説明

センシング方法、センシング装置

【課題】バイオセンシング等の分野において、標的物質の濃度検出において、高感度化、高性能化が求められている。
【解決手段】標的物質を介して結合し得る少なくとも2つの部材を用い、これらの部材が有する表面の双方に標的物質を結合させ、且つこれらの部材の少なくとも一方に力を加え、該結合を乖離させる力により標的物質の濃度を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は標的物質の濃度をセンシングする方法および装置に関するものであり、特に生体分子の濃度の検出に関するものである。
【背景技術】
【0002】
定量的なイムノアッセイとして、放射免疫分析法(RIA : radio immunoassayもしくはIRMA:immunoradiometric assay)が古くから知られている。この方法は、放射性核種によって、競合抗原あるいは抗体を標識し、比放射能の測定結果から抗原を定量的に測定する方法である。つまり抗原などの標的物質を、標識して間接的に測定を行う。この方法は感度が高いことから、臨床診断において大きな貢献を果たしたが、放射性核種の安全性の問題が有り専用の施設や装置が必要となるという欠点がある。そこでより扱いやすい方法として、例えば、蛍光物質、酵素、電気化学発光分子、磁性粒子などを標識として利用する方法が提案されてきた。標識には様々な形体のものが存在するが、蛍光物質や磁性粒子等の標識は球形状の粒子が用いられることが多い。
【0003】
センサ上あるいは基体上への標識の固定は、検出しようとする標的物質が例えば抗原である場合、抗原抗体反応を用いて行われる。すなわち、センサ上あるいは基体上へ一次抗体を形成しておき、これに抗原を含んでいる可能性のある血液などの検査対象物を反応させ、その後、二次抗体によって修飾されている標識を反応させる。この一連の操作によって、検査対象物の中に抗原が存在する場合は、一次抗体−抗原−二次抗体−標識という結合が生じる。抗原が存在しなければ、上記結合はできず、結果として標識は固定されない。
【0004】
標識を検出する方法は、その標識の種類によってそれぞれ選択される。例えば、蛍光標識、酵素標識、電気化学発光標識等は、光学的な測定方法が用いられ、光の吸収率や透過率、あるいは発光光量を計測することによって、標的物質を検出する。また、放射性同位元素を含有する放射性標識は、比放射能の測定を行い、標的物質の定量を行う。
【0005】
上記のような光学的測定方法や放射能の測定には、通常、大きな測定装置が必要である。これに対し、近年提案された磁性標識を用いた場合には、小さな測定装置でも検出することが可能である。磁性標識を用いる場合には、小さな磁気センサによって、磁性粒子から発する磁界の検出を行う。磁気センサにはホール素子や磁気抵抗効果素子が使用可能である。
【0006】
磁気抵抗効果素子を用いた磁性粒子の検出は、近年いくつか報告されている(非特許文献1及び2)。非特許文献1では、80μm×5μmおよび20μm×5μmのサイズの巨大磁気抵抗効果(GMR: Giant Magneticresistance effect)素子を用い、直径2.8μmの複数個の磁性粒子の検出を行なっている。GMR素子で用いられている磁性膜は面内磁化膜であり、磁性粒子に印加する磁界は磁性膜に対して膜面垂直方向に印加されている。したがって磁界の印加によって磁化された磁性粒子から生じる浮遊磁界が、GMR膜の磁性膜に概略膜面内方向に印加され、磁性膜の磁化はこの磁界方向に揃う。磁気抵抗効果素子の電気抵抗の大きさは2つの磁性膜の相対的な磁化方向に依存しており、磁化方向が平行であると電気抵抗が比較的小さく、反平行であると比較的大きいという特徴を持つ。平行、反平行という磁化状態を実現させるために磁気抵抗効果素子の2つの磁性膜では、一方の磁性膜の磁化方向は固定され、他方は磁性粒子からの浮遊磁界によって磁化反転可能であるような保磁力を有する磁性材料で構成される。もし磁性粒子がGMRセンサの上に存在しない場合は、外部磁界を印加しても磁性膜に膜面内方向の磁界が印加されないので磁化反転が生じない。また、検出回路は、2つの固定抵抗と磁性粒子が固定されないGMR素子および磁性粒子が固定し得るGMR素子によってブリッジ回路を構成し、このブリッジ回路に誘起される電位差をロッキングアンプで検出する構成となっている。非特許文献2では2μm×6μmのサイズのGMRセンサを用い、直径2μmの磁性粒子の検出を行っている。非特許文献1と同様にGMR素子は、磁性粒子が固定し得るものと固定されないものを並べて形成し、この2つのGMRセンサの出力信号を比較することで磁性粒子の検出を行っている。ただし、磁性膜は面内磁化膜であり、かつ磁性粒子に印加する磁界は磁性膜に対して膜面内長手方向である。
【非特許文献1】David R. Baselt, et al. Biosensors & Bioelectronics 13, 731 (1998)
【非特許文献2】D. L. Graham, et al. Biosensors & Bioelectronics 18, 483 (2003))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、標識を用いて標的物質を検出する場合に、標的物質が標識粒子よりも著しく小さいと、センサ上あるいは基体上に固定されながらも標識と結合しない標的物質が存在する場合が生じる。あるいはそれぞれの標識に結合した標的物質の数にばらつきが生じる場合がある。これらの場合には、検出しようとする標的物質の濃度は、実際の濃度と著しく異なった値となってしまう。例えば、図1(a)に示すように、標的としての磁性微粒子と結合していない抗原(標的物質)がセンサ素子上に存在する場合が想定される。あるいは、図1(b)に示すように、同一センサ素子上に、3つの抗原が結合している磁性微粒子と2つの抗原が結合している磁性微粒子が混在する場合が想定される。これらの場合において、図1(a)における磁性微粒子と結合していない標的物質の数や、図1(b)における磁性微粒子に結合する標的物質の数が測定毎に予測できないので、センサ素子に結合している標的物質の数と、標的物質に結合している磁性微粒子の数との割合に測定毎のズレが生じ、この点が、より正確な測定を再現性良く行う上での障害となる。
【0008】
本発明の目的は、上述した問題を解決し得る測定系を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のセンシング方法は、検体中の標的物質を検出するためのセンシング方法において、
前記標的物質を介して結合し得る少なくとも2つの部材を、前記検体と反応させて、前記検体中に標的物質が存在する場合に生じる前記部材と標的物質との複合体を得る工程と、
前記複合体を少なく2つの部分に乖離手段を用いて乖離させる工程と、
前記乖離に要した物理量を測定する工程と、
前記物理量に基づいて前記検体中の標的物質の定量化を行う工程と、
を有することを特徴とするセンシング方法である。
【0010】
本発明のセンシング装置は、検体中の標的物質をセンシングするためのセンシング装置において、
前記標的物質を介して結合し得る少なくとも2つの部材を、前記検体と反応させて、前記検体中に標的物質が存在する場合に生じる前記部材と標的物質との複合体を得るための反応領域と、
前記複合体を少なく2つの部分に乖離させるための乖離手段と、
前記乖離に要した物理量を測定する物理量測定手段と、
前記物理量に基づいて前記検体中の標的物質の定量化を行う定量化手段と、
を有することを特徴とするセンシング装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のセンシング方法により、標的物質の濃度を高感度且つ高精度に検出できるようになる。また本発明のセンシング方法を用いることで高感度なセンシング装置の構成が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、標的物質を介して結合した少なくとも2つの部材を乖離手段によって乖離させ、乖離に必要とされた物理量を定量化することによって検体中の標的物質の有無や濃度を検出するものである。以下、部材として、磁界検出センサ素子と磁気ビーズ(磁性微粒子)の2つを用いた標的物質検出センサを用いて本発明を説明する。しかしながら、本発明はこの構成に限る物ではない。部材として、例えば、帯電している微粒子と電荷を検出するセンサの組合せや、発光し得る物体と、基体であると共に光を検知するセンサとの組合せなどを用いることができる。
【0013】
(第一の形態)
図2は本発明の実施の形態の一例の概略を示す図である。このセンシング装置は、基板206と、基板に設けられたセンサ素子201とを有する。センサ素子201の表面は抗体202で修飾されており、この表面部分に標的物質への結合機能が付与されており、この表面を含んで抗原203及び磁性微粒子204との反応のための反応領域が形成されている。ここでセンサ素子201はTMR素子であるとして説明するが、センサ素子は、GMR素子でもHall素子等の磁気検出素子ならばよい。
【0014】
次に、標的物質としての抗原203をセンサ素子201の表面に流し、抗原203をセンサ素子201上の抗体202に捕捉させる(図2(a))。
【0015】
さらに、センサ素子201の表面に磁性微粒子204を近接させる。近接させる方法としては磁気トラップ、光トラップ等を用いても良いし、ブラウン運動、沈降、拡散等により近接してくる物を使っても良い。この例では、磁性微粒子205の表面は抗体205で修飾してあり、標的物質への結合機能を有する。また、磁性微粒子205は、測定時において磁化された状態が得られるものであればよい。磁化処理が必要な磁性微粒子を用いる場合は、磁化手段をセンシング装置に設けておくとよい。あるいは、超常磁性を有する磁性微粒子を用いることで、磁化手段の使用を省略することができる。
【0016】
一定時間インキュベーションすると図2(b)に示すように、磁性微粒子204が、抗体202、抗原203、抗体205を介してセンサ素子201に結合して複合体を形成している状態になる。
【0017】
センサ素子に磁性微粒子が結合したことはトンネル磁気抵抗効果の信号で検出する。
【0018】
結合が生じ反応が平衡に達した後、センサ素子201から磁性微粒子204を引き剥がす力を測定する。すなわち、複合体の乖離のための物理量を測定する。例えば磁性微粒子に磁場を印加し、どの程度の磁場を印加した場合に磁性微粒子が剥がれたか測定する。引きはがす力は磁力に限るものではなく、例えばバッファ溶液中などにこの測定系設置してバッファ溶液に流速を与え、この流速による磁性微粒子への抵抗力で磁性微粒子を引き剥がしても良い。または微粒子にレーザー光などの強力な光を照射し、所謂光ピンセットによる力を加えてもよい。すなわち、複合体の形成のための部材の種類に応じて、乖離手段として、磁界印加手段、電界印加手段、用いられるセンサで検出されない物体を複合体に衝突させる手段、光照射手段などを用いることができる。これらの乖離手段での乖離のための物理量は、それぞれ、磁場の強さ、電界の強さ、衝突力、照射光の強度などである。
【0019】
本発明者らの検討によれば、この引き剥がす力と、磁性微粒子204が抗体202、抗原203、抗体205を介してセンサ素子201に結合している結合の数の間には相関があり、且つ結合の生じる単位面積あたりの結合の数は検体中の抗原濃度と相関がある。従って、予め既知の濃度に対して上記の結合が切断されるときの印加磁場の大きさと抗原濃度の関係を測定して検量線を引くことが出来る。
【0020】
抗体濃度が未知の検体もこの検量線からその濃度を決定できる。
【0021】
検量線を利用した定量化は、乖離に必要とされた物理量と標的物質の濃度との関係に基づいて予め設定されたプログラムでの計算を行うための中央演算装置を有するコンピュータを定量化手段として用いて行うことができる。
【0022】
また磁性微粒子の形状に関しては、磁性微粒子301の表面上の抗体302とセンサ素子303上の抗体304が互いに多数向き合い、且つ各々の組みあわせの相対距離がなるべく略等しく且つその距離が抗原305の大きさ程度になるような状況を作り出せることが、より好ましい(図3(a))。具体的には平板状の微粒子形状やこれに類した形状であることが好ましい。このような平板状の磁性微粒子を用いることで、センサ素子の平面状の表面と、磁性微粒子の平面とが対向した位置で抗原を介して結合した複合体を得ることができる。
【0023】
磁性微粒子が略球形の場合であっても磁性微粒子とセンサ素子との間には多数の結合が生じているため、濃度に依存した結合の数が生成されその結果濃度に依存した磁性微粒子の引き剥がし力を検知できる。これに対して、例えば磁性微粒子の形状が平板状であるならば、図3(b)の磁性微粒子が球形の場合のように磁性微粒子直下の部分306の面積Aに対して上記結合が生じうる領域307の面積Bが小さくなる事を軽減できるため、このような平板状の磁性微粒子を用いることが好ましい。
【0024】
具体的な利点として、前記微粒子直下の部分306の面積Aが同じ球形粒子と平板粒子を比較した際、平板粒子の方が結合に利用する部分307の面積Bが大きく、その結果抗原濃度に依存した結合が沢山生じることが挙げられる。このため、このような形状の微粒子の場合にはセンサ素子から微粒子を引き剥がすために大きな力が必要となり、その測定は容易且つ高精度になる。
【0025】
また、微粒子−センサ素子間の結合に預からない抗原抗体結合308が生じにくくなる、あるいはその頻度を効果的に低減できることも利点である。これはこのような結合サイトが多数存在する場合に抗原濃度の変化が前述のような結合サイトに生じる結合の数に反映されてしまい、抗原濃度の測定精度が低下してしまう可能性を抑制する効果があるからである。
【0026】
また、微粒子とセンサ素子の間に生じる結合の本数は、全ての微粒子においてまったく同一である可能性は非常に低く、一般的にはある分布を持っている。したがって、あらかじめ統計的に実験を行っておき、この分布を求めておくことは好ましい。また分布が求めにくい場合であっても、近似的にはその分布の最大値を以って、つまり引き剥がす力がある値のときに、引き剥がされる微粒子の数がもっとも多くなる場合の、その引き剥がす力に対応する結合の本数をもって前述の引き剥がすための力と見なしても良い。
【0027】
(第2の形態)
上記第1の形態では、標識としての磁性微粒子をセンサ上に結合させる形態について説明したが、標識は標的物質を介して基板上へ固定しておき、センサを反応場とは別の場所に設ける形態でも本発明を実施することが可能である。ここでは例として蛍光検出装置と蛍光を発する磁性微粒子を用いた標的分子検出系を用いて説明をする。しかしながら、本発明はこの構成に限る物ではなく、例えば、放射性微粒子と放射能センサの組み合わせや、磁性微粒子とジョセフソン効果を用いた磁場検出センサの組み合わせ等、種々の組み合わせが使用可能である。
【0028】
この形態において得られる複合体の構成を図9に示す。この複合体の形成は以下のようにして行うことができる。まず、基板901に予め抗体902を修飾しておく。次に抗原903を抗体周囲に流し、抗原を抗体に補足させる。さらに抗体904が修飾されている標識粒子905を抗原が固定されている領域へ近接させる。本説明においては、標識は蛍光を発する磁性微粒子(以下標識粒子という)とする。標識粒子を近接させる方法としては磁気トラップ、光トラップ等の外力を用いて近接させても良いし、外力を用いることなくブラウン運動、拡散、沈降等により標識粒子が近接する方法でも良い。標識粒子は予め磁化を持たせておいても良いし、または超常磁性のものでも良い。
【0029】
一定時間インキュベーションすると標識粒子が抗体、抗原、抗体を介して基板と結合して複合体を形成している状態になる。
【0030】
次に、標識粒子905が蛍光906を発するような波長を含む励起光907を標識粒子に照射し、蛍光検出装置908で蛍光をセンシングしながら、標識粒子905に外部磁界を印加する。印加する磁界は零磁場から徐々に大きくしていき、磁力によって標識粒子が基板から乖離した後に磁界の印加を中止する。標識粒子905の乖離は蛍光のセンシングによって確認される。
【0031】
印加磁界の大きさと、標識粒子が抗体、抗原、抗体を介して基板に結合している結合の数の間には相関があり、且つ結合の生じる単位面積あたりの本数は検体中の抗原濃度と相関がある。従って、予め既知の濃度に対して上記の結合が切断されるときの印加磁界の大きさと抗原濃度の関係を測定して検量線を引くことが出来る。
【0032】
抗体濃度が未知の検体もこの検量線から濃度を決定できる。
【0033】
この場合においても、引きはがす力は磁力に限るものではなく、例えばバッファ溶液中などにこの測定系を設置してバッファ溶液に流速を与え、この流速による標識粒子への抵抗力で磁性微粒子を引き剥がしても良い。または標識粒子を帯電させておき、さらに電界を印加することによって磁性微粒子を乖離させても良い。すなわち、第一の態様と同様に各種の乖離手段を用いることができる。更に、標識の検知にも、磁場を検知するセンサ素子、電荷を検知するセンサ素子、光を検知するセンサなどを標識の種類に応じて適宜選択可能である。
【0034】
また標識粒子の形状に関しては、第1の形態において述べたように標識粒子の表面上の抗体と基板上の抗体が互いに多数向き合い、且つ各々の組みあわせの相対距離がなるべく略等しく且つその距離が抗原の大きさ程度になるような状況を作り出せることが、より好ましい。具体的には平板状の微粒子形状やこれに類した形状であることが好ましい。
【実施例】
【0035】
以下では実施例をもって本発明を説明するが、これらは本発明の範囲を何ら限定する物ではない。なお、「%」は特に断らない限り「質量%」を示す。
(実施例1)
図4(a)に本発明のセンシング素子の第一の構成例を示す。本実施例では検出標的物質はヒトC反応性蛋白(CRP)であるとする。まず、センサ素子401に、402として示す抗体Aを修飾しておく。ここでは抗体Aは抗ヒトCRP−マウスモノクローナル抗体である。
【0036】
センサ素子401への抗体固定操作は、抗ヒトCRP−マウスモノクローナル抗体(Biogenesis社製)溶液を検出領域にスポッタを用いて滴下し、インキュベーションして行なう。物理吸着後必要に応じて牛血清アルブミンなどの非特異吸着の抑制作用を持った試薬を用いて、非特異吸着反応を抑制するための処理を行なっても良い。
【0037】
またセンサ素子401はTMRセンサ素子であるとする。但しこのセンサ素子は素子近傍の磁界を検出する物なら何でも良く、TMRセンサ素子に限る物ではない。GMRセンサ素子、ホールセンサ素子などでも良い。
【0038】
ここでセンサ素子401は各々約10μm四方の面積で構成され、各センサ素子は正方格子型に約10μmのスペースを空けて図4(b)の様に配置されているとする。センサ素子部は金であり、その他の部分は窒化シリコンであるとする。センサ素子表面のみ抗ヒトCRP−マウスモノクローナル抗体で修飾しておく。
【0039】
次に抗原403及び磁性微粒子404をセンサ素子401に固定化する。ここで抗原403はCRPである。また磁性微粒子404(Dynal Biotech社製)は直径2.8μm程度の球状の外形を有し、内部に磁性体を含むものとする。さらに磁性微粒子404の表面はセンサ素子401と同様に抗体Aで修飾しておく。抗原403は抗体Aと特異的に反応する。
【0040】
上記固定化の操作は概略図(図5)に示す流路系を用いて行なう。まず、対象となる検体を注入口501より注入し、送液ポンプにより規定量送液し、反応ウェル502に導入する。反応ウェル502内にはセンサ素子504が設置されている。導入後一定時間インキュベーションし、注入口501から0.1%のTween20(商品名、キシダ化学、界面活性剤)を含むリン酸バッファ溶液を導入し洗浄する。洗浄後、注入口501から、検体と特異的に反応する抗ヒトCRP−マウスモノクローナル抗体で修飾された磁性微粒子を含む溶液を導入する。導入後インキュベーションの後再度注入口501から0.1%のTween20(商品名、キシダ化学、界面活性剤)を含むリン酸バッファ溶液を導入し洗浄する。また上記各操作で使用後の液体は排出口503から排出される。洗浄後、図6に示すように、センサ素子601の表面の抗体Aと、抗体Aで修飾された磁性微粒子604と抗原605が結合した形となる。
【0041】
次に、センサ素子504に磁性微粒子604が結合したことをTMRセンサ素子の磁気抵抗効果を用いて検出器505で検出しておく。
【0042】
次に磁場印加装置506により磁場をセンサ素子表面に垂直に掛け、磁性微粒子がセンサ素子504から離れる方向に力をかける。印加磁場を徐々に強くして行くことにより、あるところで磁性微粒子604がセンサ素子506から分離する。磁性微粒子がセンサ素子から離れたことは、結合したときと同様に磁気抵抗効果により検出器505で検知する。具体的には、検出器505で検知される出力(電位差)の大幅な低下により、乖離した段階を検知できる。
【0043】
このときセンサ素子から微粒子を分離するために作用させた磁場の強さから結合の強さを測定しておく。したがって、本実施例における物理量測定手段は、磁場の強さを測定する磁場測定手段である。
【0044】
また、予め既知の濃度の検体を用いて検体濃度と分離に必要な磁場との関係を求めておくことで未知の濃度の検体の濃度を算出できる。
【0045】
本実施例のように、磁性微粒子をセンサ素子から引き剥がす力を測定することにより、検体濃度を高精度かつ高感度に測定できるようになる。
【0046】
本実施例では検出する抗原はCRPであるがこれに限るものではない。抗原と抗体と結合できる複数の部位を有していれば良い。また本発明では検出する反応は抗原抗体反応であるとしたがこれに限る物ではない。標的物質が複数の結合部位を有し、且つそれぞれの結合部位に結合できる別の物質によってセンサ素子や磁性微粒子表面を修飾できればよい。さらに磁性微粒子の形状は略球形であるとしたがこれに限らない。平板状微粒子等を用いることも好ましい。球形微粒子の代わりに平板状微粒子を用いることでセンサ素子表面と微粒子表面の間の結合が生じている略平行な表面の面積が増大し、抗原抗体反応を起こす結合の数が増大し、測定がより高精度、高感度になる。
【0047】
さらに、本実施例では磁性微粒子に磁場を印加してセンサ素子から引き剥がしたが、磁性微粒子に限らず、帯電微粒子などでも良い。さらに印加する力は磁力に限る物ではない。電場による力や流路中の液体の流速により生じる、液体から受ける抵抗力でもよい。また、レーザー光などの強度の大きい光から受ける力などでも良い。
【0048】
もしくは、図8に示すように、標的物質を捕捉する部材がセンサ素子表面ではない構成、つまりセンサを反応場とは別の場所に設ける構成でもよい。例えば蛍光806を発する磁性微粒子805を予め基板801上に抗体802、抗原803、抗体804等を介して捕捉しておき、磁性微粒子805に励起光807を照射する。そして805.磁性微粒子が発する蛍光を蛍光検出装置808で検出しつつ磁場を印加する。前記微粒子が基体からはなれる時の印加磁場強度を測定することで抗原濃度を測定できる。
【0049】
(実施例2) センシング装置
本実施例は本発明におけるセンシング方法を用いたセンシング装置の構成を示すものである。検出方法として、センサ素子にトンネル磁気抵抗効果を有する素子を用い、検体中の標的物質を磁性微粒子により検知する、実施例1と同様の方式をとるものとする。
【0050】
図7は本発明のセンシング方法を用いたセンシング装置の概略図である。この装置では、流路707が形成されている。流路707には、送液ポンプ701、注入口702、センサ素子703、反応ウェル704、排出口705、廃液リザーバ706が設けられている。この流路707に対し、検体液を流す。センサ素子703は反応ウェル704内に配置されている。
【0051】
センサ素子703の表面近傍に磁場を印加するために、磁場印加装置708から光を照射し、トンネル磁気抵抗効果による信号を検出器709で計測する。そのデータを定量化手段としての中央演算装置710に導く。中央演算装置710は計測結果を表示ユニット711に表示させると同時に磁場印加装置708の制御信号を発生する。
【0052】
本発明のセンシング方法を用いたセンシング装置を構成することにより、高精度なセンシング(例えばバイオセンシング)を行なうことが出来る。また、観察速度の更なる向上のために、本実施例におけるセンサ素子を含む送液系を複数設け、マルチヘッドのセンシング装置を構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】センシング方法における部材と標的物質からなる複合体の形成状態を説明するための図である。
【図2】センシング方法における部材と標的物質からなる複合体の形成状態を説明するための図である。
【図3】本発明にかかるセンシング方法及び装置の構成を説明するための図である。
【図4】本発明にかかるセンシング方法及び装置の構成を説明するための図である。
【図5】本発明にかかるセンシング方法及び装置の構成を説明するための図である。
【図6】本発明にかかるセンシング方法及び装置の構成を説明するための図である。
【図7】本発明にかかるセンシング方法及び装置の構成を説明するための図である。
【図8】本発明にかかるセンシング方法及び装置の構成を説明するための図である。
【図9】本発明にかかるセンシング方法及び装置の構成を説明するための図である。
【符号の説明】
【0054】
101:センサ素子
102:抗体
103:抗原
104:磁性微粒子
201:センサ素子
202:抗体
203:抗原
204:磁性微粒子
205:抗原
206:基板
301:磁性微粒子
302:抗体
303:センサ素子
304:抗体
305:抗原
306:面積A
307:面積B
308:抗原抗体結合
401:センサ素子
402:抗体A
403:抗原
404:磁性微粒子
501:注入口
502:反応ウェル
503:排出口
504:センサ素子
505:検出器
506:磁場印加装置
601:センサ素子
602:抗体A
603:抗体A
604:磁性微粒子
605:抗原
701:送液ポンプ
702:注入口
703:センサ素子
704:反応ウェル
705:排出口
706:廃液リザーバ
707:流路
708:磁場印加装置
709:検出器
710:中央演算装置
711:表示ユニット
801:基板
802:抗体
803:抗原
804:抗体
805:磁性微粒子
806:蛍光
807:励起光
808:蛍光検出装置
901:基板
902:抗体
903:抗原
904:抗体
905:標識粒子
906:蛍光
907:励起光
908:蛍光検出装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体中の標的物質を検出するためのセンシング方法において、
前記標的物質を介して結合し得る少なくとも2つの部材を、前記検体と反応させて、前記検体中に標的物質が存在する場合に生じる前記部材と標的物質との複合体を得る工程と、
前記複合体を少なく2つの部分に乖離手段を用いて乖離させる工程と、
前記乖離に要した物理量を測定する工程と、
前記物理量に基づいて前記検体中の標的物質の定量化を行う工程と、
を有することを特徴とするセンシング方法。
【請求項2】
前記部材のうち少なくとも1つが平板状の形状を有する請求項1に記載のセンシング方法。
【請求項3】
前記部材として、それぞれが前記標的物質との結合機能を有する平面を有する2つの部材を用い、これらの2つの部材が、前記標的物質を介して結合した際に前記標的物質を介して対向する2つの平面を形成し得るものである請求項2に記載のセンシング方法。
【請求項4】
前記部材が前記標的物質よりも大きい請求項1〜3のいずれかに記載のセンシング方法。
【請求項5】
前記部材に、浮遊磁界を発し得る物体と、磁場を検知するセンサ素子が含まれている請求項1〜4のいずれかに記載のセンシング方法。
【請求項6】
前記部材に、帯電し得る物体と、電荷を検知するセンサ素子が含まれている請求項1〜4のいずれかに記載のセンシング方法。
【請求項7】
前記部材に、発光し得る物体と、基体であると共に光を検知するセンサが含まれている請求項1〜4のいずれかに記載のセンシング方法。
【請求項8】
前記乖離手段が、磁界印加手段である請求項1〜5のいずれかに記載のセンシング方法。
【請求項9】
前記乖離手段が、電界印加手段である請求項1〜4及び6のいずれかに記載のセンシング方法。
【請求項10】
前記乖離手段が、用いられるセンサで検出されない物体を前記複合体に衝突させる手段である請求項1〜7のいずれかに記載のセンシング方法。
【請求項11】
前記乖離手段が、光照射手段である請求項1〜7のいずれかに記載のセンシング方法。
【請求項12】
検体中の標的物質をセンシングするためのセンシング装置において、
前記標的物質を介して結合し得る少なくとも2つの部材を、前記検体と反応させて、前記検体中に標的物質が存在する場合に生じる前記部材と標的物質との複合体を得るための反応領域と、
前記複合体を少なく2つの部分に乖離させるための乖離手段と、
前記乖離に要した物理量を測定する物理量測定手段と、
前記物理量に基づいて前記検体中の標的物質の定量化を行う定量化手段と、
を有することを特徴とするセンシング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−25033(P2009−25033A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−185894(P2007−185894)
【出願日】平成19年7月17日(2007.7.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】