説明

ゼオライト触媒、およびアダマンタン構造を有する化合物の製造方法

【課題】炭素数10以上の三環式飽和炭化水素化合物の異性化反応において高選択率および高収率でアダマンタン類を製造することができる触媒および当該触媒を用いてアダマンタン類を製造する方法を提供すること。
【解決手段】MWW型のトポロジーを有するゼオライトを含有し、全表面積に占める外表面積の割合が0.3以上であり、外表面積が145〜600m2/gである触媒である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライト触媒、およびアダマンタン構造を有する化合物(以下、アダマンタン類ということがある。)の製造方法に関する。さらに詳しくは、特定のゼオライトを含有し、高選択率および高収率でアダマンタン類を製造することができる触媒、および当該触媒を使用するアダマンタン類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アダマンタンは、シクロヘキサン環が4個、かご型に結合した構造を有し、対称性が高く、安定な化合物であり、このようなアダマンタン構造を有する化合物は、特異な機能を示すことから、潤滑油、レジストなどの電子材料、農医薬品の原料および高機能性工業材料の原料などとして有用であることが知られている。このアダマンタン類を製造する方法として、一般的に、炭素数10以上の三環式飽和炭化水素化合物を異性化する方法が採用されている。例えば、アダマンタンはジシクロペンタジエン(DCPD)を水添して得られるトリメチレンノルボルナン(TMN)を触媒により異性化させることによって得られ、該触媒として工業的には塩化アルミニウムが通常用いられている(例えば、特許文献1参照)。また陽イオン交換したゼオライトに白金、レニウム、ニッケル、コバルト等の活性金属を担持したものを用いるアダマンタン類の製造方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
上記のように種々の触媒がアダマンタン類の製造用触媒として知られているが、それぞれ課題が残されておりさらなる技術開発が求められている。例えば、塩化アルミニウムを使用してアダマンタン類を製造する場合、原料に対する触媒使用量を多くする必要がある。しかも、この触媒は反応中に副生する重質分と錯形成するため、反応終了後に触媒として再使用することが出来ない。したがってこの方法を用いた場合、大量の廃アルミニウムが生成することとなり、廃棄処理は環境汚染という問題を生じさせることになる。また、塩化アルミニウムは強腐食性であるため、高価な耐腐食性材質の装置を使用する必要がある。さらに塩化アルミニウムを用いた場合、生成したアダマンタン類が着色するため、再結晶及び活性炭などによる脱色工程が必要となり、後処理が煩雑になるという欠点を有する。
【0004】
また、回分反応で、陽イオン交換した超安定Y型ゼオライトまたはY型ゼオライトに、白金、レニウム、ニッケル、コバルト等の金属を含浸法で担持した触媒を使用する場合は、比較的アダマンタン類の収率が高くなるが、塩化水素の共存が必須であり、共存させないとアダマンタン類の収率が低い(非特許文献1、2)。この場合、塩化水素が強腐食性であるため、高価な耐腐食性材質の装置を使用する必要があるなどの問題がある。
【0005】
また、塩化水素を共存させずに、陽イオン交換したY型ゼオライトに1質量%以下の白金を担持させた触媒を用いて流通反応でアダマンタン類を製造する場合(例えば、特許文献3)、副反応による水素化分解生成物が多いためにアダマンタン類の選択率が低く収率も低くなる(TMN転化率91.5%、アダマンタン選択率16.1%、アダマンタン収率15.5%)。さらに、触媒劣化抑制のため高圧水素下の条件が必須であり、副生する水素化分解生成物の抑制は難しくアダマンタン選択率の向上は困難という欠点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−235826号公報
【特許文献2】特公昭52−2909号公報
【特許文献3】特開2005−118718号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Guo Jianwei et al. PETROCEMICHAL INDUSTRY, 1998, vol.27, No.1
【非特許文献2】GAO Zi et al. CHINESE Journal of chemistry, 1994, vol.12, No.1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、炭素数10以上の三環式飽和炭化水素化合物の異性化反応において高選択率および高収率でアダマンタン類を製造することができる触媒および当該触媒を用いてアダマンタン類を製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、特定のゼオライト触媒により上記課題が解決することを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち本発明は、
1. MWW型のトポロジーを有するゼオライトを含有し、全表面積に占める外表面積の割合が0.3以上であり、外表面積が145〜600m2/gである触媒、
2. 前記ゼオライトの結晶サイズが0.1〜40nmである前記1に記載の触媒、
3. Si/Al(mol/mol)が5〜17である前記1または2に記載の触媒、
4. 前記触媒が活性金属担持触媒であって、当該活性金属が周期律表第8族〜10族に属する金属およびレニウムから選ばれる金属である前記1〜3のいずれかに記載の触媒、
5. 前記活性金属が白金である前記4に記載の触媒、
6. 前記活性金属の担持量が、触媒全量基準で1質量%以下である前記4または5に記載の触媒、
7. 以下の工程1〜4
工程1:水熱合成法によりゼオライト前駆体を調製する工程
工程2:工程1の後に焼成する工程
工程3:工程2の後にアンモニウムイオン交換処理または酸処理を行う工程
工程4:工程3の後に焼成する工程
を含む、前記1〜6のいずれかに記載の触媒の製造方法であって、工程1において、別途製造した、MWW型のトポロジーを有するゼオライトおよび/またはゼオライト前駆体を原料に添加して水熱合成を行うことを特徴とする触媒の製造方法、
8. 前記1〜6のいずれかに記載の触媒を用いて、炭素数10以上の三環式飽和炭化水素化合物を異性化してアダマンタン構造を有する化合物を製造する方法、および
9. 三環式飽和炭化水素化合物が、トリメチレンノルボルナン、ジメチルトリメチレンノルボルナン、パーヒドロアセナフテン及びパーヒドロフルオレンから選ばれる化合物である、前記8に記載の製造方法
に関するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、炭素数10以上の三環式飽和炭化水素化合物の異性化反応において高選択率および高収率でアダマンタン類を製造することができる触媒および当該触媒を用いてアダマンタン類を製造する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1で得られた触媒(触媒A)のX線回折パターンである。
【図2】実施例2で得られた触媒(触媒B)のX線回折パターンである。
【図3】実施例3で得られた触媒(触媒C)のX線回折パターンである。
【図4】実施例4で得られた触媒(触媒D)のX線回折パターンである。
【図5】比較例1で得られた触媒(触媒E)のX線回折パターンである。
【図6】比較例2で得られた触媒(触媒F)のX線回折パターンである。
【図7】比較例3で得られた触媒(触媒G)のX線回折パターンである。
【図8】比較例4で得られた触媒(触媒H)のX線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のゼオライト触媒は、MWW型のトポロジーを有するゼオライトを含有する触媒である。MWW型のトポロジーを有するゼオライトの具体例としては、MCM−22ゼオライト、SSZ−25ゼオライト、ITQ−1ゼオライト、PSH−3ゼオライトおよびERB−1ゼオライトが挙げられる。
【0013】
ゼオライト物質の命名法はインターナショナル・ゼオライト・アソシエーツのストラクチャー・コミッション(IZA−SC)によって決定される。該コミッションには、IUPACによって、全ての確認された特有のフレーム構造のトポロジーを有するゼオライトに対して構造型コードを帰属させる権限が付与されている。現在では、最終的な用語は、ゼオライト構造型のアトラス(第4版、著者:W.M.マイヤー、D.H.オルソン、Ch.ベロッハー)に記録されており、また、次のウェブサイトにおいて定期的に改訂されている記録にアクセスすることができる:www.iza-sc.ethz.ch/IZA-SC/Atlas/AtlasHome.html。このハンドブックには、新規な独立構造を有すると考えられる各々のゼオライト型のトポロジーが記録されており、現在では、約125種の独立したゼオライト構造が掲載されている。IZA−SCによってMWW型トポロジーとして帰属されたゼオライト物質は多層物質であって、10員環と12員環の存在に起因する2つの細孔を有する。ゼオライト構造型のアトラスにおいては、この同じトポロジーを有するものを異なった5種の物質、(すなわち、MCM−22ゼオライト、ERB−1ゼオライト、ITQ−1ゼオライト、PSH−3ゼオライトおよびSSZ−25ゼオライト)に分類している。MWW型ゼオライトは種々の用途を有するものとして記載されている。米国特許第4826667号明細書には、SSZ−25ゼオライトが主として接触炭化水素変換反応、例えば、接触分解、水素化分解、水素化脱蝋、オレフィンと芳香族化合物形成反応(例えば、キシレン異性化)において有用なだけでなく、吸着剤、充填剤および軟水化剤としても有用であることが記載されている。米国特許第4954325号明細書には、MCM−22ゼオライトとして知られている物質の16種類の異なる用途が記載されている。
【0014】
本発明のゼオライト触媒は、全表面積に占める外表面積の割合(外表面比率と表すことがある。)が0.3以上である。外表面比率が0.3以上の触媒においては、外表面比率が大きいほどアダマンタン類の収率が増加する傾向がある。その上限については特に制限はないが、通常0.6以下である。また、本発明のゼオライト触媒は、外表面積が145〜600m2/gである。外表面積が145m2/g未満であるとアダマンタン類の収率が低くなり、600m2/gを超えるゼオライトは通常は合成が困難である。
なお、本発明において上記外表面比率および外表面積を求めるために、多孔質物質の比表面積を測定する方法として一般に用いられる、窒素吸着法を用いた。
窒素吸着法とは、乾燥処理した試料をガラス製のセルに入れて真空脱気し、77Kの温度にて少量ずつ窒素ガスを導入し、平衡圧と吸着量を測定するものであり、BET表面積を測定する一般的な方法である。この測定法で得られる吸着等温線を用いて、細孔を有する試料に対するt−plot解析を行う。「t−plot解析」は、上記の窒素吸着法によって得たデータを解析するものである。これはt−曲線すなわち吸着膜の厚さtを相対圧p/p0に対してプロットした標準等温線を用いるものである(Lippens、de Boerによるt−plot法)。具体的には下記の式(1)によって表される。
t=(V/Vm)σ (1)
(上記式中、tは吸着膜の厚さを表し、v/vmは吸着膜中の平均吸着層数を表し、σは単分子層の厚さを表すものである)
吸着量vをtにプロットしたものがt−plotであり、細孔の孔径に対応するt値で折れた直線が得られる。高圧側、即ち、t値の大きい方の直線の傾きから、細孔を有する試料の外表面積が得られる。窒素吸着法の測定とBET表面積、t−plotによる外表面積の解析は、例えば日本ベル株式会社やユアサアイオニクス社等の市販の吸着測定装置を用いて行うことができる。
【0015】
本発明の触媒中のゼオライトの結晶サイズは、通常0.1〜40nm、好ましくは1〜40nmである。通常の合成法によれば、結晶サイズは0.1nm以上となり、40nm以下であることで、アダマンタン類の収率が向上する。尚、結晶サイズは、XRD測定から得られるX線回折パターンの2θ=26°±1付近に現れるピークの半値幅を用いて、以下に示す(2)式より求めた計算値である。
D=Kλ/Bcosθ (2)
(上記式中、Dは結晶サイズを表し、Kはシェラー定数を表し、λはX線波長を表し、Bは結晶サイズが有限である事に起因する回折線幅の広がりを表し、θはXRD測定から求めたピークの回折角度(RAD)を表すものである)
本発明においては、シェラー定数として0.9、X線波長はCuKα1線(1.5406Å)を使用した。装置特有の線幅の測定は、NBS標準シリコンSRM640a(平均粒子径6μm)を用いて、2θ=28.4°付近に現れるSi(111)回折ピークの半値幅を測定した。
X線回折パターンは、例えば、株式会社理学製粉末X線回折装置UltimaIIIなど
で測定することができる。
【0016】
本発明の触媒は、Si/Al(mol/mol)が、通常5〜17好ましくは5.5〜16である。この範囲内であることで、ゼオライトの結晶サイズが小さくなり、アダマンタン類の収率が向上する。
【0017】
本発明で用いるMWW型のトポロジーを有するゼオライトの製造方法は特に限定されないが、例えば、以下のように水熱合成法によりゼオライト前駆体を調製し、焼成、アンモニウムイオン交換等の処理、再度焼成することによって、本発明で用いるゼオライトを製造することができる。
【0018】
前記ゼオライト前駆体は、例えば、ヒュームドシリカなどのシリカ源、アルミン酸ナトリウムなどのアルミニウム源、アルカリ金属水酸化物などの塩基やフッ化物などの鉱化剤、鋳型となる有機アミン又はその塩、及び溶媒を加熱処理する水熱合成法により得られるものである。鋳型となる有機アミン又はその塩としては、アダマンタン第四級アンモニウムイオン、ヘキサメチレンイミン、ピペリジンなどが挙げられ、特にヘキサメチレンイミンが好ましい。水熱合成法の反応条件は特に制限されないが、通常80〜225℃、1〜60日間で行われる。
上記の水熱合成にて得られたゼオライト前駆体を焼成することでMWWトポロジーを有するゼオライトが得られる。焼成処理は、通常の方法によって行うことができるが、例えば、200〜700℃の範囲で、空気、窒素などの雰囲気中、大気圧下、減圧下もしくは加圧下で、0.5〜48時間加熱することにより行うことができる。
【0019】
アンモニウムイオン交換処理は、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム等のアンモニウム塩の水溶液を用いて行うことができる。また、アンモニウムイオン交換処理の代わりに、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸やギ酸、酢酸等の有機酸を用いて酸処理を行ってもよい。
上記の処理の後に焼成することでプロトン型のMWWトポロジーを有するゼオライトが得られる。焼成処理は、通常の方法によって行うことができるが、例えば、200〜700℃の範囲で、空気、窒素などの雰囲気中、大気圧下、減圧下もしくは加圧下で、0.5〜48時間加熱することにより行うことができる。
上記の方法により、本発明で用いるゼオライトを製造することができるが、特に、外表面積や結晶サイズは、Si/Al比によって調節することができる。
【0020】
さらに、前記ゼオライト前駆体を調製する際に、別途製造したMWW型のトポロジーを有するゼオライトやゼオライト前駆体を原料に添加し、これを用いて水熱合成してもよい。この方法によれば水熱合成の時間を大幅に短縮することができ、本願発明のゼオライト触媒を効率よく調製することができる。この際添加するMWW型のトポロジーを有するゼオライトやゼオライト前駆体の添加量は、シリカの仕込み量に対し、通常0.001〜60質量%、好ましくは1〜40質量%である。
【0021】
本発明の触媒は、活性金属担持触媒であってもよい。活性金属を担持させることで触媒劣化が抑制される。当該活性金属としては、例えば、周期律表第8〜10族に属する金属及びレニウムが挙げられ、好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、白金およびレニウムから選ばれる金属であり、特に白金が好適である。これらの活性金属は一種を単独で担持させてもよく、二種以上を組み合わせて担持させてもよい。活性金属の担持量は特に制限はないが、触媒活性の点から触媒全量基準で通常1質量%以下であり、好ましくは、0.0001〜1質量%の範囲である。この範囲であると触媒劣化が抑制され、かつ、アダマンタン類が高収率で得られる。
【0022】
活性金属の担持方法としては、イオン交換法や含浸法が挙げられる。
イオン交換法の場合、該活性金属の塩又は錯塩水溶液を所定のゼオライトと接触させ、このゼオライト中のカチオンサイト、例えばアルカリ金属イオン、H+、NH4+などをイオン交換したのち、乾燥処理後、焼成処理することにより、所望の触媒を得ることができる。
含浸法の場合、所定のゼオライトと活性金属の塩又は錯塩を混合したのち、常法に従って水分を留去させ、次いで乾固物を焼成処理することにより、所望の触媒を得ることができる。
焼成処理の温度は、イオン交換法で用いる金属の種類や含浸法で用いる金属の種類などに応じて、適宜選定される。このようにして得られた本発明の触媒の形状については特に制限はなく、粉末状、粒状、円柱状など任意であってよい。
【0023】
本発明の触媒は、三環式飽和炭化水素化合物の異性化反応用触媒として好適に用いられ、特に炭素数10以上の三環式飽和炭化水素化合物を原料とすることで、アダマンタン構造を有する化合物を高選択率および高収率で製造することができる。以下においてアダマンタン構造を有する化合物の製造方法について説明する。
【0024】
本発明のゼオライト触媒を用いるアダマンタン類の製造方法において、原料としては炭素数10以上の三環式飽和炭化水素化合物が挙げられる。これらの中でも炭素数が10〜15の三環式飽和炭化水素化合物であって炭素−炭素結合間の歪が比較的大きいものが好ましく、例えば、トリメチレンノルボルナン[テトラヒドロジシクロペンタジエン]、ジメチルトリメチレンノルボルナン、パーヒドロアセナフテン、パーヒドロフルオレン、パーヒドロフェナレン、1,2−シクロペンタノパーヒドロナフタリン、パーヒドロアントラセン、パーヒドロフェナントレンなどが挙げられる。さらに、これら化合物のアルキル置換体、例えば、9−メチルパーヒドロアントラセンなども好適なものとして挙げられる。これらの中では、特にトリメチレンノルボルナン、ジメチルトリメチレンノルボルナン、パーヒドロアセナフテン及びパーヒドロフルオレンが好適である。
これらの炭素数10以上の三環式飽和炭化水素化合物は、ジシクロペンタジエンやアセナフテンなどの原料化合物を、公知の水素添加用触媒、例えば、ラネーニッケルや白金などの存在下に水素添加することにより容易に得ることができる。
【0025】
前記炭素数10以上の三環式飽和炭化水素化合物を異性化するに際して、単環式飽和炭化水素化合物、芳香族化合物、水、アルコール類などを併存させて反応を行うことができる。これらの化合物の存在下で反応を行うと、アダマンタン類の選択率が向上する。
ここで、併存させる単環式飽和炭化水素化合物としては、例えば、シクロペンタン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどが挙げられる。特に、シクロヘキサン若しくはエチルシクロヘキサン又はこれらの混合物が好適である。また、芳香族化合物としては、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、アントラセンなどの芳香族炭化水素;フェノール、ベンズアルデヒド、安息香酸、ベンジルアルコール、アニソールなどの含酸素芳香族化合物;アニリン、ニトロベンゼンなどの含窒素芳香族化合物;クロロベンゼン、ブロモベンゼンなどの含ハロゲン芳香族化合物などが挙げられる。これら芳香族化合物の中でも、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、アントラセンなどの芳香族炭化水素化合物が特に好ましい。一方、アルコール類としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、tert−ブチルアルコール、ベンジルアルコールなどの一価アルコールや、エチレングリコール、グリセリンなどの多価アルコールなどが挙げられる。
これら併存させる化合物の添加量は特に制限はなく、各種状況に応じて適宜選定することができる。
【0026】
異性化反応の反応温度は、高すぎると分解反応による副生成物が増加し、アダマンタン類の選択率が低くなりアダマンタン類の収率が低下する傾向がある。また反応温度が低すぎると、原料の転化率が低下しアダマンタン類の収率が低下する傾向がある。したがって、反応温度は、通常150〜450℃、好ましくは200〜400℃であり、更に好ましくは、250〜350℃である。この範囲内においては、反応温度が高いほどアダマンタン類の収率は高くなる。
異性化反応の反応圧力は、通常は常圧もしくは加圧下に行う。液相反応になるように加圧下で行うことが望ましい。
異性化反応は水素共存下で行ってもよい。水素を共存させることで触媒劣化が抑制される。
【0027】
反応形式は、流通式、回分式のいずれであってもよい。流通式の場合は、重量空間速度(WHSV)は、通常、0.01〜50h-1、好ましくは0.1〜30h-1の範囲で選定され、WHSVが小さくなるほどアダマンタン類の収率は高くなる。水素/炭素数10以上の三環式飽和炭化水素化合物のモル比は、通常0〜10、好ましくは0〜5の範囲である。当該範囲内であることでアダマンタン類の収率が増加する。一方、回分式の場合、触媒/原料質量比で、通常0.01〜2、好ましくは0.05〜1の範囲で選定される。また、反応時間は、通常1〜50時間程度である。
【実施例】
【0028】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。なお、以下の計算により触媒性能を評価した。
(1)転化率:(1−反応後の原料質量/反応前の原料質量)×100(質量%)
(2)アダマンタン(ADM)類選択率:[生成したADM類の質量/(反応前の原料質量−反応後の原料質量)]×100(質量%)
(3)アダマンタン(ADM)類収率:(生成したADM類の質量/反応前の原料質量)×100(質量%)
【0029】
〔実施例1〕触媒Aの調製
テフロン(登録商標)容器に純水131g、アルミン酸ナトリウム2.33g、水酸化ナトリウム0.008g、ヘキサメチレンイミン8.25g、ヒュームドシリカ10.0gを加え、室温で0.5時間撹拌し、ゲルを調製した。得られたゲルをテフロン(登録商標)製のオートクレーブに仕込み、水熱合成装置にて20rpmで攪拌しながら、150℃で168時間加熱した。得られた結晶生成物をろ過、水洗後、120℃で一晩乾燥した。乾燥した結晶生成物を、空気雰囲気下540℃で12時間焼成することで白色粉末を得た。
得られた白色粉末のうちの4gに、1mol/Lの硝酸アンモニウム水溶液400gを加え80℃で1時間加熱撹拌した後、ろ過、水洗した。この操作を4回繰り返すことで、アンモニウムイオン交換を行った。イオン交換後の白色粉末を120℃で乾燥した後、540℃で12時間焼成することで、プロトン型のMWWトポロジーを有するゼオライトを白色粉末として得た。
0.0072gのPt(NH34Cl2・H2Oを純水2.8mlに溶かした水溶液を調製した。上記の白色粉末4gに、Pt(NH34Cl2・H2O水溶液を数滴ずつ滴下しよく混練した。全てのPt(NH34Cl2・H2O水溶液を添加後、空気中、300℃で3時間焼成し、0.1質量%Pt担持触媒を得た。得られた触媒Aの物性を第1表に、Cu−Kα放射線を使用したX線回折装置を用いて、X線回折パターンを測定した結果を図1に示す。
【0030】
〔実施例2〕触媒Bの調製
アルミン酸ナトリウム3.88gとし、水酸化ナトリウムを添加しなかった以外は実施例1と同様にして触媒を調製した。得られた触媒Bの物性を第1表に、X線回折パターンを図2に示す。
【0031】
〔実施例3〕触媒Cの調製
アルミン酸ナトリウム1.55g、水酸化ナトリウム0.34gとした以外は実施例1と同様にして触媒を調製した。得られた触媒Cの物性を第1表に、X線回折パターンを図3に示す。
【0032】
〔実施例4〕触媒Dの調製
ゲル調製時に実施例1で得られた白色粉末をシリカの質量に対して10質量%添加し加熱時間を96時間とした以外は実施例1と同様にして触媒を調製した。得られた触媒Dの物性を第1表に、X線回折パターンを図4に示す。
【0033】
〔比較例1〕触媒Eの調製
アルミン酸ナトリウム5.81gとし、水酸化ナトリウムを添加しなかった以外は実施例1と同様にして触媒を調製した。得られた触媒Eの物性を第1表に、X線回折パターンを図5に示す。
【0034】
〔比較例2〕触媒Fの調製
アルミン酸ナトリウム1.30g、水酸化ナトリウム0.44gとした以外は、実施例1と同様にして触媒を調製した。得られた触媒Fの物性を第1表に、X線回折パターンを図6に示す。
【0035】
〔比較例3〕触媒Gの調製
アルミン酸ナトリウム0.93g、水酸化ナトリウム0.60gとした以外は、実施例1と同様にして触媒を調製した。得られた触媒Gの物性を第1表に、X線回折パターンを図7に示す。
【0036】
〔比較例4〕触媒Hの調製
加熱時間を96時間とした以外は、実施例1と同様にして触媒を調製した。得られた触媒Hの物性を第1表に、X線回折パターンを図8に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
〔実施例5〕
実施例1で得られた触媒2gをSUS製の反応管に充填し、常圧、空気気流中300℃で3時間焼成した。その後、77質量%トリメチレンノルボルナン(TMN)のエチルシクロヘキサン溶液の供給を開始し、300℃、反応圧力6MPa、H2/TMN=2.5、WHSV=7h-1(TMN基準)の条件で連続的に反応を行った。原料供給開始50時間後の結果を第2表に示す。
【0039】
〔実施例6〕
反応温度を325℃とした以外は、実施例5と同様にして反応を行った。原料供給開始50時間後の結果を第2表に示す。
【0040】
〔実施例7〕
WHSVを1.75h-1(TMN基準)とした以外は、実施例5と同様にして反応を行った。原料供給開始50時間後の結果を第2表に示す。
【0041】
〔実施例8〕
実施例2で調製した触媒を用いた以外は、実施例5と同様にして反応を行った。原料供給開始50時間後の結果を第2表に示す。
【0042】
〔実施例9〕
実施例2で調製した触媒、WHSVを1.75h-1(TMN基準)とした以外は、実施例5と同様にして反応を行った。原料供給開始50時間後の結果を第2表に示す。
【0043】
〔実施例10〕
実施例3で調製した触媒を用いた以外は、実施例5と同様にして反応を行った。原料供給開始50時間後の結果を第2表に示す。
【0044】
〔実施例11〕
実施例3で調製した触媒、WHSVを1.75h-1(TMN基準)とした以外は、実施例5と同様にして反応を行った。原料供給開始50時間後の結果を第2表に示す。
【0045】
〔実施例12〕
実施例4で調製した触媒を用いた以外は、実施例5と同様にして反応を行った。原料供給開始50時間後の結果を第2表に示す。
【0046】
〔実施例13〕
原料を80質量%パーヒドロアセナフテンのエチルシクロヘキサン溶液とした以外は、実施例5と同様にして反応を行った。原料供給開始50時間後の結果を第2表に示す。
【0047】
〔実施例14〕
原料を80質量%パーヒドロフルオレンのエチルシクロヘキサン溶液とした以外は、実施例5と同様にして反応を行った。原料供給開始50時間後の結果を第2表に示す。
【0048】
〔比較例5〕
比較例1で得られた触媒2gをSUS製の反応管に充填し、常圧、空気気流中300℃で3時間焼成した。その後、77質量%トリメチレンノルボルナン(TMN)のエチルシクロヘキサン溶液の供給を開始し、300℃、反応圧力6MPa、H2/TMN=2.5、WHSV=7h-1(TMN基準)の条件で連続的に反応を行った。原料供給開始50時間後の結果を第2表に示す。
【0049】
〔比較例6〕
比較例2で調製した触媒を用いた以外は、比較例5と同様に反応を行った。原料供給開始50時間後の結果を第2表に示す。
【0050】
〔比較例7〕
比較例3で調製した触媒を用いた以外は、比較例5と同様に反応を行った。原料供給開始50時間後の結果を第2表に示す。
【0051】
〔比較例8〕
比較例2で調製した触媒、WHSVを1.75h-1(TMN基準)とした以外は、比較例5と同様にして反応を行った。原料供給開始50時間後の結果を第2表に示す。
【0052】
〔比較例9〕
比較例3で調製した触媒、WHSVを1.75h-1(TMN基準)とした以外は、比較例5と同様にして反応を行った。原料供給開始50時間後の結果を第2表に示す。
【0053】
〔比較例10〕
比較例4で調製した触媒を用いた以外は、比較例5と同様にして反応を行った。原料供給開始50時間後の結果を第2表に示す。
【0054】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、炭素数10以上の三環式飽和炭化水素化合物の異性化反応に用いられる触媒が得られ、当該触媒を用いることで高選択率および高収率でアダマンタン類を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MWW型のトポロジーを有するゼオライトを含有し、全表面積に占める外表面積の割合が0.3以上であり、外表面積が145〜600m2/gである触媒。
【請求項2】
前記ゼオライトの結晶サイズが0.1〜40nmである請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
Si/Al(mol/mol)が5〜17である請求項1または2に記載の触媒。
【請求項4】
前記触媒が活性金属担持触媒であって、当該活性金属が周期律表第8族〜10族に属する金属およびレニウムから選ばれる金属である請求項1〜3のいずれかに記載の触媒。
【請求項5】
前記活性金属が白金である請求項4に記載の触媒。
【請求項6】
前記活性金属の担持量が、触媒全量基準で1質量%以下である請求項4または5に記載の触媒。
【請求項7】
以下の工程1〜4
工程1:水熱合成法によりゼオライト前駆体を調製する工程
工程2:工程1の後に焼成する工程
工程3:工程2の後にアンモニウムイオン交換処理または酸処理を行う工程
工程4:工程3の後に焼成する工程
を含む、前記1〜6のいずれかに記載の触媒の製造方法であって、工程1において、別途製造した、MWW型のトポロジーを有するゼオライトおよび/またはゼオライト前駆体を原料に添加して水熱合成を行うことを特徴とする触媒の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の触媒を用いて、炭素数10以上の三環式飽和炭化水素化合物を異性化してアダマンタン構造を有する化合物を製造する方法。
【請求項9】
三環式飽和炭化水素化合物が、トリメチレンノルボルナン、ジメチルトリメチレンノルボルナン、パーヒドロアセナフテン及びパーヒドロフルオレンから選ばれる化合物である、請求項8に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−5446(P2011−5446A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−152788(P2009−152788)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】