説明

タイヤ内面への保持体形成方法および、それに用いる形成装置

【課題】タイヤの最内周側に存在するインナーライナ層を損傷させることなしに、吸音部材等の機能部材を、タイヤ内面に十分確実に取り付けることができる、タイヤ内面に機能部材の取り付けるための方法および、その方法に用いる装置を提供する。
【解決手段】空気入りタイヤ1の内面2に、タイヤ1に所要の機能を付与する機能部材4を取り付けるに当り、製造されたタイヤ1の内面2に向けて樹脂材料を射出して、タイヤ内面2に、前記機能部材4を保持する樹脂製の部材保持体3を一体的に固着させて成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、空気入りタイヤの内面に、タイヤに所要の機能を付与する機能部材、たとえば、タイヤの負荷転動時のロードノイズを低減する吸音部材または、タイヤの空気圧監視装置その他の電子機器等を取り付けるための方法および、その方法に用いる装置に関するものであり、とくに、タイヤ内面を損傷させることなしに、機能部材を、タイヤ内面に確実に取り付けることのできる技術を提案するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤの内面に取り付けられて所要の機能を発揮する機能部材としては、たとえば、車両の走行時の、タイヤのロードノイズを軽減するべく機能する、スポンジもしくは不織布等からなる吸音部材があり、従来は、このような吸音部材を、特許文献1に記載されているように、両面粘着テープまたは、接着剤の塗布等によりタイヤ内面に貼着させることとし、これにより、タイヤの過酷な使用条件下であっても、吸音部材の、タイヤ内面からの剥離を確実に防止することができる、とする。
【0003】
ところで、一般に加硫成型工程を経て製造されるタイヤの内面には、加硫ブラダーの表面に離型剤として事前に塗布されるシリコンオイル等が付着しており、この離型剤が、接着剤等による、タイヤ内面への吸音部材の接着効果を低下させることから、上述した、吸音部材の取付け方法では、吸音部材を貼着するに先立って、タイヤ内面に付着した前記離型剤を取り除くことが必要となる。
【0004】
ここで、タイヤ内面の離型剤を除去する装置として、特許文献2には、「空気入りタイヤを回転可能に保持するタイヤ保持具と、該タイヤ保持具に保持された空気入りタイヤのトレッド部の内側であるトレッド内腔面を研掃しうる研掃具とを含み、前記研掃具は、外周面に研掃材が設けられかつタイヤ回転軸と平行な回転軸を有する研掃ローラと、前記研掃ローラを回転させる駆動用モータと、前記研掃ローラをタイヤ軸方向に移動させることにより、前記空気入りタイヤのビード開口部から該研掃ローラをタイヤ内部に配する軸方向移動具と、前記研掃ローラをタイヤ半径方向に移動させることにより、該研掃ローラをトレッド内腔面に接触させる昇降用モータを含む半径方向移動具と、少なくとも前記2つのモータを制御しうる制御装置とを含み、前記制御装置は、研掃ローラをトレッド内腔面に接触させて回転させる研掃工程において、前記駆動用モータのトルクが予め定められた設定値となるように、前記昇降用モータを制御してトレッド内腔面に対する研掃ローラの半径方向位置を調整することを特徴とするタイヤのトレッド内腔面研掃装置」が提案されている。
そして、この「トレッド内腔面研掃装置」によれば、「研掃ローラをトレッド内腔面に接触させて回転させる研掃工程を行うことができるため、トレッド内腔面に付着した離型剤等を除去することができる。また、該研掃工程では、駆動用モータのトルクが予め定められた設定値となるように昇降用モータを制御してトレッド内腔面に対する研掃ローラの半径方向位置を調整されるので、研掃ムラや過度の研掃を抑制でき、ひいては均一にトレッド内腔面を研掃しうる。これは、個々のタイヤについて、タイヤ周方向の重量アンバランスの発生を抑制しうるとともに、タイヤ間での研掃量のバラツキを抑制しうる。」とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007‐112395号公報
【特許文献2】特開2008‐62441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかるに、特許文献2に記載されたような装置で、タイヤ内面に付着した離型剤を除去する場合は、「研掃ローラ」の、所定の剛性を有する繊維を植設等した外周面を、タイヤ内面に擦り付けることから、タイヤ内面が削り取られて、タイヤの最内周側に存在する、空気不透過性にすぐれるゴム材料からなるインナーライナ層を損傷させるおそれがあり、それにより、インナーライナ層による、タイヤ内部の空気の、外部への漏洩を防止する機能を十分に担保することが困難となって、仕損費用が増大するという問題があった。
そしてこのことは、インナーライナ層の薄肉化が希求されている近年の状況下にあっては重大な問題となる。
【0007】
また、吸音部材の、タイヤ内面への取り付けに両面粘着テープを用いる方法では、タイヤ内面が、内面からの突出姿勢で内面に沿って延びる多数本のリッジ等の凹凸形状を有する場合に、リッジの周囲で、粘着テープの、タイヤ内面からの浮き上がり箇所が生じて、吸音部材が全面にわたって十分に貼着されないことがあるので、タイヤの使用に伴って、吸音部材がタイヤ内面から剥がれ落ちる懸念もあった。
【0008】
この発明は、従来技術が抱えるこのような問題を解決することを課題とするものであり、それの目的とするところは、タイヤの最内周側に存在するインナーライナ層を損傷させることなしに、吸音部材等の機能部材を、タイヤ内面に十分確実に取り付けることができる、タイヤ内面に機能部材を取り付けるための方法および、その方法に用いる装置を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の、タイヤ内面に機能部材を取り付けるための方法は、空気入りタイヤの内面に、タイヤに所要の機能を付与する機能部材、たとえば、吸音部材または、振動発電の蓄電池もしくはタイヤ内圧監視装置その他の電子機器等を取り付けるに当り、製造されたタイヤの内面に向けて樹脂材料を射出して、タイヤ内面に、前記機能部材を保持する、好ましくは熱可塑性エラストマーまたはシリコンゴムからなる樹脂製の部材保持体を一体的に固着させて成形するにある。
【0010】
ここで好ましくは、タイヤ内面に、タイヤ内面から突出して横断面形状が鉤状をなす部材保持体を成形し、部材保持体の鉤状部の外周側に機能部材を嵌め込み可能とする。
【0011】
またこの発明の、保持体の形成装置は、上記いずれかの保持体形成方法に用いるものであって、製造されたタイヤを支持する位置決め固定手段と、タイヤ内面への当接姿勢で、該タイヤ内面との間にキャビティを区画形成する拡縮径変位可能な複数のセグメントからなる成形金型と、該成形金型を、タイヤ内面に対し離隔および接近する向きに変位させる金型移動手段とを具えてなるものである。
【発明の効果】
【0012】
この発明の、タイヤ内面への保持体形成方法によれば、タイヤ内面に、機能部材を取り付けるための樹脂製の部材保持体を射出成形して、該部材保持体をタイヤ内面に一体的に固着させることにより、タイヤ内面に付着した離型剤や、タイヤ内面に設けた凹凸形状のいかんにかかわらず、機能部材を、部材保持体を介してタイヤ内面に確実に取り付けることができる。
しかも、この方法では、従来の「研掃装置」等を用いて行う離型剤の除去が不要となるので、タイヤ内面を損傷させるおそれがない。
【0013】
ここにおいて、樹脂製の部材保持体を、熱可塑性エラストマーまたはシリコンゴムにて形成するときは、それらの材質に固有の、タイヤ内面との大きな固着力の故に、機能部材を、タイヤ内面により確実に取り付けることができる。
なかでも、熱可塑性エラストマーは、軽量で弾性力に富むことから、部材保持体を熱可塑性エラストマー製とすることにより、タイヤ内面に成形した部材保持体が、タイヤの、負荷転動時の変形挙動等の諸性能に及ぼす影響を十分小さく抑えることができる。
【0014】
なおここで、タイヤ内面に、タイヤ内面から突出して横断面形状が鉤状をなす部材保持体を成形し、部材保持体の鉤状部に機能部材を嵌め込み可能としたときは、保持体への機能部材の、取り外し可能にして強固な装着を実現することができる。
【0015】
ところで、この発明の、部材保持体の形成装置によれば、位置決め固定手段による製品タイヤの支持の下、金型移動手段を作動させて、成形金型をタイヤ内面に当接させた状態で射出成形を行うことにより、円環状をなす製品タイヤの内面に、円周方向に所定の間隔をおいて、部材保持体を容易かつ迅速に成型することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の形成方法の一の実施形態によってタイヤ内面に形成した部材保持体を、鉤状部の外周側に機能部材を装着した状態で示す、タイヤ幅方向の断面図である。
【図2】タイヤ内面に形成する部材保持体の変形例を示す、図1と同様の図である。
【図3】他の機能部材を、タイヤ内面に取り付けた状態で示す、図1と同様の図および、その機能部材の平面図である。
【図4】図1の保持体を形成するための装置の一部を、タイヤを配置した状態で示す斜視図である。
【図5】図4の装置の縦断面図および、その要部拡大断面図である。
【図6】図4の装置の金型移動手段に用いることができる他の機構を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に図面を参照しつつ、この発明の実施の形態について説明する。
なお詳細は図示しないが、各図に示すタイヤも、一般的な空気入りタイヤと同様に、各ビード部に配設した一対のビードコアと、ビードコア間にトロイダルに延びるカーカスと、カーカスの外周側に配設したベルトおよびトレッドゴム等を具えてなるものである。
【0018】
図1に示すところにおいて、図中1はタイヤを、また、2は、タイヤ1の、リム組み姿勢で形成される空気室に臨む内面をそれぞれ示す。
そしてここでは、タイヤ内面2に、樹脂製の部材保持体3を一体的に固着させて設けるとともに、部材保持体3の鉤状部3a,3bの外周側に、機能部材としての、不織布からなる吸音部材4を保持させる。なお、吸音部材4はスポンジで構成することも可能である。
【0019】
ここで、部材保持体3は、製造されたタイヤ1の内面2に樹脂材料を射出して、これを冷却硬化等させることで、タイヤ内面2に一体成形することができ、図1に示すところでは、この部材保持体3は、タイヤ内面2からの突出姿勢で、タイヤ赤道面Cを隔てて両側に設けた一対の、タイヤ赤道面C側に屈曲する鉤状の横断面形状をなす鉤状部3a,3bを具えるものとする。
これによれば、部材保持体3の鉤状部3a,3b間で、それらの外周側に、吸音部材4を、図示の如く圧縮変形させた状態で挟み込んで装着することができる。
【0020】
このようにして、タイヤ1の内面2側に吸音部材4を取り付けることにより、タイヤ内面2に、加硫成型時の加硫ブラダーに予め塗布される離型剤が付着し、あるいは、タイヤ内面2に凹凸形状が存在する場合であっても、射出成形された部材保持体3をタイヤ内面2に強固に固着させることができるので、吸音部材4の、タイヤ内面2への取り付けを確実なものとすることができる。
また、吸音部材4の、部材保持体3に対する着脱が容易となって、吸音部材4の維持管理や交換を極めて簡単に行うことができる。
【0021】
ここにおいて、タイヤ内面2にプライマー処理を施すことなしに、樹脂製の部材保持体をタイヤ内面2に強固に固着させるためには、部材保持体を成形する樹脂材料を、熱可塑性エラストマーもしくはシリコンゴムとすることが好ましく、とくに、弾性力に富む軽量な熱可塑性エラストマーで部材保持体を構成したときは、タイヤ内面2に一体固着させる部材保持体が、タイヤの各種性能に与える影響を十分小さくすることができる点でより好ましい。
なお、熱可塑性エラストマーとしては、たとえば、スチレン系熱可塑性エラストマー、パラフィン系オイルおよびポリオレフィンやポリフェニレンエーテル等からなるものを用いることができる。
【0022】
ここで、タイヤ内面に成形する部材保持体は、射出成形に用いる後述の成形金型の内面形状を変更することにより、たとえば、図2に示すような形状とすることもできる。
図2に示す部材保持体13は、タイヤ幅方向断面内で内面2に沿ってほぼ平行に延びて、図の上面を全体にわたって内面2に固着されたシート状基部13aと、タイヤ赤道面Cを隔てて設けられて、シート状基部13aから突出して図示の断面で倒立T字状をなす鉤状部13b、すなわち、赤道面C側および、該赤道面Cから離隔する側のそれぞれに向けて屈曲させた鉤状部13bとで形成してなる。
この部材保持体13への吸音部材14の装着は、吸音部材14に、図2に示すように、部材保持体13のT字鉤状部13bの形状に整合する凹溝部14aを予め設けておき、かかる凹溝部14aをT字鉤状部13bに嵌め込むことにより行うことができる。
【0023】
なお、部材保持体に装着する機能部材は、上述した吸音部材4,14に替えて、図3に例示するような、振動発電素子の電子基板24とすることができ、この場合は、部材保持体23に、電子基板24を嵌め合わせ保持させることができる。
また図示は省略するが、機能部材をタイヤ内圧監視装置とすることも可能である。
【0024】
ところで、以上に述べたような部材保持体をタイヤ内面に形成するには、たとえば、図4,5に示す保持体形成装置30を用いることができる。
図示の装置30は、図4に斜視図で示すように配置される製品タイヤ1の周方向に並べて配置した、拡縮径変位可能な複数のセグメント31からなる成形金型32を有する。この成形金型32は、図4に白抜き矢印で示すように、装置30に取り付けたタイヤ1の、図では上方に向く側面側から、タイヤ1の内側に配置される。
【0025】
またここでは、装置30は、上記の成形金型32に加えて、図5(a)に断面図で示すように、タイヤ1を支持する位置決め固定手段としての支持台33と、タイヤ1の内側に配置した成形金型32、より直接的には各セグメント31を、タイヤ内面2に対し離隔および接近する向きに変位させる金型移動手段34と、各セグメント31に向けて液体状の樹脂材料を、図示しない射出ノズルを経て送給する押出機35および連結管36と、金型移動手段34の機構部および連結管36を収納するスリーブ37とを具える。
【0026】
ここにおいて、図5(a)に示すところでは、金型移動手段34は、一端側を、成形金型32の各セグメント31にヒンジ連結した、図では上下各一対の弧状のリンク38,39のそれぞれの他端側を、タイヤ1を隔てて上下に二個配置されて、ともに上下方向に変位可能な可動プレート40,41のそれぞれにヒンジ連結するとともに、可動プレート40,41の上下変位をもたらす図示しない駆動源を設けてなる。
このような金型移動手段34によれば、それぞれの可動プレート40,41を、タイヤ1の側面に向けて変位させることにより、セグメント31を、図5(a)に破線で示す、タイヤ内面2に対する離隔姿勢から、タイヤ内面2に接近する向きに変位させて、図5(a)に実線で示すように、タイヤ内面2に当接させることができる。
【0027】
タイヤ内面2に当接された各セグメント31は、図5(b)に拡大図で示すように、タイヤ内面2との間にキャビティを画成し、ここに、押出機35から連結管36を経て送給された液体状の樹脂材料を射出して、該樹脂材料を冷却硬化させることで、タイヤ内面2に、樹脂製の保持体3を周方向に断続的に成型することができる。
なおここでは、射出成形時の、セグメント31の、タイヤ内面2への当接姿勢でタイヤ1のビード部に嵌め合わされるそれぞれの可動プレート40,41もまた、支持台33とともに、位置決め固定手段の一部を構成する。
【0028】
なおここで、金型移動手段は、図5に示す一対の弧状リンク38,39に代えて、図6(a),(b)に例示するような、いわゆるマジックハンド式もしくはパンタグラフ式のリンク機構を用いることができる他、それら以外の、セグメント31をタイヤ内面2に対し進退出変位させる周知の機構を採用することが可能である。
【符号の説明】
【0029】
1 タイヤ
2 タイヤ内面
3,13,23 部材保持体
4,14,24 機能部材
30 保持体の形成装置
31 セグメント
32 成形金型
33 支持台
34 金型移動手段
35 押出機
36 連結管
37 スリーブ
38,39 リンク
40,41 可動プレート


【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気入りタイヤの内面に、タイヤに所要の機能を付与する機能部材を取り付けるに当り、製造されたタイヤの内面に向けて樹脂材料を射出して、タイヤ内面に、前記機能部材を保持する樹脂製の部材保持体を一体的に固着させて成形する、タイヤ内面へ保持体形成方法。
【請求項2】
前記樹脂製の部材保持体を、熱可塑性エラストマーまたはシリコンゴムにて形成する請求項1に記載の、タイヤ内面への保持体形成方法。
【請求項3】
タイヤ内面に、タイヤ内面から突出して横断面形状が鉤状をなす部材保持体を成形し、部材保持体の鉤状部の外周側に機能部材を嵌め込み可能とする請求項1もしくは2に記載の、タイヤ内面への保持体形成方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の保持体形成方法に用いる、保持体の形成装置であって、
製造されたタイヤを支持する位置決め固定手段と、タイヤ内面への当接姿勢で、該タイヤ内面との間にキャビティを区画形成する拡縮径変位可能な複数のセグメントからなる成形金型と、該成形金型を、タイヤ内面に対し離隔および接近する向きに変位させる金型移動手段とを具えてなる保持体の形成装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−10239(P2013−10239A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143957(P2011−143957)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】