ダウン症患者の認識機能障害を治療するための組成物及び方法
本願は、ダウン症患者の認識機能障害を治療する薬剤として用いられるための、α5サブユニットを有するGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を備える化合物に関する。また、本願は、ダウン症患者の認識機能障害を治療する薬剤を調製するための、α5サブユニットを有するGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を備える化合物の使用方法に関する。さらに、本願は、α5サブユニットを有するGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を備える化合物、又は、その適切な薬学的に許容できる塩、ポリエトキシル化ひまし油及びジメチルスルホキシド(DMSO)を含む、ダウン症患者の認識機能障害を治療するための薬学的組成物に関する。また、本願は、α5サブユニットを含むGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を備える一つ又はそれ以上の化合物の、患者が必要とする薬学的な有効量を患者に投与することにより、ダウン症患者における認識機能を増強する、又は、重篤な認識機能障害を治療又は緩和するための方法を示している。さらに、本願は、ダウン症患者の記憶力障害、学習能力障害又はその両方の障害のような認識機能障害の治療方法に関する。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔優先権情報〕
本願は、2009年8月25日出願の米国暫定特許出願第61/236,625号、2009年8月25日出願の欧州特許出願第09290643.7号に基づき優先権を主張し、それぞれの内容全てを援用することにより本発明に組み込むものとする。
【0002】
〔技術分野〕
本願は、ダウン症患者における認識機能障害を治療するための薬として用いられる、α5サブユニットを含むGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を有する化合物に関する。また、本願は、ダウン症患者における認識機能障害を治療するための薬の製剤として用いられる、α5サブユニットを含むGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を有する化合物の利用に関する。さらに、本願は、α5サブユニットを含むGABAA受容体に対する、逆作用薬としての機能的選択性を有する化合物、又は、その生理学的に許容できる塩、ポリエトキシル化ひまし油のような界面活性剤(表面活性剤又は張力活性剤)及びジメチルスルホキシド(DMSO)を含む、ダウン症患者における認識機能障害を治療するための薬学的組成物に関する。
【0003】
また、本願は、α5サブユニットを含むGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を有する、患者が必要とする薬学的に効能がある量の一つ又はそれ以上の化合物を患者に投与することによる、ダウン症患者における認識機能を増進する方法、又は、重篤な認識機能障害を治療する若しくは抑える方法について説明している。なお特に、本願は、ダウン症患者における記憶力の障害、学習能力の障害又はそれら両方の障害のような認識機能障害の治療に関する。
【0004】
〔背景技術〕
トリソミー21としても知られるダウン症は、ヒトにおける知的障害の第1の遺伝的要因である。このダウン症は第21番染色体の全て又は一部の、三つ目のコピーの存在が原因である遺伝性疾患である。多くの文献には、ダウン症の発症率について新生児700人〜800人に1人の割合であると示されている。
【0005】
ダウン症は、様々な身体的特徴に加えて、全てにおいてではないが、記憶力の障害、学習能力の障害又はそれら両方の障害のような、様々な程度の認識機能障害により特徴付けられる。(医学において、)指導法や教育の主流化傾向の進歩は、ダウン症を患っている人の認識発達の改善を導く一方で、完全に単独で教育の方法論により対処することができない本質的な機能障害はそのままとなっている。
【0006】
ダウン症を患う人は、特定の医学的問題に関して増加するリスクに晒されている。ダウン症を患う人が一般的に直面するいくつかの問題として、心臓の欠損、甲状腺の問題、筋力の問題、関節の問題、視力の問題、及び、聴力の問題が挙げられる。ダウン症におけるその他の症状として、それ程の頻度ではないが、白血病や発作が挙げられる。さまざまな異なる方法が上記の医学的症状を治療するために用いられている。例えば、仮に、ダウン症を患っている人が発作の疾患を患っている場合、抗発作薬を服用することが有益である。一般的に、甲状腺に問題がある人は補充用の甲状腺ホルモンを投与される。上記の投薬法は、医学的症状には有用であるが、一方で、ダウン症の治療にはなっていない。
【0007】
ダウン症患者の認識機能を増進するための薬を合成する試みがなされている。例えば、ピラセタムはダウン症を患う子供の認識機能を改善するための手段として広く用いられている。しかし、ピラセタムがダウン症を患う子供の認識機能を改善するのに効果的であるという主張を揺るがす報告がなされている(Lobaugh NJ et al. Piracetam does not enhance cognitive abilities in moderate to high-functioning 7 to 13 year-old children with Down syndrome.(ピラセタムはダウン症を患う7〜13才の子供の高機能を緩和する一方で認識能力を増進しない)155(4):442-448 [ref 4](1999年5月3日にサンフランシスコで開かれたPAS/SPRで公開、2001年4月にArchives of Ped and Adol Medに発表))。上記研究では、逆作用薬を投与した場合と同様に、認識指標及び行動指標のどちらについても、ピラセタムの下では改善が見られなかった。
【0008】
マウスの第16番染色体の一部が断片的に重複したダウン症のマウスモデルであるTs65Dnマウスは、ヒトの第21番染色体における長いアームの大部分と同じ遺伝座を占めている。ダウン症患者のように、Ts65Dnマウスは、仮説ではあるが、神経構造における全体の異常というよりもむしろ、脳における多くの興奮性シナプスの選択的減少による学習能力の欠損及び記憶力の欠損を示す。理論上、Ts65Dnマウスに見られる三重の遺伝子は、歯状回(ひょっとすると脳の他の部分)における興奮と抑制の最適なバランスから、過度に抑制が抑えられた状態にし、さもなければ、通常の学習能力や記憶力が抑えられた状態にする(Reeves et al., Nature Genetics, 11(2):177-84 (1995) [ref 1])。
【0009】
最近、Ts65Dnマウスに対するGABAA拮抗薬の使用により、記憶力、学習能力、又は、神経の柔軟性が増強することが示された(長期増強作用(LTP)のプロトコルによる評価(Kleschevnikov et al., The Journal of Neuroscience, 24(37):8153-8160 (2004); [ref 2]))。さらに最近、ダウン症のマウスモデル(Ts65Dnマウス)に対するGABAA拮抗薬の使用により、正常なマウスに比べて、記憶力、及び、宣言型学習能力の欠損が正常化することが示された(F. Fernandez et al., "Pharmacotherapy for cognitive impairment in a mouse model of Down syndrome," Nature Neuroscience, Advance Online Publication, (February 25, 2007; [ref 3]))。
【0010】
上記研究は、ダウン症患者における学習能力及び記憶力を回復させるためのGABAA拮抗薬の潜在的な用途を提案するものである。
【0011】
残念ながら、多くのGABAA拮抗薬は、ヒトに加えて動物モデルでも発作の原因となる傾向があり、患者に対する認識増強剤として利用することができないことは明確である。
【0012】
ダウン症に関する認識機能障害の治療に対する、多くの満たされていない医学的要求がある。絶え間なく研究されているにもかかわらず、ダウン症による知的障害のための注目すべき薬物治療は、現れようとはしていない。現在のところ、ダウン症の治療には薬は使われておらず、むしろ、ダウン症に関連する他の病気や他の健康症状の治療に、耳感染症のための抗生物質や、甲状腺機能低下(甲状腺機能低下症)のための甲状腺ホルモンのような薬が用いられている。
【0013】
従って、ダウン症患者の記憶力、学習能力又はその両方の能力の障害のような認識機能障害の治療上の処置に誘発される発作を失くす必要がある。本発明は、上記の課題(発作を失くす必要)を解決し、及び、関連する同様な利点を提供する。
【0014】
〔発明の概要〕
上記の課題及びそれ以上の課題は、患者が必要とする有効量の、α5サブユニットを含むGABAA受容体に対する、逆作用薬としての機能的選択性を有する化合物を投与することを備える、又は、有効量の、上記化合物、若しくは、その生理学的に許容できる塩若しくはそのプロドラッグを含む薬学的組成物を投与することを備える、ダウン症患者の重篤な認識機能障害を治療又は抑制するための方法を提供するという本発明に係る実施形態により解決される。
【0015】
上記の課題及びそれ以上の課題は、認識機能を増進するために患者が必要とする十分な量の、α5サブユニットを含むGABAA受容体に対する、逆作用薬としての機能的選択性を有する化合物を患者に投与することを備える、又は、認識機能を増進するために有効量の、上記化合物、若しくは、その生理学的に許容できる塩若しくはそのプロドラッグを含む薬学的組成物を投与することを備える、ダウン症患者の認識機能を増進させるための方法を提供するという本発明に係る実施形態により解決される。
【0016】
上記の課題及びそれ以上の課題は、添加剤としてのポリエトキシル化ひまし油のような界面活性剤(表面活性剤又は張力活性剤)及び、溶剤としてのジメチルスルホキシド(DMSO)を伴った、有効量の、α5サブユニットを含むGABAA受容体に対する、逆作用薬としての機能的選択性を有する化合物、又は、その生理学的に許容できる塩若しくはそのプロドラッグを含む、ダウン症患者の重篤な認識機能障害を治療又は抑制するための薬学的組成物を提供するという本発明に係る実施形態により解決される。
【0017】
本発明に係るさらなる利点及び特徴は、以下の説明での考察及び添付の特許請求の範囲に基づいて理解され得る。
【0018】
〔図面の簡単な説明〕
本発明に係る原理を用いた実施の形態を説明している以下の詳細な説明と、添付の図面とを参照することにより、本発明に係る特徴及び利点をさらに理解することができる。
【0019】
図1aは、スターンフェルド(Sternfeld)らの方法([ref 8])により調製されるトリアゾロフタラジンα5−IAの構造を示している。このトリアゾロフタラジンα5−IAは、塩酸塩として本発明に係る研究に用いられる。本明細書において、この化合物は、α5IA、IAα5、α5−IA又はIA−α5の間で交換可能な表示として示され得る。特に、IAα5又はIA−α5の表示は本優先権主張特許出願において用いられる。
【0020】
図1bは、CDCl3中におけるα5−IAの500 MHz 1H NMRスペクトルを示している。
【0021】
図1cは、GABAA受容体のベンゾジアゼピン認識部位に関するα5IAのインビトロ・アフィニティの実験結果と、比較対照としての、ジアゼパムのインビトロ・アフィニティの実験結果とを示している。この実験結果は、モル濃度のIC50の数値データ及びモル濃度のKiの数値データとして表される。この実験結果は、ラットの全脳細胞([ref 28])の[3H]−フルニトラゼパムの置換により決定される。数値データは三回の測定の平均である。
【0022】
図2は、Gabra5の遺伝子発現がTs65Dnマウスにおいて不変であるということを示している。α5−GABAAをコードしているGabra5遺伝子の発現は、正常なマウスとTs65Dnマウスの海馬内における測定結果である。Gabra5遺伝子の発現は、逆転写/リアルタイム定量的PCRを用いて測定した結果である。Gabra5遺伝子の発現レベルは、Ts65Dnマウスと正常なマウスとで差異がなかった。
【0023】
図3は、物体認識試験によるTs65Dnマウスに対するα5IAの治療効果の結果を示している(実施例2を参照)。
【0024】
図4は、α5IAの異なる製剤のマウスに対する投与の効果に関する比較実験の結果を示している。「GIA」は、GABA逆作用薬(GABA Inverse Agonist)を表しており、α5IA化合物を示している(実施例4を参照)。
【0025】
図5は、α5IAの用量作用の効果を示す実験結果である。最適なプロンネシアント(promnesiant)用量は、DMTP作業を訓練したマウスにより決定される。図5aは、DMTPプロトコル(手順)の略図である。それぞれの日に、マウスに1回の習得トライアルと、3回の記憶トライアルとを受けさせた(トライアルの間隔は60秒間である)。プラットフォームの位置は毎日変更した。各セッションの中では変更せずにそのままだった。
【0026】
図5bは、習得トライアルと記憶トライアルとの間のマウスの成績を示している(プラットフォームの距離;±SEMの平均)。データは七訓練日を合わせた結果である。全てのマウスに、各セッションでの行動精度に有意義な増加が見られた(p<0.0001)。偽薬治療マウスと、α5IAを1mg/kg投与したマウスとで同様な記憶力を示した。一方で、α5IAを5mg/kg投与して治療したマウスは、有意義に高い成績を示した(*p<0.05)。
【0027】
図6は、α5IAの不安に関する行動実験の結果を示している。この不安について、正常なマウスと偽薬又はα5IAを投与したTs65Dnマウスを用いて、高架式十字迷路法(elevated plus maze)により評価した。高架式十字迷路の走行路における滞在時間を不安レベルの尺度として用いた。
【0028】
偽薬を投与された状態において、Ts65Dnマウスは、正常なマウスに比べて不安が増加する傾向が見られた(走行路での時間の増加)。α5IAの急性治療(一回15mg/kgを注射、図の左側)では、正常なマウスの行動が改善しなかった、Ts65Dnマウスの走行路の滞在時間が有意義に減少した(p<0.05)。薬を投与された状態において、Ts65Dnマウスは、偽薬治療マウスに比べて走行路での滞在時間がより少なくなった(p<0.025)。この結果は、Ts65Dnマウスの遺伝子型におけるα5IAの穏やかな不安を緩解する効果を示しているのかも知れない。しかし、この結果は、「自然な条件」においていくつかの不安を増強させる特性があるということにより、Ts65Dnマウスの行動が正常化した結果とも考えられる。
【0029】
正常なマウスに対するα5IAの半継続的な注射では(5mg/kgを1週間に5回、2週間、図の右側)、不安のレベルに変化がなかった(p>0.73)。
【0030】
水平な破線は、偽薬での急性治療を行ったマウスの行動をベースラインとして表している。*p<0.05、nsは有意義ではないことを表している。
【0031】
本実験は、α5IAは、不安に関する行動を誘発しないということを示している。
【0032】
図7は、オープンフィールドにおけるTs65Dnマウスと正常なマウスの、移動運動とα5IAの不安の実験結果を示している。α5IA(5mg/kg)の効果について、オープンフィールドにおける移動運動と不安について評価した。
【0033】
図7aにおいて、水平運動性の分析(移動距離、±SEMの平均)は、少しの治療効果も示していない(F<1)。すなわち、これは、α5IAのみの注射が、正常なマウス及びTs65Dnマウスの両方で全体の移動運動が改善しなかったということを強調している。さらに、正常な同腹子に比べて、Ts65Dnマウスの全体的な過剰な活動に起因し、全ての治療条件で観察される、遺伝子型の有意義な効果(*p<0.025)がある。
【0034】
図7bにおいて、オープンフィールドのセッションでの不安を評価するために、外周から中心への捜索比(periphery-to-center exploration ratio)(P/C比、±SEMの平均)を測定した。この数値における分析は、何れの遺伝型の効果又は治療要因も示していない(Fs<1)。
【0035】
本実験では、α5IAは、オープンフィールドでのTs65Dnマウス及び正常なマウスの移動運動及び不安を変化させないことを示している。
【0036】
図8は、継続的な治療後のα5IAによる組織損傷の実験結果を示している。α5IAの継続的な治療後において、異なった組織について、切除し、一般的な組織病理学試験を行った。図に示されるように、ヘマテイン・エオシン染色では、三つの実験グループ(何も注射していないマウス、偽薬注射したマウス又はα5IA治療マウス)の何れにも肝臓及び腎臓において肉眼で見える組織の有意義な変化、及び顕微鏡で見える組織の有意義な変化の何れも示さなかった。続く、組織の過ヨウ素酸シッフ染色(Periodic acid-Schiff staining)(図示せず)でも、同様にネガティブな結果となった。偏光下での脳組織、肝組織、腎組織の試験において、α5IAを注射したマウスに異常結晶の欠如が見られた。尿結晶(図示せず)の大きさや分布は、異なるグループでほぼ同様であるようである。スケールバーは100μmを表している。本実験では、α51Aは、長期的な治療後にいかなる組織の損傷も誘導しないということを示している。
【0037】
図9は、Ts65Dnマウスの空間機能障害(spatial impairment)実験の結果を示している。モリス水迷路の空間記憶評価に続いて、マウスを、視覚案内ナビゲーション作業(visually-guided navigation task)(キュード・ビジュアル・プラットフォーム)で、4日間訓練を行った。成績は(図11と同様の)公平な学習指標を用いて評価した。分析では、ビジュアル・プラットフォームを見つける行動精度が、各セッションで僅かに増加していることが示され(p<0.03)、遺伝子型(p>0.55)や治療(p>0.16)の効果はなかった。25%の水平な破線は、組み合わせをランダムとした操作での成績レベルを示している。図に示されるように、全ての訓練グループでは、このレベル以上の成績となった。本実験により、Ts65Dnマウスの空間機能障害が視覚障害によるものはないことが示された。
【0038】
図10は、モリス水迷路の実験結果を示している。α5IAの強い効果は、走触性(thigmotaxy)(壁を探す行動)において見られた。水迷路におけるプラットフォームを見つけるための不十分な行動戦略は、α5IAで治療したマウス(特にTs65Dnマウス(p<0.001))で、大きく減少した。続く解析では、Ts65Dnマウスが、対照のマウスに比べてさらなる走触性を示した(p<0.0001)。この効果は、α5IAでの治療後(p<0.05)に偽薬を与えたマウス(p<0.00025)では劣った程度を示した。本実験により、α5IAがモリス水迷路における不適切な行動進行戦略をとることを緩和することが示された。
【0039】
図11は、Ts65Dnマウスの空間学習実験の結果を示している。この実験は、Ts65Dnマウスのα5IAによる空間学習能力の回復に関して示すものである。
【0040】
図11Aでは、マウスが、水タンクの中で進行し、不可視のプラットフォーム(D1〜6)に到達することを学んだことを示している。空間記憶については触覚試適(probe trial test)(PT)を用いて評価した。
【0041】
図11Bでは、3日間の2ブロックで組み合わせた学習成績のデータを示している。Ts65Dnマウスでは、α5IAによる治療を施したマウスに比べて学習指標に減少が見られた(p<0.0025)。
【0042】
図11Cにおいて、ヒットは、90秒経過前にプラットフォームへ到達したこととして定義される。Ts65Dnマウスにおいて、α5−IAの治療後に障害が後退する(reversed)ことが示された(p<0.025)。
【0043】
図11Dでは、正常なマウスのみで、触覚試適の間、プラットフォームの対象の四分円で、空間的偏りが見られたことが示されている(p<0.05)。注釈の例示を参照。
【0044】
図11B及び図11Dにおいて、25%の水平な破線は、ランダムとした操作での成績レベルを示している(*P<0.05,各グループn=8)。
【0045】
図12は、Ts65Dnマウスにおける、ニューロン活性及び認識記憶障害の実験結果を示している。この実験は、Ts65Dnマウスのα5IAによるニューロン活性の増強、及び、認識記憶障害の緩和に関して示すものである。
【0046】
図12Aは、物体認識作業を訓練した場合、Ts65Dnマウスが記憶障害を示したことを示している。α5IA(5mg/kg)の注入に続いて、標準のマウス及びTs65Dnマウスの両方で、認識成績に大きな改善が見られ、Ts65Dnマウスの障害が消滅した。*グループ間の違い(p<0.05,各グループn=8;ns:有意義ではない)#50%ランダムスコアを超えた成績(#:p<0.05;###:p<0.001)
図12Bにおいて、物体認識作業を終えた後、マウスを殺し、その脳にfosプロテインの量的免疫組織化学評価のための処理を施した。ヒストグラムは、正常な同腹子に治療を施したマウスから得られる数値に対して、標準化されたα5IA治療マウスにおける免疫反応性の相対的な増加を示している。歯状回以外のサンプリングされた全ての脳領域で、α5IAの注射後に、fosの有意義な増加が見られた(*:p<0.05;***:p<0.001、各グループn=3〜5)。
【0047】
図13は、新しい物体認識作業の間でのα5IAのニューロン活性の実験結果を示している。この実験は、新しい物体認識作業の間でのα5IAによるニューロン活性の増加について示している。これは、異なる実験グループ(スケールバー=100μm)におけるfosプロテインに対して免疫染色された関連の脳領域(左側の半脳マイクロ写真に示している:後部の帯状模様のある皮質(Post.Cing.)、CA1フィールド(CA1)、歯状回(DG)及び鼻周囲皮質(PRh))を示す典型的な顕微鏡写真である。歯状回以外の関連する全ての領域における、α5IA治療後のfos免疫反応性の全面的な増加に着目するべきである。この図は図12Bを補足するものである。
【0048】
図14は、図13の実験から得られる結果をまとめたものである。統計分析により、図13に示された性質的観察結果が確認できる。性質的観察結果としては、主に、海馬同様、鼻周囲皮質及び後部の帯状模様のある皮質における、特に、CA1フィールドにおける、対照のマウスとTs65Dnマウスにおけるα5IAによるニューロン活性の増加である。歯状回での活性のみが、治療により有意義に影響しなかった。
【0049】
〔定義〕
別に定義しない限り、本明細書で用いられる技術的用語及び科学的用語は、本発明に属する当業者が一般的に理解する意味と同じ意味を有する。本明細書に引用されている全ての特許文献及び出版物を援用することにより本発明に組み込むものとする。
【0050】
本明細書で説明された定義は、本明細書で用いられる用語を明確にすることを意図している。「本明細書」という用語は、明細書全般を意味している。
【0051】
本明細書で用いられているような、化合物又は生理学的に許容できる組成物の「有効量」とは、ダウン症患者の一つ又はそれ以上の認識機能障害を一時的に緩和できる活性のある薬剤原料の量である。従って、活性のある薬剤原料を有効量与えれば、記憶障害、学習能力の障害又はその両方の緩和が予想できる。(提供される)緩和は、一時的であると見なされる。しかし、当業者は、一時的な学習能力の改善が、時間をかけると累積する傾向のある学習のような、長期学習における長期間の薬効を含み得るということを認識し得る。従って、「一時的」という限定用語を利用する場合、累積学習での可能性のある長期的な改善について排除することを意図していない。上記の量は、単一の投薬量として投与されてもよく、効果的な投薬計画に基づいて投与されてもよい。
【0052】
本明細書で用いられている「治療」は、健康状態における症状若しくは病状、疾病、又は病気を改善させるための、又は、その他の有益な変化をさせるためのいずれかの方法を意味している。
【0053】
本明細書で用いられている「生物活性」は、化合物のインビトロ活性、又は、化合物、組成物又は他の混合物のインビトロ投与による結果としての生理的作用を示している。従って、生物活性は、上記の化合物、組成物及び混合物の治療効果及び薬理活性を含んでいる。
【0054】
本明細書で用いられている「薬理活性」は、ダウン症患者における重篤な認識機能障害を治療又は緩和するための、本明細書における化合物の活性を示している。
【0055】
本明細書で用いられている「作用薬」は、受容体に接したとき、受容体の活性を増加させる化合物として定義されている。
【0056】
「拮抗薬」という用語は、受容体と結合する作用薬又は逆作用薬と競争し、それにより、受容体における作用薬又は逆作用薬の活性を阻害又は阻止する化合物として定義される。しかし、(「中性」拮抗薬としても知られている)拮抗薬は、本質的な受容体活性における効果を有さない。
【0057】
「逆作用薬」という用語は、受容体と結合する作用薬が結合する結合部位と、同じ受容体の結合部位に結合し、本質的な受容体の活性を覆う物質を示している。逆作用薬は、受容体作用薬と対照的な、薬学的な効果を働かせる。逆作用薬は、そのリガンドの活性を伴わない本質的な効果(本質的効果としても示されている)を備える、受容体の特定のタイプ(例えば特定のGABA受容体)に対して効果的である。受容体の作用薬、拮抗薬及び逆作用薬は、同一の受容体タイプに結合する。逆作用薬の薬学的な効果は、主に、これまでに発見された既知の作用薬による、作用薬のマイナスの値として測定される。従って、仮に作用薬がプラスの値を有し、逆作用薬がマイナスの値を有していた場合、中性の状態下で受容体の拮抗薬は、作用薬及び逆作用薬の両方を有する。
【0058】
「患者」という用語は、治療、観察又は実験対象である動物を示しており、例えば、人間のような哺乳類を示している。
【0059】
「選択的」という用語は、特定の受容体のタイプ、サブタイプ、クラス又はサブクラスからの望ましい作用をもたらす十分な量の化合物が、他の受容体タイプの活性においては殆ど又は全く効果がないという化合物の性質として定義される。
【0060】
本明細書で用いられているような、EC50は、特定の試験化合物により誘導、誘発又は増強する特定の作用についての最大発現の50%における、1投薬量に依存する作用を導く特定の試験化合物の投薬量、濃度又は量を示している。
【0061】
作用薬に関するEC50は、インビトロ検定法で見られる最大作用の50%を達成するために必要な化合物の濃度を表すことを意図している。逆作用薬に関して、EC50は、化合物のない基礎的なレベルでの、受容体の作用における50%の阻害を達成するための化合物の濃度を示すことを意図している。
【0062】
本明細書で用いられているような、薬理的な活性の化合物の「同時投薬」という用語は、インビボ又はインビトロでの、二つ又はそれ以上の分離した化学的な構成要素の投与を示している。同時投薬は、薬剤の混合物を同時に投与するだけではなく、第1の薬剤を投与した後に、第2の薬剤又は追加の薬剤を投与するような、同時に分離した薬剤の投与を示している。全ての場合において、同時投薬する薬剤は、お互いに合同して働くことを意図している。
【0063】
本明細書で用いられているような、「生理学的に許容できる」は、穏やかな医療的判断の範囲内において、過度な毒性、炎症、アレルギー反応又は他の問題若しくは合併症を伴わない、ヒト及び動物の細胞に接触させるために用いられる適切で、妥当な利益/リスクの比であり釣り合いのとれた、化合物、物質、組成物、及び/又は、投薬量の形態を示している。
【0064】
本明細書で用いられている「生理学的に許容できる塩」は、酸の塩又は塩基の塩(例えば対イオンも含む)を作ることにより変化する親化合物であって、公開されている化合物の誘導体(由来物)を示している。生理学的に許容できる塩の例として、アミンのような塩基性残基の金属塩又は有機酸塩、カルボン酸のような酸性残基のアルカリ塩又は有機塩、及び、それらに類するものが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。生理学的に許容できる塩には、例えば、無毒の無機酸又は有機酸からなる親化合物の従来の無毒の塩又は第四級アンモニウム塩が含まれる。例えば、上記従来の無毒の塩には、塩酸、リン酸並びにそれに類するもののような無機酸に由来する塩、及び、乳酸、マレイン酸、クエン酸、安息香酸、メタンスルホン酸並びにそれに類するもののような有機酸から生じる塩が含まれる。
【0065】
本発明に係る生理学的に許容できる塩は、塩基構造部分又は酸構造部分を含む親化合物から従来の化学的方法により合成され得る。一般的に、上記の塩は、水中若しくは有機溶媒中又は両者の混合溶媒中で、化学量論量の適切な塩基又は酸と共に、その親化合物の遊離酸又は遊離塩基の形態の反応によって生成し得る。有機溶媒としては、エーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノール、又は、アセトニトリルのような非水性溶媒が用いられる。
【0066】
「塩」という用語は、無機酸又は有機酸のような適切な酸に対して、アミンのような塩基の形態の官能基を処理することによって得られる、生理学的に許容できる酸を添加した塩を意味している。上記無機酸としては、例えば、塩化水素、臭化水素、フッ化水素、ヨウ化水素に代表されるようなハロゲン化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸及びそれに類するものが挙げられる。上記有機酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、ヒドロキシ酢酸、2−ヒドロキシプロピオン酸、2−オキソプロパン酸、エタン二酸、プロパン二酸、ブタン二酸、(Z)−2−ブテン二酸、(E)−ブテン二酸、2−ヒドロキシブタン二酸、2,3−ジヒドロキシブタン二酸、2−ヒドロキシ−1,2,3−プロパントリカルボン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、4−メチルベンゼンスルホン酸、シクロヘキサンスルファミン酸、2−ヒドロキシ安息香酸、4−アミノ−2−ヒドロキシ安息香酸及び専門の当業者に知られているその他の酸が挙げられる。
【0067】
本明細書で用いられているような、「活性のある薬剤原料」(或いは「活性のある薬剤」)という成句は、化合物又は化合物の混合物であって、その化合物の少なくとも一つが、本明細書でより詳細に示されている、α5サブユニットを含むGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を有する化合物を意味している。従って、他に限定しない限り(例えば、「〜からなる」、「本質的に〜からなる」のようなデリミタ(delimiters)による)、活性のある薬剤原料の列挙は、少なくとも一つ、α5サブユニットを含むGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を有する化合物が存在している必要がある。しかし、活性のある薬剤原料には、GABAA α5サブタイプ受容体の機能選択性逆作用薬の活性を損なわない限り(一部の場合において、活性を増進し得る)、一つ又はそれ以上の薬学的な添加化合物も含まれていてもよい。
【0068】
本明細書で用いられているような、「生理学的に許容できる誘導体(由来物)」は、生理学的に許容できる任意の塩、エステル、若しくは、そのエステルの塩、その化合物の塩、又は、患者に投与することで、本明細書に記載されているその他化合物又はその代謝物若しくは残留物を供給することができるその他の付加体若しくは誘導体を示している。従って、生理学的に許容できる誘導体にはその他プロドラッグが含まれている。
【0069】
本明細書で用いられているように、プロドラッグは、インビボ投与することで、生物学的に、薬学的に、又は、治療に効果のある形態の化合物に代謝し又は他の変化をする化合物である。言い換えれば、プロドラッグは、薬理活性種としての親分子を生み出し、インビボ除去の影響を受けやすい追加の構成成分を含む、一般的に主な薬理活性を殆ど伴わない、化合物の誘導体である。プロドラッグを製造するために、薬理活性化合物は、活性化合物が代謝のプロセスにより代謝されるように修飾する。プロドラッグは、代謝安定な若しくは輸送特性のある薬剤に変化するように設計されていてもよく、副作用や毒性をマスキングするように設計されていてもよく、薬剤の風味を改善するように設計されていてもよく、又は、他の特性若しくは性質の薬剤に変化するように設計されていてもよい。薬理プロセス及びインビボ薬剤代謝作用の知識に基づいて、一旦、薬理活性化合物を特定すると、薬学における当業者は、その化合物のプロドラッグを設計することができる(Nogrady (1985) Medicinal Chemistry A Biochemical Approach, Oxford University Press, New York, pages 388-392を参照)。
【0070】
プロドラッグの例としては、インビボで開裂し、有益な化合物を生み出すエステルが挙げられる。上記のエステルは、適切な場所での親化合物における何れかの他の反応基の前保護(必要であれば、次に脱保護)を伴い、例えば、親化合物の何れかのカルボン酸基(-C(=O)OH)等のエステル化反応によって生成し得る。
【0071】
代謝に対して不安定なエステルには、化学構造式が-C(=O)ORであるエステルであって、RがC1−7アルキル(例えば、-Me,-Et,-nPr,-iPr,-nBu,-sBu,-iBu,-tBu)、C1−7アミノアルキル(例えば、アミノエチル、2−(N,N−ジエチルアミノ)エチル、2−(4−モルフォリノ)エチル)、及び、アシルオキシ−C1−7アルキル(例えば、アシルオキシメチル、アシルオキシエチル、ピバロイルオキシメチル、アセトキシメチル、1−アセトキシエチル、1−(1−メトキシ−1−メチル)エチルカルボニルオキシエチル、1−(ベンゾイルオキシ)エチル、イソプロポキシ−カルボニルオキシメチル、1−イソプロポキシ−カルボニルオキシエチル、シクロヘキシル−カルボニルオキシメチル、1−シクロヘキシル−カルボニルオキシエチル、シクロヘキシルオキシ−カルボニルオキシメチル、1−シクロヘキシルオキシ−カルボニルオキシエチル、(4−テトラヒドロピラニルオキシ)カルボニルオキシメチル、1−(4−テトラヒドロピラニルオキシ)カルボニルオキシエチル、(4−テトラヒドロピラニル)カルボニルオキシメチル、及び、1−(4−テトラヒドロピラニル)カルボニルオキシエチル)が含まれる。
【0072】
また、いくつかのプロドラッグは、活性化合物を生み出す触媒活性、又は、更なる化学反応により活性化合物を生み出す化合物を生み出す触媒活性がある(例えば、ADEPT,GDEPT、LIDEPTなど)。例えば、プロドラッグは、糖誘導体又は他の共役配糖体であってもよく、又は、アミノ酸エステル誘導体であってもよい。
【0073】
様々な化合物のプロドラッグ、及び、プロドラッグを生み出す親化合物を誘導化するための物質並びに方法は、周知のものであって、本発明に適合させ得るものである。
【0074】
他の誘導体としては、例えば、化学的に化合物に結合することにより、又は、物理的に結合に関与して、結合するパートナーと連結する、結合するパートナーの化合物が含まれる。結合するパートナーの例として、ラベル分子若しくはレポーター分子、支持担体、基材、輸送分子、エフェクター、薬剤、抗体、又は、阻害剤が挙げられる。他の誘導体には、リポソームを伴う化合物の構築物が含まれる。
【0075】
特定の典型的な薬学的組成物、及び、生理学的に許容できる誘導体が、本明細書において以下で議論され得る。
【0076】
〔発明を実施するための形態〕
GABAA受容体は、中枢神経系(CNS)全体にわたって抑制状態にする主要なモジュレーターである、リガンドによりゲート制御されたイオンチャンネルである。GABAA受容体は、ベンゾジアゼピン(BZs)、バルビツル酸塩および麻酔薬を含む、多くの臨床的に重要な薬剤の活性部位である。GABAA受容体は、結合した遺伝子ファミリー・サブユニット・ポリペプチドにより形成される多くのサブタイプとして存在する。サブユニット・ポリペプチドの多くに、α、βおよびγサブユニットが含まれる。受容体のサブタイプには、哺乳類の脳内で見られる特徴的なパターンがあり、明確な生理的役割が示唆されている。
【0077】
受容体へのGABAの結合は、イオンチャンネル複合体におけるアロステリック部位への化学的な化合物の同時の結合により変調し得る。最も研究されている部位は、BZ結合部位である。GABAが導入されるGABAA受容体の活性化における変調効果に基づいて、BZ部位リガンドは、作用薬(ポジティブ・アロステリック・モジュレーター)、逆作用薬(ネガティブ・アロステリック・モジュレーター)又は拮抗薬の何れかに分類される。
【0078】
BZ作用薬は、イオンチャンネルを介した塩化物の流出が増加し、ニューロンを基本的過分極させ及び興奮性を減少させるGABAの存在下で、チャンネルの開口頻度を増加させることにより、その効果を及ぼす。反対に、BZ逆作用薬は、チャンネルの開口頻度を減少させ、そして、それにより、ニューロンの興奮性を増加させる。拮抗薬は、それ自身、GABA系活性に影響しない。しかし、拮抗薬は、競争により、作用薬の影響を阻害する。
【0079】
上記で議論したように、GABAA受容体拮抗薬は、ダウン症のマウスモデル(Ts65Dnマウス)において記憶力や宣言型学習能力を増加することが示されている([ref 5])。しかし、多くのGABAA拮抗薬は、人間も含めて動物モデルにおいて発作の原因となる傾向があり、それにより、患者に対して認識機能を増進する薬剤として利用することが妨げられてきた。
【0080】
アルツハイマー病患者及びその他の痴呆症患者における認識機能の増進に関連する分野において、研究対象が、GABAA逆作用薬に変わってきている。例えば、ベンゾジアゼピン受容体逆作用薬β−CCMは、モリス水迷路での空間学習能力を増進させるという報告がある(McNamara and Skelton, Psychobiology, 21(2):101-108 (2002) [ref 5]; See also Venault et al., Nature, 321(6073):864-866 (1986) [ref 14])。しかしながら、β−CCM及び多くの従来のベンゾジアゼピン受容体逆作用薬は、ヒトに対する認識機能増進薬として用いることができないことは、痙攣誘発性又は痙攣性を有することから明確である。
【0081】
GABAA逆作用薬の特定のカテゴリーにおいて、望ましくない痙攣誘発性又は痙攣性を伴わない、認識機能を増進させる特性を備えることが報告されている。それによれば、GABAA α5受容体のベンゾジアゼピン部位に対する機能的で選択的な逆作用薬が、不安惹起作用や痙攣誘発作用を伴わずに、ラット及び/又はモンキーで認識機能を増進させることが見出された(例えば、Ballard et al., Psychopharmacology, 202:207-223 (2009) [ref 6];Atack et al., Neuropharmacology, 51:1023-1029 (2006) [ref 7]を参照)。
【0082】
例えば、トリアゾロフタラジンα5IAが、α1、α2、α3又はα5サブユニットの何れかを含む、GABAA受容体のベンゾジアゼピン結合部位と等しい親和性を有する結合をすることが報告されている(Sternfeld et al., J. Med. Chem., 47:2176-2179 (2004) [ref 8];Dawson et al., The Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics, 316(3):1335-1345 (2006) [ref 9])。
【0083】
【化1】
【0084】
α5IAは、結合親和性に関して選択的ではないが、α5IAは、α5サブユニットに対して逆作用薬の効能の選択性があり、α5サブユニットで逆作用性を示す。しかし、α5IAは、α1、α2及びα3サブユニットに対して、逆作用性が低く、拮抗薬の効能を有している(Dawson et al. [ref 9])。従って、この化合物のインビボ及びインビトロでの効果は、主にα5サブユニットを含むGABAA受容体を介して及ぼす(Dawson et al. [ref 9])。さらに、α5IAは、マウスの海馬スライス分析(学習能力と記憶力に関するシナプスのリモデリングに関する想定モデル)で、長期増強作用を増進することが見出され、そして、モリス水迷路の作業の変化で認識機能成績の増進が見出された(Dawson et al. [ref 9])。
【0085】
最近、同一の化合物で、健康な一般志願者においてエタノールの認識機能障害の影響が減少することが見出された(Nutt et al., Neuropharmacology, 53:810-820 (2007) [ref 10])。
【0086】
GABAA α5受容体のベンゾジアゼピン部位に対する他の機能的で選択的な逆作用薬が報告されている([ref 6 & 7])。
【0087】
上記タイプの化合物は、アルツハイマー病に関する認識機能障害の治療への利用が見出されることが示唆されている。しかしながら、これらのタイプの化合物が実際に治療への利用が見出されるのかどうかに関しては疑問である。
【0088】
実際に、アルツハイマー病に関する最近の出版物で、脱抑制したニューロンは退化し得るが、その一方で、興奮が抑制されたニューロン(比較的過剰に抑制されたニューロン)は残存し得るということが示された(Schmitt 2005 ≪ Neuro-modulation, aminergic neuro-disinhibition and neuro-degeneration. Draft of a comprehensive theory for Alzheimer disease ≫ Med Hypotheses. 2005;65(6):1106-19. Epub 2005 Aug 24 [ref 15])。アルツハイマー病のマウスモデルでは、海馬における、ネットワーク興奮性及び補償抑制機構の異常な増加がある(Palop et al. ≪ Aberrant excitatory neuronal activity and compensatory remodeling of inhibitory hippocampal circuits in mouse models of Alzheimer's disease ≫ Neuron. 2007 Sep 6;55(5):697-711 [ref 16])。従って、α5IAを用いることはアルツハイマー病に対する最良の治療法ではないかも知れない。しかしながら、認識機能障害(特に、ダウン症患者における記憶力、学習能力又はその両方)の増進に関する、GABAA α5受容体のベンゾジアゼピン部位に対する機能的で選択的な逆作用薬の効能は調査も報告もされていない。
【0089】
本発明者らは、一つに、重篤な不安惹起性のような作用、及び/又は、痙攣性若しくは痙攣誘発性の作用を伴わない、ダウン症患者において、主に、記憶力、学習能力又はその両方の認識機能を増進させる分子の開発に尽力を注いだ。
【0090】
今回、α5サブユニットを含むGABAA受容体の逆作用薬の機能的な選択性を備える化合物が、ダウン症に関する認識機能障害を治療するための優れた効能を有し得るということを発見した。従って、本発明者らは、逆作用薬が、α5 GABAA受容体に対して選択的であり、ダウン症患者における認識機能障害を治療するのに有用な薬剤を提供するために使用でき得るということを実証した。この予期しない発見は、先例がなく、ダウン症に関する認識機能障害の効果的な治療法の開発を導き得るものである。
【0091】
本発明は、機能的な選択的α5 GABAA逆作用薬α5IAによるTs65Dnマウスの治療により記憶喪失が回復するだけではなく、α5IAで治療した野生型マウスの記憶の水準に成績を増進させるという本発明者らの発見に基づくものである。全く予期しない方法として、α5IAで治療したTs65Dnマウスにおいて、偽薬を投与された野生型マウスに比べて物体認識作業でより良い成績となった。どんな特別な理論にも結び付けずに考えると、GABAA拮抗薬ペンチレンテトラゾールを用いて治療したTs65Dnマウスに見られるような(Fernandez et al. 2007)、又は、単なる記憶改善効果(promnesic effect)のような、Ts65Dnマウスにおけるα5IAの効能は、認識機能の成績の単なる「標準化」(標準水準への回復)ではないと考えられる。対照的に、過度なGABA系伝達に関する病的な状態の単なる回復を超える相乗効果が観察される。実施例2及び3で報告されているように、上記の結果は、α5サブユニットを含むGABAA受容体の逆作用薬の機能的な選択性を備える化合物が、ダウン症に関する認識機能障害の治療に特別な効能を有し、二重の/相乗的な治療作用及び記憶改善効果を備え得るということを示している。そのため、上記の化合物が、ダウン症患者における認識機能障害の効果的な治療のための有望な候補であることを示している。
【0092】
三染色体のマウスのシナプスはより多くのGABAを備えているため、観察された成績の増強は、合理的に予想されるものではない。従って、Ts65DnマウスにおけるGABA活性のさらなる抑制は困難であることが予想され得る。逆作用薬α5IAは、合理的に予想できない二つの付加的作用を示す。
【0093】
1)治療していないマウスに比べ、Ts65Dnマウスの記憶喪失を回復する(これは予測不可能であった)。
【0094】
2)Ts65Dnマウスの記憶力成績を増強し、α5IAで治療した野生型マウスと同様な成績となる。
【0095】
フェルナンデスらによって報告されたGABA拮抗薬(ペンチレンテトラゾール)を用いた研究成果([ref 3])により、治療していない制御マウスに比べて、治療したマウスに認識機能の増強する効果は見られない。
【0096】
従って、一つの形態として、本発明は、α5サブユニットを含むGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を有する化合物を含む組成物の有効量をダウン症患者に投与することを含む、ダウン症に関する重篤な認識機能障害を治療又は緩和するための方法及び医薬製剤を提供する。本発明は、ダウン症患者における認識機能障害を治療する薬剤として用いられる、α5サブユニットを含むGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を有する化合物を提供する。また、本発明は、ダウン症患者における認識機能障害の治療における薬剤を調製するための、α5サブユニットを含むGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を有する化合物の使用方法を提供する。
【0097】
他の形態として、本発明は、認識機能を増進する量の、α5サブユニットを含むGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を有する化合物を患者に投与することを含む、ダウン症患者の認識機能を増進させるための方法及び医薬製剤を提供する。従って、本発明は、ダウン症患者の認識機能を増進するための薬剤として利用するための、α5サブユニットを含むGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を有する化合物を提供する。また、本発明は、ダウン症患者の認識機能増進のための薬剤を調製するための、α5サブユニットを含むGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を有する化合物の使用方法を提供する。
【0098】
従って、本発明は、ダウン症の結果としての認識機能に障害を有する特定の人における、例えば、記憶力や学習能力のような認識機能障害を改善することを目的としている。
【0099】
(1.化合物)
本発明に係る方法を実行するために有用な化合物は、少なくとも、α1、α2又はα3受容体サブユニットではなく、α5サブユニットを含むGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を示す。
【0100】
また、特定の典型的な実施形態では、上記の化合物は、α1、α2又はα3受容体サブユニットではなく、GABAA α5受容体サブユニットに対して、選択的な結合親和性を示す。
【0101】
特定の典型的な実施形態では、上記の化合物は、以下の一つの構造、その生理学的に許容できる塩又はそれらのプロドラッグを備えている。
【0102】
【化2】
【0103】
上記の化合物は、GABAA α5受容体のベンゾジアゼピン部位に対する逆作用薬としての機能的選択性が示される一方で、他のGABAA受容体サブタイプに対する逆作用薬活性に関する望ましくない効果には乏しいことが示されている(即ち、不安惹起活性又は痙攣性若しくは痙攣誘発性活性)(Sternfeld et al. 2004 [ref 8], Chambers et al. 2004 [ref 11] et Ballard et al. 2009 [ref 6], respectively)。上記の化合物は、上記の引用文献に示されている方法により作ることができる。
【0104】
特定の典型的な実施形態では、上記の化合物は、以下の一つの構造を有する化合物、その生理学的に許容できる塩又はそれらのプロドラッグである。
【0105】
【化3】
【0106】
特定の典型的な実施形態では、上記の化合物は、以下の構造を有する化合物、その生理学的に許容できる塩又はそれらのプロドラッグである。
【0107】
【化4】
【0108】
(2.GABAA α5受容体サブタイプに対する機能的選択的な化合物の同定分析で用いる好ましい化合物の同定)
(受容体結合親和性/選択性)
特定の実施形態では、本発明に係る方法を実行するために有用な化合物は、α5サブユニットを含むGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を備える。特定の実施形態では、上記の化合物は、部分的に又は全面的に、α5サブユニットに対する機能的選択的な逆作用薬であり、一方で、α1、α2及びα3サブユニットに対する実質的な拮抗薬である。特定の実施形態では、本発明に係る化合物は、α1、α2及びα3サブユニットに比べて、α5サブユニットに対して選択的に結合する。
【0109】
特定の化合物は、既知のインビトロ又はインビボ動物モデルを用いることで、ダウン症に関する重篤な認識機能障害を治療又は緩和するための化合物として、実験的に選ばれ得る。
【0110】
例えば、化合物について、特定のα5 GABAA受容体サブタイプにおける、GABAA受容体サブタイプに対する親和性を評価する。上記の化合物は、米国特許第2006/0084642号に示されているように、α1β3γ2、α2β3γ2、α3β3γ2及びα5β3γ2の構成の受容体を発現する細胞に結合する[3H]フルマゼニルについての競争を測定することにより分析してもよい。
【0111】
特定の実施形態では、上記の化合物は、100nM又はそれ以下の、ラットGABAA受容体のα5サブユニットからの[3H]フルマゼニルの置換についてのKiの数値として表される。特定の実施形態では、上記の化合物は、Kiratの数値は75nM以下の数値で表され、50nM以下の数値であることが好ましく、25nM以下の数値であることが好ましく、20nM以下の数値であることが好ましく、10nM以下の数値であることが好ましく、5nM以下の数値であることが好ましく、1nM以下の数値であることがより好ましい。
【0112】
特定の実施形態では、上記の化合物は、α1、α2及びα3サブユニットに比べて、α5サブユニット受容体に対して選択的である。また、この結合選択性は、米国特許第2006/0084642号に示されているように、α1β3γ2、α2β3γ2、α3β3γ2及びα5β3γ2の構成の受容体を発現する細胞に結合する[3H]フルマゼニルについての競争を測定することにより分析してもよい。特定の実施形態では、GABAA α5受容体サブタイプに対する上記の化合物の結合親和性は、GABAA α1、α2又はα3受容体サブタイプに対する結合親和性に比べて、少なくとも2倍以上の大きさであり、5倍以上の大きさであることが好ましく、10倍以上の大きさであることが好ましく、20倍以上の大きさであることがより好ましく、30倍以上の大きさであることがより好ましく、40倍以上の大きさであることがより好ましく、50倍以上の大きさであることがより好ましく、60倍以上の大きさであることがなお好ましい。上記のGABAA α5受容体サブタイプに対する結合親和性は、α1、α2又はα3受容体サブタイプに対する結合親和性各々と同程度に大きくなくてもよい。例えば、上記のGABAA α5受容体サブタイプに対する結合親和性は、α3受容体サブタイプより約10倍大きく、α2受容体サブタイプより約20倍大きく、そして、α1受容体サブタイプより約60倍大きくてもよい(Sternfeld et al. [ref 7]のAIα5を参照)。
【0113】
(受容体の機能的選択性)
特定の実施形態では、本発明に係る方法を実行するために有用な化合物は、α5サブユニットに対して機能的選択的である。特定の典型的な実施形態では、上記の化合物は、部分的に又は全面的に、α5サブユニットに対する機能的選択的な逆作用薬であり、一方で、α1、α2及びα3サブユニットに対する実質的な拮抗薬である。
【0114】
機能的選択性は、チェンバースらによって報告されるように([ref 11])、ヒトGABAA受容体サブタイプを安定的に発現するマウス繊維芽細胞から導出する細胞パッチ・クランプ全体における化合物を試験することで示され得る。インビトロでの効能は、ほぼ最大(submaximal)(EC20)のGABA濃度を用いた、GABAで喚起される経過の最大変調の割合として測定することができる。プラスの数値は、GABAの喚起経過の増強作用を示している(作用薬)。一方で、マイナスの数値は、GABAの喚起経過の減衰作用を示している(逆作用薬)。また、機能的選択性は、2極電圧クランプ電気生理現象(two-electrode voltage clamp electrophysiology)を用いて、GABA・EC20イオンの経過における変調効果を測定することにより、ゼノパス卵母細胞で一時的に発現する、複製したヒトのα1、α2、α3及びα5サブユニットを含む受容体における、化合物を試験することで、示されてもよい(Sternfeld et al. [ref 8]を参照)。
【0115】
さまざまな受容体サブタイプの機能的効能は、WO 96/25948に示されている方法を用いることで算出することができる。
【0116】
特定の実施形態では、GABAA α5受容体サブタイプの上記の化合物のEC50は、GABAA α1、α2又はα3受容体サブタイプの上記の化合物のEC50に対して、少なくとも2倍より小さく、少なくとも3倍より小さいことが好ましく、少なくとも5倍より小さいことが好ましく、少なくとも8倍より小さいことが好ましく、少なくとも10倍より小さいことがより好ましく、少なくとも15倍より小さいことがより好ましく、少なくとも20倍より小さいことがより好ましい。
【0117】
(認識機能の増強)
特定の実施形態では、本発明に係る方法を実行するために有用な化合物は、ダウン症患者における認識機能を増強する。
【0118】
認識機能の増強は、マクナマラおよびスケルトンにより報告されたような、モリス水迷路において化合物を試験することにより示すことができる(Psychobiology, 21:101-108. [ref 5])。また、フェルナンデスによって報告されたような、物体認識試験により試験してもよい([ref 3])。
【0119】
特定の実施形態では、上記の化合物は、GABAA α5受容体サブタイプの25%±2%〜95%±2%の範囲内で占有するに相当する有効量で認識機能を増強する効果を示し、上記の範囲は、25%±2%〜90%±2%の範囲内であることが好ましく、25%±2%〜80%±2%の範囲内であることが好ましく、25%±2%〜75%±2%の範囲内であることが好ましく、25%±2%〜70%±2%の範囲内であることが好ましく、25%±2%〜65%±2%の範囲内であることが好ましく、25%±2%〜60%±2%の範囲内であることが好ましい。
【0120】
特定の実施形態では、上記の化合物は、GABAA α5受容体サブタイプの25%±2%を占有するに相当する、最小の有効量で認識機能を増強する効果を示す。
【0121】
(不安惹起性及び/又は痙攣性若しくは痙攣誘発性の影響)
特定の実施形態では、本発明に係る方法を実行するために有用な化合物は、ベンゾジアゼピン結合部位の80%より大きな割合を占有する有効量において、測定できる不安惹起性のような作用及び/又は痙攣性若しくは痙攣誘発性のような作用を示さず、上記の割合は、90%より大きな割合であることが好ましく、95%より大きな割合であることが好ましい。
【0122】
不安惹起性及び/又は痙攣性若しくは痙攣誘発性の可能性は、マウスにおけるペンチレンテトラゾールに誘発される痙攣の増強作用を測定する分析において、上記の化合物を試験することにより示され得る(例えば、Chambers et al. [ref 11] for relevant experimental protocols参照)。
【0123】
(3.薬学的組成物)
他の実施形態として、生理学的に許容できる組成物であって、本明細書に記載されているような何れかの化合物を含む組成物を提供する。上記の組成物は、状況に応じて、生理学的に許容できる基材、補助剤又は媒体を含む。特定の実施形態では、上記の組成物は、状況に応じて、さらに、一つ又はそれ以上の追加の治療薬を含んでいてもよい。
【0124】
従って、本発明により提供される薬学的組成物は、少なくとも一つの生理学的に許容できる基材、補助剤又は媒体と共に、活性原料として、本発明に記載されている一つ又はそれ以上の化合物を含んでいる。上記の薬学的組成物は、ダウン症に関する重篤な認識機能障害の治療又は緩和に有効であり、又は、ダウン症患者の認識機能を増進するのに有効である。
【0125】
特定の実施形態において、活性のある薬剤原料には、少なくとも一つのα5サブユニットを含むGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を有する化合物が含まれている。少なくとも一つのGABAA α5受容体サブタイプに対して機能的選択的な逆作用薬は、以下の一つの構造を有する化合物、その生理学的に許容できる塩又はそれらのプロドラッグを備えている。
【0126】
【化5】
【0127】
特定の典型的な実施形態では、少なくとも一つのGABAA α5受容体サブタイプに対して機能的選択的な逆作用薬は、以下の一つの構造を有する化合物、その生理学的に許容できる塩又はそれらのプロドラッグを備えている。
【0128】
【化6】
【0129】
特定の好ましい実施形態では、少なくとも一つのGABAA α5受容体サブタイプに対して機能的選択的な逆作用薬は、以下の構造を有する化合物、その生理学的に許容できる塩又はそれらのプロドラッグを備えている。
【0130】
【化7】
【0131】
特定の実施形態では、上記の活性のある薬剤原料には、α5サブユニットを含むGABAA受容体に対する結合選択性、及び、逆作用薬として機能的選択性の両方を有する少なくとも一つの化合物が含まれる。特定の典型的な実施形態では、上記の少なくとも一つの化合物は、以下の一つの構造を有する化合物、その生理学的に許容できる塩又はそれらのプロドラッグを備えている。
【0132】
【化8】
【0133】
特定の好ましい実施形態では、本発明において提供される薬学的組成物は、有効量のα5サブユニットを含むGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を備える化合物、その生理学的に許容できる塩又はそれらのプロドラッグと、それらと共に、添加剤としてのポリエトキシル化ひまし油のような界面活性剤(表面活性剤又は張力活性剤)及び、溶剤としてのジメチルスルホキシドを含んでいる。特定の実施形態では、上記の組成物は、ダウン症患者の重篤な認識機能障害の治療または緩和に有効である。特定の実施形態では、上記の組成物は、ゲルカプセルの形態、溶液の形態、懸濁液の形態であってもよい。特定の実施形態では、上記の組成物は非経口製剤であってもよい。特定の実施形態では、上記の非経口製剤は、静脈注射用であってもよい。特定の実施形態では、上記の組成物の有効量は、記憶増強効果、学習能力増強効果又はその両方を生み出すための有効量であってもよい。特定の実施形態では、上記の組成物は、さらに、ダウン症に関連する疾病や病気のために用いられる追加の治療薬を含んでいてもよい。上記の有効量は、特定の試験済の化合物についてのEC50(ある特定の暴露時間後のベースラインと最大値との中間の反応を生じる薬剤の濃度)を決定することができる古典的な用量作用曲線から推定されるものであってもよい。従って、等級別の用量作用曲線のEC50は、最大効果の50%が観察される化合物の濃度を表している。このEC50は、一般的に、薬効性及び毒性の尺度として用いられる。例えば、化合物α5IAの有効量は、ヒトの場合、経口投与で3〜10mgの範囲内の量であってもよく、例えば、経口投与で約4mgであってもよい。
【0134】
特定の典型的な実施形態では、上記の組成物は、以下の一つの構造を有する少なくとも一つの化合物、その生理学的に許容できる塩又はそれらのプロドラッグを含んでいる。
【0135】
【化9】
【0136】
特定の典型的な実施形態では、上記の組成物は、以下の一つの構造を有する少なくとも一つの化合物、その生理学的に許容できる塩又はそれらのプロドラッグを含んでいる。
【0137】
【化10】
【0138】
特定の典型的な実施形態では、上記の組成物は、以下の構造を有する少なくとも一つの化合物、その生理学的に許容できる塩又はそれらのプロドラッグを含んでいる。
【0139】
【化11】
【0140】
特定の典型的な実施形態では、上記添加物は、ポリエトキシル化ひまし油である。特定の典型的は実施形態では、上記ポリエトキシル化ひまし油は、Cremophor EL-H20(登録商標)である。Cremophor ELは、ある種のポリエトキシル化ひまし油についてのBASF社の登録商標である。上記のポリエトキシル化ひまし油は、1モル当たり、ひまし油に対して35モルのエチレンオキシドを反応させることにより得られる。その結果得られる生成物は混合物(CAS number 61791-12-6)であり、その混合物の主成分は、ひまし油のトリグリセリドのヒドロキシル基がエチレンオキシドによりエトキシル化し、ポリエチレングリコールエーテルを形成した物質である。微量成分は、リシノール酸のポリエチレングリコールエステル、ポリエチレングリコール、グリセロールのポリエチレングリコールである。特定の実施形態として、solutol HS15のような他の添加物を代わりに用いてもよいし、solutol HS15のような他の添加物をポリエトキシル化ひまし油に添加して用いてもよい。
【0141】
特定の実施形態では、DMSOが水との混合溶剤として用いられる。特定の実施形態では、上記の組成物は、DMSO/ポリエトキシル化ひまし油/水の混合物であって、ポリエトキシル化ひまし油が、DMSO/ポリエトキシル化ひまし油/水の混合物の体積に対して10〜20体積%の範囲内、好ましくは11〜19体積%の範囲内、好ましくは12〜18体積%の範囲内、好ましくは13〜17体積%の範囲内、好ましくは14〜15体積%の範囲内、好ましくは約15体積%で含まれる混合物を用いて形成されている。特定の実施形態では、上記の組成物は、DMSO/ポリエトキシル化ひまし油/水の混合物であって、DMSOが、DMSO/ポリエトキシル化ひまし油/水の混合物の体積に対して5〜15体積%の範囲内、好ましくは6〜14体積%の範囲内、好ましくは7〜13体積%の範囲内、好ましくは8〜12体積%の範囲内、好ましくは9〜11体積%の範囲内、好ましくは約10体積%で含まれる混合物を用いて形成されている。特定の典型的な実施形態では、上記の組成物は、5〜15/10〜20/65〜85の比、好ましくは5〜15/10〜20/68〜82の比、好ましくは6〜14/11〜19/70〜80の比、好ましくは7〜13/12〜18/72〜78の比、好ましくは8〜12/14〜16/73〜77の比、好ましくは9〜11/14〜16/74〜76の比、例えば10/15/75の比のDMSO/ポリエトキシル化ひまし油/水を用いて形成されている。特定の実施形態では、上記の化合物は、以下の一つの構造を有する化合物の塩酸塩である。
【0142】
【化12】
【0143】
特定の典型的な実施形態では、上記の化合物は、以下の一つの構造を有する化合物の塩酸塩である。
【0144】
【化13】
【0145】
特定の好ましい実施形態では、上記の化合物は、以下の構造を有する化合物の塩酸塩である。
【0146】
【化14】
【0147】
そして、上記の薬学的組成物は、さらに、添加剤としてポリエトキシル化ひまし油のような界面活性剤(表面活性剤又は張力活性剤)及び、溶剤としてDMSOを含んでいる。特定の実施形態では、上記の添加剤が、ポリエトキシル化ひまし油であって、上記の組成物が、DMSO/ポリエトキシル化ひまし油/水の混合物であって、ポリエトキシル化ひまし油が、DMSO/ポリエトキシル化ひまし油/水の混合物の体積に対して10〜20体積%の範囲内、好ましくは11〜19体積%の範囲内、好ましくは12〜18体積%の範囲内、好ましくは13〜17体積%の範囲内、好ましくは14〜15体積%の範囲内、好ましくは約15体積%で含まれる混合物を用いて形成されている。特定の実施形態では、上記の組成物は、DMSO/ポリエトキシル化ひまし油/水の混合物であって、DMSOが、DMSO/ポリエトキシル化ひまし油/水の混合物の体積に対して5〜15体積%の範囲内、好ましくは6〜14体積%の範囲内、好ましくは7〜13体積%の範囲内、好ましくは8〜12体積%の範囲内、好ましくは9〜11体積%の範囲内、好ましくは約10体積%で含まれる混合物を用いて形成されている。上記の組成物は、5〜15/10〜20/65〜85の比、好ましくは5〜15/10〜20/68〜82の比、好ましくは6〜14/11〜19/70〜80の比、好ましくは7〜13/12〜18/72〜78の比、好ましくは8〜12/14〜16/73〜77の比、好ましくは9〜11/14〜16/74〜76の比、例えば10/15/75の比のDMSO/ポリエトキシル化ひまし油/水を用いて形成されている。
【0148】
溶剤としてDMSO、及び、添加剤としてポリエトキシル化ひまし油のような界面活性剤(表面活性剤又は張力活性剤)の組み合わせに基づく本発明に係る薬学的組成物は、DMSO/Cremophor EL(登録商標)/水に含まれるα5IA・HClの製剤が、既知のα5IAの製剤に比べて効果が改善しているということを見出した本発明者らの観点から提案されたものである。上記の改善された効果は、1)活性原料α5IAをさらに可溶化すること、及び、2)既知の製剤に観察される不要な効果を示さないこと、である。既知の製剤(投与型)は、70%のPEG300及び30%の水(Collinson et al. 2002 & 2006 [ref 12 and 13])を基本組成とし、250μLの製剤を注射して治療した動物で10%の高さの致死率を誘導する。
【0149】
対照的に、本発明に係る製剤は、α5IA塩酸塩、DMSO及びポリエトキシル化ひまし油のような界面活性剤(表面活性剤又は張力活性剤)を基本組成とし、致死は見られない。さらに、このように得られる製剤では、活性原料の結晶は、より小さく且つより均一であり、連続した静脈注射による塞栓のリスクを抑えることができる。
【0150】
当業者であれば、本明細書で示す様々な活性のある薬剤原料は、鏡像異性体としての純粋な立体異性体及び/又は多形体としての遊離塩基又は塩として利用でき得ることを認識し得る。本明細書で他の条件を示さない限り、活性のある薬剤原料の遊離塩基若しくは塩、鏡像異性体又は多形体についての記載を制限する限定がない場合の、特定の活性のある薬剤原料についての記載は、活性のある薬剤原料やその水和物の、遊離塩基、生理学的に許容できる塩、ラセミ体、鏡像異性体として純粋な形態、非結晶体及び結晶体を含む、活性のある薬剤原料のうち、生理学的に許容できる全ての形態を含んでいることを意図している。
【0151】
また、化合物の異なる多形体が用いられていてもよい。多形態の定義としては、結晶格子における分子配置に基づく、異なる物理的性質を有する同一分子の結晶を示す。多形体の薬剤の性質は、薬学的及び薬理学的に極めて重要であり得る。多形体によって示される物理的性質の違いは、貯蔵安定性、圧縮性及び密度のような薬学的パラメータ(製剤及び製品製造において重要)、並びに、溶出速度(生物学的利用性の決定において重要な要素である)に影響する。安定性の違いは、化学反応性の変化(例えば、一方の多形体から成る方が、他方の多形体から成るよりも、投薬形態の変色が急速であるような異なる酸化)、構造的変化(例えば、速度論的に好ましい多形体から熱力学的により安定な多形体へと変化するにつれて、保存状態におけるタブレットが崩壊する)又はその両方(例えば、ある多形体のタブレットが、高い湿度での崩壊の影響を受け易い)に由来し得る。
【0152】
特定の実施形態では、本明細書で記載されている化合物又はその生理学的に許容できる塩は、ヒトを含む哺乳類の治療処理(予防処置を含む)のための薬学的組成物として、標準製薬法(standard pharmaceutical practice)に基づき形成される。
【0153】
生理学的に許容できる塩は、本技術分野でよく知られたものである。例えば、S.M.Bergeらが開示した生理学的に許容できる塩である(詳細は「J. Pharmaceutical Sciences, 1977, 66, 1-19」この内容全てを援用することにより本発明に組み込むものとする)。本発明に係る化合物の生理学的に許容できる塩には、適切な無機酸又は無機塩基並びに有機酸又は有機塩基に由来する塩が含まれる。生理学的に許容できる無毒である酸の付加塩の例として、塩化水素、臭化水素、リン酸、硫酸及び過塩素酸のような無機酸、若しくは、酢酸、シュウ酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、コハク酸或いはマロン酸のような有機酸により形成されるアミノ基の塩、又は、イオン交換のような本技術分野で用いられる他の方法を用いることによるアミノ基の塩が挙げられる。他の生理学的に許容できる塩には、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスコルビン酸塩、アスパラギン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重硫酸塩、ホウ酸塩、酪酸塩、樟脳酸塩、カンファースルホン酸塩、クエン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、グルコヘプトン酸塩、グリセロリン酸塩、グルコン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、ヨウ化水素塩、2−ヒドロキシエタンスルホン酸塩、ラクトビオン酸塩、乳酸塩、ラウリン酸塩、ラウリル硫酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メタンスルホン酸塩、2−ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモン酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3−フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩、ピクリン酸塩、ピバリン酸塩、プロピオン酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、ウンデカン酸塩、吉草酸塩及びそれらに類する塩が含まれる。適切な塩基に由来する塩には、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩及びN+(C1−4アルキル)4の塩が含まれる。また、本発明は、本明細書で開示されている化合物の何れかの塩基性の窒素含有基の第四級化も想定している。水溶性若しくは脂溶性の生成物又は分散性の生成物は、上記の第四級化により生成するものであってもよい。代表的なアルカリ金属塩、又は、アルカリ土類金属塩には、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩及びそれらに類する塩が含まれる。さらに、適切な場合、生理学的に許容できる塩には、ハロゲン化物イオン、水酸化物イオン、カルボン酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、硝酸イオン、低級アルキルスルホン酸、及び、アリルスルホン酸塩のような対イオンを用いて形成される無毒なアンモニウム塩、第四級アンモニウム塩及びアミンカチオンが含まれる。
【0154】
生理学的に許容できる誘導体、生理学的に許容できる塩及び多様な形態を含む、上記の活性のある薬剤原料は、薬学的組成物として形成され得る。上記の組成物は、必要に応じて、従来の無毒な生理学的に許容できる基材、補助剤又は媒体を含む投薬単位として、経口投与、バッカル投与、舌下投与、経静脈投与、非経口投与、吸入スプレーとしての投与、直腸投与、皮内投与、経皮投与、経肺投与、経鼻投与、又は、局所投与され得る。また、局所投与は、経皮パッチ又はイオン導入装置のような経皮投与法の利用を含んでいてもよい。本明細書で用いられるような「非経口」という用語は、皮下注射、経静脈注射、筋肉注射若しくは経動脈注射、又は、投薬技術を含んでいる。ある好ましい実施形態では、上記の組成物は、経口投与、バッカル投与、又は、舌下投与される。他の好ましい実施形態では、上記の組成物は経静脈投与される。
【0155】
上記の活性のある薬剤原料は、それ自体が投与されてもよいし、薬学的組成物の形態として投与されてもよい。上記の薬学的組成物は、活性化合物が、一つ又はそれ以上の基材、補形剤、崩壊剤、流動促進剤、希釈剤、放出遅延性若しくは放出制御性マトリクス、又は放出遅延性若しくは放出制御性コーティングのような一つ又はそれ以上の生理学的に許容できる成分との混和物又は混合物に含まれている。薬学的組成物は、補形剤及び補助剤を含む一つ又はそれ以上の生理学的に許容できる基材を用いて、活性化合物を薬学的に用いることができる調製品へ容易に処理する従来の方法で形成されてもよい。適切な製剤の形態は、選択された投与手段に依存する。
【0156】
本発明に係る化合物から薬学的組成物を調製するための、不活性な生理学的に許容できる基材は、固体又は液体のどちらでもあり得る。固体の形態の調製品には、パウダー、タブレット、分散粒、カプセル、オブラート(カプレット)及び坐薬が含まれる。
【0157】
固体の組成物としての、従来の無毒な固体の基材には、例えば、調剤等級のマンニトール、ラクトース、セルロース、セルロース誘導体、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、ナトリウム・サッカリン、タルカム、グルコース、スクロース、炭酸マグネシウム及びそれらに類して利用できるものが含まれる。液体の薬学的投与可能な組成物は、例えば、上記で定義される活性化合物、及び、任意の薬学的な補助剤を、例えば、水、含塩水性デキストロース(saline aqueous dextrose)、グリセリン、エタノール、及びそれらに類するもののような基材の中に溶解、分散することなどにより、調製され得るものである。また、必要であれば、投与するための上記の薬学的組成物には、例えば、酢酸ナトリウム、モノラウリン酸ソルビタン、酢酸トリエタノールアミンナトリウム、モノラウリン酸ソルビタン、オレイン酸トリエタノールアミン等のような、湿潤剤、乳化剤、pH緩衝剤又はそれらに類するもののような微量の無毒の補助剤が含まれていてもよい。投薬形態を調製する実質的な方法は、当業者により周知であり、又は、明確である(例えば、「Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easton, Pa., 15th Edition, 1975.」参照)。
【0158】
組成物の調製に関して、一つ又はそれ以上の化合物は、適切な生理学的に許容できる基材と共に混合される。化合物の混合又は添加後に得られる混合物は、溶液、懸濁液、乳液又はそれらに類するものであってもよい。また、リポソーム懸濁液は、生理学的に許容できる基材として適切であり得る。この懸濁液は、当業者に知られた方法に基づき調製されてもよい。得られる混合物の形態は、投与の所望の様式、及び、選ばれた基材や媒体中での化合物の溶解性を含む、多くの要素に依存する。有効濃度は、治療対象の病気、疾病、または症状の状態を改善するために十分な濃度であり、実験的に決定されてもよい。
【0159】
本明細書に示された化合物の投与に適切な薬学的な基材又は媒体は、特定の投与の様式に適切な、当業者に知られているような何れかの基材を含んでいる。さらに、活性のある物質は、望まれる作用を阻害しない他の活性のある物質と混合されていてもよく、又は、望まれる作用を補足する物質や、他の作用を有する物質と混合されてもよい。上記の化合物を、組成物中における単独の薬学的な活性原料として形成してもよく、他の活性原料と組み合わせてもよい。
【0160】
固体の基材は、希釈剤、香料添加剤、溶解剤、潤滑剤、懸濁化剤、バインダー又はタブレット崩壊剤として働く一つ又はそれ以上の物質であってもよい。また、固体基材は、カプセル材料であり得る。
【0161】
パウダー中では、細かく分割された活性成分と混合された、細かく分割された固体である。タブレット中では、活性成分は、適度に必要な結合性を備えている基材と混合しており、所望の形状及び大きさに成形されている。
【0162】
坐薬としての組成物の調製に関して、まず、脂肪酸グリセリド及びココアバターの混合物のような低融点ワックスを溶解し、そして、活性原料を、例えば撹拌などにより低融点ワックスに分散させる。その後、溶解された均質な混合物は、使い易い大きさのモールドに注がれ、冷却し、固めることができる。
【0163】
適切な基材には、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ラクトース、砂糖、ペクチン、デキストリン、デンプン、トウガカントゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、低融点ワックス、ココアバター及びそれらに類するものが含まれる。
【0164】
上記の薬学的組成物はコーティングされた形態であってもよい。適切なコーティング材料の例としては、酢酸フタル酸セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリ酢酸フタル酸ビニル、アクリル酸重合体及び共重合体、並びに、Eudragit(登録商標)(Roth Pharma, Westerstadt, Germany)の名称で市販されているメタクリル樹脂、ゼイン、セラック及び多糖類が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0165】
さらに、コーティング材料には、可塑剤、色素、着色剤、流動促進剤、安定剤、増孔剤、及び、界面活性剤が含まれていてもよい。
【0166】
もし、経口投与が望ましい場合、上記の化合物は胃の酸性環境から保護する構成中に含まれていてもよい。例えば、上記の構成は、胃の中で完全な状態を維持し、腸の中で上記の活性化合物を放出する腸溶コーティングである。また、上記の構成は、制酸剤又はその他のそれに類する成分との組み合わせであってもよい。
【0167】
任意の生理学的に許容できる添加剤は、薬剤コーティングのタブレット、ビーズ、顆粒又は粒子中に存在し、希釈剤、バインダー、潤滑剤、崩壊剤、着色剤、スタビライザー、及び、界面活性剤を含むが、これらに限定されるものではない。
【0168】
希釈剤は、「フィラー」としても呼ばれ、タブレットに圧縮し、又は、ビーズ及び顆粒に成形し、実用的な大きさにすることができるように、固体の投薬形態の体積を増加するために一般的に必要である。適切な希釈剤には、限定するわけではないが、リン酸カルシウム二水和物、硫酸カルシウム、ラクトース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロース、微結晶セルロース、カオリン、塩化ナトリウム、乾燥デンプン、デンプン加水分解物、アルファ化デンプン(pregelatinized starch)、二酸化ケイ素、二酸化チタン、ケイ酸アルミニウムマグネシウム及び粉砂糖が含まれる。
【0169】
バインダーは、固体の投薬製剤に凝集性を付与するために用いられ、投薬形態に成形した後のタブレット又はビーズ若しくは顆粒を原形に保つことを保証する。適切なバインダー材料には、限定するわけではないが、デンプン、アルファ化デンプン、ゼラチン、砂糖(スクロース、グルコース、デキストロース、ラクトース及びソルビトールを含む)、ポリエチレングリコール、ワックス;アカシア、トラガカントゴム、アルギン酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロースを含むセルロース、及び、ベガムのような天然ゴム及び合成ゴム、並びに、アクリル酸メタクリル酸共重合体、メタクリル酸共重合体、メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸アミノアルキル共重合体、ポリアクリル酸/ポリメタクリル酸及びポリビニルピロリドンのような合成重合体が含まれる。
【0170】
潤滑剤は、タブレットの製造を円滑にするために用いられる。例えば、適切な潤滑剤には、限定するわけではないが、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、ベヘン酸グリセロール、ポリエチレングリコール、タルク、及び、ミネラルオイルが含まれる。
【0171】
崩壊剤は、剤形分解又は投与後の「崩壊」を促すために用いられる。崩壊剤には、特に限定するわけではないが、一般的に、デンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、カルボキシメチルデンプンナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、アルファ化デンプン、粘土、セルロース、アルギニン、ゴム、又は、架橋PVP(Polyplasdone XL from GAF Chemical Corp)のような架橋重合体が含まれる。
【0172】
スタビライザーは、実施例のような酸化反応を含む薬剤の分解反応を阻害又は抑制するために用いられる。
【0173】
界面活性剤は、陰イオン性、陽イオン性、両性、非イオン性の表面活性剤であってもよい。適切な陰イオン界面活性剤には、限定するわけではないが、カルボン酸イオン、スルホン酸イオン、及び、硫酸イオンを含む界面活性剤が含まれる。例えば、陰イオン界面活性剤には、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムのような長鎖アルキルスルホン酸および長鎖アルキルアリルスルホン酸のナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムのようなスルホコハク酸ジアルキルナトリウム、スルホコハク酸ビス−(2−エチルチオキシル)ナトリウムのようなスルホコハク酸ジアルキルナトリウム、並びに、硫酸ラウリルナトリウムのような硫酸アルキルが含まれる。陽イオン界面活性剤には、限定するわけではないが、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、臭化セトリモニウム、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム、ポリオキシエチレン、及び、ココナッツアミンのような第四級アンモニウム化合物が含まれる。例えば、非イオン界面活性剤には、モノステアリン酸エチレングリコール、ミリスチン酸プロピレングリコール、モノステアリン酸グリセリン、ステアリン酸グリセリン、4−オレイン酸ポリグリセリル、ソルビタンアシル化物、スクロースアシル化物、ラウリン酸PEG-150、モノラウリル酸PEG-400、モノラウリル酸ポリオキシエチレン、ポリソルビン酸塩、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、PEG-1000セチルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリプロピレングリコールブチルエーテル、Poloxamer* 401、ステアロイルモノイソプロパノールアミド、及び、ポリオキシエチレン水素添加獣脂アミドが含まれる。例えば、両性界面活性剤には、N−ドデシル−[ベータ]−アラニンナトリウム、N−ラウリル−[ベータ]−イミノジプロピオン酸ナトリウム、ミリストアンフォアセテート、ラウリルベタイン、及び、ラウリルスルホベタインが含まれる。
【0174】
また、もし望まれたら、タブレット、ビーズ、顆粒又は粒子には、湿潤剤若しくは乳化剤、染料、pH緩衝剤、又は、防腐剤のような微量の無毒の補助材料が含まれていてもよい。
【0175】
上記の活性のある薬剤原料は、薬学的製剤の一部として他の薬剤と複合されていてもよい。上記の薬学的組成物は、例えば、結合剤(例えば、アカシア、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン(ポビドン)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、スクロース、デンプン及びエチルセルロース)、フィラー(例えば、トウモロコシデンプン(コーンスターチ)、ゼラチン、ラクトース、アカシア、スクロース、微結晶セルロース、カオリン、マンニトール、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、塩化ナトリウム或いはアルギン酸)、潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、シリコーン流動体、タルク、ワックス、油及びコロイダルシリカ)及び崩壊剤(例えば、微結晶セルロース、トウモロコシデンプン(コーンスターチ)、グリコール酸ナトリウムデンプン及びアルギン酸)のような生理学的に許容できる添加剤を用いて従来の手段により作られるタブレット又はカプセルの形態であってもよい。複合物が水溶性の場合、上記の調製される複合物は、例えば、リン酸緩衝生理食塩水、又は、生理的混合溶液(physiologically compatible solutions)のような適切な緩衝液中で調製される。また、得られる複合物が疎水性である場合、TWEEN(登録商標)のような非イオン界面活性剤又はポリエチレングリコールを用いて調製してもよい。従って、活性のある薬剤原料及びその生理学的に許容できる溶媒和物は、投与される形態であってもよい。
【0176】
経口投与又は注射による投与を目的として、本発明に係る薬学的組成物を含ませた液体の形態には、エリキシル剤だけではなく、水溶液、適切な風味をつけたシロップ、水性懸濁液、油性懸濁液、及び、綿実油、胡麻油、やし油又は落花生油のような食用油を伴う風味をつけた乳液、並びに、それらに類する媒体が含まれる。水中又は他の水性媒体中で調合された経口投与のための液体の製剤には、トラガカントゴム、ペクチン、ケルギン、カラゲーニン、アカシア、アルギン酸塩、デキストラン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール及び/又はゼラチンのような合成ゴム及び天然ゴムを含む懸濁化剤が含まれていてもよい。また、上記の液体の製剤には、上記の活性化合物、湿潤剤、甘味料並びに着色剤及び香料を伴う溶液、乳液、シロップ及びエリキシル剤含有物が含まれていてもよい。様々な液体製剤及び粉末製剤は、患者が吸入することを目的として、従来の方法によって調合することができる。
【0177】
放出遅延性及び放出制御性の組成物を調製することができる。放出遅延性/放出制御性の薬学的組成物は、生理学的に許容できるイオン交換樹脂と薬剤とを複合し、その複合物をコーティングすることにより得ることができる。上記の製剤は、コアの複合物から胃腸液への薬剤の拡散を制御するための障壁として働く材料でコーティングされている。状況に応じて、上記の製剤は、胃内で薬剤服用量の10%未満が放出される投薬形態の最終製品とするために、胃の酸性環境下で不溶性であり、下部消化管(lower GI tract)の塩基性環境下で可溶性であるポリマーのフィルムでコーティングされている。
【0178】
さらに、即時に放出する組成物と、放出遅延性/放出制御性の組成物との組み合わせで一緒に調製されていてもよい。
【0179】
上記の化合物は、タイムリリース製剤やタイムリリースコーティングのように、化合物を体からの急速な排出から保護するための媒体と共に調合されていてもよい。上記の媒体には、限定するわけではないが、インプラント及びマイクロカプセル運搬システム、並びに、コラーゲン、酢酸エチレンビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、ポリオルトエステル、ポリ乳酸及びその他のポリマーのような生分解生物適合性ポリマーのような制御放出製剤が含まれる。上記の製剤を生成する方法は、当業者により知られている方法である。
【0180】
一部の例において、律動的放出製剤(律動製剤)(pulsatile formulation)として本発明に係る活性のある薬剤原料を投与することが有利であり得ることが考えられる。上記の製剤は、カプセル、タブレット又は水性懸濁液として投与することができる。例えば、カプセル、タブレット又は水性懸濁液には、二つ又はそれ以上の種類の、活性のある薬剤原料を含む粒子が調合されていてもよい。一方の種類の粒子には、即時に放出する活性のある薬剤原料が含まれている(例えば、即時に放出するためのコーティングがされていなくてもよく、されていてもよい)。そして、他方の種類の粒子には、放出遅延性コーティング/腸溶性コーティングされている活性のある薬剤原料が含まれている。ある実施形態では、活性のある薬剤原料が律動的に放出されることで、一日二回(b.i.d.)、又は、一日一回(q.d.)を基本として投与することで、永続的に放出される製剤となる。カプセルの場合では、上記の二種類の粒子が、即時に放出するためのカプセル、又は、放出遅延性カプセルに詰められているかも知れない。タブレット(カプレットを含む)の場合には、上記の二種類の粒子が、圧縮されていてもよく、状況に応じて、適切なバインダー及び/又は崩壊剤と混合し、タプレットのコアが形成され、即時に放出するためのコーティング、放出制御性コーティングまたはその両方がされていてもよい。さらに、上記のタブレットは、投薬の嚥下適性を増進させるコーティングがなされていてもよい。
【0181】
懸濁液の場合には、第1の種類の粒子は、コーティングされていなくてもよく(そして、実際には全体が又は一部が水溶媒に溶解している)、即時に放出するためのコーティング、放出制御性コーティング又はその両方がされていてもよい。第2の種類の粒子は、放出遅延性コーティングがされており、状況に応じて、即時に放出するためのコーティング及び/又は腸溶性コーティングがされている。腸溶性コーティングは、一般的に、上記の活性のある薬剤原料が、低pH条件に敏感であり、胃の中で不安定であり得る場合に適用される。また、第2の種類の粒子は、放出遅延性粒子内の活性のある薬剤原料の放出について、追加の遅延時間を加えるために放出遅延性粒子が適用されてもよい。
【0182】
不十分な溶解性の化合物の例では、化合物を可溶化する方法が用いられてもよい。この方法は当業者に知られている方法であり、この方法には、限定するわけではないが、ジメチルスルホキシド(DMSO)のような溶剤を用いる方法、ツイーン(商品名)のような界面活性剤を用いる方法、又は、重炭酸ナトリウム水溶液に溶解する方法が含まれる。また、化合物の塩又は化合物のプロドラッグのような化合物の誘導体が、有効な薬剤原料を調製するために用いられてもよい。
【0183】
ダウン症患者の認識機能を増進させるために十分な量であって、患者の治療にあたって望ましくない作用(即ち、不安惹起性のような作用、及び/又は、痙攣性若しくは痙攣誘発性の作用)を示さない量の上記活性化合物を、生理学的に許容できる媒体に含ませてもよい。治療上効果的な濃度は、本明細書に記載されているような既知のインビボ及びインビトロモデル系による化合物を試験することで実験的に決定されてもよい。
【0184】
上記の組成物は、ガラス製、プラスチック製又は他の適切な材料から成るアンプル、使い捨てシリンジ又は複合型若しくは単一型の薬剤バイアルに入れることができる。バイアル等に入れられた上記の組成物は、キットとして与えられる。
【0185】
また、上記の活性材料は、望まれる効果を示さない他の活性材料、または、望まれる効果を補足する材料と混合され得る。
【0186】
(3.治療処置キット)
他の形態として、本発明は、本発明に基づく方法を便利に且つ効果的に実行するためのキットに関する。一般的に、薬剤パック又は薬剤キットは、一つ又はそれ以上の本発明に係る薬学的組成物の成分で満たされた一つ又はそれ以上の容器を備えている。特に、上記の薬剤キットはタブレットやカプセルのような固体の経口摂取形態の薬剤を移動させるのに適している。上記の薬剤キットには、多くの投薬単位が備えられていることが好ましく、また、薬剤の用途を確認するカードが備えられていることが好ましい。もし必要であれば、例えば、番号、文字若しくは他の目印が示されている、又は、薬剤投与の治療スケジュールの日程が記載されたカレンダーが備えられていると記憶の助けになる。もう一つの方法として、上記の薬学的組成物の薬剤と類似の形態、又は、異なる形態の偽薬又はカルシウム栄養補助食品を備えるキットとし、それを毎日薬剤を服用するためのキットとしてもよい。状況に応じて、薬剤製品の製造、利用又は販売を管轄する行政機関により規制された形式であって、その行政機関によりヒトへの投与が承認されたことを示す注意書きが上記の容器に示されていてもよい。
【0187】
(4.使用方法)
さらに他の形態として、本発明は、ダウン症患者の重篤な認識機能障害を治療又は緩和するための薬品として用いるためのα5サブユニットを含むGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を有する化合物を提供する。また、本発明は、ダウン症患者の重篤な認識機能障害を治療又は緩和するための薬品を調製するためのα5サブユニットを含むGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を有する化合物の利用方法を提供する。従って、本発明は、α5サブユニットを含むGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を有する化合物を、その患者が必要とする有効量を投与すること、又は、上記の化合物又は生理学的に許容できるその塩、若しくはそれらのプロドラッグを含む薬学的組成物の有効量を投与することを含む、ダウン症患者の重篤な機能認識障害を治療又は緩和するための方法を提供することにある。
【0188】
他の形態として、本発明は、ダウン症患者の認識機能を増強するための薬品として用いるためのα5サブユニットを含むGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を有する化合物を提供する。また、本発明は、ダウン症患者の認識機能を増強するための薬品を調製するための、α5サブユニットを含むGABAA受容体の逆作用薬としての機能的選択性を有する化合物の使用方法を提供する。従って、本発明は、α5サブユニットを含むGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を有する化合物を、認識機能を増強するためにその患者が必要とする量を投与すること、上記の化合物又は生理学的に許容できるその塩、若しくはそれらのプロドラッグを含む薬学的組成物の有効量を投与することを含む、ダウン症患者の認識機能を増強するための方法を提供することにある。
【0189】
特定の実施形態では、上記の化合物は下記の一つの構造又はその薬学的に許容できる塩若しくはそれらのプロドラッグを含む。
【0190】
【化15】
【0191】
特定の典型的な実施形態では、上記の化合物は下記の一つの構造又はその薬学的に許容できる塩若しくはそれらのプロドラッグを含む。
【0192】
【化16】
【0193】
特定の典型的な実施形態では、上記の化合物は下記の構造又はその薬学的に許容できる塩若しくはそれらのプロドラッグを含む。
【0194】
【化17】
【0195】
特定の実施形態では、上記の化合物は、薬学的組成物として経口投与、バッカル投与又は舌下投与される。特定の実施形態では、上記の化合物は、タブレット、カプセル、ゲルカプセル、カプレット又は溶液若しくは懸濁液の形態で投与される。特定の実施形態では、非経口製剤として投与される。特定の実施形態では、上記の非経口製剤は、静脈注射のために用いられる。特定の実施形態では、上記の化合物の有効量は、発作を引き起こさない量である。例えば、発作を引き起こさない量は、様々な量の化合物の薬剤で痙攣の影響が観察されるかどうかを測定することにより決定される。特定の実施形態では、上記の化合物は、高い受容体占拠率%で痙攣の影響が見られない(80〜90%)。
【0196】
特定の実施形態では、上記の化合物の有効量は、記憶力増強作用、学習能力増強作用又はその両方を生じるため効果的な量である。上記の化合物の有効量は、マウス及びヒト両方の一連の神経心理試験における、上記の化合物の効果を測定することで用量作用曲線を確立することにより決定してもよい。
【0197】
特定の実施形態では、上記の化合物は、ダウン症に関する疾病や疾患の治療のために用いられる追加の治療薬と組み合わせることで用いられてもよい。本発明に係る方法に基づいて、上記の化合物及び上記の組成物は、ダウン症患者の重篤な認識機能障害を治療又は緩和するために効果的な投与量及び投与方法を用いて投与されてもよい。必要とする正確な量は、患者によって異なり、患者の人種、年齢及び患者の基本状態、認識機能障害の重症度、対象の薬剤、その投与形態等に基づく。本発明に係る化合物は、投与が容易であり薬剤が均一な投薬単位の形態で調製されることが好ましい。
【0198】
本明細書で用いられている「投薬単位の形態」という表現は、患者を治療するために適切な物理的に分離した薬剤の単位を示している。しかし、本発明に係る上記の化合物及び上記の組成物の一日で用いられる総量は、適切な医学的判断の範囲内で主治医により決定され得る。特定の患者又は組織に対する具体的な有効投薬水準は、認識機能障害の程度、使用する特定の化合物の活性、使用する具体的な化合物、患者の年齢、体重、基本状態、性別、食事、投与時間、投与方法、及び、使用する具体的な化合物の排出率、治療期間、使用する具体的な化合物と組み合わせて使用する薬剤、又は、同時に用いる薬剤、並びに、それらに類する医療の分野で周知の要素を含む様々な要素に基づいている。本明細書で用いられている「患者」という用語は、動物を意味しており、好ましくは哺乳類であり、最も好ましくはヒトである。
【0199】
本発明に係る生理学的に許容できる組成物は、治療する病気の重症度に基づき、例えば、経口投与、直腸投与、非経口投与、嚢内投与、膣内投与、腹腔内投与、局所投与(粉末、軟膏又はドロップによる)、バッカリー投与、口腔用スプレー若しくは鼻腔用スプレー投与又はそれらに類する投与のような、何れかの適切な方法でヒト及びその他動物に投与することができる。投与形式は、経口投与の形式、及び、非経口投与の形式が好ましい。
【0200】
上記の組成物は、本明細書に示されている0.1mg〜500mgの範囲内の活性化合物を含む上述した投薬単位の形態として投与されてもよい。典型的な投薬単位の形態には、1mg〜100mgの範囲内の活性薬剤が含まれており、例えば、1mg、2mg、3mg、4mg、5mg、10mg、25mg、50mg又は100mgの活性薬剤が含まれている。特定の実施形態では、投薬単位は、3〜10mgの範囲内の活性薬剤を含んでいてもよく、例えば、約4mg含まれていてもよい。
【0201】
認識機能増強に関して、適切な投薬水準は、体重に対して、一日あたり約0.01mg/kg〜250mg/kgの範囲内であってもよく、一日あたり約0.01mg/kg〜100mg/kgの範囲内であることが好ましく、一日あたり約0.01mg/kg〜10mg/kgの範囲内であることが好ましく、一日あたり約0.01mg/kg〜5mg/kgの範囲内であることが特に好ましい。上記の化合物は、一日あたり1回〜4回の投薬規則で投与されてもよく、例えば、一日あたり1回〜2回投与されてもよい。しかしながら、いくつかの場合では、上記の投与制限以外の投与法で化合物を用いてもよい。治療処置は2週間〜12週間の期間にわたって実行してもよく、例えば、4週間にわたって実行してもよい。しかしながら、いくつかの場合では、上記の投与制限以外の投与法で化合物を用いてもよい。
【0202】
上記の活性薬剤は、一度で投与されてもよいし、多数の小さな投薬単位に分割して、時間を空けて投与されてもよい。他の方法では、本発明に係る化合物は、継続的に投与されてもよく、例えば、静脈注射による投与、又は、本発明に係る化合物が組み込まれ、放出する適切な設置式の経皮パッチによる投与であってもよい。
【0203】
本発明に係る化合物は、調製する前に、1μM〜10μMの範囲内の粒子サイズ、好ましくは5μM未満の粒子サイズに、乳棒及びすり鉢、又は、同様な産業的方法を用いて粉末化されることが好ましい。上記の化合物を、当業者に知られた方法により微粉化又は超音波で分解するのがよく、例えばUS-A-5145684に開示されている方法によりナノ粒子化してもよい。
【0204】
また、本発明に係る薬学的組成物は、本発明に係る化合物に加えて、本明細書に示された一つ又はそれ以上の病気の状態を治療することができる一つ又はそれ以上の薬剤を含んでいてもよく、その一つ又はそれ以上の薬剤と共に投与(同時に又は連続して)されてもよい。
【0205】
また、本発明に係る化合物及び生理学的に許容できる組成物は、併用療法、即ち、化合物及び生理学的に許容できる組成物を、一つ又はそれ以上の望まれる治療処置又は医療処置と同時に、治療処置又は医療処置の前に、又は、治療処置又は医療処置の後に投与され得る方法を用いることができる。従って、本明細書で定義されている方法は、単独の治療法として適用されてもよく、本発明に係る化合物に加えて、従来の化学療法が含まれていてもよい。そのような混合療法は、個々の治療成分の投薬単位を同時に投薬する方法、連続して投薬する方法、又は、分離して投薬する方法により達成してもよい。そのような混合薬剤の製品には、本明細書に示された化合物が用いられていてもよい。
【0206】
混合した投薬規則が用いる治療(治療法又は治療処置)の特別な組み合わせには、望まれる治療法及び/又は治療処置、達成される望ましい治療効果の適合性が考慮に入れられ得る。採用した治療により、同一の疾病に対する望ましい効果を達成してもよく(例えば、本発明に係る化合物が、ダウン症患者の認識機能を増強するために用いられる他の薬剤と同時に投与されてもよいということ)、異なった効果を達成してもよい(例えば、何れかの副作用を制御すること)。本明細書で用いられているような、特定の病気や症状を治療又は予防するために通常投与される追加の治療薬は、「その病気や症状を治療するのに適切である」として知られているものである。
【0207】
本発明に係る組成物中に存在する追加の治療薬の量は、本来、その活性薬剤のみとして上記の治療薬を含む組成物を投与する量であれば足り得る。本発明に係る組成物における追加の治療薬の量は、本来、治療効果のあるその活性薬剤のみとして薬剤を含む組成物中に存在する量に対して、約50%〜100%の範囲内の量であればよい。
【0208】
典型的な、ダウン症に関連する医療上の問題には、先天性心臓疾患(例えば、心房心室中隔欠損症、心室中隔欠損症(VSD)、心房中隔欠損症、又は、動脈管開存症、ファロー四微症、左心低形成症候群のような他の複雑な心臓疾患)、肺高血圧症、聴力の問題(例えば、内耳の流動うっ滞、耳感染症、耳自体の構造上の問題)、視力の問題(例えば、先天性白内障(目のレンズの透明度損失)、緑内障(眼内の圧の増加)、斜視(寄り目)、及び、主要な難治性の障害(遠視又は近視)、視力減退(弱視))、腸の異常、発作障害、呼吸困難、肥満症、感染症への増大した感受性、白血病(白血病は、ダウン症を患う子供150人に対して一人の割合で生じる。これは一般的な母集団に対して20倍以上高い数値である)、胃腸の異常(2%〜5%のダウン症を患う子供は、十二指腸閉塞症として知られる、小腸が完全に閉塞している疾患を患っている。さらに2%が、ヒルシュスプルング病として知られている結腸及び/又は直腸の運動能が低下する疾患を患っている)、及び、甲状腺疾患が含まれる。
【0209】
従って、特定の実施形態では、本発明に係る方法には、上述したようなダウン症に関連する病気や状態を治療するために適切な追加の治療薬と共に(同時に、又は、連続して)、本発明にかかる化合物又は生理学的に許容できる組成物を投与することが含まれる。
【0210】
以下に示される実施例は、本発明の説明を補助することを目的としており、本発明の範囲を限定することを意図するものではなく、また、本発明の範囲を限定するものであると解釈するべきではない。実際、本明細書に示された及び開示された実施形態及び実施例に加えて、本発明に係る様々な実施形態及びさらに多くの実施例は、当業者により、以下の実施例並びに本明細書で引用されている科学的参考文献及び特許文献の内容を含む、本明細書の内容全てから明確に導かれる。
【0211】
以下の実施例には、様々な実施形態及びそれに相当する形態における、本発明を実行するために適する重要な追加の情報、例示、及び、指針が含まれる。
【0212】
〔実施例〕
(要約)
GABAA拮抗薬を用いた治療法は、ダウン症の遺伝モデルである、Ts65Dnマウスの認識機能を回復することができる。また、GABAA拮抗薬は、痙攣性の副作用を伴うため、本発明者らは、どんな痙攣活性も示さない、GABA系伝達系を阻害するα5サブタイプを含むGABAAベンゾジアゼピン受容体に対して選択的な逆作用薬(α5IA)の安全な治療戦略を検討した。本発明者らは、α5IAが、脳において、挙動により発現する前初期遺伝子産物を増強することによりTs65Dnマウスの学習能力障害及び記憶力障害を緩和するということを明示する。
【0213】
ダウン症は、精神遅延の最も一般的な遺伝的要因であり(新生児の1/800)、様々な程度の認識機能障害により特徴付けられる([ref 17])。最近発表されたデータにおいて、ダウン症の学習能力機能障害及び記憶力機能障害に関連する変化は、脳内の増強するGABA系の抑制作用により引き起こされる可能性があるということが示されている([ref 2, 18])。実際には、非競争性GABAA拮抗薬を用いることで、ダウン症マウスの障害のある表現型を回復させることができる([ref 3, 19])。しかしながら、GABAA拮抗薬は、高用量で痙攣性を示し、特に、より痙攣性の傾向があるダウン症患者で拮抗薬の使用が妨げられている([ref 9])。
【0214】
本発明の課題は、ダウン症モデル認識機能障害Ts65Dsマウスに対する経口投与で有効な([ref 1])、α5選択的逆作用薬である、α5IAとして本明細書で示されている、3−(5−メチルイソオキサゾール−3−イル)−6−[(1−メチル−1,2,3−トリアゾール−4−イル)メチルオキシ]−1,2,4−トリアゾロ[3,4−a]フタラジン([ref 8])の治療効果を評価することにある。
【0215】
まず、発明者らは、α5 GABAAサブユニットがコードされているGabra5遺伝子の発現レベルが、Ts65Dnマウスと、正常マウスとで同等であることを検証した(図2を参照)。発明者らは、スターンフェルドの方法([ref 8])(図1を参照)に基づきα5IAを合成し、そして、マウスにおいて、関連する痙攣活性/痙攣誘導活性(実施例3及び表1参照)又は、不安惹起活性及び運動機能障害(図6及び図7)を伴わず、明確な認識機能増強効果を促進することができる腹腔投与での5mg/kg投薬用量を見出した(図5を参照)。病理組織検査では、α5IAを用いた長期治療後において何れの組織の変化も見られなかった(図8及び図8の注釈を参照)。発明者らは、α5IAの副作用を示さないでTs65Dnマウスの認識機能障害を回復する治療法の可能性を検討した。
【0216】
空間記憶は、マウスが水迷路中を泳いで隠れたプラットフォームを見つけるという、標準的なモリス水迷路(MWM)作業により評価した(図11Aを参照)。各訓練セッションの30分前に、α5IA又は偽薬を腹腔投与した。標準的な視覚能力を示す(図9参照)一方で、偽薬を投与したTs65Dnマウスは、正常なマウスに比べて重篤な認識機能障害を示し(p<0.0025)、各セッションにわたり正確な動作の改善に遅れが見られた(p<0.025)(図11B及び図11Cを参照)。α5IAを用いた治療法により、Ts65Dnマウスの非能率的な捜索戦略の使用が減少し(図9及び図10の注釈、並びに図10を参照)、より重要なこととして、Ts65Dnマウスで標準的な学習動作へ回復することができた(図11B及び図11Cを参照)。記憶力は、単独の触覚試適(probe trial)(プラットフォームを利用しない)で評価した。対象に対する記憶力が、正常なマウスで見られたものの(p<0.05)、Ts65Dnマウスでは見られず、α5IAで治療した後でも見られなかった(p>0.38)(図11Dを参照)。
【0217】
非空間記憶は、新しい物体認識(NOR)作業により評価した(図12Aを参照)。治療は、作業前の30分で行った。偽薬を投与したTs65Dnマウスは、正常なマウスに比べて記憶障害が見られた(p<0.05)。α5−IAでの治療後、Ts65Dnマウス及び正常なマウスのグループ両方で、同様な高い記憶力成績を示し(遺伝子型効果の欠如:p>0.99)、認識記憶はかなり増強された(p<0.001)。
【0218】
同時に、発明者らは、NOR作業の作業90分後に、fos前初期遺伝子産物の脳のマッピング分析を行った(図12B及び図13を参照)。正常なマウス及びα5IAで治療したTs65Dnマウスで、偽薬を投与したTs65Dnマウスに比べてfos免疫反応性の増加が見られた。特に、α5IAによるfos免疫反応性の増加は、α5サブユニットを含むGABAA受容体の低いレベルの発現のみを示す、歯状回を除く認識記憶(例えば、鼻周囲皮質)に関する異なる脳領域で見られた([ref 21])。
【0219】
本実験において、発明者らにより、α5IAを単独投与したTs65Dnマウスについて、NOR作業におけるマウスの認識能力が増強されることが示された。さらに、MWM作業の各訓練セッションにわたって繰り返しα5IAで治療することで、Ts65Dnマウスの異常な捜索行動を減少させることができ、正常なマウスと同等に一定の目標地点を見つけることを学習することができる。痙攣作用又は不安惹起作用を伴わないため、α5IAは、他のGABA系薬剤(GABAA拮抗薬)と比べて、より好ましい治療特性を備えており、実際、ヒトを対象に既に承認されている([ref 10])。
【0220】
(材料及び方法)
(a.動物)
マウスは、イントラジン・リソース・センター(Intragene resource centre)(TAAM, CNRS UPS44 Orleans, France)で産生されているものであり、コスタらにより報告されたもの([ref 24])と同様な機能的対立遺伝子Pd6bを持つ混合遺伝背景(B6C3<B>(1))で育てられており、それゆえに、人工繁殖マウスにおける網膜変性及び無分別表現型のマウスが含まれることを回避している。各実験に関して、繰り返される試験の影響がマウスに及ぶことを避けるために、野生型マウスの異なるコホートを使用した。マウスを一方の動物施設から他方の動物施設に輸送したときには、マウスの行動実験を開始するために、少なくとも2週間、新しい環境に順応させた。マウスの一般健康状態を定期的にチェックした。体重を実験期間中、毎週測定した。
【0221】
実験は全て、フランス及びヨーロッパの法規(European Communities Council Directive of 24 November 1986)における倫理基準に基づいて行った。本インビトロ研究の管理技師(B. Delatour)は、動物の実験及び研究を行うことについて、フランス農業省からの公的認可を受けている(認可番号No. 91-282)。
【0222】
(b.Gabra−5のリアルタイム定量的PCR)
Gabra−5遺伝子の発現について、9匹の正常なマウスと7匹のTs65Dnマウスに対するリアルタイム定量的PCR(qPCR)を用いて実験を行った。総RNAは切開した海馬から抽出し、ヌクレオスピンRNA(II)キット(Macherey-Nagel, France)を用いてデオキシリボヌクレアーゼにて処理した。海馬各々から抽出した500ngの総RNAは、それぞれ、バーソcDNAキット(ThermoFisher Scientific, Waltham, USA)を用いて、メーカーの取扱説明書に基づき、37℃で一晩かけてcDNAに逆転写した。その後、cDNAは、参照遺伝子としてGabra−5遺伝子及びpPib遺伝子(シクロフィリンB)のリアルタイムqPCR増幅のために1:20で希釈した(プローブファインダー・ソフトウエア(http://www.universalprobelibrary.com)により設計されたプライマー及びプローブ)。
【0223】
qPCR分析は、Lightcycler(登録商標)480システム(Roche)を用いて行った。即ち、qPCR分析は、200nMの各プライマー、100nMの特定の加水分解プローブ及び一つのLightcycler(登録商標)480の存在下で行った。
【0224】
プローブス・マスター・ミックス(Roche, France)に関して、各反応はメーカーの取扱説明書に基づいて行った。Gabra−5の標準化表示値(normalized expression values)は、Lightcycler(登録商標)480 SW 1.5ソフトウエアを用いて算出した。
【0225】
(c.統計分析)
行動のデータ及び形態のデータは、既知の変数に基づき、パラメトリック統計学を用いて分析した。多くの場合、データは、二つの要素(遺伝子型(正常vs.Ts65Dn)及び治療法(偽薬vs.α5IA))と共に、分散分析(ANOVA)を用いて分析を行った。統計的有意性については、p値を0.05未満に設定した。全ての分析は、Statistica v6(StatSoft, Inc., Tulsa, OK, USA)又はグラファパッド・プリズム(GraphPad Prism)(GraphPad Software, La Jolla, CA, USA)のソフトウエア・パッケージを用いて行った。
【0226】
結果を容易に示すために、ANOVA統計値はp値のみを用いて示している。
【0227】
図の説明で明確に説明されていない場合、従属変数は、平均値(SEM)である(平均値)±(標準誤差)としてグループ毎にプロットしている。
【0228】
〔実施例1:化合物α5IA(714A3)の合成〕
本明細書において、「室温」という用語は、20℃〜25℃の範囲内の温度を示している。
【0229】
化合物α5IA(714A3)は、化合物714A0から開始して四段階、35.3%の全収率で得られる。この四段階について以下に詳細に示す。
【化18】
【0230】
(段階1:化合物714A1の合成)
化合物714A0(1当量、9.96g、50.1mmol)を250mL丸底フラスコに導入した。マグネチックスターラーにより撹拌しながら106.4mLのエタノール(36当量、1.80mol)を加え、そして、4.8mL(0.5当量、0.03mol)の20%アンモニア水(水酸化アンモニウム)を加えた。この混合物を60℃に加熱した。次に、ヒドラジン一水和物(3.6当量、0.18mol、9.0g)を5分間かけて滴下した。こうして得られた混合物を10分間、加熱還流した(高粘度の混合物であり、撹拌が困難であった)。次にこの混合物を室温まで冷却した。この混合物をろ過し、フラスコを微量のエタノールで洗浄した。ろ紙を水、エタノール及びエーテルで洗浄した。乾燥後、黄色がかった白色固体である8.32gの化合物714A1が得られた。収率は86%となった。
【0231】
(段階2:化合物714A1’の合成)
CH2Cl2(1051.6mL、383当量、16.34mol)、化合物714C0(5.4g、1当量、0.04mol)、次に、トリエチルアミン(11.8mL、2当量、0.09mol)を、機械撹拌しながら、アルゴン雰囲気下で、2Lの反応装置内に導入した。こうして得られた混合物を撹拌しながら0℃に冷却し、次に、ビス(2−オキソ−3−オキサゾリジニル)ホスフィン酸クロリド(BOP−Cl、10.9g、1当量、0.04mol)を加えた。この温度で45分間撹拌した後、化合物714A1(8.3g、1当量、42.7mmol)を導入した。この混合物を0℃で2時間撹拌し、さらに、一晩中室温で撹拌した。この混合物を蒸発濃縮し、水で処理し、そして、濾過した。こうして得られた固体を水で二度洗浄し、次に、エタノールと共にロータリー・エバポレーターで乾燥させた。この固体をペンタンで処理及び洗浄し、黄色固体(m=12.4g)である化合物714A1’を得た。収率は96%となった。
【0232】
(段階3:化合物714A2の合成)
トリエチルアミン塩酸塩(2.5g、0.4当量、0.02mol)、キシレン(601.2mL、119当量、4.87mol)、次に、化合物714A1’(12.4g、1当量、40.9mmol)を、マグネチックスターラーにより撹拌しながら、1Lの三口丸底フラスコに導入した。こうして得られた混合物を3時間、加熱還流し、そして、一晩中室温で撹拌した。こうして得られた懸濁液を均質な混合物とするために、懸濁液にDCM(CH2Cl2)を加えた。この有機相を水で洗い、MgSO4を通して乾燥し、ろ過し、そして、溶媒を蒸発させた。この残留物をペンタンで処理し、8.39gの黄色固体を得た。この固体をDCM/H2O抽出処理した。通常の処理後、化合物714A2を黄色固体(7.1g)として得た。収率は61%となった。
【0233】
(段階4:化合物α5IA(714A3)の合成)
(a.試薬714B3の合成)
化合物714B3は、化合物714B0から開始して三段階、17.6%の全収率で得られる。この三段階について以下に詳細に示す。
【0234】
(化合物714B1の合成)
化合物714B0(24.9mL、1当量、0.298mol)及び(CH3)3SiN3をマグネチックスターラーにより撹拌しながら、1Lの圧力釜(オートクレーブ)に導入した。こうして得られた混合物を105℃で90時間加熱した。この混合物を0℃まで冷却し、次に、36mLのメタノールを滴下した。この混合物を45分間室温で撹拌し、そして、20mLのエーテルを加えた。固体をろ過し、エーテルで洗浄し、ペンタンで洗浄し、そして、乾燥し、黄色がかった白色の固体(37.36g)を得た。この固体を80mLのメタノールで処理し、こうして得られた混合物を加熱還流し(可溶化し)、次に、エーテルを濁った溶液となるまで添加した。この混合物を2時間、撹拌することもなく及び加熱することもなく静置した。こうして得られた懸濁液をろ過し、エーテルで洗浄し、白色固体である化合物714B1を得た(28g+9g(2ロット目))。収率は98%となった。
【0235】
(化合物714B2の合成)
化合物714B1(27g、1当量、0.213mol)、次に、DMF(434.8mL、26.3当量、5.59mol)を、機械撹拌しながら、500mLの反応装置に導入した。こうして得られた混合物を、0℃に冷却した。K2CO3(35.21g、1.2当量、0.255mol)を少しずつ加え、そして、CH3I(31.7g、1.05当量、0.223mol)を滴下した。この混合物を0℃で一時間撹拌し、そして、室温で一晩中撹拌した。溶媒を蒸発させ、残留物を水で処理し、CH2Cl2で抽出した。乾燥させ、溶媒を蒸発させた後、固形物をCH2Cl2で処理した。有機相を水で洗浄し、水相をCH2Cl2で再抽出した。有機相を合わせてMgSO4を通して乾燥し、ろ過し、そして、溶媒を蒸発させた。こうして得られた油分をエーテルで処理し、そうすることで得られる固体をろ過し、エーテルで洗浄し、白色固体である6.98gの化合物714B2を得た。収率は23%となった。
【0236】
(化合物714B3の合成)
化合物714B2(6.98g、1当量、49.5mmol)及びTHF(テトラヒドロフラン、81.1mL、20当量、0.99mol)を機械撹拌しながら、250mLの反応装置に導入した。こうして得られた混合物を0℃まで冷却した。LAH(水素化アルミニウムリチウム(LiAlH4)、1.9g、1当量、0.05mol)をゆっくり加えた。この混合物を0℃で30分間撹拌し、そして、室温で二時間撹拌した。この混合物を0℃まで冷却し、そして、2mLの水、2mLの15%水酸化ナトリウム水溶液、さらに、6mLの水を用いて加水分解した。室温で一時間撹拌後、この混合物をろ過し、塩をTHFで洗浄し、そして、溶媒を蒸発させた。この残留物をCH2Cl2で処理し、MgSO4を通して乾燥し、ろ過し、そして、溶媒を蒸発させ、結晶性の油分として4.34gの化合物714B3を得た。収率は78%となった。
【0237】
(b.化合物714A2と試薬714B3との反応)
試薬714B3(2.8g、1当量、0.02mol)、次に、DMF(ジメチルホルムアミド、665.2mL、344当量、8.55mol)を、機械撹拌しながら、2Lの反応装置に導入した。こうして得られた混合物を、−10℃に冷却した。LiHMDS(ヘキサメチルジシラジドリチウム 1.06Mテトラヒドロフラン溶液、26.9mL、1.1当量、0.03mol)を10分間かけて滴下した。この混合物を−10℃で50分間撹拌した。90.9mLのDMF(47当量、1.17mol)に溶解した化合物714A2(7.1g、1当量、24.9mmol)を、上記の混合物に対してすばやく滴下した。この混合物を室温で一晩中撹拌し、そして、水(450mL、発熱)を用いて加水分解した。こうして得られた懸濁液をろ過し、水で洗浄した。こうして得られたろ過脱水物(filter cake)をロータリー・エバポレーターで乾燥した(白色粉末:7.4g)。CHCl3により固体の再結晶を試みたが失敗した。上記の残留物をシリカゲルクロマトグラフィにより精製し(溶出液:DCM/AcOEt:5/5→DCM/CH3OH:85/15)、白色固体(6.3g)として化合物α5IA(714A3)を得た。収率は70%となった。
【0238】
〔実施例2:Ts65Dnマウスにおけるα5IAの効果−物体認識作業〕
試験の手順は、フェルナンデスらによる試験方法を改良したものである。学習能力及び記憶力を研究するために用いられる物体認識作業の手順は、初め存在する物体から物体を変更するまでの間の10分間で行われる。正常なマウスとTs65Dnマウスについて、α5IAを投与して試験を行い、又は投与せずに試験を行った。黒色の四角形のアリーナ(50×50cm)を備える装置は、弱い制御光度(4〜6Lux)及び一定の60dB白色雑音下の室内に設置した。一日目、全てのマウス(16匹の正常なマウス及び16匹のTs65Dnマウス)に対して、ヒトと接触することに慣らせるために、動物施設の実験者が、2回×3分間触れた。二日目において、マウスを、装置及び試験室に慣らせるために、20分間、空のアリーナに置いた。三日目において、四つの同一の物体を、側壁から14cmのアリーナの隅に対称的に設置した。マウスを20分間置き、上記の物体を探させた。試験日(四日目)において、行動セッションの前に、マウスに偽薬又はα5IA製剤のどちらかを腹腔に注射した(各グループ8匹の正常なマウスと8匹のTs65Dnマウス)。注射後30分、ネズミを二つの同一の物体を備えた実験装置内に置き、10分間物体を探させた。この習得段階の後、10分間の記憶休憩の間、マウスをホームケージ内に戻した。短期認識記憶を試験するために、一つの見慣れた物体(例えば、習得ステップでの一つの物体)及び一つの新しい物体を装置内に設置し、マウスを二回、試験室内に10分間置き、物体を捜索させた。各トライアルの間で、嗅覚的目印を減らすために、物体は度数70のエタノールでクリーニングした。
【0239】
オープンフィールド・セッションの間、ビデオ行動解析システム(Any−Maze(登録商標))を用いてマウスをモニタリングした。物体捜索について、動物行動学用キーボードを用いて手動で得点し、6cm未満の距離で物体にマウスの鼻が向いている状態として定義した。マウスが物体上に乗っている状態については物体捜索として見なさなかった。
【0240】
記憶段階の間、見慣れた物体vs(対)新しい物体を捜索する時間の割合は、記憶成績を分析することにより計算した(二種の物体の捜索時間が等しいということに相当する50%の得点は、物体記憶が無いことを示している)。記憶成績の分析を妨げる、記憶試験(t<7秒)の間の異常に低い値の物体捜索を示した一匹の正常なマウス及び二匹のTs65Dnマウスを統計分析から排除したということに注意するべきである。残りのマウスは、長時間の物体捜索時間を費やした(±SEM=77±12.9秒を意味している)。
【0241】
判別比は下記の式を用いて計算した。
【0242】
【数1】
【0243】
ベンゾジアゼピン受容体のGABAA α5受容体サブタイプに対する機能的選択的な逆作用薬α5IAの、ダウン症のマウスモデルに対する効果は、Ts65Dnマウスを用いることで調べた。評価において、Ts65Dnマウス及び野生型のマウスについて、新しい物体認識に関する試験を行った。α5IAで治療したTs65Dnマウスでは、偽薬を投与した野生型マウスに比べて標準以上の物体認識成績を示した。α5IAで治療したTs65Dnマウスでは、α5IAで治療した野生型のマウスと同様な物体認識成績となった。
【0244】
〔実施例3:Ts65Dnマウスにおけるα5IAの痙攣性又は痙攣誘発性の影響〕
(β−CCM及びα5IAの比較)
α5IA又はベータCCMの痙攣作用については、50mg/kg又は3mg/kgのα5IA又はベータCCMを、各々、単独で腹腔注射した後に評価した。50mg/kgのα5IAの投与量は、プロンネシアント(promnesiant)効果を伴う10回分の投与量、及び、物体認識試験における10回分の投与量に相当した(5mg/kg)。
【0245】
α5IAの痙攣誘発作用の試験に関して、約50%のマウスで間代性筋痙攣症を引き起こすペンチレンテトラゾールの痙攣性を示さない(sub-convulsant)投与量(45mg/kg(腹腔投与))を、α5IA(50mg/kg)又は偽薬を注射した20分後に、腹腔注射した。
【0246】
α5IAの痙攣誘発作用は、ペンチレンテトラゾールの痙攣性を示さない(sub-convulsant)投与量を注射後に測定した。マウスに、媒体又はα5IA(50mg/kg(腹腔投与))のどちらかを投与し、20分後、45mg/kgのペンチレンテトラゾールを腹腔注射した。動物を20分間(痙攣作用)又は50分間(痙攣誘発作用)観察した。そこで、一回目の間代性筋痙攣運動発作の発生及び潜在期間を記録した。各条件で6又は7匹のマウスが用いられた。間代性筋痙攣運動発作の潜在期間及び痙攣のグレードは、1200秒間、観察し記録した。実験的に四つのグレードを決定した(グレード0は痙攣作用なし;グレード1は尾を引いて曲げた;グレード2は尾の背面への裏返し、痙攣性の震え;グレード3は間代性筋痙攣)。
【0247】
正常なマウス又はTs65Dnマウスのどちらにおいても、注射後どんな痙攣作用も見られなかった(表1参照)。次に、発明者らは、約50%のマウスで間代性筋痙攣症を引き起こすペンチレンテトラゾールの痙攣性を示さない(sub-convulsant)投与量(45mg/kg)を投与する20分前に、α5IA(50mg/kg)を注射することにより、α5IAの痙攣誘発作用を試験した。正常なマウス又はTs65Dnマウスのどちらにおいても、α5IAの注射により、ペンチレンテトラゾールの痙攣活性は増強しなかった。
【0248】
【表1】
【0249】
α5IA(50mg/kg)は、正常なマウス又はTs65Dnマウスのどちらにおいても、痙攣作用を促進しなかった。また、正常なマウス又はTs65Dnマウスのどちらにおいても、α5IAの薬剤は、ペンチレンテトラゾール(45mg/kg)の痙攣活性を緩和しなかった。
【0250】
〔実施例4:活性原料としてα5IAを含む改良型の薬学的組成物〕
α5IAの異なる製剤のマウスへの腹腔投与の効果を比較する。
【0251】
α5IA(PEG300/NaCl 0.9%(7/3))、α5IA(DMSO/Cremophor EL/水(10/15/75))、及び、α5IA塩酸塩(DMSO/Cremophor EL/水(10/15/75))の製剤の物理的性質について、粘度(流動性(0)から非常に高い粘性(+++)まで)、巨視的特徴(溶液か懸濁液か)、結晶数(高密度(+)又は非常に高い密度(++))及び結晶のサイズに関して評価した。製剤の生物学的影響は、運動機能障害(運動機能への影響なし(0)−運動能の重大な減少(++))及び250μL単体投与後の死亡率に関して定量化した。
【0252】
【表2】
【0253】
〔実施例4:α5IAの用量作用の影響〕
α5IAの最適な用量(投与量)を決定するために、遅延マッチング・トゥ・プレイス作業(DMTP)で、薬剤(とりわけGABAA α5逆作用薬)のプロンネシアント効果を分析するための古典的な学習能力及び記憶力のパラダイムに基づき訓練した正常なマウスを用いて、用量作用の実験を行った([ref 8, 9, 11])。
【0254】
実験はモリス水迷路(MWM)で行った。この迷路は、19℃に維持された不透明な水で満たされた直径150cmのプールであって、水面下1cmに沈められた直径9cmのプラットフォームが備えられている。合計27匹のマウスが用いられた。動物はランダムに等しく三つのグループ(偽薬、α5IA 1mg/kg、α5IA 5mg/kg)に分配された。訓練は7日間行われた。動物には1セッション当たり4トライアルが課せられ、隠されたプラットフォームの位置は、図5aに示すように毎日変更したが、各セッションでは変更しなかった。行動実験の開始30分前に、マウスに偽薬又はα5IAを注射した。各トライアルに関して、マウスを、ランダムなスタート地点からプールに解放し、プラットフォームに到達するまで泳ぎ回らせた。最大のトライアルの長さを90秒間とし、その後、マウスを手動でプラットフォームに導いた。一旦、プラットフォームに到達すると、動物に30秒間の休憩を与えてから、ホームケージ内に戻した。30秒間のトライアル間隔の終了後に、改めて、マウスを新たなスタート地点を用いた次のトライアルのためにタンク内に導入した。これを四回のトライアルが終了するまで繰り返した。記憶力の評価は、一回目のトライアルでプラットフォームに到達するまでの距離と(習得トライアル)、次のトライアルで移動した平均距離とを比較することにより決定された(記憶トライアル)。
【0255】
〔実施例5:自発運動性〕
自発運動性は、総計33匹のマウスで注射してから30分後に評価した(偽薬注射(正常マウス8匹及びTs65Dnマウス7匹)、α5IA(5mg/kg)注射(正常マウス10匹及びTs65Dnマウス8匹))。運動性は、高さ30cmの黒い壁を備えた正方形のオープンフィールド(50cm×50cm、光度30lux)で測定した。簡潔に、各動物をアリーナの中心に置き、10分間自由に探検させた。水平運動性は、何れかの迷路ソフトウエア(Any-Maze software)を用いてモニタリングした。10cm幅の辺縁部での滞在時間及び30cm×30cm中心部での残りの滞在時間を記録し、不安を評価した。
【0256】
〔実施例6:不安に関する行動実験〕
α5IAによる不安に関する行動の変化は、総計42匹のマウスで注射してから30分後に、高架式十字迷路を用いてより正確に評価した(偽薬注射(正常マウス11匹及びTs65Dnマウス7匹)、α5IA(15mg/kg)注射(正常マウス14匹及びTs65Dnマウス10匹))。上記迷路は、対向する二つの開放腕部を備えた黒色のパースペクス(perspex)(長さ28cm、幅5cm、床からの高さ40cm、開放腕部の全体光度70lux)と、高さ16cmの壁を三方に備えた二つの封鎖腕部とにより構成されている。マウスを迷路の中央部に置き、何れかの迷路ソフトウエアを用いて、迷路の異なる部分(例えば開放腕部及び封鎖腕部)で費やした時間を自動的に算出することにより、マウスの行動を5分間記録した。
【0257】
長期的なα5IA(5mg/kg)の注射の潜在的困難性を調べるために、他のグループの正常なマウスを2週間治療した(5回注射/1週間、5匹のα5IA治療マウス、5匹の偽薬治療マウス)。反復治療後、上記のマウスを上述の高架式十字迷路で評価した。
【0258】
〔実施例7:α5IAでの長期治療後の解剖病理学〕
α5IAでの2週間の治療及び高架式十字迷路での実験を行ったマウスに対して、さらに、3週間の治療を行った。治療最終日に、尿サンプルを、α5IA又は偽薬を腹腔投与してから2時間後に採取した。尿サンプルは分析前に、−20℃で保存した。後日、マウスにペントバルビタール・ナトリウムの過剰量を腹腔投与した。深く麻酔をかけたマウスに対して、心臓内散布によりPBSフラッシュを与えた。解剖病理学試験に関して、追加の三匹の何も投与していないマウスも殺した。肝臓、腎臓、脳及び脾臓を解剖し、10%ホルマリン溶液に固定した。そして、組織をパラフィンに漬け、ミクロトームを用いてカット(5μmの厚さの切片)し、組織病理学的評価の手順で処理した(ヘマテイン・エオシン及び過ヨウ素酸シッフ染色)。
【0259】
〔実施例8:モリス水迷路(MWM)〕
空間参照記憶(Spatial reference memory)を、標準的なモリス水迷路作業を用いて評価した。モリス水迷路は上述の迷路と同様である(α5IA投薬作用評価のためのモリス水迷路と同様)。プラットフォームは、プールの四分円のうち、一つの中心であって水面下1cmの所に沈められている。空間的他者中心性訓練(spatial allocentric training)の間、見えないプラットフォームは、トライアルを通じて一定の位置のままとし、トライアルを多くの空間認識地図の作成を促す外的視覚指数を用いて行った。
【0260】
総計で32匹のマウスを用いた(16匹の正常なマウス及び16匹のTs65Dnマウス)。動物を四つのグループにランダムに等しく分配した。毎日、行動試験の開始30分前に、マウスに対して偽薬又はα5IA(5mg/kg)を注射した。
【0261】
一日目において、見えないプラットフォームを用いて単独の習慣トライアルを受けさせた。続く六日間では、一日1セッション(1セッション当たり2トライアル)からなる空間的他者中心性訓練を行った。開始地点は、四つの基本地点間で擬似ランダム的に変化させた。トライアル間隔の平均時間は二時間とした。習慣訓練及び空間訓練段階の各トライアルは、動物がプラットフォームに到達したときに終了とした。90秒間で中断することとし、その後は、マウスを手動でプラットフォームまで導いた。一旦、プラットフォームに到達すると、動物を20秒間休憩させ、ケージに移した。最後の訓練セッションの24時間後に、触覚試適が行われ(8日目)、その間、プラットフォームは除去され、マウスを60秒間自由に泳がせた。
【0262】
空間的学習能力及び記憶力の評価の後に、マウスの視覚的能力を、非空間的手段を用いて制御した。プラットフォームの場所は、水上12cmに設置された白色スチレン・ボールを直接的な目印とし、外部へのアクセスは、プール周りの黒色のカーテンで遮った。視覚案内ナビゲーション作業(visually guided navigation task)の試験は、上述したように、一日1回のセッション4回を四日間連続で行った。
【0263】
全てのデータは、ビデオ行動解析システム(Ethovision, Noldus, Wageningen, The Netherlands)を用いて収集、分析及び保存を行った。
【0264】
迷路中にて異常な浮遊行動及び泳ぐ速度の減少が見られたため、Ts65Dnマウス1匹を統計分析から除外したということに注意するべきである。触覚試適では、1匹の追加の(正常な)マウスを、同じ理由で分析から除外した。
【0265】
〔実施例9:脳のfos免疫反応性の測定〕
α5IAの作用機序を、物体認識作業(新しい環境の探索)に基づき、マウスにおけるfosタンパク質の生産量を測定することにより、ニューロン活性を計測することによって調べた。
【0266】
上記のfosタンパク質(転写調節因子)は、内部刺激又は外部刺激により活性化するニューロン集合体のレベルで、脳内にて局所的に且つ急速に合成されることが知られている。特に、多くの文献のデータには、fosタンパク質をコードしているc−fos遺伝子が、学習中において、位置特異的に動物において発現するということが示されている。c−fos発現地図は、学習の形態により変化し、マーカーが特異的に強調される。
【0267】
ベースラインでは、c−fosの発現は、CNS全体にわたって低い。c−fosの発現は、刺激により急激に増加し、及び、誘発剤に従う特定の脳領域で特定の方法により急激に増加する。fosタンパク質は、従来の免疫組織化学により決定され、結果的に核がマーキングされる。fosタンパク質の最大濃度は、刺激してからおよそ2時間後で、その後、減少する(Hoffman et al., 1993)。
【0268】
用いた手順には、マウスを治療すること(偽薬又は薬剤)が含まれた。30分後、マウスに新しい環境(動物が自発的に情報を取得及び蓄積する状況)を捜索させた。この行動シミュレーションによりc−fos遺伝子を活性化し、そして、この遺伝子の発現産物(fosタンパク質)を免疫組織化学により検出し、専用の画像解析ソフトウエアを用いて定量した。
【0269】
本実験では、四つの脳領域を調べた。
【0270】
一つは、海馬のCA1フィールド(CA1)である。
【0271】
一つは、海馬の歯状回(GD)である。
【0272】
一つは、後部の帯状模様のある皮質(レトロ板状粒状皮質(cortical retrosplenial granular)(RSG))である。
【0273】
一つは、鼻周囲皮質(PRH)である。
【0274】
上記の四つの脳領域は、知覚情報及びその記憶の処理メカニズムに関与している。
【0275】
正常なマウス(n=13)及びTs65Dnマウス(n=6)に対して、NOR作業で示したような同様な手順を用いて、記憶段階が無い、物体認識作業で擬似的訓練を行った。獲得30分前に、6匹の正常なマウス及び3匹のTs65Dnマウスにα5IA(5mg/kg)を腹腔注射した。残りの動物(7匹の正常なマウス及び3匹のTs65Dnマウス)には偽薬を注射した。オープンフィールド・セッションの後に、マウスをホームケージに戻した。行動刺激の90分後に、マウスを過剰のペントバルビタール・ナトリウムにより殺し、PBSを心臓内に散布した。脳を摘出し、一週間、10%ホルマリン溶液に固定した。凍結保護後、脳を凍結ミクロトーム上で切断した(40μmの前方の連続的な切片)。
【0276】
一つの連続的な切片に免疫検出処理をした。自由に浮遊する切片は、8℃で48時間、主要な反fos抗体(ポリコロナールAB−5、1:10000希釈(Calbiochem-VWR, France))を用いて培養した。続く工程は、1)二次的なビオチン化されたヤギの反ウサギ抗体(Sigma, France, 1:200)を用いた培養、2)アビディン・ビオチン・ペルオキシダーゼ(ABC Vectastain standard kit, Vector Laboratories, Burlingame, USA, 1:400)との反応、3)灰色/黒色の沈殿を形成するニッケル強化ジアミノベンジジン(Ni−DAB)との反応、である。Ni−DABでの培養時間は、全てのマウスで同一とした。
【0277】
画像解析は次のように行った。関係する領域(ROIs)は、オリンパスBX61顕微鏡(×10 objective)を用いて撮影し、fos免疫染色は、fos染色反応性を公平に立体解析測定ができる、fos染色組織の割合(p=着色した領域/全領域)を自動的に計算する、専用の画像解析処理ソフトを用いて定量した。ROIsの四箇所を分析した(後部の帯状模様のある皮質、鼻周囲皮質、海馬の歯状回及びCA1フィールド)。各ROIをいくつかの連続的な切片としてサンプリングし、そして、結果として、平均化し、信頼できる局所的fos免疫染色の定量的評価を与える。
【0278】
〔実施例10:薄膜の調製及び結合分析〕
GABAA受容体サブタイプに対する化合物の親和性は、ラット(安定してトランスフェクトされた)又はヒト(一時的にトランスフェクトされた)のα1β3γ2、α2β3γ2、α3β3γ2及びα5β3γ2の構成の受容体で発現するHEK293細胞と結合する[3H]フルマゼニル(85 Ci/mmol; Roche)についての競争に基づいて測定してもよい。
【0279】
細胞ペレットを、クレブス−トリス緩衝液(4.8mM KCl、1.2mM CaCl2、1.2mM MgCl2、120mM NaCl、15mM トリス;pH7.5、結合分析用バッファー)中で懸濁し、氷上で約20秒間、ポリトロンにより均質化し、4℃で60分間、遠心分離にかけた(50000 g; Sorvall, rotor: SM24=20000 rpm)。細胞ペレットをクレブス・トリス緩衝液中に再懸濁し、そして、氷上で約15秒間、ポリトロンにより均質化した。タンパク質を測定し(ブラッドフォード法、バイオラド)、1mLに均等に分配し、−80℃で保存した。
【0280】
放射性リガンド結合分析を、100μLの細胞薄膜、α1、α2、α3サブユニットに対する1nMの濃度の[3H]フルマゼニル及びα5サブユニットに対する0.5nMの濃度の[3H]フルマゼニル、並びに、10−10M〜3×10−6Mの範囲内の試験化合物、を含む200μL(96-well plates)の量を用いて実行した。非特異的結合は、10−5Mのジアゼパムにより規定されてもよく、典型的には、全ての結合の5%未満に相当してもよい。分析物を、4℃、1時間の平衡下で培養し、パッカード回収装置(Packard harvester)を用いてろ過してGF/C単一フィルター(パッカード)上に回収し、氷で冷却した洗浄緩衝液(50mM トリス;pH7.5)を用いて洗浄した。乾燥後、フィルターに保持された放射能を、液体シンチレーション計数法により検出してもよい。Kiの数値は、エクセル・フィット(Excel-Fit)(Microsoft)を用いて計算してもよく、二つの測定平均である。
【0281】
(図8の注釈:α5IAの溶解性及び腎臓毒性)
これまでに研究で、α5IAが、専ら、主に尿及び糞中のヒドロキシメチル・イソオキサゾール代謝物M1に代謝されることが示された([ref 25])。M1は、室温で水や尿への溶解性に乏しいものの、37℃では尿への溶解性が増加する。MWM試験でのラットに対するα5IAの効果的なプロンネシアント用量は3mg/kgである(実施例3〜5参照)。この用量は、2時間後に80%の受容体を占める量に相当し、8時間後に60%を占める量に相当する([ref 25])。5週間で上記の用量の100倍近い(240mg/kg)用量でラットを治療した後に行われた研究では、M1化合物の低い溶解性が報告された([ref 26])。上記の研究によれば、ラットの治療中、結晶の形成による腎臓の腎盂炎及び乳頭炎を誘導することが報告された。しかし、薬理的用量(5mg/kg)のα5IAでの長期的な治療後において、発明者らにより、治療したマウスの異なった組織においていかなる組織的異常も、尿において異常な結晶の形成も、見出されなかった(図8参照)。さらに、尿中でのM1の飽和濃度範囲の決定は、尿に固体のM1(3mg)を添加することにより行われた([ref 25, 26])。しかし、この方法では、末梢投与(経口吸収)後の、尿中の、α5IAの濃度及びそのM1代謝物の濃度を実験することができない。M1が低い溶解性であるということは、M1の尿への溶解する割合はごく僅かであるということである。
【0282】
非常に高い用量で低い溶解性を示したものの、α5IAは、若い患者や、やや歳をとった患者で十分に許容できるように思われる([ref 25])。これまでに、臨床研究で投与した用量及びα5IAでの治療期間に関する情報がもたらされた([ref 26])。4mgの単独経口投与でのアルコール依存症の臨床実験が、ナットらにより行われた([ref 10])。
【0283】
α5IAを用いたダウン症臨床実験に関して、同一のタイプの手順が適用可能である。また、一方、α5−GABAA受容体に対して特異的に逆作用性を示す新しく開発された分子は、本発明において適切であり、特に、上記分子の人間に対する無毒性が試験されれば、すぐに適合できる。
【0284】
(図9及び図10の注釈:正常なマウス及びTs65Dnマウスでの学習能力及び記憶力に関するα5IAの活性範囲)
α5IAによるTs65Dnマウスにおける学習能力障害の回復が、特に明確であるように思われる。従って、α5IAの認識機能障害の打ち消しは、MWM試験(図9)で変化する感覚機能、又は、物体捜索の潜在的なレベルがNORの習得及び試験段階(ps>0.36)の間で二つの遺伝子型で類似しているようなNOR作業での物体捜索の低下する自発性のどちらにも起因しない。このことは、主として、α5IAが、治療するマウスにおいて、認識機能増強剤として働くことを強調している。MWMの低い認識要求性の手がかりバージョンでは、発明者らは、α5IAの如何なる効果も見出せなかった(図8参照:p>0.16)。そのようなことから、α5IAが、複雑な認識機能のみを目標としているという仮説が強まってきた。
【0285】
MWM試験では、発明者らにより、プールの10cm幅の辺縁部での滞在時間でα5IAの強い効果が見出された。この不適切な走触性の行動は、α5IAでの治療後に、大幅に減少した(図10)。この効果はTs65Dnマウス(p<0.001)で有意義であるが、正常なマウス(p=0.06)での統計的有意性は見出せず、これはおそらく、Ts65Dnマウスが、正常なマウスに比べて走触性の基本レベルが全体的に増加していることを示す(p<0.0001)という事実に起因している。α5IAは、学習能力を直接増強し、それにより、不適切な問題解決戦略(例えば走触性)の使用が減少し得る。或いは、この作用は、何よりも、習得行動における間接的なプラス効果を持つ不適切な獲得行動の軽減に基づき得る。
【0286】
Ts65Dnマウスの治療効果に加えて、α5IAは、正常なマウスにおいてもプロンネシアント効果を示した。α5IAでの治療後のNOR試験で正常なマウスの成績が有意義に増強した。
【0287】
DMTP試験とは反対に、MWM試験では、動物は、トライアルにわたって、又は、一日中、不変のゴール位置を徐々に記憶しなければならない。特に、この空間参照記憶力のパラダイムにおいて、発明者らは、α5IAが明確にTs65Dnマウスの成績を促進したという点に着目した。しかし、発明者らは、対照の正常なマウスの学習成績でα5IAの有意義なプロンネシアント効果を見出すことができなかった。このことは、もしかすると、α5IAプロンネシアント特性は、作業内容と遺伝子型の両方に依存しているということなのかも知れない。しかし、このことは、他の低選択性α5 GABAA逆作用薬(L-655,708)、又は、GABAA非選択的拮抗薬(ペンチレンテトラゾール)を用いたGABA系阻害作用により、認識障害の標準の野生型げっ歯類においてすらも、参照記憶水迷路試験での習得を容易にすることができるという他の研究結果のデータと一致している。
【0288】
最後に、本発明者らは、ナビゲーション作業の触覚試適における長期(24時間)的な空間記憶の回復に対する、α5IAの効果を評価した。その結果(本発明者らが見出した結果)、α5IAでは、正常なマウス及びTs65Dnマウスのどちらにおいても記憶成績を有意義に増加せず、後者の動物(Ts65Dnマウス)では、偽薬又は薬剤治療の後においても同じように認識機能障害が残ったままとなるということが示された。α5IA治療Ts65Dnマウスでは、セッションにわたって学習の習熟度が標準的な成績へ次第に増加する一方で、触覚試適でのプールの記憶成績による評価として、ゴール地点を適切に示すということが見られなかった。本発明者らが見出した結果では、α5IAが、主に、情報習得間に向知性作用を及ぼすものの、既に形成された記憶を正確に回復することに対する刺激という点ではあまり効果が見られなかった。一方で、いくつかの状態で、α5 GABAA逆作用薬が、空間記憶の習得及び回復の両方を改善し得る。しかしながら、上記の結論は、触覚試適で通常行われるときの、長期(少なくとも24時間)的な呼び戻しを完全に見出せない、短い記憶間隔(15〜180分間)に基づく記憶パラダイムから得られる。本発明者らが見出した結果から、α5 GABAA逆作用薬は、Ts65Dnマウスで学習成績を向上させ、学習能力障害でさえ緩和するという結果となった。しかしながら、長期記憶の回復の活性についてはより疑わしくなり、及び/又は、ひょっとすると作業内容に依存しているのかも知れないという結果となった。
【0289】
本発明者らは、本発明についての多くの実施形態を示したが、本発明者らが示した基本的な実施例は、本発明に係る化合物及び方法を利用する他の実施形態を示すために変更してもよいということは明確である。従って、本発明に係る範囲は、実施例経由で示された特定の実施形態により定義されるのではなく、添付した特許請求の範囲により定義されるということが理解され得る。
【0290】
〔参考文献一覧〕
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[Ref 35] US 2006/0084642
[Ref 36] WO 96/25948
【図面の簡単な説明】
【0291】
【図1】図1aは、スターンフェルドらの方法により調製されるトリアゾロフタラジンα5−IAの構造を示す化学構造式である。図1bは、CDCl3中におけるα5−IAの500MHz 1H NMRスペクトルである。図1cは、GABAA受容体のベンゾジアゼピン認識部位に関するα5IAのインビトロ・アフィニティの実験結果と、比較対照としての、ジアゼパムのインビトロ・アフィニティの実験結果とを示す表である。
【図2】Gabra5の遺伝子発現がTs65Dnマウスにおいて不変であるということを示すグラフである。
【図3】物体認識試験によるTs65Dnマウスに対するα5IAの治療効果の結果を示すグラフである。
【図4】α5IAの異なる製剤のマウスに対する投与の効果に関する比較実験の結果を示すグラフ(説明図を含む)である。
【図5】図5aは、DMTPプロトコル(手順)の略図である。図5bは、習得トライアルと記憶トライアルとの間のマウスの成績を示すグラフである。
【図6】α5IAの不安に関する行動実験の結果を示すグラフである。
【図7】図7a、図7bは、オープンフィールドにおけるTs65Dnマウスと正常なマウスの、移動運動とα5IAの不安の実験結果を示すグラフである。
【図8】継続的な治療後のα5IAによる組織損傷の実験結果を示す画像である。
【図9】Ts65Dnマウスの空間機能障害(spatial impairment)実験の結果を示すグラフである。
【図10】モリス水迷路の実験結果を示すグラフである。
【図11A】マウスが、水タンクの中で進行し、不可視のプラットフォーム(D1〜6)に到達することを学んだことを示す説明図である。
【図11B】3日間の2ブロックで組み合わせた学習成績のデータを示すグラフである。
【図11C】Ts65Dnマウスにおいて、α5−IAの治療後に障害が後退する(reversed)ことを示すグラフである。
【図11D】正常なマウスのみで、触覚試適の間、プラットフォームの対象の四分円で、空間的偏りが見られたことを示すグラフである。
【図12A】物体認識作業を訓練した場合、Ts65Dnマウスが記憶障害を示したことを示すグラフ(説明図を含む)である。
【図12B】正常な同腹子に治療を施したマウスから得られる数値に対して、標準化されたα5IA治療マウスにおける免疫反応性の相対的な増加を示すグラフである。
【図13】新しい物体認識作業の間でのα5IAのニューロン活性の実験結果を示す図である。
【図14】図13の実験から得られる結果をまとめた表である。
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔優先権情報〕
本願は、2009年8月25日出願の米国暫定特許出願第61/236,625号、2009年8月25日出願の欧州特許出願第09290643.7号に基づき優先権を主張し、それぞれの内容全てを援用することにより本発明に組み込むものとする。
【0002】
〔技術分野〕
本願は、ダウン症患者における認識機能障害を治療するための薬として用いられる、α5サブユニットを含むGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を有する化合物に関する。また、本願は、ダウン症患者における認識機能障害を治療するための薬の製剤として用いられる、α5サブユニットを含むGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を有する化合物の利用に関する。さらに、本願は、α5サブユニットを含むGABAA受容体に対する、逆作用薬としての機能的選択性を有する化合物、又は、その生理学的に許容できる塩、ポリエトキシル化ひまし油のような界面活性剤(表面活性剤又は張力活性剤)及びジメチルスルホキシド(DMSO)を含む、ダウン症患者における認識機能障害を治療するための薬学的組成物に関する。
【0003】
また、本願は、α5サブユニットを含むGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を有する、患者が必要とする薬学的に効能がある量の一つ又はそれ以上の化合物を患者に投与することによる、ダウン症患者における認識機能を増進する方法、又は、重篤な認識機能障害を治療する若しくは抑える方法について説明している。なお特に、本願は、ダウン症患者における記憶力の障害、学習能力の障害又はそれら両方の障害のような認識機能障害の治療に関する。
【0004】
〔背景技術〕
トリソミー21としても知られるダウン症は、ヒトにおける知的障害の第1の遺伝的要因である。このダウン症は第21番染色体の全て又は一部の、三つ目のコピーの存在が原因である遺伝性疾患である。多くの文献には、ダウン症の発症率について新生児700人〜800人に1人の割合であると示されている。
【0005】
ダウン症は、様々な身体的特徴に加えて、全てにおいてではないが、記憶力の障害、学習能力の障害又はそれら両方の障害のような、様々な程度の認識機能障害により特徴付けられる。(医学において、)指導法や教育の主流化傾向の進歩は、ダウン症を患っている人の認識発達の改善を導く一方で、完全に単独で教育の方法論により対処することができない本質的な機能障害はそのままとなっている。
【0006】
ダウン症を患う人は、特定の医学的問題に関して増加するリスクに晒されている。ダウン症を患う人が一般的に直面するいくつかの問題として、心臓の欠損、甲状腺の問題、筋力の問題、関節の問題、視力の問題、及び、聴力の問題が挙げられる。ダウン症におけるその他の症状として、それ程の頻度ではないが、白血病や発作が挙げられる。さまざまな異なる方法が上記の医学的症状を治療するために用いられている。例えば、仮に、ダウン症を患っている人が発作の疾患を患っている場合、抗発作薬を服用することが有益である。一般的に、甲状腺に問題がある人は補充用の甲状腺ホルモンを投与される。上記の投薬法は、医学的症状には有用であるが、一方で、ダウン症の治療にはなっていない。
【0007】
ダウン症患者の認識機能を増進するための薬を合成する試みがなされている。例えば、ピラセタムはダウン症を患う子供の認識機能を改善するための手段として広く用いられている。しかし、ピラセタムがダウン症を患う子供の認識機能を改善するのに効果的であるという主張を揺るがす報告がなされている(Lobaugh NJ et al. Piracetam does not enhance cognitive abilities in moderate to high-functioning 7 to 13 year-old children with Down syndrome.(ピラセタムはダウン症を患う7〜13才の子供の高機能を緩和する一方で認識能力を増進しない)155(4):442-448 [ref 4](1999年5月3日にサンフランシスコで開かれたPAS/SPRで公開、2001年4月にArchives of Ped and Adol Medに発表))。上記研究では、逆作用薬を投与した場合と同様に、認識指標及び行動指標のどちらについても、ピラセタムの下では改善が見られなかった。
【0008】
マウスの第16番染色体の一部が断片的に重複したダウン症のマウスモデルであるTs65Dnマウスは、ヒトの第21番染色体における長いアームの大部分と同じ遺伝座を占めている。ダウン症患者のように、Ts65Dnマウスは、仮説ではあるが、神経構造における全体の異常というよりもむしろ、脳における多くの興奮性シナプスの選択的減少による学習能力の欠損及び記憶力の欠損を示す。理論上、Ts65Dnマウスに見られる三重の遺伝子は、歯状回(ひょっとすると脳の他の部分)における興奮と抑制の最適なバランスから、過度に抑制が抑えられた状態にし、さもなければ、通常の学習能力や記憶力が抑えられた状態にする(Reeves et al., Nature Genetics, 11(2):177-84 (1995) [ref 1])。
【0009】
最近、Ts65Dnマウスに対するGABAA拮抗薬の使用により、記憶力、学習能力、又は、神経の柔軟性が増強することが示された(長期増強作用(LTP)のプロトコルによる評価(Kleschevnikov et al., The Journal of Neuroscience, 24(37):8153-8160 (2004); [ref 2]))。さらに最近、ダウン症のマウスモデル(Ts65Dnマウス)に対するGABAA拮抗薬の使用により、正常なマウスに比べて、記憶力、及び、宣言型学習能力の欠損が正常化することが示された(F. Fernandez et al., "Pharmacotherapy for cognitive impairment in a mouse model of Down syndrome," Nature Neuroscience, Advance Online Publication, (February 25, 2007; [ref 3]))。
【0010】
上記研究は、ダウン症患者における学習能力及び記憶力を回復させるためのGABAA拮抗薬の潜在的な用途を提案するものである。
【0011】
残念ながら、多くのGABAA拮抗薬は、ヒトに加えて動物モデルでも発作の原因となる傾向があり、患者に対する認識増強剤として利用することができないことは明確である。
【0012】
ダウン症に関する認識機能障害の治療に対する、多くの満たされていない医学的要求がある。絶え間なく研究されているにもかかわらず、ダウン症による知的障害のための注目すべき薬物治療は、現れようとはしていない。現在のところ、ダウン症の治療には薬は使われておらず、むしろ、ダウン症に関連する他の病気や他の健康症状の治療に、耳感染症のための抗生物質や、甲状腺機能低下(甲状腺機能低下症)のための甲状腺ホルモンのような薬が用いられている。
【0013】
従って、ダウン症患者の記憶力、学習能力又はその両方の能力の障害のような認識機能障害の治療上の処置に誘発される発作を失くす必要がある。本発明は、上記の課題(発作を失くす必要)を解決し、及び、関連する同様な利点を提供する。
【0014】
〔発明の概要〕
上記の課題及びそれ以上の課題は、患者が必要とする有効量の、α5サブユニットを含むGABAA受容体に対する、逆作用薬としての機能的選択性を有する化合物を投与することを備える、又は、有効量の、上記化合物、若しくは、その生理学的に許容できる塩若しくはそのプロドラッグを含む薬学的組成物を投与することを備える、ダウン症患者の重篤な認識機能障害を治療又は抑制するための方法を提供するという本発明に係る実施形態により解決される。
【0015】
上記の課題及びそれ以上の課題は、認識機能を増進するために患者が必要とする十分な量の、α5サブユニットを含むGABAA受容体に対する、逆作用薬としての機能的選択性を有する化合物を患者に投与することを備える、又は、認識機能を増進するために有効量の、上記化合物、若しくは、その生理学的に許容できる塩若しくはそのプロドラッグを含む薬学的組成物を投与することを備える、ダウン症患者の認識機能を増進させるための方法を提供するという本発明に係る実施形態により解決される。
【0016】
上記の課題及びそれ以上の課題は、添加剤としてのポリエトキシル化ひまし油のような界面活性剤(表面活性剤又は張力活性剤)及び、溶剤としてのジメチルスルホキシド(DMSO)を伴った、有効量の、α5サブユニットを含むGABAA受容体に対する、逆作用薬としての機能的選択性を有する化合物、又は、その生理学的に許容できる塩若しくはそのプロドラッグを含む、ダウン症患者の重篤な認識機能障害を治療又は抑制するための薬学的組成物を提供するという本発明に係る実施形態により解決される。
【0017】
本発明に係るさらなる利点及び特徴は、以下の説明での考察及び添付の特許請求の範囲に基づいて理解され得る。
【0018】
〔図面の簡単な説明〕
本発明に係る原理を用いた実施の形態を説明している以下の詳細な説明と、添付の図面とを参照することにより、本発明に係る特徴及び利点をさらに理解することができる。
【0019】
図1aは、スターンフェルド(Sternfeld)らの方法([ref 8])により調製されるトリアゾロフタラジンα5−IAの構造を示している。このトリアゾロフタラジンα5−IAは、塩酸塩として本発明に係る研究に用いられる。本明細書において、この化合物は、α5IA、IAα5、α5−IA又はIA−α5の間で交換可能な表示として示され得る。特に、IAα5又はIA−α5の表示は本優先権主張特許出願において用いられる。
【0020】
図1bは、CDCl3中におけるα5−IAの500 MHz 1H NMRスペクトルを示している。
【0021】
図1cは、GABAA受容体のベンゾジアゼピン認識部位に関するα5IAのインビトロ・アフィニティの実験結果と、比較対照としての、ジアゼパムのインビトロ・アフィニティの実験結果とを示している。この実験結果は、モル濃度のIC50の数値データ及びモル濃度のKiの数値データとして表される。この実験結果は、ラットの全脳細胞([ref 28])の[3H]−フルニトラゼパムの置換により決定される。数値データは三回の測定の平均である。
【0022】
図2は、Gabra5の遺伝子発現がTs65Dnマウスにおいて不変であるということを示している。α5−GABAAをコードしているGabra5遺伝子の発現は、正常なマウスとTs65Dnマウスの海馬内における測定結果である。Gabra5遺伝子の発現は、逆転写/リアルタイム定量的PCRを用いて測定した結果である。Gabra5遺伝子の発現レベルは、Ts65Dnマウスと正常なマウスとで差異がなかった。
【0023】
図3は、物体認識試験によるTs65Dnマウスに対するα5IAの治療効果の結果を示している(実施例2を参照)。
【0024】
図4は、α5IAの異なる製剤のマウスに対する投与の効果に関する比較実験の結果を示している。「GIA」は、GABA逆作用薬(GABA Inverse Agonist)を表しており、α5IA化合物を示している(実施例4を参照)。
【0025】
図5は、α5IAの用量作用の効果を示す実験結果である。最適なプロンネシアント(promnesiant)用量は、DMTP作業を訓練したマウスにより決定される。図5aは、DMTPプロトコル(手順)の略図である。それぞれの日に、マウスに1回の習得トライアルと、3回の記憶トライアルとを受けさせた(トライアルの間隔は60秒間である)。プラットフォームの位置は毎日変更した。各セッションの中では変更せずにそのままだった。
【0026】
図5bは、習得トライアルと記憶トライアルとの間のマウスの成績を示している(プラットフォームの距離;±SEMの平均)。データは七訓練日を合わせた結果である。全てのマウスに、各セッションでの行動精度に有意義な増加が見られた(p<0.0001)。偽薬治療マウスと、α5IAを1mg/kg投与したマウスとで同様な記憶力を示した。一方で、α5IAを5mg/kg投与して治療したマウスは、有意義に高い成績を示した(*p<0.05)。
【0027】
図6は、α5IAの不安に関する行動実験の結果を示している。この不安について、正常なマウスと偽薬又はα5IAを投与したTs65Dnマウスを用いて、高架式十字迷路法(elevated plus maze)により評価した。高架式十字迷路の走行路における滞在時間を不安レベルの尺度として用いた。
【0028】
偽薬を投与された状態において、Ts65Dnマウスは、正常なマウスに比べて不安が増加する傾向が見られた(走行路での時間の増加)。α5IAの急性治療(一回15mg/kgを注射、図の左側)では、正常なマウスの行動が改善しなかった、Ts65Dnマウスの走行路の滞在時間が有意義に減少した(p<0.05)。薬を投与された状態において、Ts65Dnマウスは、偽薬治療マウスに比べて走行路での滞在時間がより少なくなった(p<0.025)。この結果は、Ts65Dnマウスの遺伝子型におけるα5IAの穏やかな不安を緩解する効果を示しているのかも知れない。しかし、この結果は、「自然な条件」においていくつかの不安を増強させる特性があるということにより、Ts65Dnマウスの行動が正常化した結果とも考えられる。
【0029】
正常なマウスに対するα5IAの半継続的な注射では(5mg/kgを1週間に5回、2週間、図の右側)、不安のレベルに変化がなかった(p>0.73)。
【0030】
水平な破線は、偽薬での急性治療を行ったマウスの行動をベースラインとして表している。*p<0.05、nsは有意義ではないことを表している。
【0031】
本実験は、α5IAは、不安に関する行動を誘発しないということを示している。
【0032】
図7は、オープンフィールドにおけるTs65Dnマウスと正常なマウスの、移動運動とα5IAの不安の実験結果を示している。α5IA(5mg/kg)の効果について、オープンフィールドにおける移動運動と不安について評価した。
【0033】
図7aにおいて、水平運動性の分析(移動距離、±SEMの平均)は、少しの治療効果も示していない(F<1)。すなわち、これは、α5IAのみの注射が、正常なマウス及びTs65Dnマウスの両方で全体の移動運動が改善しなかったということを強調している。さらに、正常な同腹子に比べて、Ts65Dnマウスの全体的な過剰な活動に起因し、全ての治療条件で観察される、遺伝子型の有意義な効果(*p<0.025)がある。
【0034】
図7bにおいて、オープンフィールドのセッションでの不安を評価するために、外周から中心への捜索比(periphery-to-center exploration ratio)(P/C比、±SEMの平均)を測定した。この数値における分析は、何れの遺伝型の効果又は治療要因も示していない(Fs<1)。
【0035】
本実験では、α5IAは、オープンフィールドでのTs65Dnマウス及び正常なマウスの移動運動及び不安を変化させないことを示している。
【0036】
図8は、継続的な治療後のα5IAによる組織損傷の実験結果を示している。α5IAの継続的な治療後において、異なった組織について、切除し、一般的な組織病理学試験を行った。図に示されるように、ヘマテイン・エオシン染色では、三つの実験グループ(何も注射していないマウス、偽薬注射したマウス又はα5IA治療マウス)の何れにも肝臓及び腎臓において肉眼で見える組織の有意義な変化、及び顕微鏡で見える組織の有意義な変化の何れも示さなかった。続く、組織の過ヨウ素酸シッフ染色(Periodic acid-Schiff staining)(図示せず)でも、同様にネガティブな結果となった。偏光下での脳組織、肝組織、腎組織の試験において、α5IAを注射したマウスに異常結晶の欠如が見られた。尿結晶(図示せず)の大きさや分布は、異なるグループでほぼ同様であるようである。スケールバーは100μmを表している。本実験では、α51Aは、長期的な治療後にいかなる組織の損傷も誘導しないということを示している。
【0037】
図9は、Ts65Dnマウスの空間機能障害(spatial impairment)実験の結果を示している。モリス水迷路の空間記憶評価に続いて、マウスを、視覚案内ナビゲーション作業(visually-guided navigation task)(キュード・ビジュアル・プラットフォーム)で、4日間訓練を行った。成績は(図11と同様の)公平な学習指標を用いて評価した。分析では、ビジュアル・プラットフォームを見つける行動精度が、各セッションで僅かに増加していることが示され(p<0.03)、遺伝子型(p>0.55)や治療(p>0.16)の効果はなかった。25%の水平な破線は、組み合わせをランダムとした操作での成績レベルを示している。図に示されるように、全ての訓練グループでは、このレベル以上の成績となった。本実験により、Ts65Dnマウスの空間機能障害が視覚障害によるものはないことが示された。
【0038】
図10は、モリス水迷路の実験結果を示している。α5IAの強い効果は、走触性(thigmotaxy)(壁を探す行動)において見られた。水迷路におけるプラットフォームを見つけるための不十分な行動戦略は、α5IAで治療したマウス(特にTs65Dnマウス(p<0.001))で、大きく減少した。続く解析では、Ts65Dnマウスが、対照のマウスに比べてさらなる走触性を示した(p<0.0001)。この効果は、α5IAでの治療後(p<0.05)に偽薬を与えたマウス(p<0.00025)では劣った程度を示した。本実験により、α5IAがモリス水迷路における不適切な行動進行戦略をとることを緩和することが示された。
【0039】
図11は、Ts65Dnマウスの空間学習実験の結果を示している。この実験は、Ts65Dnマウスのα5IAによる空間学習能力の回復に関して示すものである。
【0040】
図11Aでは、マウスが、水タンクの中で進行し、不可視のプラットフォーム(D1〜6)に到達することを学んだことを示している。空間記憶については触覚試適(probe trial test)(PT)を用いて評価した。
【0041】
図11Bでは、3日間の2ブロックで組み合わせた学習成績のデータを示している。Ts65Dnマウスでは、α5IAによる治療を施したマウスに比べて学習指標に減少が見られた(p<0.0025)。
【0042】
図11Cにおいて、ヒットは、90秒経過前にプラットフォームへ到達したこととして定義される。Ts65Dnマウスにおいて、α5−IAの治療後に障害が後退する(reversed)ことが示された(p<0.025)。
【0043】
図11Dでは、正常なマウスのみで、触覚試適の間、プラットフォームの対象の四分円で、空間的偏りが見られたことが示されている(p<0.05)。注釈の例示を参照。
【0044】
図11B及び図11Dにおいて、25%の水平な破線は、ランダムとした操作での成績レベルを示している(*P<0.05,各グループn=8)。
【0045】
図12は、Ts65Dnマウスにおける、ニューロン活性及び認識記憶障害の実験結果を示している。この実験は、Ts65Dnマウスのα5IAによるニューロン活性の増強、及び、認識記憶障害の緩和に関して示すものである。
【0046】
図12Aは、物体認識作業を訓練した場合、Ts65Dnマウスが記憶障害を示したことを示している。α5IA(5mg/kg)の注入に続いて、標準のマウス及びTs65Dnマウスの両方で、認識成績に大きな改善が見られ、Ts65Dnマウスの障害が消滅した。*グループ間の違い(p<0.05,各グループn=8;ns:有意義ではない)#50%ランダムスコアを超えた成績(#:p<0.05;###:p<0.001)
図12Bにおいて、物体認識作業を終えた後、マウスを殺し、その脳にfosプロテインの量的免疫組織化学評価のための処理を施した。ヒストグラムは、正常な同腹子に治療を施したマウスから得られる数値に対して、標準化されたα5IA治療マウスにおける免疫反応性の相対的な増加を示している。歯状回以外のサンプリングされた全ての脳領域で、α5IAの注射後に、fosの有意義な増加が見られた(*:p<0.05;***:p<0.001、各グループn=3〜5)。
【0047】
図13は、新しい物体認識作業の間でのα5IAのニューロン活性の実験結果を示している。この実験は、新しい物体認識作業の間でのα5IAによるニューロン活性の増加について示している。これは、異なる実験グループ(スケールバー=100μm)におけるfosプロテインに対して免疫染色された関連の脳領域(左側の半脳マイクロ写真に示している:後部の帯状模様のある皮質(Post.Cing.)、CA1フィールド(CA1)、歯状回(DG)及び鼻周囲皮質(PRh))を示す典型的な顕微鏡写真である。歯状回以外の関連する全ての領域における、α5IA治療後のfos免疫反応性の全面的な増加に着目するべきである。この図は図12Bを補足するものである。
【0048】
図14は、図13の実験から得られる結果をまとめたものである。統計分析により、図13に示された性質的観察結果が確認できる。性質的観察結果としては、主に、海馬同様、鼻周囲皮質及び後部の帯状模様のある皮質における、特に、CA1フィールドにおける、対照のマウスとTs65Dnマウスにおけるα5IAによるニューロン活性の増加である。歯状回での活性のみが、治療により有意義に影響しなかった。
【0049】
〔定義〕
別に定義しない限り、本明細書で用いられる技術的用語及び科学的用語は、本発明に属する当業者が一般的に理解する意味と同じ意味を有する。本明細書に引用されている全ての特許文献及び出版物を援用することにより本発明に組み込むものとする。
【0050】
本明細書で説明された定義は、本明細書で用いられる用語を明確にすることを意図している。「本明細書」という用語は、明細書全般を意味している。
【0051】
本明細書で用いられているような、化合物又は生理学的に許容できる組成物の「有効量」とは、ダウン症患者の一つ又はそれ以上の認識機能障害を一時的に緩和できる活性のある薬剤原料の量である。従って、活性のある薬剤原料を有効量与えれば、記憶障害、学習能力の障害又はその両方の緩和が予想できる。(提供される)緩和は、一時的であると見なされる。しかし、当業者は、一時的な学習能力の改善が、時間をかけると累積する傾向のある学習のような、長期学習における長期間の薬効を含み得るということを認識し得る。従って、「一時的」という限定用語を利用する場合、累積学習での可能性のある長期的な改善について排除することを意図していない。上記の量は、単一の投薬量として投与されてもよく、効果的な投薬計画に基づいて投与されてもよい。
【0052】
本明細書で用いられている「治療」は、健康状態における症状若しくは病状、疾病、又は病気を改善させるための、又は、その他の有益な変化をさせるためのいずれかの方法を意味している。
【0053】
本明細書で用いられている「生物活性」は、化合物のインビトロ活性、又は、化合物、組成物又は他の混合物のインビトロ投与による結果としての生理的作用を示している。従って、生物活性は、上記の化合物、組成物及び混合物の治療効果及び薬理活性を含んでいる。
【0054】
本明細書で用いられている「薬理活性」は、ダウン症患者における重篤な認識機能障害を治療又は緩和するための、本明細書における化合物の活性を示している。
【0055】
本明細書で用いられている「作用薬」は、受容体に接したとき、受容体の活性を増加させる化合物として定義されている。
【0056】
「拮抗薬」という用語は、受容体と結合する作用薬又は逆作用薬と競争し、それにより、受容体における作用薬又は逆作用薬の活性を阻害又は阻止する化合物として定義される。しかし、(「中性」拮抗薬としても知られている)拮抗薬は、本質的な受容体活性における効果を有さない。
【0057】
「逆作用薬」という用語は、受容体と結合する作用薬が結合する結合部位と、同じ受容体の結合部位に結合し、本質的な受容体の活性を覆う物質を示している。逆作用薬は、受容体作用薬と対照的な、薬学的な効果を働かせる。逆作用薬は、そのリガンドの活性を伴わない本質的な効果(本質的効果としても示されている)を備える、受容体の特定のタイプ(例えば特定のGABA受容体)に対して効果的である。受容体の作用薬、拮抗薬及び逆作用薬は、同一の受容体タイプに結合する。逆作用薬の薬学的な効果は、主に、これまでに発見された既知の作用薬による、作用薬のマイナスの値として測定される。従って、仮に作用薬がプラスの値を有し、逆作用薬がマイナスの値を有していた場合、中性の状態下で受容体の拮抗薬は、作用薬及び逆作用薬の両方を有する。
【0058】
「患者」という用語は、治療、観察又は実験対象である動物を示しており、例えば、人間のような哺乳類を示している。
【0059】
「選択的」という用語は、特定の受容体のタイプ、サブタイプ、クラス又はサブクラスからの望ましい作用をもたらす十分な量の化合物が、他の受容体タイプの活性においては殆ど又は全く効果がないという化合物の性質として定義される。
【0060】
本明細書で用いられているような、EC50は、特定の試験化合物により誘導、誘発又は増強する特定の作用についての最大発現の50%における、1投薬量に依存する作用を導く特定の試験化合物の投薬量、濃度又は量を示している。
【0061】
作用薬に関するEC50は、インビトロ検定法で見られる最大作用の50%を達成するために必要な化合物の濃度を表すことを意図している。逆作用薬に関して、EC50は、化合物のない基礎的なレベルでの、受容体の作用における50%の阻害を達成するための化合物の濃度を示すことを意図している。
【0062】
本明細書で用いられているような、薬理的な活性の化合物の「同時投薬」という用語は、インビボ又はインビトロでの、二つ又はそれ以上の分離した化学的な構成要素の投与を示している。同時投薬は、薬剤の混合物を同時に投与するだけではなく、第1の薬剤を投与した後に、第2の薬剤又は追加の薬剤を投与するような、同時に分離した薬剤の投与を示している。全ての場合において、同時投薬する薬剤は、お互いに合同して働くことを意図している。
【0063】
本明細書で用いられているような、「生理学的に許容できる」は、穏やかな医療的判断の範囲内において、過度な毒性、炎症、アレルギー反応又は他の問題若しくは合併症を伴わない、ヒト及び動物の細胞に接触させるために用いられる適切で、妥当な利益/リスクの比であり釣り合いのとれた、化合物、物質、組成物、及び/又は、投薬量の形態を示している。
【0064】
本明細書で用いられている「生理学的に許容できる塩」は、酸の塩又は塩基の塩(例えば対イオンも含む)を作ることにより変化する親化合物であって、公開されている化合物の誘導体(由来物)を示している。生理学的に許容できる塩の例として、アミンのような塩基性残基の金属塩又は有機酸塩、カルボン酸のような酸性残基のアルカリ塩又は有機塩、及び、それらに類するものが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。生理学的に許容できる塩には、例えば、無毒の無機酸又は有機酸からなる親化合物の従来の無毒の塩又は第四級アンモニウム塩が含まれる。例えば、上記従来の無毒の塩には、塩酸、リン酸並びにそれに類するもののような無機酸に由来する塩、及び、乳酸、マレイン酸、クエン酸、安息香酸、メタンスルホン酸並びにそれに類するもののような有機酸から生じる塩が含まれる。
【0065】
本発明に係る生理学的に許容できる塩は、塩基構造部分又は酸構造部分を含む親化合物から従来の化学的方法により合成され得る。一般的に、上記の塩は、水中若しくは有機溶媒中又は両者の混合溶媒中で、化学量論量の適切な塩基又は酸と共に、その親化合物の遊離酸又は遊離塩基の形態の反応によって生成し得る。有機溶媒としては、エーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノール、又は、アセトニトリルのような非水性溶媒が用いられる。
【0066】
「塩」という用語は、無機酸又は有機酸のような適切な酸に対して、アミンのような塩基の形態の官能基を処理することによって得られる、生理学的に許容できる酸を添加した塩を意味している。上記無機酸としては、例えば、塩化水素、臭化水素、フッ化水素、ヨウ化水素に代表されるようなハロゲン化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸及びそれに類するものが挙げられる。上記有機酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、ヒドロキシ酢酸、2−ヒドロキシプロピオン酸、2−オキソプロパン酸、エタン二酸、プロパン二酸、ブタン二酸、(Z)−2−ブテン二酸、(E)−ブテン二酸、2−ヒドロキシブタン二酸、2,3−ジヒドロキシブタン二酸、2−ヒドロキシ−1,2,3−プロパントリカルボン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、4−メチルベンゼンスルホン酸、シクロヘキサンスルファミン酸、2−ヒドロキシ安息香酸、4−アミノ−2−ヒドロキシ安息香酸及び専門の当業者に知られているその他の酸が挙げられる。
【0067】
本明細書で用いられているような、「活性のある薬剤原料」(或いは「活性のある薬剤」)という成句は、化合物又は化合物の混合物であって、その化合物の少なくとも一つが、本明細書でより詳細に示されている、α5サブユニットを含むGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を有する化合物を意味している。従って、他に限定しない限り(例えば、「〜からなる」、「本質的に〜からなる」のようなデリミタ(delimiters)による)、活性のある薬剤原料の列挙は、少なくとも一つ、α5サブユニットを含むGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を有する化合物が存在している必要がある。しかし、活性のある薬剤原料には、GABAA α5サブタイプ受容体の機能選択性逆作用薬の活性を損なわない限り(一部の場合において、活性を増進し得る)、一つ又はそれ以上の薬学的な添加化合物も含まれていてもよい。
【0068】
本明細書で用いられているような、「生理学的に許容できる誘導体(由来物)」は、生理学的に許容できる任意の塩、エステル、若しくは、そのエステルの塩、その化合物の塩、又は、患者に投与することで、本明細書に記載されているその他化合物又はその代謝物若しくは残留物を供給することができるその他の付加体若しくは誘導体を示している。従って、生理学的に許容できる誘導体にはその他プロドラッグが含まれている。
【0069】
本明細書で用いられているように、プロドラッグは、インビボ投与することで、生物学的に、薬学的に、又は、治療に効果のある形態の化合物に代謝し又は他の変化をする化合物である。言い換えれば、プロドラッグは、薬理活性種としての親分子を生み出し、インビボ除去の影響を受けやすい追加の構成成分を含む、一般的に主な薬理活性を殆ど伴わない、化合物の誘導体である。プロドラッグを製造するために、薬理活性化合物は、活性化合物が代謝のプロセスにより代謝されるように修飾する。プロドラッグは、代謝安定な若しくは輸送特性のある薬剤に変化するように設計されていてもよく、副作用や毒性をマスキングするように設計されていてもよく、薬剤の風味を改善するように設計されていてもよく、又は、他の特性若しくは性質の薬剤に変化するように設計されていてもよい。薬理プロセス及びインビボ薬剤代謝作用の知識に基づいて、一旦、薬理活性化合物を特定すると、薬学における当業者は、その化合物のプロドラッグを設計することができる(Nogrady (1985) Medicinal Chemistry A Biochemical Approach, Oxford University Press, New York, pages 388-392を参照)。
【0070】
プロドラッグの例としては、インビボで開裂し、有益な化合物を生み出すエステルが挙げられる。上記のエステルは、適切な場所での親化合物における何れかの他の反応基の前保護(必要であれば、次に脱保護)を伴い、例えば、親化合物の何れかのカルボン酸基(-C(=O)OH)等のエステル化反応によって生成し得る。
【0071】
代謝に対して不安定なエステルには、化学構造式が-C(=O)ORであるエステルであって、RがC1−7アルキル(例えば、-Me,-Et,-nPr,-iPr,-nBu,-sBu,-iBu,-tBu)、C1−7アミノアルキル(例えば、アミノエチル、2−(N,N−ジエチルアミノ)エチル、2−(4−モルフォリノ)エチル)、及び、アシルオキシ−C1−7アルキル(例えば、アシルオキシメチル、アシルオキシエチル、ピバロイルオキシメチル、アセトキシメチル、1−アセトキシエチル、1−(1−メトキシ−1−メチル)エチルカルボニルオキシエチル、1−(ベンゾイルオキシ)エチル、イソプロポキシ−カルボニルオキシメチル、1−イソプロポキシ−カルボニルオキシエチル、シクロヘキシル−カルボニルオキシメチル、1−シクロヘキシル−カルボニルオキシエチル、シクロヘキシルオキシ−カルボニルオキシメチル、1−シクロヘキシルオキシ−カルボニルオキシエチル、(4−テトラヒドロピラニルオキシ)カルボニルオキシメチル、1−(4−テトラヒドロピラニルオキシ)カルボニルオキシエチル、(4−テトラヒドロピラニル)カルボニルオキシメチル、及び、1−(4−テトラヒドロピラニル)カルボニルオキシエチル)が含まれる。
【0072】
また、いくつかのプロドラッグは、活性化合物を生み出す触媒活性、又は、更なる化学反応により活性化合物を生み出す化合物を生み出す触媒活性がある(例えば、ADEPT,GDEPT、LIDEPTなど)。例えば、プロドラッグは、糖誘導体又は他の共役配糖体であってもよく、又は、アミノ酸エステル誘導体であってもよい。
【0073】
様々な化合物のプロドラッグ、及び、プロドラッグを生み出す親化合物を誘導化するための物質並びに方法は、周知のものであって、本発明に適合させ得るものである。
【0074】
他の誘導体としては、例えば、化学的に化合物に結合することにより、又は、物理的に結合に関与して、結合するパートナーと連結する、結合するパートナーの化合物が含まれる。結合するパートナーの例として、ラベル分子若しくはレポーター分子、支持担体、基材、輸送分子、エフェクター、薬剤、抗体、又は、阻害剤が挙げられる。他の誘導体には、リポソームを伴う化合物の構築物が含まれる。
【0075】
特定の典型的な薬学的組成物、及び、生理学的に許容できる誘導体が、本明細書において以下で議論され得る。
【0076】
〔発明を実施するための形態〕
GABAA受容体は、中枢神経系(CNS)全体にわたって抑制状態にする主要なモジュレーターである、リガンドによりゲート制御されたイオンチャンネルである。GABAA受容体は、ベンゾジアゼピン(BZs)、バルビツル酸塩および麻酔薬を含む、多くの臨床的に重要な薬剤の活性部位である。GABAA受容体は、結合した遺伝子ファミリー・サブユニット・ポリペプチドにより形成される多くのサブタイプとして存在する。サブユニット・ポリペプチドの多くに、α、βおよびγサブユニットが含まれる。受容体のサブタイプには、哺乳類の脳内で見られる特徴的なパターンがあり、明確な生理的役割が示唆されている。
【0077】
受容体へのGABAの結合は、イオンチャンネル複合体におけるアロステリック部位への化学的な化合物の同時の結合により変調し得る。最も研究されている部位は、BZ結合部位である。GABAが導入されるGABAA受容体の活性化における変調効果に基づいて、BZ部位リガンドは、作用薬(ポジティブ・アロステリック・モジュレーター)、逆作用薬(ネガティブ・アロステリック・モジュレーター)又は拮抗薬の何れかに分類される。
【0078】
BZ作用薬は、イオンチャンネルを介した塩化物の流出が増加し、ニューロンを基本的過分極させ及び興奮性を減少させるGABAの存在下で、チャンネルの開口頻度を増加させることにより、その効果を及ぼす。反対に、BZ逆作用薬は、チャンネルの開口頻度を減少させ、そして、それにより、ニューロンの興奮性を増加させる。拮抗薬は、それ自身、GABA系活性に影響しない。しかし、拮抗薬は、競争により、作用薬の影響を阻害する。
【0079】
上記で議論したように、GABAA受容体拮抗薬は、ダウン症のマウスモデル(Ts65Dnマウス)において記憶力や宣言型学習能力を増加することが示されている([ref 5])。しかし、多くのGABAA拮抗薬は、人間も含めて動物モデルにおいて発作の原因となる傾向があり、それにより、患者に対して認識機能を増進する薬剤として利用することが妨げられてきた。
【0080】
アルツハイマー病患者及びその他の痴呆症患者における認識機能の増進に関連する分野において、研究対象が、GABAA逆作用薬に変わってきている。例えば、ベンゾジアゼピン受容体逆作用薬β−CCMは、モリス水迷路での空間学習能力を増進させるという報告がある(McNamara and Skelton, Psychobiology, 21(2):101-108 (2002) [ref 5]; See also Venault et al., Nature, 321(6073):864-866 (1986) [ref 14])。しかしながら、β−CCM及び多くの従来のベンゾジアゼピン受容体逆作用薬は、ヒトに対する認識機能増進薬として用いることができないことは、痙攣誘発性又は痙攣性を有することから明確である。
【0081】
GABAA逆作用薬の特定のカテゴリーにおいて、望ましくない痙攣誘発性又は痙攣性を伴わない、認識機能を増進させる特性を備えることが報告されている。それによれば、GABAA α5受容体のベンゾジアゼピン部位に対する機能的で選択的な逆作用薬が、不安惹起作用や痙攣誘発作用を伴わずに、ラット及び/又はモンキーで認識機能を増進させることが見出された(例えば、Ballard et al., Psychopharmacology, 202:207-223 (2009) [ref 6];Atack et al., Neuropharmacology, 51:1023-1029 (2006) [ref 7]を参照)。
【0082】
例えば、トリアゾロフタラジンα5IAが、α1、α2、α3又はα5サブユニットの何れかを含む、GABAA受容体のベンゾジアゼピン結合部位と等しい親和性を有する結合をすることが報告されている(Sternfeld et al., J. Med. Chem., 47:2176-2179 (2004) [ref 8];Dawson et al., The Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics, 316(3):1335-1345 (2006) [ref 9])。
【0083】
【化1】
【0084】
α5IAは、結合親和性に関して選択的ではないが、α5IAは、α5サブユニットに対して逆作用薬の効能の選択性があり、α5サブユニットで逆作用性を示す。しかし、α5IAは、α1、α2及びα3サブユニットに対して、逆作用性が低く、拮抗薬の効能を有している(Dawson et al. [ref 9])。従って、この化合物のインビボ及びインビトロでの効果は、主にα5サブユニットを含むGABAA受容体を介して及ぼす(Dawson et al. [ref 9])。さらに、α5IAは、マウスの海馬スライス分析(学習能力と記憶力に関するシナプスのリモデリングに関する想定モデル)で、長期増強作用を増進することが見出され、そして、モリス水迷路の作業の変化で認識機能成績の増進が見出された(Dawson et al. [ref 9])。
【0085】
最近、同一の化合物で、健康な一般志願者においてエタノールの認識機能障害の影響が減少することが見出された(Nutt et al., Neuropharmacology, 53:810-820 (2007) [ref 10])。
【0086】
GABAA α5受容体のベンゾジアゼピン部位に対する他の機能的で選択的な逆作用薬が報告されている([ref 6 & 7])。
【0087】
上記タイプの化合物は、アルツハイマー病に関する認識機能障害の治療への利用が見出されることが示唆されている。しかしながら、これらのタイプの化合物が実際に治療への利用が見出されるのかどうかに関しては疑問である。
【0088】
実際に、アルツハイマー病に関する最近の出版物で、脱抑制したニューロンは退化し得るが、その一方で、興奮が抑制されたニューロン(比較的過剰に抑制されたニューロン)は残存し得るということが示された(Schmitt 2005 ≪ Neuro-modulation, aminergic neuro-disinhibition and neuro-degeneration. Draft of a comprehensive theory for Alzheimer disease ≫ Med Hypotheses. 2005;65(6):1106-19. Epub 2005 Aug 24 [ref 15])。アルツハイマー病のマウスモデルでは、海馬における、ネットワーク興奮性及び補償抑制機構の異常な増加がある(Palop et al. ≪ Aberrant excitatory neuronal activity and compensatory remodeling of inhibitory hippocampal circuits in mouse models of Alzheimer's disease ≫ Neuron. 2007 Sep 6;55(5):697-711 [ref 16])。従って、α5IAを用いることはアルツハイマー病に対する最良の治療法ではないかも知れない。しかしながら、認識機能障害(特に、ダウン症患者における記憶力、学習能力又はその両方)の増進に関する、GABAA α5受容体のベンゾジアゼピン部位に対する機能的で選択的な逆作用薬の効能は調査も報告もされていない。
【0089】
本発明者らは、一つに、重篤な不安惹起性のような作用、及び/又は、痙攣性若しくは痙攣誘発性の作用を伴わない、ダウン症患者において、主に、記憶力、学習能力又はその両方の認識機能を増進させる分子の開発に尽力を注いだ。
【0090】
今回、α5サブユニットを含むGABAA受容体の逆作用薬の機能的な選択性を備える化合物が、ダウン症に関する認識機能障害を治療するための優れた効能を有し得るということを発見した。従って、本発明者らは、逆作用薬が、α5 GABAA受容体に対して選択的であり、ダウン症患者における認識機能障害を治療するのに有用な薬剤を提供するために使用でき得るということを実証した。この予期しない発見は、先例がなく、ダウン症に関する認識機能障害の効果的な治療法の開発を導き得るものである。
【0091】
本発明は、機能的な選択的α5 GABAA逆作用薬α5IAによるTs65Dnマウスの治療により記憶喪失が回復するだけではなく、α5IAで治療した野生型マウスの記憶の水準に成績を増進させるという本発明者らの発見に基づくものである。全く予期しない方法として、α5IAで治療したTs65Dnマウスにおいて、偽薬を投与された野生型マウスに比べて物体認識作業でより良い成績となった。どんな特別な理論にも結び付けずに考えると、GABAA拮抗薬ペンチレンテトラゾールを用いて治療したTs65Dnマウスに見られるような(Fernandez et al. 2007)、又は、単なる記憶改善効果(promnesic effect)のような、Ts65Dnマウスにおけるα5IAの効能は、認識機能の成績の単なる「標準化」(標準水準への回復)ではないと考えられる。対照的に、過度なGABA系伝達に関する病的な状態の単なる回復を超える相乗効果が観察される。実施例2及び3で報告されているように、上記の結果は、α5サブユニットを含むGABAA受容体の逆作用薬の機能的な選択性を備える化合物が、ダウン症に関する認識機能障害の治療に特別な効能を有し、二重の/相乗的な治療作用及び記憶改善効果を備え得るということを示している。そのため、上記の化合物が、ダウン症患者における認識機能障害の効果的な治療のための有望な候補であることを示している。
【0092】
三染色体のマウスのシナプスはより多くのGABAを備えているため、観察された成績の増強は、合理的に予想されるものではない。従って、Ts65DnマウスにおけるGABA活性のさらなる抑制は困難であることが予想され得る。逆作用薬α5IAは、合理的に予想できない二つの付加的作用を示す。
【0093】
1)治療していないマウスに比べ、Ts65Dnマウスの記憶喪失を回復する(これは予測不可能であった)。
【0094】
2)Ts65Dnマウスの記憶力成績を増強し、α5IAで治療した野生型マウスと同様な成績となる。
【0095】
フェルナンデスらによって報告されたGABA拮抗薬(ペンチレンテトラゾール)を用いた研究成果([ref 3])により、治療していない制御マウスに比べて、治療したマウスに認識機能の増強する効果は見られない。
【0096】
従って、一つの形態として、本発明は、α5サブユニットを含むGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を有する化合物を含む組成物の有効量をダウン症患者に投与することを含む、ダウン症に関する重篤な認識機能障害を治療又は緩和するための方法及び医薬製剤を提供する。本発明は、ダウン症患者における認識機能障害を治療する薬剤として用いられる、α5サブユニットを含むGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を有する化合物を提供する。また、本発明は、ダウン症患者における認識機能障害の治療における薬剤を調製するための、α5サブユニットを含むGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を有する化合物の使用方法を提供する。
【0097】
他の形態として、本発明は、認識機能を増進する量の、α5サブユニットを含むGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を有する化合物を患者に投与することを含む、ダウン症患者の認識機能を増進させるための方法及び医薬製剤を提供する。従って、本発明は、ダウン症患者の認識機能を増進するための薬剤として利用するための、α5サブユニットを含むGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を有する化合物を提供する。また、本発明は、ダウン症患者の認識機能増進のための薬剤を調製するための、α5サブユニットを含むGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を有する化合物の使用方法を提供する。
【0098】
従って、本発明は、ダウン症の結果としての認識機能に障害を有する特定の人における、例えば、記憶力や学習能力のような認識機能障害を改善することを目的としている。
【0099】
(1.化合物)
本発明に係る方法を実行するために有用な化合物は、少なくとも、α1、α2又はα3受容体サブユニットではなく、α5サブユニットを含むGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を示す。
【0100】
また、特定の典型的な実施形態では、上記の化合物は、α1、α2又はα3受容体サブユニットではなく、GABAA α5受容体サブユニットに対して、選択的な結合親和性を示す。
【0101】
特定の典型的な実施形態では、上記の化合物は、以下の一つの構造、その生理学的に許容できる塩又はそれらのプロドラッグを備えている。
【0102】
【化2】
【0103】
上記の化合物は、GABAA α5受容体のベンゾジアゼピン部位に対する逆作用薬としての機能的選択性が示される一方で、他のGABAA受容体サブタイプに対する逆作用薬活性に関する望ましくない効果には乏しいことが示されている(即ち、不安惹起活性又は痙攣性若しくは痙攣誘発性活性)(Sternfeld et al. 2004 [ref 8], Chambers et al. 2004 [ref 11] et Ballard et al. 2009 [ref 6], respectively)。上記の化合物は、上記の引用文献に示されている方法により作ることができる。
【0104】
特定の典型的な実施形態では、上記の化合物は、以下の一つの構造を有する化合物、その生理学的に許容できる塩又はそれらのプロドラッグである。
【0105】
【化3】
【0106】
特定の典型的な実施形態では、上記の化合物は、以下の構造を有する化合物、その生理学的に許容できる塩又はそれらのプロドラッグである。
【0107】
【化4】
【0108】
(2.GABAA α5受容体サブタイプに対する機能的選択的な化合物の同定分析で用いる好ましい化合物の同定)
(受容体結合親和性/選択性)
特定の実施形態では、本発明に係る方法を実行するために有用な化合物は、α5サブユニットを含むGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を備える。特定の実施形態では、上記の化合物は、部分的に又は全面的に、α5サブユニットに対する機能的選択的な逆作用薬であり、一方で、α1、α2及びα3サブユニットに対する実質的な拮抗薬である。特定の実施形態では、本発明に係る化合物は、α1、α2及びα3サブユニットに比べて、α5サブユニットに対して選択的に結合する。
【0109】
特定の化合物は、既知のインビトロ又はインビボ動物モデルを用いることで、ダウン症に関する重篤な認識機能障害を治療又は緩和するための化合物として、実験的に選ばれ得る。
【0110】
例えば、化合物について、特定のα5 GABAA受容体サブタイプにおける、GABAA受容体サブタイプに対する親和性を評価する。上記の化合物は、米国特許第2006/0084642号に示されているように、α1β3γ2、α2β3γ2、α3β3γ2及びα5β3γ2の構成の受容体を発現する細胞に結合する[3H]フルマゼニルについての競争を測定することにより分析してもよい。
【0111】
特定の実施形態では、上記の化合物は、100nM又はそれ以下の、ラットGABAA受容体のα5サブユニットからの[3H]フルマゼニルの置換についてのKiの数値として表される。特定の実施形態では、上記の化合物は、Kiratの数値は75nM以下の数値で表され、50nM以下の数値であることが好ましく、25nM以下の数値であることが好ましく、20nM以下の数値であることが好ましく、10nM以下の数値であることが好ましく、5nM以下の数値であることが好ましく、1nM以下の数値であることがより好ましい。
【0112】
特定の実施形態では、上記の化合物は、α1、α2及びα3サブユニットに比べて、α5サブユニット受容体に対して選択的である。また、この結合選択性は、米国特許第2006/0084642号に示されているように、α1β3γ2、α2β3γ2、α3β3γ2及びα5β3γ2の構成の受容体を発現する細胞に結合する[3H]フルマゼニルについての競争を測定することにより分析してもよい。特定の実施形態では、GABAA α5受容体サブタイプに対する上記の化合物の結合親和性は、GABAA α1、α2又はα3受容体サブタイプに対する結合親和性に比べて、少なくとも2倍以上の大きさであり、5倍以上の大きさであることが好ましく、10倍以上の大きさであることが好ましく、20倍以上の大きさであることがより好ましく、30倍以上の大きさであることがより好ましく、40倍以上の大きさであることがより好ましく、50倍以上の大きさであることがより好ましく、60倍以上の大きさであることがなお好ましい。上記のGABAA α5受容体サブタイプに対する結合親和性は、α1、α2又はα3受容体サブタイプに対する結合親和性各々と同程度に大きくなくてもよい。例えば、上記のGABAA α5受容体サブタイプに対する結合親和性は、α3受容体サブタイプより約10倍大きく、α2受容体サブタイプより約20倍大きく、そして、α1受容体サブタイプより約60倍大きくてもよい(Sternfeld et al. [ref 7]のAIα5を参照)。
【0113】
(受容体の機能的選択性)
特定の実施形態では、本発明に係る方法を実行するために有用な化合物は、α5サブユニットに対して機能的選択的である。特定の典型的な実施形態では、上記の化合物は、部分的に又は全面的に、α5サブユニットに対する機能的選択的な逆作用薬であり、一方で、α1、α2及びα3サブユニットに対する実質的な拮抗薬である。
【0114】
機能的選択性は、チェンバースらによって報告されるように([ref 11])、ヒトGABAA受容体サブタイプを安定的に発現するマウス繊維芽細胞から導出する細胞パッチ・クランプ全体における化合物を試験することで示され得る。インビトロでの効能は、ほぼ最大(submaximal)(EC20)のGABA濃度を用いた、GABAで喚起される経過の最大変調の割合として測定することができる。プラスの数値は、GABAの喚起経過の増強作用を示している(作用薬)。一方で、マイナスの数値は、GABAの喚起経過の減衰作用を示している(逆作用薬)。また、機能的選択性は、2極電圧クランプ電気生理現象(two-electrode voltage clamp electrophysiology)を用いて、GABA・EC20イオンの経過における変調効果を測定することにより、ゼノパス卵母細胞で一時的に発現する、複製したヒトのα1、α2、α3及びα5サブユニットを含む受容体における、化合物を試験することで、示されてもよい(Sternfeld et al. [ref 8]を参照)。
【0115】
さまざまな受容体サブタイプの機能的効能は、WO 96/25948に示されている方法を用いることで算出することができる。
【0116】
特定の実施形態では、GABAA α5受容体サブタイプの上記の化合物のEC50は、GABAA α1、α2又はα3受容体サブタイプの上記の化合物のEC50に対して、少なくとも2倍より小さく、少なくとも3倍より小さいことが好ましく、少なくとも5倍より小さいことが好ましく、少なくとも8倍より小さいことが好ましく、少なくとも10倍より小さいことがより好ましく、少なくとも15倍より小さいことがより好ましく、少なくとも20倍より小さいことがより好ましい。
【0117】
(認識機能の増強)
特定の実施形態では、本発明に係る方法を実行するために有用な化合物は、ダウン症患者における認識機能を増強する。
【0118】
認識機能の増強は、マクナマラおよびスケルトンにより報告されたような、モリス水迷路において化合物を試験することにより示すことができる(Psychobiology, 21:101-108. [ref 5])。また、フェルナンデスによって報告されたような、物体認識試験により試験してもよい([ref 3])。
【0119】
特定の実施形態では、上記の化合物は、GABAA α5受容体サブタイプの25%±2%〜95%±2%の範囲内で占有するに相当する有効量で認識機能を増強する効果を示し、上記の範囲は、25%±2%〜90%±2%の範囲内であることが好ましく、25%±2%〜80%±2%の範囲内であることが好ましく、25%±2%〜75%±2%の範囲内であることが好ましく、25%±2%〜70%±2%の範囲内であることが好ましく、25%±2%〜65%±2%の範囲内であることが好ましく、25%±2%〜60%±2%の範囲内であることが好ましい。
【0120】
特定の実施形態では、上記の化合物は、GABAA α5受容体サブタイプの25%±2%を占有するに相当する、最小の有効量で認識機能を増強する効果を示す。
【0121】
(不安惹起性及び/又は痙攣性若しくは痙攣誘発性の影響)
特定の実施形態では、本発明に係る方法を実行するために有用な化合物は、ベンゾジアゼピン結合部位の80%より大きな割合を占有する有効量において、測定できる不安惹起性のような作用及び/又は痙攣性若しくは痙攣誘発性のような作用を示さず、上記の割合は、90%より大きな割合であることが好ましく、95%より大きな割合であることが好ましい。
【0122】
不安惹起性及び/又は痙攣性若しくは痙攣誘発性の可能性は、マウスにおけるペンチレンテトラゾールに誘発される痙攣の増強作用を測定する分析において、上記の化合物を試験することにより示され得る(例えば、Chambers et al. [ref 11] for relevant experimental protocols参照)。
【0123】
(3.薬学的組成物)
他の実施形態として、生理学的に許容できる組成物であって、本明細書に記載されているような何れかの化合物を含む組成物を提供する。上記の組成物は、状況に応じて、生理学的に許容できる基材、補助剤又は媒体を含む。特定の実施形態では、上記の組成物は、状況に応じて、さらに、一つ又はそれ以上の追加の治療薬を含んでいてもよい。
【0124】
従って、本発明により提供される薬学的組成物は、少なくとも一つの生理学的に許容できる基材、補助剤又は媒体と共に、活性原料として、本発明に記載されている一つ又はそれ以上の化合物を含んでいる。上記の薬学的組成物は、ダウン症に関する重篤な認識機能障害の治療又は緩和に有効であり、又は、ダウン症患者の認識機能を増進するのに有効である。
【0125】
特定の実施形態において、活性のある薬剤原料には、少なくとも一つのα5サブユニットを含むGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を有する化合物が含まれている。少なくとも一つのGABAA α5受容体サブタイプに対して機能的選択的な逆作用薬は、以下の一つの構造を有する化合物、その生理学的に許容できる塩又はそれらのプロドラッグを備えている。
【0126】
【化5】
【0127】
特定の典型的な実施形態では、少なくとも一つのGABAA α5受容体サブタイプに対して機能的選択的な逆作用薬は、以下の一つの構造を有する化合物、その生理学的に許容できる塩又はそれらのプロドラッグを備えている。
【0128】
【化6】
【0129】
特定の好ましい実施形態では、少なくとも一つのGABAA α5受容体サブタイプに対して機能的選択的な逆作用薬は、以下の構造を有する化合物、その生理学的に許容できる塩又はそれらのプロドラッグを備えている。
【0130】
【化7】
【0131】
特定の実施形態では、上記の活性のある薬剤原料には、α5サブユニットを含むGABAA受容体に対する結合選択性、及び、逆作用薬として機能的選択性の両方を有する少なくとも一つの化合物が含まれる。特定の典型的な実施形態では、上記の少なくとも一つの化合物は、以下の一つの構造を有する化合物、その生理学的に許容できる塩又はそれらのプロドラッグを備えている。
【0132】
【化8】
【0133】
特定の好ましい実施形態では、本発明において提供される薬学的組成物は、有効量のα5サブユニットを含むGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を備える化合物、その生理学的に許容できる塩又はそれらのプロドラッグと、それらと共に、添加剤としてのポリエトキシル化ひまし油のような界面活性剤(表面活性剤又は張力活性剤)及び、溶剤としてのジメチルスルホキシドを含んでいる。特定の実施形態では、上記の組成物は、ダウン症患者の重篤な認識機能障害の治療または緩和に有効である。特定の実施形態では、上記の組成物は、ゲルカプセルの形態、溶液の形態、懸濁液の形態であってもよい。特定の実施形態では、上記の組成物は非経口製剤であってもよい。特定の実施形態では、上記の非経口製剤は、静脈注射用であってもよい。特定の実施形態では、上記の組成物の有効量は、記憶増強効果、学習能力増強効果又はその両方を生み出すための有効量であってもよい。特定の実施形態では、上記の組成物は、さらに、ダウン症に関連する疾病や病気のために用いられる追加の治療薬を含んでいてもよい。上記の有効量は、特定の試験済の化合物についてのEC50(ある特定の暴露時間後のベースラインと最大値との中間の反応を生じる薬剤の濃度)を決定することができる古典的な用量作用曲線から推定されるものであってもよい。従って、等級別の用量作用曲線のEC50は、最大効果の50%が観察される化合物の濃度を表している。このEC50は、一般的に、薬効性及び毒性の尺度として用いられる。例えば、化合物α5IAの有効量は、ヒトの場合、経口投与で3〜10mgの範囲内の量であってもよく、例えば、経口投与で約4mgであってもよい。
【0134】
特定の典型的な実施形態では、上記の組成物は、以下の一つの構造を有する少なくとも一つの化合物、その生理学的に許容できる塩又はそれらのプロドラッグを含んでいる。
【0135】
【化9】
【0136】
特定の典型的な実施形態では、上記の組成物は、以下の一つの構造を有する少なくとも一つの化合物、その生理学的に許容できる塩又はそれらのプロドラッグを含んでいる。
【0137】
【化10】
【0138】
特定の典型的な実施形態では、上記の組成物は、以下の構造を有する少なくとも一つの化合物、その生理学的に許容できる塩又はそれらのプロドラッグを含んでいる。
【0139】
【化11】
【0140】
特定の典型的な実施形態では、上記添加物は、ポリエトキシル化ひまし油である。特定の典型的は実施形態では、上記ポリエトキシル化ひまし油は、Cremophor EL-H20(登録商標)である。Cremophor ELは、ある種のポリエトキシル化ひまし油についてのBASF社の登録商標である。上記のポリエトキシル化ひまし油は、1モル当たり、ひまし油に対して35モルのエチレンオキシドを反応させることにより得られる。その結果得られる生成物は混合物(CAS number 61791-12-6)であり、その混合物の主成分は、ひまし油のトリグリセリドのヒドロキシル基がエチレンオキシドによりエトキシル化し、ポリエチレングリコールエーテルを形成した物質である。微量成分は、リシノール酸のポリエチレングリコールエステル、ポリエチレングリコール、グリセロールのポリエチレングリコールである。特定の実施形態として、solutol HS15のような他の添加物を代わりに用いてもよいし、solutol HS15のような他の添加物をポリエトキシル化ひまし油に添加して用いてもよい。
【0141】
特定の実施形態では、DMSOが水との混合溶剤として用いられる。特定の実施形態では、上記の組成物は、DMSO/ポリエトキシル化ひまし油/水の混合物であって、ポリエトキシル化ひまし油が、DMSO/ポリエトキシル化ひまし油/水の混合物の体積に対して10〜20体積%の範囲内、好ましくは11〜19体積%の範囲内、好ましくは12〜18体積%の範囲内、好ましくは13〜17体積%の範囲内、好ましくは14〜15体積%の範囲内、好ましくは約15体積%で含まれる混合物を用いて形成されている。特定の実施形態では、上記の組成物は、DMSO/ポリエトキシル化ひまし油/水の混合物であって、DMSOが、DMSO/ポリエトキシル化ひまし油/水の混合物の体積に対して5〜15体積%の範囲内、好ましくは6〜14体積%の範囲内、好ましくは7〜13体積%の範囲内、好ましくは8〜12体積%の範囲内、好ましくは9〜11体積%の範囲内、好ましくは約10体積%で含まれる混合物を用いて形成されている。特定の典型的な実施形態では、上記の組成物は、5〜15/10〜20/65〜85の比、好ましくは5〜15/10〜20/68〜82の比、好ましくは6〜14/11〜19/70〜80の比、好ましくは7〜13/12〜18/72〜78の比、好ましくは8〜12/14〜16/73〜77の比、好ましくは9〜11/14〜16/74〜76の比、例えば10/15/75の比のDMSO/ポリエトキシル化ひまし油/水を用いて形成されている。特定の実施形態では、上記の化合物は、以下の一つの構造を有する化合物の塩酸塩である。
【0142】
【化12】
【0143】
特定の典型的な実施形態では、上記の化合物は、以下の一つの構造を有する化合物の塩酸塩である。
【0144】
【化13】
【0145】
特定の好ましい実施形態では、上記の化合物は、以下の構造を有する化合物の塩酸塩である。
【0146】
【化14】
【0147】
そして、上記の薬学的組成物は、さらに、添加剤としてポリエトキシル化ひまし油のような界面活性剤(表面活性剤又は張力活性剤)及び、溶剤としてDMSOを含んでいる。特定の実施形態では、上記の添加剤が、ポリエトキシル化ひまし油であって、上記の組成物が、DMSO/ポリエトキシル化ひまし油/水の混合物であって、ポリエトキシル化ひまし油が、DMSO/ポリエトキシル化ひまし油/水の混合物の体積に対して10〜20体積%の範囲内、好ましくは11〜19体積%の範囲内、好ましくは12〜18体積%の範囲内、好ましくは13〜17体積%の範囲内、好ましくは14〜15体積%の範囲内、好ましくは約15体積%で含まれる混合物を用いて形成されている。特定の実施形態では、上記の組成物は、DMSO/ポリエトキシル化ひまし油/水の混合物であって、DMSOが、DMSO/ポリエトキシル化ひまし油/水の混合物の体積に対して5〜15体積%の範囲内、好ましくは6〜14体積%の範囲内、好ましくは7〜13体積%の範囲内、好ましくは8〜12体積%の範囲内、好ましくは9〜11体積%の範囲内、好ましくは約10体積%で含まれる混合物を用いて形成されている。上記の組成物は、5〜15/10〜20/65〜85の比、好ましくは5〜15/10〜20/68〜82の比、好ましくは6〜14/11〜19/70〜80の比、好ましくは7〜13/12〜18/72〜78の比、好ましくは8〜12/14〜16/73〜77の比、好ましくは9〜11/14〜16/74〜76の比、例えば10/15/75の比のDMSO/ポリエトキシル化ひまし油/水を用いて形成されている。
【0148】
溶剤としてDMSO、及び、添加剤としてポリエトキシル化ひまし油のような界面活性剤(表面活性剤又は張力活性剤)の組み合わせに基づく本発明に係る薬学的組成物は、DMSO/Cremophor EL(登録商標)/水に含まれるα5IA・HClの製剤が、既知のα5IAの製剤に比べて効果が改善しているということを見出した本発明者らの観点から提案されたものである。上記の改善された効果は、1)活性原料α5IAをさらに可溶化すること、及び、2)既知の製剤に観察される不要な効果を示さないこと、である。既知の製剤(投与型)は、70%のPEG300及び30%の水(Collinson et al. 2002 & 2006 [ref 12 and 13])を基本組成とし、250μLの製剤を注射して治療した動物で10%の高さの致死率を誘導する。
【0149】
対照的に、本発明に係る製剤は、α5IA塩酸塩、DMSO及びポリエトキシル化ひまし油のような界面活性剤(表面活性剤又は張力活性剤)を基本組成とし、致死は見られない。さらに、このように得られる製剤では、活性原料の結晶は、より小さく且つより均一であり、連続した静脈注射による塞栓のリスクを抑えることができる。
【0150】
当業者であれば、本明細書で示す様々な活性のある薬剤原料は、鏡像異性体としての純粋な立体異性体及び/又は多形体としての遊離塩基又は塩として利用でき得ることを認識し得る。本明細書で他の条件を示さない限り、活性のある薬剤原料の遊離塩基若しくは塩、鏡像異性体又は多形体についての記載を制限する限定がない場合の、特定の活性のある薬剤原料についての記載は、活性のある薬剤原料やその水和物の、遊離塩基、生理学的に許容できる塩、ラセミ体、鏡像異性体として純粋な形態、非結晶体及び結晶体を含む、活性のある薬剤原料のうち、生理学的に許容できる全ての形態を含んでいることを意図している。
【0151】
また、化合物の異なる多形体が用いられていてもよい。多形態の定義としては、結晶格子における分子配置に基づく、異なる物理的性質を有する同一分子の結晶を示す。多形体の薬剤の性質は、薬学的及び薬理学的に極めて重要であり得る。多形体によって示される物理的性質の違いは、貯蔵安定性、圧縮性及び密度のような薬学的パラメータ(製剤及び製品製造において重要)、並びに、溶出速度(生物学的利用性の決定において重要な要素である)に影響する。安定性の違いは、化学反応性の変化(例えば、一方の多形体から成る方が、他方の多形体から成るよりも、投薬形態の変色が急速であるような異なる酸化)、構造的変化(例えば、速度論的に好ましい多形体から熱力学的により安定な多形体へと変化するにつれて、保存状態におけるタブレットが崩壊する)又はその両方(例えば、ある多形体のタブレットが、高い湿度での崩壊の影響を受け易い)に由来し得る。
【0152】
特定の実施形態では、本明細書で記載されている化合物又はその生理学的に許容できる塩は、ヒトを含む哺乳類の治療処理(予防処置を含む)のための薬学的組成物として、標準製薬法(standard pharmaceutical practice)に基づき形成される。
【0153】
生理学的に許容できる塩は、本技術分野でよく知られたものである。例えば、S.M.Bergeらが開示した生理学的に許容できる塩である(詳細は「J. Pharmaceutical Sciences, 1977, 66, 1-19」この内容全てを援用することにより本発明に組み込むものとする)。本発明に係る化合物の生理学的に許容できる塩には、適切な無機酸又は無機塩基並びに有機酸又は有機塩基に由来する塩が含まれる。生理学的に許容できる無毒である酸の付加塩の例として、塩化水素、臭化水素、リン酸、硫酸及び過塩素酸のような無機酸、若しくは、酢酸、シュウ酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、コハク酸或いはマロン酸のような有機酸により形成されるアミノ基の塩、又は、イオン交換のような本技術分野で用いられる他の方法を用いることによるアミノ基の塩が挙げられる。他の生理学的に許容できる塩には、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスコルビン酸塩、アスパラギン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重硫酸塩、ホウ酸塩、酪酸塩、樟脳酸塩、カンファースルホン酸塩、クエン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、グルコヘプトン酸塩、グリセロリン酸塩、グルコン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、ヨウ化水素塩、2−ヒドロキシエタンスルホン酸塩、ラクトビオン酸塩、乳酸塩、ラウリン酸塩、ラウリル硫酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メタンスルホン酸塩、2−ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモン酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3−フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩、ピクリン酸塩、ピバリン酸塩、プロピオン酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、ウンデカン酸塩、吉草酸塩及びそれらに類する塩が含まれる。適切な塩基に由来する塩には、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩及びN+(C1−4アルキル)4の塩が含まれる。また、本発明は、本明細書で開示されている化合物の何れかの塩基性の窒素含有基の第四級化も想定している。水溶性若しくは脂溶性の生成物又は分散性の生成物は、上記の第四級化により生成するものであってもよい。代表的なアルカリ金属塩、又は、アルカリ土類金属塩には、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩及びそれらに類する塩が含まれる。さらに、適切な場合、生理学的に許容できる塩には、ハロゲン化物イオン、水酸化物イオン、カルボン酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、硝酸イオン、低級アルキルスルホン酸、及び、アリルスルホン酸塩のような対イオンを用いて形成される無毒なアンモニウム塩、第四級アンモニウム塩及びアミンカチオンが含まれる。
【0154】
生理学的に許容できる誘導体、生理学的に許容できる塩及び多様な形態を含む、上記の活性のある薬剤原料は、薬学的組成物として形成され得る。上記の組成物は、必要に応じて、従来の無毒な生理学的に許容できる基材、補助剤又は媒体を含む投薬単位として、経口投与、バッカル投与、舌下投与、経静脈投与、非経口投与、吸入スプレーとしての投与、直腸投与、皮内投与、経皮投与、経肺投与、経鼻投与、又は、局所投与され得る。また、局所投与は、経皮パッチ又はイオン導入装置のような経皮投与法の利用を含んでいてもよい。本明細書で用いられるような「非経口」という用語は、皮下注射、経静脈注射、筋肉注射若しくは経動脈注射、又は、投薬技術を含んでいる。ある好ましい実施形態では、上記の組成物は、経口投与、バッカル投与、又は、舌下投与される。他の好ましい実施形態では、上記の組成物は経静脈投与される。
【0155】
上記の活性のある薬剤原料は、それ自体が投与されてもよいし、薬学的組成物の形態として投与されてもよい。上記の薬学的組成物は、活性化合物が、一つ又はそれ以上の基材、補形剤、崩壊剤、流動促進剤、希釈剤、放出遅延性若しくは放出制御性マトリクス、又は放出遅延性若しくは放出制御性コーティングのような一つ又はそれ以上の生理学的に許容できる成分との混和物又は混合物に含まれている。薬学的組成物は、補形剤及び補助剤を含む一つ又はそれ以上の生理学的に許容できる基材を用いて、活性化合物を薬学的に用いることができる調製品へ容易に処理する従来の方法で形成されてもよい。適切な製剤の形態は、選択された投与手段に依存する。
【0156】
本発明に係る化合物から薬学的組成物を調製するための、不活性な生理学的に許容できる基材は、固体又は液体のどちらでもあり得る。固体の形態の調製品には、パウダー、タブレット、分散粒、カプセル、オブラート(カプレット)及び坐薬が含まれる。
【0157】
固体の組成物としての、従来の無毒な固体の基材には、例えば、調剤等級のマンニトール、ラクトース、セルロース、セルロース誘導体、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、ナトリウム・サッカリン、タルカム、グルコース、スクロース、炭酸マグネシウム及びそれらに類して利用できるものが含まれる。液体の薬学的投与可能な組成物は、例えば、上記で定義される活性化合物、及び、任意の薬学的な補助剤を、例えば、水、含塩水性デキストロース(saline aqueous dextrose)、グリセリン、エタノール、及びそれらに類するもののような基材の中に溶解、分散することなどにより、調製され得るものである。また、必要であれば、投与するための上記の薬学的組成物には、例えば、酢酸ナトリウム、モノラウリン酸ソルビタン、酢酸トリエタノールアミンナトリウム、モノラウリン酸ソルビタン、オレイン酸トリエタノールアミン等のような、湿潤剤、乳化剤、pH緩衝剤又はそれらに類するもののような微量の無毒の補助剤が含まれていてもよい。投薬形態を調製する実質的な方法は、当業者により周知であり、又は、明確である(例えば、「Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easton, Pa., 15th Edition, 1975.」参照)。
【0158】
組成物の調製に関して、一つ又はそれ以上の化合物は、適切な生理学的に許容できる基材と共に混合される。化合物の混合又は添加後に得られる混合物は、溶液、懸濁液、乳液又はそれらに類するものであってもよい。また、リポソーム懸濁液は、生理学的に許容できる基材として適切であり得る。この懸濁液は、当業者に知られた方法に基づき調製されてもよい。得られる混合物の形態は、投与の所望の様式、及び、選ばれた基材や媒体中での化合物の溶解性を含む、多くの要素に依存する。有効濃度は、治療対象の病気、疾病、または症状の状態を改善するために十分な濃度であり、実験的に決定されてもよい。
【0159】
本明細書に示された化合物の投与に適切な薬学的な基材又は媒体は、特定の投与の様式に適切な、当業者に知られているような何れかの基材を含んでいる。さらに、活性のある物質は、望まれる作用を阻害しない他の活性のある物質と混合されていてもよく、又は、望まれる作用を補足する物質や、他の作用を有する物質と混合されてもよい。上記の化合物を、組成物中における単独の薬学的な活性原料として形成してもよく、他の活性原料と組み合わせてもよい。
【0160】
固体の基材は、希釈剤、香料添加剤、溶解剤、潤滑剤、懸濁化剤、バインダー又はタブレット崩壊剤として働く一つ又はそれ以上の物質であってもよい。また、固体基材は、カプセル材料であり得る。
【0161】
パウダー中では、細かく分割された活性成分と混合された、細かく分割された固体である。タブレット中では、活性成分は、適度に必要な結合性を備えている基材と混合しており、所望の形状及び大きさに成形されている。
【0162】
坐薬としての組成物の調製に関して、まず、脂肪酸グリセリド及びココアバターの混合物のような低融点ワックスを溶解し、そして、活性原料を、例えば撹拌などにより低融点ワックスに分散させる。その後、溶解された均質な混合物は、使い易い大きさのモールドに注がれ、冷却し、固めることができる。
【0163】
適切な基材には、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ラクトース、砂糖、ペクチン、デキストリン、デンプン、トウガカントゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、低融点ワックス、ココアバター及びそれらに類するものが含まれる。
【0164】
上記の薬学的組成物はコーティングされた形態であってもよい。適切なコーティング材料の例としては、酢酸フタル酸セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリ酢酸フタル酸ビニル、アクリル酸重合体及び共重合体、並びに、Eudragit(登録商標)(Roth Pharma, Westerstadt, Germany)の名称で市販されているメタクリル樹脂、ゼイン、セラック及び多糖類が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0165】
さらに、コーティング材料には、可塑剤、色素、着色剤、流動促進剤、安定剤、増孔剤、及び、界面活性剤が含まれていてもよい。
【0166】
もし、経口投与が望ましい場合、上記の化合物は胃の酸性環境から保護する構成中に含まれていてもよい。例えば、上記の構成は、胃の中で完全な状態を維持し、腸の中で上記の活性化合物を放出する腸溶コーティングである。また、上記の構成は、制酸剤又はその他のそれに類する成分との組み合わせであってもよい。
【0167】
任意の生理学的に許容できる添加剤は、薬剤コーティングのタブレット、ビーズ、顆粒又は粒子中に存在し、希釈剤、バインダー、潤滑剤、崩壊剤、着色剤、スタビライザー、及び、界面活性剤を含むが、これらに限定されるものではない。
【0168】
希釈剤は、「フィラー」としても呼ばれ、タブレットに圧縮し、又は、ビーズ及び顆粒に成形し、実用的な大きさにすることができるように、固体の投薬形態の体積を増加するために一般的に必要である。適切な希釈剤には、限定するわけではないが、リン酸カルシウム二水和物、硫酸カルシウム、ラクトース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロース、微結晶セルロース、カオリン、塩化ナトリウム、乾燥デンプン、デンプン加水分解物、アルファ化デンプン(pregelatinized starch)、二酸化ケイ素、二酸化チタン、ケイ酸アルミニウムマグネシウム及び粉砂糖が含まれる。
【0169】
バインダーは、固体の投薬製剤に凝集性を付与するために用いられ、投薬形態に成形した後のタブレット又はビーズ若しくは顆粒を原形に保つことを保証する。適切なバインダー材料には、限定するわけではないが、デンプン、アルファ化デンプン、ゼラチン、砂糖(スクロース、グルコース、デキストロース、ラクトース及びソルビトールを含む)、ポリエチレングリコール、ワックス;アカシア、トラガカントゴム、アルギン酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロースを含むセルロース、及び、ベガムのような天然ゴム及び合成ゴム、並びに、アクリル酸メタクリル酸共重合体、メタクリル酸共重合体、メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸アミノアルキル共重合体、ポリアクリル酸/ポリメタクリル酸及びポリビニルピロリドンのような合成重合体が含まれる。
【0170】
潤滑剤は、タブレットの製造を円滑にするために用いられる。例えば、適切な潤滑剤には、限定するわけではないが、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、ベヘン酸グリセロール、ポリエチレングリコール、タルク、及び、ミネラルオイルが含まれる。
【0171】
崩壊剤は、剤形分解又は投与後の「崩壊」を促すために用いられる。崩壊剤には、特に限定するわけではないが、一般的に、デンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、カルボキシメチルデンプンナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、アルファ化デンプン、粘土、セルロース、アルギニン、ゴム、又は、架橋PVP(Polyplasdone XL from GAF Chemical Corp)のような架橋重合体が含まれる。
【0172】
スタビライザーは、実施例のような酸化反応を含む薬剤の分解反応を阻害又は抑制するために用いられる。
【0173】
界面活性剤は、陰イオン性、陽イオン性、両性、非イオン性の表面活性剤であってもよい。適切な陰イオン界面活性剤には、限定するわけではないが、カルボン酸イオン、スルホン酸イオン、及び、硫酸イオンを含む界面活性剤が含まれる。例えば、陰イオン界面活性剤には、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムのような長鎖アルキルスルホン酸および長鎖アルキルアリルスルホン酸のナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムのようなスルホコハク酸ジアルキルナトリウム、スルホコハク酸ビス−(2−エチルチオキシル)ナトリウムのようなスルホコハク酸ジアルキルナトリウム、並びに、硫酸ラウリルナトリウムのような硫酸アルキルが含まれる。陽イオン界面活性剤には、限定するわけではないが、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、臭化セトリモニウム、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム、ポリオキシエチレン、及び、ココナッツアミンのような第四級アンモニウム化合物が含まれる。例えば、非イオン界面活性剤には、モノステアリン酸エチレングリコール、ミリスチン酸プロピレングリコール、モノステアリン酸グリセリン、ステアリン酸グリセリン、4−オレイン酸ポリグリセリル、ソルビタンアシル化物、スクロースアシル化物、ラウリン酸PEG-150、モノラウリル酸PEG-400、モノラウリル酸ポリオキシエチレン、ポリソルビン酸塩、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、PEG-1000セチルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリプロピレングリコールブチルエーテル、Poloxamer* 401、ステアロイルモノイソプロパノールアミド、及び、ポリオキシエチレン水素添加獣脂アミドが含まれる。例えば、両性界面活性剤には、N−ドデシル−[ベータ]−アラニンナトリウム、N−ラウリル−[ベータ]−イミノジプロピオン酸ナトリウム、ミリストアンフォアセテート、ラウリルベタイン、及び、ラウリルスルホベタインが含まれる。
【0174】
また、もし望まれたら、タブレット、ビーズ、顆粒又は粒子には、湿潤剤若しくは乳化剤、染料、pH緩衝剤、又は、防腐剤のような微量の無毒の補助材料が含まれていてもよい。
【0175】
上記の活性のある薬剤原料は、薬学的製剤の一部として他の薬剤と複合されていてもよい。上記の薬学的組成物は、例えば、結合剤(例えば、アカシア、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン(ポビドン)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、スクロース、デンプン及びエチルセルロース)、フィラー(例えば、トウモロコシデンプン(コーンスターチ)、ゼラチン、ラクトース、アカシア、スクロース、微結晶セルロース、カオリン、マンニトール、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、塩化ナトリウム或いはアルギン酸)、潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、シリコーン流動体、タルク、ワックス、油及びコロイダルシリカ)及び崩壊剤(例えば、微結晶セルロース、トウモロコシデンプン(コーンスターチ)、グリコール酸ナトリウムデンプン及びアルギン酸)のような生理学的に許容できる添加剤を用いて従来の手段により作られるタブレット又はカプセルの形態であってもよい。複合物が水溶性の場合、上記の調製される複合物は、例えば、リン酸緩衝生理食塩水、又は、生理的混合溶液(physiologically compatible solutions)のような適切な緩衝液中で調製される。また、得られる複合物が疎水性である場合、TWEEN(登録商標)のような非イオン界面活性剤又はポリエチレングリコールを用いて調製してもよい。従って、活性のある薬剤原料及びその生理学的に許容できる溶媒和物は、投与される形態であってもよい。
【0176】
経口投与又は注射による投与を目的として、本発明に係る薬学的組成物を含ませた液体の形態には、エリキシル剤だけではなく、水溶液、適切な風味をつけたシロップ、水性懸濁液、油性懸濁液、及び、綿実油、胡麻油、やし油又は落花生油のような食用油を伴う風味をつけた乳液、並びに、それらに類する媒体が含まれる。水中又は他の水性媒体中で調合された経口投与のための液体の製剤には、トラガカントゴム、ペクチン、ケルギン、カラゲーニン、アカシア、アルギン酸塩、デキストラン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール及び/又はゼラチンのような合成ゴム及び天然ゴムを含む懸濁化剤が含まれていてもよい。また、上記の液体の製剤には、上記の活性化合物、湿潤剤、甘味料並びに着色剤及び香料を伴う溶液、乳液、シロップ及びエリキシル剤含有物が含まれていてもよい。様々な液体製剤及び粉末製剤は、患者が吸入することを目的として、従来の方法によって調合することができる。
【0177】
放出遅延性及び放出制御性の組成物を調製することができる。放出遅延性/放出制御性の薬学的組成物は、生理学的に許容できるイオン交換樹脂と薬剤とを複合し、その複合物をコーティングすることにより得ることができる。上記の製剤は、コアの複合物から胃腸液への薬剤の拡散を制御するための障壁として働く材料でコーティングされている。状況に応じて、上記の製剤は、胃内で薬剤服用量の10%未満が放出される投薬形態の最終製品とするために、胃の酸性環境下で不溶性であり、下部消化管(lower GI tract)の塩基性環境下で可溶性であるポリマーのフィルムでコーティングされている。
【0178】
さらに、即時に放出する組成物と、放出遅延性/放出制御性の組成物との組み合わせで一緒に調製されていてもよい。
【0179】
上記の化合物は、タイムリリース製剤やタイムリリースコーティングのように、化合物を体からの急速な排出から保護するための媒体と共に調合されていてもよい。上記の媒体には、限定するわけではないが、インプラント及びマイクロカプセル運搬システム、並びに、コラーゲン、酢酸エチレンビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、ポリオルトエステル、ポリ乳酸及びその他のポリマーのような生分解生物適合性ポリマーのような制御放出製剤が含まれる。上記の製剤を生成する方法は、当業者により知られている方法である。
【0180】
一部の例において、律動的放出製剤(律動製剤)(pulsatile formulation)として本発明に係る活性のある薬剤原料を投与することが有利であり得ることが考えられる。上記の製剤は、カプセル、タブレット又は水性懸濁液として投与することができる。例えば、カプセル、タブレット又は水性懸濁液には、二つ又はそれ以上の種類の、活性のある薬剤原料を含む粒子が調合されていてもよい。一方の種類の粒子には、即時に放出する活性のある薬剤原料が含まれている(例えば、即時に放出するためのコーティングがされていなくてもよく、されていてもよい)。そして、他方の種類の粒子には、放出遅延性コーティング/腸溶性コーティングされている活性のある薬剤原料が含まれている。ある実施形態では、活性のある薬剤原料が律動的に放出されることで、一日二回(b.i.d.)、又は、一日一回(q.d.)を基本として投与することで、永続的に放出される製剤となる。カプセルの場合では、上記の二種類の粒子が、即時に放出するためのカプセル、又は、放出遅延性カプセルに詰められているかも知れない。タブレット(カプレットを含む)の場合には、上記の二種類の粒子が、圧縮されていてもよく、状況に応じて、適切なバインダー及び/又は崩壊剤と混合し、タプレットのコアが形成され、即時に放出するためのコーティング、放出制御性コーティングまたはその両方がされていてもよい。さらに、上記のタブレットは、投薬の嚥下適性を増進させるコーティングがなされていてもよい。
【0181】
懸濁液の場合には、第1の種類の粒子は、コーティングされていなくてもよく(そして、実際には全体が又は一部が水溶媒に溶解している)、即時に放出するためのコーティング、放出制御性コーティング又はその両方がされていてもよい。第2の種類の粒子は、放出遅延性コーティングがされており、状況に応じて、即時に放出するためのコーティング及び/又は腸溶性コーティングがされている。腸溶性コーティングは、一般的に、上記の活性のある薬剤原料が、低pH条件に敏感であり、胃の中で不安定であり得る場合に適用される。また、第2の種類の粒子は、放出遅延性粒子内の活性のある薬剤原料の放出について、追加の遅延時間を加えるために放出遅延性粒子が適用されてもよい。
【0182】
不十分な溶解性の化合物の例では、化合物を可溶化する方法が用いられてもよい。この方法は当業者に知られている方法であり、この方法には、限定するわけではないが、ジメチルスルホキシド(DMSO)のような溶剤を用いる方法、ツイーン(商品名)のような界面活性剤を用いる方法、又は、重炭酸ナトリウム水溶液に溶解する方法が含まれる。また、化合物の塩又は化合物のプロドラッグのような化合物の誘導体が、有効な薬剤原料を調製するために用いられてもよい。
【0183】
ダウン症患者の認識機能を増進させるために十分な量であって、患者の治療にあたって望ましくない作用(即ち、不安惹起性のような作用、及び/又は、痙攣性若しくは痙攣誘発性の作用)を示さない量の上記活性化合物を、生理学的に許容できる媒体に含ませてもよい。治療上効果的な濃度は、本明細書に記載されているような既知のインビボ及びインビトロモデル系による化合物を試験することで実験的に決定されてもよい。
【0184】
上記の組成物は、ガラス製、プラスチック製又は他の適切な材料から成るアンプル、使い捨てシリンジ又は複合型若しくは単一型の薬剤バイアルに入れることができる。バイアル等に入れられた上記の組成物は、キットとして与えられる。
【0185】
また、上記の活性材料は、望まれる効果を示さない他の活性材料、または、望まれる効果を補足する材料と混合され得る。
【0186】
(3.治療処置キット)
他の形態として、本発明は、本発明に基づく方法を便利に且つ効果的に実行するためのキットに関する。一般的に、薬剤パック又は薬剤キットは、一つ又はそれ以上の本発明に係る薬学的組成物の成分で満たされた一つ又はそれ以上の容器を備えている。特に、上記の薬剤キットはタブレットやカプセルのような固体の経口摂取形態の薬剤を移動させるのに適している。上記の薬剤キットには、多くの投薬単位が備えられていることが好ましく、また、薬剤の用途を確認するカードが備えられていることが好ましい。もし必要であれば、例えば、番号、文字若しくは他の目印が示されている、又は、薬剤投与の治療スケジュールの日程が記載されたカレンダーが備えられていると記憶の助けになる。もう一つの方法として、上記の薬学的組成物の薬剤と類似の形態、又は、異なる形態の偽薬又はカルシウム栄養補助食品を備えるキットとし、それを毎日薬剤を服用するためのキットとしてもよい。状況に応じて、薬剤製品の製造、利用又は販売を管轄する行政機関により規制された形式であって、その行政機関によりヒトへの投与が承認されたことを示す注意書きが上記の容器に示されていてもよい。
【0187】
(4.使用方法)
さらに他の形態として、本発明は、ダウン症患者の重篤な認識機能障害を治療又は緩和するための薬品として用いるためのα5サブユニットを含むGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を有する化合物を提供する。また、本発明は、ダウン症患者の重篤な認識機能障害を治療又は緩和するための薬品を調製するためのα5サブユニットを含むGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を有する化合物の利用方法を提供する。従って、本発明は、α5サブユニットを含むGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を有する化合物を、その患者が必要とする有効量を投与すること、又は、上記の化合物又は生理学的に許容できるその塩、若しくはそれらのプロドラッグを含む薬学的組成物の有効量を投与することを含む、ダウン症患者の重篤な機能認識障害を治療又は緩和するための方法を提供することにある。
【0188】
他の形態として、本発明は、ダウン症患者の認識機能を増強するための薬品として用いるためのα5サブユニットを含むGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を有する化合物を提供する。また、本発明は、ダウン症患者の認識機能を増強するための薬品を調製するための、α5サブユニットを含むGABAA受容体の逆作用薬としての機能的選択性を有する化合物の使用方法を提供する。従って、本発明は、α5サブユニットを含むGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を有する化合物を、認識機能を増強するためにその患者が必要とする量を投与すること、上記の化合物又は生理学的に許容できるその塩、若しくはそれらのプロドラッグを含む薬学的組成物の有効量を投与することを含む、ダウン症患者の認識機能を増強するための方法を提供することにある。
【0189】
特定の実施形態では、上記の化合物は下記の一つの構造又はその薬学的に許容できる塩若しくはそれらのプロドラッグを含む。
【0190】
【化15】
【0191】
特定の典型的な実施形態では、上記の化合物は下記の一つの構造又はその薬学的に許容できる塩若しくはそれらのプロドラッグを含む。
【0192】
【化16】
【0193】
特定の典型的な実施形態では、上記の化合物は下記の構造又はその薬学的に許容できる塩若しくはそれらのプロドラッグを含む。
【0194】
【化17】
【0195】
特定の実施形態では、上記の化合物は、薬学的組成物として経口投与、バッカル投与又は舌下投与される。特定の実施形態では、上記の化合物は、タブレット、カプセル、ゲルカプセル、カプレット又は溶液若しくは懸濁液の形態で投与される。特定の実施形態では、非経口製剤として投与される。特定の実施形態では、上記の非経口製剤は、静脈注射のために用いられる。特定の実施形態では、上記の化合物の有効量は、発作を引き起こさない量である。例えば、発作を引き起こさない量は、様々な量の化合物の薬剤で痙攣の影響が観察されるかどうかを測定することにより決定される。特定の実施形態では、上記の化合物は、高い受容体占拠率%で痙攣の影響が見られない(80〜90%)。
【0196】
特定の実施形態では、上記の化合物の有効量は、記憶力増強作用、学習能力増強作用又はその両方を生じるため効果的な量である。上記の化合物の有効量は、マウス及びヒト両方の一連の神経心理試験における、上記の化合物の効果を測定することで用量作用曲線を確立することにより決定してもよい。
【0197】
特定の実施形態では、上記の化合物は、ダウン症に関する疾病や疾患の治療のために用いられる追加の治療薬と組み合わせることで用いられてもよい。本発明に係る方法に基づいて、上記の化合物及び上記の組成物は、ダウン症患者の重篤な認識機能障害を治療又は緩和するために効果的な投与量及び投与方法を用いて投与されてもよい。必要とする正確な量は、患者によって異なり、患者の人種、年齢及び患者の基本状態、認識機能障害の重症度、対象の薬剤、その投与形態等に基づく。本発明に係る化合物は、投与が容易であり薬剤が均一な投薬単位の形態で調製されることが好ましい。
【0198】
本明細書で用いられている「投薬単位の形態」という表現は、患者を治療するために適切な物理的に分離した薬剤の単位を示している。しかし、本発明に係る上記の化合物及び上記の組成物の一日で用いられる総量は、適切な医学的判断の範囲内で主治医により決定され得る。特定の患者又は組織に対する具体的な有効投薬水準は、認識機能障害の程度、使用する特定の化合物の活性、使用する具体的な化合物、患者の年齢、体重、基本状態、性別、食事、投与時間、投与方法、及び、使用する具体的な化合物の排出率、治療期間、使用する具体的な化合物と組み合わせて使用する薬剤、又は、同時に用いる薬剤、並びに、それらに類する医療の分野で周知の要素を含む様々な要素に基づいている。本明細書で用いられている「患者」という用語は、動物を意味しており、好ましくは哺乳類であり、最も好ましくはヒトである。
【0199】
本発明に係る生理学的に許容できる組成物は、治療する病気の重症度に基づき、例えば、経口投与、直腸投与、非経口投与、嚢内投与、膣内投与、腹腔内投与、局所投与(粉末、軟膏又はドロップによる)、バッカリー投与、口腔用スプレー若しくは鼻腔用スプレー投与又はそれらに類する投与のような、何れかの適切な方法でヒト及びその他動物に投与することができる。投与形式は、経口投与の形式、及び、非経口投与の形式が好ましい。
【0200】
上記の組成物は、本明細書に示されている0.1mg〜500mgの範囲内の活性化合物を含む上述した投薬単位の形態として投与されてもよい。典型的な投薬単位の形態には、1mg〜100mgの範囲内の活性薬剤が含まれており、例えば、1mg、2mg、3mg、4mg、5mg、10mg、25mg、50mg又は100mgの活性薬剤が含まれている。特定の実施形態では、投薬単位は、3〜10mgの範囲内の活性薬剤を含んでいてもよく、例えば、約4mg含まれていてもよい。
【0201】
認識機能増強に関して、適切な投薬水準は、体重に対して、一日あたり約0.01mg/kg〜250mg/kgの範囲内であってもよく、一日あたり約0.01mg/kg〜100mg/kgの範囲内であることが好ましく、一日あたり約0.01mg/kg〜10mg/kgの範囲内であることが好ましく、一日あたり約0.01mg/kg〜5mg/kgの範囲内であることが特に好ましい。上記の化合物は、一日あたり1回〜4回の投薬規則で投与されてもよく、例えば、一日あたり1回〜2回投与されてもよい。しかしながら、いくつかの場合では、上記の投与制限以外の投与法で化合物を用いてもよい。治療処置は2週間〜12週間の期間にわたって実行してもよく、例えば、4週間にわたって実行してもよい。しかしながら、いくつかの場合では、上記の投与制限以外の投与法で化合物を用いてもよい。
【0202】
上記の活性薬剤は、一度で投与されてもよいし、多数の小さな投薬単位に分割して、時間を空けて投与されてもよい。他の方法では、本発明に係る化合物は、継続的に投与されてもよく、例えば、静脈注射による投与、又は、本発明に係る化合物が組み込まれ、放出する適切な設置式の経皮パッチによる投与であってもよい。
【0203】
本発明に係る化合物は、調製する前に、1μM〜10μMの範囲内の粒子サイズ、好ましくは5μM未満の粒子サイズに、乳棒及びすり鉢、又は、同様な産業的方法を用いて粉末化されることが好ましい。上記の化合物を、当業者に知られた方法により微粉化又は超音波で分解するのがよく、例えばUS-A-5145684に開示されている方法によりナノ粒子化してもよい。
【0204】
また、本発明に係る薬学的組成物は、本発明に係る化合物に加えて、本明細書に示された一つ又はそれ以上の病気の状態を治療することができる一つ又はそれ以上の薬剤を含んでいてもよく、その一つ又はそれ以上の薬剤と共に投与(同時に又は連続して)されてもよい。
【0205】
また、本発明に係る化合物及び生理学的に許容できる組成物は、併用療法、即ち、化合物及び生理学的に許容できる組成物を、一つ又はそれ以上の望まれる治療処置又は医療処置と同時に、治療処置又は医療処置の前に、又は、治療処置又は医療処置の後に投与され得る方法を用いることができる。従って、本明細書で定義されている方法は、単独の治療法として適用されてもよく、本発明に係る化合物に加えて、従来の化学療法が含まれていてもよい。そのような混合療法は、個々の治療成分の投薬単位を同時に投薬する方法、連続して投薬する方法、又は、分離して投薬する方法により達成してもよい。そのような混合薬剤の製品には、本明細書に示された化合物が用いられていてもよい。
【0206】
混合した投薬規則が用いる治療(治療法又は治療処置)の特別な組み合わせには、望まれる治療法及び/又は治療処置、達成される望ましい治療効果の適合性が考慮に入れられ得る。採用した治療により、同一の疾病に対する望ましい効果を達成してもよく(例えば、本発明に係る化合物が、ダウン症患者の認識機能を増強するために用いられる他の薬剤と同時に投与されてもよいということ)、異なった効果を達成してもよい(例えば、何れかの副作用を制御すること)。本明細書で用いられているような、特定の病気や症状を治療又は予防するために通常投与される追加の治療薬は、「その病気や症状を治療するのに適切である」として知られているものである。
【0207】
本発明に係る組成物中に存在する追加の治療薬の量は、本来、その活性薬剤のみとして上記の治療薬を含む組成物を投与する量であれば足り得る。本発明に係る組成物における追加の治療薬の量は、本来、治療効果のあるその活性薬剤のみとして薬剤を含む組成物中に存在する量に対して、約50%〜100%の範囲内の量であればよい。
【0208】
典型的な、ダウン症に関連する医療上の問題には、先天性心臓疾患(例えば、心房心室中隔欠損症、心室中隔欠損症(VSD)、心房中隔欠損症、又は、動脈管開存症、ファロー四微症、左心低形成症候群のような他の複雑な心臓疾患)、肺高血圧症、聴力の問題(例えば、内耳の流動うっ滞、耳感染症、耳自体の構造上の問題)、視力の問題(例えば、先天性白内障(目のレンズの透明度損失)、緑内障(眼内の圧の増加)、斜視(寄り目)、及び、主要な難治性の障害(遠視又は近視)、視力減退(弱視))、腸の異常、発作障害、呼吸困難、肥満症、感染症への増大した感受性、白血病(白血病は、ダウン症を患う子供150人に対して一人の割合で生じる。これは一般的な母集団に対して20倍以上高い数値である)、胃腸の異常(2%〜5%のダウン症を患う子供は、十二指腸閉塞症として知られる、小腸が完全に閉塞している疾患を患っている。さらに2%が、ヒルシュスプルング病として知られている結腸及び/又は直腸の運動能が低下する疾患を患っている)、及び、甲状腺疾患が含まれる。
【0209】
従って、特定の実施形態では、本発明に係る方法には、上述したようなダウン症に関連する病気や状態を治療するために適切な追加の治療薬と共に(同時に、又は、連続して)、本発明にかかる化合物又は生理学的に許容できる組成物を投与することが含まれる。
【0210】
以下に示される実施例は、本発明の説明を補助することを目的としており、本発明の範囲を限定することを意図するものではなく、また、本発明の範囲を限定するものであると解釈するべきではない。実際、本明細書に示された及び開示された実施形態及び実施例に加えて、本発明に係る様々な実施形態及びさらに多くの実施例は、当業者により、以下の実施例並びに本明細書で引用されている科学的参考文献及び特許文献の内容を含む、本明細書の内容全てから明確に導かれる。
【0211】
以下の実施例には、様々な実施形態及びそれに相当する形態における、本発明を実行するために適する重要な追加の情報、例示、及び、指針が含まれる。
【0212】
〔実施例〕
(要約)
GABAA拮抗薬を用いた治療法は、ダウン症の遺伝モデルである、Ts65Dnマウスの認識機能を回復することができる。また、GABAA拮抗薬は、痙攣性の副作用を伴うため、本発明者らは、どんな痙攣活性も示さない、GABA系伝達系を阻害するα5サブタイプを含むGABAAベンゾジアゼピン受容体に対して選択的な逆作用薬(α5IA)の安全な治療戦略を検討した。本発明者らは、α5IAが、脳において、挙動により発現する前初期遺伝子産物を増強することによりTs65Dnマウスの学習能力障害及び記憶力障害を緩和するということを明示する。
【0213】
ダウン症は、精神遅延の最も一般的な遺伝的要因であり(新生児の1/800)、様々な程度の認識機能障害により特徴付けられる([ref 17])。最近発表されたデータにおいて、ダウン症の学習能力機能障害及び記憶力機能障害に関連する変化は、脳内の増強するGABA系の抑制作用により引き起こされる可能性があるということが示されている([ref 2, 18])。実際には、非競争性GABAA拮抗薬を用いることで、ダウン症マウスの障害のある表現型を回復させることができる([ref 3, 19])。しかしながら、GABAA拮抗薬は、高用量で痙攣性を示し、特に、より痙攣性の傾向があるダウン症患者で拮抗薬の使用が妨げられている([ref 9])。
【0214】
本発明の課題は、ダウン症モデル認識機能障害Ts65Dsマウスに対する経口投与で有効な([ref 1])、α5選択的逆作用薬である、α5IAとして本明細書で示されている、3−(5−メチルイソオキサゾール−3−イル)−6−[(1−メチル−1,2,3−トリアゾール−4−イル)メチルオキシ]−1,2,4−トリアゾロ[3,4−a]フタラジン([ref 8])の治療効果を評価することにある。
【0215】
まず、発明者らは、α5 GABAAサブユニットがコードされているGabra5遺伝子の発現レベルが、Ts65Dnマウスと、正常マウスとで同等であることを検証した(図2を参照)。発明者らは、スターンフェルドの方法([ref 8])(図1を参照)に基づきα5IAを合成し、そして、マウスにおいて、関連する痙攣活性/痙攣誘導活性(実施例3及び表1参照)又は、不安惹起活性及び運動機能障害(図6及び図7)を伴わず、明確な認識機能増強効果を促進することができる腹腔投与での5mg/kg投薬用量を見出した(図5を参照)。病理組織検査では、α5IAを用いた長期治療後において何れの組織の変化も見られなかった(図8及び図8の注釈を参照)。発明者らは、α5IAの副作用を示さないでTs65Dnマウスの認識機能障害を回復する治療法の可能性を検討した。
【0216】
空間記憶は、マウスが水迷路中を泳いで隠れたプラットフォームを見つけるという、標準的なモリス水迷路(MWM)作業により評価した(図11Aを参照)。各訓練セッションの30分前に、α5IA又は偽薬を腹腔投与した。標準的な視覚能力を示す(図9参照)一方で、偽薬を投与したTs65Dnマウスは、正常なマウスに比べて重篤な認識機能障害を示し(p<0.0025)、各セッションにわたり正確な動作の改善に遅れが見られた(p<0.025)(図11B及び図11Cを参照)。α5IAを用いた治療法により、Ts65Dnマウスの非能率的な捜索戦略の使用が減少し(図9及び図10の注釈、並びに図10を参照)、より重要なこととして、Ts65Dnマウスで標準的な学習動作へ回復することができた(図11B及び図11Cを参照)。記憶力は、単独の触覚試適(probe trial)(プラットフォームを利用しない)で評価した。対象に対する記憶力が、正常なマウスで見られたものの(p<0.05)、Ts65Dnマウスでは見られず、α5IAで治療した後でも見られなかった(p>0.38)(図11Dを参照)。
【0217】
非空間記憶は、新しい物体認識(NOR)作業により評価した(図12Aを参照)。治療は、作業前の30分で行った。偽薬を投与したTs65Dnマウスは、正常なマウスに比べて記憶障害が見られた(p<0.05)。α5−IAでの治療後、Ts65Dnマウス及び正常なマウスのグループ両方で、同様な高い記憶力成績を示し(遺伝子型効果の欠如:p>0.99)、認識記憶はかなり増強された(p<0.001)。
【0218】
同時に、発明者らは、NOR作業の作業90分後に、fos前初期遺伝子産物の脳のマッピング分析を行った(図12B及び図13を参照)。正常なマウス及びα5IAで治療したTs65Dnマウスで、偽薬を投与したTs65Dnマウスに比べてfos免疫反応性の増加が見られた。特に、α5IAによるfos免疫反応性の増加は、α5サブユニットを含むGABAA受容体の低いレベルの発現のみを示す、歯状回を除く認識記憶(例えば、鼻周囲皮質)に関する異なる脳領域で見られた([ref 21])。
【0219】
本実験において、発明者らにより、α5IAを単独投与したTs65Dnマウスについて、NOR作業におけるマウスの認識能力が増強されることが示された。さらに、MWM作業の各訓練セッションにわたって繰り返しα5IAで治療することで、Ts65Dnマウスの異常な捜索行動を減少させることができ、正常なマウスと同等に一定の目標地点を見つけることを学習することができる。痙攣作用又は不安惹起作用を伴わないため、α5IAは、他のGABA系薬剤(GABAA拮抗薬)と比べて、より好ましい治療特性を備えており、実際、ヒトを対象に既に承認されている([ref 10])。
【0220】
(材料及び方法)
(a.動物)
マウスは、イントラジン・リソース・センター(Intragene resource centre)(TAAM, CNRS UPS44 Orleans, France)で産生されているものであり、コスタらにより報告されたもの([ref 24])と同様な機能的対立遺伝子Pd6bを持つ混合遺伝背景(B6C3<B>(1))で育てられており、それゆえに、人工繁殖マウスにおける網膜変性及び無分別表現型のマウスが含まれることを回避している。各実験に関して、繰り返される試験の影響がマウスに及ぶことを避けるために、野生型マウスの異なるコホートを使用した。マウスを一方の動物施設から他方の動物施設に輸送したときには、マウスの行動実験を開始するために、少なくとも2週間、新しい環境に順応させた。マウスの一般健康状態を定期的にチェックした。体重を実験期間中、毎週測定した。
【0221】
実験は全て、フランス及びヨーロッパの法規(European Communities Council Directive of 24 November 1986)における倫理基準に基づいて行った。本インビトロ研究の管理技師(B. Delatour)は、動物の実験及び研究を行うことについて、フランス農業省からの公的認可を受けている(認可番号No. 91-282)。
【0222】
(b.Gabra−5のリアルタイム定量的PCR)
Gabra−5遺伝子の発現について、9匹の正常なマウスと7匹のTs65Dnマウスに対するリアルタイム定量的PCR(qPCR)を用いて実験を行った。総RNAは切開した海馬から抽出し、ヌクレオスピンRNA(II)キット(Macherey-Nagel, France)を用いてデオキシリボヌクレアーゼにて処理した。海馬各々から抽出した500ngの総RNAは、それぞれ、バーソcDNAキット(ThermoFisher Scientific, Waltham, USA)を用いて、メーカーの取扱説明書に基づき、37℃で一晩かけてcDNAに逆転写した。その後、cDNAは、参照遺伝子としてGabra−5遺伝子及びpPib遺伝子(シクロフィリンB)のリアルタイムqPCR増幅のために1:20で希釈した(プローブファインダー・ソフトウエア(http://www.universalprobelibrary.com)により設計されたプライマー及びプローブ)。
【0223】
qPCR分析は、Lightcycler(登録商標)480システム(Roche)を用いて行った。即ち、qPCR分析は、200nMの各プライマー、100nMの特定の加水分解プローブ及び一つのLightcycler(登録商標)480の存在下で行った。
【0224】
プローブス・マスター・ミックス(Roche, France)に関して、各反応はメーカーの取扱説明書に基づいて行った。Gabra−5の標準化表示値(normalized expression values)は、Lightcycler(登録商標)480 SW 1.5ソフトウエアを用いて算出した。
【0225】
(c.統計分析)
行動のデータ及び形態のデータは、既知の変数に基づき、パラメトリック統計学を用いて分析した。多くの場合、データは、二つの要素(遺伝子型(正常vs.Ts65Dn)及び治療法(偽薬vs.α5IA))と共に、分散分析(ANOVA)を用いて分析を行った。統計的有意性については、p値を0.05未満に設定した。全ての分析は、Statistica v6(StatSoft, Inc., Tulsa, OK, USA)又はグラファパッド・プリズム(GraphPad Prism)(GraphPad Software, La Jolla, CA, USA)のソフトウエア・パッケージを用いて行った。
【0226】
結果を容易に示すために、ANOVA統計値はp値のみを用いて示している。
【0227】
図の説明で明確に説明されていない場合、従属変数は、平均値(SEM)である(平均値)±(標準誤差)としてグループ毎にプロットしている。
【0228】
〔実施例1:化合物α5IA(714A3)の合成〕
本明細書において、「室温」という用語は、20℃〜25℃の範囲内の温度を示している。
【0229】
化合物α5IA(714A3)は、化合物714A0から開始して四段階、35.3%の全収率で得られる。この四段階について以下に詳細に示す。
【化18】
【0230】
(段階1:化合物714A1の合成)
化合物714A0(1当量、9.96g、50.1mmol)を250mL丸底フラスコに導入した。マグネチックスターラーにより撹拌しながら106.4mLのエタノール(36当量、1.80mol)を加え、そして、4.8mL(0.5当量、0.03mol)の20%アンモニア水(水酸化アンモニウム)を加えた。この混合物を60℃に加熱した。次に、ヒドラジン一水和物(3.6当量、0.18mol、9.0g)を5分間かけて滴下した。こうして得られた混合物を10分間、加熱還流した(高粘度の混合物であり、撹拌が困難であった)。次にこの混合物を室温まで冷却した。この混合物をろ過し、フラスコを微量のエタノールで洗浄した。ろ紙を水、エタノール及びエーテルで洗浄した。乾燥後、黄色がかった白色固体である8.32gの化合物714A1が得られた。収率は86%となった。
【0231】
(段階2:化合物714A1’の合成)
CH2Cl2(1051.6mL、383当量、16.34mol)、化合物714C0(5.4g、1当量、0.04mol)、次に、トリエチルアミン(11.8mL、2当量、0.09mol)を、機械撹拌しながら、アルゴン雰囲気下で、2Lの反応装置内に導入した。こうして得られた混合物を撹拌しながら0℃に冷却し、次に、ビス(2−オキソ−3−オキサゾリジニル)ホスフィン酸クロリド(BOP−Cl、10.9g、1当量、0.04mol)を加えた。この温度で45分間撹拌した後、化合物714A1(8.3g、1当量、42.7mmol)を導入した。この混合物を0℃で2時間撹拌し、さらに、一晩中室温で撹拌した。この混合物を蒸発濃縮し、水で処理し、そして、濾過した。こうして得られた固体を水で二度洗浄し、次に、エタノールと共にロータリー・エバポレーターで乾燥させた。この固体をペンタンで処理及び洗浄し、黄色固体(m=12.4g)である化合物714A1’を得た。収率は96%となった。
【0232】
(段階3:化合物714A2の合成)
トリエチルアミン塩酸塩(2.5g、0.4当量、0.02mol)、キシレン(601.2mL、119当量、4.87mol)、次に、化合物714A1’(12.4g、1当量、40.9mmol)を、マグネチックスターラーにより撹拌しながら、1Lの三口丸底フラスコに導入した。こうして得られた混合物を3時間、加熱還流し、そして、一晩中室温で撹拌した。こうして得られた懸濁液を均質な混合物とするために、懸濁液にDCM(CH2Cl2)を加えた。この有機相を水で洗い、MgSO4を通して乾燥し、ろ過し、そして、溶媒を蒸発させた。この残留物をペンタンで処理し、8.39gの黄色固体を得た。この固体をDCM/H2O抽出処理した。通常の処理後、化合物714A2を黄色固体(7.1g)として得た。収率は61%となった。
【0233】
(段階4:化合物α5IA(714A3)の合成)
(a.試薬714B3の合成)
化合物714B3は、化合物714B0から開始して三段階、17.6%の全収率で得られる。この三段階について以下に詳細に示す。
【0234】
(化合物714B1の合成)
化合物714B0(24.9mL、1当量、0.298mol)及び(CH3)3SiN3をマグネチックスターラーにより撹拌しながら、1Lの圧力釜(オートクレーブ)に導入した。こうして得られた混合物を105℃で90時間加熱した。この混合物を0℃まで冷却し、次に、36mLのメタノールを滴下した。この混合物を45分間室温で撹拌し、そして、20mLのエーテルを加えた。固体をろ過し、エーテルで洗浄し、ペンタンで洗浄し、そして、乾燥し、黄色がかった白色の固体(37.36g)を得た。この固体を80mLのメタノールで処理し、こうして得られた混合物を加熱還流し(可溶化し)、次に、エーテルを濁った溶液となるまで添加した。この混合物を2時間、撹拌することもなく及び加熱することもなく静置した。こうして得られた懸濁液をろ過し、エーテルで洗浄し、白色固体である化合物714B1を得た(28g+9g(2ロット目))。収率は98%となった。
【0235】
(化合物714B2の合成)
化合物714B1(27g、1当量、0.213mol)、次に、DMF(434.8mL、26.3当量、5.59mol)を、機械撹拌しながら、500mLの反応装置に導入した。こうして得られた混合物を、0℃に冷却した。K2CO3(35.21g、1.2当量、0.255mol)を少しずつ加え、そして、CH3I(31.7g、1.05当量、0.223mol)を滴下した。この混合物を0℃で一時間撹拌し、そして、室温で一晩中撹拌した。溶媒を蒸発させ、残留物を水で処理し、CH2Cl2で抽出した。乾燥させ、溶媒を蒸発させた後、固形物をCH2Cl2で処理した。有機相を水で洗浄し、水相をCH2Cl2で再抽出した。有機相を合わせてMgSO4を通して乾燥し、ろ過し、そして、溶媒を蒸発させた。こうして得られた油分をエーテルで処理し、そうすることで得られる固体をろ過し、エーテルで洗浄し、白色固体である6.98gの化合物714B2を得た。収率は23%となった。
【0236】
(化合物714B3の合成)
化合物714B2(6.98g、1当量、49.5mmol)及びTHF(テトラヒドロフラン、81.1mL、20当量、0.99mol)を機械撹拌しながら、250mLの反応装置に導入した。こうして得られた混合物を0℃まで冷却した。LAH(水素化アルミニウムリチウム(LiAlH4)、1.9g、1当量、0.05mol)をゆっくり加えた。この混合物を0℃で30分間撹拌し、そして、室温で二時間撹拌した。この混合物を0℃まで冷却し、そして、2mLの水、2mLの15%水酸化ナトリウム水溶液、さらに、6mLの水を用いて加水分解した。室温で一時間撹拌後、この混合物をろ過し、塩をTHFで洗浄し、そして、溶媒を蒸発させた。この残留物をCH2Cl2で処理し、MgSO4を通して乾燥し、ろ過し、そして、溶媒を蒸発させ、結晶性の油分として4.34gの化合物714B3を得た。収率は78%となった。
【0237】
(b.化合物714A2と試薬714B3との反応)
試薬714B3(2.8g、1当量、0.02mol)、次に、DMF(ジメチルホルムアミド、665.2mL、344当量、8.55mol)を、機械撹拌しながら、2Lの反応装置に導入した。こうして得られた混合物を、−10℃に冷却した。LiHMDS(ヘキサメチルジシラジドリチウム 1.06Mテトラヒドロフラン溶液、26.9mL、1.1当量、0.03mol)を10分間かけて滴下した。この混合物を−10℃で50分間撹拌した。90.9mLのDMF(47当量、1.17mol)に溶解した化合物714A2(7.1g、1当量、24.9mmol)を、上記の混合物に対してすばやく滴下した。この混合物を室温で一晩中撹拌し、そして、水(450mL、発熱)を用いて加水分解した。こうして得られた懸濁液をろ過し、水で洗浄した。こうして得られたろ過脱水物(filter cake)をロータリー・エバポレーターで乾燥した(白色粉末:7.4g)。CHCl3により固体の再結晶を試みたが失敗した。上記の残留物をシリカゲルクロマトグラフィにより精製し(溶出液:DCM/AcOEt:5/5→DCM/CH3OH:85/15)、白色固体(6.3g)として化合物α5IA(714A3)を得た。収率は70%となった。
【0238】
〔実施例2:Ts65Dnマウスにおけるα5IAの効果−物体認識作業〕
試験の手順は、フェルナンデスらによる試験方法を改良したものである。学習能力及び記憶力を研究するために用いられる物体認識作業の手順は、初め存在する物体から物体を変更するまでの間の10分間で行われる。正常なマウスとTs65Dnマウスについて、α5IAを投与して試験を行い、又は投与せずに試験を行った。黒色の四角形のアリーナ(50×50cm)を備える装置は、弱い制御光度(4〜6Lux)及び一定の60dB白色雑音下の室内に設置した。一日目、全てのマウス(16匹の正常なマウス及び16匹のTs65Dnマウス)に対して、ヒトと接触することに慣らせるために、動物施設の実験者が、2回×3分間触れた。二日目において、マウスを、装置及び試験室に慣らせるために、20分間、空のアリーナに置いた。三日目において、四つの同一の物体を、側壁から14cmのアリーナの隅に対称的に設置した。マウスを20分間置き、上記の物体を探させた。試験日(四日目)において、行動セッションの前に、マウスに偽薬又はα5IA製剤のどちらかを腹腔に注射した(各グループ8匹の正常なマウスと8匹のTs65Dnマウス)。注射後30分、ネズミを二つの同一の物体を備えた実験装置内に置き、10分間物体を探させた。この習得段階の後、10分間の記憶休憩の間、マウスをホームケージ内に戻した。短期認識記憶を試験するために、一つの見慣れた物体(例えば、習得ステップでの一つの物体)及び一つの新しい物体を装置内に設置し、マウスを二回、試験室内に10分間置き、物体を捜索させた。各トライアルの間で、嗅覚的目印を減らすために、物体は度数70のエタノールでクリーニングした。
【0239】
オープンフィールド・セッションの間、ビデオ行動解析システム(Any−Maze(登録商標))を用いてマウスをモニタリングした。物体捜索について、動物行動学用キーボードを用いて手動で得点し、6cm未満の距離で物体にマウスの鼻が向いている状態として定義した。マウスが物体上に乗っている状態については物体捜索として見なさなかった。
【0240】
記憶段階の間、見慣れた物体vs(対)新しい物体を捜索する時間の割合は、記憶成績を分析することにより計算した(二種の物体の捜索時間が等しいということに相当する50%の得点は、物体記憶が無いことを示している)。記憶成績の分析を妨げる、記憶試験(t<7秒)の間の異常に低い値の物体捜索を示した一匹の正常なマウス及び二匹のTs65Dnマウスを統計分析から排除したということに注意するべきである。残りのマウスは、長時間の物体捜索時間を費やした(±SEM=77±12.9秒を意味している)。
【0241】
判別比は下記の式を用いて計算した。
【0242】
【数1】
【0243】
ベンゾジアゼピン受容体のGABAA α5受容体サブタイプに対する機能的選択的な逆作用薬α5IAの、ダウン症のマウスモデルに対する効果は、Ts65Dnマウスを用いることで調べた。評価において、Ts65Dnマウス及び野生型のマウスについて、新しい物体認識に関する試験を行った。α5IAで治療したTs65Dnマウスでは、偽薬を投与した野生型マウスに比べて標準以上の物体認識成績を示した。α5IAで治療したTs65Dnマウスでは、α5IAで治療した野生型のマウスと同様な物体認識成績となった。
【0244】
〔実施例3:Ts65Dnマウスにおけるα5IAの痙攣性又は痙攣誘発性の影響〕
(β−CCM及びα5IAの比較)
α5IA又はベータCCMの痙攣作用については、50mg/kg又は3mg/kgのα5IA又はベータCCMを、各々、単独で腹腔注射した後に評価した。50mg/kgのα5IAの投与量は、プロンネシアント(promnesiant)効果を伴う10回分の投与量、及び、物体認識試験における10回分の投与量に相当した(5mg/kg)。
【0245】
α5IAの痙攣誘発作用の試験に関して、約50%のマウスで間代性筋痙攣症を引き起こすペンチレンテトラゾールの痙攣性を示さない(sub-convulsant)投与量(45mg/kg(腹腔投与))を、α5IA(50mg/kg)又は偽薬を注射した20分後に、腹腔注射した。
【0246】
α5IAの痙攣誘発作用は、ペンチレンテトラゾールの痙攣性を示さない(sub-convulsant)投与量を注射後に測定した。マウスに、媒体又はα5IA(50mg/kg(腹腔投与))のどちらかを投与し、20分後、45mg/kgのペンチレンテトラゾールを腹腔注射した。動物を20分間(痙攣作用)又は50分間(痙攣誘発作用)観察した。そこで、一回目の間代性筋痙攣運動発作の発生及び潜在期間を記録した。各条件で6又は7匹のマウスが用いられた。間代性筋痙攣運動発作の潜在期間及び痙攣のグレードは、1200秒間、観察し記録した。実験的に四つのグレードを決定した(グレード0は痙攣作用なし;グレード1は尾を引いて曲げた;グレード2は尾の背面への裏返し、痙攣性の震え;グレード3は間代性筋痙攣)。
【0247】
正常なマウス又はTs65Dnマウスのどちらにおいても、注射後どんな痙攣作用も見られなかった(表1参照)。次に、発明者らは、約50%のマウスで間代性筋痙攣症を引き起こすペンチレンテトラゾールの痙攣性を示さない(sub-convulsant)投与量(45mg/kg)を投与する20分前に、α5IA(50mg/kg)を注射することにより、α5IAの痙攣誘発作用を試験した。正常なマウス又はTs65Dnマウスのどちらにおいても、α5IAの注射により、ペンチレンテトラゾールの痙攣活性は増強しなかった。
【0248】
【表1】
【0249】
α5IA(50mg/kg)は、正常なマウス又はTs65Dnマウスのどちらにおいても、痙攣作用を促進しなかった。また、正常なマウス又はTs65Dnマウスのどちらにおいても、α5IAの薬剤は、ペンチレンテトラゾール(45mg/kg)の痙攣活性を緩和しなかった。
【0250】
〔実施例4:活性原料としてα5IAを含む改良型の薬学的組成物〕
α5IAの異なる製剤のマウスへの腹腔投与の効果を比較する。
【0251】
α5IA(PEG300/NaCl 0.9%(7/3))、α5IA(DMSO/Cremophor EL/水(10/15/75))、及び、α5IA塩酸塩(DMSO/Cremophor EL/水(10/15/75))の製剤の物理的性質について、粘度(流動性(0)から非常に高い粘性(+++)まで)、巨視的特徴(溶液か懸濁液か)、結晶数(高密度(+)又は非常に高い密度(++))及び結晶のサイズに関して評価した。製剤の生物学的影響は、運動機能障害(運動機能への影響なし(0)−運動能の重大な減少(++))及び250μL単体投与後の死亡率に関して定量化した。
【0252】
【表2】
【0253】
〔実施例4:α5IAの用量作用の影響〕
α5IAの最適な用量(投与量)を決定するために、遅延マッチング・トゥ・プレイス作業(DMTP)で、薬剤(とりわけGABAA α5逆作用薬)のプロンネシアント効果を分析するための古典的な学習能力及び記憶力のパラダイムに基づき訓練した正常なマウスを用いて、用量作用の実験を行った([ref 8, 9, 11])。
【0254】
実験はモリス水迷路(MWM)で行った。この迷路は、19℃に維持された不透明な水で満たされた直径150cmのプールであって、水面下1cmに沈められた直径9cmのプラットフォームが備えられている。合計27匹のマウスが用いられた。動物はランダムに等しく三つのグループ(偽薬、α5IA 1mg/kg、α5IA 5mg/kg)に分配された。訓練は7日間行われた。動物には1セッション当たり4トライアルが課せられ、隠されたプラットフォームの位置は、図5aに示すように毎日変更したが、各セッションでは変更しなかった。行動実験の開始30分前に、マウスに偽薬又はα5IAを注射した。各トライアルに関して、マウスを、ランダムなスタート地点からプールに解放し、プラットフォームに到達するまで泳ぎ回らせた。最大のトライアルの長さを90秒間とし、その後、マウスを手動でプラットフォームに導いた。一旦、プラットフォームに到達すると、動物に30秒間の休憩を与えてから、ホームケージ内に戻した。30秒間のトライアル間隔の終了後に、改めて、マウスを新たなスタート地点を用いた次のトライアルのためにタンク内に導入した。これを四回のトライアルが終了するまで繰り返した。記憶力の評価は、一回目のトライアルでプラットフォームに到達するまでの距離と(習得トライアル)、次のトライアルで移動した平均距離とを比較することにより決定された(記憶トライアル)。
【0255】
〔実施例5:自発運動性〕
自発運動性は、総計33匹のマウスで注射してから30分後に評価した(偽薬注射(正常マウス8匹及びTs65Dnマウス7匹)、α5IA(5mg/kg)注射(正常マウス10匹及びTs65Dnマウス8匹))。運動性は、高さ30cmの黒い壁を備えた正方形のオープンフィールド(50cm×50cm、光度30lux)で測定した。簡潔に、各動物をアリーナの中心に置き、10分間自由に探検させた。水平運動性は、何れかの迷路ソフトウエア(Any-Maze software)を用いてモニタリングした。10cm幅の辺縁部での滞在時間及び30cm×30cm中心部での残りの滞在時間を記録し、不安を評価した。
【0256】
〔実施例6:不安に関する行動実験〕
α5IAによる不安に関する行動の変化は、総計42匹のマウスで注射してから30分後に、高架式十字迷路を用いてより正確に評価した(偽薬注射(正常マウス11匹及びTs65Dnマウス7匹)、α5IA(15mg/kg)注射(正常マウス14匹及びTs65Dnマウス10匹))。上記迷路は、対向する二つの開放腕部を備えた黒色のパースペクス(perspex)(長さ28cm、幅5cm、床からの高さ40cm、開放腕部の全体光度70lux)と、高さ16cmの壁を三方に備えた二つの封鎖腕部とにより構成されている。マウスを迷路の中央部に置き、何れかの迷路ソフトウエアを用いて、迷路の異なる部分(例えば開放腕部及び封鎖腕部)で費やした時間を自動的に算出することにより、マウスの行動を5分間記録した。
【0257】
長期的なα5IA(5mg/kg)の注射の潜在的困難性を調べるために、他のグループの正常なマウスを2週間治療した(5回注射/1週間、5匹のα5IA治療マウス、5匹の偽薬治療マウス)。反復治療後、上記のマウスを上述の高架式十字迷路で評価した。
【0258】
〔実施例7:α5IAでの長期治療後の解剖病理学〕
α5IAでの2週間の治療及び高架式十字迷路での実験を行ったマウスに対して、さらに、3週間の治療を行った。治療最終日に、尿サンプルを、α5IA又は偽薬を腹腔投与してから2時間後に採取した。尿サンプルは分析前に、−20℃で保存した。後日、マウスにペントバルビタール・ナトリウムの過剰量を腹腔投与した。深く麻酔をかけたマウスに対して、心臓内散布によりPBSフラッシュを与えた。解剖病理学試験に関して、追加の三匹の何も投与していないマウスも殺した。肝臓、腎臓、脳及び脾臓を解剖し、10%ホルマリン溶液に固定した。そして、組織をパラフィンに漬け、ミクロトームを用いてカット(5μmの厚さの切片)し、組織病理学的評価の手順で処理した(ヘマテイン・エオシン及び過ヨウ素酸シッフ染色)。
【0259】
〔実施例8:モリス水迷路(MWM)〕
空間参照記憶(Spatial reference memory)を、標準的なモリス水迷路作業を用いて評価した。モリス水迷路は上述の迷路と同様である(α5IA投薬作用評価のためのモリス水迷路と同様)。プラットフォームは、プールの四分円のうち、一つの中心であって水面下1cmの所に沈められている。空間的他者中心性訓練(spatial allocentric training)の間、見えないプラットフォームは、トライアルを通じて一定の位置のままとし、トライアルを多くの空間認識地図の作成を促す外的視覚指数を用いて行った。
【0260】
総計で32匹のマウスを用いた(16匹の正常なマウス及び16匹のTs65Dnマウス)。動物を四つのグループにランダムに等しく分配した。毎日、行動試験の開始30分前に、マウスに対して偽薬又はα5IA(5mg/kg)を注射した。
【0261】
一日目において、見えないプラットフォームを用いて単独の習慣トライアルを受けさせた。続く六日間では、一日1セッション(1セッション当たり2トライアル)からなる空間的他者中心性訓練を行った。開始地点は、四つの基本地点間で擬似ランダム的に変化させた。トライアル間隔の平均時間は二時間とした。習慣訓練及び空間訓練段階の各トライアルは、動物がプラットフォームに到達したときに終了とした。90秒間で中断することとし、その後は、マウスを手動でプラットフォームまで導いた。一旦、プラットフォームに到達すると、動物を20秒間休憩させ、ケージに移した。最後の訓練セッションの24時間後に、触覚試適が行われ(8日目)、その間、プラットフォームは除去され、マウスを60秒間自由に泳がせた。
【0262】
空間的学習能力及び記憶力の評価の後に、マウスの視覚的能力を、非空間的手段を用いて制御した。プラットフォームの場所は、水上12cmに設置された白色スチレン・ボールを直接的な目印とし、外部へのアクセスは、プール周りの黒色のカーテンで遮った。視覚案内ナビゲーション作業(visually guided navigation task)の試験は、上述したように、一日1回のセッション4回を四日間連続で行った。
【0263】
全てのデータは、ビデオ行動解析システム(Ethovision, Noldus, Wageningen, The Netherlands)を用いて収集、分析及び保存を行った。
【0264】
迷路中にて異常な浮遊行動及び泳ぐ速度の減少が見られたため、Ts65Dnマウス1匹を統計分析から除外したということに注意するべきである。触覚試適では、1匹の追加の(正常な)マウスを、同じ理由で分析から除外した。
【0265】
〔実施例9:脳のfos免疫反応性の測定〕
α5IAの作用機序を、物体認識作業(新しい環境の探索)に基づき、マウスにおけるfosタンパク質の生産量を測定することにより、ニューロン活性を計測することによって調べた。
【0266】
上記のfosタンパク質(転写調節因子)は、内部刺激又は外部刺激により活性化するニューロン集合体のレベルで、脳内にて局所的に且つ急速に合成されることが知られている。特に、多くの文献のデータには、fosタンパク質をコードしているc−fos遺伝子が、学習中において、位置特異的に動物において発現するということが示されている。c−fos発現地図は、学習の形態により変化し、マーカーが特異的に強調される。
【0267】
ベースラインでは、c−fosの発現は、CNS全体にわたって低い。c−fosの発現は、刺激により急激に増加し、及び、誘発剤に従う特定の脳領域で特定の方法により急激に増加する。fosタンパク質は、従来の免疫組織化学により決定され、結果的に核がマーキングされる。fosタンパク質の最大濃度は、刺激してからおよそ2時間後で、その後、減少する(Hoffman et al., 1993)。
【0268】
用いた手順には、マウスを治療すること(偽薬又は薬剤)が含まれた。30分後、マウスに新しい環境(動物が自発的に情報を取得及び蓄積する状況)を捜索させた。この行動シミュレーションによりc−fos遺伝子を活性化し、そして、この遺伝子の発現産物(fosタンパク質)を免疫組織化学により検出し、専用の画像解析ソフトウエアを用いて定量した。
【0269】
本実験では、四つの脳領域を調べた。
【0270】
一つは、海馬のCA1フィールド(CA1)である。
【0271】
一つは、海馬の歯状回(GD)である。
【0272】
一つは、後部の帯状模様のある皮質(レトロ板状粒状皮質(cortical retrosplenial granular)(RSG))である。
【0273】
一つは、鼻周囲皮質(PRH)である。
【0274】
上記の四つの脳領域は、知覚情報及びその記憶の処理メカニズムに関与している。
【0275】
正常なマウス(n=13)及びTs65Dnマウス(n=6)に対して、NOR作業で示したような同様な手順を用いて、記憶段階が無い、物体認識作業で擬似的訓練を行った。獲得30分前に、6匹の正常なマウス及び3匹のTs65Dnマウスにα5IA(5mg/kg)を腹腔注射した。残りの動物(7匹の正常なマウス及び3匹のTs65Dnマウス)には偽薬を注射した。オープンフィールド・セッションの後に、マウスをホームケージに戻した。行動刺激の90分後に、マウスを過剰のペントバルビタール・ナトリウムにより殺し、PBSを心臓内に散布した。脳を摘出し、一週間、10%ホルマリン溶液に固定した。凍結保護後、脳を凍結ミクロトーム上で切断した(40μmの前方の連続的な切片)。
【0276】
一つの連続的な切片に免疫検出処理をした。自由に浮遊する切片は、8℃で48時間、主要な反fos抗体(ポリコロナールAB−5、1:10000希釈(Calbiochem-VWR, France))を用いて培養した。続く工程は、1)二次的なビオチン化されたヤギの反ウサギ抗体(Sigma, France, 1:200)を用いた培養、2)アビディン・ビオチン・ペルオキシダーゼ(ABC Vectastain standard kit, Vector Laboratories, Burlingame, USA, 1:400)との反応、3)灰色/黒色の沈殿を形成するニッケル強化ジアミノベンジジン(Ni−DAB)との反応、である。Ni−DABでの培養時間は、全てのマウスで同一とした。
【0277】
画像解析は次のように行った。関係する領域(ROIs)は、オリンパスBX61顕微鏡(×10 objective)を用いて撮影し、fos免疫染色は、fos染色反応性を公平に立体解析測定ができる、fos染色組織の割合(p=着色した領域/全領域)を自動的に計算する、専用の画像解析処理ソフトを用いて定量した。ROIsの四箇所を分析した(後部の帯状模様のある皮質、鼻周囲皮質、海馬の歯状回及びCA1フィールド)。各ROIをいくつかの連続的な切片としてサンプリングし、そして、結果として、平均化し、信頼できる局所的fos免疫染色の定量的評価を与える。
【0278】
〔実施例10:薄膜の調製及び結合分析〕
GABAA受容体サブタイプに対する化合物の親和性は、ラット(安定してトランスフェクトされた)又はヒト(一時的にトランスフェクトされた)のα1β3γ2、α2β3γ2、α3β3γ2及びα5β3γ2の構成の受容体で発現するHEK293細胞と結合する[3H]フルマゼニル(85 Ci/mmol; Roche)についての競争に基づいて測定してもよい。
【0279】
細胞ペレットを、クレブス−トリス緩衝液(4.8mM KCl、1.2mM CaCl2、1.2mM MgCl2、120mM NaCl、15mM トリス;pH7.5、結合分析用バッファー)中で懸濁し、氷上で約20秒間、ポリトロンにより均質化し、4℃で60分間、遠心分離にかけた(50000 g; Sorvall, rotor: SM24=20000 rpm)。細胞ペレットをクレブス・トリス緩衝液中に再懸濁し、そして、氷上で約15秒間、ポリトロンにより均質化した。タンパク質を測定し(ブラッドフォード法、バイオラド)、1mLに均等に分配し、−80℃で保存した。
【0280】
放射性リガンド結合分析を、100μLの細胞薄膜、α1、α2、α3サブユニットに対する1nMの濃度の[3H]フルマゼニル及びα5サブユニットに対する0.5nMの濃度の[3H]フルマゼニル、並びに、10−10M〜3×10−6Mの範囲内の試験化合物、を含む200μL(96-well plates)の量を用いて実行した。非特異的結合は、10−5Mのジアゼパムにより規定されてもよく、典型的には、全ての結合の5%未満に相当してもよい。分析物を、4℃、1時間の平衡下で培養し、パッカード回収装置(Packard harvester)を用いてろ過してGF/C単一フィルター(パッカード)上に回収し、氷で冷却した洗浄緩衝液(50mM トリス;pH7.5)を用いて洗浄した。乾燥後、フィルターに保持された放射能を、液体シンチレーション計数法により検出してもよい。Kiの数値は、エクセル・フィット(Excel-Fit)(Microsoft)を用いて計算してもよく、二つの測定平均である。
【0281】
(図8の注釈:α5IAの溶解性及び腎臓毒性)
これまでに研究で、α5IAが、専ら、主に尿及び糞中のヒドロキシメチル・イソオキサゾール代謝物M1に代謝されることが示された([ref 25])。M1は、室温で水や尿への溶解性に乏しいものの、37℃では尿への溶解性が増加する。MWM試験でのラットに対するα5IAの効果的なプロンネシアント用量は3mg/kgである(実施例3〜5参照)。この用量は、2時間後に80%の受容体を占める量に相当し、8時間後に60%を占める量に相当する([ref 25])。5週間で上記の用量の100倍近い(240mg/kg)用量でラットを治療した後に行われた研究では、M1化合物の低い溶解性が報告された([ref 26])。上記の研究によれば、ラットの治療中、結晶の形成による腎臓の腎盂炎及び乳頭炎を誘導することが報告された。しかし、薬理的用量(5mg/kg)のα5IAでの長期的な治療後において、発明者らにより、治療したマウスの異なった組織においていかなる組織的異常も、尿において異常な結晶の形成も、見出されなかった(図8参照)。さらに、尿中でのM1の飽和濃度範囲の決定は、尿に固体のM1(3mg)を添加することにより行われた([ref 25, 26])。しかし、この方法では、末梢投与(経口吸収)後の、尿中の、α5IAの濃度及びそのM1代謝物の濃度を実験することができない。M1が低い溶解性であるということは、M1の尿への溶解する割合はごく僅かであるということである。
【0282】
非常に高い用量で低い溶解性を示したものの、α5IAは、若い患者や、やや歳をとった患者で十分に許容できるように思われる([ref 25])。これまでに、臨床研究で投与した用量及びα5IAでの治療期間に関する情報がもたらされた([ref 26])。4mgの単独経口投与でのアルコール依存症の臨床実験が、ナットらにより行われた([ref 10])。
【0283】
α5IAを用いたダウン症臨床実験に関して、同一のタイプの手順が適用可能である。また、一方、α5−GABAA受容体に対して特異的に逆作用性を示す新しく開発された分子は、本発明において適切であり、特に、上記分子の人間に対する無毒性が試験されれば、すぐに適合できる。
【0284】
(図9及び図10の注釈:正常なマウス及びTs65Dnマウスでの学習能力及び記憶力に関するα5IAの活性範囲)
α5IAによるTs65Dnマウスにおける学習能力障害の回復が、特に明確であるように思われる。従って、α5IAの認識機能障害の打ち消しは、MWM試験(図9)で変化する感覚機能、又は、物体捜索の潜在的なレベルがNORの習得及び試験段階(ps>0.36)の間で二つの遺伝子型で類似しているようなNOR作業での物体捜索の低下する自発性のどちらにも起因しない。このことは、主として、α5IAが、治療するマウスにおいて、認識機能増強剤として働くことを強調している。MWMの低い認識要求性の手がかりバージョンでは、発明者らは、α5IAの如何なる効果も見出せなかった(図8参照:p>0.16)。そのようなことから、α5IAが、複雑な認識機能のみを目標としているという仮説が強まってきた。
【0285】
MWM試験では、発明者らにより、プールの10cm幅の辺縁部での滞在時間でα5IAの強い効果が見出された。この不適切な走触性の行動は、α5IAでの治療後に、大幅に減少した(図10)。この効果はTs65Dnマウス(p<0.001)で有意義であるが、正常なマウス(p=0.06)での統計的有意性は見出せず、これはおそらく、Ts65Dnマウスが、正常なマウスに比べて走触性の基本レベルが全体的に増加していることを示す(p<0.0001)という事実に起因している。α5IAは、学習能力を直接増強し、それにより、不適切な問題解決戦略(例えば走触性)の使用が減少し得る。或いは、この作用は、何よりも、習得行動における間接的なプラス効果を持つ不適切な獲得行動の軽減に基づき得る。
【0286】
Ts65Dnマウスの治療効果に加えて、α5IAは、正常なマウスにおいてもプロンネシアント効果を示した。α5IAでの治療後のNOR試験で正常なマウスの成績が有意義に増強した。
【0287】
DMTP試験とは反対に、MWM試験では、動物は、トライアルにわたって、又は、一日中、不変のゴール位置を徐々に記憶しなければならない。特に、この空間参照記憶力のパラダイムにおいて、発明者らは、α5IAが明確にTs65Dnマウスの成績を促進したという点に着目した。しかし、発明者らは、対照の正常なマウスの学習成績でα5IAの有意義なプロンネシアント効果を見出すことができなかった。このことは、もしかすると、α5IAプロンネシアント特性は、作業内容と遺伝子型の両方に依存しているということなのかも知れない。しかし、このことは、他の低選択性α5 GABAA逆作用薬(L-655,708)、又は、GABAA非選択的拮抗薬(ペンチレンテトラゾール)を用いたGABA系阻害作用により、認識障害の標準の野生型げっ歯類においてすらも、参照記憶水迷路試験での習得を容易にすることができるという他の研究結果のデータと一致している。
【0288】
最後に、本発明者らは、ナビゲーション作業の触覚試適における長期(24時間)的な空間記憶の回復に対する、α5IAの効果を評価した。その結果(本発明者らが見出した結果)、α5IAでは、正常なマウス及びTs65Dnマウスのどちらにおいても記憶成績を有意義に増加せず、後者の動物(Ts65Dnマウス)では、偽薬又は薬剤治療の後においても同じように認識機能障害が残ったままとなるということが示された。α5IA治療Ts65Dnマウスでは、セッションにわたって学習の習熟度が標準的な成績へ次第に増加する一方で、触覚試適でのプールの記憶成績による評価として、ゴール地点を適切に示すということが見られなかった。本発明者らが見出した結果では、α5IAが、主に、情報習得間に向知性作用を及ぼすものの、既に形成された記憶を正確に回復することに対する刺激という点ではあまり効果が見られなかった。一方で、いくつかの状態で、α5 GABAA逆作用薬が、空間記憶の習得及び回復の両方を改善し得る。しかしながら、上記の結論は、触覚試適で通常行われるときの、長期(少なくとも24時間)的な呼び戻しを完全に見出せない、短い記憶間隔(15〜180分間)に基づく記憶パラダイムから得られる。本発明者らが見出した結果から、α5 GABAA逆作用薬は、Ts65Dnマウスで学習成績を向上させ、学習能力障害でさえ緩和するという結果となった。しかしながら、長期記憶の回復の活性についてはより疑わしくなり、及び/又は、ひょっとすると作業内容に依存しているのかも知れないという結果となった。
【0289】
本発明者らは、本発明についての多くの実施形態を示したが、本発明者らが示した基本的な実施例は、本発明に係る化合物及び方法を利用する他の実施形態を示すために変更してもよいということは明確である。従って、本発明に係る範囲は、実施例経由で示された特定の実施形態により定義されるのではなく、添付した特許請求の範囲により定義されるということが理解され得る。
【0290】
〔参考文献一覧〕
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[Ref 35] US 2006/0084642
[Ref 36] WO 96/25948
【図面の簡単な説明】
【0291】
【図1】図1aは、スターンフェルドらの方法により調製されるトリアゾロフタラジンα5−IAの構造を示す化学構造式である。図1bは、CDCl3中におけるα5−IAの500MHz 1H NMRスペクトルである。図1cは、GABAA受容体のベンゾジアゼピン認識部位に関するα5IAのインビトロ・アフィニティの実験結果と、比較対照としての、ジアゼパムのインビトロ・アフィニティの実験結果とを示す表である。
【図2】Gabra5の遺伝子発現がTs65Dnマウスにおいて不変であるということを示すグラフである。
【図3】物体認識試験によるTs65Dnマウスに対するα5IAの治療効果の結果を示すグラフである。
【図4】α5IAの異なる製剤のマウスに対する投与の効果に関する比較実験の結果を示すグラフ(説明図を含む)である。
【図5】図5aは、DMTPプロトコル(手順)の略図である。図5bは、習得トライアルと記憶トライアルとの間のマウスの成績を示すグラフである。
【図6】α5IAの不安に関する行動実験の結果を示すグラフである。
【図7】図7a、図7bは、オープンフィールドにおけるTs65Dnマウスと正常なマウスの、移動運動とα5IAの不安の実験結果を示すグラフである。
【図8】継続的な治療後のα5IAによる組織損傷の実験結果を示す画像である。
【図9】Ts65Dnマウスの空間機能障害(spatial impairment)実験の結果を示すグラフである。
【図10】モリス水迷路の実験結果を示すグラフである。
【図11A】マウスが、水タンクの中で進行し、不可視のプラットフォーム(D1〜6)に到達することを学んだことを示す説明図である。
【図11B】3日間の2ブロックで組み合わせた学習成績のデータを示すグラフである。
【図11C】Ts65Dnマウスにおいて、α5−IAの治療後に障害が後退する(reversed)ことを示すグラフである。
【図11D】正常なマウスのみで、触覚試適の間、プラットフォームの対象の四分円で、空間的偏りが見られたことを示すグラフである。
【図12A】物体認識作業を訓練した場合、Ts65Dnマウスが記憶障害を示したことを示すグラフ(説明図を含む)である。
【図12B】正常な同腹子に治療を施したマウスから得られる数値に対して、標準化されたα5IA治療マウスにおける免疫反応性の相対的な増加を示すグラフである。
【図13】新しい物体認識作業の間でのα5IAのニューロン活性の実験結果を示す図である。
【図14】図13の実験から得られる結果をまとめた表である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダウン症患者の重篤な認識機能障害の治療又は緩和のための薬剤として用いるための、α5サブユニットを有するGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を備える化合物であって、
以下の化学式における一つの構造を有する化合物又はその生理学的に許容できる塩若しくはそれらのプロドラッグであることを特徴とする化合物。
【化1】
【請求項2】
薬学的組成物として、経口投与、バッカル投与又は舌下投与されることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
タブレット、カプセル、ゲルカプセル、カプレット又は溶液若しくは懸濁液の形態として投与されることを特徴とする請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
非経口製剤として投与されることを特徴とする請求項1〜3のうち何れか一項に記載の化合物。
【請求項5】
上記非経口製剤が静脈注射されるための製剤であることを特徴とする請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
発作を引き起こさない量であることを特徴とする請求項1〜5のうち何れか一項に記載の化合物。
【請求項7】
記憶力増進作用、学習能力増進作用又はその両方の作用を生み出すための有効量であることを特徴とする請求項1〜6のうち何れか一項に記載の化合物。
【請求項8】
ダウン症に関連する病気又は疾病を治療するための薬剤として用いられるための追加の治療薬との組み合わせで用いられることを特徴とする請求項1〜7のうち何れか一項に記載の化合物。
【請求項9】
ダウン症患者の重篤な認識機能障害の治療又は緩和のための薬剤を調製するための、α5サブユニットを有するGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を備える化合物の使用方法であって、
以下の化学式における一つの構造を有する化合物又はその生理学的に許容できる塩若しくはそれらのプロドラッグであることを特徴とする化合物の使用方法。
【化2】
【請求項10】
添加物としての界面活性剤及び溶媒としてのジメチルスルホキシドと共に、有効量の、α5サブユニットを有するGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を備える化合物を含む、ダウン症患者の重篤な認識機能障害を治療又は緩和するために用いられる薬学的組成物であって、
以下の化学式における一つの構造を有する化合物又はその生理学的に許容できる塩若しくはそれらのプロドラッグであることを特徴とする薬学的組成物。
【化3】
【請求項11】
上記化合物が、以下の化学式における一つの構造を有する化合物の塩酸塩であることを特徴とする請求項10に記載の薬学的組成物。
【化4】
【請求項12】
ゲルカプセル又は溶液若しくは懸濁液の形態であることを特徴とする請求項10又は11に記載の薬学的組成物。
【請求項13】
非経口製剤であることを特徴とする請求項10〜12のうち何れか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項14】
上記非経口製剤が静脈注射されるための製剤であることを特徴とする請求項13に記載の薬学的組成物。
【請求項15】
上記化合物の有効量が、記憶力増進作用、学習能力増進作用又はその両方の作用を生み出すための有効量であることを特徴とする請求項10〜14のうち何れか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項16】
ダウン症に関連する病気又は疾病を治療するために用いられる追加の治療薬を、さらに含んでいることを特徴とする請求項10〜15のうち何れか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項1】
ダウン症患者の重篤な認識機能障害の治療又は緩和のための薬剤として用いるための、α5サブユニットを有するGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を備える化合物であって、
以下の化学式における一つの構造を有する化合物又はその生理学的に許容できる塩若しくはそれらのプロドラッグであることを特徴とする化合物。
【化1】
【請求項2】
薬学的組成物として、経口投与、バッカル投与又は舌下投与されることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
タブレット、カプセル、ゲルカプセル、カプレット又は溶液若しくは懸濁液の形態として投与されることを特徴とする請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
非経口製剤として投与されることを特徴とする請求項1〜3のうち何れか一項に記載の化合物。
【請求項5】
上記非経口製剤が静脈注射されるための製剤であることを特徴とする請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
発作を引き起こさない量であることを特徴とする請求項1〜5のうち何れか一項に記載の化合物。
【請求項7】
記憶力増進作用、学習能力増進作用又はその両方の作用を生み出すための有効量であることを特徴とする請求項1〜6のうち何れか一項に記載の化合物。
【請求項8】
ダウン症に関連する病気又は疾病を治療するための薬剤として用いられるための追加の治療薬との組み合わせで用いられることを特徴とする請求項1〜7のうち何れか一項に記載の化合物。
【請求項9】
ダウン症患者の重篤な認識機能障害の治療又は緩和のための薬剤を調製するための、α5サブユニットを有するGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を備える化合物の使用方法であって、
以下の化学式における一つの構造を有する化合物又はその生理学的に許容できる塩若しくはそれらのプロドラッグであることを特徴とする化合物の使用方法。
【化2】
【請求項10】
添加物としての界面活性剤及び溶媒としてのジメチルスルホキシドと共に、有効量の、α5サブユニットを有するGABAA受容体に対する逆作用薬としての機能的選択性を備える化合物を含む、ダウン症患者の重篤な認識機能障害を治療又は緩和するために用いられる薬学的組成物であって、
以下の化学式における一つの構造を有する化合物又はその生理学的に許容できる塩若しくはそれらのプロドラッグであることを特徴とする薬学的組成物。
【化3】
【請求項11】
上記化合物が、以下の化学式における一つの構造を有する化合物の塩酸塩であることを特徴とする請求項10に記載の薬学的組成物。
【化4】
【請求項12】
ゲルカプセル又は溶液若しくは懸濁液の形態であることを特徴とする請求項10又は11に記載の薬学的組成物。
【請求項13】
非経口製剤であることを特徴とする請求項10〜12のうち何れか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項14】
上記非経口製剤が静脈注射されるための製剤であることを特徴とする請求項13に記載の薬学的組成物。
【請求項15】
上記化合物の有効量が、記憶力増進作用、学習能力増進作用又はその両方の作用を生み出すための有効量であることを特徴とする請求項10〜14のうち何れか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項16】
ダウン症に関連する病気又は疾病を治療するために用いられる追加の治療薬を、さらに含んでいることを特徴とする請求項10〜15のうち何れか一項に記載の薬学的組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図12A】
【図12B】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図12A】
【図12B】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2013−503149(P2013−503149A)
【公表日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−526162(P2012−526162)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【国際出願番号】PCT/IB2010/053796
【国際公開番号】WO2011/024115
【国際公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(506066777)サントゥル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティ フィック セーエヌエールエス (22)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【国際出願番号】PCT/IB2010/053796
【国際公開番号】WO2011/024115
【国際公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(506066777)サントゥル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティ フィック セーエヌエールエス (22)
【Fターム(参考)】
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