説明

タンクのベントガスの処理方法

【課題】微生物処理可能な水溶性有機物を貯蔵するタンクのベントガスの処理方法であって、大掛かりな設備を用いることなく、比較的簡単な運転操作により、有機物を大気に放出することがないという環境保護の観点に優れ、しかも回収した有機物を廃水の活性汚泥処理装置の活性汚泥の微生物の活性促進剤として有効利用できるという利点を有するタンクのベントガスの処理方法を提供する。
【解決手段】微生物処理可能な水溶性有機物を貯蔵するタンクのベントガスの処理方法であって、下記の工程を有するタンクのベントガスの処理方法。
(A):タンクのベントガス中の水溶性有機物を水に吸収させる工程
(B):水溶性有機物を吸収した水を活性汚泥の微生物の活性促進剤として活性汚泥処理装置に供給する工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンクのベントガスの処理方法に関するものである。更に詳しくは、本発明は、微生物処理可能な水溶性有機物を貯蔵するタンクのベントガスの処理方法であって、大掛かりな設備を用いることなく、比較的簡単な運転操作により、有機物の大気への放出量を削減することができるという環境保護の観点に優れ、しかも回収した有機物を廃水の活性汚泥処理装置の活性汚泥の微生物の活性促進剤として有効利用できるという利点を有するタンクのベントガスの処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば化学工場においては、液体をタンクに貯蔵して用いるのが一般である。ここで、タンクは全体が閉じた構造を有するものが汎用されている。閉じた構造のタンクに液体を供給し又はタンクから液体を排出する場合、タンク内の液体の量の増減に応じてタンク内の圧力が増減する。また、タンク周辺の気温の変化に伴うタンク内の気体の膨張と収縮によってもタンク内の圧力が変動する。かかるタンク内の圧力の増減はタンクの壁材料に対してストレスを与え、タンクの設計圧を超えたり、大気圧より低い圧力となった場合はタンクを損傷する危険があるので、かかる圧力の変動を防止する必要がある。そのためには、タンクの天井部にタンク内の気相部分と連通した気体の導管を設け、タンク内の圧力が増加した場合は該導管からタンク内の気体をタンク外に排出し、一方タンク内の圧力が減少した場合には該導管を通して不活性気体をタンク内に供給、もってタンク内の圧力を一定に維持する装置が設けられているのが通常である。かかる装置をタンクのベント装置と呼び、該装置からタンク外に排出される気体をベントガスと呼ぶ。
【0003】
ところで、ベントガス中にはタンクに貯蔵されている液体が気化した気体が含まれている。ベントガスを大気中に放出した場合、ベントガス中の該気体も大気中に放散されることになる。ここで、該液体が大気を汚染する性質のものである場合、大気汚染の観点から好ましくないという問題が発生する。
【0004】
そこで、たとえば非特許文献1にはベントガスを吸着剤を充填した吸着塔に導き、そこで大気汚染の原因となる物質を吸着除去し、その後にベントガスを大気に放出するという技術が開示されている。しかし、この方法は、一般に吸着剤の再生や交換が必要なため設備が大掛かりとなり、またその運転も複雑になるという問題がある。
【0005】
【非特許文献1】平成17年度 化学物質国際規制対策推進等報告書 化学物質排出量等管理マニュアル 第3節 貯蔵工程の化学物質排出量等管理マニュアル 6.3. 貯蔵設備改善並びに回収・再利用等による排出の抑制 4)吸着法
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
かかる状況において、本発明が解決しようとする課題は、微生物処理可能な水溶性有機物を貯蔵するタンクのベントガスの処理方法であって、大掛かりな設備を用いることなく、比較的簡単な運転操作により、有機物の大気への放出量を削減することができるという環境保護の観点に優れ、しかも回収した有機物を廃水の活性汚泥処理装置の活性汚泥の微生物の活性促進剤として有効利用できるという利点を有するタンクのベントガスの処理方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、微生物処理可能な水溶性有機物を貯蔵するタンクのベントガスの処理方法であって、下記の工程を有するタンクのベントガスの処理方法に係るものである。
(A):タンクのベントガス中の水溶性有機物を水に吸収させる工程
(B):水溶性有機物を吸収した水を活性汚泥の微生物の活性促進剤として活性汚泥処理装置に供給する工程
【発明の効果】
【0008】
本発明により、微生物処理可能な水溶性有機物を貯蔵するタンクのベントガスの処理方法であって、大掛かりな設備を用いることなく、比較的簡単な運転操作により、有機物を大気に放出することがないという環境保護の観点に優れ、しかも回収した有機物を廃水の活性汚泥処理装置の活性汚泥の微生物の活性促進剤として有効利用できるという利点を有するタンクのベントガスの処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、微生物処理可能な水溶性有機物を貯蔵するタンクのベントガスの処理方法である。
【0010】
ここで、微生物処理とは、廃水の微生物処理を意味し、活性汚泥をあげることができる。
【0011】
微生物処理可能な水溶性有機物としては、メタノール、ホルムアルデヒド、蟻酸等をあげることができるが、特にメタノールが好適である。
【0012】
本発明のタンクの構造や容量には、特に制限はなく、コーンルーフ、ドームルーフ、平屋根、横型ドラム、縦型ドラム等の各タイプをあげることができる。
【0013】
本発明の方法は、タンクのベントガス中の水溶性有機物を水に吸収させる工程を有する。
【0014】
タンクのベントガス中の水溶性有機物を水に吸収させる工程としては、特に制限はなく、公知の吸収装置を用いることができるが、例えば気液接触型の充填塔を用いる方法をあげることができる。これは、充填物を充填した塔の下部から上部に向けて処理すべき気体を流通させ、一方塔の上部から下部に向けて気体を吸収する液体(一般に水)を流通させ、塔内で気体と液体を接触させて気体を液体中に吸収させるものである。一般に充填物は、気液界面積を大きく、また気液両相間の物質移動抵抗を小さくすることを目的に、大きな比表面積をもつ、空隙率が大きい、機械的強度が大きい、安価である、耐食性に優れている、などの条件が要求される。本工程の充填物としては、特に制限は無く、公知のラシヒリング、ベルルサドル、テラレット等を利用できる。運転操作の条件は、吸収させる気体の種類、その濃度等に依存する。例えば、ベントガス中のメタノールの濃度は、(タンク気相部温度におけるメタノール蒸気圧)/(タンク気相部における全圧)×100で算出することができ、タンクの温度25℃のメタノールタンクではベントガス中のメタノールの濃度が17容積%程度となり、常温常圧等の条件が設備面、経済面から好ましい。
【0015】
本発明においては、水溶性有機物を吸収した水は活性汚泥の微生物の活性促進剤として活性汚泥処理装置に供給される。
【0016】
活性汚泥処理装置に供給される水の中の微生物処理可能な水溶性有機物の濃度は15重量%以下が好ましく、かつBOD5/TODの比が0.4以上であることが好ましい。ここで、BOD5とはBOD(生物化学的酸素要求量:水中の有機物が微生物により酸化分解されるときに必要とされる酸素量(測定値))のうち20℃で5日間培養したときに消費される酸素量であり、TOD(全酸素要求量)とは供試物質が完全に酸化されるときに必要とされる理論的な酸素量(計算値)である。水溶性有機物の濃度が過大であると水溶性有機物の気相分圧が高くなり、所望の除去率が達成できなくなる場合があり、またBOD5/TODの比が過小であると活性汚泥の活性促進剤としての効果を充分得られず、有機物の分解が不充分になる場合がある。
【0017】
本発明の好ましい実施態様として、タンクのベントガス中の水溶性有機物を水に吸収させる工程が気液接触型の充填塔を用い、該吸収後の水を貯槽に導き、該貯槽の水の一部を吸収塔へリサイクルさせ、貯槽の水の残部を微生物処理設備へ供給し、かつ貯槽へ濃度調整用の水を供給することにより貯槽中の水中の微生物処理可能な水溶性有機物の濃度を調整する方法をあげることができる。貯槽としては、特に容器の制限は無く、液を必要量保有できるドラムやタンクあげることができる。該水溶性有機物の濃度調整用の水としては、新水を持ちいればよい。一方、該水溶性有機物の濃度が低すぎる場合は、一時的に新水の供給と活性汚泥への供給を停止して濃度調整してもよいし、タンクに保有する水溶性有機物の一部を該貯槽へ加えてもよい。調整する濃度は前記のとおりである。
【実施例】
【0018】
次に本発明を実施例により説明する。
実施例1
図1に示すフローの装置を用いた。
【0019】
工業用メタノール(1)(濃度99.9重量%以上)を水溶性有機物タンク(2)に貯蔵した。メタノールはタンクから送液ポンプ(3)を経て系内に供給される。タンク内の圧力が減少した場合、導管(4)からは窒素が供給された。タンクの天井部にはベントガスを排出するための導管(5)が設けられている。ベントガスは導管(5)を経て、タンクベントガスブロワー(6)により充填塔(7)の下部に導かれた。充填塔の上部から、循環させた吸収液(水)(8)が吸収液送液ポンプ(9)によって供給された。充填塔内でベントガス中のメタノール(気体)が吸収液中に吸収された。充填塔の頂部からメタノール成分が除去されたベントガス(10)が大気に放出された。充填塔の底部からメタノール成分を吸収した吸収液(水)(8)が排出され、吸収液の貯蔵タンク(11)へ送られた。タンクに貯蔵された吸収液は再び吸収液送液ポンプ(9)によって充填塔に供給された。また、その一部は活性汚泥処理装置(12)へ送られた。適宜吸収液の成分濃度をガス濃度計(13)で測定し、濃度調整用の新水(14)を充填塔に供給し、該成分濃度を調整した。かくして、メタノール成分が除去されたベントガス(10)は、ベントガス中のメタノール量の90重量%以上が除去された。また、活性汚泥処理装置へ送られる水中のメタノールの濃度は10%以下に維持され、かつBOD5/TODの比は0.4以上に維持された。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1のフローの概略を示す図である。
【符号の説明】
【0021】
1 工業用メタノール
2 水溶性有機物タンク
3 送液ポンプ
4 窒素導管
5 ベントガス導管
6 タンクベントガスブロワー
7 充填塔
8 メタノール成分を吸収した吸収液(水)
9 吸収液送液ポンプ
10 メタノール成分が除去されたベントガス
11 メタノール成分を吸収した吸収液(水)の貯蔵タンク
12 活性汚泥処理装置
13 ガス濃度計
14 濃度調整用の新水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物処理可能な水溶性有機物を貯蔵するタンクのベントガスの処理方法であって、下記の工程を有するタンクのベントガスの処理方法。
(A):タンクのベントガス中の水溶性有機物を水に吸収させる工程
(B):水溶性有機物を吸収した水を活性汚泥の微生物の活性促進剤として活性汚泥処理装置に供給する工程
【請求項2】
微生物処理可能な水溶性有機物がメタノールである請求項1記載の方法。
【請求項3】
活性汚泥処理装置に供給する水の中の微生物処理可能な水溶性有機物の濃度が15重量%以下であり、かつBOD5/TODの比が0.4以上である請求項1又は請求項2記載の方法。ただし、BOD5とはBOD(生物化学的酸素要求量:水中の有機物が微生物により酸化分解されるときに必要とされる酸素量(測定値))のうち20℃で5日間培養したときに消費される酸素量であり、TOD(全酸素要求量)とは供試物質が完全に酸化されるときに必要とされる理論的な酸素量(計算値)である。
【請求項4】
タンクのベントガス中の水溶性有機物を水に吸収させる工程が気液接触型の充填塔を用い、該吸収後の水を貯槽に導き、該貯槽の水の一部を吸収塔へリサイクルさせ、貯槽の水の残部を微生物処理設備へ供給し、かつ貯槽へ濃度調整用の水を供給することにより貯槽中の水中の微生物処理可能な水溶性有機物の濃度を調整する請求項1又は請求項2記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−28596(P2009−28596A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−193182(P2007−193182)
【出願日】平成19年7月25日(2007.7.25)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】