説明

ゼオライト構造体及びその製造方法

【課題】NO浄化性能、及び吸着能力の高いゼオライト構造体を提供する。
【解決手段】流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成し、金属イオンによりイオン交換されたゼオライトにより形成された隔壁、を備えるハニカム形状であり、隔壁の表面部に含有される金属イオンの単位ゼオライト量当たりの含有量が、隔壁の内部に含有される金属イオンの単位ゼオライト量当たりの含有量より大きいゼオライト構造体であり、好ましくは、隔壁の表面部に含有される金属イオンの単位ゼオライト量当たりの含有量が、隔壁の内部に含有される金属イオンの単位ゼオライト量当たりの含有量に対して、1.1〜5.0倍であるゼオライト構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライト構造体及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、NO浄化性能、及び、炭化水素吸着能力の高いゼオライト構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用エンジン、建設機械用エンジン、産業用定置エンジン、燃焼機器等から排出される排ガスに含有されるNO等を浄化するためや炭化水素等を吸着するために、コージェライト等からなるハニカム形状のセラミック担体(ハニカム構造体)に、イオン交換処理されたゼオライトが担持された触媒体が使用されている。
【0003】
上記コージェライト等から形成されたセラミック担体にゼオライトを担持させた場合、コージェライト等は、NO浄化、炭化水素の吸着等の作用を示さないため、コージェライト等が存在する分だけ、排ガスが通過するときの圧力損失が増大することになる。
【0004】
これに対し、ハニカム構造体自体を、金属イオンによりイオン交換処理されたゼオライトを含む成形原料を成形、焼成して、構造体を形成する方法が提案されている(例えば、特許文献1〜3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−296521号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2008−167178号明細書
【特許文献3】米国特許第6555492号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の、ハニカム構造体自体を、金属イオンでイオン交換処理されたゼオライトを成形、焼成することにより形成する方法においては、イオン交換されたゼオライトをハニカム形状に成形、焼成する際に、イオン交換処理されたゼオライトがバインダーや高温水蒸気に晒されるため、ゼオライト中の金属イオンが脱落したりゼオライト構造が破壊されたりして、触媒活性低下や、吸着能力低下を生じるという問題があった。
【0007】
また、従来の、金属イオンでイオン交換処理されたゼオライトで形成したハニカム構造体(ハニカム形状のゼオライト構造体)を用いて排ガスの処理を行う際には、排ガスの多くが隔壁の表面付近で処理され、隔壁の内部まで浸入する量は相対的に少ないものであった。そして、従来の、金属イオンでイオン交換処理されたゼオライトで形成したハニカム構造体は、隔壁の厚さ方向における金属イオンの分布が均一であるため、隔壁の内部に位置する金属イオンが効果的に利用されていなかったという問題があった。
【0008】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、NO浄化性能、及び吸着能力の高いゼオライト構造体及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するため、本発明は、以下のゼオライト構造体及びその製造方法を提供する。
【0010】
[1] 流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成し、金属イオンによりイオン交換されたゼオライトにより形成された隔壁、を備えるハニカム形状であり、前記隔壁の表面部に含有される金属イオンの単位ゼオライト量当たりの含有量が、前記隔壁の内部に含有される金属イオンの単位ゼオライト量当たりの含有量より大きいゼオライト構造体。
【0011】
[2] 前記隔壁の表面部に含有される金属イオンの単位ゼオライト量当たりの含有量が、前記隔壁の内部に含有される金属イオンの単位ゼオライト量当たりの含有量に対して、1.1〜5.0倍である[1]に記載のゼオライト構造体。
【0012】
[3] 前記隔壁の表面部に含有される金属イオンが、鉄イオン、銅イオン及び銀イオンからなる群から選択される少なくとも一種であり、前記隔壁の内部に含有される金属イオンが、鉄イオン、銅イオン及び銀イオンからなる群から選択される少なくとも一種である[1]又は[2]に記載のゼオライト構造体。
【0013】
[4] 前記隔壁の表面部に主として含有される金属イオンと、前記隔壁の内部に主として含有される金属イオンとが、異なる金属イオンである[1]〜[3]のいずれかに記載のゼオライト構造体。
【0014】
[5] 前記隔壁の表面部に主として含有される金属イオンが鉄イオンであり、前記隔壁の内部に主として含有される金属イオンが銅イオンである[4]に記載のゼオライト構造体。
【0015】
[6] ゼオライト粉末と成形助剤とを含有する成形原料を押出成形して、流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁を備えるハニカム形状の成形体を形成し、前記ハニカム形状の成形体を焼成し、前記焼成したハニカム形状の成形体に対して、金属イオンでイオン交換する処理を施して、前記隔壁の表面部に含有される金属イオンの単位ゼオライト量当たりの含有量が、前記隔壁の内部に含有される金属イオンの単位ゼオライト量当たりの含有量より大きいゼオライト構造体を作製するゼオライト構造体の製造方法。
【0016】
[7] 前記金属イオンが、鉄イオン、銅イオン及び銀イオンからなる群から選択される少なくとも一種である[6]に記載のゼオライト構造体の製造方法。
【0017】
[8] 前記金属イオンが、少なくとも鉄イオン及び銅イオンを含む[7]に記載のゼオライト構造体の製造方法。
【0018】
[9] 前記焼成したハニカム形状の成形体に対して、金属イオンでイオン交換する処理であるイオン交換処理を複数回施し、少なくとも1回の前記イオン交換処理における前記金属イオンの種類が、残りの、前記イオン交換処理における前記金属イオンの種類とは、異なる種類である[6]〜[8]のいずれかに記載のゼオライト構造体の製造方法。
【0019】
[10] 前記複数回のイオン交換処理のなかで、最後の前記イオン交換処理が、前記隔壁の表面部のみをイオン交換する処理であり、残りの前記イオン交換処理が、前記隔壁の前記表面部及び前記内部をイオン交換する処理である[9]に記載のゼオライト構造体の製造方法。
【0020】
[11] 前記イオン交換処理を、金属イオン含有溶液を用いて行い、前記複数回のイオン交換処理の各回において用いる前記金属イオン含有溶液の金属イオン濃度を、全て同じ濃度とし、前記複数回のイオン交換処理のなかで、最後の前記イオン交換処理の時間が、残りの前記イオン交換処理の時間の合計の、1/2以下である[10]に記載のゼオライト構造体の製造方法。
【0021】
[12] 前記イオン交換処理を、金属イオン含有溶液を用いて行い、前記複数回のイオン交換処理のなかの最後の前記イオン交換処理に用いる金属イオン含有溶液の濃度が、前記複数回のイオン交換処理のなかの残りの前記イオン交換処理に用いる金属イオン含有溶液の濃度の、1/2以下である[10]に記載のゼオライト構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明のゼオライト構造体は、金属イオンによりイオン交換されたゼオライトにより形成された隔壁、を備えるハニカム形状であり、隔壁の表面部に含有される金属イオンの単位ゼオライト量当たりの含有量が、隔壁の内部に含有される金属イオンの単位ゼオライト量当たりの含有量より大きいため、排ガスの処理を行う際に、排ガスの多くが処理される(流通する)隔壁の表面付近に金属イオンが多く存在し、排ガスの侵入の少ない隔壁の内部に存在する金属イオンが少ないことになり、金属イオンを効率的に利用してNOの処理を行うことができる。
【0023】
本発明のゼオライト構造体の製造方法は、金属イオンでイオン交換されていないゼオライトを押出成形してハニカム形状の成形体を形成し、得られた成形体を焼成し、焼成したハニカム形状の成形体に対して、金属イオンでイオン交換する処理を施すため、イオン交換処理されたゼオライトがバインダーや高温水蒸気に晒されることがなく、ゼオライト中の金属イオンが脱落したりゼオライト構造が破壊されることが防止される。そのため、触媒活性低下や、吸着能力低下を生じることが防止される。また、本発明のゼオライト構造体の製造方法は、金属イオンでイオン交換していないゼオライトを押出成形して得られたハニカム形状の成形体を焼成し、焼成したハニカム形状の成形体に対して、金属イオンでイオン交換する処理を施すため、隔壁の表面から金属イオンが浸入し、隔壁の表面部に含有される金属イオンの単位ゼオライト量当たりの含有量が、隔壁の内部に含有される金属イオンの単位ゼオライト量当たりの含有量より大きいゼオライト構造体を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のゼオライト構造体の一の実施形態を模式的に示す斜視図である。
【図2】本発明のゼオライト構造体の一の実施形態の中心軸に平行な断面を示す模式図である。
【図3】図2の領域Aの拡大図である。
【図4】HC吸着性能試験装置を模式的に示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に本発明を実施するための形態を図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0026】
(1)ゼオライト構造体:
本発明のゼオライト構造体の一の実施形態は、図1〜図3に示すように、流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセル2を区画形成し、金属イオンによりイオン交換されたゼオライトにより形成された隔壁1、を備えるハニカム形状であり、「隔壁1の表面部1aに含有される金属イオンの、単位ゼオライト量当たりの含有量」が、「隔壁1の内部1bに含有される金属イオンの、単位ゼオライト量当たりの含有量」より大きいものである。ここで、「隔壁1の表面部1a」は、隔壁1の表面3から、隔壁1の厚さの25%の深さまでの範囲である。図3に示すように、一の隔壁1には、隔壁1の一方の表面側に位置する表面部1aと、隔壁1の他方の面側に位置する表面部1aとが存在する。「隔壁1の内部1b」は、隔壁1全体から表面部1aを除いた範囲であり、隔壁1の厚さ方向における中央を中心とした、隔壁の厚さの50%の厚さの範囲である。また、金属イオンの量(含有量)は物質量(モル数)である。また、「ゼオライト量」は、ゼオライトに含有される(を構成する)「珪素(Si)の物質量(モル数)」及び「アルミニウム(Al)の物質量(モル数)」の合計量(モル)とする。尚、金属イオンの量及びゼオライト量は、単位体積当たりの量として示される場合もある。そして、「隔壁1の表面部1aに含有される金属イオンの、単位ゼオライト量当たりの含有量」は、隔壁1の表面部1aに含有される金属イオンの物質量(モル数)を、隔壁1の表面部1aのゼオライト量(隔壁1の表面部1aに含有されるゼオライトを構成する「珪素(Si)の物質量(モル数)」及び「アルミニウム(Al)の物質量(モル数)」の合計量(モル))で除した値である。これと同様に、「隔壁1の内部1bに含有される金属イオンの、単位ゼオライト量当たりの含有量」は、隔壁1の内部1bに含有される金属イオンの物質量(モル数)を、隔壁1の内部1bのゼオライト量(隔壁1の内部1bに含有されるゼオライトを構成する「珪素(Si)の物質量(モル数)」及び「アルミニウム(Al)の物質量(モル数)」の合計量(モル))で除した値である。図1は、本発明のゼオライト構造体の一の実施形態を模式的に示す斜視図である。図2は、本発明のゼオライト構造体の一の実施形態の中心軸に平行な断面を示す模式図である。図3は、図2の領域Aの拡大図であり、本発明のゼオライト構造体の一の実施形態の中心軸に平行な断面における隔壁の一部を拡大して示した模式図である。
【0027】
このように、本実施形態のゼオライト構造体100は、金属イオンによりイオン交換されたゼオライトにより形成された隔壁1、を備えるハニカム形状であり、隔壁1の表面部1aに含有される金属イオンの単位ゼオライト量(モル)当たりの含有量(モル)が、隔壁1の内部1bに含有される金属イオンの単位ゼオライト量(モル)当たりの含有量(モル)より大きいため、排ガスの処理を行う際に、排ガスの多くが処理される隔壁1の表面付近(表面部1a)に金属イオンが多く存在し、排ガスの侵入の少ない隔壁1の内部1bに存在する金属イオンが少ないことになり、金属イオンを効率的に利用してNOの処理を行うことができる。
【0028】
本実施形態のゼオライト構造体100は、隔壁1の表面部1aに含有される金属イオンの単位ゼオライト量当たりの含有量が、隔壁1の内部1bに含有される金属イオンの単位ゼオライト量当たりの含有量に対して、1.1〜5.0倍であることが好ましく、1.3〜3.0倍であることが更に好ましい。1.1倍より少ないと、内部1bに含有される金属イオンが多いため、内部1bの金属イオンが、排ガスの浄化に効率的に使用されないことがある。5.0倍より多いと、内部1bに含有される金属イオンが少ないため、内部1bまで浸入した排ガスであっても、内部1bにおいて浄化され難くなることがある。
【0029】
隔壁1の表面部1aに含有される金属イオンの単位ゼオライト量当たりの含有量(モル)、及び内部1bに含有される金属イオンの単位ゼオライト量当たりの含有量(モル)の測定方法は、以下の通りである。まず、ゼオライト構造体の隔壁1枚を30mm×30mmだけ切り出し、化学分析により隔壁1全体の金属イオン含有量(モル/cm)を測定する。化学分析としては、湿式分析の方法を用いる。次に、隔壁1の表面部(両面における表面部)1aを削り落とし、隔壁1の内部1bのみを残す。得られた隔壁1の内部1bを、化学分析して金属イオン含有量(モル/cm)を測定する。得られた隔壁1全体の金属イオン含有量(モル/cm)と、隔壁1の内部1bの金属イオン含有量(モル/cm)から、隔壁1の表面部1aの金属イオン含有量(モル/cm)を求める。隔壁1から表面部1aを削り取る際には、隔壁1を、紙やすり、研磨盤等で削ることが好ましい。また、ゼオライトは、シリカ(SiO)の四面体骨格構造の一部のシリコン元素がアルミニウム元素に置換され、電気的な中性を保つために、金属イオンを保持するものである。全ての金属イオンが、ゼオライト構造の中性を保つために骨格中のイオン交換サイトに存在する場合もあるし、一部の金属イオンが、例えば酸化物の形でゼオライト骨格近傍に存在する場合もある。また、ゼオライト量は、隔壁全体の質量に対するゼオライトの質量の比率、ならびに、原料として用いたゼオライトにおけるシリコン元素とアルミニウム元素の含有量より算出することができ、得られた値を単位体積当たりの値に換算して、単位体積当たりのゼオライト量(モル/cm)を算出することができる。また、隔壁部の化学分析により、シリコン元素とアルミニウム元素を定量化することも可能であるが、たとえば成形助剤等のゼオライト以外の成分が、シリコン元素あるいはアルミニウム元素を含む場合には、この成分の寄与分を除いて、ゼオライト量を算出する必要がある。そして、「隔壁1の表面部1aに含有される金属イオンの含有量(モル/cm)」を、「隔壁1の表面部1aのゼオライト量(モル/cm)」で除算することにより、「隔壁1の表面部1aに含有される金属イオンの、単位ゼオライト量当たりの含有量」を得ることができる。また、「隔壁1の内部1bに含有される金属イオンの含有量(モル/cm)」を、「隔壁1の内部1bのゼオライト量(モル/cm)」で除算することにより、「隔壁1の内部1bに含有される金属イオンの、単位ゼオライト量当たりの含有量」を得ることができる。また、「隔壁1の表面部1aの単位体積当たりの金属イオン含有量(モル/cm)」は、「隔壁1の内部1bの単位体積当たりの金属イオン含有量(モル/cm)」より大きいことが好ましい。
【0030】
隔壁1の表面部1aに含有される金属イオンが、鉄イオン、銅イオン及び銀イオンからなる群から選択される少なくとも一種であり、隔壁1の内部1bに含有される金属イオンが、鉄イオン、銅イオン及び銀イオンからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。金属イオンをこのような種類とすることにより、鉄イオンおよび銅イオンによって良好なNO浄化性能となり、また、銅イオンおよび銀イオンによって良好な炭化水素吸着能を発現することができる利点がある。更に、隔壁1の表面部1aに主として含有される金属イオンと、隔壁の内部に主として含有される金属イオンとが、異なる金属イオンであることが好ましい。ここで、「主として含有される金属イオン」というときは、金属イオン全体に対して、60質量%以上含有されている金属イオンを意味する。更に、隔壁1の表面部1aに主として含有される金属イオンが鉄イオンであり、隔壁1の内部1bに主として含有される金属イオンが銅イオンであることが好ましい。隔壁1の表面部1aに主として含有される金属イオンが鉄イオンであることにより、高温水蒸気雰囲気下や被毒性ガス雰囲気下での、触媒活性や吸着性能の劣化に対する耐性が向上する利点がある。また、隔壁1の内部1bに主として含有される金属イオンが銅イオンであることにより、内部に存在していても良好な触媒活性や吸着性能の発現が可能となる。
【0031】
本実施形態のゼオライト構造体100は、セル2の延びる方向に直交する断面における面積が、300〜200000mmであることが好ましい。300mmより小さいと、排ガスを処理することができる面積が小さくなることがあるのに加えて、圧力損失が高くなる。200000mmより大きいと、ゼオライト構造体100の強度が低下することがある。
【0032】
本実施形態のゼオライト構造体100を構成するゼオライトの種類としては、ZSM−5、β−ゼオライト、ZSM−11、シャバサイト、フェリエライト等を挙げることができる。これらの中でも、良好な浄化性能ならびに良好な吸着性能を有することより、ZSM−5及びβ−ゼオライトが好ましい。
【0033】
本実施形態のゼオライト構造体100を構成するゼオライトの気孔率及び気孔径(細孔径)は、二つの観点で考える必要がある。第一の観点は、ゼオライトが結晶構造体として細孔を有する物質であるために、ゼオライトの種類に特有の値であり、ゼオライトの種類が決まれば決まる細孔に関するものである。例えば、ZSM−5の場合、酸素10員環の細孔を有し、細孔径が約5〜6Åである。また、β−ゼオライトの場合、酸素12員環の細孔を有し、細孔径が約5〜7.5Åである。第二の観点は、ゼオライト構造体は、このゼオライト結晶粒子が結合材とともに一体化したものであるため、当該ゼオライト結晶粒子間に細孔が形成され、この「ゼオライト結晶粒子間に形成された細孔」に関するものである。これは、ゼオライト構造体としての気孔率、気孔径ということができる。本実施形態のゼオライト構造体は、この「ゼオライト結晶粒子間に形成された細孔」に関しては、気孔率が20〜70%であり、平均細孔径が0.01〜10μmであることが好ましい。
【0034】
また、本実施形態のゼオライト構造体100は、図1に示すように、隔壁1全体の外周を取り囲むように配設された外周壁4を備えることが好ましい。外周壁の材質は、必ずしも隔壁と同じ材質である必要は無いが、外周部の材質が耐熱性や熱膨張係数等の物性の観点で大きく異なると隔壁の破損等の問題が生じる場合があるので、主として同じ材質を含有するか、同等の物性を有する材料を主として含有することが好ましい。外周壁は、押出成形により、隔壁と一体的に形成されたものであっても、成形後に外周部を所望形状に加工し、加工された外周部にコーティングされたものであっても良い。
【0035】
本実施形態のゼオライト構造体100を構成するハニカムセグメントのセル形状(ゼオライト構造体の中心軸方向(セルが延びる方向)に直交する断面におけるセル形状)としては、特に制限はなく、例えば、三角形、四角形、六角形、八角形、円形、あるいはこれらの組合せを挙げることができる。
【0036】
本実施形態のゼオライト構造体の隔壁厚さは、50μm〜2mmであることが好ましく、100μm〜1mmであることが更に好ましい。50μmより薄いと、ゼオライト構造体の強度が低下することがある。2mmより厚いと、ゼオライト構造体にガスが流通するときの圧力損失が大きくなることがある。また、本実施形態のゼオライト構造体の最外周を構成する外周壁4の厚さは、10mm以下であることが好ましい。10mmより厚いと、排ガス浄化処理を行う面積が小さくなることがある。
【0037】
また、本実施形態のゼオライト構造体のセル密度は、特に制限されないが、50〜1000セル/インチ(7.8〜155.0セル/cm)であることが好ましく、200〜600セル/インチ(31.0〜93.0セル/cm)であることが更に好ましい。1000セル/インチより大きいと、ゼオライト構造体にガスが流通するときの圧力損失が大きくなることがある。50セル/インチより小さいと、排ガス浄化処理を行う面積が小さくなることがある。
【0038】
本実施形態のゼオライト構造体の全体の形状は特に限定されず、例えば、円筒形状、オーバル形状等所望の形状とすることができる。また、ゼオライト構造体の大きさは、例えば、円筒形状の場合、底面の直径が20〜500mmであることが好ましく、70〜300mmであることが更に好ましい。また、ゼオライト構造体の中心軸方向の長さは、10〜500mmであることが好ましく、30〜300mmであることが更に好ましい。
【0039】
(2)ゼオライト構造体の製造方法:
次に、本発明のゼオライト構造体の製造方法の一の実施形態について説明する。本発明のゼオライト構造体の製造方法の一の実施形態は、上述した、本発明のゼオライト構造体の一の実施形態を製造するものである。
【0040】
本実施形態のゼオライト構造体の製造方法は、ゼオライト粉末と成形助剤とを含有する成形原料を押出成形して、流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁を備えるハニカム形状の成形体を形成し、ハニカム形状の成形体を焼成し、焼成したハニカム形状の成形体(ハニカム形状の構造体)に対して、金属イオンでイオン交換する処理(イオン交換処理)を施して、隔壁の表面部に含有される金属イオンの単位ゼオライト量当たりの含有量が、隔壁の内部に含有される金属イオンの単位ゼオライト量当たりの含有量より大きいゼオライト構造体を作製するものである。上記ハニカム形状の構造体は、図1、図2に示すゼオライト構造体100のような形状である。
【0041】
このように、本実施形態のゼオライト構造体の製造方法によれば、金属イオンでイオン交換していないゼオライトを、押出成形して得られたハニカム形状の成形体を焼成し、焼成したハニカム形状の成形体に対して、イオン交換処理を施すため、イオン交換処理されたゼオライトがバインダーや高温水蒸気に晒されることがなく、ゼオライト中の金属イオンが脱落したりゼオライト構造が破壊されることもない。そのため、触媒活性低下や、吸着能力低下を生じることがない。また、本実施形態のゼオライト構造体の製造方法は、金属イオンでイオン交換していないゼオライトを押出成形してハニカム形状の成形体を形成し、得られた成形体を焼成し、焼成したハニカム形状の成形体に対して、金属イオンでイオン交換する処理を施すため、隔壁の表面から金属イオンが浸入し、隔壁の表面部に含有される金属イオンの単位ゼオライト量当たりの含有量が、隔壁の内部に含有される金属イオンの単位ゼオライト量当たりの含有量より大きい、上記本発明のゼオライト構造体を作製することができる。
【0042】
以下に、本実施形態のゼオライト構造体の製造方法について更に詳細に説明する。
【0043】
まず、ゼオライト粉末と成形助剤とを含有する成形原料を押出成形して、流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁を備えるハニカム形状の成形体を形成する。
【0044】
成形原料は、ゼオライト粉末、成形助剤等を混合して作製する。
【0045】
ゼオライト粉末の種類としては、ZSM−5の粉末、β−ゼオライトの粉末、ZSM−11の粉末、シャバサイトの粉末、フェリエライトの粉末等を挙げることができる。これらの中でも、良好な浄化性能及び良好な吸着性能を有することより、ZSM−5の粉末及びβ−ゼオライトの粉末が好ましい。ゼオライト粉末の平均粒子径は、0.1〜20μmであることが好ましい。ゼオライト粉末の平均粒子径は、レーザー回折の方法で測定した値である。また、本実施形態のゼオライト構造体の製造方法に用いるゼオライト粉末は、金属イオンによるイオン交換処理を行っていないものである。
【0046】
成形助剤としては、アルミナゾル、モンモリロナイト等を挙げることができる。成形原料中のアルミナゾルの含有量は、ゼオライト粉末100質量部に対して、5〜50質量部が好ましい。また、成形原料中のモンモリロナイトの含有量は、ゼオライト粉末100質量部に対して、5〜50質量部が好ましい。
【0047】
成形原料中には、水が含有されていることが好ましい。成形原料中の水の含有量は、ゼオライト粉末100質量部に対して、30〜70質量部が好ましい。
【0048】
ゼオライト粉末、成形助剤等の混合方法は、特に限定されず、公知の方法を採用することができる。例えば、レディゲミキサー等の混合機を用いる方法が好ましい。
【0049】
次に、成形原料を混練して柱状の成形体を形成する。成形原料を混練して柱状の成形体を形成する方法としては特に制限はなく、例えば、ニーダー、真空土練機等を用いる方法を挙げることができる。
【0050】
次に、柱状の成形体を押出成形して、図1に示すゼオライト構造体100のようなハニカム形状の、成形体(ハニカム形状の成形体)を形成する。ハニカム形状の成形体は、流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁を備えるものである。押出成形に際しては、作製しようとするハニカム形状の成形体の全体形状、セル形状、隔壁厚さ、セル密度等に対応する構造の口金を用いることが好ましい。口金の材質としては、摩耗し難い金属が好ましい。
【0051】
得られたハニカム形状の成形体について、焼成前に乾燥を行うことが好ましい。乾燥の方法は特に限定されず、例えば、マイクロ波加熱乾燥、高周波誘電加熱乾燥等の電磁波加熱方式と、熱風乾燥、過熱水蒸気乾燥等の外部加熱方式とを挙げることができる。これらの中でも、成形体全体を迅速かつ均一に、クラックが生じないように乾燥することができる点で、電磁波加熱方式で一定量の水分を乾燥させた後、残りの水分を外部加熱方式により乾燥させることが好ましい。
【0052】
また、ハニカム形状の成形体を焼成(本焼成)する前には、そのハニカム形状の成形体を仮焼することが好ましい。仮焼は、脱脂のために行うものであり、その方法は、特に限定されるものではなく、中の有機物(有機バインダ、分散剤等)を除去することができればよい。仮焼の条件としては、酸化雰囲気において、200〜1000℃程度で、3〜100時間程度加熱することが好ましい。
【0053】
次に、ハニカム形状の成形体を焼成して、ハニカム形状の構造体を得る。従って、「焼成したハニカム形状の成形体」は、「ハニカム形状の構造体」のことである。焼成の方法は特に限定されず、電気炉、ガス炉等を用いて焼成することができる。焼成条件は、大気雰囲気において、500〜900℃で、1〜10時間加熱することが好ましい。
【0054】
次に、焼成したハニカム形状の成形体に対して、金属イオンでイオン交換する処理を施して、「隔壁の表面部に含有される金属イオンの単位ゼオライト量当たりの含有量が、隔壁の内部に含有される金属イオンの単位ゼオライト量当たりの含有量より大きいゼオライト構造体」を得ることが好ましい。
【0055】
このように、本実施形態のゼオライト構造体の製造方法においては、イオン交換処理が施されていないゼオライトによって、ハニカム形状の構造体を形成し、当該ハニカム形状の構造体に対して金属イオンでイオン交換する処理を施すため、金属イオンが隔壁の表面から隔壁の内部に浸入していくことにより、ハニカム形状の構造体の隔壁の表面ほど金属イオンの量が多くなり、隔壁の内部の金属イオン量が少なくなる。そのため、「隔壁の表面部に含有される金属イオンの単位ゼオライト量当たりの含有量が、隔壁の内部に含有される金属イオンの単位ゼオライト量当たりの含有量より大きいゼオライト構造体」を得ることができる。
【0056】
本実施形態のゼオライト構造体の製造方法においては、金属イオンが、鉄イオン、銅イオン及び銀イオンからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。更にNO浄化を目的とする場合には、金属イオンが、少なくとも鉄イオン及び銅イオンを含むことが好まく。炭化水素の吸着を目的とする場合には、金属イオンが、少なくとも銀イオン及び銅イオンを含むことが好ましい。
【0057】
焼成したハニカム形状の成形体に対して、金属イオンでイオン交換する処理を施す方法としては、以下の方法を挙げることができる。
【0058】
イオン交換する金属イオンを含有するイオン交換用溶液(金属イオン含有溶液)を調製する。例えば、銀イオンでイオン交換する場合には、硝酸銀、又は酢酸銀の水溶液を調製する。また、銅イオンでイオン交換する場合には、酢酸銅、硫酸銅、又は硝酸銅の水溶液を調製する。また、鉄イオンでイオン交換する場合には、硫酸鉄、又は酢酸鉄の水溶液を調製する。イオン交換用溶液の濃度は、0.005〜0.5(モル/リットル)が好ましい。そして、イオン交換用溶液にゼオライトを成形して形成したハニカム形状の構造体を浸漬する。浸漬時間は、隔壁の表面部及び内部のそれぞれにおいて、イオン交換させたい金属イオンの量等によって適宜決定することができる。そして、ハニカム形状の構造体をイオン交換用溶液から取り出し、乾燥及び仮焼を行うことによりゼオライト構造体を得ることが好ましい。乾燥条件は、80〜150℃で、1〜10時間が好ましい。仮焼の条件は、400〜600℃で、1〜10時間が好ましい。
【0059】
焼成したハニカム形状の成形体(ハニカム形状の構造体)に対して、金属イオンでイオン交換する処理であるイオン交換処理を複数回施し、「少なくとも1回の」イオン交換処理における金属イオンの種類が、「残りの」イオン交換処理における金属イオンの種類とは、異なる種類であることが好ましい。このように、複数回のイオン交換処理において、「少なくとも1回の」イオン交換処理における金属イオンの種類が、「残りの」イオン交換処理における金属イオンの種類とは、異なるものとすることにより、複数の金属イオンを有するゼオライト構造体を得ることができる。
【0060】
更に、焼成したハニカム形状の成形体に対して、複数回のイオン交換処理を行う場合において、当該複数回のイオン交換処理のなかで、最後のイオン交換処理が、隔壁の表面部のみをイオン交換する処理であり、残りのイオン交換処理が、隔壁の表面部及び内部をイオン交換する処理であることが好ましい。このように、複数回のイオン交換処理のなかで、最後の回のイオン交換処理において、隔壁の表面部のみをイオン交換することにより、隔壁の表面部と隔壁の内部との、イオン交換の状態(金属イオンの種類、含有量)を変えることができる。そして、これにより、より容易に「隔壁の表面部に含有される金属イオンの単位ゼオライト量当たりの含有量が、隔壁の内部に含有される金属イオンの単位ゼオライト量当たりの含有量より大きいゼオライト構造体」を得ることができる。
【0061】
また、イオン交換処理を、金属イオン含有溶液(イオン交換用溶液)を用いて行い、焼成したハニカム形状の成形体に対して、複数回のイオン交換処理を行う場合において、複数回のイオン交換処理の各回において用いる金属イオン含有溶液の金属イオン濃度を、全て同じ濃度とし、複数回のイオン交換処理のなかで、最後のイオン交換処理の時間が、残りのイオン交換処理の時間の合計の、1/2以下であることが好ましく、1/10〜1/2であることが更に好ましい。これにより、より容易に「隔壁の表面部に含有される金属イオンの単位ゼオライト量当たりの含有量が、隔壁の内部に含有される金属イオンの単位ゼオライト量当たりの含有量より大きいゼオライト構造体」を得ることができる。
【0062】
また、イオン交換処理を、金属イオン含有溶液(イオン交換用溶液)を用いて行い、焼成したハニカム形状の成形体に対して、複数回のイオン交換処理を行う場合において、複数回のイオン交換処理のなかの最後のイオン交換処理に用いる金属イオン含有溶液の濃度が、複数回のイオン交換処理のなかの残りのイオン交換処理に用いる金属イオン含有溶液の濃度の、1/2以下であることが好ましく、1/10〜1/2であることが更に好ましい。これにより、より容易に「隔壁の表面部に含有される金属イオンの単位ゼオライト量当たりの含有量が、隔壁の内部に含有される金属イオンの単位ゼオライト量当たりの含有量より大きいゼオライト構造体」を得ることができる。
【0063】
焼成したハニカム形状の成形体に対して、複数回のイオン交換処理を行う場合、各回のイオン交換処理毎に、イオン交換用溶液から取り出したハニカム形状の構造体について、乾燥及び仮焼を行っても良い。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0065】
(実施例1)
ゼオライト粉末として、アルミナの量(モル)に対するシリカの量(モル)の比の値(SiO/Ai(モル比))が30のZSM−5を用いた。ゼオライト粉末の平均粒子径は、13μmであった。平均粒子径はレーザー回折・散乱式粒度分析計を用いて測定した値である。ゼオライト粉末に、成形助剤としてメチルセルロース、ベーマイト、分散剤を加え、更に水を加えて混合し、流動性のある混合物を得た。分散剤としては、ラウリン酸カリ石けんを用いた。混合物中のメチルセルロースの含有量は、ゼオライト粉末100質量部に対して、5質量部であった。また、混合物中のベーマイトの含有量は、ゼオライト粉末100質量部に対して、30質量部であった。また、混合物中の分散剤の含有量は、ゼオライト粉末100質量部に対して、0.5質量部であった。また、混合物中の水の含有量は、ゼオライト粉末100質量部に対して、55質量部であった。そして、混合物を真空土練機により混練して円柱状の成形体を形成し、円柱状の成形体を押出成形することにより、ハニカム形状の成形体を得た。
【0066】
次に、得られたハニカム形状の成形体を乾燥し、その後脱脂を行い、その後焼成して、ハニカム形状の構造体を得た。乾燥条件は、40℃で8時間乾燥させた後、更に120℃で48時間乾燥させた。脱脂の条件は、450℃で5時間とした。焼成の条件は、650℃で5時間とした。そして、得られた、ハニカム形状の構造体(焼成後)の形状は、底面が一辺30mmの正方形であり、中心軸方向の長さが150mmの四角柱であった。また、ハニカム形状の構造体の、隔壁厚さは0.3mmであり、セル密度は300セル/インチ(46.5セル/cm)であった。
【0067】
次に、金属イオンでイオン交換処理を行った。0.2(モル/リットル)の濃度の硫酸鉄水溶液(金属イオン含有溶液)に、ハニカム形状の構造体を、浸漬した。浸漬時間は、1時間とした。次に、この構造体を金属イオン含有溶液から取り出し、同じ濃度の硫酸鉄水溶液に1時間浸漬することをもう一回実施した。
【0068】
次に、ハニカム形状の構造体を、金属イオン含有溶液から取り出し、100℃で3時間乾燥させた。その後、500℃で3時間仮焼して、ハニカム形状のゼオライト構造体を得た。
【0069】
得られたゼオライト構造体について、以下の方法で、「金属イオン分布」及び「NO浄化性能」の評価を行った。結果を表1に示す。表1において、「イオン交換」の欄の「押出成形後」は、押出成形によりハニカム形状の構造体を形成した後に、金属イオンによるイオン交換処理を行ったことを意味する。また、「粉末状態」は、金属イオンによるイオン交換処理を行ったゼオライト粉末を用いて、ハニカム形状の成形体を形成し、得られたハニカム形状の成形体にはイオン交換処理を施さなかったことを意味する。「SiO/Al比」の欄は、ゼオライト粉末における、Alに対するSiOのモル比を意味する。「金属イオン」の欄は、イオン交換処理によってゼオライト構造体に含有されるようになった金属イオンを意味する。「Fe」は鉄イオン、「Cu」は銅イオンを意味する。そして、「表面部:Fe」は、隔壁の表面部に主として含有される金属イオンが鉄イオンであることを意味し、「内部:Cu」は、隔壁の内部に主として含有される金属イオンが銅イオンであることを意味する。また、「Cu、Fe均一」は、銅イオン及び鉄イオンが、隔壁全体に均一に含まれていることを意味する。「金属イオンの総量」は、隔壁全体中の金属イオン質量に対する、金属イオンを含む隔壁全体の質量の比率を意味する。「金属イオン分布」の「表面部:内部(体積基準)」の欄は、隔壁の「表面部」に含有される単位体積当たりの金属イオンの含有量(モル/cm)と、隔壁の「内部」に含有される単位体積当たりの金属イオンの含有量(モル/cm)との比を示す。また、「金属イオン分布」の「表面部:内部(ゼオライト量基準)」の欄は、「隔壁の「表面部」に含有される金属イオンの、単位ゼオライト量当たりの含有量(モル)」と、「隔壁の「内部」に含有される金属イオンの、単位ゼオライト量当たりの含有量(モル)」との比を示す。
【0070】
(金属イオン分布)
ゼオライト構造体の隔壁1枚を30mm×30mmだけ切り出し、化学分析により隔壁全体の金属イオン含有量(モル/cm)を測定する。化学分析としては、湿式分析を用いる。次に、紙やすりを用いて、隔壁の表面部(両面における表面部)を削り落とし、隔壁の内部のみを残す。得られた隔壁の内部を、化学分析して単位体積当たりの金属イオン含有量(モル/cm)を測定する。得られた隔壁全体の単位体積当たりの金属イオン含有量(モル/cm)と、隔壁の内部の単位体積当たりの金属イオン含有量(モル/cm)とから、隔壁の表面部の単位体積当たりの金属イオン含有量(モル/cm)を求める。そして、「隔壁の表面部の単位体積当たりの金属イオン含有量(モル/cm)」と、「隔壁の内部の単位体積当たりの金属イオン含有量(モル/cm)」とを対比する(表面部:内部(体積基準))。更に、ゼオライト中のシリコン元素とアルミニウム元素の合計量を、原料として用いたゼオライト粉末の量及び「当該ゼオライト粉末中のシリカ(SiO)とアルミナ(Al)の含有比(モル比)」より算出し、得られた値を単位体積当たりの値に換算して、隔壁の表面部及び内部の単位体積当たりのゼオライト量(モル/cm)とする。そして、「隔壁の表面部の単位体積当たりの金属イオン含有量(モル/cm)を、隔壁の表面部の単位体積当たりのゼオライト量(モル/cm)で除した値」と、「隔壁の内部の単位体積当たりの金属イオン含有量(モル/cm)を、隔壁の内部の単位体積当たりのゼオライト量(モル/cm)で除した値」とを対比する(表面部:内部(ゼオライト量基準))。
【0071】
(NO浄化性能)
ゼオライト構造体に試験用ガスを流し、ゼオライト構造体から排出された排出ガスのNO量をガス分析計で分析する。ゼオライト構造体に流入させる試験用ガスの温度を200℃としたときのデータと、当該温度を300℃としたときのデータとを採取する。試験に用いるゼオライト構造体としては、底面の直径が1インチ(約2.54cm)、中心軸方向長さ(セルの延びる方向における長さ)が2インチ(約5.08cm)の円筒状に切り出したものを用いる。ゼオライト構造体及び試験用ガスは、ヒーターにより温度調整することができるようにする。ヒーターとしては、赤外線イメージ炉を用いる。試験用ガスは、窒素に、二酸化炭素5体積%、酸素14体積%、一酸化窒素350ppm(体積基準)、アンモニア350ppm(体積基準)及び水10体積%が混合されたガスとする。尚、試験用ガスは、水と、その他のガスを混合した混合ガスと、を別々に準備しておき、試験を行う際に、配管中で、これらを混合させて得ることとする。ガス分析計としては、HORIBA社製「MEXA9100EGR」を用いる。また、試験用ガスが、ゼオライト構造体に流入するときの流束は、50000(時間−1)とする。表1には、「NO浄化性能」として、NOの浄化率(%)を示している。NOの浄化率は、試験用ガスのNO量から、ゼオライト構造体からの排出ガスのNO量を差し引いた値を、試験用ガスのNO量で除算し、100倍した値である。
【0072】
(HC(炭化水素)吸着性能)
図4に示す「HC吸着性能試験装置21」を用いて、ゼオライト構造体のHC(炭化水素)吸着性能(炭化水素の吸着率)を評価する。二酸化炭素、水(HO)、酸素(O)、一酸化炭素(CO)、水素(H)、一酸化窒素(NO)、炭化水素(HC)及び窒素(N)を、それぞれのガスボンベから供給し、混合器22で混合して試験用ガスとし、試験用ガスを加熱器23により加熱し、加熱された試験用ガスをゼオライト構造体24に流して吸着処理を行い、ゼオライト構造体24から排出される排出ガス中の炭化水素量を、流通開始から150秒間、分析計25で測定する。炭化水素としては、トルエンを用いた。試験用ガスは、17(NL/min(ノルマルリットル/分))でゼオライト構造体に流入させる。ゼオライト構造体に流入する試験用ガスの温度が60℃の場合と、180℃の場合において測定を行った。図4は、HC吸着性能試験装置を模式的に示すフロー図である。図4においては、ガスの流れを矢印で示している。分析計25は、解析装置(コンピュータ)26で解析するものである。分析計25としては、HORIBA社製「MEXA9100EGR」を用いた。試験用ガスに含有される各成分の含有量は、二酸化炭素が16体積%であり、水(HO)が10体積%であり、酸素(O)が0.77体積%であり、一酸化炭素(CO)が2体積%であり、水素(H)が0.33体積%であり、一酸化窒素(NO)が2000ppm(体積基準)であり、炭化水素(HC)が5000ppmC(炭化水素の炭素数倍したもの。体積基準)であり、残りが窒素(N)である。炭化水素としては、トルエンを用いた。炭化水素の吸着率は、以下のようにして求める。ゼオライト構造体と同形状で、材質がコージェライトであるハニカム構造体について、上記「HC吸着性能試験装置21」を用いて、ハニカム構造体から排出された排出ガスの炭化水素量Bを測定する。そして、材質がコージェライトであるハニカム構造体を用いて測定した炭化水素量Bから、ゼオライト構造体を用いて測定した炭化水素量Aを差し引いた値(B−A)を、材質がコージェライトであるハニカム構造体を用いて測定した炭化水素量Bで除算し、100倍して得られた値((B−A)×100/B)を炭化水素の吸着率(体積%)とする。
【0073】
【表1】

【0074】
【表2】

【0075】
(実施例2)
「SiO/Al比」を表1に示すように変え、イオン交換処理の条件の中で硫酸鉄濃度を0.05モル/リットルに変え、イオン交換時間を5時間とし、イオン交換回数を5回とした以外は、実施例1と同様にしてゼオライト構造体を作製した。実施例1の場合と同様にして、「金属イオン分布」及び「NO浄化性能」の評価を行った。結果を表1に示す。
【0076】
(実施例3)
「ゼオライト種類」をβ−ゼオライトとし、イオン交換処理に用いる金属イオン含有溶液を、硫酸銅を0.02(モル/リットル)含有し、硫酸鉄を0.04(モル/リットル)含有する水溶液とし、ハニカム形状の構造体を金属イオン含有溶液に浸漬する時間を1時間とし、イオン交換回数を10回とした以外は、実施例1と同様にしてゼオライト構造体を作製した。実施例1の場合と同様にして、「金属イオン分布」及び「NO浄化性能」の評価を行った。結果を表1に示す。
【0077】
(実施例4)
「ゼオライト種類」をβ−ゼオライトとし、イオン交換処理を以下のように行った以外は、実施例1と同様にしてゼオライト構造体を作製した。実施例1の場合と同様にして、「金属イオン分布」及び「NO浄化性能」の評価を行った。結果を表1に示す。イオン交換処理としては、まず、0.2(モル/リットル)の硫酸銅溶液にハニカム形状の構造体を1時間浸漬することを3回繰り返し、その後、100℃で3時間乾燥させ、500℃で3時間仮焼した。そして、更に、0.2(モル/リットル)の硫酸鉄溶液にハニカム形状の構造体を1時間浸漬し、その後、100℃で3時間乾燥させ、500℃で3時間仮焼した。
【0078】
(実施例5)
「ゼオライト種類」をβ−ゼオライトとし、イオン交換処理を以下のように行った以外は、実施例1と同様にしてゼオライト構造体を作製した。実施例1の場合と同様にして、「金属イオン分布」及び「NO浄化性能」の評価を行った。結果を表1に示す。イオン交換処理としては、まず、0.15(モル/リットル)の硫酸銅溶液にハニカム形状の構造体を2時間浸漬し、その後、100℃で3時間乾燥させ、500℃で3時間仮焼した。そして、更に、0.4(モル/リットル)の硫酸鉄溶液にハニカム形状の構造体を2時間浸漬し、その後、100℃で3時間乾燥させ、500℃で3時間仮焼した。
【0079】
(実施例6)
「ゼオライト種類」をβ−ゼオライトとし、イオン交換処理に用いる金属イオン含有溶液を、0.15(モル/リットル)の硫酸銅水溶液とし、ハニカム形状の構造体を金属イオン含有溶液に浸漬する時間を3時間とし、イオン交換回数を3回とした以外は、実施例1と同様にしてゼオライト構造体を作製した。実施例1の場合と同様にして、「金属イオン分布」及び「NO浄化性能」の評価を行った。結果を表1に示す。
【0080】
(実施例7)
イオン交換処理に用いる金属イオン含有溶液を、0.1(モル/リットル)の硝酸銀水溶液とし、ハニカム形状の構造体を金属イオン含有溶液に浸漬する時間を3時間とし、イオン交換回数を3回とした以外は、実施例2と同様にしてゼオライト構造体を作製した。上記方法により、「HC(炭化水素)吸着性能」の評価を行った。結果を表2に示す。
【0081】
(実施例8)
イオン交換処理に用いる金属イオン含有溶液を、0.05(モル/リットル)の硫酸銅水溶液とし、ハニカム形状の構造体を金属イオン含有溶液に浸漬する時間を2時間とし、イオン交換回数を5回とした以外は、実施例2と同様にしてゼオライト構造体を作製した。上記方法により、「HC(炭化水素)吸着性能」の評価を行った。結果を表2に示す。
【0082】
(比較例1)
「イオン交換」を「粉末状態」とし、「SiO/Al比」を表1に示すようにした以外は、実施例1と同様にしてゼオライト構造体を作製した。実施例1の場合と同様にして、「金属イオン分布」及び「NO浄化性能」の評価を行った。結果を表1に示す。
【0083】
(比較例2)
「ゼオライト種類」を「β−ゼオライト」とし、ゼオライト粉末に「金属イオン」として「銅イオン」が含まれていた以外は、比較例1と同様にしてゼオライト構造体を作製した。比較例1の場合と同様にして、「金属イオン分布」及び「NO浄化性能」の評価を行った。結果を表1に示す。
【0084】
(比較例3)
「SiO/Al比」を表1に示すようにし、ゼオライト粉末に「金属イオン」として「銅イオン」が含まれていた以外は、比較例1と同様にしてゼオライト構造体を作製した。上記方法により、「HC(炭化水素)吸着性能」の評価を行った。結果を表2に示す。
【0085】
表1より、実施例1〜6のゼオライト構造体は、200℃及び300℃における、NO浄化性能に優れていることがわかる。特に、300℃におけるNO浄化性能に優れていることが分かる。これに対し、比較例1、2のゼオライト構造体は、200℃及び300℃における、NO浄化性能に劣ることがわかる。
【0086】
表2より、実施例7,8のゼオライト構造体は、60℃及び180℃における、炭化水素の吸着率が高いことがわかる。これに対し、比較例3のゼオライト構造体は、60℃及び180℃における、炭化水素の吸着率が低いことがわかる。特に、180℃において、実施例7,8のゼオライト構造体の炭化水素の吸着率と、比較例3のゼオライト構造体の炭化水素の吸着率との差が大きいことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明のゼオライト構造体は、自動車用エンジン、建設機械用エンジン、産業用定置エンジン、燃焼機器等から排出される排ガスに含有されるNO等を浄化するために好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0088】
1:隔壁、1a:表面部、1b:内部、2:セル、3:隔壁の表面、4:外周壁、11:一方の端部、12:他方の端部、21:HC吸着性能試験装置、22:混合器、23:加熱器、24:ゼオライト構造体、25:分析計、26:解析装置、100:ゼオライト構造体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成し、金属イオンによりイオン交換されたゼオライトにより形成された隔壁、を備えるハニカム形状であり、
前記隔壁の表面部に含有される金属イオンの単位ゼオライト量当たりの含有量が、前記隔壁の内部に含有される金属イオンの単位ゼオライト量当たりの含有量より大きいゼオライト構造体。
【請求項2】
前記隔壁の表面部に含有される金属イオンの単位ゼオライト量当たりの含有量が、前記隔壁の内部に含有される金属イオンの単位ゼオライト量当たりの含有量に対して、1.1〜5.0倍である請求項1に記載のゼオライト構造体。
【請求項3】
前記隔壁の表面部に含有される金属イオンが、鉄イオン、銅イオン及び銀イオンからなる群から選択される少なくとも一種であり、前記隔壁の内部に含有される金属イオンが、鉄イオン、銅イオン及び銀イオンからなる群から選択される少なくとも一種である請求項1又は2に記載のゼオライト構造体。
【請求項4】
前記隔壁の表面部に主として含有される金属イオンと、前記隔壁の内部に主として含有される金属イオンとが、異なる金属イオンである請求項1〜3のいずれかに記載のゼオライト構造体。
【請求項5】
前記隔壁の表面部に主として含有される金属イオンが鉄イオンであり、前記隔壁の内部に主として含有される金属イオンが銅イオンである請求項4に記載のゼオライト構造体。
【請求項6】
ゼオライト粉末と成形助剤とを含有する成形原料を押出成形して、流体の流路となる一方の端面から他方の端面まで延びる複数のセルを区画形成する隔壁を備えるハニカム形状の成形体を形成し、
前記ハニカム形状の成形体を焼成し、
前記焼成したハニカム形状の成形体に対して、金属イオンでイオン交換する処理を施して、
前記隔壁の表面部に含有される金属イオンの単位ゼオライト量当たりの含有量が、前記隔壁の内部に含有される金属イオンの単位ゼオライト量当たりの含有量より大きいゼオライト構造体を作製するゼオライト構造体の製造方法。
【請求項7】
前記金属イオンが、鉄イオン、銅イオン及び銀イオンからなる群から選択される少なくとも一種である請求項6に記載のゼオライト構造体の製造方法。
【請求項8】
前記金属イオンが、少なくとも鉄イオン及び銅イオンを含む請求項7に記載のゼオライト構造体の製造方法。
【請求項9】
前記焼成したハニカム形状の成形体に対して、金属イオンでイオン交換する処理であるイオン交換処理を複数回施し、
少なくとも1回の前記イオン交換処理における前記金属イオンの種類が、残りの、前記イオン交換処理における前記金属イオンの種類とは、異なる種類である請求項6〜8のいずれかに記載のゼオライト構造体の製造方法。
【請求項10】
前記複数回のイオン交換処理のなかで、最後の前記イオン交換処理が、前記隔壁の表面部のみをイオン交換する処理であり、残りの前記イオン交換処理が、前記隔壁の前記表面部及び前記内部をイオン交換する処理である請求項9に記載のゼオライト構造体の製造方法。
【請求項11】
前記イオン交換処理を、金属イオン含有溶液を用いて行い、
前記複数回のイオン交換処理の各回において用いる前記金属イオン含有溶液の金属イオン濃度を、全て同じ濃度とし、
前記複数回のイオン交換処理のなかで、最後の前記イオン交換処理の時間が、残りの前記イオン交換処理の時間の合計の、1/2以下である請求項10に記載のゼオライト構造体の製造方法。
【請求項12】
前記イオン交換処理を、金属イオン含有溶液を用いて行い、
前記複数回のイオン交換処理のなかの最後の前記イオン交換処理に用いる金属イオン含有溶液の濃度が、前記複数回のイオン交換処理のなかの残りの前記イオン交換処理に用いる金属イオン含有溶液の濃度の、1/2以下である請求項10に記載のゼオライト構造体の構造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−116627(P2011−116627A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200078(P2010−200078)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】