説明

チオール系分散剤、及びそれを含む硫化系蛍光体ペースト組成物

【課題】硫化系蛍光体ペースト組成物の分散性を向上できるチオール系分散剤を提供する。
【解決手段】下記式(1)〜式(4):








からなる群から選択される、チオール系分散剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チオール系分散剤、及びそれを含む硫化系蛍光体ペースト組成物に関する。より詳しくは、オキシカルボニル基及びチオール基もしくはメチルチオ基を同時にヘッド基(head group)として含む構造、または、チオール基やチオフェン基をヘッド基として含む構造を有するチオール系分散剤、及びこれを含む硫化系蛍光体ペースト組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、従来の陰極線管(CRT)の代わりに、多様な表示装置が開発されて広く用いられている。この表示装置は、フラットパネルディスプレイ(FPD)であって、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイパネル、電界発光ディスプレイ、電界放出ディスプレイ及び蛍光表示管ディスプレイなどを含んでいる。これら各種の表示装置は、共通的に蛍光膜を含むが、表示装置の発光特性は、蛍光膜の物性によって左右される。
【0003】
SrGaなどの硫化系蛍光体(sulfide phosphor)は、電界放出ディスプレイ、陰極線管ディスプレイ分野で広く用いられている。蛍光体が各種のディスプレイ装置の蛍光膜として用いられる場合、この蛍光体は、所定の支持体上に蛍光体ペースト組成物を均一に塗布した後、それを乾燥することで製造される。主に、硫化系蛍光体ペースト組成物は、溶媒、バインダー及び硫化系蛍光体の混合物からなり、蛍光体の分散性を向上するために分散剤が添加されることもある。
【0004】
上記のような硫化系蛍光体ペーストは、蛍光体ペースト製造時に用いられるエチルセルロース、テルピネオール及びブチルカルビトールアセテート(BCA)などの有機溶媒中で水分と反応したり、化学的に不安定になる傾向がある。硫化系蛍光体ペースト組成物の一部成分は、エチルセルロースのような溶媒に完全に溶解されるが、この場合、表示装置の蛍光膜として使用するとき、表示装置の発光特性が劣化する虞がある。
【0005】
また、硫化系蛍光体における分散剤の粘度減少効果が充分でない場合は、相対的に少量の蛍光体が用いることしかできず、仮に蛍光体の使用量(loading amount)を増加させると、粘度が増加する。したがって、蛍光膜の均一な形成を困難にして作業性が低下し、その結果、生産性も低下することになる。
【特許文献1】特開平7−179711号公報
【特許文献2】特開平2002−97464号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、その目的は、硫化系蛍光体ペースト組成物の分散性を向上できるチオール系分散剤を提供することにある。
【0007】
また、本発明の他の目的は、優れた分散性及び均一な物性を有する硫化系蛍光体ペースト組成物を提供することにある。
【0008】
本発明のさらに他の目的は、優れた製造工程性を有する高輝度の蛍光膜及びこれを含む表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するための本発明の一態様は、オキシカルボニル基及びチオール基もしくはメチルチオ基を同時にヘッド基として含むデュアルヘッド(dual head)構造、または、チオール基やチオフェン基をヘッド基として含む構造を有することを特徴とする、チオール系分散剤に関する。
【0010】
本発明の他の態様は、溶媒及び有機バインダーからなるバインダー溶液と、蛍光体と、前記チオール系分散剤と、を含むことを特徴とする硫化系蛍光体ペースト組成物に関する。
【0011】
本発明の蛍光体ペースト組成物は、硫化系蛍光体ペースト組成物に対して、40〜70質量%の蛍光体、前記蛍光体粉末に対して0.1〜3質量%の分散剤、及び残部のバインダー溶液を含むことを特徴とする蛍光体ペースト組成物に関する。
【0012】
上記の目的を達成するための本発明の他の態様は、本発明の蛍光体ペースト組成物を一般的な方法で製膜して製造されることを特徴とする蛍光膜に関する。
【0013】
本発明のさらに他の態様は、本発明の蛍光膜を含む陰極線発光ディスプレイ装置、液晶ディスプレイ装置、電界発光ディスプレイ装置などの各種の表示装置に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の分散剤は、蛍光体ペースト組成物に添加される場合、蛍光体ペースト組成物の分散性が向上するとともに、有機溶媒による酸化問題を克服できるという効果を有する。特に、本発明の分散剤は、硫化系蛍光体ペースト組成物に添加される場合、一層優れた効果を発揮できる。
【0015】
本発明の分散剤を含む蛍光体ペースト組成物は、分散性の向上及び粘度増加の減少によって、蛍光体をより多く使用できることになり、発光特性の向上した均一な蛍光膜を形成できる。よって、本発明によると、高い輝度及び優れた製造工程性を有するLCDなどの表示装置を製作できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を図面に基づいて詳細に説明する。
【0017】
本発明のチオール系分散剤は、オキシカルボニル基及びチオール基もしくはメチルチオ基を同時にヘッド基として含むデュアルヘッド構造、または、チオール基やチオフェン基をヘッド基として含む構造を有することを特徴とする。
【0018】
具体的に、本発明のチオール系分散剤は、下記式(1)〜式(4)からなる群から選択される。
【0019】
【化1】

【0020】
前記式中、Xは、置換または非置換の炭素数1〜200のアルキル基、置換または非置換の炭素数6〜80のアリール基または置換または非置換の炭素数7〜40のアリールアルキル基であり、Rは、Hまたはメチル基であり、pは、1〜10である。
【0021】
【化2】

【0022】
前記式中、lは、1〜20である。
【0023】
【化3】

【0024】
【化4】

【0025】
本発明のチオール系分散剤は、上記の各式で表される化合物を単独で用いてもよく、2種以上の混合物として用いてもよい。
【0026】
本発明のチオール系分散剤は、硫化系蛍光体ペーストの分散性を向上させるとともに、蛍光体ペースト組成物の粘度を一定に維持しながら蛍光体の使用量を増加させることを許容する。よって、本発明の蛍光体ペースト組成物で製造された蛍光膜または表示装置は、向上した輝度を有する。
【0027】
上記非置換のアルキル基の具体例としては、直鎖であっても、分岐であっても、環状であってもよく特に制限されないが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、2−エチルヘキシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基、ヘンエイコシル基、ドコシル基が挙げられる。
【0028】
上記非置換のアリール基の具体例としては、フェニル基、ベンジル基、フェネチル基、o−,m−若しくはp−トリル基、2,3−若しくは2,4−キシリル基、メシチル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニリル基、ベンズヒドリル基、トリチル基及びピレニル基が挙げられる。
【0029】
上記非置換のアリールアルキル基の具体例としては、トリル基,キシリル基,ベンジル基が挙げられる。
【0030】
上記非置換のアルキル基、アリール基およびアリールアルキル基は、少なくとも一つの置換基を有してもよい。アルキル基、アリール基およびアリールアルキル基が置換基を有する場合に使用できる置換基としては、特に制限されないが、例えば、カルボキシル基または、式:−COOAで表されるオキシカルボニル基(Aは、炭素数1〜12のアルキル基である)が挙げられる。
【0031】
前記式1で表される、特に好ましい分散剤としては、具体的に、下記式(5)が挙げられる。
【0032】
【化5】

【0033】
前記式中、Aは、Hまたは炭素数1〜12のアルキル基であり、m及びnは、それぞれ独立して、1〜20であり、Rは、前記式(1)で定義したとおりである。
【0034】
上記本発明に係る組成物の構成単位の結合形式は、特に制限されず、ランダム、ブロックのいずれの形態で付加してもよい。
【0035】
本発明のチオール系分散剤のうち前記式(5)で表される分散剤は、下記反応式(1)の反応経路によって合成される。
【0036】
【化6】

【0037】
前記反応式(1)で、BMAは、ブチルメタクリレートであり、TMSMAは、トリメチルシリルメタクリレートであり、m及びnは、前記式(5)で定義したとおりである。
【0038】
一方、本発明のチオール系分散剤は、主に硫化系蛍光体ペースト組成物に添加されるが、必ずしも硫化系蛍光体ペースト組成物に制限されることはなく、無機ナノ粒子などを有機溶媒に分散させた任意の分散液にも添加される。
【0039】
上記のような本発明の蛍光体ペースト組成物は、溶媒、バインダー及び蛍光体を含んで構成され、これら各成分は、既存の蛍光体ペースト組成物に用いられたものと同じか類似している。
【0040】
本発明のバインダー溶液は、有機バインダー及び溶媒を含むことできる。有機バインダーは、溶媒に溶解された後で粘性を付与し、蛍光体ペースト組成物が乾燥した後で結合力を付与する。本発明で使用可能な有機バインダー樹脂としては、例えば、アクリル系、スチレン系、セルロース系、メタクリル酸エステルポリマー、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、ポリスチレン、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンカーボネート、ポリメチルメタクリレートが挙げられるが、必ずしもこれらに制限されることはない。また、スクリーンプリンティング時には、エチルセルロースなどのセルロース系ポリマーであることが好ましい。また、これらは単独で用いられても、混合物として用いられてもよい。
【0041】
バインダー溶液を構成する溶媒は、用いられる蛍光体、有機バインダー及び得ようとする蛍光体ペースト組成物の物性などを考慮した上で、既知の溶媒を単独で使用することもできるし、2種以上を混合した混合溶媒として使用することもできる。本発明の蛍光体ペースト組成物で使用可能な溶媒は、特に制限されないが、揮発温度(沸点)が150℃以上の溶媒であることが好ましい。
【0042】
本発明で使用可能な溶媒としては、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素化合物;テトラヒドロフラン、1,2−ブトキシエタンなどのエーテル化合物;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン化合物;酢酸エチル、酢酸ブチル、ブチルカルビトールアセテート(BCA)などのエステル化合物;イソプロピルアルコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テルピネオール、2−フェノキシエタノールなどのアルコール化合物などが挙げられる。また、混合溶媒は、テルピネオール(特に、α−テルピネオール)とブチルカルビトールアセテートとの混合溶媒であることが好ましい。この混合溶媒は、テルピネオールとブチルカルビトールアセテートとが、好ましくは、質量比1:1〜1:2.5の比率、より好ましくは、1:1.7の比率で混合されることが好ましい。
【0043】
バインダー溶液は、有機バインダー1.5〜5質量%、及び残部の混合溶媒を含むことができる。有機バインダーが1.5質量%未満である場合、有機バインダーに比べて溶媒の量が過度に多くなり、その結果、得られる蛍光膜の品質が低下するなどの問題点が発生する。一方、有機バインダーが5質量%を超える場合、相対的に溶媒の含量が不足することになり、蛍光体の使用量が減少するなどの問題点が発生する。
【0044】
本発明の蛍光体ペースト組成物に用いられる蛍光体は、従来の蛍光体ペースト組成物に用いられる蛍光体であれば全て使用可能であり、用いられる蛍光体の種類や組成に特別な制限がない。ただし、本発明の蛍光体ペースト組成物は、主に、陰極線発光ディスプレイ、液晶ディスプレイ、電界放出ディスプレイ装置用の蛍光膜形成に用いられるので、これを使用して形成される蛍光膜を励起するディスプレイの励起源によって適宜選択される。
【0045】
具体的に、蛍光体は、表示装置で基本的に用いられる酸化物固溶体形態の既知の赤色蛍光体、緑色蛍光体及び青色蛍光体であり、バリウム酸化物、マグネシウム酸化物及びアルミニウム酸化物が混合された固溶体形態の蛍光体であることが好ましい。特に、本発明の分散剤は、SrGaまたはLaSなどの硫化系蛍光体ペースト組成物に添加される場合、分散性を一層向上できる。
【0046】
より具体的に、本発明で使用可能な硫化系蛍光体としては、例えば、SrS:Eu2+、SrGaS:Eu2+、SrGa、SrCaS:Eu2+、ZnS:Ag、CaS:Eu2+、ZnS:CuAl3+、ZnS:AgCl、LaS:Eu3+、YS:Eu3+、CaAl、またはBaAl:Eu2+が挙げられるが、必ずしもこれに限定されることはない。
【0047】
本発明の蛍光体ペースト組成物には、組成物の物性を害しない範囲内で、分散剤の他に、可塑化剤、レベリング剤、平滑剤、消泡剤などが添加される。
【0048】
本発明の蛍光体ペースト組成物は、40〜70質量%の蛍光体、前記蛍光体に対して0.1〜3質量%のチオール系分散剤、及び残部のバインダー溶液を含んで構成されることができる。蛍光体の形態は特に制限されないが、分散性を考慮すると粉末が望ましい。本発明において、分散剤の使用量が0.1質量%未満である場合、蛍光体の使用量増加及び粘度維持などの効果を充分に得られなく、その反対に、分散剤の添加量が3質量%を超える場合、他の成分の含量減少によって蛍光体ペーストの物性が悪化する恐れがある。
【0049】
本発明では、上記のようなチオール系分散剤を使用することで、蛍光体の含量を40〜70質量%程度に増加でき、蛍光体ペーストにおける蛍光体の使用量増加は、ペーストの使用によって得られる蛍光膜の輝度を増加させる。
【0050】
本発明の蛍光体ペースト組成物は、バインダー溶液に分散剤を添加した後、蛍光体粉末を添加して製造できる。例えば、エチルセルロースなどの有機バインダーをブチルカルビトールアセテート及びα−テルピネオールからなる混合溶媒に溶解させた後、分散剤と、消泡剤、平滑剤などの添加剤を添加してから蛍光体を投入し、全体の蛍光体ペースト成分を3本ローラなどの混練器を用いて均一に分散させて製造できる。
【0051】
本発明のチオール系分散剤は、結合エネルギーが数10kcal/molに及ぶほどの強い吸着性を示す。この強い吸着性により、2つの官能基を含有する分散剤は、バインダ分子同士が相互作用する前にバインダ粒子に吸着し、バインダ分子が大きくても、非常に優れた分散作用を奏し、結果的に蛍光体粒子同士の凝集を防止し、本発明の蛍光体ペースト組成物で製造される白色発光ダイオードなどの発光素子は、高輝度特性を呈しうる。ただし、左記メカニズムは、本願の発明者らの推測に過ぎず、このメカニズムによって発明の技術的範囲が限定されないのはいうまでもない。
【0052】
本発明の他の態様は、以上で説明した本発明の蛍光体ペースト組成物によって製造される蛍光膜に関係する。本発明の蛍光膜は、本発明の蛍光体ペースト組成物をガラス、透明プラスチックなどの支持体上に所定パターンで塗布した後、乾燥及びベーキングによって焼成することで製造される。
【0053】
蛍光膜の形成方法としては、パターンスクリーンプリンティング、電気泳動法、フォトリソグラフィ、インクジェット方法などが挙げられるが、必ずしもこれら方法に制限されることはない。
【0054】
上記のように、本発明の分散剤を含む蛍光体ペースト組成物によって製造される蛍光膜は、蛍光体をより多く使用することで輝度が向上し、粘度の増加が相対的に制限されることで製造工程性も改善される。
【0055】
本発明による蛍光膜は、陰極線発光ディスプレイ、液晶ディスプレイ、電界発光ディスプレイ、電界放出ディスプレイ、蛍光表示管ディスプレイなどの各種の表示装置の蛍光膜として用いられる。本発明の蛍光膜を含む表示装置は、向上した発光特性及び均一な物性特性を呈している。
【実施例】
【0056】
以下、本発明の好ましい実施例をより詳細に説明する。これら実施例は、説明の目的のためのものに過ぎなく、本発明の保護範囲を制限するものと解析されてはならない。
【0057】
製造例1:チオール系分散剤(1)の製造
【0058】
【化7】

【0059】
メチルトリメチルシリルジメチルケテンアセタル(3.48g、20mmol)(Aldrich)開始剤、テトラブチルアンモニウム−3−クロロベンゾエート(0.8g、0.2mmol)触媒、及び精製したアセトニトリル(0.5mL)を50mLの丸底フラスコに入れた後、1時間マグネチックバーを用いて攪拌した。ブチルメタクリレート(BMA)(8.18g、57.5mmol)(Aldrich)、トリメチルシリルメタクリレート(TMSMA)(Aldrich)を、精製したTHF(3mL)に溶解した後、反応溶液にゆっくり添加して2時間の間攪拌した。ガスクロマトグラフィー(GC)を用いてブチルメタクリレート及びトリメチルシリルメタクリレートの消失を確認した後、テトラブチルアンモニウム−3−クロロベンゾエート(0.8g、0.2mmol)が溶解されたアセトニトリル溶液(0.5mL)を添加した。2−(メチルチオ)エチルメタクリレート(1.6g、10mmol)を、精製したTHF(2mL)に溶解した後、反応溶液に添加して2時間の間攪拌した。回転蒸発器を用いて反応溶液から溶媒を除去した後、メタノールを添加して3時間の間70℃で加熱・還流させた。回転蒸発器を用いて反応溶液からメタノールを除去した後、メチレンクロライドに溶解させ、蒸溜水で洗浄してろ過した。回転蒸発器を用いてメチレンクロライドを除去した後、真空オーブンで12時間乾燥させ、粘性オイル形態の分散剤(9.2g)を得た。得られた分散剤のH−NMRスペクトルを、図1に示した。
【0060】
実施例1
蛍光体としては、市販されているSrGa粉末(KX501A Kasei Optonix Ltd.Japan)を用いた。蛍光体粉末は、使用前に130℃の温度で24時間の間真空乾燥させた。溶媒としては、α−テルピネオール4.61gと、ブチルカルビトールアセテート7.68gとを混合して混合溶媒を準備した。有機バインダーとしては、エチルセルロース0.51gを前記混合溶媒に溶解させてバインダー溶液を準備した。上記のように得られたバインダー溶液に前記蛍光体粉末を加えた後、これに前記製造例1で合成したチオール系分散剤を加えてミリングすることで、本発明の蛍光体ペースト組成物を製造した。
【0061】
実施例2及び3
分散剤として、前記式(3)の1−ドデカンチオール(製造社:Aldrich、USA、商品名;1−dodecanethiol)(実施例2)及び前記式(4)の3−ドデシルチオフェン(製造社:Aldrich、USA、商品名;3−dodecylthiophene)(実施例3)を使用することを除けば、前記実施例1と同様に実施して蛍光体ペースト組成物を製造した。
【0062】
比較例1
分散剤を使用しないことを除けば、前記実施例1と同一に実施して蛍光体ペースト組成物を製造した。
【0063】
実施例4〜6
蛍光体としてLaS粉末(kasei、Japan、KX−681)を使用することを除けば、前記実施例1〜3と同様に実施して蛍光体ペースト組成物を製造した。
【0064】
比較例2
蛍光体としてLaS粉末(kasei、Japan、KX−681)を使用することを除けば、前記比較例1と同様に実施して蛍光体ペースト組成物を製造した。
【0065】
実験例1:蛍光体ペースト組成物の粘度変化評価
実施例1〜3で製造された蛍光体ペースト組成物の剪断速度を増加させながら粘度変化を測定し、その結果を図2に示した。このとき、粘度は、粘度測定計(AR2000、Thermal Analysis社、USA)を用いて測定し、測定条件は、スピンドル14番を用いて、温度範囲24.5〜25.5℃、測定時間30秒にして剪断速度による粘度変化を測定した。比較のために、比較例1の蛍光体ペーストを製造しながら剪断速度による粘度変化を測定し、その結果を図2に示した。
【0066】
図2に示すように、本発明に係るチオール系分散剤を使用する実施例1においては、比較例1の蛍光体ペースト組成物に比べて粘度減少効果が明確に表れた。
【0067】
上記のような結果は、本発明の分散剤を含む蛍光体ペースト組成物の場合、蛍光体の使用量を増加させて蛍光膜の発光特性を改善できることを示唆する。
【0068】
実験例2:蛍光体ペースト組成物の粘度変化評価
実施例4〜6及び比較例2で製造された蛍光体ペースト組成物を使用することを除けば、前記実験例1と同一に実施して剪断速度による粘度変化を測定し、その結果を図3に示した。
【0069】
図3に示すように、本発明に係るチオール系分散剤を使用する実施例5においては、比較例2の蛍光体ペースト組成物に比べて粘度減少効果が明確に表れた。
【0070】
上記のような結果は、本発明の分散剤を含む蛍光体ペースト組成物の場合、蛍光体の使用量を増加させて蛍光膜の発光特性を改善できることを示唆する。
【0071】
実験例3:蛍光体ペースト組成物の発光特性評価
前記実施例1、2及び比較例1で得られた蛍光体ペーストを、フィルムアプリケーター(BYK−Gardner(登録商標))を用いてガラス支持体上に30μmの厚さでコーティングした。前記コーティング層を、ランプを用いて480℃まで5℃/minの速度で昇温させて焼成し、蛍光膜として製膜した後、この蛍光膜の発光特性を実験した。
【0072】
発光特性の実験は、蛍光発光及び減衰測定システム(PEDS;Phosphor ofEmission and Decay Measurement System)(VUVエキシマランプ(日本のUSHIO社製)と真空チャンバーシステム(大韓民国のMotech vaccum社製)とを組み合わせたもの)を使用し、実験条件は、真空雰囲気を10〜3torr、光源波長を146nm、測定波長領域を230〜780nm、波長間隔を1nmにして測定し、その結果を図4Aに示した。また、図4Aの部分拡大図を図4Bに示した。比較のために、実施例1で用いられた蛍光体粉末自体の発光特性も測定し、一緒に表示した。
【0073】
図4A及び図4Bに示すように、本発明に係るチオール系分散剤を使用する実施例1及び実施例2の場合、蛍光体粉末の最大発光強度に比べると、発光強度がそれぞれ3.4%、2.1%増加した。これと対照的に、分散剤を使用しない比較例1の場合、蛍光体粉末の最大発光強度に比べると、発光強度が4.0%減少した。上記のような結果から、本発明の分散剤を含む蛍光体ペースト組成物が、従来の蛍光体ペースト組成物よりも向上した発光強度を有することを確認できる。
【0074】
実験例4:蛍光体ペースト組成物の発光特性評価
実施例4、5及び比較例2で製造された蛍光体ペースト組成物を使用することを除けば、前記実験例3と同一に実施して蛍光体粉末自体の発光特性を測定し、その結果を図5Aに示した。また、図5Aの部分拡大図を図5Bに示した。
【0075】
図5A及び図5Bに示すように、本発明に係るチオール系分散剤を使用する実施例4及び実施例5の場合、蛍光体粉末の最大発光強度に比べると、発光強度がそれぞれ3.0%、3.6%増加した。これと対照的に、分散剤を使用しない比較例2の場合、蛍光体粉末の最大発光強度に比べると、発光強度が2.8%減少した。上記のような結果から、本発明の分散剤を含む蛍光体ペースト組成物が、従来の蛍光体ペースト組成物よりも向上した発光強度を有することを確認できる。
【0076】
以上、本発明の好ましい実施例を説明したが、当業者であれば、本発明の技術思想の範囲内で多様な変形及び修正が可能である。また、これら変形及び修正も、特許請求の範囲に含まれるものとして理解されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の分散剤を含む蛍光体ペースト組成物は、分散性の向上及び粘度増加の減少によって、蛍光体をより多く使用できることになり、発光特性の向上した均一な蛍光膜を形成できる。よって、本発明の分散剤を含む蛍光体ペースト組成物は、高い輝度及び優れた製造工程性を有するLCDなどの表示装置を製作する際に好適に用いられうる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の製造例1で合成したチオール系分散剤のH−NMRスペクトルである。
【図2】実施例1〜3と比較例1における蛍光体ペースト組成物の剪断速度による粘度変化を比較して示したグラフである。
【図3】実施例4〜6と比較例2における蛍光体ペースト組成物の剪断速度による粘度変化を比較して示したグラフである。
【図4A】実施例1及び2と比較例1における蛍光体ペースト組成物で製造された蛍光膜の発光特性を比較して示したグラフである。
【図4B】図4Aの部分拡大図である。
【図5A】実施例4及び5と比較例2における蛍光体ペースト組成物で製造された蛍光膜の発光特性を比較して示したグラフである。
【図5B】図5Aの部分拡大図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)〜式(4):
【化1】

前記式中、
Xは、置換または非置換の炭素数1〜200のアルキル基、置換または非置換の炭素数6〜80のアリール基または置換または非置換の炭素数7〜40のアリールアルキル基であり、
Rは、Hまたはメチル基であり、
pは、1〜10である
【化2】

前記式中、lは、1〜20である
【化3】

【化4】

からなる群から選択される、チオール系分散剤。
【請求項2】
前記式(1)で表される分散剤は、下記式(5):
【化5】

前記式中、
Aは、Hまたは炭素数1〜12のアルキル基であり、
m及びnは、それぞれ独立して、1〜20であり、
Rは、前記式(1)で定義したとおりである、
で表されることを特徴とする、請求項1に記載のチオール系分散剤。
【請求項3】
前記式(1)〜式(5)の構造の化合物からなる群から選択されるチオール系分散剤と、
溶媒及び有機バインダーからなるバインダー溶液と、
蛍光体と、
を含む硫化系蛍光体ペースト組成物。
【請求項4】
前記硫化系蛍光体ペースト組成物は、
40〜70質量%の蛍光体と、
前記蛍光体に対して0.1〜3質量%である、前記式(1)〜式(5)の構造の化合物からなる群から選択されるチオール系分散剤と、
残部のバインダー溶液と、
を含むことを特徴とする、請求項3に記載の硫化系蛍光体ペースト組成物。
【請求項5】
前記バインダー溶液は、バインダー溶液に対して、
有機バインダー1.5〜5質量%と、
残部の混合溶媒と、
を含むことを特徴とする、請求項3または4に記載の硫化系蛍光体ペースト組成物。
【請求項6】
前記有機バインダーは、アクリル系、スチレン系、セルロース系、メタクリル酸エステルポリマー、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、ポリスチレン、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンカーボネート、ポリメチルメタクリレートからなる群から選択される1種以上であることを特徴とする、請求項3〜5のいずれか1項に記載の硫化系蛍光体ペースト組成物。
【請求項7】
前記溶媒は、芳香族炭化水素化合物、エーテル化合物、ケトン化合物、エステル化合物およびアルコール化合物からなる群から選択される1種以上であることを特徴とする、請求項3〜6のいずれか1項に記載の硫化系蛍光体ペースト組成物。
【請求項8】
前記有機バインダーは、エチルセルロースであり、
前記溶媒は、テルピネオールとブチルカルビトールアセテートとの混合溶媒であることを特徴とする、請求項3〜7のいずれか1項に記載の硫化系蛍光体ペースト組成物。
【請求項9】
前記混合溶媒は、テルピネオールとブチルカルビトールアセテートとが質量比1:1〜1:2.5の比率で混合された溶媒であることを特徴とする、請求項3〜8のいずれか1項に記載の硫化系蛍光体ペースト組成物。
【請求項10】
前記蛍光体は、SrS:Eu2+、SrGaS:Eu2+、SrGa、SrCaS:Eu2+、ZnS:Ag、CaS:Eu2+、ZnS:CuAl3+、ZnS:AgCl、LaS:Eu3+、YS:Eu3+、CaAl、及びBaAl:Eu2+からなる群から選択される1種以上であることを特徴とする、請求項3〜9のいずれか1項に記載の硫化系蛍光体ペースト組成物。
【請求項11】
請求項3〜10のいずれか1項に記載の硫化系蛍光体ペースト組成物によって製造される、表示装置用蛍光膜。
【請求項12】
請求項11に記載の蛍光膜を備える表示装置。
【請求項13】
前記表示装置は、陰極発光ディスプレイ、液晶ディスプレイ、電界発光ディスプレイ、電界放出ディスプレイ、または蛍光表示管ディスプレイであることを特徴とする、請求項12に記載の表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【公開番号】特開2007−125550(P2007−125550A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−285489(P2006−285489)
【出願日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【出願人】(591003770)三星電機株式会社 (982)
【Fターム(参考)】