タイル貼り付け面の剥離診断方法、タイル貼り付け面の剥離診断装置
【課題】タイル壁面の剥離の有無及び剥離の状態を判定することができる診断方法を提供する。
【解決手段】タイル壁面1の剥離状態をタイル壁面1の打撃音に基づき診断する装置10は、タイル壁面1の適宜な部分についての打撃音を基準信号としてマイクロフォン14により取得し、マザーウェーブレット作成部24により取得した基準信号に基づいてマザーウェーブレットを作成し、マイクロフォン14によりタイル壁面1の診断対象部分についての打撃音を測定信号として取得し、ウェーブレット変換部26により取得して測定信号に対して、作成したマザーウェーブレットを用いてウェーブレット変換を行い、判定部28によりウェーブレット変換した結果の時間波形の音圧レベル及び減衰時間、周波数のピークに基づき剥離の有無及び剥離状態を判定する。
【解決手段】タイル壁面1の剥離状態をタイル壁面1の打撃音に基づき診断する装置10は、タイル壁面1の適宜な部分についての打撃音を基準信号としてマイクロフォン14により取得し、マザーウェーブレット作成部24により取得した基準信号に基づいてマザーウェーブレットを作成し、マイクロフォン14によりタイル壁面1の診断対象部分についての打撃音を測定信号として取得し、ウェーブレット変換部26により取得して測定信号に対して、作成したマザーウェーブレットを用いてウェーブレット変換を行い、判定部28によりウェーブレット変換した結果の時間波形の音圧レベル及び減衰時間、周波数のピークに基づき剥離の有無及び剥離状態を判定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイル貼り付け面の打撃音をウェーブレット変換した結果に基づき、剥離の有無及び剥離状態を診断する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、タイル壁面に剥離が発生しているか否かを判定する方法として、作業員が検査の対象となるタイル壁面をハンマー等で打撃し、その打撃音を作業員が聞き分ける方法が知られている。すなわち、健全なタイル壁面と剥離が生じたタイル壁面とでは、打撃に対する振動応答が異なることから、その違いを聞き分けて剥離の有無を判定するのである。しかし、このような診断方法では、作業員の勘や技能に診断結果が左右されやすく、必ずしも高い精度で剥離の診断をすることができない。
そこで、例えば、特許文献1には、接触体を壁面に押し付けながら、移動させた際に発生する音を測定信号として取得する装置により、壁面の適宜な部分についての測定信号を基準信号として取得し、この基準信号に基づきマザーウェーブレットを作成し、壁面の診断対象となる部分についての測定信号を、このマザーウェーブレットを用いてウェーブレット変換演算を行い、この演算結果に基づき剥離の有無を判定する方法が記載されている。
【特許文献1】特開2004―205385号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、一般的な外装タイル壁面は、建物を構成する下地コンクリートと、下地コンクリートの表面に塗られた中間モルタルと、中間モルタルの表面に塗られた貼付けモルタルと、貼付けモルタルにより接着されたタイルとで構成される。タイル壁面に生ずる剥離には、下地コンクリートと中間モルタルとの間で生じる下地剥離と、貼付けモルタルと、タイルとの間で生じる表面剥離とがあり、これらの何れか一方又は両方が生じている。これらの剥離の状態により補修方法が異なるので、効率よく補修作業を行うためには、剥離の状態を診断する必要がある。
これに対して、上述した特許文献1記載の方法では、剥離の有無を判定することはできるものの、このような剥離の状態を判定することはできない。
【0004】
本発明は上記の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、タイル壁面の剥離の有無及び剥離の状態を判定することができる検査方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のタイル貼り付け面の剥離診断方法は、タイル貼り付け面の剥離状態を前記タイル貼り付け面の打撃音に基づき診断する方法であって、前記タイル貼り付け面の適宜な部分についての打撃音を基準信号として取得する基準信号取得ステップと、前記取得した基準信号に基づきマザーウェーブレットを作成するマザーウェーブレット作成ステップと、前記タイル貼り付け面の診断対象部分についての打撃音を測定信号として取得する測定信号取得ステップと、前記取得した測定信号に対して、前記作成したマザーウェーブレットを用いてウェーブレット変換することにより、変換測定信号を生成するウェーブレット変換ステップと、前記変換測定信号についての時間−周波数領域における音圧分布に基づき剥離の有無及び剥離がある場合の剥離状態を判定する剥離判定ステップとを備えることを特徴とする。
【0006】
上記のタイル貼り付け面の剥離診断方法において、前記剥離判定ステップは、前記変換測定信号の周波数f、時間tにおける値をI(f、t)としたとき、以下の式(1)、(2)によりFα、Fβを算出するステップと、前記算出したFα、Fβに基づき、剥離の有無及び剥離がある場合の剥離状態を判定するステップとを備えてもよい。
【数1】
【0007】
また、前記Fα、Fβに基づき、剥離の有無及び剥離がある場合の剥離状態を判定するステップは、Fαlim、Fβlimを適宜設定し、Fα≧FαlimかつFβ≧Fβlimの場合には、表面剥離及び下地剥離が発生していると判定し、Fα≧FαlimかつFβ<Fβlimの場合には、表面剥離が発生していると判定し、Fα<FαlimかつFβ≧Fβlimの場合には、下地剥離が発生していると判定し、Fα<FαlimかつFβ<Fβlimの場合には、剥離が発生していないと判定してもよい。
【0008】
また、前記剥離判定ステップは、前記基準信号を前記マザーウェーブレットを用いてウェーブレット変換して、変換基準信号を取得するステップと、前記変換測定信号の周波数f、時間tにおける値をI(f、t)、前記変換基準信号の周波数f、時間tにおける値をI´(f、t)としたとき、以下の式(3)、(4)により相互相関関数Gα、Gβを算出するステップと、算出したGα、Gβに基づき、剥離の有無及び剥離がある場合には剥離状態を判定するステップを備えてもよい。
【数2】
【0009】
また、前記算出したGα、Gβに基づき、剥離の有無及び剥離がある場合には剥離状態を判定するステップは、Gαlim、Gβlimを適宜設定し、Gα≧GαlimかつGβ≧Gβlimの場合には、剥離が発生していないと判定し、Gα<GαlimかつGβ≧Gβlimの場合には、表面剥離が発生していると判定し、Gα≧GαlimかつGβ<Gβlimの場合には、下地剥離が発生していると判定し、Gα<GαlimかつGβ<Gβlimの場合には、表面剥離及び下地剥離が共に発生していると判定してもよい。
【0010】
上記の剥離診断方法において、前記積分区間fα1〜fα2を、4×103〜2×104[kHZ]とし、前記積分区間tα1〜tα2を、−1.0×10−3〜0.5×10−3[s]とし、前記積分区間fβ1〜fβ2を、2×103〜4×104[kHZ]とし、前記積分区間tβ1〜tβ2を、0.5×10−3〜8.0×10−3[s]としてもよい。
【0011】
本発明によれば、ウェーブレット変換した結果の時間波形の音圧レベル及び減衰時間、周波数のピークに基づき剥離の有無及び剥離状態を判定することができる。これにより剥離の状態に基づき補修作業の計画をたてることができるため、迅速かつ無駄のない施工が可能となり、コストの削減、工期の短縮が可能となる。
【0012】
また、本発明は、タイル貼り付け面の剥離状態を前記タイル貼り付け面の打撃音に基づき診断する装置であって、前記タイル貼り付け面の適宜な部分についての打撃音を基準信号として取得する手段と、前記取得した基準信号に基づきマザーウェーブレットを作成する手段と、前記タイル貼り付け面の診断対象部分についての打撃音を測定信号として取得する手段と、前記取得した測定信号に対して、前記作成したマザーウェーブレットを用いてウェーブレット変換することにより、変換測定信号を取得する手段と、前記変換測定信号について時間−周波数領域における音圧分布に基づき剥離の有無及び剥離が有る場合の剥離状態を判定する手段とを備えることを特徴とするタイル貼り付け面の剥離診断装置を含むものとする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、剥離の有無に加えて剥離の状態も判定することができる。このように剥離の状態がわかることにより、適切な補修作業の計画をたてることができ、迅速かつ無駄のない施工が可能となり、コストの削減、工期の短縮が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明のタイル貼り付け面の剥離診断装置の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、(A)は本実施形態の剥離診断装置10の適用の対象となるタイル壁面1の一例を示す断面図であり、同図(B)は、剥離が生じたタイル壁面1を示す断面図である。図1(A)に示すように、タイル壁面1は、建物壁面を構成する下地コンクリート2の表面に塗られた中間モルタル3と、中間モルタル3の上面に塗られた貼付けモルタル4と、貼付けモルタル4により取り付けられたタイル5とで構成される。図1(B)に示すように、タイル壁面1に生ずる剥離は、建物壁面を構成する下地コンクリート2と中間モルタルとの間に剥離が生じる場合(以下、下地剥離6という)と、貼付けモルタル4とタイル5との間に剥離が生じる場合(以下、表面剥離7という)と、下地剥離6及び表面剥離7が共に生じている場合とがある。
【0015】
これまで、発明者らは、特開2004―205385号公報に記載されているように、壁面の適宜な部分の打撃音を測定し、測定信号を基準信号としてマザーウェーブレットを作成しておき、このマザーウェーブレットを用いて、測定対象となる場所の打撃音の測定信号をウェーブレット変換し、この結果に基づき、剥離の有無を判定する方法を提案している。しかし、この方法では剥離の有無は判定することができるが、剥離の状態を判定することはできなかった。
【0016】
そこで、発明者らは、模型実験により、上記の方法により得られた測定信号をウェーブレット変換した結果と剥離状態との関係を調べるため、模型実験を行った。以下、この模型実験について説明する。
本実験では、条件1:健全状態(表面剥離も下地剥離も生じていない状態)、条件2:表面剥離を生じた状態、条件3:下地剥離を生じた状態、条件4:表面剥離及び下地剥離を生じた状態、の4条件のタイル壁面を模した複数模型に対して、特開2004―205385号公報に記載された方法と同様に、剥離を生じている部分の測定信号を測定し、測定信号に対してウェーブレット変換を行った。
【0017】
図2〜図5は、測定信号の時間波形及び測定信号をウェーブレット変換した結果を3次元的に示すグラフであり、図2は条件1(健全状態)の結果を、図3は条件2(表面剥離)の結果を、図4は条件3(下地剥離)の結果を、図5は条件4(表面剥離及び下地剥離)の結果を示す。なお、各図において、(A)は時間波形を示すグラフであり、(B)はウェーブレット変換した結果を3次元的に示すグラフ(以下、ウェーブレット平面という)である。
【0018】
図2(A)に示すように、条件1(健全状態)の測定信号は、表面剥離又は下地剥離の発生している他の条件(条件2〜条件4)に比べて音圧レベルが低く、時間波形の減衰が早い。また、同図(B)に示すウェーブレット平面より、特定の周波数にピークを持つことがないという特徴を有することがわかる。
【0019】
また、図3(A)に示すように、条件2(表面剥離)の測定信号は、条件1(健全状態)に比べて音圧レベルが高く、時間波形の減衰が条件3(下地剥離)や条件4(表面剥離及び下地剥離)に比べて早い。また、同図(B)に示すウェーブレット平面より、特定の周波数にピーク(実線で囲まれた部分)を持つことがわかる。
【0020】
また、図4(A)に示すように、条件3(下地剥離)の測定信号は、条件1(健全状態)に比べて音圧レベルが高く、条件1(健全状態)や条件2(表面剥離)に比べて時間波形の減衰が遅い。また、同図(B)に示すウェーブレット平面より、特定の周波数にピークを持たないが、低周波数領域において減衰が遅い(破線で囲まれた部分)という特徴を有することがわかる。
また、図5(A)に示すように、条件4(表面剥離及び下地剥離)の測定信号は、時間波形の音圧レベルは条件1(健全状態)に比べて高く、条件1(健全状態)や条件2(表面剥離)に比べて時間波形の減衰が遅い。また、同図(B)に示すようにウェーブレット平面より、条件2と同様に、特定の周波数にピークを持つ(実線で囲まれた部分)とともに、条件3と同様に、低周波数領域において減衰が遅い(破線で囲まれた部分)という特徴を有することがわかる。すなわち、条件4の測定信号は、全体的な傾向として、図3に示す条件2(表面剥離)と、図4に示す条件3(下地剥離)との傾向をともに備えている。
【0021】
これらの結果をまとめると、表面剥離及び下地剥離の有無と、ウェーブレット平面上で表れる特徴との間には、以下のような関係があることがわかる。
表面剥離を生じている場合には、タイル5が振動するため、特定の周波数にピークを持ち、その周波数におけるピークの音圧レベルが高い。また、下地剥離を生じている場合には、中間モルタル3や下地コンクリート2との間に生じる隙間や空洞部の共鳴による減衰が生じるため、時間波形の減衰が長い。また、表面剥離及び下地剥離がともに発生して入る場合には、上記の表面剥離及び下地剥離の特徴が共に表れる傾向がある。
【0022】
発明者らは、これらの特徴を定量的に扱うため、以下の式(5)、(6)で算出される指標Fα、Fβを提案する。式(5)、(6)よりわかるように、Fα、Fβは、ウェーブレット平面中の表面剥離及び下地剥離の特徴の表れる部分(図2〜図5で実線及び破線で囲まれる部分)を含む領域についての積分値である。なお、式中のI(f、t)は、ウェーブレット平面における周波数f、時間tの値を示す。
【数3】
式(5)及び式(6)における積分区間については、試験結果に基づき、以下のように設定することとした。
tα1〜tα2:−1.0×10−3〜0.5×10−3[s]
fα1〜fα2:−1.0×10−3〜0.5×10−3[kHz]
tβ1〜tβ2:0.5×10−3〜8.0×10−3[s]
fβ1〜fβ2:0.5×10−3〜8.0×10−3[kHz]
なお、積分区間はこれに限らず、表面剥離及び下地剥離の特徴の表れる部分を含むような範囲に設定すればよい。
【0023】
模型実験の各試験結果について、式(5)及び式(6)によりFα、Fβを算出し、縦軸にFαを、横軸にFβをとり、プロットしたグラフを図6に示す。また、各測定結果より得られたFα及びFβを、夫々条件1(健全状態)のFαの平均値及びFβの平均値で割ることにより正規化したF´α及びF´βをプロットしたグラフを図7に示す。図6及び図7に示すように、模型実験の結果は条件ごとに一定の領域に密集している。
【0024】
さらに、発明者らは、図7に示すように、適宜な値に閾値F´αlim、F´βlimを設定し、閾値F´αlim、F´βlimと、F´α及びF´βとの大小関係に基づき、条件1〜4の試験結果を分類するものとした。なお、本実施形態では、閾値Fαlim´=2.0、Fβlim´=2.0としている。
図7に示すように、F´α<F´αlimかつF´β<F´βlimの領域1には、条件1(健全状態)の結果が分布する。また、F´α≧F´αlimかつF´β<F´βlimの領域2には、条件2(表面剥離)の結果が分布する。また、F´α<F´αlimかつF´β≧F´βlimの領域3には、条件3(下地剥離)の結果が分布する。また、F´α≧F´αlimかつF´β≧F´βlimの領域4には、条件4(表面剥離及び下地剥離)の結果が分布する。
【0025】
上述した模型実験の試験結果を踏まえて、本実施形態の剥離診断装置10は以下に説明するような構成をとることとした。
図8は、本実施形態の剥離診断装置10の構成を示す図である。同図に示すように、剥離診断装置10は、作業員がタイル壁面をたたくための打撃棒12と、壁面を打撃した際の打撃音を収音するマイクロフォン14と、マイクロフォン14からの出力信号を処理する信号処理部16とで構成される。
【0026】
信号処理部16は、増幅部20と、A/D変換部22と、マザーウェーブレット作成部24と、ウェーブレット変換部26と、判定部28と、出力部30とを備える。増幅部20は、マイクロフォン14より入力から出力された信号を増幅する。A/D変換部22は、増幅部20より入力された信号をA/D変換する。
そして、A/D変換部22でA/D変換された信号が後述する基準信号である場合には、A/D変換された基準信号は、マザーウェーブレット作成部24に入力される。また、A/D変換された信号が後述する測定信号である場合には、A/D変換された測定信号はウェーブレット変換部26に入力される。
【0027】
マザーウェーブレット作成部24は、入力された基準信号に基づき、マザーウェーブレットを作成する。マザーウェーブレット作成部24におけるマザーウェーブレットの作成方法は、例えば特開2004―205385号公報に記載されている方法などを用いればよい。
作成されたマザーウェーブレットは、ウェーブレット変換部26に入力される。ウェーブレット変換部26は、このマザーウェーブレットを用いて、A/D変換部22から入力された測定信号に対してウェーブレット変換を行い変換測定信号を生成する。ウェーブレット変換部26により生成された変換測定信号は、判定部28に入力される。
判定部28は、ウェーブレット変換部26より入力された変換測定信号に基づき、剥離の有無及び剥離状態の判定を行う。判定部28における判定結果は、出力部30において、画面表示又は印刷出力される。
【0028】
以下、本実施形態の剥離診断装置10を用いてタイル壁面1の剥離の有無及び剥離の状態を判定する方法を説明する。
図9は、剥離診断装置10を用いたタイル壁面1の剥離の有無及び剥離状態を判定する工程を示すフローチャートである。同図に示すように、まず、ステップ100において、タイル壁面1の適宜な部分について打撃棒12で打撃した時の打撃音をマイクロフォン14により測定し、その測定信号を基準信号として取得する。取得した基準信号は増幅部20において適宜増幅され、A/D変換部22でA/D変換されたのち、マザーウェーブレット作成部24に入力される。
【0029】
次に、ステップ200において、マザーウェーブレット作成部24は、A/D変換部22より受信した基準信号に基づきマザーウェーブレットを作成する。マザーウェーブレット作成部24により作成されたマザーウェーブレットは、ウェーブレット変換部26に入力される。
【0030】
次に、ステップ300において、タイル壁面1の診断の対象となる場所を打撃棒12で打撃し、マイクロフォン14により打撃音の測定信号を取得する。取得した測定信号は、増幅部20において、適宜増幅され、A/D変換部22において、A/D変換されたのち、ウェーブレット変換部26へ入力される。
次に、ステップ400において、ウェーブレット変換部26は、入力された測定信号を、マザーウェーブレット作成部24が作成したマザーウェーブレットを用いてウェーブレット変換する。ウェーブレット変換部26により生成された変換測定信号は、判定部28に入力される。
次に、ステップ500において、判定部28は入力された変換測定信号に基づき、診断の対象となるタイル壁面1の剥離の有無及び剥離の状態を判定する。
【0031】
図10は、ステップ500における判定部28における剥離の有無及び剥離の状態を判定する工程を詳細に示すフローチャートである。
まず、ステップ510において、式(5)及び(6)により、Fα、Fβを算出する。
次に、ステップ520において、基準信号をウェーブレット変換した変換基準信号を算出する。
次に、ステップ530において、変換基準信号についてFα、Fβを算出し、これを用いて、ステップ510において算出したFα、Fβを割ることにより正規化し、F´α、F´βを算出する。
【0032】
次に、算出したF´α及びF´βを、夫々F´αlim及びF´βlimと比較し、比較結果に基づき判定を行う。
ステップ540においてF´α<F´αlimであり、かつ、ステップ550においてF´β<F´βlimである(すなわち図7における領域1に含まれる)場合には、ステップ570において、健全状態であると判定する。また、ステップ540において、Fα≧Fαlimであり、かつ、ステップ550において、Fβ<Fβlimである(すなわち図7における領域2に含まれる)場合には、ステップ575において、表面剥離が発生していると判定する。
また、ステップ540において、Fα<Fαlimであり、かつ、ステップ560において、Fβ≧Fβlimである(すなわち図7における領域3に含まれる)場合には、ステップ580において、下地剥離が発生していると判定する。また、ステップ540において、F´α≧F´αlimであり、かつ、ステップ560において、Fβ≧Fβlimである(すなわち図7における領域4に含まれる)場合には、ステップ585において、表面剥離及び下地剥離が発生していると判定する。
上記のようにして、判定部28により判定された結果は、出力部30より、印刷出力又は画像出力される。
【0033】
以上説明したように、本実施形態の剥離診断装置10によれば、剥離の有無に加えて、剥離が発生している場合には剥離の状態も判定することができる。剥離の状態がわかることにより、適切な補修作業の計画をたてることができるため、迅速かつ無駄のない施工が可能となり、コストの削減、工期の短縮が可能となる。
【0034】
なお、上記の説明では、診断対象箇所の測定信号に基づき算出したFα、Fβを、健全状態のFα、Fβの平均値で割る事により正規化したF´α、F´βを用いて、診断を行ったが、これに限らず、適宜な閾値Fαlim、Fβlimを設定し、Fα、Fβと、Fαlim、Fβlimとを夫々比較し、その大小関係に基づき判定を行ってもよい。
なお、本実施形態の剥離診断装置10によれば、図11に示すような、外装コンクリートパネルの一種である内部に空洞8を有する押出成形セメント板を用いたタイル壁面100の診断にも用いることができる。押出成形セメント板を用いたタイル壁面の診断に、従来の打撃音により剥離状態の診断を行う方法を用いると、押出成形セメント板は内部空洞8で生じる共鳴音の影響により判定を行うのは難しかった。しかし、本実施形態の剥離診断装置10によれば、ウェーブレット変換を行うことにより、表面剥離7に起因する音と内部空洞8における共鳴音とを分離することができるため、剥離状態を診断することができる。
【0035】
なお、上記の説明では、判定部28において、ウェーブレット平面における表面剥離及び下地剥離の特徴が表れる部分について積分を行い、得られた積分値Fα、Fβに基づき判定を行ったが、これに限らず、相互相関関数を用いて判定を行うことができる。以下、判定部28において、相互相関関数を用いて判定を行う別の実施形態を説明する。
【0036】
上述した実施形態では、判定部28には、測定信号をウェーブレット変換した変換測定信号が入力されていたが、相互相関関数を用いて判定を行う場合には、判定部28には、測定信号をウェーブレット変換した変換測定信号とともに、基準信号をウェーブレット変換した変換基準信号も入力される。判定部28には、変換測定信号とともに、この変換基準信号が入力される。
【0037】
判定部28は、以下の式(7)、(8)に基づき、変換測定信号及び変換基準信号の相互相関関数Gα、Gβ算出する。なお、式中のI(f、t)、I´(f、t)は、夫々周波数f、時刻tにおける変換測定信号及び変換基準信号の値を示し、μα、μ´α、は積分区間fα1〜fα2、積分区間tα1〜tα2におけるI(f、t)、I´(f、t)の平均値を示し、σα、σ´α、は積分区間fα1〜fα2、積分区間tα1〜tα2におけるI(f、t)、I´(f、t)の標準偏差を示す。また、μβ、μ´β、は積分区間fβ1〜fβ2、積分区間tβ1〜tβ2におけるI(f、t)、I´(f、t)の平均値を示し、σβ、σ´β、は積分区間fβ1〜fβ2、積分区間tβ1〜tβ2におけるI(f、t)、I´(f、t)の標準偏差を示す。
また、積分区間は、Fα、Fβを算出するための式(5)及び式(6)における積分区間と同様に設定すればよい。
【数4】
【0038】
上記算出したGαは、ウェーブレット平面における表面剥離の特徴の表れる領域についての相互相関関数であるため、Gαが1に近づくということは、この領域のI(f、t)とI´(f、t)とが近い傾向を有する、すなわち、表面剥離が発生していないことを意味する。また、Gαが0に近づくということは、この部分について、I(f、t)とI´(f、t)とが異なる傾向を有する、すなわち、表面剥離が発生していることを意味する。
【0039】
同様に上記算出したGβは、ウェーブレット平面における下地剥離の特徴の表れる部分についての相互相関関数であるため、Gβが1に近づくということは、この部分について、I(f、t)とI´(f、t)とが近い傾向を有する、すなわち下地剥離が発生していないことを意味する。また、Gβが0に近づくということは、この部分について、I(f、t)とI´(f、t)とが異なる傾向を有する、すなわち表面剥離が発生していることを意味する。
【0040】
本実施形態の判定部28は、予め適宜な値に閾値Gαlim及びGβlimを設定しておき、これらの閾値と上記算出したGα及びGβを比較することにより剥離の有無及び剥離の状態を判定する。
図12は、Gα及びGβに基づく判定条件を示す図である。
同図に示すように、上記の式(7)及び(8)により算出したGα及びGβが、Gα≧GαlimかつGβ≧Gβlimの場合には、剥離が発生していないと判定し、Gα<GαlimかつGβ≧Gβlimの場合には、表面剥離の可能性があると判定し、Gα≧GαlimかつGβ<Gβlimの場合には、下地剥離の可能性があると判定し、Gα<GαlimかつGβ<Gβlimの場合には、表面剥離及び下地剥離が共に発生していると判定する。
以上のように相互相関関数を用いても、ウェーブレット平面における表面剥離及び下地剥離の特徴が表れる領域の音圧レベルに基づき判定を行うことができるため、剥離の有無に加えて剥離の状態を判定することができる。
なお、本実施形態の剥離診断装置による剥離状態の診断の対象となるのは、タイルの貼付けられた壁面に限られず、石等が貼り付けられた壁面などにも適用することができる。また、壁面に限らず、屋根、床、上げ裏(庇、軒、階段の裏側)などの剥離診断にも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】(A)は本実施形態の剥離診断装置の適用の対象となる一般的なタイル壁面の一例を示す断面図であり、(B)は、剥離が生じたタイル壁面を示す断面図である。
【図2】条件1(健全状態)の測定信号の時間波形及びウェーブレット変換した結果を3次元的に示すグラフである。
【図3】条件2(表面剥離)の測定信号の時間波形及びウェーブレット変換した結果を3次元的に示すグラフである。
【図4】条件3(下地剥離)の測定信号の時間波形及びウェーブレット変換した結果を3次元的に示すグラフである。
【図5】条件4(表面剥離及び下地剥離)の測定信号の時間波形及びウェーブレット変換した結果を3次元的に示すグラフである。
【図6】模型実験の試験結果より算出したFα、Fβをプロットしたグラフである。
【図7】Fα及びFβを正規化したF´α及びF´βをプロットしたグラフである。
【図8】本実施形態の剥離診断装置の構成を示す図である。
【図9】剥離診断装置を用いたタイル壁面の剥離の有無及び剥離状態を判定する工程を示すフローチャートである。
【図10】判定部における剥離の有無及び剥離の状態を判定する工程を詳細に示すフローチャートである。
【図11】内部に空洞を有するアスロックに貼り付けたタイル壁面を示す断面図である。
【図12】Gα及びGβに基づく判定条件を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
1 タイル壁面 2 建物の壁面
3 中間モルタル 4 貼付けモルタル
5 タイル 6 下地剥離
7 表面剥離 8 内部空洞
10 剥離診断装置 12 打撃棒
14 マイクロフォン 16 信号処理部
20 増幅部 22 A/D変換部
24 マザーウェーブレット作成部 26 ウェーブレット変換部
28 判定部 30 出力部
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイル貼り付け面の打撃音をウェーブレット変換した結果に基づき、剥離の有無及び剥離状態を診断する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、タイル壁面に剥離が発生しているか否かを判定する方法として、作業員が検査の対象となるタイル壁面をハンマー等で打撃し、その打撃音を作業員が聞き分ける方法が知られている。すなわち、健全なタイル壁面と剥離が生じたタイル壁面とでは、打撃に対する振動応答が異なることから、その違いを聞き分けて剥離の有無を判定するのである。しかし、このような診断方法では、作業員の勘や技能に診断結果が左右されやすく、必ずしも高い精度で剥離の診断をすることができない。
そこで、例えば、特許文献1には、接触体を壁面に押し付けながら、移動させた際に発生する音を測定信号として取得する装置により、壁面の適宜な部分についての測定信号を基準信号として取得し、この基準信号に基づきマザーウェーブレットを作成し、壁面の診断対象となる部分についての測定信号を、このマザーウェーブレットを用いてウェーブレット変換演算を行い、この演算結果に基づき剥離の有無を判定する方法が記載されている。
【特許文献1】特開2004―205385号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、一般的な外装タイル壁面は、建物を構成する下地コンクリートと、下地コンクリートの表面に塗られた中間モルタルと、中間モルタルの表面に塗られた貼付けモルタルと、貼付けモルタルにより接着されたタイルとで構成される。タイル壁面に生ずる剥離には、下地コンクリートと中間モルタルとの間で生じる下地剥離と、貼付けモルタルと、タイルとの間で生じる表面剥離とがあり、これらの何れか一方又は両方が生じている。これらの剥離の状態により補修方法が異なるので、効率よく補修作業を行うためには、剥離の状態を診断する必要がある。
これに対して、上述した特許文献1記載の方法では、剥離の有無を判定することはできるものの、このような剥離の状態を判定することはできない。
【0004】
本発明は上記の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、タイル壁面の剥離の有無及び剥離の状態を判定することができる検査方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のタイル貼り付け面の剥離診断方法は、タイル貼り付け面の剥離状態を前記タイル貼り付け面の打撃音に基づき診断する方法であって、前記タイル貼り付け面の適宜な部分についての打撃音を基準信号として取得する基準信号取得ステップと、前記取得した基準信号に基づきマザーウェーブレットを作成するマザーウェーブレット作成ステップと、前記タイル貼り付け面の診断対象部分についての打撃音を測定信号として取得する測定信号取得ステップと、前記取得した測定信号に対して、前記作成したマザーウェーブレットを用いてウェーブレット変換することにより、変換測定信号を生成するウェーブレット変換ステップと、前記変換測定信号についての時間−周波数領域における音圧分布に基づき剥離の有無及び剥離がある場合の剥離状態を判定する剥離判定ステップとを備えることを特徴とする。
【0006】
上記のタイル貼り付け面の剥離診断方法において、前記剥離判定ステップは、前記変換測定信号の周波数f、時間tにおける値をI(f、t)としたとき、以下の式(1)、(2)によりFα、Fβを算出するステップと、前記算出したFα、Fβに基づき、剥離の有無及び剥離がある場合の剥離状態を判定するステップとを備えてもよい。
【数1】
【0007】
また、前記Fα、Fβに基づき、剥離の有無及び剥離がある場合の剥離状態を判定するステップは、Fαlim、Fβlimを適宜設定し、Fα≧FαlimかつFβ≧Fβlimの場合には、表面剥離及び下地剥離が発生していると判定し、Fα≧FαlimかつFβ<Fβlimの場合には、表面剥離が発生していると判定し、Fα<FαlimかつFβ≧Fβlimの場合には、下地剥離が発生していると判定し、Fα<FαlimかつFβ<Fβlimの場合には、剥離が発生していないと判定してもよい。
【0008】
また、前記剥離判定ステップは、前記基準信号を前記マザーウェーブレットを用いてウェーブレット変換して、変換基準信号を取得するステップと、前記変換測定信号の周波数f、時間tにおける値をI(f、t)、前記変換基準信号の周波数f、時間tにおける値をI´(f、t)としたとき、以下の式(3)、(4)により相互相関関数Gα、Gβを算出するステップと、算出したGα、Gβに基づき、剥離の有無及び剥離がある場合には剥離状態を判定するステップを備えてもよい。
【数2】
【0009】
また、前記算出したGα、Gβに基づき、剥離の有無及び剥離がある場合には剥離状態を判定するステップは、Gαlim、Gβlimを適宜設定し、Gα≧GαlimかつGβ≧Gβlimの場合には、剥離が発生していないと判定し、Gα<GαlimかつGβ≧Gβlimの場合には、表面剥離が発生していると判定し、Gα≧GαlimかつGβ<Gβlimの場合には、下地剥離が発生していると判定し、Gα<GαlimかつGβ<Gβlimの場合には、表面剥離及び下地剥離が共に発生していると判定してもよい。
【0010】
上記の剥離診断方法において、前記積分区間fα1〜fα2を、4×103〜2×104[kHZ]とし、前記積分区間tα1〜tα2を、−1.0×10−3〜0.5×10−3[s]とし、前記積分区間fβ1〜fβ2を、2×103〜4×104[kHZ]とし、前記積分区間tβ1〜tβ2を、0.5×10−3〜8.0×10−3[s]としてもよい。
【0011】
本発明によれば、ウェーブレット変換した結果の時間波形の音圧レベル及び減衰時間、周波数のピークに基づき剥離の有無及び剥離状態を判定することができる。これにより剥離の状態に基づき補修作業の計画をたてることができるため、迅速かつ無駄のない施工が可能となり、コストの削減、工期の短縮が可能となる。
【0012】
また、本発明は、タイル貼り付け面の剥離状態を前記タイル貼り付け面の打撃音に基づき診断する装置であって、前記タイル貼り付け面の適宜な部分についての打撃音を基準信号として取得する手段と、前記取得した基準信号に基づきマザーウェーブレットを作成する手段と、前記タイル貼り付け面の診断対象部分についての打撃音を測定信号として取得する手段と、前記取得した測定信号に対して、前記作成したマザーウェーブレットを用いてウェーブレット変換することにより、変換測定信号を取得する手段と、前記変換測定信号について時間−周波数領域における音圧分布に基づき剥離の有無及び剥離が有る場合の剥離状態を判定する手段とを備えることを特徴とするタイル貼り付け面の剥離診断装置を含むものとする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、剥離の有無に加えて剥離の状態も判定することができる。このように剥離の状態がわかることにより、適切な補修作業の計画をたてることができ、迅速かつ無駄のない施工が可能となり、コストの削減、工期の短縮が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明のタイル貼り付け面の剥離診断装置の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、(A)は本実施形態の剥離診断装置10の適用の対象となるタイル壁面1の一例を示す断面図であり、同図(B)は、剥離が生じたタイル壁面1を示す断面図である。図1(A)に示すように、タイル壁面1は、建物壁面を構成する下地コンクリート2の表面に塗られた中間モルタル3と、中間モルタル3の上面に塗られた貼付けモルタル4と、貼付けモルタル4により取り付けられたタイル5とで構成される。図1(B)に示すように、タイル壁面1に生ずる剥離は、建物壁面を構成する下地コンクリート2と中間モルタルとの間に剥離が生じる場合(以下、下地剥離6という)と、貼付けモルタル4とタイル5との間に剥離が生じる場合(以下、表面剥離7という)と、下地剥離6及び表面剥離7が共に生じている場合とがある。
【0015】
これまで、発明者らは、特開2004―205385号公報に記載されているように、壁面の適宜な部分の打撃音を測定し、測定信号を基準信号としてマザーウェーブレットを作成しておき、このマザーウェーブレットを用いて、測定対象となる場所の打撃音の測定信号をウェーブレット変換し、この結果に基づき、剥離の有無を判定する方法を提案している。しかし、この方法では剥離の有無は判定することができるが、剥離の状態を判定することはできなかった。
【0016】
そこで、発明者らは、模型実験により、上記の方法により得られた測定信号をウェーブレット変換した結果と剥離状態との関係を調べるため、模型実験を行った。以下、この模型実験について説明する。
本実験では、条件1:健全状態(表面剥離も下地剥離も生じていない状態)、条件2:表面剥離を生じた状態、条件3:下地剥離を生じた状態、条件4:表面剥離及び下地剥離を生じた状態、の4条件のタイル壁面を模した複数模型に対して、特開2004―205385号公報に記載された方法と同様に、剥離を生じている部分の測定信号を測定し、測定信号に対してウェーブレット変換を行った。
【0017】
図2〜図5は、測定信号の時間波形及び測定信号をウェーブレット変換した結果を3次元的に示すグラフであり、図2は条件1(健全状態)の結果を、図3は条件2(表面剥離)の結果を、図4は条件3(下地剥離)の結果を、図5は条件4(表面剥離及び下地剥離)の結果を示す。なお、各図において、(A)は時間波形を示すグラフであり、(B)はウェーブレット変換した結果を3次元的に示すグラフ(以下、ウェーブレット平面という)である。
【0018】
図2(A)に示すように、条件1(健全状態)の測定信号は、表面剥離又は下地剥離の発生している他の条件(条件2〜条件4)に比べて音圧レベルが低く、時間波形の減衰が早い。また、同図(B)に示すウェーブレット平面より、特定の周波数にピークを持つことがないという特徴を有することがわかる。
【0019】
また、図3(A)に示すように、条件2(表面剥離)の測定信号は、条件1(健全状態)に比べて音圧レベルが高く、時間波形の減衰が条件3(下地剥離)や条件4(表面剥離及び下地剥離)に比べて早い。また、同図(B)に示すウェーブレット平面より、特定の周波数にピーク(実線で囲まれた部分)を持つことがわかる。
【0020】
また、図4(A)に示すように、条件3(下地剥離)の測定信号は、条件1(健全状態)に比べて音圧レベルが高く、条件1(健全状態)や条件2(表面剥離)に比べて時間波形の減衰が遅い。また、同図(B)に示すウェーブレット平面より、特定の周波数にピークを持たないが、低周波数領域において減衰が遅い(破線で囲まれた部分)という特徴を有することがわかる。
また、図5(A)に示すように、条件4(表面剥離及び下地剥離)の測定信号は、時間波形の音圧レベルは条件1(健全状態)に比べて高く、条件1(健全状態)や条件2(表面剥離)に比べて時間波形の減衰が遅い。また、同図(B)に示すようにウェーブレット平面より、条件2と同様に、特定の周波数にピークを持つ(実線で囲まれた部分)とともに、条件3と同様に、低周波数領域において減衰が遅い(破線で囲まれた部分)という特徴を有することがわかる。すなわち、条件4の測定信号は、全体的な傾向として、図3に示す条件2(表面剥離)と、図4に示す条件3(下地剥離)との傾向をともに備えている。
【0021】
これらの結果をまとめると、表面剥離及び下地剥離の有無と、ウェーブレット平面上で表れる特徴との間には、以下のような関係があることがわかる。
表面剥離を生じている場合には、タイル5が振動するため、特定の周波数にピークを持ち、その周波数におけるピークの音圧レベルが高い。また、下地剥離を生じている場合には、中間モルタル3や下地コンクリート2との間に生じる隙間や空洞部の共鳴による減衰が生じるため、時間波形の減衰が長い。また、表面剥離及び下地剥離がともに発生して入る場合には、上記の表面剥離及び下地剥離の特徴が共に表れる傾向がある。
【0022】
発明者らは、これらの特徴を定量的に扱うため、以下の式(5)、(6)で算出される指標Fα、Fβを提案する。式(5)、(6)よりわかるように、Fα、Fβは、ウェーブレット平面中の表面剥離及び下地剥離の特徴の表れる部分(図2〜図5で実線及び破線で囲まれる部分)を含む領域についての積分値である。なお、式中のI(f、t)は、ウェーブレット平面における周波数f、時間tの値を示す。
【数3】
式(5)及び式(6)における積分区間については、試験結果に基づき、以下のように設定することとした。
tα1〜tα2:−1.0×10−3〜0.5×10−3[s]
fα1〜fα2:−1.0×10−3〜0.5×10−3[kHz]
tβ1〜tβ2:0.5×10−3〜8.0×10−3[s]
fβ1〜fβ2:0.5×10−3〜8.0×10−3[kHz]
なお、積分区間はこれに限らず、表面剥離及び下地剥離の特徴の表れる部分を含むような範囲に設定すればよい。
【0023】
模型実験の各試験結果について、式(5)及び式(6)によりFα、Fβを算出し、縦軸にFαを、横軸にFβをとり、プロットしたグラフを図6に示す。また、各測定結果より得られたFα及びFβを、夫々条件1(健全状態)のFαの平均値及びFβの平均値で割ることにより正規化したF´α及びF´βをプロットしたグラフを図7に示す。図6及び図7に示すように、模型実験の結果は条件ごとに一定の領域に密集している。
【0024】
さらに、発明者らは、図7に示すように、適宜な値に閾値F´αlim、F´βlimを設定し、閾値F´αlim、F´βlimと、F´α及びF´βとの大小関係に基づき、条件1〜4の試験結果を分類するものとした。なお、本実施形態では、閾値Fαlim´=2.0、Fβlim´=2.0としている。
図7に示すように、F´α<F´αlimかつF´β<F´βlimの領域1には、条件1(健全状態)の結果が分布する。また、F´α≧F´αlimかつF´β<F´βlimの領域2には、条件2(表面剥離)の結果が分布する。また、F´α<F´αlimかつF´β≧F´βlimの領域3には、条件3(下地剥離)の結果が分布する。また、F´α≧F´αlimかつF´β≧F´βlimの領域4には、条件4(表面剥離及び下地剥離)の結果が分布する。
【0025】
上述した模型実験の試験結果を踏まえて、本実施形態の剥離診断装置10は以下に説明するような構成をとることとした。
図8は、本実施形態の剥離診断装置10の構成を示す図である。同図に示すように、剥離診断装置10は、作業員がタイル壁面をたたくための打撃棒12と、壁面を打撃した際の打撃音を収音するマイクロフォン14と、マイクロフォン14からの出力信号を処理する信号処理部16とで構成される。
【0026】
信号処理部16は、増幅部20と、A/D変換部22と、マザーウェーブレット作成部24と、ウェーブレット変換部26と、判定部28と、出力部30とを備える。増幅部20は、マイクロフォン14より入力から出力された信号を増幅する。A/D変換部22は、増幅部20より入力された信号をA/D変換する。
そして、A/D変換部22でA/D変換された信号が後述する基準信号である場合には、A/D変換された基準信号は、マザーウェーブレット作成部24に入力される。また、A/D変換された信号が後述する測定信号である場合には、A/D変換された測定信号はウェーブレット変換部26に入力される。
【0027】
マザーウェーブレット作成部24は、入力された基準信号に基づき、マザーウェーブレットを作成する。マザーウェーブレット作成部24におけるマザーウェーブレットの作成方法は、例えば特開2004―205385号公報に記載されている方法などを用いればよい。
作成されたマザーウェーブレットは、ウェーブレット変換部26に入力される。ウェーブレット変換部26は、このマザーウェーブレットを用いて、A/D変換部22から入力された測定信号に対してウェーブレット変換を行い変換測定信号を生成する。ウェーブレット変換部26により生成された変換測定信号は、判定部28に入力される。
判定部28は、ウェーブレット変換部26より入力された変換測定信号に基づき、剥離の有無及び剥離状態の判定を行う。判定部28における判定結果は、出力部30において、画面表示又は印刷出力される。
【0028】
以下、本実施形態の剥離診断装置10を用いてタイル壁面1の剥離の有無及び剥離の状態を判定する方法を説明する。
図9は、剥離診断装置10を用いたタイル壁面1の剥離の有無及び剥離状態を判定する工程を示すフローチャートである。同図に示すように、まず、ステップ100において、タイル壁面1の適宜な部分について打撃棒12で打撃した時の打撃音をマイクロフォン14により測定し、その測定信号を基準信号として取得する。取得した基準信号は増幅部20において適宜増幅され、A/D変換部22でA/D変換されたのち、マザーウェーブレット作成部24に入力される。
【0029】
次に、ステップ200において、マザーウェーブレット作成部24は、A/D変換部22より受信した基準信号に基づきマザーウェーブレットを作成する。マザーウェーブレット作成部24により作成されたマザーウェーブレットは、ウェーブレット変換部26に入力される。
【0030】
次に、ステップ300において、タイル壁面1の診断の対象となる場所を打撃棒12で打撃し、マイクロフォン14により打撃音の測定信号を取得する。取得した測定信号は、増幅部20において、適宜増幅され、A/D変換部22において、A/D変換されたのち、ウェーブレット変換部26へ入力される。
次に、ステップ400において、ウェーブレット変換部26は、入力された測定信号を、マザーウェーブレット作成部24が作成したマザーウェーブレットを用いてウェーブレット変換する。ウェーブレット変換部26により生成された変換測定信号は、判定部28に入力される。
次に、ステップ500において、判定部28は入力された変換測定信号に基づき、診断の対象となるタイル壁面1の剥離の有無及び剥離の状態を判定する。
【0031】
図10は、ステップ500における判定部28における剥離の有無及び剥離の状態を判定する工程を詳細に示すフローチャートである。
まず、ステップ510において、式(5)及び(6)により、Fα、Fβを算出する。
次に、ステップ520において、基準信号をウェーブレット変換した変換基準信号を算出する。
次に、ステップ530において、変換基準信号についてFα、Fβを算出し、これを用いて、ステップ510において算出したFα、Fβを割ることにより正規化し、F´α、F´βを算出する。
【0032】
次に、算出したF´α及びF´βを、夫々F´αlim及びF´βlimと比較し、比較結果に基づき判定を行う。
ステップ540においてF´α<F´αlimであり、かつ、ステップ550においてF´β<F´βlimである(すなわち図7における領域1に含まれる)場合には、ステップ570において、健全状態であると判定する。また、ステップ540において、Fα≧Fαlimであり、かつ、ステップ550において、Fβ<Fβlimである(すなわち図7における領域2に含まれる)場合には、ステップ575において、表面剥離が発生していると判定する。
また、ステップ540において、Fα<Fαlimであり、かつ、ステップ560において、Fβ≧Fβlimである(すなわち図7における領域3に含まれる)場合には、ステップ580において、下地剥離が発生していると判定する。また、ステップ540において、F´α≧F´αlimであり、かつ、ステップ560において、Fβ≧Fβlimである(すなわち図7における領域4に含まれる)場合には、ステップ585において、表面剥離及び下地剥離が発生していると判定する。
上記のようにして、判定部28により判定された結果は、出力部30より、印刷出力又は画像出力される。
【0033】
以上説明したように、本実施形態の剥離診断装置10によれば、剥離の有無に加えて、剥離が発生している場合には剥離の状態も判定することができる。剥離の状態がわかることにより、適切な補修作業の計画をたてることができるため、迅速かつ無駄のない施工が可能となり、コストの削減、工期の短縮が可能となる。
【0034】
なお、上記の説明では、診断対象箇所の測定信号に基づき算出したFα、Fβを、健全状態のFα、Fβの平均値で割る事により正規化したF´α、F´βを用いて、診断を行ったが、これに限らず、適宜な閾値Fαlim、Fβlimを設定し、Fα、Fβと、Fαlim、Fβlimとを夫々比較し、その大小関係に基づき判定を行ってもよい。
なお、本実施形態の剥離診断装置10によれば、図11に示すような、外装コンクリートパネルの一種である内部に空洞8を有する押出成形セメント板を用いたタイル壁面100の診断にも用いることができる。押出成形セメント板を用いたタイル壁面の診断に、従来の打撃音により剥離状態の診断を行う方法を用いると、押出成形セメント板は内部空洞8で生じる共鳴音の影響により判定を行うのは難しかった。しかし、本実施形態の剥離診断装置10によれば、ウェーブレット変換を行うことにより、表面剥離7に起因する音と内部空洞8における共鳴音とを分離することができるため、剥離状態を診断することができる。
【0035】
なお、上記の説明では、判定部28において、ウェーブレット平面における表面剥離及び下地剥離の特徴が表れる部分について積分を行い、得られた積分値Fα、Fβに基づき判定を行ったが、これに限らず、相互相関関数を用いて判定を行うことができる。以下、判定部28において、相互相関関数を用いて判定を行う別の実施形態を説明する。
【0036】
上述した実施形態では、判定部28には、測定信号をウェーブレット変換した変換測定信号が入力されていたが、相互相関関数を用いて判定を行う場合には、判定部28には、測定信号をウェーブレット変換した変換測定信号とともに、基準信号をウェーブレット変換した変換基準信号も入力される。判定部28には、変換測定信号とともに、この変換基準信号が入力される。
【0037】
判定部28は、以下の式(7)、(8)に基づき、変換測定信号及び変換基準信号の相互相関関数Gα、Gβ算出する。なお、式中のI(f、t)、I´(f、t)は、夫々周波数f、時刻tにおける変換測定信号及び変換基準信号の値を示し、μα、μ´α、は積分区間fα1〜fα2、積分区間tα1〜tα2におけるI(f、t)、I´(f、t)の平均値を示し、σα、σ´α、は積分区間fα1〜fα2、積分区間tα1〜tα2におけるI(f、t)、I´(f、t)の標準偏差を示す。また、μβ、μ´β、は積分区間fβ1〜fβ2、積分区間tβ1〜tβ2におけるI(f、t)、I´(f、t)の平均値を示し、σβ、σ´β、は積分区間fβ1〜fβ2、積分区間tβ1〜tβ2におけるI(f、t)、I´(f、t)の標準偏差を示す。
また、積分区間は、Fα、Fβを算出するための式(5)及び式(6)における積分区間と同様に設定すればよい。
【数4】
【0038】
上記算出したGαは、ウェーブレット平面における表面剥離の特徴の表れる領域についての相互相関関数であるため、Gαが1に近づくということは、この領域のI(f、t)とI´(f、t)とが近い傾向を有する、すなわち、表面剥離が発生していないことを意味する。また、Gαが0に近づくということは、この部分について、I(f、t)とI´(f、t)とが異なる傾向を有する、すなわち、表面剥離が発生していることを意味する。
【0039】
同様に上記算出したGβは、ウェーブレット平面における下地剥離の特徴の表れる部分についての相互相関関数であるため、Gβが1に近づくということは、この部分について、I(f、t)とI´(f、t)とが近い傾向を有する、すなわち下地剥離が発生していないことを意味する。また、Gβが0に近づくということは、この部分について、I(f、t)とI´(f、t)とが異なる傾向を有する、すなわち表面剥離が発生していることを意味する。
【0040】
本実施形態の判定部28は、予め適宜な値に閾値Gαlim及びGβlimを設定しておき、これらの閾値と上記算出したGα及びGβを比較することにより剥離の有無及び剥離の状態を判定する。
図12は、Gα及びGβに基づく判定条件を示す図である。
同図に示すように、上記の式(7)及び(8)により算出したGα及びGβが、Gα≧GαlimかつGβ≧Gβlimの場合には、剥離が発生していないと判定し、Gα<GαlimかつGβ≧Gβlimの場合には、表面剥離の可能性があると判定し、Gα≧GαlimかつGβ<Gβlimの場合には、下地剥離の可能性があると判定し、Gα<GαlimかつGβ<Gβlimの場合には、表面剥離及び下地剥離が共に発生していると判定する。
以上のように相互相関関数を用いても、ウェーブレット平面における表面剥離及び下地剥離の特徴が表れる領域の音圧レベルに基づき判定を行うことができるため、剥離の有無に加えて剥離の状態を判定することができる。
なお、本実施形態の剥離診断装置による剥離状態の診断の対象となるのは、タイルの貼付けられた壁面に限られず、石等が貼り付けられた壁面などにも適用することができる。また、壁面に限らず、屋根、床、上げ裏(庇、軒、階段の裏側)などの剥離診断にも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】(A)は本実施形態の剥離診断装置の適用の対象となる一般的なタイル壁面の一例を示す断面図であり、(B)は、剥離が生じたタイル壁面を示す断面図である。
【図2】条件1(健全状態)の測定信号の時間波形及びウェーブレット変換した結果を3次元的に示すグラフである。
【図3】条件2(表面剥離)の測定信号の時間波形及びウェーブレット変換した結果を3次元的に示すグラフである。
【図4】条件3(下地剥離)の測定信号の時間波形及びウェーブレット変換した結果を3次元的に示すグラフである。
【図5】条件4(表面剥離及び下地剥離)の測定信号の時間波形及びウェーブレット変換した結果を3次元的に示すグラフである。
【図6】模型実験の試験結果より算出したFα、Fβをプロットしたグラフである。
【図7】Fα及びFβを正規化したF´α及びF´βをプロットしたグラフである。
【図8】本実施形態の剥離診断装置の構成を示す図である。
【図9】剥離診断装置を用いたタイル壁面の剥離の有無及び剥離状態を判定する工程を示すフローチャートである。
【図10】判定部における剥離の有無及び剥離の状態を判定する工程を詳細に示すフローチャートである。
【図11】内部に空洞を有するアスロックに貼り付けたタイル壁面を示す断面図である。
【図12】Gα及びGβに基づく判定条件を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
1 タイル壁面 2 建物の壁面
3 中間モルタル 4 貼付けモルタル
5 タイル 6 下地剥離
7 表面剥離 8 内部空洞
10 剥離診断装置 12 打撃棒
14 マイクロフォン 16 信号処理部
20 増幅部 22 A/D変換部
24 マザーウェーブレット作成部 26 ウェーブレット変換部
28 判定部 30 出力部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイル貼り付け面の剥離状態を前記タイル貼り付け面の打撃音に基づき診断する方法であって、
前記タイル貼り付け面の適宜な部分についての打撃音を基準信号として取得する基準信号取得ステップと、
前記取得した基準信号に基づきマザーウェーブレットを作成するマザーウェーブレット作成ステップと、
前記タイル貼り付け面の診断対象部分についての打撃音を測定信号として取得する測定信号取得ステップと、
前記取得した測定信号に対して、前記作成したマザーウェーブレットを用いてウェーブレット変換することにより、変換測定信号を生成するウェーブレット変換ステップと、
前記変換測定信号についての時間−周波数領域における音圧分布に基づき剥離の有無及び剥離がある場合の剥離状態を判定する剥離判定ステップとを備えることを特徴とするタイル貼り付け面の剥離診断方法。
【請求項2】
前記剥離判定ステップは、
前記変換測定信号の周波数f、時間tにおける値をI(f、t)としたとき、以下の式(1)、(2)によりFα、Fβを算出するステップと、
前記算出したFα、Fβに基づき、剥離の有無及び剥離がある場合の剥離状態を判定するステップとを備えることを特徴とする請求項1記載のタイル貼り付け面の剥離診断方法。
【請求項3】
前記Fα、Fβに基づき、剥離の有無及び剥離がある場合の剥離状態を判定するステップは、
Fαlim、Fβlimを適宜設定し、
Fα≧FαlimかつFβ≧Fβlimの場合には、表面剥離及び下地剥離が発生していると判定し、
Fα≧FαlimかつFβ<Fβlimの場合には、表面剥離が発生していると判定し、
Fα<FαlimかつFβ≧Fβlimの場合には、下地剥離が発生していると判定し、
Fα<FαlimかつFβ<Fβlimの場合には、剥離が発生していないと判定することを特徴とする請求項2記載の剥離診断方法。
【請求項4】
前記剥離判定ステップは、
前記基準信号を前記マザーウェーブレットを用いてウェーブレット変換して、変換基準信号を生成するステップと、
前記変換測定信号の周波数f、時間tにおける値をI(f、t)、前記変換基準信号の周波数f、時間tにおける値をI´(f、t)としたとき、以下の式(3)、(4)により相互相関関数Gα、Gβを算出するステップと、
算出したGα、Gβに基づき、剥離の有無及び剥離がある場合には剥離状態を判定するステップを備えることを特徴とする請求項1記載のタイル貼り付け面の剥離診断方法。
【請求項5】
前記算出したGα、Gβに基づき、剥離の有無及び剥離がある場合には剥離状態を判定するステップは、
Gαlim、Gβlimを適宜設定し、
Gα≧GαlimかつGβ≧Gβlimの場合には、剥離が発生していないと判定し、
Gα<GαlimかつGβ≧Gβlimの場合には、表面剥離が発生していると判定し、
Gα≧GαlimかつGβ<Gβlimの場合には、下地剥離が発生していると判定し、
Gα<GαlimかつGβ<Gβlimの場合には、表面剥離及び下地剥離が共に発生していると判定することを特徴とする請求項4記載の剥離診断方法。
【請求項6】
請求項2から5何れかに記載の剥離診断方法であって、
前記積分区間fα1〜fα2を、4×103〜2×104[kHZ]とし、
前記積分区間tα1〜tα2を、−1.0×10−3〜0.5×10−3[s]とし、
前記積分区間fβ1〜fβ2を、2×103〜4×104[kHZ]とし、
前記積分区間tβ1〜tβ2を、0.5×10−3〜8.0×10−3[s]としたことを特徴とする剥離診断方法。
【請求項7】
タイル貼り付け面の剥離状態を前記タイル貼り付け面の打撃音に基づき診断する装置であって、
前記タイル貼り付け面の適宜な部分についての打撃音を基準信号として取得する手段と、
前記取得した基準信号に基づきマザーウェーブレットを作成する手段と、
前記タイル貼り付け面の診断対象部分についての打撃音を測定信号として取得する手段と、
前記取得した測定信号に対して、前記作成したマザーウェーブレットを用いてウェーブレット変換することにより、変換測定信号を生成する手段と、
前記変換測定信号について時間−周波数領域における音圧分布に基づき剥離の有無及び剥離が有る場合の剥離状態を判定する手段とを備えることを特徴とするタイル貼り付け面の剥離診断装置。
【請求項1】
タイル貼り付け面の剥離状態を前記タイル貼り付け面の打撃音に基づき診断する方法であって、
前記タイル貼り付け面の適宜な部分についての打撃音を基準信号として取得する基準信号取得ステップと、
前記取得した基準信号に基づきマザーウェーブレットを作成するマザーウェーブレット作成ステップと、
前記タイル貼り付け面の診断対象部分についての打撃音を測定信号として取得する測定信号取得ステップと、
前記取得した測定信号に対して、前記作成したマザーウェーブレットを用いてウェーブレット変換することにより、変換測定信号を生成するウェーブレット変換ステップと、
前記変換測定信号についての時間−周波数領域における音圧分布に基づき剥離の有無及び剥離がある場合の剥離状態を判定する剥離判定ステップとを備えることを特徴とするタイル貼り付け面の剥離診断方法。
【請求項2】
前記剥離判定ステップは、
前記変換測定信号の周波数f、時間tにおける値をI(f、t)としたとき、以下の式(1)、(2)によりFα、Fβを算出するステップと、
前記算出したFα、Fβに基づき、剥離の有無及び剥離がある場合の剥離状態を判定するステップとを備えることを特徴とする請求項1記載のタイル貼り付け面の剥離診断方法。
【請求項3】
前記Fα、Fβに基づき、剥離の有無及び剥離がある場合の剥離状態を判定するステップは、
Fαlim、Fβlimを適宜設定し、
Fα≧FαlimかつFβ≧Fβlimの場合には、表面剥離及び下地剥離が発生していると判定し、
Fα≧FαlimかつFβ<Fβlimの場合には、表面剥離が発生していると判定し、
Fα<FαlimかつFβ≧Fβlimの場合には、下地剥離が発生していると判定し、
Fα<FαlimかつFβ<Fβlimの場合には、剥離が発生していないと判定することを特徴とする請求項2記載の剥離診断方法。
【請求項4】
前記剥離判定ステップは、
前記基準信号を前記マザーウェーブレットを用いてウェーブレット変換して、変換基準信号を生成するステップと、
前記変換測定信号の周波数f、時間tにおける値をI(f、t)、前記変換基準信号の周波数f、時間tにおける値をI´(f、t)としたとき、以下の式(3)、(4)により相互相関関数Gα、Gβを算出するステップと、
算出したGα、Gβに基づき、剥離の有無及び剥離がある場合には剥離状態を判定するステップを備えることを特徴とする請求項1記載のタイル貼り付け面の剥離診断方法。
【請求項5】
前記算出したGα、Gβに基づき、剥離の有無及び剥離がある場合には剥離状態を判定するステップは、
Gαlim、Gβlimを適宜設定し、
Gα≧GαlimかつGβ≧Gβlimの場合には、剥離が発生していないと判定し、
Gα<GαlimかつGβ≧Gβlimの場合には、表面剥離が発生していると判定し、
Gα≧GαlimかつGβ<Gβlimの場合には、下地剥離が発生していると判定し、
Gα<GαlimかつGβ<Gβlimの場合には、表面剥離及び下地剥離が共に発生していると判定することを特徴とする請求項4記載の剥離診断方法。
【請求項6】
請求項2から5何れかに記載の剥離診断方法であって、
前記積分区間fα1〜fα2を、4×103〜2×104[kHZ]とし、
前記積分区間tα1〜tα2を、−1.0×10−3〜0.5×10−3[s]とし、
前記積分区間fβ1〜fβ2を、2×103〜4×104[kHZ]とし、
前記積分区間tβ1〜tβ2を、0.5×10−3〜8.0×10−3[s]としたことを特徴とする剥離診断方法。
【請求項7】
タイル貼り付け面の剥離状態を前記タイル貼り付け面の打撃音に基づき診断する装置であって、
前記タイル貼り付け面の適宜な部分についての打撃音を基準信号として取得する手段と、
前記取得した基準信号に基づきマザーウェーブレットを作成する手段と、
前記タイル貼り付け面の診断対象部分についての打撃音を測定信号として取得する手段と、
前記取得した測定信号に対して、前記作成したマザーウェーブレットを用いてウェーブレット変換することにより、変換測定信号を生成する手段と、
前記変換測定信号について時間−周波数領域における音圧分布に基づき剥離の有無及び剥離が有る場合の剥離状態を判定する手段とを備えることを特徴とするタイル貼り付け面の剥離診断装置。
【図1】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【公開番号】特開2007−309827(P2007−309827A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−140316(P2006−140316)
【出願日】平成18年5月19日(2006.5.19)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年5月19日(2006.5.19)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]