説明

タンクの周溶接用レールの隙間調整装置

【課題】タンクの側板の内外周に所定長さのレールを取り付ける際に生じる固定レール間の隙間を調整できるタンクの周溶接用レールの隙間調整装置を提供する。
【解決手段】円周方向に配列した側板10に沿って、一定長の固定レール13sを順次円周方向に接続して周溶接用レール13を形成し、その周溶接用レール13で自動溶接機を走行させて側板10の下縁とその側板10下方の既設側板10の上縁の開先部を周溶接する際に、円周方向に順次固定レール13sを順次接続したときの固定レール接続長とそのレール位置の円周長の違いで形成される隙間を調整できるタンクの周溶接用レールの隙間調整装置であって、固定レール13s間の隙間の側板10に、レール受台26を着脱自在に設け、そのレール受台26に調整用レール13tを、左右の固定レール13sに接続すべく周方向に移動可能に取り付けたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンクの側板を周溶接する自動溶接機をガイドするタンクの周溶接用レールに係り、特に所定長さの固定レールをタンクの周方向に取り付けた際に形成される固定レール間の隙間を調整できるタンクの周溶接用レールの隙間調整装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
LNG等を収容する二重殻タンクは、コンクリート基板上に外槽の底面と側面を構築したのち、外槽内で外槽屋根と内槽屋根を構築し、この内外槽屋根をエアレージングにて持ち上げて外槽屋根を外槽の側面上縁に固定し、しかる後、内槽の側面を構築して構築される(特許文献1、2)。
【0003】
内外槽の側面は、底面上に、側板を円周方向に配列すると共に溶接し、その側板上に、順次側板を配列し、その上下の側板間の内外開先部を自動溶接機にて周溶接して構築される。
【0004】
図6は、周方向に配列された側板10を、自動溶接機11で周溶接する状態を示している。図6では、上下3段に側板10a、10b、10cが配列されて周溶接される状態を示しており、下部の側板10a上に、中間の側板10bが配列されて、その開先部が溶接12されて接合され、その中間の側板10b上に、上部の側板10cが仮止めされて取り付けられ、その上部の側板10cに、ラック溝が形成された周溶接用レール13が取り付けられ、中間の側板10bの上端と上部の側板10cの下端の開先部14が自動溶接機11で周溶接される状態を示している。
【0005】
自動溶接機11は、側板10cに取り付けた周溶接用レール13にて走行移動しながら開先部14をTIG溶接して中間の側板10bと上部の側板10cを溶接接合し、周溶接が終えたならば、その上部の側板10c上に新たに側板10が仮止めされ、その側板10に周溶接用レール13が取り付けられると共に自動溶接機11がセットされて周溶接し、以下、順次上方に側板10が組み立てられて外槽や内槽の側面が構築される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3752273号公報
【特許文献2】特開2003−10968号公報
【特許文献3】特開2000−24792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この二重殻タンクは、直径が80m程度の大型のタンクであり、周溶接用レール13は、その周長が数100mとなるが、周溶接用レール13自体は、長さLが一定長、例えば2mの固定レール13sを順次接続して形成される。
【0008】
図7(a)、図7(b)は、固定レール13sを円周方向に接続して周溶接用レール13とする例を示しており、周溶接用レール13は、側板10の内外周に沿って順次固定レール13sを接続して形成される。しかし、図7(b)に示すように周溶接用レール13の円周長は、2mの固定レール13sの整数倍になることはなく、固定レール13sの長さ(2m)未満の隙間Lo、Liが生じる。この場合、その隙間Lo、Liに応じた長さにレールに切断して接続すれば、その隙間Lo、Liを埋めることはできるが、側板の厚さは、高さ方向で順次薄くされ、その周溶接用レール13の円周長も相違するため、その都度固定レール13sを切断したのでは、レールの端材が大量に発生してしまう問題がある。
【0009】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、タンクの側板の内外周に所定長さの周溶接用レールを取り付ける際に生じる固定レール間の隙間を調整できるタンクの周溶接用レールの隙間調整装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、円周方向に配列した側板に沿って、一定長の固定レールを順次円周方向に接続して周溶接用レールを形成し、その周溶接用レールで自動溶接機を走行させて側板の下縁とその側板下方の既設側板の上縁の開先部を周溶接する際に、円周方向に順次固定レールを順次接続したときの固定レール接続長と周溶接用レールの円周長の違いで形成される隙間を調整できるタンクの周溶接用レールの隙間調整装置であって、固定レール間の隙間の側板に、レール受台を着脱自在に設け、そのレール受台に調整用レールを、左右の固定レールに接続すべく周方向に移動可能に取り付けたことを特徴とするタンクの周溶接用レールの隙間調整装置である。
【0011】
請求項2の発明は、上記調整用レールの左右いずれかの端部を、対向する一方の固定レールに接続し、その一方の固定レールから調整用レールに自動溶接機を走行移動し、しかる後、調整用レールを移動して他方で対向する他方の固定レールに接続し、その調整用レールから他方の固定レールに自動溶接機を走行移動させる請求項1記載のタンクの周溶接用レールの隙間調整装置である。
【0012】
請求項3の発明は、レール受台は、側板に着脱自在に取り付けられる固定用溝型支持材の両端上下に長穴が形成された取付板を取り付け、上下の取付板の長孔にボルトナットを介して上記調整用レールを支持するハット型支持脚を移動可能に設けて構成される請求項1又は2記載のタンクの周溶接用レールの隙間調整装置である。
【0013】
請求項4の発明は、固定用溝型支持材には、側板に溶接固定した取合ピースを挿通する取合穴が形成され、その取合穴を取合ピースに挿通し、取合穴を通して固定用溝型支持材から突出した取合ピースの締め付け穴に金矢を挿入してレール受台が側板に着脱自在に固定される請求項3記載のタンクの周溶接用レールの隙間調整装置である。
【0014】
請求項5の発明は、取合穴に位置した固定用溝型支持材の上下面には高さ調整ボルトが設けられ、取合穴に取合ピースを挿通したとき、上下の高さ調整ボルトを、それぞれ取合ピースに当接するようねじ込んで、側板へのレール受台の上下取付位置が調整される請求項4記載のタンクの周溶接用レールの隙間調整装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、周方向に固定レールを順次して周溶接用レールを形成する際に生じる隙間に位置した側板に、着脱自在にレール受台を設け、そのレール受台に調整用レールを周方向に移動可能に取り付けることで、固定レール間の隙間に相違があっても調整用レールの移動で隙間を埋めることができ、自動溶接装置を円滑に自動走行させることができるという優れた効果を発揮するものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施の形態を示す図で、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は(b)のA−A線断面図である。
【図2】図1に示した本発明の隙間調整装置をタンクの側板に取り付ける状態を示す組み立て斜視図である。
【図3】図2の隙間調整装置をタンクの側板に取り付けた斜視図である。
【図4】本発明の隙間調整装置の調整用レールを固定レールに接続する状態を示す図である。
【図5】本発明において、固定レールを側板に取り付ける状態を示す組み立て斜視図である。
【図6】タンク側面の側板にレールを取り付けて自動溶接装置で周溶接する状態を示す斜視図である。
【図7】タンク側面の側板の内外に固定レールを取り付けたときの固定レール間に形成される隙間を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0018】
先ず、固定レール13sを側面10に着脱自在に取り付ける構造を、図5により説明する。
【0019】
側板10の周方向には、台形状で中央に締め付け穴15が形成された取合ピース16が溶接により所定間隔で取り付けられている。この取合ピース16に固定用溝型支持材20の取合穴21を嵌め込み、その取合ピース16の締め付け穴15に、くさび状の金矢17を差し込むことで、固定用溝型支持材20が側面10に着脱自在に固定されるようになっている。このように固定用溝型支持材20を取合ピース16と金矢17で固定することで、固定用溝型支持材20が撓んで側板10の円弧形状に沿った形状になる。
【0020】
固定用溝型支持材20に形成される取合穴21は、取合ピース16の幅と厚さより十分に大きく形成され、取合穴21に位置した固定用溝型支持材20の上下には高さ調整ボルト22、22が設けられる。
【0021】
固定用溝型支持材20は、固定レール13sの長さの約2倍に形成され、その固定用溝型支持材20に、固定レール13sをネジ23で固定する支持脚24が適宜間隔で取り付けられている。
【0022】
固定レール13sには、ラック溝18が形成されており、図6で説明した自動溶接装置11の走行をガイドしつつ、自動溶接装置11内に設けたピニオン(図示せず)がラック溝18と噛合することで、走行位置の検出ができるようになっている。
【0023】
側面10への固定レール13sの取付は、取合ピース16に固定用溝型支持材20の取合穴21を嵌め込み、取合穴21から突出した取合ピース16の締め付け穴15に金矢17を差して仮止めし、その後、固定用溝型支持材20に設けた支持脚21に、固定レール13sをネジ23にて取り付け、その固定レール13sの高さが所定高さとなるように、上下の高さ調整ボルト22、22のねじ込み量を調整して、側板10に対する固定用溝型支持材20の高さを調整し、調整後に金矢17をさらに差し込んで固定する。
【0024】
このように固定用溝型支持材20を、側板10の周方向に沿って複数取り付け、固定用溝型支持材20の支持脚24に取り付けた周方向の固定レール13s同士は、適宜アングル鋼で形成した継手にて一体となるように接続する。
【0025】
以下同様に側板10の円周方向に、固定用溝型支持材20を介して固定レール13sを取り付けながら順次接続して周溶接用レール13を形成して行くが、図7で説明したように固定レール13sの接続長と、周溶接用レール13の円周長が相違するため、固定レール13sを円周方向に接続しても、固定レール13sより短い、隙間Li、Loが発生する。
【0026】
この隙間Li、Loは、長さ2mの固定レール13sを順次接続した場合には、0mを超え、2m未満となるが、隙間Li、Loが、1m前後となるように、長さ2mの固定レール13sに代えて、長さ1mの固定レール13sを接続することで、隙間Li、Loが、1m前後としておく。
【0027】
本発明は、この1m前後の隙間に位置した側板10に隙間調整装置25を取り付けその隙間を図6で説明した自動溶接装置11が走行移動できるようにて周溶接用レール13を形成するようにしたものである。
【0028】
さて、図1は、本発明の隙間調整装置25を示したものである。
【0029】
図1において、26は、側板10に着脱自在に取り付けられるレール受け台で、図5で説明した固定用溝型支持材20と同じ断面形状の固定用溝型支持材30と、その固定用溝型支持材30の左右両端の上下に取り付けた取付板35と、その取り付けた取付板35に移動自在に取り付けたハット型支持脚34とで構成される。
【0030】
固定用溝型支持材30の長さは、固定レール13s間で形成される1m前後の隙間より短い90cm程度の長さに形成され、その固定用溝型支持材30の中央に、取合ピース16を嵌め込む取合穴31が形成され、その取合穴31に位置した固定用溝型支持材30の上下面に高さ調整ボルト32、32が設けられる。高さ調整ボルト32、32は、固定用溝型支持材30の上下にナット33、33を溶接し、そのナット33、33に高さ調整ボルト32、32を螺合して設けられる。
【0031】
取付板35には、固定用溝型支持材30と平行に長穴36が形成され、その上下の取付板35、35に跨ってハット型支持脚34が設けられると共にそのハット型支持脚34が、長穴36を通してボルトナット37にて取り付けられると共にハット型支持脚34の台座面に調整用レール13tがネジ23にて取り付けられる。この調整用レール13tには、固定レール13sと同様にラック溝18が形成されている。
【0032】
ハット型支持脚34の上端には、上部の取付板35に係合してハット型支持脚34の上下位置を規制するフック38が設けられる。側板10と接する側の固定用溝型支持材30の両側には側板10に接する支持板39が設けられる。
【0033】
この図1に示した隙間調整装置25を側板10に固定する例を図2,図3により説明する。
【0034】
隙間に位置した側板10には、取合ピース16が溶接されており、図5の固定レール13sの取付と同様に、レール受け台26の固定用溝型支持材30に形成されている取合穴31を取合ピース16に嵌め込み、金矢17を締め付け穴15に差し込み、ハット型支持脚34の台座面に調整用レール13tを取付後、高さ調整ボルト32、32にてレール受け台26の高さを調整した後、金矢17を更に差し込んで固定する。
【0035】
図4は、固定レール13s間の隙間の側板10に隙間調整装置25を取り付けた状態を示したものである。
【0036】
ここで、図6で説明した自動溶接装置11が、図4で見て右側の固定レール13sから左側に走行移動しながら側板10の下縁の開先部をTIG溶接していくとする。この際、ハット型支持脚34を取付板35に取り付けているボルトナット37を緩め、ハット型支持脚34とそのハット型支持脚34に取り付けた調整用レール13tを移動して、その調整用レール13tの右端を、右側の固定レール13sと接合し、その状態で、アングル鋼からなる継手40で、固定レール13sと調整用レール13tとを接合し、さらにボルトナット37を締め付けて調整用レール13tを固定する。この際、ハット型支持脚34の上端には、取付板35と係合するフック38が設けられているため、移動中調整用レール13tの上下位置がズレることはない。
【0037】
このように調整用レール13tを固定レール13sに接合することで、自動溶接装置11(図6参照)が固定レール13sから調整用レール13tに載り移ることができる。その後自動溶接装置が、調整用レール13tの中央部まで、すなわちハット型支持脚34、34間まで走行移動したならば、自動溶接を停止し、調整用レール13tと固定レール13sとを接合している継手40を外し、ボルトナット37を緩め、自動溶接装置のピニオンをラック溝18と係合したまま側板10に吊り具などで支持し、調整用レール13tのみを左側に移動して左側の固定レール13sに接合すると共に継手40にて接合する。
【0038】
このように調整用レール13tを左側に移動して接合したならば、その調整用レール13tに走行支持された自動溶接機による自動溶接を再開して固定レール13sに移動することが可能となり、これにより固定レール13s間の隙間を埋めた周溶接が可能となる。
【0039】
図2〜図5においては、側板10の外面の周溶接について説明したが、内面でも同様に、固定レール13sを取り付け、その固定レール13s間で形成された隙間に、隙間調整装置25を取り付け、その調整用レール13tを移動して、周溶接する自動溶接装置をガイドする。
【0040】
側板10の内外面の周溶接が完了したならば、その側板10上の円周方向に新たな側板10を仮止めし、上述と同様に周溶接して外槽や内槽の側面を構築して行く。
【0041】
以上説明したように、本発明は、側板10を円周方向に配列し、その側板10に沿って固定レール13sを取り付け周溶接用レール13を形成する際に、その固定レール13sの接続長と周溶接用レール13の円周長の相違で形成される隙間を周方向に移動可能な調整用レール13tで埋めることができ、自動溶接装置を容易に案内して周溶接することが可能となる。
【符号の説明】
【0042】
10 側板
13 周溶接用レール
13s 固定レール
13t 調整用レール
16 取合ピース
17 金矢
26 レール受台
30 固定用溝型支持材
31 取合穴
35 取付板
34 ハット型支持脚
36 長穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円周方向に配列した側板に沿って、一定長の固定レールを順次円周方向に接続して周溶接用レールを形成し、その周溶接用レールで自動溶接機を走行させて側板の下縁とその側板下方の既設側板の上縁の開先部を周溶接する際に、円周方向に順次固定レールを順次接続したときの固定レール接続長と周溶接用レールの円周長の違いで形成される隙間を調整できるタンクの周溶接用レールの隙間調整装置であって、固定レール間の隙間の側板に、レール受台を着脱自在に設け、そのレール受台に調整用レールを、左右の固定レールに接続すべく周方向に移動可能に取り付けたことを特徴とするタンクの周溶接用レールの隙間調整装置。
【請求項2】
上記調整用レールの左右いずれかの端部を、対向する一方の固定レールに接続し、その一方の固定レールから調整用レールに自動溶接機を走行移動し、しかる後、調整用レールを移動して他方で対向する他方の固定レールに接続し、その調整用レールから他方の固定レールに自動溶接機を走行移動させる請求項1記載のタンクの周溶接用レールの隙間調整装置。
【請求項3】
レール受台は、側板に着脱自在に取り付けられる固定用溝型支持材の両端上下に長穴が形成された取付板を取り付け、上下の取付板の長孔にボルトナットを介して上記調整用レールを支持するハット型支持脚を移動可能に設けて構成される請求項1又は2記載のタンクの周溶接用レールの隙間調整装置。
【請求項4】
固定用溝型支持材には、側板に溶接固定した取合ピースを挿通する取合穴が形成され、その取合穴を取合ピースに挿通し、取合穴を通して固定用溝型支持材から突出した取合ピースの締め付け穴に金矢を挿入してレール受台が側板に着脱自在に固定される請求項3記載のタンクの周溶接用レールの隙間調整装置。
【請求項5】
取合穴に位置した固定用溝型支持材の上下面には高さ調整ボルトが設けられ、取合穴に取合ピースを挿通したとき、上下の高さ調整ボルトを、それぞれ取合ピースに当接するようねじ込んで、側板へのレール受台の上下取付位置が調整される請求項4記載のタンクの周溶接用レールの隙間調整装置。

【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−96263(P2012−96263A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246071(P2010−246071)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(592009281)IHIプラント建設株式会社 (39)
【Fターム(参考)】