説明

ターボ過給機の制御装置および制御方法

【課題】アクチュエータ構成部品のフリクションやリンクジオメトリの影響を受けることがあっても、実際のウェストゲート開口面積が目標ウェストゲート開口と一致する過給圧制御装置を提供する。
【解決手段】排気通路に設けたタービン(6)と、吸気通路に設けたコンプレッサ(7)と、タービン(6)をバイパスする通路を開閉するポペットタイプのウェストゲート(12)と、このウェストゲートの開閉の程度を圧力室に供給される制御圧力に応動して可変に制御し得るアクチュエータ(13)と、このアクチュエータのロッドストロークをウェストゲート(12)のストロークに拡大または縮小するリンク機構(17)と、圧力室に供給される制御圧力を調整可能な三方ソレノイド弁(20A、20B)とを備え、三方ソレノイド弁を制御するパラメータは、アクチュエータ(13)の操作力である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ターボ過給機の制御装置および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
排気通路に設けたタービンと、吸気通路に設けたコンプレッサと、前記タービンをバイパスする通路を開閉する電動弁(調節要素)とを有するターボ過給機において、前記電動弁を制御するパラメータを、排気流量の関数とするものがある(特許文献1参照)。
【特許文献1】特表2005−504210公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、目標過給圧を制御するためには、タービン仕事量をコントロールすることが必要であり、上記特許文献1の技術ではその制御パラメータとしてバイパス通路の開口面積を用いている。
【0004】
ここで、通路にバタフライ弁を設けてこのバタフライ弁開度を直接制御するのであれば、通路の開口面積を精度良く制御できるのであるが、タービンに導かれる排気の一部をバイパスする通路にバタフライ弁を用いることは耐熱性やレイアウトの制約より一般的でない。
【0005】
このため、耐熱性に優れ、レイアウトも比較的自由であるとして主流となっている過給圧制御装置は、過給圧や吸入負圧(スロットル弁下流の吸気管圧力のこと)を圧力源として三方向弁により制御圧力を作り出し(調圧し)、この制御圧力に応動するアクチュエータのストロークによりレバー機構を介してポペットタイプのウェストゲートを開くシステムである。具体的には、タービンをバイパスする通路を開閉するポペットタイプのウェストゲートと、このウェストゲートの開閉の程度を圧力室に供給される制御圧力に応動して可変に制御し得るアクチュエータと、このアクチュエータのロッドストロークを前記ウェストゲートのストロークに拡大または縮小するリンク機構と、前記圧力室に供給される制御圧力を調整可能な三方ソレノイド弁とを備えるものである。
【0006】
こうした過給圧制御装置について本発明者が実験してみたところ、目標ウェストゲート開口面積が得られるようにアクチュエータの圧力室に同じ制御圧力を与えても、構成部品のフリクションやリンクジオメトリの影響を受けてアクチュエータのストローク量が変化し、その結果、実際のウェストゲート開口面積が目標ウェストゲート開口面積より外れてしまうことが判明している。実際のウェストゲート開口面積が目標ウェストゲート開口面積より外れ、例えば実際のウェストゲート開口面積が目標ウェストゲート開口面積より大きくなったときには、実際の過給圧が目標過給圧より低下して望みの出力が得られなくなる。この逆に実際のウェストゲート開口面積が目標ウェストゲート開口面積より小さくなったときには、実際の過給圧が目標過給圧より高くなり、特に高負荷低回転速度時にノッキングが発生しやすくなる。
【0007】
そこで本発明は、上記主流の過給圧制御装置にアクチュエータ構成部品のフリクションやリンクジオメトリの影響を受けることがあっても、実際のウェストゲート開口面積が目標ウェストゲート開口と一致する過給圧制御装置及び制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、排気通路に設けたタービンと、吸気通路に設けたコンプレッサと、前記タービンをバイパスする通路を開閉するポペットタイプのウェストゲートと、このウェストゲートの開閉の程度を圧力室に供給される制御圧力に応動して可変に制御し得るアクチュエータと、このアクチュエータのロッドストロークを前記ウェストゲートのストロークに拡大または縮小するリンク機構と、前記圧力室に供給される制御圧力を調整可能な三方ソレノイド弁とを備え、前記三方ソレノイド弁を制御するパラメータは、前記アクチュエータの操作力(FWG)である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、排気通路に設けたタービンと、吸気通路に設けたコンプレッサと、前記タービンをバイパスする通路を開閉するポペットタイプのウェストゲートと、このウェストゲートの開閉の程度を圧力室に供給される制御圧力に応動して可変に制御し得るアクチュエータとこのアクチュエータのロッドストロークを前記ウェストゲートのストロークに拡大または縮小するリンク機構と、前記圧力室に供給される制御圧力を調整可能な三方ソレノイド弁とを備え、前記三方ソレノイド弁を制御するパラメータは、前記アクチュエータの操作力(FWG)であるので、アクチュエータの摩擦力を考慮することが可能となり、アクチュエータ部品の摩擦力があっても目標ウェストゲート開口面積(目標過給圧)を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0011】
図1はV型6気筒ツインターボガソリンエンジンに適用した過給圧制御方法の実施に直接使用する過給圧制御装置の概略構成を示している。本実施形態ではV型6気筒ツインターボエンジンで具体的に説明するが、これに限られるものでなく、V型エンジンや水平対抗型エンジンなどのバンクエンジンに本発明を適用可能である。また、直列エンジンのような通常のエンジンに1つのターボ過給機を有する場合にも本発明を適用できる。
【0012】
図1において、右バンク2Aと左バンク2Bとからなるエンジン2のうち、右バンク2Aには、3つのシリンダが形成され、このシリンダに開口する各吸気ポートは吸気マニホールドを介して吸気通路3と連通し、同じくシリンダに開口する各排気ポートは排気マニホールドを介して排気通路4と連通している。
【0013】
エンジン2にはバンク毎にターボ過給機5A、5Bを備えている。すなわち、排気通路4に設けられる排気タービン6と、吸気通路3に設けられる吸気コンプレッサ7とを同一の軸8により連結した右バンク側ターボ過給機5Aでは、排気エネルギーによって排気タービン6を回転駆動し、この回転駆動力で吸気コンプレッサ7を回転駆動してシリンダ内に流入する吸気の圧力を大気圧よりも高くする(過給する)。
【0014】
また、過給後の高温の空気を冷却するため吸気コンプレッサ7の下流にインタークーラ9が設けられている。
【0015】
ターボ過給機5Aでは中高速回転速度域で最大過給圧に達し、それ以上の回転速度域になると過給圧が上がり過ぎる。このため、排気通路4から排気タービン6をバイパスする通路11が分岐され、この分岐部にウェストゲートアクチュエータ13によって駆動されるポペットタイプのウェストゲート12が設けられている。
【0016】
ウェストゲートアクチュエータ13は、ダイヤフラム14により区画される圧力室15と、ダイヤフラム14に固定されるロッド16と、このロッド16とウェストゲート12とを連結するリンク機構17と、ダイヤフラム14をウェストゲート12の閉方向(図で右方向)に付勢するスプリング18と、圧力室15に制御圧力を導く通路19と、この制御圧力通路19、吸気コンプレッサ7上流の吸気通路3から分岐する通路21及び吸気コンプレッサ7下流の吸気通路3から分岐する通路22の3つの通路に連結される三方ソレノイド弁20Aとからなっている。
【0017】
三方ソレノイド弁20Aはデューティ制御可能な電磁弁である。ここで、デューティは一定周期に対する開弁割合をいい、デューティが0%(開弁割合が0%)のとき、三方ソレノイド弁20Aは制御圧力通路19と吸気コンプレッサ上流からの分岐通路21とを連通し、制御圧力通路19と吸気コンプレッサ下流の吸気通路からの分岐通路22との連通を遮断する。このとき、圧力室15に大気圧が導かれるが、スプリング18の収納されている室も大気に開放されているので、ダイヤフラム14は圧力室15への大気圧の導入によって変化しない。そして、スプリング18の付勢力によりウェストゲート12は全閉位置にある、つまりウェストゲート開口面積はゼロである。
【0018】
一方、デューティが100%(開弁割合が100%)のとき、三方ソレノイド弁20Aは制御圧力通路19と吸気コンプレッサ下流からの分岐通路22を連通し、制御圧力通路19と吸気コンプレッサ上流からの分岐通路21との連通を遮断する。このとき、圧力室15に、大気圧よりも高い過給圧が導かると、この過給圧によりスプリング18に抗してダイヤフラム14がロッド16を図1で左方向に移動させ、このロッド16の動きがリンク機構17を介してウェストゲート12に伝わり、ウェストゲート12が最大位置まで開かれる、つまりウェストゲート開口面積が最大となる。この場合、ロッド16の変位量はリンク機構17のレバー比だけ拡大または縮小されてウェストゲート12に伝えられる。
【0019】
三方ソレノイド弁20Aに与えるデューティを0%から100%に向けて大きくするほどウェストゲート開口面積が大きくなるのであり、三方ソレノイド弁20Aに与えるデューティによってウェストゲート開口面積の制御が可能となる。
【0020】
左バンク2Bに対しても、右バンク2Aに対してと同様に、吸気通路、排気通路、ターボ過給機5B、ウェストゲートアクチュエータ、三方ソレノイド弁20Bが構成されており、三方ソレノイド弁20Bに与えるデューティによって、左バンク2B側のウェストゲート開口面積の制御が可能である。なお、左バンク2Bについては、吸気通路、排気通路、ウェストゲートアクチュエータについては図示していない。
【0021】
右バンク2A側の三方ソレノイド弁20A、左バンク2B側の三方ソレノイド弁20Bに与える各デューティを制御するのはエンジンコントローラ31である。アクセルセンサ32からのアクセル開度APOの信号、エンジン回転速度センサ33からのエンジン回転速度NEの信号、過給圧センサ34からの右バンク側実過給圧PBrの信号、過給圧センサ35からの左バンク側実過給圧PBlの信号、大気圧センサ36からの大気圧PPAMBの信号が入力されるエンジンコントローラ31では、アクセル開度APOとエンジン回転速度NEから定まる運転条件に応じた目標過給圧が得られるように三方ソレノイド弁20A、20Bに与えるデューティ制御信号を作り、これら各デューティ制御信号を三方ソレノイド弁20A、20Bに出力する。
【0022】
また、燃料噴射弁41を各気筒の吸気ポート毎に、点火プラグ(図示しない)を各気筒の燃焼室に臨んで設けており、エンジンコントローラ31では燃料噴射弁41を介して燃料噴射制御を行い、点火プラグを介して点火時期制御を行う。燃料噴射制御では、例えば、エアフローメータ37により検出される吸入空気量QA[kg/h]と、エンジン回転速度NE[rpm]から次式により基本噴射パルス幅TP0[ms]を算出する。
【0023】
TP0=K×QA/NE …(1)
この基本噴射パルス幅TP0の燃料でシリンダ内に理論空燃比の混合気が得られるように定数Kを設定している。さらに、この基本噴射パルス幅TP0と加重平均係数FLOAD[−]とを用いて次式によりシリンダ流入基本パルス幅TP[ms]を算出する。
【0024】
TP=TP0×FLOAD+TP(10ms前)×(1−FLOAD)
…(2)
ただし、TP(10ms前):TPの10ms前の値、
ここで、(2)式のシリンダ流入基本パルス幅TPの10ms前の値であるTP(10ms前)の初期値には基本噴射パルス幅TP0を入れるている。
【0025】
(2)式は、基本パルス幅TP0の加重平均値をシリンダ流入基本パルス幅TPとする式である。これは、エアフローメータ位置(吸気通路の上流)の空気はエアフローメータ位置からシリンダ入口までの吸気管ボリューム分の応答遅れをもってシリンダに流入するので、この吸気管ボリューム分の応答遅れを一次遅れで近似するものである。
【0026】
そして、シリンダ流入基本パルス幅TPを用いて次式により燃料噴射パルス幅Ti[ms]を算出し、所定の燃料噴射時期になると、これを燃料噴射信号に換えて各気筒の燃料噴射弁41に出力する。
【0027】
Ti=(TP+KATHOS)×TFBYA×(α+αm−1)×2+TS
…(3)
ただし、KATHOS:壁流補正量、
TFBYA :目標当量比、
α :空燃比フィードバック補正係数、
αm :空燃比学習値、
TS :無効パルス幅、
さて、排気通路に設けたタービンと、吸気通路に設けたコンプレッサと、前記タービンをバイパスする通路を開閉する電動弁(調節要素)とを有するターボ過給機において、前記電動弁を制御するパラメータを、排気流量の関数とした公知の技術がある。この技術を本実施形態の過給圧制御装置に適用したとき、排気通路4に設けたタービン6と、吸気通路3に設けたコンプレッサ7と、タービン6をバイパスする通路11を開閉するウェストゲート12と、このウェストゲート12の開閉の程度を可変に制御し得るウェストゲートアクチュエータ13とを有するターボ過給機5Aにおいて、ウェストゲートアクチュエータ13を制御するパラメータを、排気流量の関数とすることとなる。
【0028】
しかしながら、公知の技術を本実施形態の過給圧制御装置にそのまま適用した技術のように排気流量を用いるのでは、排気流量を算出するために、排気温度や排気圧力の検出または推定が必要となる。ガソリンエンジン車で900℃にも及ぶ排気温度を応答良く検出し得る熱電対は実用化できていない。排気圧力センサについても耐熱性の問題があり、制御上必要なタービン入口圧を検出できない。また、排気温度や排気圧力を推定することは可能であるが、ターボ過給機自体の仕事量や排気マニホールドの壁温により排気はエントロピー変化するため、排気温度と排気圧力を一義的に精度良く推定することは難しい。
【0029】
そこで、こうした公知の技術を本実施形態の過給圧制御装置にそのまま適用した技術について、本発明に先行する発明の発明者が排気流量を制御パラメータにして実験を行い、排気圧力、排気温度の影響を調べた結果を図2、図3に示す。このうち、図2には、横軸を吸入空気流量QA[kg/h]、縦軸左側をウェストゲートデューティ(三方ソレノイド弁(20A、20B)に与えるデューティ)[%]、縦軸右側をタービン前排気温度[℃]として、アクセル開度やエンジン回転速度を様々に相違させたときの定常データがプロットされている。ただし、インタークーラ9の冷却目標温度を設定すると共に、過給圧のフィードバック制御を行っている。図2より、吸入空気温度の影響は過給圧のフィードバック制御で吸収されている。また、吸入空気温度が低いとウェストゲートデューティが大きくなってウェストゲートを閉方向に駆動し、目標過給圧を得ている。
【0030】
図3には、横軸を吸入空気流量QA[kg/h]、縦軸を過給圧[kPa]として、エンジン回転速度が一定の条件でアクセル開度を様々に変化させたときの過渡的なデータがプロットされている。図3より、排気抵抗が小さいと同一のウェストゲートデューティで過給圧が高くなるが、その影響は小さい。
【0031】
これら図2、図3より、過給圧への排気温度や排気圧力の影響(感度)はなく(ウェストゲートデューティで数%)、過給圧のフィードバック制御により、排気温度や排気圧力の過給圧への影響を吸収可能なレベルであることが分かった。
【0032】
一方、図4には、横軸を吸入空気量、縦軸を過給圧[kPa]として、5つのアクセル開度と3つのエンジン回転速度の組合せで再び実験を行ったときの定常データがプロットされている。図4より、各ウェストゲートデューティの特性は、エンジン回転速度によらず、吸入空気量で概ね決まる過給圧となっている。つまり、定常状態では、目標過給圧と、エアフローメータ37により検出される吸入空気量QAと、ウェストゲートアクチュエータを制御するパラメータであるウェストゲートデューティ(=ウェストゲート開口面積)との間には強い相関がある。
【0033】
そこで本発明に先行する発明では、図2〜図4の実験結果に基づき、ウェストゲートアクチュエータ13を制御するパラメータを、排気流量に代えて、吸入空気量の関数で設定している。ここで、吸入空気量として、後述するタービン流入空気量MATB00を用いる。吸入空気量の関数として、目標ウェストゲート通過ガス量(FFMAWG)を算出する。また、ウェストゲートアクチュエータ13を制御するパラメータは、後述する目標ウェストゲート開口面積TGAWGである。
【0034】
一方、目標過給圧を制御するためには、タービン仕事量をコントロールすることが必要であり、上記公知の技術ではその制御パラメータとしてバイパス通路の開口面積を用いている。
【0035】
ここで、通路にバタフライ弁を設けてこのバタフライ弁開度を直接制御するのであれば、通路の開口面積を精度良く制御できるのであるが、タービンに導かれる排気の一部をバイパスする通路にバタフライ弁を用いることは耐熱性やレイアウトの制約より一般的でない。
【0036】
このため、耐熱性に優れ、レイアウトも比較的自由であるとして主流となっている過給圧制御装置は、図1に示してあるように、タービン6をバイパスする通路を開閉するポペットタイプのウェストゲート12と、ウェストゲートアクチュエータ13(ウェストゲートの開閉の程度を圧力室に供給される制御圧力に応動して可変に制御し得るアクチュエータ)と、このウェストゲートアクチュエータ13のロッドストロークをウェストゲート12のストロークに拡大または縮小するリンク機構17と、圧力室15に供給される制御圧力を調整可能な三方ソレノイド弁(20A、20B)とを備えるものである。
【0037】
こうした過給圧制御装置について本発明者が実験してみたところ、目標ウェストゲート開口面積が得られるようにウェストアクチュエータの圧力室15に同じ制御圧力を与えても、ウェストゲートアクチュエータ構成部品のフリクションやリンクジオメトリの影響を受けてウェストアクチュエータ13のストローク量が変化し、その結果、実際のウェストゲート開口面積が目標ウェストゲート開口面積より外れてしまうことが判明している。実際のウェストゲート開口面積が目標ウェストゲート開口面積より外れ、例えば実際のウェストゲート開口面積が目標ウェストゲート開口面積より大きくなったときには、実際の過給圧が目標過給圧より低下して望みの出力が得られなくなる。この逆に実際のウェストゲート開口面積が目標ウェストゲート開口面積より小さくなったときには、実際の過給圧が目標過給圧より高くなり、特に高負荷低回転速度時にノッキングが発生しやすくなる。
【0038】
そこで本発明は、三方ソレノイド弁(20A、20B)を制御するパラメータをウェストゲートアクチュエータ13の操作力(FWG)とする。具体的にはウェストゲートアクチュエータの操作力(FWG)を、ウェストゲートアクチュエータの操作力基本値(FWG0)にウェストゲートアクチュエータの摩擦力による補正を行うことによって算出する。
【0039】
エンジンコントローラ31で実行されるこの制御を図5、図6のフローチャートに基づいて詳述する。
【0040】
まず図5は目標ウェストゲート開口面積TGWG(ウェストゲートアクチュエータ13を制御するパラメータ)を算出するためのもので、一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。
【0041】
ステップ1では、アクセルセンサ32により検出されるアクセル開度APO[deg]と、回転速度センサ33により検出されるエンジン回転速度NE[rpm]とから、所定の目標過給圧マップMPCHS#[kPa]を検索することにより、目標過給圧PCHS[kPa]を算出する。運転条件(APO、NE)に応じた目標過給圧はエンジン仕様により定まるので、机上により適合してマップMPCHS#にしておけばよい。
【0042】
ステップ2では、シリンダ流入基本パルス幅TP[ms]に定数K#を掛けることにより、シリンダに流入する空気流量MA0を算出し、さらに気筒数NCYL#を掛けることにより、タービン6に流入する空気量MATB00[kg/s]を算出、つまり次式によりタービン6に流入する空気量MATB00を算出する。
【0043】
MATB00=TP×K#×NCYL# …(4)
このタービン6に流入する空気量MATB00は、左右のバンク間を区別しない値である。
【0044】
ここで、気筒別に設けている燃料噴射弁41をシリンダ流入基本パルス幅TPの期間、開いたとき、その燃料噴射弁41からの燃料が流入するシリンダ内に理論空燃比の混合気が得られるようにしているので、シリンダ流入基本パルス幅TPに定数K1を掛けることで、理論空燃比の混合気が得られるときに1つのシリンダに流入する空気量[kg]が求まり、これにそのときの回転速度NE×60[回/s]を掛けることで、タービン6に流入する空気流量[kg/s]に変換することができる。従って、タービン流入空気流量=TP×K1×Ne×60となるので、K1×NE×60を改めて定数K#とおけば、シリンダ流入基本パルス幅TPに定数K#を掛けることによってタービン流入空気流量を求めることができる。
【0045】
(1)式の気筒数NCYL#としては、本実施形態ではV型6気筒ツインターボエンジンの場合であるので、気筒数NCYL#=3を設定する。シリンダ流入基本パルス幅TPは燃料噴射制御のほうで算出しているので、その値を用いる。
【0046】
ステップ3では、アクセル開度APO[deg]とエンジン回転速度NE[rpm]とから所定の第1加重平均係数マップMTAUCT1#、第2加重平均係数マップMTAUCT2#をそれぞれ検索することにより、第1加重平均係数TAUCT1[−]、第2加重平均係数TAUCT2[−]を算出する。ここで、第1加重平均係数TAUCT1は右バンク側ターボ過給機5Aの過給圧応答における時定数と逆数の関係にあり、この第1加重平均係数MTAUCT1は、右バンク側ターボ過給機5Aの過給圧応答における無駄時間(第1無駄時間)DTTB1#と合わせて、あらかじめ測定した右バンク側ターボ過給機5Aの過給圧応答に合わせて設定しておく。同様にして、第2加重平均係数MTAUCT2は、左バンク側ターボ過給機5Bの過給圧応答における時定数と逆数の関係にあり、この第2加重平均係数MTAUCT2は、左バンク側ターボ過給機5Bの過給圧応答における無駄時間(第2無駄時間)DTTB2#と合わせて、あらかじめ測定した左バンク側ターボ過給機5Bの過給圧応答に合わせて設定しておく。
【0047】
ステップ4では、タービン流入空気量MATB00[kg/s]の第1無駄時間DTTB1#[ms]前の値を、右バンク側無駄時間前タービン流入空気量MATB0r[kg/s]とし、この右バンク側無駄時間前タービン流入空気量MATBOr[kg/s]と第1加重平均係数TAUCT1[−]とを用いて次の式により右バンク側過給圧応答相当タービン流入空気量MATBr[kg/s]を算出する。
【0048】
MATBr=MATB0r×TAUCT1
+MATBr(10ms前)×(1−TAUCT1)
…(5a)
ただし、MATBr(10ms前):MATBrの10ms前の値、
ここで、(5a)式の右バンク側過給圧応答相当タービン流入空気量MATBrの10ms前の値である「MATBr(10ms前)」の初期値には右バンク側無駄時間前タービン流入空気量MATB0rを入れる。
【0049】
同様にして、ステップ5では、タービン流入空気量MATB00[kg/s]の第2無駄時間DTTB2#[ms]前の値を、左バンク側無駄時間前タービン流入空気量MATB0l[kg/s]とし、この左バンク側無駄時間前タービン流入空気量MATBOl[kg/s]と第2加重平均係数TAUCT2[−]とを用いて次の式により左バンク側過給圧応答相当タービン流入空気量MATBl[kg/s]を算出する。
【0050】
MATBl=MATB0l×TAUCT2
+MATBl(10ms前)×(1−TAUCT2)
…(5b)
ただし、MATBl(10ms前):MATBlの10ms前の値、
ここで、(5b)式の左バンク側過給圧応答相当タービン流入空気量MATBlの10ms前の値である「MATBl(10ms前)」の初期値には左バンク側無駄時間前タービン流入空気量MATB0lを入れる。
【0051】
ステップ6では、このようにして求めた右バンク側過給圧応答相当タービン流入空気量MATBr[kg/s]と左バンク側過給圧応答相当タービン流入空気量MATBl[kg/s]とを2つのバンクの間で平均して平均過給圧応答相当タービン流入空気量MATBAVE[kg/s]を算出する。
【0052】
ステップ7では、この平均過給圧応答相当タービン流入空気量MATBAVEと上記の目標過給圧PCHS[kPa]とから、所定の目標ウェストゲート通過ガス量フィードフォワード量マップMFFMAWG#を検索することにより、目標ウェストゲート通過ガス量のフィードフォワード量FFMAWG[kg/s]を算出する。
【0053】
この目標ウェストゲート通過ガス量のフィードフォワード量FFMAWGは、簡単には目標過給圧PCHSを得るためにはウェストゲート12を通過しないといけないガス量のことであり、ウェストゲート12を通過するガス量が大きくなるほど過給圧は低下する。従って、目標ウェストゲート通過ガス量のフィードフォワード量FFMAWGの値は、平均過給圧応答相当タービン流入空気量MATBAVEが一定のとき目標過給圧PCHSが大きくなるほど小さくなり、また目標過給圧PCHSが一定のとき平均過給圧応答相当タービン流入空気量MATBAVEが大きくなるほど大きくなる値である。
【0054】
本実施形態では、右バンク側過給圧応答相当タービン流入空気量MATBrと左バンク側過給圧応答相当タービン流入空気量MATBlを2つのバンク2A、2B間で平均し、この平均値に基づいて1個のターボ過給機相当の目標ウェストゲート通過ガス量のフィードフォワード量を算出しているが、2個のターボ過給機5A、5Bの合計分のガス量を算出し、後述するウェストゲート開口面積算出ステップでこの合計分のガス量の半分を、一個のターボ過給機相当の目標ウェストゲート通過ガス量のフィードフォワード量として求めてもよい。
【0055】
ステップ8では、バンク2A、2B毎に設けてある過給圧センサ34、35により検出される右バンク側実過給圧PBr[kPa]、左バンク側実過給圧PBl[kPa]を平均して平均実過給圧PBAVE[kPa]を算出し、この平均実過給圧PBAVEと上記の目標過給圧PCHS[kPa]とを用いて次の式により偏差TPBERR[kPa]を算出し、ステップ9でこの偏差TPBERRから、PIコントローラを用いて目標ウェストゲート通過ガス量のフィードバック量FBMAWG[kg/s]を算出する。
【0056】
TPBERR=PBAVE−PCHS …(6)
ステップ10では、このフィードバック量FBMAWGと上記のフィードフォワード量FFMAWGとを加算した値を目標ウェストゲート通過ガス量MAWG[kg/s]として、つまり次式により目標ウェストゲート通過ガス量MAWGを算出する。
【0057】
MAWG=FFMAWG+FBMAWG …(7)
例えば、平均実過給圧PBAVEが目標過給圧PCHSよりも高いときには、過給圧が低くなるようにウェストゲート通過ガス量を増やす必要があり、この逆に平均実過給圧PBAVEが目標過給圧PCHSよりも低いときには、過給圧が高くなるようにウェストゲート通過ガス量を減らす必要がある。すなわち、平均実過給圧PBAVEが目標過給圧PCHSよりも高いときには上記(6)式より偏差TPBERRが正の値となり、フィードバック量FBMAWGが正の値となり、上記(7)式より目標ウェストゲート通過ガス量が増量側に補正され、これにより実際の過給圧が目標過給圧へと戻される。この逆に、平均実過給圧PBAVEが目標過給圧PCHSよりも低いときには上記(6)式より偏差TPBERRが負の値となり、フィードバック量FBMAWGが負の値となり、上記(7)式より目標ウェストゲート通過ガス量が減量側に補正され、これにより実際の過給圧が目標過給圧へと戻される。
【0058】
ステップ11では、目標過給圧PCHS[kPa]と上記の平均過給圧応答相当タービン流入空気量MATBAVE[kg/s]とから、所定のウェストゲート通過ガス密度流速マップMMITDORYU#を検索することにより、ウェストゲート通過ガス密度流速MITDORYU[kg/m^2s]を算出する。
【0059】
ここで、ウェストゲート通過ガス密度流速とは、ウェストゲート通過ガス量[kg/s]をガス通過断面積[m^2]で除した値で定義される値である。ウェストゲート通過ガス密度流速MITDORYUとしては、標準状態(1気圧、20℃)において実測した排気温度及び排気圧力と、ウェストゲートアクチュエータストローク量の実測値から求めるウェストゲート開口面積と、過給圧応答相当タービン流入空気量との4つのパラメータに基づいて求め、これら求めたデータ群をウェストゲート通過ガス密度流速マップMMITDORYU#にしておく。これらの過程で目標過給圧の代わりに実過給圧を用いてもよい。
【0060】
ステップ12では、このウェストゲート通過ガス密度流速MITDORYU[kg/m^2s]と上記の目標ウェストゲート通過ガス量MAWG[kg/h]とから次式により目標ウェストゲート開口面積TGAWG[m^2]を算出する。
【0061】
TGAWG=MAWG/MITDORYU …(8)
このようにして、左右のバンク2A、2Bを区別することなくバンク当たりの目標ウェストゲート開口面積求めている。
【0062】
次に、図6は三方ソレノイド弁20A、20Bに与える目標ウェストゲートデューティを算出するためのもので、図5に続けて一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。
【0063】
ステップ21では、目標ウェストゲート開口面積TGAWG[m^2](図5のフローにより算出済み)から開口面積〜ストローク変換テーブルTTWGLST#を用いて、目標ウェストゲートストローク量STWGVL[m]を算出する。
【0064】
ここで、ウェストゲート12の目標ストローク量STWGVLとは、ウェストゲート12の目標開口面積TGAWGを得るためにウェストゲート12がスプリング18に抗し開方向(図1で左方向)に移動しなければならない量のことである。ウェストゲート12の目標開口面積TGAWGと、ウェストゲート12の目標ストローク量STWGVLとの変換テーブルは次のようにして作成すればよい。すなわち、次の(9)式(KASTNERの実験式)と、(10)式との2つの式からウェストゲート12の目標開口面積TGAWGと、ウェストゲート12の目標ストローク量STWGVLとの関係を求めてテーブルに作成する。
【0065】
Cv=1.0−1.5×STWGVL/DWGV# …(9)
TGAWG=Cv×DWGV#×STWGVL×π …(10)
ただし、DWGV#:所定値、
ここで、目標ウェストゲート開口面積TGAWGは、機構上よりウェストゲート12のストローク量STWGVL=所定値DWGV#/3のときに最大となるので、これ以上のストローク量のときには、ウェストゲート12の目標ストローク量STWGV=DWGV#/3として計算する。実際の制御モデルではあらかじめ机上で計算し、テーブルTTWGLST#として設定しておく。
【0066】
ステップ22〜26は、ウェストゲートアクチュエータ13の力学モデルを用いて、目標ウェストゲートアクチュエータ圧(相対圧)を算出する部分である。
【0067】
まずステップ22では、目標ウェストゲートストローク量STWGVL[m]とリンク機構17のアクチュエータレバー比RLEVERWG#[−]とから、次の式により目標ウェストゲートアクチュエータロッドストローク量STWGRL[m]を算出する。
【0068】
STWGRL=STWGVL/RLEVERWG …(11)
これは、ウェストゲート12とロッド16とがリンク機構17を介して連結され、ロッド16のストローク量がリンク機構17のレバー比の分だけ拡大または縮小されたものがウェストゲート12のストローク量になるので、ウェストゲート12が開方向に目標ストローク量STWGVLだけ動くとき、ロッド16がウェストゲート12の開方向にいくら動くのかを求めるようにしたものである。
【0069】
ステップ23では、目標過給圧PCHS[kPa]と上記の平均過給圧応答相当タービン流入空気量MATBAVE[kg/s]とから、排気圧力によりウェストゲート12に作用する力変換マップFEXHWGV#を検索することにより、排気圧力によりウェストゲート12に作用する力[N]を算出し、この算出した力にさらにリンク機構17のアクチュエータレバー比RLEVERWG#を掛けた値を、排気圧力によりロッド16(つまりウェストゲートアクチュエータ13)に作用する力FWGV[N]として算出する。
【0070】
ここで、排気圧力によりウェストゲート12に作用する力変換マップFEXHWGV#の値は、目標過給圧と過給圧応答相当タービン流入空気量とを相違させて実測し、予め適合しておく。排気圧力によりウェストゲート12に作用する力にさらにリンク機構17のアクチュエータレバー比を掛ける理由は、ウェストゲート12に作用する力をロッド16に作用する力に変換するためである。
【0071】
ステップ24では、この排気圧力によりロッド16に作用する力FWGVと、上記の目標ウェストゲートアクチュエータロッドストローク量STWGRLとから、次の式により静止摩擦力補正前の目標ウェストゲートアクチュエータ力FWG0[N](アクチュエータの操作力基本値)を算出する。
【0072】
FWG0=(STWGRL+CWGSPR#)×KWGSPR#
−(STWGRL−STWGRL(10ms前))×CWGDMPAD# +FWGV …(12)
ただし、CWGSPR# :初期ロッドストローク量[m]、
KWGSPR# :スプリング18のバネ定数[N/m]、
CWGDMPAD#:ダンパ係数[Nsec/m]
ここで、(12)式はウェストゲート12を目標開口面積(TGWG)だけ開かなければならないときに、ウェストゲートアクチュエー13に作用している力を表している。すなわち、(12)式によれば、スプリング18に抗して、ウェストゲート12を目標開口面積(TGWG)だけ開くには(12)式右辺第1項の力をロッド16に与える必要があり、この場合に、(12)式右辺第3項の力が後押ししてくれること、また(12)式右辺第2項の力がこれとは反対方向に抵抗となって働くこととなる。
【0073】
また、(12)式はウェストゲート12を開く場合、つまりロッド16が図1において左方向にストロークする(移動する)場合を考えているので、(12)式右辺第2項の制御周期(10ms)当たりのロッド16のストローク量であるSTWGRL−STWGRL(10ms前)は正の値となる。従って、このSTWGRL−STWGRL(10ms前)が負の値となる場合には、(STWGRL−STWGRL(10ms前)×CWGDMPAD#=0、つまり(9)式右辺第2項はゼロとする。
【0074】
ステップ25では、静止摩擦力補正を実行する。すなわち、次のように〈1〉〜〈3〉の3つの場合分けをして静止摩擦力補正後の目標ウェストゲートアクチュエータ力FWG(アクチュエータの操作力)を算出する。
【0075】
〈1〉静止摩擦力補正前の目標ウェストゲートアクチュエータ力の絶対値abs(FWG0)(=|FWG|)とウェストゲートアクチュエータ13の最大静止摩擦力FSTMXRRC#とを比較し、静止摩擦力補正前目標ウェストゲートアクチュエータ力の絶対値がウェストゲートアクチュエータ13の最大静止摩擦力FSTMXFRC#未満の場合には、ロッド16(ウェストゲートアクチュエータ13)を開方向にストロークさせようとしてもストロークしない(動かない)、従って過給圧制御を行うのは無駄であると判断し、静止摩擦力補正後の目標ウェストゲートアクチュエータ力FWGを次の式により算出する。
【0076】
FWG=0 …(13)
〈2〉静止摩擦力補正前の目標ウェストゲートアクチュエータ力の絶対値abs(FWG0)がウェストゲートアクチュエータ13の最大静止摩擦力FSTMXFRC#以上であり、かつ静止摩擦力補正前の目標ウェストゲートアクチュエータ力FWG0がゼロ以上の値である場合には、ロッド16(ウェストゲートアクチュエータ13)を開方向にストロークさせようとすればストロークする(動く)、従って過給圧制御を行うことができると判断し、静止摩擦力補正後の目標ウェストゲートアクチュエータ力FWGを次の式により算出する。
【0077】
FWG=FWG0−FSTMXFRC# …(14)
〈3〉上記〈1〉と〈2〉以外の場合つまり静止摩擦力補正前の目標ウェストゲートアクチュエータ力の絶対値abs(FWG0)がウェストゲートアクチュエータ13の最大静止摩擦力FSTMXFRC#以上であり、かつ静止摩擦力補正前の目標ウェストゲートアクチュエータ力FWG0が負の値である場合には静止摩擦力補正後の目標ウェストゲートアクチュエータ力FWGを次の式により算出する。
【0078】
FWG=FWG0+FSTMXFRC# …(15)
ステップ26では、この静止摩擦力補正後の目標ウェストゲートアクチュエータ力FWG[N]と、ウェストゲートアクチュエータ13のカップ有効径AWGACT#[m^2]とから、目標ウェストゲートアクチュエータ圧(相対圧)TGPACT[kPa]を次式により算出する。
【0079】
TGPACT=FWG/AWGACT# …(16)
ここで、ウェストゲートアクチュエータ13のカップとは、ダイヤフラム14のことである。アクチュエータ力をダイヤフラム面積で除算するとダイヤフラム14に作用する圧力が求まる。つまり(16)式は、静止摩擦力補正後の目標ウェストゲートアクチュエータ力FWGを作り出すため圧力室15に作用させるべき制御圧力を求めている。
【0080】
ただし、ここで求めた目標ウェストゲートアクチュエータ圧TGPACTは、大気圧を基準とする圧力、つまり相対圧である。
【0081】
このようにして圧力室15に供給すべき制御圧力(TGPACT)が求まると、後はこの制御圧力(TGPACT)が得られるように三方ソレノイド弁20Aに与えるデューティを設定してやればよい。すなわち、ステップ27〜29は、この目標ウェストゲートアクチュエータアクチュエータ圧TGPACTから、三方ソレノイド弁20Aの特性を用いて、目標ウェストゲートデューティWGDUTY[%]を算出する部分である。
【0082】
まずステップ27では、過給圧センサ34により検出される右バンク側実過給圧PBr[kPa]から、大気圧センサ36により検出される大気圧PPAMB[kPa]を差し引くことにより、つまり次式により右バンク側実過給圧(相対圧)PBABSr[kPa]を算出する。
【0083】
PBABSr=PBr−PPAMB …(17a)
同様にして、過給圧センサ35により検出される左バンク側実過給圧PBl[kPa]から、大気圧センサ36により検出される大気圧PPAMB[kPa]を差し引くことにより、つまり次式により左バンク側実過給圧(相対圧)PBABSl[kPa]を算出する。
【0084】
PBABSl=PBl−PPAMB …(17b)
ステップ28では、この右バンク側実過給圧(相対圧)PBABSr[kPa]と、目標ウェストゲートバルブアクチュエータ圧(相対圧)TGPACT[kPa]とから、所定の目標ウェストゲートデューティ基本値マップMWGDUTY#を検索することにより、右バンク側目標ウェストゲートデューティ基本値WGDUTY0r[%]を算出する。同様にして、左バンク側実過給圧(相対圧)PBABSl[kPa]と、目標ウェストゲートバルブアクチュエータ圧(相対圧)TGPACT[kPa]とから、所定の目標ウェストゲートデューティ基本値マップMWGDUTY#を検索することにより、左バンク側目標ウェストゲートデューティ基本値WGDUTY0l[%]を算出する。
【0085】
ここで、目標ウェストゲートデューティ基本値マップMWGDUTY#の値は、三方ソレノイド弁(20A、20b)の仕様により予め定まっている。
【0086】
最後にステップ29では、そのときのアクセル開度APO[deg]と所定開度を比較し、アクセル開度APOが所定開度を超えている場合に、右バンク側目標ウェストゲートデューティ基本値WGDUTY0rを右バンク側目標ウェストゲートデューティWGDUTYrとし、また左バンク側目標ウェストゲートデューティ基本値WGDUTY0lを左バンク側目標ウェストゲートデューティWGDUTYlとする。
【0087】
これに対して、アクセル開度APOが所定開度以下の場合には右バンク側目標ウェストゲートデューティWGDUTYr[%]=0、左バンク側目標ウェストゲートデューティWGDUTYl[%]=0とする。このように、アクセル開度APOが所定開度以下の領域でウェストゲートデューティをゼロとする、つまりウェストゲート12の開動作を行わせない理由は、アクセル開度APOが所定開度以下の領域ではそもそも過給圧が十分に立ち上がらないので、ウェストゲート12の開動作を行わせる必要がないためである。
【0088】
このようにして算出された右バンク側目標ウェストゲートデューティWGDUTYrは、デューティ信号に変換されて右バンク側三方ソレノイド弁20Aに、またこのようにして算出された左バンク側目標ウェストゲートデューティWGDUTYlは、デューティ信号に変換されて左バンク側三方ソレノイド弁20Bにそれぞれ出力される。
【0089】
ここで、本発明に先行する発明の作用効果を説明する。
【0090】
本実施形態によれば、排気通路4に設けたタービン6と、吸気通路3に設けたコンプレッサ7と、タービン6をバイパスする通路11を開閉するウェストゲート12と、このウェストゲート12の開閉の程度を可変に制御し得るウェストゲートアクチュエータ13とを有するターボ過給機5Aにおいて、ウェストゲートアクチュエータ13を制御するパラメータが、吸入空気量の関数であるので(図5のステップ2〜12参照)、従来装置に比べてシンプルな構成とすることができると共に、従来装置と同等の過給圧制御精度を確保することができる。
【0091】
また、本実施形態によれば、従来装置のように、排気温度センサ、排気圧力センサを追加したり、排気温度や排気圧力を推定する必要がなく、コストアップとなったり排気温度、排気圧力の推定エラーの影響を受けたりすることがない。
【0092】
本実施形態によれば、目標過給圧PCHSと実過給圧(PBAV)の偏差TPBERRを算出し、この偏差TPBERRに基づいてウェストゲート通過ガス量のフィードバック量FBMAWGを算出し、このフィードバック量FBMAWGで前記目標ウェストゲート通過ガス量(FFMAWG)を補正するので(図5のステップ8〜10参照)、実過給圧(PBAV)を目標過給圧PCHSへと速やかに収束させることができる。また、目標ウェストゲート通過ガス量(FFMAWG)算出しているので、フィードバックゲインの設定やフィードバック制御の許可条件が複雑にならない。
【0093】
本実施形態によれば、目標ウェストゲート通過ガス量(FFMAWG)を、過給圧応答相当タービン流入空気量(MATBr、MATBl)と目標過給圧PCHSとに基づいて算出するので(図5のステップ7参照)、過給圧応答相当タービン流入空気量(MATBr、MATBl)や目標過給圧PCHSが相違しても、目標ウェストゲート通過ガス量(FFMAWG)を精度良く求めることができる。
【0094】
本実施形態によれば、過給圧応答の無駄時間を予め求めておき、タービン流入空気量MATB00の前記無駄時間前の値を求め、この無駄時間前タービン流入空気量MATB0の加重平均値で過給圧応答相当タービン流入空気量(MATBr、MATBl)を算出するので(図5のステップ3〜5参照)、実際の過給圧の過渡応答に応じたタービン流入空気量(MATBr、MATBl)を精度良く求めることができる。
【0095】
本実施形態によれば、タービン流入空気量MATB00を、シリンダ吸入基本パルス幅TPに基づいて算出するので(図5のステップ2参照)、既存の値(TP)を用いてタービン流入空気量MATB00を求めることができる。
【0096】
次に、本発明における実施形態の作用効果を説明する。
【0097】
本実施形態(請求項1、8に記載の発明)によれば、排気通路4に設けたタービン6と、吸気通路3に設けたコンプレッサ7と、タービン6をバイパスする通路11を開閉するポペットタイプのウェストゲート12と、ウェストゲートアクチュエータ13(ウェストゲート12の開閉の程度を圧力室15に供給される制御圧力に応動して可変に制御し得るアクチュエータ)と、このアクチュエータ13のロッドストロークをウェストゲート12のストロークに拡大または縮小するリンク機構17と、圧力室15に供給される制御圧力を調整可能な三方ソレノイド弁(20A、20B)とを備え、三方ソレノイド弁(20A、20B)を制御するパラメータは、静止摩擦力補正後の目標ウェストゲートアクチュエータ力FWG(アクチュエータの操作力)であるので(図6のステップ25参照)、アクチュエータ部品の摩擦力を考慮することが可能となり、アクチュエータ部品の摩擦力があっても目標ウェストゲート開口面積TGAWG(目標過給圧PCHS)を得ることができる。
【0098】
本実施形態(請求項2に記載の発明)によれば、静止摩擦力補正後の目標ウェストゲートアクチュエータ力FWG(アクチュエータの操作力)を、静止摩擦力補正前の目標ウェストゲートアクチュエータ力FWG0(アクチュエータの操作力基本値)に静止摩擦力補正(アクチュエータの摩擦力による補正)を行うことによって算出するので(図6のステップ25参照)、ウェストゲートアクチュエータ部品の摩擦力があっても、静止摩擦力補正後の目標ウェストゲートアクチュエータ力FWG(アクチュエータの操作力)を過不足無く与えることができ、目標ウェストゲート開口面積TGAWG(目標過給圧PCHS)を得ることができる。
【0099】
本実施形態(請求項3に記載の発明)によれば、静止摩擦力補正(アクチュエータの摩擦力による補正)は、静止摩擦力補正前の目標ウェストゲートアクチュエータ力FWG0(アクチュエータの操作力基本値)が最大静止摩擦力FSTMXFRC#以上でかつ静止摩擦力補正前の目標ウェストゲートアクチュエータ力FWG0(アクチュエータの操作力基本値)がゼロ以上の値であるとき、静止摩擦力補正前の目標ウェストゲートアクチュエータ力FWG0から最大静止摩擦力FSTMXFRC#を差し引いた値を静止摩擦力補正後の目標ウェストゲートアクチュエータ力FWG(アクチュエータの操作力)とし、
静止摩擦力補正前の目標ウェストゲートアクチュエータ力FWG0が最大静止摩擦力FSTMXFRC#未満のとき、ゼロを静止摩擦力補正後の目標ウェストゲートアクチュエータ力FWG(アクチュエータの操作力)とし、静止摩擦力補正前の目標ウェストゲートアクチュエータ力FWG0が最大静止摩擦力FSTMXFRC#以上でかつ静止摩擦力補正前の目標ウェストゲートアクチュエータ力WG0が負の値であるとき、静止摩擦力補正前の目標ウェストゲートアクチュエータ力FWG0に最大静止摩擦力FSTMXFRC#を加算した値を静止摩擦力補正後の目標ウェストゲートアクチュエータ力FWG(アクチュエータの操作力)とすることであるので(図6のステップ25参照)、最大静止摩擦力FSTMXFRC#に応じた静止摩擦力補正後目標ウェストゲートアクチュエータ力FWGを与えることができる。
【0100】
本実施形態(請求項5に記載の発明)によれば、ウェストゲートアクチュエータ13が、圧力室15を区画するダイヤフラム14と、このダイヤフラム14をウェストゲート12の閉方向に付勢するスプリング18とを備え、目標ウェストゲート開口面積TGAWGに基づいてウェストゲートアクチュエータ13のロッドストローク量STWGRLを算出し、この算出したウェストゲートアクチュエータのロッドストローク量STWGRLと、この算出したウェストゲートアクチュエータのロッドストローク量の変化量STWGRL−STWGRL(10ms前)と、スプリング18のバネ定数KWGSPR#と、ダンパ係数CWGDMPAD#とに基づいて静止摩擦力補正前目標ウェストゲートアクチュエータ力FWG0(アクチュエータの操作力基本値)を算出するので(図6のステップ22、24参照)、スプリング18の強さやロッド速度に伴う抵抗に相違があっても静止摩擦力補正前目標ウェストゲートアクチュエータ力FWG0(アクチュエータの操作力基本値)を精度良く算出することができる。
【0101】
排気圧力によりウェストゲートアクチュエータ13に作用する力はウェストゲート12の開方向に働くため、この排気圧力によりウェストゲートアクチュエータ13に作用する力を考慮することなく、静止摩擦力補正前目標ウェストゲートアクチュエータ力FWG0(アクチュエータの操作力基本値)を算出したのでは大きくなりすぎ、ウェストゲート12が過度に開かれて実際の過給圧が目標過給圧より外れて小さくなるのであるが、本実施形態(請求項6に記載の発明)によれば、排気圧力によりウェストゲートアクチュエータ13に作用する力FWGVで静止摩擦力補正前目標ウェストゲートアクチュエータ力FWG0(アクチュエータの操作力基本値)を補正するので(図6のステップ23、24参照)、排気圧力によりウェストゲートアクチュエータ13に作用する力がウェストゲート12の開方向に働いている状態でも、最適な静止摩擦力補正後目標ウェストゲートアクチュエータ力FWG(アクチュエータの操作力)を与えることができる。
【0102】
図7に示したように、排気圧力によりウェストゲートアクチュエータ13に作用する力はタービン6に流入する排気量と目標過給圧により変化する。本実施形態(請求項7に記載の発明)によれば、この図7の特性に対応させ、排気圧力によりウェストゲートアクチュエータ13に作用する力FWGVを平均過給圧応答相当タービン流入空気量MATBAVE(吸入空気量)と目標過給圧PCHSとに基づいて算出するので(図6のステップ23参照)、平均過給圧応答相当タービン流入空気量MATBAVEや目標過給圧PCHSが相違するときにも、排気圧力によりウェストゲートアクチュエータ13に作用する力FWGVを過不足無く与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明の第1実施形態の過給圧制御装置の概略構成図。
【図2】排気温度の影響を調べた結果を示す特性図。
【図3】排気圧力の影響を調べた結果を示す特性図。
【図4】5つのアクセル開度と3つのエンジン回転速度の組合せで実験を行ったときの定常データを示す特性図。
【図5】目標ウェストゲート開口面積の算出を説明するためのフローチャート。
【図6】目標ウェストゲートデューティの算出を説明するためのフローチャート。
【図7】排気圧力によりウェストゲートに作用する力の特性図。
【符号の説明】
【0104】
3 吸気通路
4 排気通路
5A、5B ターボ過給機
6 タービン
7 コンプレッサ
12 ウェストゲート
13 ウェストゲートアクチュエータ
15 圧力室
20A、20B 三方ソレノイド弁
31 エンジンコントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気通路に設けたタービンと、
吸気通路に設けたコンプレッサと、
前記タービンをバイパスする通路を開閉するポペットタイプのウェストゲートと、
このウェストゲートの開閉の程度を圧力室に供給される制御圧力に応動して可変に制御し得るアクチュエータと、
このアクチュエータのロッドストロークを前記ウェストゲートのストロークに拡大または縮小するリンク機構と、
前記圧力室に供給される制御圧力を調整可能な三方ソレノイド弁と
を備え、
前記三方ソレノイド弁を制御するパラメータは、前記アクチュエータの操作力であることを特徴とするターボ過給機の制御装置。
【請求項2】
前記アクチュエータの操作力を、前記アクチュエータの操作力基本値に前記アクチュエータの摩擦力による補正を行うことによって算出することを特徴とする請求項1に記載のターボ過給機の制御装置。
【請求項3】
前記アクチュエータの摩擦力による補正は、
前記アクチュエータの操作力基本値が前記アクチュエータの最大静止摩擦力以上でかつ前記アクチュエータの操作力基本値がゼロ以上の値であるとき、アクチュエータの操作力基本値から最大静止摩擦力を差し引いた値をアクチュエータの操作力とし、
前記アクチュエータの操作力基本値が前記アクチュエータの最大静止摩擦力未満のとき、ゼロをアクチュエータの操作力とし、
前記アクチュエータの操作力基本値が前記アクチュエータの最大静止摩擦力以上でかつ前記アクチュエータの操作力F基本値が負の値であるとき、アクチュエータの操作力基本値に最大静止摩擦力を加算した値をアクチュエータの操作力とすることであることを特徴とする請求項2に記載のターボ過給機の制御装置。
【請求項4】
前記アクチュエータの操作力基本値を、目標ウェストゲート開口面積または目標ウェストゲートストローク量に基づいて算出することを特徴とする請求項2または3に記載のターボ過給機の制御装置。
【請求項5】
前記アクチュエータが、前記圧力室を区画するダイヤフラムと、このダイヤフラムを前記ウェストゲートの閉方向に付勢するスプリングとを備える場合に、前記目標ウェストゲート開口面積に基づいて前記アクチュエータのロッドストローク量を算出し、この算出したアクチュエータのロッドストローク量と、この算出したアクチュエータのロッドストローク量の変化量と、前記スプリングのバネ定数と、ダンパ係数とに基づいて前記アクチュエータの操作力基本値を算出することを特徴とする請求項4に記載のターボ過給機の制御装置。
【請求項6】
排気圧力により前記アクチュエータに作用する力で前記アクチュエータの操作力基本値を補正することを特徴とする請求項2から5までのいずれか一つに記載のターボ過給機の制御装置。
【請求項7】
前記排気圧力により前記アクチュエータに作用する力を吸入空気量と目標過給圧PCHSとに基づいて算出することを特徴とする請求項6に記載のターボ過給機の制御装置。
【請求項8】
排気通路に設けたタービンと、
吸気通路に設けたコンプレッサと、
前記タービンをバイパスする通路を開閉するポペットタイプのウェストゲートと、
このウェストゲートの開閉の程度を圧力室に供給される制御圧力に応動して可変に制御し得るアクチュエータと、
このアクチュエータのロッドストロークを前記ウェストゲートのストロークに拡大または縮小するリンク機構と、
前記圧力室に供給される制御圧力を調整可能な三方ソレノイド弁と
を備え、
前記三方ソレノイド弁を制御するパラメータは、前記アクチュエータの操作力であることを特徴とするターボ過給機の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−157185(P2008−157185A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−349614(P2006−349614)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】