説明

セル電極および電気化学セル

【課題】漏れ電流が少なく、充放電サイクル特性に優れる電気化学セルを提供する。
【解決手段】電極活物質としてプロトン伝導型化合物を含有する正極電極と、電極活物質としてプロトン伝導型化合物を含有する負極電極と、プロトン源を含む電解質を含有する電気化学セルにおいて、少なくとも一方の電極として、陽イオン交換体を含有するセル電極を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池や電気二重層キャパシタなどの電気化学セル及びこれに好適な電極に関する。
【背景技術】
【0002】
プロトン伝導型化合物を電極活物質として用いた二次電池や電気二重層キャパシタなどの電気化学セルが提案され、実用に供されている。
【0003】
図1に、このような電気化学セルの模式的断面図を示す。プロトン伝導型化合物を電極活物質として含む正極電極3および負極電極4が、それぞれ正極集電体1上および負極集電体2上に形成され、これらがセパレータ5を介して貼り合わされている。そして、電解液としてプロトン源を含む溶液が用いられ、ガスケット6により封止されている。このようなセル構成において、プロトンのみが電荷キャリアとして機能する。
【0004】
一方、非水電解液二次電池のサイクル寿命特性の向上に関する技術が、特許文献1(特開2000−195553号公報)に開示されている。特許文献1には、リチウムイオンの吸蔵・放出が可能な複合酸化物を電極活物質とする正極電極と、リチウムイオンの吸蔵・放出が可能な炭素粉末を電極活物質とする負極電極と、リチウム塩を溶解させた非水電解液を用いる二次電池における、高温におけるサイクル寿命特性を向上する技術が開示されている。
【0005】
この技術は、正極あるいは負極の少なくとも一方が、キレート剤、ポリイミド樹脂、キレート樹脂、イオン交換体及びアゾール類とその誘導体の群から選ばれる少なくとも一種類の添加剤を含有することを特徴としている。このイオン交換体としては、マンガンイオンとキレート化合物を形成することが可能で、かつ非水電解液に不溶なものなら使用可能であり、陽イオン交換タイプまたは両性イオン交換タイプの、有機質あるいは無機質交換体を用いることができることが記載されている。そして、このようなイオン交換体を用いることで、正極側の電極活物質から溶出したマンガンイオンを捕捉し、負極へのマンガンの析出を抑制させることができるため、サイクル寿命特性を大幅に改善できることが開示されている。
【0006】
また、特許文献2(特開平5−89905号公報)には、ヨウ素化合物を溶解してなる電解液を用いる二次電池において、内部抵抗を低減し、放電容量を向上する技術が開示されている。この二次電池は、50〜80%の気孔率を有するポリアミドと微粒子状及び/又は繊維状炭素体よりなる多孔質導電体が正極室を満たし、かつこの多孔質導電体の連続気孔に電解液が充填され、この多孔質導電体が陽イオン交換樹脂と積層一体化されていることを特徴としている。また、特許文献2には、ヨウ素を正極活物質として使用する電池において、ヨウ素イオンに起因する自己放電を防止するために、正極と負極間に陽イオン交換膜を挿入することが記載されている。
【特許文献1】特開2000−195553号公報
【特許文献2】特開平5−89905号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、プロトン源を含有する水溶液を電解液に用い、プロトンが電荷キャリアとして機能する電気化学セルは、漏れ電流が大きく、また充放電サイクル特性が低いという問題があった。
【0008】
特に、電極中に不純物として鉄等の酸化還元性物質が含有していると、例えば鉄の2価と3価間のレドックス反応を介して、充電状態の負極から正極へ電子が流れる、すなわち漏れ電流が発生する。この現象は、微量の鉄分によって生じるため、通常の電極材料の精製処理では、漏れ電流が生じない程度に鉄分を完全に除去することは困難である。鉄分の除去率を高めようとすると、電極材料の製造コストが高くなる。
【0009】
また、電極中に不純物として含有される酸化還元性物質は、電気化学セルの充放電サイクル特性にも影響を与える。例えば鉄分は正極で酸化されてイオンとなり、電気泳動により負極に移動した後に、水酸化鉄等の不溶性塩に化学変化して析出する。結果、電極の内部抵抗が上昇し、充放電特性が低下すると考えられる。
【0010】
そこで本発明の目的は、漏れ電流が少なく、充放電サイクル特性に優れる電気化学セルを提供し得る電極、及びこれを用いた電気化学セルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、電極活物質として、プロトン源を含む電解質溶液中において酸化還元反応をし得るプロトン伝導型化合物と、陽イオン交換体とを含有するセル電極に関する。
【0012】
また本発明は、前記陽イオン交換体が電極内部に分散して含有されている上記のセル電極に関する。
【0013】
また本発明は、前記陽イオン交換体が電極表層に含有されている上記のセル電極に関する。
【0014】
本発明のセル電極は、前記陽イオン交換体を電極活物質100質量部に対して1〜80質量部含有することが好ましい。
【0015】
また本発明のセル電極において、前記陽イオン交換体は繊維状であることが好ましい。また、前記陽イオン交換体は、陽イオン交換基を支持する基体樹脂が熱可塑性樹脂からなるイオン交換樹脂であることが好ましく、さらに前記基体樹脂がポリスチレン−ポリオレフィン複合樹脂であることが好ましい。
【0016】
また本発明は、電極活物質としてプロトン伝導型化合物を含有する正極電極と、電極活物質としてプロトン伝導型化合物を含有する負極電極と、プロトン源を含む電解質を含有する電気化学セルであって、少なくとも一方の電極として、上記本発明のセル電極を有する電気化学セル。
【0017】
本発明の電気化学セルにおいて、正極電極として、上記本発明のセル電極を有することが好ましい。また、前記電解質が酸を含有する水溶液であることが好ましい。
【0018】
本発明は、充放電に伴う酸化還元反応において、電荷キャリアとしてプロトンが作用するように動作し得る電気化学セルに好適である。
【0019】
なお、本発明において、電気化学セルとは、二次電池、電気二重層キャパシタあるいはレドックスキャパシタ等を示す。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、漏れ電流が少なく、充放電サイクル特性に優れる電気化学セル、及びこのような電気化学セルに好適な電極を提供することができる。
【0021】
本発明において、電極に添加された陽イオン交換体が、漏れ電流の発生源となる鉄イオン等の酸化還元性不純物を補足し、結果、この不純物のレドックス反応にともなう正極と負極間での電子のやりとり、すなわち漏れ電流を抑制することができる。
【0022】
また、電極に添加された陽イオン交換体が、鉄イオン等の酸化還元性不純物を補足し、鉄イオン等の不純物の負極への電気泳動を妨げるため、負極電極内部での水酸化鉄等の不溶性塩の析出が防止され、結果、内部抵抗の上昇が抑制され、充放電特性に優れた電気化学セルを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0024】
本発明による電気化学セル用のセル電極は、電極活物質としてプロトン伝導型化合物と、陽イオン交換体を含有し、必要により、導電補助材や結着材を含有する。
【0025】
セル電極中の陽イオン交換体の含有量は、電極活物質100質量部に対して1〜80質量部が好ましく、1〜50質量部がより好ましく、1〜30質量部がさらに好ましい。陽イオン交換体の含有量が少なすぎると所望の効果が得られなくなり、多すぎると本来の電極特性が低下する。
【0026】
陽イオン交換体のイオン交換基としては、スルホン基等の強酸性基、カルボキシル基等の弱酸性基が挙げられ、交換イオンはプロトンの他、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属イオン等が挙げられる。
【0027】
陽イオン交換体としては、陽イオン交換樹脂が好ましく、その基体樹脂としては、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン−ポリエチレン複合樹脂、ポリスチレン−ポリプロピレン複合樹脂等が挙げられる。また、これらの樹脂に、カーボン粒子等の導電補助材を複合させ、導電性を付与した導電性樹脂からなる陽イオン交換樹脂を用いることもできる。
【0028】
この基体樹脂としては、熱可塑性樹脂が好ましく、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンを複合して得られたポリオレフィン複合樹脂、例えばポリスチレン−ポリエチレン複合樹脂、ポリスチレン−ポリプロピレン複合樹脂が好ましい。陽イオン交換体の熱可塑性樹脂成分がバインダーとして機能し、電解質水溶液を用いた場合でも陽イオン交換体の膨潤による電極崩壊が防止された高強度の電極セルを得ることができる。
【0029】
陽イオン交換樹脂の形状としては、粒状や繊維状等の種々の形状のものを用いることができるが、繊維状のものが好ましい。
【0030】
繊維状のイオン交換樹脂が好ましい理由は、比表面積が非常に大きく、イオン交換速度が非常に速いことにある。急速充放電特性の点から、繊維状の陽イオン交換樹脂が好適である。
【0031】
イオン交換樹脂を繊維状にすることにより、理論イオン交換容量の80%に達するイオン交換時間が、粒度が14〜50メッシュの粒状イオン交換樹脂に対して約1/8であり、粒度が200〜400メッシュの粒状イオン交換樹脂とほぼ同等の交換速度にすることができる。
【0032】
繊維状の陽イオン交換樹脂の繊維長は10mm以下が好ましく、繊維の長径は100μm以下が好ましい。繊維径が小さく、繊維長が短い方が、比表面積が大きくなるので、上記の繊維径および繊維長の範囲にある繊維を用いることが好ましい。また、このことは、電極材料中にイオン交換繊維を分散させる際、より均一に分散させることができ、イオン交換樹脂を電極活物質の各反応部位に対し、その近傍に均一にバランスよく存在させることができるため、イオン交換の効率が向上し、イオン交換反応のバラツキも低減され、電池特性の改善効果をより高めることができる。なお、入手の容易性あるいは調製の容易性、取り扱いの点から、繊維長は0.1mm以上が好ましく、繊維の長径は1μm以上が好ましい。
【0033】
次に、このような陽イオン交換体を用いた正極電極の製造方法について説明する。
【0034】
電極活物質(プロトン伝導型化合物:例えばインドール三量体化合物)、上記の陽イオン交換樹脂、導電性補助剤(例えば繊維状カーボン)、結着材(例えばポリフッ化ビニリデン)を混合し、この混合粉末を例えば100〜250℃で加圧成形して正極電極を得ることができる。
【0035】
導電補助材は、電極活物質に対して例えば1〜50質量%、好ましくは10〜30重量%、結着材は、電極活物質に対して例えば1〜20質量%、好ましくは5〜10質量%含有させることができる。
【0036】
ここでは、イオン交換樹脂を、成形前に他の電極材料と混合しているが、電極表面にイオン交換樹脂層を設ける方法により電極を形成してもよい。この方法としては、まず電極活物質、導電補助材、結着材等を含有する電極材料を成形し、金型内の成形体の表面に陰イオン交換樹脂を入れてプレス成形する方法や、金型内に乾燥した電極材料の粉末を入れ、その上に乾燥した陰イオン交換樹脂を入れて、一括プレス成形する方法を用いることができる。この方法により、陽イオン交換体が電極表層にのみ含有される電極を形成することができる。この電極は、その電極表層側がセパレータに面して配置される。この電極表層には、必要により、陽イオン交換体に加えて他の電極材料を含有していてもよい。
【0037】
次に負極電極の製造方法を説明する。
【0038】
負極活物質としてプロトン伝導型化合物である例えばポリフェニルキノキサリン、導電補助材として例えば高導電性カーボンブラックを混合し、この混合物を加圧成形、焼成して負極電極を得ることができる。必要により、イオン交換樹脂や結着材を含有させてもよい。
【0039】
本発明の電気化学セルは、陽イオン交換体を含有する本発明の電極を、正極電極および負極電極の少なくとも一方の電極として有することができ、電池特性の改善効果の点から正極電極として有することが好ましい。
【0040】
本発明の電気化学セルは、例えば図1に示すように、正極集電体1上に設けられたプロトン伝導型化合物を電極活物質として含む正極電極3と、負極集電体2上に設けられたプロトン伝導型化合物を電極活物質として含む負極電極4をセパレータ5を介して対向配置した構成を有する。また、電解質として、プロトンを電離する電解質を含む溶液、好ましくは水溶液を含有し、ガスケット6により封止されている。セパレータ5は、例えば厚さ10〜50μmのポリオレフィン系多孔質膜もしくは陽イオン交換膜等を用いることができる。
【0041】
電気化学セルの外装形状は、コイン型、ラミネート型などの従来使用されている形状をとることができ、特に限定されるものではない。
【0042】
プロトン源を含む(プロトンを与えることができる)電解質のプロトン源としては、無機酸または有機酸を用いることができ、例えば、無機酸として、硫酸、硝酸、塩酸、リン酸、テトラフルオロほう酸、六フッ化リン酸、六フッ化ケイ酸などが挙げられ、有機酸として、飽和モノカルボン酸、脂肪族カルボン酸、オキシカルボン酸、p−トルエンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ラウリン酸などが挙げられる。これらのプロトン源を含む電解質の中でも酸含有水溶液が好ましく、硫酸水溶液が特に好ましい。
【0043】
プロトン源を含む電解液中のプロトン濃度は、電極材料の反応性の点から10-3mol/l以上が好ましく、10-1mol/l以上がより好ましく、一方、電極材料の活性低下や溶出の防止の点から18mol/l以下が好ましく、7mol/l以下がより好ましい。
【0044】
本発明による電気化学セルとしては、充放電に伴う両極における酸化還元反応において電荷キャリアとしてプロトンのみが作用するように動作し得るもの、より具体的には、プロトン源を含む電解液を含有し、充放電に伴う両極における酸化還元反応に伴う電子授受において、電極活物質のプロトンの吸脱着のみが関与するように動作し得るように電解質のプロトン濃度と動作電圧が制御されているものが好ましい。
【0045】
反応式(1)は、プロトン伝導型化合物の一つであるインドール三量体化合物の反応を示す。1段目の反応は、ドーピングによる反応を示し、2段目の反応は、ドーピングされた化合物のプロトンの吸脱着を伴う電気化学反応(電極反応)を示す。式中のX-はドーパントイオンを示し、例えば硫酸イオン、ハロゲン化物イオン等であり、プロトン伝導型化合物にドープし電気化学的活性を付与するものである。
【0046】
【化1】

【0047】
このような電極反応を起こす電気化学セルは、酸化還元反応に伴う電子授受においてプロトンの吸脱着のみが関与するため、充放電時の移動物質がプロトンのみであり、その結果、反応に伴う電極の体積変化が少なくサイクル特性に優れ、また、プロトンの移動度が高く反応が速いため、ハイレート特性に優れる、すなわち急速充放電特性に優れる。
【0048】
本発明における電極活物質には上述のようにプロトン伝導型化合物が用いられ、このプロトン伝導型化合物は、電解質のイオンとの酸化還元反応により電気化学エネルギーを蓄積することができる有機化合物(高分子を含む)である。
【0049】
このようなプロトン伝導型化合物としては、従来公知のものを用いることができ、例えば、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリペリナフタレン、ポリフラン、ポリフルラン、ポリチエニレン、ポリピリジンジイル、ポリイソチアナフテン、ポリキノキサリン、ポリピリジン、ポリピリミジン、ポリインドール、ポリアミノアントラキノン、ポリイミダゾール及びこれらの誘導体などのπ共役系高分子、インドール三量体化合物等のインドール系π共役化合物、ベンゾキノン、ナフトキノン、アントラキノン等のキノン系化合物、ポリアントラキノン、ポリナフトキノン、ポリベンゾキノン等のキノン系高分子(キノン酸素が共役によりヒドロキシル基になり得るもの)、前記高分子を与えるモノマーの2種以上の共重合で得られるプロトン伝導型高分子などが挙げられる。これらの化合物にドーピングを施すことによりレドックス対が形成され、導電性が発現する。これら化合物は、その酸化還元電位の差を適宜調整することによって正極活物質及び負極活物質として選択使用される。
【0050】
プロトン伝導型化合物としては、窒素原子を有するπ共役系化合物またはπ共役系高分子、キノン系化合物またはキノン系高分子を好適なものとして用いることができる。
【0051】
これらの中でも正極活物質としてインドール三量体化合物、負極活物質としてキノキサリン系高分子化合物が好ましい。
【0052】
インドール三量体化合物は、3つのインドール環の2位および3位の原子で構成される六員環をもつ縮合多環構造を有するものである。このインドール三量体化合物は、インドール及びインドール誘導体あるいはインドリン及びその誘導体から選ばれる1種もしくは2種以上化合物から、公知の電気化学的または化学的手法により調製することができる。
【0053】
このようなインドール三量体化合物としては、下記化学式で示されるものを挙げることができる。
【0054】
【化2】

【0055】
(式中、Rはそれぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシル基、カルボキシル基、ニトロ基、フェニル基、ビニル基、ハロゲン原子、アシル基、シアノ基、アミノ基、トリフルオロメチル基、スルホン酸基、トリフルオロメチルチオ基、カルボン酸エステル基、スルホン酸エステル基、アルコキシル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、これらの置換基を有していても良い炭素数1〜20のアルキル基、これらの置換基を有していても良い炭素数6〜20のアリール基、ヘテロ環式化合物残基を示す。)
上記の式中、Rのハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。また、式中、Rのアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基等が挙げられる。また、式中、Rのアシル基は、−COXで表される置換基であり、Xとしては上記アルキル基を挙げることができる。また、式中、Rのアルコキシル基は、−OXで表される置換基であり、Xとしては上記アルキル基を挙げることができる。また式中、Rのアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基等が挙げられる。また、式中、Rのアルキルチオ基のアルキル部分は上記のアルキル基を挙げることができる。また、式中、Rのアリールチオ基のアリール部分は上記のアリール基を挙げることができる。また、式中、Rのヘテロ環化合物残基としては、炭素数2〜20、ヘテロ原子数1〜5の3〜10員環の基を挙げることができ、ヘテロ原子としては、酸素、硫黄、窒素が挙げられる。
【0056】
キノキサリン系高分子は、キノキサリン骨格を持つ単位を有する高分子であり、下記化学式で表されるキノキサリン系化合物の骨格を有する重合体を用いることができる。
【0057】
【化3】

【0058】
(式中のRは、重合体としたときに主鎖中に連結基として有してよいし、側鎖基として有していてもよい。式中のRは、それぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、ニトロ基、フェニル基、ビニル基、ハロゲン原子、アシル基、シアノ基、トリフルオロメチル基、スルホニル基、スルホン酸基、トリフルオロメチルチオ基、アルコキシル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、カルボン酸エステル基、スルホン酸エステル基、これらの置換基を有していても良い炭素数1〜20のアルキル基、これらの置換基を有していても良い炭素数6〜20のアリール基、ヘテロ環式化合物残基を示す。)
上記の式中、Rのハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。また、式中、Rのアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基等が挙げられる。また、式中、Rのアシル基は、−COXで表される置換基であり、Xとしては上記アルキル基を挙げることができる。また、式中、Rのアルコキシル基は、−OXで表される置換基であり、Xとしては上記アルキル基を挙げることができる。また式中、Rのアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基等が挙げられる。また、式中、Rのアルキルチオ基のアルキル部分は上記のアルキル基を挙げることができる。また、式中、Rのアリールチオ基のアリール部分は上記のアリール基を挙げることができる。また、式中、Rのヘテロ環化合物残基としては、炭素数2〜20、ヘテロ原子数1〜5の3〜10員環の基を挙げることができ、ヘテロ原子としては、酸素、硫黄、窒素が挙げられる。
【0059】
このようなキノキサリン系高分子としては、2,2’−(p−フェニレン)ジキノキサリン骨格を有する高分子が好ましく、下記式で表されるポリフェニルキノキサリンを用いることができる。なお、式中のnは正の整数を示す。
【0060】
【化4】

【実施例】
【0061】
以下、本発明について実施例を挙げて、さらに具体的に説明する。
【0062】
〔実施例1〕
正極活物質としてプロトン伝導型化合物である5−シアノインドール三量体、導電補助材として繊維状カーボン(昭和電工株式会社製、気相法炭素繊維:VGCF(登録商標))、結着材としてポリフッ化ビニリデンを用い、これらを、この記載順で69/23/8の重量比にて混合し、ブレンダーを用いて攪拌・混合した。陽イオン交換体は、イオン交換基としてスルホン酸基を持つポリスチレン樹脂をポリエチレンと複合紡糸した、陽イオン交換繊維(商品名:IONEX、TIN-110H03E、交換イオン形:Hタイプ、繊維長:0.3mm、東レ(株)製)を用いた。正極活物質に対して10質量%の陽イオン交換体を、上記混合物へ添加し、十分に攪拌・混合した。この混合粉末を200℃で加圧成形し、正極電極を得た。
【0063】
負極活物質としてプロトン伝導型化合物であるポリフェニルキノキサリン、導電補助材としてケッチェンブラック(ケッチェン・ブラック・インターナショナル株式会社製、EC−600JD)を用い、これらをこの記載順で、72/28の重量比で混合し、ブレンダーで攪拌・混合した。この混合物を300℃で加圧成形し、500℃で焼成して負極電極を得た。
【0064】
電解液として20重量%の硫酸水溶液を用い、セパレータとして厚さ15μmの陽イオン交換膜を用いた。
【0065】
このセパレータを介して上記の正極電極および負極電極を対向配置し、さらに集電体およびガスケットを配置して図1に示す構造を有する電気化学セルを得た。
【0066】
作製した電気化学セルについて、以下の評価試験を行った。定電流(5C)定電圧で10分間充電し、定電流放電(1C)にて放電深度が100%になるまで放電を行った。このときの定電圧充電時の終止電流値を漏れ電流値とし、後述の比較例1に対する相対値で評価した。また、この充放電を5000回繰り返した後の容量残存率で充放電サイクル特性を評価した。なお、基本素子あたりの充電電圧は1.2V、評価温度は25℃にて行った。
【0067】
表1に、評価結果を示す。本実施例の漏れ電流値は比較例1に対して70%に抑えられ、充放電サイクル特性は22%向上していることがわかる。
【0068】
〔実施例2〕
陽イオン交換体の混合量を正極活物質に対して70質量%にした以外は、実施例1と同様にして電気化学セルを作製した。
【0069】
表1に、評価結果を示す。本実施例の漏れ電流値は比較例1に対して74%に抑えられ、充放電サイクル特性は9%向上していることがわかる。
【0070】
〔実施例3〕
正極電極を次の方法で作製した以外は、実施例1と同様にして電気化学セルを作製した。
【0071】
正極活物質としてプロトン伝導型化合物である5−シアノインドール三量体、導電補助材として繊維状カーボン(昭和電工株式会社製、気相法炭素繊維:VGCF(登録商標))、結着材としてポリフッ化ビニリデンを用い、これらを、この記載順で69/23/8の重量比にて混合し、ブレンダーを用いて攪拌・混合した。この混合粉末を200℃で加圧成形した。得られた成形体の表面に、正極活物質に対して10質量%の、実施例と同じ陽イオン交換体を積層配置し200℃で加圧して、陽イオン交換体からなる表面層を持つ正極電極を得た。
【0072】
表1に、評価結果を示す。本実施例の漏れ電流値は比較例1に対して68%に抑えられ、充放電サイクル特性は11%向上していることがわかる。
【0073】
〔実施例4〕
陽イオン交換体として、粒状のポリスチレン系陽イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製、商品名:アンバーライト200CT−Na、イオン交換基:スルホン酸基、イオン交換形:Naタイプ)を用いた以外は、実施例1と同様にして電気化学セルを作製した。
【0074】
表1に、評価結果を示す。本実施例の漏れ電流値は比較例1に対して87%に抑えられ、充放電サイクル特性は4%向上していることがわかる。
【0075】
〔比較例1〕
正極電極の作製において陽イオン交換体を混合しなかったこと以外は、実施例1と同様にして電気化学セルを作製した。
【0076】
【表1】

【0077】
表1から明らかなように、本発明によれば、従来技術に比較して、漏れ電流が低減され、充放電特性が向上することがわかる。
【0078】
本発明による第1の作用として、正極電極に含まれる陽イオン交換体が、電極活物質に不純物として含まれる鉄分が酸化されて生じた鉄イオンを補足するため、この鉄イオンの負極への電気泳動が抑制され、正極と負極間での電子のやりとりを防止できる。すなわち、鉄分のレドックス反応に伴う漏れ電流を防止できる。
【0079】
第2の作用として、正極電極に陽イオン交換体を含有させることにより、鉄分を正極に固定化できるため、この鉄イオンの負極への電気泳動が抑制され、負極における鉄分の析出を防止できる。この結果、負極電極の内部抵抗の上昇が抑制され、充放電サイクル特性を向上することができる。
【0080】
本発明の効果は、不純物として電極中に鉄分が含有されている場合に限らず、銅、亜鉛、鉛、ニッケル等の遷移金属類またはこれらの塩素化物や臭素化物等のハロゲン化物等が含有されている場合にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】電気化学セルの模式的断面図である。
【符号の説明】
【0082】
1 正極集電体
2 負極集電体
3 正極電極
4 負極電極
5 セパレータ
6 ガスケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質として、プロトン源を含む電解質溶液中において酸化還元反応をし得るプロトン伝導型化合物と、陽イオン交換体とを含有するセル電極。
【請求項2】
前記陽イオン交換体を電極活物質100質量部に対して1〜80質量部含有する請求項1に記載のセル電極。
【請求項3】
前記陽イオン交換体は電極内部に分散して含有されている請求項1又は2に記載のセル電極。
【請求項4】
前記陽イオン交換体は電極表層に含有されている請求項1又は2に記載のセル電極。
【請求項5】
前記陽イオン交換体は繊維状である請求項1又は2に記載のセル電極。
【請求項6】
前記陽イオン交換体は、陽イオン交換基を支持する基体樹脂が熱可塑性樹脂からなるイオン交換樹脂である請求項1〜5のいずれかに記載のセル電極。
【請求項7】
前記基体樹脂がポリスチレン−ポリオレフィン複合樹脂である請求項6に記載のセル電極。
【請求項8】
電極活物質としてプロトン伝導型化合物を含有する正極電極と、電極活物質としてプロトン伝導型化合物を含有する負極電極と、プロトン源を含む電解質を含有する電気化学セルであって、少なくとも一方の電極として、請求項1〜7のいずれかに記載の電極を有する電気化学セル。
【請求項9】
正極電極として、請求項1〜7のいずれかに記載の電極を有する請求項8に記載の電気化学セル。
【請求項10】
前記電解質が酸を含有する水溶液である請求項8又は9に記載の電気化学セル。

【図1】
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【公開番号】特開2006−100029(P2006−100029A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−282039(P2004−282039)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】