説明

ダイヤフラムポンプ

【課題】振動ダイヤフラムの振動でポンプ作用を得るダイヤフラムポンプにおいて、簡単な構造で効果的に脈動の軽減を図る。
【解決手段】脈動軽減ダイヤフラムの表裏の両方を液室とし、この表裏の液室の一方を吸入ポート又は吐出ポートに連通させ、他方を吐出ポート又は吸入ポートに連通させ、脈動軽減ダイヤフラムの表裏に液体を導入して、脈動の軽減を図ったダイヤフラムポンプ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤフラムポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
振動するダイヤフラムによってポンプ作用を得るポンプとして、例えば圧電ポンプがある。圧電ポンプは、圧電振動子を一対のハウジングで挟着して該圧電振動子の表裏の少なくとも一方にポンプ室を形成し、該ポンプ室と吸入ポートとの間に該吸入ポートから該ポンプ室への流体流を許容しその逆方向の流体流を許さない吸入側逆止弁を設け、ポンプ室と吐出ポートとの間に該ポンプ室から吐出ポートへの流体流を許容しその逆方向の流体流を許さない吐出側逆止弁を設けている。圧電振動子が振動すると、ポンプ室の容積が大きくなる行程では、流入側逆止弁が開き吐出側逆止弁が閉じて吸入ポートからポンプ室内に流体が流入し、逆にポンプ室の容積が小さくなる行程では、吐出側逆止弁が開き吸入側逆止弁が閉じてポンプ室から吐出ポートに流体が吐出され、ポンプ作用が得られる。
【特許文献1】登録実用新案第2535320号公報
【特許文献2】実開昭61-144282号公報
【特許文献3】特開2000-265963号公報
【特許文献4】特開2000-274374号公報
【特許文献5】特開2002-202061公報
【特許文献6】特開2006-112368号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような動作原理のダイヤフラムポンプは、振動ダイヤフラムの振動によって、吸入ポートと吐出ポート内の圧力が変動する脈動が避けられない。脈動は、同時に大きな運転音(振動、騒音)やダイヤフラムに設けられた圧電振動子の耐久性劣化の原因となる。
【0004】
従来のダイヤフラムポンプの脈動防止構造は一般に、振動ダイヤフラムとは別に設けた弾性材料からなる脈動軽減ダイヤフラムの表裏の一方の室を吸入ポート又は吐出ポートに連通させ、他方の室に空気を封入している。吸入ポート又は吐出ポートの圧力変動を密閉空気室の体積変化で吸収しようという考えであるが、本発明者の解析によると、空気室の体積変化ではその体積の1割から2割程度の体積変化の吸収であり、空気室の体積を大きくしなくては脈動を効果的に軽減することが困難である。また、長期間の使用により空気が減少し、脈動軽減効果が低下する問題もある。
【0005】
また、本出願人は、このような圧電ポンプを用いてノートPCの発熱源(CPU、GPU、チップセット等)を冷却する水冷システムを開発中である。ノートPCに搭載するポンプは、安全規格であるUL規格を満足する必要があり、とくに耐電圧性を満たすようにハウジングを合成樹脂主体としたものにせざるをえない。合成樹脂製のハウジングは、材料に設計自由度のある配管部分と比べて、ハウジング自体が弾性変形しにくいため、逆止弁の開閉に伴う脈動(振動)の影響をうけやすい。従来、この圧電ポンプ(ダイヤフラムポンプ)の脈動防止構造は各種が提案されているが、構造が複雑化し、薄型化を妨げ、部品点数を増加させ、耐久性に問題があり、あるいは流量が犠牲になるという問題があった。
【0006】
本発明は、簡単な構造で効果的に脈動の軽減ができるダイヤフラムポンプを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、従来装置では、脈動軽減ダイヤフラムの表裏の一方を液室、他方を密閉空気室としていたのに対し、表裏の両方を液室とし、この表裏の液室の一方を吸入ポート又は吐出ポートに連通させ、他方を吐出ポート又は吸入ポートに連通させ、脈動軽減ダイヤフラムの表裏に液体を導入すれば、脈動の軽減効果が高いという事実に着目して本発明を完成したものである。
【0008】
本発明は、振動ダイヤフラムの表裏の少なくとも一方にポンプ室を形成し、該ポンプ室と吸入ポートとの間に該吸入ポートから該ポンプ室への流体流を許容しその逆方向の流体流を許さない吸入側逆止弁を設け、上記ポンプ室と吐出ポートとの間に該ポンプ室から吐出ポートへの流体流を許容しその逆方向の流体流を許さない吐出側逆止弁を設け、振動ダイヤフラムを振動させてポンプ作用を得るダイヤフラムポンプにおいて、表裏にそれぞれ液室を形成する少なくとも一つの弾性材料からなる脈動軽減ダイヤフラムを設け、この脈動軽減ダイヤフラムの表裏の液室の一方を、吸入ポートと吐出ポートのいずれか一方に連通させ、他方を該吸入ポートと吐出ポートの他方に連通させたことを特徴としている。
【0009】
振動ダイヤフラムと、この振動ダイヤフラムとは平面位置を異ならせた脈動軽減ダイヤフラムとは、一対のハウジングで挟着支持し、該一対のハウジングにそれぞれ、振動ダイヤフラムの表裏の少なくとも一方にポンプ室を形成する凹部と、脈動軽減ダイヤフラムの表裏にそれぞれ液室を画成する凹部を形成することが望ましい。
【0010】
一対のハウジングには、さらに脈動軽減ダイヤフラムとは平面位置を異ならせて、穴あきのダミーダイヤフラムを挟着支持し、脈動軽減ダイヤフラムの表裏の液室の一方を、この穴あきダイヤフラムを含む流路を介して吸入ポートと吐出ポートのいずれかに連通させることができる。
【0011】
本発明は、振動ダイヤフラムの表裏の一方のみにポンプ室を形成した2バルブタイプのダイヤフラムポンプだけでなく、振動ダイヤフラムの表裏にそれぞれポンプ室を形成し、この一対のポンプ室と単一の吸入ポートの間及び同一対のポンプ室と単一の吐出ポートの間にそれぞれ吸入側逆止弁と吐出側逆止弁を設けた4バルブタイプにも適用できる。
【0012】
この4バルブタイプでは、一対のハウジングの間に、振動ダイヤフラムと、一対の脈動軽減ダイヤフラムを挟着支持し、該一対のハウジングには振動ダイヤフラムの表裏にポンプ室を形成する凹部と、一対の脈動軽減ダイヤフラムの表裏に液室を形成する凹部とを形成し、この一対の脈動軽減ダイヤフラムの表裏の液室の一方を、吸入ポートと吐出ポートにそれぞれ連通させ、他方を該吐出ポートと吸入ポートにそれぞれ連通させることができる。
【0013】
脈動軽減ダイヤフラムは、具体的には、平面円形として、その周縁に一対のハウジングによって液密に挟着される環状ビードを設けることで、部品点数の削減ができる。
【0014】
4バルブタイプでは、振動ダイヤフラムを挟着する一対のハウジングにそれぞれ、一対のポンプ室の一方を形成する凹部と、該凹部に連通し該ハウジングの外面に開口する吸入側外部開口穴と吐出側外部開口穴を形成し、一対のハウジングの一方と他方に、互いに嵌合関係となって両ハウジングの吸入側外部開口穴と吐出側外部開口穴とを互いに連通させる対をなす筒状流路突起と接続穴とを形成し、一対のハウジングのうち、筒状流路突起を有する側のハウジングに、吸入側外部開口穴に連通する吸入ポートと、吐出側外部開口穴に連通する吐出ポートを形成することで、簡単な構成の4バルブタイプが得られる。
【0015】
吸入ポートと吐出ポートは、一対のハウジングのいずれか一方に双方を設けることができる。あるいは、同吸入ポートと吐出ポートを一対のハウジングの一方と他方に設ける態様も可能である。
【0016】
量産品では、一対のハウジングは、ともに合成樹脂材料の成形品から形成するのがよい。
【0017】
また、4バルブタイプでは、一対のハウジングの一方のハウジングの接続穴に他方のハウジングの筒状流路突起を挿入するだけで液密な自由液流路が構成されるように、筒状流路突起には、太径部と、この太径部の上部に位置する細径部と、この太径部と細径部を分ける軸線に対して直交しない環状斜面とを設け、外部開口穴には、大径穴と、この大径穴より内側に位置する小径穴と、この大径穴と小径穴の境界に位置し上記接続穴が連通する、筒状流路突起の環状斜面に対応する軸線に対して直交しない環状斜面とを設け、筒状流路突起の細径部に嵌めたOリングがこの両環状斜面の間に圧縮挟着されて液密を保持するように構成することが好ましい。
【0018】
振動ダイヤフラムは、具体的には、導電性金属薄板からなる少なくとも一枚のシムと少なくとも一層の圧電体層との交互積層構造を有する圧電振動子から構成すると、薄型のダイヤフラムポンプを得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のダイヤフラムポンプは、ポンプ作用を司る振動ダイヤフラムとは別に、表裏にそれぞれ液室を形成する少なくとも一つの弾性材料からなる脈動軽減ダイヤフラムを設け、この脈動軽減ダイヤフラムの表裏の液室の一方を、吸入ポートと吐出ポートのいずれか一方に連通させ、他方を該吸入ポートと吐出ポートの他方に連通させたので、吸入ポート(吐出ポート)内の圧力変動を、吐出ポート(吸入ポート)内の液体圧力で吸収し、脈動(振動、騒音)を軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1ないし図6の実施形態は、ダイヤフラムを挟着する一対のハウジングを組み立てることで実質的な流路構造を構成できる、本出願人が特願2007-275908号で提案した4バルブダイヤフラムポンプに本発明を適用したものである。
【0021】
最初に、図9について、4バルブダイヤフラムポンプの動作原理を説明する。このダイヤフラムポンプは、アッパハウジング10、ロアハウジング20、圧電振動子(ダイヤフラム)30、及び4つのアンブレラ(逆止弁)11、12、21、22を基本的な構成要素としている。アッパハウジング10と圧電振動子30の間、及びロアハウジング20と圧電振動子30の間にはそれぞれ、アッパポンプ室(可変容積室)13とロアポンプ室(可変容積室)23が形成されている。単一の吸入ポート31は、吸入側流路14Hと24Hに連通しており、吸入側流路14Hは吸入側逆止弁11を介してアッパポンプ室13に連通し、吸入側流路24Hは吸入側逆止弁21を介してロアポンプ室23に連通している。また、単一の吐出ポート32は、吐出側流路15Dと25Dに連通しており、吐出側流路15Dは吐出側逆止弁12を介してアッパポンプ室13に連通し、吐出側流路25Dは吐出側逆止弁22を介してロアポンプ室23に連通している。
【0022】
この4バルブダイヤフラムポンプは、圧電振動子30が正逆に弾性変形(振動)すると、アッパポンプ室13とロアポンプ室23のいずれか一方の容積が増大し他方の容積が減少する。アッパポンプ室13の容積が増大する行程はロアポンプ室23の容積が減少する行程であり、アッパポンプ室13の容積が増大するから吸入側逆止弁11が開いて吸入ポート31からアッパポンプ室13内に流体が流入し、ロアポンプ室23の容積が減少するからロアポンプ室23内の流体が吐出側逆止弁22を開いて吐出ポート32に流出する(図9(B))。逆にアッパポンプ室13の容積が減少する行程はロアポンプ室23の容積が増大する行程であり、ロアポンプ室23の容積が増大するから吸入側逆止弁21が開いて吸入ポート31からロアポンプ室23内に流体が流入し、アッパポンプ室13の容積が減少するからアッパポンプ室13内の流体が吐出側逆止弁12を開いて吐出ポート32に流出する(図9(A))。従って、吐出ポート32における脈動の周期を短くする(圧電振動子30の表裏の一方のみにポンプ室が形成される場合に比して半分にする)ことができる。
【0023】
本実施形態は、以上の動作原理の4バルブダイヤフラムポンプを簡易な構造で実現し、さらに脈動を一層軽減するものであり、図1ないし図6についてその一実施形態を説明する。図1ないし図6では、図9と共通の構成要素には同一の符号を付している。
【0024】
図1ないし図6は、本実施形態の4バルブダイヤフラムポンプの第一の実施形態を示している。合成樹脂材料(例えばPBT(ポリブチレンテレフタレート)樹脂、PPS(ポリフェニレンスルフィド)樹脂)の成形品からなるアッパハウジング10には、図2に示すように、ロアハウジング20との対向面(合わせ面)に、アッパポンプ室13を形成する凹部13aが形成され、また、この凹部13aに連通する吸入側外部開口穴16と吐出側外部開口穴17が形成されている。この吸入側外部開口穴16と吐出側外部開口穴17は、図9の吸入側流路14Hと吐出側流路15Dを構成するもので、アッパハウジング10の外面に開口し、かつその開口端が吸入ポート31と吐出ポート32を構成している。
【0025】
また、アッパハウジング10には、ロアハウジング20との対向面(合わせ面)に、連通路16aを介して吸入側外部開口穴16に連通する平面円形の吸入側液室(凹部)101と、連通路17aを介して吐出側外部開口穴17に連通する平面円形の吐出側液室(凹部)102が形成されている。アッパハウジング10には、図3に示すように、この吸入側液室101(吐出側液室102)と同心の環状突起103(104)が形成されている。
【0026】
同じく合成樹脂材料(同)の成形品からなるロアハウジング20には、同じく図2に示すように、アッパハウジング10との対向面(合わせ面)に、ロアポンプ室23を形成する凹部23aが形成され、また、この凹部23aに連通する吸入側外部開口穴26と吐出側外部開口穴27が形成されている。この吸入側外部開口穴26と吐出側外部開口穴27は、図9の吸入側流路24Hと吐出側流路25Dを構成するもので、ロアハウジング20の外面に開口している。
【0027】
また、ロアハウジング20には、アッパハウジング10との対向面(合わせ面)に、アッパハウジング10の吸入側液室101と位置の合致する平面円形の吐出側液室(凹部)201と、吐出側液室102と位置の合致する平面円形の吸入側液室(凹部)202が形成されている。ロアハウジング20には、図3に示すように、吸入側と吐出側の吐出側液室201(吸入側液室202)と同心に、アッパハウジング10の環状突起103(104)に対応する環状溝203(204)が形成されている。
【0028】
平面円形をなす弾性材料からなる脈動軽減ダイヤフラム301(302)の周縁ビード部303(304)は、ロアハウジング20のこの環状溝203(204)に嵌められる。そして、ロアハウジング20上にアッパハウジング10を重ねて環状突起103(104)を環状溝203(204)に嵌め、環状ビード部303(304)を圧縮することで、脈動軽減ダイヤフラム301(302)の表裏(図の上下)にそれぞれ吸入側液室101(吐出側液室102)と吐出側液室201(吸入側液室202)が形成される。
【0029】
図6に示すように、吐出側液室201は、液流路205を介して吐出側外部開口穴17(吐出側流路15D)に連通しており、吸入側液室202は、液流路305を介して吸入側外部開口穴16(吸入側流路14H)に連通している。
【0030】
図6は、吐出側液室201と吐出側外部開口穴17(吐出側流路15D)を連通させる液流路205と、吸入側液室202と吸入側外部開口穴16を連通させる液流路305の関係を示すために、図1のII-II断面図に、同図1の2つのVI-VI断面を重ねて描いたものである。液流路205と305の流路長は、図6では長く描かれているが、吐出側液室201と吐出側外部開口穴17、吸入側液室202と吸入側外部開口穴16は図1に示すように隣接しており、実際には短い(勿論、長さを問うものではない)。
【0031】
脈動軽減ダイヤフラム301(302)は、ゴム材料の加硫成形品または金属薄膜からなっており、吸入側液室101(吐出側液室102)と吐出側液室201(吸入側液室202)の圧力差に応じて弾性変形し、吸入側液室101(吐出側液室102)と吐出側液室201(吸入側液室202)の容積を変化させる。
【0032】
逆止弁11と12は、吸入側外部開口穴16と吐出側外部開口穴17の凹部13a側の端部に設けられ、逆止弁21と22は、吸入側外部開口穴26と吐出側外部開口穴27の凹部23a側の端部に設けられている。図示実施形態の逆止弁11、12、21、22は、同一の形態のアンブレラバルブであり、図2に示すように、流路に接着もしくは溶着固定される穴あき基板11a、12a、22a、凹部23aに、弾性材料からなるアンブレラ11b、12b、22b、23bを装着してなっている。
【0033】
圧電振動子30は、アッパハウジング10とロアハウジング20の間に、Oリング33、34を介して液密に挟着保持され、凹部13aとの間にアッパポンプ室13を構成し、凹部23aとの間にロアポンプ室23を構成する。圧電振動子30は、導電性金属薄板からなるシムの表裏の少なくとも一方に圧電体を積層してなり、交番電界を与えることによりシムの面と垂直な方向に正逆に振動する周知のものであり、本実施形態は、圧電振動子30の構成の如何は問わない。例えばユニモルフ、バイモルフのいずれのタイプでもよい。
【0034】
以上のアッパハウジング10の外部開口穴16(吸入側流路14H)とロアハウジング20の外部開口穴26(吸入側流路24H)は、図2に示すように、アッパハウジング10に一体に形成した吸入側筒状流路突起43Hと、ロアハウジング20に形成した吸入側接続穴42Hとによって連通し、アッパハウジング10の外部開口穴17(吐出側流路15D)とロアハウジング20の外部開口穴27(吐出側流路25D)は、アッパハウジング10に一体に形成した吐出側筒状流路突起43Dと、ロアハウジング20に形成した吐出側接続穴42Dとによって連通している。すなわち、吸入側筒状流路突起43Hと吸入側接続穴42Hは相互に嵌合関係となって外部開口穴16と26(吸入側流路14Hと24H)を連通させ、吐出側筒状流路突起43Dと吐出側接続穴42Hは相互に嵌合関係となって外部開口穴17と27(吐出側流路15Dと25D)を連通させる。この筒状流路突起43H(43D)と接続穴42H(42D)は、左右対称構造であり、その詳細を図3、図4で説明する。図2と図4では、上下を逆にして示している。
【0035】
ロアハウジング20に形成した外部開口穴26(27)は、図4に詳細に示すように、該ロアハウジング20の外面に開口する大径穴26a(27a)と、この大径穴26a(27a)より内側に位置する小径穴26b(27b)と、この大径穴26a(27a)と小径穴26b(27b)の境界に位置する軸線に対して直交しない環状斜面26c(27c)とを有している。また、ロアハウジング20に形成した接続穴42H(42D)は、この外部開口穴26(27)の環状斜面26c(27c)部分に位置させて、該外部開口穴26(27)と直交して連通するように形成されている。これらの外部開口穴26(27)及び接続穴42H(42D)は、成形型(抜き型)によりロアハウジング20と一体に成形されている。
【0036】
一方、アッパハウジング10に一体に形成した筒状流路突起43H(43D)は、図4、図5に詳細に示すように、太径部43aと、この太径部43aの上部に位置する細径部43bと、この太径部43aと細径部43bを分ける(の境界を定める)軸線に対して直交しない環状斜面43cとを有し、その軸部に、外部開口穴16(17)と連通する内部流路44が形成されている。この筒状流路突起43H(43D)も、成形型(抜き型)によりアッパハウジング10と一体に成形されている。
【0037】
外部開口穴26(27)の環状斜面26c(27c)と筒状流路突起43H(43D)の環状斜面43cとは対応関係にあり、図示例では、環状斜面26c(27c)(環状斜面43c)は、外部開口穴26(27)(筒状流路突起43H(43D))の軸線に対して45゜をなしている。この角度は、30゜〜60゜程度の範囲で変えることができる。筒状流路突起43H(43D)の細径部43bの周囲(環状斜面43cの上)には、Oリング46が嵌められており、筒状流路突起43H(43D)を接続穴42H(42D)に嵌めると、外部開口穴26(27)の環状斜面26c(27c)と筒状流路突起43H(43D)の環状斜面43cとの間に、Oリング46が挟着されて圧縮され、内部流路44によって、外部開口穴16と26(外部開口穴17と27)が連通する。
【0038】
従って、本実施形態の4バルブダイヤフラムポンプは、図2のように、アッパハウジング10とロアハウジング20を組み合わせ、アッパハウジング10の筒状流路突起43H(43D)をロアハウジング20の接続穴42H(42D)に嵌めることにより、外部開口穴26(27)の環状斜面26c(27c)と筒状流路突起43H(43D)の環状斜面43cとの間にOリング46を圧縮し、内部流路44によって、外部開口穴16と26(外部開口穴17と27)を連通させ、液密構造を得ることができる。
【0039】
アッパハウジング10とロアハウジング20の間には、圧電振動子30と脈動軽減ダイヤフラム301(302)が挟着される。すなわち、圧電振動子30は、アッパハウジング10とロアハウジング20の間に、Oリング33、34を介して液密に挟着保持され、凹部13aとの間にアッパポンプ室13を構成し、凹部23aとの間にロアポンプ室23を構成する。また、脈動軽減ダイヤフラム301(302)の周縁ビード部303(304)は、ロアハウジング20の環状溝203(204)に嵌められ、アッパハウジング10の環状突起103(104)を環状溝203(204)に嵌めることで周縁ビード部303(304)が圧縮される。その結果、脈動軽減ダイヤフラム301(302)の表裏(図の上下)にそれぞれ、液密(気密)の吸入側液室101(吐出側液室102)と吐出側液室201(吸入側液室202)が形成される。また、アッパハウジング10とロアハウジング20に跨る液流路205と305には、適宜シール手段を施す。
【0040】
以上の圧電ポンプは、圧電振動子30が正逆に弾性変形(振動)すると、前述のように、アッパポンプ室13とロアポンプ室23のいずれか一方の容積が増大し他方の容積が減少する。アッパポンプ室13の容積が増大する行程はロアポンプ室23の容積が減少する行程であり、アッパポンプ室13の容積が増大するから吸入側逆止弁11が開いて吸入ポート31からアッパポンプ室13内に流体が流入し、ロアポンプ室23の容積が減少するからロアポンプ室23内の流体が吐出側逆止弁22を開いて吐出ポート32に流出する。逆にアッパポンプ室13の容積が減少する行程はロアポンプ室23の容積が増大する行程であり、ロアポンプ室23の容積が増大するから吸入側逆止弁21が開いて吸入ポート31からロアポンプ室23内に流体が流入し、アッパポンプ室13の容積が減少するからアッパポンプ室13内の流体が吐出側逆止弁12を開いて吐出ポート32に流出する。
【0041】
このポンプ作用中においては、吸入側外部開口穴16と吐出側外部開口穴17内の圧力が変動する。この圧力変動は、連通路16aと17aを介して吸入側液室101と吐出側液室102に及び、吸入側液室101(吐出側液室102)の圧力が上昇するときには、脈動軽減ダイヤフラム301(302)が吐出側液室201(吸入側液室202)側に弾性変形し、下降するときには、吸入側液室101(吐出側液室102)側に弾性変形する。
【0042】
本実施形態において特徴的なことは、吐出側液室201(吸入側液室202)が液流路205(305)を介して吐出側外部開口穴17(吸入側外部開口穴16)に連通していることである。つまり、圧電振動子30がアッパハウジング10側に動く工程において、吐出側液室102と201内の液体の圧力が上昇するときには、脈動軽減ダイヤフラム302と301の反対側の吸入側液室202と101の圧力が下降しているから、同脈動軽減ダイヤフラム302と301はそれぞれ、吸入側液室202と101側に弾性変形して脈動を吸収する。同様に、圧電振動子30がロアハウジング20側に動く工程において、吸入側液室101と202内の液体の圧力が下降するときには、脈動軽減ダイヤフラム301と302の反対側の吐出側液室201と102の圧力が上昇しているから、同脈動軽減ダイヤフラム301と302はそれぞれ、吐出側液室101と202側に弾性変形して脈動を吸収する。このため、吸入ポート31と吐出ポート32内の液体圧力に表れる脈動(振動)を減少させる作用をする。
【0043】
以上の実施形態では、アッパハウジング10の筒状流路突起43H(43D)をロアハウジング20の接続穴42H(42D)に嵌めるだけで液密構造を達成できるという利点があるが、例えば外部開口穴26(27)の開口端を別の部材によって塞ぐことで液密を保持することも可能であり、この場合には筒状流路突起43H(43D)と接続穴42H(42D)の液密を例えばOリングで確保すればよい。
【0044】
以上の実施形態では、アッパハウジング10に吸入ポート31と吐出ポート32の双方を設けたが、ロアハウジング20に両ポートを形成し、あるいはアッパハウジング10とロアハウジング20にそれぞれ一つずつのポートを設けることもできる。その際のルールは、吸入側筒状流路突起を有する側のハウジングに、吸入ポートを設け、吐出側筒状流路突起を有する側のハウジングに、吐出ポートを設けるというルールである。また、図示実施形態では、吸入ポート31と吐出ポート32(吸入側外部開口穴16(26)と吐出側外部開口穴17(27))をハウジング10(20)の反対側に延長したが、同一の側に延長させてもよい。
【0045】
以上の実施形態は、4バルブダイヤフラムポンプに本発明を適用したものであるが、本発明は2バルブダイヤフラムポンプにも適用できる。図7と図8はその実施形態である。
【0046】
図7と図8の実施形態は、図2、図6において、吸入側逆止弁21、吐出側逆止弁22及びその関連構成を除去し、ロアハウジング20に、凹部23、吐出側液室(凹部)201、吸入側液室(凹部)202を形成し、この吐出側液室201と吸入側液室202を液流路206で連通させた点では共通である。凹部23aと圧電振動子30によって空気室Aが構成される。凹部201と202の形状、仕様は同一である。違いは、図7の実施形態では、吐出側液室201と吸入側液室101の間に、図1ないし図6の実施形態と同様の脈動軽減ダイヤフラム301を位置させ、吐出側液室102と吐出側液室202との間に、穴Hを有する穴あきダイヤフラム302Hを位置させたのに対し、図8の実施形態では、吐出側液室102と吐出側液室202の間に、図1ないし図6の実施形態と同様の脈動軽減ダイヤフラム302を位置させ、吐出側液室201と吸入側液室101との間に、穴Hを有する穴あきダイヤフラム301Hを位置させた点にある。この他の構成は、図2の実施形態と同一であり、同一要素には同一の符号を付した。
【0047】
図7の実施形態では、吸入側液室101の脈動軽減ダイヤフラム301の背面に、穴あきダイヤフラム302Hを含む流路206により吐出側液室201に吐出側液圧が及ぼされているため、ポンプの吸入工程においては、吸入側液室101の減圧で脈動軽減ダイヤフラム301が吸入側液室101方向に変形し吸入側液室101側の減圧を小さくすることで脈動軽減作用が得られる。一方、ポンプの吐出工程においては、吐出側液室201側の圧力が高くなり脈動軽減ダイヤフラム301が同じく吸入側液室101方向に変形し圧力上昇を小さくすることで脈動軽減作用が得られる。また、図8の実施形態では、吐出側液室102の脈動軽減ダイヤフラム302の背面に、穴あきダイヤフラム301Hを含む流路206により吸入側液室202に吸入側液圧が及ぼされているため、ポンプの吐出工程において、吐出側液室102の圧力上昇により脈動軽減ダイヤフラム302が吸入側液室202側に変形し圧力上昇を小さくすることで脈動軽減作用が得られる。一方、ポンプの吸入工程においては、吸入側液室202側が減圧し、脈動軽減ダイヤフラム302が同じく吸入側液室202側に変形し吸入側液室202の減圧を小さくすることで脈動軽減作用が得られる。脈動軽減効果は、同時に運転音(振動、騒音)の軽減効果につながる。
【0048】
図7の実施形態と図8の実施形態は、脈動軽減ダイヤフラム301(302)を吸入ポート31側もしくは吐出ポート32側に設けることで、脈動軽減効果をポンプの吸入工程でより効果的に発揮させるか、吐出工程でより効果的に発揮させるかを選択できるという利点がある。穴あきダイヤフラムには勿論ダイヤフラムとしての機能はなく、実質的にはシール部材として機能している。穴あきダイヤフラムを用いることなく、同様の流路を形成することは可能である。
【0049】
以上の実施形態では、脈動軽減ダイヤフラム301(302)(及び穴あきダイヤフラム301H、302H)を、筒状流路突起43H(43D)と逆止弁11、12、21、22の間に設けているが、筒状流路突起43H(43D)と吸入ポート31、吐出ポート32の間に設けてもよい。
【0050】
以上の実施形態では、ダイヤフラムとして圧電振動子を例示したが、本発明は他の振動するダイヤフラムを用いた液体ポンプに広く適用できる。
【0051】
上記実施形態では、ハウジング及びこれに関連する要素に便宜上「アッパ」「ロア」の名前を付けたが、使用状態でのそれを限定するものではないことは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明を4バルブダイヤフラムポンプ(圧電ポンプ)に適用した実施形態を示す平面図である。
【図2】図1のII-II線に沿う断面展開図である。
【図3】図2のIII部拡大断面図である。
【図4】図2のIV部拡大断面図である。
【図5】(A)、(B)は、ロアハウジングから突出させた筒状流路突起の形状例とOリングの関係を示す、見る方向を変えた斜視図である。
【図6】吐出側液室と吐出側外部開口穴及び吸入側液室と吸入側外部開口穴の連通関係を示す、図2に対応させて描いた断面図である。
【図7】本発明を2バルブダイヤフラムポンプ(圧電ポンプ)に適用した実施形態を示す、図2に対応する断面展開図である。
【図8】本発明を2バルブダイヤフラムポンプ(圧電ポンプ)に適用した別の実施形態を示す、図2に対応する断面展開図である。
【図9】(A)、(B)は、4バルブダイヤフラムポンプの原理を示すスケルトン図である。
【符号の説明】
【0053】
10 アッパハウジング
11 12 21 22 逆止弁
13 アッパポンプ室
13a 凹部
14H 24H 吸入側流路
15D 25D 吐出側流路
16 26 吸入側外部開口穴
17 27 吐出側外部開口穴
20 ロアハウジング
23 ロアポンプ室
23a 凹部
30 圧電振動子(ダイヤフラム)
31 吸入ポート
32 吐出ポート
33 34 Oリング
40 自由液流路
40 外部開口穴
26a 27a 大径穴
26b 27b 小径穴
26c 27c 環状斜面
42H 42D 接続穴
43H 43D 筒状流路突起
43a 太径部
43b 細径部
43c 環状斜面
44 内部流路
46 Oリング
101 吸入側液室(凹部)
102 吐出側液室(凹部)
103 104 環状突起
201 202 液室(凹部)
203 204 環状溝
205 305 液流路
301 302 脈動軽減ダイヤフラム
303 304 周縁ビード部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動ダイヤフラムの表裏の少なくとも一方にポンプ室を形成し、該ポンプ室と吸入ポートとの間に該吸入ポートから該ポンプ室への流体流を許容しその逆方向の流体流を許さない吸入側逆止弁を設け、上記ポンプ室と吐出ポートとの間に該ポンプ室から吐出ポートへの流体流を許容しその逆方向の流体流を許さない吐出側逆止弁を設け、振動ダイヤフラムを振動させてポンプ作用を得るダイヤフラムポンプにおいて、
表裏にそれぞれ液室を形成する少なくとも一つの弾性材料からなる脈動軽減ダイヤフラムを設け、
この脈動軽減ダイヤフラムの表裏の液室の一方を、上記吸入ポートと吐出ポートのいずれか一方に連通させ、他方を該吸入ポートと吐出ポートの他方に連通させたことを特徴とするダイヤフラムポンプ。
【請求項2】
請求項1記載のダイヤフラムポンプにおいて、上記振動ダイヤフラムと、この振動ダイヤフラムとは平面位置を異ならせた上記脈動軽減ダイヤフラムとは、一対のハウジングで挟着されていて、該一対のハウジングにそれぞれ、振動ダイヤフラムの表裏の少なくとも一方にポンプ室を形成する凹部と、脈動軽減ダイヤフラムの表裏にそれぞれ液室を画成する凹部が形成されているダイヤフラムポンプ。
【請求項3】
請求項2記載のダイヤフラムポンプにおいて、上記一対のハウジングには、上記脈動軽減ダイヤフラムとは平面位置を異ならせて、穴あきのダミーダイヤフラムが挟着支持されており、上記脈動軽減ダイヤフラムの表裏の液室の一方を、この穴あきダイヤフラムを含む流路を介して吸入ポートと吐出ポートのいずれかに連通させたダイヤフラムポンプ。
【請求項4】
請求項2記載のダイヤフラムポンプにおいて、上記ポンプ室は、振動ダイヤフラムの表裏にそれぞれ形成されており、この一対のポンプ室と単一の吸入ポートの間及び同一対のポンプ室と単一の吐出ポートの間にそれぞれ上記吸入側逆止弁と吐出側逆止弁が設けられているダイヤフラムポンプ。
【請求項5】
請求項4記載のダイヤフラムポンプにおいて、上記一対のハウジングの間には、上記振動ダイヤフラムと、一対の脈動軽減ダイヤフラムが挟着支持されており、該一対のハウジングには振動ダイヤフラムの表裏にポンプ室を形成する凹部と、一対の脈動軽減ダイヤフラムの表裏に液室を形成する凹部とが形成されており、この一対の脈動軽減ダイヤフラムの表裏の液室の一方を、上記吸入ポートと吐出ポートにそれぞれ連通させ、他方を該吐出ポートと吸入ポートにそれぞれ連通させたダイヤフラムポンプ。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項記載のダイヤフラムポンプにおいて、上記脈動軽減ダイヤフラムは、平面円形でその周縁に、一対のハウジングによって液密に挟着される環状ビードを備えているダイヤフラムポンプ。
【請求項7】
請求項2ないし6のいずれか1項記載のダイヤフラムポンプにおいて、上記振動ダイヤフラムを挟着する一対のハウジングにはそれぞれ、上記一対のポンプ室の一方を形成する凹部と、該凹部に連通し該ハウジングの外面に開口する吸入側外部開口穴と吐出側外部開口穴が形成されており、
一対のハウジングの一方と他方に、互いに嵌合関係となって両ハウジングの吸入側外部開口穴と吐出側外部開口穴とを互いに連通させる対をなす筒状流路突起と接続穴とが形成されており、
一対のハウジングのうち、筒状流路突起を有する側のハウジングに、吸入側外部開口穴に連通する上記吸入ポートと、吐出側外部開口穴に連通する上記吐出ポートが形成されているダイヤフラムポンプ。
【請求項8】
請求項7記載のダイヤフラムポンプにおいて、上記吸入ポートと吐出ポートは、一対のハウジングのいずれか一方に双方が設けられているダイヤフラムポンプ。
【請求項9】
請求項7または8記載のダイヤフラムポンプにおいて、上記筒状流路突起は、太径部と、この太径部の上部に位置する細径部と、この太径部と細径部を分ける軸線に対して直交しない環状斜面とを有し、
上記外部開口穴は、大径穴と、この大径穴より内側に位置する小径穴と、この大径穴と小径穴の境界に位置し上記接続穴が連通する、上記筒状流路突起の環状斜面に対応する軸線に対して直交しない環状斜面とを有し、
上記筒状流路突起の細径部に嵌めたOリングがこの両環状斜面の間に圧縮挟着されて液密を保持するダイヤフラムポンプ。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項記載のダイヤフラムポンプにおいて、上記振動ダイヤフラムは圧電振動子であるダイヤフラムポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−270456(P2009−270456A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−120099(P2008−120099)
【出願日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】