説明

ターボチャージャのタービンハウジング

【課題】 鋼板製の半割シェル部材の嵌合により構成されたスクロール部の径方向への熱変形を抑制することができるターボチャージャのタービンハウジングを提供する。
【解決手段】 鋼板製のインナーシェル6B1に嵌合してスクロール本体部6Bを構成する鋼板製のアウターシェル6B2の外周縁部には、R状に屈曲してスクロール本体部6Bの径方向外側に突出する折曲げ部6B3が形成されているため、この折曲げ部6B3によってスクロール本体部6Bの径方向の剛性が高まり、スクロール本体部6Bの径方向への熱変形が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に装備されるターボチャージャのタービンハウジングの構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両に装備されるターボチャージャにおいて、そのタービンを収容するタービンハウジングとしては、鋼板製の半割シェル部材の周縁部同士を嵌合したシェル構造のスクロール部と、このスクロール部を覆うカバー部と、スクロール部の入口側に固定される入口フランジと、スクロール部の出口側に固定される出口フランジとを有するものが従来一般に知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
ここで、前述のターボチャージャのタービンハウジングにおいては、半割シェル部材の周縁部同士が相互にスライド可能な状態で開閉可能に嵌合しており、スクロール部内を流通する排気ガスの流量に応じて半割シェル部材の周縁部が開閉するように構成されている。
【特許文献1】特開2002−349275号公報(段落番号0032、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載された従来のターボチャージャのタービンハウジングにおいては、スクロール部を構成する半割シェル部材が鋼板製であるため、その熱膨張、熱収縮が比較的大きい。このため、スクロール部内を流通する排気ガスの熱により半割シェル部材が大きく熱膨張すると、半割シェル部材の周縁部がスクロール部の径方向外側へ大きく熱変形してその嵌合部が不用意に開いてしまう虞がある。その結果、ターボチャージャのターボ流量が不用意に変化したり、排気ガスの乱流が発生したりしてターボチャージャの性能が低下する虞がある。
【0005】
そこで、本発明は、鋼板製の半割シェル部材の嵌合により構成されたスクロール部の径方向への熱変形を抑制することができるターボチャージャのタービンハウジングを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るターボチャージャのタービンハウジングは、ターボチャージャのタービンを収容するタービンハウジングであって、鋼板製の半割シェル部材であるインナーシェルおよびアウターシェルの周縁部同士が相互に嵌合したシェル構造のスクロール部をカバー部内に有し、前記アウターシェルの周縁部には、前記スクロール部の径方向に突出する折曲げ部が形成されていることを特徴とする。
【0007】
本発明に係るターボチャージャのタービンハウジングでは、インナーシェルに嵌合してスクロール部を構成するアウターシェルの周縁部にスクロール部の径方向に突出する折曲げ部が形成されているため、この折曲げ部によってスクロール部の径方向の剛性が高まり、スクロール部の径方向への熱変形が抑制される。
【0008】
本発明に係るターボチャージャのタービンハウジングにおいて、スクロール部を構成するインナーシェルおよびアウターシェルの周縁部同士が相互にスライド可能に嵌合していると、スクロール部が熱膨張や熱収縮した場合、インナーシェルおよびアウターシェルの周縁部同士が相互にスライドするため、スクロール部に生じる熱応力が緩和される。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るターボチャージャのタービンハウジングによれば、インナーシェルに嵌合してスクロール部を構成するアウターシェルの周縁部に形成された折曲げ部がスクロール部の径方向に突出してスクロール部の径方向の剛性を高めるため、スクロール部の径方向への熱変形を抑制することができ、インナーシェルの周縁部とアウターシェルの周縁部との嵌合部が不用意に開いてしまうのを防止できる。その結果、スクロール部内を流通する排気ガス流量(ターボ流量)の不用意な変化を防止したり、スクロール部内を流通する排気ガスの乱流を防止したりしてターボチャージャの性能低下を回避することが可能となる。
【0010】
また、本発明のターボチャージャのタービンハウジングにおいて、インナーシェルおよびアウターシェルの周縁部同士が相互にスライド可能に嵌合していると、スクロール部が熱膨張や熱収縮した場合、インナーシェルおよびアウターシェルの周縁部同士が相互にスライドすることができる。その結果、スクロール部に生じる熱応力を緩和することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明に係るターボチャージャのタービンハウジングの実施の形態を説明する。参照する図面において、図1は一実施形態に係るターボチャージャのタービンハウジングの外観を示す正面図、図2は図1に示したタービンハウジングの左側面図、図3は図1に示したタービンハウジングの右側面図である。
【0012】
一実施形態に係るターボチャージャのタービンハウジングは、図示しない車両の排気系と吸気系とに跨って設置されるターボチャージャにおいて、排気ガスの流通により回転するタービン(図示省略)を収容する部分である。このタービンハウジングは、図1〜図3に示すように、タービン(図示省略)が収容された部分を覆うカバー部1と、排気ガスの流入口を構成する入口フランジ2と、排気ガスの流出口を構成する出口フランジ3と、タービン(図示省略)を回転自在に支持するベアリングハウジング(図示省略)に接続される接続フランジ4とを備えている。
【0013】
図4に示すように、カバー部1は、プレス成形された鋼板製の2つの半割シェル部材であるカバー部材1A,1Bを溶接により接合したシェル構造とされており、カバー部材1Aの外周縁部の外側にカバー部材1Bの外周縁部が嵌合されて重ね合せ接合されている。一方のカバー部材1Aの内周縁部は接続フランジ4の外周に溶接され、他方のカバー部材1Bの内周縁部は、出口フランジ3に外端部が溶接された胴筒部5の内端部の内周に嵌合されて重ね合せ接合により溶接されている。そして、図5に示すように、カバー部材1A,1Bの接合により形成される筒状の接続口1Cは、入口フランジ2に嵌合して溶接されている。
【0014】
カバー部1の内側には、タービン(図示省略)の周囲に渦巻状の排気ガス流路を形成するスクロール部6が所定の断熱空間を開けて配置されている。このスクロール部6は、入口側に排気ガスの助走流路を形成するスクロール入口部6Aと、このスクロール入口部6Aに連続して出口側との間に渦巻き状の排気ガス流路を形成するスクロール本体部6Bとの組合せ構造(嵌合構造)とされている。そして、スクロール入口部6Aの一端の接続口6A1は、カバー部1の接続口1Cに嵌合して溶接されており、スクロール入口部6Aの他端は、スクロール本体部6Bにスライド自在に嵌合されている。
【0015】
スクロール部6の外周面またはカバー部1の内周面には、両者の間に所定の空隙を開けるようにSUSメッシュからなる複数のスペーサ7が溶接されている。これらのスペーサ7は、少なくともスクロール本体部6Bの外周頂点部分の周方向に沿って配置されている。
【0016】
図4に示すように、スクロール本体部6Bは、プレス成形された鋼板製の2つの半割シェル部材であるインナーシェル6B1とアウターシェル6B2とを備えたシェル構造とされており、インナーシェル6B1の外周縁部の外側にアウターシェル6B2の外周縁部がスライド自在に嵌合されている。なお、インナーシェル6B1およびアウターシェル6B2の外周縁部は、スクロール部6の径方向と直交する方向にスライド可能となっている。インナーシェル6B1の内周縁部は、他方のカバー部材1Bの内周縁部の内側に嵌合されて重ね合せ接合により溶接され、アウターシェル6B2の内周側は接続フランジ4の内端面に溶接されている。
【0017】
ここで、図6に拡大して示すように、アウターシェル6B2の外周縁部には、スクロール本体部6Bの径方向外側にR状に屈曲して突出する折曲げ部6B3が全周に亘って連続的に形成されている。
【0018】
以上のように構成された一実施形態のターボチャージャのタービンハウジングでは、インナーシェル6B1に嵌合してスクロール部6のスクロール本体部6Bを構成するアウターシェル6B2の外周縁部の全周に亘って折曲げ部6B3が形成されており、この折曲げ部6B3がスクロール本体部6Bの径方向外側に突出することにより、スクロール本体部6Bの径方向の剛性が高められている。
【0019】
従って、一実施形態のターボチャージャのタービンハウジングによれば、排気ガスの流通によりスクロール部6が加熱されてスクロール本体部6Bが熱膨張する際においても、アウターシェル6B2およびその内側に嵌合するインナーシェル6B1の径方向への熱変形を抑制することができる。そして、インナーシェル6B1の外周縁部とアウターシェル6B2の外周縁部との嵌合部が不用意に開いてしまうのを防止できる。その結果、スクロール部6内を流通する排気ガス流量(ターボ流量)の不用意な変化を防止したり、スクロール部6内を流通する排気ガスの乱流を防止したりしてターボチャージャの性能低下を回避することが可能となる。
【0020】
また、一実施形態のターボチャージャのタービンハウジングにおいては、スクロール部6のスクロール本体部6Bを構成するインナーシェル6B1およびアウターシェル6B2の周縁部同士が相互にスライド可能に嵌合しているため、スクロール本体部6Bが熱膨張や熱収縮した場合でも、インナーシェル6B1およびアウターシェル6B2の周縁部同士は相互にスライドすることができる。その結果、スクロール本体部6Bに生じる熱応力を緩和することができる。
【0021】
本発明のターボチャージャのタービンハウジングは、一実施形態に限定されるものではない。例えば、図6に示したアウターシェル6B2の折曲げ部6B3は、図7に示すように、ヘアピン状に屈曲してスクロール本体部6Bの径方向外側に突出する折曲げ部6B4に変更することができる。
【0022】
また、図4に示したインナーシェル6B1とアウターシェル6B2は、両者を入れ替えて構成することができる。すなわち、アウターシェル6B2の折曲げ部6B3または折曲げ部6B4に替えてこれと同様の折曲げ部をインナーシェル6B1側に形成し、このインナーシェル6B1の外周縁部をアウターシェル6B2の外周縁部の外側に嵌合させることにより、インナーシェル6B1をアウターシェルとし、アウターシェル6B2をインナーシェルとして構成することができる。
【0023】
本発明に係る一実施形態のターボチャージャのタービンハウジングでは、スクロール部6を形成するスクロール入口部6Aとスクロール本体部6Bとが別体となっているが、スクロール入口部とスクロール本体部とが一体となるような構成としてもよい。この場合、スクロール部は、鋼板製の半割シェル部材であるインナーシェルおよびアウターシェルの周縁部同士が相互に嵌合したシェル構造を有する必要がある。
【0024】
更に、本発明に係る一実施形態のターボチャージャのタービンハウジングにおけるカバー部材1A,1B等の重ね合せ接合に代えて、ジョッグル接合をも用いてもよい。この接合により、接合強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態に係るターボチャージャのタービンハウジングの外観を示す正面図である。
【図2】図1に示したタービンハウジングの左側面図である。
【図3】図1に示したタービンハウジングの右側面図である。
【図4】図3のIV−IV線に沿う断面図である。
【図5】図1のV−V線に沿う断面図である。
【図6】図4に示したスクロール部を構成するインナーシェルおよびアウターシェルの周縁部の部分拡大断面図である。
【図7】図6に示したアウターシェルの周縁部に形成される折曲げ部の変形例を示す図6に対応した部分拡大断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 カバー部
1A 一方のカバー部材
1B 他方のカバー部材
2 入口フランジ
3 出口フランジ
4 接続フランジ
5 胴筒部
6 スクロール部
6A スクロール入口部
6B スクロール本体部
6B1 インナーシェル
6B2 アウターシェル
6B3 折曲げ部
6B4 折曲げ部
7 スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターボチャージャのタービンを収容するタービンハウジングであって、鋼板製の半割シェル部材であるインナーシェルおよびアウターシェルの周縁部同士が相互に嵌合したシェル構造のスクロール部をカバー部内に有し、前記アウターシェルの周縁部には、前記スクロール部の径方向に突出する折曲げ部が形成されていることを特徴とするターボチャージャのタービンハウジング。
【請求項2】
前記インナーシェルおよびアウターシェルの周縁部同士が相互にスライド可能に嵌合していることを特徴とする請求項1に記載のターボチャージャのタービンハウジング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−161579(P2006−161579A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−350441(P2004−350441)
【出願日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000100805)アイシン高丘株式会社 (202)
【Fターム(参考)】