説明

チョウマメ花エキスの製造方法及びチョウマメ花エキス

【課題】チョウマメ摘花時の色相を良好に保ち、色素分の消失や分解が抑制されたチョウマメ花エキスの製造方法及びチョウマメ花エキスを提供すること。
【解決手段】チョウマメ乾燥処理花を抽出してなるチョウマメ花エキスの製造方法であって、前記チョウマメ乾燥処理花が、花弁をUVインデックス7以下で乾燥して乾燥前の重量の1/2以下にする工程と、50℃〜100℃にて乾燥して乾燥前の重量の1/25〜1/6にする工程とを経たものであるチョウマメ花エキスの製造方法、及びこれより得られたチョウマメ花エキス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品用の着色剤、化粧品用素材、医薬用素材、一般インキ用素材として有用なチョウマメ花エキスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チョウマメ(Clitoria terunateaL.)は、マメ科(Leguminosae)に属している植物で青色のきれいな花を咲かせる。この植物は、熱帯地域で広く栽培され、その植物体は緑肥、牧草、カバークロップ等に用いられる。チョウマメの花は、鮮青色を有し、一般に観賞用として栽培されている。また、チョウマメの花は、インドネシアでは米を青色に染めるのに利用されている。また、この花から絞り出した青色色素はマレーシアにおいてマットやライスケーキの着色に、あるいはタイでは菓子の色づけに昔から利用されている。
【0003】
食品類への着色においては、値段が安く、安定性があり、発色が優れたタール系を中心とする合成着色料の占める割合が高かったが、最近それらの安全性に一部疑いがもたれはじめ、それ以来、使用に対しての大幅な制限が加わった。それに伴って、伝統的に用いられ、安全だと考えられている天然着色料が再び見直されてきた。赤〜青を呈する植物色素としては、安定性が低いにもかかわらず、紫トウモロコシ、赤キャベツなどの野菜類、ブドウ、ベリー類などの果実類の色素が実用化され利用されている。ちなみに、花弁の色素は存在数が多いにもかかわらず、現在のところ利用されているものはハイビスカスのアントシアニン等に限られており、しかも、その安定性は非常に悪く、安定性の良い色素が求められていた。
【0004】
チョウマメからの抽出については、寺原典彦らによるチョウマメ(Clitoria ternatea)の花弁からのデルフィニジン3,3,5−トリグルコシド化合物(青色素)の抽出が報告されている(特許文献1および非特許文献1参照)。
この文献では、チョウマメの花の乾燥品を用いているが、50℃の温度条件で送風乾燥器を用いて一夜乾燥したことが記載されている。しかし、工業的に良好な色素を効率よくとる方法ではなかった。
【0005】
チョウマメは、比較的温暖な地域での栽培に適した植物であり、この花から効率よく色素を抽出するには、摘み取った花を良好に処理することが必要である。また、原料である摘み取ったチョウマメ生花(原料花)の集荷および処理作業場は、一般にチョウマメの栽培に適した温暖な地域であるが、これは海外のような遠隔地が多いため、原料花の良好な処理が花内の色素を維持し、結果として抽出効率の向上に影響する。しかし、この観点での処理方法はまだ十分な検討がなされていない。
【0006】
チョウマメ花からエキスを抽出しただけの粗抽出液をそのまま使用すると糖質、蛋白質などの夾雑物が多量に混在し、濃縮や粉末化処理工程に悪影響を及ぼす。さらに、食品に添加したとき経時的に沈殿物を発生し、明度、彩度、耐性に悪影響を及ぼすことも危惧される課題である。
【0007】
また、上記寺原らの報告では、チョウマメ花弁の抽出液を精製する際に、酢酸(蟻酸)−メタノール系溶媒を使用している。工業用製剤としてのチョウマメ花エキスからは酢酸(蟻酸)を除去処理する必要がある。しかし、加熱濃縮に色素構造の一部を反応、分解させてしまうおそれがあり、結果として、本来の天然色素構造物が得られない場合がある。その他の酸除去方法もあるが、その処理には莫大な労力を要し実用性に欠ける。
さらに、酸が存在することで吸着剤への吸着力が強まるものの、吸着剤からの離脱処理に大量の溶媒と時間を要すると共に、得られる離脱液の色価が低すぎるので長時間の濃縮時間が必要となり、結果としてチョウマメ花エキス中の色素成分の分解が促進されてしまい、工業化に関しては実用的でない点があった。
【0008】
特許文献2は、チョウマメ乾燥花弁からの青色色素の抽出液による青色色素組成物の開示がされている。
特許文献3は、マクロポーラスな芳香族系吸着剤に接触させてチョウマメ花エキスを製造する方法が記載されている。
しかしながら、いずれも工業用の材料として大量に準備されたチョウマメの花を対象としておらず、大量に扱うために色素分の漏出、分解等による収量低下の対策を考慮していない。更にチョウマメの花の抽出前処理についての記載が全くない。したがって、良好なエキスを得る方法について十分検討がなされていないのが現状である。
【0009】
【特許文献1】特開平3−223298号公報
【特許文献2】特開2003−292810号公報
【特許文献3】特開2004−187524号公報
【非特許文献1】南九州大学園芸学部研究報告−第23号−別刷(1992年7月30日受理「アシル化アントシアニン色素の構造決定と安定性に関する研究」)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、チョウマメ花エキスを、摘花時の良好な色相(色素)を消失させることなく抽出材料として調整すること、及び天然食用色素のチョウマメ花エキスとして内在成分に変性が生じることなく、高濃度かつ安全であること、食品に添加したとき経時的に沈殿物を発生せず、明度、彩度及び耐性の良い色相を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、チョウマメ乾燥処理花を抽出してなるチョウマメ花エキスの製造方法であって、前記チョウマメ乾燥処理花が、花弁をUVインデックス7以下で乾燥して乾燥前の重量の1/2以下にする工程と、50℃〜100℃にて乾燥して乾燥前の重量の1/25〜1/6にする工程とを経たものであるチョウマメ花エキスの製造方法である。
【0012】
本発明は、チョウマメ乾燥処理花の抽出が、前記乾燥処理花を水又は水に0.1〜2重量%の酸化合物を溶解した水溶液に浸漬して色素溶出液を得る工程と、色素溶出液をイオン交換樹脂に注いでエキス成分を吸着させた後、酸化合物を含有しない含水有機溶剤にて溶出させる工程とを含むチョウマメ花エキスの製造方法である。
更に酸化合物が、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸及び蟻酸の少なくとも1種から選ばれるチョウマメ花エキスの製造方法である。
【0013】
本発明は、上記チョウマメ花エキスの製造方法により得られるチョウマメ花エキスである。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、摘花された際の良好な色相の色素を漏出することなく効率よく抽出材料として調整し、天然食用のチョウマメ花エキスとして、内在成分に変性が生じることなく、高濃度に、安全に、しかも食品に添加したとき経時的に沈殿物を発生せず、かつ明度、彩度、耐性の良いチョウマメ花エキスを工業的に有利に収得することができる。
本発明における乾燥工程は、抽出前の花弁の保存性を長期にわたり安定化させる効果を有しており、花の栽培地と色素を抽出処理する場所が、距離を隔てた地域においても良好にその効果を果たすことを可能とした。
【0015】
すなわち、本発明のチョウマメ乾燥処理花を抽出してなるチョウマメ花エキスの製造方法は、チョウマメ乾燥処理花が、UVインデックス7以下で乾燥して乾燥前の重量の1/2以下にする工程と、50℃〜100℃にて乾燥して乾燥前の重量の1/25〜1/6にする工程とを経たものであるので、適度な水分を蒸発し植物内の色素固定を促進し、色素分の消失や分解が抑制される。
【0016】
チョウマメ乾燥処理花の抽出が、前記乾燥処理花を水又は水に0.1〜2重量%の酸化合物を溶解した水溶液に浸漬して色素溶出液を得る工程と、色素溶出液をイオン交換樹脂に注いでエキス成分を吸着させた後、酸化合物を含有しない含水有機溶剤にて溶出させる
工程とを含むので、色素抽出効率が良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明で使用されるチョウマメ花は、日本産、タイ産、中国産、マレーシア産、ミャンマー産、ベトナム産などチョウマメの種類、品種に限定されることなく如何なる種類でも良い。色素の収量を良好にするためには、花弁当たりの色素量が多い八重咲きの種類が好ましい。
【0018】
チョウマメの生花は約1.5m〜2mの成木から摘花される。摘花は花弁だけでも良いし、がくと花弁一緒でもよい。以下、本発明における花弁はがくを含む意味で用いる。摘み取り時の花弁は過度な水分を有しているため、迅速に乾燥処理されることが好ましい。
【0019】
摘花された花弁は、UVインデックスが7以下で乾燥して乾燥前の重量の1/2以下にする。
UVインデックスとは、地上に到達する紫外線量のレベルをわかりやすく表す指標としてWHOがWMO、UNEP、ICNIRPと共同で開発したもので、紫外線対策の必要性を啓発する指針であり、紫外線量に応じて1〜2(弱い)、3〜5(中程度)、6〜7(強い)、8〜10(非常に強い)11+(極端に強い)と5つのカテゴリーに分類されている。本発明において用いられるUVインデックスは7以下であり、この条件を満たせば屋内または屋外、自然環境下または人工環境下であるかは問わない。更にUVインデックスは5以下が好ましく、2以下がより好ましい。また、直射日光が当たらない方が好ましい。
【0020】
温度は25℃〜40℃が好ましいが、室内または屋外でも良いし、恒温器等の機器を用いても良い。
乾燥は通気下で行なうことが好ましい。本発明で通気下とは、密閉されていない状態をいい、風通しの良い状態がより好ましい。屋外や室内でも良いし、通風機能等を有する恒温器等を用いても良い。
また、花弁を配置して乾燥させるために使用される棚、籠等の容器の少なくとも底面部は、網状等の通気性の良いものが好ましい。このとき、網等の目開きは大きい方が好ましく、花弁が落下しない程度の大きさである1cm〜2cmの目開きのものが好ましい。多段の棚とする場合は上下に空間を有することが好ましい。
乾燥時、花弁は全体としての表面積が大きくなるように上記の容器等に広げるように配置することが好ましい。また、花弁は生産効率の観点から層状に配置しても良い。層状に配置する場合は0.5cm〜5cmの厚みが好ましい。0.5cm未満では生産効率が低く、5cmを超えると花弁の自重による圧力で色素液が漏出したり、表面に露出していない花弁が乾燥しにくくなる傾向がある。
【0021】
花弁が乾燥前の重量の1/2以下になるまで乾燥の時間は、条件がよっては屋外日陰で3〜6時間程度で自然乾燥できる場合がある。
この工程により、花弁内において色素の抽出に有効な変化を誘発することができる。すなわち、次の乾燥工程における処理不適合(こびりつき、焼きつき、変色及び退色等の色素の消失)を防止でき、更に乾燥後の抽出工程においても色素抽出の効率化が発揮される。
【0022】
上記乾燥工程で得られた乾燥花を50℃〜100℃で乾燥することによって、上記乾燥工程の乾燥前の重量の1/25〜1/6とし、チョウマメ乾燥処理花が得られる。1/12〜1/8の重量がより好ましい。1/6を超えると乾燥処理花の輸送や長期保存中にカビ、微生物の発生や増殖が著しく、1/25未満では乾燥花が乾燥しすぎて割れが生じ、流通、生産などに支障が出る傾向がある。乾燥にはオーブンが好ましく用いられる。
【0023】
乾燥処理花を、水又は水に0.1〜2重量%の酸化合物を溶解した水溶液に浸漬することによって色素溶出液が得られる。水に0.1〜2重量%の酸化合物を溶解した水溶液を用いると、次工程のイオン交換樹脂への吸着性が向上できるので好ましい。
ここで使用される酸化合物としては、塩酸、硫酸、リン酸などの鉱酸や、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸、ギ酸などの有機酸などが挙げられる。酸化合物として緩衝液も用いることができる。緩衝液としてはリン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、酢酸アンモニウム緩衝液、ピロリン酸ナトリウム緩衝液、グリシン−ナトリウム緩衝液、グッドバッファー等がある。pHは2〜7が好ましい。
【0024】
チョウマメ乾燥処理花と、水又は水に0.1〜2重量%の酸化合物を溶解した水溶液との混合比は、乾燥処理花1重量部に対して水等10〜100重量部が好ましい。より好ましくは10〜30重量部である。
浸漬時間は5〜24時間が好ましい。浸漬して得られた色素溶出液は、ろ過にて沈殿物、夾雑物を除去することが好ましい。
【0025】
色素溶出液をイオン交換樹脂に注いでエキス成分を吸着させた後、酸化合物を含有しない含水有機溶剤にて溶出させ、チョウマメ花エキスが得られる。
【0026】
イオン交換樹脂は、マクロポーラスなスチレン、ビニルピロリドンなどのビニルモノマーにジビニルベンゼンのような架橋性のモノマーを配合して得られる網状構造を有する樹脂を粒子状にしたものであり、製品名としては、ダイヤモンドシャムロックケミカル社のデュオライトS−30、ES−33、S−37、S−862、S−861、S−587、S−761など、ロームアンドハース社のアンバーライトXAD−2、XAD−4、XAD−7、XAD−8、XAD−16、XAD−1180、XAD−2000、XAD−2010など、三菱化学株式会社のダイヤイオンHP−10、HP−20、HP−21、HP−40、セパビーズSP−850など、ダウケミカル社のダウエックスXUS−40323、XUS−40285など、北越炭素工業株式会社のKS、HS、AF、L−1など、ISP社のポリクラールSB−100、ポリクラールスーパーR、ポリクラール10など、東洋曹達工業株式会社のトヨパールHW−40などが挙げられる。
【0027】
また、スチレンとジビニルベンゼンから得られる架橋構造を有するイオン交換樹脂や、塩素原子、臭素原子などの電子吸引性基を含有させたものを粒子状にした、製品名として三菱化学株式会社のセパビーズSP−207、SP−207なども挙げられる。これらのイオン交換樹脂は単独使用のみではなく、複数の組み合わせで使用しても良い。
【0028】
イオン交換樹脂に吸着されたエキス成分は、酸化合物を含有しない含水有機溶剤にて溶出され、不溶解性物質や夾雑物が除去された、きれいな青色色素液が得られる。
なお、イオン交換樹脂へのエキス成分の吸着後、溶出の前に、精製水にてイオン交換樹脂を洗浄することによって、エキス成分の精製が向上できる。すなわち、乾燥処理花から色素溶出液を得る工程に使用された酸化合物を除去し、カラムへの吸着工程において多少発生する沈殿物などを除去することで、その後の濃縮、製剤化工程において良い効果をもたらすことになる。
【0029】
有機溶剤としては、食品添加物製造の認可を受けた溶剤を使用することができる。具体的にはエタノール、アセトン、プロパノール、グリセリン、食用油脂、プロピレングリコールなどが挙げられる。イオン交換樹脂からのエキス成分の離脱容易性やその後の溶解および濃縮性の観点からエタノールが好ましい。また、エキス成分の離脱容易性や溶解性の観点から水とエタノールとの混合溶媒が好ましい。その混合比は容量比で10:90〜90:10であれば、製品の色価の調整値に合わせて選択できる。エタノール量が40〜75重量%が好ましい。
【実施例】
【0030】
本発明の製造方法の各工程をさらに詳細に説明する。
本発明の特徴であるチョウマメ生花の乾燥方法の違いについて以下に提示する。
<チョウマメ花弁の乾燥処理>
[乾燥実施例1]
八重種チョウマメ植物体から摘花したチョウマメ花弁500kgを、目開き1.6cmの金網上に約2cmの厚さになるように並べた。
この棚を上下に空間を有する多段の棚とし、UVインデックス2以下、風通しが良く温度範囲25〜40℃の環境下に配置し、乾燥前の重量の1/2以下になるまで乾燥させた。約6時間で乾燥が終了した。
その後、棚をそのまま50℃のオーブンに入れ、乾燥前の重量の約1/10(49.5kg)になるまで乾燥させ、良好な乾燥処理花を得た。3.5時間で乾燥が終了した。
【0031】
[乾燥実施例2]
八重種チョウマメ植物体から摘花したチョウマメ花弁500kgを、目開き1.6cmの金網棚に約2cmの厚さになるように並べた。
この棚を上下に空間を有する多段の棚とし、UVインデックス6以下、風通しが良く温度範囲25〜40℃の環境下に配置し、乾燥前の重量の1/2以下になるまで乾燥させた。約3時間で乾燥が終了した。
その後、ステンレスバットに花弁を移し替え、65℃のオーブンにて乾燥前重量の約1/10(49.4kg)になるまで乾燥させ、良好な乾燥処理花を得た。4時間で乾燥が終了した。
【0032】
[乾燥比較例1]
八重種チョウマメ植物体から摘花したチョウマメ花弁500kgを、ステンレスバットに並べ、温度約35℃下で12時間毎に風通しの良いUVインデックス11+と風通しの良いUVインデックス1の条件下で合計48時間乾燥させたが、不均一な乾燥状態であった。
[乾燥比較例2]
八重種チョウマメ植物体から摘花したチョウマメ花弁500kgを、ステンレスバットに並べ、65℃のオーブンに入れ、乾燥前の重量の約1/10(49.5kg)になるまで乾燥させ、乾燥処理花を得た。5時間で乾燥が終了した。ステンレス面と接触していた花弁に色素が退色したものが多く認められた。
【0033】
[乾燥比較例3]
八重種チョウマメ植物体から摘花したチョウマメ花弁500kgを、目開き1.6cmの金網上に約2cmの厚さで並べ、65℃のオーブンに入れ、乾燥前の重量の約1/10(49.5kg)になるまで乾燥させ、乾燥処理花を得た。5時間で乾燥が終了した。
[乾燥比較例4]
八重種チョウマメ植物体から摘花したチョウマメ花弁500kgを、ステンレスバットに並べ、75℃のオーブンに入れ、乾燥前の重量の約1/10(48.4kg)になるまで乾燥し、乾燥処理花を得た。4時間で乾燥が終了した。ステンレス面との接触していた花弁において色素退色のものが多く認められた。
【0034】
乾燥実施例1、2及び乾燥比較例1〜4で得られた乾燥処理花について、カビ付着、こびりつき、退色等の状態を目視観察した。また、不良乾燥花弁の重量を測定した。
また、乾燥実施例1、2及び乾燥比較例1〜4で得られた乾燥処理花を、工業設備を備えた遠隔地まで輸送し、2ヶ月間室温にて保管後、以下のようにエキスを抽出した。
乾燥処理花10kgを、1重量%酢酸水溶液500リットルに15時間浸漬してエキスを溶出させた後、ろ過処理を行い、チョウマメ花弁粗抽出液450リットルを得た。
このろ過液を、イオン交換樹脂(ダイヤイオンHP−20)15リットル容量を詰めたカラムに供し、エキス成分を吸着させた。その後、エキスが吸着した樹脂を20リットルの精製水で洗浄した後、50重量%エタノール10リットルでエキス成分を離脱抽出させ、濃い青色抽出液を得た。pH6の緩衝液を用い、色価E10%値(E10%)を測定し、乾燥処理花における色素の保存安定性の評価を行なった。
【0035】
【表1】

【0036】
乾燥実施例においては、乾燥処理花の状態や保存安定性(抽出液色価)において明らかに優位性が認められた。さらに、乾燥比較例3においては、目開き1.6cmの金網を使用することの優位性が確認された。
【0037】
また、カラムから溶出された濃い青色抽出液を60℃で減圧濃縮し粉末化した。青色粉末をイオン交換水10リットル容量で溶解させ、その再溶解性を確認した。再度、pH6における色価測定を行い、濃縮処理における色素残存率を測定し、色素の分解の有無を確認したところ、実施例においては色素残存率98%以上を確保しており、不要物、沈殿などは確認されなかった。
【0038】
<乾燥処理花の抽出処理>
[抽出実施例及び抽出比較例]
乾燥実施例1で得られた乾燥処理花を用い、表2に提示する条件において各種抽出実験を行なった。
【0039】
【表2】

【0040】
表2のうち、同じ記載は同じ条件で行なったものである。抽出比較例2について代表して詳細に説明する。
チョウマメ乾燥処理花10kgを、1重量%酢酸水溶液500リットルに15時間浸漬してエキスを溶出させた後、ろ過処理を行い、チョウマメ花弁粗抽出液430リットルを得た。
【0041】
このろ過液を、イオン交換樹脂(ダイヤイオンHP−20とSP−207を50:50で混合した樹脂)15リットル容量を詰めたカラムに供し、エキス成分を吸着させた。その後、エキスが吸着した樹脂を20リットルのイオン交換水で洗浄した後、1重量%酢酸−60重量%エタノール20リットルでエキス成分を離脱抽出させ、濃い赤紫色抽出液を得た。
水酸化ナトリウムを用いてpH6に調整して色価を測定したところ、E10%=178(10L用量換算)であった。この抽出方法は、カラム溶出液量が他の方法より2倍必要であり、溶出効率が悪いと判断された。
【0042】
この赤紫色抽出液を130℃で濃縮し粉末化した際に、エタノールが先に除去され酢酸濃度が高くなるにつれて明白な色素量の減少が認められた。
得られた粉末をイオン交換水10リットル容量で再溶解させたところ、完全溶解せず沈殿物が確認された。また、130℃における粉末化でも酢酸は除去することができず、酢酸臭が嫌悪感をもたらした。
【0043】
沈殿物をろ過後、pH6における色価測定を行ったところ、E10%=62であった。濃縮処理における色素残存率は35%であった。一方、他の比較例1や実施例における色素残存率は98%以上であった。これはカラムからの溶出に酸化合物を含有しない含水有機溶剤を使用した為と推察される。
【0044】
表2の結果から、抽出実施例1及び2において最も効率よく色素が回収され、濃縮処理後の性状、再溶解性においても優れていることが判った。即ち、カラムからの溶出液に酸化合物を含有しないことが製造工程上、重要であることが示唆された。
【0045】
同様に、乾燥比較例3で得られた乾燥処理花を用い、上記と同様に抽出実験を行なった。結果を表3に示す。
【0046】
【表3】

【0047】
表2と同じように、カラムからの溶出液における酸化合物含有の有無が色素残存率に影響すると示唆された。
しかし、乾燥実施例1において示したように、生花の乾燥工程の違いによって、抽出エキスの色価(E10%)が10%以上低下することは明白であり、生花の乾燥工程とカラム溶出工程が重要であることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョウマメ乾燥処理花を抽出してなるチョウマメ花エキスの製造方法であって、前記チョウマメ乾燥処理花が、花弁をUVインデックス7以下で乾燥して乾燥前の重量の1/2以下にする工程と、50℃〜100℃にて乾燥して乾燥前の重量の1/25〜1/6にする工程とを経たものであるチョウマメ花エキスの製造方法。
【請求項2】
チョウマメ乾燥処理花の抽出が、前記乾燥処理花を水又は水に0.1〜2重量%の酸化合物を溶解した水溶液に浸漬して色素溶出液を得る工程と、色素溶出液をイオン交換樹脂に注いでエキス成分を吸着させた後、酸化合物を含有しない含水有機溶剤にて溶出させる工程とを含む請求項1に記載のチョウマメ花エキスの製造方法。
【請求項3】
酸化合物が、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸及び蟻酸の少なくとも1種から選ばれる請求項2に記載のチョウマメ花エキスの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか記載の製造方法から得られるチョウマメ花エキス。

【公開番号】特開2007−217583(P2007−217583A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−40410(P2006−40410)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】