説明

セル生産システム

【課題】セル生産システムにおいて、簡単な構成により、セル生産の柔軟性を活かしなが
ら作業性の向上を図る。
【解決手段】システム1は、作業者M,M1,M2(代表してM)がワークWと共に移動
しつつワークWに対する処理を行うことによりワークWを製品化する作業を繰り返して製
品を順次生産するためのシステムであり、ワークWを移送するコンベア2と、作業者Mを
認識する検出装置3と、コンベア2を制御する制御装置4と、を備え、制御装置4は検出
装置3による認識結果に基づいてコンベア2の駆動速度を作業者Mごとに変化させる。検
出装置3による作業者Mの認識は、作業者Mの腕に取り付けたデータ送信部5を用いて行
われる。セル生産の柔軟性を活かしながら、コンベア2によるワークWの移動速度を各作
業者Mに合わせることができ、作業時間短縮と作業性向上を実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業者がワークと共に移動しつつ生産を行うセル生産システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、流れ作業方式の生産システムにおいて、コンベアで移動するワークに対し、
作業者が処理を施してワークを製品に仕上げる生産システムが多数用いられている。この
ような生産システムにおいて、コンベアを停止させることなく、複数種類の製品をロット
単位で切り替えながら生産することが行われる。ところが、コンベア上でのワークの処理
時間(タクト)が製品種類ごとに異なる場合に、製品種類の切り替えとコンベアの移動速
度との整合が不適切であると、作業者に待ち時間が発生したり、逆に、作業者の負担が増
大したりする。そこで、各製品種類ごとのタクトとその余裕幅を考慮して、各製品の投入
順序、コンベア速度、ワークの投入時間間隔等を最適化することにより、生産ロスの最小
化を図るシステムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−274501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1に示されるような生産システムにおけるコンベアを
セル生産システムに適用する場合、次のような課題がある。セル生産システムは、作業者
がセルと呼ばれる作業場所で作業対象であるワークに複数の作業工程を行って1つの製品
、または途中段階の完成品を作り上げるためのシステムである。セル生産システムにおい
て、作業者は、固定された作業台で作業したり、ワークと共に歩行移動しつつ作業したり
する。作業者がワークと共に移動する場合に、ワークを手で持つ以外に、コンベアで移動
させることも行われる。セル生産システムは、作業者の多能工化を推進でき、製品仕様変
更への対応が容易であり、設備投資が少なくて済むという利点があり、種々の意味で柔軟
性を有するシステムである。その反面、セル生産システムにおいては、生産性が各作業者
の作業ペースに依存するので、生産性を向上させるような仕組みが望まれる。ところが、
特許文献1に示される生産システムのコンベアでは、各製品種類ごとのタクトについて考
慮されているものの、作業者各人の能力や能力向上について何ら考慮されていない。
【0005】
本発明は、上記課題を解消するものであって、簡単な構成により、セル生産の柔軟性を
活かしながら作業性向上を実現できるセル生産システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するために、本発明のセル生産システムは、作業者がワークと共に移動
しつつワークに対する処理を行うことによりワークを製品化する作業を繰り返して製品を
順次生産するためのセル生産システムにおいて、ワークを移送するコンベアと、作業者を
認識する検出装置と、コンベアの駆動速度を制御する制御装置と、を備え、制御装置は検
出装置による認識結果に基づいてコンベアの駆動速度を変化させることを特徴とする。
【0007】
このセル生産システムにおいて、作業者によるワークに対する処理を行うに要する時間
を測定する測定装置を備え、制御装置は測定装置による測定結果に基づいてコンベアの駆
動速度を変化させることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明のセル生産システムによれば、セル生産の柔軟性を活かしながら作業性向上を実
現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るセル生産システムの平面図。
【図2】同システムにおけるコンベアの側面図。
【図3】同システムにおけるコンベア制御を説明するブロック図。
【図4】第2の実施形態に係るセル生産システムの平面図。
【図5】同システムにおけるコンベアの側面図。
【図6】同システムにおけるコンベア制御を説明するブロック図。
【図7】同システムにおけるコンベア制御のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係るセル生産システムについて、図面を参照して説明する。
(第1の実施形態)
図1、図2、図3は第1の実施形態に係るセル生産システムについて示す。セル生産シ
ステム1(以下、システム1)は、図1に示すように、作業者M,M1,M2(代表して
M)が、それぞれ個別にワークWと共に移動しつつワークWに対する処理を行うことによ
りワークWを製品化する作業を繰り返して製品を順次生産するためのシステムである。シ
ステム1は、ワークWを移送するコンベア2と、作業者Mを認識する検出装置3と、コン
ベア2の駆動速度を制御する制御装置4と、を備え、制御装置4は検出装置3による認識
結果に基づいてコンベア2の駆動速度を作業者Mごとに変化させる。検出装置3による作
業者Mの認識は、作業者Mの腕に取り付けたデータ送信部5を用いて行われる。
【0011】
システム1は、例えば、電子機器を製品陳列用に梱包したパックを生産するためのシス
テムである。コンベア2を含む各種の設備で囲まれた作業領域がセルを構成している。作
業者Mは、図示のように複数人で、各人がセル内を矢印で示すように左回りに巡回し、各
周回ごとに1つの製品を完成させる。作業者Mの人数は、生産計画によって1人のことも
ある。セル内には、ワークWに組み込む部品を供給したり、ワークWを加工したり組み立
てたりするための各種の設備(セル設備)11〜17が左回り順に配列されており、セル
設備17の隣には、奥側の部品置き台18と、手前側のコンベア2とが配置されている。
部品置き台18には、部品トレイa〜dが配置されている。部品トレイa〜dに収納され
ている部品は、コンベア2を用いて作業する際に消費される部品である。作業台10は、
完成した製品の置場であり、製品は、適宜他所へと回収される。
【0012】
セル設備11〜17は、例えば、作業用の作業台、電気検査用の測定器、ネジ止めなど
の加工機械、部品供給器などである。作業者Mは、歩いて移動しながら、筐体や回路基板
などからなる部品を部品台からピックアップし、これらの組み付けやネジ止め、動作チェ
ックなどを行い、電子製品と電池と説明書などを順次、梱包用の透明ケースに入れて、最
終的に電子製品の梱包パックを完成する。従って、ワークWは、これらの部品や説明書、
透明ケースなどの、1つの最終製品を構成する物品の総体である。また、これらを持って
移動するため補助的に用いる載せ台(トレイ)なども、一時的にワークWを構成する。
【0013】
コンベア2は、例えば、ベルトコンベアであり、図1、図2に示すように、ワークWを
載置固定するためにコンベア2上に設けられている複数のワークセット治具22と、制御
装置4によって回転速度を制御されてコンベアを駆動するモータ21と、を備えている。
このコンベア2により、作業者Mは、歩行移動しながらコンベア2上のワークWに対して
作業を行うことができる。治具22は、コンベア2のベルト上に固定されており、ベルト
上面が水平移動する間、ワークWまたはワーク載置用のトレイなどを支持し、モータ21
の回転速度に従ってワークWを水平移動させる。コンベア2は、駆動速度(コンベア送り
速度)を連続的に可変自在とされており、例えば、制御装置4およびモータ21によって
、インバータ制御のような駆動方法を用いて周波数および電流値を変化させることで速度
制御される。コンベア2を用いる作業は、梱包用の透明ケースなどから成るワークWを治
具22の上にセットし、部品置き台18上に配置された部品トレイa〜dから順次部品を
取って透明ケースに収納して製品を完成し、治具22からワークWを取り外すまでの作業
である。部品トレイa〜dには、例えば、電池、付属コード、説明書、透明ケースの上蓋
などが収められている。
【0014】
作業者Mは、図3に示すように、腕にデータ送信部5を取り付けて作業する。データ送
信部5は、例えば、RFIDを用いる無線タグであり、通信の指向性や通信限界距離を有
し、検出装置3はRFIDリーダであり、データ送信部5と検出装置3との距離が所定距
離内にあるときのみ、データ送信部5からIDデータ等が読み出される。従って、検出装
置3は、他の作業者Mが有するデータ送信部5の信号の影響を受けずに、特定工程を実施
する作業者Mが有するデータ送信部5の信号のみを選択的に受信することができる。検出
装置3は、コンベア2による作業開始位置に配置されており、コンベア2の位置における
作業(コンベア作業)を行う作業者Mが携帯しているデータ送信部5からIDデータを読
み取り、作業者Mを認識し、その認識結果を制御装置4に出力する。
【0015】
制御装置4は、予め設定された作業者Mごとのコンベア送り速度のデータを保持してい
る。制御装置4は、検出装置3によって認識された作業者Mに対応するコンベア送り速度
を呼び出し、そのコンベア送り速度のデータに基づいてモータ21を制御することにより
、コンベア2の駆動速度を作業者Mごとに変化させる。コンベア送り速度のデータは、検
出装置3が保持するようにしてもよく、この場合、検出装置3は、認識された作業者Mに
対応するコンベア送り速度を呼び出して制御装置4に出力する。本実施形態によれば、セ
ル生産の柔軟性を活かしながら、コンベア2によるワークWの移動速度を各作業者Mに合
わせることができ、全ての作業者に一律に一定のコンベア移動速度(ワーク移動速度)と
する場合に比べて、作業時間短縮と作業性向上を実現できる。
【0016】
(第2の実施形態)
図4乃至図7は第2の実施形態に係るセル生産システムについて示す。本実施形態のシ
ステム1は、図4、図5に示すように、第1の実施形態において、作業者Mによる特定の
処理作業に要する作業時間を測定する測定装置6を備え、制御装置4は測定装置6による
測定結果に基づいてコンベア2の駆動速度を変化させるものである。作業時間を測定する
対象の処理作業として、例えば、コンベア2を用いるコンベア作業そのものを取り上げる
が、コンベア作業に限らず、コンベア作業の前工程や後工程の作業でもよい。これは、作
業者Mを固定した場合、種々の作業速度が、ある作業の作業速度によって類推可能(ある
作業が速い人は、通常、他の作業をやっても作業が速い)と考えられるからである。
【0017】
測定装置6は、作業者Mが携帯しているデータ送信部5からデータを読み取るための、
互いに離間した2つの検出装置、すなわち開始データ受信部61および完了データ受信部
62と、両データ受信部61,62間の距離とその間の移動時間とから移動速度を算出す
るデータ処理部63と、を備えている。データ送信部5は、第1の実施形態と同様にRF
IDタグであり、データ受信部61,62は、第1の実施形態における検出装置3と同様
に、RFIDリーダである。開始データ受信部61は、コンベア2におけるワークWの移
動開始端側に配置され、完了データ受信部62は、コンベア2におけるワークWの移動終
了端側に配置されて、作業者Mの認識、作業者Mのコンベア2への接近時刻の取得および
離脱時刻の取得を行う。
【0018】
図6に示すように、作業者Mは、データ送信部5を腕にはめて、コンベア2上のワーク
Wの移動に追随または前後しつつ、データ受信部61,62の前を順番に通過するように
移動して作業を行う。作業者Mがコンベア作業中におけるコンベア移動速度は一定である
が、作業者Mが、作業を早く終えてコンベア2からワークWを回収し、コンベア2の移動
よりも早く、完了データ受信部62の前を通過すると、コンベアの移動時間よりも短い移
動時間が計測される。逆に、作業者Mの作業が遅く、作業者MがワークWの移動に引きず
られるように移動すると、コンベアの移動時間よりも長い移動時間が計測される。測定装
置6のデータ処理部63は、データ受信部61,62から出力される作業者Mの認識結果
と認識時刻の情報に基づいて作業時間を求めて制御装置4に出力する。制御装置4は、受
け取った作業時間と、作業者Mの移動距離(データ受信部61,62間の距離)とから、
作業者Mの作業速度を算出する。このようにして求められた作業速度は、制御装置4によ
って、作業者Mごとに、時系列的に記録される。制御装置4は、測定装置6による測定結
果と作業速度に基づいて、コンベア2の駆動速度を変化させる。駆動速度を変化させる処
理方法等については後述する(図7のステップS9)。
【0019】
システム1における上述の一連の処理を、図7のフローチャートによって説明する。作
業者Mが、生産作業を開始し、コンベア2の端部にさしかかると、開始データ受信部61
が作業者Mを認識し、その認識結果が測定装置6から制御装置4に出力される(S1)。
その後、測定装置6は時間計測を開始する(S2)。この場合、開始時刻の記録でもよい
。制御装置4は、測定装置6から受け取った作業者Mの認識結果に基づいて、記憶してい
るデータからコンベア速度を呼び出し(S3)、そのコンベア速度に基づいてコンベア2
を稼動させる(S4)。測定装置6は、完了データ受信部62による作業者Mの認識の有
無によってコンベア作業完了か否かを判断する(S5)。完了データ受信部62が作業者
Mを認識するとデータ処理部63によって作業時間が決定されると共に時間計測が停止さ
れ(S6)、認識結果が制御装置4に出力されてコンベア2が停止される(S7)。制御
装置4は、測定装置6から作業時間を受け取り、受け取った作業者Mの作業時間と、作業
者Mの移動距離に基づいて作業者Mの作業速度を算出し、その作業速度を新たなコンベア
速度として、作業者Mについて時系列的にデータベースに格納する(S8)。その後、制
御装置4によってコンベア速度変更(S9)が行われた後、ステップ(S1)に戻って処
理が繰り返される。
【0020】
コンベア速度変更(S9)について説明する。ステップ(S9)において、制御装置4
は、作業者Mの過去のコンベア作業速度の実績に基づいて、次回のコンベア作業時にステ
ップ(S3)で呼び出されるコンベア速度(呼出用コンベア速度と称する)を設定する。
呼出用コンベア速度は、例えば、前回の呼出用コンベア速度に、所定の速度向上率に基づ
く加算量を加算して速度上昇したコンベア速度とする。コンベア速度には上限が設定され
ており、呼出用コンベア速度は、その上限以下に設定される。また、速度の加算量は、複
数の作業者Mの過去の実績や、対象作業者Mの今回算定されたコンベア作業速度に至るま
での速度上昇率の実績などに基づいて、予め設定しておけばよい。また、前回、前々回等
のコンベア作業速度の実績の伸び率に基づいて今後の伸び率を予測し、その予測値に基づ
いて呼出用コンベア速度を決定することもできる。なお、作業速度の算出や記録、作業者
Mとコンベア速度のデータなどの記録などを、制御装置4ではなく、測定装置6で行うよ
うにしてもよい。この場合、制御装置4は、単に与えられたコンベア速度となるようにコ
ンベア2を駆動する駆動装置であればよい。本実施形態によれば、コンベア速度、したが
って、ワークWの移動速度を段階的に上昇させるので、セル生産の柔軟性を活かしながら
作業時間を短縮でき、作業性向上を実現できる。
【0021】
なお、本発明は、上記第1、第2の実施形態の構成に限られることなく種々の変形が可
能である。例えば、上述したように、検出装置3または測定装置6と制御装置4とは、互
いにそれらの機能の一部、または全てを交換した構成とすることができ、計算機能や記憶
機能はマイコンや記憶装置を有する計算機とソフトウエアとを用いて構成できる。また、
各実施形態の構成を互いに組み合わせた構成とすることができる。例えば、複数のコンベ
ア2を用いるシステムの場合、各コンベアの作業工程に応じて、第1、第2の実施形態の
いずれかを適用すればよい。また、コンベア2を、同時に、複数の作業者Mが使用するこ
ともできる。システム1内で複数の作業者Mが作業する場合、作業者Mごとではなく、前
後して作業する作業者Mのグループごとや、作業者Mの全員に対して、コンベア2の移動
速度の設定をしてもよい。この場合、生産性の向上が図れるように、事前調査に基づいて
、同一コンベア速度で作業する作業者Mの平均の作業速度や、より速い作業者Mの作業速
度に呼出用コンベア速度を設定すればよい。また、検出装置3または測定装置6は、デー
タ送信部5を介して作業者Mを認識するものに限らず、作業者Mの動作に基づいて認識す
る構成とすることができる。例えば、作業者Mが通過する位置や操作ボタンの操作や、作
業者別に設定した治具の使用などで作業者Mを識別可能としておけばよい。
【符号の説明】
【0022】
1 セル生産システム
2 コンベア
3 検出装置
4 制御装置
6 測定装置
M,M1,M2 作業者
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業者がワークと共に移動しつつワークに対する処理を行うことにより前記ワークを製
品化する作業を繰り返して製品を順次生産するためのセル生産システムにおいて、
前記ワークを移送するコンベアと、
作業者を認識する検出装置と、
前記コンベアの駆動速度を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は前記検出装置による認識結果に基づいて前記コンベアの駆動速度を変化
させることを特徴とするセル生産システム。
【請求項2】
作業者によるワークに対する処理を行うに要する時間を測定する測定装置を備え、
前記制御装置は前記測定装置による測定結果に基づいて前記コンベアの駆動速度を変化
させることを特徴とする請求項1に記載のセル生産システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−248482(P2011−248482A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118817(P2010−118817)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】