説明

センサ付き転がり軸受装置

【課題】センサを十分な強度で固定することが可能で、かつその着脱が容易となるセンサ付き転がり軸受装置を提供する。
【解決手段】センサ10とセンサ保持体12、11との双方の固定部10b、13、12aには、それぞれ貫通孔が形成されており、それら双方の貫通孔には、双方を貫通するようピン14が挿通される。センサ10に形成された固定部10b、13には、他方の固定部12aの貫通孔12a1を通る形で径方向X内方側に延びる複数の脚部が設けられており、これらがピン14の挿通に伴いその先端側が外向きに広がる。広がった脚部は、他方の固定部12aを径方向X内方側の端面を径方向X外方側に押圧する。これにより、他方の固定部12aは、径方向Xの内外で挟まれる形で固定され、センサ10がセンサ保持体12、11に固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ付き転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特開平9−304417号公報
【0003】
各種装置における回転運動の計測において、軸受装置に計測機構を装備する場合がある。例えば、車両アクスル駆動輪に対してABS(Antilock Brake System)機構を構成するときに、回転速度を検出するABSセンサは軸受装置に固定する場合が多い。その場合、通常は軸受非回転輪の外周面に嵌合したカバー部材にABSセンサを固定し、回転輪に嵌合したマグネットロータの回転による磁束密度の変化により、ABSセンサが回転速度を検出する。
【0004】
ABSセンサの取り付け方法に関しては、各種提案がなされてきている。例えば特許文献1には、ABSセンサの着脱を容易にするとの観点からの取り付け方法が開示されている。特許文献1の取り付け方法では、センサを保持ケース内に保持して、その保持ケースを弾性を利用した抑え部材によって軸受固定輪に嵌合されるカバーに装着している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、軸受装置にセンサを固定する方式として、上記特許文献1のようなセンサを取り外し易い方式を採用すると、センサの点検や修理の際の取り外しが容易となる利点を得られる一方で、センサの固定が不十分なものとなる傾向もあり、その結果、使用しているうちにセンサの位置や姿勢がずれてくる可能性がある。センサが正規の位置や姿勢にないことは、センサによる回転速度検出性能の低減につながり、その計測値に対する信頼性が低減する。
【0006】
本発明の課題は、軸受装置にセンサを固定する際に、センサを十分な強度で固定することが可能で、かつその着脱が容易となるような新たな固定方式を採用したセンサ付き転がり軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の転がり軸受装置は、
回転輪の周方向に沿って磁界が交互に変化するように取り付けられた磁性体と、その磁性体の磁界を検出することによって回転輪の回転変化を検出するように非回転輪側に固定されるセンサと、を有するセンサ付き転がり軸受装置であって、
非回転輪側に固定されるセンサ保持体を備えるとともに、該センサ保持体は、センサを固定するための貫通孔が形成された固定部を有し、他方、センサは、センサ保持体に固定するための貫通孔が形成された固定部を有し、
センサ保持体とセンサとの双方の固定部は、互いの貫通孔が連通するよう接触して配置され、かつそれら双方の固定部を固定させるためにそれら双方の貫通孔を貫通するようピンが挿通されており、
センサ保持体とセンサとの双方の固定部のうち、ピンの挿通方向逆側に配置されるものを第一固定部、ピンの挿通方向側に配置されるものを第二固定部とし、さらに、第一固定部の貫通孔を第一孔、第二固定部の貫通孔を第二孔とした場合に、第一固定部には、挿通方向側において、第一孔を形成する周壁部から挿通方向に延出する脚部が、該周壁部の周方向にて複数のスリットを挟む形で複数設けられ、それら脚部を第二固定部の第二孔に挿通させており、
さらに、第一固定部のそれら脚部は、ピンが第一孔及び第二孔に挿通されるに伴い、それらの先端側が挿通軸線から外向きに離間して放射状に広がる弾性変形を生じ、放射状に広がったそれら各脚部の、挿通軸線側とは逆側を臨む外側端面の一部が、第二固定部の挿通方向側における第二孔の周縁部を挿通方向逆側に押圧するように形成されており、当該押圧状態となるようピンが挿通されたことによって、第二固定部が、第一固定部における挿通方向側の端面と脚部の外側端面との間に挟み込まれる形となって当該第一固定部に対し固定されていることを特徴とする。
【0008】
上記本発明によると、センサ保持体とセンサとの双方の固定部を重ねて配置し、それら双方に設けられた双方の貫通孔にピンを挿通させることにより、それら双方が固定されるように構成されている。ピンを挿入するだけで両者を容易に固定することができるし、逆にセンサを外す場合には、このピンを抜くだけで容易に外すことができる。具体的には、センサ保持体とセンサのうちの一方をなす第一部材と、他方をなす第二部材との双方に貫通孔を設け、さらに第一部材には、貫通孔の周辺部から、第二部材の貫通孔を通って延出する複数の脚部を形成している。そして、これら脚部がピンの挿通に伴いその先端側が放射状に広がって第二部材の裏面に回り込むことにより、第一部材に第二部材が固定される構造となっている。つまり、第一部材が第二部材を挟み込む形の固定構造となっており、双方の位置ずれが生じ難い形での固定が可能となっている。また、第一部材の脚部は、第二部材の裏面側で放射状に広がるので、第二部材の裏面に対し、挿通されたピンを取り囲む形で接触するので、偏りの無い安定した固定状態を得ることができる。
【0009】
本発明において、第一孔を形成する周壁部には、挿通方向に延出する複数の溝部が形成され、当該周壁部が、隣接する該溝部間の突条部として形成することができる。この場合、ピンは、突条部の突出中心側に形成される第一孔に圧入される形で挿通するように構成できる。この構成によると、センサ保持体とセンサの固定のために挿通されるピンを、圧入により強固に位置固定することができ、ピンのずれによりセンサ保持体とセンサの固定状態が緩む心配がなくなる。また、突条部間にピンを圧入した際に、溝部が当該突条部の変形を許容する逃げ代として機能するので、ピンの圧入も容易となる。
【0010】
また、この場合、第一固定部の脚部は、突条部から挿通方向に続く形で形成することができ、さらに、脚部間のスリットも、溝部の溝内空間から続く空隙として形成することができる。これにより、形状がシンプルとなるので製造が容易となる。特に、型を用いて第一孔及び脚部を成形する場合には、型抜きが容易な形状となる。
【0011】
なお、ピンは、貫通孔に挿通される軸部と、該軸部の一方の端部に設けられ、該軸部よりも径大の頭部とを有して形成することができる。そして、センサ保持体とセンサとの双方の貫通孔に挿通する際には、頭部の挿入方向側の端面が、第一固定部の挿入方向逆側の端面に当接するまで押し込まれるように構成できる。これにより、ピンに頭部があることで、挿通の際の位置決めが可能となり、ピンの押し込みすぎを防止することができる。さらには、第一固定部の挿入方向逆側の端面に当接するまで押し込まれた頭部の挿入方向側の端面が、第一孔をなす挿入方向逆側の開口を塞ぐように構成できる。ピンの頭部が第一孔をなす開口を塞ぐことができるほど広く形成されていれば、挿入されたピンは第一部材に対し安定して位置保持される。
【0012】
ところで、本発明においては、脚部の基部から先端までの間に位置する中間部に、ピンを第一孔及び第二孔に挿通する際にその挿通方向において当該ピンの挿通方向先端面と当接するよう挿通軸線側に膨出形成された内側膨出部を有して構成できる。この構成によると、ピンが挿入されると各脚部の内側膨出部に当接するが、さらに強く押し込むことで、脚部を外向きに弾性変形させることができるので、ピンの押し込みのみでセンサ保持体とセンサとを固定することが可能となる。
【0013】
また、この場合、ピンの挿通方向先端面及び当該挿通方向先端面に当接する内側膨出部のピン当接面のうちいずれか又は双方に、ピンを第一孔及び第二孔に挿通する際に当該ピンがその挿通方向に内側膨出部を押し込むに伴い、内側膨出部に対し挿通軸線から離間させる径方向外向きの分力を作用させる面形状を形成しておくことができる。具体的に言えば、ピンの挿通方向先端面のうち、少なくとも内側膨出部と当接する面領域を、挿入方向に向けて縮径する斜面とすることができるし、内側膨出部のピン当接面を、挿入方向に向けて縮径する斜面とすることもできるし、一方だけでなく双方に斜面を設けてもよい。例えば、ピンの先端面を半球面とすることができる。このように面形状がシンプルであるほど、各部材の製造が容易となる利点が得られる。
【0014】
ところで、本発明においては、脚部には、ピンの第一孔及び第二孔への挿入に伴い挿通軸線から離間して外向きに広がる離間部に、挿入された当該ピンに向けて突出する係合爪部を形成する一方で、ピンの外周面には、当該挿入に伴い係合爪部と係合する係合溝部を形成することができる。これにより、脚部の係合爪部がピンの係合溝部に係合することによって、当該ピンの挿入方向逆向きへの抜けを防止することができる。なお、係合溝部は、ピンが第一孔及び第二孔に挿入された場合に、当該ピンの第一孔に取り囲まれる領域には非形成とすればよい。不要な溝部の形成を省略してピン形状をシンプルなものとでき、その製造を容易化できるとともに、ピンが第一孔に対し圧入される構成においては、その圧入されたピンとの接触面積が増すので、ピンを強固に圧入保持できる。
【0015】
また、この場合の係合溝部は、挿通方向に向かうに従い縮径する縮径面と、当該縮径面の最小径位置から挿通方向に向かうに従い拡径する拡径面とにより形成することができる。これにより、ピンを挿入する際に、係合爪部を有する脚部に対し外側に広がる弾性変形を促し易い形状となるので、ピン挿入が容易となる。
【0016】
また、係合爪部は、上記の内側膨出部がピン側に膨出する形状であることを利用して、該内側膨出部に形成することができる。これにより、内側膨出部とは別に係合爪部を形成した場合に比べ、脚部形状がシンプルとなり、製造が容易となる。
【0017】
この場合、係合爪部が形成される内側膨出部は、挿通軸線側においてピンの先端面と当接するピン当接面と、当該ピン当接面の挿通軸線側の端縁に角部を形成する形で、当該ピン当接面から挿通方向に続く脚部先端側内端面と、を有した段差部として形成することができ、角部を係合爪部とすることができる。この構成によれば、内側膨出部は、脚部の基部に向かう側の内側端面(挿通軸線側の端面)と、脚部の先端に向かう側の内側端面(挿通軸線側の端面)との間に段差部が形成され、その角部をそのまま係合爪部として利用することができる。
【0018】
なお、この場合は、ピンの挿通方向先端面を、ピンを挿通する際に当該ピンがその挿通方向に内側膨出部を押し込むに伴い、内側膨出部に対し挿通軸線から離間させる径方向外向きの分力を作用させる面形状として形成することで、ピンの挿入が容易となる。
【0019】
ところで、第一固定部は、第一孔及び脚部を有するスリーブ部と、当該スリーブ部を嵌め込む形で固定する嵌合孔を有するスリーブ固定部と、を一体化して形成されたものとすることができる。この場合、第一固定部の形状として様々なものがあったとしても、スリーブ部の形状を規格統一して定めておけば、第一固定部には、そのスリーブ部を嵌め込むことができるスリーブ固定部さえ形成しておけばよい。これにより、第一固定部の形状種別に応じて、様々な形状のスリーブ部を形成する必要が無くなる。
【0020】
また、スリーブ部は、スリーブ固定部よりも引張強度の高い材料によって形成することもできる。これにより、弾性変形を前提に使用される脚部を有するスリーブ部のみを、弾性変形に適する耐性の高い材料として形成できる。
【0021】
また、第一固定部は、スリーブ部と、当該スリーブ部とは異なる材料のスリーブ固定部とからなる二色成形品とすることができる。材料の異なるスリーブ部とスリーブ固定部とを同時に成形することができ、製造効率の観点で利点が得られる。
【0022】
また、スリーブ部は、金属材料として形成することもでき、脚部を金属板材として形成してもよい。これにより、脚部の形成が容易となる。
【0023】
また、第一固定部は、センサに設けられる固定部とすることができ、この場合、センサの主材料と同一の材料により一体に形成することができる。一般的には、センサは、検出体を樹脂によりモールドする形で形成されるので、第一固定部も、この樹脂モールド部と一体の樹脂射出成形体として形成するようにすることで、製造効率を増すことができる。
【0024】
ところで、本発明のセンサ付き転がり軸受装置は、車体側に非回転に取り付けられる外輪と、外輪に対し同心配置されるとともに車輪側に取り付けられる内輪と、該内輪と外輪との間にて周方向に配列する複数の転動体と、内輪に固定され、周方向で磁気特性が交互に変化する磁性体(磁気エンコーダー部)と、該磁性体の回転による磁気変化を検出するように、磁性体と対向配置されるABSセンサと、を備えるセンサ付き転がり軸受装置とすることができる。この場合、上述の非回転輪が上記の外輪、上述の回転輪が上記の内輪、上述のセンサが上記のABSセンサとなり、ABSセンサは、上述のセンサ保持体に固定される構成となる。
【0025】
このような構成においては、車両走行中に路面から巻き上げられた異物などが磁性体(磁気エンコーダー部)を表面に付着して回転速度の検出性能が劣化してしまうという課題がある。さらには、転動体配置空隙への異物の侵入も軸受の回転性能の劣化を招くため、防止しなければならない。このため、エンコーダーや転動体配置空隙を外部空間から何らかの方法によって遮断し、保護することにより、エンコーダーに異物が付着することを防止する必要がある。
【0026】
この課題を解決するための構成として、センサ保持体の環状のカバー部を、外輪の車両インナー側に、エンコーダーの車両インナー側を被う形で設ける構成を採用することができる。さらにいえば、センサ保持体の環状のカバー部を、外輪の内周面ないし外周面に圧入嵌合することにより、嵌合界面がシールされる構成となるようにする。これにより、エンコーダーや転動体配置空隙の車両インナー側と径方向外側を保護する構造となる。ところが、非回転輪をなす外輪に対し取り付けられるセンサ保持体は、回転輪をなす内輪に対し密着固定させることはできないため、環状のカバー部材も径方向内側におけるシール性の確保が重要になる。
【0027】
このため、センサ保持体の環状のカバー部を径方向内側に延出させ、延出した径方向内側先端部に、内輪の車両インナー側端面、あるいは当該内輪の内側に一体回転可能に固定される軸部材の、内輪よりも車両インナー側の外周面に対し摺接する環状のシール部を、直接又は別部材を介する形で固定する構成とすることができる。これにより、カバー部とシール部とによって、外輪と内輪の間に形成される転動体配置空隙の車両インナー側をシールすることができる。これにより、カバー部とシール部材とによって、エンコーダーや転動体配置空隙の車両インナー側をシールすることができる。なお、当該シール部を第一のシール部とし、第二のシール部として、内輪と外輪との間の転動体配置空隙の車両インナー側にてシールするシール部を設けた構成であってもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態につき図面に示す実施例を参照して説明する。図1は、本発明に係るセンサ付き転がり軸受装置の取付状態の断面図、図2は、同装置の回転検出装置の部分拡大図である。図1において、センサ付き転がり軸受装置1は、固定輪としての外輪2aと、回転輪としての内輪2bと、該内輪2bと外輪2aとの間に介在される複数列で配列される転動体2cから構成される転がり軸受2を備えている。
【0029】
転がり軸受2は、車両における懸架装置の車両インナー側のナックル、アクスルハウジングなどの車両固定部材3の取付口3aに接続される。この接続は転がり軸受2の外輪2aを取付口3a内に挿入して嵌装するとともに、外輪2aから外方へ突設されるフランジ部2dをボルト・ナットなどのファスナー2eを介して車両固定部材3の取付口3aの周辺面(車両アウター側)に固定させている。
【0030】
転がり軸受2の内輪2bはハブ4と接続されている。ハブ4は車両アウター側に車輪(図示せず)を装着するためのハブボルト4aを有している。ハブ4の車両インナー側には、転がり軸受2の内輪2bに圧入されて嵌装される圧入軸部4bを有しており、該圧入軸部4bを内輪2bに圧入してハブ4を内輪2bとともに回転可能に設けている。ハブ4は、ドライブシャフト5に対しスプライン結合され、ドライブシャフト5の一端側をハブ4の圧入軸部4bに形成される挿通孔4cに通し、この端部にナット6を螺合することにより固定されている。
【0031】
転がり軸受2の車両インナー側端部には、車輪の回転変化を検出する回転検出装置7が取付られている。回転検出装置7は、図2、3に示すように、転がり軸受2の内輪2bと外輪2aとの間を外部から密封するための密封装置部8と、磁気エンコーダー部(磁性体)9と、該磁気エンコーダー部9の回転による磁気変化を検出するABSセンサ10と、該ABSセンサ10を取り付けるためのカバー部11と、を備えた複合構造となしている。
【0032】
回転検出装置7の密封装置部8は、図2、3に示すように、転がり軸受2の内輪2bと外輪2aとの間の転動体配置空隙C2の車両インナー側を外部から密封するために、内輪2bの外周に嵌装される環状のインナーケース8bと、外輪2aの内周に嵌装される環状のアウターケース8aとを有してなり、該アウターケース8aに加硫接着され、インナーケース8bに摺動自在に接触するゴム状弾性体からなるシール部材8cを備え、インナーケース8bとアウターケース8aとを、外輪2aと内輪2bとに振り分けて嵌装される。
【0033】
インナーケース8bは、内輪2bの軸方向Z内方側に延設されて、内輪2bの外周に圧入させて嵌装される筒部8b1と、これの端部から径方向X外方側に延設される壁部8b2と、を板金材によって屈曲形成させている。
【0034】
アウターケース8aは、外輪2aの軸方向Z内方側(車両アウター側)に延設されて、内周に圧入させて嵌装される筒部8a1と、これの端部から折り曲がって径方向X内方側に延設される壁部8a2とから成る断面が略L字状の板金材で形成される。
【0035】
また、アウターケース8aに加硫接着され、一体化されたシール部材8cは、ゴム状弾性体の一部を、軸方向Z外方や、その軸方向Zと交差する方向の内方に突出させたリップ部8c1を備えている。該リップ部8c1は、先端がインナーケース8bの壁部8b2の車両アウター側壁面に摺接するアキシャルリップ8c2と、先端がインナーケース8bの筒部8b1の外周面に摺接するラジアルリップ8c3,8c4を有し、インナーケース8bとリップ部8c1は、協働して接触方式のシール機能を発揮させている。
【0036】
磁気エンコーダー部9は、図3に示すように、円盤状に形成され、異なる極性の磁極(N極,S極)が周方向Yに交互並んで形成される。そして、磁気エンコーダー部9は、インナーケース8bの一部としての内輪2bの径方向X外方側に固定されている。ここでは、インナーケース8bの壁部8b2の車両インナー側壁面に固定されている。
【0037】
この磁気エンコーダー部9の回転による磁気変化を検出するABSセンサ10を取り付けるためのカバー部11は、図2、5に示すように、外輪2aの車両インナー側から外周に圧入されて嵌装される円筒部11aと、該円筒部11aの端部から折り曲がって径方向X内方側に延出される環状立壁部11bと、該環状立壁部11bから折り曲がって軸方向Z外方側(車両インナー側)に延出される連続筒部11cと、該連続筒部11cから折り曲がって径方向X内方側に延出される連続壁部11dと、を板金材よって屈曲形成させている。この環状立壁部11bは、外輪2aの車両インナー側端面2a1に突き当てられる当接面11b1をなしており、外輪2aへの装着時に、軸方向Zに対して位置決めされる部位として機能する。
【0038】
また、カバー部11の連続壁部11dと転がり軸受2の端部との間には、隙間C1が形成されているので、万一異物が混入しても推積が抑制され、長期使用の信頼性が向上する。また、カバー部11には、センサ付き転がり軸受装置1を車両に組み付けた際に、下方に位置する個所に隙間C1内に浸入した異物を排出させるためのドレーン孔11fが形成されている。なお、径方向Xにおいて、ドレーン孔11fの外方側の開口端縁位置は、車両インナー側における内輪2bの内周面の端縁位置よりも外側に位置しており、ドレーン孔11fから排出される泥水等の異物の抜けが良くなっている。
【0039】
また、図5に示すように、カバー部11におけるドレーン孔11fと径方向X上で対向する上方には、連続筒部11cと連続壁部11dとにわたってABSセンサ10を装着するために、切欠形成されるセンサ用取付孔11eが設けられている。また、センサ用取付孔11eにおける周方向Yの両側には、レール部11e1が対向側へ突出形成されている。このレール部11e1はABSセンサ10と嵌合される部位である。
【0040】
ABSセンサ10は、図6に示すように、磁気エンコーダー部9の回転による磁気変化を検出する検出体(図示せず)を、樹脂モールドによってパケージングして、その断面形状を矩形状となした簡素な柱状のセンサ本体10aを有している。このセンサ本体10aには、ABSセンサ10を取り付ける際に、カバー部11におけるセンサ用取付孔11eのレール部11e1と嵌合させるためのレール溝部10a1が形成されている。このレール溝部10a1は、センサ本体10aの途中から先端側にわたって形成されている。なお、ABSセンサ10から車両に搭載されたECUへ接続する信号ケーブルは、径方向Xへ引き出される形態となしている。
【0041】
このABSセンサ10は、ブラケット12を介してカバー部11に固定される。このブラケット12は、図8に示すように、矩形板状の座受け板(固定部)12aの両側から左右一対のステー12bが連続して曲げられるように、板金材で形成される。このステー12bには、カバー部11に固定するための孔部12b1が形成される。一方、カバー部11の連続壁部11dにおけるセンサ用取付孔11eの周方向Yにおける両外側にも孔部11d1が形成されている(図5参照)。そして、ブラケット12の孔部12b1とカバー部11の孔部11d1とがボルト・ナットやリベットなどのファスナー12cによって締結されることにより、ブラケット12がカバー部11に固定される(図4参照)。なお、ブラケット12とカバー部11の固定は、溶接などによっても固定することができる。これらカバー部11にブラケット12が固定された構造体が、センサを固定するためのセンサ保持体17として機能する。
【0042】
ABSセンサ10のセンサ保持体17への取り付けは、ブラケット12のステー12bとの間に、ABSセンサ10のセンサ本体10aを挿入して、レール溝部10a1とレール部11e1とが嵌合するようにブラケット12と一体化させる形でなされる。径方向Xに形成されたレール部11e1とレール溝部10a1とが嵌合すると、ABSセンサ10の位置決めがなされるので、これにより、ABSセンサ10の軸方向Zの移動が規制される。
【0043】
一方で、ABSセンサ10のセンサ保持体17への固定は、ABSセンサ10の固定部16と、座受け板(固定部)12aとの双方に設けられた貫通孔13a4,12a1に対し、ピン14を挿通する形でなされる。
【0044】
ABSセンサ10のセンサ本体10aには、ブラケット12の座受け板12aと連結するための突起部10bが一体成形されており、座受け板12aと対向配置される。この突起部10bには、径方向Xに貫通する貫通孔10b1が形成されている(図6参照)。この貫通孔10b1は、内部にスリーブ(スリーブ部)13を嵌め込む形で固定させるための嵌合孔である。そして、この貫通孔10b1に固定されるスリーブ13にも、径方向Xに貫通する貫通孔13a4が形成されている(図6参照)。この貫通孔13a4は、ABSセンサ10の突起部10bと、ブラケット12に固定されるスリーブ13とを固定するために、ピン14を挿通するための孔である。本実施形態においては、これら貫通孔13a4,12a1,10b1は、それぞれ円筒形状ないしは略円筒形状をなし、かつそれらが同心的な位置関係を有する形で配置される。なお、上記固定部16は、突起部10bにスリーブ13が固定された構造部分のことである。
【0045】
また、座受け板12aにも貫通孔12a1が形成されている(図8参照)。ABSセンサ10の突起部10bに一体固定されたスリーブ13と、座受け板12aとは、図9に示すように、互いの貫通孔13a4,12a1が連通するよう互いに同心をなして重ねられ、双方が面接触する形で配置されている。そして、重なった突起部10bと座受け板12aとを連結するために、それら双方の貫通孔13a4,12a1には、ピン14が貫通する形で配置されている。本実施形態においては、突起部10b及びスリーブ13が径方向X外方側、座受け板12aが径方向X内方側に位置する形で重ねられ、ピン14は、径方向X外方側に位置する貫通孔に対し径方向X内方側に向けて挿通されるようになっているので、ピン14の挿通が容易となっている。
【0046】
また、スリーブ13は、図6、7に示すように、貫通孔13a4を形成する周壁部13a5を有したスリーブ本体13aと、ピン14の挿通方向P側において当該貫通孔13a4を形成する周壁部13a5から該挿通方向Pに延出する複数の脚部13b(ここでは4本)とを有して形成されている。これら脚部13bは、当該周壁部13a5の周方向において、複数のスリット13dを挟む形で交互に形成されており、先端側が自由端をなす弾性変形片とされている。そして、これら脚部13bは、座受け板12aの貫通孔12a1に挿通されており、該貫通孔12a1からさらに挿通方向P側に延出している。
【0047】
そして、これら脚部13bは、図9に示すように、ピン14を貫通孔13a4,12a1に挿通して押し込んでいくと、先端側が該ピン14の挿通軸線Qから外向きに離間して放射状に広がる弾性変形を生じる。放射状に広がったそれら各脚部13bの、挿通軸線Q側とは逆側を臨む外側端面13b3の一部は、座受け板12aの挿通方向P側における貫通孔12a1の周縁部12a2を挿通方向Pとは逆側に向けて押圧する。このような押圧状態となるようにピン14を挿通し、押し込んでいくことによって、座受け板12aが、スリーブ本体13aの挿通方向P側の端面13a2と、脚部13bの外側端面13b3との間に挟み込まれる形となり、スリーブ13と座受け板12aとが固定される。これにより、ABSセンサ10の突起部10bと座受け板12aとが固定される。
【0048】
なお、ピン14は、貫通孔13a4,12a1に挿通される軸部14bと、該軸部14bの挿通方向Pの逆側端部に設けられ、該軸部14bよりも径大の頭部14aとを有する。そして、貫通孔13a4,12a1に挿通する際には、頭部14aの挿入方向P側の端面14a1が、スリーブ13の挿入方向逆側の端面13a1に当接するまで押し込まれるように構成されている。これにより、ピン14の挿通の際のピン14の位置決めが可能となり、ピン14の押し込み過ぎを防止することができる。
【0049】
このピン14の貫通孔13a4,12a1への挿通によってABSセンサ10の固定部16と座受け板(固定部)12aとの双方が固定されることにより、カバー部11にブラケット12を介してABSセンサ10が固定される(図4参照)。つまり、ABSセンサ10がセンサ保持体17に固定された状態となる。これにより、ピン14によって、ABSセンサ10の径方向Xおよび周方向Yの移動が規制される。上記したABSセンサ10の軸方向Zの移動規制と相まって、ABSセンサ10の位置、姿勢がさらに安定化される。よって、ABSセンサ10の位置、姿勢がずれて計測値に誤差を生じることが抑制されて、ABSセンサ10の計測値に対する信頼性が高くなる。
【0050】
ここで、本実施形態におけるABSセンサ10の固定部16及び座受け板12aについて、さらに詳細に説明する。
【0051】
本実施形態におけるスリーブ本体13aの外周面13a3(即ち、突起部10bの貫通孔(嵌合孔)10b1)は、座受け板12aの貫通孔12a1よりも大径をなして形成されている。スリーブ13は、小径の貫通孔12a1を有する座受け板12aの当該貫通孔12a1の周辺部上に、スリーブ本体13aを載置させる形で配置・固定されており、ピン14の挿通方向Pにおける位置決めがなされている。つまり、スリーブ本体13aの挿通方向P側の端面13a2が、座受け板12aの貫通孔12a1の周辺部の挿通方向Pとは逆側の端面12a3に当接する形で位置決めされている。
【0052】
また、本実施形態において、ABSセンサ10は、センサ本体10の主部(樹脂モールド部)及び突起部10bが同一の樹脂材料からなる一体の樹脂射出成形体であり、他方、スリーブ13は、その樹脂材料よりも引張強度の高い樹脂または金属材料からなる。本実施形態においては、それら二つの樹脂材料による二色成形品として成形されている。具体的には、センサ本体10の主部及び突起部10bの樹脂材料は、熱可塑性樹脂(例えばナイロン系)であり、スリーブ13の樹脂材料は、突起部10bと同様の熱可塑性樹脂であるが、引張強度のより高い樹脂材料であってもよく、例えば、PET、エンジニアリングプラスティック、フェノール樹脂等でもよい。また、ピンは、例えば、PET、エンジニアリングプラスティック、フェノール樹脂等により形成することができる。
【0053】
また、本実施形態におけるスリーブ13の脚部13bは、少なくとも座受け板12aの貫通孔12a1に取り囲まれる領域において、各外側端面13b3が、当該座受け板12aの貫通孔12a1の内周面に接触するような寸法で形成されている。これにより、脚部13bは、ピン14が挿通されて上記のような弾性変形を生じると直ちに、座受け板12aを挿通方向Pとは逆側に向けて押圧するようになり、以降一定以上押し込まれるまで徐々に押圧力が増していく構成となっている。
【0054】
また、本実施形態における各脚部13bには、その基部から先端までの間の中間部に、挿通軸線Q側に向けて内向きに膨出形成された内側膨出部13cが形成されており、ピン14が貫通孔13a4,12a1に挿通して押し込まれていく際に、これら内側膨出部13cが、その挿通方向Pにおいて当該ピン14の挿通方向Pの先端面14d1と当接するように形成されている。これにより、ピン14が挿入されると、当該ピン14がその挿通方向Pにおいてそれら内側膨出部13cに当接するが、当該ピン14をさらに強く押し込むことで、それら内側膨出部13cは外向きに押し出され、結果として、脚部13bの先端側が外向きに移動する弾性変形を生じて、上記のようなABSセンサ10とカバー部11との固定が可能となる。
【0055】
また、ここでの内側膨出部13cは、挿通軸線Q側においてピン14の先端面14dと当接するピン当接面14d1と、当該ピン当接面14d1の挿通軸線Q側の内端縁13c5に角部を形成する形で、当該ピン当接面14d1から挿通方向Pに続く内周面(脚部先端側内端面)13c4と、を有した段差を設けるようにして形成されている。そして、この内側膨出部13cがピン14側に膨出する形状であることを利用して、この内側膨出部13cに係合爪部13c5を形成している。この係合爪部13c5は、貫通孔13a4,12a1に挿通されるピン14の外周面14b1に形成される係合溝部14cに対し係合するようになっており、当該ピン14が挿通方向Pとは逆に抜けることを防止する機能を果たしている。なお、脚部13bの内側膨出部13cよりも基部側(スリーブ本体13a側)の内側端面13b4は、貫通孔13a4から続く面として形成されている。
【0056】
一方、ここでの係合溝部14cは、挿通方向Pに向かうに従い縮径する環状の縮径面14c1と、当該縮径面14c1の最小径位置から拡径する環状の拡径面14c2とを有した形状をなしている。さらに、拡径面14c2の挿通軸線Qに対する勾配が、縮径面14c1の挿通軸線Qに対する勾配よりも急勾配になっている(図9:α<β)。特に本実施形態においては、拡径面14c2がピン14の挿通軸線Qに対し垂直をなす平面となっている。これにより、ピン14を挿入する際に、当該ピン14の挿入が容易で、かつ係合爪部13c5を接触させてくる脚部13bに対し外側に広がる弾性変形を促し易い溝形状となっている。逆に、ピン14を抜く際には、各脚部13bをより広げてやれば、力任せに抜き取るよりも容易に抜き取ることができる。
【0057】
なお、本実施形態における係合溝部14cは、ピン14の貫通孔13a4,12a1に挿入された場合に、当該ピン14のスリーブ本体13a(貫通孔13a4)に取り囲まれる領域には非形成となっている。
【0058】
また、本実施形態において、ピン14の挿通方向Pの先端面14d及び内側膨出部13cのピン当接面13c1のうちいずれか又は双方には、ピン14を貫通孔13a4,12a1に挿通して押し込んでいく際に、当該ピン14がその挿通方向Pに内側膨出部13cを押し込むに伴い、内側膨出部13cに対し挿通軸線Qから離間させる径方向外向きの分力を作用させる面形状が形成されている。例えば、ピン14の先端面14d1のうち、少なくとも内側膨出部13cと当接する面領域を、挿入方向に向けて縮径する斜面とすることができるし、内側膨出部13cのピン当接面13c1を、挿入方向Pに向けて縮径する斜面とすることもできるし、それらのうちの一方だけでなく双方にそうした斜面を設けてもよい。本実施形態においては、ピン14の先端面14d1が半球面として形成されており、少なくとも内側膨出部13cと当接する面領域に、湾曲する斜面が形成されている。
【0059】
また、ピン14は、スリーブ本体13aの貫通孔13a4に対し圧入の形で挿通されている。本実施形態におけるスリーブ13には、貫通孔13a4を形成する周壁部13a5に、挿通方向Pに延出する複数の溝部13a6が形成されており、当該周壁部13a5には、隣接する該溝部13a6間に突条部を有している。そして、ピン14は、それら突条部13a5の中心に圧入される形で挿通される。これにより、挿通されるピン14が、圧入によって強固に位置固定されている。なお、本実施形態においては、図7に示すように、これら脚部13bが、スリーブ本体13aの突条部13a5から挿通方向Pに続く形で形成されており、さらに、これら脚部13b間のスリットも、スリーブ本体13aの溝部13a6の溝内空間から続く空隙として形成されている。つまり、スリーブ13は、断面が円環状ので径方向厚さが一定の筒状構造体に対し、内周壁部に軸線方向の溝(溝部13a6)を形成する一方で、脚部を形成する軸線方向端部の外周部分を切り欠き、その部分の溝を外周側にも開放させてスリット13dを形成した形状をなしている。
【0060】
ところで、カバー部11の円筒部11aが圧入されて嵌装される外輪2aの外周面2a2の一部には、図2に示すように、該外周面2a2の外径より小径に形成され、かつ円筒部11aの先端部11a1を外輪2aの外周面2a2より突出させないように縮径段差面2a3が形成される。この縮径段差面2a3に円筒部11aが圧入嵌装されても、車両固定部材3の取付口3aに転がり軸受2を装着する際の基準面(外周面2a2)が維持される。これによって外輪2aの外周面2a2を、車両固定部材3の取付口3aに接続する際の基準面として利用できるため、車両固定部材3の取付口3aへの取付精度が良好となる。
【0061】
また、図2に示すように、外輪2aの縮径段差面2a3(外周面2a2)に圧入嵌装される円筒部11aには、外輪2aの縮径段差面2a3を押圧保持するバネ部11a2が、周方向に対して所定間隔をもって複数設けられている。このバネ部11a2は外輪2aの外周面2a2から突出させないように形成されている。このバネ部11a2によってカバー部11の抜け止めが図られている。
【0062】
なお、外輪2aの外周面2a2に縮径段差面2a3を設けずに、外周面2a2に直接、カバー部11の円筒部11aを圧入嵌装することもできる。外輪2aの内周面に、カバー部11の円筒部11aを圧入嵌装することもできる。
【0063】
一方、本実施形態においては、センサ保持体16の環状のカバー部11を径方向内側に延出させ、延出した径方向内側先端部に、内輪2bの車両インナー側端面2b1、あるいは当該内輪2bの内側に一体回転可能に固定される軸部材(ここではドライブシャフト)5の、当該内輪2bよりも車両インナー側の外周面5aに対し摺接する環状のシール部18を、直接又は別部材を介する形で固定する構成となっている。即ち、シール部18と、その摺接対象となる内輪2bの車両インナー側端面2b1ないし軸部材5の外周面とが、協働して接触方式のシール機能を発揮させている。
【0064】
本実施形態においては、図10に示すように、カバー部11の径方向X内方側に延出される連続壁部11dが、ABSセンサ10のセンサ本体10aの内径側端面10a2よりも径方向X内方側に突出しており、その内径側先端部に、環状のシール部材18が加硫接着されている。さらにいえば、このシール部材18は、接着力を増すために、連続壁部11dの内径側先端部を挟み込む形で、当該先端部において表面露出する3面(先端面及びその隣接面)にまたがって加硫接着されている。
【0065】
また、本実施形態におけるシール部材18は、軸方向Z内方側(車両アウター側)に延出する筒形状を有しており、その先端が内輪2bの軸方向Z外方側(車両インナー側)の端面2b1に摺動自在に接触するゴム状弾性体からなる。そして、当該ゴム弾性体18が軸方向Zに延出し易いように、カバー部11の連続壁部11dの内径側先端部は、軸方向Z内方側(車両アウター側)に折り曲がって延出し、内径側筒部11hを形成しており、その内径側筒部11hの先端部に、シール部材18が接着されている。具体的に言えば、内径側筒部11hの先端面11h1と、径方向X外方側の外周面11h2と、径方向X内方側の内周面11h3とに対しゴム弾性体18が加硫接着されている。
【0066】
以上、本発明の実施形態を説明したが、これらはあくまで例示にすぎず、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。以下、上記実施形態を第一実施形態とし、それとは異なる実施形態について説明する。なお、同様の構造については同一の符号を付することでその説明を省略する。
【0067】
上記実施形態においては、ABSセンサ10の突起部10bが径方向X外方側に、センサ保持体16の座受け板12aが径方向X内方側に位置する形で重ねられ、ピン14は、径方向X外方側に位置する貫通孔に対し径方向X内方側に向けて挿通されているが、両者の位置関係を逆にしてもよい。ただし、ピン14は、径方向X外方側に位置する貫通孔に対し径方向X内方側に向けて挿通されるように構成することがより望ましいので、逆にした場合には、スリーブ13は座受け板12aに設けられるようにするとよい。なお、センサ保持体16は、非回転輪に対し直接固定されるものに限られず、非回転輪に対し固定される部材(例えば上記車両固定部材)に固定されるものであってもよい。
【0068】
上記実施形態においては、磁気エンコーダー部9は、軸方向ZにおいてABSセンサ10のセンサ本体10(詳細にはセンサ本体10に内包された検出体)に対し対向して配置されているが、少なくとも、カバー部11に軸方向Z外方側(車両アウター側)及び径方向X外方側が被われる空間で、かつシール部材18によって、軸方向Z外方側(車両アウター側)がシールされた空間内にて、前記内輪と一体回転可能に取り付けられていればよく、例えばセンサ本体10(検出体)に対し径方向Xにおいて対向配置されるものであってもよい。
【0069】
上記実施形態においては、図10に示すように、シール部材18を、内輪2bの車両インナー側端面2b1に摺接する形で設けているが、図13に示すように、内輪2bの内側に一体回転可能に固定される軸部材(ここではドライブシャフト)5の、当該内輪2bよりも車両インナー側の外周面5aに対し摺接するように設けてもよい。この場合、カバー部11の径方向X内方側に延出される連続壁部11dの内径側先端部に直接、シール部材28を加硫接着してもよいが、連続壁部11dの先端部に対し、同様に径方向X内方側に延出する別体の環状部材11iを取り付けて、この環状部材11iの内径側先端部に対し、シール部材28を接着してもよい。また、この場合も接着力を強化する目的で、連続壁部11dの内径側先端部ないしは別体の環状部材11iの内径側先端部における先端面11i1と、軸方向Z外方側の外周面11h3と、軸方向Z内方側の内周面11i2とに対しゴム弾性体28を加硫接着することができる。
【0070】
また、上記実施形態においては、図10に示すように、シール部材18が、カバー部11の径方向X内方側に延出される連続壁部11dに直接加硫接着され、内輪2bの車両インナー側端面2b1に摺接しているが、図13と同様にして、この連続壁部11dに対し別体の環状部材11iを取り付けて、この環状部材11iに対しシール部材18を固定するようにしてもよい。ただし、この場合の環状部材11iは、上記実施形態の内径側筒部11hと同様、軸方向Z内方側に延出する形で設けることが望ましく、軸方向Z内方側に延出した先端部に、上記実施形態の内径側筒部11hと同様の形でシール部材18を接着することで接着力が増す。
【0071】
上記実施形態においては、ピン14の頭部14aの挿入方向側の端面14a1が、貫通孔13a4の挿入方向Pの逆側の開口を塞いで蓋するように形成されているが、さらに、突起部10bの貫通孔10b1の挿入方向Pの逆側の開口を塞いで蓋するように形成されていてもよい。つまり、固定部16をなすスリーブ13と突起部10bとの双方の挿入方向逆側端面16a1(13a1,10b4)に当接するように、頭部14aを形成してもよい。
【0072】
また、上記実施形態において、ピン14の軸部14bには係合溝部14cが形成されているが、当該係合溝部14cの溝断面形状は、上記実施形態の形状に必ずしも限られるものではなく、例えば、図11のような溝断面形状としてもよい。また、ピン14の圧入固定が十分であるならば、図12のように、係合溝部14cを形成しない実施形態もありうる。
【0073】
また、上記実施形態において、ピン14の軸部14bの先端面14d1には、当該ピン14の挿通により脚部13bの内側膨出部13cに対し挿通軸線Qから離間させる径方向外向きの分力を作用させる面形状として、図9に示すように、半球面形状が設けられているが、ピン14におけるこうした面形状は、その先端面14d1のうちの少なくとも内側膨出部13cと当接する面領域(例えば図12の符号14d2)において形成されていればよいのであって、先端面全面に形成される必要は無い。
【0074】
上記実施形態においては、スリーブ13の脚部13bは、その基部側(スリーブ本体13a側)にて、座受け板12aに形成された貫通孔12a1の内周面と接触する寸法にて形成されているが、当該内周面との間に隙間を形成する形で形成してもよい。これにより、脚部13bの外に広がる弾性変形を緩やかな変形とすることができ、スリーブ13bの長寿命化を図れる。
【0075】
また、上記実施形態においては、スリーブ13と、センサ本体10aの主部(樹脂モールド部)及び突起部10bとを二色成形により成形しているが、スリーブ13と突起部10bとを別体に設けて、両者を形成した後、例えば圧入等により一体に固定するようにしてもよい。また、スリーブ13は樹脂製でなくともよく、金属材料にて形成することもでき、この場合、脚部13bを金属板材として形成することにより弾性変形能を持たせることが可能となる。また、スリーブ13と、センサ本体10aの主部(樹脂モールド部)及び突起部10bとを同一の樹脂材料にて一体に成形された樹脂射出成形体とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明に係るセンサ付き転がり軸受装置の取付状態の断面図。
【図2】図1の回転検出装置の部分拡大断面図。
【図3】密封装置部の部分分解図。
【図4】ABSセンサとセンサ保持体との取付状態図。
【図5】センサ保持体のカバー部の斜視図。
【図6】ABSセンサ、スリーブ、ピンの斜視図。
【図7】スリーブの上面視図、下面視図、中央断面図。
【図8】ブラケットの斜視図。
【図9】ABSセンサの突起部とセンサ保持体の座受け板とがピン固定された状態を示すセンサ付き転がり軸受装置の部分拡大断面図。
【図10】シール部材の配置を示す断面図。
【図11】図9とは異なる形でABSセンサの突起部とセンサ保持体の座受け板とがピン固定された状態を示すセンサ付き転がり軸受装置の部分拡大断面図。
【図12】図9,11とは異なる形でABSセンサの突起部とセンサ保持体の座受け板とがピン固定された状態を示すセンサ付き転がり軸受装置の部分拡大断面図。
【図13】図10とは異なるシール部材の配置を示す断面図。
【符号の説明】
【0077】
1 センサ付き転がり軸受装置
2 転がり軸受
2a 外輪
2b 内輪
3 車両固定部材
5 ドライブシャフト
5a 外周面
8 密封装置部
9 磁気エンコーダー部(磁性体)
10 ABSセンサ
10a センサ本体
10b 突起部
10b1 貫通孔
11 カバー部
12 ブラケット
12a 座受け板(固定部)
12a1 貫通孔
13 スリーブ
13a スリーブ本体
13a4 貫通孔
13b 脚部
13c 内側膨出部
13c5 係合爪部
13d スリット
14 ピン
14c 係合溝部
16 固定部
17 センサ保持体
P ピンの挿通方向
Q ピンの挿通軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転輪の周方向に沿って磁界が交互に変化するように取り付けられた磁性体と、その磁性体の磁界を検出することによって前記回転輪の回転変化を検出するように非回転輪側に固定されるセンサと、を有するセンサ付き転がり軸受装置であって、
前記非回転輪側に固定されるセンサ保持体を備えるとともに、該センサ保持体は、前記センサを固定するための貫通孔が形成された固定部を有し、他方、前記センサも、前記センサ保持体に固定されるための貫通孔が形成された固定部を有し、
前記センサ保持体と前記センサとの双方の固定部は、互いの前記貫通孔が連通するよう接触して配置され、かつそれら双方の固定部を固定させるためにそれら双方の貫通孔を貫通するようピンが挿通されており、
前記センサ保持体と前記センサとの双方の前記固定部のうち、前記ピンの挿通方向逆側に配置されるものを第一固定部、前記ピンの挿通方向側に配置されるものを第二固定部とし、さらに、前記第一固定部の前記貫通孔を第一孔、前記第二固定部の前記貫通孔を第二孔とした場合に、前記第一固定部には、前記挿通方向側において、前記第一孔を形成する周壁部から前記挿通方向に延出する脚部が、該周壁部の周方向にて複数のスリットを挟む形で複数設けられ、それら脚部を前記第二固定部の前記第二孔に挿通させており、
さらに、前記第一固定部のそれら脚部は、前記ピンが前記第一孔及び前記第二孔に挿通されるに伴い、それらの先端側が前記挿通軸線から外向きに離間して放射状に広がる弾性変形を生じ、放射状に広がったそれら各脚部の、前記挿通軸線側とは逆側を臨む外側端面の一部が、前記第二固定部の前記挿通方向側における前記第二孔の周縁部を前記挿通方向逆側に押圧するように形成されており、当該押圧状態となるよう前記ピンが挿通されたことによって、前記第二固定部が、前記第一固定部における前記挿通方向側の端面と前記脚部の前記外側端面との間に挟み込まれる形となって当該第一固定部に対し固定されていることを特徴とするセンサ付き転がり軸受装置。
【請求項2】
前記第一孔を形成する前記周壁部には、前記挿通方向に延出する複数の溝部が形成され、当該周壁部が、隣接する該溝部間の突条部として形成しており、前記ピンは、前記突条部の突出中心側に形成される前記第一孔に圧入される形で挿通されている請求項1記載のセンサ付き転がり軸受装置。
【請求項3】
前記第一固定部の前記脚部は、前記突条部から前記挿通方向に続く形で形成されており、前記脚部間のスリットは、前記溝部の溝内空間から続く空隙として形成されている請求項2記載のセンサ付き転がり軸受装置。
【請求項4】
前記ピンは、前記貫通孔に挿通される軸部と、該軸部の一方の端部に設けられ、該軸部よりも径大の頭部とを有して形成されており、前記センサ保持体と前記センサとの双方の前記貫通孔に挿通する際には、前記頭部の前記挿入方向側の端面が、前記第一固定部の前記挿入方向逆側の端面に当接するまで押し込まれている請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のセンサ付き転がり軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−78041(P2010−78041A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−246433(P2008−246433)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【出願人】(000211695)中西金属工業株式会社 (222)
【Fターム(参考)】