説明

ソフトカプセル剤

【課題】卵黄リゾリン脂質を高配合した油脂組成物を充填したソフトカプセル剤において、カプセル充填に適性な流動性を付与し、保存中の油分離や非油溶性成分の沈殿を抑制したソフトカプセル剤を提供する。
【解決手段】油脂組成物に対し、卵黄リゾリン脂質及び遊離脂肪酸を合計60%以上、卵黄リゾリン脂質を20〜60%、遊離脂肪酸を20%以上、デキストリンを0.1〜5%配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卵黄リゾリン脂質を高配合した油脂組成物を充填したソフトカプセル剤において、カプセル充填に適性な流動性を付与し、保存中の油分離や非油溶性成分の沈殿を抑制したソフトカプセル剤に関する。
【背景技術】
【0002】
卵黄リン脂質は、様々な生理機能を有し、その有用性を期待して多くの食品に利用されている。本出願人は卵黄リン脂質とビタミンB12とを共に摂取することにより、脳機能が改善されることを見出し、特許(特許第3073224号(特許文献1))を出願している。脳機能改善機能は、卵黄リン脂質が脳の神経伝達に深く関わるアセチルコリンの原料となるとともに、ビタミンB12がアセチルコリン合成酵素の補酵素となることにより、脳内のアセチルコリン濃度が増加することによるものと考えられている。その他、卵黄リン脂質は血清コレステロール低下作用等様々な生理機能を有している。
【0003】
また、本発明者は卵黄リン脂質が酵素等によりモノアシル化された卵黄リゾリン脂質とすることにより、卵黄リン脂質の消化管からの吸収がより促進され、速やかに血中へ移行することを確認している。即ち、SD系ラットに、卵黄リン脂質あるいは卵黄リゾリン脂質を、コリン量が同等となる量を投与し、投与前及び投与後2、4、8及び24時間目の血清コリン濃度を経時的に観察した。経口投与前の血清コリン濃度と比較して卵黄リン脂質群、卵黄リゾリン脂質群ともに投与後2時間目以降に増加が見られ、卵黄リゾリン脂質群の血清コリン濃度は、投与後2時間目に最大値を示し、その後低下したのに対し、卵黄リン脂質群は4時間目に最大値を示した。投与後2時間目の卵黄リゾリン脂質群の血清コリン濃度は、卵黄リン脂質群に比べ有意に高い値を示した(p<0.01)。投与後24時間目までの血清コリンのAUC(濃度時間曲線下面積)を比較すると、卵黄リゾリン脂質群は卵黄リン脂質群に比べ高い値を示した。したがって、投与後24時間目までに血中へ到達したコリン量の合計値が高いことをラットによる動物実験で確認している。卵黄リン脂質を摂取した場合、血清コリン濃度の上昇とともに脳内アセチルコリン濃度も上昇することが確認されているため、卵黄リゾリン脂質を摂取した場合は、卵黄リン脂質を摂取する場合よりも脳機能改善効果も高まることが期待できる。
【0004】
このような生体に有益な卵黄リゾリン脂質を摂取する場合、ソフトカプセルに充填する形状が最も好ましい。しかし、卵黄リン脂質の中でも、卵黄リゾリン脂質は、各種分散基材に希釈しても流動性が乏しく、工業的にソフトカプセル等に充填し、ソフトカプセル剤を製することが困難であった。また、保存中にソフトカプセル内容物の油分離や非油溶性成分の沈殿が起こり品位を損ねることが分かった。
【0005】
そこで、本出願人は、卵黄レシチンを中鎖脂肪(以下MCT)と混合することにより、流動性に富み、カプセルへの充填適性に優れ、かつ析出物の生じることのない食品用卵黄レシチン混合物を発明するに至り、特許(特許第3061777(特許文献2))を取得した。しかし、上記の理由により吸収性を向上し血中移行を促進する目的で、卵黄リン脂質をモノアシル化した卵黄リゾリン脂質を用いる際には、流動性の点において充填適性が充分でないことを確認した。特許第2821779(特許文献3)にはリゾレシチン90〜99%、中鎖脂肪酸トリグリセリド1〜10%、さらには遊離脂肪酸を5%以下含有するリゾレシチン組成物が開示されているが、ソフトカプセルへの充填に適性な流動性を得るには至っていない。また、保存中の油分離や非油溶性成分の沈殿抑制に関しての検討は一切なされていない。
【特許文献1】特許第3073224号公報
【特許文献2】特許第3061777号公報
【特許文献3】特許第2821779号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、卵黄リゾリン脂質を高配合した油脂組成物を充填したソフトカプセル剤において、カプセル充填に適性な流動性を付与し、保存中の油分離や非油溶性成分の沈殿を抑制したソフトカプセル剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、卵黄リゾリン脂質を高配合した油脂組成物を充填したソフトカプセル剤において、油脂組成物に遊離脂肪酸とデキストリンを配合することにより、意外にも、油脂組成物を充填するのに適性な流動性の付与効果と、保存中の分離や沈殿の抑制効果を見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)卵黄リゾリン脂質を高配合した油脂組成物を充填したソフトカプセル剤において、油脂組成物に対し、卵黄リゾリン脂質及び遊離脂肪酸を合計60%以上、卵黄リゾリン脂質を20〜60%、遊離脂肪酸を20%以上、デキストリンを0.1〜5%配合したソフトカプセル剤。
(2)ビタミンB12を配合した油脂組成物である、(1)記載のソフトカプセル剤。
(3)油脂組成物中のコレステロール含有量が0.1〜1.5%である、(1)又は(2)記載のソフトカプセル剤。
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、卵黄リゾリン脂質を高配合した油脂組成物について、カプセル充填するのに適性な流動性の付与効果と、保存中の油分離や非油溶性成分の沈殿抑制効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明のソフトカプセル剤を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を意味する。
【0011】
本発明でいうソフトカプセル剤は、内容物をゼラチン等の適切なカプセル基材にグリセリン又はソルビトール等を加えて可塑性を増し、一定の形状に被包成型されたカプセル剤をいう。内容物が食品組成物である食品サプリメント、及び内容物が医薬組成物である軟カプセル剤をいう。
【0012】
本発明のソフトカプセル剤は、生理活性物質である卵黄リゾリン脂質を摂取しやすくするために、卵黄リゾリン脂質を20%以上と高配合した油脂組成物を充填したものである。本発明で使用する卵黄リゾリン脂質は、卵黄より卵黄脂質に含まれるリン脂質、即ちホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリン等を抽出、精製した卵黄リン脂質を酵素処理(ホスフォリパーゼ等)、酸処理、アルカリ処理等によりモノアシル化したものをいう。あるいは、卵黄を酵素処理(ホスフォリパーゼ等)、酸処理、アルカリ処理によりモノアシル化し、リン脂質を抽出、精製して得られるものをいう。卵黄リン脂質の抽出、精製方法により得られる卵黄リゾリン脂質含有量、リン脂質組成が異なるが、卵黄リゾリン脂質を無理なく摂取するためには卵黄抽出物中の卵黄リゾリン脂質含有量は60%以上が好ましく、80%以上がより好ましい。
【0013】
本発明で使用する遊離脂肪酸は、食品あるいは医薬品用途に使用できるものであれば特に限定されないが、例えばヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸等の中鎖脂肪酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等の飽和脂肪酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、イコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等の不飽和脂肪酸等が挙げられる。また、食品や医薬品用途として使用するには天然の油脂をリパーゼ処理等により加水分解し、遊離脂肪酸濃度を高めた油脂を得ることができ、本発明は、この油脂を添加することにより、遊離脂肪酸を配合することができる。また、上述の油脂中の遊離脂肪酸含有量は、油脂分解生成物その他の物質の混入を低減させる目的で、80%以上が好ましく、90%以上がさらに好ましい。
【0014】
本発明で使用するデキストリンは、デンプンの加水分解により得られるものであり、種々のものが使用できる。具体的には、例えば、マルトデキストリン、アクロデキストリン、エリスロデキストリン、アミロデキストリン又は分岐デキストリン等が挙げられる。
【0015】
本発明のソフトカプセル剤は、内容物である油脂組成物において、卵黄リゾリン脂質及び遊離脂肪酸を合計60%以上(好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上)、卵黄リゾリン脂質を20〜60%(好ましくは25〜55%、さらに好ましくは30〜50%)、遊離脂肪酸を20%以上(好ましくは25%以上、さらに好ましくは30%以上)、デキストリンを0.1〜5%(好ましくは0.1〜3%、さらに好ましくは0.2〜2%)配合したものである。
卵黄リゾリン脂質について、配合量が60%より多い場合は、良好な流動性を得ることができず、ソフトカプセルに充填しづらくなる恐れがある。配合量が20%未満の場合は、有効成分である卵黄リゾリン脂質が希釈されることにより、必要量を摂取するために大量の組成物を食する必要があるという不都合が生じる場合がある。
遊離脂肪酸について、配合量が20%未満の場合は、適性な流動性が得られなくなる可能性がある。
デキストリンについて、配合量が5%より多い場合は、良好な流動性を得ることができず、ソフトカプセルに充填しづらくなる恐れがある。配合量が0.1%未満の場合は、分離や沈殿が起こる恐れがある。
【0016】
本発明の油脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、卵黄リゾリン脂質と同時に摂取すると生理効果が期待できうる生理活性素材、例えばビタミンA、B、B、B、C、D、E、ナイアシン、コエンザイムQ10等のビタミン類、β‐カロテン、ルテイン、ゼアキサンチン、アスタキサンチン等のカロテノイド類、亜鉛、カルシウム等のミネラル類等を加えることができる。特に、卵黄リン脂質とビタミンB12は同時に摂取すると脳機能が改善され好ましい。
【0017】
本発明の油脂組成物に含まれるコレステロールは、卵黄リン脂質由来のものである。近年生活習慣病に対する意識の高まりからコレステロール含有量を低減させた食品サプリメントや医薬組成物が求められていることから、コレステロール含有量を2%以下、より好ましくは1%以下に低減させた卵黄リゾリン脂質を用いることが好ましい。本発明において、卵黄リゾリン脂質を最大の60%配合すると、油脂組成物中のコレステロール含有量は1.2%となる。なお、常法によると0.1%以下にまで低減することは難しい。卵黄リゾリン脂質のコレステロール含有量を低減する方法は常法による手段を用いれば良く、卵黄液とサイクロデキストリンを混合してコレステロールを包接除去する方法(特開平8−173060号)や超臨界二酸化炭素と接触させる方法(特公昭62−51092号)等が挙げられる。例えば、卵黄をホスフォリパーゼA処理して、実質的にリン脂質を全量モノアシル化し、その後、卵黄を二酸化炭素による超臨界抽出法にてコレステロール等リン脂質以外の脂溶性成分を除去する。このように処理された卵黄よりエタノール等有機溶剤にてリン脂質を抽出し、減圧乾固することにより、卵黄リゾリン脂質含有量が80%以上、コレステロール含有量が0.1〜2%の卵黄抽出物が得られる。
【0018】
以下、本発明で用いるソフトカプセル及びその製造方法について、実施例等に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定するものではない。
【実施例】
【0019】
卵黄液のホスフォリパーゼA処理を行い、実質的にリン脂質を全量モノアシル化し、これをスプレードライヤーにて噴霧乾燥を行う。得られた乾燥卵黄を二酸化炭素による超臨界抽出法にてコレステロール、トリグリセリド等を除去する。このように処理された乾燥卵黄にエタノールを加え、卵黄リゾリン脂質をエタノールに溶解させる。これを適当な方法でろ過し、卵黄リゾリン脂質溶解エタノール溶液を得る。得られた卵黄リゾリン脂質溶解エタノール溶液を乾燥することにより、卵黄リゾリン脂質含有量が90%、コレステロール含有量が1%の卵黄抽出物を得た。
【0020】
〔実施例1〕
前述の卵黄抽出物40%(卵黄リゾリン脂質36.0%、コレステロール0.4%)、遊離脂肪酸56.0%、マルトデキストリン1.0%、ミツロウ1.0%、ビタミンB12
0.1%、ビタミンB1硝酸塩0.4%、ナイアシン1.5%を混合し、油脂組成物を調製した。これをOVAL型ソフトカプセルにカプセル成型機を用いて300mg±10mg/粒となるよう充填し、ソフトカプセル剤を調製した。その結果、流動性が良く適性なカプセル充填を行うことができ、保存後に油分離や非油溶性成分等の沈殿は見られなかった。
【0021】
〔試験例1〕
卵黄リゾリン脂質の配合量、遊離脂肪酸の配合量及びデキストリンの種類や配合量による、充填適性や保存安定性に対する影響を調べた。実施例1の方法に準じて表1の配合表より、実施例2、3、4及び比較例1、2、3のソフトカプセル剤を調製した。
【0022】
【表1】

【0023】
このように得られた実施例2、3、4及び比較例1、2、3のソフトカプセル剤について、充填適性と保存安定性を調べその結果を表2に記載した。充填適性は、流動性が良く適性な充填を行えたと判断した場合を○、やや流動性が劣るが充填可能であった場合を△、流動性が劣り充填不能であった場合を×とした。保存安定性は、ソフトカプセル剤をアルミ袋に充填し35℃で2ヵ月間保存し、保存後に油分離や非油溶性成分等の沈殿がない場合を○、やや分離や沈殿があった場合を△、明らかに分離や沈殿があった場合を×とした。合わせて、35℃で2ヵ月間の保存前後にビタミンB12含有量を分析した。
【0024】
【表2】

注)ビタミンB12含有量は高速液体クロマトグラフィ法により分析し、保存前後の分析値より残存率を求めた
【0025】
卵黄リゾリン脂質を60%近く配合した場合(実施例2)、やや流動性に劣ったが充填適性の許容範囲であった。遊離脂肪酸を20%配合した場合(実施例3)、やや流動性に劣ったが充填適性の許容範囲であった。実施例1のマルトデキストリンをアミロデキストリンに置き換えた場合(実施例4)、充填適性も保存安定性も良好であった。卵黄リゾリン脂質を81%配合した場合(比較例1)、適性な流動性が得られなかった。実施例1の遊離脂肪酸を同量のMCTに置き換えた場合(比較例2)、適性な流動性が得られなかった。実施例1のマルトデキストリンを遊離脂肪酸に置き換えた場合(比較例3)、充填適性は良好だったが、保存中に分離や沈殿が起きた。また、保存中に分離や沈殿が見られない場合ではビタミンB12の残存率が高く(実施例2、3、4)、保存中に分離や沈殿が見られた場合ではビタミンB12の残存率が低かった(比較例3)。
【0026】
〔試験例2〕
デキストリンの配合量による充填適性や保存安定性に対する影響を調べるため、実施例1の方法に準じて表3の配合表の各成分を混合することにより、実施例5、6、7及び比較例4、5の、卵黄リゾリン脂質含有量36%、コレステロール含有量0.4%の油脂組成物を調製した。これをOVAL型ソフトカプセルにカプセル成型機を用いて300mg±10mg/粒となるよう充填し、ソフトカプセル剤を調製した。
【表3】

【0027】
このように得られた実施例5、6、7及び比較例4、5のソフトカプセルについて、充填適性、保存安定性及びビタミンB12含有量を調べその結果を表4に記載した。評価は、試験例1と同様に行った。
【0028】
【表4】

【0029】
デキストリンを0.1%配合した場合(実施例5)、保存中にやや油分離が見られたが製品としての許容範囲であった。デキストリンを5.0%配合した場合(実施例7)、やや流動性に劣ったが充填適性の許容範囲であった。デキストリン配合量が0.1%未満の場合(比較例4)、保存中に油分離や非油溶性成分の沈殿が見られた。デキストリン配合量が5.0%より多い場合(比較例5)、
流動性がなく充填不能であった。また、保存中に分離や沈殿が見られない場合ではビタミンB12の残存率が高く(実施例5、6、7)、保存中に分離や沈殿が見られた場合ではビタミンB12の残存率が低かった(比較例4)。
【0030】
従って、ソフトカプセル内容物である本発明の油脂組成物において、卵黄リゾリン脂質及び遊離脂肪酸を合計60%以上(好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上)、卵黄リゾリン脂質を20〜60%(好ましくは25〜55%、さらに好ましくは30〜50%)、遊離脂肪酸を20%以上(好ましくは25%以上、さらに好ましくは30%以上)、デキストリンを0.1〜5%(好ましくは0.1〜3%、さらに好ましくは0.2〜2%)配合することにより、カプセル充填に適性な流動性を付与し、保存中の油分離や非油溶性成分の沈殿を抑制したソフトカプセル剤を提供することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
卵黄リゾリン脂質を高配合した油脂組成物を充填したソフトカプセル剤において、油脂組成物に対し、卵黄リゾリン脂質及び遊離脂肪酸を合計60%以上、卵黄リゾリン脂質を20〜60%、遊離脂肪酸を20%以上、デキストリンを0.1〜5%配合することを特徴とするソフトカプセル剤。
【請求項2】
ビタミンB12を配合した油脂組成物である、請求項1記載のソフトカプセル剤。
【請求項3】
油脂組成物中のコレステロール含有量が0.1〜1.5%である、請求項1又は2記載のソフトカプセル剤。

【公開番号】特開2009−132658(P2009−132658A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−311257(P2007−311257)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】