説明

セルロース系物質よる単糖類並びにエタノールの製造方法

【課題】 設備負担が少なく、省エネルギーで危険性も少なく、セルロース系物質を分解させる物質(溶媒および触媒等)の分離・回収・再使用が容易な条件でセルロース系物質を分解し、グルコース、キシロースなどの単糖類を製造できるようにする新規な方法を提供すると共に、この単糖類から、エタノール醗酵によってエタノールを製造する新規な方法を提供する。
【解決手段】 セルロース系物質を解砕・微粉砕し燐酸溶液に混合分散させ、必要に応じて二酸化チタンの存在下に100℃以下で、紫外線照射しながらセルロースを分解してしまうようにする単糖類の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、セルロース系物質を酸と紫外線照射とによってグルコース・キシロース等の単糖類を生成する方法、および、これを酵素等の既存技術によってアルコールを生成させる方法に関する分野に係わるものである。
【背景技術】
【0002】
(着目点)
アルコールの生成は、昔から酵素による糖のアルコール発酵がよく知られている。
近年のエネルギー事情から、アルコール燃料が注目され、ガソリンに3%のエタノールを混合したE3プロジェクトが日本でも始動し始めてきており、脱化石燃料が叫ばれて久しい。
しかし、石油をエタノールに置換するには、原料である多量の糖(グルコース、果糖、蔗糖など)の確保が必要であるが、サトウキビ等でも茎の10ないし20%の蔗糖収量であり、その大部分の茎や葉は、分解し難いリグノセルロースとなっており、そのままでは酵素によって短時間でアルコールにすることは困難である。
【0003】
(従来の技術)
近年、このリグノセルロースを工業的に分解してグルコースの製造およびエタノールの製造方法が注目され、代表的なものとして特開昭61−261358、特開昭62−79230、特開平2−101093、特開平5−140322&−140323、特開平6−12277&−226711、特開平7−118293、特開平8−157666、特開平8−225653、特開平8−260231、特開平8−299000、特開平10−66594、特開平10−110001、特開平10−251522、特開平11−36191&−325921、特開2002−85100、特開2003−213584、特開2003−342289、特開2005−168335、特開2005−239979、特開2005−40106&−263527、特開2006−75007&−281037、特開WO00−53832等が開示されている。
基本的に、a)でん粉質・糖質原料からのエタノール製造プロセス,b)セルロース系資源を酸等(超/亜臨界状態を含む)で加水分解し、糖化させてのエタノール製造プロセス、c)セルロース系資源を酵素法によって糖化し、エタノール製造プロセスの3種類の方法が取られている。
【0004】
セルロースの生分解するため、燐酸とチタンとによってセルロースを処理するようにした、特開平8−157644&特開平11−36191、特開平8−260231、特開WO00−53832では、酢酸セルロース等からなるタバコフィルター等が自然界に放置、廃棄されても環境汚染の虞れが少ないというものであり、積極的に紫外線を照射して分解させ、有用な単糖類を得るようにするこの発明とは本質的に異なる。
【0005】
即ち、セルロースを燐酸と酸化チタンとで処理することによって光分解性を付与させるが、自然環境下でセルロースを完全に分解させてしまうには限度があり、酵素や微生物で分解し易くしているだけの目的でタバコのポイ捨て対策程度としてしか活用できない技術であると言える。
【0006】
次に、植物繊維を高濃度燐酸で溶解し、ハロゲン化水素触媒と接触させる、例えば特開平8−299000では、ハロゲン化ガスを使用することから、非常に危険な上、ガスの回収やガスによる腐食などが懸念される。
【0007】
また、それ以前のリグノセルロースの溶解方法、例えば特開昭61−261358、特開昭62−79230、特開平2−101093、特開平5−140322&−140323、特開平6−12277&−226711、特開平7−118293、その後の特開2000−273183&−325921、特開2003−342289、特開2006−28040等は、リグノセルロースにフェノールやアルコールなどの有機溶剤を加え、100ないし300℃に加熱する方法であり、有機溶剤の蒸発飛散を防ぐために高圧釜での処理となっており、また引火の危険性を孕んでいる。
【0008】
その後の特開平10−110001、特開平10−251522、特開平10−66594、特開平10−110001でも、グルコースに分解するためにはセルラーゼ(酵素)を用いて分解している。
【0009】
また、特開平10−251522では、リグノセルロースを250ないし300℃に加熱、炭化しているが、通常270℃前後が木材の発火点であり、無酸素状態とする必要があり、有酸素状態では引火の危険性をはらんでいる。
【0010】
更に、特開2002−85100は、セルロースとランタノイド供給物と200ないし270℃の加圧水蒸気で加水分解する方法であり、特開2006−263527はセルロースを超/亜臨界状態で加水分解する方法である。
【0011】
また、特開2005−168335もリグノセルロースを熱水処理し、酵素法で糖化を行う方法であり、特開2006−2840は、高沸点有機溶剤で190ないし300℃に加熱し、カラムクロマトグラフィーで分離する方法である。
【0012】
特開2005−40106、および特開2006−75007&−281037は、セルロース系物質を濃硫酸や希硫酸によるグルコースの生成においては、その後の硫酸の分離と設備錆化に問題を有していることが指摘されている。
【特許文献1】(1)特開昭61−261358 (2)特開昭62−79230 (3)特開平2−101093 (4)特開平5−140322 (5)特開平5−140323 (6)特開平6−12277 (7)特開平6−226711 (8)特開平7−118293 (9)特開平8−157666 (10)特開平8−225653 (11)特開平8−260231 (12)特開平8−299000 (13)特開平10−66594 (14)特開平10−110001 (15)特開平10−251522 (16)特開平11−36191 (17)特開平11−325921 (18)特開2002−85100 (19)特開2003−213584 (20)特開2003−342289 (21)特開2005−168335 (22)特開2005−239979 (23)特開2005−40106 (24)特開2005−263527 (25)特開2006−75007 (26)特開2006−281037 (27)特開WO00−53832
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
(発明の目的)
したがって、この発明の目的は、設備負担が少なく、省エネルギーで危険性が少なく、セルロース系物質を分解させる物質(溶媒および触媒等)の分離・回収・再使用が容易な条件でセルロース系物質を分解し、グルコース、キシロースなどの単糖類を製造する方法を提供しようとするものであり また、この発明の他の目的とするのは、この得られたグルコースやキシロースをエタノール醗酵によってエタノールを製造する方法を提供することである。
【0014】
そして、さらに他の目的は、廃棄されている古紙その他のセルロース系物質、例えば枯葉、建築廃材中の木材や間伐材、風倒木等を用い、あるいは稲藁、籾殻をグルコースないしエタノールの製造に供する方法を提供しようとするものであり、また、この発明の別の目的は、セルロースを液化・分解することで、その他多くの工業製品原料や医薬品原料を簡便に製造する方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討の結果、燐酸による加水分解と光分解との併用によってセルロース系物質を分解し、グルコース等を生成することを見出した上、更に、前記光分解を二酸化チタンによって促進して分解させ、グルコース/キシロースの生成量を向上させ得ることを見出したことから、この発明を完成するに至ったものである。
【0016】
(発明の構成)
この発明は、以下のとおりの構成から成り立っている。すなわち、
(1) セルロース系物質を解砕・微粉砕し燐酸溶液に混合分散させ、100℃以下で、紫外線照射しながらセルロースを分解するようにした構成を、その要旨とする単糖類の製造方法である。
(2) 二酸化チタンの存在下にセルロース系物質を分解するようにした構成からなる上記(1)項記載の単糖類の製造方法である。
(3) 金属の存在下にセルロースを分解するようにした上記(1)または(2)何れか一項記載の単糖類の製造方法。
(4) 上記(1)ないし(3)の何れか一項記載の単糖類の製造方法に引き続き、この単糖類を酵素によってアルコール発酵させるようにした構成からなるエタノールの製造方法ある。
(5) 単糖類がグルコースおよび/またはキシロースである上記(1)ないし(4)何れか一項記載の方法である。
(6) セルロース系物質が澱粉、紙、木材、稲藁である上記(1)ないし(4)何れか一項記載の方法である。
(7) リン酸が50%以上である上記(1)ないし(5)何れか一項記載の方法である。
(8) 金属がステンレス鋼である上記(3)ないし(6)何れか一項記載の方法である。
【発明の効果】
【0017】
以上のとおりの構成からなるこの発明のセルロース系物質よる単糖類並びにエタノールの製造方法によれば、、高温、高圧を要せず、簡易な設備で、且つまた環境に悪影響を及ぼすような材料を使用することもなく、エネルギー効率良くセルロース系物質を分解してグルコース、キシロースなどの単糖類を得ることができ、また、この単糖類を更に既知の酵素分解によってエタノールを製造することができるという効果を有している。
加えて、この発明は、化学薬品や医薬品の原料として有用な多糖類や単糖類の製造を行うことができる上、更にまた、セルロース系物質に、廃棄物として焼却処理されてしまっていた古紙や枯葉、廃木材、稲藁などを、エタノールとして有効利用することができるという利点を備えている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
上記したとおりの構成からなるセルロース系物質よる単糖類並びにエタノールの製造方法の実施に際し、その最良もしくは望ましい形態について説明を加えることにする。
この発明に使用するセルロース系物質は、基本的にセルロースを含む物質であれば、自然に存在するもの、加工されたもの何れも使用することができ、例えば澱粉、紙、木材、稲藁、籾殻、古紙などから、その他のセルロース系物質、例えば枯葉、建築廃材中の木材や間伐材、風倒木などを用いることができる。また、セルロース系物質は、リグニンと結合したリグノセルロース、樹皮を含んでいても差し支えない。
これらのセルロース系物質は、リン酸および紫外線照射の際には、処理をし易くするために、好ましくは解砕・微粉砕される。そのため、この発明の方法に供するセルロース系物質は、好ましくは粒径0.5mm以下に微粉砕される。
【0019】
この発明においては、これらのセルロース系物質は、リン酸および紫外線照射によって処理される。
使用する燐酸は、その濃度が高い方が好ましく、50%以上であれば十分実用に供し得るが、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上の高濃度のリン酸を使用するようにする。
50%よりも濃度の低いリン酸を使用することもできるが、この場合には水分を加温、あるいは減圧下等乾燥雰囲気で処理するようにすべきである。
【0020】
このセルロース系物質の処理温度は、30ないし100℃未満、好ましくは40ないし80℃であり、更に好ましくは40ないし60℃の温度範囲である。
100℃以上の温度ではセルロース系物質はレボグルコサンに分解せずに炭化してしまい、この発明の目的である単糖類まで分解することができず、また、セルロース系物質の分解反応中は、乾燥雰囲気で行なうのが好ましい。これは、リン酸中の水分を除去して反応を促進するためである。乾燥雰囲気は、例えば乾燥機内に乾燥剤を使用したり、減圧下に加温するなどによるもので良い。
【0021】
この発明の方法は、リン酸および紫外線照射によってセルロース系物質を分解し、グルコース、キシロースなどの単糖類に分解することが可能となるものであって、この分解反応は、二酸化チタンの存在下に行なうことによって促進することができる。
二酸化チタンの結晶構造は、ルチル型とアナターゼ型とに大別でき、ルチル型酸化チタンに比べてアナターゼ型酸化チタンは、紫外線などの光線による活性度が非常に高い。そのため、光分解性を高めるためには、アナターゼ型酸化チタンを用いるのが好ましいものの、ルチル型酸化チタンを否定するものではなく、ルチル型であっても、紫外線ランプ照度を上げるか、紫外線ランプの波長の異なる分光の選定(フィリップス社製に多種あり)や照射方法で反応性を高めることができる。
また、現在は可視光線二酸化チタン触媒も開発されているため、ランプを換えるばかりでなく、二酸化チタンを換えることもできる。
【0022】
二酸化チタンの比表面積および粒子径も紫外線による分解性に大きく影響する。すなわち、酸化チタンの粒子径が小さく、比表面積が大きくなるに連れて、単位重量当り、紫外線などの光線による二酸化チタンの活性化度を高めることができる。
これは、セルロース系物質と二酸化チタンとの接触する面でのみ紫外線による光分解反応が起こるためであり、接触面積が増えることが反応速度に影響する。
そのため、粒子径が小さく、比表面積の大きな二酸化チタンを用いると、少量の添加でセルロース系物質の分解性を高めることができる。
【0023】
(1)二酸化チタンの比表面積は、空気透過法による比表面積(ブレーン値)20m2/g以上、好ましくは60ないし150m2/g程度であり、市販の試薬としては50ないし150m2/g程度である場合が多い。
(2)二酸化チタンの一次粒子の平均粒子径は、レーザーマイクロサイザーの測定では、0.002ないし0.07μm、好ましくは0.01ないし0.05μm程度であり、試薬類は、0.005ないし0.05μm程度である場合が多い。
この発明において使用する二酸化チタンとしては、上記(1)比表面積および(2)平均粒子径のいずれか一方の特性を有していればよいが、好ましい二酸化チタンには、前記(1)比表面積、および(2)平均粒子径の双方の特性を有する二酸化チタンが含まれている。
【0024】
このような二酸化チタンは、
(3)比表面積30m2 /g以上、および一次粒子径0.002ないし0.07μm(例えば、0.002ないし0.05μm)、さらに好ましくは、比表面積60ないし150m2/g、および一次粒子径0.01ないし0.05μm程度である。
しかし、粒径を0.05μm以上、例えば0.1μm前後のみの粒径とし、リン酸に20部位以上混入させ、攪拌しながら紫外線を照射させることによってセルロースとの接触面を増やす方法もあり、この手段によってリン酸内の二酸化チタンの分離回収(濾過)が容易となる方法も有効である。
【0025】
既に述べたように、この発明の方法においては、使用する燐酸の濃度は高い方が好ましいが、低濃度のリン酸でセルロースを処理(加温し水分を蒸発させる方式の場合)する場合、二酸化チタンは光分解性および分散性を高めるため、有機物および/または無機物によって表面処理されているのが好ましい。好ましい処理剤の成分には、リン化合物、多価アルコールおよびアミノ酸から選択された少なくとも1つの成分が含まれ、特にリン化合物と、多価アルコールおよびアミノ酸から選択された少なくとも1つの成分とを組み合せて表面処理した二酸化チタンが好ましいといえるが、燐酸溶液で分解されるものは除かれている。
【0026】
このような表面処理剤で表面処理された二酸化チタンは、分散性が高く、単位重量当りの利用可能な表面積が増加し、光分解性を高めることができる。
そのため、前記成分で表面処理された二酸化チタンは、二酸化チタンの活性を有効に利用できるため、前記の二酸化チタンと異なり、前記比表面積および/または一次粒子の平均粒子径を必ずしも有していなくてもよい。
【0027】
上記したリン化合物としては、例えば、酸化リンおよび次亜リン酸、亜リン酸、次リン酸、オルトリン酸、ピロリン酸、三リン酸、メタリン酸、ポリリン酸などのリン酸またはその塩やホスホニウム塩;ホスフィン類、リン酸エステルなどが含まれる。
好ましいリン化合物には、親水性または水溶性リン化合物、例えば、五酸化リンなどの酸化リン、リン酸またはその塩が含まれ、リン酸塩には、例えば、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属塩、アンモニウム塩などが含まれる。そして、これらのリン化合物は単独または二種以上混合して使用できる。
【0028】
前記表面処理剤の中、人体に対して安全性の高い化合物、例えば食品添加物として認定されている化合物を用いる場合が多く、このような化合物には、メタリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウムなどのリン酸とその塩などが含まれる。
同表面処理剤の成分は単独で用いてもよく、二種以上の成分を組み合せて用いるようにしてもよく、好ましい表面処理剤としては、リン酸またはその塩などのリン化合物で親水化処理された二酸化チタンが好ましいといえる。また、二酸化チタンの分散に際しては、界面活性剤や金属石鹸などを用いてもよい。
【0029】
前記二酸化チタンの表面処理は、慣用の方法、例えば、前記成分を含む溶液への二酸化チタンの浸漬、二酸化チタンへのホソカワミクロン社のナウターミキサーなどを使用し、噴霧などによって行なうことができるが、リン化合物の処理量は、酸化チタン100重量部に対して0.5ないし5重量部程度を行うと効果が現れる。
【0030】
二酸化チタンは、光照射による活性およびセルロース系物質の分解効率を高めるため、金属触媒を担持してもよい。遷移金属には、Zr、V、Cr、Mo、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Auなどがあるが、Pd、Pt、Auなどが好ましく、これらの金属は、塩化物などのハロゲン化物、酸化物、錯体などとして担持させてもよい。
二酸化チタン100重量部に対する前記金属またはその化合物の担持量は、金属換算において0.01ないし5重量部程度である。
【0031】
セルロース系物質への二酸化チタンの混合量については、セルロース100重量部に対して0.01ないし20重量部、好ましくは0.25ないし5重量部程度である場合が多い。
これは、二酸化チタンの含有量が0.01重量部未満では、光分解性が然程向上せず、20重量部を越えると、二酸化チタンによる隠蔽性が高くなり、紫外線の透過性が低下する場合があるからである。
【0032】
前記の二酸化チタンは、慣用の方法でセルロース系物質に最初に分散する場合も有り、例えば、セルロース系物質と二酸化チタンとの混合物を燐酸水溶液に溶融混合して分散させる方法や、セルロース系物質を乾燥状態で二酸化チタンを分散し、種々の混合分散機、例えば、ニーダーなどの溶融混合機、ボールミル、ロットミル、超音波分散機などの分散機といったものの利用ができる。
前記のような親水表面処理を施した二酸化チタンを用いると、二酸化チタンをセルロース系物質中に容易に分散でき、分散安定性を高めることができる。
なお、この発明のセルロースエステル組成物は、前記のアナターゼ型酸化チタンが好ましいが、ルチル型酸化チタンを含んでいてもよい。
また、二酸化チタンは、顔料として、また食品、化粧品などにも利用されており、人体に対する安全性は高い。
【0033】
この発明のセルロース系物質の光分解反応は、二酸化チタン触媒の外、金属の存在によっても促進することができ、その金属としては、ステンレス鋼が好ましく、反応容器をステンレス鋼として使用することにより、その触媒作用を利用することができる。
また、二酸化チタンを紫外線照射による分解反応を行う方法として、二酸化チタンを塗膜に固着させ、その表面をセルロース系物質を微粉砕し、燐酸に分散させた流体を塗膜表面に凹凸を付け、流体が表面と内部が常に入れ替わる状態としながら薄く流して紫外線を照射し、均一に酸化チタンの分解反応を促進させる方法がある。
【0034】
セルロース系物質を微粉砕し、燐酸に分散させた流体を流しながらネット上に酸化チタンを固着させた網目を通過させつつ紫外線を照射する方法や、セルロース系物質を微粉砕し、燐酸溶液と酸化チタンとを分散させた溶液の流体を外部や内部から紫外線照射を行いながら反応させる方法もある。
また、バッチ式で反応槽にセルロース系物質を微粉砕し、燐酸と二酸化チタン粉末とに分散させ、撹拌しながら紫外線を内部または表面およびその両方から照射させ反応する方法もある。
また、粉砕したセルロース系物質と二酸化チタンを低濃度燐酸水溶液に分散(分散剤の添加も可)させ、加温しながら紫外線を照射し、水分を蒸発・リン酸を濃縮させ、燐酸の濃度を上げながら反応させる方法もある。
【0035】
更に、セルロース系物質を高濃度燐酸に浸漬し、ゲル化および膨潤させ、ろ過し過剰の燐酸を分離し、このゲル状物質に二酸化チタンを混合してペースト状とした後、加温しながら紫外線照射を行う方法などもある。
【0036】
この発明において、紫外線照射と加熱脱水は同時に行なう必要はなく、予め紫外線照射しておいて、その後に乾燥しても良い。更には、セルロース系物質を微粉砕し、微粉末の酸化チタンを混合して燐酸中に分散させ、霧状に噴霧しながら紫外線を照射し、温風で燐酸を濃縮させ加水分解を促進させながら、グルコースを生成させる方法もある。
以下に、この発明を更に詳細に説明していくこととする。
【0037】
[参考実験1]
セルロース(JKワイプ=十条キンバリー製実験用ペーパータオル)に10%リン酸アンモニウム(燐安)水溶液に二酸化チタンを分散させた溶液を含浸処理し、100℃蒸発乾燥させ燐安のアンモニアを飛ばし、リン酸を濃縮させて反応を促進させたところ、セルロースは脆い炭化シートとなった。
【0038】
[参考実験2]
セルロース(JKワイプ=十条キンバリー製実験用ペーパータオル)にリン酸10%水溶液に二酸化チタンを分散させた溶液を含浸させ、乾燥器80℃で反応させたが、セルロースは炭化シートとなった。
【0039】
[参考実験3]
セルロース(JKワイプ=十条キンバリー製実験用ペーパータオル)にリン酸10%水溶液を含浸させ、ステンレス網(台所用品の水切り網で縦1cm間隔の隙間)に載せ、乾燥器内において80℃で12H反応させたセルロースは、一部は炭化し、四隅がグリス状の黒色液化状態となって垂れ落ち、SUS網に接触した部分がグリス化して、残りは炭化シート化したため、1cm幅に切れてしまった。
【0040】
[参考実験4]
85%リン酸(関東化学株式会社製の高濃度リン酸。以下、同様)にJKワイプを含浸(1.12gに20ccのリン酸)させ、ステンレスパレットに貼り付け、紫外線を照射しながら1晩処理したJKワイプは透明な半液状(ペーストまたはグリス状のべっとりした状態)となった。これを40℃で乾燥すると1時間程度で液化が始まり、4時間で流動状態となり、6時間で薄い褐色の溶液となり、流動性が更に上がった。
【0041】
[参考実験5]
85%リン酸にJKワイプを含浸(1.12gに20ccのリン酸)させ、ステンレス(SUS)パレットに貼り付けた上、二酸化チタンを均一になるように振り掛け(0.05g程度)、紫外線を照射しながら1晩処理したJKワイプは、透明な溶液状(ゲルではない。)となった。その後、40℃の乾燥器に入れると30分程度で液化が始まり、1時間で流動状態となり、2時間で薄い褐色の溶液となり、流動性が更に上がった。
【0042】
[参考実験6]
PP素材のパレットで、85%リン酸にJKワイプを含浸(1.12gに20ccのリン酸)させ、二酸化チタンを均一に振り掛けて1晩紫外線照射したものは、SUSパレットの場合とは異なり、ゲル化(液化しない)したものの、その後、乾燥器40℃12Hで反応させたものは、全体が高粘性溶液状態となり、褐色であった。その後、水を加えても溶解したままであった。
PPパレットで、85%リン酸にJKワイプを含浸(1.12gに20ccのリン酸)させ、紫外線照射を行わなかったものはゲル化し、その後、乾燥器40℃12Hで反応させたものは、全体が高粘性溶液状態となり、褐色であった。しかし、水を加えるとゲル状物質が見られるようになった。
【0043】
[参考実験7]
次に、稲藁(リグノセルロース)を解砕し、繊維は0.5目開きの篩で濾し、篩上の繊維を乾燥し、その後、ステンレスパレットに置き、85%リン酸を含浸(1.12gに20ccのリン酸)させて1晩放置した。翌日には約半分が溶解し、残った繊維も溶けて細い状態となっていた。
この半溶解の稲藁を1晩乾燥器40℃で処理したところ、大部分は溶解したが、一部繊維の太い部分は溶解されずに残った。
更に、稲藁を解砕し、繊維は0.5目開きの篩で濾し、篩上の繊維を乾燥し、その後、ステンレスパレットに置き、85%リン酸を含浸(1.12gに20ccのリン酸)させた上、二酸化チタンを振り、紫外線照射して1晩放置したところ、翌日には約8割が溶解し、残った繊維も溶けてかなり細い状態となっていた。
この半溶解の稲藁を1晩乾燥器40℃で処理したところ、溶解した。(繊維が溶解されずに残ることはなかった。)
その後、稲藁を解砕し、繊維は0.5mm目開きの篩で濾し、篩下の目開き0.15mm篩上の繊維を乾燥したもの2g、これを250ccの85%リン酸を分散させ、40℃の乾燥器内で攪拌(18−8SUS製)しながら紫外線を照射したところ、4時間で溶解した。
また、稲藁を解砕し、繊維は0.5mm目開きの篩で濾し、篩下の目開き0.15mm篩上の繊維を乾燥したもの4g、これを250ccの85%リン酸と0.5gの二酸化チタンを分散させ、60℃の乾燥器内で攪拌(18−8SUS製)しながら紫外線を照射したところ、3時間で溶解した。
【0044】
以上の結果から、稲藁を短時間で分解するには、稲藁を細かく粉砕(0.5mm以下)し、高濃度のリン酸の比率(1:40以上)を上げ、ステンレスと二酸化チタンとに接触させながら紫外線を照射し、40ないし60℃で攪拌・乾燥すると、稲藁は短時間でグルコース・キシロース等に分解することを見出したものである。
【0045】
[実験1]
セルロース(紙:JKワイプ=十条キンバリー製実験用ペーパータオルで純粋なバージンパルプ)は、高濃度燐酸に浸漬して室内放置すると、大気中の水分を吸いながら膨潤してゲル状となる。しかし、紫外線を照射した試料(紙)は、多少黄色変したペースト状態化していく。
低温(5℃程度)でセルロース(JKワイプ:十条キンバリー製実験用ペーパータオルで純粋なバージンパルプ)1.12g(絶乾重量)を85%燐酸20ccに浸漬し、東芝製殺菌灯10Wで12時間照射すると、セルロースは半透明になり、一部は液化(ゲルではなくなる。)してくる。
その処理したセルロースを、40℃の乾燥機(シリカゲルを入れ乾燥状態とする。)で乾燥すると、1時間程度で液化が始まり、4時間で流動状態となり、6時間で薄い褐色の溶液となり、流動性が更に上がる。
【0046】
[実験2]
同様に、低温(5℃程度)で、セルロース(JKワイプ)1.12gを、0.05gのアナターゼ型二酸化チタン(1級試薬)を分散させた85%燐酸20ccに浸漬し、東芝製殺菌灯10Wで12時間照射すると、セルロースは透明となり、二酸化チタンを加えた方が、加えないものより液化している状態が進行している。
その処理したセルロースを40℃の乾燥機(シリカゲルを入れ乾燥状態とする。)で乾燥すると、30分程度で液化が始まり、1時間で流動状態となり、2時間で薄い褐色の溶液となり、流動性が更に上がる。
【0047】
[実験3]
リグノセルロース(稲藁)は2cmに切断し、ミキサーで解砕して繊維化させ、0.5mmの目開き篩でネット状としてから、乾燥後1.5gを0.05gのアナターゼ型二酸化チタン(1級試薬)を分散させた85%燐酸20ccに浸漬し、東芝製殺菌灯10Wで12時間照射すると、稲藁は黄白色のグリス状(ペースト状)となり、表面は黄色透明の液体となる。
なお、リグノセルロースに二酸化チタンを加えない場合、ネット状のままで表面がべた付く程度の分解であり、溶解やゲル状と表現できる状態ではない。
【0048】
この二酸化チタンに紫外線処理したリグノセルロースを、上記40℃の乾燥機に入れ、4時間経過すると、二酸化チタンを混入した試験体は液化し、二酸化チタンを加えない試験体は繊維が残った状態でのゲル化した状態であった。
その後、二酸化チタンを加えない試験体に二酸化チタンを加え、紫外線照射4時間後、40℃で乾燥すると液化した。(紫外線照射と加熱を同時に行わなくとも分解する。)
乾燥温度を60℃とした場合、セルロース(JKワイプ)処理時間が約半分の1時間で褐色の液体となり、流動性が高い状態となった。
【0049】
分解が完了したか否かは、流動化したリン酸処理液体に水を同量加えると、分解が終了していないものはゲル化するが、分解の終了した溶液の場合はゲル化は起こらないことが今回の実験で判明した。なお、この反応が終わっていない溶液を再度加熱し、リン酸濃度を上げ、酸化チタン混入と紫外線照射によって反応を進行させ、反応を終了させることができる。
【0050】
この反応が終了し、分解したセルロース(グルコース等)を含むリン酸溶液は、消石灰または水酸化アルミニウムか水酸化鉄の何れかを混合、中和し、リン酸分をリン酸カルシウム(リン酸アルミ、リン酸鉄)などとすることによって沈殿、分離できる。(その後、既存の技術によって分離したリン酸カルシウムを酸性とし、再溶解させ、炭酸ガスで炭酸カルシウムとリン酸とに分離し、リン酸は再利用し、分離した炭酸カルシウムを脱水、乾燥し、過熱すると生石灰となり、水と反応して消石灰とし、リン酸および石灰として再使用できる。
【0051】
また、逆浸透膜を使用するようにしてもリン酸および二酸化チタンを分離することができ、再度セルロースを分解するために利用できる。
また、特殊カチオン交換樹脂などのカラム充填塔での分離法(特開2005−239979)やシリカゲルクロマトグラフィー等のカラムクロマトグラフィーにかけて、アンヒドロ糖の溶出画分の溶離液を留去する方法(特開2006−28040)などが知られている。
【0052】
更には、逆浸透膜などでリン酸を分離したグルコース溶液にもリン酸が極微量混入する場合がある。
しかし、その後のアルコール発酵でリン酸は酵素の活動エネルギーとなるため、硫酸のような酵素活動の弊害となることはない。
また、処理されず残った残渣へも微量のリン酸が含まれるが、これら残渣は植物の肥料としての再利用、処理が可能であり、更には、リン酸を含んだ状態で100℃以上に加熱すると、セルロース系物質残渣は炭化し吸着材などへの利用や、450℃で1分の処理を行った場合は電磁波吸収素材となる。
以下に実施例を示し、この発明をより具体的に説明していくこととするが、この発明の構成が、これらの実施例によって限定されるものではないことは言うまでもない。
【実施例1】
【0053】
紙状セルロース(JKワイプ)1枚絶乾重量1.12gに89%リン酸(ラサ工業株式化社製の高濃度リン酸。以下、同様。)20ccを加えた上、常温(5℃)下で東芝製殺菌灯10Wによって24時間紫外線を照射する。
その後、シリカゲルを入れた40℃乾燥機に入れ、24時間乾燥加熱を行う。この操作によるサンプル作成を5回繰り返し、300cc(固形分30g)作成した。このサンプルの分析値を、下記の表1に示す。
【実施例2】
【0054】
紙状セルロース(JKワイプ)1枚絶乾重量1.12gに85%リン酸20ccを加えた上、二酸化チタン0.05g程度を前記紙状セルロースの表面に塗り、常温(5℃)下で東芝製殺菌灯10Wにして24時間紫外線を照射する。
その後、シリカゲルを入れた40℃の乾燥機に入れ、24時間乾燥加熱を行う。この操作によるサンプル作成を5回繰り返し、300cc(固形分30g)作成した。このサンプルの分析値を、下記の表1に示す。
【実施例3】
【0055】
稲藁2gを、水と共にミキサーに入れて解砕した。解砕した繊維を篩で濾し取って乾燥し、この乾燥解砕繊維1.2g程度に85%リン酸20ccを加えた上で、二酸化チタン0.05g程度をリン酸液に分散させ、常温(5℃)下、東芝製殺菌灯10Wによって24時間紫外線を照射する。
その後、シリカゲルを入れた40℃の乾燥機に入れ、24時間乾燥加熱を行う。この操作によるサンプル作成を5回繰り返し、300cc(固形分30g)作成した。このサンプルの分析値を、下記の表1に示す。
【0056】
実施例1ないし3の分析結果〔(財)日本食品分析センターにて分析〕
下記試料は、40℃(シリカゲルで乾燥状態)で24時間処理した溶液を、数日放置後に分析依頼した。
( )内%は、リン酸と水分とを除いたセルロース分解による生成率を示す。
(*セルロース1.12g/リン酸85% 品20cc32.902g=3.4%)
【表1】

【0057】

表1から明らかなように、実施例1ないし3でグルコースなどが約15%得られた。また、酸化チタンの光触媒反応でグルコースの生成率が約2倍に上昇した。
稲藁の場合は、繊維の解砕が不十分であったため、一部セルロースが分解されないまま2.3%残った。
こうして得られたグルコース等単糖を含む生成物から、好ましくは該単糖をUF濾過など適宜方法により分離した後、単糖の水溶液となし、これを既知の方法によりエタノール発酵させ、エタノールを得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系物質を解砕・微粉砕し燐酸溶液に混合、分散させ、100℃以下で、紫外線照射しながらセルロースを分解することを特徴とする単糖類の製造方法。
【請求項2】
二酸化チタンの存在下にセルロース系物質を分解することを特徴とする請求項1記載の単糖類の製造方法。
【請求項3】
金属の存在下にセルロースを分解することを特徴とする請求項1または2何れか記載の単糖類の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3何れか一項記載の単糖類の製造方法に引き続き、この単糖類を酵素によってアルコール発酵させることを特徴とするエタノールの製造方法。
【請求項5】
単糖類がグルコースおよび/またはキシロースである請求項1ないし4何れか一項記載の方法。
【請求項6】
セルロース系物質が澱粉、紙、木材、稲藁である請求項1ないし4何れか一項記載の方法。
【請求項7】
リン酸が50%以上であることを特徴とする請求項1ないし5何れか一記載の方法。
【請求項8】
金属がステンレス鋼であることを特徴とする請求項3ないし6何れか一項記載の方法。

【公開番号】特開2009−11218(P2009−11218A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−175682(P2007−175682)
【出願日】平成19年7月3日(2007.7.3)
【特許番号】特許第4134250号(P4134250)
【特許公報発行日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(507225160)
【Fターム(参考)】