説明

チェーンドライブ装置

【課題】張力変動の影響を軽減してチェーンの小型軽量化を図るとともに、チェーンの振動による騒音を防止しシステムの静粛性を向上させるとともに、組み立てやメンテナンス作業を効率的に行うことのできるチェーンドライブ装置を提供すること。
【解決手段】駆動スプロケットと、従動スプロケットと、両スプロケットの間に掛架されて回転力を伝達するチェーンとを有するチェーンドライブ装置において、スプロケット170のスプロケット歯171が、該スプロケット170の全周にわたり回転速度変動に同期する位相で不等間隔のピッチに設定され、ピッチが最も大きくなる位置及びピッチが最も小さくなる位置を識別可能なマーク172、173が付されていること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動スプロケットと従動スプロケットとの間にチェーンが掛架されて回転力を伝達するチェーンドライブ装置に関し、さらに詳しくは、チェーンの張力変動の影響を軽減するとともに振動や騒音を軽減する機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、一般的なDOHC型、すなわち、シリンダーヘッドに吸排気弁を駆動する二本のカムシャフトを備えたエンジンにおけるタイミングシステムに使用されるチェーンドライブ装置500は、図5に示すように駆動スプロケット550と従動スプロケット560、従動スプロケット570に掛架されたチェーンCHにより動力を伝達するように構成されており、チェーンCHの緩み側の従動スプロケット560と駆動スプロケット550との間にテンショナTと協動して循環走行するチェーンCHに摺接して適切な張力を付与するとともに走行中のチェーンCHの振動、横振れを防止するための滑り機能を備えた緩み側のチェーンガイド540が配置されている。
【0003】
一方、チェーンCHの張り側の従動スプロケット570と駆動スプロケット550との間には、走行軌道を所定のスパン長さ(従動スプロケット570の噛外れ点〜駆動スプロケット550の噛始め点に至る軌道の長さ)にガイド規制する張り側のチェーンガイド510からなるガイド機構が用いられている。
【0004】
この緩み側のチェーンガイド540は、エンジンの躯体Eの内壁に取付ボルト、取付ピン等の軸支手段Pで揺動可能に取り付けられており、テンショナTにより緩み側のチェーンガイド540のシュー部分をチェーンCHに向けて付勢されている。一方、張り側のチェーンガイド510は、躯体Eの内壁に取付ボルト、取付ピン等の固定手段Qにより固設されており、循環走行するチェーンCHの走行軌道をガイド規制している(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
このようなチェーンドライブ装置のレイアウトでは、左右のカムシャフトに連結された吸排気弁の駆動機構を駆動するためのカムシャフトに掛かる負荷トルクの周期変動が、カムシャフト及びクランクシャフトの回転に同期して出現する。
さらに、クランクシャフトの回転速度変動によっても、循環走行するチェーンCHの張り側に周期的な張力変動が発生する。
【0006】
例えば、吸排気弁の駆動機構を駆動するためのカムシャフトに掛かる負荷トルクにより、直列4気筒の場合、カムシャフト1回転当たり4周期の張力変動が発生し、直列6気筒の場合、カムシャフト1回転当たり6周期の張力変動が発生する。すなわち、クランクシャフト及びカムシャフトに、吸排気弁駆動による負荷トルク変動に対応した張力変動が生じる。このため、上述したような、循環走行するチェーンCHの張り側で走行軌道をガイド規制する張り側のチェーンガイド510を配置した従来のチェーンドライブ装置500では、この張力変動のピーク値が過大になる恐れがあるため、その最大張力を許容できる引張り強度の大きなチェーンを採用する必要があり、チェーンドライブ装置の重量が重くなるとともに、高張力に起因する騒音も発生し、小型軽量化及び低騒音を阻害してきた。
【0007】
これらの問題を解決するために、スプロケットを負荷トルクの周期変動に同期させて非円形としたり、歯底半径を変化させて張力変動のピーク値が過大になるのを防ぐものが知られている(例えば、特許文献2、3参照)。
【0008】
しかしながら、非円形のスプロケットや歯底半径が変化するスプロケットを使用した場合、スプロケットの回転に伴いチェーンに走行方向に対して直角の方向に力と変位を与えることとなるため、チェーンの振動による騒音やチェーンガイドとの接触騒音が増加するという弊害があった。
また、これらのスプロケットの半径の変化はごく僅かであるため、組み立てやメンテナンスに際して、その位相を正確に合わせる作業は非常に手間がかかっていた。
【特許文献1】特開2003−214504号公報(第2頁第2段落、第11図)
【特許文献2】特表2007−506043号公報(第6乃至9頁、第1、8、9図)
【特許文献3】特開2003−184996号公報(第5乃至6頁、第2、3図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前述したような従来技術の問題を解決するものであって、すなわち、本発明の目的はチェーンの小型軽量化を図ると共に、システムの静粛性を向上させたチェーンドライブ装置を提供することであり、特に回転速度変動や負荷トルク変動に対応した張力変動の影響を軽減しつつ、チェーンの振動による騒音を防止するとともに、組み立てやメンテナンス作業を効率的に行うことのできるチェーンドライブ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本請求項1に係る発明は、駆動スプロケットと、従動スプロケットと、両スプロケットの間に掛架されて回転力を伝達するチェーンとを有し、前記駆動スプロケットと従動スプロケットとの位相を所定の関係で同期させて回転駆動するチェーンドライブ装置において、前記駆動スプロケットまたは従動スプロケットのいずれか一方あるいは両方のスプロケットのスプロケット歯のピッチが、駆動軸に生じる回転速度変動あるいはスプロケットの周期的な負荷変動に同期する位相で周方向に周期的に増減するように設定され、前記周期的にスプロケット歯のピッチが増減するスプロケットの側面に、スプロケット歯のピッチが最も大きくなる位置及びスプロケット歯のピッチが最も小さくなる位置を識別可能なマークが付されていることにより、前記課題を解決するものである。
【0011】
本請求項2に係る発明は、請求項1に記載されたチェーンドライブ装置の構成に加えて、前記駆動スプロケットが、エンジンのクランクシャフトに、前記従動スプロケットが、エンジンの吸排気弁を駆動するカムシャフトに、それぞれ設けられており、前記駆動軸に生じる回転速度変動あるいは周期的な負荷変動が、前記クランクシャフトの駆動に伴う回転速度変動あるいはカムシャフトの吸排気弁の駆動に伴う負荷変動であることにより、前記課題をさらに解決するものである。
【0012】
本請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に記載されたチェーンドライブ装置の構成に加えて、前記従動スプロケットが、チェーンの走行経路を規定し、あるいは、チェーンのテンションを調整するためのアイドラスプロケットを含みことにより、前記課題をさらに解決するものである。
【発明の効果】
【0013】
本請求項1に係る発明のチェーンドライブ装置は、駆動スプロケットと、従動スプロケットと、両スプロケットの間に掛架されて回転力を伝達するチェーンとを有し、前記駆動スプロケットと従動スプロケットとの位相を所定の関係で同期させて回転駆動するチェーンドライブ装置において、前記駆動スプロケットまたは従動スプロケットのいずれか一方あるいは両方のスプロケットのスプロケット歯のピッチが、駆動軸に生じる回転速度変動あるいはスプロケットの周期的な負荷変動に同期する位相で周方向に周期的に増減するように設定されていることにより、張り側チェーンがスプロケット歯に噛始めあるいは噛外れる歯位置が変化し、スプロケット間のチェーン張り区間に存在するチェーンの実質長さが変化するため、チェーンの走行方向以外の変位や力を与えることなく張力を変化させたり回転速度変動あるいは負荷変動を吸収したりすることができ、チェーンドライブ装置全体を、可動部分が少なく構造が単純で小型軽量のものとすることができ、振動や騒音等を軽減することができるとともに、周期的にスプロケット歯のピッチが増減するスプロケットの側面に、スプロケット歯のピッチが最も大きくなる位置及びスプロケット歯のピッチが最も小さくなる位置を識別可能なマークが付されていることにより、ごく僅かなピッチの違いであってもマークによりその位置を正確に特定できるため、負荷の大きい歯の特定や位相合わせが容易に行うことができ、また、タイミングマークを兼用できるため、組み立てやメンテナンスを効率的に行うことができる。
【0014】
また、本請求項2に係る発明のチェーンドライブ装置は、請求項1に係る発明のチェーンドライブ装置が奏する効果に加えて、駆動スプロケットがエンジンのクランクシャフトに、従動スプロケットがエンジンの吸排気弁を駆動するカムシャフトに、それぞれ設けられており、駆動軸に生じる回転速度変動あるいは周期的な負荷変動が、クランクシャフトの駆動に伴う回転速度変動あるいはカムシャフトの吸排気弁の駆動に伴う負荷変動であることにより、特に小型軽量化と静粛性が要求されるカムシャフトを備えたエンジンにおいて、駆動軸に生じる回転速度変動あるいはカムシャフトの負荷変動に伴い生ずる張力変動による影響を効率的に排除できるとともに、チェーンドライブ装置全体を、可動部分が少なく構造が単純で小型軽量のものとすることができるとともに、振動や騒音等を軽減することができ、エンジン全体の小型軽量化を図ることができる。
【0015】
また、本請求項3に係る発明のチェーンドライブ装置は、請求項1または請求項2に係る発明のチェーンドライブ装置が奏する効果に加えて、従動スプロケットがチェーンの走行経路を規定し、あるいは、チェーンのテンションを調整するためのアイドラスプロケットを含むことにより、摩擦抵抗以外の回転負荷を受けず張力変動による影響を受けやすいアイドラスプロケットへの影響を効率的に排除できるため、さらに、チェーンドライブ装置振動や騒音等を軽減することができ、エンジン全体の小型軽量化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のチェーンドライブ装置は、駆動スプロケットと、従動スプロケットと、両スプロケットの間に掛架されて回転力を伝達するチェーンとを有し、前記駆動スプロケットと従動スプロケットとの位相を所定の関係で同期させて回転駆動するチェーンドライブ装置において、前記駆動スプロケットまたは従動スプロケットのいずれか一方あるいは両方のスプロケットのスプロケット歯のピッチが、駆動軸に生じる回転速度変動あるいはスプロケットの周期的な負荷変動に同期する位相で周方向に周期的に増減するように設定され、周期的にスプロケット歯のピッチが増減するスプロケットの側面に、スプロケット歯のピッチが最も大きくなる位置及びスプロケット歯のピッチが最も小さくなる位置を識別可能なマークが付されて、テンショナ等によりチェーンの走行方向以外の力を与えることなく張力を変化させたり回転速度変動あるいは負荷変動を吸収したりすることができ、チェーンドライブ装置全体を、可動部分が少なく構造が単純で小型軽量のものとすることができるとともに、振動や騒音等を軽減することができ、組み立てやメンテナンス作業を効率的に行うことができるという効果を発揮するものであれば、その具体的な実施態様は如何なるものであっても何ら構わない。
【0017】
例えば、本発明のチェーンドライブ装置の識別可能なマークの形状は、それぞれスプロケット歯のピッチが最も大きくなる位置及びスプロケット歯のピッチが最も小さくなる位置が識別可能で特定可能であればいかなる形状でも良く、刻印やペイント等のいかなる方法で付されたものあっても良い。
【実施例】
【0018】
以下に、本発明のチェーンドライブ装置について図面を基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施例であるチェーンドライブ装置のスプロケットのスプロケット歯の概略図であり、図2は、図1に示す本発明の一実施例であるチェーンドライブ装置の動作説明図であり、図3は、図2に示した動作時のスプロケット歯の位相と負荷との関係を示す図であり、図4は、図1に示す本発明の一実施例であるチェーンドライブ装置と従来例の実験結果の比較図である。
【0019】
本発明の一実施例であるチェーンドライブ装置は直列4気筒のDOHCエンジンに適用され、駆動軸1回転あたり2周期の回転速度変動、すなわち従動スプロケット1回転当たり4周期の回転速度変動が発生するものであり、チェーンの張り側の従動スプロケットのスプロケット歯のピッチ以外の構成は図5に示す従来例と全く同様である。
【0020】
チェーンCHの張り側の従動スプロケット170は、1回転当たり4周期の回転速度変動に同期してスプロケット歯171の歯位置の変化も4周期繰り返されるように構成されており、図1に示すように、スプロケット歯171のピッチが最も広いPmaxである部分、および、ピッチが最も狭いPminである部分が45度の間隔で交互になるようピッチが周期的に増減されている。
このことでスプロケット170の回転時に、チェーンCHの噛外れ点でのスプロケット歯171の歯位置は、スプロケット歯が等ピッチであるものと比較して周期的に進み・遅れを繰り返すこととなる。
【0021】
また、従動スプロケット170の側面のスプロケット歯171の近傍には、ピッチが最も狭いPminである部分を示す第1マーク172、ピッチが最も広いPmaxである部分を示す第2マーク173が付されている。
なお、図1では説明にためにスプロケット歯171のピッチが最も広いPmaxである部分、および、ピッチが最も狭いPminである部分のピッチを誇張して図示しているが、実際ピッチは、チェーンCHの張り側の従動スプロケット170と駆動スプロケットの間のチェーン張り区間の距離が300mm程度の一般的な直列4気筒のDOHCエンジンにおいて、通常のピッチ幅に対して0.2mm程度の増減であればよく、ピッチの変化によってチェーンCHの噛み合いに影響を及ぼすことはないとともに、第1マーク172および第2マーク173がない状態では目視での位置の確認は困難である。
【0022】
このように構成されたチェーンCHの張り側の従動スプロケット170のスプロケット歯171のスプロケット歯が等ピッチであるものと比較した歯位置とその動作について、図2を用いて説明する。
図2(a)乃至(d)に示すように、張り側の従動スプロケット170にはチェーンCHが掛架され図面上時計回りに回転を伝達される。チェーンCHは噛外れ点Kで張り側の従動スプロケット170から離脱する。
【0023】
なお、張り側の従動スプロケット170のスプロケット歯171については、説明のためにピッチが最も広い部分Pmaxを白抜き、ピッチが最も狭い部分Pminを黒抜きで模式的に示し、具体的な歯形の図示は省略してある。また、本実施例では、ピッチは正弦波曲線状に変化するものである。
【0024】
まず、図2(a)の状態は、張り側の従動スプロケット170のPmaxが噛外れ点Kを過ぎて次にPminが噛外れ点Kに至る途中で、図2(d)の状態から、噛外れ点Kに位置する歯のピッチが徐々に狭くなり歯位置の遅れる速度が遅くなって標準のピッチ相当のスプロケット歯が噛外れ点Kに位置した状態であり、標準より広いピッチの歯が噛外れ点Kをすべて通過し、噛外れ点Kにおいて最も歯位置が遅れた状態である。
【0025】
次に、図2(b)の状態は、図2(a)の状態から、噛外れ点Kにかかる歯のピッチが徐々に狭くなって歯位置の進む速度が速くなり、噛外れ点Kに最もピッチの狭いPminが位置して、噛外れ点Kにおいて最も歯位置の進む速度が速い状態である。
【0026】
図2(c)の状態は、張り側の従動スプロケット170のPminが噛外れ点Kを過ぎて次にPmaxが噛外れ点Kに至る途中で、図2(b)の状態から、噛外れ点Kに位置する歯のピッチが徐々に広くなり歯位置の進む速度が遅くなって標準のピッチ相当のスプロケット歯が噛外れ点Kに位置した状態であり、標準より狭いピッチの歯が噛外れ点Kをすべて通過し、噛外れ点Kにおいて最も歯位置が進んだ状態である。
【0027】
図2(d)の状態は、図2(c)の状態から、噛外れ点Kに位置する歯のピッチが徐々に広くなって歯位置の遅れる速度が速くなり、噛外れ点Kに最もピッチの広いPmaxが位置して、噛外れ点Kにおいて最も歯位置の遅れる速度が速い状態である。
【0028】
このように、図2(a)乃至(d)の状態を繰り返しながら歯位置の進み・遅れが周期的に発生することにより、チェーンCHの張り側の従動スプロケット170と駆動スプロケットの間のチェーン張り区間に存在するチェーンCHの実質長さが周期的に変化することとなる。
【0029】
次に、チェーンCHの張り側の従動スプロケット170のスプロケット歯171の歯位置と回転速度変動の関係について、図3を用いて説明する。
ここで、図3のa乃至d点は、それぞれ、図2(a)乃至(d)の状態に対応している。
【0030】
まず、a点においては、噛外れ点Kにおける歯位置が最も遅れた状態でチェーン張り区間に存在するチェーンCHの実質長さが最も短い状態であり、a点から次のc点に向かって位相が進んでチェーン張り区間に存在するチェーンCHの実質長さが長くなっていく。
この区間が、回転速度増大による張力の増大をチェーンCHの実質長さを増大させることにより軽減できる区間である。
【0031】
そして、b点が、噛外れ点Kにおいて最も歯位置の進む速度が速い点であるから、チェーンCHの実質長さの増大速度も最高であり、最も回転速度の大きな点をここで同期させることにより、最も効果的に回転速度増大による張力の増大を軽減することができる。
【0032】
次に、c点においては、噛外れ点Kにおける歯位置が最も進んだ状態でチェーン張り区間に存在するチェーンCHの実質長さが最も長い状態であり、c点から次のa点に向かって歯位置が遅れてチェーン張り区間に存在するチェーンCHの実質長さが短くなっていく。
この区間は、回転速度増大による張力の増大を軽減しにくい区間であり、特にd点が噛外れ点Kにおいて最も歯位置の遅れる速度が速い点であり、チェーンCHの実質長さの減少速度も最高であるから最も張力の増大を軽減しにくく、最も回転速度の小さな点をこのd点に同期させる。
【0033】
このように、チェーンCHの張り側の従動スプロケット170のスプロケット歯171の位相と回転速度変動を最適な位相関係で同期させることにより、チェーンの走行方向以外の変位や力を一切与えることなく回転速度変動を効果的に吸収することができ、チェーンにかかる最大張力を軽減しチェーンを小型軽量化できるとともに、チェーンドライブ装置全体を、可動部分が少なく構造が単純で小型軽量のものとすることができ、さらに、チェーンの振動による騒音を防止したチェーンドライブ装置を提供することができるなど、その効果は甚大である。
【0034】
図4は、一例として、直列4気筒エンジンで従動スプロケットが標準スプロケットであるものと本発明の実施例であるピッチが周期的に増減するように設定されたスプロケットとのピーク張力(単位:kN)の実験測定結果をグラフに示したものである。
【0035】
図4(a)は、標準スプロケットでクランク軸の回転速度変動がない状態を示し、他の変動要素(例えばカムシャフトの負荷変動等)により張力が僅かに変動している。
図4(b)は、標準スプロケットでクランク軸が周期的に回転速度変動している状態を示し、回転速度変動周期に同期して大きな張力変動が発生している。
【0036】
図4(c)は、本発明の実施例であるピッチが周期的に増減するように設定されたスプロケットでクランク軸が周期的に回転速度変動している状態を示し、回転速度が最大となる回転角において張り側チェーンの噛外れ点でのスプロケット歯のピッチが最も小さくなるように設定することで、図4(a)と同様の他の構成要素による張力の僅かに変動のみとなり、回転速度変動に伴う張力変動はほぼ吸収される。
【0037】
この実験例ではクランク軸の回転速度(回転数)を6000rpmとした時の効果を示しているが、エンジンの形式や大きさ、他の構成要素の大きさや配置等様々な条件により顕著な効果が表れる回転速度は異なり、一般的に低い回転数では他の張力吸収要素によりある程度張力変動が吸収されるため、特に回転速度が高いほど顕著な効果を発揮する。
そして、一般的にエンジンの性能向上や小型軽量化に際しては高回転まで十分な耐久性をもって使用可能とすることが重要な課題であり、本発明によれば特に回転が高いほど顕著な効果を発揮するものであり、その効果は甚大である。
【0038】
なお、本実施例では、スプロケット歯171の歯位置の進み・遅れ、および従動スプロケットの回転速度変動を正弦波曲線による周期変動としたが、実際の回転速度変動が正弦波曲線でない場合でも、最も回転速度の高くなる回転角位置において噛外れ点Kにおける歯位置の進む速度が最も早くなるように、適宜スプロケット歯171の歯位置の進み・遅れの曲線を設定すればよい。
【0039】
また、本実施例では、全周にわたりピッチが周期的に増減するように設定されるスプロケットは従動スプロケットであるが、駆動スプロケットを全周にわたりピッチが周期的に増減するように設定しても良く、また、従動スプロケット、駆動スプロケットとも全周にわたりピッチが周期的に増減するように設定しても良い。
駆動スプロケットを全周にわたりピッチが周期的に増減するように設定する場合は、チェーン張り区間がチェーンの進行方向後方となり、従動スプロケットの噛外れ点に相当する点である噛始め点における歯位置の進み・遅れとPmax・Pminの関係は、従動スプロケットの噛外れ点のそれと全く逆に設定される。
【0040】
さらに、周期的な回転速度変動以外の様々な振動や騒音に対しても、スプロケットの全周にわたりピッチが周期的に増減するように設定し、スプロケットの回転に伴ってチェーン張り区間に存在するチェーンの実質長さを変化させて、チェーンの走行方向以外の変位や力を与えることなく張力を変化させることにより、共振や共鳴に伴う振動や騒音などを防止することができる。
【0041】
そして、スプロケット歯のピッチが最も大きくなる位置及びスプロケット歯のピッチが最も小さくなる位置を識別可能なマークが付されていることにより、ごく僅かなピッチの違いであってもマークによりその位置を正確に特定できるため、負荷の大きい歯の特定や位相合わせが容易に行うことができ、また、タイミングマークを兼用できるため、組み立てやメンテナンスを効率的に行うことができるなど、その効果は甚大である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施例であるチェーンドライブ装置のスプロケットのスプロケット歯の概略図。
【図2】図1に示す本発明の一実施例であるチェーンドライブ装置の動作説明図。
【図3】図2に示した動作時のスプロケット歯の位相と負荷との関係を示す図。
【図4】図1に示す本発明の一実施例であるチェーンドライブ装置の実験結果の比較図。
【図5】従来のチェーンドライブ装置の概略図。
【符号の説明】
【0043】
170 ・・・従動スプロケット(張り側)
171 ・・・スプロケット歯
172 ・・・第1マーク
173 ・・・第2マーク
500 ・・・チェーンドライブ装置
510 ・・・張り側のチェーンガイド
540 ・・・緩み側のチェーンガイド
550 ・・・駆動スプロケット
560 ・・・従動スプロケット(緩み側)
570 ・・・従動スプロケット(張り側)
CH ・・・チェーン
K ・・・噛外れ点
T ・・・テンショナ
Q ・・・固定手段
E ・・・エンジンの躯体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動スプロケットと、従動スプロケットと、両スプロケットの間に掛架されて回転力を伝達するチェーンとを有し、前記駆動スプロケットと従動スプロケットとの位相を所定の関係で同期させて回転駆動するチェーンドライブ装置において、
前記駆動スプロケットまたは従動スプロケットのいずれか一方あるいは両方のスプロケットのスプロケット歯のピッチが、駆動軸に生じる回転速度変動、あるいはスプロケットの周期的な負荷変動に同期する位相で周方向に周期的に増減するように設定され、 前記周期的にスプロケット歯のピッチが増減するスプロケットの側面に、スプロケット歯のピッチが最も大きくなる位置及びスプロケット歯のピッチが最も小さくなる位置を識別可能なマークが付されていることを特徴とするチェーンドライブ装置。
【請求項2】
前記駆動スプロケットが、エンジンのクランクシャフトに、前記従動スプロケットが、エンジンの吸排気弁を駆動するカムシャフトに、それぞれ設けられており、
前記駆動軸に生じる回転速度変動あるいは周期的な負荷変動が、前記クランクシャフトの駆動に伴う回転速度変動あるいはカムシャフトの吸排気弁の駆動に伴う負荷変動であることを特徴とする請求項1に記載のチェーンドライブ装置。
【請求項3】
前記従動スプロケットが、チェーンの走行経路を規定し、あるいは、チェーンのテンションを調整するためのアイドラスプロケットを含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のチェーンドライブ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−144865(P2010−144865A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−323907(P2008−323907)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000003355)株式会社椿本チエイン (861)
【Fターム(参考)】