タービン用軸シール及びそれを備えた蒸気タービン
【課題】軸シール本来のシール機能を発揮してタービン車室側の真空を維持しつつ、シール部材の破損を防止するタービンの軸シール構造を提供すること。
【解決手段】回転軸廻りに環状に配設され、加圧流体を外部から受入れて回転軸をシールするタービン用軸シールであって、該軸シールは、回転軸の周方向に沿って回転軸の中心方向に開口するように配置された溝部を備えるハウジングと、該溝部内の周方向に配置され、幅方向の両端を前記溝部の側面に狭持された断面U字状の弾力性を有するシール板と、を含む構造を備え、前記溝部の開口端の溝幅は、前記シール板の板幅より小さく形成されている。
【解決手段】回転軸廻りに環状に配設され、加圧流体を外部から受入れて回転軸をシールするタービン用軸シールであって、該軸シールは、回転軸の周方向に沿って回転軸の中心方向に開口するように配置された溝部を備えるハウジングと、該溝部内の周方向に配置され、幅方向の両端を前記溝部の側面に狭持された断面U字状の弾力性を有するシール板と、を含む構造を備え、前記溝部の開口端の溝幅は、前記シール板の板幅より小さく形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低圧用及び高中圧用の蒸気タービンに適用される軸シール及びそれを備えた蒸気タービンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蒸気タービンの定検工事の際、付帯設備のクリーンアップを目的に、水配管系統及び潤滑油配管系統のフラッシングが行われる。水配管系統のフラッシングを行うにあたっては、水中の酸素除去のため、タービン車室内を真空に保持する必要がある。
一方、蒸気タービンの起動時間の短縮のため、起動当初は、蒸気タービン内にグランド蒸気を導入せずに、蒸気タービンを停止させた状態で蒸気タービン車室内を真空に維持しつつ、水配管系統と潤滑油配管系統のフラッシング作業を同時平行で行う起動方法が採用されている。この方法では、蒸気タービンのグランド部に簡易な軸シールを設け、大気が蒸気タービンの車室内に漏れ込むのを防止して、水配管系統のフラッシングと潤滑油配管系統のフラッシングを同時に行うので、その分だけ起動時間を短縮できる。潤滑油配管系統のフラッシングが終了後、ロータを低速で回転させて、グランド部にグランド蒸気を導入し、水配管系統のフラシングが継続して行なわれる。
【0003】
特許文献1には、上述の軸シールの一例が示されている。図15には、その概略構造を示す。図15に示す軸シール80は、蒸気タービンのグランド部7の端部に設けられ、主にハウジング81とシール材83から構成されている。軸シール80は、ハウジング81を介してハウジングボルト14によりグランド部7に固定されている。ハウジング81内に設けられた溝部82内に中空部84を有するシール材83を回転軸6の廻りに環状に配置して、ハウジング81の頂部に加圧流体PGを外部から受入れる接続口15を備えている。シール材83と接続口15は、供給路16を介して接続され一体化されて、外部の供給源(図示せず)から加圧流体PGの受入が可能である。シール材83は、合成ゴム等の弾力性材料で形成され、その内部に回転軸の周方向に環状に形成された中空部84を備えている。軸シール80は、供給路16を介して加圧流体PGを中空部84に受入れてシール材83を膨張させ、シール材83が膨れて回転軸6及びハウジング81の溝部82の内壁に押付けられ、蒸気タービン1の車室側と大気側の間をシール材83でシールしている。この構造により、大気側からタービン車室側への空気の流入を遮断して、タービン車室側の真空を維持している。
【0004】
一方、特許文献2には、圧力流体の供給路とシール材を別体とし、薄板状のシール材をハウジングの溝内に配置して回転軸に接触するように設け、加圧流体の背圧でシール材を回転軸の表面に押付けてシールする軸シールが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平6−80283号公報
【特許文献2】実公昭59−8450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に示す軸シールは、外部供給源から加圧流体を受入れる供給路とシール材が直結された一体の構造であるため、回転軸を回転させた場合、回転軸の回転とともにシール材が共回りしようとするため、摺動トルクが加圧流体の供給路とシール材のつなぎ部分にかかり、シール材及びつなぎ部分の金具等を破損するという問題があった。
【0007】
一方、特許文献2に示される軸シールの場合、シール材の両端部が嵌めこみ構造のため、シール材の交換が容易でないという問題点があった。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みなされたもので、タービン起動時の水配管系統のフラッシングの際、軸シールのシール機能を発揮して、タービン車室側の真空を維持しつつ、シール部材の破損を防止し、交換が容易なタービンの軸シールを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の問題点を解決するため、下記の手段を採用した。
すなわち、本発明のタービン用軸シールは、タービンのグランド部に設けられ、回転軸廻りに環状に配設されて、加圧流体を外部から受入れて回転軸をシールするタービン用軸シールであって、該軸シールは、回転軸の周方向に沿って回転軸の中心方向に開口する溝部を備えたハウジングと、前記溝部内の周方向に配設され、溝幅方向の両端を前記溝部の側面に狭持された断面U字状の弾力性を有するシール板と、を含む構造を備え、前記溝部は、前記シール板の板幅より小さい溝幅の開口端を備えること、を特徴とする。
【0010】
本発明によれば、シール板と加圧流体の供給路とが分離され、直結する構造ではないので、シール板とハウジングの破損が防止できる。また、シール板は、ハウジングの開口端に狭持されているにすぎないため、その交換は容易である。
【0011】
本発明におけるハウジングは、上半部ハウジングと下半部ハウジングからなり、前記上半部ハウジングは、周方向に分割された基部と側板とから形成され、該側板は前記基部に対して回転軸の軸方向に着脱可能な構造を備え、前記下半部ハウジングは一体に形成されていることが望ましい。
【0012】
本発明によれば、上半部ハウジングでは、回転軸の軸方向に側板の着脱ができるので、シール板の挿入が容易である。また、下半部ハウジングにおいて、軸方向の作業スペースが狭隘な場合であっても、シール板を周方向から溝部に挿入できるので、シール板の取り付けが容易である。
【0013】
本発明における溝部は、天井面近傍で回転軸の軸方向に前記シール板の板幅より大きな幅を有する幅広部を備え、溝部の溝幅は、前記天井面から前記開口端に向けて次第に狭くなることが望ましい。
【0014】
本発明によれば、ハウジングが溝部の天井面近傍にシール板の板幅より大きな溝幅を有する幅広部を備えているので、シール板のハウジング内への挿入が容易であり、シール板の配置が確実である。
【0015】
本発明における溝部は、前記幅広部近傍では、回転軸に垂直かつ互いに平行で、前記シール板の厚さより長い側面を備え、前記幅広部近傍から前記開口端に向かって径方向に次第に溝幅が狭くなる側面を備え、前記開口端近傍では回転軸に垂直かつ互いに平行な側面を備えることが望ましい。
【0016】
本発明によれば、幅広部から開口端に向かって滑らかに縮小する側面を備えているので、幅広部近傍に挿入されたシール板を幅広部から径方向に開口端に向けて滑らかに移動できる。
【0017】
本発明は、前述のタービン用軸シール構造を備えた蒸気タービンであることが望ましい。
【0018】
本発明によれば、水配管系統及び潤滑油配管系統のフラッシング作業が短縮されるので、蒸気タービンの起動時間が短縮できる。
【発明の効果】
【0019】
前述した本発明によれば、シール板と加圧流体の供給路とが分離されるので、シール板とハウジングの破損が防止され、シール板の交換が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、蒸気タービンの構造断面の一例を示す。
【図2】図2は、軸シールの上半部ハウジングの要部断面を示す。
【図3】図3は、軸シールの下半部ハウジングの要部断面を示す。
【図4】図4は、溝部の断面を示す。
【図5】図5(a)は溝部断面の変形例を示し、図5(b)は、溝部断面の他の変形例を示す。
【図6】図6(a)は、シール板の外観を示し、図6(b)は、シール板の断面を示す。
【図7】図7は、軸シールを回転軸の軸方向から見た正面図を示す。
【図8】図8(a)は、第1治具の正面図を示し、図8(b)は平面図を示す。
【図9】図9(a)は、第1治具の変形例の正面図を示し、図9(b)はその平面図を示す。
【図10】図10は、溝部における第1治具とシール板の相対位置関係を示す。
【図11】図11は、第2治具の外観を示す。
【図12】図12は、第3治具の外観を示す。
【図13】図13は、軸シールの取り付け要領を示す。
【図14】図14は、第2治具の取り付け要領を示す。
【図15】図15は、従来のタービン用軸シールの断面の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る軸シールおよびそれを備えた蒸気タービンについて、その実施例を図1〜図14に基づいて以下に説明する。なお、本発明に係わる軸シールは、蒸気タービンの起動時におけるフラッシング作業の際に、簡易に用いる軸シールに係わるものである。本軸シールは、フラッシングが終了し、正規運転に入る際、取り外される。
【0022】
図1は、軸シールを設置する蒸気タービンの構造断面の一例を示す。図1は低圧蒸気タービンの例であり、蒸気は蒸気タービン1の車室2の中央直上に設けられた蒸気入口3から供給され、タービン部4で左右に分かれて排気室5に排出される過程で、静翼及び動翼(図示せず)を通過する際、蒸気の運動エネルギーを回転エネルギーに変換して回転軸6を回転させ、発電機(図示せず)で電力に変換される。
【0023】
本実施例に係わる軸シール10は、蒸気タービンの起動の際、車室2内のタービン部4を軸封するグランド部7と軸受8を内蔵した軸受箱9の間に設けられ、グランド部7の末端に配設されている。軸シール10は、蒸気タービン起動時のフラッシング作業時に使用するものであり、フラッシング作業が終了したら取り外される。
【0024】
軸シール10の主要部を構成するハウジング11は、グランド部7の水平面で、上半部ハウジング12と下半部ハウジング13に二分割されている。図2は、本実施例に係わる軸シール10の上半部ハウジング12の要部断面を示し、図3は下半部ハウジング13の要部断面を示している。
【0025】
図2に示す上半部ハウジング12は、主に基部22と側板23からなるハウジング本体20とシール板21とから構成され、ハウジング本体20が蒸気タービン1のグランド部7に取付けられる。ハウジング本体20は、回転軸6の廻りに環状に配置され、回転軸6の中心方向に開口する溝部31を備える。溝部31は、基部22と側板23を組み合わせて形成される環状の空間であり、この溝部31の開口端33近傍に、基部22側の側面35と側板23側の側面35に狭持されてシール板21が配置される。また、シール板21は、下面が回転軸6の外表面に接し、シール板21の幅方向の端面21d(図6(b))が基部22と側板23の側面35に接触している。更に、側板23は、加圧流体PGを外部供給源(図示せず)から受入れる接続口15を頂部に備え、接続口15と溝部31の空間を連通する供給路16を備える。
【0026】
ハウジング本体20を構成する基部22及び側板23は、回転軸6の軸方向に着脱可能な構造である。すなわち、基部22は上半部ハウジング12のハウジング本体20の主要部を構成し、ハウジングボルト14により軸方向からグランド部7に取り付けられる。側板23は、回転軸6の軸方向に側板ボルト25により基部22に固定される。なお、側板22は半円弧状の1枚物でもよいし、周方向に複数個に分割されたものでもよい。
【0027】
図3に示す下半部ハウジング13は、ハウジング本体20が一体化された構造を備える点を除き、他の構成は図2に示す上半部ハウジング12の構造と同じである。すなわち、図3に示すハウジング本体20は、一体物で形成され、回転軸6の中心方向に開口する溝部31を備え、溝部31が溝部の天井面34近傍に幅広部32を備えて、幅広部32の溝幅はシール板21の板幅より大きくしている。また、溝部31の開口端33近傍の溝幅は、シール板21の板幅より小さくして、幅広部32から開口端33に向けて溝部31の対向する側面35に傾斜をつけ、徐々に開口端33に向けて溝幅を狭める構造を備えている。
【0028】
図4は、本実施例に係わるハウジング本体20の溝部31の断面を示す。図4は、上半部ハウジングの場合で、ハウジング本体20が、基部22と側板23に分割され、分割面24を備える場合を示している。基部22及び側板23により形成される溝部31は、径方向の外側にある天井面34と軸方向に対向して設けられる基部22及び側板23の側面35で囲まれた空間として形成され、溝部31の開口端33近傍にシール板21を配置することにより溝部内に閉空間が形成される。
【0029】
溝部31は、溝部内の径方向の外側の天井面34近傍において、軸方向にシール板21の板幅より大きい溝幅を有する幅広部32を備え、回転軸6に最も近い開口端33で、その溝幅は、シール板21の板幅より小さくする。また、天井部近傍の基部22及び側板23の両側面35で形成される幅広部32の径方向の深さは、シール板21の厚さより大きい。幅広部32の両側面35は、対向する側面35同士が互いに平行で、回転軸6に垂直な幅広直線部36を備える。更に、幅広部32から開口端33に向けて溝幅が順次狭まる中間傾斜部37を備え、開口端33では回転軸6に垂直で互いに平行であって、シール板21が狭持可能な開口端直線部38を備えることが望ましい。開口端33近傍に開口端直線部38を備えることにより、開口端直線部38の側面35でシール板21を保持して、加圧流体PGが溝部31から大気側へ漏れるのを防止している。
【0030】
図4に示すように、溝部31の開口端33の溝幅Lは、シール板21の板幅mより小さくすることが望ましい。これにより、溝部31の開口端33に配設されたシール板21は、その板幅の両側の端面21dで開口端33の側面35から若干の圧縮力を受けて、開口端33の側面35に狭持されている。なお、下半部ハウジング13に配設されるハウジング本体20は一体物で形成されるため、図4に示す断面図で、分割面24及び基部22、側板23を除き、その他の構成は、図4がそのまま適用できる。
【0031】
図5(a)は、溝部断面の変形例を示す。本変形例は、幅広直線部を備えない点を除き、図4に示す溝部断面と同じ構成である。溝部が、幅広直線部を備えないため、幅広部32の溝幅は、図4(a)に示す幅広部32の溝幅より大きくして、シール板を挿入し易くするのが望ましい。
【0032】
図5(b)は、溝部断面の他の変形例を示す。本変形例は、溝部31が基部22と側板23を備えて、ハウジング本体20を二分割できる上半部ハウジング12の溝部31に適用する例を示す。本変形例では、溝部31の溝幅が天井面34から開口端33まで同一幅で形成される点を除き、図4に示す溝部断面と同じ構成が適用できる。本変形例は、図4又は図5(a)に示す実施例及び変形例と比較して、溝部31の側面35が天井面34から開口端33に向かって溝幅を狭める中間傾斜部を備えないため、溝加工が簡単で、加工コストが安い。
【0033】
なお、図4および図5(a)に示す実施例および変形例は、溝部が開口端直線部を備えた例であるが、溝部の天井面から開口端の末端まで中間傾斜部からなる側面で形成され、開口端直線部を備えなくてもよい。開口端の軸方向の溝幅を、シール板の板幅より小さくすれば、開口端の側面とシール板の端面が接触して、溝部の空間が確実にシールできる。
【0034】
図6(a)は、シール板の外観を示し、図6(b)はシール板の断面を示している。シール板21は、断面U字状の弾力性を有する材料で形成され、板幅m及び厚さt1、t2の断面を備え、回転軸6の廻りに環状に形成される。シール板21は、常温に近い温度で使用するため、市販の合成ゴム等の安価かつ弾力性のある材料が適用できる。
【0035】
環状のシール板21の外面21aは溝部31の空間側に面し、内面21bは回転軸6の表面に接して配置される。本シール板21の外面21aには、板幅方向の両端であって長手方向の全長に渡って溝部31の空間側に突出する突起21cを設け、シール板21の板幅mの中央部の厚さt1より両端面21dの厚さt2を大きくしている。この構成により、シール板21はその断面が板幅の中央部付近が凹んだU字状の形状にして、端面の径方向のシール長さを確保して、溝部31の側面35とシール板21の端面21dとの間のシール性を高めている。
【0036】
また、シール板の厚さt2は、少なくとも溝部の開口端33の内側端面と回転軸の表面との間のクリアランスC(図4)より大きくする必要がある。シール板の厚さt2が小さいと、シール板による加圧流体のシールが困難になるからである。シール板の中央部の厚さt1を、クリアランスCより大きくすれば、より確実にシールできる。
【0037】
なお、シール板21の端面21dは、図6(b)に示すように、内面21bから外面21aに向かって断面が広がるような傾斜面を備えてもよいし、回転軸6に垂直で平坦な端面21dを備えてもよい。
【0038】
一方、シール板21は、長手方向に分割面を設けず、単一の帯状のシール板で形成され、末端は接着剤等を用いて固着させ、全体として環状のシール板に形成して、シール板自体からの漏れを防止している。
【0039】
図7は、軸シールを回転軸の軸方向から見た正面図である。本実施例は、軸シール10のハウジング11が2分割され、回転軸の廻りに環状に配置された上半部ハウジング12と下半部ハウジング13に分割されている。上半部ハウジング12は、ハウジング本体20が基部22と側板23からなり、回転軸廻りに環状に配置され、グランド部7に対して軸方向にハウジングボルト14で固定されている。側板23は、軸方向に基部22に対して側板ボルト25により固定されている。下半部ハウジング13は、一体化された構造のため、ハウジング本体20が、ハウジングボルト14により軸方向からグランド部7に固定されている。
【0040】
また、上半部ハウジング12の頂部近傍には、加圧流体PGを受入れる接続口15を備える。なお、上半部ハウジング12は、加圧流体PGを溝部31に供給するため、接続口15と溝部31を連結する供給路16を備えている。図7は、接続口15が一箇所の例を示しているが、2箇所以上の接続口を設けてもよい。下半部ハウジング13の下部にはドレン口27を設け、溝部31内に溜まる水等の滞留物が排出できるようにしている。また、上半部ハウジング12と下半部ハウジング13は、水平分割面17で締結ボルト26により一体に締結されている。上半部ハウジング12の基部22及び側板23は、同様に水平分割面17において、締結ボルト26で下半部ハウジング13に締結されて、全体として一体化した環状のハウジングが形成される。
【0041】
溝部31に加圧流体PGが供給され、溝部31の内部が加圧された場合、シール板21は溝部側の空間側の面した外面21aで流体圧力を受けて径方向の内側方向に押圧され、内面21bで回転軸6に押付けられる。その結果、シール板21の内面21bと回転軸6の外表面の間にシール面が形成され、蒸気タービンの車室側と大気側(図2)との間がシールされ、大気が車室側に漏れ込むのを遮断して、車室内の真空が維持される。
【0042】
次に、本実施例の軸シールの組み付け方法及び取り外し方法に用いる治具を以下に説明する。本実施例では、3種類の治具を用いているが、いずれの治具も下半部ハウジング内にシール板を取り付け又は取り外す際に用いる治具である。
【0043】
まず、第1治具(押し上げ治具)について、以下に説明する。
図8(a)は、第1治具50の正面図を示す。図8(a)は、第1治具をハウジング内に挿入して、回転軸の軸方向から溝部を断面視した正面図である。図8(b)は、第1治具の平面図を示し、回転軸の径方向から軸中心方向を見た図に相当する。
【0044】
第1治具50は、溝部の開口端33における幅方向の両側の側面(開口端直線部38)に狭持されたシール板21を回転軸6の外表面に当接させて所定の位置にシール板21を保持させるために用いる。すなわち、溝部31内の幅広部32に回転軸6の周方向から挿入されたシール板21が、回転軸6の外表面に当接するまで溝部31内を径方向の内側方向(中心方向)に移動する過程で、シール板21が、板幅方向に傾くことなく略平行な姿勢を維持して、取付時における所定の位置に移動する場合に、第1治具50が必要となる。
【0045】
第1治具50は、図8(a)に示すように、治具本体51と取手部52から構成される。治具本体51及び取手部52は共に、テフロン(登録商標)等の潤滑性及び柔軟性に優れ、重量の軽い材料を適用するのが望ましい。治具本体51は、帯状の長尺板の一体物で形成され、押上部53と取付部55とガイド部54とから構成されている。押上部53の一方の端部の径方向の厚さの中央近傍から薄板状のガイド部54が長手方向に延設し、押上部53の他方の端部の径方向の厚さの中央近傍には取手部52に係合する取付部55が設けられている。
【0046】
治具本体51は、図8(a)に示す正面図で、長手方向全長の中間部で最も板厚が大きく、径方向の外側及び内側に突出する押上部53を備える。押上部53の長手方向の前後には、押上部53より板厚の薄いガイド部54と取付部55が、押上部53の径方向の厚さの中央近傍から長手方向に延在している。すなわち、治具本体51は、押上部53の中央部が上側(径方向の外側)及び下側(径方向の内側)に突出し、押上部53から長手方向の前後方向に裾野が広がる山形形状を備えている。
【0047】
治具本体51のガイド部54は、図8(a)において、押上部53より薄い厚みで長手方向に延設させることが望ましい。すなわち、治具本体51の断面視で、押上部53に対して径方向中央近傍から押上部53より薄板状のガイド部54を延設させ、押上部53の極厚部を頂上にして上下側(径方向の内外側)に山形の裾野を広げた形状を形成している。つまり、治具本体51の全体の形状を外観した場合、ガイド部54を極厚の押上部53より薄くして、ガイド部54の上下側に凹部56が形成されている。このような断面形状を備えることにより、第1治具が溝部の天井面34に沿って周方向に移動する際、ガイド部54の先端がハウジング11の溝部の天井面34や側面35と干渉することが少なく、溝部内での第1治具の周方向の移動がスムーズになる。
【0048】
押上部53の最も板厚の大きい領域の長手方向の長さは、押上部53の径方向の高さh3と同程度であるのが望ましい。これにより、押上部53の極厚の厚み部分で、シール板21を溝部内の所定の位置に移動させることが容易になる。但し、押上部53の極厚な部分でシール板21を溝部内の所定の位置に移動させ、その位置に保持できるかぎり、押上部53の最も板厚の大きい領域の長さは、さらに短くてもよい。押上部53の極厚の最大高さh3を備えた領域が長すぎると、治具が溝部内を周方向に移動する際、溝部内の天井面等に接触して、治具のスムーズな移動が困難となる。
【0049】
ガイド部54の厚さは押上部53の厚さの半分程度が望ましい。ガイド部54は溝部の天井面34とシール板21の間の隙間に第1治具を挿入するガイド役を担うため、ある程度の剛性が必要である。ガイド部64の厚さが薄すぎると、剛性不足となり、柔らかすぎて挿入が困難であり、本来の役割が果たせない。一方、板厚が厚すぎると、溝部内の天井面等との干渉が生じ、治具の周方向の円滑な移動が困難となる。
【0050】
また、治具本体51は、ガイド部54を含めて治具全体としてある程度の剛性(硬さ)を備えることが望ましい。径方向の厚さが極厚な部分を備えた治具本体の形状でシール板を押して、シール板を径方向の内側に移動させる必要があり、治具本体の全体の剛性が不足するとシール板の円滑な移動が難しくなる。
【0051】
また、治具本体51とは別体の取手部52が、取付部55を介して治具本体51に係合している。取手部52は、第1治具50のうちで最も長尺の部材であり、2枚重ねの薄板品で形成される。取手部52の一方の端部は、細い線材等の適当な係合手段により治具本体51に係合し、他方の端部も同様な係合手段で結束されている。線材を用いた結束手段に代えて、取手部52及び取付部55に貫通孔をあけ、リベットで固定してもよい。取手部52は、2枚重ねの薄板で形成しているため、2枚重ねた厚みと同じ厚みの一枚板の場合より同程度の剛性にも拘わらず、柔軟性が大きく、治具の挿入時に取り扱いやすい。取手部52は、長尺状ではあっても、剛性と柔軟性を備えた特性を備えることが望ましい。
【0052】
図8(b)は、溝部内に配設された第1治具50を径方向から回転軸の中心方向に見た場合の外観を示している。第1治具50の押上部53の幅(軸方向の厚さ)は、少なくとも開口端の溝幅より小さいことが望ましい。溝部の中で最も溝幅の小さい開口端近傍にシール板を確実に移動させるためには、押上部53の幅を開口端33の溝幅より小さくする必要があるからである。第1治具50は、治具全体の重量が軽く、潤滑性及び柔軟性があるので、治具の挿入作業がやり易い。
【0053】
図9(a)、図9(b)は、第1治具の変形例を示す。本変形例は、図8に示す第1治具50からガイド部を除いた点が異なっています。ガイド部がないため、治具本体51がコンパクトになり、治具の取り扱いが一層容易になる。但し、溝部31内に本変形例の第1治具50の押上部53を挿入する際、溝部31の天井面34とシール板21の間の隙間に、押上部53の先端部を押し込める程度の大きめの挿入口を手作業であける必要がある。また。ガイド役となるガイド部が存在しないため、第1治具50が溝部内を周方向に移動する際、治具の動きに円滑性を欠くため、取手部52側からの押し込み操作が若干難しくなる。
【0054】
図10は、溝部断面内における第1治具の径方向の厚さとシール板の厚さと溝深さの相対関係を示す。シール板21と溝部31の天井面34との間の隙間にガイド部54側から第1治具50を挿入して、第1治具50が溝部31内を周方向に移動するとともに、シール板21は溝部31内の側面35に沿って径方向の内側方向に移動する。シール板21が溝部31内を径方向に移動する途中で、シール板21の端面21dが溝部31の側面35に接触し始める。少なくともシール板21の両側の端面21dが溝部31の両側の側面35に接触するまで、第1治具50を移動させながら、所定の位置までシール板21を移動させるのが望ましい。シール板21の両側の端面21dが側面35に接触せず、少なくとも一方側の側面との間に隙間があれば、加圧流体を溝部に供給しても、溝部の空間が加圧されず、溝部のシールが不可能だからである。
【0055】
図10では、シール板21が移動して、シール板21の内面21bの両端が、溝部31の開口端33の入口(開口端直線部38の径方向の外側端38a)に接触した状態を示している。このシール板の位置は、第1治具50を用いて移動するシール板21の許容上限位置を示している。この位置までシール板21を径方向に移動すれば、加圧流体を供給路16を介して溝部31に供給しても、シール板21の端面21dと溝部31の側面35との間で漏れが生ぜず、溝部31の空間と大気側の間がシールされる。なお、溝部の空間のシール性が維持できれば、加圧流体PGの圧力でシール板21の外面21aが押圧され、回転軸6の外表面に当接するまで、シール板21は開口端直線部38の壁面に沿って径方向の内側に移動する。
【0056】
第1治具50の押上部53の極厚部分の径方向の高さh3は、シール板21が上述のシール上限深さになるように選定することが望ましい。すなわち、図10において、治具高さh3は、少なくとも、溝深さh1から開口端直線部長さh2とシール板厚さt1を減ずることにより定まる値(この値を「シール上限深さ」と呼ぶ)に相当する高さを有することが望ましい。すなわち、押上部53の厚さは、少なくともシール上限深さに相当する高さより大きくすることが望ましい。押上部53の高さが小さい場合は溝部31の空間がシールされず、シール板が適正な位置及び姿勢を保って配置することが困難になるからである。なお、第3治具70を用いる場合であっても、通常第3治具の板厚は治具の厚さに比較して小さいので、上述のシール上限位置深さの決定の際は、第3治具の厚さは考慮しなくてもよい。
【0057】
なお、溝部の断面形状が、その側面が天井面から開口端の末端まで中間傾斜部のみで形成され、開口端直線部を備えない場合には、前述のシール上限深さは、開口端直線部h2がない(h2=“0”)として、決定すればよい。
【0058】
次に、第2治具(調整治具)について、以下に説明する。
第2治具は、一体物で形成された下半部ハウジング13内にシール板を配設した後、回転軸6の上半部の外表面にシール板21を配置する際に用いる治具である。すなわち、第2治具は、上半部ハウジング12の側板23を取り外した状態で、ハウジング本体20を構成する基部22に形成された半割れ状の溝部31にシール板21を配設する際に用いる。第2治具を用いて、シール板と回転軸の表面の間の隙間量を調整することにより、撓みを生ずることなくシール板を配設することが可能であり、シール板の適正な長さを選定できる。
【0059】
図11に示すように、第2治具60は、1枚板で形成された扇形の薄板状の治具であり、テフロン(登録商標)等の潤滑性材料を適用するのが望ましい。第2治具60は、治具外周を形成する外側縁63と、外側縁63と治具の内周を形成する内側縁66の間に位置する中間縁64と、扇形の半径を形成する2つの側縁65で囲まれた鍔部61と、中間縁64から扇形中心に向かって内側縁66まで複数本の短冊状に延設された挿入部62で形成される。すなわち、中間縁64と内側縁66で囲まれた扇形形状のうち、一定幅ごとに矩形状又は円弧状の切欠部67を切り落とし、鍔部61から扇形の中心方向に延設した部分を挿入部62としている。挿入部62は、鍔部61の面に対して略直角となるように、中間縁64に沿って内側に折り曲げた形状を備えることが望ましい。第2治具60の1個あたりの挿入部62の数は、治具1個あたりの周方向の長さにより変動する。一つの治具に対して、複数個の挿入部を設けてもよいし、一つでもよい。
【0060】
鍔部61の高さ(外側縁63と中間縁64の間の側縁65に沿う長さ)は、溝部31の溝深さh1と同程度とし、挿入部62の長さ(側縁65に沿って中間縁64と内側縁66の間の長さ)はシール板の板幅の2倍以内とするのが望ましい。また、挿入部62は中間縁64から先端の内側縁66に向けて厚みが薄くなるようにしてもよい。厚みを変えることにより、シール板の弛みの調整が容易となる。
【0061】
次に、第3治具(帯板)について、以下に説明する。
第3治具は、下半部ハウジングの溝部内の幅広部にシール板を挿入した後、第1治具を挿入する前に用いる帯板状の治具であり、第1治具がシール板と溝部の天井面との間の溝部内を円滑に回転軸の中心方向に移動可能なように、予め溝部の天井面に沿って周方向に配置される治具である。
【0062】
図12に示すように、第3治具70は、1枚物の長尺状の薄板本体71と固定輪72からなる。薄板本体71は、テフロン(登録商標)等の潤滑性材料が望ましい。第3治具70の一端には、第3治具70を上半部ハウジング12の基部22側に固定するための固定輪72を備える。固定輪72は、第1治具50を溝部31内に挿入する際に、基部22側に設ける帯板用ボルト39に係合して、第3治具70が第1治具50の移動と共につれ回りして、溝部31内を周方向に移動するのを防止するためである。予め第3治具70を配置することにより、第1治具50が溝部内を周方向に移動する際、潤滑性のよい第3治具70の表面に接触しながら移動するので、第1治具は滑らかに移動でき、溝部の天井面および側面を損傷するおそれがない。
【0063】
次に、図13に基づき、本実施例に関する軸シールの取付け方法を以下に説明する。図13は、シール板21を下半部ハウジング13に取付ける際の取り付け要領を示す。前述のように、本実施例における軸シール10は、ハウジング11の側板23が基部22に対して着脱可能な上半部ハウジング12と、一体物のハウジングで形成された下半部ハウジング13で形成されている。
【0064】
まず、上半部ハウジング12の側板23を取り外した状態で、下半部ハウジング13の溝部31内に回転軸の周方向からシール板21の取り付けを行う。
上半部ハウジング12の側板23を取り外した状態で、下半部ハウジング13の溝部31の幅広部32に、シール板21を周方向から挿入する。反対側の溝部31の開口からシール板21の先端が突出するまで、溝部31内を天井面34近傍の幅広部32に沿ってスライドさせつつ、シール板21を周方向に押し込んでいく。シール板21は、下半部ハウジング13の溝部31の開口から突出するシール板の突出長さが、回転軸6の四半円の周囲長を上回る程度まで押し込む。下半部ハウジング13内にシール板21を配設し、溝部31の両側の開口から、回転軸6の四半円の周囲長を上回る程度まで、それぞれ過剰にシール板21を突出させた状態にする。
【0065】
次に、図12に示す第3治具70を、配設済のシール板21に沿って溝部内の周方向に挿入する。その際、図12、図13に示すように、第3治具70に付属する固定輪72(第1係合手段)を、上半部ハウジング12の基部22に固定された帯板用ボルト39(第2係合手段)に係合する。更に、第3治具70の固定輪72を設けた一方の端部とは異なる他方の端部から、第3治具70をシール板21と溝部31の天井面34の間の隙間に挿入し、反対側の溝部31の開口から第3治具70の端部が突出するまでスライドさせながら、溝部31内を周方向に押し込んでいく。
【0066】
第3治具70を配設した後、第3治具70の固定輪72に近い溝部の開口から、第1治具50を天井面34と配設済の第3治具70との間の隙間に挿入する(図13の挿入位置X)。第1治具50を挿入する際は、取手部52を保持して反対側のガイド部54の端部から溝部31内に押し込みながら挿入していく。ガイド部54の先端が、下半部ハウジング13の反対側の溝部31の開口から突出するまで第1治具50を押し込んでいく。この操作により、下半部ハウジング13の溝部31の幅広部32に配置されたシール板21を径方向の内側方向に移動させ、少なくともシール上限深さまで移動することが望ましい。この位置にシール板を配置できれば、後述する加圧流体PGの供給により、シール板を運転時の所定の位置に配設できる。
【0067】
なお、前述のように、本実施例におけるシール板21のいわゆる所定の位置とは、シール板の取付時とタービンの運転時では、その位置が異なる。すなわち、軸シール10は、第1治具50を用いて、シール板21を溝部内の所定の位置に配設後、加圧流体PGを供給して、加圧流体PGによりシール板21の外面21aを押圧し、シール板21が開口端33の側面35に沿って径方向の内側方向にスライドして、シール板21の内面21bが回転部6の外表面に当接するまで移動する。シール板21が回転軸6の表面に当接する位置が、シール板21の運転時の所定の位置となり、この位置で軸シール21の本来のシール性能が発揮される。つまり、シール板21の取付時の所定の位置とは、後述するシール上限深さに相当する位置をいい、シール板の内面21bの両端(シール板21の端面21dの下端)が開口端直線部38の径方向の外側端38aに接する位置を言う。また、シール板21の運転時の所定の位置とは、シール板21を取付時の所定の位置に配設後、加圧流体PGで溝部の空間を加圧し、シール板21の内面21bが回転軸6の外表面に当接して、シール板21の端面21dが開口端33の側面35に狭持された位置をいう。シール板21が、運転時の所定の位置に配設された位置では、溝部31の空間は外部から隔離されて加圧状態を維持し、軸シールの本来のシール性能が発揮された状態である。
【0068】
また、図9(a)、図9(b)に示す第1治具の変形例の場合、溝部31に第1治具50を挿入する際、押上部53を頭にして取手部52を保持しながら押し込む方法を説明したが、取手部52をガイド代わりにして、取手部52の先端を頭に溝部31に押し込んで行き、反対側の溝部31から取手部52の先端が突出した後、取手部52の先端を把持して引張り、溝部31を経由して第1治具全体を引き出す方法でもよい。
【0069】
シール板21が配設されたことを確認後、シール板21を挿入した方向と同じ方向に、溝部31から第1治具50を引き抜く。更に、第3治具70の固定輪72(第2係合手段)を帯板用ボルト39から外して、第1治具50を引き抜く方向と同じ方向に第3治具70を引き抜く。この操作により、少なくともシール板21は、シール上限深さに相当する位置に配置され、シール板21の内面21bの両端が、溝部31の両側の開口端直線部の径方向の外側端38aに接触するか、または両側の開口端直線部38に把持された状態で配設される。
【0070】
下半部ハウジング13にシール板21を配設した後、下半部ハウジング13の溝部31の開口の両側から外部に突出している余剰のシール板21を、回転軸6の上半部の表面に沿って周方向に配置する。回転軸6の周方向の外表面に沿わせて配置する際、シール板21に弛みや撓みが生じないように留意する。シール板21が回転軸廻りに一回りできる長さを確認後、回転軸6の周囲長を若干上回る程度の長さでシール板21を切断する。シール板の両端の切断面を接着剤で固着させることにより、継ぎ目のない一本物の環状のシール板21が回転軸廻りに配設される。
【0071】
次に、回転軸6の上半部の外表面にシール板21を配設する際、第2治具60を用いて、シール板の弛みや撓みを調整する方法を以下に説明する。シール板は作業時の環境温度により伸縮するので、シール板を交換する度に、シール板の長さを調整する必要がある。また、弛みや撓みを調整して適度な長さのシール板を回転軸廻りに配設することが、シール板を所定の位置に配設するために重要である。すなわち、シール板の弛みが大きくシール板の全長が長すぎると、上半部ハウジング12にシール板21を配設する際、シール板の一部が溝部からはみ出して、無理矢理シール板21を溝部内に押し込めることになる。その結果、シール板21を回転軸の外表面に沿って均一に配置することが難しく、シール板のねじれやゆがみ等が局部的に生じて、シール板を所定の位置に配設することができず、軸シール全体のシール性の維持が困難になる。
【0072】
図14に示すように、回転軸6の外表面の周方向に沿って配設されたシール板21と回転軸6の外表面との間の隙間に、回転軸の軸方向でタービン本体(車室2のグランド部7)に向かって、第2治具60の挿入部62を差し込む。この場合、第2治具60の鍔部61が回転軸の軸方向の外側(グランド部7の反対側の軸受箱9側)に配置されるように、挿入部62を回転軸の軸方向から隙間に差し込む。その後、シール板21が回転軸6の外表面から若干浮くように、挿入部62の軸方向の差し込み位置を調整する。回転軸6の上半部の周方向に第2治具60を配置して、シール板21の浮き上がり量を調整した後、隣接した第2治具60同士の鍔部61を仮止材68で固定する。仮止材68は、公知のテープ等を使用できる。また、挿入部62の厚さを中間縁64側から内側縁66側に向かって薄くすれば、第2治具60の挿入部62のシール板21と回転軸6の外表面の隙間への差込長さを調整することにより、シール板の弛み量や弛み量の調整が容易になる。
【0073】
次に、第2治具60が溝部内に配設された状態で、鍔部61がハウジング11の外側に配置されるように、上半部ハウジング12側の側板23を基部22に取り付ける。側板23を取り付けた後、鍔部61を保持して第2治具60を径方向の外側方向に引き抜くことにより、シール板21がハウジング11の溝部31内の取付時の所定の位置に配設され、軸シール10の取り付けが終了する。
【0074】
なお、第2治具60は、回転軸の上半部の作業スペースが狭隘で、シール板の軸方向からの着脱が困難な場合に一層有効である。回転軸6の上半部の作業スペースが十分にあり、軸方向からのシール板の着脱が容易である場合には、第2治具に変えて、矩形状の薄板を軸方向から着脱して、シール板の長さ調整を行うことでもよい。
【0075】
次に、軸シール10の取り付け後、加圧流体PGを溝部31内に供給して溝部31内を加圧する。すなわち、別途準備した加圧源(図示せず)とハウジング11の接続口15を接続して、加圧源より加圧流体PGを受入れる。加圧流体PGは、空気の他に窒素や不活性ガス源等であってもよい。加圧流体PGを供給して、溝部31の空間を加圧保持して、加圧流体の漏れの有無等を確認する。漏れの有無の確認が終われば、シール板21が運転時の所定の位置に配設され、軸シール10の取付け作業は終了したと判断してよい。
【0076】
本実施例の軸シール10を適用すれば、タービンのクリーンアップ運転におけるフラッシング作業の際、シール板と加圧流体の供給路が分離されているので、回転軸を回転させる際、共廻りのおそれがなく、シール板及び供給路が破損することがない。また、シール板が磨耗した場合でも、交換が容易である。
【0077】
また、軸受等が近接している場合、軸シール周辺の作業スペースが狭隘なため、軸方向に軸シールを着脱することが困難な場合でも、本発明に係わる軸シール及び軸シールの取り付け方法を用いれば、軸シールの着脱が容易である。
【符号の説明】
【0078】
1 蒸気タービン
6 回転軸
7 グランド部
10、80 軸シール
11、81 ハウジング
12 上半部ハウジング
13 下半部ハウジング
21 シール板
22 基部
23 側板
31、82 溝部
32 幅広部
33 開口端
34 天井面
35 側面
PG 加圧流体
m シール板幅
【技術分野】
【0001】
本発明は、低圧用及び高中圧用の蒸気タービンに適用される軸シール及びそれを備えた蒸気タービンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蒸気タービンの定検工事の際、付帯設備のクリーンアップを目的に、水配管系統及び潤滑油配管系統のフラッシングが行われる。水配管系統のフラッシングを行うにあたっては、水中の酸素除去のため、タービン車室内を真空に保持する必要がある。
一方、蒸気タービンの起動時間の短縮のため、起動当初は、蒸気タービン内にグランド蒸気を導入せずに、蒸気タービンを停止させた状態で蒸気タービン車室内を真空に維持しつつ、水配管系統と潤滑油配管系統のフラッシング作業を同時平行で行う起動方法が採用されている。この方法では、蒸気タービンのグランド部に簡易な軸シールを設け、大気が蒸気タービンの車室内に漏れ込むのを防止して、水配管系統のフラッシングと潤滑油配管系統のフラッシングを同時に行うので、その分だけ起動時間を短縮できる。潤滑油配管系統のフラッシングが終了後、ロータを低速で回転させて、グランド部にグランド蒸気を導入し、水配管系統のフラシングが継続して行なわれる。
【0003】
特許文献1には、上述の軸シールの一例が示されている。図15には、その概略構造を示す。図15に示す軸シール80は、蒸気タービンのグランド部7の端部に設けられ、主にハウジング81とシール材83から構成されている。軸シール80は、ハウジング81を介してハウジングボルト14によりグランド部7に固定されている。ハウジング81内に設けられた溝部82内に中空部84を有するシール材83を回転軸6の廻りに環状に配置して、ハウジング81の頂部に加圧流体PGを外部から受入れる接続口15を備えている。シール材83と接続口15は、供給路16を介して接続され一体化されて、外部の供給源(図示せず)から加圧流体PGの受入が可能である。シール材83は、合成ゴム等の弾力性材料で形成され、その内部に回転軸の周方向に環状に形成された中空部84を備えている。軸シール80は、供給路16を介して加圧流体PGを中空部84に受入れてシール材83を膨張させ、シール材83が膨れて回転軸6及びハウジング81の溝部82の内壁に押付けられ、蒸気タービン1の車室側と大気側の間をシール材83でシールしている。この構造により、大気側からタービン車室側への空気の流入を遮断して、タービン車室側の真空を維持している。
【0004】
一方、特許文献2には、圧力流体の供給路とシール材を別体とし、薄板状のシール材をハウジングの溝内に配置して回転軸に接触するように設け、加圧流体の背圧でシール材を回転軸の表面に押付けてシールする軸シールが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平6−80283号公報
【特許文献2】実公昭59−8450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に示す軸シールは、外部供給源から加圧流体を受入れる供給路とシール材が直結された一体の構造であるため、回転軸を回転させた場合、回転軸の回転とともにシール材が共回りしようとするため、摺動トルクが加圧流体の供給路とシール材のつなぎ部分にかかり、シール材及びつなぎ部分の金具等を破損するという問題があった。
【0007】
一方、特許文献2に示される軸シールの場合、シール材の両端部が嵌めこみ構造のため、シール材の交換が容易でないという問題点があった。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みなされたもので、タービン起動時の水配管系統のフラッシングの際、軸シールのシール機能を発揮して、タービン車室側の真空を維持しつつ、シール部材の破損を防止し、交換が容易なタービンの軸シールを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の問題点を解決するため、下記の手段を採用した。
すなわち、本発明のタービン用軸シールは、タービンのグランド部に設けられ、回転軸廻りに環状に配設されて、加圧流体を外部から受入れて回転軸をシールするタービン用軸シールであって、該軸シールは、回転軸の周方向に沿って回転軸の中心方向に開口する溝部を備えたハウジングと、前記溝部内の周方向に配設され、溝幅方向の両端を前記溝部の側面に狭持された断面U字状の弾力性を有するシール板と、を含む構造を備え、前記溝部は、前記シール板の板幅より小さい溝幅の開口端を備えること、を特徴とする。
【0010】
本発明によれば、シール板と加圧流体の供給路とが分離され、直結する構造ではないので、シール板とハウジングの破損が防止できる。また、シール板は、ハウジングの開口端に狭持されているにすぎないため、その交換は容易である。
【0011】
本発明におけるハウジングは、上半部ハウジングと下半部ハウジングからなり、前記上半部ハウジングは、周方向に分割された基部と側板とから形成され、該側板は前記基部に対して回転軸の軸方向に着脱可能な構造を備え、前記下半部ハウジングは一体に形成されていることが望ましい。
【0012】
本発明によれば、上半部ハウジングでは、回転軸の軸方向に側板の着脱ができるので、シール板の挿入が容易である。また、下半部ハウジングにおいて、軸方向の作業スペースが狭隘な場合であっても、シール板を周方向から溝部に挿入できるので、シール板の取り付けが容易である。
【0013】
本発明における溝部は、天井面近傍で回転軸の軸方向に前記シール板の板幅より大きな幅を有する幅広部を備え、溝部の溝幅は、前記天井面から前記開口端に向けて次第に狭くなることが望ましい。
【0014】
本発明によれば、ハウジングが溝部の天井面近傍にシール板の板幅より大きな溝幅を有する幅広部を備えているので、シール板のハウジング内への挿入が容易であり、シール板の配置が確実である。
【0015】
本発明における溝部は、前記幅広部近傍では、回転軸に垂直かつ互いに平行で、前記シール板の厚さより長い側面を備え、前記幅広部近傍から前記開口端に向かって径方向に次第に溝幅が狭くなる側面を備え、前記開口端近傍では回転軸に垂直かつ互いに平行な側面を備えることが望ましい。
【0016】
本発明によれば、幅広部から開口端に向かって滑らかに縮小する側面を備えているので、幅広部近傍に挿入されたシール板を幅広部から径方向に開口端に向けて滑らかに移動できる。
【0017】
本発明は、前述のタービン用軸シール構造を備えた蒸気タービンであることが望ましい。
【0018】
本発明によれば、水配管系統及び潤滑油配管系統のフラッシング作業が短縮されるので、蒸気タービンの起動時間が短縮できる。
【発明の効果】
【0019】
前述した本発明によれば、シール板と加圧流体の供給路とが分離されるので、シール板とハウジングの破損が防止され、シール板の交換が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、蒸気タービンの構造断面の一例を示す。
【図2】図2は、軸シールの上半部ハウジングの要部断面を示す。
【図3】図3は、軸シールの下半部ハウジングの要部断面を示す。
【図4】図4は、溝部の断面を示す。
【図5】図5(a)は溝部断面の変形例を示し、図5(b)は、溝部断面の他の変形例を示す。
【図6】図6(a)は、シール板の外観を示し、図6(b)は、シール板の断面を示す。
【図7】図7は、軸シールを回転軸の軸方向から見た正面図を示す。
【図8】図8(a)は、第1治具の正面図を示し、図8(b)は平面図を示す。
【図9】図9(a)は、第1治具の変形例の正面図を示し、図9(b)はその平面図を示す。
【図10】図10は、溝部における第1治具とシール板の相対位置関係を示す。
【図11】図11は、第2治具の外観を示す。
【図12】図12は、第3治具の外観を示す。
【図13】図13は、軸シールの取り付け要領を示す。
【図14】図14は、第2治具の取り付け要領を示す。
【図15】図15は、従来のタービン用軸シールの断面の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る軸シールおよびそれを備えた蒸気タービンについて、その実施例を図1〜図14に基づいて以下に説明する。なお、本発明に係わる軸シールは、蒸気タービンの起動時におけるフラッシング作業の際に、簡易に用いる軸シールに係わるものである。本軸シールは、フラッシングが終了し、正規運転に入る際、取り外される。
【0022】
図1は、軸シールを設置する蒸気タービンの構造断面の一例を示す。図1は低圧蒸気タービンの例であり、蒸気は蒸気タービン1の車室2の中央直上に設けられた蒸気入口3から供給され、タービン部4で左右に分かれて排気室5に排出される過程で、静翼及び動翼(図示せず)を通過する際、蒸気の運動エネルギーを回転エネルギーに変換して回転軸6を回転させ、発電機(図示せず)で電力に変換される。
【0023】
本実施例に係わる軸シール10は、蒸気タービンの起動の際、車室2内のタービン部4を軸封するグランド部7と軸受8を内蔵した軸受箱9の間に設けられ、グランド部7の末端に配設されている。軸シール10は、蒸気タービン起動時のフラッシング作業時に使用するものであり、フラッシング作業が終了したら取り外される。
【0024】
軸シール10の主要部を構成するハウジング11は、グランド部7の水平面で、上半部ハウジング12と下半部ハウジング13に二分割されている。図2は、本実施例に係わる軸シール10の上半部ハウジング12の要部断面を示し、図3は下半部ハウジング13の要部断面を示している。
【0025】
図2に示す上半部ハウジング12は、主に基部22と側板23からなるハウジング本体20とシール板21とから構成され、ハウジング本体20が蒸気タービン1のグランド部7に取付けられる。ハウジング本体20は、回転軸6の廻りに環状に配置され、回転軸6の中心方向に開口する溝部31を備える。溝部31は、基部22と側板23を組み合わせて形成される環状の空間であり、この溝部31の開口端33近傍に、基部22側の側面35と側板23側の側面35に狭持されてシール板21が配置される。また、シール板21は、下面が回転軸6の外表面に接し、シール板21の幅方向の端面21d(図6(b))が基部22と側板23の側面35に接触している。更に、側板23は、加圧流体PGを外部供給源(図示せず)から受入れる接続口15を頂部に備え、接続口15と溝部31の空間を連通する供給路16を備える。
【0026】
ハウジング本体20を構成する基部22及び側板23は、回転軸6の軸方向に着脱可能な構造である。すなわち、基部22は上半部ハウジング12のハウジング本体20の主要部を構成し、ハウジングボルト14により軸方向からグランド部7に取り付けられる。側板23は、回転軸6の軸方向に側板ボルト25により基部22に固定される。なお、側板22は半円弧状の1枚物でもよいし、周方向に複数個に分割されたものでもよい。
【0027】
図3に示す下半部ハウジング13は、ハウジング本体20が一体化された構造を備える点を除き、他の構成は図2に示す上半部ハウジング12の構造と同じである。すなわち、図3に示すハウジング本体20は、一体物で形成され、回転軸6の中心方向に開口する溝部31を備え、溝部31が溝部の天井面34近傍に幅広部32を備えて、幅広部32の溝幅はシール板21の板幅より大きくしている。また、溝部31の開口端33近傍の溝幅は、シール板21の板幅より小さくして、幅広部32から開口端33に向けて溝部31の対向する側面35に傾斜をつけ、徐々に開口端33に向けて溝幅を狭める構造を備えている。
【0028】
図4は、本実施例に係わるハウジング本体20の溝部31の断面を示す。図4は、上半部ハウジングの場合で、ハウジング本体20が、基部22と側板23に分割され、分割面24を備える場合を示している。基部22及び側板23により形成される溝部31は、径方向の外側にある天井面34と軸方向に対向して設けられる基部22及び側板23の側面35で囲まれた空間として形成され、溝部31の開口端33近傍にシール板21を配置することにより溝部内に閉空間が形成される。
【0029】
溝部31は、溝部内の径方向の外側の天井面34近傍において、軸方向にシール板21の板幅より大きい溝幅を有する幅広部32を備え、回転軸6に最も近い開口端33で、その溝幅は、シール板21の板幅より小さくする。また、天井部近傍の基部22及び側板23の両側面35で形成される幅広部32の径方向の深さは、シール板21の厚さより大きい。幅広部32の両側面35は、対向する側面35同士が互いに平行で、回転軸6に垂直な幅広直線部36を備える。更に、幅広部32から開口端33に向けて溝幅が順次狭まる中間傾斜部37を備え、開口端33では回転軸6に垂直で互いに平行であって、シール板21が狭持可能な開口端直線部38を備えることが望ましい。開口端33近傍に開口端直線部38を備えることにより、開口端直線部38の側面35でシール板21を保持して、加圧流体PGが溝部31から大気側へ漏れるのを防止している。
【0030】
図4に示すように、溝部31の開口端33の溝幅Lは、シール板21の板幅mより小さくすることが望ましい。これにより、溝部31の開口端33に配設されたシール板21は、その板幅の両側の端面21dで開口端33の側面35から若干の圧縮力を受けて、開口端33の側面35に狭持されている。なお、下半部ハウジング13に配設されるハウジング本体20は一体物で形成されるため、図4に示す断面図で、分割面24及び基部22、側板23を除き、その他の構成は、図4がそのまま適用できる。
【0031】
図5(a)は、溝部断面の変形例を示す。本変形例は、幅広直線部を備えない点を除き、図4に示す溝部断面と同じ構成である。溝部が、幅広直線部を備えないため、幅広部32の溝幅は、図4(a)に示す幅広部32の溝幅より大きくして、シール板を挿入し易くするのが望ましい。
【0032】
図5(b)は、溝部断面の他の変形例を示す。本変形例は、溝部31が基部22と側板23を備えて、ハウジング本体20を二分割できる上半部ハウジング12の溝部31に適用する例を示す。本変形例では、溝部31の溝幅が天井面34から開口端33まで同一幅で形成される点を除き、図4に示す溝部断面と同じ構成が適用できる。本変形例は、図4又は図5(a)に示す実施例及び変形例と比較して、溝部31の側面35が天井面34から開口端33に向かって溝幅を狭める中間傾斜部を備えないため、溝加工が簡単で、加工コストが安い。
【0033】
なお、図4および図5(a)に示す実施例および変形例は、溝部が開口端直線部を備えた例であるが、溝部の天井面から開口端の末端まで中間傾斜部からなる側面で形成され、開口端直線部を備えなくてもよい。開口端の軸方向の溝幅を、シール板の板幅より小さくすれば、開口端の側面とシール板の端面が接触して、溝部の空間が確実にシールできる。
【0034】
図6(a)は、シール板の外観を示し、図6(b)はシール板の断面を示している。シール板21は、断面U字状の弾力性を有する材料で形成され、板幅m及び厚さt1、t2の断面を備え、回転軸6の廻りに環状に形成される。シール板21は、常温に近い温度で使用するため、市販の合成ゴム等の安価かつ弾力性のある材料が適用できる。
【0035】
環状のシール板21の外面21aは溝部31の空間側に面し、内面21bは回転軸6の表面に接して配置される。本シール板21の外面21aには、板幅方向の両端であって長手方向の全長に渡って溝部31の空間側に突出する突起21cを設け、シール板21の板幅mの中央部の厚さt1より両端面21dの厚さt2を大きくしている。この構成により、シール板21はその断面が板幅の中央部付近が凹んだU字状の形状にして、端面の径方向のシール長さを確保して、溝部31の側面35とシール板21の端面21dとの間のシール性を高めている。
【0036】
また、シール板の厚さt2は、少なくとも溝部の開口端33の内側端面と回転軸の表面との間のクリアランスC(図4)より大きくする必要がある。シール板の厚さt2が小さいと、シール板による加圧流体のシールが困難になるからである。シール板の中央部の厚さt1を、クリアランスCより大きくすれば、より確実にシールできる。
【0037】
なお、シール板21の端面21dは、図6(b)に示すように、内面21bから外面21aに向かって断面が広がるような傾斜面を備えてもよいし、回転軸6に垂直で平坦な端面21dを備えてもよい。
【0038】
一方、シール板21は、長手方向に分割面を設けず、単一の帯状のシール板で形成され、末端は接着剤等を用いて固着させ、全体として環状のシール板に形成して、シール板自体からの漏れを防止している。
【0039】
図7は、軸シールを回転軸の軸方向から見た正面図である。本実施例は、軸シール10のハウジング11が2分割され、回転軸の廻りに環状に配置された上半部ハウジング12と下半部ハウジング13に分割されている。上半部ハウジング12は、ハウジング本体20が基部22と側板23からなり、回転軸廻りに環状に配置され、グランド部7に対して軸方向にハウジングボルト14で固定されている。側板23は、軸方向に基部22に対して側板ボルト25により固定されている。下半部ハウジング13は、一体化された構造のため、ハウジング本体20が、ハウジングボルト14により軸方向からグランド部7に固定されている。
【0040】
また、上半部ハウジング12の頂部近傍には、加圧流体PGを受入れる接続口15を備える。なお、上半部ハウジング12は、加圧流体PGを溝部31に供給するため、接続口15と溝部31を連結する供給路16を備えている。図7は、接続口15が一箇所の例を示しているが、2箇所以上の接続口を設けてもよい。下半部ハウジング13の下部にはドレン口27を設け、溝部31内に溜まる水等の滞留物が排出できるようにしている。また、上半部ハウジング12と下半部ハウジング13は、水平分割面17で締結ボルト26により一体に締結されている。上半部ハウジング12の基部22及び側板23は、同様に水平分割面17において、締結ボルト26で下半部ハウジング13に締結されて、全体として一体化した環状のハウジングが形成される。
【0041】
溝部31に加圧流体PGが供給され、溝部31の内部が加圧された場合、シール板21は溝部側の空間側の面した外面21aで流体圧力を受けて径方向の内側方向に押圧され、内面21bで回転軸6に押付けられる。その結果、シール板21の内面21bと回転軸6の外表面の間にシール面が形成され、蒸気タービンの車室側と大気側(図2)との間がシールされ、大気が車室側に漏れ込むのを遮断して、車室内の真空が維持される。
【0042】
次に、本実施例の軸シールの組み付け方法及び取り外し方法に用いる治具を以下に説明する。本実施例では、3種類の治具を用いているが、いずれの治具も下半部ハウジング内にシール板を取り付け又は取り外す際に用いる治具である。
【0043】
まず、第1治具(押し上げ治具)について、以下に説明する。
図8(a)は、第1治具50の正面図を示す。図8(a)は、第1治具をハウジング内に挿入して、回転軸の軸方向から溝部を断面視した正面図である。図8(b)は、第1治具の平面図を示し、回転軸の径方向から軸中心方向を見た図に相当する。
【0044】
第1治具50は、溝部の開口端33における幅方向の両側の側面(開口端直線部38)に狭持されたシール板21を回転軸6の外表面に当接させて所定の位置にシール板21を保持させるために用いる。すなわち、溝部31内の幅広部32に回転軸6の周方向から挿入されたシール板21が、回転軸6の外表面に当接するまで溝部31内を径方向の内側方向(中心方向)に移動する過程で、シール板21が、板幅方向に傾くことなく略平行な姿勢を維持して、取付時における所定の位置に移動する場合に、第1治具50が必要となる。
【0045】
第1治具50は、図8(a)に示すように、治具本体51と取手部52から構成される。治具本体51及び取手部52は共に、テフロン(登録商標)等の潤滑性及び柔軟性に優れ、重量の軽い材料を適用するのが望ましい。治具本体51は、帯状の長尺板の一体物で形成され、押上部53と取付部55とガイド部54とから構成されている。押上部53の一方の端部の径方向の厚さの中央近傍から薄板状のガイド部54が長手方向に延設し、押上部53の他方の端部の径方向の厚さの中央近傍には取手部52に係合する取付部55が設けられている。
【0046】
治具本体51は、図8(a)に示す正面図で、長手方向全長の中間部で最も板厚が大きく、径方向の外側及び内側に突出する押上部53を備える。押上部53の長手方向の前後には、押上部53より板厚の薄いガイド部54と取付部55が、押上部53の径方向の厚さの中央近傍から長手方向に延在している。すなわち、治具本体51は、押上部53の中央部が上側(径方向の外側)及び下側(径方向の内側)に突出し、押上部53から長手方向の前後方向に裾野が広がる山形形状を備えている。
【0047】
治具本体51のガイド部54は、図8(a)において、押上部53より薄い厚みで長手方向に延設させることが望ましい。すなわち、治具本体51の断面視で、押上部53に対して径方向中央近傍から押上部53より薄板状のガイド部54を延設させ、押上部53の極厚部を頂上にして上下側(径方向の内外側)に山形の裾野を広げた形状を形成している。つまり、治具本体51の全体の形状を外観した場合、ガイド部54を極厚の押上部53より薄くして、ガイド部54の上下側に凹部56が形成されている。このような断面形状を備えることにより、第1治具が溝部の天井面34に沿って周方向に移動する際、ガイド部54の先端がハウジング11の溝部の天井面34や側面35と干渉することが少なく、溝部内での第1治具の周方向の移動がスムーズになる。
【0048】
押上部53の最も板厚の大きい領域の長手方向の長さは、押上部53の径方向の高さh3と同程度であるのが望ましい。これにより、押上部53の極厚の厚み部分で、シール板21を溝部内の所定の位置に移動させることが容易になる。但し、押上部53の極厚な部分でシール板21を溝部内の所定の位置に移動させ、その位置に保持できるかぎり、押上部53の最も板厚の大きい領域の長さは、さらに短くてもよい。押上部53の極厚の最大高さh3を備えた領域が長すぎると、治具が溝部内を周方向に移動する際、溝部内の天井面等に接触して、治具のスムーズな移動が困難となる。
【0049】
ガイド部54の厚さは押上部53の厚さの半分程度が望ましい。ガイド部54は溝部の天井面34とシール板21の間の隙間に第1治具を挿入するガイド役を担うため、ある程度の剛性が必要である。ガイド部64の厚さが薄すぎると、剛性不足となり、柔らかすぎて挿入が困難であり、本来の役割が果たせない。一方、板厚が厚すぎると、溝部内の天井面等との干渉が生じ、治具の周方向の円滑な移動が困難となる。
【0050】
また、治具本体51は、ガイド部54を含めて治具全体としてある程度の剛性(硬さ)を備えることが望ましい。径方向の厚さが極厚な部分を備えた治具本体の形状でシール板を押して、シール板を径方向の内側に移動させる必要があり、治具本体の全体の剛性が不足するとシール板の円滑な移動が難しくなる。
【0051】
また、治具本体51とは別体の取手部52が、取付部55を介して治具本体51に係合している。取手部52は、第1治具50のうちで最も長尺の部材であり、2枚重ねの薄板品で形成される。取手部52の一方の端部は、細い線材等の適当な係合手段により治具本体51に係合し、他方の端部も同様な係合手段で結束されている。線材を用いた結束手段に代えて、取手部52及び取付部55に貫通孔をあけ、リベットで固定してもよい。取手部52は、2枚重ねの薄板で形成しているため、2枚重ねた厚みと同じ厚みの一枚板の場合より同程度の剛性にも拘わらず、柔軟性が大きく、治具の挿入時に取り扱いやすい。取手部52は、長尺状ではあっても、剛性と柔軟性を備えた特性を備えることが望ましい。
【0052】
図8(b)は、溝部内に配設された第1治具50を径方向から回転軸の中心方向に見た場合の外観を示している。第1治具50の押上部53の幅(軸方向の厚さ)は、少なくとも開口端の溝幅より小さいことが望ましい。溝部の中で最も溝幅の小さい開口端近傍にシール板を確実に移動させるためには、押上部53の幅を開口端33の溝幅より小さくする必要があるからである。第1治具50は、治具全体の重量が軽く、潤滑性及び柔軟性があるので、治具の挿入作業がやり易い。
【0053】
図9(a)、図9(b)は、第1治具の変形例を示す。本変形例は、図8に示す第1治具50からガイド部を除いた点が異なっています。ガイド部がないため、治具本体51がコンパクトになり、治具の取り扱いが一層容易になる。但し、溝部31内に本変形例の第1治具50の押上部53を挿入する際、溝部31の天井面34とシール板21の間の隙間に、押上部53の先端部を押し込める程度の大きめの挿入口を手作業であける必要がある。また。ガイド役となるガイド部が存在しないため、第1治具50が溝部内を周方向に移動する際、治具の動きに円滑性を欠くため、取手部52側からの押し込み操作が若干難しくなる。
【0054】
図10は、溝部断面内における第1治具の径方向の厚さとシール板の厚さと溝深さの相対関係を示す。シール板21と溝部31の天井面34との間の隙間にガイド部54側から第1治具50を挿入して、第1治具50が溝部31内を周方向に移動するとともに、シール板21は溝部31内の側面35に沿って径方向の内側方向に移動する。シール板21が溝部31内を径方向に移動する途中で、シール板21の端面21dが溝部31の側面35に接触し始める。少なくともシール板21の両側の端面21dが溝部31の両側の側面35に接触するまで、第1治具50を移動させながら、所定の位置までシール板21を移動させるのが望ましい。シール板21の両側の端面21dが側面35に接触せず、少なくとも一方側の側面との間に隙間があれば、加圧流体を溝部に供給しても、溝部の空間が加圧されず、溝部のシールが不可能だからである。
【0055】
図10では、シール板21が移動して、シール板21の内面21bの両端が、溝部31の開口端33の入口(開口端直線部38の径方向の外側端38a)に接触した状態を示している。このシール板の位置は、第1治具50を用いて移動するシール板21の許容上限位置を示している。この位置までシール板21を径方向に移動すれば、加圧流体を供給路16を介して溝部31に供給しても、シール板21の端面21dと溝部31の側面35との間で漏れが生ぜず、溝部31の空間と大気側の間がシールされる。なお、溝部の空間のシール性が維持できれば、加圧流体PGの圧力でシール板21の外面21aが押圧され、回転軸6の外表面に当接するまで、シール板21は開口端直線部38の壁面に沿って径方向の内側に移動する。
【0056】
第1治具50の押上部53の極厚部分の径方向の高さh3は、シール板21が上述のシール上限深さになるように選定することが望ましい。すなわち、図10において、治具高さh3は、少なくとも、溝深さh1から開口端直線部長さh2とシール板厚さt1を減ずることにより定まる値(この値を「シール上限深さ」と呼ぶ)に相当する高さを有することが望ましい。すなわち、押上部53の厚さは、少なくともシール上限深さに相当する高さより大きくすることが望ましい。押上部53の高さが小さい場合は溝部31の空間がシールされず、シール板が適正な位置及び姿勢を保って配置することが困難になるからである。なお、第3治具70を用いる場合であっても、通常第3治具の板厚は治具の厚さに比較して小さいので、上述のシール上限位置深さの決定の際は、第3治具の厚さは考慮しなくてもよい。
【0057】
なお、溝部の断面形状が、その側面が天井面から開口端の末端まで中間傾斜部のみで形成され、開口端直線部を備えない場合には、前述のシール上限深さは、開口端直線部h2がない(h2=“0”)として、決定すればよい。
【0058】
次に、第2治具(調整治具)について、以下に説明する。
第2治具は、一体物で形成された下半部ハウジング13内にシール板を配設した後、回転軸6の上半部の外表面にシール板21を配置する際に用いる治具である。すなわち、第2治具は、上半部ハウジング12の側板23を取り外した状態で、ハウジング本体20を構成する基部22に形成された半割れ状の溝部31にシール板21を配設する際に用いる。第2治具を用いて、シール板と回転軸の表面の間の隙間量を調整することにより、撓みを生ずることなくシール板を配設することが可能であり、シール板の適正な長さを選定できる。
【0059】
図11に示すように、第2治具60は、1枚板で形成された扇形の薄板状の治具であり、テフロン(登録商標)等の潤滑性材料を適用するのが望ましい。第2治具60は、治具外周を形成する外側縁63と、外側縁63と治具の内周を形成する内側縁66の間に位置する中間縁64と、扇形の半径を形成する2つの側縁65で囲まれた鍔部61と、中間縁64から扇形中心に向かって内側縁66まで複数本の短冊状に延設された挿入部62で形成される。すなわち、中間縁64と内側縁66で囲まれた扇形形状のうち、一定幅ごとに矩形状又は円弧状の切欠部67を切り落とし、鍔部61から扇形の中心方向に延設した部分を挿入部62としている。挿入部62は、鍔部61の面に対して略直角となるように、中間縁64に沿って内側に折り曲げた形状を備えることが望ましい。第2治具60の1個あたりの挿入部62の数は、治具1個あたりの周方向の長さにより変動する。一つの治具に対して、複数個の挿入部を設けてもよいし、一つでもよい。
【0060】
鍔部61の高さ(外側縁63と中間縁64の間の側縁65に沿う長さ)は、溝部31の溝深さh1と同程度とし、挿入部62の長さ(側縁65に沿って中間縁64と内側縁66の間の長さ)はシール板の板幅の2倍以内とするのが望ましい。また、挿入部62は中間縁64から先端の内側縁66に向けて厚みが薄くなるようにしてもよい。厚みを変えることにより、シール板の弛みの調整が容易となる。
【0061】
次に、第3治具(帯板)について、以下に説明する。
第3治具は、下半部ハウジングの溝部内の幅広部にシール板を挿入した後、第1治具を挿入する前に用いる帯板状の治具であり、第1治具がシール板と溝部の天井面との間の溝部内を円滑に回転軸の中心方向に移動可能なように、予め溝部の天井面に沿って周方向に配置される治具である。
【0062】
図12に示すように、第3治具70は、1枚物の長尺状の薄板本体71と固定輪72からなる。薄板本体71は、テフロン(登録商標)等の潤滑性材料が望ましい。第3治具70の一端には、第3治具70を上半部ハウジング12の基部22側に固定するための固定輪72を備える。固定輪72は、第1治具50を溝部31内に挿入する際に、基部22側に設ける帯板用ボルト39に係合して、第3治具70が第1治具50の移動と共につれ回りして、溝部31内を周方向に移動するのを防止するためである。予め第3治具70を配置することにより、第1治具50が溝部内を周方向に移動する際、潤滑性のよい第3治具70の表面に接触しながら移動するので、第1治具は滑らかに移動でき、溝部の天井面および側面を損傷するおそれがない。
【0063】
次に、図13に基づき、本実施例に関する軸シールの取付け方法を以下に説明する。図13は、シール板21を下半部ハウジング13に取付ける際の取り付け要領を示す。前述のように、本実施例における軸シール10は、ハウジング11の側板23が基部22に対して着脱可能な上半部ハウジング12と、一体物のハウジングで形成された下半部ハウジング13で形成されている。
【0064】
まず、上半部ハウジング12の側板23を取り外した状態で、下半部ハウジング13の溝部31内に回転軸の周方向からシール板21の取り付けを行う。
上半部ハウジング12の側板23を取り外した状態で、下半部ハウジング13の溝部31の幅広部32に、シール板21を周方向から挿入する。反対側の溝部31の開口からシール板21の先端が突出するまで、溝部31内を天井面34近傍の幅広部32に沿ってスライドさせつつ、シール板21を周方向に押し込んでいく。シール板21は、下半部ハウジング13の溝部31の開口から突出するシール板の突出長さが、回転軸6の四半円の周囲長を上回る程度まで押し込む。下半部ハウジング13内にシール板21を配設し、溝部31の両側の開口から、回転軸6の四半円の周囲長を上回る程度まで、それぞれ過剰にシール板21を突出させた状態にする。
【0065】
次に、図12に示す第3治具70を、配設済のシール板21に沿って溝部内の周方向に挿入する。その際、図12、図13に示すように、第3治具70に付属する固定輪72(第1係合手段)を、上半部ハウジング12の基部22に固定された帯板用ボルト39(第2係合手段)に係合する。更に、第3治具70の固定輪72を設けた一方の端部とは異なる他方の端部から、第3治具70をシール板21と溝部31の天井面34の間の隙間に挿入し、反対側の溝部31の開口から第3治具70の端部が突出するまでスライドさせながら、溝部31内を周方向に押し込んでいく。
【0066】
第3治具70を配設した後、第3治具70の固定輪72に近い溝部の開口から、第1治具50を天井面34と配設済の第3治具70との間の隙間に挿入する(図13の挿入位置X)。第1治具50を挿入する際は、取手部52を保持して反対側のガイド部54の端部から溝部31内に押し込みながら挿入していく。ガイド部54の先端が、下半部ハウジング13の反対側の溝部31の開口から突出するまで第1治具50を押し込んでいく。この操作により、下半部ハウジング13の溝部31の幅広部32に配置されたシール板21を径方向の内側方向に移動させ、少なくともシール上限深さまで移動することが望ましい。この位置にシール板を配置できれば、後述する加圧流体PGの供給により、シール板を運転時の所定の位置に配設できる。
【0067】
なお、前述のように、本実施例におけるシール板21のいわゆる所定の位置とは、シール板の取付時とタービンの運転時では、その位置が異なる。すなわち、軸シール10は、第1治具50を用いて、シール板21を溝部内の所定の位置に配設後、加圧流体PGを供給して、加圧流体PGによりシール板21の外面21aを押圧し、シール板21が開口端33の側面35に沿って径方向の内側方向にスライドして、シール板21の内面21bが回転部6の外表面に当接するまで移動する。シール板21が回転軸6の表面に当接する位置が、シール板21の運転時の所定の位置となり、この位置で軸シール21の本来のシール性能が発揮される。つまり、シール板21の取付時の所定の位置とは、後述するシール上限深さに相当する位置をいい、シール板の内面21bの両端(シール板21の端面21dの下端)が開口端直線部38の径方向の外側端38aに接する位置を言う。また、シール板21の運転時の所定の位置とは、シール板21を取付時の所定の位置に配設後、加圧流体PGで溝部の空間を加圧し、シール板21の内面21bが回転軸6の外表面に当接して、シール板21の端面21dが開口端33の側面35に狭持された位置をいう。シール板21が、運転時の所定の位置に配設された位置では、溝部31の空間は外部から隔離されて加圧状態を維持し、軸シールの本来のシール性能が発揮された状態である。
【0068】
また、図9(a)、図9(b)に示す第1治具の変形例の場合、溝部31に第1治具50を挿入する際、押上部53を頭にして取手部52を保持しながら押し込む方法を説明したが、取手部52をガイド代わりにして、取手部52の先端を頭に溝部31に押し込んで行き、反対側の溝部31から取手部52の先端が突出した後、取手部52の先端を把持して引張り、溝部31を経由して第1治具全体を引き出す方法でもよい。
【0069】
シール板21が配設されたことを確認後、シール板21を挿入した方向と同じ方向に、溝部31から第1治具50を引き抜く。更に、第3治具70の固定輪72(第2係合手段)を帯板用ボルト39から外して、第1治具50を引き抜く方向と同じ方向に第3治具70を引き抜く。この操作により、少なくともシール板21は、シール上限深さに相当する位置に配置され、シール板21の内面21bの両端が、溝部31の両側の開口端直線部の径方向の外側端38aに接触するか、または両側の開口端直線部38に把持された状態で配設される。
【0070】
下半部ハウジング13にシール板21を配設した後、下半部ハウジング13の溝部31の開口の両側から外部に突出している余剰のシール板21を、回転軸6の上半部の表面に沿って周方向に配置する。回転軸6の周方向の外表面に沿わせて配置する際、シール板21に弛みや撓みが生じないように留意する。シール板21が回転軸廻りに一回りできる長さを確認後、回転軸6の周囲長を若干上回る程度の長さでシール板21を切断する。シール板の両端の切断面を接着剤で固着させることにより、継ぎ目のない一本物の環状のシール板21が回転軸廻りに配設される。
【0071】
次に、回転軸6の上半部の外表面にシール板21を配設する際、第2治具60を用いて、シール板の弛みや撓みを調整する方法を以下に説明する。シール板は作業時の環境温度により伸縮するので、シール板を交換する度に、シール板の長さを調整する必要がある。また、弛みや撓みを調整して適度な長さのシール板を回転軸廻りに配設することが、シール板を所定の位置に配設するために重要である。すなわち、シール板の弛みが大きくシール板の全長が長すぎると、上半部ハウジング12にシール板21を配設する際、シール板の一部が溝部からはみ出して、無理矢理シール板21を溝部内に押し込めることになる。その結果、シール板21を回転軸の外表面に沿って均一に配置することが難しく、シール板のねじれやゆがみ等が局部的に生じて、シール板を所定の位置に配設することができず、軸シール全体のシール性の維持が困難になる。
【0072】
図14に示すように、回転軸6の外表面の周方向に沿って配設されたシール板21と回転軸6の外表面との間の隙間に、回転軸の軸方向でタービン本体(車室2のグランド部7)に向かって、第2治具60の挿入部62を差し込む。この場合、第2治具60の鍔部61が回転軸の軸方向の外側(グランド部7の反対側の軸受箱9側)に配置されるように、挿入部62を回転軸の軸方向から隙間に差し込む。その後、シール板21が回転軸6の外表面から若干浮くように、挿入部62の軸方向の差し込み位置を調整する。回転軸6の上半部の周方向に第2治具60を配置して、シール板21の浮き上がり量を調整した後、隣接した第2治具60同士の鍔部61を仮止材68で固定する。仮止材68は、公知のテープ等を使用できる。また、挿入部62の厚さを中間縁64側から内側縁66側に向かって薄くすれば、第2治具60の挿入部62のシール板21と回転軸6の外表面の隙間への差込長さを調整することにより、シール板の弛み量や弛み量の調整が容易になる。
【0073】
次に、第2治具60が溝部内に配設された状態で、鍔部61がハウジング11の外側に配置されるように、上半部ハウジング12側の側板23を基部22に取り付ける。側板23を取り付けた後、鍔部61を保持して第2治具60を径方向の外側方向に引き抜くことにより、シール板21がハウジング11の溝部31内の取付時の所定の位置に配設され、軸シール10の取り付けが終了する。
【0074】
なお、第2治具60は、回転軸の上半部の作業スペースが狭隘で、シール板の軸方向からの着脱が困難な場合に一層有効である。回転軸6の上半部の作業スペースが十分にあり、軸方向からのシール板の着脱が容易である場合には、第2治具に変えて、矩形状の薄板を軸方向から着脱して、シール板の長さ調整を行うことでもよい。
【0075】
次に、軸シール10の取り付け後、加圧流体PGを溝部31内に供給して溝部31内を加圧する。すなわち、別途準備した加圧源(図示せず)とハウジング11の接続口15を接続して、加圧源より加圧流体PGを受入れる。加圧流体PGは、空気の他に窒素や不活性ガス源等であってもよい。加圧流体PGを供給して、溝部31の空間を加圧保持して、加圧流体の漏れの有無等を確認する。漏れの有無の確認が終われば、シール板21が運転時の所定の位置に配設され、軸シール10の取付け作業は終了したと判断してよい。
【0076】
本実施例の軸シール10を適用すれば、タービンのクリーンアップ運転におけるフラッシング作業の際、シール板と加圧流体の供給路が分離されているので、回転軸を回転させる際、共廻りのおそれがなく、シール板及び供給路が破損することがない。また、シール板が磨耗した場合でも、交換が容易である。
【0077】
また、軸受等が近接している場合、軸シール周辺の作業スペースが狭隘なため、軸方向に軸シールを着脱することが困難な場合でも、本発明に係わる軸シール及び軸シールの取り付け方法を用いれば、軸シールの着脱が容易である。
【符号の説明】
【0078】
1 蒸気タービン
6 回転軸
7 グランド部
10、80 軸シール
11、81 ハウジング
12 上半部ハウジング
13 下半部ハウジング
21 シール板
22 基部
23 側板
31、82 溝部
32 幅広部
33 開口端
34 天井面
35 側面
PG 加圧流体
m シール板幅
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンのグランド部に設けられ、回転軸廻りに環状に配設されて、加圧流体を外部から受入れて回転軸をシールするタービン用軸シールであって、
該軸シールは、
回転軸の周方向に沿って回転軸の中心方向に開口する溝部を備えたハウジングと、
前記溝部内の周方向に配設され、溝幅方向の両端を前記溝部の側面に狭持された断面U字状の弾力性を有するシール板と、
を含む構造を備え、
前記溝部は、前記シール板の板幅より小さい溝幅の開口端を備えること、
を特徴とするタービン用軸シール。
【請求項2】
前記ハウジングは、上半部ハウジングと下半部ハウジングからなり、
前記上半部ハウジングは、周方向に分割された基部と側板とから形成され、
該側板は前記基部に対して回転軸の軸方向に着脱可能な構造であり、
前記下半部ハウジングは一体に形成されていること、
を特徴とする請求項1に記載のタービン用軸シール。
【請求項3】
前記溝部は、天井面近傍で回転軸の軸方向に前記シール板の板幅より大きな溝幅を有する幅広部を備え、前記天井面から前記開口端に向けて径方向に次第に溝幅が狭くなるように形成されていること、を特徴とする請求項1または請求項2のいずれか1項に記載のタービン用軸シール。
【請求項4】
前記溝部は、前記幅広部近傍では、回転軸に垂直かつ互いに平行で、前記シール板の厚さより長い側面を備え、前記幅広部近傍から前記開口端に向かって径方向に次第に溝幅が狭くなる側面を備え、前記開口端近傍では回転軸に垂直かつ互いに平行な側面を備えること、
を特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のタービン用軸シール。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のタービン用軸シールを備えた蒸気タービン。
【請求項1】
タービンのグランド部に設けられ、回転軸廻りに環状に配設されて、加圧流体を外部から受入れて回転軸をシールするタービン用軸シールであって、
該軸シールは、
回転軸の周方向に沿って回転軸の中心方向に開口する溝部を備えたハウジングと、
前記溝部内の周方向に配設され、溝幅方向の両端を前記溝部の側面に狭持された断面U字状の弾力性を有するシール板と、
を含む構造を備え、
前記溝部は、前記シール板の板幅より小さい溝幅の開口端を備えること、
を特徴とするタービン用軸シール。
【請求項2】
前記ハウジングは、上半部ハウジングと下半部ハウジングからなり、
前記上半部ハウジングは、周方向に分割された基部と側板とから形成され、
該側板は前記基部に対して回転軸の軸方向に着脱可能な構造であり、
前記下半部ハウジングは一体に形成されていること、
を特徴とする請求項1に記載のタービン用軸シール。
【請求項3】
前記溝部は、天井面近傍で回転軸の軸方向に前記シール板の板幅より大きな溝幅を有する幅広部を備え、前記天井面から前記開口端に向けて径方向に次第に溝幅が狭くなるように形成されていること、を特徴とする請求項1または請求項2のいずれか1項に記載のタービン用軸シール。
【請求項4】
前記溝部は、前記幅広部近傍では、回転軸に垂直かつ互いに平行で、前記シール板の厚さより長い側面を備え、前記幅広部近傍から前記開口端に向かって径方向に次第に溝幅が狭くなる側面を備え、前記開口端近傍では回転軸に垂直かつ互いに平行な側面を備えること、
を特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のタービン用軸シール。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のタービン用軸シールを備えた蒸気タービン。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−140989(P2012−140989A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292523(P2010−292523)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
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