説明

チップ型電子部品の製造方法

【課題】素子本体とメディアとを分離する作業が不要であり、素子本体の端面に形成してある下地電極層の表面にメッキ膜を確実に形成することが可能であり、しかも素子本体の表面にダメージを与えるおそれが少ないチップ型電子部品の製造方法を提供すること。
【解決手段】内部電極4,6が内部に形成された素子本体10と、内部電極4,6が露出する素子本体10の端面を覆う端子電極12,14とを有するチップ型電子部品2を製造する方法である。素子本体10の端面に下地電極層12p,14pを形成する。下地電極層12p,14pがそれぞれ形成された複数の素子本体10を、凹状容器20aの内部に収容する。凹状容器20aの内部に液体を入れた状態で、凹状容器20aを第1回転速度で回転させ、素子本体10を、凹状容器の底面20aで内側壁面近くに移動させる。凹状容器20aを第1回転速度よりも高速な第2回転速度で回転させ、素子本体10を内側壁面23aに沿って上方に移動させる。凹状容器20aの回転を停止させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チップ型電子部品の製造方法に係り、さらに詳しくは、素子本体の端面に形成してある下地電極層の表面にメッキ膜を形成しやすく、しかも素子本体の表面にダメージを与えるおそれが少ないチップ型電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックコンデンサやバリスタなどのチップ型電子部品では、端子電極をセラミック製の素子本体の外面に形成する必要がある。そのため、まず、素子本体の表面に、ペースト膜を焼き付けることで下地電極層を形成し、その後に、その下地電極層の表面にメッキ膜を施すことにより、端子電極が形成される。
【0003】
通常、ペースト膜は素子本体と下地電極の密着性を向上させるためにガラス成分を含んでいる。特に、素子本体が半導体セラミックで構成される時には、めっき液が下地電極から内部電極、素子へと浸透して特性に影響することを抑制するために、下地電極に含まれるガラス成分を多くすることがある。しかし、下地電極層の表面にガラス成分が多いと、下地電極層の表面で導電性粒子がガラス成分の中に埋没しやすく、そのペースト膜の表面には、メッキ膜がつきにくい。そこで、ペースト膜の表面をバレル研磨することがある。
【0004】
たとえば、ペースト膜で構成された下地電極を有する電子部品を、メディアおよび水とともにバレル装置内に投入し、そのバレル装置を回転させる(バレル研磨)。それにより、下地電極層の表面におけるガラス成分を研磨して、導電性粒子を下地電極層の表面に露出させ、ペースト膜の表面にメッキをつきやすくすることがある。
【0005】
また、外部電極の平滑性を高めるために、外部電極を有する電子部品を、ジルコニアからなる玉石(メディア)および水とともに回転ポット内に投入し、その回転ポットを回転させる技術(回転ポット研磨)が知られている(特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、バレル研磨を行うと、メディアを用いるために、メディアによる衝撃で素子表面にダメージを与え、表面に微小クラックが発生したり、素子やメディアの欠けによる破片が素子本体の表面や下地電極層の表面に付着し、メッキ膜が不均一に付着し、外観不良の一因となる。さらに、素子本体の小型化に伴い、メディアのサイズも小型化され、研磨処理後に、素子本体とメディアとを分離する作業が困難になってきている。
【0007】
また、特に小型のチップ型電子部品では、端子電極間の距離が短いので、その間に位置する素子本体の表面に、ガラスコートなどの保護膜を形成したいという要請が高い。保護膜を形成することで、その後に行うメッキ工程で、素子本体の表面にメッキ膜が形成されてショート不良などが発生することを防止している。
【0008】
しかしながら、従来の方法では、研磨工程の前にガラスコートなどの保護膜を形成した場合には、メディアによる衝撃で保護膜にダメージを受け、保護膜が剥がれるなどのおそれがある。
【0009】
さらに、従来の方法では、特に小型の素子本体を研磨する場合に、研磨に用いる液体の液面に浮いてしまう素子本体が少なからず生じてしまい、研磨が不完全となり、メッキ不良が発生するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平7−22268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、素子本体とメディアとを分離する作業が不要であり、素子本体の端面に形成してある下地電極層の表面にメッキ膜を確実に形成することが可能であり、しかも素子本体の表面にダメージを与えるおそれが少ないチップ型電子部品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明に係るチップ型電子部品の製造方法は、
内部電極が内部に形成された素子本体と、前記内部電極が露出する前記素子本体の端面を覆う端子電極とを有するチップ型電子部品を製造する方法であって、
前記素子本体の端面に前記端子電極の一部となる下地電極層を形成する工程と、
前記下地電極層がそれぞれ形成された複数の素子本体を、凹状容器の内部に収容する工程と、
前記凹状容器の内部に液体を入れた状態で、前記凹状容器を第1回転速度で回転させ、前記素子本体を、前記凹状容器の底面で内側壁面近くに移動させる底面移動工程と、
前記凹状容器を前記第1回転速度よりも高速な第2回転速度で回転させ、前記素子本体を前記内側壁面に沿って上方に移動させる壁面移動工程と、
前記凹状容器の回転を停止させる底面戻し工程と、を有する。
【0013】
本発明に係るチップ型電子部品の製造方法では、凹状容器の内部で、最初は、凹状容器をゆっくりと回転させて、素子本体を、凹状容器の底面で内側壁面近くに移動させる。その後に、より速い回転速度で、凹状容器を回転させ、遠心力で、素子本体を内側壁面に沿って上方に移動させる。
【0014】
そのときに、素子本体が内側壁面を登り上がる際の摺動による摩擦熱や、遠心力による素子本体に作用する内側壁面への押し付け力により、下地電極層の表面が研磨される。下地電極の表面が研磨されることで、下地表面のガラス成分が研磨されたり、導電性粒子が延伸されガラス成分を覆うことなどにより下地電極の表面に導電性粒子が多数露出する。その結果、その下地電極層の表面にメッキ膜を均一に形成しやすくなる。
【0015】
しかも本発明の方法では、メディアを用いることなく、研磨用の液体のみで、素子本体の下地電極層を内側壁面に摺動させながら押し付けることで、下地電極層の表面を研磨することができる。また、素子本体が内側壁面を登り上がる際に、遠心力により、内側壁面に沿って素子本体が層状にばらけて押し付けられることになり、研磨に際して、素子本体相互が衝突する確率も比較的に少なくなる。したがって、下地電極層よりも窪んだ位置に存在する素子本体の表面には、メディアや素子本体あるいは内側壁面が衝突するおそれが少なく、素子本体の表面に対するダメージも少ない。
【0016】
素子本体が内側壁面に沿って押し付けられた後には、凹状容器の回転を停止させる。凹状容器の回転を停止させても、凹状容器の内部に存在する液体は、慣性力により回転し続ける。そのため、内側壁面に沿って押し付けられていた素子本体は、その液体の回転流により、内側壁面から離れ、渦を巻きながら、ゆっくりと、内側容器の底面の略中央に攪拌されながら落下する。
【0017】
そのため、前記底面移動工程と、前記壁面移動工程と、前記底面戻し工程とを、この順序で行う基本サイクルを繰り返し行うことが可能になり、繰り返し行うことで、多数の素子本体にそれぞれ形成してある下地電極層が均一に研磨され、メッキ不良になる不良品の発生率を抑制することができる。
【0018】
好ましくは、nを整数とした場合に、n回目に行う基本サイクルにおける前記凹状容器の回転方向と、(n+1)回目に行う基本サイクルにおける前記凹状容器の回転方向とが逆方向である。このように逆方向に回転させることで、多数の素子本体にそれぞれ形成してある下地電極層の研磨の均一性が向上し、メッキ不良になる不良品の発生率をさらに抑制することができる。
【0019】
好ましくは、前記内側壁面は、前記底面に対して、90度よりも大きく180度よりも小さな傾斜角度、さらに好ましくは100度〜120度の傾斜角度で傾斜している。内側壁面を傾斜させることで、素子本体が内側壁面を登り上がる際に、遠心力により、内側壁面に沿って素子本体が層状にばらけて押し付けられ易くなる。
【0020】
好ましくは、前記第1回転速度は、徐々に回転速度が上がる第1可変速度領域を有し、その後に、回転速度が変化しない第1定速度領域をさらに有していても良い。また、前記第2回転速度は、徐々に回転速度が上がる第2可変速度領域を有し、さらに、その後に、回転速度が変化しない第2定速度領域をさらに有していても良い。
【0021】
第2回転速度における第2可変速度領域では、主として、素子本体を内側壁面に沿って登り上がらせて、その内側壁面に沿って素子本体を層状にばらけさせる作用を有する。第2回転速度における第2定速度領域では、主として、素子本体の下地電極層を内側壁面に摺動させながら押し付ける状態を維持する作用を有する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る方法により製造されるチップ型電子部品の断面図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態に係る方法を実現するための研磨装置の概略断面図である。
【図3】図3(A)〜図3(C)は、本発明の一実施形態に係る方法を示す工程図である。
【図4】図4は、本発明の一実施形態に係る方法を示す研磨装置の回転速度制御パターンを示す説明図である。
【図5】図5は、図3(C)に示すV部の要部拡大図である。
【図6】図6(A)は、端子電極を研磨する前の導電性粒子の分布を示す断面模式図、図6(B)は、研磨後の導電性粒子の分布を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
まず、本発明の一実施形態に係る方法により製造されるチップ型電子部品としての図1に示す積層チップバリスタ2について説明する。積層チップバリスタ2は、内部電極層4,6と抵抗体層8とが積層された構成の素子本体10を有する。この素子本体10の両端部11,13には、素子本体10の内部に配置された内部電極層4,6と各々導通する一対の外部端子電極12,14が形成してある。
【0024】
内部電極層4,6は、各端面が素子本体10の対向する両端部11,13の表面に露出するように積層してある。一対の外部端子電極12,14は、素子本体10の両端部に形成され、内部電極層4,6の露出端面にそれぞれ接続されて、バリスタ回路を構成している。
【0025】
抵抗体層8は、バリスタ特性を有する材料であれば特に限定されないが、たとえば酸化亜鉛系バリスタ材料層で構成される。この酸化亜鉛系バリスタ材料層は、例えばZnOを主成分とし、副成分として希土類元素、Co、IIIb族元素(B、Al、Ga及びIn)、Si、Cr、アルカリ金属元素(K、Rb及びCs)及びアルカリ土類金属元素(Mg、Ca、Sr及びBa)等を含む材料で構成される。または、ZnOを主成分とし、副成分としてBi、Co、Mn、Sb、Al等を含む材料で構成されていても良い。
【0026】
抵抗体層8としては、酸化亜鉛系バリスタ材料層以外に、コンデンサ材料層、インダクタ材料層、NTCサーミスタ材料層などで構成されてもよい。
【0027】
内部電極層4,6は、導電材を含んで構成される。内部電極層4,6に含まれる導電材としては、特に限定されないが、PdまたはAg−Pd合金からなることが好ましい。内部電極層4,6の厚さは、用途に応じて適宜決定すればよいが、通常0.5〜5μm程度である。
【0028】
外部端子電極12,14も導電材を含んで構成される。外部端子電極12,14に含まれる導電材としては、特に限定されないが、通常、AgやAg−Pd合金などを用いる。さらに、必要に応じ、AgやAg−Pd合金などのペースト電極膜から成る下地電極層12p,14pの表面に、電気メッキ等により、Ni及びSn膜などで構成されるメッキ膜12c,14cが形成してある。下地電極層12p,14pの厚みは、用途に応じて適宜決定すればよいが、通常5〜50μm程度である。また、メッキ膜12c,14cの厚みは、用途に応じて適宜決定すればよいが、通常3〜10μm程度である。
【0029】
素子本体10の形状は、特に制限はないが、通常、直方体状とされる。また、その寸法にも特に制限はなく、用途に応じて決定され、特に、1005形状(縦1.0mm×横0.5mm×厚み0.5mm)サイズ以下、たとえば、小さく軽い上に電極間距離が短い0603形状(縦0.6mm×横0.3mm×厚み0.3mm)サイズ以下である場合に本実施形態の方法の効果が大きい。
【0030】
素子本体10において、内部電極層4,6および抵抗体層8の積層方向の両外側端部には、外側抵抗体層18が配置してあり、素子本体10の内部を保護している。外側抵抗体層18の材質は、抵抗体層8の材質と同じであっても異なっていても良いが、通常、抵抗体層8の材質とほぼ同じであり、半導体材料で構成されている。
【0031】
そのため、一対の下地電極層12p,14pの外側にメッキ膜12c,14cを形成する際には、そのメッキ処理時に、半導体である外側抵抗体層18の外表面(素子本体10の表面10α)には、メッキ膜が形成されてショート不良となりやすい。そのため、その表面10αには、ガラスコートなどの保護膜16が形成してあることが好ましいが、本発明では、必ずしも保護膜16は形成されていなくとも良い。保護膜16を形成する場合には、保護膜16の厚さは、好ましくは0.05〜0.2μm程度に薄い。保護膜16が厚すぎると、保護膜16を形成した後に、下地電極層12p,14pを形成する際に、内部電極層4および6と下地電極層12p,14pとのコンタクトが困難になる傾向にある。
【0032】
下地電極層12p,14pは、電極ペーストの焼付け処理により形成されている。下地電極層12p,14pは、素子本体10の端面に位置する端面部分12γ,14γと、端面部分12γ,14γに連続して形成され、素子本体10の端面近傍の四側面にまで延びる側面部分12β,14βとを有している。
【0033】
本実施形態では、外部端子電極12,14で覆われていない素子本体10の表面10αの粗さをα・Raと表し、外部端子電極12,14における側面部分12β,14βの表面の粗さをβ・Raと表した場合に、α・Raは、好ましくは0.02〜0.4μm、さらに好ましくは0.05〜0.3μmであり、β・Raは、好ましくは0.05〜0.7μm、さらに好ましくは0.1〜0.5μmである。また、α・Raとβ・Raの比率は、0.5≦β・Ra/α・Ra≦10、好ましくは1≦β・Ra/α・Ra≦4である。なお、粗さは、算術平均粗さである。
【0034】
本実施形態では、外部端子電極12,14における側面部分12β,14βの表面粗さβ・Raの値は、端面部分12γ,14γの表面粗さγ・Raの値に比較して小さい。端面部分12γ,14γの表面の粗さγ・Raは、好ましくは、0.05〜0.8μm、さらに好ましくは0.1〜0.5μmである。
【0035】
表面粗さα・Raは、素子本体10の表面10αにおける表面粗さであるが、ガラスコートから成る保護膜をスパッタリングなどの薄膜法で形成する場合には、保護膜16の表面粗さと同じになる。また、表面粗さβ・RaおよびγRaに関しては、下地電極層12p,14pの表面粗さであるが、メッキ処理の特性上、メッキ膜12c,14cの表面も同様な表面粗さとなる。
【0036】
次に、図1に示す積層チップバリスタ2の製造方法について説明する。
まず素子本体10を製造する。素子本体10を製造するために、印刷工法またはシート工法等により、内部電極層4,6が互い違いに両端部に露出するように、抵抗体層8(バリスタ層)と内部電極層4,6を交互に積層し、その積層方向の両端に外側抵抗体層18を積層し、積層体を形成する。
【0037】
次に、この積層体を切断し、グリーンチップを得る。次に、必要に応じて脱バインダー処理を行い、グリーンチップを焼成し、素子本体10を得る。次に、素子本体10の両端部に外部端子電極12,14を形成するための電極ペーストを塗布、焼き付けして下地電極層12p,14pを形成する。
【0038】
次に、後述する研磨処理を行った後に、メッキ膜12c,14cを各下地電極層12p,14pの表面に電気メッキ法により形成する。このようにして図1に示す積層チップバリスタ2が製造される。
【0039】
なお、ガラスコートなどの保護膜16の形成は、メッキ処理の前に行うことが好ましく、下地電極層12p,14pの形成前に行っても良い。保護膜16は、十分に薄いので、素子本体10の端面に下地電極層12p,14pを形成する際に、内部電極層4,6との接続を確保することが可能である。
【0040】
次に、メッキ処理前に行う研磨処理について説明する。その前に、まず、研磨処理に用いる研磨装置について説明する。
【0041】
図2に示すように、研磨装置20は、回転盤21と、底板22と、側面リング23と、スリット形成部材24と、カバー25と、取出し用蓋26と、供給パイプ27と、排出受け28と、排出パイプ29とを有している。
【0042】
回転盤21には、軸部21aが下面に形成してあり、その軸部21aが不図示のベルトおよびベルト駆動モータからの駆動力を受けることによって、回転軸20Tを中心に時計回りおよび反時計回りの双方に回転可能になっている。回転盤21には、底板22が固定され、底板22の上には、側面リング23が固定してある。
【0043】
側面リング23の上面には、スリット形成部材24が配置してある。スリット形成部材24の上面には、カバー25の固定部25aが固定され、カバー25の上面には、取出し用蓋26が開閉可能に固定されている。これにより、後述する研磨液の飛散を防止している。
【0044】
本実施形態では、スリット形成部材24と、側面リング23と、底板22と、回転盤21とを、カバー25に対して着脱自在に固定してあり、回転盤21と共に回転可能になっている。取出し用蓋26は、カバー25に着脱自在に装着され、カバー25と共に回転可能に構成してある。供給パイプ27は、取り出し用蓋26には固定されず、回転盤21とは共に回転しないようになっていることが好ましい。なお、本実施形態では、回転盤21と共に、回転する部分は、少なくとも側面リング23であればよく、スリット形成部材24、カバー25、取り出し用蓋26および供給パイプ27は、必ずしも回転しなくとも良い。
【0045】
側面リング23は、底板22と共に、凹状容器20aを構成する部材であり、内周に沿って内側壁面23aが形成してある。内側壁面23aは、底板22の上面、すなわち凹状容器20aの底面22aに対して、所定角度θで傾斜してある。所定角度θは、90度よりも大きく180度よりも小さな傾斜角度、さらに好ましくは100度〜120度である。なお、内側壁面23aは、必ずしも直線状の傾斜面である必要はなく、凸状あるいは凹状の曲面状の傾斜面でも良い。ただし、好ましくは、内側壁面23aは、直線状の傾斜面である。
【0046】
側面リング23の軸方向の高さは、特に限定されないが、好ましくは5〜35mmである。側面リング23とスリット形成部材24との間、あるいはスリット形成部材24とカバー25の固定部25aとの間には、凹状容器20aの内部と外部とを連通させるスリット24aが形成してある。凹状容器20aの内部には、供給パイプ27から研磨液30が供給され、余分な研磨液30は、スリット24aから容器の外部に排出され、排出受け28および排出パイプ29を通して外部に排出される。
【0047】
本実施形態では、研磨液としては、メディアを含まない水が用いられるが溶剤などを用いてもよい。
【0048】
本実施形態では、図2に示す研磨装置20の回転盤21を、図4に示すように回転制御する。まず、図1に示す下地電極層12p,14pが形成された素子本体10を、図3(A)に示すように、凹状容器20aの内部に多数投入する。投入される素子本体10の個数は、特に限定されず、例えば1000個〜2000000個投入される。これらの素子本体10は、研磨液30が供給している凹状容器20aの内部で、底面22aの中央部に集まり、素子本体群10aを形成している。
【0049】
凹状容器20aを一定方向にゆっくりと回転させながら、徐々に回転速度を上げていく(図4に示す第1工程T01/第1可変速度領域)と、素子本体群10aが、凹状容器20aの底面22aに沿って外周方向にゆっくり移動する。その後に、図4に示す第2工程T02では、凹状容器20aが一定の回転速度(第1定速度領域)で回転し、素子本体群10aは、図3(B)に示すように、凹状容器20aの底面22aにおいて、内側壁面23近くに移動する(底面移動工程)。
【0050】
次に、図4に示す第3工程T03において、第1工程T01および第2工程T02よりも速い回転速度で凹状容器20aを回転させる。第3工程T03の間に、回転速度が急激に上昇する(第2可変速度領域)。この時、図3(C)に示すように、遠心力により、素子本体群10aは、内側壁面23aに沿って上方に移動する(壁面移動工程)。その後に、図4に示すように、第4工程T04において、最も研磨効率の良い回転速度(第2定速度領域)が維持される。
【0051】
図4に示す第3工程T03および第4工程T04では、図3(C)に示す素子本体群10aが内側壁面23aを登り上がる際の摩擦熱や、遠心力による素子本体群10aに作用する内側壁面23aへの押し付け力により、メディアを用いることなく、研磨液30のみで図5に示す下地電極層12p,14pの表面が研磨される。
【0052】
下地電極層12p,14pの表面が研磨されることで、図6(A)および図6(B)に示すように、下地電極層12p,14pの表面に存在するガラス成分12rが研磨され、下地電極層12p,14pの表面に導電性粒子12qが多数露出する。その結果、その下地電極層12p,14pの表面にメッキ膜12c,14c(図1参照)を均一に形成しやすくなる。なお、図6(A)および図6(B)では、分かりやすくするために、ガラス成分12rに対して導電性粒子12qが少ないが、実際には、導電性粒子12qはもっと多く存在する。
【0053】
本実施形態では、素子本体群10aが内側壁面23aを登り上がる際に、遠心力により、図3(C)および図5に示すように、内側壁面23aに沿って素子本体10が層状にばらけて押し付けられる。そのため、研磨に際して、素子本体10相互が衝突する確率も比較的に少なくなる。したがって、下地電極層12p,14pよりも窪んだ位置に存在する素子本体10の表面10α(図1参照)には、メディアや他の素子本体10あるいは内側壁面23aが衝突するおそれが少なく、素子本体10の表面10αに対するダメージも少ない。
【0054】
その後に、図4に示す第5工程T05では、凹状容器20aの回転速度を急激に低下させ、第6工程T06において、凹状容器20aの回転速度をゼロにする。凹状容器20aの回転を停止させても、凹状容器20aの内部に存在する液体は、慣性力により回転し続ける。そのため、内側壁面23aに沿って押し付けられていた素子本体10は、その液体の回転流により、内側壁面23aから離れ、渦を巻きながら、ゆっくりと、内側容器23aの底面22aの略中央に攪拌されながら落下する(底面戻し工程)。その状態を図3(A)に示す。
【0055】
その後に、図4に示すように、第1工程T01〜第6工程T06とは回転方向が異なる以外は同様な第1工程T11〜第6工程T16を行い、その後に、第1工程T01〜第6工程T06と、第1工程T11〜第6工程T16とを交互に繰り返し行う。このようなサイクルを繰り返し行うことで、多数の素子本体10にそれぞれ形成してある下地電極層12p,14pが均一に研磨され、メッキ不良になる不良品の発生率を抑制することができる。
【0056】
本実施形態の方法では、メディアを用いることなく、研磨液30のみで、素子本体10の下地電極層12p,14pを内側壁面23aに摺動させながら押し付けることで、下地電極層12p,14pの表面を研磨することができる。本実施形態の方法では、メディアを用いないので、メディアによる衝撃で発生するチップ部品やメディアの破片(カス)の付着がメッキ不均一や外観不良の原因となることもない。また、メディアを用いないことから、研磨後に、メディアと素子本体10とを分離する必要もない。
【0057】
また、本実施形態の方法では、素子本体10が内側壁面23aを登り上がる際に、遠心力により、内側壁面23aに沿って素子本体10が層状にばらけて押し付けられる。そのため、研磨に際して、素子本体10相互が衝突する確率も比較的に少なくなる。したがって、下地電極層12p,14pよりも窪んだ位置に存在する素子本体10の表面10α(図1参照)には、メディアや他の素子本体10あるいは内側壁面23aが衝突するおそれが少なく、素子本体10の表面10αに対するダメージも少ない。素子本体10の表面10αに対するダメージが少ないため、研磨工程の前に、好ましくは下地電極層12p,14pの形成前に、ガラスコートから成る薄い保護膜16を形成することができる。保護膜16を形成したとしても、その保護膜16が、下地電極層12p、14pの研磨工程に際して、損傷するおそれが少なく、その後に行われるメッキ工程に際して、素子本体10の表面10αにまでメッキが形成されることを効果的に防止することができる。
【0058】
また、本実施形態では、図5に示すように、素子本体10が内側壁面23aに遠心力で押し付けられて研磨される際には、内側壁面23aには、下地電極層12p,14pの側面部分12β,14β(図1参照)が主として押し付けられる確率が高い。そのため、本実施形態の方法を用いると、図1に示す側面部分12βの表面が、端面部分12γよりも多く研磨され、側面部分12βの表面粗さβ・Raの値は、端面部分12γの表面粗さγ・Raの値に比較して小さくなる傾向にある。
【0059】
したがって、本実施形態の方法では、端面部分12γを削りすぎないので、端面部分12γの表面の粗さγ・Raが十分に大きい。したがって、下地電極層12p,14pの角部において、素子本体10の角部が露出してしまうことを防止できると共に、メッキ膜12c,14cとの密着性も良好である。
【0060】
また、本実施形態の方法では、図4に示す工程T01〜T16の各工程時間、各工程における回転速度、回転速度の加速度、サイクルの繰り返し回数などを制御することで、図1に示す表面粗さの関係を持つ積層チップバリスタ2を容易に製造することができる。すなわち、外部端子電極12,14で覆われていない素子本体10の表面10αの粗さをα・Raと表し、外部端子電極12,14における側面部分12β,14βの表面の粗さをβ・Raと表した場合に、α・Raを、好ましくは0.02〜0.4μm、さらに好ましくは0.05〜0.3μmであり、β・Raを、好ましくは0.05〜0.7μm、さらに好ましくは0.1〜0.5μmとすることができる。α・Raとβ・Raの比率を、0.5≦β・Ra/α・Ra≦10、好ましくは1≦β・Ra/α・Ra≦4とすることができる。
【0061】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。たとえば、上述した実施形態では、積層チップバリスタを例に説明を行ったが、これに限定されず、本発明の方法が適用されるチップ型電子部品としては、積層コンデンサ、チップバリスタ、チップインダクタ、チップNTCサーミスタなどであってもよい。
【符号の説明】
【0062】
2…積層チップバリスタ
6,8…内部電極
10…素子本体
12,14…外部端子電極
12p,14p…下地電極層
12c,14c…メッキ膜
12β,14β…側面部分
12γ,14γ…端面部分
16…保護膜
20…研磨装置
20a…凹状容器
22a…底面
23a…内側壁面
30…研磨液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部電極が内部に形成された素子本体と、前記内部電極が露出する前記素子本体の端面を覆う端子電極とを有するチップ型電子部品を製造する方法であって、
前記素子本体の端面に前記端子電極の一部となる下地電極層を形成する工程と、
前記下地電極層がそれぞれ形成された複数の素子本体を、凹状容器の内部に収容する工程と、
前記凹状容器の内部に液体を入れた状態で、前記凹状容器を第1回転速度で回転させ、前記素子本体を、前記凹状容器の底面で内側壁面近くに移動させる底面移動工程と、
前記凹状容器を前記第1回転速度よりも高速な第2回転速度で回転させ、前記素子本体を前記内側壁面に沿って上方に移動させる壁面移動工程と、
前記凹状容器の回転を停止させる底面戻し工程と、を有するチップ型電子部品の製造方法。
【請求項2】
前記底面移動工程と、前記壁面移動工程と、前記底面戻し工程とを、この順序で行う基本サイクルを繰り返し行う請求項1に記載のチップ型電子部品の製造方法。
【請求項3】
nを整数とした場合に、n回目に行う基本サイクルにおける前記凹状容器の回転方向と、(n+1)回目に行う基本サイクルにおける前記凹状容器の回転方向とが逆方向である請求項2に記載のチップ型電子部品の製造方法。
【請求項4】
前記内側壁面は、前記底面に対して、90度よりも大きく180度よりも小さな傾斜角度で傾斜している請求項1〜3のいずれかに記載のチップ型電子部品の製造方法。
【請求項5】
前記第1回転速度は、徐々に回転速度が上がる第1可変速度領域を有し、前記第2回転速度は、徐々に回転速度が上がる第2可変速度領域を有する請求項1〜4のいずれかに記載のチップ型電子部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−176237(P2011−176237A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−40780(P2010−40780)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】