説明

ダンパ装置

【課題】水平方向の振動に積層ゴムを用いることなく対応できるダンパ装置を提供する。
【解決手段】下方基礎体1と上方基礎体2の間に設置されるように、下方基礎体1に配置される下側構成部3と、上方基礎体2に設置され且つ下側構成部3に支持される上側構成部4とを備え、
下側構成部3は、下方基礎体1の上部に配置されて上面に凹状の曲面5を形成する台座部6を備え、
上側構成部4は、上方基礎体2の下部から下方に突出するシリンダロッド部9と、シリンダロッド部9の外側に位置してシリンダロッド部9との間に油溜め15を形成するシリンダケース部10と、シリンダケース部10に球面軸受24を介して配置され且つ台座部6の曲面5に油膜室12を介して配置される摺動部11とを備え、
上側構成部4の油溜め15と油膜室12は連通して構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震等の振動に対応するダンパ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ダンパ装置は、底面の下方基礎体と建物の上部基礎体との間に積層ゴムを設置したものであり、水平方向の振動や揺れに対応するようになっている。
【0003】
また他の例は、底面の下方基礎体と建物の上部基礎体との間に、積層ゴムと空気ばね等を組み合わせて設置したものであり、水平方向の振動や揺れに積層ゴム等で対応し、鉛直方向の振動や揺れに空気ばね等で対応するようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−291918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このようなダンパ装置は、水平方向の振動等に常に積層ゴムで対応するため、積層ゴムが必須の構成となり、装置を構成する自由度が著しく制限されるという問題があった。また鉛直方向の振動等に対応するように、積層ゴムと空気ばねを組み合わせるダンパ装置の場合には、空気ばねの耐面圧が積層ゴムに比べて低いため、空気ばねが大型化して設置スペースが大きくなるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記従来の問題に鑑みてなしたもので、水平方向の振動等に積層ゴムを用いることなく対応するダンパ装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下方基礎体と上方基礎体の間に設置されるように、前記下方基礎体に配置される下側構成部と、前記上方基礎体に設置され且つ下側構成部に支持される上側構成部とを備え、下側構成部は、下方基礎体の上部に配置されて上面に凹状の曲面を形成する台座部を備え、上側構成部は、上方基礎体の下部から下方に突出するシリンダロッド部と、該シリンダロッド部の外側に位置してシリンダロッド部との間に油溜めを形成するシリンダケース部と、該シリンダケース部に球面軸受を介して配置され且つ前記台座部の曲面に油膜室を介して配置される摺動部とを備え、上側構成部の油溜めと油膜室は連通して構成されたことを特徴とするダンパ装置、に係るものである。
【0008】
本発明において、油溜めに接続されるアキュムレータを備えることが好ましい。
【0009】
本発明において、上側構成部は、油溜めと油膜室を連通するように、シリンダケース部及び摺動部を貫通する連通孔を備えることが好ましい。
【0010】
本発明において、上側構成部は、油溜めと油膜室を連通する流路部材を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のダンパ装置によれば、水平方向の振動等を生じる場合には、シリンダケース部に対して摺動部が球面軸受で回動すると共に、台座部の曲面に対して摺動部が摺動する。そして摺動部が移動した際には、台座部の曲面により摺動部が元の位置へ戻ろうとして復元力を生じ、水平方向の振動等を減衰する。よってダンパ装置は、水平方向の振動等に積層ゴムを用いることなく対応でき、積層ゴムを不要にして装置構成の自由度を高めることができる。また油溜めに接続されるアキュムレータを備える際には、鉛直方向の振動等を生じる場合であっても、油溜めとアキュムレータとの間で油を送出入し、アキュムレータ内のガスの圧縮及び膨張の弾性で復元力を生じ、鉛直方向の振動等を減衰する。よって空気ばねを不要にするので、空気ばねの設置に伴う大型化を防ぎ、設置スペースを抑制することができるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(A)は本発明のダンパ装置の第一例を示す概念断面図であり、(B)は(A)のX−X方向の矢視図である。
【図2】(A)は摺動部を示す概念断面図であり、(B)はシリンダケース部と摺動部の間のシール部材及び摺動部材を拡大して示す概念断面図であり、(C)は摺動部と台座部の間のシール部材及び摺動部材を拡大して示す概念断面図である。
【図3】(A)は水平方向の地震動が作用した場合の動作を示す概念断面図であり、(B)は鉛直方向の地震動が作用した場合の動作を示す概念断面図である。
【図4】摺動部の変位と水平力の関係を示すグラフである。
【図5】(A)は第一例において台座部の構成を変更した他例を示す概念断面図であり、(B)は第一例において油溜めと油膜室の接続構成を変更した別例を示す概念断面図である。
【図6】(A)は本発明のダンパ装置の第二例を示す概念断面図であり、(B)は第二例において油溜めと油膜室の接続構成を変更した別例を示す概念断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態の第一例を図1〜図5を参照して説明する。
【0014】
第一例のダンパ装置は、下方基礎体1と上方基礎体2の間に設置されるように、下方基礎体1の上面に配置される下側構成部3と、上方基礎体2の下面に設置され且つ下側構成部3に支持される上側構成部4とを備えている。ここで下方基礎体1は床面や地面でも良く、上方基礎体2は、建物や機器等でも良く、特に制限されるものではない。また振動は、地震動による振動を主に想定しているが、駆動器等の他の要因による振動でも良い。更にダンパ装置は、下方基礎体1と上方基礎体2の間に複数設置されることが好ましい。
【0015】
下側構成部3は、下方基礎体1に配置されて上面に凹状の曲面5を形成する台座部6を備え、台座部6は、図1(B)に示す如く平面から見て四角の形状を有し、曲面5の中心位置が最も深くなるように形成されている。また台座部6は、金属等の部材を加工研磨して凹状の曲面5を形成しても良いし、図5(A)に示す如くコンクリート7の基礎を形成してコンクリート上面に金属板8を貼り付け、更にバフ研磨等を介して凹状の曲面5を形成しても良い。
【0016】
上側構成部4は、図1(A)に示す如く上方基礎体2の下面に形成されるシリンダロッド部9と、シリンダロッド部9の外側に位置するシリンダケース部10と、シリンダケース部10と下側構成部3の台座部6の間に配置される摺動部11とを備えている。
【0017】
シリンダロッド部9は、上方基礎体2の下面から下方に突出するように構成されており、シリンダケース部10は、シリンダロッド部9の周囲位置から下端までを囲むように構成されている。更に摺動部11は、台座部6の曲面5に対して油膜室12(図2参照)を形成する板状の移動体13と、移動体13から突出してシリンダケース部10の下面と接するロッド状の支持部14とを備えて回動可能に構成されている。
【0018】
シリンダロッド部9とシリンダケース部10の間には油溜め15が構成されており、油溜め15には、シリンダケース部10の側部を貫通する貫通孔16及び配管17を介してアキュムレータ18が接続されている。またシリンダケース部10の下部には、摺動部11の支持部14へ向かって貫通する第一の連通孔19を設けると共に、摺動部11の支持部14及び移動体13には、支持部14の軸心方向に貫通する第二の連通孔20を設け、第一の連通孔19及び第二の連通孔20により油溜め15と油膜室12が連通するようにしている。更にシリンダケース部10と摺動部11の構成は、摺動部11が回動する場合であっても、第一の連通孔19と第二の連通孔20により油が流通し得る状態を維持している。ここでシリンダケース部10及び摺動部11は、第一の連通孔19及び第二の連通孔20を設ける代わりに、図5(B)に示す如くシリンダケース部10の側部に、油溜め15と通じる第二の貫通孔21を設けると共に、摺動部11の移動体13に、油膜室12と通じる第三の貫通孔22を設け、更に第二の貫通孔21と第三の貫通孔22を配管やホース等の流路部材23により接続し、油溜め15と油膜室12が連通するようにしても良い。
【0019】
図2(A)に示す如くシリンダケース部10と摺動部11の間には球面軸受24が構成されており、球面軸受24は、シリンダケース部10の下面に半球状の凹部25を備えると共に、摺動部11の支持部14の先端に半球状の凸部26を備えて構成されている。また図2(B)に示す如くシリンダケース部10の凹部25と支持部14の凸部26の間には、環状のシール部材27及び摺動部材28を配置し、凹部25と凸部26の間に油膜が形成されるようにしている。ここで球面軸受24は、シリンダケース部10の下面に半球状の凸部を備えると共に、摺動部11の支持部14の先端に半球状の凹部を備えても良い。またシール部材27及び摺動部材28は、油の漏れを防止すると同時に摺動部11を回動可能にするならば、材質や形状は特に制限されるものではない。なお図5(B)の構成の場合には、球面軸受24を摺動部材28aで構成するようにしている。
【0020】
図2(C)に示す如く摺動部11と台座部6の間には、油膜室12を形成するようにシール部材29及び摺動部材30が配置されている。シール部材29はOリングで構成されている共に、摺動部材30は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の環状体で構成されており、摺動部11の裏面に形成された環状溝には、奥から順にシール部材29、摺動部材30が配置されている。ここで摺動部材30は、断面形状で台座部6に向かって先端側が細くなる形状を備えている。また摺動部11の裏面は、台座部6の曲面5に対応するように下方へ張り出す曲面で構成されることが好ましく、更に摺動部11の裏面の全体には、油膜室12内に均一に油膜が形成されるように、支持部14の軸心と同芯になるような環状や渦巻き状の油溝31を形成することが好ましい。更にシール部材29及び摺動部材30は、摺動部11の摺動を可能にするならば、他の材質や形状でも良い。
【0021】
次に上記実施の形態の第一例の作動を説明する。
【0022】
水平方向で地震動等の振動や揺れを生じる場合には、図3(A)に示す如くシリンダケース部10に対して摺動部11が球面軸受24で回動すると共に、台座部6の曲面5に対して摺動部11が摺動する。そして台座部6に対して摺動部11が移動した際には、台座部6の曲面5により、摺動部11が台座部6の凹部の底(元の位置)へ戻ろうとして復元力を生じ、水平方向の振動等を減衰する。
【0023】
ここで摺動部11の水平方向の変位と水平力の関係を示すと、図4に示す如く振動等に伴い、最初、摺動部11の摩擦力が作用して水平力のみが上昇し、ある値からは摺動部11が移動し始め、変位と水平力の関係においてループする。そして収束時に摺動部11の摩擦力が作用して初めの位置へ戻るようになっている。
【0024】
一方、鉛直方向で地震動等の振動や揺れを生じる場合には、図3(B)に示す如く油溜め15とアキュムレータ18の間で油を送出入し、アキュムレータ18内のガスの圧縮及び膨張の弾性で復元力を生じ、鉛直方向の振動等を減衰する。
【0025】
ここで油膜室12の油圧は、鉛直方向の振動等による上下の荷重を支える一方で、摺動部11の摩擦力を制御している。具体的には、上下の荷重の増加によって油膜室12の油圧が高い場合には、摺動部11の位置を上げて台座部6への摺動部材30の接触面積を小さくし、摺動部11の摩擦力を減らして摺動部11の移動を容易にする。一方、上下の荷重の低下によって油膜室12の油圧が低い場合には、摺動部11の位置を下げて台座部6への摺動部材30の接触面積を大きくし、摺動部11の摩擦力を増やして摺動部11の揺れを止める。また摺動部11は、上下の荷重の対して5〜20%の摩擦力、好ましくは10%程度の摩擦力があることが好ましい。
【0026】
而して、このような実施の形態の第一例によれば、摺動部11の摺動等により水平方向の振動等を減衰するので、水平方向の振動等に積層ゴムを用いることなく対応でき、よって積層ゴムを不要にして装置構成の自由度を高めることができる。また油溜め15及びアキュムレータ18等を介して鉛直方向の振動等を減衰するので、空気ばねを不要にして装置の大型化を防ぎ、設置スペースを抑制することができる。更に油溜め15と油膜室12を連通して鉛直方向の荷重を摺動部11の摺動(摩擦力)に対応させるので、水平方向の振動の減衰に対して鉛直方向の振動を利用することができる。
【0027】
実施の形態の第一例において、上側構成部4は、油溜め15と油膜室12を連通するように、シリンダケース部10及び摺動部11を貫通する第一の連通孔19及び第二の連通孔20を備えると、第一の連通孔19及び第二の連通孔20により油溜め15と油膜室12を安定的に連通するので、摺動部11の摺動を介して水平方向の振動等を好適に減衰することができる。
【0028】
実施の形態の第一例において、上側構成部4は、油溜め15と油膜室12を連通する流路部材23を備えると、流路部材23により油溜め15と油膜室12を簡単に連通するので、摺動部11の摺動を介して水平方向の振動等を適切に減衰することができると共に、製造コストを低減することができる。
【0029】
実施の形態の第一例において、台座部6をコンクリート7と金属板8で構成すると、台座部6の曲面5の形成を容易にすることができると共に、製造コストを低減することができる。
【0030】
以下、本発明の実施の形態の第二例を図6を参照して説明する。
【0031】
第二例のダンパ装置は、第一例のダンパ装置のアキュムレータ18を無くしたものであり、他の構成部分は、第一例と同じ構成を備えている。また図6(B)に示す如くシリンダケース部10の側部には、油溜め15と通じる第二の貫通孔21を設けると共に、摺動部11の移動体13には、油膜室12と通じる第三の貫通孔22を設け、更に第二の貫通孔21と第三の貫通孔22を配管やホース等の流路部材23により接続し、油溜め15と油膜室12が連通するようにしても良い。また台座部6は、コンクリート7の基礎を形成してコンクリート上面に金属板8を貼り付け、更にバフ研磨等を介して凹状の曲面5を形成しても良い(図5(A)参照)。ここで第二例のダンパ装置は、アキュムレータ18を着脱可能にしても良いし、シリンダロッド部9の長さを図6(A)(B)に示す如く短くしても良い。
【0032】
次に上記実施の形態の第二例の作動を説明する。
【0033】
水平方向の振動や揺れを生じる場合には、第一例と同様にシリンダケース部10に対して摺動部11が球面軸受24で回動すると共に、台座部6の曲面5に対して摺動部11が摺動する。そして摺動部11の底面が移動した際には、台座部6の曲面5により、摺動部11が台座部6の凹部の底(元の位置)へ戻ろうとして復元力を生じ、水平方向の振動等を減衰する。
【0034】
ここで第二例のダンパ装置は、鉛直方向の振動や揺れに対応できないが、鉛直方向の振動等を無視できる場合や、鉛直方向の振動等がない場合には極めて有効である。
【0035】
而して、このような実施の形態の第二例によれば、摺動部11の摺動等により水平方向の振動等を減衰するので、水平方向の振動に積層ゴムを用いることなく対応でき、よって積層ゴムを不要にして装置構成の自由度を高めることができる。またアキュムレータ18を無くすので、製造コストを低減することができる。
【0036】
尚、本発明のダンパ装置は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0037】
1 下方基礎体
2 上方基礎体
3 下側構成部
4 上側構成部
5 曲面
6 台座部
9 シリンダロッド部
10 シリンダケース部
11 摺動部
12 油膜室
15 油溜め
18 アキュムレータ
19 第一の連通孔
20 第二の連通孔
23 流路部材
24 球面軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下方基礎体と上方基礎体の間に設置されるように、前記下方基礎体に配置される下側構成部と、前記上方基礎体に設置され且つ下側構成部に支持される上側構成部とを備え、
下側構成部は、下方基礎体の上部に配置されて上面に凹状の曲面を形成する台座部を備え、
上側構成部は、上方基礎体の下部から下方に突出するシリンダロッド部と、該シリンダロッド部の外側に位置してシリンダロッド部との間に油溜めを形成するシリンダケース部と、該シリンダケース部に球面軸受を介して配置され且つ前記台座部の曲面に油膜室を介して配置される摺動部とを備え、
上側構成部の油溜めと油膜室は連通して構成されたことを特徴とするダンパ装置。
【請求項2】
油溜めに接続されるアキュムレータを備えたことを特徴とする請求項1に記載のダンパ装置。
【請求項3】
上側構成部は、油溜めと油膜室を連通するように、シリンダケース部及び摺動部を貫通する連通孔を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載のダンパ装置。
【請求項4】
上側構成部は、油溜めと油膜室を連通する流路部材を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載のダンパ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−37021(P2012−37021A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180271(P2010−180271)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】