タービン
【課題】漏洩流量をより低減化した高性能なタービンを提供する。
【解決手段】ブレード50と、ブレード50の先端側に隙間を介してブレード50に対して相対回転する構造体11とを備えたタービン1であって、ブレード50の先端部51と、構造体11の先端部51に対応する部位とのうちの一方には、段差面53を有して他方側に突出するステップ部52が設けられ、前記他方には、ステップ部52に対して延出するシールフィン15が設けられ、ブレード50の先端部51と構造体11の前記部位との間には、シールフィン15と該シールフィン15に対して構造体11の回転軸方向上流側で対向する隔壁との間にキャビティCが形成され、シールフィン15は、ステップ部52との間に微小隙間Hを形成するフィン本体部16を具備し、微小隙間をHとし、フィン本体部と、ステップ部の回転軸方向上流側における端縁部との間の距離をLとすると、0.7H≦Lを満足する。
【解決手段】ブレード50と、ブレード50の先端側に隙間を介してブレード50に対して相対回転する構造体11とを備えたタービン1であって、ブレード50の先端部51と、構造体11の先端部51に対応する部位とのうちの一方には、段差面53を有して他方側に突出するステップ部52が設けられ、前記他方には、ステップ部52に対して延出するシールフィン15が設けられ、ブレード50の先端部51と構造体11の前記部位との間には、シールフィン15と該シールフィン15に対して構造体11の回転軸方向上流側で対向する隔壁との間にキャビティCが形成され、シールフィン15は、ステップ部52との間に微小隙間Hを形成するフィン本体部16を具備し、微小隙間をHとし、フィン本体部と、ステップ部の回転軸方向上流側における端縁部との間の距離をLとすると、0.7H≦Lを満足する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、発電プラント、化学プラント、ガスプラント、製鉄所、船舶等に用いられるタービンに関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、蒸気タービンの一種として、ケーシングと、ケーシングの内部に回転自在に設けられた軸体(ロータ)と、ケーシングの内周部に固定配置された複数の静翼と、これら複数の静翼の下流側において軸体に放射状に設けられた複数の動翼とを備えたものがある。このような蒸気タービンのうち衝動タービンの場合は、蒸気の圧力エネルギーを静翼によって速度エネルギーに変換し、この速度エネルギーを動翼によって回転エネルギー(機械エネルギー)に変換している。また、反動タービンの場合は、動翼内でも圧力エネルギーが速度エネルギーに変換され、蒸気が噴出する反動力により回転エネルギー(機械エネルギー)に変換される。
【0003】
この種の蒸気タービンでは、動翼の先端部と、動翼を囲繞して蒸気の流路を形成するケーシングとの間に径方向の隙間が形成され、また、静翼の先端部と軸体との間にも径方向の隙間が形成されているのが通常である。しかし、動翼先端部の隙間を下流側に通過する漏洩蒸気は、動翼に対して回転力を付与しない。また、静翼先端部の隙間を下流側に通過する漏洩蒸気は、静翼によって圧力エネルギーを速度エネルギーに変換されないため、下流動翼に対して回転力をほとんど付与しない。したがって、蒸気タービンの性能向上のためには、前記隙間を通過する漏洩蒸気の量を低減することが重要となる。
【0004】
下記特許文献1には、動翼の先端部に、軸方向上流側から下流側に向かって高さが次第に高くなるステップ部が設けられ、ケーシングに、前記ステップ部に対して隙間を有するシールフィンが設けられた構造が提案されている。
このような構成により、シールフィンの隙間を通り抜けた漏れ流れがステップ部の段差面を形成する端縁部に衝突し、流動抵抗を増大させることにより、漏洩流量が低減化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−291967号公報(図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、蒸気タービンの性能向上に対する要望は強く、したがって漏洩流量をさらに低減化することが求められている。
【0007】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、漏洩流量をより低減化した高性能なタービンを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。
すなわち、本発明に係るタービンは、ブレードと、前記ブレードの先端側に隙間を介して設けられるとともに、前記ブレードに対して相対回転する構造体と、を備えたタービンであって、前記ブレードの先端部と、前記構造体の前記先端部に対応する部位とのうちの一方には、段差面を有して他方側に突出するステップ部が設けられ、前記他方には、前記ステップ部に対して延出するシールフィンが設けられ、前記ブレードの先端部側と前記構造体の前記部位との間には、前記シールフィンと該シールフィンに対して前記構造体の回転軸方向上流側で対向する隔壁との間にキャビティが形成され、前記シールフィンは、前記ステップ部との間に微小隙間を形成するフィン本体部を具備し、前記微小隙間をHとし、
前記フィン本体部と、前記ステップ部の前記回転軸方向上流側における端縁部との間の距離をLとすると、以下の式(1)を満足することを特徴とする。
0.7H≦L …………………(1)
【0009】
このようにすれば、キャビティ内に流入した流体がステップ部の端縁部を形成する段差面、すなわちステップ部の軸方向上流側に向く面に衝突し、上流側に戻るようにして第一方向に回る主渦を生じる。また、その際、特に前記段差面の端縁部(エッジ)において、前記主渦から一部の流れが剥離することにより、前記第一方向と反対方向に回る剥離渦を生じる。この剥離渦は、シールフィン先端とステップ部との間の微小隙間を通り抜ける漏れ流れを低減する、縮流効果を発揮する。そして、上記式(1)のようにすれば、剥離渦による縮流効果は、端縁部の位置(フィン本体からの距離L)と微小隙間Hの大きさとの関係によって変化するが、後述するシミュレーション結果に基づき、前記式(1)を満足させるようにこれらの関係を規定したことにより、剥離渦による縮流効果を十分に高くし、漏洩流量をより低減化することが可能になる。
【0010】
また、前記フィン本体部は、少なくとも先端側が前記回転軸方向上流側に向けて斜めに延在していることを特徴とする。
このようにすれば、フィン本体部が少なくとも先端側が回転軸方向上流側に向けて斜めに延在しているので、微小隙間の回転軸方向上流側において漏れ流れに向かうように剥離渦のダウンフローが流れるため、フィン先端での流速の回転軸方向速度成分VXが小さくなる。すなわち、フィン先端での流速の径方向速度成分をVRとするとVX/VRが0に近づくほど剥離渦の縮流効果が大きくなるので、縮流効果を高めることが可能となる。
【0011】
また、前記ステップ部は、前記回転軸方向上流側から下流側に向かって突出高さが次第に高くなるように複数設けられ、前記他方には、前記ステップ部のそれぞれに対して延出する前記シールフィンが少なくとも1つ設けられており、前記ステップ部に対応するシールフィンは、前記回転軸方向下流側に隣接するステップ部に対応するシールフィンに対して対向する前記隔壁となっていることを特徴とする。
このようにすれば、剥離渦による縮流効果が各ステップ部毎に得られ、したがってブレードとこれに対応する構造体との間の漏洩流量が十分に低減化される。
【0012】
また、前記構造体の、前記先端部に対応する部位は環状の凹部となっており、前記複数のステップ部のうちの、前記回転軸方向最上流側に位置するステップ部に対応するシールフィンに対して対向する前記隔壁は、前記凹部の、前記回転軸方向上流側の内壁面によって形成されていることを特徴とする。
このようにすれば、回転軸方向最上流側に位置するステップ部においても、前記の剥離渦による縮流効果が得られ、したがってブレードとこれに対応する構造体との間の漏洩流量が十分に低減化される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、漏洩流量をより低減化した、高性能なタービンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第一実施形態に係る蒸気タービン1を示す概略構成断面図である。
【図2】図1における要部Iを示す拡大断面図である。
【図3】第一実施形態に係るシールフィン15(15A〜15C)の要部拡大断面図である。
【図4】第一実施形態に係る蒸気タービン1の作用説明図である。
【図5】第一実施形態の変形例に係るシールフィン15Dの概略構成断面図である。
【図6】第一実施形態の変形例に係るシールフィン15Eの概略構成断面図である。
【図7】第一実施形態の変形例に係るシールフィン15Fの概略構成断面図である。
【図8】第一実施形態の変形例に係るシールフィン15Hの概略構成断面図である。
【図9】第一実施形態の変形例に係るシールフィン15Iの概略構成断面図である。
【図10】第一実施形態の変形例に係るシールフィン15Jの概略構成断面図である。
【図11】第一実施形態の変形例に係るシールフィン15Kの概略構成断面図である。
【図12】第一実施形態の変形例に係るシールフィン15Lの概略構成断面図である。
【図13】第二実施形態に係る蒸気タービン2を示す概略構成断面図である。
【図14】第二実施形態に係る蒸気タービン2のシミュレーション結果を示すグラフであり、横軸が距離Lの寸法(長さ)を示し、縦軸はタービン効率変化およびリーク量変化率を示している。
【図15】本発明の第二実施形態に係る蒸気タービン2のシミュレーション結果を示すグラフであり、距離Lを0.7H≦Lに設定したモデルのタービン効率変化およびリーク量変化率を示している。
【図16】本発明の第三実施形態に係る蒸気タービン3を示す概略構成断面図である。
【図17】本発明の第四実施形態に係る蒸気タービン4を示す概略構成断面図である。
【図18】本発明の第五実施形態に係る蒸気タービン5を示す概略構成断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳しく説明する。
(第一実施形態)
図1は、本発明の第一実施形態に係る蒸気タービン1を示す概略構成断面図である。
蒸気タービン1は、ケーシング10と、ケーシング10に流入する蒸気Sの量と圧力を調整する調整弁20と、ケーシング10の内方に回転自在に設けられ、動力を図示しない発電機等の機械に伝達する軸体30と、ケーシング10に保持された静翼40と、軸体30に設けられた動翼50と、軸体30を軸回りに回転可能に支持する軸受部60と、を主たる構成としている。
【0016】
ケーシング10は、内部空間が気密に封止されているとともに、蒸気Sの流路とされている。このケーシング10の内壁面には、軸体30が挿通されたリング状の仕切板外輪11が強固に固定されている。本実施形態では、この仕切板外輪11が本発明における「構造体」となっている。
【0017】
調整弁20は、ケーシング10の内部に複数個取り付けられており、それぞれ図示しないボイラから蒸気Sが流入する調整弁室21と、弁体22と、弁座23とを備えており、弁体22が弁座23から離れると蒸気流路が開いて、蒸気室24を介して蒸気Sがケーシング10の内部空間に流入するようになっている。
【0018】
軸体30は、軸本体31と、この軸本体31の外周から径方向に延出した複数のディスク32とを備えている。この軸体30は、回転エネルギーを、図示しない発電機等の機械に伝達するようになっている。
【0019】
静翼40は、軸体30を囲繞するように放射状に多数配置されて環状静翼群を構成しており、それぞれ前述した仕切板外輪11に保持されている。これら静翼40の径方向における内方側は、軸体30が挿通されたリング状のハブシュラウド41で連結され、その先端部が軸体30に対して径方向の隙間をあけて配設されている。
これら複数の静翼40からなる環状静翼群は、回転軸方向に間隔をあけて六つ形成されており、蒸気Sの圧力エネルギーを速度エネルギーに変換して、下流側に隣接する動翼50側に案内するようになっている。
【0020】
動翼50は、軸体30が有するディスク32の外周部に強固に取り付けられている。この動翼50は、各環状静翼群の下流側において、放射状に多数配置されて環状動翼群を構成している。本実施形態では、この動翼50が本発明における「ブレード」となっている。
【0021】
これら環状静翼群と環状動翼群とは、一組一段とされている。すなわち、蒸気タービン1は、六段に構成されている。これら動翼50の先端部は、周方向に延びたチップシュラウド51とされている。
【0022】
図2は、図1における要部Iを示す拡大断面図である。
図2に示すように、動翼(ブレード)50の先端部となるチップシュラウド51は、ケーシング10の径方向において仕切板外輪(構造体)11と間隙を介して対向して配置されている。チップシュラウド51は、段差面53(53A〜53C)を有して仕切板外輪11側に突出する、ステップ部52(52A〜52C)を形成したものである。
【0023】
本実施形態では、チップシュラウド51は三つのステップ部52(52A〜52C)を形成しており、これら三つのステップ部52A〜52Cは、軸体30の回転軸方向(以下、軸方向と記す。)上流側から下流側に向かって、動翼50からの突出高さが次第に高くなるように配設されている。すなわち、ステップ部52A〜52Cは、段差を形成する段差面53(53A〜53C)が、軸方向上流側を向いた前向きに形成されている。
【0024】
仕切板外輪11には、チップシュラウド51に対応する部位に環状溝(環状の凹部)11aが形成されており、この環状溝11a内にチップシュラウド51が収容されている。
この仕切板外輪11の環状溝11aにおける溝底面11bには、チップシュラウド51に向けて径方向内方側に延出する三つのシールフィン15(15A〜15C)が設けられており、各シールフィン15の上流側に比べて下流側が深くなるように段状に形成されている
【0025】
これらシールフィン15(15A〜15C)は、ステップ部52(52A〜52C)に1:1で対応してそれぞれ溝底面11bから延出して設けられている。
各シールフィン15A〜15Cは、ステップ部52(52A〜52C)との間に微小隙間H(H1〜H3)を径方向に形成するフィン本体部16と、微小隙間H(H1〜H3)の軸方向上流側の空間を制限する空間制限部17とをそれぞれ備えている。
【0026】
図3は、シールフィン15(15A〜15C)の要部拡大断面図である。
図3に示すように、フィン本体部16は、先鋭に形成されており、空間制限部17よりもステップ部52(52A〜52C)に近接してステップ部52(52A〜52C)との間に微小隙間H(H1〜H3)を形成している。フィン本体部16は、径方向における寸法が微小隙間H(H1〜H3)の寸法(径方向)と略同程度となっている。この微小隙間H(H1〜H3)の寸法は、ケーシング10や動翼50の熱伸び量、動翼50の遠心伸び量等を考慮した上で、両者が接触することがない安全な範囲内で、最小のものに設定されている。なお、本実施形態では、H1〜H3は全て同じ寸法となっている。ただし、必要に応じて、これらを適宜に変えてもよいのはもちろんである。
【0027】
図3に示すように、空間制限部17は、シールフィン15(15A〜15C)のフィン本体部16よりも軸方向に厚く形成されており、回転軸に沿った断面視で直線状となって軸方向に延在する内周壁面(回転軸方向壁面)17aを有している。この内周壁面17aは、フィン本体部16から軸方向上流側に向けて、微小隙間H(H1〜H3)の略二倍程度だけ延在している。
なお、これらフィン本体部16,空間制限部17及び仕切板外輪11は、それぞれ一体に形成してもよいし、別体に形成してもよい。また、フィン本体部16と空間制限部17とを別体にした場合には、フィン本体部16を空間制限部17の先端側に取り付けてもよいし、空間制限部17を溝底面11b側からフィン本体部16に沿わせてもよい。
【0028】
このように空間制限部17は、フィン本体部16の軸方向上流側の空間を径方向に制限して、フィン本体部16との間に小キャビティ18を画定している。図3に示すように、小キャビティ18は、回転軸に沿った断面において、一辺が微小隙間H(H1〜H3)の略二倍程度となった方形状に構成されている。
【0029】
このような構成のもとに、チップシュラウド51側と仕切板外輪11との間には、前記環状溝11a内において、各ステップ部52毎にこれに対応してキャビティC(C1〜C3)が形成されている。
これらキャビティC(C1〜C3)は、各ステップ部52に対応したシールフィン15と、このシールフィン15に対して軸方向上流側で対向する隔壁との間に形成されている。
【0030】
軸方向最上流側に位置する第一のキャビティC1では、前記隔壁は、前記環状溝11aの、軸方向上流側の内壁面54によって形成されている。したがって、この内壁面54と第一段目のステップ部52Aに対応するシールフィン15Aとの間で、さらにチップシュラウド51と仕切板外輪11との間に、第一のキャビティC1が形成されている。
【0031】
また、第二のキャビティC2では、前記隔壁は、軸方向上流側に位置するステップ部52Aに対応するシールフィン15Aによって形成されている。したがって、シールフィン15Aとシールフィン15Bとの間で、さらにチップシュラウド51と仕切板外輪11との間に、第二のキャビティC2が形成されている。
同様に、シールフィン15Bとシールフィン15Cとの間で、さらにチップシュラウド51と仕切板外輪11との間に、第三のキャビティC3が形成されている。
このような構成により、各キャビティC(C1〜C3)と微小隙間H(H1〜H3)との間に、それぞれ小キャビティ18が形成されている。
【0032】
図1に戻って、軸受部60は、ジャーナル軸受装置61及びスラスト軸受装置62を備えており、軸体30を回転可能に支持している。
【0033】
次に、上記の構成からなる蒸気タービン1の動作について、図1〜図4を用いて説明する。
まず、調整弁20(図1参照)を開状態とすると、図示しないボイラから蒸気Sがケーシング10の内部空間に流入する。
【0034】
ケーシング10の内部空間に流入した蒸気Sは、各段における環状静翼群と環状動翼群とを順次通過する。この際には、圧力エネルギーが静翼40によって速度エネルギーに変換され、静翼40を経た蒸気Sのうちの大部分が同一の段を構成する動翼50間に流入し、動翼50により蒸気Sの速度エネルギーが回転エネルギーに変換されて、軸体30に回転が付与される。一方、蒸気Sのうちの一部(例えば、数%)は、静翼40から流出した後、環状溝11a内に流入する、いわゆる、漏洩蒸気となる。
【0035】
ここで、図4に示すように環状溝11a内に流入した蒸気Sは、まず、第一のキャビティC1に流入し、ステップ部52Aの段差面53Aに衝突し、上流側に戻るようにして例えば図2及び図4の紙面上にて反時計回り(第一方向)に回る主渦Y1を生じる。
【0036】
その際、特にステップ部52Aの前記端縁部(エッジ)55において、前記主渦Y1から一部の流れが剥離することにより、この主渦Y1と反対方向、本例では図2及び図4の紙面上にて時計回りになるように、小キャビティ18において剥離渦Y2を生じる。
【0037】
より詳細には、図4に示すように、端縁部55において、主渦Y1から一部の流れが剥離して小キャビティ18に蒸気Sが流入すると、流入した蒸気Sは、内周壁面17aに到達した後に内周壁面17aに沿って軸方向下流側に流れる。そして、フィン本体部16により流れ方向をステップ部52A(52)側に転向させられた後、フィン本体部16に沿って径方向内方側に流れる。そして、径方向内方側をステップ部52Aに沿って軸方向上流側に向けて流れ、主渦Y1及び小キャビティ18に流入する蒸気Sによって径方向外方側に流れ、再び内周壁面17aに沿って軸方向下流側に流れる。
【0038】
このように、小キャビティ18において、主渦Y1とは反対周りに剥離渦Y2を生じる。
この際、内周壁面17a(図3参照)によって径方向外方側の空間が制限されているために、径方向外方へと蒸気Sの流れが散逸し難くなると共に、内周壁面17aに沿って軸方向下流側への流れがガイドされるために、剥離渦Y2の流れが比較的に強くなる。
【0039】
このような剥離渦Y2は、シールフィン15Aとステップ部52Aとの間の微小隙間H1を通り抜ける漏れ流れを低減する、縮流効果を発揮する。
すなわち、図4に示すように、剥離渦Y2が形成されると、この剥離渦Y2には、シールフィン15Aの軸方向上流側において、速度ベクトルを径方向内方側に向けるダウンフローを生じる。このダウンフローは、前記微小隙間H1の直前で径方向内方側に向う慣性力を保有しているため、前記微小隙間H1を軸方向下流側に通り抜ける漏れ流れに対し、径方向内方側に縮める効果(縮流効果)を発揮し、漏洩量を低減する。
【0040】
ここで、小キャビティ18が回転軸に沿った断面において、図2及び図3に示すように、方形状に構成されているために、剥離渦Y2が略真円を形成すると考えられる。
この剥離渦Y2の直径が前記微小隙間H1の2倍になってその外周がフィン本体部16の先端に接する場合、この剥離渦Y2のダウンフローにおける径方向内方側に向く速度成分が最大の位置が、シールフィン15Aの先端(内端縁)に略一致し、したがってこのダウンフローが前記微小隙間H1の直前をより良好に通過するため、漏れ流れに対する縮流効果が更に大きくなると考えられる。
【0041】
このような剥離渦Y2が、上述した作用と同様に、図2に示すように、微小隙間H2,H3のそれぞれの軸方向上流側における小キャビティ18に生じることとなる。これら各剥離渦Y2は、それぞれ微小隙間H2,H3を通り抜ける流れに対し、縮流効果を発揮し、漏洩量を低減する。
【0042】
以上説明したように、本実施形態に係る蒸気タービン1によれば、キャビティC(C1〜C3)内に流入した蒸気Sがステップ部52(52A〜52C)の端縁部55を形成する段差面53(53A〜53C)に衝突し、上流側に戻るようにして第一方向に回る主渦Y1を生じる。また、その際、特に前記段差面53(53A〜53C)の端縁部55において、主渦Y1から一部の流れが剥離することにより、第一方向と反対方向に回る剥離渦Y2を生じる。この剥離渦Y2は、フィン本体部16とステップ部52(52A〜52C)との間の微小隙間H(H1〜H3)を通り抜ける漏れ流れを低減する、縮流効果を発揮する。そして、空間制限部17により、キャビティC(C1〜C3)と微小隙間H(H1〜H3)との間に小キャビティ18を形成するので、空間が狭められた小キャビティ18内で剥離渦Y2の流れが強められ、剥離渦Y2による縮流効果を十分に高くし、漏洩流量をより低減化することが可能になる。
【0043】
また、回転軸方向上流側に延びる内周壁面17aを有するので、内周壁面17aとフィン本体部16とに沿って剥離渦Y2がガイドされる。これにより、剥離渦Y2の流れを強めることができ、縮流効果を高めることができると共に安定的に維持することができる。
【0044】
また、剥離渦Y2による縮流効果が各ステップ部52(52A〜52C)毎に得られ、したがって動翼50とこれに対応する仕切板外輪11との間の漏洩流量が十分に低減化される。
【0045】
また、軸方向最上流側に位置するステップ部52Aにおいても、剥離渦Y2による縮流効果が得られ、したがって動翼50とこれに対応する仕切板外輪11との間の漏洩流量が十分に低減化される。
【0046】
次に、上述した第一実施形態の変形例について、図5から図12を用いて説明する。
なお、図5から図12において、図1から図4と同様の構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0047】
図5に示すように、シールフィン15Dは、内周壁面17aがフィン本体部16に断面視円弧状に滑らかに接続されている。換言すれば、内周壁面17aとフィン本体部16との間をフィレットR加工している。
この変形例によれば、内周壁面17aがフィン本体部16に対して断面視円弧状に接続されているので、内周壁面17aからフィン本体部16に沿って断面視円弧状に剥離渦Y2が流れる。これにより、内周壁面17aに沿って流れる剥離渦Y2をスムーズにフィン本体部16に沿わせることができ、剥離渦Y2のガイド効果を強めることができる。これにより、剥離渦Y2の流れをさらに強めて縮流効果を高めることができると共に安定的に維持することができる。
【0048】
図6に示すように、シールフィン15Eは、断面視円弧状に窪んだ内周壁面17bを有している。
この変形例によれば、内周壁面17bが断面視円弧状に窪んでいるので、内周壁面17bに沿って断面視円弧状に剥離渦Y2が流れる。これにより、剥離渦Y2の流れ方向をスムーズに転向することができ、剥離渦Y2のガイド効果を強めることができる。従って、剥離渦Y2の流れをさらに強めて縮流効果を高めることができると共に安定的に維持することができる。
【0049】
図7に示すように、シールフィン15Fは、軸方向上流側に向けて斜めに延在するフィン本体部16Aを有している。
この変形例によれば、フィン本体部16Aが軸方向上流側に向けて斜めに延在しているので、微小隙間Hの軸方向上流側において漏れ流れに向かうようにダウンフローが流れるため、フィン先端での流速の軸方向速度成分VXが小さくなる。すなわち、フィン先端での流速の径方向速度成分VRとするとVX/VRが0に近づくほど剥離渦Y2の縮流効果が大きくなるので、縮流効果を高めることが可能となる。
なお、少なくともフィン本体部16Aの先端側の一部が斜めに延在していれば縮流効果を高めることが可能である。
【0050】
図8に示すように、シールフィン15Hは、軸方向上流側から下流側に進むに従って漸次径方向内方側に向かうように傾斜する内周壁面17dを有している。
この変形例によれば、端縁部55で主渦Y1から剥離して小キャビティ18に流入した蒸気Sを、内周壁面17dに沿わしてスムーズに軸方向下流側まで導くことにより、強い剥離渦Y2を発生させることができる。
なお、内周壁面17dを内周壁面17bのように断面視円弧状に形成して、傾斜させる構成にしてもよい。
【0051】
図9に示すように、シールフィン15Iは、空間制限部17の軸方向上流側の角部17eを円弧状に形成している。
この変形例によれば、端縁部55で主渦Y1から剥離して小キャビティ18に蒸気Sを流入させた後に、主渦Y1が角部17eで剥離することを防止するために、主渦Y1を弱めず、結果的に剥離渦Y2を強めることができる。
【0052】
図10に示すように、シールフィン15Jは、空間制限部17の軸方向上流側の端面17fを軸方向上流側から下流側に進むに従って漸次径方向内方側に向かうように形成したものである。
この変形例によれば、主渦Y1が端面17fの一部に沿って流れるので、主渦Y1を弱めず、結果的に剥離渦Y2の流れを強めることができる。
【0053】
図11に示すように、シールフィン15Kは、空間制限部17をフィン本体部16から軸方向上流側に向けて延出させてシールフィン15Kの剛性を比較的に小さくしている。
この変形例によれば、動翼50が偶発的に径方向外方側に変位したとしてもシールフィン15Kの剛性が比較的に小さくされているために、シールフィン15Kを座屈させて、動翼50及び仕切板外輪11が損傷することを抑止することができる。
【0054】
図12に示すように、シールフィン15Lは、フィン本体部16と、このフィン本体部16の軸方向上流側に間隔を空けた位置において、ステップ部52に向けて延出すると共に、ステップ部52との間に微小隙間Hよりも大きな隙間を形成するフィン状の空間制限部(径方向壁体)17Aとを備えている。
この変形例によれば、空間制限部17が、フィン本体部16の軸方向上流側に間隔を空けてステップ部52(52A〜52C)に延出するフィン状の空間制限部17Aであるので、小キャビティ18内において、剥離渦Y2と、この剥離渦Y2に径方向に隣接して主渦Y1の第一方向に流れる補渦Y3が形成される。これにより、剥離渦Y2の接触流動抵抗を軽減して剥離渦Y2の流れを強めることができ、縮流効果を高めることができる。
【0055】
(第二実施形態)
次に、本発明の第二実施形態に係る蒸気タービン2を説明する。
図13は、蒸気タービン2を示す概略構成断面図であって、図2に対応する図である。
なお、図1〜図12と同様の構成要素については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0056】
本実施形態は、上記縮流効果が効果的に得られる条件が存在するとの知見のもとにシミュレーションを行って、得られた条件に従って蒸気タービン2の各構成要素を設定している。
具体的には、図13に示すように、シールフィン15と、それに対応する各ステップ部52の軸方向上流側における端縁部55との間の軸方向距離、すなわちシールフィン15と段差面53の端縁部55との間の距離をL(L1〜L3)とすると、この距離Lが以下の式(1)を満足して形成されている。
0.7H≦L …………………(1)
【0057】
ただし、上記式(1)は、停止時に満足していても、運転時に満足していなければ意図する効果が得られなくなるため、前記式(1)は、「運転時に満たしている」ことが条件となる。
なお、本実施形態では、H1〜H3は全て同じ寸法となっているため、HはH1〜H3を代表する数値となっている。
【0058】
(シミュレーション)
ここで、図13に示した前記距離Lにおける条件と、タービン効率変化及びリーク量変化率との関係について、シミュレーションを行った結果について説明する。
【0059】
図14は、シミュレーション結果を示すグラフであり、このグラフ中の横軸は前記Lの寸法(長さ)を示し、縦軸はタービン効率変化およびリーク量変化率を示している。なお、タービン効率変化およびリーク量変化率については、一般的なステップフィン構造でのタービン効率、リーク流量に対する大小を示している。また、このグラフでは、横軸、縦軸ともに、一般的な等差目盛りになっている。
【0060】
図14に示した結果より、Lは以下の式(1)を満足する範囲とするのが好ましいことが分かった。
0.7H≦L …………………(1)
【0061】
すなわち、図14が示すように、距離Lが0.7H未満(L<0.7H)であると、小キャビティ18の幅(軸方向)が不十分であるため、端縁部(エッジ)55で剥離渦Y2が生成され難く、このためシールフィン15の軸方向上流側のダウンフローが十分でないことが分かった。したがって、ダウンフローによる漏れ流れに対する縮流効果が極めて小さいものとなる。よって、図14に示したように、リーク量変化率が高く(+側)、すなわち、漏洩流量が多くなる。よって、タービン効率変化は低く(−側)、すなわち、タービン効率は低下する。
すなわち、上記式(1)を満足すれば、小キャビティ18の幅(軸方向)が十分に確保されるため、端縁部(エッジ)55で剥離渦Y2が生成され易く、このためシールフィン15の軸方向上流側のダウンフローが十分なものとなる。したがって、ダウンフローによる漏れ流れに対する縮流効果を十分に得ることができる。よって、図14に示したように、リーク量変化率が低く(−側)、すなわち、漏洩流量が少なくなる。よって、タービン効率変化は高く(+側)、すなわち、タービン効率は増加する。
【0062】
図15は、シミュレーション結果を示すグラフであり、距離Lを0.7H以上に設定したモデルのタービン効率変化およびリーク量変化率を示している。
図15に示した結果より、小キャビティ18有りのモデルは、小キャビティ18無しのモデルに比べ、リーク量は小さく、タービン効率は高い。
【0063】
以上のシミュレーション結果より、本発明では前記L(L1〜L3)を、前記式(1)を満足する範囲にしている。
これにより、前記の各キャビティC1〜C3では、各ステップ部52A〜52Cとこれに対応するシールフィン15A〜15Cとの間の位置関係が前記式(1)を満足しているため、剥離渦Y2による縮流効果が十分に高くなり、漏洩流量が従来に比べ格段に低減化する。したがって、このようなシール構造を備えた蒸気タービン2にあっては、漏洩流量がより低減化した、高性能なものとなる。
【0064】
(第三実施形態)
次に、本発明の第三実施形態に係る蒸気タービン3を説明する。
図16は、蒸気タービン3を示す概略構成断面図であって、第一実施形態の図2に対応する図である。なお、図1〜図15と同様の構成要素については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0065】
図16に示した第三実施形態が第一実施形態と異なるところは、第一実施形態では動翼50の先端部となるチップシュラウド51にステップ部52(52A〜52C)を形成し、仕切板外輪11にシールフィン15(15A〜15C)を設けたのに対し、第三実施形態では、仕切板外輪11にステップ部52を形成し、チップシュラウド51にシールフィン15を設けた点である。
【0066】
すなわち、この第三実施形態では、図16に示すように、仕切板外輪(構造体)11に形成された環状溝11aの溝底面11bに、二つのステップ部52、すなわち段差面53Dを有するステップ部52Dと、段差面53Eを有するステップ部52Eとを形成している。一方、動翼(ブレード)50の先端部となるチップシュラウド51には、前記溝底面11bに向けて径方向外方側に延出する三つのシールフィン15(15M〜15O)が設けられている。
【0067】
これらシールフィン15(15M〜15O)のうち、軸方向上流側のシールフィン15Mは、空間制限部17が設けられずにフィン本体部16のみで構成されており、前記ステップ部52の軸方向上流側に位置する溝底面11bに対応して延出して、溝底面11bとの間に微小隙間を径方向に形成している。
また、シールフィン15N,15Oは、フィン本体部16と空間制限部17とで構成されており、それぞれ前記ステップ部52D,52Eに対応して延出している。これらシールフィン15N,15Oは、対応するステップ部52D,52Eとの間に微小隙間H(H4,H5)をそれぞれ径方向に形成している。すなわち、シールフィン15N,15Oのそれぞれにおいて、空間制限部17がフィン本体部16の軸方向上流側の空間を径方向に制限して、フィン本体部16との間に小キャビティ18を画定している。
【0068】
この微小隙間H(H4,H5)の各寸法は、第一実施形態と同様に、ケーシング10や動翼50の熱伸び量、動翼50の遠心伸び量等を考慮した上で、両者が接触することがない安全な範囲内で、最小のものに設定されている。なお、本実施形態でも、H4とH5とは同じ寸法となっている。ただし、必要に応じて、これらを適宜に変えてもよいのはもちろんである。
【0069】
このような構成のもとに、チップシュラウド51側と仕切板外輪11との間には、前記環状溝11a内において、各ステップ部52毎にこれに対応してキャビティC(C4,C5)が形成されている。
キャビティC(C4,C5)は、第一実施形態と同様に、各ステップ部52に対応したシールフィン15(15N,15O)と、これらシールフィン15に対して軸方向上流側で対向する隔壁との間に形成されている。
【0070】
軸方向最上流側に位置する、第一のキャビティC4では、前記隔壁は、軸方向上流側に位置するシールフィン15Mによって形成されている。したがって、シールフィン15Mとシールフィン15Nとの間で、さらにチップシュラウド51と仕切板外輪11との間に、第一のキャビティC4が形成されている。
同様に、シールフィン15Nとシールフィン15Oとの間で、さらにチップシュラウド51と仕切板外輪11との間に、第三のキャビティC5が形成されている。
【0071】
このようなキャビティC(C4,C5)において、前記シールフィン15と、それに対応する各ステップ部52の軸方向上流側における端縁部55との間の距離、すなわちシールフィン15と段差面53の端縁部55との間の軸方向距離をL(L4,L5)とすると、この距離Lは、前記の式(1)を満足して形成されている。
このような構成により、各キャビティC(C4,C5)と微小隙間H(H4,H5)との間には、それぞれ小キャビティ18が形成されている。
【0072】
このように形成することで、前記の各キャビティC4,C5では、各ステップ部52D,52Eとこれに対応するシールフィン15N,15Oとの間の位置関係が前記式(1)を満足しているため、剥離渦Y2による漏れ流れに対する縮流効果が十分に高くなり、漏洩流量が従来に比べ格段に低減化する。したがって、このようなシール構造を備えた蒸気タービン3にあっては、漏洩流量がより低減化した、高性能なものとなる。
【0073】
また、この蒸気タービン3では、ステップ部を二段形成し、したがってキャビティCを二つ形成しているので、各キャビティCで前述した縮流効果により漏洩流量を低減化できるため、全体としてより十分な漏洩流量の低減化を達成することができる。
【0074】
(第四実施形態)
次に、本発明の第四実施形態に係る蒸気タービン4を説明する。
図17は、第四実施形態を説明するための図であって、図1における要部Jに相当する部分を示す拡大断面図であり、第一実施形態の図2に対応する図である。なお、図1〜図16と同様の構成要素については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0075】
図17に示すように、第四実施形態が第一実施形態と異なるところは、第一実施形態では本発明に係る「ブレード」を動翼50とし、その先端部となるチップシュラウド51にステップ部52(52A〜52C)を形成するとともに、本発明に係る「構造体」を仕切板外輪11とし、ここにシールフィン15(15A〜15C)を設けたのに対し、第四実施形態では、本発明に係る「ブレード」を静翼40とし、その先端部にステップ部52を形成するとともに、本発明に係る「構造体」を軸体30として、ここにシールフィン15を設けた点である。
【0076】
この第四実施形態では、図17に示すように、静翼40の先端部において周方向に延びるハブシュラウド41に三つのステップ部52(52F〜52H)が形成されている。
これら三つのステップ部52F〜52Hは、軸体30の軸方向上流側から下流側に向かって、静翼40からの突出高さが次第に高くなるように配設されており、段差を形成する段差面53(53F〜53H)が、軸方向上流側を向いた前向きに形成されている。
【0077】
軸体30には、ハブシュラウド41に対応する部位となる前記ディスク32,32間に、環状溝33が形成されており、この環状溝33内に、ハブシュラウド41が収容されている。また、この環状溝33における溝底面33aには、ハブシュラウド41に向けて径方向外方側に延出する三つのシールフィン15(15P〜15R)が設けられており、各シールフィン15の上流側に比べて下流側が深くなるように段状に形成されている。
【0078】
これらシールフィン15(15P〜15R)は、フィン本体部16と空間制限部17とで構成されており、ステップ部52(52F〜52H)に1:1となるように溝底面33aから延出している。
これらシールフィン15(15P〜15R)のそれぞれにおいては、フィン本体部16がステップ部52との間に微小隙間H(H6〜H8)を径方向に形成しており、空間制限部17がフィン本体部16の軸方向上流側の空間を径方向に制限して、フィン本体部16との間に小キャビティ18を画定している。
【0079】
このような構成のもとに、ハブシュラウド41と軸体30との間には、各ステップ部52毎にこれに対応してキャビティC(C6〜C8)が形成されている。
キャビティC(C6〜C8)は、各ステップ部52に対応したシールフィン15と、このシールフィン15に対して軸方向上流側で対向する隔壁(環状溝33の軸方向上流側の内壁面34又は上流側に隣接するシールフィン15)との間に形成されている。
このように、各キャビティC(C6〜C8)と微小隙間H(H6〜H8)との間には、それぞれ小キャビティ18が形成されている。
【0080】
このようなキャビティC(C6〜C8)において、シールフィン15と、各ステップ部52の軸方向上流側におけるエッジ55との間の距離をL(L6〜L8)とすると、この距離Lのうち少なくとも1つは、前記の式(1)を満足して形成されている。
【0081】
このように形成することで、各キャビティC6〜C8では、各ステップ部52F〜52Hとこれに対応するシールフィン15P〜15Rとの間の位置関係が前記式(1)を満足しているため、剥離渦Y2による漏れ流れに対する縮流効果が十分に高くなり、漏洩流量が従来に比べ格段に低減化する。したがって、このようなシール構造を備えた蒸気タービン4にあっては、漏洩流量がより低減化して、高性能なものとなる。
【0082】
(第五実施形態)
次に、本発明の第五実施形態に係る蒸気タービン5を説明する。
図18は、第五実施形態を説明するための図であって、図17に対応する図である。
図18に示した第五実施形態が第四実施形態と異なるところは、第四実施形態では静翼(ブレード)40の先端部となるハブシュラウド41にステップ部52(52F〜52H)を形成し、軸体(構造体)30にシールフィン15(15P〜15R)を設けたのに対し、第五実施形態では、軸体(構造体)30にステップ部52(52I,52J)を形成し、ハブシュラウド41にシールフィン15(15S〜15U)を設けた点である。
【0083】
すなわち、この第五実施形態では、図18に示すように、軸体(構造体)30に形成された環状溝33の溝底面33aに、段差面53Iを有するステップ部52Iと、段差面53Jを有するステップ部52Jとを形成している。一方、静翼(ブレード)40のハブシュラウド41には、溝底面33aに向けて径方向内方側に延出する三つのシールフィン15(15S〜15U)が設けられている。
【0084】
これらシールフィン15(15S〜15U)のうち、軸方向上流側のシールフィン15Sは、空間制限部17が設けられずにフィン本体部16のみで構成されており、ステップ部52I,52Jの軸方向上流側に位置する溝底面33aに対応して延出して、溝底面33aとの間に微小隙間を径方向に形成している。
また、シールフィン15T,15Uは、フィン本体部16と空間制限部17とで構成されており、それぞれステップ部52I,52Jに対応して延出している。これらシールフィン15T,15Uは、対応するステップ部52I,52Jとの間に微小隙間H(H9,H10)をそれぞれ径方向に形成している。すなわち、シールフィン15T,15Uのそれぞれにおいて、空間制限部17がフィン本体部16の軸方向上流側の空間を径方向に制限して、フィン本体部16との間に小キャビティ18を画定している。
【0085】
このような構成のもとに、ハブシュラウド41側と軸体30との間には、環状溝33内において、各ステップ部52毎にこれに対応してキャビティC(C9,C10)が形成されている。
【0086】
このようなキャビティC(C9,C10)において、シールフィン15と、それに対応する各ステップ部52の軸方向上流側におけるエッジ55との間の軸方向距離をL(L9,L10)とすると、この距離Lのうち少なくとも1つは、前記の式(1)を満足して形成されている。
このような構成により、各キャビティC(C9,C10)と微小隙間H(H9,H10)との間には、それぞれ小キャビティ18が形成されている。
【0087】
このように形成することで、各キャビティC9,C10では、各ステップ部52I,52Jとこれに対応するシールフィン15T,15Uとの間の位置関係が前記式(1)を満足しているため、剥離渦Y2による漏れ流れに対する縮流効果が十分に高くなり、漏洩流量が従来に比べ格段に低減化する。したがって、このようなシール構造を備えた蒸気タービン5にあっては、漏洩流量がより低減化した、高性能なものとなる。
【0088】
なお、前述した実施形態において示した動作手順、あるいは各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であり、本発明の主旨から逸脱しない範囲において、設計要求等に基づき種々変更可能である。
例えば、上述した第一〜第三実施形態では、ケーシング10に設けられた仕切板外輪11を構造体としたが、このような仕切板外輪11を設けずに、ケーシング10自体を直接本発明の構造体として、構成してもよい。すなわち、この構造体は、動翼50を囲繞するとともに、流体が動翼間を通過するように流路を規定するものであれば、どのような部材であってもよい。
また、上述した第一〜第五実施形態では、一方側のステップ部52に対応すると共にシールフィン15が設けられた他方側(例えば、溝底面11b,33a)を段状に形成したが、これに限られることはなく、前記他方側を略同径に形成しても構わない。
【0089】
また、上述した第二〜第五実施形態において、第一実施形態の変形例として言及したシールフィン15D〜15Lを用いてもよい。
【0090】
また、前記実施形態では、ステップ部52を複数設け、これによってキャビティCも複数形成したが、これらステップ部52やこれに対応するキャビティCの数については任意であり、一つであっても、三つ、あるいは四つ以上であってもよい。
また、前記実施形態のように、シールフィン15とステップ部52とは必ずしも1:1で対応させる必要はなく、これらの数については任意に設計することができる。
また、前記実施形態では、最終段の動翼50や静翼40に本発明を適用したが、他の段の動翼50や静翼40に本発明を適用してもよい。
【0091】
また、前記実施形態では、本発明を復水式の蒸気タービンに適用したが、他の型式の蒸気タービン、例えば、二段抽気タービン、抽気タービン、混気タービン等のタービン型式に本発明を適用することもできる。
さらに、前記実施形態では、本発明を蒸気タービンに適用したが、ガスタービンにも本発明を適用することができ、さらには、回転翼のある全てのものに本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0092】
1〜5…蒸気タービン
10…ケーシング
11…仕切板外輪(構造体)
15(15A〜15L,15N〜15R,15T,15U)…シールフィン
16,16A…フィン本体部
17,17A…空間制限部
17a〜17d…内周壁面
17e…角部
17f…端面
18…小キャビティ
30…軸体(構造体)
40…静翼(ブレード)
41…ハブシュウラド(先端部)
50…動翼(ブレード)
51…チップシュラウド(先端部)
52(52A〜52J)…ステップ部
55…エッジ(端縁部)
C(C1〜C10)…キャビティ
H(H1〜H10)…微小隙間
L(L1〜L10)…距離
Y1…主渦
Y2…剥離渦
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、発電プラント、化学プラント、ガスプラント、製鉄所、船舶等に用いられるタービンに関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、蒸気タービンの一種として、ケーシングと、ケーシングの内部に回転自在に設けられた軸体(ロータ)と、ケーシングの内周部に固定配置された複数の静翼と、これら複数の静翼の下流側において軸体に放射状に設けられた複数の動翼とを備えたものがある。このような蒸気タービンのうち衝動タービンの場合は、蒸気の圧力エネルギーを静翼によって速度エネルギーに変換し、この速度エネルギーを動翼によって回転エネルギー(機械エネルギー)に変換している。また、反動タービンの場合は、動翼内でも圧力エネルギーが速度エネルギーに変換され、蒸気が噴出する反動力により回転エネルギー(機械エネルギー)に変換される。
【0003】
この種の蒸気タービンでは、動翼の先端部と、動翼を囲繞して蒸気の流路を形成するケーシングとの間に径方向の隙間が形成され、また、静翼の先端部と軸体との間にも径方向の隙間が形成されているのが通常である。しかし、動翼先端部の隙間を下流側に通過する漏洩蒸気は、動翼に対して回転力を付与しない。また、静翼先端部の隙間を下流側に通過する漏洩蒸気は、静翼によって圧力エネルギーを速度エネルギーに変換されないため、下流動翼に対して回転力をほとんど付与しない。したがって、蒸気タービンの性能向上のためには、前記隙間を通過する漏洩蒸気の量を低減することが重要となる。
【0004】
下記特許文献1には、動翼の先端部に、軸方向上流側から下流側に向かって高さが次第に高くなるステップ部が設けられ、ケーシングに、前記ステップ部に対して隙間を有するシールフィンが設けられた構造が提案されている。
このような構成により、シールフィンの隙間を通り抜けた漏れ流れがステップ部の段差面を形成する端縁部に衝突し、流動抵抗を増大させることにより、漏洩流量が低減化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−291967号公報(図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、蒸気タービンの性能向上に対する要望は強く、したがって漏洩流量をさらに低減化することが求められている。
【0007】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、漏洩流量をより低減化した高性能なタービンを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。
すなわち、本発明に係るタービンは、ブレードと、前記ブレードの先端側に隙間を介して設けられるとともに、前記ブレードに対して相対回転する構造体と、を備えたタービンであって、前記ブレードの先端部と、前記構造体の前記先端部に対応する部位とのうちの一方には、段差面を有して他方側に突出するステップ部が設けられ、前記他方には、前記ステップ部に対して延出するシールフィンが設けられ、前記ブレードの先端部側と前記構造体の前記部位との間には、前記シールフィンと該シールフィンに対して前記構造体の回転軸方向上流側で対向する隔壁との間にキャビティが形成され、前記シールフィンは、前記ステップ部との間に微小隙間を形成するフィン本体部を具備し、前記微小隙間をHとし、
前記フィン本体部と、前記ステップ部の前記回転軸方向上流側における端縁部との間の距離をLとすると、以下の式(1)を満足することを特徴とする。
0.7H≦L …………………(1)
【0009】
このようにすれば、キャビティ内に流入した流体がステップ部の端縁部を形成する段差面、すなわちステップ部の軸方向上流側に向く面に衝突し、上流側に戻るようにして第一方向に回る主渦を生じる。また、その際、特に前記段差面の端縁部(エッジ)において、前記主渦から一部の流れが剥離することにより、前記第一方向と反対方向に回る剥離渦を生じる。この剥離渦は、シールフィン先端とステップ部との間の微小隙間を通り抜ける漏れ流れを低減する、縮流効果を発揮する。そして、上記式(1)のようにすれば、剥離渦による縮流効果は、端縁部の位置(フィン本体からの距離L)と微小隙間Hの大きさとの関係によって変化するが、後述するシミュレーション結果に基づき、前記式(1)を満足させるようにこれらの関係を規定したことにより、剥離渦による縮流効果を十分に高くし、漏洩流量をより低減化することが可能になる。
【0010】
また、前記フィン本体部は、少なくとも先端側が前記回転軸方向上流側に向けて斜めに延在していることを特徴とする。
このようにすれば、フィン本体部が少なくとも先端側が回転軸方向上流側に向けて斜めに延在しているので、微小隙間の回転軸方向上流側において漏れ流れに向かうように剥離渦のダウンフローが流れるため、フィン先端での流速の回転軸方向速度成分VXが小さくなる。すなわち、フィン先端での流速の径方向速度成分をVRとするとVX/VRが0に近づくほど剥離渦の縮流効果が大きくなるので、縮流効果を高めることが可能となる。
【0011】
また、前記ステップ部は、前記回転軸方向上流側から下流側に向かって突出高さが次第に高くなるように複数設けられ、前記他方には、前記ステップ部のそれぞれに対して延出する前記シールフィンが少なくとも1つ設けられており、前記ステップ部に対応するシールフィンは、前記回転軸方向下流側に隣接するステップ部に対応するシールフィンに対して対向する前記隔壁となっていることを特徴とする。
このようにすれば、剥離渦による縮流効果が各ステップ部毎に得られ、したがってブレードとこれに対応する構造体との間の漏洩流量が十分に低減化される。
【0012】
また、前記構造体の、前記先端部に対応する部位は環状の凹部となっており、前記複数のステップ部のうちの、前記回転軸方向最上流側に位置するステップ部に対応するシールフィンに対して対向する前記隔壁は、前記凹部の、前記回転軸方向上流側の内壁面によって形成されていることを特徴とする。
このようにすれば、回転軸方向最上流側に位置するステップ部においても、前記の剥離渦による縮流効果が得られ、したがってブレードとこれに対応する構造体との間の漏洩流量が十分に低減化される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、漏洩流量をより低減化した、高性能なタービンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第一実施形態に係る蒸気タービン1を示す概略構成断面図である。
【図2】図1における要部Iを示す拡大断面図である。
【図3】第一実施形態に係るシールフィン15(15A〜15C)の要部拡大断面図である。
【図4】第一実施形態に係る蒸気タービン1の作用説明図である。
【図5】第一実施形態の変形例に係るシールフィン15Dの概略構成断面図である。
【図6】第一実施形態の変形例に係るシールフィン15Eの概略構成断面図である。
【図7】第一実施形態の変形例に係るシールフィン15Fの概略構成断面図である。
【図8】第一実施形態の変形例に係るシールフィン15Hの概略構成断面図である。
【図9】第一実施形態の変形例に係るシールフィン15Iの概略構成断面図である。
【図10】第一実施形態の変形例に係るシールフィン15Jの概略構成断面図である。
【図11】第一実施形態の変形例に係るシールフィン15Kの概略構成断面図である。
【図12】第一実施形態の変形例に係るシールフィン15Lの概略構成断面図である。
【図13】第二実施形態に係る蒸気タービン2を示す概略構成断面図である。
【図14】第二実施形態に係る蒸気タービン2のシミュレーション結果を示すグラフであり、横軸が距離Lの寸法(長さ)を示し、縦軸はタービン効率変化およびリーク量変化率を示している。
【図15】本発明の第二実施形態に係る蒸気タービン2のシミュレーション結果を示すグラフであり、距離Lを0.7H≦Lに設定したモデルのタービン効率変化およびリーク量変化率を示している。
【図16】本発明の第三実施形態に係る蒸気タービン3を示す概略構成断面図である。
【図17】本発明の第四実施形態に係る蒸気タービン4を示す概略構成断面図である。
【図18】本発明の第五実施形態に係る蒸気タービン5を示す概略構成断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳しく説明する。
(第一実施形態)
図1は、本発明の第一実施形態に係る蒸気タービン1を示す概略構成断面図である。
蒸気タービン1は、ケーシング10と、ケーシング10に流入する蒸気Sの量と圧力を調整する調整弁20と、ケーシング10の内方に回転自在に設けられ、動力を図示しない発電機等の機械に伝達する軸体30と、ケーシング10に保持された静翼40と、軸体30に設けられた動翼50と、軸体30を軸回りに回転可能に支持する軸受部60と、を主たる構成としている。
【0016】
ケーシング10は、内部空間が気密に封止されているとともに、蒸気Sの流路とされている。このケーシング10の内壁面には、軸体30が挿通されたリング状の仕切板外輪11が強固に固定されている。本実施形態では、この仕切板外輪11が本発明における「構造体」となっている。
【0017】
調整弁20は、ケーシング10の内部に複数個取り付けられており、それぞれ図示しないボイラから蒸気Sが流入する調整弁室21と、弁体22と、弁座23とを備えており、弁体22が弁座23から離れると蒸気流路が開いて、蒸気室24を介して蒸気Sがケーシング10の内部空間に流入するようになっている。
【0018】
軸体30は、軸本体31と、この軸本体31の外周から径方向に延出した複数のディスク32とを備えている。この軸体30は、回転エネルギーを、図示しない発電機等の機械に伝達するようになっている。
【0019】
静翼40は、軸体30を囲繞するように放射状に多数配置されて環状静翼群を構成しており、それぞれ前述した仕切板外輪11に保持されている。これら静翼40の径方向における内方側は、軸体30が挿通されたリング状のハブシュラウド41で連結され、その先端部が軸体30に対して径方向の隙間をあけて配設されている。
これら複数の静翼40からなる環状静翼群は、回転軸方向に間隔をあけて六つ形成されており、蒸気Sの圧力エネルギーを速度エネルギーに変換して、下流側に隣接する動翼50側に案内するようになっている。
【0020】
動翼50は、軸体30が有するディスク32の外周部に強固に取り付けられている。この動翼50は、各環状静翼群の下流側において、放射状に多数配置されて環状動翼群を構成している。本実施形態では、この動翼50が本発明における「ブレード」となっている。
【0021】
これら環状静翼群と環状動翼群とは、一組一段とされている。すなわち、蒸気タービン1は、六段に構成されている。これら動翼50の先端部は、周方向に延びたチップシュラウド51とされている。
【0022】
図2は、図1における要部Iを示す拡大断面図である。
図2に示すように、動翼(ブレード)50の先端部となるチップシュラウド51は、ケーシング10の径方向において仕切板外輪(構造体)11と間隙を介して対向して配置されている。チップシュラウド51は、段差面53(53A〜53C)を有して仕切板外輪11側に突出する、ステップ部52(52A〜52C)を形成したものである。
【0023】
本実施形態では、チップシュラウド51は三つのステップ部52(52A〜52C)を形成しており、これら三つのステップ部52A〜52Cは、軸体30の回転軸方向(以下、軸方向と記す。)上流側から下流側に向かって、動翼50からの突出高さが次第に高くなるように配設されている。すなわち、ステップ部52A〜52Cは、段差を形成する段差面53(53A〜53C)が、軸方向上流側を向いた前向きに形成されている。
【0024】
仕切板外輪11には、チップシュラウド51に対応する部位に環状溝(環状の凹部)11aが形成されており、この環状溝11a内にチップシュラウド51が収容されている。
この仕切板外輪11の環状溝11aにおける溝底面11bには、チップシュラウド51に向けて径方向内方側に延出する三つのシールフィン15(15A〜15C)が設けられており、各シールフィン15の上流側に比べて下流側が深くなるように段状に形成されている
【0025】
これらシールフィン15(15A〜15C)は、ステップ部52(52A〜52C)に1:1で対応してそれぞれ溝底面11bから延出して設けられている。
各シールフィン15A〜15Cは、ステップ部52(52A〜52C)との間に微小隙間H(H1〜H3)を径方向に形成するフィン本体部16と、微小隙間H(H1〜H3)の軸方向上流側の空間を制限する空間制限部17とをそれぞれ備えている。
【0026】
図3は、シールフィン15(15A〜15C)の要部拡大断面図である。
図3に示すように、フィン本体部16は、先鋭に形成されており、空間制限部17よりもステップ部52(52A〜52C)に近接してステップ部52(52A〜52C)との間に微小隙間H(H1〜H3)を形成している。フィン本体部16は、径方向における寸法が微小隙間H(H1〜H3)の寸法(径方向)と略同程度となっている。この微小隙間H(H1〜H3)の寸法は、ケーシング10や動翼50の熱伸び量、動翼50の遠心伸び量等を考慮した上で、両者が接触することがない安全な範囲内で、最小のものに設定されている。なお、本実施形態では、H1〜H3は全て同じ寸法となっている。ただし、必要に応じて、これらを適宜に変えてもよいのはもちろんである。
【0027】
図3に示すように、空間制限部17は、シールフィン15(15A〜15C)のフィン本体部16よりも軸方向に厚く形成されており、回転軸に沿った断面視で直線状となって軸方向に延在する内周壁面(回転軸方向壁面)17aを有している。この内周壁面17aは、フィン本体部16から軸方向上流側に向けて、微小隙間H(H1〜H3)の略二倍程度だけ延在している。
なお、これらフィン本体部16,空間制限部17及び仕切板外輪11は、それぞれ一体に形成してもよいし、別体に形成してもよい。また、フィン本体部16と空間制限部17とを別体にした場合には、フィン本体部16を空間制限部17の先端側に取り付けてもよいし、空間制限部17を溝底面11b側からフィン本体部16に沿わせてもよい。
【0028】
このように空間制限部17は、フィン本体部16の軸方向上流側の空間を径方向に制限して、フィン本体部16との間に小キャビティ18を画定している。図3に示すように、小キャビティ18は、回転軸に沿った断面において、一辺が微小隙間H(H1〜H3)の略二倍程度となった方形状に構成されている。
【0029】
このような構成のもとに、チップシュラウド51側と仕切板外輪11との間には、前記環状溝11a内において、各ステップ部52毎にこれに対応してキャビティC(C1〜C3)が形成されている。
これらキャビティC(C1〜C3)は、各ステップ部52に対応したシールフィン15と、このシールフィン15に対して軸方向上流側で対向する隔壁との間に形成されている。
【0030】
軸方向最上流側に位置する第一のキャビティC1では、前記隔壁は、前記環状溝11aの、軸方向上流側の内壁面54によって形成されている。したがって、この内壁面54と第一段目のステップ部52Aに対応するシールフィン15Aとの間で、さらにチップシュラウド51と仕切板外輪11との間に、第一のキャビティC1が形成されている。
【0031】
また、第二のキャビティC2では、前記隔壁は、軸方向上流側に位置するステップ部52Aに対応するシールフィン15Aによって形成されている。したがって、シールフィン15Aとシールフィン15Bとの間で、さらにチップシュラウド51と仕切板外輪11との間に、第二のキャビティC2が形成されている。
同様に、シールフィン15Bとシールフィン15Cとの間で、さらにチップシュラウド51と仕切板外輪11との間に、第三のキャビティC3が形成されている。
このような構成により、各キャビティC(C1〜C3)と微小隙間H(H1〜H3)との間に、それぞれ小キャビティ18が形成されている。
【0032】
図1に戻って、軸受部60は、ジャーナル軸受装置61及びスラスト軸受装置62を備えており、軸体30を回転可能に支持している。
【0033】
次に、上記の構成からなる蒸気タービン1の動作について、図1〜図4を用いて説明する。
まず、調整弁20(図1参照)を開状態とすると、図示しないボイラから蒸気Sがケーシング10の内部空間に流入する。
【0034】
ケーシング10の内部空間に流入した蒸気Sは、各段における環状静翼群と環状動翼群とを順次通過する。この際には、圧力エネルギーが静翼40によって速度エネルギーに変換され、静翼40を経た蒸気Sのうちの大部分が同一の段を構成する動翼50間に流入し、動翼50により蒸気Sの速度エネルギーが回転エネルギーに変換されて、軸体30に回転が付与される。一方、蒸気Sのうちの一部(例えば、数%)は、静翼40から流出した後、環状溝11a内に流入する、いわゆる、漏洩蒸気となる。
【0035】
ここで、図4に示すように環状溝11a内に流入した蒸気Sは、まず、第一のキャビティC1に流入し、ステップ部52Aの段差面53Aに衝突し、上流側に戻るようにして例えば図2及び図4の紙面上にて反時計回り(第一方向)に回る主渦Y1を生じる。
【0036】
その際、特にステップ部52Aの前記端縁部(エッジ)55において、前記主渦Y1から一部の流れが剥離することにより、この主渦Y1と反対方向、本例では図2及び図4の紙面上にて時計回りになるように、小キャビティ18において剥離渦Y2を生じる。
【0037】
より詳細には、図4に示すように、端縁部55において、主渦Y1から一部の流れが剥離して小キャビティ18に蒸気Sが流入すると、流入した蒸気Sは、内周壁面17aに到達した後に内周壁面17aに沿って軸方向下流側に流れる。そして、フィン本体部16により流れ方向をステップ部52A(52)側に転向させられた後、フィン本体部16に沿って径方向内方側に流れる。そして、径方向内方側をステップ部52Aに沿って軸方向上流側に向けて流れ、主渦Y1及び小キャビティ18に流入する蒸気Sによって径方向外方側に流れ、再び内周壁面17aに沿って軸方向下流側に流れる。
【0038】
このように、小キャビティ18において、主渦Y1とは反対周りに剥離渦Y2を生じる。
この際、内周壁面17a(図3参照)によって径方向外方側の空間が制限されているために、径方向外方へと蒸気Sの流れが散逸し難くなると共に、内周壁面17aに沿って軸方向下流側への流れがガイドされるために、剥離渦Y2の流れが比較的に強くなる。
【0039】
このような剥離渦Y2は、シールフィン15Aとステップ部52Aとの間の微小隙間H1を通り抜ける漏れ流れを低減する、縮流効果を発揮する。
すなわち、図4に示すように、剥離渦Y2が形成されると、この剥離渦Y2には、シールフィン15Aの軸方向上流側において、速度ベクトルを径方向内方側に向けるダウンフローを生じる。このダウンフローは、前記微小隙間H1の直前で径方向内方側に向う慣性力を保有しているため、前記微小隙間H1を軸方向下流側に通り抜ける漏れ流れに対し、径方向内方側に縮める効果(縮流効果)を発揮し、漏洩量を低減する。
【0040】
ここで、小キャビティ18が回転軸に沿った断面において、図2及び図3に示すように、方形状に構成されているために、剥離渦Y2が略真円を形成すると考えられる。
この剥離渦Y2の直径が前記微小隙間H1の2倍になってその外周がフィン本体部16の先端に接する場合、この剥離渦Y2のダウンフローにおける径方向内方側に向く速度成分が最大の位置が、シールフィン15Aの先端(内端縁)に略一致し、したがってこのダウンフローが前記微小隙間H1の直前をより良好に通過するため、漏れ流れに対する縮流効果が更に大きくなると考えられる。
【0041】
このような剥離渦Y2が、上述した作用と同様に、図2に示すように、微小隙間H2,H3のそれぞれの軸方向上流側における小キャビティ18に生じることとなる。これら各剥離渦Y2は、それぞれ微小隙間H2,H3を通り抜ける流れに対し、縮流効果を発揮し、漏洩量を低減する。
【0042】
以上説明したように、本実施形態に係る蒸気タービン1によれば、キャビティC(C1〜C3)内に流入した蒸気Sがステップ部52(52A〜52C)の端縁部55を形成する段差面53(53A〜53C)に衝突し、上流側に戻るようにして第一方向に回る主渦Y1を生じる。また、その際、特に前記段差面53(53A〜53C)の端縁部55において、主渦Y1から一部の流れが剥離することにより、第一方向と反対方向に回る剥離渦Y2を生じる。この剥離渦Y2は、フィン本体部16とステップ部52(52A〜52C)との間の微小隙間H(H1〜H3)を通り抜ける漏れ流れを低減する、縮流効果を発揮する。そして、空間制限部17により、キャビティC(C1〜C3)と微小隙間H(H1〜H3)との間に小キャビティ18を形成するので、空間が狭められた小キャビティ18内で剥離渦Y2の流れが強められ、剥離渦Y2による縮流効果を十分に高くし、漏洩流量をより低減化することが可能になる。
【0043】
また、回転軸方向上流側に延びる内周壁面17aを有するので、内周壁面17aとフィン本体部16とに沿って剥離渦Y2がガイドされる。これにより、剥離渦Y2の流れを強めることができ、縮流効果を高めることができると共に安定的に維持することができる。
【0044】
また、剥離渦Y2による縮流効果が各ステップ部52(52A〜52C)毎に得られ、したがって動翼50とこれに対応する仕切板外輪11との間の漏洩流量が十分に低減化される。
【0045】
また、軸方向最上流側に位置するステップ部52Aにおいても、剥離渦Y2による縮流効果が得られ、したがって動翼50とこれに対応する仕切板外輪11との間の漏洩流量が十分に低減化される。
【0046】
次に、上述した第一実施形態の変形例について、図5から図12を用いて説明する。
なお、図5から図12において、図1から図4と同様の構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0047】
図5に示すように、シールフィン15Dは、内周壁面17aがフィン本体部16に断面視円弧状に滑らかに接続されている。換言すれば、内周壁面17aとフィン本体部16との間をフィレットR加工している。
この変形例によれば、内周壁面17aがフィン本体部16に対して断面視円弧状に接続されているので、内周壁面17aからフィン本体部16に沿って断面視円弧状に剥離渦Y2が流れる。これにより、内周壁面17aに沿って流れる剥離渦Y2をスムーズにフィン本体部16に沿わせることができ、剥離渦Y2のガイド効果を強めることができる。これにより、剥離渦Y2の流れをさらに強めて縮流効果を高めることができると共に安定的に維持することができる。
【0048】
図6に示すように、シールフィン15Eは、断面視円弧状に窪んだ内周壁面17bを有している。
この変形例によれば、内周壁面17bが断面視円弧状に窪んでいるので、内周壁面17bに沿って断面視円弧状に剥離渦Y2が流れる。これにより、剥離渦Y2の流れ方向をスムーズに転向することができ、剥離渦Y2のガイド効果を強めることができる。従って、剥離渦Y2の流れをさらに強めて縮流効果を高めることができると共に安定的に維持することができる。
【0049】
図7に示すように、シールフィン15Fは、軸方向上流側に向けて斜めに延在するフィン本体部16Aを有している。
この変形例によれば、フィン本体部16Aが軸方向上流側に向けて斜めに延在しているので、微小隙間Hの軸方向上流側において漏れ流れに向かうようにダウンフローが流れるため、フィン先端での流速の軸方向速度成分VXが小さくなる。すなわち、フィン先端での流速の径方向速度成分VRとするとVX/VRが0に近づくほど剥離渦Y2の縮流効果が大きくなるので、縮流効果を高めることが可能となる。
なお、少なくともフィン本体部16Aの先端側の一部が斜めに延在していれば縮流効果を高めることが可能である。
【0050】
図8に示すように、シールフィン15Hは、軸方向上流側から下流側に進むに従って漸次径方向内方側に向かうように傾斜する内周壁面17dを有している。
この変形例によれば、端縁部55で主渦Y1から剥離して小キャビティ18に流入した蒸気Sを、内周壁面17dに沿わしてスムーズに軸方向下流側まで導くことにより、強い剥離渦Y2を発生させることができる。
なお、内周壁面17dを内周壁面17bのように断面視円弧状に形成して、傾斜させる構成にしてもよい。
【0051】
図9に示すように、シールフィン15Iは、空間制限部17の軸方向上流側の角部17eを円弧状に形成している。
この変形例によれば、端縁部55で主渦Y1から剥離して小キャビティ18に蒸気Sを流入させた後に、主渦Y1が角部17eで剥離することを防止するために、主渦Y1を弱めず、結果的に剥離渦Y2を強めることができる。
【0052】
図10に示すように、シールフィン15Jは、空間制限部17の軸方向上流側の端面17fを軸方向上流側から下流側に進むに従って漸次径方向内方側に向かうように形成したものである。
この変形例によれば、主渦Y1が端面17fの一部に沿って流れるので、主渦Y1を弱めず、結果的に剥離渦Y2の流れを強めることができる。
【0053】
図11に示すように、シールフィン15Kは、空間制限部17をフィン本体部16から軸方向上流側に向けて延出させてシールフィン15Kの剛性を比較的に小さくしている。
この変形例によれば、動翼50が偶発的に径方向外方側に変位したとしてもシールフィン15Kの剛性が比較的に小さくされているために、シールフィン15Kを座屈させて、動翼50及び仕切板外輪11が損傷することを抑止することができる。
【0054】
図12に示すように、シールフィン15Lは、フィン本体部16と、このフィン本体部16の軸方向上流側に間隔を空けた位置において、ステップ部52に向けて延出すると共に、ステップ部52との間に微小隙間Hよりも大きな隙間を形成するフィン状の空間制限部(径方向壁体)17Aとを備えている。
この変形例によれば、空間制限部17が、フィン本体部16の軸方向上流側に間隔を空けてステップ部52(52A〜52C)に延出するフィン状の空間制限部17Aであるので、小キャビティ18内において、剥離渦Y2と、この剥離渦Y2に径方向に隣接して主渦Y1の第一方向に流れる補渦Y3が形成される。これにより、剥離渦Y2の接触流動抵抗を軽減して剥離渦Y2の流れを強めることができ、縮流効果を高めることができる。
【0055】
(第二実施形態)
次に、本発明の第二実施形態に係る蒸気タービン2を説明する。
図13は、蒸気タービン2を示す概略構成断面図であって、図2に対応する図である。
なお、図1〜図12と同様の構成要素については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0056】
本実施形態は、上記縮流効果が効果的に得られる条件が存在するとの知見のもとにシミュレーションを行って、得られた条件に従って蒸気タービン2の各構成要素を設定している。
具体的には、図13に示すように、シールフィン15と、それに対応する各ステップ部52の軸方向上流側における端縁部55との間の軸方向距離、すなわちシールフィン15と段差面53の端縁部55との間の距離をL(L1〜L3)とすると、この距離Lが以下の式(1)を満足して形成されている。
0.7H≦L …………………(1)
【0057】
ただし、上記式(1)は、停止時に満足していても、運転時に満足していなければ意図する効果が得られなくなるため、前記式(1)は、「運転時に満たしている」ことが条件となる。
なお、本実施形態では、H1〜H3は全て同じ寸法となっているため、HはH1〜H3を代表する数値となっている。
【0058】
(シミュレーション)
ここで、図13に示した前記距離Lにおける条件と、タービン効率変化及びリーク量変化率との関係について、シミュレーションを行った結果について説明する。
【0059】
図14は、シミュレーション結果を示すグラフであり、このグラフ中の横軸は前記Lの寸法(長さ)を示し、縦軸はタービン効率変化およびリーク量変化率を示している。なお、タービン効率変化およびリーク量変化率については、一般的なステップフィン構造でのタービン効率、リーク流量に対する大小を示している。また、このグラフでは、横軸、縦軸ともに、一般的な等差目盛りになっている。
【0060】
図14に示した結果より、Lは以下の式(1)を満足する範囲とするのが好ましいことが分かった。
0.7H≦L …………………(1)
【0061】
すなわち、図14が示すように、距離Lが0.7H未満(L<0.7H)であると、小キャビティ18の幅(軸方向)が不十分であるため、端縁部(エッジ)55で剥離渦Y2が生成され難く、このためシールフィン15の軸方向上流側のダウンフローが十分でないことが分かった。したがって、ダウンフローによる漏れ流れに対する縮流効果が極めて小さいものとなる。よって、図14に示したように、リーク量変化率が高く(+側)、すなわち、漏洩流量が多くなる。よって、タービン効率変化は低く(−側)、すなわち、タービン効率は低下する。
すなわち、上記式(1)を満足すれば、小キャビティ18の幅(軸方向)が十分に確保されるため、端縁部(エッジ)55で剥離渦Y2が生成され易く、このためシールフィン15の軸方向上流側のダウンフローが十分なものとなる。したがって、ダウンフローによる漏れ流れに対する縮流効果を十分に得ることができる。よって、図14に示したように、リーク量変化率が低く(−側)、すなわち、漏洩流量が少なくなる。よって、タービン効率変化は高く(+側)、すなわち、タービン効率は増加する。
【0062】
図15は、シミュレーション結果を示すグラフであり、距離Lを0.7H以上に設定したモデルのタービン効率変化およびリーク量変化率を示している。
図15に示した結果より、小キャビティ18有りのモデルは、小キャビティ18無しのモデルに比べ、リーク量は小さく、タービン効率は高い。
【0063】
以上のシミュレーション結果より、本発明では前記L(L1〜L3)を、前記式(1)を満足する範囲にしている。
これにより、前記の各キャビティC1〜C3では、各ステップ部52A〜52Cとこれに対応するシールフィン15A〜15Cとの間の位置関係が前記式(1)を満足しているため、剥離渦Y2による縮流効果が十分に高くなり、漏洩流量が従来に比べ格段に低減化する。したがって、このようなシール構造を備えた蒸気タービン2にあっては、漏洩流量がより低減化した、高性能なものとなる。
【0064】
(第三実施形態)
次に、本発明の第三実施形態に係る蒸気タービン3を説明する。
図16は、蒸気タービン3を示す概略構成断面図であって、第一実施形態の図2に対応する図である。なお、図1〜図15と同様の構成要素については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0065】
図16に示した第三実施形態が第一実施形態と異なるところは、第一実施形態では動翼50の先端部となるチップシュラウド51にステップ部52(52A〜52C)を形成し、仕切板外輪11にシールフィン15(15A〜15C)を設けたのに対し、第三実施形態では、仕切板外輪11にステップ部52を形成し、チップシュラウド51にシールフィン15を設けた点である。
【0066】
すなわち、この第三実施形態では、図16に示すように、仕切板外輪(構造体)11に形成された環状溝11aの溝底面11bに、二つのステップ部52、すなわち段差面53Dを有するステップ部52Dと、段差面53Eを有するステップ部52Eとを形成している。一方、動翼(ブレード)50の先端部となるチップシュラウド51には、前記溝底面11bに向けて径方向外方側に延出する三つのシールフィン15(15M〜15O)が設けられている。
【0067】
これらシールフィン15(15M〜15O)のうち、軸方向上流側のシールフィン15Mは、空間制限部17が設けられずにフィン本体部16のみで構成されており、前記ステップ部52の軸方向上流側に位置する溝底面11bに対応して延出して、溝底面11bとの間に微小隙間を径方向に形成している。
また、シールフィン15N,15Oは、フィン本体部16と空間制限部17とで構成されており、それぞれ前記ステップ部52D,52Eに対応して延出している。これらシールフィン15N,15Oは、対応するステップ部52D,52Eとの間に微小隙間H(H4,H5)をそれぞれ径方向に形成している。すなわち、シールフィン15N,15Oのそれぞれにおいて、空間制限部17がフィン本体部16の軸方向上流側の空間を径方向に制限して、フィン本体部16との間に小キャビティ18を画定している。
【0068】
この微小隙間H(H4,H5)の各寸法は、第一実施形態と同様に、ケーシング10や動翼50の熱伸び量、動翼50の遠心伸び量等を考慮した上で、両者が接触することがない安全な範囲内で、最小のものに設定されている。なお、本実施形態でも、H4とH5とは同じ寸法となっている。ただし、必要に応じて、これらを適宜に変えてもよいのはもちろんである。
【0069】
このような構成のもとに、チップシュラウド51側と仕切板外輪11との間には、前記環状溝11a内において、各ステップ部52毎にこれに対応してキャビティC(C4,C5)が形成されている。
キャビティC(C4,C5)は、第一実施形態と同様に、各ステップ部52に対応したシールフィン15(15N,15O)と、これらシールフィン15に対して軸方向上流側で対向する隔壁との間に形成されている。
【0070】
軸方向最上流側に位置する、第一のキャビティC4では、前記隔壁は、軸方向上流側に位置するシールフィン15Mによって形成されている。したがって、シールフィン15Mとシールフィン15Nとの間で、さらにチップシュラウド51と仕切板外輪11との間に、第一のキャビティC4が形成されている。
同様に、シールフィン15Nとシールフィン15Oとの間で、さらにチップシュラウド51と仕切板外輪11との間に、第三のキャビティC5が形成されている。
【0071】
このようなキャビティC(C4,C5)において、前記シールフィン15と、それに対応する各ステップ部52の軸方向上流側における端縁部55との間の距離、すなわちシールフィン15と段差面53の端縁部55との間の軸方向距離をL(L4,L5)とすると、この距離Lは、前記の式(1)を満足して形成されている。
このような構成により、各キャビティC(C4,C5)と微小隙間H(H4,H5)との間には、それぞれ小キャビティ18が形成されている。
【0072】
このように形成することで、前記の各キャビティC4,C5では、各ステップ部52D,52Eとこれに対応するシールフィン15N,15Oとの間の位置関係が前記式(1)を満足しているため、剥離渦Y2による漏れ流れに対する縮流効果が十分に高くなり、漏洩流量が従来に比べ格段に低減化する。したがって、このようなシール構造を備えた蒸気タービン3にあっては、漏洩流量がより低減化した、高性能なものとなる。
【0073】
また、この蒸気タービン3では、ステップ部を二段形成し、したがってキャビティCを二つ形成しているので、各キャビティCで前述した縮流効果により漏洩流量を低減化できるため、全体としてより十分な漏洩流量の低減化を達成することができる。
【0074】
(第四実施形態)
次に、本発明の第四実施形態に係る蒸気タービン4を説明する。
図17は、第四実施形態を説明するための図であって、図1における要部Jに相当する部分を示す拡大断面図であり、第一実施形態の図2に対応する図である。なお、図1〜図16と同様の構成要素については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0075】
図17に示すように、第四実施形態が第一実施形態と異なるところは、第一実施形態では本発明に係る「ブレード」を動翼50とし、その先端部となるチップシュラウド51にステップ部52(52A〜52C)を形成するとともに、本発明に係る「構造体」を仕切板外輪11とし、ここにシールフィン15(15A〜15C)を設けたのに対し、第四実施形態では、本発明に係る「ブレード」を静翼40とし、その先端部にステップ部52を形成するとともに、本発明に係る「構造体」を軸体30として、ここにシールフィン15を設けた点である。
【0076】
この第四実施形態では、図17に示すように、静翼40の先端部において周方向に延びるハブシュラウド41に三つのステップ部52(52F〜52H)が形成されている。
これら三つのステップ部52F〜52Hは、軸体30の軸方向上流側から下流側に向かって、静翼40からの突出高さが次第に高くなるように配設されており、段差を形成する段差面53(53F〜53H)が、軸方向上流側を向いた前向きに形成されている。
【0077】
軸体30には、ハブシュラウド41に対応する部位となる前記ディスク32,32間に、環状溝33が形成されており、この環状溝33内に、ハブシュラウド41が収容されている。また、この環状溝33における溝底面33aには、ハブシュラウド41に向けて径方向外方側に延出する三つのシールフィン15(15P〜15R)が設けられており、各シールフィン15の上流側に比べて下流側が深くなるように段状に形成されている。
【0078】
これらシールフィン15(15P〜15R)は、フィン本体部16と空間制限部17とで構成されており、ステップ部52(52F〜52H)に1:1となるように溝底面33aから延出している。
これらシールフィン15(15P〜15R)のそれぞれにおいては、フィン本体部16がステップ部52との間に微小隙間H(H6〜H8)を径方向に形成しており、空間制限部17がフィン本体部16の軸方向上流側の空間を径方向に制限して、フィン本体部16との間に小キャビティ18を画定している。
【0079】
このような構成のもとに、ハブシュラウド41と軸体30との間には、各ステップ部52毎にこれに対応してキャビティC(C6〜C8)が形成されている。
キャビティC(C6〜C8)は、各ステップ部52に対応したシールフィン15と、このシールフィン15に対して軸方向上流側で対向する隔壁(環状溝33の軸方向上流側の内壁面34又は上流側に隣接するシールフィン15)との間に形成されている。
このように、各キャビティC(C6〜C8)と微小隙間H(H6〜H8)との間には、それぞれ小キャビティ18が形成されている。
【0080】
このようなキャビティC(C6〜C8)において、シールフィン15と、各ステップ部52の軸方向上流側におけるエッジ55との間の距離をL(L6〜L8)とすると、この距離Lのうち少なくとも1つは、前記の式(1)を満足して形成されている。
【0081】
このように形成することで、各キャビティC6〜C8では、各ステップ部52F〜52Hとこれに対応するシールフィン15P〜15Rとの間の位置関係が前記式(1)を満足しているため、剥離渦Y2による漏れ流れに対する縮流効果が十分に高くなり、漏洩流量が従来に比べ格段に低減化する。したがって、このようなシール構造を備えた蒸気タービン4にあっては、漏洩流量がより低減化して、高性能なものとなる。
【0082】
(第五実施形態)
次に、本発明の第五実施形態に係る蒸気タービン5を説明する。
図18は、第五実施形態を説明するための図であって、図17に対応する図である。
図18に示した第五実施形態が第四実施形態と異なるところは、第四実施形態では静翼(ブレード)40の先端部となるハブシュラウド41にステップ部52(52F〜52H)を形成し、軸体(構造体)30にシールフィン15(15P〜15R)を設けたのに対し、第五実施形態では、軸体(構造体)30にステップ部52(52I,52J)を形成し、ハブシュラウド41にシールフィン15(15S〜15U)を設けた点である。
【0083】
すなわち、この第五実施形態では、図18に示すように、軸体(構造体)30に形成された環状溝33の溝底面33aに、段差面53Iを有するステップ部52Iと、段差面53Jを有するステップ部52Jとを形成している。一方、静翼(ブレード)40のハブシュラウド41には、溝底面33aに向けて径方向内方側に延出する三つのシールフィン15(15S〜15U)が設けられている。
【0084】
これらシールフィン15(15S〜15U)のうち、軸方向上流側のシールフィン15Sは、空間制限部17が設けられずにフィン本体部16のみで構成されており、ステップ部52I,52Jの軸方向上流側に位置する溝底面33aに対応して延出して、溝底面33aとの間に微小隙間を径方向に形成している。
また、シールフィン15T,15Uは、フィン本体部16と空間制限部17とで構成されており、それぞれステップ部52I,52Jに対応して延出している。これらシールフィン15T,15Uは、対応するステップ部52I,52Jとの間に微小隙間H(H9,H10)をそれぞれ径方向に形成している。すなわち、シールフィン15T,15Uのそれぞれにおいて、空間制限部17がフィン本体部16の軸方向上流側の空間を径方向に制限して、フィン本体部16との間に小キャビティ18を画定している。
【0085】
このような構成のもとに、ハブシュラウド41側と軸体30との間には、環状溝33内において、各ステップ部52毎にこれに対応してキャビティC(C9,C10)が形成されている。
【0086】
このようなキャビティC(C9,C10)において、シールフィン15と、それに対応する各ステップ部52の軸方向上流側におけるエッジ55との間の軸方向距離をL(L9,L10)とすると、この距離Lのうち少なくとも1つは、前記の式(1)を満足して形成されている。
このような構成により、各キャビティC(C9,C10)と微小隙間H(H9,H10)との間には、それぞれ小キャビティ18が形成されている。
【0087】
このように形成することで、各キャビティC9,C10では、各ステップ部52I,52Jとこれに対応するシールフィン15T,15Uとの間の位置関係が前記式(1)を満足しているため、剥離渦Y2による漏れ流れに対する縮流効果が十分に高くなり、漏洩流量が従来に比べ格段に低減化する。したがって、このようなシール構造を備えた蒸気タービン5にあっては、漏洩流量がより低減化した、高性能なものとなる。
【0088】
なお、前述した実施形態において示した動作手順、あるいは各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であり、本発明の主旨から逸脱しない範囲において、設計要求等に基づき種々変更可能である。
例えば、上述した第一〜第三実施形態では、ケーシング10に設けられた仕切板外輪11を構造体としたが、このような仕切板外輪11を設けずに、ケーシング10自体を直接本発明の構造体として、構成してもよい。すなわち、この構造体は、動翼50を囲繞するとともに、流体が動翼間を通過するように流路を規定するものであれば、どのような部材であってもよい。
また、上述した第一〜第五実施形態では、一方側のステップ部52に対応すると共にシールフィン15が設けられた他方側(例えば、溝底面11b,33a)を段状に形成したが、これに限られることはなく、前記他方側を略同径に形成しても構わない。
【0089】
また、上述した第二〜第五実施形態において、第一実施形態の変形例として言及したシールフィン15D〜15Lを用いてもよい。
【0090】
また、前記実施形態では、ステップ部52を複数設け、これによってキャビティCも複数形成したが、これらステップ部52やこれに対応するキャビティCの数については任意であり、一つであっても、三つ、あるいは四つ以上であってもよい。
また、前記実施形態のように、シールフィン15とステップ部52とは必ずしも1:1で対応させる必要はなく、これらの数については任意に設計することができる。
また、前記実施形態では、最終段の動翼50や静翼40に本発明を適用したが、他の段の動翼50や静翼40に本発明を適用してもよい。
【0091】
また、前記実施形態では、本発明を復水式の蒸気タービンに適用したが、他の型式の蒸気タービン、例えば、二段抽気タービン、抽気タービン、混気タービン等のタービン型式に本発明を適用することもできる。
さらに、前記実施形態では、本発明を蒸気タービンに適用したが、ガスタービンにも本発明を適用することができ、さらには、回転翼のある全てのものに本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0092】
1〜5…蒸気タービン
10…ケーシング
11…仕切板外輪(構造体)
15(15A〜15L,15N〜15R,15T,15U)…シールフィン
16,16A…フィン本体部
17,17A…空間制限部
17a〜17d…内周壁面
17e…角部
17f…端面
18…小キャビティ
30…軸体(構造体)
40…静翼(ブレード)
41…ハブシュウラド(先端部)
50…動翼(ブレード)
51…チップシュラウド(先端部)
52(52A〜52J)…ステップ部
55…エッジ(端縁部)
C(C1〜C10)…キャビティ
H(H1〜H10)…微小隙間
L(L1〜L10)…距離
Y1…主渦
Y2…剥離渦
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレードと、
前記ブレードの先端側に隙間を介して設けられるとともに、前記ブレードに対して相対回転する構造体と、を備えたタービンであって、
前記ブレードの先端部と、前記構造体の前記先端部に対応する部位とのうちの一方には、段差面を有して他方側に突出するステップ部が設けられ、前記他方には、前記ステップ部に対して延出するシールフィンが設けられ、
前記ブレードの先端部側と前記構造体の前記部位との間には、前記シールフィンと該シールフィンに対して前記構造体の回転軸方向上流側で対向する隔壁との間にキャビティが形成され、
前記シールフィンは、前記ステップ部との間に微小隙間を形成するフィン本体部を具備し、
前記微小隙間をHとし、
前記フィン本体部と、前記ステップ部の前記回転軸方向上流側における端縁部との間の距離をLとすると、以下の式(1)を満足することを特徴とするタービン。
0.7H≦L …………………(1)
【請求項2】
前記フィン本体部は、少なくとも先端側が前記回転軸方向上流側に向けて斜めに延在していることを特徴とする請求項1に記載のタービン。
【請求項3】
前記ステップ部は、前記回転軸方向上流側から下流側に向かって突出高さが次第に高くなるように複数設けられ、前記他方には、前記ステップ部のそれぞれに対して延出する前記シールフィンが少なくとも1つ設けられており、前記ステップ部に対応するシールフィンは、前記回転軸方向下流側に隣接するステップ部に対応するシールフィンに対して対向する前記隔壁となっていることを特徴とする請求項1または2に記載のタービン。
【請求項4】
前記構造体の、前記先端部に対応する部位は環状の凹部となっており、
前記複数のステップ部のうちの、前記回転軸方向最上流側に位置するステップ部に対応するシールフィンに対して対向する前記隔壁は、前記凹部の、前記回転軸方向上流側の内壁面によって形成されていることを特徴とする請求項1から3のうちいずれか一項に記載のタービン。
【請求項1】
ブレードと、
前記ブレードの先端側に隙間を介して設けられるとともに、前記ブレードに対して相対回転する構造体と、を備えたタービンであって、
前記ブレードの先端部と、前記構造体の前記先端部に対応する部位とのうちの一方には、段差面を有して他方側に突出するステップ部が設けられ、前記他方には、前記ステップ部に対して延出するシールフィンが設けられ、
前記ブレードの先端部側と前記構造体の前記部位との間には、前記シールフィンと該シールフィンに対して前記構造体の回転軸方向上流側で対向する隔壁との間にキャビティが形成され、
前記シールフィンは、前記ステップ部との間に微小隙間を形成するフィン本体部を具備し、
前記微小隙間をHとし、
前記フィン本体部と、前記ステップ部の前記回転軸方向上流側における端縁部との間の距離をLとすると、以下の式(1)を満足することを特徴とするタービン。
0.7H≦L …………………(1)
【請求項2】
前記フィン本体部は、少なくとも先端側が前記回転軸方向上流側に向けて斜めに延在していることを特徴とする請求項1に記載のタービン。
【請求項3】
前記ステップ部は、前記回転軸方向上流側から下流側に向かって突出高さが次第に高くなるように複数設けられ、前記他方には、前記ステップ部のそれぞれに対して延出する前記シールフィンが少なくとも1つ設けられており、前記ステップ部に対応するシールフィンは、前記回転軸方向下流側に隣接するステップ部に対応するシールフィンに対して対向する前記隔壁となっていることを特徴とする請求項1または2に記載のタービン。
【請求項4】
前記構造体の、前記先端部に対応する部位は環状の凹部となっており、
前記複数のステップ部のうちの、前記回転軸方向最上流側に位置するステップ部に対応するシールフィンに対して対向する前記隔壁は、前記凹部の、前記回転軸方向上流側の内壁面によって形成されていることを特徴とする請求項1から3のうちいずれか一項に記載のタービン。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2013−68227(P2013−68227A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−286244(P2012−286244)
【出願日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【分割の表示】特願2010−79006(P2010−79006)の分割
【原出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【分割の表示】特願2010−79006(P2010−79006)の分割
【原出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
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