説明

ダンパ及び真空ポンプ

【課題】本発明は、真空ポンプにより発生した振動のプロセスチャンバ等への伝播を防止するのに好適なダンパ及び真空ポンプを提供することを目的としている。
【解決手段】本発明のダンパは、真空ポンプと連接する第1連結部と、この真空ポンプにより排気される装置と連接する第2連結部と、上記第1連結部と一端が固着され他端が上記第2連結部と固着されたベローズと、上記第1連結部と上記第2連結部との間に挿入された防振部とを有している。この防振部は中空部を有するとともに、この中空部には流動体が充満されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプに用いられるダンパ及び真空ポンプに関し、特に、真空ポンプにおいて発生した振動のプロセスチャンバ、測定室等の真空装置への伝播を、流動体を用いて防止するダンパ及び真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造工程におけるドライエッチングやCVD等のプロセスのように、高真空のプロセスチャンバ内で処理を行なう工程において、プロセスチャンバ内のガスを排気して一定の高真空度を形成する手段として、あるいは、電子顕微鏡の鏡筒や測定室等に取付けられこの測定室等内のガスを排気する手段として、例えば、ターボ分子ポンプのような真空ポンプが用いられている。
【0003】
この種のターボ分子ポンプには、円筒状の形状をしたポンプケース内部に高速回転するロータが設置されており、このロータには切り出し一体成形されたロータ翼が放射状に複数多段に配置されている。このロータ翼の各段の間には、ケーシングの内側に向けてステータ翼が、ロータの軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して多段交互に設置されている。ロータがモータ部により駆動されて回転すると、ロータ翼はロータと共に回転し、ロータ翼とステータ翼の相互作用により、プロセスチャンバ等内のガスが吸気口から吸引され、排気口から排気されるようになっている。
【0004】
このターボ分子ポンプには、ロータが高速回転するとモータ部のコギングトルクによる振動が発生し、また、ロータは完全にはバランスが取れていないため、振れによる振動も発生する。そのため、例えば、電子顕微鏡の鏡筒や測定室等に何も介在させず、このターボ分子ポンプを直接連接させた場合においては、このようなターボ分子ポンプにおいて発生した振動がこの電子顕微鏡や測定室等にも伝播してしまうこととなる。このターボ分子ポンプにより真空引きを行う電子顕微鏡、測定室、あるいはプロセスチャンバ等内においては、精密な作業を行っているので、例えば、数Å程度の微細な構造の試料を、電子線を用いて観察する場合においては、この振動の影響を受け正しい観察像が得られない場合が生じてくる。
【0005】
そこで、従来、このターボ分子ポンプにおいて発生した振動をプロセスチャンバ等に伝播するのを防止すべく、このターボ分子ポンプは、特許文献1に記載されたダンパを介してプロセスチャンバ等と連接されている。
【0006】
このダンパは、特許文献1の図1に示すように、ガスを通過させるための穴を中央に開けた円盤状の形状をしたフランジ(符号24、符号25)と、ゴム(符号2、符号3)と、このゴム(符号2、符号3)間に設置された質量部(符号1)と、ベローズ(符号4)とから構成されている。このフランジ(符号25)は、真空装置(符号5)の開口部(符号7)と、フランジ(符号25)はターボ分子ポンプ(符号18)のフランジ(符号26)とそれぞれボルトやクランパなどにより結合されている。ベローズ(符号4)は、ステンレスなどによって形成された、ひだ状のなめらかな山形の連続断面を有した肉薄の管であり、山形に形成された側面が伸び縮みすることにより弾力性を発揮し、ターボ分子ポンプ(符号18)で生じた振動を吸収して減衰させる。このベローズ(符号4)とフランジ(符号25)及びベローズ(符号4)とフランジ(符号24)は、例えば、ロウ付け又は溶接されており、ベローズ(符号4)とフランジ(符号25)及びベローズ(符号4)とフランジ(符号24)の接合部から外気が侵入しないようになっている。またこれらの接合部はターボ分子ポンプ(符号18)の振動に対して十分な強度を保つようになっている。
【0007】
ゴム(符号2、符号3)及び質量部(符号1)は、それぞれ円筒形の形状を有しており、質量部(符号1)の内径はベローズ(符号4)の外径より大きくなっている。質量部(符号1)は、例えば鉄やステンレスなどの剛性がありかつ密度がゴム(符号2、符号3)に比べて大きい物質によって構成されており、この質量部(符号1)の質量は大きいほどダンパ部(符号19)の振動吸収能力は大きくなる。ゴム(符号2、符号3)は、質量部(符号1)を介して直列に連接され、振動吸収部(符号30)を構成している。
【0008】
振動吸収部(符号30)は、ベローズ(符号4)の外側に同心状に配置され、その両端はそれぞれフランジ(符号24、符号25)に固定ないしは挟まれており、ゴム(符号2、符号3)、質量部(符号1)、フランジ(符号24、符号25)を接合した各接合部は、ターボ分子ポンプ(符号18)の振動に対して十分な強度を持つようになっている。
【0009】
特許文献1記載のダンパ部(符号19)は、以上のような構成のものであり、ゴム(符号2、符号3)の弾性力により、ターボ分子ポンプに発生した振動を吸収し、減衰させ、チャンバ、測定室等の真空装置への振動の伝播を防止するものである。
【0010】
しかしながら、ターボ分子ポンプによって、チャンバ等の真空装置内のガスを吸引し排気する、いわゆる真空引きが行われると、ダンパ部(符号19)内部も高真空状態となる。ダンパ部(符号19)の外部には大気圧が作用しているので、このダンパ部(符号19)の内外の圧力差によりこのダンパ部(符号19)は圧縮され収縮する。すると、このダンパ部(符号19)を構成するゴム(符号2、符号3)も収縮し、この収縮によりゴム(符号2、符号3)が固化してしまい、その結果、このゴム(符号2、符号3)の弾性率が大きくなり、振動の吸収能力が低下してしまう。そのため、このダンパ部(符号19)の振動吸収減衰能力が充分に発揮できない場合があった。
【0011】
【特許文献1】特開2002−295581号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、その解決しようとする課題は、真空ポンプにより発生した振動のプロセスチャンバ、測定室等への伝播を防止するのに好適なダンパ及び真空ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明は、真空ポンプと連接する第1連結部と、この真空ポンプにより排気される装置と連接する第2連結部と、上記第1連結部と一端が固着され他端が上記第2連結部と固着されたベローズと、上記第1連結部と上記第2連結部との間に挿入された防振部とを有するダンパであって、上記防振部は中空部を有するとともに、この中空部には流動体を充満してなることを特徴とする。
【0014】
また、上記防振部は、円環状に形成されていてもよい。
【0015】
また、本発明においては、真空ポンプと連接する第1連結部と、この真空ポンプにより排気される装置と連接する第2連結部と、上記第1連結部と一端が固着され他端が上記第2連結部と固着されたベローズと、上記第1連結部と上記第2連結部との間に挿入された防振部とを有するダンパであって、上記防振部は、中空部を有する複数の球状体から形成されるとともに、この中空部には流動体を充満していてもよい。
【0016】
また、上記流動体は、空気、圧縮ガス又は粘性体のいずれか1つであってもよい。この粘性体は、例えば、リオルガノシロキサン、硬化剤、及び硬化促進剤等の混合物を加熱硬化して得られたシリコンゲル等から形成されている。
【0017】
また、本発明においては、上面にガス吸気口が開口され、下方側面にガス排気口が開口されたポンプケース内に回転可能に支持されたロータ軸と、このロータ軸を回転させるための駆動モータと、このロータ軸に固定され、ロータ軸心に対して同心円状の異なる径の異なる複数の円筒部を有する多重円筒体からなるロータと、このロータの複数の円筒部と、この円筒部間に交互に位置決めされて上記ポンプケース内に固定される複数の円筒部を有する多重円筒体からなるステータと、このステータの上記ロータの円筒面に対向する壁面に刻設されたネジ溝とからなるネジ溝ポンプ機構部とからなる真空ポンプであって、上記ガス吸気口には、上記請求項1乃至4いずれか1項に記載のダンパが連接されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、上記の如く、防振部は中空部を有するとともに、この中空部には流動体を充満してなるという構成を採用した。このため、真空引きによりダンパに圧縮力がかかった場合であっても、中空部内の流動体は、従来の上記ダンパの振動吸収部に用いられるゴムのように固化しないため、ターボ分子ポンプ等からプロセスチャンバ等への振動の伝播を効果的に防止できる。
【0019】
また、中空部の体積やこの中空部内の流動体を変更することにより、防止できる振動の周波数を可変することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
図1は本発明に係る真空ポンプを示す縦断面図であるが、ダンパは省略されており、本発明に係る真空ポンプの一実施形態としてターボ分子ポンプが記載されている。
【0022】
このターボ分子ポンプPは、中空円筒型のケーシング1にベース2を接合することにより密閉されるポンプケース3内部に、ターボ分子ポンプ機構部Ptとネジ溝ポンプ機構部Psとが収容された複合タイプの真空ポンプである。
【0023】
ケーシング1の上部壁面にはガス吸気口4が開口され、ベース2の下部側壁面にはガス排気口5が開口されている。ガス吸気口4にはプロセスチャンバ等の真空容器が後述する本発明のダンパを介して吸気口フランジ6に螺着され、ガス排気口5に排気パイプ7が装着されて、補助ポンプに連結されることにより、このターボ分子ポンプPは、プロセスチャンバ内のガスを排気して一定の高真空度を形成するための手段として使用される。
【0024】
ポンプケース3内部に立設するステータコラム8の上下端面間には、高周波モータ等の駆動モータ9により高速回転するロータ軸10が貫通しており、このロータ軸10は、半径方向電磁石11−1と軸方向電磁石11−2からなる磁気軸受け11により、ロータ軸10の半径方向および軸方向にそれぞれ軸支されている。また、ロータ軸10の両端部には、ドライ潤滑剤が塗布された保護用ボールベアリング12が設けられており、通常運転時にはロータ軸10に非接触で、磁気軸受け11の電源異常時にのみロータ軸10に接触して軸支し、ロータ軸10と磁気軸受け11との接触を防ぐように調整されている。
【0025】
ステータコラム8から突出したロータ軸10の上端部には、ステータコラム8を包囲するように配置された中空円筒型のロータ13が軸線L方向に螺着固定され、このロータ13は駆動モータ9によりロータ軸10と同期して高速回転する。ロータ軸10に一体化されたロータ13は半径方向センサ14−1と軸方向センサ14−2からなる位置検出センサ14により位置制御されている。
【0026】
ロータ13外周の上方略半部分はターボ分子ポンプ機構部Ptとして機能し、ロータ13外壁面にはロータ軸10の軸線L方向にかけて複数のブレード状のロータ翼15,15,…が一体成形されている。また、ケーシング1内壁面にはこのロータ翼15,15間に交互に位置決めされた複数のブレード状のステータ翼16,16,…がスペーサ17,17,…を交互に積層することで取り付け固定されている。一方、ロータ13外周の下方略半部分はネジ溝ポンプ機構部Psとして機能し、ロータ13外壁面は平坦な円筒面となっており、このロータ13外壁面と狭い間隔で対向するケーシング1内壁面には螺旋状のネジ溝18が刻設されている。
【0027】
このターボ分子ポンプ機構部Ptとネジ溝ポンプ機構部Psはガス吸気口4からガス排気口5へと流れるガス分子の主流路Rを形成している。すなわち、ターボ分子ポンプ機構部Ptにおいては、駆動モータ9によりロータ軸10が回転駆動すると、ロータ13とロータ翼15が同期して回転し、高速回転するロータ翼15と固定のステータ翼16との相互作用により、上段側のガス吸気口4から吸気された分子流から遷移流のガス分子を下段側のネジ溝ポンプ機構部Psに送り込む。一方、このネジ溝ポンプ機構部Psにおいては、駆動モータ9によりロータ軸10が回転駆動すると、ロータ13も同期して回転し、高速回転するロータ13の円筒面と固定のネジ溝18との相互作用により、上段のターボ分子ポンプ機構部Ptから移送された遷移流のガス分子を粘性流に圧縮し、圧縮されたガス分子を下段側のガス排気口5へと排気する。
【0028】
このように、ターボ分子ポンプPが作動しロータ13が回転しこれに連動してロータ翼15が高速回転すると、駆動モータ9のコギングトルクによる振動が発生し、また、ロータ13は完全にはバランスが取れていないため、振れによる振動も発生する。従って、このターボ分子ポンプPを何も介さず直接プロセスチャンバ等に連接すると、このターボ分子ポンプPの振動がプロセスチャンバ等に伝播してしまうこととなり、プロセスチャンバ等内における精密作業の妨げとなり好ましくない。
【0029】
そこで、このターボ分子ポンプPに発生した振動が、プロセスチャンバ等に伝播するのを防止すべく、このターボ分子ポンプPは本発明に係るダンパを介してプロセスチャンバ等と連接されることとなる。
【0030】
次に、このターボ分子ポンプPと連接され、このターボ分子ポンプPに発生した振動のプロセスチャンバ等への伝播を防止する本発明のダンパについて、図2(a)(b)を用いて説明する。
【0031】
<第1実施例>
図2(a)は、本発明に係るダンパの全体構成を示す斜視図であるが、本発明の特徴部である防振部104aは縦断面図となっている。また、同図(b)は本発明に係るダンパの全体構成を示す縦断面図である。同図(a)に示すダンパ100aは、図示しないプロセスチャンバ等と連接する第1連結部101と、ターボ分子ポンプPと連接する第2連結部102と、この第1連結部101と第2連結部102との間に挟まれるように固着されたベローズ103と、このベローズ103を取り囲むようにこの第1連結部101と第2連結部102との間に挿入された円環状の防振部104aとから構成される。
【0032】
この第1連結部101は、円環状のフランジ部101−1と、円状の中央孔101−2とから構成されており、図示しないプロセスチャンバ等のガス排気口とこの中央孔101−2とが連通するようにして、プロセスチャンバ等にぶら下がるような状態で固着される。この固着の方法としては、例えば、フランジ部101−1にボルト穴を数箇所設け、ボルトとナットを用いて嵌合固着してもよいし、また、フランジ部101−1をプロセスチャンバ等に溶接することにより固着してもよい。
【0033】
第2連結部102もこの第1連結部101と同様の構成であり、円環状のフランジ部102−1と、円状の中央孔102−2とから構成されている。この第2連結部102は、例えば、図1記載のターボ分子ポンプPのガス吸気口4とこの中央孔102−2とが連通するようにして、このターボ分子ポンプPをぶら下げるような状態で固着される。この固着の方法としては、上記と同様の方法が考えられる。
【0034】
また、ベローズ103は、中空で側面が蛇腹状に形成された肉薄の管であり、例えば、ステンレス等から形成されている。このベローズ103の一端は、第1連結部101の中央孔101−2に覆い被さるようにして、この第1連結部101のフランジ部101−1の下側に固着され、他端は、第2連結部102の中央孔102−2に覆い被さるようにして、この第2連結部102のフランジ部102−1の上側に固着されている。この固着は、例えば、ロウ付けあるいは溶接によりなされている。このベローズ103内には、プロセスチャンバ等内から排気されたガスが通過するので、この固着された部分から外気が侵入しないようになっている。また、このベローズ103は、蛇腹状の側面が伸縮することにより弾力性を発揮し、ターボ分子ポンプPで発生した振動を吸収し減衰させる。
【0035】
防振部104aは、このベローズ103を取り囲むような円環状の形状をした振動吸収部104a−1と、この振動吸収部104a−1の内部に形成された円環状の中空部104a−2とからなる。
【0036】
この振動吸収部104a−1は、例えば、天然ゴムやクロロプロピレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム等の合成ゴム等からなり、強度、耐熱性、耐油性、耐久性、耐候性、振動減衰性等から適宜好適なものを選べばよい。また、この振動吸収部104a−1の肉厚は、図2(b)に示すように、長さ方向の肉厚よりも幅方向の肉厚を小さく形成している。
【0037】
中空部104a−2は、ここでは、この円環状の振動吸収部104a−1と同心の円環状の形状からなる。
【0038】
また、この中空部104a−2には、流動体が充満されており、この流動体は、空気、圧縮ガス又は粘性体等である。この粘性体は、例えば、ポリオルガノシロキサン、硬化剤、及び硬化促進剤等の混合物を加熱硬化して得られたシリコンゲル等の粘性体から形成されている。また、この中空部104a−2に圧縮ガスや粘性体を充満させる場合には、例えば、下記製造方法により製造された内部に中空部104a−2を有する密閉構造の振動吸収部104a−1において、封入口を設けることによりこの圧縮ガスや粘性体を封入するようにする。
【0039】
この中空部104a−2内に空気を充満させる方法としては、例えば、内部に円環状の中空部104a−2を有する防振部104aを製造する際に、円環状の振動吸収部104a−1が水平方向に半割された形状のものを型成形により製造し、この製造されたもの2つを用いて、円環状の振動吸収部104a−1が形成されるように突き合わせ、この突き合わせた部分を接着剤等により接着することにより形成される。なお、この中空部104a−2は、ターボ分子ポンプPによる真空引き作用を受けて、特に第1連結部101と第2連結部102とにより挟まれる方向に圧縮されるので、この圧縮力に耐えられるように、この中空部104a−2内部には、圧力が掛かる必要があり、この掛けられた圧力を逃がさないような密閉構造となっている。
【0040】
また、この中空部104a−2に充満された流動体の内容を変えると、振動吸収部104a−1を中空部104a−2内から膨張させる力が変化し、その結果、合成ゴム等から形成された振動吸収部104a−1の硬度も変化し、吸収できる振動の周波数も変えることができる。
【0041】
このように構成されたダンパ100aの動作説明を次に説明する。
【0042】
ターボ分子ポンプPが作動すると、上記したようにロータ翼が高速回転し、このロータ翼を多段交互に配置されたステータ翼との相互作用により、プロセスチャンバ等内のガスがターボ分子ポンプPのガス吸気口から侵入し、ガス排気口から排出される。この一連の動作の繰り返しにより、プロセスチャンバ内は真空状態となる。この真空状態の際、ターボ分子ポンプPとプロセスチャンバとの間に接続された本発明に係るダンパ100aは、真空引き作用により、上記従来において説明したと同様に、ベローズ103がプロセスチャンバに押し付けられる方向に圧縮される。
【0043】
すると、防振部104aは、両フランジ部101−1、102−1に挟み込まれる方向に圧縮されると同時に、振動吸収部104a−1の内部の中空部104a−2も体積が収縮する方向に圧縮される。更に、この中空部104a−2内の空気も圧縮される。この中空部104a−2内の空気は圧縮されると、次第に振動吸収部104a−1を内部から膨張させる力へと変換される。この圧縮が進むにつれこの膨張させる力は次第に強くなっていき、この振動吸収部104a−1を内部より膨張させる力と真空引き作用による圧縮力が釣り合ったところで、この防振部104aの収縮は止まり安定する。
【0044】
この安定した状態においては、振動吸収部104a−1における硬化は抑えられているため、弾性力を発揮することができ、この弾性力と中空部104a−2内の流動体の弾性力により、ターボ分子ポンプPに発生した振動を吸収することができる。
【0045】
この振動吸収部104a−1の硬度の上昇を少なくすることにより、より低周波の振動の抑止が図れることとなる。
【0046】
また、本実施形態におけるダンパ100aおいては、振動吸収部104a−1の材質、中空部104a−2の体積や中空部104a−2内に充満する流動体の種類の選び方次第で、ダンパ100a全体の弾性力を決められるので、低周波を含めた幅広い周波数の振動の吸収が可能となる。
【0047】
<第2実施例>
次に本発明に係るダンパの他の実施形態について図3(a)(b)を用いて説明する。同図(a)は、本発明に係るダンパの全体を示す斜視図であり、防振部104bを保持する保持部106は省略されている。また、同図(b)は、本発明に係るダンパの全体を示す縦断面図である。この実施形態におけるダンパ100bにおいても、ターボ分子ポンプPと連結する第1連結部101と、チャンバと連結する第2連結部102と、この第1連結部101と第2連結部102との間に挟まれるように固着されたベローズ103とから構成されている点においては上記第1実施例と同様である。また、このダンパ100bとチャンバとの連接方法も、このダンパ100bとターボ分子ポンプPとの連接方法も上記した第1実施例による方法と同様の方法を採ることができる。
【0048】
一方、本実施形態におけるダンパ100bにおいては、図3(a)に示すように、防振部104bが複数の球状の形状をした振動吸収部104b−1とこの振動吸収部104b−1の内部に形成された中空部104b−2とからなる点、およびこの防振部104bは、保持部106によりこのダンパ100bの第1連結部101と第2連結部102との間に保持されている点が上記第1実施例におけるダンパ100aと異なる点である。これらの具体的な構成を同図(b)を用いて以下に説明する。
【0049】
この防振部104bは、図3(b)に示すように球状の形状をした複数の振動吸収部104b−1、104b−1、・・・と、この各振動吸収部104b−1内に形成された中空部104b−2とから構成されている。この防振部104bは、第1連結部101と第2連結部102との間に、挿入され配置される。その配置の方法としては、例えば、ベローズ103を取り囲むようにしてこのベローズ103の中心軸に対し放射状に個別に配置する方法や、このベローズ103を円環状に取り囲むようにして各防振部104bが並べられた状態において、隣接する各防振部104bを接着剤等により接着した複数の防振部104bが円環状に連なったものを配置する方法などがある。
【0050】
なお、後者においては、第1連結部101あるいは第2連結部102のどちらか一方とベローズ103が固着される前に、まだ固着されていないベローズ103の端部上方からこの円環状の形状の中央の穴によって覆い被さるようにして、このベローズ103に嵌合固着し、その後このベローズ103の固着されていない端部と第1連結部101あるいは第2連結部102のどちらか一方と固着されることにより、この防振部104bが第1連結部101と第2連結部102との間に配置されることとなる。
【0051】
振動吸収部104b−1は、球状の形状から構成されており、例えば、天然ゴムやクロロプロピレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム等の合成ゴム等からなり、強度、耐熱性、耐油性、耐久性、耐候性、振動減衰性等から適宜好適なものを選べばよい。
【0052】
この中空部104b−2は、例えば、振動吸収部104b−1と同心の球状の形状である。また、この中空部104b−2は、例えば、内部が空洞に形成されたゴムボールを半割にした状態のものを球となるように2つ突き合わせ、この突き合わせ部分を接着剤等で接着することにより形成される。なお、防振部104bは、ターボ分子ポンプPによる真空引き作用を受けて、特に第1連結部101と第2連結部102とにより挟まれる方向に圧縮されるので、この圧縮力に耐えられるように、この中空部104b−2内部には、圧力が掛かる必要があり、この中空部104b−2に掛けられた圧力を逃がさないような密閉構造となっている。
【0053】
また、この中空部104b−2内には、流動体が充満されており、この流動体は、例えば、空気、圧縮ガスあるいは粘性体のうちのいずれか1つである点においては、上記実施例1に記載したのと同様である。
【0054】
保持部106は、各防振部104b、104b、・・・を第1連結部101と第2連結部102との間に保持するために用いられるものであり、例えば、天然ゴムやクロロプロピレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム等の合成ゴム等からなり、強度、耐熱性、耐油性、耐久性、耐候性、振動減衰性等から適宜好適なものを選べばよい。また、この保持部106は、真空引きの際に、第1連結部101のフランジ部の下面と接する第1保持部106−1と、第2連結部102のフランジ部の上面と接する第2保持部106−2とから構成されており、この第2保持部106−2の上部に各防振部104b、104b、・・・を載置し、この第2保持部106−2に載置された各防振部104b、104b、・・・を上部から覆い被さるようにして第1保持部106−1を配置した状態で、この両保持部106は、第1連結部101と第2連結部102との間に配置され、この防振部104bを保持する。
【0055】
この防振部104bを上面に載置する第2保持部106−2は、例えば、ベローズ103を取り囲むような円環状の形状をしており、その上面は、各防振部104b、104b、・・・が載置し易いように、U字溝が円環状に形成されていたり、各防振部104b、104b、・・・を単体で載置した場合においても、載置した場所から各防振部104b、104b、・・・が動かないよう、この上面には半球面状の形状をした窪み部が、ベローズ103の軸方向に対し放射状に複数形成されているような形状をしていてもよい。また、第1保持部106−1も、この第2保持部106−2と同様の形状で構成されている。
【0056】
このように構成されたダンパ100bの動作説明を次に説明する。
【0057】
ダンパ100bにおいても、真空引きにより、ベローズ103がプロセスチャンバに押し付けられる方向に圧縮され、各防振部104b、104b、・・・もまた、両フランジ部101−1、102−1に挟み込まれる方向に圧縮され、各振動吸収部104b−1の内部の中空部104b−2も体積が収縮する方向に圧縮される点においては、上記ダンパ100aにおいて説明したのと同様であるが、この圧縮の際に、防振部104bを上下から保持している保持部106も一緒に両フランジ部101−1、102−1に挟みこまれる方向に圧縮される。この際、中空部104b−2内の空気も圧縮される。この中空部104b−2内の空気は圧縮されると、次第に振動吸収部104b−1を内部から膨張させる力へと変換される。この圧縮が進むにつれこの膨張させる力は次第に強くなっていき、この振動吸収部104b−1を内部より膨張させる力と上下の保持部106の回復力との合力と、真空引き作用による圧縮力とが釣り合ったところで、この防振部104bの収縮は止まり安定する。
【0058】
この安定した状態においては、振動吸収部104b−1における硬化は抑えられているため、弾性力を発揮することができ、この弾性力と中空部104b−2内の流動体の弾性力により、ターボ分子ポンプPに発生した振動を吸収することができる。
【0059】
この振動吸収部104b−1の硬度の上昇を少なくすることにより、より低周波の振動の抑止が図れることとなる。
【0060】
また、本実施形態におけるダンパ100bにおいては、振動吸収部104b−1の材質、中空部104b−2の体積、球状の防振部104bの使用個数や中空部104b−2内に充満する流動体の種類の選び方次第で、ダンパ100a全体の弾性力を決められるので、低周波を含めた幅広い周波数の振動の吸収が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】ターボ分子ポンプの断面図。
【図2】(a)本発明に係るダンパの構造を示す斜視図。(b)本発明に係るダンパの構造を示す縦断面図。
【図3】(a)本発明に係るダンパの構造を示す斜視図。(b)本発明に係るダンパの構造を示す縦断面図。
【符号の説明】
【0062】
1 ケーシング
2 ベース
3 ポンプケース
4 ガス吸気口
5 ガス排気口
6 吸気口フランジ
7 排気パイプ
8 ステータコラム
9 駆動モータ
10 ロータ軸
11 磁気軸受け
11−1 半径方向電磁石
11−2 軸方向電磁石
12 保護用ボールベアリング
13 ロータ
14 位置検出センサ
14−1 半径方向センサ
14−2 軸方向センサ
15 ロータ翼
16 ステータ翼
17 スペーサ
18 ネジ溝
100a ダンパ
100b ダンパ
101 第1連結部
102 第2連結部
103 ベローズ
104 防振部
104a 防振部
104b 防振部
105 中空部
106 保持部
106−1 第1保持部
106−2 第2保持部
P ターボ分子ポンプ
Pt ターボ分子ポンプ機構部
Ps ネジ溝ポンプ機構部
R ガス分子の主流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空ポンプと連接する第1連結部と、この真空ポンプにより排気される装置と連接する第2連結部と、上記第1連結部と一端が固着され他端が上記第2連結部と固着されたベローズと、上記第1連結部と上記第2連結部との間に挿入された防振部とを有するダンパであって、
上記防振部は中空部を有するとともに、この中空部には流動体を充満してなること
を特徴とするダンパ。
【請求項2】
上記防振部は、円環状に形成されること
を特徴とする請求項1記載のダンパ。
【請求項3】
真空ポンプと連接する第1連結部と、この真空ポンプにより排気される装置と連接する第2連結部と、上記第1連結部と一端が固着され他端が上記第2連結部と固着されたベローズと、上記第1連結部と上記第2連結部との間に挿入された防振部とを有するダンパであって、
上記防振部は、中空部を有する複数の球状体から形成されるとともに、この中空部には流動体を充満してなること
を特徴とするダンパ。
【請求項4】
上記流動体は、空気、圧縮ガス又は粘性体のいずれか1つであること
を特徴とする請求項1乃至3いずれか1項に記載のダンパ。
【請求項5】
上面にガス吸気口が開口され、下方側面にガス排気口が開口されたポンプケース内に回転可能に支持されたロータ軸と、
このロータ軸を回転させるための駆動モータと、
このロータ軸に固定され、ロータ軸心に対して同心円状の異なる径の異なる複数の円筒部を有する多重円筒体からなるロータと、
このロータの複数の円筒部と、この円筒部間に交互に位置決めされて上記ポンプケース内に固定される複数の円筒部を有する多重円筒体からなるステータと、
このステータの上記ロータの円筒面に対向する壁面に刻設されたネジ溝とからなるネジ溝ポンプ機構部とからなる真空ポンプであって、
上記ガス吸気口には、上記請求項1乃至4いずれか1項に記載のダンパが連接されていること
を特徴とする真空ポンプ。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−77714(P2006−77714A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−264436(P2004−264436)
【出願日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(598021579)BOCエドワーズ株式会社 (44)
【Fターム(参考)】