説明

ダイカスト鋳造装置及びダイカスト鋳造装置における離型剤噴霧方法

【課題】安価に且つ簡易な構成でサイクルタイムを短縮して生産性を向上させるダイカスト鋳造装置等を提供する。
【解決手段】成型用の金型12と、金型12の表面12aから成型品を押し出すエジェクターピン5と、を備えたダイカスト鋳造装置10であって、エジェクターピン5の内部には離型剤が通流する離型剤通路51aが形成され、及び、エジェクターピン5の先端部52には離型剤通路51aを通流してきた離型剤を金型12の表面12aに噴霧する噴霧孔52bが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイカスト鋳造装置及びダイカスト鋳造装置における離型剤噴霧方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金型に溶融した金属を高圧で射出することにより、高い精度の製品を短時間に大量に生産するダイカストと呼ばれる鋳造方式が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、このような鋳造方式を採用したダイカスト鋳造装置において、金型を閉める工程の前に金型表面に離型剤をスプレー装置により噴霧するとともにその後空気を吹き付けて余分な水分を吹き飛ばすことで、金型からの製品の離型性を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−89551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、金型を閉める工程の前にその都度スプレー装置を離型剤等の噴霧位置に移動させる必要があり、この移動によってサイクルタイムが長くなってしまい生産性が低下してしまう問題があった。
【0006】
また、スプレー装置と金型の干渉を避けるべくスプレー装置と金型との間に一定の距離を確保する必要があり、離型剤を金型表面に均一に噴霧するのが難しかった。さらに、スプレー装置のスプレーノズルや配管等の構成が複雑であり、コストの増加や故障の増加を招いていた。
【0007】
本発明は、このような技術的課題を鑑みてなされたもので、安価に且つ簡易な構成でサイクルタイムを短縮して生産性を向上させるダイカスト鋳造装置及びダイカスト鋳造装置における離型剤噴霧方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、成型用の金型と、前記金型の表面から成型品を押し出すエジェクターピンと、を備えたダイカスト鋳造装置であって、前記エジェクターピンの内部には離型剤が通流する離型剤通路が形成され、及び、前記エジェクターピンの先端部には前記離型剤通路を通流してきた離型剤を前記金型の表面に噴霧する噴霧孔が形成されたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、成型用の金型と、前記金型の表面から成型品を押し出すエジェクターピンと、を備え、前記エジェクターピンの内部には離型剤が通流する離型剤通路が形成され、及び、前記エジェクターピンの先端部には前記離型剤通路を通流してきた離型剤を前記金型の表面に噴霧する噴霧孔が形成されたダイカスト鋳造装置における離型剤噴霧方法であって、前記エジェクターピンが前記成型品を押し出したあとに、前記噴霧孔から離型剤を所定時間だけ噴霧させる工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、別途スプレー装置を用いて離型剤を噴霧しないので、安価に且つ簡易な構成でサイクルタイムを短縮して生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ダイカスト鋳造装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るダイカスト鋳造装置の装置構成の一例を示す図である。
【図3】エジェクターピンとエジェクタープレートの具体的構成の一例を示す図である。
【図4】エジェクターピンとエジェクタープレートの取り付け部Bの断面図である。
【図5】コントローラの制御ロジックを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明においては、本発明を横型のダイカスト鋳造装置(ダイカストマシン)に適用した場合を例に説明する。
【0013】
(ダイカスト鋳造装置10の概略構成)
図1は、ダイカスト鋳造装置10の概略構成を示す図である。図1に示すダイカスト鋳造装置10は、可動型1、固定型2、キャビティ3、射出部4、エジェクターピン5、エジェクタープレート6、シリンダ部7等を有する構成である。このダイカスト鋳造装置10は成型品Xを成型する。
【0014】
以下、ダイカスト鋳造装置10の各構成要素について説明する。
【0015】
可動型1は、固定型2に対して移動可能な金型である。この可動型1は、不図示の装置本体に取り付けるための可動側取付板11と、成型品Xの裏面(図の左側の面)を成型するための可動側型板12と、これらの板間に取り付けられるスペーサブロック13と、により構成される。
【0016】
固定型2は、位置が固定されている金型である。この固定型2は、不図示の装置本体に取り付けるための固定側取付板21と、成型品Xの表面(図の右側の面)を成型するための固定側型板22と、により構成される。
【0017】
キャビティ3は、可動側型板12と固定側型板22との間が閉じたときに形成され、成型品Xと略同一形状を有する空間である。このキャビティ3には、射出部4により射出された溶湯が溶湯路42から流れ込む。
【0018】
射出部4は、固定型2に設けられ、キャビティ3にアルミ等の金属の溶湯を射出する。この射出部4は、溶湯を給湯する給湯口41、給湯口41から給湯された溶湯の流路である溶湯路42、溶湯路42の溶湯をキャビティ3に向かって射出する射出ブランジャ43等により構成される。
【0019】
エジェクターピン5は、可動側型板12に組み入れられ、後端がエジェクタープレート6に取り付けられるとともに先端が成型品Xの裏面を押し出す押し出しピンである。このエジェクターピン5は、成型品Xの成型が終了して可動側型板12と固定側型板22との間が開いたときに、可動側型板12の表面12aから突き出すよう動作制御される。これにより、可動側型板12の表面12aから成型品Xを押し出すことができる。このエジェクターピン5は、加工の容易性や可動側型板12との間での嵌め合い性等の理由により丸ピン形状で構成される。また、このエジェクターピン5は、可動側型板12との間での磨耗を防ぐ等の理由により例えばHRC55等の高い耐磨耗性や硬度を有する材料で構成される。
【0020】
このようなエジェクターピン5は、図1に示すように所定の間隔を隔てて複数(図1では4本)設けられている。このように複数のエジェクターピン5を設けることで、成型品Xの裏面全体に対して平均した押し出し負荷をかけることができる。これにより、成型品Xの変形等を防ぐことができるとともに成型品Xの取出し性を向上することができる。
【0021】
エジェクタープレート6は、可動側取付板11、可動側型板12、スペーサブロック13によって形成される空間Yに配設され、図中の左右方向に移動可能な板材である。このエジェクタープレート6は2枚の平面板で構成されている。このエジェクタープレート6は、一方の面でエジェクターピン5を固定するとともに他方の面がシリンダ部7に連結されている。このエジェクタープレート6の左右方向への移動は、シリンダ部7によって制御される。このエジェクタープレート6は、エジェクターピン5が成型品Xを押し出したときに生じる反力によって撓みを生じない程度の強度(厚み)を有するよう構成される。
【0022】
シリンダ部7は、エジェクタープレート6の図中の左右方向への移動を制御する油圧式のシリンダ機構である。このシリンダ部7は、成型品Xの成型が終了して可動側型板12と固定側型板22との間が開いたときに、エジェクタープレート6を図中の右方向に移動させる。そうすると、これに伴い、エジェクタープレート6に取り付けられたエジェクターピン5も図中の右方向に移動する。これにより、成型品Xは押出される。
【0023】
以上説明してきたように図1に示すダイカスト鋳造装置10では、エジェクターピン5等を用いて成型後の成型品Xを可動側型板12の表面12aから押し出している。なお、成型品Xを押し出したあとには、次回の成型品Xの成型のために再び可動側型板12と固定側型板22との間を閉じる(金型を閉じる工程)ことになる。
【0024】
ここで、この金型を閉じる工程の前に、離型剤を可動側型板12の表面12aに噴霧するとともにその後空気を吹き付けて余分な水分を吹き飛ばす必要がある。これは、可動側型板12の表面12aからの成型品Xの離型性を向上させるためである。本実施形態に係るダイカスト鋳造装置10によれば、かかる離型剤の噴霧機能や空気の吹き付け機能をエジェクターピン5に持たせている。以下、具体的な内容について説明する。
【0025】
(本実施形態に係るダイカスト鋳造装置10の装置構成)
図2は、本発明の一実施形態に係るダイカスト鋳造装置の装置構成の一例を示す図である。図2に示すダイカスト鋳造装置10は、図1に示す構成に加えて離型剤タンク81、空気タンク82、離型剤流量調節バルブ83、空気流量調節バルブ84、コントローラ85、離型剤配管86、空気配管87を有する構成である。また、図2においてエジェクターピン5は、ピン本体部51とピン先端部52とを有する構成である。
【0026】
以下、ダイカスト鋳造装置10の各構成要素について説明する。なお、前述の構成(図1)と同様の機能を果たす部分には同一の符号を付して重複する説明を適宜省略する。
【0027】
離型剤タンク81は、高圧に圧縮された離型剤を貯留する。離型剤とは、例えば既知のワックスやシリコーン等の水溶性離型剤である。この離型剤タンク81に貯留された離型剤は、離型剤配管86及びエジェクタープレート6の内部を通ってエジェクターピン5に供給される。すなわち、この離型剤タンク81はエジェクターピン5に離型剤を供給する。
【0028】
空気タンク82は、高圧に圧縮された空気を貯留する。この空気タンク82に貯留された空気は、空気配管87及びエジェクタープレート6の内部を通ってエジェクターピン5に供給される。すなわち、この空気タンク82はエジェクターピン5に空気を供給する。
【0029】
離型剤流量調節バルブ83は、離型剤配管86に介装され、離型剤タンク81からエジェクターピン5に供給される離型剤の流量、すなわち離型剤の供給量を調節する制御弁である。この離型剤流量調節バルブ83の開閉動作はコントローラ85によって制御される。
【0030】
空気流量調節バルブ84は、空気配管87に介装され、空気タンク82からエジェクターピン5に供給される空気の流量、すなわち空気の供給量を調節する制御弁である。この空気流量調節バルブ84の開閉動作はコントローラ85によって制御される。
【0031】
コントローラ85は、離型剤流量調節バルブ83、空気流量調節バルブ84の開閉動作を制御する、CPUおよびその周辺装置からなるマイクロコンピュータにより構成されたコントロールユニットである。つまり、このコントローラ85はエジェクターピン5への離型剤や空気の供給を制御する。制御内容については後述する。
【0032】
ピン本体部51は、詳細には後述するが、中空構造に構成されている。エジェクタープレート6の内部を通ってきた離型剤や空気はこのピン本体部51の中空部を通流する。
【0033】
ピン先端部52は、詳細には後述するが、ピン本体部51の中空部を通流してきた離型剤や空気を可動側型板12の表面12aに向けて噴霧する噴霧孔(不図示)が外周上に形成されている。そのため、図2の矢印に示すように、ピン先端部52から可動側型板12の表面12aに向けて離型剤が噴霧され、空気が吹き付けられる。これらピン本体部51及びピン先端部52の具体的な構成については後述する(図3参照)。
【0034】
以上説明してきたように図2に示すダイカスト鋳造装置10では、離型剤タンク81及び空気タンク82にそれぞれ離型剤及び空気が貯留されており、これら貯留された離型剤及び空気は各配管86、87及びエジェクタープレート6の内部を通ってエジェクターピン5に供給される。その後、エジェクターピン5は供給された離型剤を可動側型板12の表面12aに向けて噴霧し、供給された空気を可動側型板12の表面12aに吹き付ける。
【0035】
(エジェクターピン5とエジェクタープレート6の具体的構成)
図3は、エジェクターピン5とエジェクタープレート6の具体的構成の一例を示す図である。図4は、エジェクターピン5とエジェクタープレート6の取り付け部Bの断面図である。ここでは、図3及び図4を用いて、図2に示すエジェクターピン5とエジェクタープレート6の詳細について説明する。
【0036】
まず、エジェクタープレート6について説明する。図3に示すようにエジェクタープレート6は、2枚の平面板である第1平面板61と第2平面板62とによって構成されている。第1平面板61は、シリンダ部7(図3では不図示)の側の平面板である。第2平面板62は、可動側型板12の側の平面板である。
【0037】
第1平面板61には、離型剤通流孔61aと空気通流孔61bとが軸線A(エジェクターピン5の長軸方向)に対して略直角に形成されている。離型剤通流孔61aは、離型剤配管86に連通するとともに離型剤配管86を通ってきた離型剤を通流する。空気通流孔61bは、空気配管87に連通するとともに空気配管87を通ってきた空気を通流する。なお、図3に示すように離型剤通流孔61aの方が空気通流孔61bよりもエジェクターピン5から離れた側に形成されている。
【0038】
またこの第1平面板61には、離型剤通流孔61cとこの離型剤通流孔61cを中心とした輪状の空気通流孔61d(図4参照)とが軸線Aに対して平行に形成されている。離型剤通流孔61cは、離型剤通流孔61aから軸線Aに沿って第2平面板62に向かって延びるとともに離型剤通流孔61aを通ってきた離型剤を通流する。空気通流孔61dは、空気通流孔61bから軸線Aに平行に第2平面板62に向かって延びるとともに空気通流孔61bを通ってきた空気を通流する。
【0039】
一方、第2平面板62には、エジェクターピン5のピン本体部51を取り付けるためのピン取付穴62aが形成されている。このピン取付穴62aにおいてエジェクターピン5の後端はエジェクタープレート6に固定されて取り付けられる。
【0040】
以上説明してきたエジェクタープレート6では、離型剤配管86を通ってきた離型剤は離型剤通流孔61a、61cを通流する。一方、空気配管87を通ってきた空気は空気通流孔61b、61dを通流する。
【0041】
次に、エジェクターピン5の具体的構成について説明する。前述したようにエジェクターピン5は、ピン本体部51とピン先端部52とを有する構成である。
【0042】
ピン本体部51は中空構造に構成されている。このピン本体部51の内部には、中空の離型剤パイプ51aとこの離型剤パイプ51aの外側の空気通路51bとが軸線Aに平行に形成されている。すなわち、ピン本体部51は2層の中空構造に構成されている。
【0043】
離型剤パイプ51aは、中空状のパイプである。この離型剤パイプ51aは、エジェクターピン5の後端に設けられたパイプ取付部51cにおいてエジェクターピン5に一体化される。このような構成により離型剤パイプ51aは、一端が離型剤連通孔51eにおいてエジェクタープレート6の離型剤通流孔61cに連通するとともに、他端はピン先端部52まで延びて開口する。
【0044】
ここで、離型剤連通孔51e及び離型剤通流孔61cは、いずれもその孔の略中心が軸線A上にある。そのため、エジェクターピン5が軸線Aを中心に図4の矢印方向に回転した場合であっても、離型剤通流孔61cを通ってきた離型剤が離型剤パイプ51aに通流する状態を維持することができる。
【0045】
空気通路51bは、離型剤パイプ51aの外側に形成された空間であってエジェクターピン5の後端に設けられた空気連通孔51dを介してエジェクタープレート6の空気通流孔61dと連通する。これにより、空気通流孔61dを通ってきた空気を通流する。なお、図4に示すように空気通流孔61dは軸線Aを中心に離型剤通流孔61cよりも外側に輪状に形成されている。
【0046】
ここで、空気連通孔51dは、軸線Aを中心に離型剤連通孔51eよりも大きい径で形成されている。またこの空気連通孔51dの内部には、外周の一部が弓形に切り欠いている円盤状のパイプ取付部51c(図4の斜線部)が軸線Aを中心に回転可能に設けられている。そのため、パイプ取付部51c又はエジェクターピン5が軸線Aを中心に図4の矢印方向に回転した場合であっても、空気連通孔51dはパイプ取付部51cの切り欠き部分において空気通流孔61dと空気通路51bを連通した状態を維持する。したがって、空気通流孔61dを通ってきた空気が空気通路51bに通流する状態を維持することができる。
【0047】
このような離型剤パイプ51aと空気通路51bとが形成されたピン本体部51は、可動側型板12との間における磨耗を防ぐ等の理由から例えばHRC55等の高い耐摩耗性や硬度を有する材料で構成される。
【0048】
ピン先端部52はピン本体部51の側が中空構造に構成されている。このピン先端部52は、ピン本体部51と嵌め合うことでピン本体部51と一体化される。またこのピン先端部52の中空部分52aの外周上には、複数の細孔52bが形成されている。この複数の細孔52bは可動側型板12の表面12aを向いた方向(手前方向)に開口するよう形成された細孔である。これにより、これら複数の細孔52bから可動側型板12の表面12aに向かって、離型剤は円錐状に均一に噴霧される及び空気は円錐状に均一に吹き付けられる。
【0049】
また、このピン先端部52には、傾斜面52cが形成されている。この傾斜面52cは、ピン本体部51の離型剤パイプ51aを通流してきた離型剤や空気通路51bを通流してきた空気を細孔52bに導く。そのため、細孔52bからの離型剤の噴霧や空気の吹き付けに係る効率を向上させることができる。
【0050】
このようなピン先端部52は、汎用の熱間ダイス鋼であるSKD61等の材料で構成される。
【0051】
以上説明してきたエジェクターピン5では、空気通路51bを通ってきた空気はピン先端部52の中空部分52aに通流するとともに、細孔52bから可動側型板12の表面12aに吹き付けられる。また、空気が細孔52bから外部に向かって吹き出している状態でさらに離型剤を離型剤パイプ51aに通流させると、この離型剤パイプ51aを通ってピン先端部52の中空部分52aに通流してきた離型剤は、細孔52bから可動側型板12の表面12aに噴霧される。
【0052】
以上、エジェクターピン5とエジェクタープレート6の具体的構成の一例について説明してきた。このように本実施形態に係るダイカスト鋳造装置10によれば、別途スプレー装置を用いて離型剤を噴霧しないので、安価に且つ簡易な構成でサイクルタイムを短縮して生産性を向上させることができる。
【0053】
なお、図2に示すように複数のエジェクターピン5を設けることで、離型剤を成型品Xの表面全体に対して均一に円錐状に噴霧することができる。また、エジェクタープレート6が図中の左右方向に移動して噴霧範囲が可変となるため、可動側型板12の表面12aに離型剤を均一に噴霧することが可能になる。
【0054】
また、図2及び図3に示すようにエジェクターピン5をピン本体部51とピン先端部52の2部品構造で構成することで、エジェクターピン5の耐用性が低下してメンテナンスが必要な場合には、耐用性の高いピン本体部51は取り替えることなく耐用性の低いピン先端部52を取り替えるのみでこのようなメンテナンスを可能にする。
【0055】
(コントローラ85の制御ロジック)
図5は、コントローラ85の制御ロジックを示すフローチャートである。ここでは、コントローラ85が離型剤の噴霧や空気の吹き付けのために実行する制御ロジックについて説明する。なお、図5に示す制御ロジックは、成型品Xの成型が終了して可動側型板12と固定側型板22との間が開いたときに実行開始される。
【0056】
まず、エジェクターピン5に空気を供給する(S1)。ここではコントローラ85は、空気流量調節バルブ84を開いて空気タンク82からエジェクターピン5に空気を供給する。これにより、エジェクターピン5に供給された空気は、ピン先端部52の細孔52bから可動側型板12の表面12aに吹き付けられる。そのため、表面12aに形成された微小の鋳造バリを清掃することができる。
【0057】
続いてステップS2へ進んで、成型品Xがエジェクターピン5によって押し出されたか否かを判定する(S2)。ここではコントローラ85は、シリンダ部7がエジェクタープレート6を押し出したか否かをもって成型品Xが押し出されたか否かを判定する。これはすなわち、以降のステップS3からS7により離型剤の噴霧や空気の吹き付けを開始すべきタイミングであるか否かを判定している。成型品Xが押し出されたときには(S2YES)、ステップS3へ進む。成型品Xが押し出されていないときには(S2NO)、ステップS2へ戻って処理を繰り返す。
【0058】
ステップS3へ進むと、エジェクターピン5に離型剤を供給する(S3)。ここではコントローラ85は、離型剤流量調節バルブ83を開いて離型剤タンク81からエジェクターピン5に離型剤を供給する。これにより、エジェクターピン5に供給された離型剤は、エジェクターピン5のピン先端部52の細孔52bから可動側型板12の表面12aに噴霧される。
【0059】
続いてステップS4へ進んで、離型剤噴霧時間を経過したか否かを判定する(S4)。ここではコントローラ85は、離型剤の噴霧に必要な時間(例えば2秒)を経過したか否かを判定する。離型剤噴霧時間を経過したときには(S4YES)、ステップS5へ進む。離型剤噴霧時間を経過していないときには(S4NO)、ステップS4へ戻って処理を繰り返す。
【0060】
ステップS5へ進むと、エジェクターピン5への離型剤の供給を終了する(S5)。ここではコントローラ85は、離型剤流量調節バルブ83を閉じて離型剤タンク81からエジェクターピン5への離型剤の供給を終了する。なお、ステップS1により供給を開始された空気は、依然としてエジェクターピン5のピン先端部52の細孔52bから可動側型板12の表面12aに吹き付けられる。
【0061】
続いてステップS6へ進んで、空気吹き付け時間を経過したか否かを判定する(S6)。ここではコントローラ85は、空気の吹き付けに必要な時間(例えば2秒)を経過したか否かを判定する。空気吹き付け時間を経過したときには(S6YES)、ステップS7へ進む。空気吹き付け時間を経過していないときには(S6NO)、ステップS6へ戻って処理を繰り返す。
【0062】
ステップS7へ進むと、エジェクターピン5への空気の供給を終了する(S7)。ここではコントローラ85は、空気流量調節バルブ84を閉じて空気タンク82からエジェクターピン5への空気の供給を終了する。
【0063】
以上説明してきたように本実施形態に係るダイカスト鋳造装置10では、成型品Xの成型が終了して可動側型板12と固定側型板22との間が開いたときに、エジェクターピン5を利用して可動側型板12の表面12aに離型剤を噴霧する(S3からS4)とともにその後空気を吹き付けて余分な水分を吹き飛ばしている(S5からS6)。なお、図5に示す制御ロジックを実行後には次の成型品Xの成型のために可動側型板12と固定側型板22との間が閉じることになる。
【0064】
(まとめ)
以上のように、本実施形態によれば、別途スプレー装置を用いて離型剤を噴霧しないので、安価に且つ簡易な構成でサイクルタイムを短縮して生産性を向上させることができる(請求項1に記載の発明の効果)。
【0065】
また、本実施形態によれば、エジェクターピン5が成型品Xを押し出したあとにエジェクターピン5に離型剤を供給している。すなわち、図4のステップS2及びS3に示すようにエジェクターピン5の動き(シリンダ部7の動き)に連動して離型剤を噴霧している。そのため、効率的に離型剤を噴霧することが可能になる(請求項2に記載の発明の効果、請求項8に記載の発明の効果)。
【0066】
また、本実施形態によれば、別途空気吹き付け装置を用いて空気を吹き付けないので、安易に且つ簡易な構成でサイクルタイムを短縮して生産性を向上させることができる。また、空気が細孔52bから外部に向かって吹き出している状態でさらに離型剤を離型剤パイプ51aに通流させることで、離型剤を細孔52bから噴霧させることが可能になる(請求項3に記載の発明の効果)。
【0067】
また、本実施形態によれば、エジェクターピン5に離型剤を供給させたあとに、エジェクターピン5に空気を供給している。すなわち、図5のステップS5及びS6に示すように離型剤を噴霧した後に空気を吹き付けることで、可動側型板12の表面12aの余分な水分等を吹き飛ばすことができる(請求項4に記載の発明の効果)。
【0068】
また、本実施形態によれば、エジェクターピン5は離型剤パイプ51aを備えたピン本体部51と、細孔52bを備えたピン先端部52と、の2部品構造で構成される。そのため、エジェクターピン5の耐用性が低下してメンテナンスが必要な場合には、耐用性の高いピン本体部51は取り替えることなく耐用性の低いピン先端部52を取り替えるのみでこのようなメンテナンスを可能にする。耐用性の低下には、細孔52bにおける離型剤の目詰まりによるものも含まれる(請求項5に記載の発明の効果)。
【0069】
また、本実施形態によれば、ピン先端部52は、ピン本体部51の離型剤パイプ51aを通流してきた離型剤や空気通路51bを通流してきた空気を細孔52bに導く傾斜面52cを有する。そのため、細孔52bからの離型剤の噴霧や空気の吹き付けに係る効率を向上させることができる(請求項6に記載の発明の効果)。
【0070】
また、本実施形態によれば、エジェクターピン5には、エジェクターピン5の回転中心軸である軸線Aを中心に形成され、離型剤通流孔61cと離型剤パイプ51aとを連通する離型剤連通孔51eと、軸線Aを中心に離型剤連通孔51eよりも大きい径で形成され、空気通流孔61dと空気通路51bとを連通する空気連通孔51dと、が形成されている。また、この空気連通孔51dの内部には、外周に切欠きを有する円盤状のパイプ取付部51cが軸線Aを中心に回転可能に設けられている。そのため、パイプ取付部51c又はエジェクターピン5が回転した場合であっても、離型剤通流孔61cを通ってきた離型剤が離型剤パイプ51aに通流する状態及び空気通流孔61dを通ってきた空気がパイプ取付部51cの切り欠き部分において空気通路51bに通流する状態を維持することができる(請求項7に記載の発明の効果)。
【0071】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一つを示したものであり、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0072】
例えば、上記説明においては、可動型1に設けられたエジェクターピン5に離型剤の噴霧機能や空気の吹き付け機能を持たせた場合を例に説明してきたが、この場合に限らない。固定型2にかかる離型剤の噴霧機能や空気の吹き付け機能を持たせたエジェクターピンを設けてもよい。
【0073】
また、例えば、上記説明においては、離型剤流量調節バルブ83や空気流量調節バルブ84を用いてそれぞれ離型剤の供給流量、空気の供給流量を調節する場合を例に説明してきたが、この場合に限らない。かかる機能を備えたポンプ装置等を用いてもよい。
【0074】
また、例えば、上記説明においては、エジェクターピン5が離型剤パイプ51aを備えたピン本体部51と、細孔52bを備えたピン先端部52と、の2部品構造で構成される場合を例に説明してきたが、この場合に限らない。離型剤パイプ51a及び細孔52bを備えたピン本体部51と、ピン先端部52と、の2部品構造等で構成されてもよい。
【0075】
また、例えば、上記図5のステップS1に示すように離型剤を噴霧させる前に空気を吹き付けることで、可動側型板12の表面12aに形成されたバリ等を除去することができる。
【符号の説明】
【0076】
5 エジェクターピン
6 エジェクタープレート
7 シリンダ部
10 ダイカスト鋳造装置
11 可動側取付板
12 可動側型板
12a 表面
21 固定側取付板
22 固定側型板
51 ピン本体部
51a 離型剤パイプ(離型剤通路)
51b 空気通路
51c パイプ取付部(取付部材)
51d 空気連通孔
51e 離型剤連通孔
52 ピン先端部
52b 細孔(噴霧孔)
52c 傾斜面
81 離型剤タンク
82 空気タンク
83 離型剤流量調節バルブ(離型剤流量調節機構)
84 空気流量調節バルブ(空気流量調節機構)
85 コントローラ(制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成型用の金型と、前記金型の表面から成型品を押し出すエジェクターピンと、を備えたダイカスト鋳造装置であって、
前記エジェクターピンの内部には離型剤が通流する離型剤通路が形成され、及び、前記エジェクターピンの先端部には前記離型剤通路を通流してきた離型剤を前記金型の表面に噴霧する噴霧孔が形成されたことを特徴とするダイカスト鋳造装置。
【請求項2】
前記離型剤通路に供給する離型剤を蓄える離型剤タンクと、
前記離型剤タンクから前記離型剤通路への離型剤の供給流量を調節する離型剤流量調節機構と、
前記離型剤流量調節機構の動作を制御する制御手段と、
を有し、
前記制御手段は、前記エジェクターピンが前記成型品を押し出したあとに、前記離型剤流量調節機構により前記離型剤通路に離型剤を所定時間だけ供給させることを特徴とする請求項1に記載のダイカスト鋳造装置。
【請求項3】
前記エジェクターピンの内部には空気が通流する空気通路がさらに形成され、
前記噴霧孔は、前記離型剤通路を通流してきた離型剤に加え、前記空気通路を通流してきた空気を前記金型の表面に吹き付けることを特徴とする請求項2に記載のダイカスト鋳造装置。
【請求項4】
前記空気通路に供給する空気を蓄える空気タンクと、
前記空気タンクから前記空気通路への空気の供給流量を調節する空気流量調節機構と、
を有し、
前記制御手段は、さらに、前記離型剤流量調節機構により前記離型剤を供給させたあとに、前記空気流量調節機構により前記空気通路に空気を所定時間だけ供給させることを特徴とする請求項3に記載のダイカスト鋳造装置。
【請求項5】
前記エジェクターピンは、前記離型剤通路を備えたピン本体部と、前記噴霧孔を備えたピン先端部と、の2部品構造で構成されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のダイカスト鋳造装置。
【請求項6】
前記ピン先端部は、前記ピン本体部の離型剤通路を通流してきた離型剤を前記噴霧孔に導く傾斜面を有することを特徴とする請求項5に記載のダイカスト鋳造装置。
【請求項7】
前記エジェクターピンの後端部を固定するとともに、前記エジェクターピンの回転中心軸を中心に形成され、前記離型剤タンクから供給された離型剤を通流する離型剤通流孔と、前記エジェクターピンの回転中心軸を中心に前記離型剤通流孔よりも外側に輪状に形成され、前記空気タンクから供給された空気を通流する空気通流孔と、を有するエジェクタープレートを備え、
前記エジェクターピンは、
前記回転中心軸を中心に形成され、前記離型剤通流孔と前記離型剤通路とを連通する離型剤連通孔と、
前記回転中心軸を中心に前記離型剤連通孔よりも大きい径で形成され、前記空気通流孔と前記空気通路とを連通する孔であって、該孔の内部には外周に切欠きを有する円盤状の前記離型剤通路の取付部材が前記回転中心軸を中心に回転可能に設けられた空気連通孔と、
を有することを特徴とする請求項4に記載のダイカスト鋳造装置。
【請求項8】
成型用の金型と、前記金型の表面から成型品を押し出すエジェクターピンと、を備え、前記エジェクターピンの内部には離型剤が通流する離型剤通路が形成され、及び、前記エジェクターピンの先端部には前記離型剤通路を通流してきた離型剤を前記金型の表面に噴霧する噴霧孔が形成されたダイカスト鋳造装置における離型剤噴霧方法であって、
前記エジェクターピンが前記成型品を押し出したあとに、前記噴霧孔から離型剤を所定時間だけ噴霧させる工程を有することを特徴とするダイカスト鋳造装置における離型剤噴霧方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【公開番号】特開2011−5528(P2011−5528A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−152270(P2009−152270)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【出願人】(000124889)株式会社花野 (7)
【Fターム(参考)】