説明

ダイヘッドおよびダイヘッドのスリットの隙間の大きさの調整方法

【課題】一対の本体ブロックの先端部に形成されたスリットの隙間の大きさを微細に再現性良く調整することができるとともにこのスリットの隙間の大きさを十分に大きなものとすることができるダイヘッドおよびそのスリットの隙間の大きさの調整方法を提供する。
【解決手段】一対の本体ブロック12、14のうちいずれか一方の本体ブロックに締結/調整ボルト26が設けられている。また、一対の本体ブロック12、14のうちいずれか一方の本体ブロックにおいて締結/調整ボルト26よりもスリット18から遠い側に、他方の本体ブロックを押圧する第1の押しボルト24が設けられている。また、一対の本体ブロック12、14のうちいずれか一方の本体ブロックにおいて締結/調整ボルト26よりもスリット18に近い側に、他方の本体ブロックを押圧する第2の押しボルト28が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理物に対して塗布液を塗布するためのダイヘッドおよびそのスリットの隙間の大きさの調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、被処理物(具体的には、例えばディスプレイの表面材に使われる光学フィルム等)に対して塗布液を塗布するためのダイヘッドとして、様々なタイプのものが知られている。一般的に、ダイヘッドは一対の本体ブロックから構成されており、一方の本体ブロックには塗布液の流路が設けられている。そして、一対の本体ブロックを重ね合わせたときにこの流路を介して当該一対の本体ブロックの先端部に形成されたスリットから塗布液が吐出されるようになっている。このようなダイヘッドでは、スリットの隙間の大きさがダイヘッドの長手方向において不均一であると塗布液の吐出量に差が生じ、塗布膜厚が不均一になったり、また、その膜厚の不均一が原因で縦筋むらが発生したりするという問題があった。このように、従来から、ダイヘッドにおいてスリットの隙間の大きさを適切に調整することが必要とされてきた。
【0003】
従来から、このようなダイヘッドにおけるスリットの隙間の大きさを調整する方法として、油圧ユニットやヒートボルト、差動ネジを用いて本体ブロックを弾性変形させる方法が用いられてきたが、十分な精度や再現性を得ることができていなかった。
【0004】
また、特許文献1には、ダイヘッドにおけるスリットの隙間の大きさを簡易的な方法で調整する方法が開示されている。ここで、図7および図8は、特許文献1に示されるダイヘッドの両端部および中央部における断面図をそれぞれ示している。図7および図8に示すように、特許文献1に示されるダイヘッド50は一対の剛性の本体ブロック52、54から構成されており、一方の本体ブロック54には塗布液の流路(マニホールド)56が設けられている。そして、一対の本体ブロック52、54を重ね合わせたときにこの流路56を介して当該一対の本体ブロック52、54の先端部に形成されたスリット58から塗布液が図7等における下方に吐出されるようになっている。図7に示すように、このダイヘッド50の長手方向における両端部ではスリット58側から順に端部調節用ボルト60、固定ボルト62、端部調節用ボルト64が設けられており、これらのボルト60、62、64により一対の本体ブロック52、54の長手方向における両端部が締結されるようになっている。また、図8に示すように、このダイヘッド50の長手方向における中央部ではスリット58側から順に中央部調節用ボルト66、押しボルト68、固定ボルト70が設けられており、これらのボルト66、68、70により一対の本体ブロック52、54の長手方向における中央部が締結されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−167532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図7および図8に示されるような従来のダイヘッド50では、本体ブロック52、54の剛性を保ったままでスリット58の隙間の大きさについて微細な調整が可能となる。しかし、図8に示すように、ダイヘッド50の長手方向における中央部において、押しボルト68と固定ボルト70との間の距離が小さく、この押しボルト68により発生させられるモーメントが小さいため、スリット58の隙間の大きさの調整幅が小さくなり、スリット58の隙間の大きさを所望のスリット偏差内の大きさとすることが困難であった。
【0007】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、一対の本体ブロックの先端部に形成されたスリットの隙間の大きさを微細に再現性良く調整することができるとともにこのスリットの隙間の大きさを十分に大きなものとすることができるダイヘッドおよびそのスリットの隙間の大きさの調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のダイヘッドは、被処理物に対して塗布液を塗布するためのダイヘッドであって、一対の剛性の本体ブロックであって、少なくともいずれか一方の本体ブロックには塗布液の流路が設けられており、前記一対の本体ブロックを重ね合わせたときに前記流路を介して前記一対の本体ブロックの先端部に形成されたスリットから塗布液が吐出されるようになっている一対の本体ブロックと、前記一対の本体ブロックのうちいずれか一方の本体ブロックに設けられ、当該一対の本体ブロックを締結する締結ボルトと、前記一対の本体ブロックのうちいずれか一方の本体ブロックにおいて前記締結ボルトよりも前記スリットから遠い側に設けられた第1の押しボルトであって、前記一対の本体ブロックが前記締結ボルトにより締結されたときに前記第1の押しボルトが設けられていない側の本体ブロックを押圧する第1の押しボルトと、前記一対の本体ブロックのうちいずれか一方の本体ブロックにおいて前記締結ボルトよりも前記スリットに近い側に設けられた第2の押しボルトであって、前記一対の本体ブロックが前記締結ボルトにより締結されたときに前記第2の押しボルトが設けられていない側の本体ブロックを押圧する第2の押しボルトと、を備えたことを特徴とする。
【0009】
このようなダイヘッドによれば、一対の本体ブロックのうち少なくとも一方の本体ブロックにおいて、締結ボルトの両側(スリットから遠い側とスリットに近い側)に第1の押しボルトおよび第2の押しボルトがそれぞれ設けられているため、このスリットの隙間の大きさを微細に調整することができるようになる。また、一対の本体ブロックを締結した締結ボルトと、第1の押しボルトまたは第2の押しボルトとの間の距離が大きくなっているため、スリットの隙間の大きさの変化量も大きくなる。このように、従来のダイヘッドでは得られなかったような大きさのスリットの隙間を得ることができるようになるので、必要とされるスリットの隙間の大きさが様々な大きさであっても十分に対応することができるようになる。
【0010】
本発明のダイヘッドにおいては、前記締結ボルトは、前記一対の本体ブロックを締結するとともに前記スリットの隙間の大きさを調整する締結/調整ボルトからなっていてもよい。
【0011】
本発明のダイヘッドにおいては、前記締結ボルト、前記第1の押しボルトおよび前記第2の押しボルトは、前記ダイヘッドにおける同一断面上に配置されていていてもよい。
【0012】
あるいは、前記ダイヘッドにおける前記締結ボルトが配置される断面は、前記ダイヘッドにおける前記第1の押しボルトおよび前記第2の押しボルトが配置される断面とは異なるようになっていてもよい。
【0013】
本発明のダイヘッドにおいては、前記締結ボルト、前記第1の押しボルトおよび前記第2の押しボルトは、前記一対の本体ブロックのうち同じ側の本体ブロックに全て配置されていてもよい。
【0014】
本発明のダイヘッドのスリットの隙間の大きさの調整方法は、一対の剛性の本体ブロックであって、少なくともいずれか一方の本体ブロックには塗布液の流路が設けられており、前記一対の本体ブロックを重ね合わせたときに前記流路を介して前記一対の本体ブロックの先端部に形成されたスリットから塗布液が吐出されるようになっている一対の本体ブロックを締結ボルトにより締結する工程と、前記一対の本体ブロックのうちいずれか一方の本体ブロックにおいて前記締結ボルトよりも前記スリットから遠い側に設けられた第1の押しボルト、または前記一対の本体ブロックのうちいずれか一方の本体ブロックにおいて前記締結ボルトよりも前記スリットに近い側に設けられた第2の押しボルトにより、他方の本体ブロックを押圧することによって、前記一対の本体ブロックの先端部に形成された前記スリットの隙間の大きさを調整する工程と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のダイヘッドおよびそのスリットの隙間の大きさの調整方法によれば、一対の本体ブロックの先端部に形成されたスリットの隙間の大きさを微細に再現性良く調整することができるとともにこのスリットの隙間の大きさを十分に大きなものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一の実施の形態によるダイヘッドの構成の概略を示す斜視図である。
【図2】図1に示すダイヘッドを二点鎖線Aで切ったときの断面図である。
【図3】図1に示すダイヘッドを二点鎖線Bで切ったときの断面図である。
【図4】本発明におけるダイヘッドの他の構成の概略を示す斜視図である。
【図5】図4に示すダイヘッドを二点鎖線Cで切ったときの断面図である。
【図6】図4に示すダイヘッドを二点鎖線Dで切ったときの断面図である。
【図7】従来のダイヘッドの両端部における断面図である。
【図8】従来のダイヘッドの中央部における断面図である。
【図9】実施例1および比較例における押しボルトの締め込みトルク(横軸)とスリットの隙間の大きさの変化量(縦軸)との関係を示すグラフである。
【図10】実施例2および比較例における押しボルトの締め込みトルク(横軸)とスリットの隙間の大きさの変化量(縦軸)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の一の実施の形態について説明する。図1乃至図3は、本実施の形態に係るダイヘッドを示す図である。このうち、図1は、本実施の形態によるダイヘッドの構成の概略を示す斜視図であり、図2は、図1に示すダイヘッドを二点鎖線Aで切ったときの断面図であり、図3は、図1に示すダイヘッドを二点鎖線Bで切ったときの断面図である。
【0018】
図1に示すように、本実施の形態によるダイヘッド10は、一対の剛性の本体ブロック12、14から構成されており、一方の本体ブロック14には、塗布液の流路(マニホールド)16が設けられている。そして、一対の本体ブロック12、14を重ね合わせたときにこの流路16を介して当該一対の本体ブロック12、14の先端部に形成されたスリット18から塗布液が図1における下方に吐出されるようになっている。
【0019】
また、図1に示すように、ダイヘッド10は、その長手方向において、図2に示すような構成の断面と図3に示すような構成の断面が交互に繰り返すような構造となっている。ここで、図2に示すように、図1に示すダイヘッド10を二点鎖線Aで切ったときの断面図において、本体ブロック14には2本の締結/調整ボルト20、22が設けられている。それぞれの締結/調整ボルト20、22は、一対の本体ブロック12、14を締結するとともに、この一対の本体ブロック12、14間における締結力を調整することによりスリット18の隙間の大きさを調整するようになっている。
【0020】
また、図3に示すように、図1に示すダイヘッド10を二点鎖線Bで切ったときの断面図において、本体ブロック14にはスリット18から遠い側から順に第1の押しボルト24、締結/調整ボルト26、第2の押しボルト28がそれぞれ設けられている。ここで、締結/調整ボルト26は、一対の本体ブロック12、14を締結するとともに、この一対の本体ブロック12、14間における締結力を調整することによりスリット18の隙間の大きさを調整するようになっている。また、第1の押しボルト24および第2の押しボルト28は、それぞれ、本体ブロック14に強く締め込まれたときに本体ブロック12を押圧するようになっている。図3に示すように、第1の押しボルト24、締結/調整ボルト26および第2の押しボルト28はダイヘッド10における同一断面上に配置されている。また、第1の押しボルト24、締結/調整ボルト26および第2の押しボルト28は、一対の本体ブロック12、14のうち同じ側の本体ブロック、すなわち本体ブロック14に全て配置されている。また、一対の本体ブロック12、14のうち締結/調整ボルト20、22、26が設けられていない側の本体ブロック、すなわち本体ブロック12には、締結/調整ボルト20、22、26を受ける雌ねじ部分20a、22a、26aがそれぞれ形成されている。
【0021】
図1乃至図3に示すようなダイヘッド10によれば、図7に示すような従来のダイヘッド50の長手方向における両端部の構成と比較して、端部調節用ボルト60、64を用いる代わりに第1の押しボルト24および第2の押しボルト28を使用することによって、より大きなモーメントを得ることができるようになる。また、図8に示すような従来のダイヘッド50の長手方向における中央部の構成と比較して、締結/調整ボルト26と、第1の押しボルト24および第2の押しボルト28との間の距離が大きいため、より大きなモーメントを得ることができるようになる。一般的に、押しボルトに力を掛けた場合には、ダイヘッドのスリットの隙間の大きさは以下に示すような式(1)により算出されるようになっている。
x=β×Wa÷EI ・・・式(1)
x:スリットの隙間の大きさの変化量
β:たわみ係数
W:押しボルトの締め込み強さ
a:一対の本体ブロックを締結したボルトと押しボルトとの間の距離
E:材料の弾性係数
I:断面2次モーメント
この式(1)により、ダイヘッドのスリットの隙間の大きさ(x)は、一対の本体ブロックを締結したボルトと押しボルトとの間の距離(a)の3乗の大きさに比例することがわかる。
【0022】
このように、図1乃至図3に示すようなダイヘッド10では、一対の本体ブロック12、14を締結した締結/調整ボルト26と、第1の押しボルト24または第2の押しボルト28との間の距離が大きくなっているため、スリット18の隙間の大きさの変化量も大きくなる。このように、本実施の形態のダイヘッド10では、従来のダイヘッドでは得られなかったような大きさのスリット18の隙間を得ることができるようになるので、必要とされるスリット18の隙間の大きさが様々な大きさであっても十分に対応することができるようになる。また、一対の本体ブロック12、14自体は剛性であるため、スリット18の隙間の大きさの調整において高い再現性を得ることができる。
【0023】
また、図1乃至図3に示すようなダイヘッド10では、締結/調整ボルト26に対してスリット18から遠い側およびスリット18に近い側にそれぞれ第1の押しボルト24および第2の押しボルト28が配置されている。このため、スリット18の隙間を小さくするためには第1の押しボルト24の締め込み強さをより強くし、一方、スリット18の隙間を大きくするためには第2の押しボルト28の締め込み強さをより強くするだけでいいので、このスリット18の隙間の大きさを微細に調整することができるようになる。
【0024】
さらに、本実施の形態のダイヘッド10では、一対の本体ブロック12、14の合わせ面の面粗度(面粗さ)をRz0.2μm以下とし、一対の本体ブロック12、14の組み付け時の再現性を向上させるようにしている。このことにより、スリット18の隙間の大きさの調整においてより高い再現性を得ることができるようになる。
【0025】
また、図1乃至図3に示すようなダイヘッド10では、図3に示すような締結/調整ボルト26だけではなく、この締結/調整ボルト26が設けられたダイヘッド10の断面とは当該ダイヘッド10の長手方向における位置が異なる断面(すなわち、図2に示す断面)において、2本の締結/調整ボルト20、22により一対の本体ブロック12、14が締結されているので、これらの締結/調整ボルト20、22により締結力を補強することができるようになる。
【0026】
次に、このような構成からなるダイヘッド10のスリット18の隙間の大きさの調整方法について説明する。
【0027】
まず、一対の本体ブロック12、14を準備し、これらの一対の本体ブロック12、14を互いに重ね合わせる。そして、重ね合わせられた一対の本体ブロック12、14を締結/調整ボルト26により締結する。
【0028】
次に、第1の押しボルト24または第2の押しボルト28、あるいは第1の押しボルト24および第2の押しボルト28の両方を本体ブロック14に取り付け、第1の押しボルト24および/または第2の押しボルト28により、本体ブロック12を押圧するようになっている。具体的には、スリット18の隙間を小さくしたい場合には、第1の押しボルト24の締め込み強さをより強くし、この第1の押しボルト24が本体ブロック12を押圧する力を強くする。このことにより、締結/調整ボルト26を中心としてモーメントが働き、スリット18近傍において本体ブロック12が本体ブロック14に近づくようになる。このようにして、スリット18の隙間が小さくなる。一方、スリット18の隙間を大きくしたい場合には、第2の押しボルト28の締め込み強さをより強くし、この第2の押しボルト28が本体ブロック12を押圧する力を強くする。このことにより、締結/調整ボルト26を中心としてモーメントが働き、スリット18近傍において本体ブロック12が本体ブロック14から遠ざかるようになる。このようにして、スリット18の隙間が大きくなる。
【0029】
また、前述のように、図1乃至図3に示すようなダイヘッド10では、一対の本体ブロック12、14を締結した締結/調整ボルト26と、第1の押しボルト24または第2の押しボルト28との間の距離が大きくなっているため、スリットの隙間の大きさの変化量も大きくなる。このように、従来のダイヘッドでは得られなかったような大きさのスリット18の隙間を得ることができるようになるので、必要とされるスリット18の隙間の大きさが様々な大きさであっても十分に対応することができるようになる。
【0030】
このようにして、第1の押しボルト24、締結/調整ボルト26および第2の押しボルト28により、一対の本体ブロック12、14の先端部に形成されたスリット18の隙間の大きさを微細に調整することができるとともにこのスリット18の隙間の大きさを十分に大きなものとすることができるようになる。
【0031】
以上のように本実施の形態のダイヘッド10によれば、一対の本体ブロック12、14のうち一方の本体ブロック14には、当該一対の本体ブロック12、14を締結するとともにスリット18の隙間の大きさを調整する締結/調整ボルト26が設けられており、また、一対の本体ブロック12、14のうち一方の本体ブロック14において締結/調整ボルト26よりもスリット18から遠い側には、他方の本体ブロック12を押圧する第1の押しボルト24が設けられており、さらに、一対の本体ブロック12、14のうち一方の本体ブロック14において締結/調整ボルト26よりもスリット18に近い側には、他方の本体ブロック12を押圧する第2の押しボルト28が設けられている。このように、一対の本体ブロック12、14のうち一方の本体ブロック14において、締結/調整ボルト26の両側(スリット18から遠い側とスリット18に近い側)に第1の押しボルト24および第2の押しボルト28がそれぞれ設けられているため、このスリット18の隙間の大きさを微細に調整することができるようになる。また、一対の本体ブロック12、14を締結した締結/調整ボルト26と、第1の押しボルト24または第2の押しボルト28との間の距離が大きくなっているため、スリット18の隙間の大きさの変化量も大きくなる。このように、従来のダイヘッドでは得られなかったような大きさのスリット18の隙間を得ることができるようになるので、必要とされるスリット18の隙間の大きさが様々な大きさであっても十分に対応することができるようになる。
【0032】
また、本実施の形態のダイヘッド10においては、前述のように、第1の押しボルト24、締結/調整ボルト26および第2の押しボルト28はダイヘッド10における同一断面上に配置されている。また、第1の押しボルト24、締結/調整ボルト26および第2の押しボルト28は、一対の本体ブロック12、14のうち同じ側の本体ブロック、すなわち本体ブロック14に全て配置されている。
【0033】
なお、本発明によるダイヘッド10は、上記の態様に限定されることはなく、様々な変更を加えることができる。例えば、本発明によるダイヘッドとして、図4乃至図6に示すような構成のものを用いてもよい。ここで、図4は、変形例に係るダイヘッド10aの構成の概略を示す斜視図であり、図5は、図4に示すダイヘッド10aを二点鎖線Cで切ったときの断面図であり、図6は、図4に示すダイヘッド10aを二点鎖線Dで切ったときの断面図である。なお、以下に示すような変形例に係るダイヘッド10aの説明において、図1乃至図3に示すようなダイヘッド10と同一の構成要素については同一の参照符号を付してその説明を省略する。
【0034】
図4に示すように、変形例に係るダイヘッド10aは、その長手方向において、図5に示すような構成の断面と図6に示すような構成の断面が交互に繰り返すような構造となっている。ここで、図5に示すように、図4に示すダイヘッド10aを二点鎖線Cで切ったときの断面図において、本体ブロック14には1本の締結/調整ボルト30が設けられており、この締結/調整ボルト30は、一対の本体ブロック12、14を締結するとともに、この一対の本体ブロック12、14間における締結力を調整することによりスリット18の隙間の大きさを調整するようになっている。
【0035】
また、図6に示すように、図4に示すダイヘッド10aを二点鎖線Dで切ったときの断面では、図1に示すダイヘッド10を二点鎖線Bで切ったときの断面(図3参照)と比較して、締結/調整ボルト26が設けられていない。このように、変形例に係るダイヘッド10aでは、図1乃至図3に示すようなダイヘッド10と比較して、図1に示すダイヘッド10を二点鎖線Bで切ったときの断面における締結/調整ボルト26を設けない代わりに、図4に示すように第1の押しボルト24および第2の押しボルト28が設けられる断面とは異なる断面に締結/調整ボルト30を設けるようにしている。すなわち、変形例に係るダイヘッド10aでは、当該ダイヘッド10aにおける締結/調整ボルト30が配置される断面は、ダイヘッド10aにおける第1の押しボルト24および第2の押しボルト28が配置される断面とは異なるようになっている。
【0036】
なお、図5および図6に示すように、ダイヘッド10aを長手方向から見た場合において、第1の押しボルト24は締結/調整ボルト30よりもスリット18から遠い位置に配置されている。すなわち、第1の押しボルト24とスリット18との間の距離は、締結/調整ボルト30とスリット18との間の距離よりも大きくなっている。また、ダイヘッド10aを長手方向から見た場合において、第2の押しボルト28は締結/調整ボルト30よりもスリット18に近い位置に配置されている。すなわち、第2の押しボルト28とスリット18との間の距離は、締結/調整ボルト30とスリット18との間の距離よりも小さくなっている。なお、第1の押しボルト24、第2の押しボルト28および締結/調整ボルト30は、一対の本体ブロック12、14のうち同じ側の本体ブロック、すなわち本体ブロック14に全て配置されている。また、一対の本体ブロック12、14のうち締結/調整ボルト30が設けられていない側の本体ブロック、すなわち本体ブロック12には、締結/調整ボルト30を受ける雌ねじ部分30aが形成されている。
【0037】
図4乃至図6に示すような変形例に係るダイヘッド10aでも、図1乃至図3に示すようなダイヘッド10と同様に、一対の本体ブロック12、14のうち一方の本体ブロック14において、ダイヘッド10を長手方向から見て締結/調整ボルト30の両側(スリット18から遠い側とスリット18に近い側)に第1の押しボルト24および第2の押しボルト28がそれぞれ設けられているため、このスリット18の隙間の大きさを微細に調整することができるようになる。また、一対の本体ブロック12、14を締結した締結/調整ボルト30と、第1の押しボルト24または第2の押しボルト28との間の距離が大きくなっているため、スリット18の隙間の大きさの変化量も大きくなる。このように、従来のダイヘッドでは得られなかったような大きさのスリット18の隙間を得ることができるようになるので、必要とされるスリット18の隙間の大きさが様々な大きさであっても十分に対応することができるようになる。
【0038】
また、他の変形例において、図1乃至図3に示すようなダイヘッド10について、一対の本体ブロック12、14を締結するとともにスリット18の隙間の大きさを調整する締結/調整ボルト26を一方の本体ブロック14に設ける代わりに、スリット18の隙間の大きさを調整することはできないが一対の本体ブロック12、14を締結することができる締結ボルトを用いてもよい。
【実施例1】
【0039】
次に、図1乃至図3に示すようなダイヘッド10を用いた場合における実施例について以下に説明する。実施例1では、図1乃至図3に示すようなダイヘッド10を用いた場合におけるスリット18の隙間の大きさの変化量を計測した。この実施例1において、初期の組み付け時におけるダイヘッド10のスリット18の隙間の大きさを100μm、ダイヘッド10の長手方向の幅の大きさを1000mmとした。また、図2に示すような、図1に示すダイヘッド10を二点鎖線Aで切ったときの断面において、締結/調整ボルト20による締め込みトルクを20N、締結/調整ボルト22による締め込みトルクを5Nとした。また、図3に示すような、図1に示すダイヘッド10を二点鎖線Bで切ったときの断面において、第1の押しボルト24による締め込みトルクを0、締結/調整ボルト26による締め込みトルクを5Nとし、第2の押しボルト28による締め込みトルクを0〜20Nの間で1N単位で変化させた。
【0040】
実施例1において、第2の押しボルト28による締め込みトルクを0〜20Nの間で1N単位で変化させたときの、スリット18の隙間の大きさの変化量を図9のグラフの実線で示す。ここで、スリット18の隙間の大きさの変化量とは、スリット18の隙間の初期の大きさ100μmからどれくらい変化したかを示している。
【0041】
また、比較例として、図7および図8に示すような従来のダイヘッド50を用いた場合におけるスリット18の隙間の大きさの変化量を計測した。この比較例において、初期の組み付け時におけるダイヘッド50のスリット18の隙間の大きさを100μm、ダイヘッド50の長手方向の幅の大きさを1000mmとした。また、図8に示すような、従来のダイヘッド50の中央部の断面において、中央部調節用ボルト66による締め込みトルクを0、固定ボルト70による締め込みトルクを20Nとし、押しボルト68による締め込みトルクを0〜20Nの間で1N単位で変化させた。
【0042】
この比較例において、第2の押しボルト28による締め込みトルクを0〜20Nの間で1N単位で変化させたときの、スリット18の隙間の大きさの変化量を図9のグラフの点線で示す。
【0043】
図9のグラフにおいて実施例1におけるスリット18の隙間の大きさの変化量(図9のグラフの実線)および比較例におけるスリット18の隙間の大きさの変化量(図9のグラフの点線)を比較すると、実施例1におけるスリット18の隙間の大きさの変化量が比較例に比べて十分に大きくなることがわかった。このように、本発明では、図1乃至図3に示すような構成のダイヘッド10を採用することにより、一対の本体ブロック12、14を締結した締結/調整ボルト26と、第1の押しボルト24または第2の押しボルト28との間の距離が大きくなっているため、スリット18の隙間の大きさの変化量も大きくなることがわかった。
【実施例2】
【0044】
次に、図1乃至図3に示すようなダイヘッド10を用いた場合における他の実施例について以下に説明する。実施例2では、実施例1と同様に、図1乃至図3に示すようなダイヘッド10を用いた場合におけるスリット18の隙間の大きさの変化量を計測した。この実施例2において、初期の組み付け時におけるダイヘッド10のスリット18の隙間の大きさを100μm、ダイヘッド10の長手方向の幅の大きさを1000mmとした。また、図2に示すような、図1に示すダイヘッド10を二点鎖線Aで切ったときの断面において、締結/調整ボルト20による締め込みトルクを20N、締結/調整ボルト22による締め込みトルクを0とした。また、図3に示すような、図1に示すダイヘッド10を二点鎖線Bで切ったときの断面において、第1の押しボルト24による締め込みトルクを0、締結/調整ボルト26による締め込みトルクを0とし、第2の押しボルト28による締め込みトルクを0〜20Nの間で1N単位で変化させた。
【0045】
実施例2において、第2の押しボルト28による締め込みトルクを0〜20Nの間で1N単位で変化させたときの、スリット18の隙間の大きさの変化量を図10のグラフの実線で示す。ここで、スリット18の隙間の大きさの変化量とは、スリット18の隙間の初期の大きさ100μmからどれくらい変化したかを示している。
【0046】
また、図9のグラフで用いた比較例におけるスリット18の隙間の大きさの変化量を、参照のため図10のグラフでも同様に点線で表示した。
【0047】
図10のグラフにおいて実施例2におけるスリット18の隙間の大きさの変化量(図10のグラフの実線)および比較例におけるスリット18の隙間の大きさの変化量(図10のグラフの点線)を比較すると、実施例2におけるスリット18の隙間の大きさの変化量が比較例に比べて十分に大きくなることがわかった。このように、実施例1による結果と同様に、実施例2による結果でも、本発明では、図1乃至図3に示すような構成のダイヘッド10を採用することにより、一対の本体ブロック12、14を締結した締結/調整ボルト26と、第1の押しボルト24または第2の押しボルト28との間の距離が大きくなっているため、スリット18の隙間の大きさの変化量も大きくなることがわかった。
【符号の説明】
【0048】
10、10a ダイヘッド
12 本体ブロック
14 本体ブロック
16 塗布液の流路
18 スリット
20 締結/調整ボルト
20a 雌ねじ部分
22 締結/調整ボルト
22a 雌ねじ部分
24 第1の押しボルト
26 締結/調整ボルト
26a 雌ねじ部分
28 第2の押しボルト
30 締結/調整ボルト
30a 雌ねじ部分
50 従来のダイヘッド
52 本体ブロック
54 本体ブロック
56 塗布液の流路
58 スリット
60 端部調節用ボルト
62 固定ボルト
64 端部調節用ボルト
66 中央部調節用ボルト
68 押しボルト
70 固定ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物に対して塗布液を塗布するためのダイヘッドであって、
一対の剛性の本体ブロックであって、少なくともいずれか一方の本体ブロックには塗布液の流路が設けられており、前記一対の本体ブロックを重ね合わせたときに前記流路を介して前記一対の本体ブロックの先端部に形成されたスリットから塗布液が吐出されるようになっている一対の本体ブロックと、
前記一対の本体ブロックのうちいずれか一方の本体ブロックに設けられ、当該一対の本体ブロックを締結する締結ボルトと、
前記一対の本体ブロックのうちいずれか一方の本体ブロックにおいて前記締結ボルトよりも前記スリットから遠い側に設けられた第1の押しボルトであって、前記一対の本体ブロックが前記締結ボルトにより締結されたときに前記第1の押しボルトが設けられていない側の本体ブロックを押圧する第1の押しボルトと、
前記一対の本体ブロックのうちいずれか一方の本体ブロックにおいて前記締結ボルトよりも前記スリットに近い側に設けられた第2の押しボルトであって、前記一対の本体ブロックが前記締結ボルトにより締結されたときに前記第2の押しボルトが設けられていない側の本体ブロックを押圧する第2の押しボルトと、
を備えたことを特徴とするダイヘッド。
【請求項2】
前記締結ボルトは、前記一対の本体ブロックを締結するとともに前記スリットの隙間の大きさを調整する締結/調整ボルトからなることを特徴とする請求項1記載のダイヘッド。
【請求項3】
前記締結ボルト、前記第1の押しボルトおよび前記第2の押しボルトは、前記ダイヘッドにおける同一断面上に配置されていることを特徴とする請求項1または2記載のダイヘッド。
【請求項4】
前記ダイヘッドにおける前記締結ボルトが配置される断面は、前記ダイヘッドにおける前記第1の押しボルトおよび前記第2の押しボルトが配置される断面とは異なるようになっていることを特徴とする請求項1または2記載のダイヘッド。
【請求項5】
前記締結ボルト、前記第1の押しボルトおよび前記第2の押しボルトは、前記一対の本体ブロックのうち同じ側の本体ブロックに全て配置されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のダイヘッド。
【請求項6】
被処理物に対して塗布液を塗布するためのダイヘッドのスリットの隙間の大きさの調整方法であって、
一対の剛性の本体ブロックであって、少なくともいずれか一方の本体ブロックには塗布液の流路が設けられており、前記一対の本体ブロックを重ね合わせたときに前記流路を介して前記一対の本体ブロックの先端部に形成されたスリットから塗布液が吐出されるようになっている一対の本体ブロックを締結ボルトにより締結する工程と、
前記一対の本体ブロックのうちいずれか一方の本体ブロックにおいて前記締結ボルトよりも前記スリットから遠い側に設けられた第1の押しボルト、または前記一対の本体ブロックのうちいずれか一方の本体ブロックにおいて前記締結ボルトよりも前記スリットに近い側に設けられた第2の押しボルトにより、他方の本体ブロックを押圧することによって、前記一対の本体ブロックの先端部に形成された前記スリットの隙間の大きさを調整する工程と、
を備えたことを特徴とするダイヘッドのスリットの隙間の大きさの調整方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−210606(P2012−210606A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78526(P2011−78526)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】