説明

ダイオード

【課題】絶縁トレンチとバリア領域を備えたダイオードにおいて、素子毎の特性のばらつきが抑えられる技術を提供すること。
【解決手段】縦型ダイオード10は、p型のアノード領域28と、アノード領域28を貫通している複数の絶縁トレンチ36と、アノード領域28よりも深いとともに絶縁トレンチ36よりも浅い深さにピーク濃度を有するn型のバリア領域26を備えている。バリア領域26とアノード領域28が離れていることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイオードに関する。
【背景技術】
【0002】
ダイオードは、様々な用途で広く用いられており、例えば、入力電圧を変圧(昇圧又は降圧)して出力する電力変換装置のコンバータ回路、又は入力電圧を直流と交流の間で変換して出力する電力変換装置のインバータ回路で用いられている。この種のダイオードは、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)又はIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等のスイッチング素子に対して逆並列に接続されており、フリーホイールダイオード(Free Wheel Diode)と称される。ダイオードでは、フリーホイールダイオードに限らず、リカバリ特性の改善と高耐圧化とを両立させる技術の開発が望まれている。
【0003】
一般的に、ダイオードのリカバリ特性と耐圧は、アノード領域の不純物濃度に依存する。例えば、アノード領域の不純物濃度を薄くすれば、順方向電圧が印加されているときに、アノード領域から注入されるキャリア量が抑えられ、逆回復電荷量(Qrr)が減少し、リカバリ時の損失が低下する。ところが、アノード領域の不純物濃度を薄くすると、逆方向電圧が印加されているときに、空乏層がアノード領域を超えてアノード電極に達するリーチスルー現象が生じてしまう。アノード領域にリーチスルー現象が生じると、逆方向電流が増加して耐圧が低下してしまう。
【0004】
特許文献1及び非特許文献1には、リカバリ特性の改善と高耐圧化とを両立させる技術の一例が開示されている。特許文献1及び非特許文献1には、IGBTとダイオードが一体化した逆導通型IGBTの例が開示されている。図9に、非特許文献1に開示される逆導通型IGBTのうちのダイオード範囲の構成を示す。
【0005】
図9に示されるように、ダイオード100は、n型の半導体基板120を用いて形成されており、n型のカソード領域122とn型のバッファ領域123とn型のドリフト領域124とn型のバリア領域126とp型のアノード領域128と絶縁トレンチ136を備えている。絶縁トレンチ136は、絶縁膜134とポリシリコン部132とを有しており、IGBT範囲の絶縁トレンチゲートと同時に形成される。ポリシリコン部132は、アノード領域128と同一の電位に固定されていてもよいし、電気的に絶縁されたフローティングであってもよい。
【0006】
ダイオード100は、バリア領域126を備えていることを1つの特徴としている。バリア領域126は、アノード領域128から注入される正孔に対して電位障壁を形成する。このため、バリア領域126が設けられていると、順方向電圧が印加されているときに、アノード領域128から注入される正孔の注入量が抑えられ、リカバリ特性が改善される。正孔の注入量をさらに抑えるためには、バリア領域126の不純物濃度を濃くするのが望ましい。しかしながら、バリア領域126の不純物濃度を濃くすると、アノード領域128からドリフト領域124に向けて伸びる空乏層の幅が抑えられ、ダイオード100の耐圧が低下する。
【0007】
これに対し、ダイオード100では、絶縁トレンチ136が設けられていることを1つの特徴としている。絶縁トレンチ136が設けられていると、逆方向電圧が印加されているときに、絶縁トレンチ136の底面に電界を集中させることができる。このため、ダイオード100の耐圧は、例えば絶縁トレンチ136のメサ幅(隣り合う絶縁トレンチ136間の距離)のような絶縁トレンチ136の形態に依存させることができるので、絶縁トレンチ136の形態によって必要な耐圧を確保しながら、バリア領域126の不純物濃度を濃くすることができる。この結果、順方向電圧が印加されているときに、アノード領域128から注入される正孔の注入量をさらに抑えることができるので、リカバリ特性をさらに改善することができる。このように、バリア領域126と絶縁トレンチ136を組合わせる技術は、リカバリ特性の改善と高耐圧化とを両立させるのに有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−47565号公報(特に、図6参照)
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】三菱電機技報 2007年 Vol.81 No.5 「モータ制御用RC−IGBT」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記したように、バリア領域126は、ダイオード100の電気的特性にとって重要な要素である。このため、バリア領域126を備えたダイオード100では、バリア領域126の形成位置が電気的特性に強く影響する。このため、バリア領域126を備えたダイオードでは、バリア領域126を所定の位置に正確に形成することが重要である。
【0011】
図10に、半導体基板120の表面からの深さと不純物濃度の関係を示す。ダイオード100では、バリア領域126とアノード領域128が接触して形成されている。このため、バリア領域126とアノード領域128の境界の深さは、バリア領域126を形成するために導入された不純物とアノード領域128を形成するために導入された不純物が同一濃度となる位置である。このような深さは、不純物の導入工程及び拡散工程に関する製造ばらつきに依存して変動する。特に、ダイオード100では、バリア領域126の形成位置が、バリア領域126の製造ばらつきに加えて、アノード領域128の製造ばらつきも影響するので、素子毎で大きく異なってしまう。このため、ダイオード100は、特性のばらつきが素子毎で大きく異なるという問題がある。
【0012】
本願明細書で開示される技術は、絶縁トレンチとバリア領域を備えたダイオードにおいて、素子毎の特性のばらつきが抑えられる技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願明細書で開示される技術では、バリア領域とアノード領域が離れていることを特徴としている。バリア領域とアノード領域が離れていると、バリア領域の形成位置は、半導体基板の基板濃度との関係で決定する。半導体基板の基板濃度は正確であり、ばらつきが小さい。なお、半導体基板の基板濃度は極めて薄いことから、実質的には無視することができる。このため、バリア領域の形成位置は、バリア領域の製造ばらつきのみに依存する。したがって、バリア領域とアノード領域が離れていると、バリア領域の形成位置は、アノード領域の製造ばらつきの影響を受けないことから、素子毎のばらつきが抑えられる。
【0014】
すなわち、本明細書で開示されるダイオードは、第1導電型の半導体基板を用いて形成されており、第2導電型のアノード領域と複数の絶縁トレンチと第1導電型のバリア領域を備えている。アノード領域は、半導体基板の表層部に形成されている。複数の絶縁トレンチは、半導体基板の表層部に形成されており、アノード領域を貫通している。バリア領域は、半導体基板の表層部に形成されており、ピーク濃度を有している。そのピーク濃度は、アノード領域よりも深く、絶縁トレンチの底面よりも浅い深さに位置するとともに、半導体基板の基板濃度よりも濃いピーク濃度を有している。本明細書で開示されるダイオードでは、バリア領域とアノード領域が離れていることを特徴としている。ここで、バリア領域とアノード領域が離れているとは、バリア領域を形成するために導入した不純物とアノード領域を形成するために導入した不純物が同一濃度となる深さにおけるその濃度が、半導体基板の基板濃度よりも薄い場合をいう。あるいは、バリア領域を形成するために導入した不純物が存在する範囲とアノード領域を形成するために導入した不純物が存在する範囲が、半導体基板の厚み方向で完全に分離している場合をいう。このような関係にあると、バリア領域の形成位置は、バリア領域の製造ばらつきのみに依存する。このため、バリア領域の形成位置は、アノード領域の製造ばらつきの影響を受けないことから、素子毎のばらつきが抑えられる。
【0015】
本明細書で開示されるダイオードは、第1導電型のカソード領域をさらに備えているのが望ましい。カソード領域は、半導体基板の裏層部に形成されており、半導体基板の基板濃度よりも濃いピーク濃度を有している。この場合、カソード領域は、複数のカソード部分領域で構成されているのが望ましい。複数のカソード部分領域は、半導体基板の厚み方向に直交する面内において、分散して設けられていることを特徴としている。複数のカソード部分領域で構成されていると、半導体基板の裏層部から注入されるキャリア量が抑えられ、リカバリ時の損失が低下する。
【0016】
本明細書で開示されるダイオードは、隣り合うカソード部分領域の間に設けられている第2導電型の介在領域をさらに備えているのが望ましい。この形態によると、半導体基板の裏層部から注入されるキャリア量がさらに抑えられ、リカバリ時の損失がさらに低下する。
【0017】
本明細書で開示されるダイオードでは、バリア領域が、隣り合う絶縁トレンチの間において、一方の絶縁トレンチの側面から他方の絶縁トレンチの側面まで連続して形成されていないのが望ましい。バリア領域のピーク濃度は、濃くなるほどアノード領域から注入されるキャリア量が抑えられるので、リカバリ特性を改善することができる。一方、バリア領域のピーク濃度がある一定値を超えると、キャリアの注入が完全に防止され、定常損失が急激に悪化する可能性がある。バリア領域が連続して形成されていないと、ピーク濃度を濃くしながら定常損失の急激な悪化を防止することができる。
【発明の効果】
【0018】
本明細書で開示されるダイオードでは、バリア領域とアノード領域が離れており、バリア領域を所定の位置に形成することができる。このため、ダイオードの特性が素子毎で安定する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1実施例の縦型ダイオードの要部断面図を示す。
【図2】耐圧のメサ幅に対する依存性を示す。
【図3】逆回復電荷量(Qrr)及びリーク電流のバリア領域のドーズ量に対する依存性を示す。
【図4】第1実施例の縦型ダイオードにおいて、半導体基板の表層部における不純物濃度の分布を示す。
【図5】第2実施例の縦型ダイオードの要部断面図を示す。
【図6】第3実施例の縦型ダイオードの要部断面図を示す。
【図7】第4実施例の縦型ダイオードの要部断面図を示す。
【図8】第4実施例の縦型ダイオードの変形例の要部断面図を示す。
【図9】従来の縦型ダイオードの要部断面図を示す。
【図10】従来の縦型ダイオードにおいて、半導体基板の表層部における不純物濃度の分布を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本願明細書で開示される技術の特徴を整理しておく。
(第1特徴)ダイオードは、半導体基板の表面から順に、p型のアノード領域とn型の上型ドリフト領域と、n型のバリア領域と、n型の下側ドリフト領域とを有する。
(第2特徴)絶縁トレンチは、半導体基板の表面から裏面に向けて伸びるトレンチを利用して形成される。絶縁トレンチでは、少なくともトレンチの内壁を被覆するように絶縁体が設けられている。絶縁トレンチは、トレンチ内に充填される絶縁体のみで構成されていてもよく、絶縁膜とその絶縁膜で被覆される導電体で構成されていてもよい。後者の場合、導電体は、アノード領域と同一の電位に固定されていてもよく、電気的に絶縁されたフローティングであってもよい。なお、絶縁トレンチは、耐圧を確保するために、絶縁膜とその絶縁膜で被覆される導電体で構成されているのが望ましい。
(第3特徴)バリア領域は、イオン注入技術を利用して形成された拡散領域であってもよい。この場合、バリア領域は、半導体基板の厚み方向に観測したときに、極大値となるピーク濃度を有する。
(第4特徴)ダイオードには、ライフタイム制御用の欠陥領域が形成されていない。このような欠陥領域が形成されていなくても、逆回復電荷量(Qrr)が十分に低く、リカバリ時の損失が小さい。
【実施例1】
【0021】
以下、図面を参照して、本実施例の逆導通型IGBTに内蔵される縦型ダイオードを説明する。本実施例の逆導通型IGBTは、入力電圧を直流と交流の間で変換して出力する車載用の電力変換装置のインバータ回路に用いられる。逆導通型IGBTは、半導体基板内にIGBT範囲とダイオード範囲を備えており、IGBT範囲には縦型IGBTを構成するための構造が形成されており、ダイオード範囲には縦型ダイオードを構成するための構造が形成されている。本実施例の縦型ダイオードは、PiNダイオードと称されるタイプである。
【0022】
図1に示されるように、縦型ダイオード10は、n型のシリコン単結晶の半導体基板20を用いて形成されており、n型のカソード領域22とn型のバッファ領域23とn型のドリフト領域24とn型のバリア領域26とp型のアノード領域28と絶縁トレンチ36を備えている。
【0023】
カソード領域22は、イオン注入技術を利用して、半導体基板20の裏層部にリンイオンを導入して形成されている。カソード領域22は、半導体基板20の裏面に形成されている図示しないカソード電極に接続されている。カソード領域22を形成するイオン注入工程では、ピーク濃度が半導体基板20の基板濃度を超える条件で実施される。一例では、カソード領域22のドーズ量は約1×1014〜1×1016cm−2であり、ピーク濃度が約1×1018〜1×1020cm−3であるのが望ましい。
【0024】
バッファ領域23は、イオン注入技術を利用して、半導体基板20の裏層部にリンイオンを導入して形成されている。バッファ領域23を形成するイオン注入工程では、ピーク濃度が半導体基板20の基板濃度を超える条件で実施される。一例では、バッファ領域23のドーズ量は約1×1012〜1×1014cm−2であり、ピーク濃度が約1×1016〜1×1018cm−3であるのが望ましい。
【0025】
ドリフト領域24は、他の拡散領域を形成した残部であり、下側ドリフト領域24aと上側ドリフト領域24bを有している。下側ドリフト領域24aはカソード領域22とバリア領域26の間に形成されており、上側ドリフト領域24bはバリア領域26とアノード領域28の間に形成されている。換言すると、ドリフト領域24は、バリア領域26によって下側ドリフト領域24aと上側ドリフト領域24bに隔てられている。ドリフト領域24の不純物濃度は、半導体基板20の基板濃度と実質的に一致しており、厚み方向に一定である。一例では、ドリフト領域24の不純物濃度は約1×1013〜1×1015cm−3であるのが望ましい。
【0026】
バリア領域26は、イオン注入技術を利用して、半導体基板20の表層部にリンイオンを導入して形成されている。バリア領域26を形成するイオン注入工程では、ピーク濃度が半導体基板20の基板濃度を超える条件で実施される。そのピーク濃度が形成される深さは、アノード領域28の下端よりも深く、絶縁トレンチ36の底面よりも浅い深さに調整される。一例では、バリア領域26のドーズ量は約1×1012〜1×1014cm−2であり、ピーク濃度が約1×1016〜1×1018cm−3であるのが望ましい。また、バリア領域26のピーク深さは約1.5〜5.0μmであるのが望ましい。
【0027】
アノード領域28は、イオン注入技術を利用して、半導体基板20の表層部にボロンイオンを導入して形成されている。アノード領域28は、半導体基板20の表面に形成されている図示しないアノード電極に接続されている。アノード領域28を形成するイオン注入工程では、ピーク濃度が半導体基板20の基板濃度を超える条件で実施される。一例では、アノード領域28のドーズ量は約5×1011〜1×1014cm−2であり、ピーク濃度が約1×1016〜1×1018cm−3であるのが望ましい。また、アノード領域28の下端の深さは約0.5〜1.0μmであるのが望ましい。
【0028】
絶縁トレンチ36は、絶縁膜34とその絶縁膜34で被覆されるポリシリコン部32とを有している。絶縁トレンチ36は、IGBT範囲の絶縁トレンチゲートと同時に形成される。ポリシリコン部32は、アノード領域28と同一の電位に固定されていてもよいし、電気的に絶縁されたフローティングであってもよい。一例では、平面視したときに、絶縁トレンチ36のレイアウトはストライプ状である。また、絶縁トレンチ36の底面の深さは約3.0〜7.0μmであり、メサ幅W1は約0.5〜7.0μmであり、ピッチ幅W2は約1.5〜8.0μmであるのが望ましい。
【0029】
ダイオード10は、バリア領域26を備えていることを1つの特徴としている。バリア領域26は、アノード領域28から注入される正孔に対して電位障壁を形成する。このため、バリア領域26が設けられていると、順方向電圧が印加されているときに、アノード領域28から注入される正孔の注入量が抑えられ、リカバリ特性が改善される。
【0030】
ダイオード10はさらに、絶縁トレンチ36を備えていることを1つの特徴としている。絶縁トレンチ36が設けられていると、逆方向電圧が印加されているときに、絶縁トレンチ36の底面に電界を集中させることができる。このため、図2に示されるように、縦型ダイオード10の耐圧は、絶縁トレンチ36のメサ幅W1のような絶縁トレンチ36の形態に依存する。例えば、図2に示されるように、絶縁トレンチ36のメサ幅W1を4μm以下にすれば、2000V以上の耐圧を確保することができる。したがって、縦型ダイオード10では、絶縁トレンチ36の形態によって必要な耐圧を確保しながら、バリア領域26の不純物濃度を濃くすることができる。
【0031】
図3に示されるように、バリア領域26のドーズ量が増加すると、逆回復電荷量(Qrr)が減少する。このため、バリア領域26のドーズ量が増加すると、リカバリ時の損失が低下する。一方、バリア領域26のドーズ量が増加しても、リーク電流は増加していない。
【0032】
さらに、縦型ダイオード10は、バリア領域26とアノード領域28が離れていることを特徴としている。すなわち、バリア領域26とアノード領域28は、上側ドリフト領域24bによって隔てられていることを特徴としている。図4に、半導体基板20の表面からの深さと不純物濃度の関係を示す。図4に示されるように、縦型ダイオード10では、バリア領域26を形成するために導入した不純物とアノード領域28を形成するために導入した不純物が同一濃度となる深さにおけるその濃度が、半導体基板20の基板濃度よりも薄い。
【0033】
半導体基板20の基板濃度は極めて薄い。このため、バリア領域26を形成するために導入した不純物とアノード領域28を形成するために導入した不純物が同一濃度となる深さにおけるその濃度が、半導体基板20の基板濃度よりも薄い場合、バリア領域26とアノード領域28は実質的に離れていると評価できる。なお、バリア領域26とアノード領域28は、0.5μm以上離れているのが望ましい。換言すれば、上側ドリフト領域24bの厚みが0.5μm以上であるのが望ましい。従来技術のように、バリア領域26とアノード領域28が接触して形成されていると、バリア領域26の形成位置が、バリア領域26の製造ばらつきに加えて、アノード領域28の製造ばらつきも影響してしまう。一方、縦型ダイオード10では、バリア領域26の形成位置が、バリア領域26の製造ばらつきにのみ依存する。このため、縦型ダイオード10では、バリア領域26を所望の位置に形成することができるので、素子毎の特性のばらつきが抑えられる。
【実施例2】
【0034】
図5に示されるように、縦型ダイオード11では、カソード領域22が複数のカソード部分領域22aで構成されていることを特徴としている。複数のカソード部分領域22aは、半導体基板20の厚み方向に直交する面内において、分散して設けられている。なお、一例では、複数のカソード部分領域22aは、平面視したときにストライプ状であり、絶縁トレンチ36に平行である。また、カソード部分領域22aは、厚み方向において、アノード領域28及びバリア領域26の下方に配置されている。
【0035】
縦型ダイオード11も、半導体基板20の表層部にバリア領域26と絶縁トレンチ36が形成されている。このため、アノード領域28から注入される正孔量が低く抑えられている。この場合、逆回復電荷量(Qrr)は、カソード領域22から注入される電子量が支配的となる。カソード領域22が複数のカソード部分領域22aで構成されていると、半導体基板20の裏層部に占めるカソード領域22の面積が減少するので、カソード領域22から注入される電子量が減少し、逆回復電荷量(Qrr)がさらに減少する。
【0036】
なお、半導体基板20の表層部にバリア領域26と絶縁トレンチ36が形成されていないような場合、逆回復電荷量(Qrr)はアノード領域28から注入される正孔が支配的であり、カソード領域22を分散させる効果がほとんど発揮されない。本実施例の縦型ダイオード11のように、半導体基板20の表層部にバリア領域26と絶縁トレンチ36が形成されているような場合、カソード領域22を分散させる効果が顕著に発揮される。すなわち、半導体基板20の表層部にバリア領域26と絶縁トレンチ36を形成する技術とカソード領域22を分散させる技術の組合わせは極めて有用である。
【実施例3】
【0037】
図6に示されるように、縦型ダイオード12は、隣り合うカソード部分領域22aの間に設けられているp型の介在領域23をさらに備えていることを特徴としている。この形態によると、半導体基板20の裏層部から注入されるキャリア量がさらに抑えられ、リカバリ時の損失がさらに低下する。
【実施例4】
【0038】
図7に示されるように、縦型ダイオード13では、バリア領域26aが、隣り合う絶縁トレンチ36の間において、一方の絶縁トレンチ36の側面から他方の絶縁トレンチ36の側面まで連続して形成されていない。換言すると、ドリフト領域24の下側ドリフト領域24aと上側ドリフト領域24bが、隣り合う絶縁トレンチ36の間において厚み方向で連続している。図7では、バリア領域26aと絶縁トレンチ36が離れており、絶縁トレンチ36の側面近傍でドリフト領域24の下側ドリフト領域24aと上側ドリフト領域24bが連続している。なお、図8に示されるように、バリア領域26aが、隣り合う絶縁トレンチ36の中央部近傍で分断されており、その中央部近傍でドリフト領域24の下側ドリフト領域24aと上側ドリフト領域24bが連続していてもよい。
【0039】
バリア領域26aのピーク濃度は、濃くなるほどアノード領域28から注入されるキャリア量が抑えられるので、リカバリ特性を改善することができる。一方で、バリア領域26aのピーク濃度がある一定値を超えると、正孔の注入が完全に防止され、定常損失が急激に悪化する。バリア領域26aが連続して形成されていないと、ピーク濃度を濃くしながら定常損失の急激な悪化を防止することができる。
【0040】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0041】
20:半導体基板
22:カソード領域
24:ドリフト領域
24a:下側ドリフト領域
24b:上側ドリフト領域
26:バリア領域
28:アノード領域
36:絶縁トレンチ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の半導体基板を用いたダイオードであって、
前記半導体基板の表層部に形成されている第2導電型のアノード領域と、
前記半導体基板の前記表層部に形成されており、前記アノード領域を貫通している複数の絶縁トレンチと、
前記半導体基板の前記表層部に形成されており、前記アノード領域よりも深く、前記絶縁トレンチよりも浅い深さに位置するとともに前記半導体基板の基板濃度よりも濃いピーク濃度を有している第1導電型のバリア領域と、を備えており、
前記バリア領域と前記アノード領域が離れているダイオード。
【請求項2】
前記半導体基板の裏層部に形成されており、前記半導体基板の基板濃度よりも濃いピーク濃度を有している第1導電型のカソード領域をさらに備えており、
前記カソード領域は、複数のカソード部分領域で構成されており、
複数の前記カソード部分領域は、前記半導体基板の厚み方向に直交する面内において、分散して設けられている請求項1に記載のダイオード。
【請求項3】
隣り合う前記カソード部分領域の間に設けられている第2導電型の介在領域をさらに備えている請求項2に記載のダイオード。
【請求項4】
前記バリア領域は、隣り合う前記絶縁トレンチの間において、一方の前記絶縁トレンチの側面から他方の前記絶縁トレンチの側面まで連続して形成されていない請求項1〜3のいずれか一項に記載のダイオード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−8778(P2013−8778A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139290(P2011−139290)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)