説明

セルロース系不織布及びその製造方法

【課題】 高圧水流の作用により交絡させたセルロース系不織布に、良好な伸長性や伸縮性を付与する。
【解決手段】 このセルロース系不織布は、セルロース系短繊維と熱可塑性合成樹脂製短繊維とを構成繊維とする。構成繊維相互間は高圧水流の作用によって交絡しており、構成繊維の繊維密度の密な部分1と粗な部分2とが形成されている。密な部分1では高圧水流による交絡が緊密になっている。粗な部分2は構成繊維が存在しないか、又は構成繊維の繊維密度が低く、緊密に交絡していない。このため、粗な部分2は少なくとも一方向に変形しやすくなっており、良好な伸長性及び伸縮性が発現している。このようなセルロース系不織布は、フェイスマスクの基布として使用すると、顔面に沿いやすく使用しやすいものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧パックに使用するフェイスマスクの基布等として使用しうるセルロース系不織布及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、フェイスマスク等の基布として、吸水性の良好なセルロース繊維を含む不織布が用いられている。具体的には、綿繊維を構成繊維とし、この構成繊維相互間を高圧水流の作用によって交絡させた不織布が用いられている。このような不織布は、綿繊維を構成繊維としているので、吸水性が良好である。したがって、美容液や化粧水を含浸しやすく、フェイスマスクの基布として優れている。また、バインダーを使用せずに、高圧水流によって構成繊維相互間を交絡させ、不織布の強度を実現させているので、肌荒れ等を生じにくいという面でも、優れている。
【0003】
しかしながら、高圧水流の作用で交絡させた不織布は、構成繊維相互間が緊密に三次元的に交絡しており、伸長性や伸縮性に劣るという欠点があった。したがって、フェイスマスクの基布として使用した場合、顔面に沿いにくく、扱いにくいということがあった。もちろん、交絡の際に、水流の圧力を低くすることにより、三次元的な交絡の程度を低くすれば、伸長性を与えることはできるが、所定の引張強度を与えにくくなり、使用時に破断してしまうということがあった。
【0004】
一方、不織布に伸長性や伸縮性を与える方法として、本件出願人は、特許文献1に記載したような技術を有している。この技術は、構成繊維相互間が熱融着により固定された区域を部分的に持つ長繊維不織布を、機械方向に延伸して、当該機械方向と直交する方向に伸縮性を持つ不織布を得るというものである。すなわち、この技術は、部分的に配置された熱融着区域間における長繊維部分(この部分は固定されていないため、自由に動く。)を、機械方向に再配列させて、長繊維部分の配列方向と直交する方向に引っ張れば、長繊維部分の配列が延伸前の状態に戻り、この引っ張りを解除すれば、長繊維部分が再配列した状態に戻るため、良好な伸縮性を発現しうるというものである。
【0005】
【特許文献1】特開平9−316765号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、高圧水流の作用により交絡させた不織布に、特許文献1記載の方法を適用しようと考えた。しかしながら、この不織布の構成繊維相互間は、いずれの箇所でも三次元的に緊密に交絡しているため、自由に動く繊維部分が殆どなく、特許文献1記載の方法が適用できないことは、明らかである。このような技術状況下において、本発明の課題は、高圧水流の作用により交絡させた不織布に、良好な伸長性や伸縮性を付与することにある。
【0007】
本発明者は、高圧水流の作用により交絡させた不織布といっても、使用する構成繊維の種類、水流の圧力、水流の付与の回数、不織ウェブの目付、不織ウェブに水流を付与する際の不織ウェブの担持体の種類等によって、様々なタイプの不織布が得られることに着目した。そして、特定のタイプのものであれば、基本的に特許文献1記載の方法を適用しながら、全く異なった原理で、良好な伸長性及び伸縮性が得られることを見出した。本発明は、このような知見に基づくものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、セルロース系短繊維と熱可塑性合成樹脂製短繊維とを構成繊維とし、該構成繊維相互間が高圧水流の作用によって交絡することにより、該構成繊維の繊維密度の密な部分と粗な部分とが形成されており、該密な部分に存在する構成繊維は緊密に交絡しているのに対して、該粗な部分には該構成繊維が存在しないか、又は該粗な部分に存在する該構成繊維は緊密に交絡しておらず、この結果、該粗な部分は少なくとも一方向に変形しやすいことを特徴とする、伸長性及び伸縮性に優れたセルロース系不織布及びその製造方法に関するものである。
【0009】
本発明に係るセルロース系不織布は、セルロース系短繊維と熱可塑性合成樹脂製短繊維とを構成繊維とし、これらが混合されてなるものである。セルロース系短繊維と熱可塑性合成樹脂製短繊維との混合割合は、任意でよい。一般的には、セルロース系短繊維が30〜70質量%で、熱可塑性合成樹脂製短繊維が、30〜70質量%である。セルロース系短繊維が少なくなると、美容液や化粧水を含浸しにくくなり、フェイスマスクの基布として不適当になる傾向が生じる。また、熱可塑性合成樹脂製短繊維が少なくなると、熱固定が不十分となり、伸長性や伸縮性が低下する傾向が生じる。
【0010】
セルロース系短繊維及び熱可塑性合成樹脂製短繊維の繊度や繊維長は、一般的に使用されている範囲で差し支えない。具体的には、1〜10デシテックスで10〜100mm程度である。セルロース系短繊維としては、綿繊維やレーヨン繊維等の従来公知のものが採用される。特に、セルロース純度の高い綿繊維又は溶剤紡糸セルロース繊維を使用するのが好ましい。セルロース純度が高いと、肌に直接接触したとき肌荒れを生じにくく、ファイスマスクの基布として使用するのに好適だからである。熱可塑性合成樹脂製短繊維の素材も、従来公知のものが採用されるが、一般的に、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミドが用いられる。すなわち、ポリオレフィン系短繊維、ポリエステル系短繊維、ポリアミド系短繊維が用いられる。
【0011】
熱可塑性合成樹脂製短繊維としては、前記した単一素材の短繊維だけではなく、複数の素材が組み合わされた複合繊維を使用してもよい。複合繊維としては、芯鞘型、サイドバイサイド型、割繊型等の任意のタイプのものが使用しうる。特に、本発明においては、芯鞘型又は割繊型を用いるのが好ましい。芯鞘型の場合、一般的に、鞘成分が芯成分よりも低融点になっており、低温で熱固定しやすく、かつ、芯成分の柔軟性を損なわないため、好ましい。特に、芯成分がポリエステル系樹脂であり、鞘成分が芯成分であるポリエステル系樹脂よりも融点の低いポリオレフィン系樹脂からなる芯鞘型複合繊維を用いると、ポリオレフィン系樹脂により、ポリエステル系芯成分の当初の柔軟性を維持したまま、好適に熱固定される。割繊型の場合、高圧水流によって、割繊し繊維密度の高い不織布が得られるので、好ましい。
【0012】
本発明に係るセルロース系不織布は、構成繊維が密に集合し繊維密度の高い密な部分1と、密な部分1に比べて繊維密度の低い粗な部分2とを具備している。密な部分1は、構成繊維相互間が高圧水流の作用によって緊密に交絡している。一方、粗な部分2は、構成繊維が殆ど存在せず、開孔部分となっているか、又は構成繊維相互間の交絡の程度が低くなっており緊密に交絡していない。密な部分1と粗な部分2との配置形態としては、図1に示したように、連続した密な部分1中に、粗な部分2が島状に点在している形態が代表的である。すなわち、密な部分1を母体として、この母体中に粗な部分2が点在している形態が代表的である。この場合、密な部分1が連続しているので、引張強度や形態安定性に優れた不織布が得られる。もちろん、本発明においては、この場合と逆に、高引張強度や高形態安定性を必要としないときには、粗な部分2(ただし、この場合は、粗な部分2には必ず構成繊維が存在する。)が連続しており、密な部分2が島状に点在している形態を採用しても差し支えない。
【0013】
粗な部分2において、構成繊維の繊維密度は密な部分1に比べて低く(構成繊維が存在しない場合を含む。)、しかも、構成繊維が存在していたとしても緊密に交絡していない。そして、この結果、粗な部分2は変形しやすく、良好な伸長性及び伸縮性が発現するのである。
【0014】
良好な伸長性及び伸縮性が発現する作用を、図1及び図2に基づいて説明すると、以下のとおりである。まず、本発明の一例に係るセルロース系不織布は、密な部分1が連続しており、密な部分1中に粗な部分2が点在しており、この形状が機械方向(図面では上下方向)に長軸の楕円形であるものとする(図1)。この不織布を、図2の矢印で示す方向(機械方向に直交する方向、図面では左右方向)に引っ張ると、楕円形であった粗な部分2は、構成繊維相互間が緊密に交絡していないため、又は構成繊維が存在しないため、変形しやすく、円形に近づく形状となる。一方、図2の引っ張りを解除すると、この不織布は熱固定により当初の形状を記憶しているので、粗な部分2は、当初の状態に戻ろうとする。したがって、この不織布は伸縮性に優れたものとなる。
【0015】
本発明において実現される伸長性及び伸縮性の程度は、以下のとおりである。すなわち、最大伸長方向に伸長したときの破断伸度ECが120%以上であるということである。式で表せば、EC≧120%であり、この程度の伸長性があるということである。ここで、最大伸長方向とは、本発明に係る不織布を種々の方向に伸長したとき、最も伸長率の大きい方向のことを意味している。たとえば、図1に示した不織布の場合には、楕円形の粗な部分2の短軸方向が最大伸長方向となる。また、破断伸度ECの測定方法は、JIS L 1906に記載の方法に準じて測定されるものである。具体的には、試料長20cmで試料幅5cmの試料片を準備する。この試料片は、最大伸長方向が試料長方向になっている。そして、この試料片を、定速伸長型引張試験機(オリエンテック社製、テンシロンUTM−4−100)を用いて、つかみ間隔10cm、引張速度10cm/分で伸長し、試料片が破断した際の伸度を、破断伸度ECとするものである。
【0016】
また、最大伸長方向に50%伸長させたときの伸長弾性率EEC(50)が50%以上ということである。式で表せば、EEC(50)≧50%ということであり、伸縮性に優れているということである。伸長弾性率は、JIS L 1096(1999) 8.13.1Aに記載の方法に準じて測定されるものである。具体的には、破断伸度を測定したときと同一の試料片を準備し、同一の条件で試料片を伸長する。そして、伸長率が50%になったとき(すなわち、つかみ間隔の距離が10cm×1.5=15cmになったとき)、試料片の伸長を停止する。そして、その状態で1分間保持した後、つかみ間隔を10cmになるまで戻し、3分間放置する。その後、再び、同一の条件で試料片を伸長し、応力がかかり始めたときのつかみ間隔をLcmとする。そして、[(15−L)/(15−10)]×100なる式で算出される値が、EEC(50)の値となるのである。
【0017】
さらに、最大伸長方向に10%伸長させたときの荷重を目付で除した値LC(10)が、0.003〜0.03Nの範囲内であるということである。式で表せば、0.003N≦LC(10)≦0.03Nということであり、10%程度伸長する場合、非常に軽い力で伸長しうるということである。LC(10)は以下の方法で測定されるものである。すなわち、破断伸度を測定したときと同一の試料片を準備し、同一の条件で試料片を10%伸長する。そして、このときの応力を測定し、この応力の値を試料片の目付で除することによって、LC(10)の値が算出されるものである。
【0018】
以上のような伸長性及び伸縮性を持つセルロース系不織布は、以下のような製造方法で得ることができる。すなわち、セルロース系短繊維と熱可塑性合成樹脂製短繊維とを構成繊維とする不織ウェブを、有孔凹凸担持体上に坦持させると共に、該有孔凹凸担持体上が位置する反対側から、該不織ウェブに向けて高圧水流を噴射して、該高圧水流の作用によって、該有孔凹凸担持体の凸部近傍上に存在する該構成繊維の多くを、該凸部近傍から該凸部近傍外の区域に移動させると共に交絡させて、該凸部近傍外の区域に対応する該不織ウェブの箇所の繊維密度が密な部分となり、該凸部近傍に対応する該不織ウェブの箇所の繊維密度が粗な部分となる不織フリースを得た後、該不織フリースを機械方向に熱延伸し、その後、該熱可塑性合成樹脂製短繊維を構成する合成樹脂の融点以下の温度で熱固定するという方法で得ることができる。以下、この製造方法を詳細に説明する。
【0019】
まず、セルロース系短繊維と熱可塑性合成樹脂製短繊維とを混合し、公知のカード法によって開繊及び集積し、これらを構成繊維とする不織ウェブを得る。この不織ウェブを、有孔凹凸担持体上に担持させる。有孔凹凸担持体とは、噴射される高圧水流を排出しうる孔を多数備えると共に、高圧水流によって構成繊維が凸部から凹部へ向けて移動する凹凸面を持ったものである。具体的には、粗目織物が用いられ、織物の目が孔となり、経糸及び緯糸の交点が凸部となるものである。粗目織物としては、経糸及び緯糸として金属線又は太繊度の合成樹脂製フィラメント等を用いて、平織組織又は綾織組織等の任意の織組織で製織されたものが採用される。また、粗目織物の目の大きさは任意であるが、一般的に、10〜100メッシュ程度の目開き(孔の大きさ)を持つものが好ましく、10〜25メッシュのものがより好ましい。
【0020】
有孔凹凸担持体上に坦持された不織ウェブに向けて、高圧水流を噴射する。すなわち、有孔凹凸担持体が位置する反対側に噴射ノズルを置いて、このノズルから高圧水流を噴射して、直接不織ウェブに当たるようにする。高圧水流は、噴射ノズルから高圧で水を噴射すれば、容易に得ることができる。噴射圧力としては、5〜50MPa程度で良い。噴射圧力が低すぎると、密な部分での構成繊維相互間の交絡が低下し、高い引張強度や良好な形態安定性を持つ不織布が得られにくくなる。また、高圧水流は、不織ウェブに一回又は複数回施しても良い。ただし、有孔凹凸担持体の種類を変更して何度も高圧水流を施したり、不織ウェブに表裏から何度も高圧水流を施したりすると、密な部分と粗な部分とが生じにくくなり、全体として均質なものとなる傾向が生じるので、好ましくない。
【0021】
以上の方法で、高圧水流を不織ウェブに施すと、不織ウェブ中の構成繊維はカード法等で開繊及び集積された状態であり、構成繊維相互間が固定されていないため、以下のように運動する。すなわち、有孔凹凸担持体の凸部近傍上に位置する構成繊維は、高圧水流によって、凸部外の箇所、具体的には凹部の方へ移動する。そして、移動と同時に、高圧水流によるエネルギーで、構成繊維に捩れや曲がりが生じ、構成繊維相互間が緊密に交絡するのである。一方、凸部近傍の箇所では、そこに位置した構成繊維が凹部の方へ移動したため、繊維密度が低くなったり、又は構成繊維が存在しなくなっている。このようにして、密な部分と粗な部分を持つ不織フリースが得られるのである。有孔凹凸担持体として、粗目織物を使用した場合について具体的に説明すると、以下のとおりである。すなわち、粗目織物の経糸と緯糸の交点(凸部)近傍上に位置する構成繊維は、高圧水流によって、経糸と緯糸の交点(凸部)近傍外の箇所、特に、粗目織物の目(孔)の方へ移動する。そして、移動と同時に、高圧水流によるエネルギーで、構成繊維に捩れや曲がりが生じ、構成繊維相互間が緊密に交絡するのである。一方、経糸と緯糸の交点(凸部)近傍の箇所では、そこに位置した構成繊維が粗目織物の目(孔)の方へ移動したため、繊維密度が低くなっている(繊維密度がゼロの場合も含む。)。したがって、構成繊維相互間も緊密に交絡しにくい。以上のようにして、粗目織物の経糸と緯糸の交点(凸部)近傍に対応する箇所が粗な部分となり、この交点(凸部)近傍外の箇所は構成繊維が緊密に交絡した密な部分となっている不織フリースが得られるのである。この不織フリースは、高圧水流で処理され水を含浸した状態となっているので、次の工程である熱延伸工程に導入される前に、乾燥処理を行う。
【0022】
乾燥処理を終えた不織フリースを、機械方向に熱延伸する。ここで、機械方向というのは、不織フリースの搬送方向のことである。不織フリースを延伸する場合、搬送方向に延伸する方が任意の延伸比で延伸できるし、生産性も低下しにくく合理的であるため、ここでは機械方向に熱延伸することとした。機械方向に直交する幅方向に熱延伸することは可能であるが、製造方法としては、あまり合理的ではない。また、熱延伸というのは、加熱下で延伸するということである。この熱延伸は、粗な部分を延伸方向に伸ばすと同時に、熱可塑性合成樹脂製短繊維中の高分子を延伸方向に配向させるために行われる。したがって、熱延伸における加熱温度は、熱可塑性合成樹脂製短繊維のガラス転移点以上で融点以下の温度である。融点を超えると、繊維が破断してしまい延伸不能となり、熱延伸とは言わない。この熱延伸によって、粗な部分及び密な部分に存在する構成繊維が安定化し、延伸前の状態に戻りにくくなるのである。延伸は公知の方法が用いられ、例えば、供給ロールと、供給ロールよりも速い周速度で回転する延伸ロール間で行われる。
【0023】
熱延伸時における延伸倍率は任意であるが、良好な伸長性及び伸縮性を得るためには、不織フリースの機械方向における破断伸度に対して、10〜80%程度の延伸比となるようにするのが好ましい。ここで、延伸比とは、不織フリースの機械方向における破断伸度に対する熱延伸時の伸度の割合を百分率で表したものを意味している。したがって、不織フリースの機械方向における破断伸度をB%とすると、(0.1×B〜0.8×B)%、不織フリースを機械方向に伸ばすということである。なお、不織フリースの機械方向における破断伸度(%)は、前述した破断伸度ECの測定方法と同一の方法が採用される。ただ、試料片の試料長方向が延伸方向である機械方向と一致するように、試料片が採取される点が異なるだけである。
【0024】
不織フリースに熱延伸を施した後、熱固定する。熱固定は、熱延伸時の熱可塑性合成樹脂製短繊維の熱履歴を消去するために行うものである。したがって、熱固定の温度は、熱可塑性合成樹脂製短繊維の融点以下の温度であって、延伸時に採用した温度よりも高い温度が採用される。なお、熱延伸時や熱固定時における熱可塑性合成樹脂製短繊維の融点とは、熱可塑性合成樹脂製短繊維の素材が複数ある場合には、最も低い融点を持つ素材の融点のことを意味している。したがって、芯成分がポリエステル系樹脂で、鞘成分がポリエステル系樹脂よりも融点の低いポリオレフィン系樹脂である芯鞘型複合繊維を用いた場合には、ポリオレフィン系樹脂の融点以下の温度で、熱延伸及び熱固定されるということである。
【0025】
熱延伸と熱固定は、一般的に、一連の処理で行われる。具体的には、熱可塑性合成樹脂製短繊維の融点以下の所定の温度に加熱された供給ロールと、供給ロールよりも若干高い温度に加熱された延伸ロールとを用いる方法が挙げられる。この方法においては、周速の遅い供給ロールから不織フリースが導出される際に、周速の速い延伸ロールで引っ張られることにより、熱延伸が施される。したがって、熱延伸されるのは、供給ロールの出口の箇所である。そして、この不織フリースが延伸ロールに導入される際、延伸ロールは供給ロールよりも若干高い温度となっているので、ここで熱固定が行われることになる。このようにして得られたセルロース系不織布は、延伸方向(機械方向)に直交する方向が最大伸長方向となっており、最大伸長方向において良好な伸長性及び伸縮性を持つものである。
【0026】
以上のようにして、良好な伸長性と伸縮性を持ったセルロース系不織布が得られるのである。このセルロース系不織布は、良好な吸水性と、良好な伸長性と伸縮性を持っているため、フェイスマスクの基布として好適である。また、この用途だけではなく、吸水性、伸長性及び伸縮性のいずれか一つが要求される用途、たとえば、衛生手拭きの基布、拭き布、貼付剤の基布等にも用いることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係るセルロース系不織布は、セルロース系短繊維を含むものであるから吸水性に優れている。そして、密な部分と粗な部分とを具備しており、粗な部分は延伸方向に伸びた状態となって変形している。したがって、延伸方向に対して直交する方向に引っ張ると、粗な部分が元の形状(不織フリースのときの形状)に戻るため、伸長しやすくなっている。また、密な部分に存在する熱可塑性合成樹脂製短繊維は、熱固定により安定化しているので、引っ張りを解除すると、延伸後の状態に戻りやすくなっている。以上の結果、本発明に係るセルロース系不織布は、良好な吸水性と、良好な伸長性と、良好な伸縮性を併せ持つという効果を奏する。しかも、構成繊維相互間が高圧水流で交絡されているので、バインダーを使用しなくても、高強度の不織布となる。したがって、肌に直接適用しても、肌荒れを生じにくいという効果も奏する。
【実施例】
【0028】
以下、実施例に基づいて本発明を説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。本発明は、高圧水流によって得られた特定のタイプの不織布を使用すれば、延伸処理を施すことによって、良好な伸長性及び伸縮性を付与しうるとの知見に基づくものとして、解釈されるべきである。
【0029】
実施例1
熱可塑性合成樹脂製短繊維として、芯成分が融点260℃のポリエチレンテレフタレートであり、鞘成分が融点130℃のポリエチレンである芯鞘型複合短繊維(ユニチカファイバー社製、品番6080、繊度2.2デシテックス、繊維長51mm)を準備した。また、平均繊維長25mmの綿繊維を準備した。そして、熱可塑性合成樹脂製短繊維50質量%と、綿繊維50質量%とを均一に混合し、カード機で開繊及び集積して、目付38g/m2の不織ウェブを作成した。
【0030】
この不織ウェブを、25メッシュのプラスチック製粗目織物上に担持し搬送しながら、高圧水流を不織ウェブに施した。高圧水流は、粗目織物の位置する側と反対側に水流噴射装置を設置して行った。水流噴射装置は、不織ウェブの上方50mmの位置に設置され、孔径0.1mmの噴射ノズルを、孔間隔0.6mmで直線上に配置された列を三列備えたものである。そして、各噴射ノズルから、圧力9.8MPaで水を噴射させて高圧水流とした。不織ウェブに高圧水流を施すことにより、粗目織物の経糸と緯糸の交点近傍に存在する構成繊維は、交点近傍外へ移動し、交点近傍の箇所は構成繊維の繊維密度が低くなって粗な部分を形成し、一方、交点近傍外へ移動した構成繊維は移動箇所で緊密に交絡して繊維密度の密な部分を形成する。以上のようにして、粗な部分と密な部分を持つ不織フリースが得られる。この不織フリースの余剰の水分をマングルロールで絞って除去した後、温度120℃の乾燥機で乾燥した。
【0031】
乾燥した不織フリースに、熱延伸及び熱固定を施した。熱延伸及び熱固定は、120℃に加熱した周速の遅い供給ロールと、125℃に加熱した周速の速い延伸ロールを用いて行った。すなわち、不織フリースを供給ロールに導入した後、延伸ロールに導入すると、両ロールの周速差により、不織フリースは供給ロールの出口で搬送方向(すなわち、機械方向)に熱延伸される。そして、その後、延伸ロールに導入されることにより、ここで熱固定されるのである。なお、供給ロールの延伸ロールの周速差は、延伸比が32.2%となるように設定した。以上のようにして、セルロース系不織布を得た。
【0032】
実施例2
25メッシュのプラスチック製粗目織物の代えて、100メッシュのプラスチック製粗目織物を使用する他は、実施例1と同一の方法でセルロース系不織布を得た。
【0033】
実施例3
綿繊維に代えて、溶剤紡糸セルロース繊維(レンチング社製、商品名「リヨセル」、繊度1.7デシテックス、繊維長38mm)を使用する他は、実施例1と同一の方法でセルロース系不織布を得た。
【0034】
実施例4
熱可塑性合成樹脂製短繊維として、ポリエチレンテレフタレート短繊維(日本エステル社製、品番P800、繊度1.4デシテックス、繊維長44mm、断面形状は三角形)及び割繊型複合短繊維(日本エステル社製、品番N91、繊度2.2デシテックス、繊維長51mm、ポリエチレンテレフタレート成分とナイロン6成分の組み合わせ)を準備した。また、平均繊維長25mmの綿繊維を準備した。そして、ポリエチレンテレフタレート短繊維40質量%と、割繊型複合短繊維10質量%と、綿繊維50質量%とを均一に混合し、ランダムカード機で開繊及び集積して、目付38g/m2の不織ウェブを作成した。
【0035】
この不織ウェブに、実施例1記載の方法と同一の方法で高圧水流を施し、不織フリースを得た。この不織フリースを、150℃に加熱した周速の遅い供給ロールに導入した後、165℃に加熱した周速の速い延伸ロールに導入し、熱延伸及び熱固定を行った。なお、供給ロールの延伸ロールの周速差は、延伸比が28.0%となるように設定した。以上のようにして、セルロース系不織布を得た。
【0036】
比較例1
熱可塑性合成樹脂製短繊維50質量%と綿繊維50質量%を用いるのに代えて、平均繊維長25mmの綿繊維100質量%を用いる他は、実施例2と同一の方法により、セルロース系不織布を得た。
【0037】
実施例1〜4及び比較例1で得られたセルロース系不織布の物性値は、以下の表1のとおりであった。
[表1]
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
EC EEC(50) LC(10) 引張強度
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実施例1 265 63 0.006 126
実施例2 145 58 0.012 83
実施例3 286 68 0.006 150
実施例4 166 54 0.009 182
比較例1 138 35 0.046 63
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
なお、破断伸度EC等の測定において、最大伸長方向は延伸方向と直交する方向とした。また、引張強度は、破断伸度ECを測定したときの最大荷重を示したものであり、単位は(N/5cm幅)である。
【0038】
表1の結果から明らかなように、実施例1〜4に係るセルロース系不織布は、いずれも、比較例1に係るセルロース系不織布に比べて、破断伸度ECの値が高く、伸長弾性率EEC(50)の値も高くなっている。したがって、実施例に係るセルロース系不織布は、比較例に係るものに比べて、伸長性及び伸縮性に優れていることが分かる。また、実施例に係るセルロース系不織布は、いずれも、比較例に係るものに比べて、LC(10)の値が低くなっている。したがって、実施例に係るセルロース系不織布は、比較例に係るものに比べて、軽い力で伸長しやすいことが分かる。以上のとおりであるから、実施例に係るセルロース系不織布をフェイスマスクの基布として用いれば、顔面に沿いやすく、使用しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一例に係るセルロース系不織布の模式的平面図である。
【図2】図1のセルロース系不織布を矢印方向に伸長したときの模式的平面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 密な部分
2 粗な部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系短繊維と熱可塑性合成樹脂製短繊維とを構成繊維とし、該構成繊維相互間が高圧水流の作用によって交絡することにより、該構成繊維の繊維密度の密な部分と粗な部分とが形成されており、該密な部分に存在する構成繊維は緊密に交絡しているのに対して、該粗な部分には該構成繊維が存在しないか、又は該粗な部分に存在する該構成繊維は緊密に交絡しておらず、この結果、該粗な部分は少なくとも一方向に変形しやすいことを特徴とする、伸長性及び伸縮性に優れたセルロース系不織布。
【請求項2】
密な部分を母体とし、該母体中に粗な部分が点在している請求項1記載のセルロース系不織布。
【請求項3】
最大伸長方向の破断伸度をECとし、該最大伸長方向に50%伸長させたときの伸長弾性率をEEC(50)とし、該最大伸長方向に10%伸長したときの荷重を目付で除した値をLC(10)とした場合、以下の(1)〜(3)式を満足することを特徴とする請求項1記載のセルロース系不織布。
EC≧120% ・・・(1)
EEC(50)≧50% ・・・(2)
0.003N≦LC(10)≦0.03N ・・・(3)
【請求項4】
セルロース系短繊維が、綿繊維又は溶剤紡糸セルロース繊維である請求項1記載のセルロース系不織布。
【請求項5】
熱可塑性合成樹脂製短繊維として、芯成分と鞘成分とが複合された複合繊維であって、芯成分がポリエステル系樹脂であり、鞘成分が該ポリエステル系樹脂よりも融点の低いポリオレフィン系樹脂である複合繊維を用いる請求項1記載のセルロース系不織布。
【請求項6】
熱可塑性合成樹脂製短繊維が、割繊型複合繊維である請求項1記載のセルロース系不織布。
【請求項7】
請求項1記載のセルロース系不織布を含むフェイスマスクの基布。
【請求項8】
セルロース系短繊維と熱可塑性合成樹脂製短繊維とを構成繊維とする不織ウェブを、有孔凹凸担持体上に坦持させると共に、該有孔凹凸担持体上が位置する反対側から、該不織ウェブに向けて高圧水流を噴射して、該高圧水流の作用によって、該有孔凹凸担持体の凸部近傍上に存在する該構成繊維の多くを、該凸部近傍から該凸部近傍外の区域に移動させると共に交絡させて、該凸部近傍外の区域に対応する該不織ウェブの箇所の繊維密度が密な部分となり、該凸部近傍に対応する該不織ウェブの箇所の繊維密度が粗な部分となる不織フリースを得た後、該不織フリースを機械方向に熱延伸し、その後、該熱可塑性合成樹脂製短繊維を構成する合成樹脂の融点以下の温度で熱固定することを特徴とするセルロース系不織布の製造方法。
【請求項9】
有孔凸部担持体として、粗目織物を用いる請求項8記載のセルロース系不織布の製造方法。
【請求項10】
熱可塑性合成樹脂製短繊維として、芯成分と鞘成分とが複合された複合繊維であって、芯成分がポリエステル系樹脂であり、鞘成分が該ポリエステル系樹脂よりも融点の低いポリオレフィン系樹脂である複合繊維を用い、該鞘成分の融点以下の温度で熱固定する請求項8記載のセルロース系不織布の製造方法。
【請求項11】
熱延伸する際の延伸比を10〜80%とする請求項8記載のセルロース系不織布の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−314905(P2007−314905A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−144678(P2006−144678)
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】