説明

センサ付き軸受及びその製造方法

【課題】温度異常に起因する不具合を事前に確実に予測でき高レスポンスが可能なセンサ付き軸受及びその製造方法を提供する。
【解決手段】このセンサ付き軸受は、転動体が転走面で転動する転がり軸受であって、軸受内部に配置された第1の温度センサ1と、第1の温度センサに対し転走面22aからの距離が異なる位置に配置された第2の温度センサ2と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転動体が転走面で転動するセンサ付き軸受及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、軸受の異常発生を未然に防止するために軸受内部に封入された潤滑剤の劣化を検出するシステムを開示する。このシステムは、軸受に、ICタグと電源回路とこの電源で駆動される潤滑剤の劣化検出センサを搭載している。ICタグ、劣化検出センサ、電源回路は基板上に設置されて一つの軸受装備電子部品を構成し、この軸受装備電子部品が軸受の外輪に配置されている(特許文献1の図1参照)。
【0003】
特許文献2は、軸受ハウジングの外部に振動センサ、温度センサ等のセンサを設けたセンサ付転動装置を開示する。このセンサにより振動や温度等を測定し、軸受の異常状態をモニタリングする。
【特許文献1】特開2007−256033号公報
【特許文献2】特開2007−108187号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のシステムにより温度測定を行う場合には、発熱源である転走面とセンサ部とを近づけることができないため、高いレスポンスで温度のモニタリングを行うことができない。特許文献2の装置でも発熱源とセンサ部の距離が離れているため、高レスポンスで温度のモニタリングを行うことができない。
【0005】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、温度異常に起因する不具合を事前に確実に予測でき高レスポンスが可能なセンサ付き軸受及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本実施形態によるセンサ付き軸受は、転動体が転走面で転動する転がり軸受であって、軸受内部に配置された第1の温度センサと、前記第1の温度センサに対し前記転走面からの距離が異なる位置に配置された第2の温度センサと、を備えることを特徴とする。
【0007】
このセンサ付き軸受によれば、第1の温度センサと第2の温度センサとを、転動体が転動して発熱源となる転走面からの距離が異なる位置に配置したので、両温度センサのセンサ出力差から温度差を得ることができ、温度異常に起因する不具合を事前に確実に予測でき高レスポンスが可能となる。
【0008】
すなわち、前記第1の温度センサと前記第2の温度センサとのセンサ出力差から得た温度差に基づいて前記転送面における温度変化を検知することができる。これにより、温度センサが1個だけの場合に必要な温度履歴を記録するメモリや演算装置が不要となり、簡易なシステムで軸受の温度異常を検知することができる。例えば、温度差のピークを検出することで温度異常を検知できる。
【0009】
また、前記第1及び第2の温度センサは、スパッタリング法により高分子材料から軸受部品に直接形成された薄膜を有することが好ましい。温度センサの薄膜がスパッタリング法により高分子材料から軸受部品に直接形成されるので、軸受部品に高分子材料の薄膜を薄膜フィルムを貼り付ける場合よりも薄くできかつ接着剤なしで接着でき、接着剤よりも強固な結合が得られ、温度センサをより薄膜化することができ、取り付け空間が限定されずに軸受のいかなる部分にも組み込みが可能となる。このため、温度測定のレスポンスが速く、小形で量産性に優れたものとなる。
【0010】
また、前記第1及び第2の温度センサは前記薄膜上に離れてそれぞれ形成されたセンサ部を有するように構成できる。なお、センサ部は、薄膜上に例えば、インクジェット法やフォトリソグラフィ等によりパターニングして形成することができる。また、軸受部品に直接形成された薄膜を接着層として温度センサを接着させて設けてもよい。
【0011】
また、前記第1及び第2の温度センサは、固定側の転走面、固定側の転走面の近傍または軸受内部を密閉する密封装置に設けることができる。
【0012】
なお、前記第1及び第2の温度センサは前記センサ部を覆うカバー部を有するように構成できる。カバー部は、スパッタリングにより形成することができ、センサ部を保護するとともに温度センサを全体として薄膜化することができる。
【0013】
また、前記第1及び第2の温度センサからのセンサ出力差信号を無線で伝送するための無線伝送手段を備えることが好ましい。これにより、軸受から延びる信号線が不要となるので、軸受使用機器の設計を行う際の制約を減らし、軸受使用機器の設計の自由度を向上できる。
【0014】
本実施形態によるセンサ付き軸受の製造方法は、転動体が転走面で転動する転がり軸受の製造方法であって、スパッタリング法により高分子材料から薄膜を軸受部品に直接形成し、前記薄膜上に、第1の温度センサと、前記第1の温度センサに対し前記転走面からの距離が異なる位置に第2の温度センサと、を設けることを特徴とする。
【0015】
このセンサ付き軸受の製造方法によれば、スパッタリング法により高分子材料から軸受部品に薄膜を直接形成するので、薄膜フィルムを貼り付ける場合よりも薄くできかつ接着剤なしで接着でき、接着剤よりも強固な結合が得られるとともに、この薄膜に第1及び第2の温度センサを設けるので、第1及び第2の温度センサをより薄膜化することができ、取り付け空間が限定されずに軸受のいかなる部分にも組み込むことができる。このため、温度測定のレスポンスが速く、小形で量産性に優れたものとなり、温度センサを備える転がり軸受を簡単かつ低コストで製造できる。さらに、第1の温度センサと第2の温度センサとを、転動体が転動して発熱源となる転走面からの距離が異なる位置に形成するので、両温度センサのセンサ出力差から温度差を得ることができ、軸受の温度異常に起因する不具合を事前に確実に予測でき高レスポンスが可能な温度センサを備える転がり軸受を製造できる。
【0016】
上記センサ付き軸受の製造方法において前記薄膜上に前記第1及び第2の温度センサの各センサ部を形成することが好ましい。
【0017】
また、前記薄膜を接着層として前記第1及び第2の温度センサを前記軸受部品に接着するようにしてもよい。この場合、前記第1及び第2の温度センサは前記薄膜と同じ種類の高分子材料から形成された基材を有し、前記基材を前記薄膜に熱圧着により接着することが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、温度異常に起因する不具合を事前に確実に予測でき高レスポンスが可能なセンサ付き軸受及びその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を用いて説明する。
【0020】
最初に、本実施の形態による差動型の温度センサの測定原理を説明する。図1は、本実施の形態による差動型の温度センサの測定原理を説明するための図であり、熱発生源に対する2つの温度センサの配置例を概略的に示す平面図(a)、2つの温度センサにより測定した温度と時間との関係を概略的に示すグラフ(b)、及び2つの温度センサから得た温度差と時間との関係を概略的に示すグラフ(c)である。
【0021】
図1(a)のように、熱発生源Hが存在する被測定体D上に第1の温度センサAと第2の温度センサBとを配置し、第1の温度センサAを、第2の温度センサBよりも熱発生源Hに対し距離が近い位置に配置している。すなわち、熱発生源Hに対し第1の温度センサAが近く第2の温度センサBが遠くなるように並んでおり、熱発生源Hと第2の温度センサBとの間に第1の温度センサAが位置している。このため、熱発生源Hから方向cに熱が伝搬すると、この温度を第1の温度センサAが時間的に早く検知し、熱伝搬の時間だけ遅れて第2の温度センサBが検知する。
【0022】
図1(a)の熱発生源Hで熱が発生し方向cに熱が伝搬することで温度が上昇する場合、図1(b)のように、温度上昇範囲内では熱伝搬の時間差のために第1の温度センサAによる温度検出が第2の温度センサBによる温度検出よりも早く、このため、破線で示す第1の温度センサAによる検出温度カーブaは実線で示す第2の温度センサBによる検出温度カーブbよりも時間的に早い側(短時間側)にずれている。
【0023】
ここで、図1(b)の同一時間tにおける第1の温度センサAによる検出温度Taと、第2の温度センサBによる検出温度Tbとの温度差(Ta−Tb)は、図1(c)のように、時間とともに変化し、温度差(Ta−Tb)のピークKは、温度が最も急上昇した時点と対応する。温度が最も急上昇したときが温度差(Ta−Tb)が最も大きくなるからである。このように、第1,第2の温度センサA,Bによる温度差(Ta−Tb)のピークKを検出することで、熱発生源Hにおける温度急上昇発生を検知することができる。
【0024】
図1(a)〜(c)のように、第1,第2の温度センサA,Bを熱発生源Hからの距離が異なる位置に設けることで、熱発生源Hで発生した急激な温度変化を各温度センサA,Bによる温度差分(Ta−Tb)から検知できる。例えば、図1(a)の熱発生源Hが転がり軸受の転動体が転動する転走面である場合、軸受が使用時に正常に動作すれば、第1,第2の温度センサA,Bによる検出温度は動作時間とともに緩やかに上昇するが、軸受に異常が生じ転走面で発熱が生じると、図1(c)のような温度差(Ta−Tb)のピークKを検出することで軸受の温度異常発生を検知できる。
【0025】
〈第1の実施の形態〉
図2は第1の実施の形態による温度センサ付き転がり軸受を示す要部断面図である。
【0026】
図2に示すように、温度センサ付き軸受20は、外周面に軌道面21aを有する内輪21と、内周面に軌道面22aを有する外輪22と、外輪軌道面22aと内輪軌道面21aとの間に配置された転動体である複数の玉24と、複数の玉24を均等位置に保持するための保持器23と、軸受温度を検知するための差動型の温度センサ10と、を備える。
【0027】
軸受20は、内輪回転の場合のシールの付いた転がり軸受であり、両側に密封装置としてシール30,33を備える。シール30は、外周に鈎部を有するリング状の芯金31と、その外側に合成ゴムを一体に加硫成形してなる弾性体32と、から構成され、その機能上から、芯金31の鈎部以外とその外側の弾性体32とからなる円環状の主部34と、芯金31の鈎部とその外側の弾性体とからなり外輪22内周面の止め溝25に係止される加締部35と、芯金31の内周側の弾性体からなり内輪21の外周面の受け溝26に接触されるリップ部36と、に分けられる。
【0028】
シール30は、リップ部36を内輪21の外周面の受け溝26に接触させた状態で、加締部35を弾性変形させながら外輪22の内周面の止め溝25に押し込むことによって、転がり軸受20の外輪22と内輪21との間に配設される。シール33もシール30と同じ構造であり、同様に外輪22と内輪21との間に配設される。このようなシール30,33の一般的な材料は、芯金としてはSPCCやSECCなどの鋼板が使用され、リップ等を形成する弾性体としてはニトリルゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の合成ゴムが使用される。なお、密封装置としてのシール30,33は、図2のような接触ゴムシールに限らず、非接触ゴムシール、非接触鋼板などであってもよい。
【0029】
固定側の外輪22の内周面22bであって軌道面22aの近傍に温度センサ10を設け、外輪22の内周面22bから外輪22の側面へと貫通する貫通孔Pを配線導出部として設けている。温度センサ10から延びる複数の電気配線11が貫通孔Pを通して外輪22の側面から外部へと導出され、軸受の外部に設置される温度検出装置51に接続されるようになっている。
【0030】
上述の差動型の温度センサ10について図3,図4を参照して説明する。図3は、図2の軸受内部に設けられた温度センサを拡大して示す平面図である。図4は、図3の温度センサの断面構成を概略的に示す要部断面図であり、図3のIV-IV線方向に沿って切断してみた図である。
【0031】
図3,図4のように、差動型の温度センサ10は、外輪22の軌道面22aの近傍の内周面22bに直接に形成された薄膜12と、薄膜12上に形成された白金等からなる膜状の第1のセンサ部1と、薄膜12上に第1のセンサ部1から離れた位置に形成された白金等からなる膜状の第2のセンサ部2と、第1のセンサ部1から幅広に延びるように薄膜12上に形成された白金等からなる膜状の電気接続部3と、第2のセンサ部2から幅広に延びるように薄膜12上に形成された白金等からなる膜状の電気接続部4と、第1のセンサ部1と第2のセンサ部2とから幅広に延びるように薄膜12上に形成された白金等からなる共通の膜状の電気接続部5と、薄膜12,センサ部1,2及び電気接続部3〜5を覆うように配置されたカバー14と、を備え、全体として平面が矩形状で厚さが薄い構成となっている。
【0032】
膜状の第1及び第2のセンサ部1,2は、図3のように、それぞれ幅狭の帯状部から構成され、帯状部は全体の帯状長さを長く確保するために複数箇所で折り返されている。センサ部1,2から延びる幅広の電気接続部3〜5には電気配線11(図2)がそれぞれ電気接続される。
【0033】
図2〜図4のように、共通の薄膜12上に第1及び第2のセンサ部1,2が設けられた差動型の温度センサ10は、外輪22の軌道面22aの近傍の内周面22bに配置され、第1のセンサ部1が軌道面22aに対し第2のセンサ部2よりも近い位置にある。
【0034】
図2の温度検出装置51は、温度センサ10の電気接続部3〜5から延びる複数の電気配線11が接続され、温度変化により変化する第1及び第2のセンサ部1,2の抵抗値に基づいて温度測定を行う。この温度測定のとき、第1のセンサ部1と第2のセンサ部2との出力差から温度差を得ることができる。
【0035】
また、電気接続部3〜5は、センサ部1,2よりも幅広の薄膜になっており、温度変動による抵抗変化がセンサ部1,2よりも小さいので、センサ部1,2による温度測定の精度に対する影響を抑えることができる。
【0036】
温度センサ10は、図3,図4のように、薄膜12をポリイミドやPEEKやPPS等の高分子材料からスパッタリング法により外輪軌道面22a近傍の内周面22bに直接形成し、次に、薄膜12上にセンサ部1,2及び電気接続部3〜5を例えばインクジェット法やフォトリソグラフィにてパターニングした白金(Pt)等からなる導電薄膜に形成し、次に、カバー14をスパッタリング法にて高分子材料からセンサ部1,2及び電気接続部3〜5を覆うようにして形成することで、図2のような転がり軸受20に組み込まれる前の外輪22に直接設置することができる。
【0037】
なお、スパッタリング法とは、ターゲットにアルゴンガス等の不活性物質を高速で衝突させてターゲットを構成する原子や分子をたたき出し、このたたき出された原子や分子を被形成面に堆積させて薄膜を形成する方法である。
【0038】
また、上述の高分子材料として、耐熱性・耐油性等の観点からポリイミドやPEEKやPPSが好ましいが、これらに限定されず、他の高分子材料を用いてもよい。
【0039】
また、インクジェット法は、例えば、先に本出願人が特願2006−241497号で提案したように、Pt等の金属の超微粒子が独立状態で分散しているインクを微細ノズルから薄膜12上に吐出することで図3のような所定の微細な導電パターンを形成できるものである。吐出されたインクは焼成または低真空ガス中に放置することで蒸発して強い導電薄膜からなるセンサ部1,2及び電気接続部3〜5を形成できる。
【0040】
上述のように図2の温度センサ付き軸受20において温度センサ10の基板となる薄膜12を高分子材料からスパッタリング法を用いて外輪22の内周面22bに直接に形成する利点は以下(1)〜(5)の通りである。
【0041】
(1)外輪22の軌道面22a近傍の内周面22b等の軸受部品の表面に高分子材料の薄膜12を接着剤なしで接着することができる。
【0042】
(2)薄膜12と外輪22の内周面22bとの間で、市販されている接着剤で金属材料等からなる軸受部品と高分子材料からなる薄膜とを接着するよりも強固な結合を得ることができる。スパッタリング法により極めて小さい単位の高分子材料が軸受部品の表面に堆積し、軸受部品の表面と高分子材料との間で強固なアンカー効果が生じるからである。
【0043】
(3)薄膜12の膜厚を自由に調整することができる。市販されている高分子材料フィルムの最小厚さは、種類によっても異なるが、約25μmであり、それ以下になると製造・取扱いが難しいという問題があるのに対し、上述のように、スパッタリング法を用いると、数十nm〜数μmの範囲内の膜厚を有する薄膜を容易に形成することができ、取扱いも容易である。
【0044】
(4)軸受部品の表面にスパッタリング法で高分子材料から薄膜12を形成し、インクジェット法やフォトリソグラフィ等にてセンサ部1,2及び電気接続部3〜5をパターニングし、更にスパッタリング法にてカバー14を形成することができる。これにより、温度センサ10を、全体の厚さZ(図4)が数十nm〜数μmの範囲内となるように一層薄膜化することができ、温度センサ10の温度測定の精度が向上するとともに、温度検知のレスポンスが良好となり、温度異常の検知性を向上できる。
【0045】
(5)従来のチップ型積層サーミスタよりも薄くかつ小型に構成できるので、温度センサ10の取付位置に制約がなくなる。従って、温度センサ10を軸受のいかなる部分にも組み込み可能となる。
【0046】
図2〜図4の温度センサ付き転がり軸受20によれば、転がり軸受20の使用中に異常が発生し、転動体である玉24が内輪軌道面21aと外輪軌道面22aとの間で転動して温度異常(急激な温度上昇)が生じたとき、図3のように、図1(a)の熱発生源Hに相当する外輪軌道面22aに対し温度センサ10の第1のセンサ部1が近く、第2のセンサ部2が遠い位置にあり、第1のセンサ部1と第2のセンサ部2とのセンサ出力差から得た温度差に基づいて図1(c)の温度差(Ta−Tb)のピークKを検出することで急激な温度上昇による温度変化を高レスポンスに測定でき、軸受における異常発生による温度異常発生を検知することができる。
【0047】
上述のように、温度センサ10の第1のセンサ部1と第2のセンサ部2とを熱発生源である軌道面22aからの距離の異なる位置に設けることで急激な温度変化をセンサ部1,2の温度差分から検知することにより、軸受の温度異常に起因する不具合を事前に確実に予測でき高レスポンスな検知が可能となる。
【0048】
また、センサ部が単一の場合には、単一のセンサで測定を行うため、軸受の異常状態による急激な温度上昇を検知するには、図2の温度検出装置51において、一定時間の温度履歴を記録するメモリと、メモリに記録された温度履歴から急激な温度上昇を検知するための演算装置が必要であるのに対し、本実施の形態の温度センサ付き転がり軸受20によれば、かかるメモリや演算装置が不要となり、簡易な温度異常検知システムを構成でき、これにより軸受の温度異常を検知できる。
【0049】
さらに、温度センサ10を小型でかつ薄膜に構成できるので、温度センサ10の取り付け空間が限定されずに軸受のいかなる部分にも組み込みが可能でレスポンスが早く、小型で量産性に優れる温度センサを備える転がり軸受を実現できる。
【0050】
〈第2の実施の形態〉
図5は第2の実施の形態による温度センサ付き転がり軸受を示す要部断面図である。図5に示す温度センサ付き転がり軸受20Aは図1の温度センサ付き転がり軸受20と基本構成が同一であるので、同じ部分には同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0051】
図5の温度センサ付き転がり軸受20Aは、軸受の構成及び温度センサ10の構成と位置が図1のものと同一であるが、センサ信号を無線で外部に伝送するようにしたものである。すなわち、無線信号発生装置及び電源回路を含む無線伝送部52がICタグから構成されており、この無線伝送部52が転がり軸受20Aの外輪22の側面に設けられている。温度センサ10からの電気配線11が外輪22内の貫通孔(配線導出部)Pを通して無線伝送部52に接続されている。
【0052】
温度センサ10のセンサ部1,2からのセンサ出力差信号が無線伝送部52から無線で送られ、図5のように軸受外部の無線信号受信装置50でセンサ出力差信号を受信し、このセンサ出力差信号に基づいて温度検出装置51で温度差を測定し、温度差を検出し、図1(c)のような温度差のピークを検出する。
【0053】
図5の温度センサ付き転がり軸受20Aによれば、第1のセンサ部1と第2のセンサ部2とのセンサ出力差から得た温度差に基づいて図1(c)の温度差(Ta−Tb)のピークKを検出することで急激な温度上昇による温度変化を高レスポンスに測定でき、軸受における異常発生による温度異常発生を検知できる。これにより、軸受の温度異常に起因する不具合を事前に確実に予測でき高レスポンスな検知が可能となるとともに、メモリや演算装置が不要であり簡易な温度異常検知システムにより軸受の温度異常を検知できる。また、温度センサの第1及び第2のセンサ部のセンサ出力差信号を温度検出装置に送る手段として無線伝送手段を用いており、軸受から信号ケーブルが延びる構成ではないため、軸受使用機器の設計を行う際の制約を減らすことができ、軸受使用機器の設計の自由度が向上する。
【0054】
次に、図3,図4の温度センサの別の例について図6を参照して説明する。図6は本実施の形態による温度センサの別の例を示す図4と同様の要部断面図である。
【0055】
図6の温度センサ10Aは、図3と同様の平面構成であり、第1のセンサ部1,第2のセンサ部2及び電気接続部3〜5を備え、外輪22の軌道面22a近傍の内周面22bに、上述と同様にしてスパッタリング法で高分子材料から薄膜16を形成し、この薄膜16を接着層として用いて接着可能なものである。
【0056】
すなわち、温度センサ10Aは、薄膜16と同じ種類の高分子材料フィルムからなる基材17上に図3,図4と同様のセンサ部1,2及び電気接続部3〜5を形成し、カバー19でセンサ部1,2及び電気接続部3〜5を覆うようにして形成したものである。温度センサ10Aを、外輪軌道面22a近傍の内周面22bに形成された薄膜16に基材17を熱圧着にて接着することで、外輪22の内周面22bに設置できる。
【0057】
図6の構成によれば、スパッタリング法を用いることで高分子材料からなる薄膜16と内周面22bとは、強固に結びついており、高分子材料フィルムからなる基材17は同一材質の薄膜16に熱圧着されることにより強固に結合する。また、接着層としての薄膜16を極めて薄膜化できるので、内周面22bに設置された温度センサの厚さを薄くでき、軸受のいかなる場所にでも配置できる。
【実施例】
【0058】
次に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0059】
図2と同様の温度センサ付き軸受を図7のような工程(a)乃至(d)により作製した。図7は本実施例の製造工程(a)乃至(d)を示す側面図である。図7の製造工程(a)乃至(d)は、図6の断面構成の温度センサを半導体製造の場合と同様のリソグラフィ工程より製造するものである。
【0060】
図7(a)のように、ポリイミドフィルム41上に厚さ約2μmのフォトレジスト42をスピンコートにより塗布し、プリベーク処理を行った。
【0061】
次に、図7(b)のように、図8のような第1のセンサ部の形状、第2のセンサ部の形状及び電気接続部の形状にパターニングを行ったマスクを用いて図7(b)の上方から露光処理をしてから、現像液を用いて現像処理をすることで、フォトレジスト42に図8のマスクのパターンに対応した第1のセンサ部、第2のセンサ部及び電気接続部の各パターンを形成した。
【0062】
次に、図7(c)のように、スパッタリング法にて厚さ約250nmの白金膜43を形成してから、図7(d)のように、アセトンによりリフトオフ法を用いてフィルム41上の残留フォトレジストを除去することで、図7(d)の白金膜43を露出させた。上述のようにして、図9のような温度センサを得てから、250℃×5時間の条件でアニールを行い、電気接続部への配線作業を行った。
【0063】
図7(d)の白金膜43が図9における第1のセンサ部61,第2のセンサ部62及び電気接続部63,64,65を構成する。第1のセンサ部61,第2のセンサ部62は白金測温抵抗体を構成し、温度変化により白金測温抵抗体の電気抵抗が変化し、この電気抵抗の変化に基づいて図2の温度検出装置51で温度測定を行う。
【0064】
上述のようして製造された図9の薄膜状の温度センサを、図2の外輪22の軌道面22a近傍の内周面22bにポリイミドからスパッタリング法により直接形成した薄膜16(図6)に熱圧着にて接着した。
【0065】
上述のようにして得た差動型温度センサ付き転がり軸受の回転試験中の温度変化を測定した。測定結果を図10,図11に示す。その結果、図10のように測定温度が変化し、図11のように急激な温度変化点において温度差データにピークを検出することができた。
【0066】
以上のように本発明を実施するための最良の形態及び実施例について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。例えば、本実施の形態では、温度センサ10のセンサ部を2つとしたが、本発明はこれに限定されず、3個または4個以上であってもよく、温度差を複数検出するようにしてもよい。
【0067】
また、温度センサ10の設置位置は、図2,図5では外輪軌道面22a近傍であったが、本発明はこれに限定されず、例えば図2の破線で示すようにシール30の芯金31(軸受内部側)に設けてもよく、また、軌道面22aに設けてもよく、また、内輪軌道面21a近傍等に設けてもよい。なお、軌道面22aに設ける場合は、軌道面に予め微小深さの凹みを形成しておいてもよい。
【0068】
また、図3,図6の温度センサ10,10Aは共通の薄膜12または基材17上に2つのセンサ部1,2を設けた構成であるが、本発明はこれに限定されず、別々に構成してもよく、例えば、単一のセンサ部を有する温度センサ2つを軌道面22aに対する距離が異なるように配置してもよい。この場合、例えば、単一のセンサ部を有する温度センサの1つを軌道面22aに設け、もう1つを軌道面22a近傍に設けたり、また、軌道面22a近傍の内周面22bに軌道面22aに対し距離が異なるように設けてもよく、また、シール30の芯金31に設けてもよい。
【0069】
また、図4,図6において温度センサ10,10Aのカバー14,19は省略してもよい。また、軸受内部において図6の温度センサ10Aの取り付け空間に余裕がある場合等には、温度センサ10Aを接着剤で軸受部品に接着するようにしてもよい。
【0070】
また、比較的大きなサイズのフィルムに上述の図7の工程(a)〜(d)により多数の温度センサを形成してから、個別の温度センサにカットすることで、温度センサを低コストで大量生産することができる。
【0071】
また、図2,図5では、転がり軸受の内輪を回転側としたが、外輪を回転側としてもよく、この場合は、固定側の内輪に温度センサ10を同様に設けることができる。また、図2,図5の軸受は単列深溝玉軸受であったが、本発明はこれに限定されず、他の種類の転がり軸受であってもよいことはもちろんである。
【0072】
また、本実施の形態の温度センサ付き転がり軸受の用途例として自動車用軸受、工作機械スピンドル等があり、例えば、自動車の電装部品、エンジン補機であるオルタネータや中間プーリ、カーエアコン用電磁クラッチ、水ポンプ、ハブユニット、ガスヒートポンプ用電磁クラッチ、コンプレッサ、リニアガイド装置、ボールねじ等の転がり軸受に適用して好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本実施の形態による差動型の温度センサの測定原理を説明するための図であり、熱発生源に対する2つの温度センサの配置例を概略的に示す平面図(a)、2つの温度センサにより測定した温度と時間との関係を概略的に示すグラフ(b)、及び2つの温度センサから得た温度差と時間との関係を概略的に示すグラフ(c)である。
【図2】第1の実施の形態による温度センサ付き転がり軸受を示す要部断面図である。
【図3】図2の軸受内部に設けられた温度センサを拡大して示す平面図である。
【図4】図3の温度センサの断面構成を概略的に示す要部断面図であり、図3のIV-IV線方向に沿って切断してみた図である。
【図5】第2の実施の形態による温度センサ付き転がり軸受を示す要部断面図である。
【図6】本実施の形態による温度センサの別の例を示す図4と同様の要部断面図である。
【図7】本実施例の製造工程(a)乃至(d)を示す図である。
【図8】図7(b)の露光工程で用いたマスクパターンを示す拡大平面図である。
【図9】本実施例で得た温度センサを示す拡大平面図である。
【図10】本実施例の軸受回転試験における温度変化の例を示す図である。
【図11】本実施例の軸受回転試験における温度差変化の例を示す図である。
【符号の説明】
【0074】
10,10A 温度センサ
1 第1のセンサ部
2 第2のセンサ部
3〜5 電気接続部
11 電気配線
12,16 薄膜
20,20A 転がり軸受
21 内輪
21a 内輪軌道面
22 外輪
22a 外輪軌道面
22b 外輪の内周面
24 玉、転動体
30,33 シール
31 芯金
50 無線信号受信装置
51 温度検出装置
52 無線伝送部
A 第1の温度センサ
B 第2の温度センサ
D 被測定体
H 熱発生源
K ピーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転動体が転走面で転動する転がり軸受であって、
軸受内部に配置された第1の温度センサと、前記第1の温度センサに対し前記転走面からの距離が異なる位置に配置された第2の温度センサと、を備えることを特徴とするセンサ付き軸受。
【請求項2】
前記第1の温度センサと前記第2の温度センサとのセンサ出力差から得た温度差に基づいて前記転送面における温度変化を検知する請求項1に記載のセンサ付き軸受。
【請求項3】
前記第1及び第2の温度センサは、スパッタリング法により高分子材料から軸受部品に直接形成された薄膜を有する請求項1または2に記載のセンサ付き軸受。
【請求項4】
前記第1及び第2の温度センサは前記薄膜上に離れてそれぞれ形成されたセンサ部を有する請求項3に記載のセンサ付き軸受。
【請求項5】
前記第1及び第2の温度センサは、前記転走面、前記転走面の近傍または軸受内部を密閉する密封装置に設けられている請求項1乃至4のいずれか1項に記載のセンサ付き軸受。
【請求項6】
前記第1及び第2の温度センサからのセンサ出力差信号を無線で伝送するための無線伝送手段を備える請求項1乃至5のいずれか1項に記載のセンサ付き軸受。
【請求項7】
転動体が転走面で転動する転がり軸受の製造方法であって、
スパッタリング法により高分子材料から薄膜を軸受部品に直接形成し、前記薄膜上に、第1の温度センサと、前記第1の温度センサに対し前記転走面からの距離が異なる位置に第2の温度センサと、を設けることを特徴とするセンサ付き軸受の製造方法。
【請求項8】
前記薄膜上に前記第1及び第2の温度センサの各センサ部を形成する請求項7に記載のセンサ付き軸受の製造方法。
【請求項9】
前記薄膜を接着層として前記第1及び第2の温度センサを前記軸受部品に接着する請求項7に記載のセンサ付き軸受の製造方法。
【請求項10】
前記第1及び第2の温度センサは前記薄膜と同じ種類の高分子材料から形成された基材を有し、前記基材を前記薄膜に熱圧着により接着する請求項9に記載のセンサ付き軸受の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−191898(P2009−191898A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−31695(P2008−31695)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】