説明

タービン要素の回復方法

【課題】現在使用されているタービン要素を回復する方法の欠点を克服する。
【解決手段】本発明は、要素の本体を形成する基材と、基材に接着した保護コーティングとから構成されたタービン要素を回復する方法に関する。方法は、保護コーティングと基材との間の接着不良を有するゾーンを特定するためのタービン要素の制御と、保護コーティングと基材との間の接着不良の除去とを備える。接着不良は、保護コーティングと下にある基材との局所的な溶融を引き起こし、レーザビームの停止後に保護コーティングと基材との間の上記ゾーンの高さにおける適切な接着を可能とするために、接着不良を有する各ゾーン上に向けられたレーザビームを用いて除去される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タービン要素の回復方法に関する。
【0002】
「回復」とは、製造の終わりに、通常の使用を危うくする可能性がある1つ又はいくつかの不良を有する新たな部品をコンプライアンスに適合させることを意味すると解釈される。
【背景技術】
【0003】
タービン構造に使用される要素は、極めて注意深く準備された仕上げ状態を有しなければならず、これは、最小の細部に適用される。
【0004】
タービン要素、具体的には部品の要素又は可動部品の近くにある要素には、保護コーティングが設けられ、その性質は、これら要素の機能及びそれらの等級によって決まる。例えば、タービンのブレードには、一般に、熱障壁及びブレードを構成する金属の拡散に対する障壁として機能するコーティングが設けられる。また、例えば、溶接された部分によって形成されたロータの場合には、ロータのラビリンスナイフエッジシールには、砥粒コーティングが設けられ、このナイフエッジシールは、固定されたブレードと一体となった摩耗性材料に対向して配設されている。
【0005】
保護コーティングは、一般に、プラズマ蒸着又はレーザ蒸着によって得られる。ニッケル、コバルト、鉄、又はチタン系の金属を主要部(又は基材)とするブレードは、例えば、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、炭化チタン、炭化タングステン等におけるコーティングを有している可能性がある。このコーティングの厚みは、例えば0.05mmから0.5mmの間である。
【0006】
コーティング作業の後に、要素の基材上における接着不足やコーティングの接着離れ(disbonding)が時々観察される。不良部品は、表面処理、すなわち化学溶解(酸による)によって回復されることができ、コーティング不良が除去されるのを可能とする。この作業がいったん実行されると、新たな蒸着が実行される。この新たな蒸着は、順次確認されなければならない。製造サイクルを長時間化することに加えて、従来の回復方法は、健康、安全、及び環境に関して欠点を有する。
【0007】
さらに、金属部品を局所的に処理するのにレーザビームを使用することは、刊行物の対象となっている。
【0008】
US4960611は、機械的部品のコーティングにおける小さな不良を回復するのを可能とする方法を開示しており、この不良は、塵埃の粒子又は油滴に起因することが注目されている。この方法は、具体的には車両のモータフレームのために設計されており、このフレームは、接着層、中間層、及び仕上げ層からなるいくつかの保護層でコーティングされている。仕上げ層に影響する不良(塵埃の粒子、油滴)を回復するために、塵埃の粒子又は油滴を昇華させるためにレーザビームによって仕上げ層の不良ゾーンを照射し、仕上げ層において極めて小さい空洞を形成するように仕上げ層に隣接しているゾーンを照射することが提案される。そして、空洞は、例えばレーザビームを用いて硬化される修理組成物で満たされる。
【0009】
EP−A−0504095は、ガスタービンの要素を修理する方法、特に、稼働中に破損したブレードを修理する方法を開示している。稼働中において、ブレードは、酸化、亀裂、及び金属腐食の現象を受け、これらの現象は、ブレードにぶつかるガス流に含まれる研摩剤及び腐食剤に起因する。そして、高温で循環する高圧ガス流は、ブレードの変形を引き起こす。この文献は、修理されるべきブレードの表面のゾーン上にレーザビームを向けることによるブレードを修理する方法を提案している。レーザビームは、その後に凝固するように残されるブレードの薄い表層を局所的に溶融させる。凝固は、処理される層の下にある材料内に引っ張り力を引き起こし、ブレードのこの部分に凹状の構成を与える。決定された経路に沿ってレーザビームを適用することにより、ブレードを再構成することが可能である。
【0010】
DE−A−3325251は、接着層によって基材に接着しているセラミックス層でコーティングされた基材を備えるタービン要素を回復する方法を記述している。方法は、セラミックス層の接着不良を有するゾーンを特定するための部品の制御を備える。不良は、エネルギビーム、好ましくは電子ビームを用いてタービン要素をスキャンすることによって特定される。エネルギビームは、各不良ゾーンにおけるセラミックス層で剥がれを引き起こす。不良の除去は、剥がれたゾーンの正確な研摩とセラミックス材料の添加とによって達成される。
【0011】
US5576069は、接着層でコーティングされた金属要素上にプラズマによってスパッタされた酸化ジルコニウムの層をレーザによって再溶融する方法を開示している。酸化ジルコニウムの層における不良を処理するために、この層は、表面的に再溶融される。その後、セラミックスの懸濁液が塗付される。そして、セラミックスの層は、再度、表面的に再溶融される。この方法においては、基材又は接着層の再溶融はない。
【特許文献1】米国特許第4960611号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第0504095号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第3325251号明細書
【特許文献4】米国特許第5576069号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開第1496474号明細書
【特許文献6】欧州特許第0956378号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2003/167616号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
現在使用されているタービン要素を回復する方法の欠点を克服する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、要素の本体を形成する基材と、基材に接着した保護コーティングとから構成されたタービン要素を回復する方法に関し、方法は、
保護コーティングと基材との間の接着不良を有するゾーンを特定するためのタービン要素の制御と、
保護コーティングと基材との間の接着不良の除去とを備え、
接着不良は、接着不良を有する各ゾーン上に向けられて、レーザビームの停止後に保護コーティングと基材との間の、上記ゾーンの高さにおける各ゾーンの冷却後に適切な接着を可能とする保護コーティングと下にある基材との局所的な溶融を引き起こすレーザビームを用いて除去されることを特徴としている。
【0014】
具体的な実施形態によれば、タービン要素の制御の間に特定された、不良を有するゾーンは、3次元的に幾何解析され、決定された経路にレーザビームを提供して各接着不良を除去するのを可能とする特徴を付与するために記録される。
【0015】
具体的には、タービン要素上のレーザビームの経路は、できる限り迅速となるように決定され得る。
【0016】
他の実施形態によれば、レーザビームによって引き起こされた局所的な溶融は、不活性又は還元性雰囲気下で実行される。
【0017】
有利には、レーザビームは、光ファイバによって接着不良を有するゾーン上に向けられる。
【0018】
レーザビームは、YAGレーザによって照射され得る。
【0019】
方法は、接着不良の除去後に、接着不良が保護コーティングと基材との間に残存するかどうかを確認するためのタービン要素の新たな制御を備えてもよい。
【0020】
方法は、例えば、タービンのブレード又はナイフエッジシールの回復に適用する。
【0021】
単に指示目的で且つ限定されない方法で与えられる以下の記述を読み、添付された図面を参照することにより、本発明は、より良好に理解され、また、他の利点及び特異点は、明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1は、タービン要素、例えばブレード1の横断面の部分を示す図である。ブレード1は、要素の本体を形成する基材2と、保護コーティング3とによって構成される。
【0023】
基材2は、例えば、ニッケル、コバルト、鉄、又はチタン系の金属材料である。保護コーティング3は、例えば、プラズマ蒸着又はレーザ蒸着によって得られる、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、又は、金属炭化物(例えばチタン又はタングステンの)の層から構成される。コーティングの厚みは、例えば0.05mmから0.5mmの間である。保護コーティング3は、基材2に接着しなければならない。しかしながら、1つ又はいくつかの不良(コーティングの接着不足、コーティングの接着離れ)が、符号4によって示されるように生じることがある。
【0024】
このような接着不良を克服するために、本発明によれば、コーティングと基材との間の物理的な連続性を保証するために、不良のゾーンにおける保護コーティングの再溶融が提案される。
【0025】
コーティング層3及び下にある基材2の局所的な溶融は、図2に示されるように、レーザビーム5を用いて得られる。レーザビームは、例えば、YAGレーザによって照射され、保護コーティング3の一部と基材2の一部とからなるゾーン6まで光ファイバによって伝送される。このYAGレーザの特徴は、以下のようなものであり得る:
タービン要素上におけるレーザビームの焦点スポットの直径:0.2mmから0.8mmの間
パルス周波数:3Hzから10Hz
レーザビームの平均出力:50Wから100Wの間
パルス幅:5msから15ms
ゾーンの表面積がどのくらいであっても回復されるべき各ゾーンに一定のエネルギ密度が供給されることが目的とされる。
【0026】
本発明にかかる方法は、まず、図1に示されるゾーン4のような接着不良を有するゾーンを特定するためにタービン要素を制御するステップを備える。この作業の前に、基材/保護コーティングの接着の冶金的及び機械的な品質を保証するために、要素の表面のクリーニングが必要とされてもよい。関係するゾーンは、いかなる汚染(潤滑油、油、抽気物等)も除かれるのが有利である。
【0027】
各不良ゾーンのプロファイルは、レーザビームの最適な軌跡を保証するために、3次元的に(位置、形状、寸法等)幾何解析される。
【0028】
タービン要素の特性解析がいったん完了すると、要素をコンプライアンスに適合させることが実行される。方法は、金属の投入なしに実行される。それが実行される速度は、手動又は自動的に管理される。レーザビームの焦点スポットの寸法は、作業ゾーンの幾何形状に応じて適合される。変形を制限し、ブレードの場合には、ブレードの頂部の崩壊を回避するために、レーザビームによって供給される平均出力は低い(100W未満)。
【0029】
図3は、タービンブレード10の基材と保護コーティングとの間の接着不良の除去作業を示している。符号11は、例えばYAGレーザ源であるレーザ源を示している。レーザ源11によって照射されるレーザビームは、光ファイバ12によってレーザヘッド13まで伝送される。レーザヘッド13は、レーザビーム14を回復されるべきゾーンに向ける。作業中、ガス保護システム15は、腐食及び酸化からブレードを保護する。ガス保護は、不活性ガス(例えばアルゴン)又は還元ガスを吹き付けることによって達成されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】要素の本体とその保護コーティングとの間の接着不良ゾーンを有するタービン要素の横断面の部分を示す図である。
【図2】本発明にかかる回復方法を受けた図1に示されるタービン要素を示す図である。
【図3】タービン要素の基材と保護コーティングとの間の接着不良の除去作業を示す図である。
【符号の説明】
【0031】
1 ブレード
2 基材
3 保護コーティング
4 接着不良ゾーン
5、14 レーザビーム
10 タービンブレード
11 レーザ源
12 光ファイバ
13 レーザヘッド
15 ガス保護システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
要素の本体を形成する基材(2)と、基材に接着した保護コーティング(3)とから構成されたタービン要素(1、10)を回復する方法にして、
保護コーティング(3)と基材(2)との間の接着不良を有するゾーンを特定するためのタービン要素の制御と、
保護コーティングと基材との間の接着不良の除去とを備える方法であって、
接着不良が、接着不良を有する各ゾーン上に向けられて、レーザビームの停止後に保護コーティングと基材との間の、前記ゾーンの高さにおける各ゾーンの冷却後に適切な接着を可能とする保護コーティングと下にある基材との局所的な溶融を引き起こすレーザビーム(5)を用いて除去されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
タービン要素の制御の間に特定された、不良を有するゾーンが、3次元的に幾何解析され、決定された経路にレーザビームを提供して各接着不良を除去するのを可能とする特徴を付与するために記録される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
タービン要素上のレーザビームの経路が、できる限り迅速となるように決定される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
レーザビーム(14)によって引き起こされた局所的な溶融が、不活性又は還元性雰囲気下で実行される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
レーザビーム(14)が、光ファイバ(12)によって接着不良を有するゾーン上に向けられる、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
レーザビーム(14)が、YAGレーザ(11)によって照射される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
接着不良の除去後に、接着不良が保護コーティングと基材との間に残存するかどうかを確認するためのタービン要素の新たな制御を備える、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
タービンブレード又はナイフエッジシールの回復に対する、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法の適用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−79590(P2009−79590A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−240359(P2008−240359)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(505277691)スネクマ (567)
【Fターム(参考)】