的には、上記鉄枠における下方の内端からの距離は2cmであり、上記のセルロースシートへの水平距離が1cmの位置へと移動させた。
【0068】
炎を5分間作用させるよう維持した。そして、炎の作用に対するセルロースシートの挙動について観察した(例えば、炎がセルロースシートに穴を開けるか、または、シートの成分が部分的のみまたは全体的に炭化し、障壁を形成するかどうか)。
【0069】
仮にセルロースシートが炭化すれば、炭化した領域の大きさおよびその頑強性(例えば、シートが接触により破壊される、または、残存した所定の保持量が維持されるかどうか)が観測される。広範囲の炭化領域は、持続された燃焼により、セルロースシートが大きな損傷を被ったことを意味する。また、接触された場合に、炭化領域が脆く、容易に崩壊すれば、内在する成分が小さな保護作用しか有していないことを示す。
【0070】
後述する表において、本発明に係る実施例1,2にて得られたリヨセル短繊維のそれぞれと、標準のリヨセル短繊維(変性剤を含んでいない)、カオリン、滑石粉、および、2種の異なる疎水性に改質されたモンモリロナイト粘土を含むリヨセル短繊維、並びに、商用の難燃性ビスコース繊維(型式「VISCOUSE FR」)とを比較する。
【0071】
表1における試験例1〜6の材料は、実施例1の条件に従い製造されたものである。
【0072】
また、表1における試験例9〜11の材料は、実施例2の条件に従い製造されたものである。
【0073】
【表1】

【0074】
上記の表から明らかなように、本発明に係るリヨセル繊維は、他の比較試験例に係るリヨセル繊維(図中(c) が付されている)よりも明確に優れており、商用として定評のあるLenzing Viscose FR(登録商標)繊維に匹敵する。特に、改質されたモンモリロナイトを含むリヨセル繊維と比較した場合、モンモリロナイトを含む繊維の炭化領域の割合は、本発明に係る繊維の炭化領域の割合よりも多いことがわかる。
【0075】
図1および図2はそれぞれ、33%のOptigel(登録商標)SH ヘクトライト粘土を含むリヨセル繊維および67%のポリエステル繊維(図1)から構成された繊維シート、並びに、100%ポリエステル繊維から構成された繊維シートを用いた上記難燃性試験の結果を示している。
【0076】
両図から明確に示されるように、本発明に係る繊維およびポリエステル繊維の混合物は、部分的に炭化しただけである(図1の黒い領域を参照)。これに対し、100%のポリエステル繊維から構成されるシートは完全に燃焼した結果が示されている。
【0077】
上記の結果は、本発明に係る繊維が、たとえ少ない割合であっても他の繊維に混合されていることによって、炎の作用に対し優れた難燃性を達成できることを示している。
【0078】
表1の試験例9に係る繊維と炎との接触反応について、さらに、DIN 54 336(垂直法(Vertical method)、端部の発火)に従い、追加の測定をした。
【0079】
上記繊維に対し難燃性試験を行なった。上記繊維は、わずかに針状となっている不織布の形態であった。
【0080】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明に係る繊維シートの難燃性試験の結果を示す図である。
【図2】100%ポリエステル繊維から構成されるシートの難燃性試験の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースおよび粘土のナノ複合体を含むセルロース成形体であって、
ナノ複合体の粘土成分が、未改質のヘクトライト粘土および親水性化処理されたヘクトライト粘土からなる群から選ばれる材料から構成されていることを特徴とするセルロース成形体。
【請求項2】
セルロース成形体の質量に対する、上記粘土成分における一部の割合が5%から40%までの範囲内であることを特徴とする請求項1に記載のセルロース成形体。
【請求項3】
水溶性の3級アミン酸化物中におけるセルロース溶液から製造されたことを特徴とする請求項1または2に記載のセルロース成形体。
【請求項4】
糸状体繊維、短繊維、フィルムまたは膜の形態であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のセルロース成形体。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載されたセルロース成形体を製造するセルロース成形体の製造方法であって、以下の工程a)〜工程e)の工程を含み、
工程a)セルロースを製造する工程
工程b)上記セルロースと水溶性の3級アミン酸化物との混合物を調製する工程
工程c)水溶性3級アミン酸化物中において、上記混合物をセルロース溶液に変換する工程
工程d)押出機から、上記セルロース溶液を押出加工する工程
工程e)沈殿流体の状態にて、上記セルロース溶液を沈殿させる工程
上記a)からc)までのうち少なくとも1工程を、未改質のヘクトライト粘土および親水性化処理されたヘクトライト粘土からなる群から選ばれる材料の存在下において行なうことを特徴とする製造方法。
【請求項6】
上記工程(b)において、上記水溶性3級アミン酸化物中に、上記材料である粘土の懸濁液を調製し、上記セルロースを上記懸濁液に添加することを特徴とする請求項5に記載のセルロース成形体の製造方法。
【請求項7】
高剪断力を用いることによって、上記水溶性3級アミン酸化物中に上記粘土を分散させることを特徴とする請求項6に記載のセルロース成形体の製造方法。
【請求項8】
上記分散液の質量に対する、分散液における上記粘土の割合は、1%から4%までの範囲内であることを特徴とする請求項6または7に記載のセルロース成形体の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜4の何れか1項に記載のセルロース繊維を含むことを特徴とする繊維集合体。
【請求項10】
織布または不織布の形態であることを特徴とする請求項9に記載の繊維集合体。
【請求項11】
上記セルロース繊維が、他の繊維材料と混合されていることを特徴とする請求項9または10に記載の繊維集合体。
【請求項12】
上記セルロース繊維がポリエステル繊維と混合されており、
混合された状態における、ポリエステル繊維に対するセルロース繊維の比率は、1:9から9:1の範囲内であり、好ましくは3:7から7:3の範囲内であることを特徴とする請求項11に記載の繊維集合体。
【請求項13】
請求項1〜4の何れか1項に記載のセルロース成形体および/または請求項9〜12の何れか1項に記載の繊維集合体の難燃性製品としての利用。
【請求項14】
請求項1〜4の何れか1項に記載のセルロース成形体および/または請求項9〜13の何れか1項に記載の繊維集合体の、
家具(マットレス、蒲団およびマットレス土台などの布張りの寝具を含む)、家具の障壁層(外装布地、マットレスの内部スタッフィングおよび布張りの椅子の間における障壁層、マットレスカバー、マットレスパッド、繊維状の中綿および包装材料を含む)、ベッドの上部に位置する製品(寝具パッド、掛け布団、羽毛布団、枕、ベッドカバー、キルト、繊維の充填材など)、パネル織物備品、板壁、カーテンの裏張り、絨毯の裏張り、カーテン、かけ布、床の敷物、タイル、防護服、自動車装備品の表面材料、絨毯、運送用の封緘、電子デバイス内の繊維製品および不織布製品(例えば、キーパッドのフェルト布)、ベッドシーツ、ボックス型のシーツ、ベッドカバー、シーツおよび枕カバー、タオル、飛行機内のブランケット、衣服(T-シャツ、下着、上着、ズボン、シャツ、靴下など)、壁紙、作業服、
工業用断熱材、自動車用断熱材および住居用絶断熱などの断熱材、住居部材としての防音材、装飾用の織物、床用の防音材、難燃性を有する寝間着、
断熱材、コンデンサおよび変圧器として用いることのできる電子ペーパー、
フロック、
空気フィルター、オイルフィルターおよび燃料フィルターなどのフィルター、
軍服、テント、天幕、子供服、医療用のかけ布、医療用の室内着、軽やかな布地、油用用具および類似の衣類、ランプの傘、および/または、プラスチック材料などの強化繊維、例として、ポリプロピレン、に係る構成物としての利用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2009−506137(P2009−506137A)
【公表日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−527258(P2008−527258)
【出願日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際出願番号】PCT/AT2006/000342
【国際公開番号】WO2007/022552
【国際公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(507127314)レンチング アクチエンゲゼルシャフト (3)
【Fターム(参考)】