説明

チェーンテンショナー

【課題】 取付場所の制約を受けることがなく、駆動側スプロケットの回転時、停止時を問わずにチェーンの張力を保つことができるチェーンテンショナーを提供すること。
【解決手段】 駆動側スプロケット9と従動側スプロケット10に掛け渡されたチェーン2の張力を保つチェーンテンショナー1であって、前記駆動側スプロケット9と前記従動側スプロケット10との間にて対向する前記チェーン1の一方に噛合する第1テンションスプロケット7a及び他方に噛合する第2テンションスプロケット7bと、前記第1テンションスプロケット7aと前記第2テンションスプロケット7bのうち、少なくとも一方を前記チェーン1の張力を保つ方向へ付勢する付勢手段と、を備え、前記チェーン1のみによって保持されている構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、駆動側スプロケットと従動側スプロケットに掛け渡されたチェーンの張力を保つ、チェーンテンショナーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
チェーンテンショナーは、回転動力を伝達するチェーンを駆動する駆動側スプロケットと、前記チェーンに駆動される従動側スプロケット間に対向する前記チェーンの一方又は両方からテンション部材により押圧を加え、前記チェーンに過度の弛みが発生しないようにしている。しかし、使用に伴って生じる前記チェーンの伸びにより、さらなる弛みが発生した場合、各テンション部材の配設位置の調整をやり直す必要があった。
【0003】
そこで、この問題を解決するものとして、特許文献1に記載されたチェーンテンショナーが知られている。特許文献1の第1図にはチェーンテンショナーAの使用状態が図示されている。駆動側スプロケット2と従動側スプロケット3に掛け渡された無端状チェーン1に対し、外部に固定された揺動支点10を中心に揺動可能な支持アーム4と、支持アーム4に設けられた取付孔7に回転自在に取り付けられ無端状チェーン1の外周面部に噛み合わされる2つのテンション部材5、6を備えている。無端状チェーン1は、従動側スプロケット3から駆動側スプロケット2に至る往路部1aと、駆動側スプロケット2から従動側スプロケット3に至る復路部1bとを形成している。
【0004】
上記のチェーンテンショナーAは、駆動側スプロケット2が回転して往路部1aに負荷がかかると、往路部1aのテンション部材5が無端状チェーン1の内周面側から外周面側に向け押圧を受けて図中右上方向に移動する。テンション部材5の移動に伴い、支持アーム4が揺動支点10を中心に図中右方向へ揺動するため、復路部1bのテンション部材6が外周面側から内周面側に向け移動して押圧を加える。そして、支持アーム4は過度の弛みがなくなった状態で静止するが、無端状チェーン1に伸びが生じさらに弛みが発生した場合、再び無端状チェーン1の弛みの無くなる位置まで揺動するので、無端状チェーン1の伸びに対する追従性が生まれ、その過度の弛みを自動的に調整することができる。
【特許文献1】特開平11−59553号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のチェーンテンショナーAによれば、駆動側スプロケット2の回転により、支持アーム4が揺動支点10を中心に図中右方向へ揺動して、無端状チェーン1の往路部1a及び復路部1bに押圧を加える構成であることから、駆動側スプロケット2の停止時は支持アーム4が揺動せず、無端状チェーン1に弛みが発生する。また、支持アーム4の揺動支点10を外部に取り付ける必要があり、取付場所の制約を受けるという問題が生じる。
【0006】
そこで、本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、取付場所の制約を受けることがなく、駆動側スプロケットの回転時、停止時を問わずにチェーンの張力を保つことができるチェーンテンショナーを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明では、駆動側スプロケットと従動側スプロケットに掛け渡されたチェーンの張力を保つチェーンテンショナーであって、
前記駆動側スプロケットと前記従動側スプロケットとの間にて対向する前記チェーンの一方に噛合する第1テンションスプロケット及び他方に噛合する第2テンションスプロケットと、
前記第1テンションスプロケットと前記第2テンションスプロケットのうち、少なくとも一方を前記チェーンの張力を保つ方向へ付勢する付勢手段と、を備え、
前記チェーンのみによって保持されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
よって、本発明のチェーンテンショナーにあっては、駆動側スプロケットと従動側スプロケット間に対向するチェーンの一方に噛合する第1テンションスプロケット及び他方に噛合する第2テンションスプロケットと、第1テンションスプロケットと第2テンションスプロケットのうち、少なくとも一方をチェーンの張力を保つ方向へ付勢する付勢手段を備えているため、駆動側スプロケットの回転時、停止時を問わず常にチェーンの往路部及び復路部に押圧を加えている。また、チェーンテンショナーはチェーンによってのみ保持される構成としたため、チェーンテンショナーは浮いた状態で作動している。
この結果、駆動側スプロケットの回転時、停止時を問わず常にチェーンの張力を保つことができる。また、チェーンテンショナーの外部への取り付けが不要となり、取付場所の制約を受けない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明のチェーンテンショナーを実施するための最良の形態を、図面に示す実施例1及び実施例2に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
まず、構成を説明する。
図1はチェーン2に取り付けられた実施例1のチェーンテンショナー1を示す模式図である。
実施例1のチェーンテンショナー1は、図1に示すように、チェーン2と、ガイドバー3(支柱)と、第2固定部材4(第2部材)と、第1固定部材5(第1部材)と、スライド部材6(移動部材)と、第1テンションスプロケット7aと、第2テンションスプロケット7bと、テンションスプリング8(弾性部材)と、駆動側スプロケット9と、従動側スプロケット10と、六角穴付ボルト13,13と、を備えている。
【0011】
前記ガイドバー3の一端に固定された第1固定部材5には、チェーン2の復路部2bの外周面側に噛合する第1テンションスプロケット7aを回転自在に保持する六角穴付ボルト13が螺合されている。
【0012】
前記ガイドバー3の中央部にガイドバー3の軸方向へ摺動可能に取り付けられたスライド部材6には、チェーン2の往路部2aの外周面側に噛合する第2テンションスプロケット7bを回転自在に保持する六角穴付ボルト13が螺合されている。
【0013】
前記ガイドバー3の他端には、第2固定部材4が固定されており、前記スライド部材6と第2固定部材4との間には、ガイドバー3と同心状にテンションスプリング8が介装されている。つまり、テンションスプリング8の両端が第2固定部材4及びスライド部材6に当接し、スライド部材6に対し第1固定部材5側へ押圧を加える。
【0014】
前記チェーンテンショナー1のチェーン2への取り付けは、テンションスプリング8の弾性力に逆らってスライド部材6を第2固定部材4側へ移動させ、第1及び第2テンションスプロケット7a,7b間の距離を広げる。そして、チェーン2の外周面側を第1及び第2テンションスプロケット7a,7b間に噛み合わせ、テンションスプリング8の弾性力を解放する。これによって、チェーンテンショナー1は、チェーン2のみによって保持される。
【0015】
次に、作用を説明する。
上記の構成から成るチェーンテンショナー1の作動を図1において説明する。
駆動側スプロケット9の停止時は、駆動側スプロケット9と従動側スプロケット10に掛け渡されたチェーン2における従動側スプロケット10から駆動側スプロケット9に至る往路部2aと、駆動側スプロケット9から従動側スプロケット10に至る復路部2bとに弛みが生じる。
この弛みの生じる往路部2a及び復路部2bに、チェーンテンショナー1の第2及び第1テンションスプロケット7b,7aをそれぞれ噛合させ、第2固定部材4及びスライド部材6間に介装されたテンションスプリング8の弾性力により、第1及び第2テンションスプロケット7a,7bが、復路部2b及び往路部2aの外周面側から内周面側へ押圧を加えるため、駆動側スプロケット9の停止時において、チェーン2の張力を保つことができる。
【0016】
一方、駆動側スプロケット9が矢印の方向に回転した時、チェーン2の往路部2aは張りが生じ、復路部2bには弛みが生じる。しかし、チェーン2の往路部2a及び復路部2bに、第2及び第1テンションスプロケット7b,7aをそれぞれ噛合させ、第2固定部材4及びスライド部材6間に介装されたテンションスプリング8の弾性力により、第1及び第2テンションスプロケット7a,7bが、復路部2b及び往路部2aの外周面側から内周面側へ押圧を加えるため、駆動側スプロケット9の回転時において、チェーン2の張力を保つことができる。
【0017】
次に、効果を説明する。
実施例1のチェーンテンショナー1は、上記のように、駆動側スプロケット9が回転時であるか停止時であるかを問わずチェーン2の張力を保つことができる。
【0018】
さらに、駆動側スプロケット9が図1に示す矢印の方向へ、長期にわたる連続回転や高速回転する場合であっても、チェーン2の往路部2a及び復路部2bに噛合する第2及び第1テンションスプロケット7b,7aは回転自在で、且つ、チェーン2の外周面側から内周面側に常に押圧を加えているため、チェーンテンショナー1は、駆動側スプロケット9及び従動側スプロケット10間に掛け渡されたチェーン2に確実に保持され、且つ、チェーン2の張力を保つことができる。
【0019】
加えて、第1及び第2テンションスプロケット7a,7bを支持する第1固定部材5及びスライド部材6は、チェーン2の過度の弛みが無くなった状態で静止するが、使用に伴ってチェーン2に伸びが生じ、さらに弛みが発生すると、再びチェーン2の弛みが無くなる位置まで互いが近づく方向へ移動するので、チェーン2の伸びに対する追従性が生まれ、弛みを自動的に調整することができる。
【0020】
実施例1のチェーンテンショナー1は、上記のように、チェーン2のみによって自立保持される構成としたため、従来技術のように、チェーンテンショナーの外部への取り付けが不要となり、取付場所の制約を受けない。
【実施例2】
【0021】
実施例2は、図1に示す実施例1に対して、スライド部材6と第2固定部材4との距離を保持する保持手段を付加した例である。
【0022】
まず、構成を説明すると、図2に示すように、保持手段は、第2固定部材4に設けられた貫通孔16を貫通し、スライド部材6に設けられた取付孔15に一端が螺合するボルト14(ボルト部材)と、スライド部材6に当接し、ボルト14を固定する固定ナット19と、前記ボルト14に螺合され第2固定部材4の側面に当接する蝶ナット17(ナット部材)と、から構成される。なお、図2に示すチェーンテンショナー1'において、図1に示すチェーンテンショナー1と同一部品には同一の符号を付して説明を省略する。
【0023】
上記の構成から成る保持手段の作用を図2において説明する。
ボルト14に螺合された蝶ナット17を第2固定部材4に当接する位置まで捩じる。さらに蝶ナット17を捩じ込むと、ボルト14が矢印A方向へ引張られる。これに伴いテンションスプリング8の弾性力に抗してスライド部材6が矢印A方向へ移動するため、第1及び第2テンションスプロケット7a,7b間の距離を広げることができる。
【0024】
また、蝶ナット17を反対方向に捩じると、テンションスプリング8の弾性力によって、スライド部材6を矢印B方向へ押すため、第1及び第2テンションスプロケット7a,7b間の距離を縮めることができる。
【0025】
使用方法は、ボルト14に螺合されている蝶ナット17をテンションスプリング8が一杯に縮むまで捩じ込み、第1及び第2テンションスプロケット7a,7b間の距離を一杯に広げる。この状態でチェーン2の往路部2aと復路部2bの外周面部に第2及び第1テンションスプロケット7b、7aを取り付ける。そして、蝶ナット17をかしめ部18近傍まで一杯にゆるめれば取り付け完了となる。ここで、第2固定部材4の蝶ナット17側の側面と同蝶ナット17間の距離は、駆動側スプロケット9の駆動時におけるスライド部材6の移動等により、お互いが当接しない距離を有する。従って、保持手段の構成は、駆動側スプロケット9の駆動時において、作動状態に影響を及ぼすものではない。
【0026】
次に、効果を説明すると、この実施例2のチェーンテンショナー1'では、第2固定部材4に設けられた貫通孔16を貫通し、スライド部材6に設けられた取付孔15に一端が螺合するボルト14と、スライド部材6に当接しボルト14を固定する固定ナット19と、ボルト14に螺合され第2固定部材4の側面に当接する蝶ナット17と、から成る保持手段を備えたことにより、蝶ナット17の捩じり方向及び捩じり量に応じて、スライド部材6の矢印A方向及びB方向への移動を簡単に行うことができる。従って、チェーンテンショナー1'における第1及び第2テンションスプロケット7a,7b間の距離の制御が可能となり、チェーン2への取り付けが容易に行うことができる。
【0027】
以上、本発明のチェーンテンショナーを実施例1及び実施例2に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0028】
実施例1,2のチェーンテンショナー1は、チェーン2の往路部2aに第2テンションスプロケット7bを噛合し、復路部2bに第1テンションスプロケット7aを噛合させた例を示したが、チェーン2の往路部2aに第1テンションスプロケット7aを噛合させ、復路部2bに第2テンションスプロケット7bを噛合して使用しても何等差し支えない。
【0029】
実施例1,2のチェーンテンショナー1は、第1及び第2テンションスプロケット7a,7bの回転面が水平面と平行となる向きで用いられる例を示したが、第1及び第2テンションスプロケット7a,7bの回転面が水平面と平行とならない向きで用いても何等差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0030】
実施例1,2のチェーンテンショナーは車両搭載機器や様々な産業機器に有効に適用することができる。一例として、駆動側スプロケットを電動モータのモータ軸に設定し、車両用ベルト式無段変速機のオイルポンプに従動側スプロケットを設定し、両スプロケットに掛け渡されたチェーンの張力を保つためのチェーンテンショナーとして適用することができる。実施例1,2のチェーンテンショナーは、一例として、駆動側スプロケットを電動モータのモータ軸に設定し、従動側スプロケットに設定されたバリ取り機を間歇運転し、両スプロケットに掛け渡されたチェーンの張力を保つためのチェーンテンショナーとして適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】チェーン2に取り付けられた実施例1のチェーンテンショナー1を示す模式図である。
【図2】実施例2のチェーンテンショナー1'を示す正面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 チェーンテンショナー
2 チェーン
2a 往路部
2b 復路部
3 ガイドバー
4 第2固定部材
5 第1固定部材
6 スライド部材
7a 第1テンションスプロケット
7b 第2テンションスプロケット
8 テンションスプリング
9 駆動側スプロケット
10 従動側スプロケット
11 挿入孔
12 取付孔
13 六角穴付ボルト
14 ボルト
15 取付孔
16 貫通孔
17 蝶ナット
18 かしめ部
19 固定ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動側スプロケットと従動側スプロケットに掛け渡されたチェーンの張力を保つチェーンテンショナーであって、
前記駆動側スプロケットと前記従動側スプロケットとの間にて対向する前記チェーンの一方に噛合する第1テンションスプロケット及び他方に噛合する第2テンションスプロケットと、
前記第1テンションスプロケットと前記第2テンションスプロケットのうち、少なくとも一方を前記チェーンの張力を保つ方向へ付勢する付勢手段と、を備え、
前記チェーンのみによって保持されていることを特徴とするチェーンテンショナー。
【請求項2】
請求項1に記載のチェーンテンショナーにおいて、
前記付勢手段は、前記チェーンの一方の外周面に噛合する前記第1テンションスプロケットを回転自在に支持する第1部材と、前記第1部材を一端に固定した支柱と、前記支柱に摺動可能に装着されるとともに前記チェーンの他方の外周面に噛合する前記第2テンションスプロケットを回転自在に支持する移動部材と、前記移動部材を前記第1部材側へ押圧する弾性部材と、を備えたことを特徴とするチェーンテンショナー。
【請求項3】
請求項2に記載のチェーンテンショナーにおいて、
前記付勢手段は、前記支柱の他端に第2部材を固定し、前記移動部材と前記第2部材との間に前記弾性部材を配設したことを特徴とするチェーンテンショナー。
【請求項4】
請求項3に記載のチェーンテンショナーにおいて、
前記付勢手段は、移動部材及び前記第2部材間に設けられ、前記弾性部材の弾性力に抗して、前記移動部材と前記第2部材との距離を保持する保持手段を備えたことを特徴とするチェーンテンショナー。
【請求項5】
請求項4に記載のチェーンテンショナーにおいて、
前記保持手段は、前記移動部材に一端が固定され、前記第2部材を貫通するボルト部材と、前記ボルト部材に螺合され前記第2部材の前記ボルト部材の他端側の面に当接するナット部材と、を備えたことを特徴とするチェーンテンショナー。
【請求項6】
駆動側スプロケットと従動側スプロケットに掛け渡されたチェーンの張力を保つチェーンテンショナーであって、
前記チェーンテンショナーは、前記チェーンによってのみ保持されていることを特徴とするチェーンテンショナー。

【図1】
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【図2】
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