説明

センサモジュールの設定方法

【課題】 実際の使用状態を反映するとともに、特性ばらつきを解消可能なセンサモジュールの設定方法を提供する
【解決手段】 センサモジュールに与える物理量を所定の値に設定し(ステップS2)、得られたセンサの検出値又はこれに対応する値を収集する(ステップS3)。これを複数回繰り返し(ステップS4)、集められたデータに基づき、検出値から計測値への適切な変換に必要な変換情報を生成又は選択する(ステップS5)。そして、この変換情報をセンサモジュール内のメモリに記憶させる(ステップS6,S7)。これにより、実際の使用状態に即した特性ばらつきを考慮した設定が行われることになる。したがって、センサ自体に特性ばらつきが存在したり、信号処理部などから受ける影響が異なっていても、センサモジュールは正しい物理量を表す計測値を送信することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセンサモジュールの設定方法に関し、特に、検出値から計測値への変換処理を行うことが可能なセンサモジュールの設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、温度や湿度等を計測するセンサと無線送信部を一体化した無線センサモジュールが知られている(特許文献1参照)。無線センサモジュールは、センサ本体と温度や湿度等の計測値を利用する機器(以下、「利用機器」という)とを空間的に離間させることができるため、複数の場所にそれぞれ無線センサモジュールを配置して、得られる計測値を集中管理したり、無線センサモジュールを移動・携帯することができるなど、多様な形態での利用が可能となる。しかしながら、多くのセンサは、計測対象である温度や湿度等の変化に対してその検出値(電圧レベル等)の変化が直線的でないことから、センサの検出値から実際に温度や湿度等の計測値を得るためには、何らかの方法で変換を行う必要がある。この場合、無線センサモジュールのように、利用機器とセンサとが空間的に離間しているケースでは、無線センサモジュール側及び利用機器側のいずれかの側で変換処理を行えばよい。
【0003】
しかしながら、センサモジュールは一つの利用機器に対して複数個用いられることがあるため、変換処理をセンサモジュール側ではなく利用機器側で行わせると、利用機器側における処理負担が過大となるおそれがある。この点を考慮すれば、検出値から計測値への変換処理は、センサモジュール内にて行うことが好ましいと考えられる。
【0004】
検出値から計測値への変換方法としては、変換テーブルを用いる方法や、変換式を用いる方法などが知られている。中でも、変換式として最小二乗近似多項式などの近似式を用いれば、単純な四則演算の繰り返しによって変換を行うことができるため、CPUの処理負担が軽く、また、演算に必要なプログラム等も比較的小さく且つ単純になるという利点がある(特許文献2参照)。
【0005】
しかしながら、センサにはある程度の特性ばらつきが不可避的に存在するため、同じ部品を使用して同じ工程で製造した場合であっても、測定対象となる物理量(温度、湿度など)と実際の検出値との関係は、製品によって多少異なってしまう。このようなばらつきは湿度センサにおいて顕著であり、特に、湿度が高い領域においては、製品によってかなり大きなばらつきが発生することになる。この問題は、無線センサモジュールだけでなく、利用機器との接続を有線(ケーブル)で行う有線センサモジュールを含むセンサモジュール全般において生じる問題である。
【0006】
特性ばらつきの影響を低減する方法としては、特許文献3に記載されているように、センサ自体に補正値を持たせておく方法が考えられる。しかしながら、特性ばらつきはセンサそのもののばらつきだけでなく、実際の使用状態にも影響され得る。例えば、無線センサモジュールは、小型であることが非常に重要であることから、信号処理部やバッテリがセンサと同一の基板上に搭載されることがある。このようなタイプのセンサモジュールにおいては、信号処理部の回路の変換誤差や、使用するバッテリの性能などによっても特性ばらつきが変化するため、センサ単独の補正値を用いても必ずしも正確な測定を行うことはできなかった。
【0007】
しかも、補正値を用いる方法においては、センサの検出値と補正値の両方を用いた演算によって、計測値を算出する必要があることから、演算式が複雑になるという問題もある。演算式の複雑化は、計測値の精度の低下や演算に必要なプログラムの複雑化をもたらすため、演算式は極力単純化することが望ましい。
【特許文献1】特公平8−6955号公報
【特許文献2】特開平6−101899号公報
【特許文献3】特開平9−113310号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような問題点を解決すべくなされたものであって、実際の使用状態を反映した特性ばらつきを解消するセンサモジュール、特に、小型のセンサモジュールの設定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるセンサモジュールの設定方法は、少なくとも一つのセンサと、前記センサの検出値を計測値に変換する信号処理部とが一体化されたセンサモジュールの設定方法であって、前記センサモジュールに与える物理量を所定の値に設定する第1のステップと、前記第1のステップにて得られた前記センサの検出値又はこれに対応する値に基づいて、前記検出値から前記計測値への適切な変換に必要な変換情報を決定する第2のステップと、前記第2のステップにて決定された前記変換情報を前記信号処理部内のメモリに記憶させる第3のステップとを備えることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、センサと信号処理部とが一体化されたセンサモジュールの状態で実際の物理量を測定し、これに基づき変換情報を決定していることから、実際の使用状態に即した特性ばらつきを考慮することが可能となる。このため、センサ自体に特性ばらつきが存在する場合のみならず、信号処理部などから受ける影響がそれぞれ異なっていても、センサモジュールは正しい物理量を表す計測値を、外部の利用機器に送信することが可能となる。
【0011】
第1のステップは、物理量を変化させて複数回行うことが好ましい。これによれば、検出値と計測値との関係が1次元的ではなく、複雑な関係を有している場合であっても、正確な変換情報を得ることが可能となる。
【0012】
また、第1のステップを複数のセンサモジュールに対して同時に行うことが好ましい。これによれば、複数のセンサモジュールそれぞれに対し、適切な変換情報を与えることが可能となる。
【0013】
第2のステップは、センサモジュールとは異なる設定装置が実行しても構わないし、センサモジュール内の信号処理部自体が実行しても構わない。前者によれば、センサモジュールに組み込んでおくべきプログラムを小さくすることが可能となるし、後者によれば、外部から行うべき制御を極めて簡素化することが可能となる。
【0014】
変換情報は、検出値を計測値に変換するための変換式であることが好ましい。変換式は、一般に変換テーブルよりもデータ量を簡素化できるため、C言語などで記述した際にプログラム量を簡素化することが可能となる。
【0015】
さらに、変換情報は、検出値を計測値に変換するための変換式に用いる係数であっても構わない。変換式に用いる係数は、変換式自体よりもデータ量が小さいため、信号処理部に含まれるEEPROM、フラッシュメモリ、EPROMなどの記憶容量を小さくすることが可能となる。
【0016】
変換式は、近似式であることが好ましい。最小二乗近似多項式などの近似式の演算は、単純な四則演算の繰り返しであることから、計測値の精度が向上し、演算に必要なプログラムも単純化できる。
【0017】
センサモジュールは、通信を行うための送受信回路部及び動作電源を供給するバッテリをさらに備えることが好ましく、センサ、信号処理部、送受信回路部及びバッテリが同一基板上に搭載されていることが好ましい。このようなセンサモジュールは例えば無線センサモジュールであり、移動・携帯が可能であるという利点を有する反面、信号処理部の回路の変換誤差や、使用するバッテリの性能などによってもセンサの特性ばらつきが変化しすい。しかしながら、本発明の方法によれば、これらをも考慮した正しい変換を行うことが可能となる。また、この場合、第2のステップにて決定された変換情報を、送受信回路部を介してセンサモジュール内に送信することが可能となる。
【0018】
センサモジュールに含まれるセンサは、温度センサ、湿度センサ、照度センサ、加速度センサ、傾斜センサ、人感センサ、衝撃センサ及びトナーセンサからなる群より選ばれた少なくとも1種とすることができる。
【発明の効果】
【0019】
このように、本発明の方法によって設定されたセンサモジュールは、実際の使用状態を反映した特性ばらつきに応じて、適切な変換を行うことが可能となる。このため、センサ自体に特性ばらつきが存在する場合のみならず、信号処理部などから受ける影響がそれぞれ異なっていても、センサモジュールは正しい物理量を表す計測値を、外部の利用機器に送信することが可能となる。
【0020】
しかも、特性ばらつきを補正値という形ではなく、変換テーブルや変換式といった変換情報自体に含ませていることから、変換時の演算が複雑化することもなく、このため計測値の精度が向上し、演算に必要なプログラムも単純化できる。
【0021】
したがって、本発明の設定方法は、利用機器との通信を行う小型の無線センサモジュールを対象とすることが最も効果的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0023】
図1は、本発明の好ましい実施形態において設定対象となる無線センサモジュールの構成を概略的に示すブロック図であり、通信手段として無線を用いた例を示している。
【0024】
図1に示すように、設定の対象となる無線センサモジュール100は、センサ101と、A/Dコンバータ110と、CPU(Central Processing Unit)120と、メモリ130と、送受信回路部141と、アンテナ142と、入出力端子143と、バッテリ150とを備えて構成されている。
【0025】
センサ101は、温度センサ、湿度センサ、照度センサ、加速度センサ、傾斜センサ、人感センサ、衝撃センサ、トナーセンサ等から選ばれたセンサであり、図1に示すように、センサ素子101aとセンサ回路101bによって構成されている。センサ素子101aとは、例えば温度センサであればサーミスタ自体であり、センサ回路101bとは、例えばサーミスタの抵抗値を電圧変換する抵抗素子などである。
【0026】
A/Dコンバータ110は、センサ回路101bより得られる検出値Sをデジタル値である検出値Sに変換するため機能ブロックである。つまり、センサ回路101bより得られる検出値Sは、電圧値や電流値といったアナログ量であることから、これをデジタル処理するための前処理としてA/Dコンバータ110が必要となるのである。A/Dコンバータ110の分解能としては、無線センサモジュール100の用途にもよるが、8ビット以上の分解能であることが好ましく、12ビット以上の分解能であることがより好ましい。
【0027】
CPU120は、無線センサモジュール100の全体の動作を制御するとともに、A/Dコンバータ110より与えられるデジタル形式の検出値Sを受け、これを温度や湿度等の計測値Sに変換するための機能ブロックである。特に限定されるものではないが、CPU120としては、スリープ機能(待機時における消費電力を大幅に抑える機能)を有しているものを用いることが好ましい。
【0028】
メモリ130は、CPU120による演算処理に必要なプログラムやデータを格納するための機能ブロックである。メモリ130は、基本プログラムなどが格納されるROM(Read Only Memory)領域や、作業領域となるRAM(Random Access Memory)領域の他、電気的に書き込み可能な不揮発性メモリであるEEPROM131が含まれている。尚、電気的に書き込み可能な不揮発性メモリであれば、EEPROM131の代わりに、フラッシュメモリ、EPROM、強誘電体メモリなどを使用しても構わない。
【0029】
これらA/Dコンバータ110、CPU120及びメモリ130は、信号処理部190を構成しており、それぞれ別個の半導体ICにより構成されていても構わないが、既に言及したとおり、無線センサモジュール100はその特性上、小型であることが非常に重要であることから、これらの一部又は全部がワンチップ化された所謂ワンチップマイコンを用いることが好ましい。
【0030】
送受信回路部141及びアンテナ142は、CPU120による変換動作によって得られた温度や湿度等の計測値を無線送信するとともに、EEPROM131に書き込むべきデータを無線受信するための機能ブロックである。また、送受信回路部141は、入出力端子143を介して有線通信を行うことも可能である。
【0031】
バッテリ150は、無線センサモジュール100の動作に必要な電力を供給するための要素であり、ボタン型の小型電池を用いることが好ましい。本発明においてセンサモジュールにバッテリを内蔵させることは必須ではないが、移動・携帯が可能であるという無線センサモジュールの利点を活かすためには、本実施形態のようにバッテリ150を内蔵させることが好ましい。
【0032】
図2は、無線センサモジュール100の物理的構造の一例を示す略平面図である。
【0033】
図2に示す例では、無線センサモジュール100を構成する各要素が同一の基板上に搭載された構造を有している。具体的には、基板160の一方の面にセンサ素子101a、センサ回路101b、信号処理部(マイコンチップ)190、送受信回路部141及びアンテナ142が搭載され、基板160の他方の表面にボタン型のバッテリ150が搭載されている。このような構造によれば、無線センサモジュール100のサイズを非常に小型化することができることから、商用電源などに接続することなく、移動・携帯して使用することが可能となる。但し、小型であるが故に、十分に低消費電力化を図らなければバッテリ150の寿命が短くなるばかりでなく、信号処理部190の変換誤差やバッテリ150の性能などによって、センサ素子101a及びセンサ回路101bが影響を受けやすいという欠点を有している。後述するように、このような欠点は本実施形態による設定方法を用いることによって大幅に緩和することが可能である。
【0034】
図3は、無線センサモジュール100を設定するために用いる設定装置200の構成を概略的に示すブロック図である。
【0035】
図3に示すように、無線センサモジュール100を設定するために用いる設定装置200は、CPU210と、メモリ220と、送受信回路部230と、アンテナ240と、入出力端子250とを備えて構成されている。これら各要素に必要な電源は、例えば商用電源などから供給すればよい。したがって、図3では電源ラインについては図示を省略してある。設定装置200としては、無線モジュールを備えた通常のパーソナルコンピュータを使用することができる。
【0036】
図4は、無線センサモジュール100の設定環境を模式的に示す図であり、有線を用いた例を示している。
【0037】
図4に示すように、本実施形態では、1つの設定装置200によって複数の無線センサモジュール100に対する設定が行われる。但し、このことは、各無線センサモジュール100に対して、同じ内容の設定が行われることを意味するのではなく、各無線センサモジュール100の特性に応じてそれぞれ個別に設定される。
【0038】
設定の対象となる無線センサモジュール100は、図4に示すように、所定の物理量制御領域300内に載置され、各無線センサモジュール100の入出力端子143と、設定装置200の入出力端子250とが配線によって接続される。物理量制御領域300とは、無線センサモジュール100の計測対象となる物理量を物理量変化装置310を用いて制御可能な領域であり、例えば、無線センサモジュール100の計測対象が温度であれば恒温槽が用いられる。この場合、物理量変化装置310は加熱装置や冷却装置であり、また、無線センサモジュール100の計測対象が照度であれば、光源である。物理量変化装置310は設定装置200によって制御され、これにより、物理量制御領域300内の物理量を所望の値に変化させることが可能とされている。
【0039】
また、無線センサモジュール100の設定は、無線を用いて行うことも可能である。図5は、無線を用いた無線センサモジュール100の設定環境を模式的に示す図である。この場合、各無線センサモジュール100のアンテナ142と、設定装置200のアンテナ240とを用いて無線通信が行われる。
【0040】
次に、本実施形態による無線センサモジュールの設定方法について説明する。
【0041】
図6は、本実施形態による無線センサモジュールの設定方法を説明するためのフローチャートである。
【0042】
図6に示すように、無線センサモジュールの設定においては、まず、設定装置200と各無線センサモジュール100との間で通信を行い、これにより物理量制御領域300内に存在する無線センサモジュール100のIDを収集する(ステップS1)。かかる通信は、設定装置200に備えられた送受信回路部230と、各無線センサモジュール100に備えられた送受信回路部141を用いて行われる。
【0043】
次に、設定装置200は、物理量変化装置310(例えば加熱装置)を制御することによって、物理量制御領域300内の物理量(例えば温度)を所定の値に設定する(ステップS2)。これにより、物理量制御領域300内に載置されている全ての無線センサモジュール100には、実質的に同じ物理量が加わることになる。これにより、各無線センサモジュール100に備えられたセンサ回路101bからは、アナログ量である検出値Sの出力が開始され、これがA/Dコンバータ110によってデジタル形式の検出値Sに変換される。デジタル形式に変換された検出値SはCPU120に供給され、CPU120は、これをそのまま、若しくは、あらかじめ定められた方法で変換して送受信回路部141に供給し、アンテナ142を介して無線送出する。あらかじめ定められた方法で変換する場合には、全ての無線センサモジュール100が同じ方法で変換を行う必要がある。したがって、あらかじめ定められた方法で検出値を変換した場合、得られる値は検出値に一義的に対応する値となる。
【0044】
このような状態において、設定装置200は、送受信回路部230を用いて各無線センサモジュール100との通信を行い、送出されたデータ、つまり検出値又はこれに対応する値を収集する(ステップS3)。収集したデータは、ステップS1にて収集した無線センサモジュール100のIDと関連づけてメモリ220内に格納する。これにより、ステップS2で設定された物理量と、各無線センサモジュール100の出力データ(検出値又は又はこれに対応する値)との関係を個別に把握することが可能となる。この場合、理想的には無線センサモジュール100からの出力データが全て一致するはずであるが、実際には、特性ばらつきによって各無線センサモジュール100からの出力データもまちまちとなってしまう。特性ばらつきは、センサ101自体のばらつきが主であるが、それ以外にも、信号処理部190の変換誤差の大小や、使用するバッテリ150の性能などの影響も受ける。特に、本実施形態のように、信号処理部190やバッテリ150がセンサ101と同一の基板上に搭載されるタイプのセンサモジュールにおいては、後者のばらつき原因を無視することはできない。
【0045】
このようなデータ収集を、物理量制御領域300内の物理量を変えて所定回数繰り返し実行する(ステップS2〜S4)。物理量の変化は、上述のとおり、CPU210による制御の下、物理量変化装置310によって行われる。物理量を変えた繰り返し実行回数については特に限定されないが、各無線センサモジュール100の特性をより正確に把握するためには、より多くの回数を行うことが好ましい。そして、所定の回数実行すると、設定装置200内のメモリ220には、図7に示すデータテーブル221が形成された状態となる。図7に示すように、データテーブル221は、各無線センサモジュール100ごとに物理量(A,B,C・・・・)と出力(A1,A2,A3・・・・,B1,B2,B3・・・・)との関係が複数記録された構造を有している。
【0046】
CPU210は、このデータテーブル221をもとに、検出値から計測値への適切な変換に必要な変換情報Pを、各無線センサモジュール100ごとに生成若しくは選択する(ステップS5)。変換情報Pとは、変換式やこれに用いる係数、若しくは、変換テーブルである。特に限定されるものではないが、変換情報Pとしては変換式に用いる係数とすることが好ましく、これによれば、変換テーブルを用いる場合と比べ、必要とされるEEPROM131の容量を小さくすることが可能となる。変換式としては、最小二乗近似多項式などの近似式が好ましく、これによれば、単純な四則演算の繰り返しによって変換を行うことができることから、CPU120の処理負担が軽減され、バッテリ150の寿命を延ばすことが可能となる。変換情報Pは、CPU210が演算により新たに生成しても構わないし、メモリ220にあらかじめ格納されている複数の変換情報Pの中から、最適なものを選択しても構わない。さらに、変換情報Pとして変換式、特に、最小二乗近似多項式などの近似式を用いる場合には、式全体ではなく、変換式に用いる係数のみを算出しても構わない。つまり、次数など式の基本構造についてはあらかじめ定めておき、データテーブル221を構成するデータに基づいて、その係数を算出しても構わない。
【0047】
図8は、データテーブル221をもとに生成された変換式の係数の一例であり、各無線センサモジュール100ごとに、変換式の計数(1次係数、2次係数、3次係数・・・)が割り当てられている。
【0048】
このようにして、各無線センサモジュール100ごとに、検出値から計測値への適切な変換に必要な変換情報Pが決定されると、次に、この変換情報Pを送受信回路部230を介して送信し、これによって、対応する無線センサモジュール100のEEPROM131に変換情報Pをそれぞれ記憶させる(ステップS6)。したがって、上記変換情報Pが「変換テーブル」である場合には、当該無線センサモジュール100の特性に応じた最適な変換テーブルがEEPROM131に格納されることになり、上記変換情報Pが「変換式」である場合には、当該無線センサモジュール100の特性に応じた最適な変換式の演算に必要なデータ(例えば図8に示す係数)がEEPROM131に格納されることになる。変換式の演算に必要なデータとは、変換式全体が送信される場合には、変換式を構成する全てのパラメータであり、変換式に用いる係数のみが送信される場合には、当該係数である。したがって、後者の場合、EEPROM131に必要とされる記憶容量は非常に少なくて済む。
【0049】
そして、EEPROM131への格納が完了すると、各無線センサモジュール100は送受信回路部141を介してその旨を送信し、これを設定装置200が受信すると、一連の設定動作が完了する(ステップS7)。
【0050】
以上により、各無線センサモジュール100のEEPROM131には、当該無線センサモジュール100の特性に応じた最適な変換情報Pがそれぞれ格納されることになる。つまり、各無線センサモジュール100の特性、すなわち、実際の物理量と検出値Sとの関係は、無線センサモジュール100ごとにある程度のばらつきを有しているが、本実施形態による設定方法を用いれば、当該無線センサモジュール100の特性に応じた最適な変換情報PがEEPROM131に格納されることから、各無線センサモジュール100において適切な変換を行うことが可能となる。
【0051】
その結果、センサ101自体に特性ばらつきが存在する場合のみならず、信号処理部190やバッテリ150から受ける影響がそれぞれ異なっていても、各無線センサモジュール100は正しい物理量を表す計測値Sを外部の利用機器に送信することが可能となる。しかも、特性ばらつきを補正値という形ではなく、変換テーブルや変換式といった変換情報P自体に含ませていることから、変換時の演算が複雑化することもなく、このため計測値の精度が向上し、演算に必要なプログラムも単純化できる。
【0052】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0053】
例えば、上記実施形態においては、利用機器との通信を無線により行う無線センサモジュール100を対象としているが、本発明の対象がこれに限定されるものではなく、利用機器との通信を有線(ケーブル)により行う、有線センサモジュールに対しても適用することが可能である。但し、上述のとおり、無線センサモジュールは小型であることが重要であり、信号処理部やバッテリがセンサと同一の基板上に搭載されることが多い点を考慮すれば、本発明の適用対象としては、無線センサモジュールが最も好適であると言える。
【0054】
また、上記実施形態においては、変換情報の決定を設定装置によって行っているが、これをセンサモジュール自体が行うことも可能である。この場合、例えば、センサ101より得られる検出値と、送受信回路部141を介して得られる物理量に関する情報(実際の温度を示す情報など)に基づき、CPU120による演算によって適切な変換情報を決定し、これをEEPROM131に記録すればよい。
【0055】
また、上記実施形態においては、物理量を変えたデータ収集を複数回繰り返し実行し、これによって適切な変換情報を生成しているが、検出値と計測値との関係が1次元的であるような場合には、所定の物理量に基づく1回のデータ収集のみによって変換情報を決定することも可能である。
【0056】
また、上記実施形態においては、複数の無線センサモジュール100に対して設定を行っているが、本発明がこれに限定されるものではなく、単一のセンサモジュールに対して設定を行っても構わない。
【0057】
また、上記実施形態で用いた無線センサモジュール100は、一つのセンサ101のみを備えているが、図9に示すように、複数のセンサ101〜103を備えるセンサモジュールに対しても、本発明による設定方法を適用することが可能である。この場合、データテーブル221をもとに生成される変換式の係数は、図10に示すように、各センサモジュール100の各センサごとに、変換式の計数(1次係数、2次係数、3次係数・・・)が割り当てられることになる。図10に示すように、変換式の次数は複数のセンサについて同じであっても構わないし(センサ101とセンサ103)、複数のセンサについて異なっていても構わないし(センサ101とセンサ102)。
【0058】
これら複数のセンサ101〜103は、温度センサ、湿度センサ、照度センサ、加速度センサ、傾斜センサ、人感センサ、衝撃センサ、トナーセンサ等の各種センサであり、それぞれセンサ素子101a,102a,103a及びセンサ回路101b,102b,103bによって構成されている。これら複数のセンサ101〜103の計測対象は、互いに異なっていても構わないし、一部又は全部が同じであっても構わない。例えば、3つのセンサ101〜103がそれぞれ温度センサ、湿度センサ及び照度センサであっても構わないし、全てが温度センサであっても構わないし、さらには、センサ101及び102が温度センサであり、センサ103が湿度センサであっても構わない。
【0059】
センサモジュール内に計測対象の異なる複数のセンサが含まれていれば、複数の事象を同時に測定することが可能となるし、センサモジュール内に計測対象が同じである複数のセンサが含まれていれば、一つの事象を異なる側面から測定することが可能となる。例えば、高精度であるが計測可能な範囲が狭い温度センサと、計測可能な範囲は広いが低精度である温度センサの両方を用いれば、広い温度範囲での測定を可能としつつ、所定の温度範囲については特に高精度な温度測定を行うといった使い方が可能となる。また、サーミスタを用いた温度センサと赤外線を用いた温度センサを併用すれば、センサモジュール近傍の温度と、センサモジュールから離れた場所の温度の両方を測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】設定対象となる無線センサモジュール100の構成を概略的に示すブロック図である。
【図2】無線センサモジュール100の物理的構造の一例を示す略平面図である。
【図3】無線センサモジュール100を設定するために用いる設定装置200の構成を概略的に示すブロック図である。
【図4】有線による無線センサモジュール100の設定環境を模式的に示す図である。
【図5】無線による無線センサモジュール100の設定環境を模式的に示す図である。
【図6】本発明の好ましい実施形態による無線センサモジュールの設定方法を説明するためのフローチャートである。
【図7】メモリ220に格納されるデータテーブル221の構造を示す図である。
【図8】データテーブル221をもとに生成される変換式の係数の一例である。
【図9】複数のセンサを備える無線センサモジュールの構成を概略的に示すブロック図である。
【図10】データテーブル221をもとに生成される変換式の係数の他の例である。
【符号の説明】
【0061】
100 無線センサモジュール
101 センサ
101a センサ素子
101b センサ回路
110 A/Dコンバータ
120 CPU
130 メモリ
131 EEPROM
141 送受信回路部
142 アンテナ
143 入出力端子
150 バッテリ
160 基板
190 信号処理部
200 設定装置
210 CPU
220 メモリ
221 データテーブル
230 送受信回路部
240 アンテナ
250 入出力端子
300 物理量制御領域
310 物理量変化装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つのセンサと、前記センサの検出値を計測値に変換する信号処理部とが一体化されたセンサモジュールの設定方法であって、
前記センサモジュールに与える物理量を所定の値に設定する第1のステップと、
前記第1のステップにて得られた前記センサの検出値又はこれに対応する値に基づいて、前記検出値から前記計測値への適切な変換に必要な変換情報を決定する第2のステップと、
前記第2のステップにて決定された前記変換情報を前記信号処理部内のメモリに記憶させる第3のステップとを備えることを特徴とするセンサモジュールの設定方法。
【請求項2】
前記第1のステップを、前記物理量を変化させて複数回行うことを特徴とする請求項1に記載のセンサモジュールの設定方法。
【請求項3】
前記第1のステップを、複数の前記センサモジュールに対して同時に行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のセンサモジュールの設定方法。
【請求項4】
前記第2のステップを、前記センサモジュールとは異なる設定装置が実行することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のセンサモジュールの設定方法。
【請求項5】
前記第2のステップを、前記信号処理部が実行することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のセンサモジュールの設定方法。
【請求項6】
前記変換情報は、前記検出値を前記計測値に変換するための変換式であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のセンサモジュールの設定方法。
【請求項7】
前記変換情報は、前記検出値を前記計測値に変換するための変換式に用いる係数であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のセンサモジュールの設定方法。
【請求項8】
前記変換式は、近似式であることを特徴とする請求項6又は7に記載のセンサモジュールの設定方法。
【請求項9】
前記センサモジュールは、通信を行うための送受信回路部及び動作電源を供給するバッテリをさらに備え、前記センサ、前記信号処理部、前記送受信回路部及び前記バッテリが同一基板上に搭載されていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載のセンサモジュールの設定方法。
【請求項10】
前記第2のステップにて決定された前記変換情報を、前記送受信回路部を介して前記センサモジュール内に送信することを特徴とする請求項9に記載のセンサモジュールの設定方法。
【請求項11】
前記センサには、温度センサ、湿度センサ、照度センサ、加速度センサ、傾斜センサ、人感センサ、衝撃センサ及びトナーセンサからなる群より選ばれた少なくとも1種のセンサが含まれていることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載のセンサモジュールの設定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−275761(P2006−275761A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−95246(P2005−95246)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】